JP7161670B2 - 立方晶窒化ほう素基焼結体および切削工具 - Google Patents
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Description
特に、cBN焼結体の結合相として、Al化合物粒子を内包したTi化合物粒子が存在する結合相組織を形成することにより、靱性を低下させることなく耐クラック伝播性を向上させたcBN焼結体に関し、さらに、靱性と耐クラック伝播性の向上によって欠損の発生を抑制したcBN焼結体製切削工具に関する。
そして、切削加工工具用材料としての性能の改善を図るという観点から、cBN焼結体の強度、耐熱性、靭性、硬さ等をさらに向上させるべく、従来からいくつかの提案がなされている。
より具体的には、例えば、前記Ti系化合物群は、少なくとも第1成分と第2成分とを含む2つ以上の成分により構成され、前記複合焼結体の少なくとも一断面における前記Ti系化合物群の粒度分布を、横軸を所定の粒径範囲で区分し、縦軸を前記各粒径範囲の粒子が占める割合とする粒度分布曲線で示した場合、前記粒度分布曲線は、極大値を2つ以上有し、その極大値のうち最大の極大値を示す場合の粒径をd1とすると、前記第1成分は、平均粒径を前記d1とし、前記d1は、0.05μm以上0.15μm以下であり、また、2番目に大きい極大値を示す場合の粒径をd2とすると、前記第2成分は、平均粒径を前記d2とし、前記d2は、0.15μm以上0.5μm以下である複合焼結体が提案されている。
そして、この複合焼結体をドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ等の切削工具に用いた場合には、耐衝撃チッピング性と耐クレータ摩耗性との両者を十分に向上させることにより工具寿命を長くすることができるとされている。
しかし、結合相を構成する粒子を単に微細化しただけでは、結合相の粒子界面を伝播するクラックが直線的に伝播してしまい、逆に、結合相を構成する粒子を粗粒化した場合には、粒内を伝播する直線的なクラックが発生する。
そのため、前記特許文献1、2に示されるcBN焼結体を切削工具の切れ刃とし、これを強断続切削条件の加工に供した場合には、刃先に作用する断続的・衝撃的な高負荷によって発生したクラックがcBN焼結体中を直線的に伝播することで靱性が低下するため、これが欠損発生の原因となり、工具寿命が短命となるという課題があった。
したがって、耐クラック伝播性と靱性にすぐれたcBN焼結体の開発が望まれている。
そして、このような結合相組織を有するcBN焼結体は、ほぼ同量のTi化合物粒子(但し、Ti化合物粒子に、Al化合物粒子は内包されていない)を含有する従来のcBN焼結体に比して、硬度、強度、耐熱性とともに、すぐれた耐クラック伝播性と靱性を備えることを見出したのである。
例えば、図1に示すように、従来の一般的なcBN焼結体の作製工程としては、結合相形成用の原料粉末(例えば、Ti化合物粉末、金属Al粉末およびAl2O3粉末等)をボールミルで混合し、乾燥した後真空焼結し、これをボールミルで粉砕して混合粉末(以下、この混合粉末を「混合粉末A」という)を作製し、その後、前記混合粉末Aと硬質成分であるcBN粒子を超硬製ポット中へ投入してボールミルで混合した後、高圧高温焼結することによってcBN焼結体を作製していた。
図2に、本発明によるcBN焼結体の作製工程の概略説明図を示す。
そして、このような作製工程によってcBN焼結体を作製することによって、前述したように、Al2O3粒子等のAl化合物粒子をその粒内に内包したTiN粒子等のTi化合物粒子が存在する結合相組織を有するcBN焼結体を作製することができ、そして、このような結合相組織を有するcBN焼結体は、硬度、強度、耐熱性とともにすぐれた耐クラック伝播性と靱性を備えるのである。
「(1)立方晶窒化ほう素粒子と結合相からなる立方晶窒化ほう素基焼結体において、前記結合相は平均粒径が150nm以上646nm以下のTi化合物粒子を含み、しかも、該Ti化合物粒子のうちで、Al化合物粒子を内包するTi化合物粒子が存在する結合相組織を有することを特徴とする立方晶窒化ほう素基焼結体。
