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JP7246068B2 - 光学素子、及び光学素子の作製方法 - Google Patents

光学素子、及び光学素子の作製方法 Download PDF

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Description

本発明は、光学素子、及び光学素子の作製方法に関する。
従来から、電圧の印加によって変形する高分子材料を用いて、レンズを光軸方向に移動させる焦点調節機構(たとえば、特許文献1参照)、レンズ駆動機構(たとえば、特許文献2参照)等が知られている。高分子材料はレンズを保持するレンズホルダに用いられており、電圧印加による高分子材料の伸縮を利用して、レンズの位置を光軸に沿って動かしている。
また、電界の印加方向に伸縮する有機材料を一対の電極で挟み、有機材料層の電界印加方向と垂直な面内で単位電場当たりの電歪性歪量に分布を持たせることで、有機材料層と電極を変形させて凸レンズ、凹レンズ等を形成する方法が提案されている(たとえば、特許文献3参照)。
人工筋肉アクチュエータに適用される高分子柔軟アクチュエータとして、ポリ塩化ビニル1~50重量部に対してイオン液体を1~30重量部含むゲル材料が知られている(たとえば、特許文献4参照)。
特許第4530163号 特許第5180117号 特許第5029140号 特許第5392660号
レンズを光軸に沿って移動させる構成は、レンズホルダに配置された高分子材料を伸縮させることで、単一のレンズの位置を変化させている。この構成は、まずホルダを変形させ、ホルダの変形によってレンズ位置を変えるので、レンズ駆動の応答性と精度を十分に高めることが難しい。
有機材料層の面内方向に電歪性歪量の分布を持たせる構成は、インクジェットやマイクロコンタクトプリンティングなどで、特性の異なる材料を微小量ずつ所望の位置に塗布するため、レンズ作製の工程が複雑であり時間がかかる。
また、上述した従来構成はいずれも単一のレンズの調整を目的としているが、イメージングや映像関連製品では、多数の微細なレンズを用いたマイクロレンズアレイに対する需要が高まっている。マイクロレンズアレイに焦点調整機能を付与することができれば、付加価値を高めることができる。
上記の課題に鑑みて、本発明は、簡単な構成で光学特性を調整することのできる光学素子とその作製方法を提供することを目的とする。
本発明では、電圧印加による高分子材料の伸縮または変形を利用して、光の集光・拡散を制御することのできる光学素子を提供する。
第1の態様では、光学素子は、
第1の電極層と、
第2の電極層と、
前記第1の電極層と前記第2の電極層の間に配置される高分子材料層と、
前記高分子材料層と前記第2の電極層の間に配置され、前記高分子材料層と前記第2の電極層の間に所定の空間を形成する絶縁性のスペーサ層と、
を有し、前記高分子材料層は、電圧印加の下で変形して、前記所定の空間に1以上の光散乱体を形成する。
第2の態様では、光学素子の作製方法は、
第1の電極層の上に高分子材料層を形成し、
前記高分子材料層の上に、絶縁性のスペーサ層と第2の電極層とを配置して、前記高分子材料層と前記第2の電極層の間に所定の空間を形成し、
前記第1の電極層と前記第2の電極層の間に電圧を印加して前記高分子材料層を変形させて、前記空間に1以上の光散乱体を形成する、
工程を含む。
上記の構成と手法により、簡単な構成で光学特性を調整することのできる光学素子とその作製方法が実現される。
実施形態の光学素子の基本構成を示す概略模式図である。 実施形態の光学素子の動作原理を説明する図である。 実施形態の光学素子に複数の光散乱体を形成して得られるマイクロレンズアレイの概略図である。 図3のX-X'断面図である。 複数の光散乱体を有する光学素子の作製工程図である。 実施形態の光学素子の変形過程を示す3D画像である。 図6の光学素子(マイクロレンズアレイ)の断面プロファイルを電圧の関数として示す図である。 光学素子の変形例と動作を示す図である。 実施形態の光学素子を用いた撮像装置の模式図である。 実施形態の光学素子を用いた照明装置の模式図である。 イオン液体を添加した高分子材料の特性を測定するためのサンプルの模式図である。 図11のサンプルで高分子材料に種々のイオン液体を添加したときの高分子材料層の応答特性を示す図である。 イオン液体の物性とポリマーゲルの変位状態を示す図である。 イオン液体の添加量とポリマーゲルの変位の関係を示す図である。 電圧印加により形成された光散乱体の評価結果をイオン液体の添加量ごとに示す図である。 イオン液体の電極劣化への影響を示す図である。
図1は、実施形態の光学素子10の一つの構成例として、光学素子10Aの基本構成を示す。光学素子10Aは、第1の電極層12と、第2の電極層14Aと、第1の電極層12と第2の電極層14Aの間に配置される高分子材料層11と、高分子材料層11と第2の電極層14Aの間に配置されるスペーサ層13Aを有する。スペーサ層13Aは、所定のパターンの開口16を有し、開口16の位置で、高分子材料層11と第2の電極層14Aの間に、空間17が形成されている。
高分子材料層11は、電圧印加の下で弾性変形して、空間17の中に光散乱体15を形成する。光散乱体15は、後述するように凸形状を有している。
スペーサ層13Aは、電気的に絶縁性であれば、材料の種類を問わない。無機絶縁膜、有機絶縁膜のいずれであってもよい。図1の例では、スペーサ層13Aは、所定の開口16のパターンを有する絶縁性の樹脂膜である。開口16の平面形状と寸法は、空間17の体積と、空間17の中に発生させる光散乱体15の形状によって適宜設計され、一例として、円、楕円、多角形等である。
スペーサ層13Aの開口16の径は、たとえば1mm未満、好ましくは300μm以下に設定される。開口16の径が1mm以上になると、電圧の印加によって、開口16内に高分子材料層11を突出させることが困難になる。開口16の径を300μm以下にする場合は、電圧印加に対する高分子材料層11の変形効率が向上し、凸形状を形成することができる。
