以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。ただし、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
以下に説明する発明の構成において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、重複する説明は省略することがある。
同一あるいは同様な機能を有する要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。ただし、複数の要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」などの表記は、構成要素を識別するために付するものであり、必ずしも、数、順序、もしくはその内容を限定するものではない。また、構成要素の識別のための番号は文脈毎に用いられ、一つの文脈で用いた番号が、他の文脈で必ずしも同一の構成を示すとは限らない。また、ある番号で識別された構成要素が、他の番号で識別された構成要素の機能を兼ねることを妨げるものではない。
図面等において示す各構成の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面等に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
以下の実施例では、導光板のプラスチック化を可能とする技術を開示する。また,上述のように導光板には入射用とそれ以外の回折格子が形成される。本明細書では,以下,前者を入射回折格子,後者を出射回折格子として表現を統一して説明を進める。
広く普及しているCD(Compact Disc),DVD(Digital Versatile Disc),BD(Blu-ray(登録商標) Disc)等の光ディスクでは,基板としてポリカーボネートに代表されるプラスチック材料が用いられている。基板の表面には光スポットの案内溝として320nm(25GB容量BD)程度から740nm(4.7GB容量DVD)程度のピッチで,深さが50~100nm程度の凹凸が形成されている。基板の製法は真空工程を含まない射出成型法で量産化されており,安価に供給されている。なお、本明細書で表示「A~B」は、「A以上B以下」の意味で用いるとする。また、本明細書では「樹脂」とは高分子化合物からなる材料を意味し、ガラスを含まず、レジン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、光硬化樹脂を含む概念である。
導光板に必要な回折格子のピッチと深さについて,発明者らの検討の結果を以下に述べる。回折格子のピッチは,入射回折格子と出射回折格子で共通であり,200~700nm,好ましくは300~600nmが適している。回折格子の深さに関しては,入射回折格子と,出射回折格子で好適な回折効率が異なることを考慮する必要がある。一般に回折格子の回折効率は深さの増加に応じて大きくなるという関係がある。入射回折格子は入射した光線を効率よく導光板に結合するために,10%~80%,好ましくは30%~70%の1次回折効率を有することが望ましい。一方,出射回折格子は,光線の複製と導光板からの出射を広い面積に亘って実施するため,0.1%~10%,好ましくは0.5%~5.0%の1次回折効率を有することが望ましい。
回折効率の適性値に応じて,入射回折格子の深さは50~500nm,好ましくは100~400nmであることが望まれる。一方,出射回折格子の深さは10~200nm,好ましくは20~100nmであることが望ましい。注目すべき点は,出射回折格子に求められるピッチと深さが,射出成型法を用いることにより安価に提供されている光ディスクのピッチと深さが略等しい点である。従って,光ディスクの製造技術を活用することにより,プラスチック基板上に凹凸型回折格子として,出射回折格子を安価に形成することが可能であることが判る。
その他、入射回折格子と出射回折格子の最適化は、それらの形状、アスペクト、高さ、デユーティー、パターニング領域面積の少なくとも一つをそれぞれの格子に適切なものに設定することで実現される。
DVDとBDでは,記録容量を増やした多層光ディスクが実用化されている。第1の記録層は上述の射出成型により形成されたプラスチック基板を用いて形成され,その上に2P(Photo-Polymarization)法によりUV樹脂を用いたパターン転写技術により第2の記録層が形成されている。2P法は射出成型法に比較して深さの大きな回折格子を形成することが可能である。後述するように,発明者らの検討により,2P法により入射回折格子に好適な条件である深さ0.3μmの回折格子が良好に形成できることが判っている。
次に,導光板の回折格子の面積について述べる。「特許文献1」~「特許文献3」に記載されてもいるが,上に述べたそれぞれの機能に照らして,入射回折格子の面積は出射回折格子の面積より小さく、入射回折格子の面積<<出射回折格子である。
以下の工程により導光板を形成することにより,光ディスクの製造技術を活用した低コスト化と,プラスチック化による軽量化を実現した導光板を提供することができる。
(1)射出成型法により,大面積の出射回折格子を有するプラスチック基板を作成。
(2)その上の一部の領域に,2P法により入射回折格子を形成。
(3)これらの1枚または複数枚をフレームに内蔵させて,導光板を形成。
以下の実施例では,導光板として凹凸型回折格子を有する導光板を例に、さらに詳細に説明を進める。最初に,以下の実施例の理解を容易にするため,回折格子の形状パラメータの定義についてまとめる。
図1Aは入射回折格子、図1Bは出射回折格子の形状パラメータの定義であり、基板を側面から見た図である。図1Aに示すように,入射回折格子はピッチP,高さH,およびブレーズ角θBにより定義される。また図1Bに示すように,出射回折格子はピッチP,高さH,凸部幅A,およびデューティD=A/Pにより定義される。ここに示した例は,入射回折格子と出射回折格子として代表的な形状について示したものであり,本実施例では,これら以外に正弦波状回折格子等を用いることができる。
図2は、本発明の第1の実施例の画像表示素子(導光板)の作成工程を示す流れ図である。
図3A~図3Eは、作成工程の各段階を模式的に示す図である。図2と図3A~図3Eを参照して、実施例の作成工程を説明する。
初めに入射回折格子用の母型301と出射回折格子用の母型302をEB描画法等により準備する(S101、図3A)。出射回折格子用の母型302は射出成型プロセスに適合するようにNiスタンパに転写して用いている。
次に出射回折格子用の母型302を用いて,射出成型法によりプラスチック材料を用いて表面に出射回折格子303を形成した基板304を作成する(S102、図3B)。基板304を構成するプラスチック材料としては,広く用いられているポリカーボネートが好ましいが,ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)等のアクリル樹脂ほかの透明樹脂材料を用いることもできる。なお、図3Bに、基板として用いたDVD-RAMディスク305上における、形成された出射回折格子303の配置の例をあわせて示す。
