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JP7271482B2 - 正極材料 - Google Patents

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Description

本発明は、正極材料および該正極材料を備えるリチウムイオン二次電池に関する。詳しくは、リチウム遷移金属複合酸化物と、該リチウム遷移金属複合酸化物の表面を被覆する酸化チタンとを備える正極材料に関する。
リチウムイオン二次電池は、パソコンや携帯端末等のいわゆるポータブル電源用途のみならず、近年は車両駆動用電源として好適に用いられている。かかる用途のリチウムイオン二次電池には、車両に搭載された状態で長期にわたって所望する出力の維持を実現する高い耐久性(例えばサイクル特性に優れること)が要求されている。
リチウムイオン二次電池の正極には、一般的には、電荷担体であるリチウムイオンを吸蔵および放出可能なリチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質が用いられている。近年では、かかる正極活物質の表面に被覆物を形成する技術が盛んに研究されている。具体的には、例えば特許文献1では、リチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質の表層部にチタンを含む化合物を配置することが記載されている。
特開2020-80332号公報
正極活物質の表面にチタン化合物を配置すると、かかるチタン化合物の誘電効果によって、リチウムイオン二次電池を充放電した際に、リチウムイオンが正極活物質に出入りしやすくなるといわれている。そのため、正極活物質の表面にチタン化合物を備える正極材料を含むリチウムイオン二次電池は、電池性能が向上し得るといわれている。
しかし、上記のような従来の正極材料を含むリチウムイオン二次電池は、充放電を繰り返した際の容量劣化耐性(即ち、サイクル性能)に、まだまだ改善の余地があった。
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、リチウムイオン二次電池のサイクル性能を向上し得る正極材料を提供することである。
本発明者らは、リチウム遷移金属複合酸化物(正極活物質)の表面に配置するチタンの存在状態に着目した。そして、かかるリチウム遷移金属複合酸化物の表面に、特定量のチタンを従来よりも細かく点在させて配置することによって、リチウムイオン二次電池のサイクル性能を顕著に向上し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、ここで開示される技術によると、ニッケル、マンガン、およびコバルトからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含有するリチウム遷移金属複合酸化物と、前記リチウム遷移金属複合酸化物の表面に配置されるチタンと、を備える正極材料が提供される。
前記リチウム遷移金属複合酸化物のニッケル元素、マンガン元素、およびコバルト元素の合計に対するチタン元素のモル比(Ti/Ni+Mn+Co)が0.03以上0.7以下である。走査電子顕微鏡およびエネルギー分散型X線分析を用いて取得された、前記チタン元素と前記リチウム遷移金属複合酸化物の構成元素との元素マッピング画像に基づいて測定された、前記リチウム遷移金属複合酸化物の表面における、各チタン元素存在部の面積の分布において累積頻度が50%となる面積(A50Ti)が0.028μm以上44.3μm以下の範囲内にある。
かかる構成の正極材料によると、リチウムイオン二次電池のサイクル性能を顕著に向上させることができる。
好ましくは、前記チタンの平均粒子径は、0.2μm以上7.5μm以下である。
かかる構成によると、リチウム遷移金属複合酸化物の表面に、より細かくチタンを点在させ、より効率的にリチウムイオン二次電池のサイクル性能を向上し得る。
なお、本明細書中において「平均粒子径」とは、特に断りがない限り、レーザー散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置に基づいて測定した粒度分布における、体積基準の累積頻度が50%となる粒子径、即ち、50%体積平均粒子径(D50径)を意味する。
また、好ましくは、前記モル比(Ti/Ni+Mn+Co)は、0.2以上である。
かかる構成によると、リチウムイオン二次電池のサイクル性能をより顕著に向上させることができる。
また、好ましくは、前記面積(A50Ti)は、1.5μm以上である。
かかる構成によると、リチウムイオン二次電池のサイクル性能をより顕著に向上させることができる。
好ましい一態様では、前記チタンは、二酸化チタンとして存在する。
二酸化チタンは、安定してコア粒子の表面に配置され得る。
さらに、ここで開示される技術によると、正極および負極を有する電極体を備えるリチウムイオン二次電池が提供される。
前記正極は、上記の正極材料を備える。
かかる構成によると、サイクル性能が顕著に向上されたリチウムイオン二次電池が提供される。
