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JP7107875B2 - 燃料極-固体電解質層複合体の製造方法 - Google Patents

燃料極-固体電解質層複合体の製造方法 Download PDF

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JP7107875B2 JP2019044212A JP2019044212A JP7107875B2 JP 7107875 B2 JP7107875 B2 JP 7107875B2 JP 2019044212 A JP2019044212 A JP 2019044212A JP 2019044212 A JP2019044212 A JP 2019044212A JP 7107875 B2 JP7107875 B2 JP 7107875B2
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Description

本発明は、燃料電池および/または水蒸気電解セルに用いられる燃料極-固体電解質層複合体の製造方法に関する。
燃料電池は、水素などの燃料ガスと空気(酸素)との電気化学反応によって発電する装置であり、化学エネルギーを電気に直接変換できるため、発電効率が高い。なかでも、作動温度が700℃以上、特には800℃~1000℃程度である固体酸化物型燃料電池(以下、SOFCと称する)は、反応速度が速く、セル構造体の構成要素がすべて固体であるため、取り扱いが容易である。一方、動作温度が非常に高温であるため、用途としては定置型の大型発電設備もしくは家庭用発電が主である。省エネルギーが求められる現在、発電効率が高く、低騒音で、環境負荷物質の排出が少なく、セル構造が簡単なSOFCの用途拡大が求められている。
固体電解質として、酸素イオン伝導性を有する金属酸化物、例えばイットリウム安定化ジルコニア(YSZ:Yttria-Stabilized Zirconia)が使用されている。酸素イオン伝導性のYSZを電解質として使用するSOFCの作動温度は、750℃~1000℃の高温である。加熱に必要なエネルギー消費の低減や、耐高温性を有する材料の選択性の観点から、安価な汎用ステンレス鋼を利用できる400℃~600℃の中温域で作動するSOFCの開発が進められている。
SOFCの動作温度が高温であるのは、酸化物イオンをセラミックス材料からなる固体電解質の中で移動させるためである。そこで、電荷のキャリアとして、酸化物イオンではなく、中温域(例えば、400℃~600℃)でも移動可能な水素イオン(プロトン)を用いるPCFC(Protonic Ceramic Fuel Cells、プロトン伝導性酸化物型燃料電池)が研究されている。
PCFCに適用できる固体電解質材料として、特許文献1および特許文献2は、ABOのペロブスカイト型構造を有する金属酸化物であって、AサイトにBaを含み、BサイトにZrと3価の置換元素とを含む金属酸化物を開示している。
例えば、BaCe0.80.22.9(BCY)、BaZr0.80.22.9(BZY)などのペロブスカイト酸化物は、中温域で高いプロトン伝導性を示すため、中温型燃料電池の固体電解質として期待されている。
特開2001-307546号公報 特開2007-197315号公報
SOFCの発電特性を向上させるためには、固体電解質層はできるだけ薄い方が好ましい。そこで、機械的強度を高めたカソードあるいはアノード上に固体電解質を形成した電解質層-電極複合体(接合体)が用いられることがある。このような複合体(接合体)は、カソード支持型固体電解質層やアノード支持型固体電解質層と呼ばれている。
アノード支持型固体電解質層は、一般に、水素解離触媒となるニッケル成分(たとえばNiO)と、固体電解質との混合物の成形体の表面に、固体電解質を含む塗膜を形成し、焼成(共焼結)することにより作製される。このようにして作製されたアノードは、当初は緻密質である。しかしながら、SOFCとして用いられることによって、NiOは、燃料としてアノードに供給される水素によってNiに還元され、この還元と同時に起こる体積収縮によって多孔質に変化する。
しかしながら、共焼結の際に、アノード内のNiが固体電解質層側に拡散し得る。金属酸化物を固体電解質層に用いる場合、アノード内のNiが金属酸化物中に拡散し、イオン伝導性が低下し得る。また、金属酸化物中に拡散したNiは、イオン輸率も低下させるため、リーク電流が増加し得る。よって、電解質層-電極複合体を水蒸気電解セルに使用する際には電解効率が低下しやすい。
特に、上述のBCY、BZYなど、イットリウムなどをドープしたペロブスカイト型構造のプロトン伝導性金属酸化物を固体電解質層に用いる場合、焼結性が低いことを考慮して、通常1400℃以上の高温で共焼結が行われる。このため、Niが固体電解質層に拡散し易く、プロトン伝導性が低下し易い。
本発明の一局面は、多孔質の第1固体電解質層と、前記第1固体電解質層よりも小さな空隙率を有する第2固体電解質層と、が一体化された前駆体を得る第1工程と、前記前駆体の前記第1固体電解質層の細孔内に、触媒粒子を付与する第2工程と、を有し、前記第2工程が、前記触媒粒子が分散した分散体を前記細孔内に含有させた後、200℃~1100℃で焼成することを含む、燃料極-固体電解質層複合体の製造方法に関する。
本発明に係る燃料極-固体電解質層複合体の製造方法を燃料電池および/または水蒸気電解セルの製造に適用することで、高いイオン伝導性および高いイオン輸率が得られ、電流効率が向上する。