(2)立方晶窒化ほう素焼結体の結合相の全体積に対して、前記Al化合物粒子を内包するTi化合物粒子の体積割合が5体積%以上60体積%以下であることを特徴とする(1)に記載の立方晶窒化ほう素基焼結体。
(3)前記Al化合物粒子を内包するTi化合物粒子に対する、Ti化合物粒子に内包されるAl化合物粒子の体積割合は、3体積%以上15体積%以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載の立方晶窒化ほう素基焼結体。
(4)前記Ti化合物粒子は、平均粒径が150nm以上500nm以下であることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の立方晶窒化ほう素基焼結体。
(5)前記Ti化合物粒子は、TiN粒子であることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載の立方晶窒化ほう素基焼結体。
(6)切削工具の切れ刃が、(1)乃至(5)のいずれかに記載の立方晶窒化ほう素基焼結体から構成されていることを特徴とする立方晶窒化ほう素基焼結体製切削工具。」
を特徴とするものである。
これは、平均粒径が0.3μm~12μmのcBN粒子が焼結体内に分散することにより、工具使用中に工具表面のcBN粒子が脱落して生じる刃先の凹凸形状を起点とするチッピングを抑制するだけでなく、工具使用中に刃先に加わる応力により生じるcBN粒子と結合相との界面から進展するクラック、あるいはcBN粒を貫通して進展するクラックの伝播を焼結体中に分散したcBN粒子により抑制することにより、耐欠損性を向上させることができるからである。
また、本発明で用いるcBN粒子の平均粒径は、0.5~8μmの範囲内であることがより好ましく、また、さらに好ましくは、0.5~5μmの範囲内である。
なお、cBN粒子の平均粒径は、例えば、cBN焼結体の断面組織について、SEMを用いてcBN焼結体組織を観察し、二次電子像を取得し、得られた画像内のcBN粒子の部分を画像処理にて抜き出し、画像解析より求めた各cBN粒子の最大長を求め、それを各粒子の直径とし、複数個所においてcBN粒子の直径を測定し、これらの測定値を平均することによって、cBN粒子の平均粒径とする。
一方、cBN粒子の含有体積割合が95体積%を超える場合には、切削加工用工具として使用した場合に、焼結体中にクラックの起点となる空隙が生成しやすくなり、耐欠損性が低下することから、cBN焼結体におけるcBN粒子の含有体積量は40~85体積%とすることが好ましい。
また、より好ましいcBN粒子の含有体積割合は50~80体積%であり。さらに好ましいのは50~75体積%である。
なお、cBN焼結体に占めるcBN粒子の含有体積割合は、cBN焼結体の断面組織をSEMによって観察し、得られた二次電子像内のcBN粒子の部分を画像処理によって抜き出し、画像解析によってcBN粒子が占める面積を算出し、1画像内のcBN粒子が占める割合を求め、少なくとも3画像を処理し求めた値の平均値をcBN粒子の含有体積割合として求める。なお、画像処理に用いる観察領域としては、例えば、cBN粒子の平均粒径3μmの場合、15μm×15μm程度の視野領域が望ましい。
本発明でいうTi化合物とは、例えば、TiN、TiCN、TiCであり、また、Al化合物とは、例えば、Al2O3、AlNである。
本発明でいう「Ti化合物粒子に内包されたAl化合物粒子」あるいは「Al化合物粒子を内包するTi化合物粒子」とは、例えば、Al化合物粒子がAl2O3、また、Ti化合物粒子がTiNである場合には、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた断面観察(図3(a)参照)において、まず、Al、O、Ti、Nについての元素マッピングを行い、次いで、2値化処理を行い(図3(b)~(e)参照)、AlとOとの重なった領域をAl2O3であるとし、また、TiとNの重なった領域をTi化合物であるとする。次いで、TiNの連続している領域をTiN粒子であるとして、該TiN粒子の境界に接しておらず、かつ、TiN粒子の境界内に存在するAl2O3を特定し、これを「Ti化合物粒子に内包されたAl2O3粒子」であると定義し、また、該Al2O3粒子を内包するTi化合物粒子を「Al2O3粒子を内包するTi化合物粒子」と定義する。