一実施形態に係る正極材料の構成を説明する模式断面図である。 一実施形態に係る正極材料におけるリチウムイオンの挙動を説明する模式図である。 一実施形態に係る正極材料を用いて構築されるリチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す断面図である。 一実施形態に係る正極材料を用いて構築されるリチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す模式分解図である。
以下、図面を参照しながら、ここで開示される技術の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電が可能な蓄電デバイス全般を指す用語であって、リチウムイオン二次電池やニッケル水素電池などのいわゆる蓄電池(化学電池)と、電気二重層キャパシタなどのキャパシタ(物理電池)と、を包含する概念である。また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンの移動にともなう電荷の移動によって充放電が実現される二次電池をいう。
また、本明細書において「A~B」は、「A以上B以下」を意味しており、Aを上回り、かつ、Bを下回るものを包含する。
図1に示されるように、ここで開示される正極材料10は、正極活物質たるリチウム遷移金属複合酸化物12と、その表面に配置されるチタン14とを備える。
リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムイオン二次電池において正極活物質として典型的に用いられる公知のリチウム遷移金属複合酸化物であり得る。
かかるリチウム遷移金属複合酸化物は、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、およびコバルト(Co)からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含有する。例えば、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物、リチウム鉄ニッケルマンガン系複合酸化物等が挙げられる。
その結晶構造は特に限定されないが、層状構造を有することが好ましい。リチウム遷移金属複合酸化物としては、層状構造を有するリチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物が好ましく使用され得る。
本明細書において「リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物」とは、リチウム(Li)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、酸素(O)を構成元素とする酸化物の他に、それら以外の1種または2種以上の添加的な元素を含む酸化物をも包含する用語である。かかる添加的な元素の例としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ケイ素(Si)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ナトリウム(Na)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)等の遷移金属元素や典型金属元素等が挙げられる。また、添加的な元素は、硼素(B)、炭素(C)、ケイ素(Si)、リン(P)等の半金属元素や、硫黄(S)、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等の非金属元素であってもよい。このことは、上記した他のリチウム遷移金属複合酸化物についても同様である。
リチウム遷移金属複合酸化物の形状は、特に限定されず、球状、板状、針状等であり得る。また、リチウム遷移金属複合酸化物は、一次粒子が凝集した二次粒子の形態であってもよく、中空粒子の形態であってもよい。
リチウム遷移金属複合酸化物12の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば0.05μm~20μmであり得る。
正極材料10では、図示されるように、チタン14は、リチウム遷移金属複合酸化物12の表面に島状に配置されている。即ち、チタン14は、リチウム遷移金属複合酸化物12の表面に点在している。チタン14がリチウム遷移金属複合酸化物12の表面に細かく点在することで、充放電時におけるリチウムイオンのリチウム遷移金属複合酸化物12への出入りの効率が向上し得る。
リチウム遷移金属複合酸化物の表面におけるチタンの存在面積は、走査電子顕微鏡(SEM:scanning electron microscope)およびエネルギー分散型X線分析(EDX:energy dispersive X-ray spectroscopy)により、測定することができる。即ち、上記表面におけるチタンの存在状態は、SEM-EDX観察によって把握することができる。
具体的な測定方法については、下記実施例に記載するとおりであるため、ここでの詳細な記載は省略する。