高分子材料層11と光散乱体15は、ゲル状のポリマー材料(以下、適宜「ポリマーゲル」と呼ぶ)で形成されている。光散乱体15は、電圧の印加によるポリマーゲルの伸縮または変形を利用して形成されている。
ポリマーゲルは、ポリ塩化ビニル(PVC:polyvinyl chloride)、ポリメタクリル酸メチル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル、シリコーンゴム等であり、使用波長に対して透明な高分子(または樹脂)材料を適宜選択することができる。
実施形態では、電場の作用による変形例が大きく、取扱いが容易なPVCを用いる。PVCに適切な可塑剤を添加してもよいし、PVCを溶媒に溶解させてもよい。可塑剤を用いる場合は、アジピン酸ジブチル(DBA:dibutyl adipate)、アジピン酸ジエチル(DEA:diethyl adipate)、セバシン酸ジエチル(DES:diethyl sebacate)、フタル酸ジオクチル(DOP:dioctyl phthalate)、フタル酸ジエチル(DEP:diethyl phthalate)等を用いることができる。溶媒として、テトラヒドロフラン(THF)等を用いることができる。
可塑剤の混合比率は50wt%以上、好ましくは75wt%以上である。混合比率が50wt%未満だと、電圧を印加しても高分子材料層11を変形させることが困難になる。混合比率が50wt%以上75wt%未満のときは、電圧印加により高分子材料層11を変形させることができるが、印加する電圧レベルが高くなるおそれがある。混合比率を75wt%以上とすることで、適切な電圧レベルで高分子材料層11を変形させることができる。
第1の電極層12は、導電性を有する材料であれば、特に制限はない。第1の電極層12を金属で形成する場合は、白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、チタン、タンタル、インジウム、パラジウム、リチウム、ニオブ、これらの合金などを用いることができる。第1の電極層12をITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)等の透明な酸化物半導体材料で形成してもよいし、導電性ポリマー、導電性カーボン等を用いてもよい。
第2の電極層14Aは、透明電極層であるのが望ましい。第2の電極層14Aを透明電極層とすることで、光散乱体15で集光または拡散される光を透過させることができる。
第1の電極層12と第2の電極層14Aの極性は、高分子材料層11の形状を変化させる方向に応じて設定することができる。図1の例では、高分子材料層11は、マイナスに帯電しやすい材料を用い、第1の電極層12を陰極、第2の電極層14Aを陽極としている。
高分子材料層11の陽極側の表面の一部は、スペーサ層13Aと面接触している。高分子材料層11は、電圧印加により、スペーサ層13Aと面接触していない領域(すなわち開口16内に露出している領域)で変形し、第2の電極層14Aに向かって引き上げられる。
光学素子10Aは、たとえば以下の手順で作製することができる。所定の寸法に形成された第1の電極層12の上に、可塑剤が添加されたPVCの溶液をキャスト法等で塗布して、高分子材料層11を形成する。高分子材料層11の上に、あらかじめ開口16のパターンを形成したスペーサ層13Aと、第2の電極層14Aを配置する。スペーサ層13Aの配置と、第2の電極層14Aの配置は、同時でも、順次でもよい。
第1の電極層12と第2の電極層14Aの間に所定の電圧を印加して、開口16によって形成される空間17内に光散乱体15を形成する。
高分子材料層11の厚さは、開口16の径と深さ、形成したい光散乱体15の高さ、第1の電極層12及び第2の電極層14Aの厚さ等に応じて適宜決定される。一例として、高分子材料層11の厚さは1mm以下、好ましくは0.1mm~0.5mmである。高分子材料層11の厚さが0.1mm以下のときは、多少、ハンドリングしにくくなるが、あくまでも開口16のサイズとの兼ね合いで設計される。したがって、微細な多数のレンズを有するマイクロレンズアレイシートを作製する場合は、高分子材料層11の厚さが0.1mm以下になる場合もあり得る。スペーサ層13Aの厚さは1mm以下、好ましくは0.1mm以下である。
図2は、実施形態の光学素子10Aの動作原理を説明する図である。図2の(A)は電圧が印加されていない状態を示す。図2の(B)は電圧が印加されたときの状態を示す。
図2(A)の状態では、高分子材料層11は表面が平坦な状態で第1の電極層12と第2の電極層14Aの間に位置する。高分子材料層11と第2の電極層14Aの間にスペーサ層13Aが設けられているので、高分子材料層11の一部は、スペーサ層13Aと面接触している。スペーサ層13Aに形成された開口16の位置では、高分子材料層11と第2の電極層14Aの間に空間17が形成されている。
図2(B)のように、第1の電極層12と第2の電極層14Aの間に電圧が印加されると、陰極である第1の電極層12から、ゲル状の高分子材料層11に電子が注入される。電子を含むポリマーゲルは、陽極である第2の電極層14Aの表面に向かって引き上げられる。一方、スペーサ層13Aは絶縁性であり、ポリマーゲルは、開口16の側面よりも中心部で優先的に、第2の電極層14Aに向かって引っ張られ、光散乱体15が形成される。
高分子材料層11は、ポリマーゲル自体が持つ弾性と電圧応答性によって変形し、開口16の中心軸のまわりに、凸形状の光散乱体15が形成される。高分子材料層11の組成と開口16の形状が均一であれば、同じレベルの電圧を印加することで、開口16内に、ばらつきの少ない凸形状の光散乱体15を形成することができる。
トータルのポリマーゲルの体積は同じであるから、開口16内でポリマーゲルが引き上げられた分だけ、高分子材料層11の厚さが若干、低減する。高分子材料層11の厚さが低減すると、高分子材料層11と面接触しているスペーサ層13Aと、スペーサ層13Aに支持されている第2の電極層14Aの位置も若干、下方に下がる。
