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JP7268521B2 - 軟磁性粉末、磁心および電子部品 - Google Patents

軟磁性粉末、磁心および電子部品 Download PDF

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JP7268521B2 JP2019137298A JP2019137298A JP7268521B2 JP 7268521 B2 JP7268521 B2 JP 7268521B2 JP 2019137298 A JP2019137298 A JP 2019137298A JP 2019137298 A JP2019137298 A JP 2019137298A JP 7268521 B2 JP7268521 B2 JP 7268521B2
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Description

本発明は、軟磁性粉末、磁心および電子部品に関する。
トランス、チョークコイル、インダクタ等の電子部品では、所定の磁気特性を発揮する磁心(コア)の周囲あるいは内部に、電気伝導体であるコイル(巻線)が配置されている。
磁心に用いられる磁性材料としては、Fe系合金などの軟磁性金属材料が例示される。磁心は、たとえば、軟磁性金属から構成される粒子を含む軟磁性粉末を、樹脂とともに圧縮成形することで、圧粉磁心として得ることができる。このような圧粉磁心においては、磁気特性を向上させるために、磁性成分の割合(充填率)が高められている。ただし、軟磁性金属はフェライト材料に比べて電気抵抗が低いため、圧粉磁心における磁性成分の充填率を高くすると、軟磁性金属粒子同士が接触し、比抵抗が低下するおそれがある。
そこで、軟磁性金属粒子の表面に絶縁被膜を形成する技術が提案されている。たとえば、特許文献1では、Feを含む金属粒子の表面にリン酸化合物からなる絶縁被膜を形成した例が記載されている。また、特許文献2では、リン酸化合物に代えて、Feを含む金属粒子の表面にシリカ被膜を形成した例が記載されている。
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載の技術では、軟磁性粉末を高温環境下に曝した場合、粉末の絶縁抵抗が急激に低下するおそれがある。すなわち、特許文献1および特許文献2に記載の軟磁性粉末で圧粉磁心を構成した場合には、高温環境下における耐熱性が低いという問題があった。
特開2009-120915号公報 特開2009-231481号公報
本発明は、このような実情を鑑みてなされ、その目的は、高温環境下に曝した後においても高い絶縁抵抗を維持できる軟磁性粉末および磁心、さらにこれを備える電子部品を提供することである。
上記目的を達成するために、本発明に係る軟磁性粉末は、
表面が無機絶縁被膜により覆われている軟磁性金属粒子を含み、
前記無機絶縁被膜は、前記軟磁性金属粒子の表面に接している第1被覆部と、前記第1被覆部の外側に形成してある第2被覆部と、を有し、
前記第1被覆部は、リンおよび酸素を含み、
前記第2被覆部は、ケイ素および酸素を含んでいる。
本発明者らは、鋭意検討した結果、軟磁性金属粒子の表面に、P系の第1被膜とSi系の第2被膜とを有する多層構造の無機絶縁被膜を形成することで、軟磁性粉末の高温環境下における絶縁性が良好となることを見出した。すなわち、本発明に係る軟磁性粉末は、高温環境下に長時間曝したとしても、絶縁抵抗が低下し難く、高い絶縁性を維持できる。
好ましくは、前記第1被覆部の厚み(T)と前記第2被覆部の厚み(T)の和が、10nm≦T+T≦150nmであり、
前記第2被覆部の厚み(T)と、前記第1被覆部および前記第2被覆部の厚みの和(T+T)との比率が、20%≦T/(T+T)≦90%、より好ましくは50%≦T/(T+T)≦80%である。
上記のように、第1被覆部と第2被覆部との膜厚を所定の条件に制御することで、高い絶縁性と、高い透磁率とを両立して得ることができる。すなわち、高温環境下に長時間暴露した後において、軟磁性粉末の絶縁抵抗の低下をより抑制することができると共に、高い透磁率を得ることができる。
さらに、前記第1被覆部は、アルカリ金属(Li,Na,K,Rb,Cs)およびアルカリ土類金属(Mg,Ca,Sr,Ba)から選ばれる1種以上の元素(α)を含むことができる。好ましくは、前記第1被覆部における前記元素(α)とリン(P)との含有比率α/Pが、モル分率で、0.05≦α/P≦0.5である。
また、前記第1被覆部は、ZnおよびAlから選ばれる1種以上の元素(β)を含むことができる。好ましくは、前記第1被覆部における前記元素(β)とリン(P)との含有比率β/Pが、モル分率で、0.5≦β/P≦0.8である。
上記のとおり、第1被覆部に元素(α)もしくは元素(β)が所定の比率で含まれることにより、軟磁性粉末の高温環境下における絶縁性がさらに向上する。
本発明に係る軟磁性粉末は、磁心に用いる磁性材料として利用することで、磁心の高温環境下における耐熱性を向上させることができる。また、本発明に係る軟磁性粉末を含む磁心は、トランス、チョークコイル、インダクタ、リアクトル等の電子部品に適用することができ、特にインダクタとして好適である。