A50Tiは、リチウム遷移金属複合酸化物の表面におけるチタンの存在状態を把握する指標の一つとなり得る。具体的には、A50Tiが大きいほど、リチウム遷移金属複合酸化物の表面に配置されたチタンの一領域の面積は大きくなり、A50Tiが小さいほど、当該面積は小さくなるといえる。即ち、A50Tiが小さいほど、リチウム遷移金属複合酸化物の表面においてチタンが細かく点在しているといえる。例えば、リチウム遷移金属複合酸化物の表面におけるチタンの総量が同じである2つの正極材料について、相対的に大きいA50Tiを有する正極材料と、相対的に小さいA50Tiを有する正極材料とを比較すると、後者の方が、リチウム遷移金属複合酸化物の表面においてチタンは、より細かく点在しているといえる。
ここで開示される正極材料において、A50Tiは、0.028μm以上44.3μm以下の範囲内にあることが好ましい。A50Tiがこのような範囲を満たすと、リチウムイオン二次電池のサイクル性能を顕著に向上することができる。また、サイクル性能をさらに向上させる観点からは、A50Tiは、1.5μm以上であることが好ましい。
チタンは、チタン物質(例えば、チタン酸リチウム、種々のチタン酸化物等)として存在し得る。チタン酸化物は、二酸化チタン(TiO)およびTi2n-1からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であり得る。ここで、Ti2n-1について、nは3以上の整数であり、例えば3以上9以下の整数である。Ti2n-1は、例えば、Ti、Ti、およびTiであり得る。サイクル性能をさらに向上させる観点からは、二酸化チタンが好ましい。
チタンの形状は、特に限定されず、球状、板状、針状等であり得る。また、チタンは、一次粒子であってもよく、一次粒子が凝集した二次粒子の形態であってもよい。チタンの平均粒子径は、リチウムイオン二次電池のサイクル性能を向上させる観点から、0.2μm以上7.5μm以下であることが好ましい。チタンの平均粒子径がこのような範囲を満たすと、サイクル性能を向上させるために好適なA50Tiを実現することができる。
なお、リチウム遷移金属複合酸化物の表面に配置された状態のチタンの平均粒子径は、原料としてのチタンの平均粒子径とほぼ同じである。
リチウム遷移金属複合酸化物12の表面に配置されるチタン14の量について、良好なリチウムイオン二次電池の性能を実現する観点から、リチウム遷移金属複合酸化物のニッケル元素、マンガン元素、およびコバルト元素の合計に対するチタン元素のモル比(Ti/Ni+Mn+Co)[atm%]は、0.03以上0.7以下であることが好ましい。上記モル比がかかる範囲を満たすと、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上させることができる。また、サイクル特性をより良好な状態とする観点からは、上記モル比は、0.2以上であることが好ましい。
具体的な測定方法については、下記実施例に記載するとおりであるため、ここでの詳細な記載は省略する。
ここで開示される正極材料は、例えば、原料となるリチウム遷移金属複合酸化物とチタン(例えばチタン物質)とを用意してこれらを混合し、不活性雰囲気(アルゴンガス雰囲気、窒素ガス雰囲気等)において焼成することによって、作製することができる。
原料となるチタンは、あらかじめ、上記の平均粒子径となるように粉砕しておくことが好ましい。これによって、正極材料において、目的とするA50Tiを実現することができる。粉砕方法は特に限定されず、例えばビーズミル等を使用することができる。
原料の混合方法としては、従来公知の撹拌・混合方法を、特に制限なく使用することができる。
焼成の温度条件は、最高焼成温度を200℃~900℃(例えば300℃~800℃)の範囲とすることができる。焼成の温度条件をかかる範囲に設定することで、目的とするチタンの配置量やA50Tiを実現することができる。また、焼成時間は、特に限定されないが、6時間~20時間とすることができる。
特に限定するものではないが、ここで開示される正極材料の使用によって、リチウムイオン二次電池のサイクル性能が向上するメカニズムは、チタンがチタン酸化物として存在する場合を例に挙げると、以下のとおりである。
図2に示されるように、リチウムイオン二次電池を充放電すると、かかる充放電によって、誘電体であるチタン14(ここでは、チタン酸化物)は誘電分極する。かかる誘電分極によってチタン14に正負が生じると、チタンの周囲にリチウムイオン(Li)が引きつけられる。リチウム遷移金属複合酸化物12の外部に出たリチウムイオン(Li)には溶媒分子2が引きつけられて、リチウムイオン(Li)は溶媒和する。チタン14があることで、リチウムイオン(Li)のリチウム遷移金属複合酸化物12への脱離・挿入が促進される。この時、リチウム遷移金属複合酸化物12の表面において、チタン14が、より細かく点在しているほど、リチウムイオンの脱離・挿入点が増加することとなる。そのため、かかる正極材料を備えるリチウムイオン二次電池のサイクル性能が向上する。
ここで開示される正極材料は、リチウムイオン二次電池の正極材料として好適に使用され得る。以下、かかるリチウムイオン二次電池の一例として、図3,4に示すリチウムイオン二次電池を挙げて具体的に説明する。なお、当該リチウムイオン二次電池は、図示される例に限定されない。
