以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
<研磨用組成物>
(砥粒)
ここに開示される研磨用組成物は、砥粒としてのシリカ粒子を含む。上記シリカ粒子は、SEM画像解析によるアスペクト比が1.10以上である粒子SHARと、SEM画像解析によるアスペクト比が1.10未満である粒子SLARとを含む。ここで、上記シリカ粒子は、以下の条件(A):上記粒子SHARの個数NAを上記粒子SLARの個数NBで除した値(個数比)が、0.10以上1.40以下である;を満たす。粒子SHARは、粒子SLARと比較してアスペクト比が大きく、相対的に球形度が低い。かかる粒子SHARを含むシリカ粒子を砥粒として用いると、加工性が向上する傾向がある。また、粒子SLARは、粒子SHARと比較してアスペクト比が小さく、相対的に球形度が高い。かかる粒子SLARを含むシリカ粒子を砥粒として用いると、研磨パッド表面の平滑化が好ましく実現されやすい。その理由は特に限定的に解釈されるものではないが、球形度の高い粒子は、研磨中において振動が発生しにくく、当該振動を原因とする研磨パッド表面の凹凸が生じにくいためと考えられる。上記粒子SHARと上記粒子SLARが上記条件(A)の個数比で含まれる研磨用組成物によると、優れた面品質を実現することができ、かつ加工性が高く、さらに研磨パッド表面の平滑化を早期に実現することができる。
ここで、シリカ粒子(粒子SHARまたは粒子SLARであり得る。)のアスペクト比は、例えば次の方法で測定される。すなわち、SEMを用いて、測定対象の粒子を観測する。上記SEM画像中のシリカ粒子について、粒子画像に外接する最小の長方形を描く。その長方形の長辺の長さを長径の値とし、短辺の長さを短径の値として、測定対象の粒子について長径の値を短径の値で除した値をアスペクト比として算出する。すなわち、測定対象の粒子のアスペクト比は、該粒子に外接する最小の長方形の長辺/短辺の比として求められる。
研磨用組成物に含まれるアスペクト比1.10以上の粒子SHARとアスペクト比1.10未満の粒子SLARの個数比は、例えば次の方法で測定される。すなわち、SEMを用いて、測定対象の砥粒に含まれる所定個数のシリカ粒子を、1視野内に50個以上の粒子を含むSEM画像で観察する。観察倍率は10000倍~50000倍で観察を行う。測定対象のシリカ粒子は、1種類のシリカ粒子でもよく、2種類以上のシリカ粒子の混合物でもよい。上記SEM画像中のシリカ粒子について、各シリカ粒子のアスペクト比を上述した方法で測定し、得られたアスペクト比に基づいて各シリカ粒子が粒子SHARおよび粒子SLARのいずれに該当するかを特定する。その後、上記SEM画像中の粒子SHARと粒子SLARの各個数をカウントする。得られた粒子SHARの個数と粒子SLARの個数の比を算出し、この値を研磨用組成物に含まれる粒子SHARおよび粒子SLARの個数比として採用することができる。上記個数比は、一般的な画像解析ソフトウエアを用いて求めることができる。後述する実施例においても同様である。
なお、上記所定個数、すなわち粒子毎のアスペクト比を算出する粒子の個数は、測定精度や再現性を高める観点から、通常、1000個以上とすることが適当であり、1500個以上とすることが好ましい。上記所定個数の上限は特に制限されない。測定効率の観点から、上記所定個数は、例えば5000個以下であってよく、2500個以下でもよい。
アスペクト比が1.10以上である粒子SHARの個数NAをアスペクト比が1.10未満である粒子SLARの個数NBで除した値(以下、NA/NBともいう。)は、研磨パッド表面の早期平滑化の観点から、1.35以下であることが好ましく、より好ましくは1.30以下であり、さらに好ましくは1.28以下である。いくつかの態様によると、上記NA/NBは、1.20以下であってもよく、1.15以下でもあってもよく、1.10以下であってもよい。また、上記NA/NBは、加工性向上の観点から、0.20以上であることが好ましく、より好ましくは0.25以上であり、さらに好ましくは0.27以上である。いくつかの態様によると、上記NA/NBは、0.50以上であってもよく、0.70以上でもあってもよく、0.90以上であってもよい。
ここに開示される技術において、研磨用組成物に含まれるシリカ粒子が条件(A)を満たす限り、即ち、上記NA/NBが0.10以上1.40以下である限りにおいて、研磨用組成物に含まれるシリカ粒子のアスペクト比の分布について特に限定されない。例えば、研磨用組成物に含まれるシリカ粒子のアスペクト比の分布に関する指標の一つとして、アスペクト比上位3%のシリカ粒子STの平均アスペクト比が挙げられる。ここでいうアスペクト比上位3%のシリカ粒子STの平均アスペクト比とは、研磨用組成物に含まれるシリカ粒子のうちアスペクト比が高い順にシリカ粒子総数の3%に該当する数の粒子の集合体をシリカ粒子STとしたときの、当該シリカ粒子STの平均アスペクト比のことを指す。
ここに開示される技術の好ましい一態様によると、上記シリカ粒子は、SEM画像解析によるアスペクト比上位3%のシリカ粒子STの平均アスペクト比が、1.10以上である。加工性向上の観点からは、上記シリカ粒子STの平均アスペクト比は、1.30以上であることが好ましく、より好ましくは1.40以上、さらに好ましくは1.50以上(例えば1.60以上)である。面品質向上の観点からは、上記シリカ粒子STの平均アスペクト比は、2.20以下であることが好ましく、より好ましくは2.00以下、さらに好ましくは1.90以下(例えば1.85以下)である。いくつかの態様において、上記シリカ粒子STの平均アスペクト比は、1.80以下であってもよく、1.75以下でもよく、1.70以下でもよい。
ここで、アスペクト比上位3%のシリカ粒子STの平均アスペクト比は、例えば次の方法で測定される。すなわち、SEMを用いて、測定対象の砥粒に含まれる所定個数のシリカ粒子を、1視野内に50個以上の粒子を含むSEM画像で観察する。観察倍率は10000倍~50000倍で観察を行う。測定対象のシリカ粒子は、1種類のシリカ粒子でもよく、2種類以上のシリカ粒子の混合物でもよい。上記SEM画像中の所定個数のシリカ粒子について、各シリカ粒子のアスペクト比を測定し、そのアスペクト比を大きい順に並べた場合に大きい側から上記所定個数の3%までの範囲に含まれるシリカ粒子について、当該シリカ粒子の各アスペクト比を算術平均することにより、アスペクト比上位3%のシリカ粒子STの平均アスペクト比を求めることができる。上記シリカ粒子STの平均アスペクト比は、一般的な画像解析ソフトウエアを用いて求めることができる。後述する実施例においても同様である。
なお、上記所定個数、すなわち粒子毎のアスペクト比を算出する粒子の個数は、測定精度や再現性を高める観点から、通常、1000個以上とすることが適当であり、1500個以上とすることが好ましい。上記所定個数の上限は特に制限されない。測定効率の観点から、上記所定個数は、例えば5000個以下であってよく、2500個以下でもよい。
特に限定するものではないが、砥粒(典型的にはシリカ粒子)の個数平均アスペクト比は、例えば1.0以上であり得る。研磨レート等の観点から、いくつかの態様において、平均アスペクト比は、例えば1.02以上であってよく、1.05以上でもよく、1.10以上でもよく、1.15以上でもよい。また、面品質を効率よく高めやすくする観点から、いくつかの態様において、平均アスペクト比は、通常、2.50以下であることが適当であり、2.0以下でもよく、1.70以下でもよい。ここに開示される技術は、砥粒(典型的にはシリカ粒子)の平均アスペクト比が1.50以下、さらには1.30以下である態様でも好適に実施され得る。ここで、砥粒の平均アスペクト比とは、該砥粒を構成する個々の粒子の長径/短径比の平均値、すなわち個数平均アスペクト比をいう。以下、特記しない場合、本明細書において平均アスペクト比とは、上記個数平均アスペクト比を意味するものとする。
ここで、シリカ粒子の平均アスペクト比は、例えば次の方法で測定される。すなわち、SEMを用いて、測定対象の砥粒に含まれる所定個数のシリカ粒子を、1視野内に50個以上の粒子を含むSEM画像で観察する。観察倍率は10000倍~50000倍で観察を行う。測定対象のシリカ粒子は、1種類のシリカ粒子でもよく、2種類以上のシリカ粒子の混合物でもよい。上記SEM画像中のシリカ粒子について、各々の粒子画像に外接する最小の長方形を描く。その長方形の長辺の長さを長径の値とし、短辺の長さを短径の値として、各粒子について長径の値を短径の値で除した値をアスペクト比として算出する。すなわち、各粒子のアスペクト比は、該粒子に外接する最小の長方形の長辺/短辺の比として求められる。上記所定個数の粒子のアスペクト比を算術平均することにより、個数平均アスペクト比を求めることができる。上記個数アスペクト比は、一般的な画像解析ソフトウエアを用いて求めることができる。
なお、上記所定個数、すなわち粒子毎のアスペクト比を算出する粒子の個数は、測定精度や再現性を高める観点から、通常、1000個以上とすることが適当であり、1500個以上とすることが好ましい。上記所定個数の上限は特に制限されない。測定効率の観点から、上記所定個数は、例えば5000個以下であってよく、2500個以下でもよい。
ここに開示される技術の好ましい一態様によると、上記シリカ粒子は、SEM画像解析による体積平均粒子径が凡そ50nm以上400nm以下である。このような平均粒子径を有する粒子を砥粒として用いることによって、加工性と面品質とを両立することができる。シリカ粒子の体積平均粒子径は、加工性等の観点から、好ましくは凡そ80nm以上、より好ましくは凡そ100nm以上、さらに好ましくは凡そ110nm以上、特に好ましくは凡そ140nm以上である。上記体積平均粒子径は、例えば凡そ160nm以上であってもよく、さらには凡そ180nm以上であってもよい。また、シリカ粒子の体積平均粒子径は、面品質の高い表面を得る観点から、好ましくは凡そ300nm以下、より好ましくは凡そ250nm以下、さらに好ましくは凡そ200nm以下、特に好ましくは凡そ180nm以下である。上記体積平均粒子径は、例えば凡そ130nm以下であってもよい。