これは、cBN焼結体に発生したクラックは、結合相を構成するTi化合物粒子が微粒の場合には、クラックは主として粒界を伝播するが、Ti化合物粒子が粗粒である場合には、粒内を貫通して伝播する傾向がある。しかし、本発明においては、Ti化合物粒子を150nm~646nmの粗粒にして、クラックが粒界ではなく粒内を貫通して伝播・進展しようとする場合であっても、Ti化合物粒子に内包されているAl化合物によって、粒内を貫通しようとしたクラックの伝播・進展を停止・抑制することにより、靱性を低下させることなく耐クラック伝播性を向上させることができるからである。
ただ、前記Al化合物粒子を内包するTi化合物粒子の体積割合がcBN焼結体の結合相の5体積%未満であると、粒内のクラック伝播を抑制するAl化合物粒子を含むTi化合物粒子の数が少ないために、クラックの伝播抑制効果の向上が期待できず、一方、Al化合物粒子を内包するTi化合物粒子の体積割合が60体積%を超えると、結合相中に存在するAl化合物粒子の量が過多になり、クラックがAl化合物粒子を起点にして伝播する恐れがあるため、cBN焼結体の結合相に対する前記Al化合物粒子を内包するTi化合物粒子の体積割合は5体積%以上60体積%以下とすることが好ましい。
これは、Ti化合物粒子がその内部に平均体積割合で3体積%以上15体積%以下のAl化合物粒子を内包することによって、Ti化合物粒子内を貫通するクラックの伝播・進展が抑制され、その結果として、cBN焼結体の靱性も向上するからである。
ただ、Ti化合物粒子に内包されるAl化合物粒子の平均体積割合が3体積%未満であると、クラックの伝播を抑制する粒子数が少ないため、クラックの伝播を十分に抑制することができず、一方、Ti化合物粒子に内包されるAl化合物粒子の平均体積割合が15体積%を超えるようになると、Ti化合物粒子に内包されたAl化合物粒子の量が過多になるため、クラックがAl化合物粒子を起点にして伝播する恐れがある。
したがって、Ti化合物粒子に内包されたAl化合物粒子の含有量は、3体積%以上15体積%以下とする。
本発明では、Ti化合物粒子を粗粒とし、その平均粒径を150nm以上646nm以下とすることで、まず、cBN焼結体の耐クレータ摩耗性、靱性を確保し、結合相が粗粒であるために生じるクラックの粒内の伝播・進展を、Ti化合物粒子に内包されたAl化合物粒子を結合相中に存在させる(好ましくは、5体積%以上60体積%以下)ことによって抑制することで、耐クラック伝播性の向上を図り、工具刃先に高負荷が作用する切削条件下での耐欠損性の向上を図る。
ここで、結合相を構成するTi化合物粒子の平均粒径が150nm未満であると、クラックは粒界を伝播・進展するようになることから、Ti化合物粒子に内包されたAl化合物粒子を存在させたとしても、クラックの伝播・進展を抑制する効果は少なくなり、一方、結合相を構成するTi化合物粒子の平均粒径が500nmを超えると、粒界が少なくなり、クラックの伝播を迂回させることによる伝播・進展の抑制効果が低下するため、cBN焼結体の結合相を構成するTi化合物粒子の平均粒径を150nm以上500nm以下とすることが好ましい。
Ti化合物粒子の平均粒径の測定・算出は、例えば、以下のようにして求めることができる。
まず、cBN焼結体の断面の観察領域を、TEMに付属する結晶方位解析装置を用いて観察する。より具体的に言えば、透過型電子顕微鏡にTi化合物粒子を観察するために結晶粒径と同程度の厚さ(50nm)以下に研磨された切片をセットし、200kVに加速された電子線を前記切片に照射することで、400nm×500nmの範囲で観察を行う。
前記の範囲で結晶方位のマップデータを得る解析方法は以下の通りである。
前記の切片に、0.5~1.0度に傾けた電子線をPrecession照射しながら、電子線を任意のビーム径及び間隔でスキャンし、連続的に電子線回折パターンを取り込み、個々の測定点の結晶方位を解析する。なお、本測定に用いた回折パターンの取得条件は、カメラ長20cm、ビームサイズ2.2nmで、測定ステップは2.0nmである。
次に、得られた電子線回折パターンから個々の結晶粒を判別するための解析方法は、以下の通りである。