高分子材料層11の変形は可逆的であり、電圧の印加を停止することで、図2(B)の初期状態に戻すことができる。また、後述するように、印加する電圧のレベルに応じて、光散乱体15の高さを調整することができる。
スペーサ層13Aに形成される開口16の数は1つに限定されない。スペーサ層13Aに複数の開口16を形成することで、電圧印加により高分子材料層11を変形させて、複数の光散乱体15を形成することができる。この場合も、高分子材料層11の組成と複数の開口16の形状が均一であれば、電圧印加により、均一な形状の複数の光散乱体15を同時に形成することができる。
図3は、光学素子10Aに複数の光散乱体15を形成して得られるマイクロレンズアレイ100の概略図である。マイクロレンズアレイ100は、第1の電極層12Aと、第2の電極層14Aと、第1の電極層12Aと第2の電極層14Aの間に配置される高分子材料層11と、高分子材料層11と第2の電極層14Aの間に挿入されるスペーサ層13Aを有する。図3の例では、第1の電極層12Aと、第2の電極層14Aは、ともに透明電極である。
スペーサ層13Aには、複数の開口16が形成されている。第1の電極層12Aと第2の電極層14Aの間に電圧が印加されると、高分子材料層11が変形し、各開口16内に光散乱体15が形成される。
第1の電極層12Aは陰極層、第2の電極層14Aは陽極層であり、高分子材料層11の陽極側の表面に、光散乱体15の配列が形成されている。一例として、高分子材料層11の厚さは500μm、光散乱体15の底面の径は150μm、高さは50μm、中心心間のピッチは200μmである。
高分子材料層11は、図1を参照して説明したように、PC、ポリメタクリル酸メチル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル、シリコーンゴム等のポリマーゲルである。ポリマーゲルに、DBA、DEA、DES、DOP、DEP等の可塑剤を添加してもよい。可塑剤の混合比は、50wt%以上、より好ましくは75wt%以上である。
マイクロレンズアレイ100の光散乱体15は、複数の開口16の内部空間で、高分子材料層11が第2の電極層14Aに電気的に引きつけられて変形することで形成されており、高分子材料層11の表面に、均一な凸形状の光散乱体15が並んでいる。
図2を参照して説明したように、第1の電極層12Aと第2の電極層14Aの間に印加する電圧のレベルに応じて、光散乱体15の配列を出現させ、及び/または光散乱体15の高さを変更することができる。
図4は、電圧が印加されていないときの図3のX-X'断面図である。第1の電極層12Aと第2の電極層14Aの間で、高分子材料層11の表面は平坦である。高分子材料層11の表面の一部はスペーサ層13Aと面接触し、その他の部分は、スペーサ層13Aに形成された開口16内の空間17に露出している。開口16の径φは150μm、スペーサ層13Aの厚さは30μmである。
図5は、複数の光散乱体15を有する光学素子の一例であるマイクロレンズアレイ100の作製工程図である。工程(a)で、基材21の上に第1の電極層12Aを形成し、第1の電極層12Aの上に高分子材料層11を形成する。第1の電極層12Aは、たとえば厚さ100μmITOフィルムである。高分子材料層11は、PVCにアジピン酸ジブチル(DBA)を混合比率が80wt%となるように添加し、THFの溶媒に完全に溶解させてゲル溶液とした後、ゲル溶液を第1の電極層12Aの上に厚さ500μmでキャストしたものである。可塑剤であるDBAはマイナスイオンを帯びやすく、電圧の印加によりポリマーゲルが陽極に引き付けられる。
工程(b)で、高分子材料層11の上に、複数の開口16が形成されたスペーサ層13Aと、第2の電極層14Aを配置する。スペーサ層13Aとして、たとえば厚さ30μmのポリイミドフィルムを用いる。第2の電極層14Aは、厚さ100μmのITOフィルムである。この例では、スペーサ層13Aと第2の電極層14Aはあらかじめ貼り合わせられて、電極アセンブリ19Aが形成されている。電極アセンブリ19Aは、図示しない基材の上に支持されていてもよい。
スペーサ層13Aでは、直径が150μmの開口16が、30×30のマトリクスに配置されている。開口16のピッチPは200μm、隣接する開口16と開口16の間隔は50μmである。
工程(c)で、基材21を剥離して、マイクロレンズアレイ100の薄膜が完成する。その後、第1の電極層12Aと第2の電極層14Aの間に所望のレベルの電圧を印加することで、開口16内に光散乱体15を発生させる。
図6は、複数の光散乱体15を有する光学素子10に印加する電圧のレベルを変えながら観察した3D画像である。3D観測は、キーエンス社製のデジタルマイクロスコープVHX1000を用いて行う。
図6(A)は印加電圧が600Vのときの画像、図6(B)は印加電圧が700Vのときの画像、図6(C)は印加電圧が800Vのときの画像である。電圧の印加により、ポリマーゲルが中心部から引き上げられる様子がわかる。
図7は、図6の3D画像から、3つの連続する光散乱体15の高さを電圧印加の関数としてプロットしたものである。縦軸が初期状態(電圧の印加なしの状態)での高分子材料層11の表面位置からの高さ、横軸がスペーサ層13Aの開口16の面内位置であり、1グリッドを150μmとしている。
電圧の印加がないとき(0V)、開口16の内部での高分子材料層11の高さ位置は、-20μmの近傍にある。これは、光学的な測定で光が入りづらい深さ方向での誤差(±20μm程度)の影響であり、開口16内での高分子材料層11のプロファイルは平坦になっている。
電圧の印加が500Vのとき、ポリマーゲルが大きく変形して、開口16の中心を中心軸として突起が形成される。電圧レベルが600Vと700Vでは、ピークの高さ位置がさらに増大し、縦に長い凸形状のプロファイルが得られる。このときの光散乱体15の高さは50μmに達する。電圧の印加が800Vのときはピークの高さ位置はやや低減するが、幅も小さくなり、急峻度はより大きくなる。ピーク近傍での曲率半径は、より小さくなる。
図7のプロファイルから分かるように、光学素子10(またはマイクロレンズアレイ100)に印加される電圧レベルを制御することで、所望のレンズ形状の光学素子10(またはマイクロレンズアレイ100)が得られる。