本発明の一実施形態に係る製造方法を用いて製造される燃料電池を模式的に示す断面図である。 図1の燃料電池に含まれるセル構造体を模式的に示す断面図である。 本発明の実施例における燃料極-固体電解質層複合体の厚み方向の断面を示す写真である。 図3において、燃料極の一部を拡大した拡大写真である。 図3において、燃料極の一部を拡大した拡大写真である。 比較例における燃料極-固体電解質層複合体の厚み方向の断面を示す写真である。 図5において、燃料極の一部を拡大した拡大写真である。
[発明の実施形態の説明]
最初に、本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
(1)本発明の一実施形態は、多孔質の第1固体電解質層と、第1固体電解質層よりも小さな空隙率を有する第2固体電解質層と、が一体化された前駆体を得る第1工程と、前駆体の第1固体電解質層の細孔内に、触媒粒子を付与する第2工程と、を有し、第2工程が、触媒粒子が分散した分散体を細孔内に含有させた後、200℃~1100℃で焼成することを含む、燃料極-固体電解質層複合体の製造方法に関する。
なお、燃料極は、水素極とも呼ばれ、燃料電池におけるアノードに相当する。これに対し、燃料電池におけるカソードは、空気極または酸素極とも呼ばれる。燃料極-固体電解質層複合体は、燃料極-固体電解質層接合体あるいはアノード-固体電解質層接合体あるいはアノード支持型固体電解質層とも呼ばれる。
第1固体電解質層は、燃料極-固体電解質層複合体における燃料極を構成する。第2固体電解質層は、燃料極-固体電解質層複合体における固体電解質層を構成する。燃料極-固体電解質層複合体は、例えば、第1工程において、第1固体電解質層と第2固体電解質層とを共焼結により一体化した後で、第2工程において、第1固体電解質層の細孔の内側壁に触媒粒子を担持させることで製造される。
本実施形態の上記実施形態によれば、触媒粒子を付与する工程(第2工程)は、1100℃以下の比較的低温で行うことができる。このため、触媒粒子の成分が第1固体電解質層および第2固体電解質層に拡散することが抑制される。よって、イオン伝導性およびイオン輸率を高く維持でき、燃料電池および/または水蒸気電解セルを構成した場合に、電流効率に優れた燃料電池および水蒸気電解セルを実現できる。
第1固体電解質層は、第1工程において、例えば、第1固体電解質層の原料に後述する造孔剤を添加した混合物を焼成することによって、多孔質に形成される。この場合、多孔質に形成される第1固体電解質層の細孔径は、造孔剤の粒子径によって決まる。また、第1固体電解質層の空隙率は、混合物に占める造孔剤の配合割合により制御され得る。
第2固体電解質層は、第1固体電解質層よりも空隙率が小さく、緻密に形成される。第2固体電解質層内には、僅かな隙間が存在していてもよいが、実質的に無孔であることが好ましい。
なお、第1および第2固体電解質層の空隙率は、触媒粒子の粒子径と同様、燃料極-固体電解質層複合体の断面画像に基づき求められる。断面画像において、第1固体電解質層が存在しない領域の面積の第1固体電解質層の形成領域の全面積に占める割合を、第1固体電解質層の空隙率とする。同様に、第2固体電解質層が存在しない領域の面積の第2固体電解質層の形成領域の全面積に占める割合を、第2固体電解質層の空隙率とする。通常、第1固体電解質層の空隙率と第2固体電解質層の空隙率は大きく相違し、断面画像の視認によりその差を明確に確認できる。例えば、第1固体電解質層の空隙率は、例えば30%以上80%以下であり、50%以上70%以下であってもよい。これに対し、第2固体電解質層の空隙率は、例えば10%以下、もしくは5%以下である。
第2工程において、多孔質に形成された第1固体電解質層の細孔内に、触媒粒子が付与される。触媒粒子の付与は、触媒粒子が分散した分散体を前駆体に含浸させることで行われ得る。分散体は、分散媒と、触媒粒子と、必要に応じて分散剤を含み得る。その後、分散体を含有する前駆体を熱処理することによって、触媒粒子は第1固体電解質層の細孔の内側壁に担持される。
分散体は、例えば、触媒粒子である金属ナノ粒子のコロイドが分散媒に分散した金属ナノインクである。分散剤を加えることで、金属ナノ粒子の凝集が抑制され、コロイド状態を安定化させることができる。分散剤としては、例えば、金属粒子に配位可能な極性の官能基と、金属ナノ粒子に対する親和性が低い有機基(例えば、疎水性の有機基)と、を有する化合物が用いられ得る。極性の官能基としては、例えば、アミノ基、メルカプト基、ヒドロキシル基(フェノール性ヒドロキシル基を含む)、カルボニル基、エステル基、カルボキシル基などの酸素含有基などが挙げられる。
分散媒としては、水または有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、限定されるものではないが、アルコール、エーテル、エステル、ケトン、炭化水素(脂環族炭化水素、芳香族炭化水素など)などが挙げられる。金属ナノ粒子は、金属材料を蒸発させることにより形成したものを用いてもよいし、液相や気相中で化学反応を利用して作製したものを用いてもよい。
熱処理の温度は、1100℃以下であれば、触媒粒子の成分が第1固体電解質層および第2固体電解質層に拡散することはほとんどなく、イオン伝導性およびイオン輸率の低下が抑制される。なお、分散体の含浸と、熱処理は、複数回繰り返してもよい。
熱処理の温度は、例えば、200℃~1000℃であってもよく、400℃~1000℃もしくは400℃~700℃であってもよい。また、熱処理の時間は5分以上4時間以内であってもよく、10分以上2時間以内であってもよい。
