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JP6977437B2 - 分離材の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は分離材の製造方法に関する。
従来、タンパク質に代表される生体高分子を分離精製する場合、一般的には、合成高分子を母体とする多孔質型粒子、親水性天然高分子の架橋ゲルを母体とする粒子等が用いられている。多孔質型の合成高分子を母体とするイオン交換体の場合、塩濃度による体積変化が小さく、カラムに充填しクロマトグラフィーで用いた場合、通液時の耐圧性に優れる傾向がある。しかし、このイオン交換体をタンパク質等の分離に用いた場合、疎水的相互作用に基づく不可逆吸着等の非特異吸着が起きるため、ピークの非対称化が発生する、又は該疎水的相互作用でイオン交換体に吸着されたタンパク質が吸着されたまま回収できない問題点があった。
一方、デキストラン、アガロース等の多糖に代表される親水性天然高分子の架橋ゲルを母体とするイオン交換体の場合、タンパク質の非特異吸着がほとんどないという利点がある。ところが、このイオン交換体は、水溶液中で著しく膨潤し、溶液のイオン強度による体積変化、及び遊離酸形と負荷形との体積変化が大きく、機械的強度も十分ではないという欠点を有する。特に、架橋ゲルをクロマトグラフィーで使用する場合、通液時の圧力損失が大きく、通液によりゲルが圧密化するといった欠点がある。
親水性天然高分子の架橋ゲルが持つ欠点を克服するため、多孔性高分子の細孔内に天然高分子ゲル等のゲルを保持した複合体が、ペプチド合成の分野で知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1には、このような複合体を用いることにより反応性物質の負荷係数を高め、高収率の合成ができること、硬質な合成高分子物質でゲルを包囲するため、カラムベッドの形態で使用しても、容積変化がなく、カラムを通過するフロースルーの圧力が変化しないことが記載されている。
セライト等の無機多孔質体にデキストラン、セルロースといった多糖等のキセロゲルを保持させた分離材が知られている(例えば、特許文献2、特許文献3等)。このゲルには収着性能を付加するためにジエチルアミノエチル(DEAE)基等が付与されており、当該ゲルはヘモグロビンの除去に用いられる。その効果として、上記文献には、カラムでの通液性の良さが挙げられている。
いわゆるマクロネットワーク構造のコポリマの細孔を、モノマから合成した架橋共重合体ゲルで埋めたハイブリッドコポリマのイオン交換体が知られている(例えば特許文献4)。架橋共重合体ゲルは、架橋度が低い場合、圧力損失、体積変化等の問題があるが、ハイブリッドコポリマにすることで通液特性が改善され、圧力損失が少なくなり、また、イオン交換容量が向上し、リーク挙動が改善されることが記載されている。
有機合成ポリマ基体の細孔内に巨大網目構造を有する親水性天然高分子の架橋ゲルを充填した複合化充填材が提案されている(例えば、特許文献5、特許文献6)。
米国特許第4965289号明細書 米国特許第4335017号明細書 米国特許第4336161号明細書 米国特許第3966489号明細書 特開平1−254247号公報 米国特許第5114577号明細書 特開昭60−169427号公報
疎水性である多孔質ポリマ粒子の表面を、多糖類由来の水酸基含有ポリマで十分な量を被覆するためには、被覆前の水酸基含有ポリマに予め疎水性基を導入して、多孔質ポリマ粒子と水酸基含有ポリマとを疎水的に吸着させる必要がある。しかしながら、疎水性基を多く導入すると、高塩濃度等の環境においてタンパク質の非特異吸着量が増加する傾向がある。
本発明は、多糖類由来のポリマを表面に有する分離材において、動的吸着性に優れ、かつ非特異吸着量が抑制された分離材を提供することを目的とする。
本発明は、下記[1]〜[11]に記載の分離材の製造方法を提供する。
[1](メタ)アクリルアミド化合物に由来するモノマ単位を含有するポリマ鎖を有する温度応答性の変性多糖類を準備する工程と、上記準備する工程後に、スチレン系モノマに由来するモノマ単位を含有するポリマを含む多孔質ポリマ粒子の表面の少なくとも一部を、上記変性多糖類で被覆する工程とを含む、分離材の製造方法。
[2]上記ポリマ鎖が、水酸基を有するモノマ単位を0.1〜50モル%含む、[1]に記載の製造方法。