次いで,必要に応じ外界の視認性を高めるための反射防止コーティング306を,基板304の回折格子と反対の面に,スパッタリング法等により形成する(S103、図3C)。
次に、射出成型により形成された基板304の一部に,入射回折格子用の母型301を用いて2P法により入射回折格子307を形成する(S104、図3D)。基板304の上にUV樹脂で入射回折格子を形成するが、そのためのUV樹脂の厚さは2~10μm程度である。図3Dには側面図と上面図をあわせて示す。図3Dに示すように、入射回折格子307は、出射回折格子303に重ねて形成される。2P法の替わりにドライシートをスタンパとするナノインプリント法等を用いてもよい。
続いて,必要に応じ入射回折格子307の波長分離性能と回折効率の向上のため,入射回折格子307の上にマスクスパッタリング法等により反射コーティング308を行う(S105、図3E)。以上により,プラスチック製の安価で計量な導光板300を形成することができる。
図4はDVD-RAMディスクに、試作した素子の領域A、B,Cの外観写真を示している。DVD-RAMディスクの凹凸パターンは出射回折格子に、試作した素子は入射回折格子に相当する。ここでは射出成型法で作成された表面に周期的な凹凸パターンを有するポリカーボネート基板の上に市販のブレーズ型回折格子を母型として2P法によりパターン転写を行うと共に,マスクスパッタリング法で反射コーティングを形成した。選択したブレーズ型回折格子はピッチ833nm,AFM(Atomic Force Microscope)により測定した三角形の凹凸パターンの高さは374nmであった。ポリカーボネート基板としては,射出成型法で形成された直径80mmのDVD-RAM基板401を選択した。
DVD-RAM基板401において光スポットの案内溝として形成された凹凸パターンは矩形の回折格子として作用する。回折格子のピッチは1230nm,パターン高さは約70nmである。図中の3つの素子領域A、B,Cは1辺12.7mmの矩形であり,それぞれ(1)グレーティングの2P樹脂のみを形成した領域A,(2)反射コーティングのみを形成した領域B,および(3)グレーティングの2P樹脂上に反射コーティングを形成した導波チェック領域Cである。グレーティングの2P樹脂は,図3Dで説明した入射回折格子307に相当する。
反射コーティングは、評価に用いた赤色レーザ(波長635nm)に対して回折効率を高めるために準備した5層光学フィルタである。膜構成は光ディスク用の光学膜として広く用いられる誘電体材料から選択し,ポリカーボネート基板(屈折率1.58、膜厚600μm(以下同様))/ZnS-SiO2(2.33、88nm)/SiO2(1.47、80nm)/ZnS-SiO2(2.33、88nm)/SiO2(1.47、80nm)/ZnS-SiO2(2.33、88nm)とした。以下,この試作素子の評価結果から,本実施例の骨子である射出成型基板による出射回折格子の上に2P法等により入射回折格子を形成したプラスチック導光板の実現性を示す。
(1)2P法で形成した入射回折格子の性能
図5Aおよび図5Bは,図4で説明したDVD-RAM基板401にレーザ光を垂直入射した場合の回折パターンを示す。図5Aは,グレーティングの2P樹脂が形成されていない領域でのパターンである。図5Bは,グレーティングの2P樹脂が形成されている領域でのパターンである。
図5Aに見られるように,入射回折格子となるグレーティングを形成していない領域ではDVD-RAMの回折パターンが現れる。一方,2P法により,その上に形成した入射回折格子がある領域Aでは,図5Bに見られるようにDVD-RAMの回折パターンが消失し,入射回折格子の回折パターンが現れることが判る。これにより,本実施例の画像表示素子によって,回折格子パターンの上書きが可能であることが示された。
(2)反射コーティングの分光特性
図6は反射コーティングの反射率と透過率(縦軸)の波長(横軸)依存性を示す結果である。これはマスクスパッタリング法により,一部の領域のみに光学薄膜を積層した領域Bを評価したものである。図に見られるように,点線で示す設計値と実線で示す実測値は良好に一致しており,プラスチック製の導光板の上に光学薄膜によるコーティングを行なうことにより,波長依存反射膜の形成が可能なことが示された。
(3)反射コーティングつきの入射回折格子の結合特性
図7は反射コーティングを形成した入射回折格子(領域C)にレーザビームを入射した場合の透過レーザ光のパターンである。図に見られるように,入射ビームに対して,等間隔に複製ビームが整列して出射していることが判る。これは,入射回折格子によりレーザビームが回折され,導光板内を全反射伝搬すると共に,当該ビームが2回,3回,4回と入射回折格子に当たりながら,複製されており,かつ,入射ビームの波数を保存した状態で出射している様子を表している。これは1次元ではあるが,入射ビームの伝搬,複製,出射という導光板の基本機能が達成されたことを示す結果である。なお、領域Cの範囲を素子サイズとして点線で示している。
以上により,本実施例の画像表示素子が,仮想現実向けの導光板としての基本機能を満たすことが示された。
ここでは,シミュレーションにより,本実施例の画像表示素子による投影像について調べ,本実施例に好適な,具体的構成について述べる。
1962年にG. H. Spencerらにより提唱された光線追跡法[G. H. Spencer and M. B. T. K. Murty,“General Ray-Tracing Procedure”,J. Opt. Soc. Am. 52,p.672 (1962).]は,光の粒子性に着目して経路を追跡することで,ある点において観測される像などを計算する手法であり,コンピュータグラフィックス分野を中心に精力的に改良が続けられている。
光線追跡法に基づくモンテカルロ光線追跡法[I. Powell “Ray Tracing through sysytems containing holographic optical elements”,Appl. Opt. 31,pp.2259-2264 (1992).]は,回折や反射等による経路の分離を確率的に扱うことで,演算量の指数関数的な増大を防ぐ手法であり,回折と全反射伝搬を繰り返す導光板のシミュレーションに適している。モンテカルロ光線追跡法では反射や屈折を忠実に再現することができるが,回折に関しては適したモデルの開発が必須である。
ヘッドマウントディスプレイ向けの導光板では,可視光全域に亘る波長範囲(約400-700nm)と,投影イメージの視野角40°に対応した入射角範囲に対応する回折モデルが必須となる。以下,本実施例で使用する回折モデルについて説明する。
以下の説明では,光軸をz方向にとり,導光板は法線ベクトルがz方向にあり,表面もしくは裏面に少なくとも回折格子が形成されているとする。また,説明の簡素化のため,導光板に対して,プロジェクタ光学系と瞳は反対側に位置するとする。両者が導光板に対して,同じ側にある場合には,以下の波数ベクトルの議論において,導光板から出射する光線にx-y面ミラーによる反転操作を施せばよい。