本実施形態の燃料極-固体電解質層複合体の製造方法は、400℃~600℃の中温域で動作する燃料電池(SOFC)もしくは水蒸気電解セルの製造において、好適に利用することができる。燃料電池は、例えば、燃料極-固体電解質層複合体と、空気極とを含み、第1固体電解質層と空気極との間に第2固体電解質層が介在するセル構造体、空気極に酸化剤を供給するための酸化剤流路、および、燃料極に燃料を供給するための燃料流路、を備える。
(2)分散体に含まれる触媒粒子の粒子径は、10nm~500nmであり、第1固体電解質層の細孔径は、5μm以上であってもよい。この場合、触媒粒子の粒径は、第1固体電解質層の細孔径と比べて十分小さい。
触媒粒子の粒径が第1固体電解質層の細孔径よりも十分小さいことにより、触媒粒子は、第1固体電解質層の細孔の奥深くまで入り込むことができる。また、触媒粒子は、細孔の内側壁のほぼ全面を覆うように第1固体電解質層内に形成され得る。この結果、触媒粒子が燃料ガスに接触する表面積は非常に大きくなり、高い触媒反応効率が得られる。
分散体に含まれる触媒粒子の粒径は、50nm~100nmであってもよい。
ここで、第1固体電解質層の細孔径は、燃料極-固体電解質層複合体の断面の電子顕微鏡写真を画像解析することにより求められる。断面写真から第1固体電解質層の複数(例えば、20個以上)の位置における細孔径(細孔の断面積と面積が等しい円の直径)を求め、このうち細孔径が大きいものから順に5個、および、細孔径が小さいものから順に5個、計10個を取り除き、残りの位置における細孔径の平均値を算出する。算出した平均値を、第1固体電解質層の細孔径とする。
同様に、触媒粒子の粒子径は、断面写真から複数(例えば、20個以上)の触媒粒子を抽出し、それぞれの粒子径(粒子の断面積と面積が等しい円の直径)を求め、このうち粒子径が大きいものから順に5個、および、粒子径が小さいものから順に5個を取り除いた残りの平均値として算出される。燃料電池もしくは水蒸気電解セルの使用に伴い、触媒粒子の粒子径は増大し得る。しかしながら、製造時における触媒粒子の粒子径は、少なくとも断面写真に基づき算出された触媒粒子の粒子径以下である。
(3)触媒粒子は、ニッケル粒子を含むことが好ましい。例えば、触媒粒子は、金属Niのナノ粒子であってもよい。触媒粒子は、酸化ニッケル(NiO)のナノ粒子であってもよい。
なお、NiOナノ粒子を用いる場合、NiOを金属Niに変換するための還元工程が別に必要になる。還元工程は、600℃~700℃程度の比較的低温で行うことができるため、還元工程時に、ニッケル成分が第1固体電解質層および第2固体電解質層内に拡散することは抑制されている。よって、還元工程後においても、高いイオン伝導性およびイオン輸率が維持される。
触媒粒子は、ニッケル以外の触媒金属を含んでいてもよい。ニッケル以外の触媒金属として、例えば、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケルと鉄との合金(Ni-Fe)などが挙げられる。触媒粒子は、例えば、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケルと鉄との合金(Ni-Fe)などのナノ粒子であってもよい。
(4)第1工程が、第1固体電解質層の原料と造孔材とを含む第1前駆体層と第2固体電解質層の原料を含み、造孔材を含まない第2前駆体層と、が積層した積層体を得る工程と、造孔剤の少なくとも一部を除去する工程と、を有していてもよい。第1前駆体層から造孔剤を除去することにより、多孔質の第1固体電解質層が形成される。一方、第2固体電解質層は、造孔剤を含まない第2前駆体層から形成されるため、第1固体電解質層よりも空隙率が小さく、緻密に形成される。
造孔材としては、焼結温度以下の温度で容易に分解可能な材料であれば特に制限されず、SOFCで使用される公知のものが使用できる。造孔材としては、炭素質造孔材、有機系造孔材などが例示できる。造孔材の形状は特に制限されず、粒子状、繊維状のものなどが使用され得る。
造孔材の粒子径により、多孔質の第1固体電解質層の細孔径が規定される。粒子状の造孔材を用いる場合、平均粒子径は、例えば、1μm~200μmであり、5μm~100μmであってもよい。なお、平均粒子径とは、体積基準の粒度分布におけるメディアン径D50を意味する。なお、粒子状の造孔剤に加えて、繊維状の造孔材を第1前駆体層に含ませてもよい。
炭素質造孔材としては、例えば、黒鉛、カーボンブラックなどの炭素粒子、カーボンナノファイバなどの炭素繊維などが挙げられる。有機系造孔材としては、有機高分子の粒子や繊維が挙げられる。有機高分子としては、例えば、アクリル樹脂などの合成樹脂の他、天然高分子、例えば、コーンスターチなどのデンプンなども挙げられる。造孔材は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いてもよい。
(5)上記(4)において、第1前駆体層を、第1固体電解質層の原料と造孔材とを含む第1ペーストの塗膜から形成し、および/または、第2前駆体層を、第2固体電解質層の原料を含み造孔材とを含まない第2ペーストの塗膜から形成してもよい。
例えば、第1および第2ペーストの塗膜から形成した積層体を焼成することにより、造孔剤は除去され、多孔質の第1固体電解質層が形成され得る。焼成温度は、400℃~1000℃であってもよく、400℃~800℃であってもよい。
第1ペーストは、第1固体電解質層の原料と造孔材とを水、有機溶媒などの分散媒に分散させたものである。第2ペーストは、第2固体電解質層の原料を分散媒に分散させたものであり、造孔剤を加えなくてもよい。第1ペーストおよび/または第2ペーストに、必要に応じて、バインダ、界面活性剤、および/または解膠剤などの添加剤を含ませてもよい。