なお800Vを印加してもポリマーゲルに流れる電流は10μA以下と非常に低く、発熱量が抑制され、長期間の使用に耐えられる。
図8は、変形例の光学素子10Bの概略図である。上述した実施形態では、平坦な第2の電極層14Aに、開口16を有する絶縁性のスペーサ層13Aを張り合わせて用いていた。変形例では、第2の電極層14Bの高分子材料層11と対向する主面141に開口143を設け、主面141と開口143内の側壁を、絶縁性のスペーサ層13Bで覆う。開口143の底面145はスペーサ層13Bで覆われずに、露出している。
開口143を有する第2の電極層14Bとスペーサ層13Bは、電極アセンブリ19Bとして一体的に形成されていてもよい。開口143は、ウェットエッチングまたはドライエッチングで所望の形状に形成することができる。たとえば、開口143の平面形状は、所定の径を有する円、楕円、多角形等である。
開口143が形成された第2の電極層14Bの主面141の全面に絶縁性のスペーサ層13Bを形成し、フォトリソグラフィとエッチングにより、開口143の底面145のスペーサ層13Bを除去して、開口143内に第2の電極層14Bを露出する。開口143の側壁を覆うスペーサ層13によって、第2の電極層14Bと高分子材料層11の間に、所定の空間17が形成される。
図8(A)に示すように、電圧を印加しない状態では、空間17の内部で、高分子材料層11の表面は平坦になっている。開口143以外の領域で、高分子材料層11はスペーサ層13Bと面接触している。
図8(B)に示すように、第1の電極層12Bと第2の電極層14Bの間に電圧が印加されると、高分子材料層11が変形し、開口143の内部で中心部から優先的に第2の電極層14Bに向かって引っ張られる。これにより、空間17の中に凸形状の光散乱体15が形成される。
図8の光学素子10Bも、複数の光散乱体15を形成することで、マイクロレンズアレイとして用いることができる。この場合は、第2の電極層14Bに複数の開口143を形成し、全面にスペーサ層13Bを形成した後に、開口143の底面を露出すればよい。電圧を印加することで、複数の開口143の内部に、均一な形状の光散乱体15を形成することができる。
図9は、実施形態のマイクロレンズアレイ100を用いた撮像装置150の模式図である。マイクロレンズアレイ100として、実施形態の光学素子10Aと、変形例の光学素子10Bのいずれを用いてもよい。図9の例では、第1の電極層12、高分子材料層11、スペーサ層13、及び第2の電極層14がこの順で積層された光学素子10Aをマイクロレンズアレイ100として用いている。
撮像装置150は、複数の光散乱体15の配列を有するマイクロレンズアレイ100と、複数の撮像素子が配列された撮像素子アレイ130を有する。撮像素子は、CCD(charge coupled device)、CMOS(complementary metal oxide semiconductor)センサなどで形成されている。撮像素子の配列に対応して、三色のカラーフィルタ131が配置されていてもよい。この例では、赤(R)、緑(G)、青(B)のカラーフィルタ131R、131G、131Bが交互に配置されている。
図10は、実施形態のマイクロレンズアレイ100を用いた照明装置250の模式図である。照明装置250は、たとえばLEDランプ等の光源230と、光源230の出力側の前面に配置されたマイクロレンズアレイ100を有する。マイクロレンズアレイ100として、実施形態の光学素子10Aと変形例の光学素子10Bのいずれを用いてもよい。図10の例では、第1の電極層12、高分子材料層11、スペーサ層13、及び第2の電極層14がこの順で積層された光学素子10Aをマイクロレンズアレイ100として用いる。
電圧を印加することで、スペーサ層13によって形成される空間内に、所望の形状の光散乱体15を形成して、光拡散を制御し、輝度を高く保った状態で拡散光を平行光に変換することができる。
図9及び図10の適用例以外にも、光学素子10A、10Bは光学顕微鏡、産業用等の照明装置等に適用することができる。
マイクロレンズアレイ100は、1mm以下の薄型に形成され、陽極、陰極ともに透明化することができるので、超薄型カメラ、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)、マイクロレンズアレイ(MLA)シート、等への適用のほか、内視鏡システム等の医療の分野にも有効に適用できる。光散乱体15の数が単一の光学素子10も、医療、画像形成の分野で光拡散シート、レンズシート等に適用することができる。
<高分子材料の構成>
上述のように、実施形態の光学素子10とマイクロレンズアレイ100は、複雑な機構を用いずに電圧をオン/オフ制御、あるいは電圧レベルを調整することで、様々な配向分布をもつ光散乱体15を発生させることができる。ここで、印加される電圧は低い方が望ましい。そこで、光学素子及びマイクロレンズアレイに用いられる高分子材料の組成を工夫して、印加電圧を低減する。
具体的には、高分子材料層11で用いられるゲル状の高分子材料(ポリマーゲル)に、所定の条件を満たすイオン液体を添加することで、光学素子10またはマイクロレンズアレイ100の駆動電圧を低減する。イオン液体の添加により、高分子材料の変形効率を高めることができる。
イオン液体は、カチオン(正の電荷を帯びたイオン)とアニオン(負の電荷を帯びたイオン)で構成される塩であり、25℃で液体のものをいう。所定の条件のひとつは、イオン液体が、25℃で一定値以上のアニオン(負イオン)輸率をもつことである。この条件の詳細については、後述する。
高分子材料は、上述したように、ポリ塩化ビニル(PVC:polyvinyl chloride)、ポリメタクリル酸メチル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル、シリコーンゴム等である。好ましい構成例では、使用波長に対して透明な高分子または樹脂材料が用いられる。