また、上記シリカ粒子のSEM画像解析による体積基準の累積頻度90%粒子径(D90)を累積頻度10%粒子径(D10)で除した値(D90/D10)は、通常1.5以上(例えば1.8以上)であり、2.0以上であることが好ましい。D90/D10が比較的ブロードな分布を示すシリカ粒子を用いることで、小径粒子による面品質向上と大径粒子による加工性向上とを両立することができる。D90/D10は、好ましくは凡そ3.0以上、より好ましくは凡そ4.0以上であり、例えば凡そ5.0以上(典型的には5.5以上、さらには6.0以上)であってもよい。D90/D10の上限は特に限定されず、面品質と加工性とを両立する観点から、凡そ10.0以下とすることが適当であり、例えば8.0以下(典型的には7.0以下)であってもよい。
本明細書におけるSEM画像解析による体積平均粒子径およびD90/D10は、具体的には次の方法で求められる。測定対象の粒子(1種類の砥粒粒子であってもよく、2種類以上の砥粒粒子の混合物であってもよい。)に含まれる1000個以上の粒子を、1視野内に50個以上の粒子を含むSEM画像で観察する。観察倍率は10000倍~50000倍とする。各粒子画像の投影面積と等しい面積を有する理想円(真円)の半径rから4πr3/3により得られる値を各粒子の体積として算出する。ここで、上記体積は、一次粒子であるか二次粒子であるかを問わず、研磨用組成物中において独立して分散している粒子を1個の粒子と数えて算出するものとする。上記所定個数の粒子の総体積を個数で除することにより、体積平均粒子径を求めることができる。また、上記所定個数の粒子の体積から体積基準の累積分布曲線を導出し、累積頻度90%粒子径(D90)を累積頻度10%粒子径(D10)で除することにより、D90/D10を求めることができる。なお、「累積頻度10%粒子径」および「累積頻度90%粒子径」とは、体積基準で求めた粒子の粒子径分布の全体積を100%とする累積体積分布曲線において、粒子径が小さい側からの累積体積がそれぞれ10%および90%となる点の粒子径をいう。SEM画像解析による体積平均粒子径およびD90/D10は、一般的な画像解析ソフトウエアを用いて求めることができる。
上記砥粒(典型的にはシリカ粒子)の平均一次粒子径は特に限定されず、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、さらに好ましくは30nm以上、特に好ましくは35nm以上である。平均一次粒子径の増大によって、より高い研磨速度が実現され得る。また、より面品質の高い表面を得るという観点から、上記平均一次粒子径は、好ましくは150nm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは80nm以下、特に好ましくは60nm以下である。
なお、ここに開示される技術において、砥粒(典型的にはシリカ粒子)の平均一次粒子径は、BET法に基づいて求められる平均粒子径をいう。例えば、砥粒がシリカ砥粒(すなわちシリカ粒子からなる砥粒)の場合、シリカ砥粒の平均一次粒子径は、BET法により測定される比表面積S(m2/g)から、D1(nm)=(6000/2.2)/Sの式により算出され得る。この式における2.2はシリカの比重の値であり、シリカとしての粒子径となる。比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
ここに開示される技術の好ましい一態様では、シリカ粒子として、SEM画像解析による平均アスペクト比が1.10以上であり、かつSEM画像解析による体積平均粒子径が200nm未満であるシリカ粒子S1を含む。相対的に球形度が低く、かつ粒子径が比較的小さいシリカ粒子S1を用いることによって、高い加工性と高い面品質が両立して得られやすい。
シリカ粒子S1の平均アスペクト比は、加工性およびパッド表面研削の観点から、好ましくは1.12以上、より好ましくは1.15以上、さらに好ましくは1.17以上(例えば1.18以上)である。上記平均アスペクト比は凡そ2.5以下であることが適当であり、面品質やパッド表面平滑化の観点から、好ましくは凡そ2.0以下、より好ましくは凡そ1.5以下、さらに好ましくは凡そ1.3以下(例えば1.25以下)である。
シリカ粒子S1の体積平均粒子径は、面品質の観点から、好ましくは180nm未満、より好ましくは160nm未満(例えば凡そ150nm以下)である。また、上記体積平均粒子径は、凡そ50nm以上であることが適当であり、加工性の観点から、好ましくは凡そ90nm以上、より好ましくは凡そ120nm以上(例えば凡そ130nm以上)である。
シリカ粒子S1のD90/D10は特に限定されず、例えば凡そ2.0以上であることが適当であり、加工性等の観点から、好ましくは凡そ2.5以上、より好ましくは凡そ3.0以上、さらに好ましくは凡そ3.5以上(例えば3.8以上)である。また、シリカ粒子S1のD90/D10は、例えば凡そ10.0以下とすることが適当であり、面品質等の観点から、好ましくは凡そ8.0以下、より好ましくは凡そ6.0以下、さらに好ましくは凡そ5.0以下(例えば凡そ4.5以下)である。
シリカ粒子(砥粒全体であり得る。)全体に占めるシリカ粒子S1の割合は、シリカ粒子が上記条件(A)、即ち上記NA/NBが0.10以上1.40以下、を満たす限りにおいて限定されない。加工性と面品質とを両立する観点から、シリカ粒子全体に占めるシリカ粒子S1の割合は、凡そ30重量%以上とすることが適当であり、好ましくは凡そ50重量%以上、より好ましくは凡そ55重量%以上、例えば凡そ60重量%以上であってもよく、凡そ70重量%以上(例えば凡そ75重量%以上)であってもよい。また、加工性とパッド表面の早期平滑化との両立を考慮すると、シリカ粒子S1は他のシリカ粒子(例えば後述のシリカ粒子S2)と併用することが好ましい。そのような観点から、シリカ粒子(砥粒全体であり得る。)全体に占めるシリカ粒子S1の割合は、凡そ95重量%以下とすることが適当であり、好ましくは凡そ85重量%以下、より好ましくは凡そ70重量%以下、さらに好ましくは凡そ65重量%以下である。
ここに開示される技術の好ましい一態様では、シリカ粒子として、SEM画像解析による平均アスペクト比が1.10未満であり、かつSEM画像解析による体積平均粒子径が200nm未満であるシリカ粒子S2を含む。相対的に球形度が高く、かつ粒子径が比較的小さいシリカ粒子S2を用いることによって、研磨パッド表面の早期平滑化が好ましく実現される。その理由は特に限定的に解釈されるものではないが、球形度の高い粒子は、研磨中において振動が発生しにくく、当該振動を原因とする研磨パッド表面の凹凸が生じにくいためと考えられる。
シリカ粒子S2の平均アスペクト比は、パッド表面の早期平滑化および面品質の観点から、好ましくは凡そ1.08以下、より好ましくは凡そ1.06以下(例えば1.05未満)である。上記平均アスペクト比は1.0以上であり、加工性等の観点から、好ましくは1.02以上、より好ましくは1.03以上である。
シリカ粒子S2の体積平均粒子径は、研磨パッド表面の早期平滑化および面品質の観点から、好ましくは150nm未満、より好ましくは120nm未満、さらに好ましくは100nm未満(例えば凡そ95nm以下)である。また、上記体積平均粒子径は、凡そ30nm以上であることが適当であり、加工性の観点から、好ましくは凡そ50nm以上、より好ましくは凡そ70nm以上(例えば凡そ80nm以上)である。
シリカ粒子S2のD90/D10は特に限定されず、例えば凡そ2.0以上であることが適当であり、研磨パッド表面の早期平滑化、加工性等の観点から、好ましくは凡そ2.4以上、より好ましくは凡そ2.8以上、さらに好ましくは凡そ3.2以上である。特に限定的に解釈されるものではないが、上記のようにブロードな分布をシリカ粒子S2が有することで、その大径粒子による研磨パッド表面研削作用がよりよく発揮されて、球形度の高い粒子による振動抑制作用と相俟って、研磨パッド表面の早期平滑化が好ましく実現されるものと考えられる。また、シリカ粒子S2のD90/D10は、例えば凡そ10.0以下とすることが適当であり、面品質等の観点から、好ましくは凡そ8.0以下、より好ましくは凡そ5.0以下、さらに好ましくは凡そ4.5以下(例えば凡そ4.0以下)である。
シリカ粒子(砥粒全体であり得る。)全体に占めるシリカ粒子S2の割合は、シリカ粒子が上記条件(A)、即ち上記NA/NBが0.10以上1.40以下、を満たす限りにおいて限定されない。そのパッド表面の早期平滑化効果を好ましく発揮する観点から、シリカ粒子全体に占めるシリカ粒子S2の割合は、凡そ50重量%以上であってもよく、例えば75重量%以上であってもよく、凡そ90重量%以上(例えば凡そ99重量%以上)であってもよく、典型的には凡そ100重量%であり得る。上記シリカ粒子S2の割合は、例えば凡そ90重量%以下であってもよく、他のシリカ粒子と併用する場合は、併用の効果(例えば加工性向上)をよりよく発揮する観点から、上記シリカ粒子S2の割合を凡そ60重量%以下とすることが適当であり、好ましくは凡そ50重量%以下(例えば45重量%以下)である。他のシリカ粒子と併用する態様において、上記シリカ粒子S2の割合の下限は特に限定されず、例えば凡そ5重量%以上とすることが適当であり、好ましくは凡そ10重量%以上、より好ましくは凡そ15重量%以上であり、例えば25重量%以上(典型的には凡そ30重量%以上)であってもよい。
特に好ましい一態様において、シリカ粒子S1とシリカ粒子S2とが併用される。シリカ粒子S1とシリカ粒子S2とを併せて用いることにより、シリカ粒子は上記条件(A)、即ち上記NA/NBが0.10以上1.40以下、を満たしやすくなる。また、かかる併用系では、シリカ粒子S2は、球形度の低いシリカ粒子S1による振動を低減し、パッド表面の早期平滑化に寄与すると考えられる。シリカ粒子S1による研磨パッド表面研削と、シリカ粒子S2による研磨パッド表面の平滑化向上とが作用し、より優れた効果が実現され得る。シリカ粒子S1とS2との含有比率は特に限定されず、例えば、シリカ粒子S2に対するシリカ粒子S1の含有比(S1/S2)は凡そ1/99以上とすることが適当であり、好ましくは10/90以上、より好ましくは30/70以上、さらに好ましくは40/60以上、特に好ましくは50/50以上であり、例えば60/40以上であってもよく、70/30以上であってもよい。上記含有比(S1/S2)は、例えば99/1以下であることが適当であり、好ましくは95/5以下、より好ましくは90/10以下、さらに好ましくは85/15以下(例えば75/25以下)である。