導光板に入射する光線の波数ベクトルを
とし,
出射する光線の波数ベクトルを
とする。
投影される映像の情報は強度,波長,およびピクセル情報とから構成され,波長およびピクセル情報は目のレンズ作用によって光線の角度情報,すなわち波数ベクトルにより定められる。投影される映像の波長およびピクセル情報を保存するために,導光板には以下の作用が求められる(式(1))。
光線の回折は,回折次数と回折格子の波数ベクトルの内積を光線の波数ベクトルに加算することによって表される。入射した光線と回折格子がn回目に交差するときの回折について,光線の波数ベクトルがknからk’nになるとすると,次の関係が成り立つ(式(2))。
ここでmnは回折次数,Knはn回目の交差点における回折格子の波数ベクトルである。
光線が回折格子とN回目の交差で回折し,導光板から出射する場合,式(1)より,以下の関係が成立する(式(3))。
これは,導光板の基本作用を表している。式(2)をx,y,zの各成分で表すと,以下(式(4)~(7))となる。
ここでx,y,zの添え字は各波数ベクトルのx,y,z成分を表している。
ここで,
のとき,波数ベクトルが虚数となるが,これは指定された条件で回折光線が発生しないことを示している。
により回折光線の発生を以下のように定義する(式(8))。
回折効率を
とすると,エネルギー保存則により,以下(式(9))である。
回折格子の波数ベクトルKnとz軸の張る面内の入射角をθnとして,回折光の有無と入射角依存性を考慮した回折効率
を以下のようにモデル化する(式(10))。
ここで,η0
mnは,n番目の交差点の回折次数mnの垂直入射における回折効率である。式(10)の右辺第2項は回折光線の発生の有無に,第3項はエネルギー保存則に,第4項はγを定数とした入射角依存性に,それぞれ対応している。
一方、モンテカルロ光線追跡法を採用する市販ソフトウェアとしては照明光学系の設計向けのLightTools(商標)等があるが,角度依存性は扱うことができないため,回折効率は以下となる(式(11))。
ここでは,入射回折格子と同じブレーズ型の回折格子としてEdmund 社製の1,800本/mm密度の市販素子#47-551を用い,波長532nmにおける入射角と回折効率の関係を測定した。
図8に,1次回折効率の測定結果と式(10)に基づく回折モデルの比較結果を示す。黒丸で示す実験結果801から,正と負の1次回折光が共に発生する入射角度の範囲はプラスマイナス3°であった。図に見られるように+1次回折光は入射角-3°以上で発生し,+3°までは-1次回折光と併存し,+3°以上で-1次回折光が消失する。図中の従来モデル802は,式(11)の回折モデルを示しており,回折効率が入射角によらず一定であるため,入射角に応じて正と負の1次回折光の併存時,-1次光の消失時,および入射角の増大による回折効率の減少を表すことができない。一方,式(10)のモデル803では,ブレーズ回折格子の回折効率の角度依存性を簡潔に表すことが可能なことが判る。
式(10)のモデルを実装したモンテカルロシミュレータにより,本実施例の画像素子に好適なパラメータ条件について述べる。以下では,特に指定しない場合,次のシミュレーション条件を用いる。RGB光源の波長はR=635nm,G=550nm,B=460nm,光源の波長の広がりは各色共通で20nm,投影像のアスペクト比は16:9,画素数は1280x720,導光板に入射するビームの直径は4mm,目の瞳の直径は2mm,目と導光板の距離は17mmである。導光板に関しては,基本構成を特許文献1に記載のものとし,本実施例によりプラスチック化した導光板の屈折率は1.58,導光板の厚さは0.6mm,入射回折格子の大きさは5mmx5mm,出射回折格子の大きさは十分に大きいものとする。また,目,導光板のエッジでの光の反射を無視する。
図9A~図9Cは出射回折格子のピッチと投影可能な画像のピクセル範囲との関係を示している。ここで縦軸の画素率とは,入・出射回折格子による回折と全反射により瞳に到達する光線の経路が1以上の画素の割合を示し,画素率が1より小さい場合,投影像の一部に欠落が生ずることを意味している。画素率は経路の有無だけで求めることができるため,各回折格子の回折効率や導光板の厚さに依存せずに,導光板の特性を把握できるという利点がある。
図9Aは視野角40度の場合の結果である。RGBの各色の波長に応じて,画素率が1となる範囲に違いが生じることが判る。これは,回折格子が強い波長依存性をもつことに対応している。図中に2本矢印で示した条件,回折格子ピッチ約390nm,および470nmからなる、BGとGRに対応する2つの導光板を組み合わせることで,RGB画像の画素率が1となり,画像の投影が可能なことが判る。
図9Bは視野角50度の場合の結果である。視野角の増大に応じて,画素率が1となる回折格子のピッチの範囲が狭くなることが判る。各色で画素率が1となる回折格子のピッチの中央値は,それぞれ約360,440,520nmである。図中に3本矢印で示した回折格子ピッチをもつ、B,G,Rそれぞれに対応する3枚の導光板を組み合わせることで,全画面の画像投影が可能なことが判る。
図9Cは視野角70度の場合の結果である。視野角の増大に応じて,画素率が小さくなり,最大値は1未満となることが判る。これは,1つの回折格子ピッチを有する導光板では,RGBのいずれかの色の画像を全面に投影できないことを意味している。この場合,2つ以上の導光板で表示画像の領域を分担することで,R+G+B≧1とすることで,全画面の画像の投影が可能となる。図中の4本の矢印で示した4枚の導光板を組み合わせることで,全画面の画像投影が可能になる。4枚の導光板は、例えばBの短波長領域、Bの長波長領域およびGの短波長領域、Gの長波長領域およびRの短波長領域、およびRの長波長領域に対応する。いずれにしても、回折格子ピッチ300nm~550nmの範囲で、異なる回折格子ピッチを持つ複数の回折格子に可視波長領域を分担させる。
以下,同様に本実施例の導光板では,投影する画像の視野角に応じて回折格子のピッチと枚数を適切に設定することができる。本実施例では導光板を低コストで提供することを目的としているため,基板材料として用いられるプラスチック材料の屈折率は最大で1.7程度である。基板材料の屈折率が大きくなると,それに略反比例した回折格子ピッチを選択することで,表示する画像範囲を最大化することが可能である。このとき,画素率が1となる範囲も大きくなるため,結果として,基板材料の屈折率が大きいものを選択することで,大きな視野角の画像投影が可能となる。プラスチック材料に限定した場合,本実施例で対応可能な視野角の最大値は80度程度である。導光板を低コストで提供するためには,導光板数を1枚にすることが望ましい。図10以下でこのときの視野角と画素率の関係を述べる。
図10A~図10Cは出射回折格子ピッチと画素率の関係を示す別のシミュレーション結果であり,図10A,B,Cはそれぞれ視野角30,25,20度の場合を示している。図中に示した矢印は,1枚の導光板でRGB画像を投影するのに好適な回折格子ピッチの条件であり,ほぼRとBの特性の交点に対応する。この例の場合,基板の屈折率が1.58のときに425nmを中心にプラスマイナス25nm程度(400nm~450nm)である。図10A~図10Cに見られるように,本実施例によれば,1枚の導光板で概略25度まで,画像の投影が可能なことが判る。ただし,図10B~図10Cのように視野角が大きくなると,赤色画像(R)あるいは青色画像(B)の一部が表示されなくなる場合がある。