(6)上記(4)において、第1前駆体層および第2前駆体層の少なくともいずれか一方を、加圧成形により形成してもよい。例えば、第1固体電解質層の原料と造孔材とを混合した粉末を型に詰め加圧することで、ペレット状の第1前駆体を得てもよく、第2固体電解質層の原料の粉末を型に詰め加圧することで、ペレット状の第2前駆体を得てもよい。より好ましくは、第1固体電解質層の原料と造孔材とを混合した粉末を型に詰めて、第1前駆体層を形成した後、第2固体電解質層の原料の粉末を同じ型に詰めて、第1前駆体層の上に第2前駆体層を重ねて形成し、第1前駆体層および第2前駆体層を同時に加圧することで、積層体を得てもよい。
積層体の焼成物は、その後、例えば1500~1650℃程度(好ましくは1550~1650℃)の高温にて酸素雰囲気で焼成(共焼成)され得る。この焼成により、多孔質な第1固体電解質層と緻密な第2固体電解質層の二層が一体化した焼結体を得ることができる。
(7)上記(6)において、第1前駆体層と第2前駆体層とを重ねた状態で加圧成形し、積層体を得てもよい。これにより、第1前駆体層および第2前駆体層の両方が、同時に加圧成形され、積層体を得ることができる。
なお、上記(5)~(7)において、第1前駆体層および第2前駆体層の一方をペーストの塗布により形成し、他方を加圧成形により形成してもよい。例えば、燃料極を構成するため、通常厚く形成される第1前駆体層を加圧成形により形成し、第1前駆体層の上に第2前駆体層をペーストの塗布により形成してもよい。
(8)第2工程の前に、積層体を1500℃以上で焼成してもよい。焼成により、第1固体電解質層と第2固体電解質層とが強固に結合した状態で一体化され得る。焼成は、触媒粒子の付与の前に行われるため、触媒粒子が1500℃以上の高温にさらされることはなく、触媒粒子の成分が第1固体電解質層(および、第2固体電解質層)に拡散する問題は回避される。よって、固体電解質層におけるイオン伝導性およびイオン輸率の低下が抑制される。
なお、積層体の焼成温度の上限については、特に限定されないが、1800℃以下であってもよい。
(9)第1固体電解質層および第2固体電解質層は、ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(1):Ax1-yy3-δで表される金属酸化物を含むものであってもよい。ここで、元素Aは、Ba、CaおよびSrよりなる群から選択される少なくとも一種である。元素Bは、CeおよびZrよりなる群から選択される少なくとも一種である。元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、InおよびScよりなる群から選択される少なくとも一種である。δは酸素欠損量であり、0.95≦x≦1、0<y≦0.5を満たす。
上記の条件を満たす金属酸化物は、400℃~600℃の温度領域においても高いプロトン伝導性を有している。よって、この金属酸化物を第1固体電解質層および第2固体電解質層に用いることで、高いプロトン伝導性および高いイオン輸率を確保できる。よって、燃料電池および/または水蒸気電解セルを構成した場合に高い電流効率を発揮することができる。
金属酸化物のイオン輸率は、600℃の加湿酸素雰囲気中において、0.8以上であってもよい。イオン輸率がこのような範囲であれば、燃料極-固体電解質層複合体を水蒸気電解セルおよび/または燃料電池に適用した場合、より高い電流効率を発揮することができる。ここで、加湿酸素雰囲気は、水蒸気と酸素の混合ガス雰囲気であればよく、水蒸気分圧0.05atm(5.0×10Pa)、酸素分圧0.95atm(9.5×10Pa)の雰囲気であればよい。
なお、イオン輸率とは、電解質に電流を流した際に、電子、ホール、陽イオン、陰イオンによって運ばれる全電気量のうち、陰イオンと陽イオンによって運ばれる電気量の割合である。運ばれる全電気量が陰イオンと陽イオンによって運ばれる電気量と等しい場合にはイオン輸率が1となる。例えばBZYの場合は、プロトンと酸化物イオンとホールとがキャリアとして存在することから、イオン輸率は、プロトンと酸化物イオンによって流れた電気が全体の何割であるのかを示す。
元素AはBaを含み、元素BはZrを含み、元素MはYを含んでもよい。これにより、燃料極-固体電解質層複合体の耐久性を向上させることができる。
以上の通り、本実施形態の燃料極-固体電解質層複合体の製造方法によれば、製造時の高温での熱処理により、触媒成分(例えば、Ni)が固体電解質層に拡散することが抑制され、高いイオン伝導性および高いイオン輸率を維持できる。特に固体電解質層としてプロトン伝導性の金属酸化物を用いる場合に、触媒成分が金属酸化物に拡散することによるプロトン伝導性の低下が顕著に抑制され、電流効率に優れた燃料電池および水蒸気電解セルを実現できる。しかしながら、本実施形態の製造方法は、プロトン伝導性の固体電解質層を用いる場合に限られず、酸化物イオン伝導性の固体電解質層を用いる場合にも有効である。例えば、ランタンガレート系酸化物、ランタンシリケート系酸化物などのランタンを含む酸化物イオン伝導性の金属酸化物は、触媒成分であるNiが金属酸化物内に拡散することにより、酸化物イオン伝導性が低下することが知られている。本実施形態の製造方法を適用することで、第1固体電解質層および/または第2固体電解質層として上記のランタン系金属酸化物を用いる場合においても、製造時の酸化物イオン伝導性の低下が抑制され、電流効率に優れた燃料電池および水蒸気電解セルを実現できる。
[発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態の具体例を、適宜図面を参照しつつ以下に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