また、好ましい一態様では、シリカ粒子として、SEM画像解析による平均アスペクト比が1.10以上であり、かつSEM画像解析による体積平均粒子径が200nm以上であるシリカ粒子S3をさらに含む。相対的に球形度が低く、かつ粒子径が比較的大きいシリカ粒子S3を含ませることで、研磨パッド表面研削作用が向上し、研磨パッド表面の早期平滑化が好ましく実現され得る。加工性も向上する傾向がある。
シリカ粒子S3の平均アスペクト比は、加工性およびパッド表面研削の観点から、好ましくは1.20以上、より好ましくは1.25以上、さらに好ましくは1.30以上である。上記平均アスペクト比は凡そ2.5以下であることが適当であり、面品質等の観点から、好ましくは凡そ2.0以下、より好ましくは凡そ1.5以下(例えば1.4以下)である。
シリカ粒子S3の体積平均粒子径は、研磨パッド表面の研削、加工性等の観点から、好ましくは凡そ250nm以上、より好ましくは凡そ300nm以上、さらに好ましくは凡そ350nm以上である。また、上記体積平均粒子径は、シリカ粒子全体の体積平均粒子径の上限400nmを超えないように設定される。上記体積平均粒子径は、面品質等の観点から、凡そ1000nm以下であることが適当であり、好ましくは凡そ700nm以下、より好ましくは凡そ600nm以下(例えば凡そ500nm以下)である。
シリカ粒子S3のD90/D10は特に限定されず、例えば凡そ1.5以上であることが適当であり、加工性等の観点から、好ましくは凡そ1.8以上、より好ましくは凡そ2.0以上である。また、シリカ粒子S3のD90/D10は、例えば凡そ10.0以下とすることが適当であり、面品質等の観点から、好ましくは凡そ5.0以下、より好ましくは凡そ3.0以下(例えば凡そ2.8以下)である。
パッド表面の早期平滑化や、加工性と面品質との両立の観点から、シリカ粒子S3は、他のシリカ粒子(例えばシリカ粒子S1やS2)と併用することが好ましい。特に好ましい一態様において、シリカ粒子S3は、シリカ粒子S1およびシリカ粒子S2と併用される。シリカ粒子S3をシリカ粒子S1およびシリカ粒子S2と併せて用いることにより、シリカ粒子は上記条件(A)、即ち上記NA/NBが0.10以上1.40以下、を満たしやすくなる。そのような観点から、シリカ粒子(砥粒全体であり得る。)全体に占めるシリカ粒子S3の割合は、凡そ20重量%以下とすることが適当であり、好ましくは凡そ15重量%以下、より好ましくは凡そ10重量%以下、さらに好ましくは凡そ7重量%以下(例えば凡そ5重量%以下)である。また、シリカ粒子S3使用による効果を好ましく得る観点から、シリカ粒子(砥粒全体であり得る。)全体に占めるシリカ粒子S3の割合は、凡そ0.1重量%以上とすることが適当であり、好ましくは凡そ1重量%以上、より好ましくは凡そ2重量%以上(例えば凡そ3重量%以上)である。
上記シリカ粒子(シリカ粒子S1,S2,S3のいずれも包含する。特に断りがない限り以下同じ。)は、シリカを主成分とする各種のシリカ粒子であり得る。ここで、シリカを主成分とするシリカ粒子とは、該粒子の90重量%以上、通常は95重量%以上、典型的には98重量%以上がシリカである粒子をいう。使用し得るシリカ粒子の例としては、特に限定されないが、コロイダルシリカ、沈降シリカ、ケイ酸ソーダ法シリカ、アルコキシド法シリカ、フュームドシリカ、乾燥シリカ、爆発法シリカ等が挙げられる。さらに、上記シリカ粒子を原材料として得られたシリカ粒子を用いることもできる。そのようなシリカ粒子の例には、上記原材料のシリカ粒子(以下「原料シリカ」ともいう。)に、加温、乾燥、焼成等の熱処理、オートクレーブ処理等の加圧処理、解砕や粉砕等の機械的処理、表面改質等から選択される1または2以上の処理を適用して得られたシリカ粒子が含まれ得る。表面改質としては、例えば、官能基の導入、金属修飾等の化学的修飾が挙げられる。ここに開示される技術における砥粒は、このようなシリカ粒子の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて含むものであり得る。
砥粒の構成成分として使用し得るシリカ粒子の一好適例として、コロイダルシリカが挙げられる。なかでも、ケイ酸ソーダ法シリカやアルコキシド法シリカのように、水相での粒子成長を経て合成されたコロイダルシリカの使用が好ましい。この種のコロイダルシリカを含むシリカ砥粒によると、高い研磨レートと良好な面品質とが好適に達成され得る。ここに開示されるシリカ砥粒がコロイダルシリカを含む場合、該シリカ砥粒に含まれるコロイダルシリカは、1種であってもよく、製造条件および/または物性の異なる2種以上であってもよい。また、上記シリカ砥粒は、1種または2種以上のコロイダルシリカからなる構成であってもよく、コロイダルシリカと、他のシリカ粒子すなわちコロイダルシリカ以外のシリカ粒子とを組み合わせて含む構成であってもよい。一態様では、研磨用組成物に含まれる砥粒が、コロイダルシリカを単独で含む。コロイダルシリカを単独で用いることにより、高い研磨レートを保ちつつ、より良好な面品質(例えばうねりの低減された表面)が実現され得る。特に限定されるものではないが、シリカ粒子S1,S2はコロイダルシリカであることが好ましい。
コロイダルシリカの粒子形状は特に限定されず、例えば球形であってもよく、非球形であってもよい。非球形の具体例としては、ピーナッツ形状、繭形状、突起付き形状、ラグビーボール形状等が挙げられる。ピーナッツ形状は、例えば落花生の殻の形状であり得る。突起付き形状は、例えば金平糖形状であり得る。
シリカ粒子の他の例として、例えば、原料シリカに対して熱処理を施して得られたシリカ粒子(以下「熱処理シリカ」ともいう。)、具体的には加温されたシリカ粒子、乾燥されたシリカ粒子、焼成されたシリカ粒子等が挙げられる。ここで、加温されたシリカ粒子とは、典型的には、60℃以上110℃未満の環境下に一定時間以上、例えば15分以上、典型的には30分以上保持する処理を経て得られたシリカ粒子をいう。また、乾燥されたシリカ粒子とは、典型的には、110℃以上500℃未満、好ましくは300℃以上500℃未満の環境下に一定時間以上、例えば15分以上、典型的には30分以上保持する処理を経て得られたシリカ粒子をいう。そして、焼成されたシリカ粒子(以下「焼成シリカ」ともいう。)とは、典型的には500℃以上、好ましくは700℃以上、さらに好ましくは900℃以上の環境下に一定時間以上、例えば15分以上、典型的には30分以上保持する処理を経て得られたシリカ粒子をいう。上述したいずれかの原料シリカ、すなわち、沈降シリカ、ケイ酸ソーダ法シリカ、アルコキシド法シリカ、フュームドシリカ、乾燥シリカ、爆発法シリカ等を熱処理する過程を経て得られたシリカ粒子は、ここでいう熱処理シリカの概念に包含される典型例である。シリカ砥粒が熱処理シリカを含む場合、該シリカ砥粒に含まれる熱処理シリカは、1種であってもよく、製造条件および/または物性の異なる2種以上であってもよい。また、上記シリカ粒子は、1種または2種以上の熱処理シリカからなる構成であってもよく、熱処理シリカと、他のシリカ粒子すなわち熱処理されていないシリカ粒子とを組み合わせて含む構成であってもよい。特に限定されるものではないが、シリカ粒子S3は熱処理シリカ(典型的には焼成シリカ)であることが好ましい。
ここに開示される技術は、研磨用組成物に含まれる砥粒が、熱処理シリカを単独で含むか、熱処理シリカと他のシリカ粒子とを組み合わせて含む態様でも実施することができる。好ましい一態様では、研磨用組成物に含まれるシリカ粒子は、コロイダルシリカと熱処理シリカとを組み合わせて含む。コロイダルシリカに加えて、熱処理シリカ粒子をさらに含むことによって、高い面品質を実現し、さらに、高い加工性と研磨パッド表面の早期平滑化とを好ましく実現することができる。
シリカ粒子がコロイダルシリカと熱処理シリカとを含む態様において、その含有割合は特に限定されない。パッド表面の早期平滑化や、加工性と面品質との両立の観点から、コロイダルシリカ100重量部に対する熱処理シリカの割合は、凡そ20重量部以下とすることが適当であり、好ましくは凡そ15重量部以下、より好ましくは凡そ10重量部以下、さらに好ましくは凡そ7重量部以下(例えば凡そ5重量部以下)である。また、熱処理シリカ使用による効果を好ましく得る観点から、コロイダルシリカ100重量部に対する熱処理シリカの割合は、凡そ0.1重量部以上とすることが適当であり、好ましくは凡そ1重量部以上、より好ましくは凡そ2重量部以上(例えば凡そ3重量部以上)である。
ここに開示される研磨用組成物は、上記シリカ粒子以外の粒子を含有することができる。シリカ粒子以外の粒子としては、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子のいずれも利用可能である。無機粒子の具体例としては、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、ベンガラ粒子等の酸化物粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;ダイヤモンド粒子;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩;等が挙げられる。上記アルミナ粒子としては、α-アルミナ、α-アルミナ以外の中間アルミナおよびこれらの複合物が挙げられる。中間アルミナとは、α-アルミナ以外のアルミナ粒子の総称であり、具体例としてはγ-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナ、η-アルミナ、κ-アルミナおよびこれらの複合物が挙げられる。有機粒子の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子やポリ(メタ)アクリル酸粒子、ポリアクリロニトリル粒子等が挙げられる。ここで(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸を包括的に指す意味である。これらシリカ粒子以外の粒子は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
