JP7051513B2 - 乾燥肉の製造方法 - Google Patents
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Description
本発明における混合工程とは、原料肉に、少なくとも食用油脂及びpH調整剤を混合して肉塊を製造する工程である。pH調整剤と、食用油脂には以下のような効果がある。
(1)pH調整剤を混合して酸性にすることで、タンパク質間の結合を剥し、乾燥肉の復元性を向上させることができる。
(2)後工程の加熱によって、原料肉から脂質が流出するが、あらかじめ食用油脂を補充しておくことで、ジューシーな食感を維持することができる。
原料肉としては、牛肉、馬肉、豚肉、羊肉、鶏肉等の畜肉を使用することができ、特に大型の家畜の肉(具体的には、牛肉、馬肉、豚肉)では、本発明の効果が顕著である。大型の家畜の場合、筋肉に掛る負荷が大きいため、筋線維が発達しており、タンパク質の密度が高い。このため、従来の方法で乾燥処理を行うと、タンパク質間に隙間がなく、復元性の悪い乾燥肉になってしまう。一方、本願発明によれば、原料肉に大型の家畜の肉を使用した場合であっても、pHによる変性と、熱による変性を組み合わせているため、復元性の良い乾燥肉を製造することができる。
食用油脂は、融点が30℃以上、42℃以下であることが好ましい。具体的には、ラード、牛脂、ヘッド、羊脂、馬油、鶏油等の家畜の油脂や、パーム油のような植物油脂を使用することができる。なお、食用油脂の融点が30℃未満の場合には、流動性が高すぎて成型しにくい。一方、食用油脂の融点が50℃を超える場合には、食用油脂が口の中で溶けないためジューシーさを感じることができない。
pH調整剤としては、酢酸、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、リン酸類、炭酸水素ナトリウム等を使用することができる。原料肉にpH調整剤を加えて弱酸性(pH5.7~6.2)に調整することでタンパク質の一部が変性(以下「弱酸変性」という場合がある)し、タンパク質間の結着が剥がれ、乾燥肉の湯戻しを改善することができる。
混合工程では、復元性やジューシーさを失わない範囲で、原料肉、食用油脂、及びpH調整剤以外の材料を加えても良い。具体的には、大豆タンパク、小麦タンパク等の植物性タンパク質、食物繊維の供給源としてタマネギ、キャベツ等の野菜、食塩、醤油、みりん、グルタミン酸ナトリウム等の調味料、単糖、二糖、オリゴ糖、及び糖アルコール等の糖類、並びに胡椒、シナモン、唐辛子等の香辛料などを使用することができる。
蒸し工程とは、混合工程を経た肉塊を70~130℃の蒸気で処理する工程である。肉塊を蒸すことでタンパク質が変性し、タンパク質間の結着が剥がれ、乾燥肉の復元性をより高めることができる。
(熱変性)
畜肉を加熱すると、タンパク質間の水素結合が緩んで高次構造が失われ、次いで凝集が起こりタンパク質間に空間が生じる。湯中又は高湿度環境下においてはその空間に自由水が入り込み、且つ凝集前と比較すると減少するものの凝集したタンパク質内部にも自由水が保持されている。このため、タンパク質自体は収縮して若干堅くなるが、肉全体としては歯切れの良い柔らかな食感となる。ところが、この肉を乾燥すると、タンパク質間の空間やタンパク質内部から自由水が失われて堅くなる。湯戻しの際には、タンパク質間の空間には比較的容易に自由水が行き渡るが、タンパク質内部には自由水がなかなか行き渡らない。このため、湯戻りが遅く、堅い食感になりやすい。
乾燥変性とは、熱変性と乾燥が同時に進む条件での変性である。乾燥変性の場合には、上記の熱変性と乾燥が同時に進むため、タンパク質間の空間が生じにくい。このため、湯戻りが非常に遅く、極めて堅い食感になりやすい。
pHを酸性にすると、タンパク質の表面や内部の荷電性極性基(Arg、Asp、Glu、His、Lys)の荷電状態が変化し、静電気的な反発によって高次構造が失われる。
乾燥工程とは、蒸した肉塊を乾燥させて乾燥肉を製造する工程である。蒸し工程を経ただけでは、水分活性が高く、長期保存に向かないため、別途乾燥工程を設けて肉塊の水分活性を低下させる必要がある。なお、長期保存の観点から、乾燥肉の水分活性は0.850aw以下であることが好ましい。