まず、測定点の隣接点同士の結晶方位が5度以上離れている場合に粒界とし、粒界以外の部分を結晶粒、つまりTi化合物粒子と定義した。
この画像を縦4枚×横4枚で連結させて縦1600nm×横2000nmの画像とし、cBN粒子の平均粒径を求めるための前述の手順と同様の手順でTi化合物粒子の平均粒径を求める。
このような測定・算出を複数(3箇所以上)の観察領域で実施し、その平均値を、Ti系化合物粒子の平均粒径(nm)とする。
図2とともに、それぞれの工程をより具体的に説明すれば、以下のとおりである。
≪工程A≫
図2の「従来工程(工程A)」として示すように、cBN焼結体の結合相形成成分であるTi化合物粉末、金属Al粉末およびAl2O3粉末をボールミルで湿式混合し、乾燥・成型した後、1Pa以下の真空雰囲気中で800-1200℃の温度範囲(例えば、1000℃)で所定時間(例えば、30分)真空焼結する。
ボールミルによる湿式粉砕で所望の粒径(例えば、平均粒径100~1000nm)まで粉砕・乾燥させて、これを混合粉末Aとする。
≪工程B≫
図2の「Al化合物粒子を内包するTi化合物粒子を作製する工程(工程B)」として示すように、例えば、メタル法により、Al化合物粒子を内包するTi化合物粉末を作製する。
具体的にいえば、図2において、Ti粉末をまず水素化して水素化チタンを作製し、これを粉砕した後、Al化合物粉末(例えば、Al2O3粉末)とともにボールミルで混合し、スラリー溶液を得る。
得られたスラリー溶液を取り出し、乾燥させてから成形し、所定の焼結雰囲気中で800-1200℃の温度範囲(例えば、1000℃)で所定時間(例えば、30分)焼結する。
ここで、TiNを結合相主成分とするcBN焼結体を作製しようとする場合には、メタル法で知られているように、前記雰囲気を窒化処理雰囲気とすればよく、また、TiCを結合相主成分とする場合には、炭化処理雰囲気にすればよい。
なお、TiCNを結合相主成分とするcBN焼結体を作製しようとする場合には、例えば、前記メタル法で作製したTiN粉末とTiC粉末を混合し、真空雰囲気中において1800℃で熱処理することにより、TiCN粉末を合成することができる。
ついで、この焼結体を、再びボールミルなどで粉砕したのち分級することにより平均粒径100~1000nmのAl化合物を内包したTi化合物粒子からなる混合粉末Bを作製する。
≪工程C≫
図2の「工程C」として示すように、工程Aで作製した混合粉末Aと、工程Bで作製した混合粉末Bと、cBN焼結体の硬質相成分であるcBN粒子を、Al化合物(例えば、Al2O3)を内包したTi化合物(例えば、TiN)粒子を壊さないように超音波法で混合し(なお、従来のボールミル法では、Al化合物を内包したTiN粒子を破壊する)、乾燥させ、その後、例えば、3~8GPaの圧力、かつ、1000~1800℃の温度範囲の焼結条件で所定時間高圧高温焼結する。
ここで、超音波法による混合条件は、例えば、スラリー濃度7wt%で出力180Wにより30秒ごとに15秒のインターバルをおいて15分間混合する。
そして、このような結合相組織を備えたcBN焼結体は、硬度、強度、耐熱性にすぐれるとともに、すぐれた靱性、すぐれた耐クラック伝播性を有する。
本発明のcBN焼結体を切削工具材料として用いる場合には、例えば、cBN焼結体をWC基超硬合金製インサート本体のろう付け部(コーナー部)にろう付けし、必要に応じ、研磨加工、ホーニング加工を施すことにより、cBN焼結体を切れ刃とする所望のインサート形状をもった切削工具を作製することができる。
cBN焼結体の断面を試料厚みが100nm以下になるように研磨し、cBN焼結体の結合相領域をTEMにより観察する。ここで試料厚みを100nm以下にするのはTEM観察時に粒子が重なっていると内包された粒子か重なっただけの粒子か判断できなくなるからである。
観察倍率は、観察視野の対角線長が、求めたTi化合物粒子の平均粒径の10倍になるように調整し(観察倍率1)、Al化合物粒子を内包しているTi化合物粒子の結合相に対する含有量を測定する。Ti化合物粒子の平均粒径を求めるにあたり、Ti化合物粒子が少なくとも10個観察できる視野よりTi化合物粒子の粒径を算出し、その平均値とする。観察倍率1の観察倍率ではTi化合物粒子にAl化合物粒子が内包されているか正確に特定できないため、観察倍率をTi化合物粒子の外接円の直径が観察視野の対角線長の1/4倍以上になるように調整した視野(観察倍率2)において、Ti化合物粒子にAl化合物粒子が内包されているかの特定と内包された粒子の含有量の測定を行う。