このような高分子材料に対するイオン液体の重量割合は、0.2 wt%以上、1.5 wt%以下であり、より好ましくは、0.3 wt%以上、1.0 wt%以下である。高分子材料の重量を1(または100%)としたときに、この重量割合のイオン液体を混合することで、光学素子またはマイクロレンズアレイの駆動電圧を低減することができる。この根拠についても後述する。
ポリマーゲルに適切な可塑剤を添加してもよいし、溶媒に溶解させてもよい。可塑剤を用いる場合は、アジピン酸ジブチル(DBA:dibutyl adipate)、アジピン酸ジエチル(DEA:diethyl adipate)、セバシン酸ジエチル(DES:diethyl sebacate)、フタル酸ジオクチル(DOP:dioctyl phthalate)、フタル酸ジエチル(DEP:diethyl phthalate)等を用いることができる。溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系の溶媒を用いることができる。
イオン液体が添加された高分子材料は、図1及び図2の光学素子10A、図8の光学素子10B、及び図3のマイクロレンズアレイ100のいずれにも適用可能である。以下で詳細に述べるように、高分子材料に所定の条件のイオン液体を添加することで、高分子材料層11の駆動電圧を200V以下、より好ましくは、150V以下に低減することができる。
図11は、イオン液体を添加した高分子材料の特性を測定するためのサンプル110の模式図である。高分子材料の様々な特性を調べるために、電極112と電極113の間に高分子材料層111を挟んだサンプルを作製する。重量平均分子量が230000のPVCをテトラヒドロフラン(THF)の溶媒に溶解させたポリマーゲルを準備し、種々のイオン液体を添加して複数種類のサンプルを作製する。比較例として、イオン液体が添加されていないポリマーゲルを用いたときの特性も測定する。
下部電極となる電極112の上に、サンプルと比較例のポリマーゲルを厚さ300μmに塗布する。ポリマーゲルの上に、上部の電極113として、直径100μmのホールが形成された厚さ20μmの金属薄膜を配置する。電極112と電極113の間に印加する電圧を0Vから400Vの間で変化させて、電極113から突出する光散乱体115の頂点(ピーク)の高さhを測定する。高さhは電極113の表面113sからの高さである。電極112は陰極、電極113を陽極とする。
実施形態の光学素子10は、電圧印加によるポリマーゲルの弾性変形を利用して、ポリマーゲルを電極に引き付けて空間内に光散乱体15を形成しているが、図11のサンプル110も、電圧印加による弾性変形を利用して光散乱体115を形成する点では同じである。図11のサンプルで得られたポリマーゲルの特性測定の結果は、図1~図3、及び図8の構成に当てはめることができる。
図12は、種々のイオン液体を添加したときのポリマーゲルの電圧応答特性を示す。高分子材料層111に印加される電圧値を変えて、ピーク高さhの電圧依存性を測定する。比較例として、イオン液体が添加されていないポリマーゲルを用いて、同じくピーク高さの電圧依存性を測定する。
ラインAは、イオン液体として1-エチル-3-メチルイミダゾリウム=テトラフルオロボラート(EMI-BF4)を添加したサンプルAのピーク高さの電圧依存性を示す。PVCに対するEMI-BF4の重量割合は0.5 wt%である。EMIはカチオン、BF4はアニオンである。
ラインBは、イオン液体として1-オクチル-3-メチルイミダゾリウム=テトラフルオロボラート(OMI-BF4)を添加したサンプルBのピーク高さの電圧依存性を示す。PVCに対するOMI-BF4の重量割合は0.5 wt%である。OMIはカチオン、BF4はアニオンである。
ラインCは、イオン液体として1-エチル-3-メチルイミダゾリウム=ジシアナミド(EMI-DCA)を添加したサンプルCのピーク高さの電圧依存性を示す。PVCに対するEMI-DCAの重量割合は、0.5 wt%である。EMIはカチオン、DCA(C23)はアニオンである。
ラインDは、イオン液体としてテトラブチルホスホニウム=テトラフルオロボラート(TBP-BF4)を添加したサンプルDのピーク高さの電圧依存性を示す。PVCに対するTBP-BF4の重量割合は、0.1 wt%である。TBPはカチオン、BF4はアニオンである。
ラインEは、イオン液体としてテトラブチルホスホニウム=テトラフルオロボラート(TBP-BF4)を添加したサンプルEのピーク高さの電圧依存性を示す。イオン液体の種類はサンプルDと同じであるが、PVCに対するTBP-BF4の重量割合は0.5 wt%である。TBPはカチオン、BF4はアニオンである。
ラインFは、イオン液体として1-エチル-3-メチルイミダゾリウム=トリフルオロメタンスルフォンイミド(EMI-TFSI)を添加したサンプルFのピーク高さの電圧依存性を示す。PVCに対するEMI-TFSIの重量割合は0.5 wt%である。EMIはカチオン、TFSIはアニオンである。
ラインGは、イオン液体としてテトラブチルホスホニウム=メタンスルホン酸(TBP-MES)を添加したサンプルGのピーク高さの電圧依存性を示す。PVCに対するTBP-MESの重量割合は、0.5 wt%である。TBPはカチオン、MESはアニオンである。
ラインWは、比較例としてイオン液体が添加されていないサンプルWのPVCポリマーゲルのピーク高さの電圧依存性を示す。
図12の測定結果から、イオン液体を添加しない場合でも、誘電分極が生じるポリマーゲルを用いることで、電圧印加によりポリマーゲルが変形する。イオン液体を添加していない比較例のポリマーゲルWでは、印加電圧に対してほぼリニアに光散乱体115の高さが増大している。しかし、サンプルWを電極113の表面13sから20μmの高さに突出させるには、400Vの電圧が必要である。
これに対し、イオン液体としてEMI-BF4を0.5 wt%添加したサンプルAと、OMI-BF4を0.5 wt%添加したサンプルBは、100V以下の電圧印加で、高分子材料層11を20μm以上の高さに駆動することができる。特に、サンプルAは、50Vの電圧印加で20μmの高さ、200Vの電圧印加で、40μm弱の高さに変位する。サンプルBも、100Vの電圧印加で25μmの高さ、200Vの電圧印加で30μmの高さに変位する。
