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JP7009472B2 - スパッタリングターゲット - Google Patents

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Description

本発明はスパッタリングターゲットに関し、詳しくは、少なくともYおよびMgを含有するスパッタリングターゲットに関する。
建物や乗り物等の窓ガラスやインテリア材料等に調光素子が用いられている。特に近年、冷暖房負荷の低減や、照明負荷の削減、快適性向上等の観点から、調光素子に対する需要や期待が高まっている。
調光素子としては、液晶材料やエレクトロクロミック材料を用い、電界の印加により光の透過率を制御する電界駆動方式;温度により光透過率が変化するサーモクロミック材料を用いたサーモクロミック方式;雰囲気ガスの制御により光の透過率を制御するガスクロミック方式が開発されている。
光透過率の制御方式としては、調光材料による光の透過および散乱をスイッチングする方法、光の透過および吸収をスイッチングする方法、光の透過および反射をスイッチングする方法が挙げられる。これらの中でも、調光材料の水素化および脱水素化により、光の透過および反射をスイッチングする水素活性型の調光素子は、外光を反射して熱の流入を防止できることから遮熱性に優れ、高い省エネルギー効果が得られるという利点を有する。また、この調光素子は、水素化および脱水素化をガスクロミック方式によりスイッチングできるので、大面積化および低コスト化が可能である。
水素化および脱水素化により透明状態および反射状態を可逆的にスイッチングできる水素活性型の調光材料としては、イットリウム、ランタン、ガドリニウム等の希土類金属や、希土類金属とマグネシウムとの合金、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属とマグネシウムとの合金、およびニッケル、マンガン、コバルト、鉄等の遷移金属とマグネシウムとの合金が知られている。特に、調光材料としてマグネシウム合金を用いた場合、水素化マグネシウムの可視光透過率が高いことから、透明状態における光透過率の高い調光素子が得られる。
マグネシウム合金を用いた調光素子については、特許文献1に、マグネシウム・スカンジウム・イットリウム合金調光層およびパラジウムからなる触媒層を備えた調光素子が記載され、特許文献2に、Mg-Y合金からなる調光層およびPdからなる触媒層を備えた調光フィルムが記載されている。
特開2013-83911号公報 WO 2016/186130
上記のようなマグネシウム合金からなる調光層は、従来複数のターゲットを用いた同時スパッタリングまたは分割ターゲットを用いたスパッタリングにより成膜されていた。特許文献1では、MgターゲットおよびY-Sc合金ターゲットを用いた同時スパッタ並びにMgターゲット、YターゲットおよびScターゲットを用いた同時スパッタにより調光層を作製している。特許文献2では、Mg金属板とY金属板とからなるMg-Y分割ターゲットを用いた同時スパッタリングにより調光層を作製している。
しかし、複数のターゲットを用いた同時スパッタリングは、ターゲット毎にスパッタ条件を調整する必要があることなどから、所望の組成の調光層を得ることが難しかった。分割ターゲットを用いたスパッタリングは、ターゲットの組成が膜にそのまま転写されないことなどから、所望の組成の調光層を得ることが難しかった。
本発明は、調光層などに用いられるマグネシウム合金薄膜を所望の組成で効率よく作製することができるスパッタリング技術を提供することを目的とする。
本発明は、YおよびMgを含有し、組成が(1-x)Mg-xY(xは、0<x<1である。)で表されるスパッタリングターゲットである。
前記スパッタリングターゲットにおいて、相対密度が90%以上であることが好ましく、 電気抵抗率が1×10-3Ω・cm以下であることが好ましく、ビッカース硬度が200HV1以上であることが好ましく、スパッタリング面の算術平均粗さRaが1.6μm以下であることが好ましい。