ここに開示される研磨用組成物において、該研磨用組成物に含まれる固形分に占めるシリカ粒子の含有量は、特に限定されない。上記シリカ粒子の含有量は、ここに開示される技術による効果を発揮しやすくする観点から、上記固形分全体の40重量%以上であることが好ましく、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上、さらにより好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上、例えば99重量%以上である。なお、本明細書において研磨用組成物に含まれる固形分とは、結合水が除去されない程度の温度、例えば60℃で研磨用組成物から水分を蒸発させた後の残留分すなわち不揮発分をいう。
ここに開示される研磨用組成物は、アルミナ粒子を実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。アルミナ粒子としては、例えばα-アルミナ粒子が挙げられる。かかる研磨用組成物によると、アルミナ粒子の使用に起因する品質低下が防止される。ここでいう品質低下としては、例えば、スクラッチや窪みの発生、アルミナの残留、砥粒の突き刺さり欠陥等が挙げられる。なお、本明細書において、所定の砥粒、例えばアルミナ粒子を実質的に含まないとは、研磨用組成物に含まれる固形分全量のうち当該砥粒の割合が1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、典型的には0.1重量%以下であることをいう。アルミナ粒子の割合が0重量%である研磨用組成物、すなわちアルミナ粒子を含まない研磨用組成物が特に好ましい。また、ここに開示される研磨用組成物は、α-アルミナ粒子を実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。
ここに開示される研磨用組成物は、シリカ粒子以外の粒子、すなわち非シリカ粒子を実質的に含まない態様でも好ましく実施され得る。ここで、非シリカ粒子を実質的に含まないとは、研磨用組成物に含まれる固形分全量のうち非シリカ粒子の割合が1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、典型的には0.1重量%以下であることをいう。このような態様において、ここに開示される技術の適用効果が好適に発揮され得る。
研磨用組成物における砥粒(典型的にはシリカ粒子)の含有量は特に制限されないが、典型的には0.1重量%以上であり、0.5重量%以上であることが好ましく、1重量%以上であることがより好ましく、3重量%以上であることがさらに好ましく、5重量%以上であることが特に好ましい。上記含有量は、複数種類の砥粒を含む場合には、それらの合計含有量である。砥粒の含有量の増大によって、より高い加工性が得られる傾向がある。研磨後の基板の表面平滑性や研磨の安定性の観点から、通常、上記含有量は、30重量%以下が適当であり、好ましくは25重量%以下、より好ましくは15重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
(水)
ここに開示される研磨用組成物は、典型的には、上述のような砥粒の他に、該砥粒を分散させる水を含有する。水としては、イオン交換水、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。イオン交換水は、典型的には脱イオン水であり得る。
ここに開示される研磨用組成物は、例えば、その固形分含量が0.5重量%~30.0重量%である形態で好ましく実施され得る。上記固形分含量が1.0重量%~20.0重量%である形態がより好ましい。研磨用組成物は、典型的にはスラリー状の組成物であり得る。
(酸)
ここに開示される研磨用組成物は、研磨促進剤として酸を含むことが好ましい。酸としては、無機酸および有機酸のいずれも使用可能である。有機酸としては、例えば、炭素原子数が1~18程度、典型的には1~10程度の有機カルボン酸、有機ホスホン酸、有機スルホン酸、アミノ酸等が挙げられる。酸は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
無機酸の具体例としては、リン酸(オルトリン酸)、硝酸、硫酸、塩酸、ホウ酸、スルファミン酸、ホスフィン酸、ホスホン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、ヘキサメタリン酸、炭酸、フッ化水素酸、亜硫酸、チオ硫酸、塩素酸、過塩素酸、亜塩素酸、ヨウ化水素酸、過ヨウ素酸、ヨウ素酸、臭化水素酸、過臭素酸、臭素酸、クロム酸、亜硝酸等が挙げられる。
有機酸の具体例としては、クエン酸、マレイン酸、リンゴ酸、グリコール酸、コハク酸、イタコン酸、マロン酸、イミノ二酢酸、グルコン酸、乳酸、マンデル酸、酒石酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、アジピン酸、シュウ酸、吉草酸、エナント酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、シクロヘキサンカルボン酸、フェニル酢酸、安息香酸、クロトン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノレン酸、メタクリル酸、グルタル酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ酢酸、ヒドロキシ安息香酸、サリチル酸、イソクエン酸、メチレンコハク酸、没食子酸、アスコルビン酸、ニトロ酢酸、オキサロ酢酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸等の有機カルボン酸;グリシン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、プロリン、シスチン、グルタミン、アスパラギン、リシン、アルギニン等のアミノ酸;ニコチン酸;ピクリン酸;ピコリン酸;メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、エチルグリコールアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、フィチン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタンヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α-メチルホスホノコハク酸、アミノポリ(メチレンホスホン酸)等の有機ホスホン酸;メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、アミノエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、スルホコハク酸、10-カンファースルホン酸、イセチオン酸、タウリン等の有機スルホン酸等が挙げられる。
研磨効率の観点から好ましい酸として、リン酸、ホスホン酸、マレイン酸、塩酸、硝酸、硫酸、スルファミン酸、フィチン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、メタンスルホン酸等が例示される。なかでもリン酸、ホスホン酸、マレイン酸、塩酸、硝酸、硫酸が好ましい。
酸は、該酸の塩の形態で用いられてもよい。塩の例としては、上述した無機酸や有機酸の、金属塩、アンモニウム塩、アルカノールアミン塩等が挙げられる。金属塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。アンモニウム塩としては、例えば、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩等の第四級アンモニウム塩が挙げられる。アルカノールアミン塩としては、例えば、モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩が挙げられる。
塩の具体例としては、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のアルカリ金属リン酸塩およびアルカリ金属リン酸水素塩;上記で例示した有機酸のアルカリ金属塩;その他、グルタミン酸二酢酸のアルカリ金属塩、ジエチレントリアミン五酢酸のアルカリ金属塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸のアルカリ金属塩、トリエチレンテトラミン六酢酸のアルカリ金属塩;等が挙げられる。これらのアルカリ金属塩におけるアルカリ金属は、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等であり得る。
ここに開示される研磨用組成物に含まれ得る塩としては、無機酸の塩、例えば、アルカリ金属塩やアンモニウム塩を好ましく採用し得る。例えば、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、リン酸カリウム等を好ましく使用し得る。
酸およびその塩は、1種を単独でまたは2種以上(例えば2種または3種)を組み合わせて用いることができる。好ましい一態様において、酸と、該酸とは異なる酸の塩とを組み合わせて用いることができる。上記酸は、好ましくは無機酸である。上記酸の塩は、好ましくは無機酸の塩である。
研磨用組成物が酸を含む場合、研磨用組成物における酸のモル濃度(複数種類の酸を含む場合には、それらの合計モル濃度)は特に限定されず、例えば凡そ0.001モル/L以上とすることが適当であり、好ましくは凡そ0.01モル/L以上、より好ましくは凡そ0.05モル/L以上、さらに好ましくは0.07モル/L以上、特に好ましくは0.09モル/L以上である。いくつかの態様において、酸のモル濃度は、例えば0.1モル/L以上であってもよく、典型的には0.12モル/L以上であってもよい。酸のモル濃度の増大によって、より高い研磨レートが実現され得る。研磨後の面品質や研磨の安定性等の観点から、通常、上記酸のモル濃度は、凡そ1.2モル/L以下が適当であり、好ましくは凡そ1モル/L以下、より好ましくは凡そ0.8モル/L以下、さらに好ましくは凡そ0.7モル/L以下、特に好ましくは凡そ0.6モル/L以下(例えば0.5モル/L以下)である。
