従来、半導体チップ(以下、チップと言う。)の製造にあたり、ダイシングブレードによるハーフカット或いはレーザ照射による改質領域形成により予めその内部に分割予定ラインが形成された半導体ウェーハ(以下、ウェーハと言う。)を、分割予定ラインに沿って個々のチップに分割するワーク分割装置が知られている(特許文献1等参照)。
図11は、ワーク分割装置によって分割される円盤状のウェーハ1が貼付されたウェーハユニット2の説明図であり、図11(A)はウェーハユニット2の斜視図、図11(B)はウェーハユニット2の縦断面図である。
ウェーハ1は、片面に粘着層が形成された厚さ約100μmのダイシングテープ(拡張テープ又は粘着シートとも言う。)3の中央部に貼付され、ダイシングテープ3は、その外周部が剛性のあるリング状のフレーム4に固定されている。
ワーク分割装置では、ウェーハユニット2のフレーム4が、二点鎖線で示す固定部(フレーム固定機構とも言う。)7に当接されて固定される。この後、ウェーハユニット2の下方から二点鎖線で示すエキスパンドリング(突上げリングとも言う。)8が上昇移動され、このエキスパンドリング8によってダイシングテープ3が押圧されて放射状に拡張される。このときに生じるダイシングテープ3の張力が、ウェーハ1の分割予定ライン5に付与されることにより、ウェーハ1が個々のチップ6に分割される。
ここで、本願明細書において、ダイシングテープ3のうち、ウェーハ1が貼付される平面視円形状の領域を中央部領域3Aと称し、中央部領域3Aの外縁部(ウェーハ1の外縁部)とフレーム4の内縁部との間に備えられる平面視ドーナツ形状の領域を環状部領域3Bと称し、フレーム4に固定される最外周部分の平面視ドーナツ形状の領域を固定部領域3Cと称する。環状部領域3Bが、エキスパンドリング8に押圧されて拡張される領域である。
ワーク分割装置おいて、ウェーハ1の分割に要する力は、すなわち、ウェーハ1を分割するために環状部領域3Bに発生させなければならない張力は、分割予定ライン5の本数が多くなるに従って高くしなければならないことが知られている。分割予定ライン5の本数について、例えば、直径300mmのウェーハ1でチップサイズが5mmの場合には約120本(XY方向に各60本)の分割予定ライン5が形成され、チップサイズが1mmの場合は約600本の分割予定ライン5が形成される。よって、環状部領域3Bに発生させなければならない張力は、チップサイズが小さくなるに従って高くしなければならない。
ところで、直径300mmのウェーハ1がマウントされるフレーム4の内径(フレームの内縁部の径)は、SEMI規格(G74-0699 300mmウェーハに関するテープフレームのための仕様)により350mmと定められている。この規格により、図12のウェーハユニット2の縦断面図の如く、ウェーハ1の外縁部とフレーム4の内縁部との間には、25mmの幅寸法を有する環状部領域3Bが存在することになる。また、図13(A)、(B)で示すワーク分割装置の要部縦断面図の如く、フレーム4を固定する固定部7は、エキスパンドリング8によって拡張される環状部領域3Bに接触しないように、矢印Aで示すダイシングテープ3の面内方向において環状部領域3Bから外方に離間した位置に設置されている。
ここで、エキスパンドリング8の上昇動作によって生じるウェーハ1を分割する力は、(i)環状部領域3Bの全領域を拡張する力、(ii)ウェーハ1をチップ6に分割する力、(iii)隣接するチップ6とチップ6との間のダイシングテープ3を拡張する力の3つ
の力に分解される。
図14(A)~(E)に示すワーク分割装置の動作図の如く、ダイシングテープ3の環状部領域3Bにエキスパンドリング8が当接し、エキスパンドリング8の上昇動作によってダイシングテープ3の拡張が始まると(図14(A))、まず最もバネ定数の低い環状部領域3Bの拡張が始まる(図14(B))。これにより、環状部領域3Bに張力が発生し、この張力がある程度高まると、高まった張力がウェーハ1に伝達されてウェーハ1のチップ6への分割が始まる(図14(C))。ウェーハ1が個々のチップ6に分割されると、環状部領域3Bの拡張とチップ6間のダイシングテープ3の拡張とが同時に進行する(図14(D)~(E))。