また、前記スパッタリングターゲットは、Mg-Y合金からなる母相、および該母相よりもYの含有率が高いYリッチ相を有している。前記Yリッチ相は、前記スパッタリングターゲットの断面観察において海綿状に観察されることが好ましい。
本発明のスパッタリングターゲットは、YおよびMgを含有するスパッタリングターゲットである。従来、YおよびMgを含有するスパッタリングターゲットは存在しなかった。本発明のスパッタリングターゲットは、スパッタリングにより、調光層などに用いられるマグネシウム合金薄膜を所望の組成で効率よく作製することができる。
図1は、母相と、海綿状に観察されるYリッチ相を有する本発明のスパッタリングターゲット断面の走査型電子顕微鏡像である。 図2は、実施例1で得られたスパッタリングターゲット断面の走査型電子顕微鏡像である。 図3は、参考例3で得られたスパッタリングターゲット断面の走査型電子顕微鏡像である。
本発明のスパッタリングターゲットは、YおよびMgを含有し、組成が (1-x)Mg-xY(xは、0<x<1である。)で表される。なお、該スパッタリングターゲットは、YおよびMg以外に、不可避的不純物を含有する場合がある。
前記xは、0<x<1であり、好ましくは0.2≦x≦0.8、より好ましくは0.3≦x≦0.7であり、さらに好ましくは0.4≦x≦0.65である。xが前記範囲であれば、本ターゲットをスパッタすることにより、調光層などに用いられる特定組成のマグネシウム合金薄膜を得ることができる。
前記のスパッタリングターゲットは、相対密度が90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、98%以上であることがさらに好ましい。相対密度が90%以上であると、ノジュールやアーキングの発生が少なくなり、効率的なスパッタリングが可能である。相対密度の上限は特に制限はなく、100%を超えてもよい。前記相対密度はアルキメデス法に基づき測定された数値である。
前記スパッタリングターゲットは、電気抵抗率が1×10-3Ω・cm以下であることが好ましく、5×10-4Ω・cm以下であることがより好ましく、1×10-4Ω・cm以下であることがさらに好ましい。電気抵抗率が1×10-3Ω・cm以下であると、ノジュールやアーキングの発生が少なくなり、効率的なスパッタリングが可能である。電気抵抗率の下限は特に制限はなく、通常1×10-6Ω・cm程度である。
前記のスパッタリングターゲットは、荷重1kgfでのビッカース硬度が200HV1以上であることが好ましく、210HV1以上であることがより好ましく、220HV1以上であることがさらに好ましい。ビッカース硬度が200HV1以上であると、機械的強度が高く、機械加工が容易である。ビッカース硬度の上限は特に制限はなく、通常300HV1程度である。
前記のスパッタリングターゲットは、スパッタリング面の算術平均粗さRaが1.6μm以下であることが好ましく、1.0μm以下であることがより好ましく、0.8μm以下であることがさらに好ましく、0.4μm以下であることが一層好ましい。スパッタリング面の算術平均粗さRaが1.6μm以下であると、アーキングが少なくなり、組成がより均質な膜を得ることが可能である。スパッタリング面の算術平均粗さRaの下限は特に制限はなく、通常0.1μm程度である。
本発明のスパッタリングターゲットは、たとえば、真空溶解鋳造法、大気溶解鋳造法および半連続鋳造法等の鋳造法により製造することができる。本発明のスパッタリングターゲットは、以下のような溶解工程および鋳造工程を含む溶解鋳造法により効率的に製造することができる。好ましくは、前記溶解工程および鋳造工程に加えて、粉砕工程および焼結工程を含む方法により製造することができる。また、本発明のスパッタリングターゲットは、Mg粉末、Y粉末等の原料粉末を成形し、得られた成形体を焼成することによっても製造することができる。