図示されるように、リチウムイオン二次電池100は、扁平形状の捲回電極体20と、図示されない非水電解液とが扁平な角形の電池ケース(即ち外装容器)30に収容されることにより構築される密閉型電池である。電池ケース30には、外部接続用の正極端子42および負極端子44と、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁36とが設けられている。正負極端子42,44はそれぞれ正負極集電板42a,44aと電気的に接続されている。電池ケース30の材質には、例えば、アルミニウム等の軽量で熱伝導性の良い金属材料が用いられる。
図示されるように、捲回電極体20は、正極シート50と、負極シート60とが、2枚の長尺状のセパレータシート70を介して重ね合わされて長手方向に捲回された形態を有する。正極シート50は、長尺状の正極集電体52の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って正極活物質層54が形成された構成を有する。負極シート60は、長尺状の負極集電体62の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って負極活物質層64が形成されている構成を有する。正極活物質層非形成部分52a(すなわち、正極活物質層54が形成されずに正極集電体52が露出した部分)および負極活物質層非形成部分62a(すなわち、負極活物質層64が形成されずに負極集電体62が露出した部分)は、捲回電極体20の捲回軸方向(すなわち、上記長手方向に直交するシート幅方向)の両端から外方にはみ出すように形成されている。正極活物質層非形成部分52aおよび負極活物質層非形成部分62aには、それぞれ正極集電板42aおよび負極集電板44aが接合されている。
正極シート50を構成する正極集電体52としては、例えばアルミニウム箔等が挙げられる。正極活物質層54は、正極活物質を含む、上記の本実施形態に係る正極材料を含む。また正極活物質層54は、導電材、バインダ等をさらに含み得る。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(グラファイト等)の炭素材料を好適に使用し得る。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。
負極シート60を構成する負極集電体62としては、例えば銅箔等が挙げられる。負極活物質層64は、負極活物質を含む。負極活物質としては、例えば黒鉛等の炭素材料を使用し得る。負極活物質層64は、バインダ、増粘剤等をさらに含み得る。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)等を使用し得る。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等を使用し得る。
セパレータ70としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられるものと同様の各種多孔質シートを用いることができ、その例としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂から成る多孔質樹脂シートが挙げられる。
非水電解液は従来のリチウム二次電池と同様のものを使用可能であり、典型的には有機溶媒(非水溶媒)中に、支持塩を含有させたものを用いることができる。非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等のカーボネート類を好適に採用し得る。非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。支持塩としては、例えば、LiPF等のリチウム塩を好適に用いることができる。支持塩の濃度は、0.7mol/L以上1.3mol/L以下が好ましい。
なお、上記非水電解液は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した非水溶媒および支持塩以外の成分、例えば、ガス発生剤、被膜形成剤、分散剤、増粘剤等の各種添加剤を含み得る。
リチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。リチウムイオン二次電池100は、複数個が電気的に接続された組電池の形態で使用することもできる。
以上、例として扁平形状の捲回電極体を備える角型のリチウムイオン二次電池について説明した。しかしながら、本実施形態に係る正極材料は、公知方法に従い、他の種類のリチウムイオン二次電池にも使用することができる。例えば、本実施形態に係る正極材料を用いて、積層型電極体を備えるリチウムイオン二次電池を構築することもできる。また、本実施形態に係る正極材料を用いて、円筒型リチウムイオン二次電池、ラミネート型リチウムイオン二次電池等を構築することもできる。
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
〔実施例1〕
<酸化チタンの調製>
酸化チタン(IV)(TiO)(富士フィルム和光純薬)をビーズミル(商品名:イージーナノRMB、販売元:アイメックス株式会社)にて粉砕した。この際、使用したビーズはジルコニア(φ0.03mm)であり、ビーズミルのディスク周速は3.1m/sであった。ビーズミルによる粉砕は、TiO2の粒子径が0.2μmとなるまで行った。
<正極材料の作製>