(酸化剤)
ここに開示される研磨用組成物は、酸化剤を含有することができる。酸化剤の例としては、過酸化物、硝酸またはその塩、過ヨウ素酸またはその塩、ペルオキソ酸またはその塩、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩、酸素酸またはその塩、金属塩類、硫酸類等が挙げられるが、これらに限定されない。酸化剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。酸化剤の具体例としては、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、硝酸、硝酸鉄、硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウム、ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ一硫酸アンモニウム、ペルオキソ一硫酸金属塩、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸金属塩、ペルオキソリン酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、過塩素酸、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、過マンガン酸カリウム、クロム酸金属塩、重クロム酸金属塩、塩化鉄、硫酸鉄、クエン酸鉄、硫酸アンモニウム鉄等が挙げられる。好ましい酸化剤として、過酸化水素、硝酸鉄、過ヨウ素酸、ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ二硫酸および硝酸が例示される。少なくとも過酸化水素を含むことが好ましく、過酸化水素からなることがより好ましい。
また、研磨液が酸化剤を含む場合、酸化剤の含有量は、0.05モル/L以上であることが好ましく、より好ましくは0.1モル/L以上、さらに好ましくは0.15モル/L以上である。酸化剤の含有量が少なすぎると、研磨対象物を酸化する速度が遅くなり、研磨レートが低下するため、実用上好ましくない場合がある。また、研磨用組成物中に酸化剤を含む場合、その含有量は、1モル/L以下であることが好ましく、より好ましくは0.9モル/L以下、さらに好ましくは0.8モル/L以下である。酸化剤の含有量が多すぎると、研磨対象物の面精度が低下しやすくなり、実用上好ましくない場合がある。
(塩基性化合物)
研磨用組成物には、必要に応じて塩基性化合物を含有させることができる。ここで塩基性化合物とは、研磨用組成物に添加されることによって該組成物のpHを上昇させる機能を有する化合物を指す。塩基性化合物の例としては、アルカリ金属水酸化物、炭酸塩や炭酸水素塩、第四級アンモニウムまたはその塩、アンモニア、アミン、リン酸塩やリン酸水素塩、有機酸塩等が挙げられる。塩基性化合物は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
アルカリ金属水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
炭酸塩や炭酸水素塩の具体例としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
第四級アンモニウムまたはその塩の具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等の水酸化第四級アンモニウム;このような水酸化第四級アンモニウムのアルカリ金属塩;等が挙げられる。上記アルカリ金属塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。
アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、グアニジン、イミダゾールやトリアゾール等のアゾール類、等が挙げられる。
リン酸塩やリン酸水素塩の具体例としては、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のアルカリ金属塩が挙げられる。
有機酸塩の具体例としては、クエン酸カリウム、シュウ酸カリウム、酒石酸カリウム、酒石酸カリウムナトリウム、酒石酸アンモニウム等が挙げられる。
(その他の成分)
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、界面活性剤、水溶性高分子、分散剤、キレート剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物に使用され得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
界面活性剤としては、特に限定されず、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれも使用可能である。界面活性剤の使用により、研磨用組成物の分散安定性が向上し得る。界面活性剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記界面活性剤は、典型的には、分子量1×106未満の水溶性有機化合物であり得る。
アニオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル、アルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、アルキル硫酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンスルホコハク酸、アルキルスルホコハク酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、ポリアクリル酸、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、およびこれらの塩等が挙げられる。
アニオン性界面活性剤の他の具体例としては、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ベンゼンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のポリアルキルアリールスルホン酸系化合物;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物;リグニンスルホン酸、変成リグニンスルホン酸等のリグニンスルホン酸系化合物;アミノアリールスルホン酸-フェノール-ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸系化合物;その他、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸;およびこれらの塩等が挙げられる。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が好ましい。
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド等が挙げられる。
カチオン性界面活性剤の具体例としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、アルキルアミン塩等が挙げられる。
両性界面活性剤の具体例としては、アルキルベタイン型、脂肪酸アミドプロピルベタイン型、アルキルイミダゾール型、アミノ酸型、アルキルアミンオキシド型等が挙げられる。
界面活性剤を含む態様の研磨用組成物では、界面活性剤の含有量を、例えば0.0005重量%以上とすることが適当である。上記含有量は、研磨後の表面の平滑性等の観点から、好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.002重量%以上である。また、研磨レート等の観点から、上記含有量は、3.0重量%以下とすることが適当であり、好ましくは0.5重量%以下、例えば0.1重量%以下である。
ここに開示される研磨用組成物には、水溶性高分子を含有させてもよい。水溶性高分子を含有させることにより、研磨後の面品質が向上し得る。水溶性高分子の例としては、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド等のポリアルキルアリールスルホン酸系化合物;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物;リグニンスルホン酸、変成リグニンスルホン酸等のリグニンスルホン酸系化合物;アミノアリールスルホン酸-フェノール-ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸系化合物;その他、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリ酢酸ビニル、ポリマレイン酸、ポリイタコン酸、ポリビニルアルコール、ポリグリセリン、ポリビニルピロリドン、イソプレンスルホン酸とアクリル酸の共重合体、ポリビニルピロリドンポリアクリル酸共重合体、ポリビニルピロリドン酢酸ビニル共重合体、ジアリルアミン塩酸塩二酸化硫黄共重合体、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースの塩、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、プルラン、キトサン、キトサン塩類等が挙げられる。水溶性高分子は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