図1は、本発明の一実施形態に係るインダクタ素子の概略断面図である。 図2は、本発明の一実施形態に係る軟磁性粉末の断面模式図である。 図3は、図2に示す領域IIIを拡大した断面模式図である。 図4は、図3に示す測定線IVに沿って、TEM-EDSによる膜解析を行った結果を示す概略図である。 図5は、本発明の他の実施形態に係る圧粉磁心の微細構造を一部拡大して示す断面模式図である。
以下、本発明を図面に示す実施形態に基づき説明するが、本発明は下記の実施形態に限定されない。
第1実施形態
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るインダクタ素子100は、コイル120と圧粉磁心110とで構成され、圧粉磁心110の内部にコイル120が埋設してある構成を有する。
図1に示す圧粉磁心110の形状は、任意であり特に限定されないが、たとえば、円柱状、楕円柱状、角柱状等の形状が例示される。そして、圧粉磁心110は、軟磁性粉末1と結合材としての樹脂とを含み、図2に示す軟磁性粉末1を構成する複数の軟磁性金属粒子4が樹脂を介して結合することにより、所定の形状に成形されている。以下、本実施形態に係る軟磁性粉末1の特徴について説明する。
(軟磁性粉末)
図2に示すように、本実施形態に係る軟磁性粉末1は、軟磁性金属粒子4の表面に無機絶縁被膜10が形成された被覆粒子2を複数含んでいる。軟磁性粉末1には、被覆粒子2以外の粒子が混在していてもよく、軟磁性粉末1に含まれる全ての粒子の質量割合を100%とした場合、被覆粒子2の質量割合が5%以上であることが好ましい。なお、軟磁性金属粒子2の形状は特に制限されないが、通常は、球体である。
本実施形態において、軟磁性粉末1の粒度分布は、200μm以下の範囲内にあることが好ましい。非被覆粒子を含まない被覆粒子2のみの粒度分布についても、上記範囲とすることができるが、特に好ましくは、被覆粒子2の粒度分布が、0.1~10μmの範囲内である。なお、本実施形態において、粒子径dの測定方法は、特に制限されないが、粉末状態で測定する場合には、レーザー回折散乱法を用いることが好ましく、圧粉磁心および磁性部品の状態で測定する場合には、SEM等による断面観察により画像解析することが好ましい。
画像解析により粒子径を測定する場合、具体的には、視野角400μm四方の領域において、各金属粒子の面積を計算する。そして、得られた面積値より、各金属粒子の円相当径を算出する。軟磁性粉末1の粒度分布は、上記の作業を30箇所にて行い求めることが好ましい。
本実施形態では、軟磁性金属粒子4の材質は、軟磁性を示す材料であれば特に制限されない。軟磁性を示す材料としては、たとえば、純鉄、Fe-Si系合金(鉄-シリコン)、Fe-Al系合金(鉄-アルミニウム)、パーマロイ系合金(Fe-Ni)、センダスト系合金(Fe-Si-Al)、Fe-Si-Cr系合金(鉄-シリコン-クロム)、Fe-Si-Al-Ni系合金、Fe-Ni-Si-Co系合金、Fe系アモルファス合金、Fe系ナノ結晶合金等が例示される。
なお、本実施形態では、軟磁性粉末1の被覆粒子2は、材質が同じ軟磁性金属粒子4を被覆した粒子のみで構成してあっても良いし、材質が異なる軟磁性金属粒子4を被覆した粒子を混在して構成してもよい。
たとえば、軟磁性粉末1における軟磁性金属粒子4のうちの一部は、純鉄粒子で構成され、他の一部は、Fe-Si系合金などで構成してもよい。材質が異なるとは、金属または合金を構成する元素が異なる場合、構成する元素が同じであってもその組成が異なる場合、結晶系が異なる場合等が例示される。また、軟磁性粉末1に被覆粒子2以外の非被覆粒子が含まれる場合には、被覆粒子2と非被覆粒子とで、材質が同じであっても良く、異なっていても良い。
(無機絶縁被膜)
次に、軟磁性金属粒子4の表面を覆う無機絶縁被膜10について説明する。この無機絶縁被膜10は、軟磁性金属粒子4の表面の少なくとも一部を覆っていればよく、表面の全部を覆っていてもよい。すなわち、軟磁性金属粒子4の表面に対する無機絶縁被膜10の被覆率は、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上である。なお、無機絶縁被膜10は、軟磁性金属粒子4の表面を連続的に覆っていてもよいし、断続的に覆っていてもよい。
図3は、図2に示す領域IIIを拡大した断面模式図である。図3に示すように、無機絶縁被膜10は、第1被覆部12と第2被覆部14とを有し、少なくとも二層に分かれている。第1被覆部12は、軟磁性金属粒子4の最表面に接して、粒子表面を覆っており、第2被覆部14は、軟磁性金属粒子4から見て、第1被覆部12の外側に形成してある。
図4は、図3に示す測定線IVに沿って、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope; TEM)を用いたエネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy; EDS)により膜解析を行った結果を概略的に示している。
図4では、横軸が測定線IVの長手方向に対応しており、縦軸が検出された各元素の原子分率(atom%)である。すなわち、図4において、グラフの右側は軟磁性金属粒子4の表面近傍における成分比率を示し、グラフの中央は無機絶縁被膜10の成分比率を示し、その外側(すなわちグラフの左側)はTEM観察用樹脂の成分比率を示している。ただし、図4では、TEM-EDSによる膜解析の生データから炭素(C)等の余分な元素の情報を削除し、主要な元素(つまり本発明の解釈に必要な元素)の原子分率挙動のみを示している。