図3(a)は、TiN粒子にAl2O3粒子が内包された結合組織を有するcBN焼結体の断面のTEM観察の一例を示すが、Ti,Al,O,Nの元素マッピングを行い、2値化処理して得られたマッピング像(図3(b)~(e)参照)のTiとN、AlとOを重ね合わせて重なった部分をそれぞれTiNとAl2O3とする。
TiN粒子に内包されたAl2O3粒子においては、観察倍率2の重ね合わせた像から、TiNの連続している領域をTiN粒子であるとして、該TiN粒子の境界に接しておらず、かつ、TiN粒子の境界内に存在するAl2O3粒子を特定し、これを、TiN粒子に内包されたAl2O3粒子であると特定する。また、2値化処理した像から前記cBN粒子の体積を求めた測定方法と同様な測定方法で、TiN粒子とAl2O3粒子の含有量を測定し、観察倍率1の視野内のTiN粒子に内包されているAl2O3粒子の含有量を算出する。Al2O3粒子を内包しているTiN粒子の結合相に対する含有量は、観察倍率1を用いて、前記2値化処理した像からAl2O3粒子を内包しているTiN粒子のみを抽出し、前記cBN粒子の体積を求めた測定方法と同様な測定方法で、含有量を算出する。
2値化処理には画像処理ソフト『imageJ』を用いて、元素がある領域を黒として2値化処理を行った。また2値化処理した画像の重ね合わせ画像は、例えば、TiとNの画像を重ねる場合、Nの画像の白と黒の領域を反転させ、Tiの画像からNの画像を引くことで得られる。
したがって、切削工具の切れ刃部を、本発明のcBN焼結体で構成した場合には、高負荷が作用する合金鋼等の断続切削加工等において、クラックの伝播・進展等に起因する欠損の発生を抑制することができ、その結果、長期の使用にわたってすぐれた切削性能を発揮する。
≪工程A≫
cBN焼結体の結合相の原料粉末として、5~50μmの範囲内の平均粒径を有するTi化合物(表1の種別参照)粉末、金属Al粉末、Al2O3粉末を用意し、これらの原料粉末をボールミル中で湿式混合し、乾燥した後、成形体を作製した。
この成形体を、1Pa以下の真空中で、1000℃で30分間保持して真空焼結した。
ついで、この焼結体を、ボールミル中で湿式粉砕し、乾燥することにより、平均粒径
150~700nmの混合粉末Aを作製した(図2の「工程A」参照)。
なお、上記工程Aおよび後記する工程Bにおけるボールミルでの混合あるいは粉砕は、超硬合金製ポットに、超硬合金製ボールと有機溶剤とともに被処理粉末を封入して混合あるいは粉砕を行った。
≪工程B≫
上記工程Aとは別工程の工程Bで、次のとおり、原料粉末Bを作製した。
まず、Ti粉末を水素化して水素化Ti粉末を作製し、これをAl化合物(表1の種別参照)粉末と混合し、この混合粉末をN2ガス雰囲気中で窒化処理し、Al化合物粒子を内包するTiN粒子を作製した。同様に混合粉末を炭化処理し、Al化合物粒子を内包するTiC粒子を作製した。
また、Al化合物粒子を内包するTiN粒子とAl化合物粒子を内包するTiC粒子をそれぞれ作製した後、これを混合粉末とし、これを、1800℃の真空中で熱処理することにより、Al化合物粒子を内包するTiCN粒子を作製した。
次いでこの混合粉末をボールミル中で湿式粉砕し、乾燥し、ついで、遠心分離を行い、粒径が150~700nmの粉末を採取し、Al化合物粒子を内包するTi化合物粒子を含有する混合粉末Bを作製した(図2の「工程B」参照)。
≪工程C≫
工程Aで作製した前記混合粉末Aと、工程Bで作製した前記混合粉末Bと、平均粒径3μmのcBN粒子を、cBN含有量が50vol%になるように配合し、例えば、スラリー濃度7wt%で出力180Wにより30秒ごとに15秒のインターバルをおいて15分間混合するという条件の超音波法で混合し、乾燥させ、その後、3~6GPaの圧力、かつ、1000~1600℃の温度範囲の焼結条件として、6GPaかつ1500℃で高圧高温焼結することによって、表1に示す本発明のcBN焼結体1~9(「実施例1~9」という)を作製した(図2の「工程C」参照)。