次いで、リチウム遷移金属複合酸化物として層状構造を有するLiNi1/3Co1/3Mn1/3(NCM)粒子を準備した。このNCM粒子と上記のTiOとを、NCM:TiO2=99:1(モル比)となるように、乳鉢で30分間混合した。
得られた混合物を、500℃で12時間焼成して、NMC粒子の表面にTiOの被覆が形成された正極材料を得た。
<評価用リチウムイオン二次電池の作製>
上記作製した正極材料と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、正極材料:AB:PVDF=87:10:3の質量比でN-メチルピロリドン(NMP)中でプラネタリミキサを用いて混合し、正極活物質層形成用スラリーを調製した。このスラリーを、膜厚調整機能付きフィルムアプリケーター(オールグット社製)を用いてアルミニウム箔の両面に塗布した。その後、乾燥機にて80℃で5分間乾燥して、正極シートを得た。
負極活物質としての天然黒鉛(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンラバー(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、C:SBR:CMC=96:2:2の質量比でイオン交換水中で混合して、負極活物質層形成用スラリーを調製した。このスラリーを、膜厚調整機能付きフィルムアプリケーター(オールグット社製)を用いて銅箔の両面に塗布した。その後、乾燥機にて80℃で5分間乾燥して、負極シートを得た。
2枚のセパレータシート(多孔性ポリオレフィンシート)を用意した。
作製した正極シートと、負極シートと、用意した2枚のセパレータシートとを重ね合わせ、捲回して円筒型の捲回電極体を作製した。作製した捲回電極体の正極シートと負極シートにそれぞれ電極端子を溶接により取り付け、これを、注液口を有する電池ケースに収容した。
次いで、電池ケースの注液口から非水電解液を注入し、当該注液口を気密に封止した。非水電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを3:4:3の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを1.0mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。
以上のようにして、実施例1の評価用リチウムイオン二次電池を得た。
〔比較例1〕
実施例1で準備した層状構造を有するNCM粒子をそのまま正極材料として使用した以外は実施例1と同様にして、比較例1の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
〔実施例2~8、比較例2~4〕
酸化チタンの調製において、ビーズミルによる粉砕を、TiOの粒子径が表1の該当欄に示される大きさとなるまで行った。また、酸化チタンの配置量およびA50Tiが目的とする値となるように適宜温度条件を変更しつつ、焼成を行った。それ以外は実施例1と同様にして、実施例2~8、比較例2~4の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
<モル比の測定>
上記各実施例および比較例の正極材料について、以下の方法を用いてNCM粒子のニッケル元素、マンガン元素、およびコバルト元素の合計に対するチタン元素のモル比(Ti/Ni+Mn+Co)[atm%]を得た。
具体的には、作製した正極材料についてXPS(X線光電子分光法)のスペクトルを測定し、各元素の積分強度(ピーク強度)に基づいて、表面の組成分率(即ち、チタン元素のモル比)を計算した。なお、測定試料は、グローブボックス内にて、市販の錠剤成型機でペレットを作製した。この測定試料をホルダーに取り付けて、XPS装置(商品名:PHI5000 VersaProbeII、販売元:ULVAC-PHI)のマニュアルに従って測定を行った。
ここで得られた各々の正極材料におけるモル比を、表1の該当欄に示す。
<A50Tiの測定>
上記各実施例および比較例の正極材料について、SEM-EDX測定によって、NCM粒子の表面におけるチタン存在部の面積を測定した。
具体的には、ドライルーム内でホルダーにカーボンテープをつけ、各々の観察試料を数mg程度付着させた。ブロワーを用いて接着していない試料を取り除いた後、白金スパッタ装置で、観察試料の表面の白金コートを行った。株式会社日立ハイテク社製のSU8200シリーズを使用し、装置のマニュアルに従って上記観察試料のSEM-EDX測定を行った。ここで取得されたEDXの元素マッピング画像について、画像解析ソフトImageJを用いて、画像の2値化を行った。ここでチタンの存在面積(チタンの被覆部位)を得て、該面積の比率を、当該ソフトのマニュアルに従って算出した。
測定結果を、表1の該当欄に示す。
<活性化および初期容量測定>
上記作製した各評価用リチウムイオン二次電池を25℃の環境下に置いた。活性化(初回充電)では、定電流-定電圧方式とし、各評価用リチウムイオン二次電池を1/3Cの電流値で4.1Vまで定電流充電を行った後、電流値が1/50Cになるまで定電圧充電を行い、満充電状態にした。その後、各評価用リチウムイオン二次電池を1/3Cの電流値で3.0Vまで定電流放電した。そして、このときの放電容量を測定して初期容量を求めた。