(燃料電池セル)
図1に、本実施形態の燃料極-固体電解質層複合体の製造方法を用いて製造された燃料電池セルの具体例を示す。図1は、燃料電池セル(固体酸化物型燃料電池セル)の断面構造を示す模式図である。
燃料電池セル10は、セル構造体1を含む。セル構造体の断面構造の一例を、図2に模式的に示す。図2に示すように、セル構造体1は、空気極(カソード)2と、燃料極(アノード)3と、これらの間に介在する固体電解質層4とを含む。燃料極3と固体電解質層4とは一体化され、燃料極-固体電解質層複合体5を形成している。
燃料極3は、多孔質の第1固体電解質層を含む。固体電解質層4は、第1固体電解質層よりも空隙率が小さく、緻密に形成された第2固体電解質層を含む。第1固体電解質層と第2固体電解質層とは一体化され、複合体を形成している。
燃料電池セル10は、セル構造体1のほか、図2に示すように、空気極2に酸化剤を供給するための酸化剤流路23と、燃料極3に燃料を供給するための燃料流路53と、を備える。図2に示す例では、酸化剤流路23は、空気極側セパレータ22によって形成され、燃料流路53は、燃料極側セパレータ52によって形成され、セル構造体1は、空気極側セパレータ22と、燃料極側セパレータ52との間に挟持されている。空気極側セパレータ22の酸化剤流路23は、セル構造体1の空気極2に対向するように配置され、燃料極側セパレータ52の燃料流路53は、燃料極3に対向するように配置される。
(第1固体電解質層)
第1固体電解質層は、燃料極3の少なくとも一部を構成する。第1固体電解質層では、燃料流路から導入される燃料ガス(例えば、水素ガス)を酸化して、プロトンと電子とを放出する反応(燃料の酸化反応)が進行する。
第1固体電解質層には、ペロブスカイト型構造(ABO相)を有し、上記式(1)で現される組成を有する金属酸化物を用いることができる。ペロブスカイト型構造のAサイトには、元素Aが入り、Bサイトには、元素B(ホウ素を示すものではない)が入る。Bサイトの一部は、高いプロトン伝導性を確保する観点から、元素Mで置換されている。
元素Bおよび元素Mの合計に対する元素Aの比率xは、高いプロトン伝導性とイオン輸率を確保する観点から、0.95≦x≦1であることが好ましく、0.98≦x≦1であることがより好ましい。また、xが1を越えないことで、元素Aの析出が抑制され、水分の作用によりプロトン伝導体が腐食することを抑制できる。yは、プロトン伝導性を確保する観点から、0<y≦0.5であることが好ましく、0.1<y≦0.3がより好ましい。
元素Aは、Ba(バリウム)、Ca(カルシウム)およびSr(ストロンチウム)よりなる群から選択される少なくとも一種である。なかでも、優れたプロトン伝導性が得られる点で、元素AはBaを含むことが好ましい。元素Aに占めるBaの比率は、50原子%以上であることが好ましく、80原子%以上であることがより好ましい。元素AはBaのみで構成されることが更に好ましい。
元素Bは、Ce(セリウム)およびZr(ジルコニウム)よりなる群から選択される少なくとも一種である。なかでも、耐久性の観点から、元素BはZrを含むことが好ましい。元素Bに占めるZrの比率は、50原子%以上であることが好ましく、80原子%以上であることがより好ましい。元素BはZrのみで構成されることが更に好ましい。
元素Mは、Y(イットリウム)、Yb(イッテルビウム)、Er(エルビウム)、Ho(ホルミウム)、Tm(ツリウム)、Gd(ガドリニウム)、In(インジウム)およびSc(スカンジウム)よりなる群から選択される少なくとも一種である。元素Mはドーパントであって、これにより酸素欠陥が生じ、ペロブスカイト型構造を有する金属酸化物はプロトン伝導性を発現する。
式(1)において、酸素欠損量δは、元素Mの量に応じて決定でき、例えば、0≦δ≦0.15である。金属酸化物における各元素の比率は、例えば、電子プローブマイクロアナライザを使用した波長分散型X線分析 (Wavelength Dispersive X-ray spectroscopy、以下、WDXと称する)を用いて求めることができる。
金属酸化物の具体例としては、イットリウムがドープされたジルコン酸バリウム[BaxZr1-yy3-δ(以下、BZYと称する)]、イットリウムがドープされたセリウム酸バリウム[BaxCe1-yy3-δ(BCY)]、イットリウムがドープされたジルコン酸バリウム/セリウム酸バリウムの混合酸化物[BaxZr1-y-zCey3-δ(BZCY)]などが挙げられる。BZYの具体例として、BaZr0.80.22.9(x=1、y=0.2、δ=0.1)を用いてもよい。BCYの具体例として、BaCe0.80.22.9(x=1、y=0.2、δ=0.1)を用いてもよい。BCYおよびBZYは、400℃~600℃の中温域で高いプロトン伝導性を示す。
第1固体電解質層は、上記金属酸化物の原料と造孔剤(例えば、カーボン)とを混合して、焼結することにより形成することができる。焼結の際に、造孔剤が取り除かれ、多孔質の第1固体電解質層が得られる。
多孔質である第1固体電解質層の細孔の内側壁には、触媒粒子が担持されている。触媒粒子の少なくとも表面には、水素解離反応を促進させる触媒が配されている。触媒粒子の粒子径は、例えば500nm以下であり、10nm~500nm、より好ましくは50nm~200nmである。触媒粒子は、例えば、Ni、Cu、Pt、Pd、および、これらを含む合金、および、Ni-Fe合金などの触媒金属のナノ粒子である。触媒粒子は、例えば、触媒金属のナノ粒子を分散剤とともに分散媒に分散させたナノインクを第1固体電解質層に含浸させることで、第1固体電解質層の細孔内に担持され得る。