まず、Ti化合物(表1の種別参照)粉末、金属Al粉末、Al2O3粉末を用意し、これらの原料粉末をボールミル中で湿式混合し、乾燥した後、成形体を作製した。
この成形体を、1Pa以下の真空中で、1000℃で30分間保持して真空焼結した。
ついで、この焼結体を、ボールミル中で湿式粉砕し、乾燥することにより、平均粒径0.3~0.9μmの混合粉末(便宜上、この粉末を「混合粉末A」とよぶ)を作製した。
この混合粉末Aと平均粒径3μmのcBN粒子を、cBN含有量が50vol%になるようにボールミルで混合し、乾燥させ、その後、3~6GPaの圧力、かつ、1000~1600℃の温度範囲の焼結条件で高圧高温焼結することによって、表1に示す比較例1~5を作製した。
即ち、比較例1~5の製法は、本発明焼結体1~9の製法における前記工程Bを設けていない点、cBN粒子との混合を超音波法ではなくボールミルで行っている点で異なっている。
しかし、cBN粒子の平均粒径および含有割合については、上記に限定されるものではなく、各種の値をとることができる。
なお、cBN焼結体におけるcBN粒子の平均粒径(μm)、cBN粒子の含有割合(vol%)は、次のようにして算出した。
cBN粒子の平均粒径については、cBN焼結体の断面組織を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察して、二次電子像を得て、得られた画像内のcBN粒子の部分を画像処理にて抜き出し、画像解析より求めた各粒子の最大長を求め、それを各粒子の直径とし各粒子が理想球であると仮定しての体積を計算した。
少なくとも3画像から求めたcBN粒子の直径の平均値をcBNの平均粒径(μm)として、cBN粒子の体積%を算出した。なお、画像処理に用いる観察領域は、15μm×15μmが好適である。
また、実施例では焼結条件を6GPa1500℃と一定にしているが、焼結条件によって切削性能の優劣は変化しない。
まず、cBN焼結体の断面の観察領域を、TEMに付属する結晶方位解析装置を用いて観察する。より具体的に言えば、透過型電子顕微鏡にTi化合物粒子を観察するために結晶粒径と同程度の厚さ(50nm)以下に研磨された切片をセットし、200kVに加速された電子線を前記切片に照射することで、400nm×500nmの範囲で観察を行う。
次に、以下のようにして、前記の範囲で結晶方位のマップデータを得た。
前記の切片に、0.5~1.0度に傾けた電子線をPrecession照射しながら、電子線を任意のビーム径及び間隔でスキャンし、連続的に電子線回折パターンを取り込み、個々の測定点の結晶方位を解析する。なお、本測定に用いた回折パターンの取得条件は、カメラ長20cm、ビームサイズ2.2nmで、測定ステップは2.0nmである。
次に、得られた電子線回折パターンから個々の結晶粒を判別するための解析方法は、以下の通りである。
まず、測定点の隣接点同士の結晶方位が5度以上離れている場合に粒界とし、粒界以外の部分を結晶粒、つまりTi化合物粒子と定義した。
この画像を縦4枚×横4枚で連結させて縦1600nm×横2000nmの画像とし、cBN粒子の平均粒径を求めるための前述の手順と同様の手順でTi化合物粒子の平均粒径を求めた。
このような測定・算出を複数(3箇所以上)の観察領域で実施し、その平均値を、Ti系化合物粒子の平均粒径(nm)とした。
cBN焼結体の断面を試料厚みが100nm以下になるように研磨し、cBN焼結体の結合相領域をTEMにより観察した。ここで試料厚みを100nm以下にしたのはTEM観察時に粒子が重なっていると内包した粒子か重なっただけの粒子か判断できなくなるからである。
観察倍率は、観察視野の対角線長が、求めたTi化合物粒子の平均粒径の10倍になるように調整し(観察倍率1)、Al化合物粒子を内包しているTi化合物粒子の結合相に対する含有量を測定した。ただし、この観察倍率1の観察倍率ではTi化合物粒子にAl化合物粒子が内包されているか正確に特定できないため、観察倍率をTi化合物粒子の外接円の直径が観察視野の対角線長の1/4倍以上になるように調整した視野(観察倍率2)において、Ti化合物粒子にAl化合物粒子が内包されているかの特定と内包された粒子の含有量の測定をTEM観察で行った。