従来のワーク分割装置では、直径300mmのウェーハ1において、チップサイズが5mm以上の場合には、環状部領域3Bで発生した張力により、個々のチップ6に問題無く分割することができた。しかしながら、ウェーハ1に形成される回路パターンの微細化に伴いチップサイズがより小さい1mm以下のチップも現れてきた。この場合、ウェーハ1を分割する分割予定ライン5の本数が増大することに起因して、ウェーハ1の分割に要する力が大きくなり、環状部領域3Bの拡張による張力以上の力が必要となる場合があった。そうすると、図15のウェーハユニット2の縦断面図の如く、エキスパンドリング8による拡張動作が終了しても、ウェーハ1に形成された分割予定ライン5の一部が分割されずに未分割のまま残存するという問題が発生した。
このような分割予定ライン5の未分割の問題は、ダイシングテープ3の拡張量や拡張速度を増加させても解消することはできない。例えば、ダイシングテープ3の拡張量を増やした場合には、環状部領域3Bが塑性変形を始めてしまうからである。塑性変形中の環状部領域3Bのバネ定数は、弾性変形中のバネ定数よりも小さいことから、環状部領域3Bの弾性変形を超えた領域では、ウェーハ1を個々のチップ6に分割する張力は発生しない。一方、ダイシングテープ3の拡張速度を増やした場合でも、環状部領域3Bの一部分が塑性変形を始めてしまうので、ウェーハ1を個々のチップ6に分割する張力は発生しない。これはダイシングテープ3の周波数応答が低いため、ダイシングテープ3の全体に時間差なく力が伝達しないからである。
そこで、上記のような問題を解消する装置の一例として、冷気供給手段を備えたテープ拡張装置(ワーク分割装置)が特許文献2に開示されている。特許文献2によれば、冷気供給手段を作動して、処理空間内に冷気を供給し、処理空間内を例えば零下に冷却することにより、ダイシングテープを冷却している。
特許文献2の如く、ダイシングテープを冷却することで、ダイシングテープのバネ定数を大きくした状態でダイシングテープを拡張することができる。これにより、図12に示した環状部領域3Bに発生する張力を、冷却しないダイシングテープと比較して高くすることができるので、チップサイズが小チップの場合でも個々のチップに分割することが可能となる。
一方、ワーク分割装置の分野では、エキスパンドリングによって拡張されたダイシングテープの拡張状態を保持することにより、分割後のチップ同士の接触に起因するチップの品質低下を防止することも要求される。
この要求を満足するワーク分割装置として、サブリングを備えたワーク分割装置が特許文献3に開示されている。特許文献3のサブリングは、エキスパンドリングによって拡張されたダイシングテープを拡張した状態で保持する機能を有し、フレームの内径よりも大径に構成されている。サブリングは、ダイシングテープの裏面側からダイシングテープに向けて上昇される。そして、サブリングがフレームを通過した直後に、サブリングの外周部に設けられた嵌合部(リップとも言う。)が、ダイシングテープの外周部とフレームの表面との間に挿入される。これにより、エキスパンドリングによるダイシングテープの拡張が終了しても、ダイシングテープの拡張状態が保持される。このようにダイシングテープの拡張状態を保持すれば、ダイシングテープの弛みを阻止することができるので、チップ同士の接触に起因するチップの品質低下を防止することができる。
以下、添付図面に従って本発明に係るワーク分割装置及びワーク分割方法の好ましい実施形態について詳説する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲であれば、以下の実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
図1は、実施形態に係るワーク分割装置10に備えられた分割ステージの要部縦断面図であり、図2は、分割ステージの要部拡大斜視図である。なお、ワーク分割装置10によって分割処理されるウェーハユニットのサイズは限定されるものではないが、実施形態では、図12に示した直径300mmのウェーハ1がマウントされたウェーハユニット2を例示する。