本発明のスパッタリングターゲットは、組織中に母相となるMg-Y合金相とYリッチ相を含む。Yリッチ相とは、母相となるMg-Y合金相よりもYの含有率が高い相であり、具体的には、Y単相、または母相よりYの含有率が高いMg-Y合金からなる相である。本発明のスパッタリングターゲットの母相となるMg-Y合金相のMg含有率は通常35~75原子%、Y含有率は25~65原子%であり、好ましくはMg含有率が45~65原子%、Y含有率が35~55原子%であり、より好ましくはMg含有率が50~60原子%、Y含有率が40~50原子%である。
また、本発明のスパッタリングターゲットのYリッチ相のMg含有率は通常0~50原子%、Y含有率は50~100原子%であり、好ましくはMg含有率が30~50原子%、Y含有率が50~70原子%であり、より好ましくはMg含有率が35~45原子%、Y含有率が55~65原子%である。
また、前記Yリッチ相はスパッタリングターゲットの断面観察において海綿状に観察される場合がある。図1に、本発明のスパッタリングターゲットの断面を走査型電子顕微鏡で観察して得られた組織画像の一例を示す。図1において、符号1aおよび1bで示した薄いグレー部位等がYリッチ相であり、符号2で示した、1aおよび1bより濃いグレーの部位が母相となるMg-Y合金相である。符号1aで示したYリッチ相に付記された枠線は、該Yリッチ相の外縁を示す線である。なお、本発明において、Yリッチ相の径またはYリッチ相の個数は、この外縁部分を基に測定を行っている。
図1においてYリッチ相は、海綿状に、すなわち空隙の多い疎な構造状に観察されていることがわかる。断面観察において、Yリッチ相がこのような海綿状で観察されるスパッタリングターゲットは、スパッタリング時にアーキングの発生が少なく、また均質な膜を得ることができる。なお、前記海綿状のYリッチ相に内包されるように存在する、Yリッチ相より濃いグレーの部位3(以下、Yリッチ相の内部の相ともいう)は、母相となるMg-Y合金相と略同組成の相である。そのため部位3におけるMg含有率は通常35~75原子%、Y含有率は25~65原子%であり、好ましくはMg含有率が45~65原子%、Y含有率が35~55原子%であり、より好ましくはMg含有率が50~60原子%、Y含有率が40~50原子%である。
上記相のMg含有率とY含有率は、例えばエネルギー分散形X線分光器(EDS)により測定することができる。
スパッタリングターゲットの製造方法の違いにより、形成されるYリッチ相の形状、大きさ等が異なる。本発明のスパッタリングターゲットが、溶解工程および鋳造工程を含む溶解鋳造法により製造されたときには、前述した海綿状の、径が比較的小さいYリッチ相が形成される傾向がある。Mg粉末およびY粉末等の原料粉末から得られた成形体を焼成して製造されたときには、前述した海綿状のYリッチ相は形成されず、径が比較的大きいYリッチ相が形成される傾向がある。
本発明のスパッタリングターゲットにおいて、Yリッチ相が大きく、またYリッチ相が偏析した組織を有するターゲットは、スパッタ面におけるバルク抵抗の変動が大きいので、スパッタリング中にアーキングを起こしやすく、またスパッタリングにより得られる薄膜の組織が均一にならない傾向がある。溶解工程および鋳造工程を経て製造されたスパッタリングターゲットは、Yリッチ相の径が小さく、Yリッチ相の偏析が少なく、分散した組織を有するので、ターゲット全体にわたりバルク抵抗の変動が小さく、スパッタリング中にアーキングを起こし難く、また、スパッタリングにより均一な組織を有する薄膜を成膜することができる。また、溶解工程および鋳造工程に加えて粉砕工程および焼結工程を経て製造されたスパッタリングターゲットは、溶解工程および鋳造工程のみを経て製造されたスパッタリングターゲットと比較して、Yリッチ相の径が小さいので、よりスパッタリング中にアーキングを起こし難く、また、スパッタリングにより均一な組織を有する薄膜を成膜することができる。