水溶性高分子を含む態様の研磨用組成物では、研磨用組成物中における該水溶性高分子の含有量を、例えば0.001重量%以上とすることが適当である。上記含有量は、複数の水溶性高分子を含む態様では、それらの合計含有量である。上記含有量は、研磨後の研磨対象物の表面平滑性等の観点から、好ましくは0.003重量%以上、より好ましくは0.005重量%以上、さらに好ましくは0.007重量%以上である。また、研磨レート等の観点から、上記含有量は、1.0重量%以下とすることが適当であり、好ましくは0.5重量%以下、例えば0.1重量%以下である。なお、ここに開示される技術は、研磨用組成物が水溶性高分子を実質的に含まない態様でも好ましく実施され得る。
分散剤の例としては、ポリカルボン酸ナトリウム塩、ポリカルボン酸アンモニウム塩等のポリカルボン酸系分散剤;ナフタレンスルホン酸ナトリウム塩、ナフタレンスルホン酸アンモニウム塩等のナフタレンスルホン酸系分散剤;アルキルスルホン酸系分散剤;ポリリン酸系分散剤;ポリアルキレンポリアミン系分散剤;第四級アンモニウム系分散剤;アルキルポリアミン系分散剤;アルキレンオキサイド系分散剤;多価アルコールエステル系分散剤;等が挙げられる。
キレート剤の例としては、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の例には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸およびトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが含まれる。有機ホスホン酸系キレート剤の例には、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸およびα-メチルホスホノコハク酸が含まれる。これらのうち有機ホスホン酸系キレート剤がより好ましく、なかでも好ましいものとしてエチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が挙げられる。特に好ましいキレート剤として、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)が挙げられる。
防腐剤および防カビ剤の例としては、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン等のイソチアゾリン系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類、フェノキシエタノール等が挙げられる。
(pH)
ここに開示される研磨用組成物のpHは特に制限されない。研磨用組成物のpHは、例えば、12.0以下、典型的には0.5~12.0とすることができ、10.0以下、典型的には0.5~10.0としてもよい。研磨レートや面品質等の観点から、研磨用組成物のpHは、7.0以下、例えば0.5~7.0とすることができ、5.0以下、典型的には1.0~5.0とすることがより好ましく、4.0以下、例えば1.0~4.0とすることがさらに好ましい。研磨用組成物のpHは、例えば3.0以下、典型的には1.0~3.0、好ましくは1.0~2.0、より好ましくは1.0~1.8とすることができる。研磨液において上記pHが実現されるように、必要に応じて有機酸、無機酸、塩基性化合物等のpH調整剤を含有させることができる。上記pHは、例えば、ニッケルリン基板等の磁気ディスク基板の研磨用の研磨用組成物に好ましく適用され得る。特に一次研磨用の研磨用組成物に好ましく適用され得る。
(研磨パッド表面粗さ低減率)
ここに開示される研磨用組成物の好ましい一態様では、標準研磨試験における研磨パッド表面粗さ低減率が5%以上(より好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上)である。これによって、パッドライフ初期において研磨パッド表面の平滑化を早期に達成することができる。上記粗さ低減率は、好ましくは凡そ20%以上、より好ましくは凡そ25%以上、さらに好ましくは凡そ30%以上、特に好ましくは凡そ35%以上(例えば凡そ40%以上)である。上記粗さ低減率の上限は理論上100%であり、例えば凡そ70%以下(典型的には凡そ50%以下)であってもよい。
研磨パッド表面粗さ低減率は、研磨機を用いて、評価対象である研磨用組成物を特定研磨パッドと特定磁気ディスク基板との間に供給して行う標準研磨試験から測定される。研磨機としては、公知ないし慣用の片面研磨機が用いられる。例えば、日本エンギス社製の片面研磨装置、型式「EJ-380IN」を用いることができる。また、研磨パッドとしては、市販のスウェードタイプのポリウレタン製研磨パッドで初期表面線粗さが10μm以上(典型的には10μm以上15μm以下、より具体的には凡そ12~13μm)のものを用いる。上記初期表面線粗さは後述の方法で測定される。研磨パッドは、上記初期表面線粗さとなるよう研磨等で調整したものであってもよい。上記スウェードタイプのポリウレタン製研磨パッドとしては、FILWEL社製のポリウレタンパッド、商品名「CR200」を用いることができる。このようなスウェードタイプのポリウレタン製研磨パッドは、ポアサイズ(開口径)が凡そ10~100μm(例えば30~70μm、典型的には凡そ50μm)である。磁気ディスク基板(研磨対象基板)としては、表面に無電解ニッケルリンめっき層を備えたハードディスク用アルミニウム基板(直径3.5インチ、外径約95mm、内径約25mmのドーナツ型)であって、厚さが1.27mmであり、研磨前における表面粗さRaが130Åのものを用いる。なお、上記表面粗さRaは、Schmitt Measurement System Inc.社製レーザースキャン式表面粗さ計「TMS-3000WRC」により測定したニッケルリンめっき層の算術平均粗さである。
標準研磨試験における具体的な研磨条件は下記のとおりとすることができる。
(研磨条件)
研磨装置:日本エンギス社製の片面研磨装置、型式「EJ-380IN」(定盤外径:直径370mm)
研磨パッド:FILWEL社製、スウェードタイプのポリウレタンパッド(例えば商品名「CR200」)
研磨対象基板枚数:1枚
研磨対象基板(ディスク)の回転中心の位置:定盤中心から110mmの位置にディスク回転中心を設置。
研磨圧力:120g/cm2
研磨用組成物の供給レート:9mL/分
定盤回転数:60回転/分
通算研磨時間:1時間
なお、通算研磨時間である1時間において、ニッケルリンめっき層の厚みを考慮して、所定の時間間隔(例えば5~20分間隔)で研磨対象基板を取り換えてもよく、その場合、それら研磨対象基板に対する研磨の合計時間を通算研磨時間1時間とする。
後述の実施例においても同様の方法で測定される。
研磨前および研磨開始から通算1時間後における研磨パッド表面粗さ(表面線粗さ)は下記の方法で測定される。後述の実施例においても同様の方法で測定される。
(線粗さ測定方法)
研磨パッドの被加工表面(研磨対象基板の被加工面(研磨対象面)と向かいあうパッド表面(典型的には、研磨対象基板の被加工面と接触しているパッド表面))を3ヵ所切り出し、レーザ顕微鏡を用いて200倍の測定倍率で俯瞰画像を観察する。測定は、切り出した3ヵ所につき1回ずつ行う。具体的には、解析ソフトを用いて、線分長さ500μmを測定点として選択し、仮想の二次元プロファイルから線粗さ[μm]は算出される。測定数(N)は90点(30点×3)とし、その平均値を研磨パッドの表面線粗さ[μm]として記録する。
ここに開示される研磨用組成物は、上記標準研磨試験後の研磨パッド表面の粗さRAを凡そ10μm以下に低減する特性を満足するものであり得る。上記標準研磨試験後の研磨パッド表面の粗さRAは、好ましくは凡そ9.5μm以下、より好ましくは凡そ8.5μm以下であり、例えば凡そ7.5μm以下であってもよい。このような特性を満足する研磨用組成物によると、研磨パッド表面の平滑化を早期に実現することができる。上記標準研磨試験後の研磨パッド表面の粗さRAの下限は、凡そ1μm以上であり、凡そ5μm以上(例えば凡そ6μm以上)であり得る。
(研磨液)
ここに開示される研磨用組成物は、典型的には該研磨用組成物を含む研磨液の形態で研磨対象物に供給されて、該研磨対象物の研磨に用いられる。上記研磨液は、例えば、研磨用組成物を希釈して調製されたものであり得る。ここで希釈とは、典型的には水による希釈である。あるいは、研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。すなわち、ここに開示される技術における研磨用組成物の概念には、研磨対象物に供給されて該研磨対象物の研磨に用いられる研磨液(ワーキングスラリー)と、希釈して研磨液として用いられる濃縮液との双方が包含される。このような濃縮液の形態の研磨用組成物は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は、例えば1.5倍~50倍程度とすることができる。濃縮液の貯蔵安定性等の観点から、通常は2倍~20倍、典型的には2倍~10倍程度の濃縮倍率が適当である。
(多剤型研磨用組成物)
なお、ここに開示される研磨用組成物は、一剤型であってもよいし、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、該研磨用組成物の構成成分、典型的には、水以外の成分のうち一部の成分を含むパートAと、残りの成分を含むパートBとが混合されて研磨対象物の研磨に用いられるように構成されていてもよい。好ましい一態様に係る多剤型研磨用組成物は、砥粒を含むパートAと、砥粒以外の成分を含むパートBとから構成されている。砥粒を含むパートAは、さらに分散剤を含んでもよい。パートBに含まれる砥粒以外の成分としては、例えば、酸、水溶性高分子その他の添加剤が挙げられる。通常、これらは、使用前は分けて保管されており、使用時に混合され得る。ここでいう使用時とは、典型的には研磨対象基板の研磨時であり得る。混合時には、例えば過酸化水素等の酸化剤がさらに混合され得る。例えば、上記酸化剤が水溶液の形態で供給される場合、当該水溶液は、多剤型研磨用組成物を構成するパートCとなり得る。