図2の如く、ワーク分割装置10は、分割予定ライン5が形成されたウェーハ1を分割予定ライン5に沿って個々のチップ6に分割する装置である。分割予定ライン5は、互いに直交するX方向及びY方向に複数本形成される。実施形態では、X方向と平行な分割予定ライン5の本数と、Y方向と平行な分割予定ライン5の本数とがそれぞれ300本でそれぞれの間隔が等しいウェーハ1、すなわち、チップサイズが1mmのチップ6に分割されるウェーハ1を例示する。
ウェーハ1は図1、図2の如く、フレーム4に外周部が固定されたダイシングテープ3の中央部に貼付される。ダイシングテープ3は、ウェーハ1が貼付される平面視円形状の中央部領域3A、及び中央部領域3Aの外縁部(ウェーハ1の外縁部)とフレーム4の内縁部との間の平面視ドーナツ形状の環状部領域3Bを有する。
ウェーハ1の厚さは、例えば50μm程度である。また、ダイシングテープ3としては、例えばPVC(polyvinyl chloride:ポリ塩化ビニール)系のテープが使用される。なお、ウェーハ1をDAF(Die Attach Film)等のフィルム状接着材を介してダイシングテープ3に貼付してもよい。フィルム状接着材としては、例えばPO(polyolefin:ポリオレフィン)系のものを使用することができる。
ワーク分割装置10は、フレーム4を固定する固定部7(図13、図14参照)と、ダイシングテープ3の環状部領域3Bに下方側から当接されてダイシングテープ3を押圧して拡張するエキスパンドリング14と、エキスパンドリング14によって拡張されたダイシングテープ3の拡張状態を保持する拡張保持リング(サブリングとも言う。)18と、を有する。
また、図1の如く、ワーク分割装置10は、固定部7、エキスパンドリング14及び拡張保持リング18を囲繞する冷却室16を備える。更に、ワーク分割装置10は、冷却室16に零下の冷気20を供給するノズル22を備えた冷気供給部24と、拡張保持リング18の嵌合部26がフレーム4の表面4Aに嵌合する前に、冷気20によって冷却された嵌合部26を加温する加温部であるハロゲンランプ28と、を備える。このハロゲンランプ28も冷却室16に囲繞されている。また、冷却室16と冷気供給部24によって冷却部が構成される。そして、エキスパンドリング14及び拡張保持リング18を含む空間である冷却室16の室内空間17に冷気20が供給される。
固定部7は、ダイシングテープ3におけるウェーハ1の貼付面と同一側に配置され、その下面7Aにフレーム4が着脱自在に固定される。また、固定部7は、エキスパンドリング14によって拡張される環状部領域3Bに接触しないように、矢印Aで示すダイシングテープ3の面内方向において環状部領域3Bから外方に離間した位置に設置されている。
図2の如く、固定部7の形状は、フレーム4の内径(350mm)よりも大きい、例えば直径361mmの開口部7Bを有するリング状であるが、その形状は特に限定されるものではない。固定部7としては、例えば、開口部7Bを有する矩形状の板状材を例示することもでき、フレーム4の外周に沿って所定の間隔で配置された複数の固定部材からなる固定部を例示することもできる。これらの固定部材の内接円が、開口部7Bの直径と等しく設定される。
エキスパンドリング14は、ダイシングテープ3におけるウェーハ1の貼付面と反対側の裏面側に配置され、フレーム4の内径(350mm)よりも小さく、かつウェーハ1の外径(300mm)よりも大きい拡張用開口部(開口部)14Aを有するリング状に形成される。エキスパンドリング14は、ダイシングテープ3に対して相対的に近づく方向に移動自在に配置される。具体的には、エキスパンドリング14は、ダイシングテープ3の環状部領域3Bの裏面を押圧して環状部領域3Bを拡張する拡張位置(図1の二点鎖線で示す位置)と、拡張位置から下方に退避した退避位置(図1の実線で示す位置)との間で上下方向に移動自在に配置される。