図11Aおよび図11Bは視野角25度の場合の画素率を示すシミュレーション結果である。ここでは,波長ごとの画素率を輝度で表示している。図中で,輝度が高い領域が白、輝度が低い領域が灰色で示されている。
図11Aは,基板の屈折率1.58,回折格子ピッチ425nmの結果である。図中の白色領域1101は,RGBの全ての画像を表示できることを示す。図中,上部の灰色領域1102は青色画像(B)が表示されない領域,下部の灰色領域1103は赤色画像(R)が表示されない領域を示している。
図11Bは,基板の屈折率1.70,回折格子ピッチ395nmの結果であり,全ての領域1104でRGB画像の投影が可能であることが判る。これは,前述のように基板の屈折率を大きくすることにより,導光板内を全反射により導光可能な光線の波数ベクトルの角度範囲が大きくなることに対応したものである。このとき,回折格子ピッチは,屈折率に略反比例,好ましくは屈折率の平方根に反比例したものを選択すると良い。ここに示した結果は,後者の関係により回折格子ピッチを定めたものである。
ヘッドマウントディスプレイ向けの導光板では,入射回折格子の回折効率は投影像の輝度と消費電力の観点から10%~80%の範囲,好ましくは30%~70%の範囲の1次回折効率を有することが望ましい。一方,出射回折格子は,光線の複製と導光板からの出射を広い面積に亘って実施するため,0.1%~10%,好ましくは0.2~7.5%、さらに好ましくは0.5~5%の1次回折効率を有することが望ましい。回折格子の回折効率は形成された周期的凹凸パターンのピッチ,高さ,形状によって定められる。DVDやBD等のように光ディスクとして量産されているものプロセス技術を活用して,導光板を作成するためには,回折格子のピッチ,高さ,形状について,プロセス技術の適合性について議論する必要がある。
広く普及しているDVD,BD等の光ディスクでは,ポリカーボネート材料が用いられている。射出成型法で形成されたポリカーボネート基板の表面には光スポットの案内溝として320nm(25GB容量BD)から740nm(4.7GB容量DVD)のピッチで,深さ10~100nmの周期的な凹凸パターンが光スポットの案内溝やコーディングされたデータとして形成されている。ポリカーボネート基板の表面にスパッタリング法で光学薄膜をコーティングすることにより,再生専用や書換え型の光ディスクは量産されており,基板は安価に供給されている。
また,光ディスクにはデータ面を2層にすることで,記録容量を増加したものがあり,映画のDVDやBDはほぼ全てが2層化されている。第2層はポリカーボネート基板の上に2P(Photo Polymerization)法によりUV効果樹脂で凹凸パターンが形成される。光ディスクの量産プロセスを活用することにより,低コストで導光板を作成できる。このとき,重量はガラスの比重2.5に比較してポリカーボネートは1.2のため1/2以下に軽量化できる。
図12は光ディスクの量産プロセス技術を本実施例の導光板に活用するための適合性についてまとめたものである。図中の導光板のパラメータは,上に示したシミュレーション結果に基づくものである。これらのパラメータは投影する画像のアスペクト比や視野角により適正な値が変化するものであり,本実施例の導光板に適正なパラメータが図中の数値に限定される訳ではないことを明記しておく。図中,材料,厚さ,屈折率,出射および入射の回折格子のピッチに関しては,本実施例の導光板は光ディスクとして量産されているものの条件の範囲内にあり,適合性が高いことが判る。これは両者が可視光を光源として用い,画質や記録容量を最大にするために,回折限界に近い回折格子(凹凸パターン)を採用しているためである。
出射回折格子に関しては,光ディスクの案内溝と同じ矩形の断面形状で実現でき,パターンの高さも同等であるから,射出成型プロセスをそのまま活用することが可能である。入射回折格子に関しては,光利用効率を高めるために高さが200~400nm程度の三角形の断面形状をもつブレーズ型回折格子が本実施例の導光板に適しているため,射出成型法の適合性はやや劣ると判断される。一方で,2P法は粘度の低いUV硬化樹脂を用いるためパターンの転写性に優れており,入射回折格子の形成には2P法が適していると言える。前述の試作素子は,射出成型法で作成されたポリカーボネート製の光ディスク基板の上に,2P法によりブレーズ型回折格子を形成し,それが導波と光線の複製という導光板の基本機能をもつことを示している。したがって,図中の入射回折格子の形成に光ディスクのプロセス技術である2P法を活用することが可能であることが証明されている。
投影像の輝度と画質は主として出射グレーティングの回折効率によって支配される。次に回折効率と凹凸パターンの高さの関係について,さらに詳細に述べる。
図13は電磁場計算(FDTD法;Finite Differential Time Domain法)により求めた出射回折格子の高さと回折効率の関係を示している。ここでは,RGB波長帯の中央である緑色に対応して波長を550nm,回折格子のパターンのピッチを440nmとし,グレーティングの形状は矩形とした。
グレーティングの高さは位相差として光ビームに作用する。これを反映して,結果は減衰振動型の周期応答を示している。出射グレーティングとして実用的な領域は,位相差が概略λ/4以下となる200nmまでの高さの範囲であり,回折効率の最大値は約7%であることが判る。図13から出射回折格子の1次回折効率の目安は、0.1%~7.5%、好ましくは0.5%~5.0%程度である。前述のように,光ディスクのプロセス技術を応用する場合,回折格子の凹凸パターンの高さは100nm程度,すなわち回折効率4%程度以下が適すると言える。
図14Aおよび図14Bは出射回折格子の回折効率と投影像の輝度と輝度ムラの関係を計算した結果である。波長と出射回折格子のピッチ条件は上と同じとし,投影像の画角は40度とした。導光板の厚さは「特許文献1」に対応して一般的なガラス製の基板厚さ1.0mm,およびDVDの基板厚さである0.6mm,およびBlu-ray Discのカバー層の厚さ0.1mmの3種類である。
図14Aは出射グレーティングの回折効率と,投影像の中央の輝度の関係を示す。図中の縦軸は,光利用効率に比例したものである。図中に矢印で示す3点はそれぞれ中央輝度が最大となる条件であり,基板厚さ0.1mm,0.6mm,1.0mmの場合にそれぞれ,回折効率は0.7%,3.5%,5.5%である。
導光板の厚さが厚くなると大きな回折効率で最大輝度が得られることが判る。これは,光線と出射グレーティングの交差する回数が,導光板の厚さに反比例するという幾何的な条件を反映したものである。
図14Bは出射回折格子の回折効率と投影像の輝度のRMS(Root Mean Square:二乗平均平方根)値の関係を示している。図中の縦軸は,中央輝度で規格化した相対値である。図中に矢印で示す3点はそれぞれ輝度のRMS値が最小,すなわち輝度ムラが最小となる条件であり,基板厚さ0.1mm,0.6mm,1.0mmの場合にそれぞれ,回折効率は0.3%,1.7%,2.3%である。