ブロック状の鶏胸肉から余分な脂身、筋および血管等を除去し、ミンサープレート穴サイズ4.7mmのチョッパーでチョップして原料肉を作製した。
原料肉(鶏ムネ肉)100重量部、大豆蛋白45重量部、玉葱37重量部、ショ糖9重量部、旨味調味料7重量部、食塩3重量部、水80重量部を混合して練肉を調整した。この練肉83重量部に食用油脂(パーム油)17重量部およびクエン酸を加えて5分間混合し、pH5.9、厚さ10mmの板状の肉塊を作製した。なお、クエン酸の添加量は、肉塊のpHを確認しながら調整した。
肉塊を一辺約10mmの立方体状に切り分けた後、100℃の飽和水蒸気で225秒処理した。蒸し工程における肉塊の中心温度(最高温度)は96℃だった。
最後に、肉塊を凍結乾燥法により乾燥させて、乾燥肉1(実施例1)を作製した。
肉塊のpHを5.9から5.6、5.7、5.8、6.1、6.2、6.4に変更した。
※pH調整剤はクエン酸を使用
肉塊に含まれるパーム油を17重量部から0、5、10、25、35重量部に変更した。
パーム油を豚脂、牛脂、鶏油、パーム油(硬化)、パーム油(極度硬化)に変更した。
蒸し温度を60、80、120℃に変更した。
1.蒸し工程後収率
本発明における「蒸し工程後収率」とは、蒸し工程前の肉塊重量と、蒸し工程後の肉塊重量との割合を百分率で表したものである。例えば、肉塊100重量部が、蒸し工程後に90重量部となった場合には、蒸し工程後収率は90%となる。
本発明における「乾燥後収率」とは、蒸し工程前の肉塊重量と、乾燥工程後の肉塊(=乾燥肉)重量との割合を百分率で表したものである。例えば、肉塊100重量部が、蒸し工程と乾燥工程を経て30重量部となった場合には、乾燥工程後収率は30%となる。
本発明における「復元率」とは、乾燥工程後の乾燥肉重量と、湯戻し後の乾燥肉重量との割合を百分率で表したものである。例えば、乾燥肉30重量部が、湯戻し後に90重量部となった場合には、復元収率は300%となる。なお、湯戻し条件は以下のとおりである。
湯温:96℃(沸騰したお湯を紙製カップに注いだときの温度)
時間:180秒
本発明における「総合収率」とは、蒸し工程前の肉塊重量と、湯戻し後の乾燥肉重量との割合を百分率で表したものである。例えば、肉塊100重量部が、蒸し工程、乾燥工程、および湯戻しを経て90重量部となった場合には、総合収率は90重量%である。
復元後の乾燥肉(中心温50℃)について、熟練した10名のパネラーが、実施例1を食感が良好な基準(基準1)、比較例1を食感が悪い基準(基準2)として、以下の通り評価を行った。
○:基準1と比較して“同等又はそれ以上にやわらかい食感”と評価したパネラーが7名以上
×:基準2と比較して“同等又はそれ以上に堅い食感”と評価したパネラーが7名以上
△:上記以外の評価
復元後の乾燥肉(中心温50℃)について、熟練した10名のパネラーが、実施例1をジューシー感の良好な基準(基準3)、比較例3(極度硬化油)をジューシー感の悪い基準(基準4)として、以下の通り評価を行った。
○:基準3と比較して、“同等又はそれ以上に肉汁が多くジューシー”と評価したパネラーが7名以上
×:基準4と比較して、“同等又はそれ以上に肉汁が少なくジューシーではない”と評価したパネラーが7名以上
△:上記以外の評価
Claims (5)
- 原料肉に、少なくとも融点が50℃以下の食用油脂及びpH調整剤を直接混合し肉塊を製造する混合工程と、
肉塊を70~100℃の蒸気で処理する蒸し工程と、
蒸した肉塊を乾燥させる乾燥工程とからなる乾燥肉の製造方法であって、
蒸し工程前の肉塊に含まれる食用油脂が5重量%以上であり、
且つ、
肉塊のpHが5.7~6.2であることを特徴とする乾燥肉の製造方法。 - 蒸し工程前の肉塊に含まれる食用油脂が27重量%以下であることを特徴とする請求項1記載の乾燥肉の製造方法。
- 蒸し工程における肉塊の中心温度が70℃以上、96℃以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の乾燥肉の製造方法。
- 乾燥工程における乾燥温度が100℃未満であることを特徴とする請求項1~3いずれか記載の乾燥肉の製造方法。
- 乾燥工程に、凍結乾燥法又は減圧乾燥法を用いることを特徴とする請求項1~4いずれか記載の乾燥肉の製造方法。
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