上記の理由から、本発明のスパッタリングターゲットは、Yリッチ相が海綿状に観察されるYリッチ相である場合、その断面を走査型電子顕微鏡で観察して得られた組織画像上において、径が100μm以上のYリッチ相が20個以下であることが好ましく、15個以下であることがより好ましく、10個以下であることが更に好ましい。さらに、Yリッチ相の平均径が80μm以下であることが好ましく、60μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。
ここで、本発明におけるYリッチ相の径は、前記組織画像上で円相当径として求められる。Yリッチ相の円相当径は、具体的には、図1において、符号1aで示されたYリッチ相に付記されたYリッチ相の外縁を示す線で囲まれた部分に対する円相当径として求められる。円相当径は、走査型電子顕微鏡観察における粒子解析により求められる値である。粒子解析には、アメリカ国立衛生研究所(NIH)が提供する画像処理ソフトウェアImageJ 1.50i(http://imageJ.nih.gov/ij/)を用いた。前述した径が100μm以上のYリッチ相の個数は、走査型電子顕微鏡を用いて倍率500倍で175μm×250μmの視野を無作為に10視野観察し、そのすべての視野に含まれる、径が100μm以上のYリッチ相の個数である。また、Yリッチ相の平均径は、走査型電子顕微鏡を用いて倍率500倍で175μm×250μmの視野を無作為に10視野観察し、そのすべての視野に含まれるYリッチ相の円相当径の平均値である。
以下、溶解工程および鋳造工程を含む溶解鋳造法による本発明のスパッタリングターゲットの製造方法、さらに溶解工程および鋳造工程に加えて粉砕工程および焼結工程を含む本発明のスパッタリングターゲットの製造方法について説明する。
[溶解工程]
溶解工程では、各金属材料を配合して、溶解して溶湯を得る。
金属材料は、Yの純金属およびMgの純金属である。
各金属材料の配合比率は、通常、この溶解鋳造法により製造されるスパッタリングターゲットの組成が前述した組成となるように調整される。配合された金属材料を溶解炉で溶解する。溶解炉としては、通常の溶解鋳造法で使用される溶解炉を用いることができ、たとえば高周波溶解炉および電気炉等を使用することができる。
溶解炉内の雰囲気は、不活性ガス雰囲気、たとえばアルゴンガス雰囲気であることが好ましい。
溶解温度は、1160~1170℃が好ましい。Mgの融点は650℃、沸点は1107℃である。Yの融点は1490℃である。Yの融点は、Mgの融点より大幅に高く、Mgの沸点よりも高い。Mg合金の製造では、通常Mgの融点よりやや高い温度である700℃程度で溶解を行うが、この温度はYの融点より大幅に低いので、この温度ではYはほとんど融解せず、MgおよびYの溶解は行うことができない。一方、Yが完全に融解する温度だと、Mgの沸点を大幅に超えるので、MgおよびYの溶解は行うことができない。溶解温度を1160~1170℃に設定することにより、Mg、Yの融解状態を適切に調整することができるようになり、MgおよびYの溶解を適正に行うことができる。
[鋳造工程]
鋳造工程では、溶解工程で得た溶湯を鋳型に注入し、次にこれを冷却して鋳塊を得る。
鋳型は、従来の溶解鋳造法で使用される鋳型を使用することができる。鋳湯速度および冷却速度などは、従来の溶解鋳造法に従い適宜決定することができる。
スパッタリングターゲットの寸法に適合した鋳型を用い、得られた鋳塊に適宜加工を施すことにより、スパッタリングターゲットを得ることができる。
[粉砕工程]
粉砕工程では、鋳造工程で得られた鋳塊を粉砕して、合金の粉末を得る。
粉砕に用いられる粉砕機には特に制限はなく、ジョークラッシャー等が好適に用いられる。
粉砕により得られる粉末のメジアン径D50は、通常5~300μm、好ましくは20~120μm、より好ましくは40~60μmである。粉砕により得られた粉砕物をふるい分けして、粉末の粒径を調整してもよい。
粉砕により得られた粉末に、Mg、Yの粉末を適宜加えて、次の焼結工程に供してもよい。