このように,中央輝度と輝度のRMS値は最良となる条件が一致しないことが判る。したがって,輝度を優先する用途と,輝度ムラを優先する用途に応じて出射回折格子の回折効率を適切に選択することが好ましい。
選択手法の一例としては,所定の導光板の厚さにおいて,像中央の輝度が最大となる条件と,輝度ムラが最小となる条件の間に回折効率を設定する。例えば,投影像の画角が40度の条件において,基板厚さ0.1mmでは,本実施例が提示する出射回折格子の回折効率の範囲では,0.3%から5.5%の間である。本実施例によれば,投影像の画角や導光板に入射するビームの直径等の条件に応じて,先に提示したシミュレーション方法を用いて,出射回折格子の適切な回折効率を定めることができる。
以上により,導光板では回折格子のピッチと回折効率の他に,基板の厚さが投影像の画質に重要な関与をすることが判った。同時に,中央輝度と輝度ムラが出射グレーティングの回折効率に対してトレードオフの関係にあることを示した。本実施例では,光ディスクのプロセス技術の活用により,安価に導光板を提供することを目的としている。
図12の説明にて,図中の数値が本発明の技術範囲を限定しない旨を述べたが,この理由は,基板の厚さが画質を左右する重要なパラメータであることに依っている。同時に,本実施例の導光板として,出射回折格子の回折効率を高めたい用途で,かつ凹凸パターンの高さがプロセス技術の条件範囲と適合しない場合,基板を薄くすることで,実効的に回折効率を増大させることにより解決可能なことを示した。
図15は光ディスクの量産プロセスを活用した,複数波長に対応する導光板を形成するプロセス全体を示す摸式図である。
(ステップ1)では,EB描画法等で作成したSiマスターから,入射回折格子用の母型301と出射回折格子用の母型302を準備する。続いて(ステップ2)で出射回折格子用の母型302と射出成型法により,出射回折格子303を形成したポリカーボネートの基板304を作成する。その上に(ステップ3)で入射回折格子用の母型301と2P法により入射回折格子を形成することで1枚の導光板1500を作成する。最後に(ステップ4)で,必要に応じてRGBの各色に対応した導光板1500を複数枚組み合わせて,本実施例の導光板を完成させる。
図16は本実施例の入射回折格子の作成プロセスを示す摸式図である。図16の上半分ではまず、予めEB描画法等を用いてSi等の上に凹凸パターンを形成した入射回折格子のマスター(母型)1601を準備する。2P法用の樹脂スタンパとなる母型301Rは以下により準備する。マスター1601の上に粘土やパターンの転写性等を考慮して選択したUV硬化樹脂1602を滴下した後,透明基板1603を用いて(A)加圧する。ついで,(B)紫外線による露光,(C)剥離を順次行って,樹脂スタンパ301Rを準備する。ここで用いるUV露光装置としてはコンベア式露光装置等を選択することができる。
図16の下半分では,予め射出成型法で出射回折格子を形成したポリカーボネート基板304Rの上に入射回折格子307Rを形成するプロセスを示す。樹脂スタンパ301Rの剥離性を高めるために,予め樹脂スタンパ表面に金属剥離層としてTi膜等を30nm程度成膜しておくとよい。
出射回折格子303が形成された基板304Rに,UV硬化樹脂1604を滴下した後,(D)加圧,(E)紫外線による露光,(F)剥離を順次行い入射回折格子307Rを形成する。ここで用いるUV硬化樹脂1604は,剥離性や転写性に加えて屈折率を考慮して,上述のUV硬化樹脂1602と別のUV硬化樹脂を用いることができる。
一般のUV硬化樹脂の屈折率は1.5程度であり,ポリカーボネートの屈折率1.58との差が小さいため,下地の凹凸パターンにより発生する位相差が小さく,回折は1/10以下に抑制される。しかしながら,画質を優先する場合,下地である出射回折格子303の凹凸パターンによる回折は限りなくゼロに近いことが好ましい。この場合には,選択するUV樹脂として屈折率が基板材料に近いものを選択することが有効である。
また,前述の反射コーティングは,後から形成した出射回折格子303の凹凸パターンに沿って成膜されるため,実効的に下地の出射回折格子の凹凸パターンの影響を小さくする効果も併せ持つ。また,入射回折格子307Rを形成する領域には,予め出射回折格子303を形成せずに平坦面としておく方法も有効である。さらには,入射回折格子307のUV樹脂と基板材料との密着性を考慮して,例えば240nm程度以下で,可視光波長に対して回折しない条件の狭ピッチの凹凸パターンを形成する方法も効果をもつ。
前述の試作素子では,UV樹脂はどちらも同じものを用いた。この後,前述の反射コーティング,ユーザが装着したときのシースルー性を高める目的で反射防止コーティング等を適宜形成する。また,射出成型で作成した基板の表面には,光ディスクで広く用いられるSiO2ナノ粒子等による撥水,撥油,傷防止処理を予め施しておくことも容易に適用可能である。
次に,導光板に入射するビームの直径に応じて,本実施例の導光板の厚さに適正値があることを示す。入射するビームの直径および出射回折格子の回折効率以外のパラメータは上と同様である。
図17は,入射するビームの直径4mmφの場合の網膜に投影される像の計算結果である。ここでは,出射回折格子の1次回折効率を1.7%とした。導光板の厚さTを、(a)2.0mm、(b)1.0mm、(c)0.6mm、(d)0.3mm、(e)0.1mm、と変化させた結果である。
図17(a)にみられるように,導光板の厚さTが2.0mmの場合,出射回折格子による像の複製作用が回折パターンとして分離されていることが判る。導光板を薄くすることによって,上に述べた幾何的な理由により回折パターンの間隔が小さくなり,基板厚0.6mm以下では回折パターンが重なることが判る。
図18Aおよび図18Bに、投影される像の品質として,輝度のRMS値と最大値をまとめた結果を示す。
図18Aに見られるように輝度のRMS値は基板厚が0.5mmから1.0mmの範囲において10%以下となって良好であることが判る。一方で,図18Bに見られるように、最大輝度は基板厚が薄いほど大きくなり,導光板の厚さが0.2mmで最大となる。上の回折効率と同様に,導光板の厚さに関しても,最大輝度と輝度ムラはトレードオフの関係あり,用途に応じて適した値を選択することが可能である。
図19は,入射するビームの直径1mmφの場合の網膜に投影される像の計算結果である。導光板の厚さTを、(a)2.0mm、(b)1.0mm、(c)0.6mm、(d)0.3mm、(e)0.1mm、と変化させた結果である。
投影光学系の大きさは概ね入射するビームの直径に比例すると考えてよいので,ここに示す結果は、本実施例の導光板を小型のヘッドマウントディスプレイに適応した場合のものである。ここでは,出射回折格子の1次回折効率を0.85%とした。光線の伝搬角度は回折格子のピッチと入射光の角度と波長で定まるため,これらが一定の場合,光線が網膜に投影されるまでに出射回折格子と交差する回数は基板厚に反比例する。したがって,出射回折格子の回折効率を基板厚に略比例させて設定することにより,光利用効率を概ね一定とすることができる。