触媒粒子の第1固体電解質層の細孔内への担持は、ニッケルを含む溶液(例えば、硝酸ニッケル水溶液)を第1固体電解質層に含浸させることにより行ってもよい。しかしながら、触媒金属のナノ粒子が分散した分散体を第1固体電解質に含浸させる方法は、ニッケル溶液を含浸させる方法と比べて、一回の含浸で、多量の触媒粒子を担持させることができるため好ましい。
第1固体電解質層の厚みは、例えば、10μm~2mmから適宜決定でき、10μm~100μmであってもよい。
(第2固体電解質層)
第2固体電解質層は、固体電解質層4の少なくとも一部を構成する。第2固体電解質層がプロトン伝導性を有する場合、第2固体電解質層は、燃料極3(第1固体電解質層)で生成されたプロトンを空気極2へ移動させる。
第2固体電解質層としては、第1固体電解質層において上述したペロブスカイト型構造のプロトン伝導性金属酸化物を用いることができる。第1固体電解質層の金属酸化物と、第2固体電解質層の金属酸化物とは、金属酸化物の組成が同じであってもよいし、異なっていてもよい。第2固体電解質層は、例えば、上記金属酸化物の原料を焼結することにより形成され得る。
第2固体電解質層の厚みは、例えば、1μm~50μm、好ましくは3μm~20μmである。第2固体電解質層の厚みがこのような範囲であると、固体電解質層4の抵抗を低く抑えられる。
第1および第2固体電解質層には、必要に応じて、原料とともに、バインダなどを加えてもよい。
(空気極)
空気極2は、多孔質の構造を有している。第2固体電解質層(固体電解質層4)がプロトン伝導性を有する場合、空気極2では、第2固体電解質層を介して伝導されたプロトンと、酸化物イオンとの反応(酸素の還元反応)が進行する。酸化物イオンは、酸化剤流路から導入された酸化剤(酸素)が解離することにより生成する。
空気極の材料としては、公知の材料を用いることができる。空気極の材料として、例えば、ランタンを含み、かつペロブスカイト構造を有する化合物(フェライト、マンガナイト、および/またはコバルタイトなど)が好ましく、これらの化合物のうち、さらにストロンチウムを含むものがより好ましい。具体的には、ランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF、La1-x1Srx1Fe1-y1Coy13-δ1、0<x1<1、0<y1<1、δ1は酸素欠損量である)、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM、La1-x2Srx2MnO3-δ1、0<x2<1、δ1は酸素欠損量である)、ランタンストロンチウムコバルタイト(LSC、La1-x3Srx3CoO3-δ1、0<x3≦1、δ1は酸素欠損量である)等が挙げられる。プロトンと酸化物イオンとの反応を促進させる観点から、空気極は、Pt等の触媒を含んでいてもよい。触媒を含む場合、空気極は、触媒と上記材料とを混合して、焼結することにより形成することができる。
空気極は、例えば、上記の材料の原料を焼結することにより形成することができる。必要に応じて、原料とともに、バインダ、添加剤、および/または分散媒などを用いてもよい。
空気極の厚みは、特に限定されないが、例えば、5μm~2mmから適宜決定でき、5μm~40μm程度であってもよい。
図1および図2では、燃料極3を構成する第1固体電解質層の厚みを空気極2の厚みよりも厚くしており、燃料極3(第1固体電解質層)が固体電解質層4(第2固体電解質層)ひいてはセル構造体1を支持する支持体として機能している。なお、燃料極3の厚みを、必ずしも空気極2よりも厚くする必要はなく、例えば、燃料極3の厚みは空気極2の厚みと同程度であってもよい。
(酸化剤流路および燃料流路)
酸化剤流路23は、酸化剤が流入する酸化剤入口と、反応で生成した水や未使用の酸化剤などを排出する酸化剤排出口を有する(いずれも図示せず)。酸化剤としては、例えば、酸素を含むガスが挙げられる。燃料流路53は、水蒸気および炭化水素ガスを含む燃料ガスが流入する燃料ガス入口と、未使用の燃料、反応により生成するHO、N、CO等を排出する燃料ガス排出口を有する(いずれも図示せず)。
(セパレータ)
複数のセル構造体が積層されて、燃料電池が構成される場合には、例えば、セル構造体1と、空気極側セパレータ22と、燃料極側セパレータ52とが、一単位として積層され得る。複数のセル構造体1は、例えば、両面にガス流路(酸化剤流路および燃料流路)を備えるセパレータにより、直列に接続されていてもよい。
セパレータの材料としては、電気伝導性および耐熱性の点で、ステンレス鋼、ニッケル基合金、クロム基合金等の耐熱合金が例示できる。なかでも、安価である点で、ステンレス鋼が好ましい。プロトン伝導性固体酸化物型燃料電池(PCFC:Protomic Ceramic Fuel Cell)では、動作温度が400℃~600℃程度であるため、ステンレス鋼をセパレータの材料として用いることができる。
(集電体)
燃料電池セル10は、燃料極3と燃料極側セパレータ52との間に配置され、燃料極3と接触する燃料極側集電体51を備えていてもよい。燃料極側集電体51は、集電機能に加え、燃料流路53から導入される燃料ガスを燃料極3に拡散させて供給する機能を果たす。燃料電池セル10は、また、空気極2と空気極側セパレータ22との間に配置され、空気極2と接触する空気極側集電体21を備えてもよい。空気極側集電体21は、集電機能に加え、酸化剤流路23から導入される酸化剤ガスを空気極2に拡散させて供給する機能を果たす。
すなわち、空気極側集電体21は、酸化剤流路23の少なくとも一部を形成し、燃料極側集電体51は、燃料流路53の少なくとも一部を形成する。そのため、各集電体は、十分な通気性を有する構造体であることが好ましい。