<サイクル性能評価>
活性化した各評価用リチウムイオン二次電池を60℃の環境下に置き、2Cで4.1Vまで定電流充電および2Cで3.0Vまで定電流放電を1サイクルとする充放電を200サイクル繰り返した。200サイクル後の放電容量を、初期容量と同様の方法で求めた。
各評価用リチウムイオン二次電池のサイクル性能の指標として、容量維持率(%)を、
以下の式(1):
容量維持率(%)=(充放電200サイクル後の放電容量/初期容量) (1)
に基づいて求めた。
結果を、表1の該当欄に示す。
Figure 0007271482000001
表1に示されるように、実施例1~8、比較例1~4の結果から、NCMのニッケル元素、マンガン元素、およびコバルト元素の合計に対するチタン元素のモル比(表中では、Ti量(atm%)と示す。)が0.03以上0.7以下である正極材料を含む評価用リチウムイオン二次電池は、充放電サイクル後の容量維持率(%)が、より高いことがわかる。
実施例1~8、比較例1~3の結果から、面積(A50Ti)が0.028μm以上44.3μm以下の範囲内にある正極材料を含む評価用リチウムイオン二次電池は、充放電サイクル後の容量維持率(%)が、より高いことがわかる。
以上より、ニッケル、マンガン、およびコバルトからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含有するリチウム遷移金属複合酸化物と、該リチウム遷移金属複合酸化物の表面に配置されるチタンとを備える正極材料において、リチウム遷移金属複合酸化物のニッケル元素、マンガン元素、およびコバルト元素の合計に対するチタン元素のモル比が0.03以上0.7以下であり、SEMおよびEDXを用いて取得された、チタン元素とリチウム遷移金属複合酸化物の構成元素との元素マッピング画像に基づいて測定された、リチウム遷移金属複合酸化物の表面における、各チタン元素存在部の面積の分布において累積頻度が50%となる面積(A50Ti)が0.028μm以上44.3μm以下の範囲内にある場合に、かかる正極材料を含むリチウムイオン二次電池の充放電を繰り返した際の容量維持率が高いことがわかる。本実施形態に係る正極材料によれば、リチウムイオン二次電池に優れたサイクル性能を付与することができるとわかる。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、上記実施形態は例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
2 溶媒分子
10 正極材料
12 リチウム遷移金属複合酸化物
14 チタン
20 捲回電極体
30 電池ケース
36 安全弁
42 正極端子
42a 正極集電板
44 負極端子
44a 負極集電板
50 正極シート
52 正極集電体
52a 正極活物質層非形成部分
54 正極活物質層
60 負極シート
62 負極集電体
62a 負極活物質層非形成部分
64 負極活物質層
70 セパレータシート
100 リチウムイオン二次電池

Claims (6)

  1. ニッケル、マンガン、およびコバルトからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含有するリチウム遷移金属複合酸化物と、
    前記リチウム遷移金属複合酸化物の表面に配置されるチタン酸化物と、
    を備える正極材料であって、
    前記チタン酸化物は、二酸化チタンおよびTi 2n-1 からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物であり、該Ti 2n-1 におけるnは3以上9以下の整数であり、
    前記チタン酸化物は、前記リチウム遷移金属複合酸化物の表面に点在しており、
    前記リチウム遷移金属複合酸化物のニッケル元素、マンガン元素、およびコバルト元素の合計に対する前記チタン酸化物に含まれるチタン元素のモル比(Ti/Ni+Mn+Co)が0.03以上0.7以下であり、
    走査電子顕微鏡およびエネルギー分散型X線分析を用いて取得された、前記チタン元素と前記リチウム遷移金属複合酸化物の構成元素との元素マッピング画像に基づいて測定された、前記リチウム遷移金属複合酸化物の表面における、各チタン元素存在部の面積の分布において累積頻度が50%となる面積(A50Ti)が0.028μm以上44.3μm以下の範囲内にある、正極材料。
  2. 前記チタン酸化物の平均粒子径は、0.2μm以上7.5μm以下である、請求項1に記載の正極材料。
  3. 前記モル比(Ti/Ni+Mn+Co)は、0.2以上である、請求項1または2に記載の正極材料。
  4. 前記面積(A50Ti)は、1.5μm以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の正極材料。
  5. 前記チタン酸化物は、二酸化チタンである、請求項1~4のいずれか一項に記載の正極材料。
  6. 正極および負極を有する電極体を備えるリチウムイオン二次電池であって、
    前記正極は、請求項1~5のいずれか一項に記載の正極材料を備える、リチウムイオン二次電池。
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