図19(a)に見られるように,導光板の厚が2.0mmの場合,出射回折格子による像の複製作用が回折パターンとして分離されていることが判る。導光板を薄くすることによって,回折パターンの間隔が小さくなり,導光板の厚0.6mm以下では回折パターンが重なることが判る。
図20Aおよび図20Bに、輝度のRMS値と最大値をまとめた結果を示す。図20Aに見られるように輝度のRMS値は、基板厚が0.2mmから0.5mmの範囲において10%以下となって良好であることが判る。一方で,図20Bに見られるように最大輝度は導光板の厚が薄いほど大きくなる。これらの関係から,同様に用途に応じて適した導光板の厚さを選択することが可能である。
以上のように,本実施例の導光板は,入射するビームの直径に応じて導光板の厚さと出射回折格子の回折効率を適切に選択することにより,輝度が高く,輝度ムラが小さなヘッドマウントディスプレイ向けの導光板を提供することができる。ここでは,画角が40度と比較的広い場合について本実施例の作用を提示した。この場合,入射するビームの直径が1mmから4mmの範囲において,導光板の適切な厚さは0.2mmから1.0mmであり,両者には概略比例の関係がある。本実施例によれば,入射するビームの直径が,ここに例示した範囲を超える場合,この比例関係を利用して,適性な導光板の厚さを簡便に求めることができる。より詳細には,上と同様に本実施例で提示したシミュレーション方法を用いて,適正値を求めることが可能である。
実施例4の図17~図20に示したように,本実施例に好適な導光板の厚さと出射回折格子の回折効率は,導光板に入射する映像情報を含む光線群であるビームの直径に応じて適正な値があることを示した。導光板内部を全反射しながら伝搬する光線の波数は,波長,入射角,導光板の屈折率,および入射回折格子のピッチで定まり,式(2)から式(7)で示される。回折次数mn=1として、映像情報を含む光線が導光板の入射回折格子に垂直入射する場合の伝播角度θp0は次式(12)で表される。
ここで、nsは基板(導光板)の屈折率、Pは回折格子のピッチ、λは光線の波長である。上の例に従って,波長を550nm,回折格子のピッチを440nmとし,導光板の屈折率を1.58とすると、θp0は52.3°となる。導光板の厚さがtのとき,光線と出射回折格子が交差する点の間隔Lは,以下の式(13)となる。
図21は導光板(基板)の厚さとビーム間隔Lの関係を示す例である。光源の波長の広がりの効果を除いて考えると,導光板に入射するビームの直径がLに比較して小さい場合,ユーザが認識する映像情報は図17(a)のように不連続な輝点パターンとなる。すなわち、図21はビームの直径が一定の前提では、導光板の厚さが厚くなると画質が劣化することを示している。
ここでは,導光板の厚さと出射回折格子の回折効率とユーザが認識する像の品質の関係を示すため,入射するビームの直径がLに等しい場合について考察する。図17から図20に例示したのと同様な計算を実施して,導光板の厚さに対して輝度が最大となる出射回折格子の回折効率,および輝度ムラ(輝度RMS値)が最小となる出射回折格子の回折効率を,それぞれ求めた。
図22に結果を示す。図13に示したように,出射回折格子が矩形の場合の回折効率の最大値は7.5%である。また,本実施例の光ディスクのプロセスを活用するという観点から,導光板の厚さの下限は,Blu-ray Discのカバー層の厚さ0.1mmが実現性の点から現実的である。図中,斜線で示した領域は,輝度が最大から輝度ムラが最小となる回折効率の範囲であって,かつ回折効率の最大値7.5%以下で,導光板の厚さの下限を0.1mmとする範囲である。すなわち,図22中の斜線領域は,本実施例に好適な導光板の厚さと出射回折格子の回折効率の範囲を,より詳細に示すものである。
図22より,用途に応じて出射回折格子の回折効率を適宜設定した場合,本実施例に好適な導光板の厚さは0.1mmから4.0mmの範囲にあることが判る。前述のように,出射回折格子の回折効率の好適な範囲は光線の複製と導光板からの出射を広い面積に亘って実施するという観点から,0.1%~10%,好ましくは0.2%~7.5%の1次回折効率を有することが望ましいとしたが,図22に示すように,導光板の厚さ0.1mmから4.0mmの範囲において,好適な回折効率の範囲の計算結果は0.2%から7.5%であり,前述の範囲に一致することが判る。光線の複製と導光板からの出射を広い面積に亘って実施するため、さらに好ましくは0.5%から5.0%である。この場合、基板厚さは0.5mm~3mm程度に薄くできる。
以上,導光板の材質としてポリカーボネートを用い,出射回折格子の断面形状として矩形形状の導光板について本実施例に好適な各パラメータについて示した。本実施例では,他にアクリル樹脂や一般に眼鏡レンズに用いられる高屈折率のプラスチック材料(屈折率≧1.70)を導光板の材料として用いることができる。また,出射回折格子の断面形状としては,正弦波形状や三角形,台形等任意の形状を用いることも可能である。導光板の屈折率や出射回折格子の断面形状の影響は図22に示した本実施例を実施するのに好適な範囲に対して,概ねプラスマイナス20%程度の領域シフトになると考えられる。
さて,導光板は入射した画像情報を含む光線を内部で全反射導光しながら複製し,ユーザに視認可能な光線を出射するものであるため,少なくとも自重により大きくたわまないだけの機械的強度が求められる。導光板がたわんで,入射回折格子と出射回折格子の平行度がそこなわれると,両者のなす角度だけ,ユーザに認識される画像情報がひずむからである。上では,本実施例に好適な導光板の厚さはBlu-ray Discのカバー層の厚さ0.1mmが現実的な下限であるとした。0.1mm厚のプラスチック素材は自重でたわむことが避けられない。
これを避けるための,本実施例の導光板の構成を以下に示す。これまでの計算は,導光板の片側表面に出射回折格子を形成した場合について求めたものである。このとき,光線と出射回折格子が交差する間隔Lは式(13)で表される。入射するビームの直径Dに対して,D<<Lの場合には,視認される画像は不連続な輝点パターンとなる。導光板の厚さtを薄くすることにより,Lが比例して小さくなるため,画像の品質が向上することは図17に示したとおりである。
図23は,本実施例の導光板の構成を示す実施例である。ここでは,出射回折格子のみを示しており,1枚のプラスチック基板と4つの出射回折格子を一体化した例を示している。図中,11は基板,12,14,16,18は出射回折格子,13,15,17は透明なスペーサ層である。
本構成によれば,出射回折格子12,14,16,18の間隔はスペーサ層の間隔に一致し,これを0.1mm厚とする。 (式13)における導光板の厚さtは,光線と出射回折格子が交差するまでに,導光板の厚さ方向に移動した距離2tの1/2である。したがって,本構成においては,tの最小値がスペーサ層の厚さに一致させることができ,上の議論から画像の品質向上に効果的であることが判る。