図4に示すように、軟磁性金属粒子4の最表面に接している第1被覆部12では、リン(P)および酸素(O)が主成分として含まれている。すなわち、第1被覆部12は、リン酸化合物系の被膜である。より具体的に、本実施形態では、第1被覆部12とは、被膜に含まれる主要元素(O,P,Si)の総量を100atom%とした場合において、リン(P)の原子分率が5%以上であり、かつ、リン(P)の原子分率がケイ素(Si)の原子分率に比べて5倍以上である範囲を意味する。
また、図4に示すように、第1被覆部12には、リンおよび酸素の他にNaが含まれている。このように、本実施形態において、第1被覆部12には、アルカリ金属(Li,Na,K,Rb,Cs)、アルカリ土類金属(Mg,Ca,Sr,Ba)、ZnおよびAlから選ばれる1種以上の元素が含まれていることが好ましく、特にNaまたはZnを含むことがより好ましい。なお、本実施形態では、アルカリ金属(Li,Na,K,Rb,Cs)、およびアルカリ土類金属(Mg,Ca,Sr,Ba)から選ばれる1種以上の元素を添加元素αとし、ZnおよびAlから選ばれる1種以上の元素を添加元素βと表記する。
第1被覆部12に添加元素αが含まれる場合、第1被覆部12に含まれる元素の総量を100mol%とすると、添加元素αとリン(P)との含有比率α/Pは、モル分率で、0.05≦α/P≦0.5であることが好ましく、0.1≦α/P≦0.3であることがより好ましい。
一方、第1被覆部12に添加元素βが含まれる場合、第1被覆部12に含まれる元素の総量を100mol%とすると、添加元素βとリン(P)との含有比率β/Pは、モル分率で、0.5≦β/P≦0.8であることが好ましく、0.5≦β/P≦0.7であることがより好ましい。
なお、図4に示すように、添加元素αとして含まれるNa元素は、第2被覆部14側よりも軟磁性金属粒子4側に偏って存在する傾向となる。他の添加元素α(Li,K,Rb,Cs,Mg,Ca,Sr,Ba)もしくは添加元素β(Zn,Al)が含まれる場合も、Na元素と同様の原子分率挙動を示す。
第2被覆部14については、図4に示すように、ケイ素(Si)および酸素を主成分として含んでいる。すなわち、第2被覆部14は、Siの酸化物被膜である。より具体的に、本実施形態では、第2被覆部14とは、被膜に含まれる主要元素(O,P,Si)の総量を100atom%とすると、ケイ素(Si)の原子分率が10%以上であり、かつ、ケイ素(Si)の原子分率がリン(P)の原子分率に比べて5倍以上である範囲を意味する。
なお、図3では図示を省略しているが、図4に示すように第1被覆部12と第2被覆部14との間には、中間層16が存在していても良い。中間層16としては、たとえば、リンおよびケイ素が双方共に含まれる拡散層が形成し得る。本実施形態では、中間層16とは、リンおよびケイ素の原子分率がいずれも5%以上であり、かつリンの原子分率がケイ素の原子分率にくらべて0.7~1.5倍である範囲を意味する。
図4に示すように、本実施形態では、中間層16の厚みが0.4nm以下と薄く、そのような場合には、図3に示すように、中間層16は存在しないとみなすことにする。なお、中間層16を有する場合、後述する第1被覆部12の厚み(T)および第2被覆部14の厚み(T)には、中間層16の厚みが含まれない。
以上、無機絶縁被膜10の成分構成について説明したが、第1被覆部12および第2被覆部14では、上記した元素の他に、他の元素(γ)をさらに含んでいても良い。たとえば、第1被覆部12には、鉄(Fe)やホウ素(B)等が含まれていても良く、第2被覆部14では、鉄、ホウ素、マグネシウム(Mg)等が含まれていても良い。これら他の元素(γ)の含有比率は、原子分率換算で、リンの含有量に対して0.01以下(γ/P≦0.01)、もしくはSiの含有量に対して0.1以下(γ/Si≦0.1)であることが好ましい。
本実施形態では、図3に示す第1被覆部12の厚み(T)と、第2被覆部の厚み(T)とが所定の範囲に制御されていることが好ましい。具体的には、第1被覆部12と第2被覆部14の厚みの和(T+T)は、10nm≦T+T≦150nmとすることが好ましく、30nm≦T+T≦80nmとすることがより好ましい。
さらに、第1被覆部12と第2被覆部14の厚みの和(T+T)に対する、第2被覆部14の厚み(T)の比率は、20%≦T/(T+T)≦90%とすることが好ましく、50%≦T/(T+T)≦80%とすることがより好ましい。
第1被覆部12と第2被覆部14の膜厚は、前述したTEM-EDSによる膜解析によって測定することができる。膜厚の測定にあたっては、粒子表面の任意の点を10点抽出し、それぞれの抽出点における膜厚の平均値を膜厚とする。
また、本実施形態では、TEM-EDSにより無機絶縁被膜10に含まれる成分を分析している。さらに、圧粉磁心110の状態で無機絶縁被膜10に含まれる成分および各層の膜厚を測定する場合には、集束イオンビーム(Focused Ion Beam: FIB)を用いたマイクロサンプリング法によりTEM観察用の試料を作製し、上述した方法と同様の膜解析を行えばよい。
続いて、本実施形態に係る軟磁性粉末1、圧粉磁心110、およびインダクタ素子100の製造方法について説明する。なお、製造方法は下記の方法に限定されない。