[焼結工程]
焼結工程では、粉砕工程で得られた粉末を焼結する。
焼結方法には特に制限はなく、ホットプレス(HP)等が好適に用いられる。
ホットプレスにより焼結する場合、前記粉末をグラファイト製の焼結ダイ等に粉末を充填する。焼結雰囲気は、不活性ガス雰囲気、たとえばアルゴンガス雰囲気等が好ましい。焼結温度は、通常700~900℃、好ましくは750~850℃である。焼結時間は通常0.5~3時間、好ましくは1~2時間である。焼結時の圧力は、通常10~50MPa、好ましくは20~30MPaである。焼結後は、自然炉冷すればよい。
上記焼結により得られた焼結体に適宜加工を施すことにより、スパッタリングターゲットを得ることができる。
本発明のスパッタリングターゲットは、その形状には制限はなく、たとえば平板状および円筒形状等にすることができる。
本発明のスパッタリングターゲットは、バッキングプレートまたはバッキングチューブに接合することにより、スパッタリングに供される。接合に用いるボンディング材としては、特に制限はなく、たとえばインジウム製半田等を使用することができる。バッキングプレートおよびバッキングチューブの材質には、特に制限はなく、たとえば銅、チタン、ステンレス等が挙げられる。
実施例で用いた測定方法は以下のとおりである。
1.相対密度
スパッタリングターゲットの相対密度はアルキメデス法に基づき測定した。具体的には、スパッタリングターゲットの空中質量を体積(スパッタリングターゲットの水中質量/計測温度における水比重)で除し、理論密度ρ(g/cm3)に対する百分率の値を相対密度(単位:%)とした。理論密度ρ(g/cm3)はターゲットの製造に用いた原料の質量%および密度から算出した。具体的には下記式(1)により算出した。
ρ={(C1/100)/ρ1+(C2/100)/ρ2-1 ・・・(1)
1:ターゲットの製造に用いたMg原料の質量%
ρ1:Mgの密度(1.74g/cm3
2:ターゲットの製造に用いたY原料の質量%
ρ2:Yの密度(4.47g/cm3
2.電気抵抗率
電気抵抗率は、三菱化学製、ロレスタ(登録商標)HP MCP-T410(直列4探針プローブ TYPE ESP )を用いて、AUTO RANGEモードでスパッタリングターゲット表面にプローブをあてて測定した。
3.ビッカース硬度
ビッカース硬度測定装置(松沢精機(株)製)により、荷重1kgfでのビッカース硬度HV1の測定を行った。スパッタリングターゲット表面の10個所を測定して、その平均硬度値をそのスパッタリングターゲットのビッカース硬度とした。
4.算術平均粗さRa
表面粗さ測定器(サーフコーダSE1700/株式会社小坂研究所製)を用いてスパッタリング面の算術平均粗さRaを測定した。スパッタリング面の10個所を測定して、その平均値をそのスパッタリングターゲットの算術平均粗さRaとした。
5.Yリッチ相
スパッタリングターゲットを切断して、切断面を鏡面研磨し、その断面を走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製、JSM-6380A)により倍率500倍で観察した。175μm×250μmの視野を無作為に10視野観察し、そのすべての視野における、径が100μm以上のYリッチ相の個数およびYリッチ相の平均径を計測した。
6.アーキング回数の測定
得られたスパッタリングターゲットを用いて下記条件でスパッタリングを行った。
(スパッタリング条件)
・到達真空度:2.0×10-4Pa未満
・アルゴン流量:49sccm
・スパッタ圧:0.55Pa
・印加電力:8.1W/cm2
(アーキング特性の評価)
積算投入電力量(28.4Wh/cm2)に対するアーキング回数によってアーキング特性を評価した。積算投入電力量に対するアーキング回数が少ないほど、アーキング防止能が高いといえる。具体的には、アークカウンターとしてμArc Monitor(MAM Genesis)(ランドマークテクノロジー社製)を用いた。測定条件を、検出モード;エネルギー、アーク検出電圧;100V、大-中エネルギー境界;50mJ、ハードアーク最低時間;100μsとして、積算投入電力量が28.4Wh/cm2となるまでの累積アーキング回数を測定した。