空気極側集電体および燃料極側集電体に用いられる構造体としては、例えば、銀、銀合金、ニッケル、ニッケル合金等を含む金属多孔体、金属メッシュ、パンチングメタル、エキスパンドメタル等が挙げられる。なかでも、軽量性や通気性の点で、金属多孔体が好ましい。特に、三次元網目状の構造を有する金属多孔体が好ましい。三次元網目状の構造とは、金属多孔体を構成する棒状や繊維状の金属が相互に三次元的に繋がり合い、ネットワークを形成している構造を指す。例えば、スポンジ状の構造や不織布状の構造が挙げられる。
金属多孔体は、例えば、連続空隙を有する樹脂製の多孔体を、前記のような金属で被覆することにより形成できる。金属被覆処理の後、内部の樹脂が除去されると、金属多孔体の骨格の内部に空洞が形成されて、中空となる。このような構造を有する市販の金属多孔体としては、住友電気工業(株)製のニッケルの「セルメット」等を用いることができる。
燃料電池は、上記のセル構造体を用いる以外は、公知の方法により製造できる。
燃料電池セル10がプロトン伝導性の固体電解質(第1固体電解質層および第2固体電解質層)を含む場合、700℃未満、好ましくは、400℃~600℃程度の中温域で作動させることも可能である。この場合、第1固体電解質層内の触媒粒子は、燃料電池セルの作動時においても、(例えば、800℃を超える)高温にさらされることがないため、触媒成分が第1固体電解質層に拡散することによるプロトン伝導性およびイオン輸率の低下も抑制される。よって、燃料電池セル10の使用に伴う性能低下が抑制される。
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(1)燃料極-固体電解質層複合体の作製
BZY(BaZr0.80.22.9)粉末を30体積%、球状炭素(平均粒子径50μm)を70体積%含む粉に、バインダ(和光純薬工業製 ポリビニルブチラール)、分散剤(日油株式会社製、マリアリムAKM-0531)、可塑剤(ナカライテスク株式会社製、フタル酸ジ-n-ブチル)、エタノール、トルエンをよく混合したスラリーを、60℃で乾燥後、高速回転する粉砕プロペラなどを用いて粉砕し、第1固体電解質層用の粉末を得た。
また、BZY(BaZr0.80.22.9)とバインダ(NCB-166、DIC株式会社製)とを7:1の質量比で混合した後、目開き150μmの篩を用いて篩分し、第2固体電解質層用の粉末を得た。
第1固体電解質層用の粉末を内径19mm、深さ3mm程度の金型に詰めて軽く押し固めた。押し固めることによりできた数十~数百μmの隙間に、第2固体電解質層用の粉末を敷き詰め、220MPa程度でプレスし、円柱型のペレットに一軸成型した。成形体を、0.3℃/minの速度で750℃まで昇温し、2時間保持して、球状炭素およびバインダを除去した。その後、1600℃の酸素雰囲気で焼結し、第1固体電解質層と第2固体電解質層とが一体化された前駆体を得た。
Niナノ粒子(平均粒子径100nm)をブチルカルビトール(分散媒)に分散させたNiナノ粒子分散液を準備した。Niナノ粒子分散液を、前駆体の第1固体電解質層に含浸させた。Niナノ粒子分散液を第1固体電解質層に含浸させた前駆体を、アルゴン雰囲気中600℃で、1時間熱処理した。含浸と熱処理を3回繰り返し、燃料極-固体電解質層複合体Xを作製した。
(2)燃料電池の作製
続いて、第2固体電解質層の表面に、空気極の材料であるLSCF(La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83-δ)の粉末と有機溶媒(ブチルカルビトールアセテート)とを混合したLSCFペーストをスクリーン印刷し、120℃で乾燥させ、空気極を形成した。これにより、セル構造体を得た。
空気極の厚みは10μmであった。
上記で得られたセル構造体の燃料極(第1固体電解質層)の表面に、ガス流路を有するステンレス鋼製の燃料極側セパレータを積層し、空気極の表面に、ガス流路を有するステンレス鋼製のカソード側セパレータを積層し、図1に示す構成の燃料電池を作製した。
アノード側セパレータおよびカソード側セパレータのそれぞれに、リード線の一方の端部を接合した。各リード線の他方の端部は、燃料電池の外部に引き出し、各リード線の間の電流値および電圧値を計測できるように、計測器に接続した。
[比較例1]
(1)燃料極-固体電解質層複合体の作製
NiOと、BZY(BaZr0.80.22.9)粉末とを、バインダ(ポリビニルアルコール)、界面活性剤(ポリカルボン酸型界面活性剤)、および適量のエタノールとともに、ボールミルで混合し、造粒した。このとき、NiOとBZYとは体積比70:30で混合した。バインダ、界面活性剤の量は、NiOおよびBZYの総量100質量部に対して、それぞれ、10質量部および0.5質量部とした。得られた造粒物を一軸成形して、第1前駆体層(直径16mm、厚み0.7mm)の成形体を得た。
BZY(BaZr0.80.22.9)と、バインダ(エチルセルロース)と、界面活性剤(ポリカルボン酸型界面活性剤)と、適量のブチルカルビトールアセテートとを混合することにより第2固体電解質層のペーストを調製した。バインダおよび界面活性剤の量は、第2プロトン伝導体100質量部に対して、それぞれ、6質量部および0.5質量部とした。第2固体電解質層のペーストを成形体の一方の表面にスクリーン印刷により塗布した。
塗膜形成後の成形体を、750℃で10時間加熱し、脱バインダ処理を行った。次いで、成形体を、大気雰囲気下、1600℃で10時間焼成し、燃料極-固体電解質層複合体Yを作製した。
これ以外については、実施例1と同様にして、燃料電池を作製し、評価した。作製後の燃料電池を評価装置に組み込み、燃料極に水素ガスを流してNiOをNiに変換させた。