(軟磁性粉末の製造方法)
まず、軟磁性粉末1を構成する複数の軟磁性金属粒子4を作製する。軟磁性金属粒子4は、公知の粉末製造方法により作製できるが、たとえば、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、回転ディスク法、カルボニル法等を用いて製造することができる。また、単ロール法により得られる薄帯を機械的に粉砕して製造しても良い。これらの中では、所望の磁気特性を有する軟磁性金属粒子が得られやすいという観点から、カルボニル法を用いることが好ましい。なお、得られた軟磁性金属粒子4の粒子径については、篩分級、気流分級等により粒度調整が可能である。
次に、得られた軟磁性金属粒子4に対して、第1被覆部12および第2被覆部14からなる無機絶縁被膜10を形成し、被覆粒子2を得る。リンおよび酸素を含む第1被覆部12は、リン酸塩処理により形成することができる。具体的には、まず、リン酸または所定の元素(α,β)を含むリン酸塩を水やアルコール等の溶媒に溶解し、リン酸塩溶液を作製する。そして、当該溶液に軟磁性金属粒子4を浸透する、もしくは、当該溶液を軟磁性金属粒子4に噴霧し、乾燥することで、軟磁性金属粒子4の表面に第1被覆部12を形成する。なお、第1被覆部12の厚みは、リン酸塩溶液に含まれる前駆体(リン酸またはリン酸塩)の濃度、浸透処理時間、噴霧量などにより制御することができる。
第1被覆部12を形成した後、さらにその表面にケイ素および酸素を含む第2被覆部14を形成する。第2被覆部は、Si源となるシランカップリング剤を含む溶液を軟磁性金属粒子4に噴霧する、もしくは当該溶液に軟磁性金属粒子4を浸透させ、その後、乾燥または/および熱処理することで形成する。
用いるシランカップリング剤としては、たとえば、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、ヘキシルトリメチルシランなどが例示され、TEOSであることが好ましい。また、シランカップリング剤を溶かす溶媒としては、水、エタノール、アセトン、イソプロピルアルコールなどが例示され、特に制限はない。なお、第2被覆部14の厚みは、処理溶液に含まれるシランカップリング剤の濃度、噴霧量、浸透処理時間などにより制御することができる。
(圧粉磁心およびインダクタ素子の製造方法)
次に、上記の軟磁性粉末1を用いて圧粉磁心を製造する。具体的な製造方法は、特に制限されず、公知の方法を採用することができる。たとえば、図1に示す圧粉磁心110は、以下に示す方法で作製できる。
まず、圧粉磁心110の原料となる顆粒を作製する。顆粒は、無機絶縁被膜10を形成した被覆粒子2を含む軟磁性粉末1と、溶媒で希釈した結合材とを混練し、これを乾燥させることで得られる。得られた顆粒については、目開き100~400μmの篩で整粒しても良い。
顆粒の作製時に結合材を希釈する溶媒としては、アセトンなどのケトン類や、エタノール等を用いることができる。また、結合材としては、特に制限はないが、たとえば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、フラン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリプロピレン(PP)、液晶ポリマー(LCP)、および水ガラス(ケイ酸ナトリウム)、シリコン樹脂等が例示される。結合材として樹脂を使用する場合には、上記の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれであってもよいが、熱硬化性樹脂を使用することが好ましい。
さらに、結合材の含有量についても、特に制限はないが、たとえば軟磁性粉末1を100重量部とした場合、2~5重量部とすることが好ましい。この比率で結合材を混練することで、得られる圧粉磁心における軟磁性粉末1の体積充填率は、70~90vol%程度となる。
上記の顆粒は、インサート部材としての空芯コイルとともに金型内に充填し、圧縮成形する。これにより作製すべき圧粉磁心の形状を有する成形体が得られ、この成形体に適宜熱処理を行うことにより圧粉磁心110が得られる。なお、熱処理の条件は、使用する結合材の種類に応じて適宜決定すれば良い。こうして得られた圧粉磁心110は、内部にコイル120が埋設されているため、コイル120に電圧を印加することでインダクタ素子100として機能する。
(第1実施形態のまとめ)
本実施形態では、軟磁性粉末1に含まれる軟磁性金属粒子4の表面を、リン酸化合物系の第1被覆部12と、Si酸化物系の第2被覆部14とを含む多層構造の無機絶縁被膜10で覆うことにより、軟磁性粉末1の耐熱性を向上させることができる。本実施形態において、耐熱性が向上するとは、軟磁性粉末1を高温環境下(150℃以上)に長時間(2000h以上)曝した後においても、軟磁性粉末1の絶縁抵抗が低下し難く、高い絶縁性を維持できることを意味する。
また、第1被覆部12と第2被覆部14の膜厚を所定比率の範囲内に制御することにより、軟磁性粉末1の耐熱性はより向上する。具体的には、前述したように、第1被覆部12と第2被覆部14の厚みの和(T+T)に対する、第2被覆部14の厚み(T)の比率が、好ましくは20%≦T/(T+T)≦90%であり、より好ましくは50%≦T/(T+T)≦80%である。