ここに開示される研磨用組成物は、例えば、ニッケルリン基板、ガラス基板、カーボン製基板等の研磨に好ましく適用され得る。また、めっき材質として、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層以外の金属層または金属化合物層を備えたディスク基板であってもよい。なかでも、アルミニウム合金製の基材ディスク上にニッケルリンめっき層を有するニッケルリンめっき基板用の研磨用組成物として好適である。かかる用途では、ここに開示される技術を適用することが特に有意義である。
ここに開示される研磨用組成物は、仕上げ研磨工程後において高精度な表面が要求される磁気ディスク基板の製造プロセスにおける予備研磨工程のように、高い研磨効率が要求される用途において特に有意義に使用され得る。仕上げ研磨工程の前工程として複数の予備研磨工程を有する場合は、いずれの予備研磨工程にも使用可能であり、これらの予備研磨工程において同一のまたは異なる研磨用組成物を用いることができる。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、磁気ディスク基板の一次研磨工程すなわち最初のポリシング工程に用いられる研磨用組成物として好適である。なかでも、ニッケルリン基板の製造プロセスにおいて、ニッケルリンめっき後の最初の研磨工程すなわち一次研磨工程において好ましく使用され得る。
ここに開示される研磨用組成物は、例えば、Schmitt Measurement System Inc.社製レーザースキャン式表面粗さ計「TMS-3000WRC」により測定される表面粗さが20Å~300Å程度の磁気ディスク基板を研磨して、該磁気ディスク基板を10Å以下の表面粗さに調整する用途に好適である。かかる用途では、ここに開示される技術を適用することが特に有意義である。ここでいう表面粗さとは、算術平均粗さ(Ra)のことをいう。
<パッド表面調整用組成物>
ここに開示される技術の一態様においては、パッド表面調整用組成物が提供される。パッド表面調整用組成物は、研磨パッド表面(研磨対象物の研磨対象面と向かいあう面)を調整(ブレークイン)するために用いられるものである。好ましい一態様において、上記パッド表面調整用組成物は、研磨パッド表面粗さ低減率が5%以上(より好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上)であることを特徴とする。ここに開示されるパッド表面調整用組成物を用いることにより、研磨パッド表面の平滑化を早期に実現することができるので、パッドライフの比較的早い段階から、目標とする基板面品質を好ましく実現し得る研磨パッドの表面状態を作出することができる。したがって、その後に研磨液を供給して行う研磨工程において、研磨液として、ここに開示される研磨用組成物とは異なる研磨用組成物(典型的には、従来公知の研磨用組成物)から構成されたものを用いて、目標とする面品質を有する基板を生産性よく製造することができ、かつその歩留りを向上させることができる。上記パッド表面調整用組成物は、パッドブレークイン用組成物ともいう。
ここに開示されるパッド表面調整用組成物は、特に限定されるものではないが、無機粒子、有機粒子および有機無機複合粒子のいずれかの粒子を含み得る。無機粒子の具体例としては、アルミナ粒子、シリカ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、ベンガラ粒子等の酸化物粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;ダイヤモンド粒子;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩;等が挙げられる。上記アルミナ粒子としては、α-アルミナ、α-アルミナ以外の中間アルミナおよびこれらの複合物が挙げられる。中間アルミナとは、α-アルミナ以外のアルミナ粒子の総称であり、具体例としてはγ-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナ、η-アルミナ、κ-アルミナおよびこれらの複合物が挙げられる。有機粒子の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子やポリ(メタ)アクリル酸粒子、ポリアクリロニトリル粒子等が挙げられる。ここで(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸を包括的に指す意味である。これらの粒子は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
好ましい一態様に係るパッド表面調整用組成物は、シリカ粒子と水とを含み、かつ該シリカ粒子としてSEM画像解析によるアスペクト比が1.10以上の粒子SHARと、SEM画像解析による平均アスペクト比が1.10未満の粒子SLARとを含む。上記パッド表面調整用組成物における粒子SHARおよび粒子SLARの含有量は特に限定されないが、例えばアスペクト比が1.10以上の粒子SHARの個数NAをアスペクト比が1.10未満の粒子SLARの個数NBで除した値(個数比)が、0.10以上1.40以下であることが好ましい。上記個数比は、パッド表面の平滑化の観点から、1.35以下であることが好ましく、より好ましくは1.30以下であり、さらに好ましくは1.28以下である。いくつかの態様によると、上記個数比は、1.20以下であってもよく、1.15以下でもあってもよく、1.10以下であってもよい。また、上記個数比は、パッド表面研削等の観点から、0.20以上であることが好ましく、より好ましくは0.25以上であり、さらに好ましくは0.27以上である。いくつかの態様によると、上記個数比は、0.50以上であってもよく、0.70以上でもあってもよく、0.90以上であってもよい。
パッド表面調整用組成物に関するその他の事項は、上記研磨用組成物と同じであり、上記研磨用組成物の項で説明した事項を制限なく適用することができるので、重複する説明は繰り返さない。
<研磨方法>
ここに開示される研磨用組成物は、例えば以下の操作を含む態様で、磁気ディスク基板を研磨対象物とする研磨に好適に使用することができる。以下、ここに開示される研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する方法の好適な一態様につき説明する。以下では、研磨対象物を研磨対象基板ともいう。
すなわち、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を含む研磨液(ワーキングスラリー)を用意する。上記研磨液を用意することには、研磨用組成物に濃度調整やpH調整等の操作を加えて研磨液を調製することが含まれ得る。濃度調整としては、例えば希釈が挙げられる。あるいは、研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。
次いで、その研磨液を研磨対象物に供給し、常法により研磨する。例えば、一般的な研磨装置に研磨対象物をセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて上記研磨対象物の表面すなわち研磨対象面に研磨液を供給する。典型的には、上記研磨液を連続的に供給しつつ、研磨対象物の表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動させる。上記移動は、例えば回転移動であり得る。かかる研磨工程を経て研磨対象物の研磨が完了する。
上記研磨方法の一態様について詳述する。ここに開示される技術の一態様では、上記研磨装置に研磨パッドをセットする工程を含む。具体的には、研磨装置の研磨定盤に研磨パッドをセットする。研磨パッドのセットは、上記研磨対象物をセットする前後の適当なタイミングで行うとよい。使用し得る研磨パッドは特に限定されない。例えば、硬質発泡ポリウレタンタイプ、不織布タイプ、スウェードタイプ等の研磨パッドを用いることができる。スウェードタイプは、バフパッドであってもよく、典型的には、表面をバフ加工していないノンバフ状態にある研磨パッド(いわゆるノンバフパッド)であってもよい。そのようなスウェードタイプの研磨パッド(典型的にはポリウレタン製研磨パッド)は、加工性に優れ、また基板表面の高品質化を実現しやすい。ここに開示される研磨用組成物およびパッド表面調整用組成物による研磨パッド表面粗さ低減は、スウェードタイプの研磨パッドで好ましく発揮されるが、その効果は、研磨パッド表面研削および砥粒の振動低減という機械的作用に基づくため、その作用が発揮され得るものである限り、研磨パッドの種類は限定されない。なお、ここに開示される技術で用いられる研磨パッドは砥粒を含まない。
上記研磨は、典型的には、研磨装置にセットした研磨パッドを用いて、一または一群の研磨対象物に対して実施される所定時間の研磨を一の研磨工程とする複数の研磨工程から構成される研磨プロセスに包含される工程であり得る。ここで一群の研磨対象物とは、同時に研磨可能な状態で研磨装置にセットされる一群の研磨対象物をいい、研磨対象物の数は、研磨装置の構成、サイズ等によって決定される。一の研磨工程において、同時に2つ以上の研磨対象物を研磨する態様をバッチ研磨ともいう。一の研磨工程における研磨時間は、研磨対象物の種類や、目標とする面品質等によって決定される。したがって、上述の「所定時間」は特定の範囲に限定されない。特に限定解釈されるものではないが、Ni-P基板の一次研磨では、一の研磨工程において凡そ1~30分程度(例えば凡そ3~20分)の研磨が実施される。
好ましい一態様に係る研磨プロセスでは、1回目の研磨工程(例えば1バッチ目)から、少なくとも研磨後の研磨物の面品質が合格レベルに到達する回数の研磨工程(バッチ回数であり得る。)まで、ここに開示されるパッド表面調整用組成物を研磨パッドと研磨対象物の間に供給する。他の好ましい一態様では、パッド表面調整用組成物に代えて、ここに開示される研磨用組成物を供給する。これによって、研磨パッド表面は早期に平滑化されて、パッドライフの比較的早い段階から、目標とする基板面品質を実現し得る研磨パッドの表面状態を好適に作出することができる。また、その後の研磨によって、目標とする面品質を有する基板を生産性よく製造することができ、かつその歩留りを向上させることができる。