[実施例1]
純度3NのMgインゴットおよび純度3NのYインゴットを、Mg40、Y60の原子比となるように秤量し、カーボン製のるつぼに入れ、1160℃で溶解して、MgおよびYからなる溶湯を得た。
この溶湯をカーボン鋳型に注入した。カーボン鋳型に注入された溶湯を約20℃/minの冷却速度で冷却して鋳塊を得た。
この鋳塊を、ジョークラッシャーを用いて粉砕し、得られた粉砕物を目開き50meshのふるいにてふるい分けを行い、メジアン径D50が50μmである合金粉末を得た。
この合金粉末をグラファイト製の160mm×250mmの焼結ダイに充填し、下記条件でホットプレス焼結して、縦160mm、横250mm、厚み4.5mmの焼結体を得た。
(ホットプレス焼結条件)
焼結雰囲気:Ar雰囲気
昇温時間:10℃/min
焼結温度:800℃
焼結保持時間:90min
圧力:25MPa
降温:自然炉冷
前記焼結体に、放電加工機および平面研削機を用いて加工を行い、組成が40Mg-60Yで表わされるMg-Y合金製スパッタリングターゲットを得た。スパッタリングターゲットの寸法は、縦150mm、横220mm、厚み3mmであった。
このスパッタリングターゲットの断面を走査型電子顕微鏡で観察して得られた組織画像を図2に示す。図2より、このスパッタリングターゲットは海綿状のYリッチ相を有していることが確認された。このスパッタリングターゲットをエネルギー分散形X線分光器(EDS)により測定したところ、母相であるMg-Y合金相のMg含有率は55.3原子%、Y含有率は44.7原子%であり、Yリッチ相のMg含有率は40.1原子%、Y含有率は59.9原子%であった。なお、Yリッチ相の内部の相のMg含有率とY含有率は母相と同様であった。
このスパッタリングターゲットにつき、相対密度、電気抵抗率、ビッカース硬度、算術平均粗さRa、径が100μm以上のYリッチ相の個数およびYリッチ相の平均径を上記方法により求めた。結果を表1に示す。
前記スパッタリングターゲットを銅製のバッキングプレートにインジウム製半田で接合した。このスパッタリングターゲットを用いて、上記方法でスパッタリングを行った。組成が40Mg-60Yで表わされる均質なMg-Y合金の薄膜が得られた。また、スパッタリング中に発生したアーキングの回数を求めた。結果を表1に示す。
参考例2
純度3NのMgインゴットおよび純度3NのYインゴットを、Mg40、Y60の原子比となるように秤量し、カーボン製のるつぼに入れ、1160℃で溶解して、MgおよびYからなる溶湯を得た。
この溶湯をカーボン鋳型に注入した。カーボン鋳型に注入された溶湯を約20℃/minの冷却速度で冷却して、縦200mm、横250mm、厚み10mmの鋳塊を得た。
この鋳塊に、放電加工機および平面研削機で加工を行い、組成が40Mg-60Yで表わされるMg-Y合金製スパッタリングターゲットを得た。スパッタリングターゲットの寸法は、縦150mm、横220mm、厚み3mmであった。
このスパッタリングターゲットの断面を走査型電子顕微鏡で観察して得られた組織画像より、このスパッタリングターゲットは海綿状のYリッチ相を有していることが確認された。このスパッタリングターゲットをエネルギー分散形X線分光器(EDS)により測定したところ、母相であるMg-Y合金相のMg含有率は55.0原子%、Y含有率は45.0原子%であり、Yリッチ相のMg含有率は40.4原子%、Y含有率は59.6原子%であった。なお、Yリッチ相の内部の相のMg含有率とY含有率は母相と同様であった。
このスパッタリングターゲットにつき、相対密度、電気抵抗率、ビッカース硬度、算術平均粗さRa、径が100μm以上のYリッチ相の個数およびYリッチ相の平均径を上記方法により求めた。結果を表1に示す。