さらに、第1被覆部12と第2被覆部14の厚みの和(T+T)は、所定の範囲内とすることで磁気特性の向上に寄与する。具体的には、前述したように、10nm≦T+T≦150nmとすることが好ましく、30nm≦T+T≦80nmとすることがより好ましい。
通常、粒子表面を被覆する絶縁被膜の厚みを厚くすると(たとえば200nm以上)、軟磁性粉末の電気抵抗は上昇し、耐熱性も良くなる傾向となる。ただし、絶縁被膜が厚くなると、圧粉磁心を構成した際に圧粉磁心の磁気特性に悪影響が生じ、特に、透磁率が低下する傾向となる。これに対して、本実施形態に係る軟磁性粉末1で圧粉磁心を形成した場合では、第1被覆部12と第2被覆部14の膜厚を所定比率の範囲内に制御することで、無機絶縁被膜10の厚みを薄くしたとしても、耐熱試験後における絶縁抵抗を高い値で維持できるとともに、高い透磁率を両立して得ることができる。
さらに、本実施形態では、第1被覆部において、添加元素α(アルカリ金属またはアルカリ土類金属)、もしくは添加元素β(Zn,Al)が所定量含まれることが好ましく、これによって軟磁性粉末1の耐熱性は、さらに向上する傾向となる。
耐熱性がさらに向上する理由は、必ずしも明らかではないが、たとえば以下のような事由が考えられる。図4に示すように、上記の添加元素αもしくは添加元素βは、第1被覆部12において、軟磁性金属粒子4の表面側に偏って存在している。このことから、これらの元素には、高温雰囲気下において、軟磁性金属粒子4の最表面に位置するFe元素が無機絶縁被膜10中に拡散して酸素と結合することを阻害する作用があると考えられる。したがって、第1被覆部に添加元素αもしくは添加元素βが含まれる場合には、軟磁性金属粒子4と無機絶縁被膜10との界面で、酸化鉄の過剰な生成が抑制され、絶縁抵抗の低下を防ぐことができる。
また、本発明に係る軟磁性粉末1は、圧粉磁心110に用いる磁性材料として利用することで、圧粉磁心110の高温環境下における耐熱性を向上させることができる。
第2実施形態
以下、図5に基づいて、本発明の第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態における第1実施形態と共通の構成に関しては、説明を省略し、同じ符号を使用する。
図5は、第2実施形態に係る圧粉磁心111について、その微細構造を一部拡大して示す断面模式図である。図5に示すように、第2実施形態においても、軟磁性粉末8が、結合材としての樹脂20を介して固定してある。ただし、第2実施形態においては、軟磁性粉末8が、粒度分布の異なる複数の粉末で構成してあり、具体的に、軟磁性粉末8は、相対的に粒径の大きい大径粉6と、粒径が小さい小径粉1aとを含んでいる。
大径粉6は、粒度分布が、200μm以下の範囲内にあることが好ましく、メディアン径(D50)が、20~30μmであることが好ましい。一方、小径粉1aでは、粒度分布が、15μm以下の範囲内にあることが好ましく、小径粉1aのメディアン径(D50)は、大径粉6のメディアン径に対して0.1倍~0.25倍程度と小さく、より具体的に3~5μmであることが好ましい。さらに、累積頻度90%となる小径粉1aの粒子径(D90)は、10μm以下であることが好ましい。
第2実施形態において、大径粉6および小径粉1aの粒子径dと粒度分布は、断面観察による画像解析により測定する場合、以下の手順により実施する。まず、第1実施形態と同様に、視野角400μm四方の領域において、各金属粒子の面積を計算する。そして、得られた面積値より、各金属粒子の円相当径を算出する。第2実施形態においても、上記の作業を30箇所にて行うことが好ましい。そして、第2実施形態では、全測定箇所より得られた円相当径について、15μm未満のグループと15μm以上のグループに各金属粒子を分類する。15μm未満のグループを、小径粉1aと称し、その粒度分布と各累積頻度における粒子径を算出する。一方、15μm以上のグループは、大径粉6と称し、その粒度分布と各累積頻度における粒子径を算出する。
さらに、第2実施形態の軟磁性粉末8全体に占める小径粉1aの配合比率は、重量比率で、5~40%であることが好ましく、10~30%であることがより好ましい。小径粉1aの配合比率は、製造過程で把握されるのみならず、圧粉磁心111が作製された後においても、SEM観察等により圧粉磁心111の断面を観察することにより把握することができる。
このように、粒径の異なる粉末を組み合わせることで、圧粉磁心111における軟磁性粉末8の体積充填率を高めることができ、磁気特性がさらに向上する傾向となる。
また、小径粉1aを構成するコア粒子2aは、表面に絶縁被膜が形成してあり、第2実施形態においては、小径粉1aのコア粒子2aが、第1実施形態における被覆粒子2(つまり図2に示す被覆粒子2)に対応している。すなわち、小径粉1aを構成するコア粒子2aの表面は、無機絶縁被膜10で覆われており、この無機絶縁被膜10は、リンおよび酸素を含む第1被覆部12と、ケイ素および酸素を含む第2被覆部14と、を含む多層構造膜である。
図5に示すように、圧粉磁心111では、大径粉6の粒子間の隙間に、小径粉1aが入り込んで存在している。粒径の異なる粉末を組み合わせる場合、圧粉磁心の絶縁性に関しては、大径粉6の粒子間に存在する小径粉1aによる寄与が大きい。そのため、小径粉1aのコア粒子2aの表面に、第1被覆部12と第2被覆部14とが形成することで、圧粉磁心111の絶縁性をより効率的に高めることができる。