図23に示した本実施例の導光板の構成は,基本的に多層Blu-ray Discの規格と同様であり,同様なプロセスを用いて作成することが容易である。このとき,出射回折格子12は基板11の上に射出成型法により形成し,その上にスペーサ層13,出射回折格子14を2P法で形成する。これを繰り返して,順次,スペーサ層15,出射回折格子16,スペーサ層17,出射回折格子18を順次形成すればよい。また、Blu-ray DiscやDVDの多層ROM媒体では,回折格子パターンが形成された各情報保持層(本実施例の出射回折格子に対応)の形成後に,誘電体反射膜や薄い金属薄膜等を形成して反射率を所定の値に制御している。
本実施例の導光板の場合,誘電体反射膜や薄い金属薄膜を出射回折格子の上に形成することによって,回折効率を制御することができる。このとき,出射回折格子の回折効率は,波動理論から形成した反射膜の反射率に略比例するため,容易に膜厚の設計が可能である。本実施例は,導光板の厚さの概念を拡張したものであり,透明なプラスチック基板上に形成された2層以上の出射回折格子を形成することにより,機械的強度を保ちながら,出射回折格子の厚さ方向の間隔を小さくすることにより,ユーザが認識する画像の品質を向上するものである。本実施例によって形成可能な出射回折格子の層の数の上限は概略8層となる。
図24Aおよび図24Bは、本実施例に好適な入射回折格子を示すシミュレーション結果である。ここでは光源の波長550nm,回折格子のピッチ440nm,基板の屈折率1.58として計算を行った。光利用効率の観点で入射回折格子には高い回折効率が求められる。
「特許文献2」に記載されるオーバハングした三角形の回折格子は,入射光を透過回折により高効率で導光板にカップリングすることができる優れた技術である。一方,図16Aおよび図16Bに示した実施例の入射回折格子の作成方法では,オーバハングした形状を作成することは困難である。ここでは,射出成型法や2P法等で作成することができるオーバハングしない通常の三角形の形状をもつブレーズ型回折格子について検討した。
図24Aは「特許文献2」と同じ透過型の回折格子のシミュレーション結果である。映像光線2401は左から入射する構成であり,図の右半分が基板2402を表している。基板2402表面に,回折格子を示す三角形状の凹凸パターンが見える。透過型の回折格子では,ブレーズ面による屈折と周期構造による回折が位相同調する条件で最大の回折効率が得られる。図に示すように,これを実現するには凹凸パターンの高さが大きい必要があり,パターンの角度は70度から80度,パターンの高さを周期で割ったアスペクト比は10以上が必要である。一般に,2P法による凹凸パターンの転写では,アスペクト比が2を超えると剥離性等の問題が生じて,量産時の歩留りが低下する。ここに示した透過型の回折格子は本実施例の入射回折格子としては適していないことが判る。
図24Bは反射型の回折格子のシミュレーション結果である。映像光線2401は同様に左から入射する構成であり,図の左半分が基板2402を表している。基板2402表面に,回折格子を示す三角形状の凹凸パターンが見える。反射型の回折格子では,ブレーズ面による反射と周期構造による回折による位相同調する条件で最大の回折効率が得られる。図に見られるように,透過型に比較して,低いアスペクト比の凹凸パターンでこの条件が満たされることが判る。このときの凹凸パターンの高さは約250nmであり,アスペクト比は約0.57である。前述の試作素子では,パターン高さが374nmの三角形状の凹凸パターンを良好に転写可能なことであった。本実施例の導光板には,反射型回折格子を用いることが好ましいことと言える。
図14Aおよび図14Bに示した結果から,出射回折格子の回折効率が一定の場合,投影像の輝度と輝度ムラがトレードオフの関係にあることを示した。ここでは,輝度が高く,輝度ムラが小さい本実施例の導光板に好適な出射回折格子の構成について示す。以下,光源の波長550nm,回折格子のピッチ440nm,基板の屈折率1.58,基板の厚さ0.6mmとして計算を行った。
図25Aおよび図25Bは導光板内部を伝播する光線の強度分布を可視化したシミュレーション結果である。図中,入射回折格子はy方向下側に配置され,y方向上側にユーザの目に相当する瞳が配置される。図25Aは投影像の中央部に至る光線の強度分布を示している。図中の出射円Oは,瞳に到達する光線が出射回折格子上で最後に回折した領域を示す。入射回折格子からy方向に向かう直線上の輝度の高い領域は,入射回折格子で回折され導光板内部を伝搬する主たる光線群(以下,主光線群)を示す。主光線群の伝播方向を矢印251で示す。
図25Aに見られるように,主光線群の伝搬によって強度が次第に減衰する特性をもつ。主光線群の周辺に広がる輝度の低い光線群は,出射回折格子により回折されx-y面内で進行方向が偏向された光線群である。この条件ではx-y面内で出射円Oと瞳は一致していることが判る。したがって,瞳に到達して画像として認識されるのは,強度の強い主光線群の一部である。
図25Bは投影像の右下端に至る光線の強度分布を示す。ここでは,理解を容易にするため,目のレンズ作用による画像の反転と網膜に投影されたイメージを脳で処理してさらに反転させて認知する効果を割愛し,視野の右下端に認識される画像は,右下端に向う波数ベクトルをもつとして表示している。
図に見られるように,主光線群は入射回折格子から右上に向って進行する。また,出射円Oと瞳Pはx-y面内で一致せず,瞳に届いて画像として認識される光線は,主光線群から左上方向に偏向されたものであることが判る。したがって,瞳Pに至って画像として認識される光線は図25Aの場合に比較して強度が低くなる。以上が,導光板を用いて像を投影する場合の輝度ムラが発生する理由の1つである。他に,入射する映像ビームの直径,RGB導光板の間のクロストーク,入射回折格子の-1次回折,回折格子のピッチと凹凸パターンの高さの不均一幅性による散乱などが,輝度ムラの原因として大きなものである。本実施例では図に示した主光線群と出射円の不一致による輝度ムラの改善方法を以下に提供する。
図26Aおよび図26Bは,本実施例による投影像の輝度ムラの改善方法を示す摸式図である。図では,図25Aおよび図25Bのシミュレーション結果に重ねて解決方法を摸式的に示している。図中,100は導光板,210および220は出射回折格子の一部に設けた回折効率増強領域である。図に示すように,視認される画像の位置によって,導光板内を伝播する主光線群の進行方向が異なる。
これを利用して,図26Bの場合,主光線群は回折効率増強領域210により,出射円の方向へ強く回折することにより,出射円に至る光線の強度を強くすることが可能となり,輝度ムラを改善することができる。
図26Aに示すように,回折効率増強領域は,画像の中央に向う主光線群と一致しない領域に形成することが好ましい。これは,前述のEB描画装置等でマスターを作成する際に,グレーティングを形成する凹凸のデューティ比や高さを制御することで実現できる。