また、ワーク分割装置10には、エキスパンドリング14を拡張位置と退避位置との間で上下移動させるエキスパンドリング移動機構30が備えられている。エキスパンドリング移動機構30の一例として、送りネジ装置を例示するが、これに代えてエアシリンダ装置等のアクチュエータを使用することもできる。退避位置に位置されているエキスパンドリング14をエキスパンドリング移動機構30によって拡張位置に向けて移動させると、エキスパンドリング14は、環状部領域3Bに向けて矢印B方向に上昇移動される。これによって、環状部領域3Bの裏面がエキスパンドリング14に押圧されて放射状に拡張される。なお、エキスパンドリング14を固定して、ウェーハユニット2を矢印C方向に下降移動させることにより、環状部領域3Bをエキスパンドリング14によって押圧してもよい。
図3は、エキスパンドリング14によって拡張途中の環状部領域3Bの形状を示したウェーハユニット2の要部縦断面図である。後述するが、エキスパンドリング14による環状部領域3Bの拡張に先立って、ノズル22から冷却室16の室内空間17に供給された、例えば-20~-40℃の冷気20によって室内空間17が冷却される。これにより、ダイシングテープ3が脆性化されてダイシングテープ3のバネ定数が常温時と比較して大きくなっている。この状態でダイシングテープ3の環状部領域3Bがエキスパンドリング14によって拡張されるので、チップサイズが小チップの場合でも個々のチップに分割することが可能となっている。冷気20によって冷却された環状部領域3Bの温度は、不図示の放射温度計にて計測してもよい。また、冷気20の温度と冷気20の供給時間とに基づいた環状部領域3Bの温度変化データを予め実測しておき、この温度変化データに基づいて冷気20の供給時間を制御してもよい。
図1に示すノズル22は、冷却室16の室内において、ダイシングテープ3の環状部領域3Bに向けて配置されている。これにより、環状部領域3Bが冷気20によって効率よく冷却される。また、冷気供給部24は、吸引した外気を零下に冷却する熱交換器を備えており、熱交換器によって冷却された冷気20が配管25を介してノズル22に供給される。なお、図1では、冷気供給部24を冷却室16の室外に配置しているが、冷却室16の室内に配置してもよい。この場合、冷気供給部24は、室内空間17の冷却された室内エアを冷却するので、熱交換器にかかる負荷を小さくすることができる。
図1の如く、ダイシングテープ3の拡張状態を保持する拡張保持リング18は、ダイシングテープ3におけるウェーハ1の貼付面と反対側の裏面側に配置される。また、拡張保持リング18は、外径がフレーム4の内径(350mm)よりも小さく、内径がエキスパンドリング14の外径よりも大きい本体リング32と、本体リング32の外周部に装着されて、外径(351.3mm)がフレーム4の内径(350mm)よりも大きい弾性変形可能なリング状の嵌合部26と、を有する。嵌合部26の材質として、零下の環境下で脆性化するPP(polypropylene:ポリプロピレン)を例示する。なお、嵌合部26の材質は、PPに限定されるものではないが、少なくとも零下では脆性化し、常温環境下では弾性を備える材質であることが好ましい。
図1の如く、嵌合部26を加温するハロゲンランプ28は、実線で示す待機位置に位置している拡張保持リング18の嵌合部26を包囲するように配置される。このハロゲンランプ28は、図2の如くリング状に構成されたものであるが、形状はリング状に限定されるものではない。例えば、棒状のハロゲンランプを用いてもよい。この場合、複数本の棒状のハロゲンランプによって嵌合部26を包囲すればよい。
ハロゲンランプ28は、ハロゲンランプ電源34から供給される電力によって点灯し放熱する。また、ハロゲンランプ28の外側には、リフレクタ36がハロゲンランプ28に近接して配置される。これにより、嵌合部26は、ハロゲンランプ28からの直射熱とリフレクタ36で反射された反射熱とによって常温を超えた温度に加温される。拡張保持リング18は、嵌合部26の温度が常温を超えた温度、例えば20℃を超えた温度に昇温された後に待機位置から上昇され、ダイシングテープ3の拡張状態を保持する。なお、ハロゲンランプ28によって加温された嵌合部26の温度は、不図示の放射温度計にて計測してもよい。また、ハロゲンランプ28の点灯時間に基づいた嵌合部26の温度変化データを予め実測しておき、その温度変化データに基づいてハロゲンランプ28の点灯時間を制御してもよい。