図3は、SEMの反射電子画像であり、実施例1における燃料極-固体電解質層複合体Xの厚み方向の断面写真を示す。図3において、燃料極3(第1固体電解質層)内で黒色(あるいは、濃い灰色)で略円形状の部分は細孔の断面であり、白色の部分はBZY層または触媒粒子を示している。
図4Aは、図3において、ある細孔の近傍を2000倍に拡大した拡大図であり、図4Bは図4Aの一部をさらに拡大し、図3に対して10000倍に拡大した断面図である。細孔の内側壁がNi粒子で覆われていることが分かる。図4Bが示すように、Ni粒子は、ナノ粒子の状態で内側壁に堆積して、ナノ粒子の層を形成している。ナノ粒子とナノ粒子の間には、隙間が存在している。
上記の燃料極-固体電解質層複合体Xを用いた燃料電池は、600℃の運転条件においても、1.05V程度の良好なOCV(開回路電圧)と高い電流密度を示した。
これに対し、図5は、SEMの反射電子像であり、比較例1において、評価後の燃料電池を分解して得られた燃料極-固体電解質層複合体Yの厚み方向の断面写真である。図5は、1000倍に拡大した拡大図であり、図6は、ある細孔の近傍を5000倍に拡大した拡大図である。図5および図6において、黒色部分は空隙であり、灰色の部分はニッケル金属を、白色(より薄い灰色)の部分はBZY層を、それぞれ示している。
細孔の内側壁の一部において、Ni粒子の表面が露出している。しかしながら、Ni粒子の粒径が大きく、第1固体電解質層のうち相当量をNiが占めているにも拘わらず触媒の反応面積が小さい。また、複合体Yの製造において、焼結時の1600℃の高温によってNiの一部が第1および第2固体電解質層へ拡散し、プロトン伝導性が低下している。
燃料極-固体電解質層複合体Yを用いた燃料電池のOCVは、600℃の運転条件において0.93~1.02Vであった。OCVのばらつきは、第2固体電解質層の緻密さが異なるためと考えられる。
本発明の実施形態に係る燃料極-固体電解質層複合体は、固体電解質型燃料電池(SOFC)での利用に適し、特に400℃~600℃の中温域で動作するSOFCに適している。
1:セル構造体
2:空気極
3:燃料極
4:固体電解質層
5:燃料極-固体電解質層複合体
10:燃料電池
21、51:集電体
22、52:セパレータ
23:酸化剤流路
53:燃料流路

Claims (9)

  1. 多孔質の第1固体電解質層と、前記第1固体電解質層よりも小さな空隙率を有する第2固体電解質層と、が一体化された前駆体を得る第1工程と、
    前記前駆体の前記第1固体電解質層の細孔内に、触媒粒子を付与する第2工程と、を有し、
    前記第2工程が、前記触媒粒子が分散した分散体を前記細孔内に含有させた後、200℃~1100℃で焼成することを含む、燃料極-固体電解質層複合体の製造方法。
  2. 前記分散体に含まれる前記触媒粒子の粒子径は、10nm~500nmであり、
    前記第1固体電解質層の細孔径は、5μm以上である、請求項1に記載の燃料極-固体電解質層複合体の製造方法。
  3. 前記触媒粒子は、ニッケル粒子を含む、請求項1または請求項2に記載の燃料極-固体電解質層複合体の製造方法。
  4. 前記第1工程が、前記第1固体電解質層の原料と造孔材とを含む第1前駆体層と、前記第2固体電解質層の原料を含み、前記造孔材を含まない第2前駆体層と、が積層した積層体を得る工程と、
    前記造孔材の少なくとも一部を除去する工程と、を有する、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の燃料極-固体電解質層複合体の製造方法。
  5. 前記第1前駆体層を、前記第1固体電解質層の原料と前記造孔材とを含む第1ペーストの塗膜から形成し、および/または、前記第2前駆体層を、前記第2固体電解質層の原料を含み前記造孔材とを含まない第2ペーストの塗膜から形成する、請求項4に記載の燃料極-固体電解質層複合体の製造方法。
  6. 前記第1前駆体層および前記第2前駆体層の少なくともいずれか一方を、加圧成形により形成する、請求項4に記載の燃料極-固体電解質層複合体の製造方法。
  7. 前記第1工程において、前記第1前駆体層と前記第2前駆体層とを重ねた状態で加圧成形し、前記積層体を得る、請求項6に記載の燃料極-固体電解質層複合体の製造方法。
  8. 前記第2工程の前に、前記積層体を1500℃以上で焼成する、請求項4~請求項7のいずれか1項に記載の燃料極-固体電解質層複合体の製造方法。
  9. 前記第1固体電解質層および前記第2固体電解質層が、ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(1):
    x1-yy3-δ
    で表される金属酸化物を含み、
    元素Aは、Ba、CaおよびSrよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
    元素Bは、CeおよびZrよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
    元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、InおよびScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
    δは酸素欠損量であり、0.95≦x≦1、0<y≦0.5を満たす、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の燃料極-固体電解質層複合体の製造方法。
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