[3]上記ポリマ鎖が、フェニル基を有するモノマ単位を0.1〜5モル%含む、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]得られる分離材の比表面積が30m/g以上である、[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]上記分離材の粒径の変動係数が5〜15%である、[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]上記変性多糖類が、デキストラン、アガロース及びプルランからなる群から選ばれる少なくとも1種の多糖類に由来する、[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]得られる分離材において、上記変性多糖類の被覆量が、多孔質ポリマ粒子1g当たり30〜400mgである、[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]上記変性多糖類を架橋する工程を更に含む、[1]〜[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9]得られる分離材の細孔径分布におけるモード径が0.05〜0.5μmである、[1]〜[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10]得られる分離材をカラムに充填して該カラム内の圧力が0.3MPaとなるように水を通液させたときに、水の通液速度が800cm/h以上である、[1]〜[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11]上記変性多糖類に陽イオン交換基又は陰イオン交換基を導入する工程を更に含む、[1]〜[10]のいずれかに記載の製造方法。
本発明の製造方法により、多糖類由来のポリマを表面に有する分離材において、動的吸着性に優れ、かつ非特異吸着量が抑制された分離材を提供することができる。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではない。なお、本明細書中、「多孔質ポリマ粒子の表面」とは、多孔質ポリマ粒子の外側の表面のみでなく、多孔質ポリマ粒子の内部における細孔の表面を含むものとする。また、本明細書中(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸を意味し、(メタ)アクリレート等の類似の表現においても同様である。
<分離材>
本実施形態に係る分離材の製造方法は、(メタ)アクリルアミド化合物に由来するモノマ単位を含有するポリマ鎖を有する温度応答性の変性多糖類を準備する工程と、上記準備する工程後に、スチレン系モノマに由来するモノマ単位を含有するポリマを含む多孔質ポリマ粒子の表面の少なくとも一部を、上記変性多糖類で被覆する工程とを含む。
本明細書において、温度応答性とは、温度に応じて水への溶解性が変化する性質をいい、特に特定の温度を境に水への溶解性が急激に変化する性質をいう。本実施形態に係る分離材の製造方法によれば、温度応答性を有する変性多糖類を用いることにより、当該変性多糖類を多孔質ポリマ粒子表面に被覆する際には、変性多糖類をより疎水性の状態としておき、多孔質ポリマ粒子への吸着を促進することができる。一方で、本実施形態の製造方法により得られた分離材をタンパク質等の生体高分子の分離に使用する際には、被覆された変性多糖類をより親水性の状態とし、非特異吸着量を抑制することが可能となる。
(多孔質ポリマ粒子)
本実施形態に係る分離材の製造方法に用いられる多孔質ポリマ粒子は、1種以上のモノマに由来するモノマ単位を含有するポリマを含む多孔質粒子である。本実施形態における多孔質ポリマ粒子は、スチレン系モノマに由来するモノマ単位を含有するポリマを含む。モノマは、スチレン系モノマ以外のモノマを含んでいてもよい。多孔質ポリマ粒子は、例えば、多孔質化剤を含むモノマを重合させて得られる。多孔質ポリマ粒子は、例えば、従来の懸濁重合等により合成することができる。
スチレン系モノマとは、スチレン骨格を有するモノマをいう。具体的なモノマとしては、以下のような多官能性モノマ及び単官能性モノマが挙げられる。
スチレン系の多官能性モノマとしては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルナフタレン、ジビニルフェナントレン等のジビニル化合物などが挙げられる。これらの多官能性モノマは、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。上記の中でも耐久性、耐酸性及び耐アルカリ性の観点から、ジビニルベンゼンを使用することが好ましい。