「特許文献1」の図3に説明されている導光板では,導波路、および、3つの線形回折格子H0、H1、H2を備えている。入射光線は回折格子H0を照射し、この光は導波路へと結合される。導波路に形成されている2つの格子H1、H2は、互いの上に重なっている。「特許文献1」の知見を利用すると、本実施例は回折効率増強領域210には回折格子H1のみを形成し,回折効率増強領域220には回折格子H2のみを形成することによっても実現できる。EB描画装置ではH1とH2を同一面内にパターニングして,2つの波数ベクトルをもつ回折格子を形成することも容易であり,射出成型法により導光板を安価に提供することを目的とする本実施例には,1つの面に出射回折格子を形成した導光板が,光ディスクのプロセスを活用するという点において適していると言える。
図27は本実施例による投影像の輝度ムラの改善方法を示す別の摸式図である。ここでは,図25Aにおける主光線群の伝搬によるy方向の強度減衰に着目した解決法を提供する。図27は,投影像のy方向のピクセル位置と輝度との関係を上と同じ条件で計算した結果である。図に見られるように,出射回折格子が面内に一様な回折効率を持つ場合は,入射回折格子から出射円までの伝搬長に応じて,y方向のピクセル位置が大きくなる(投影像の上側)に従って,画像の輝度減衰が発生する(特性2701)。一方で,この減衰が緩やかな場合,線形近似で出射回折格子の回折効率を面内で補正することによって,投影像の輝度ムラを改善することができる(特性2702)。
図28は,画像形成手段であるプロジェクタ281で形成される像の輝度ムラを軽減する、本実施例の導光板を示す摸式図である。図中,300は導光板,307は入射回折格子,303は出射回折格子を示す。出射回折格子の凹凸パターンの拡大図をあわせて示す。図に見られるように,出射回折格子の凹凸パターンのデューティをy方向(光の伝播方向)に変化させることにより,回折効率に分布を付与することにより,図27に示した輝度ムラの改善が可能となる。
マスターの作成には半導体プロセス技術を応用する場合,EB描画法や縮小露光法によりレジストを所定のパターンで露光した後,洗浄,エッチングを順次実施して,Si基板の表面に凹凸パターンを形成する。このとき,レジストはスピンコーティング法等により厚さを一様に塗布されること,露光に用いる電子や光子は,レジストの厚さ方向に対して吸収率分布をもつこと,から凹凸パターンは一様な高さをもつことが好ましい。前述のように,回折格子の回折効率は凹凸パターンにより付与される位相差に応じて制御されるものであり,これは凹凸パターンのデューティを変化させることによっても制御することができる。以上により,本実施例の導光板に好適な回折効率の面内分布の付与の方法としては,凹凸パターンのデューティを面内で変調する方法が適していると言える。
図29は,本実施例の導光板を用いた別の実施例である。本実施例の導光板300は回折格子による回折の対称性により,プロジェクタ281と反対側にユーザの目がある場合にも画像を投影することが可能である。この場合,図示しないプロジェクタ内の液晶素子の投影パターンを上でミラー反転させることにより,容易にユーザは画像を認識できる。
図30は、本実施例の画像表示装置の構成を示す摸式図である。図中のプロジェクタ281から出射した画像情報をもつ光は,B,G,Rの各導光板300B,300G,300Rの作用によりユーザ400に届けられ,拡張現実を実現する。B,G,Rの各導光板は,図3に示した実施例の導光板を図15に示したように組み合わせたものであり,形成される回折格子のピッチと深さは,各色に応じて最適化されたものである。
図30において,本実施例の画像表示装置は導光板300B,300G,300R,画像形成手段としてプロジェクタ281,および図示しない表示画像制御部からなる。ここで導光板モジュール3001は図15に示したように,カラ―表示に対応して,R,G,B,それぞれの導光板を一体化したものである。また,画像形成手段としては,例えば、反射型または透過型の空間光変調器と光源とレンズから構成された画像形成装置,有機および無機EL(Electro Luminescence)素子アレイとレンズによる画像形成装置、発光ダイオードアレイとレンズによる画像形成装置,光源と半導体MEMSミラーアレイとレンズを組み合わせた画像形成装置等,広く公知の画像形成装置を用いることができる。また,LEDやレーザ光源と光ファイバの先端をMEMS技術やPZT等により共振運動させたものを用いることもできる。これらの中で,最も一般的なものは、反射型または透過型の空間光変調器と光源とレンズから構成された画像形成装置である。ここで、空間光変調装置として、LCOS(Liquid Crystal On Silicon)等の透過型あるいは反射型の液晶表示装置、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を挙げることができ、光源としては白色光源をRGB分離して用いることも,各色対応のLEDやレーザを用いることもできる。更には、反射型空間光変調装置は、液晶表示装置、及び、光源からの光の一部を反射して液晶表示装置へと導き、且つ、液晶表示装置によって反射された光の一部を通過させてレンズを用いたコリメート光学系へと導く偏光ビームスプリッターから成る構成とすることができる。
光源を構成する発光素子として、赤色発光素子、緑色発光素子、青色発光素子、白色発光素子を挙げることができる。画素の数は、画像表示装置に要求される仕様に基づき決定すればよく、画素の数の具体的な値として、上で示した1280x720のほかに,320×240、432×240、640×480、1024×768、1920×1080を例示することができる。
本実施例の画像表示装置では,プロジェクタ281から出射した映像情報を含む光線が,導光板300B,300G,300Rの各入射回折格子に照射されるように,位置決めして,導光板モジュール3001と一体化されて形成される。
また,図示しない表示画像制御部は,プロジェクタ281の動作を制御して,ユーザ400に適宜,画像情報を提供する機能を果たす。
本実施例では,ユーザに画像情報を提供する場合について示したが,本実施例の画像表示装置は,このほかにユーザや外界の情報を取得するためのタッチセンサ,温度センサ,加速度センサ等の各種センサや,ユーザの目の動きを計測するためのアイ・トラッキング機構を備えることが可能である。
以上説明した実施例によれば,広い視野角の実現に有利な「特許文献1」~「特許文献3」に記載されている凹凸型回折格子を有する導光板(画像表示素子)とそれを用いた画像表示装置を低コスト化,および軽量化してユーザに提供することができる。
以上説明した実施例によれば、光ディスクの製造技術を活用した低コスト化と,プラスチック化による軽量化を実現した導光板を提供することができる。コストに関しては概ね1/10~1/100,重さに関しては概ね1/2以下が目安となる。また,導光板のプラスチック化により,ユーザが装着した際に,思わぬ外力による衝撃を受けた場合,プラスチックはガラスに比較して飛散しにくい特性があるため,安全性が向上するという付帯的な効果も実現される。
また,特許文献6に記載されている,車載用途向けのヘッドアップディスプレイ(HUD)は,図1に見られるように,本発明のヘッドマウントディスプレイとほぼ同じ構造により,運転者に適切な情報を提示することができる。したがって,本発明の導光板は,ヘッドアップディスプレイにも容易に応用することが可能である。