大径粉6のコア粒子6aの表面については、絶縁被膜を形成しなくとも良いし、リン酸化合物系の被膜、もしくはSi系酸化物被膜のいずれか一方のみを形成しても良いし、小径粉1aと同様に多層構造膜を形成しても良い。
ただし、大径粉6については、磁気特性への寄与が大きいため、被膜成分のような非磁性物の介在を必要最小限に留めたほうが良い。したがって、大径粉6のコア粒子6a表面には、TEOS由来のSi系酸化物被膜のみを形成する(すなわち第2被覆部14に相当する被膜のみを形成する)ことがより好ましい。このように構成することで、絶縁被膜の磁気特性(たとえば、透磁率)に対する影響を必要最小限に抑えることができ、圧粉磁心111の磁気特性がさらに向上する。
なお、大径粉6および小径粉1aを構成するコア粒子の材質は、いずれも、第1実施形態と同様に、Feを含む種々の軟磁性金属粒子が適用できる。大径粉6のコア粒子と、小径粉1aのコア粒子とは、同質材で構成しても良いし、異なる材質で構成しても良い。
第2実施形態については、小径粉1aが第1実施形態の被覆粒子2で構成されているため、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。たとえば、上述した実施形態では、圧粉磁心110の内部にコイル120が埋設してあるインダクタ素子100を示したが、インダクタ素子の形態は特に限定されず、所定形状の圧粉磁心の表面にワイヤが所定の巻き数だけ巻回された構造であっても良い。この場合、圧粉磁心の形状は、たとえば、FT型、ET型、EI型、UU型、EE型、EER型、UI型、ドラム型、トロダイル型、ポット型、カップ型等が挙げられる。
また、圧粉磁心の製造方法について、上述した実施形態では、軟磁性粉末1を結合材となる樹脂とともに混練したが、樹脂に代えて、金属石鹸などの潤滑剤を用いても良い。この場合、オレイン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛などの金属石鹸を軟磁性粉末1とともに混練する。そして、この混合物に熱および圧力を印加して任意形状の成形体を得て、この成形体を450~600℃程度で熱処理することにより圧粉磁心が得られる。
また、第2実施形態では、粒径の異なる2種の粉末で軟磁性粉末8を構成したが、3種の粉末で軟磁性粉末を構成しても良い。すなわち、大径粉6と小径粉1aの他に、これらの中間のメディアン径を有する中径粉を含めて軟磁性粉末を構成しても良い。この場合であっても、第2実施形態と同様に、小径粉が図2に示す被覆粒子2で構成されていることが好ましく、中径粉は、被覆粒子2でも良く、非被覆粒子であっても良い。
さらに、上述した実施形態では、電子部品の一例としてインダクタ素子を示したが、耐熱性の観点によれば、本発明は、トランス、チョークコイル、リアクトルといった電子部品にも適用可能である。
以下、本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
(実験例1)実施例1~11
まず、軟磁性粉末の原料として、小径粉と大径粉の2種類の粉末を準備した。具体的に、小径粉としては、材質が純鉄で、メディアン径(D50)が5μmである粉末を準備し、大径粉としては、材質が93.5Fe-6.5Siで、メディアン径(D50)が25μmである粉末を準備した。
そして、準備した小径粉に対して、以下に示す手順で無機絶縁被膜をコーティングした。まず、小径粉にリン酸塩処理を施し、小径粉のコア粒子の表面に第1被覆部を形成した。さらに、この小径粉を、TEOSを添加したエタノール溶液に浸透・攪拌させ、その後、所定の条件で乾燥することで、第1被覆部の外側にさらに第2被覆部を形成した。
なお、この無機絶縁被膜のコーティング工程においては、リン酸塩溶液濃度やTEOS濃度を変更して実験を行い、第1被覆部の厚み(T)と第2被覆部の厚み(T)との比率が異なる11種類の小径粉を作製した。ただし、この11種類の小径粉において、第1被覆部と第2被覆部の厚みの和(T+T)は、いずれも50±2μmの範囲内となるように制御した。
大径粉については、TEOSによるゾル-ゲルコーティングのみを施し、大径粉のコア粒子の表面にSi系酸化物被膜を形成した。
こうして得られた小径粉と大径粉とを、所定の配合比率で混ぜ合わせることで、実施例1~11の軟磁性粉末試料を作製した。小径粉の配合比率は、本実験の全ての実施例で共通しており、軟磁性粉末全体に対して、重量比率で、30%とした。
次に、各実施例1~11の軟磁性粉末試料を用いて、以下に示す手順で圧粉磁心試料を作製した。まず、小径粉と大径粉とを含む軟磁性粉末と、アセトンで希釈した( エポキシ樹脂とを混練し、50℃で12時間乾燥させた後、目開き400μmの篩で整粒することで、原料となる顆粒を得た。この際、エポキシ樹脂の添加量は、軟磁性粉末100重量部に対して、4重量部とした。そして、上記の顆粒をトロイダル形状の金型に充填し、成形圧6t/cm(約6×10MPa)で加圧して成形体を得た。この成形体について、200℃で180分間、大気雰囲気下で加熱処理し、圧粉磁心試料を得た。
なお、圧粉磁心試料の作製条件は、全ての実施例で共通しており、圧粉磁心試料の寸法は、(外径17.5mm、内径10.5mm、高さ5mm)とした。得られた圧粉磁心試料については、以下に示す評価を実施した。
(TEM-EDSによる無機絶縁被膜の解析)