EMI-DCAを0.5 wt%添加したサンプルCは、イオン液体を添加しないサンプルWと比較して、約半分の印加電圧(210~220V)で同じ20μmのピーク高さを得ることができ、変形効率を大きく向上している。
TBP-BF4を0.1 wt%添加したサンプルDは、50Vの電圧印加で電極113の表面113sから光散乱体115を突出させることができるが、電圧を高くしても、ピーク高さは10μm未満のままであり、50Vから400Vの範囲でピーク高さの変化が小さい。サンプルDでは、電圧制御により光散乱体115の高さを精度良く調整することが難しい。
TBP-BF4を0.5 wt%添加したサンプルE、EMI-TFSIを0.5 wt%添加したサンプルF、及びTBP-MESを0.5 wt%添加したサンプルGは、400Vの電圧を印加しても、電極113の表面113sから光散乱体115を突出させることができない。
図12の測定結果から、イオン液体の種類(すなわち物性)と添加量の少なくとも一方が高分子材料層111の駆動電圧の低減に関与していると考えられる。
<ポリマーゲルの変位とイオン液体の物性の関係>
図13は、ポリマーゲルの変位とイオン液体の物性の関係を示す図である。イオン液体として、図12のサンプルA~Gに加えて、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム=フルオロスルホニルイミド(EMI-FSI)を添加したサンプルHの物性も併せて測定する。
各種のイオン液体を添加したサンプルA~Hで、変位がプラスのものは、電圧の印加によりポリマーゲルが電極113の表面113sから突出して光散乱体115が形成されたものを示す。変位がマイナスのものは、電圧を印加しても電極113の表面113sからポリマーゲルが突出しないものである。
各イオン液体の物性として、導電率、電位窓のサイズ、25℃での負イオンの拡散係数と輸率を測定する。用いたイオン液体の中には、25℃で固体のものもあるため、80℃に加熱して溶融したものについては、80℃での負イオンの拡散係数と輸率を測定する。
上述のパラメータのうち、まず導電率について検討する。サンプルCは、サンプルA,Bと比較して導電率が2桁小さいが、サンプルCを添加したポリマーゲルはプラスに変位している。これに対し、サンプルHは、サンプルCよりもはるかに導電率が大きいが、ポリマーゲルはプラスに変位していない。イオン液体の導電率は、ポリマーゲルの変形効率に直接関係しないと考えられる。
電位窓は、図11の系で電気化学的に安定性が保たれる電位領域のことである。電位窓が広いほど(数値が大きいほど)、系が電気化学的に安定する範囲が広い。サンプルAとサンプルFの電位窓は同じ広さであるにもかかわらず、サンプルAのポリマーゲルはプラスに変位し、サンプルFのポリマーゲルは、プラスの変位が得られていない。イオン液体の電位窓の広さも、ポリマーゲルの変形効率に直接関係しないと考えられる。
次に、25℃でのアニオン(負イオン)の拡散係数と輸率について検討する。イオン液体に含まれる正負イオンの拡散係数は、測定機器として、固体NMR(Varian社製のVNMR System)を用いて測定する。測定手順は、キャピラリーにイオン液体を注入し、装置にセットする。所定温度(この場合は25℃と80℃)で磁場の変化に対するシグナル強度を計測し、Stokes-Einsteinの式から正負イオンの拡散係数を算出する。
負イオンの輸率は、イオン液体に電流を流した際に、全電流に対するアニオンが担う電流の割合を表わす。負イオンの輸率は、上記で求めた負イオンの拡散係数と正イオンの拡散係数の総和に対する負イオンの拡散係数の比(Danion/(Dcation+Danion))として計算される。
サンプルA、B、C、F、Hに用いられたイオン液体は、25℃で液体であり、液体クロマトグラフィーによる測定結果から、各イオン液体の負イオンの拡散係数と輸率を算出した。プラスの変位が得られたサンプルA、B,Cで、25℃でのイオン液体の負イオンの輸率は、いずれも0.4以上である。これに対し、プラスの変位が得られないサンプルFとHで用いられたイオン液体の25℃での負イオンの輸率は0.4よりも小さい。ここから、室温での負イオンの輸率がポリマーゲルの変形効率に影響していると考えられる。
なお、プラスの変位が得られたサンプルDに添加されたイオン液体TBP-BF4は、用いた液体クロマトグラフの加熱可能温度(80℃)では溶融しないため、拡散係数を測定することができなかった。
プラスの変位が得られないサンプルGに添加されたイオン液体TBP-MESも25℃で固体であるため、拡散係数を測定することができない。このイオン液体を80℃に加熱したところ、溶融したので負イオンの拡散係数と輸率を計算したところ、輸率は0.6であった。
図13の結果から、高分子材料層11に添加されるイオン液体の特性として、25℃での負イオンの輸率が0.4以上のものが望ましいとわかる。
図12及び図13から、イオン液体のアニオンのサイズ(分子量)が小さいほうが、ポリマーゲルの変形効率に寄与することが推定される。一方、イオン液体のカチオンのサイズは、変形効率にはそれほど寄与していないと考えられる。しかし、サンプルDの変形効率が十分でないことから、カチオンの種類によって、陰極の劣化に影響している可能性がある。これについては、図16を参照して後述する。
なお、サンプルGで用いられたイオン液体のアニオンサイズもカチオンサイズも中程度であるが、イオン液体が25℃で固体であるため、攪拌によってポリマーゲル中に分散されても、ゲルの変形効率にはそれほど寄与していないものと考えられる。
以上から、BF4 及びDCA以外にも、アニオンとしてイオンサイズが比較的小さいClやBrを用いることができる。また、カチオンとして、陰極の劣化に影響しないものを選択することで、種々のイオン液体を用いることができる。たとえば、Li-BF4 をイオン液体として用い得る。
<イオン液体の添加量とポリマーゲルの変位の関係>
図14は、イオン液体の添加量とポリマーゲルの変位の関係を示す図である。横軸は、ポリマーゲルの高分子材料に対するイオン液体の含有量(wt%)、縦軸が変位のピーク高さである。