例えば、Ti化合物粒子がTiNであり、また、Al化合物粒子がAl2O3の場合には、TEM観察でTi,Al,O,Nの元素マッピングを行い、2値化処理して得られたマッピング像のTiとN、AlとOを重ね合わせて重なった部分をそれぞれTiNとAl2O3とした。TiN粒子に内包されたAl2O3粒子においては、観察倍率2の重ね合わせた像から、TiNの連続している領域をTiN粒子であるとして、該TiN粒子の境界に接しておらず、かつ、TiN粒子の境界内に存在するAl2O3粒子を特定し、これを、TiN粒子に内包されたAl2O3粒子であると特定した。
また、2値化処理した像から前記cBN粒子の体積割合を求めた測定方法と同様な測定方法で、Al2O3粒子とTiN粒子の体積割合を測定し、観察倍率1の視野内のTiN粒子に内包されているAl2O3粒子の体積割合を算出した。Al2O3粒子を内包しているTiN粒子の結合相に対する体積割合は、観察倍率1を用いて、前記2値化処理した像からAl2O3粒子を内包しているTiN粒子のみを抽出し、前記cBN粒子の体積を求めた測定方法と同様な測定方法で、体積割合を算出した。
表1に、これらの値を示す。
切削条件:
被削材:JIS・SCr420の(HRC58-62)丸棒(ただし、被削材の軸方向に等間隔で4本のスリットあり)
切削速度: 240 m/min、
送り量:0.15mm/rev、
切込量:0.10mm
条件:乾式
上記の乾式強断続切削加工試験において、切削工具の切れ刃がチッピングを発生するまでの断続回数(衝撃回数)あるいは欠損発生により寿命に至るまでの断続回数(衝撃回数)を工具寿命とし、断続回数300回毎に刃先を観察し、刃先の状態を確認した。
表1に、本発明のcBN焼結体切削工具1~9および比較例のcBN焼結体切削工具1~5の切削試験結果を示す。
特に、Al化合物粒子を内包するTi化合物粒子の体積割合が5体積%以上60体積%以下、かつ、Ti化合物粒子に内包されるAl化合物粒子の体積割合が3体積%以上15体積%以下、さらに、Ti化合物粒子の平均粒径が150nm以上500nm以下である実施例1~5においては、寿命に至るまでの衝撃回数が際立って多く、長寿命であることが分かる。
特に、比較例1、2、4、5は、Ti化合物の平均粒径が本発明で好ましいとされる150nm以上500nm以下の範囲内であるにもかかわらず、Al化合物粒子を内包するTi化合物粒子が存在しないため、靱性、耐クラック伝播性が劣り、このため、欠損により短時間で寿命に至っていることが分かる。
Claims (6)
- 立方晶窒化ほう素粒子と結合相からなる立方晶窒化ほう素基焼結体において、前記結合相は平均粒径が150nm以上646nm以下のTi化合物粒子を含み、しかも、該Ti化合物粒子のうちで、Al化合物粒子を内包するTi化合物粒子が存在する結合相組織を有することを特徴とする立方晶窒化ほう素基焼結体。
- 立方晶窒化ほう素焼結体の結合相の全体積に対して、前記Al化合物粒子を内包するTi化合物粒子の体積割合が5体積%以上60体積%以下であることを特徴とする請求項1に記載の立方晶窒化ほう素基焼結体。
- 前記Al化合物粒子を内包するTi化合物粒子に対する、Ti化合物粒子に内包されるAl化合物粒子の体積割合は、3体積%以上15体積%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の立方晶窒化ほう素基焼結体。
- 前記Ti化合物粒子は、平均粒径が150nm以上500nm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の立方晶窒化ほう素基焼結体。
- 前記Ti化合物粒子は、TiN粒子であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の立方晶窒化ほう素基焼結体。
- 切削工具の切れ刃が、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の立方晶窒化ほう素基焼結体から構成されていることを特徴とする立方晶窒化ほう素基焼結体製切削工具。
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