圧粉磁心試料に含まれる無機絶縁被膜の確認は、TEM観察により行った。TEM観察では、小径粉のコア粒子表面に形成してある無機絶縁被膜について、少なくとも10箇所以上でEDSによる線分析を行い、無機絶縁被膜中の成分および各層の膜厚を測定した。本実験の全ての実施例において、狙い値どおり小径粉のコア粒子表面に第1被覆部と第2被覆部とが形成されていることが確認できた。各実施例における第1被覆部と第2被覆部の厚みを、表1に示す。なお、本実験では、実施例1~11のいずれにおいても、第1被覆部と第2被覆部との間に中間層は形成されていなかった。
また、各圧粉磁心試料に含まれる大径粉についても、小径粉と同様にTEM-EDSによる膜解析を行った。大径粉の表面に形成したSi系酸化物被膜の膜厚は、全ての実施例において、平均50nmであった。なお、TEM観察用の試料は、FIBを用いたマイクロサンプリング法により作製した。
(透磁率の測定)
各実施例の圧粉磁心試料について、初透磁率μiを測定した。初透磁率μiは、圧粉磁心にワイヤを50ターン巻きつけた後、LCRメータ(HP社LCR428A)によって測定した。各実施例の測定結果を表1に示す。なお、初透磁率μiについては、20以上を良好と判断する。
(耐熱試験)
また、各実施例の圧粉磁心試料について、耐熱試験を行った。耐熱試験では、圧粉磁心試料を、155℃、の高温環境下に、2000時間曝した後、絶縁抵抗を測定した。絶縁抵抗は、トロイダル両側にIn-Gaペーストを塗って端子電極を形成した後、HP社のハイレジスタンスメータ4339Bにより測定した。各実施例の耐熱試験後の絶縁抵抗を表1に示す。
なお、耐熱試験前の絶縁抵抗は、本実験におけるすべての実施例において同程度の水準にあり、1×1014Ω/mm程度であった。よって、試験後の絶縁抵抗が高いほど、耐熱性が優れると判断する。
(比較例1)
比較例1では、小径粉のコア粒子の表面に、リン酸化合物系の被膜のみを形成した。これ以外の実験条件は、実施例1~11と同様にして、比較例1の圧粉磁心試料を作製した。
(比較例2)
比較例2では、小径粉のコア粒子の表面に、Si系酸化物被膜のみを形成した。これ以外の実験条件は、実施例1~11と同様にして、比較例2の圧粉磁心試料を作製した。
Figure 0007268521000001
表1に示すように、比較例1および2では、耐熱試験後の絶縁抵抗が4乗オーダーまで低下しており、耐熱性が十分でないことが確認された。一方、実施例1~11では、比較例1および2と被膜の総厚が同程度であるにも拘わらず、比較例1および2よりも、試験後の絶縁抵抗が高くなっている。したがって、金属粒子の表面に第1被覆部と第2被覆部とを形成することで、耐熱性が向上することが確認できた。
また、第1被覆部と第2被覆部の厚みについて考察すると、T/(T+T)が、20%~90%である場合(すなわち実施例3~10)には、試験後の絶縁抵抗が7乗オーダー以上であり、それ以外の場合(すなわち実施例1,2,11)よりも高くなっている。また、T/(T+T)が30%~80%である場合(実施例5~9)には、絶縁抵抗が8乗オーダー以上とより高くなっており、T/(T+T)が50%~80%の場合(実施例7~9)には、絶縁抵抗が9乗オーダー以上とさらに高くなっている。
この結果より、第1被覆部と第2被覆部との厚みの比率を所定範囲内にすることで、耐熱性をより向上できることが確認できた。
(実験例2)実施例21~28
実験例2では、T/(T+T)を60%で固定したうえで、第1被覆部と第2被覆部との厚みの和(T+T)の水準を振って、8種の小径粉を作製した。これ以外の実験条件は、実験1と同様にして、実施例21~28の圧粉磁心試料を作製した。各実施例21~28における膜厚と、評価結果を表2に示す。
Figure 0007268521000002
表2に示すように、第1被覆部と第2被覆部との厚みの和(T+T)を厚くしていくことで、耐熱試験後の絶縁抵抗が高くなる傾向が確認できる。一方、初透磁率μiについては、膜厚の増加に伴い低下していく傾向となる。特に、T+Tが150nm以上である実施例28では、初透磁率μiが20未満まで低下している。
一方、T+Tが10nm以上150nm以下である実施例22~27では、試験後の絶縁抵抗が8乗オーダーと高いうえに、透磁率が20以上であって、絶縁性と磁気特性の両方の特性を満足している。特に、T+Tが30nm以上80nm以下である実施例23~25では、試験後の絶縁抵抗が9乗オーダーとより高いうえに、透磁率も24以上とより向上している。この結果から、第1被覆部と第2被覆部の膜厚を所定比率の範囲内に制御することで、無機絶縁被膜の総厚を薄くしたとしても、耐熱試験後における絶縁抵抗を高い値で維持できるとともに、高い透磁率を両立して得られることが確認できた。
(実験例3)実施例31~46,51~61
実験例3では、リン酸塩処理をする際に、添加元素αもしくは添加元素βを含むリン酸塩溶液を使用して第1被覆部を形成し、小径粉を得た。具体的に実施例31~46では、小径粉の第1被覆部に、アルカリ金属またはアルカリ土類金属から選ばれる添加元素αが含まれている。各実施例31~46における添加元素αとその含有比率(α/P)を表3に示す。また、実施例51~61では、小径粉の第1被覆部に、ZnまたはAlから選ばれる添加元素βが含まれている。各実施例51~61における添加元素βとその含有比率を表4に示す。