前記スパッタリングターゲットを銅製のバッキングプレートにインジウム製半田で接合した。このスパッタリングターゲットを用いて、上記方法でスパッタリングを行った。組成が40Mg-60Yで表わされる均質なMg-Y合金の薄膜が得られた。また、スパッタリング中に発生したアーキングの回数を求めた。結果を表1に示す。
参考例3
純度3NのMg粉末および純度3NのY粉末を、Mg40、Y60の原子比となるように秤量し、袋混合を行って混合粉末を得た。
この混合粉末をグラファイト製の160mm×250mmの焼結ダイに充填し、下記条件でホットプレス焼結して、縦160mm、横250mm、厚み4.5mmの焼結体を得た。
(ホットプレス焼結条件)
焼結雰囲気:Ar雰囲気
昇温時間:10℃/min
焼結温度:400℃
焼結保持時間:90min
圧力:25MPa
降温:自然炉冷
前記焼結体に、放電加工機および平面研削機を用いて加工を行い、組成が40Mg-60Yで表わされるMg-Y合金製スパッタリングターゲットを得た。スパッタリングターゲットの寸法は、縦150mm、横220mm、厚み3mmであった。
このスパッタリングターゲットの断面を走査型電子顕微鏡で観察して得られた組織画像を図3に示す。図3より、このスパッタリングターゲットはYリッチ相を有しているが、そのYリッチ相は前述した海綿状ではないことが確認された。このスパッタリングターゲットをエネルギー分散形X線分光器(EDS)により測定したところ、母相であるMg-Y合金相のMg含有率は53.2原子%、Y含有率は46.8原子%であり、Yリッチ相のMg含有率は5.4原子%、Y含有率は94.6原子%であった。このスパッタリングターゲットにつき、相対密度、電気抵抗率、ビッカース硬度、算術平均粗さRaを上記方法により求めた。結果を表1に示す。なお、径が100μm以上のYリッチ相の個数およびYリッチ相の平均径は、Yリッチ相の径が大きすぎて倍率500倍の視野では測定できなかった。
前記スパッタリングターゲットを銅製のバッキングプレートにインジウム製半田で接合した。このスパッタリングターゲットを用いて、上記方法でスパッタリングを行った。組成が40Mg-60Yで表わされるMg-Y合金の薄膜が概ね得られたが、一部組成にムラが見られた。また、スパッタリング中に発生したアーキングの回数を求めた。結果を表1に示す。
Figure 0007009472000001

Claims (6)

  1. YおよびMgを含有し、組成が(1-x)Mg-xYで表されるスパッタリングターゲットであって、
    xが、0.2≦x≦0.8であり、
    相対密度が98%以上であり、
    Mg-Y合金からなる母相、および該母相よりもYの含有率が高いYリッチ相を有し、前記スパッタリングターゲットの断面観察において、前記Yリッチ相が海綿状に観察され、走査型電子顕微鏡を用いて倍率500倍で175μm×250μmの視野を無作為に10視野観察し、そのすべての視野に含まれる、前記Yリッチ相の平均径が50μm以下である、
    スパッタリングターゲット。
  2. 電気抵抗率が1×10-3Ω・cm以下である請求項に記載のスパッタリングターゲット。
  3. ビッカース硬度が200HV1以上である請求項1または2に記載のスパッタリングターゲット。
  4. スパッタリング面の算術平均粗さRaが1.6μm以下である請求項1~のいずれかに記載のスパッタリングターゲット。
  5. 前記Mg-Y合金からなる母相のMg含有率が35~75原子%であり、Y含有率が25~65原子%であり、前記Yリッチ相のMg含有率が0~50原子%であり、Y含有率が50~100原子%である請求項1~4のいずれかに記載のスパッタリングターゲット。
  6. 走査型電子顕微鏡を用いて倍率500倍で175μm×250μmの視野を無作為に10視野観察し、そのすべての視野に含まれる、径が100μm以上の前記Yリッチ相の個数が20個以下である請求項1~5のいずれかに記載のスパッタリングターゲット。
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