上記研磨プロセスにおいて、ここに開示される研磨用組成物およびパッド表面調整用組成物から選択される組成物の研磨パッドと研磨対象物の間への供給は、パッドライフ基準で、少なくとも凡そ1時間とすることが適当であり、例えば凡そ2時間以上であってもよく、凡そ5時間以上であってもよく、凡そ10時間以上(例えば凡そ20時間以上)以上であってもよい。また、上記パッド表面調整用組成物の研磨パッドと研磨対象物の間への供給は、そのパッド表面早期平滑化効果に鑑みて、20時間未満とすることができ、15時間未満(例えば5時間未満)とすることができる。ここに開示される研磨用組成物を用いる態様では、上記研磨プロセスにおいて、パッドライフの全期間を通して上記研磨用組成物を用いることができる。
なお、本明細書において「パッドライフ」とは、一の研磨パッドにつき、その研磨パッドを用いて実施する研磨開始時からの累積研磨時間(通算研磨時間)をいうものとする。
パッド表面調整用組成物を用いる態様では、研磨後の研磨物の面品質が合格レベルに到達した回数の研磨工程(例えばバッチ研磨)の後、ここに開示される研磨用組成物や、あるいは、ここに開示される研磨用組成物とは異なる研磨用組成物(典型的には、従来公知の研磨用組成物)を用いて、研磨プロセス(その後の研磨工程(例えばバッチ研磨)からなる研磨プロセス)は実施され得る。その場合、ここに開示される研磨用組成物とパッド表面調整用組成物の組成は同一であってもよく、異なっていてもよい。
なお、複数の研磨工程からなる研磨プロセスを実施する態様において、各研磨工程中やその前後にはリンス工程や洗浄工程を含んでもよく、含まなくてもよい。後述するように、一次研磨工程と仕上げ研磨工程とを同一の研磨装置で実施する場合には、一の研磨工程は一次研磨工程と仕上げ研磨工程とを含み得る。
ここに開示される研磨方法において、パッド表面調整用組成物や研磨用組成物を同一定盤上に供給して研磨する上述の研磨工程に使用する研磨装置は、研磨対象物の両面を同時に研磨する両面研磨装置であってもよく、研磨対象物の片面のみを研磨する片面研磨装置であってもよい。上記研磨工程が予備研磨工程である場合、いくつかの態様において、該研磨工程を行う研磨装置として両面研磨装置を好ましく採用し得る。一次研磨工程の後に仕上げ研磨工程を行う場合、該仕上げ研磨工程を行う研磨装置としては、片面研磨装置を好ましく採用し得る。これらの研磨装置において、各研磨装置の備える定盤の数は、1でもよく2以上でもよい。各研磨装置は、一度に一枚の研磨対象物を研磨するように構成された枚葉式の研磨装置でもよく、同一の定盤上で複数の研磨対象物を同時に研磨し得るように構成されたバッチ式の研磨装置でもよい。
上述のような研磨工程は、磁気ディスク基板、例えばニッケルリン基板の製造プロセスの一部であり得る。したがって、この明細書によると、上記研磨工程を含む磁気ディスク基板の製造方法および研磨方法が提供される。
ここに開示される研磨用組成物は、研磨対象物の予備研磨工程、例えば一次研磨工程に好ましく使用され得る。この明細書によると、上述したいずれかの研磨用組成物を用いて予備研磨を行う工程を含む、磁気ディスク基板の製造方法および研磨方法が提供される。上記方法は、ここに開示される研磨用組成物を研磨対象物に供給して該研磨対象物を研磨する工程(1)を含む。上記方法は、上記予備研磨工程の後に仕上げ研磨工程を含み得る。仕上げ研磨工程に使用する研磨用組成物は特に限定されない。したがって、この明細書により開示される事項には、ここに開示される砥粒を含む研磨用組成物で研磨対象物を研磨する工程(1)と、工程(1)で用いられる研磨用組成物とは異なる研磨用組成物で研磨対象物を研磨する工程(2)とをこの順で含む、磁気ディスク基板の製造方法および研磨方法が含まれる。かかる製造方法によると、磁気ディスク基板を効率よく製造することができる。
なお、上述した磁気ディスク基板の研磨方法は、パッド表面調整用組成物を用いる部分については、研磨パッドの表面調整方法であり得る。また、ここに開示される技術は、バッチ研磨のように複数の研磨対象物を研磨し、磁気ディスク基板を製造する方法であり得るので、磁気ディスク基板の生産方法(工業的生産方法)でもあり得る。
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
<例1~11>
表1に示すシリカ粒子H~Kを表2に示す重量割合で、リン酸と31%過酸化水素水と脱イオン水とともに混合して各例に係る研磨用組成物を調製した。研磨用組成物中のシリカ粒子の含有量は7%、リン酸の含有量は0.14モル/L、過酸化水素の含有量は0.36モル/Lとした。
各例に係る研磨用組成物における砥粒の含有割合、アスペクト比が1.10以上である粒子SHARの個数NAをアスペクト比が1.10未満である粒子SLARの個数NBで除した値NA/NB、アスペクト比(AR)上位3%のシリカ粒子の平均アスペクト、SEM画像解析による体積平均粒子径[nm]および研磨パッド表面粗さ低減率[%]を表2に示す。
<うねり、疑似段差解消性および加工性の評価>
[ディスクの研磨]
各例に係る研磨用組成物をそのまま研磨液に使用して、下記の条件で、研磨対象物の研磨を行った。研磨対象物としては、表面に無電解ニッケルリンめっき層を備えたハードディスク用アルミニウム基板(Ni-P基板)を使用した。上記基板は、直径3.5インチ、外径約95mm、内径約25mmのドーナツ型、厚さは1.27mmであり、取り代を2.2μmに設定して1次研磨を実施し、表面粗さRaを3.0Åとしたものを使用した。また、上記基板の表面には、疑似段差解消性評価のため、KLA Tencor社製の検査装置「CandelaOSA7100」で疑似段差を形成した。なお、上記表面粗さRaは、Schmitt Measurement System Inc.社製レーザースキャン式表面粗さ計「TMS-3000WRC」により測定したニッケルリンめっき層の算術平均粗さである(以下同じ)。
(研磨条件)
研磨装置:日本エンギス社製の片面研磨装置、型式「EJ-380IN」(定盤外径:直径370mm)
研磨パッド:FILWEL社製、スウェードタイプのポリウレタンパッド、商品名「CR200」 各例に係る研磨用組成物を用いて本研磨条件と同条件で1時間研磨したもの、すなわちパッドライフ1時間となったものを使用した。
研磨対象基板枚数:1枚
研磨対象基板(ディスク)の回転中心の位置:定盤中心から110mmの位置にディスク回転中心を設置。
研磨圧力:120g/cm2
定盤回転数:60回転/分
研磨用組成物の供給レート:9mL/分
研磨量:0.45μm(厚さ方向)
[うねり評価]
各例に係る研磨用組成物を用いて上記研磨条件で研磨を行った基板(研磨後の研磨対象基板)につき、非接触表面形状測定機(商品名「NewView5032」、Zygo社製)を用いて、対物レンズ倍率2.5倍、中間レンズ倍率0.5倍で、バンドパスフィルター80~500μm波長帯のうねりを測定した。研磨後の基板の中心から径方向外側に37mmの位置に対し、90°ずつ4ヵ所を測定し、その平均値を基板うねり[Å]として求めた。
得られた値を、例8の値を100としたときの相対値に換算して表2の「うねり」の欄に示す。値が低いほど面品質(平坦性)に優れる。また、図1に、各例に係る、アスペクト比が1.10以上である粒子SHARの個数NAをアスペクト比が1.10未満である粒子SLARの個数NBで除した値NA/NBと、上記うねり相対値との関係を示すグラフを示す。
[疑似段差解消性評価]
各例に係る研磨用組成物を用いて上記研磨条件で研磨を行った基板(研磨後の研磨対象基板)につき、非接触表面形状測定機(商品名「NewView5032」、Zygo社製)を用いて、対物レンズ倍率10.0倍、中間レンズ倍率1.0倍で、バンドパスフィルター10~250μm波長帯でPV(Peak-to-Valley)値を測定した。測定数(N)は24とし、その平均値を求めた。
得られた値(平均値)を、例8の値を100としたときの相対値に換算して表2の「疑似段差解消性」の欄に示す。値が低いほど段差解消性に優れる。
[加工性評価]
各例に係る研磨用組成物を用いて上記研磨条件で研磨対象基板を研磨し、パッドライフ1時間における研磨レートを算出した。研磨レートは、次の計算式に基づいて求めた。
研磨レート[μm/min]=研磨による基板の重量減少量[g]/(基板の面積[cm2]×ニッケルリンめっきの密度[g/cm3]×研磨時間[min])×104
得られた値を、例8の研磨レートを100としたときの相対値に換算して表2の「加工性能」の欄に示す。
表1に示されるように、アスペクト比が1.10以上の粒子SHARの個数NAをアスペクト比が1.10未満の粒子SLARの個数NBで除した値NA/NBが、0.10以上1.40以下である研磨用組成物を用いた例1~7では、研磨パッド表面粗さ低減率が15%以上であり、さらにパッドライフ1時間の研磨パッドを用いた研磨において、うねりおよび段差解消性がいずれも改善した。また、これらの例では、体積平均粒子径が50~400nmであるシリカ粒子を用いており、その結果、基準組成である例8の研磨レートを100とした相対値で70以上の加工性を示した。特に、複数のシリカ粒子(典型的にはシリカ粒子S1およびS2、さらにはシリカ粒子S3)をブレンドした例1~6では、より高い加工性を発揮した。なかでも、シリカ粒子ブレンド系で、研磨パッド表面粗さ低減率が高い例3および例6では、高い加工性を保持しつつ、より優れた面品質(うねりおよび段差解消性)を示した。一方、アスペクト比が1.10以上の粒子SHARの個数NAを、アスペクト比が1.10未満の粒子SLARの個数NBで除した値NA/NBが1.40より大きい例8~10では、例1~7と比較してうねりが大きく、疑似段差解消性にも劣っていた。また、上記値NA/NBが0.10未満である研磨用組成物を用いた例11では、加工性が低下した。
また、図1に示すように、上記値NA/NBとうねりとの間には明らかな相関が見られた。具体的には、上記値NA/NBが0.10以上1.40以下であると、高い面品質が得られる傾向にある。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。