高分子材料として、分子量が230000のPVCを用い、イオン液体としてサンプルAのEMI-BF4を用いる。EMI-BF4の添加量を0 wt%から5.0 wt%の範囲で変化させる。また、印加電圧を0V、50V、100V、200V、400Vと変える。
印加する電圧のレベルに拠らず、イオン液体の添加量が、0.2 wt%~1.5 wt%の範囲でプラスの変位が得られる。また、0.3 wt%~1.0 wt%の範囲で、変位が最大になる。この範囲のイオン液体の添加により、100V以下の電圧印加で、電極113の表面113sに光散乱体115を形成することができる。イオン液体の添加量が5.0 wt%のときは、電圧をオフにしても変形が戻らないメモリー現象が発生する。
図14から、高分子に対するイオン液体の重量比率は、0.2 wt%~1.5 wt%が望ましく、より好ましくは、0.3 wt%~1.0 wt%であることがわかる。これは、図12の結果とも一致する。
図15は、高分子材料層111への電圧印加により形成される光散乱体115の光拡散分布の評価結果を、イオン液体の添加量ごとに示す図である。イオン液体としてEMI-BF4を用い、EMI-BF4の添加量を変えた高分子材料層111で、図11のサンプル110を作製する。高分子材料層111は、ポリマーゲルとしてPVCを含み、可塑剤としてアジピン酸ジブチル(DBA)を含む。PVCとDBAの総量に対するDBAの含有割合は83 wt%である。
陰極となる電極112を、厚さ150μmのITOで形成し、電極112と電極113の間に挟んだ高分子材料層111に電圧を印加して光散乱体115を形成する。ITOで形成される電極112の側にレーザを配置し、光散乱体115が形成される側にスクリーンを配置する。電極112の裏面側から、赤色平行光のレーザ光をサンプル110に入射して、スクリーンでの光拡散状態を観察する。
スクリーンは、光散乱体115の光出射側で、光散乱体115の焦点よりも遠い位置に配置されている。光散乱体115の焦点で一度集光された後の光拡散を、スクリーン上で観察する。サンプル110の光散乱体115の径は100μm、高さは0~40μm程度と小さく、その焦点位置は光散乱体115のきわめて近傍にあり、肉眼での観察が困難だからである。光散乱体115の焦点を超えた位置での光拡散を観察することで、集光状態を評価することができる。
イオン液体が添加されていないサンプル(「w/o IL」と表記)では、200Vの電圧を印加しても電極113の表面から突出する光散乱体115が形成されない。サンプル110の裏面から入射された赤色平行光は、集光されずに平行光のままサンプル110を透過する。0V~400Vの範囲では、印加電圧のレベルにかかわらず、スクリーン上に同じサイズのスポットが形成されている。
EMI-BF4が0.05 wt%添加されたサンプルでは、100Vの電圧印加により、電極113の表面でポリマーゲルがわずかに膨らむが、集光機能が不十分であり、スクリーン位置でほぼ平行光のスポットが維持されている。200Vの電圧印加で、ピーク高さが10μm程度の(曲率の緩やかな)光散乱体115が形成される。いったん光散乱体115の焦点位置で集光された光は、拡散して広がり、スクリーン上にスポットは現れない。
EMI-BF4が0.5 wt%添加されたサンプルでは、50Vの電圧印加により、電極113の表面に光散乱体115が形成され、集光後に拡散し始めた光がスクリーン位置で観察される。100Vの電圧と200Vの電圧印加では、50V印加時よりもピーク高さが大きい、すなわち曲率が急な光散乱体115が電極113の表面に形成される。サンプル110の裏側から入射した光は、集光された後に大きく拡散し、スクリーン位置でスポットは観察されない。これらの評価結果は、図14の測定結果と一致する。
図15の光拡散分布から、印加電圧を調整することにより、光散乱体115の焦点距離を可変にできることが確認される。この測定結果を実施形態の光学素子10A,10B及びマイクロレンズアレイ100に適用すると、より低い電圧で光散乱体115を形成することができ、変形効率が良好な可変焦点レンズ、または可変形状レンズとして用いることができる。
<イオン液体(カチオン)の陰極劣化への影響>
図16は、イオン液体の陰極劣化への影響を示す図である。試験用のサンプルとして、金属基板上に、種々のイオン液体を添加したPVCゲルを塗布し、PVCゲルの上に対向電極としてITO電極を配置する。
塗布するPVCゲルの種類は、サンプルA(0.5 wt%のEMI-BF4を含む)、サンプルB(0.5 wt%のOMI-BF4を含む)、サンプルC(0.5 wt%のEMI-DCAを含む)、サンプルD(0.1 wt%のTBP-BF4を含む)、サンプルH(0.5 wt%のEMI-FSIを含む)、及びサンプルG(0.5 wt%のTBP-MESを含む)の6種類である。このうち、図13でプラスの変位が得られたのは、サンプルA~Dである。サンプルDは、イオン液体の重量割合を他のサンプルと同じ0.5wt%にした場合、変位が得られないので、添加量を0.1 wt%に減らしたサンプルである。
金属基板を正極、ITOを負極として、PVCゲルに印加する電圧レベルを変えながらITO側から電極の表面状態を観察する。
変位効果がなかったサンプルGは、50Vという低い印加電圧でITO(陰極)の劣化が観察される。また、サンプルDでも電圧印加によるITO電極の劣化が観察される。これは、カチオンがITO電極の劣化に影響しているためと考えられる。これに対し、変位効果の高いサンプルA~Cでは、印加電圧を上げてもITO電極の劣化は観察されていない。
図11~図16の考察から、25℃で負イオンの輸率が0.4以上のイオン液体を添加することで、イオン液体を添加しないポリマーゲルと比較して、低い印加電圧で大きな変形を得ることができる。特に、サンプルAとサンプルBのように、アニオンサイズが小さいイオン液体を用いると、100V以下の電圧範囲で、ピーク高さを大きく変えることができ、実施形態の光学素子10において光散乱体15の制御が容易である。すなわち、印加電圧のレベルに応じて、空間17内に光散乱体15を出現させ、その高さを調整することができる。これらのサンプルを用いる場合は、光学素子10A,10Bの駆動時に、陰極に対する悪影響も少ない。