図4は、拡張保持リング18によってダイシングテープ3の拡張状態が保持された縦断面図である。図5は、図4の要部拡大断面図である。
図4、図5の如く、拡張保持リング18の嵌合部26は、実線で示す嵌合位置でフレーム4の表面4Aにダイシングテープ3の環状部領域3Bを介して嵌合する。これにより、ダイシングテープ3の拡張状態が拡張保持リング18によって保持される。
拡張保持リング18は、拡張保持前においては、図4、図5の実線で示す嵌合位置から下方の待機位置(図1の実線で示す位置)に配置されており、拡張保持時に待機位置から嵌合位置に拡張保持リング移動機構38によって上昇移動される。拡張保持リング移動機構38の一例として、送りネジ装置を例示するが、これに代えてエアシリンダ装置等のアクチュエータを使用することもできる。
拡張保持リング移動機構38によって拡張保持リング18が上昇されると、ハロゲンランプ28によって常温を超えた温度に加温された嵌合部26が、フレーム4の下面に当接する。このとき、嵌合部26は脆性状態から弾性状態に回復しているので、継続する拡張保持リング18の上昇移動により、フレーム4の内周面に押されて弾性変形しながら上昇する。そして、嵌合部26が、フレーム4の内周面を通過した位置で拡張保持リング18の上昇が停止される。これによって、弾性状態に回復された嵌合部26が図4、図5の如く嵌合位置でフレーム4の表面4Aに嵌合される。なお、拡張保持リング18を固定して、ダイシングテープ3側を拡張保持リング18に近づける方向に移動させてもよい。すなわち、嵌合部26をフレーム4の表面4Aに嵌合させる場合には、拡張保持リング18をダイシングテープ3に対して相対的に近づく方向に移動させればよい。
エキスパンドリング14を駆動するエキスパンドリング移動機構30、拡張保持リング18を駆動する拡張保持リング移動機構38、冷気供給部24、及びハロゲンランプ電源34は、図6の制御系のブロック図の如く、ワーク分割装置10を統括制御する制御部40によって、その動作が制御されている。
次に、図7のフローチャート、図8(A)~(D)及び図9(A)~(D)に示すワーク分割装置10の動作説明図に従って、ワーク分割方法を具体的に説明する。
まず、図7のステップS100の配置工程において、図8(A)の如く、エキスパンドリング14をエキスパンドリング移動機構30によって退避位置に配置させ、拡張保持リング18を拡張保持リング移動機構38によって待機位置に配置させる。
次に、図7のステップS110の固定工程において、図8(B)の如く、ウェーハユニット2のフレーム4を固定部7に固定する。
次に、図7のステップS130の冷気冷却工程において、図8(C)の如く、ノズル22から冷気20を冷却室16の室内空間17(図1参照)に供給し、ダイシングテープ3の環状部領域3Bを零下(例えば-20~-40℃)に冷却する。これにより、ダイシングテープ3の環状部領域3Bが脆性化される。なお、冷気20の温度は、零下に限定されるものではなく、ダイシングテープ3が脆性化する温度以下であればよい。
次に、図7のステップS140の拡張開始工程において、図8(D)の如く、エキスパンドリング移動機構30によってエキスパンドリング14を、図8(A)の退避位置から拡張位置に向けて矢印B方向に上昇移動させ、脆性化された環状部領域3Bの全領域の拡張を開始する。なお、拡張開始工程において、ノズル22から冷気20を噴射した状態を保持してもよく、ステップS130の冷気冷却工程において、環状部領域3Bが十分に冷却されている場合は、ノズル22からの冷気20の噴射を停止してもよい。
次に、図7のステップS150の分割工程において、図9(A)の如く、エキスパンドリング14の上昇移動を続行して行うことにより、ウェーハ1を個々のチップ6に分割する。この後、図9(B)の如く、エキスパンドリング14が拡張位置に到達したところで、エキスパンドリング14の上昇移動を停止する。
ステップS150の分割工程では、常温時よりもバネ定数が大きくなっている環状部領域3Bのバネ定数の張力がウェーハ1に付与される。これにより、チップサイズが小チップ(1mm)であっても個々のチップ6に分割するだけの張力を、環状部領域3Bからウェーハ1に付与することができる。よって、ワーク分割装置10によれば、チップサイズが小チップ(1mm)の場合に生じる分割予定ラインの未分割問題を解消することができる。