さらに、実験例3では、全ての実施例において、第1被覆部の厚み(T)が20±1nmであり、第2被覆部の厚み(T)が30±1nmである。すなわち、実験例3の全ての実施例では、T+Tが50±2nmであって、T/(T+T)が60±2%である。上記以外の実験条件は、実験1と同様にして、実施例31~46,51~61の圧粉磁心試料を作製した。各実施例の評価結果を表3および4に示す。
Figure 0007268521000003
Figure 0007268521000004
表3に示すように、実施例31では、第1被覆部に添加元素αが含まれていない。これに対して、実施例32~38では、添加元素αとしてNaが含まれている。耐熱試験後の絶縁抵抗を比較すると、Naの含有率(α/P)が0.05~0.5の範囲何にある実施例33~36において、絶縁抵抗の値が高く(11乗オーダー以上)、耐熱性が実施例31よりも向上している。一方、Naの含有率が少ない実施例31、および、Naの含有率が多い実施例37,38では、絶縁抵抗がNaを含まない実施例31と同等の水準であった。
この結果から、第1被覆部に添加元素αが所定の含有率で含まれることにより、耐熱性がさらに向上することが立証できた。なお、実施例39~46では、添加元素αの種類を変更している。いずれの元素においても、所定含有量の範囲であれば、耐熱性の更なる向上に寄与することが立証された。
また表4では、第1被覆部に添加元素βが含まれた場合の結果を示している。表4に示すように、実施例51では第1被覆部に添加元素βが含まれていない。これに対して、実施例52~58では、添加元素βとしてZnが含まれている。耐熱試験後の絶縁抵抗を比較すると、Znの含有率(β/P)が0.5~0.8の範囲内にある実施例54~56において、絶縁抵抗の値が高く(11乗オーダー以上)、耐熱性が実施例51よりも向上している。一方、Znの含有率が少ない実施例52,53、およびZnの含有率が多い実施例57,58では、絶縁抵抗がZnを含まない実施例51と同等の水準であった。
この結果から、第1被覆部に添加元素βが所定の含有率で含まれることにより、耐熱性がさらに向上することが立証できた。なお、実施例59~61では、添加元素βとしてZnに代えてAlを添加している。実施例59~61においても、含有率が0.5~0.8の範囲内にあるため、実施例51よりも耐熱試験後の絶縁抵抗が向上していることが確認できた。
なお、上記の本実施例では、評価の簡便さを考慮して、圧粉磁心試料での耐熱試験および透磁率の測定を行った。ただし、軟磁性粉末の状態でも圧粉磁心と同様の評価を実施しており、耐熱性および磁気特性について、圧粉磁心の状態と同様の傾向が確認できている。
また、上記の本実施例では、いずれのサンプルにおいても、大径粉と小径粉との配合比を同一としているが、小径粉の配合比率を5%~40%と変えた実験も実施している。小径粉の配合比率を変えた場合においても、耐熱性および磁気特性について、上記の本実施例と同様の傾向が確認できた。したがって、配合比率を変えた場合であっても、本発明に係る軟磁性粉末(図2に示す被覆粒子2)が圧粉磁心中に含まれていれば、本発明の効果が得られることが確認できた。
1,8 … 軟磁性粉末
1a … 小径粉
2 … 被覆粒子
4 … 軟磁性金属粒子
6 … 大径粉
10 … 無機絶縁被膜
12 … 第1被覆部
14 … 第2被覆部
16 … 中間層
20 … 樹脂
100 … インダクタ素子
110,111 … 圧粉磁心
120 … コイル

Claims (7)

  1. 15μm以上の粒径を有する大径粉と、15μm未満の粒径を有する小径粉と、を含み、
    前記小径粉が、表面が無機絶縁被膜により覆われている軟磁性金属粒子を含み、
    前記無機絶縁被膜は、前記軟磁性金属粒子の表面に接している第1被覆部と、前記第1被覆部の外側に形成してある第2被覆部と、を有し、
    前記第1被覆部は、リンおよび酸素を含むリン酸化合物の被膜であり、
    前記第2被覆部は、ケイ素および酸素を含むSi酸化物の被膜である軟磁性粉末。
  2. 前記第1被覆部の厚み(T1)と前記第2被覆部の厚み(T2)の和が、10nm≦T1+T2≦150nmであり、
    前記第2被覆部の厚み(T2)と、前記第1被覆部および前記第2被覆部の厚みの和(T1+T2)との比率が、20%≦T2/(T1+T2)≦90%である請求項1に記載の軟磁性粉末。
  3. 前記第2被覆部の厚み(T2)と、前記第1被覆部および前記第2被覆部の厚みの和(T1+T2)との比率が、50%≦T2/(T1+T2)≦80%である請求項2に記載の軟磁性粉末。
  4. 前記第1被覆部は、Li,Na,K,Rb,Cs,Mg,Ca,Sr,Baから選ばれる1種以上の元素(α)を含み、
    前記第1被覆部における前記元素(α)とリン(P)との含有比率α/Pが、モル分率で、0.05≦α/P≦0.5である請求項1~3のいずれかに記載の軟磁性粉末。
  5. 前記第1被覆部は、ZnおよびAlから選ばれる1種以上の元素(β)を含み、
    前記第1被覆部における前記元素(β)とリン(P)との含有比率β/Pが、モル分率で、0.5≦β/P≦0.8である請求項1~3のいずれかに記載の軟磁性粉末。
  6. 請求項1~5のいずれかに記載の軟磁性粉末を含む磁心。
  7. 請求項6に記載の磁心を備える電子部品。


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