イオン液体を添加した高分子材料は、上述のように、図3のマイクロレンズアレイ100に適用可能である。この場合、電極12Aと電極14Aの間に200V以下の電圧を印加することで、空間17内に光散乱体15の配列を形成することができる。添加するイオン液体の種類によっては、100V以下の電圧印加で20μm以上の高さの光散乱体15の配列を形成することができる。
以上、特定の実施例に基づいて本発明を説明したが、本発明は上述した構成例に限定されない。光学素子10に複数の光散乱体15を形成する場合に、光散乱体15の配列はマトリクス状の配列に限定されず、互い違いに配列してもよい。あるいは、スペーサ層13Aの開口16(または143)の形状を六角形にして細密配置にしてもよい。
10A、10B 光学素子
11、111 高分子材料層
12、12A、12B 第1の電極層
13、13A、13B スペーサ層
14、14A、14B 第2の電極層
141 主面
143 開口
145 底面
15、115 光散乱体
16 開口
17 空間
19A,19B 電極アセンブリ
21 基材
100 マイクロレンズアレイ
110 サンプル
112、113 電極
130 撮像素子アレイ
131R、131G、131B カラーフィルタ
150 撮像装置
250 照明装置

Claims (16)

  1. 第1の電極層と、
    第2の電極層と、
    前記第1の電極層と前記第2の電極層の間に配置される高分子材料層と、
    前記高分子材料層と前記第2の電極層の間に配置され、前記高分子材料層と前記第2の電極層の間に所定の空間を形成する絶縁性のスペーサ層と、
    を有し、前記高分子材料層は、電圧印加の下で変形して、前記所定の空間に1以上の光散乱体を形成することを特徴とする光学素子。
  2. 前記スペーサ層は、1以上の開口を有する絶縁膜であり、
    前記電圧印加の下で、前記1以上の光散乱体の各々は、対応する前記1以上の開口の中に形成されることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
  3. 前記第2の電極層は、前記高分子材料層と対向する主面に1以上の開口を有し、
    前記スペーサ層は、前記主面において、前記1以上の開口の底面を除く領域を覆って設けられ、
    前記電圧印加の下で、前記1以上の光散乱体の各々は、対応する前記1以上の開口の中に形成されることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
  4. 前記光散乱体は、凸形状であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の光学素子。
  5. 前記第2の電極層は陽極層であり、前記第1の電極層は陰極層であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の光学素子。
  6. 前記第2の電極層は、透明電極層であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の光学素子。
  7. 前記高分子材料層は、ゲル状の高分子材料に25℃での負イオンの輸率が0.4以上であるイオン液体が添加されていることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の光学素子。
  8. 前記高分子材料に対する前記イオン液体の重量比率は0.2wt%以上、1.5 wt%以下であることを特徴とする請求項7に記載の光学素子。
  9. 第1の電極層と、
    第2の電極層と、
    前記第1の電極層と前記第2の電極層の間に配置される高分子材料層と、
    前記高分子材料層と前記第2の電極層の間に配置され、前記高分子材料層と前記第2の電極層の間に複数の空間を形成する絶縁性のスペーサ層と、
    を有し、電圧印加の下で前記高分子材料層が変形することにより、前記複数の空間に対応して複数の光散乱体の配列が形成されることを特徴とするマイクロレンズアレイ。
  10. 前記高分子材料層は、ゲル状の高分子材料に、25℃での負イオンの輸率が0.4以上であるイオン液体が添加されていることを特徴とする請求項9に記載のマイクロレンズアレイ。
  11. 請求項9または10に記載のマイクロレンズアレイと、
    前記マイクロレンズアレイに対向して配置される撮像素子アレイと、
    を有することを特徴とする撮像装置。
  12. 請求項9または10に記載のマイクロレンズアレイと、
    光源と、
    を有することを特徴とする照明装置。
  13. 第1の電極層の上に高分子材料層を形成し、
    前記高分子材料層の上に、絶縁性のスペーサ層と第2の電極層とを配置して、前記高分子材料層と前記第2の電極層の間に所定の空間を形成し、
    前記第1の電極層と前記第2の電極層の間に電圧を印加して前記高分子材料層を変形させて、前記空間に1以上の光散乱体を形成する、
    工程を含む光学素子の作製方法。
  14. 1以上の開口を有する前記スペーサ層を前記第2の電極層に貼り合わせた電極アセンブリを形成し、
    前記高分子材料層の上に、前記電極アセンブリを配置する、
    ことを特徴とする請求項13に記載の光学素子の作製方法。
  15. 前記第2の電極層の主面に1以上の開口を形成し、
    前記主面において、前記開口の底面を除く領域を覆う前記スペーサ層を形成して電極アセンブリを形成し、
    前記高分子材料層と前記主面が対向するように、前記高分子材料層の上に前記電極アセンブリを配置する、
    ことを特徴とする請求項13に記載の光学素子の作製方法。
  16. 前記高分子材料層は、ゲル状の高分子材料に25℃での負イオンの輸率が0.4以上であるイオン液体が添加されていることを特徴とする請求項13~15のいずれか1項に記載の光学素子の作製方法。
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