次に、図7のステップS160の加温工程において、図9(B)の如く、ハロゲンランプ28を点灯して拡張保持リング18の嵌合部26を、常温を超えた温度に加温する。なお、ステップS160の加温工程は、ステップS150の分割工程の最中に行ってもよく、ステップS150の分割工程の終了後に行ってもよい。また、ハロゲンランプ28によって嵌合部26を加温する温度は、常温を超えた温度に限定されず、冷気20の温度を超えた温度であって、冷気20によって脆性化された嵌合部26が弾性状態に回復する温度であればよい。
次に、図7のステップS170の拡張状態保持工程において、図9(C)の如く、拡張保持リング18を拡張保持リング移動機構38によって待機位置から嵌合位置に向けて上昇させて、弾性状態が回復された嵌合部26を、嵌合位置でフレーム4の表面4Aに嵌合させてダイシングテープ3の拡張状態を保持する。
次に、図7のステップS180のエキスパンドリング退避工程において、図9(D)の如く、エキスパンドリング14をエキスパンドリング移動機構30によって退避位置に向けて下降移動させ、退避位置に配置する。このとき、ダイシングテープ3は、エキスパンドリング14による拡張は解除されるが、フレーム4の表面4Aに拡張保持リング18の嵌合部26が嵌合されているので、弛むことなく拡張状態が保持される。これにより、拡張されたダイシングテープ3が弛むことによって生じるチップ6同士の接触を防止することができるので、チップ6の品質低下を防止することができる。
上記の如く実施形態のワーク分割装置10によるワーク分割方法によれば、ステップS130の冷気冷却工程を備えたので、ダイシングテープ3を脆性化してダイシングテープ3のバネ定数を高めることができる。これにより、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題を解消することができる。
また、実施形態のワーク分割装置10によるワーク分割方法によれば、ステップS160の加熱工程を備えたので、ステップS130の冷気冷却工程にて脆化状態に冷却された嵌合部26を弾性状態に回復させることができる。この後、ステップS170の拡張状態保持工程を備えたので、弾性状態に回復された嵌合部26をフレーム4の表面4Aに嵌合させることができる。これにより、分割後のチップ同士の接触に起因するチップの品質低下の問題を解消することができる。
上記の実施形態では、加温部としてハロゲンランプ28を例示したが、これに限定されるものではない。例えば、加温部として、遠赤外線ランプ、赤外線ランプ、セラミックヒータ、カーボンヒータ、温風ヒータ又は接触式ヒータを例示することができる。これらの加温部によれば、低温環境下の冷却室16の室内であっても、脆性化された嵌合部26を加温して弾性状態に回復させることができる。
また、加温部として、図10の如く、拡張保持リング18の嵌合部26に常温エア42を供給するエア供給部44を設けてもよい。この加温部によれば、低温環境下の冷却室16の室内であっても、常温エア42の供給によって嵌合部26を、脆性状態から弾性状態に回復させることができる。
本発明では、低温環境下の冷却室16の室内空間17で、拡張保持リング18の嵌合部26を、加温部によって加温して弾性状態に回復させた後、拡張保持リング18によってダイシングテープ3の拡張状態を保持したが、加温部を用いることなく、嵌合部26をフレーム4の表面4Aに嵌合させることもできる。例えば、拡張保持リング18の待機位置を、常温環境下の冷却室16の室外に設定し、冷却室16に拡張保持リング18を出し入れするための扉を設ける。そして、ダイシングテープ3の拡張状態を保持する際に、扉を解放し、拡張保持リング18を冷却室16の室外から室内空間17に移動させて、常温状態の嵌合部26をフレーム4の表面4Aに嵌合させる。このような構成であっても、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題と、分割後のチップ同士の接触に起因するチップの品質低下の問題とを同時に解消することができる。