モノマがジビニルベンゼンを含む場合、その量は、モノマ全質量に対して50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましく、80質量%以上であることがより更に好ましい。ジビニルベンゼンを50質量%以上含むことにより、耐アルカリ性がより良好となるため好ましい。モノマ全質量に対するジビニルベンゼンの含有量の上限は100質量%であってもよい。
スチレン系の単官能性モノマとしては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、o−エチルスチレン、m−エチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、3,4−ジクロロスチレン等の、スチレン及びその誘導体が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記の中でも耐酸性及び耐アルカリ性を有するスチレンを使用することが好ましい。また、カルボキシ基、アミノ基、水酸基、アルデヒド基等の官能基を有するスチレン誘導体も使用することができる。
多孔質化剤としては、重合時に相分離を促し、粒子の多孔質化を促進する有機溶媒である、脂肪族又は芳香族の炭化水素類、エステル類、ケトン類、エーテル類、アルコール類が挙げられる。具体的には、例えば、トルエン、キシレン、ジエチルベンゼン、シクロヘキサン、オクタン、酢酸ブチル、フタル酸ジブチル、メチルエチルケトン、ジブチルエーテル、1−ヘキサノール、2−オクタノール、デカノール、ラウリルアルコール、シクロヘキサノール等が挙げられる。これらの多孔質化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記多孔質化剤は、モノマ100質量部に対して0〜200質量部使用できる。多孔質化剤の量によって、多孔質ポリマ粒子の空孔率をコントロールできる。さらに、多孔質化剤の種類によって、多孔質ポリマ粒子の細孔の大きさ及び形状をコントロールすることができる。
重合反応の溶媒として使用する水を多孔質化剤とすることもできる。水を多孔質化剤とする場合は、モノマに油溶性界面活性剤を溶解させ、モノマの液滴が水を吸収することによって、粒子を多孔質化することが可能である。
多孔質化に使用される油溶性界面活性剤としては、例えば、分岐C16〜C24脂肪酸、鎖状不飽和C16〜C22脂肪酸又は鎖状飽和C12〜C14脂肪酸のソルビタンモノエステル(例えば、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノミリステート又はヤシ脂肪酸から誘導されるソルビタンモノエステル);分岐C16〜C24脂肪酸、鎖状不飽和C16〜C22脂肪酸又は鎖状飽和C12〜C14脂肪酸のジグリセロールモノエステル(例えば、C18:1(炭素数18個、二重結合数1個)脂肪酸のジグリセロールモノエステル等のジグリセロールモノオレエート);ジグリセロールモノミリステート、ジグリセロールモノイソステアレート又はヤシ脂肪酸のジグリセロールモノエステル;分岐C16〜C24アルコール(例えば、ゲルベアルコール)、鎖状不飽和C16〜C22アルコール又は鎖状飽和C12〜C14アルコール(例えば、ヤシ脂肪アルコール)のジグリセロールモノ脂肪族エーテル;及びこれらの乳化剤の混合物が挙げられる。
好ましい油溶性界面活性剤としては、ソルビタンモノラウレート(例えば、SPAN(登録商標)20、好ましくは純度約40%を超える、より好ましくは純度約50%を超える、最も好ましくは純度約70%を超えるソルビタンモノラウレート);ソルビタンモノオレエート(例えば、SPAN(登録商標)、好ましくは純度約40%、より好ましくは純度約50%、最も好ましくは純度約70%を超えるソルビタンモノオレエート);ジグリセロールモノオレエート(例えば、純度約40%を超える、より好ましくは純度約50%を超える、最も好ましくは純度約70%を超えるジグリセロールモノオレエート);ジグリセロールモノイソステアレート(例えば、好ましくは純度約40%を超える、より好ましくは純度約50%を超える、最も好ましくは純度約70%を超えるジグリセロールモノイソステアレート);ジグリセロールモノミリステート(好ましくは純度約40%を超える、より好ましくは純度約50%を超える、最も好ましくは純度約70%を超えるソルビタンモノミリステート);ジグリセロールのココイル(例えば、ラウリル基、ミリストイル基等)エーテル:及びこれらの混合物が挙げられる。
これらの油溶性界面活性剤は、モノマ全質量に対して5〜80質量%の範囲で使用することが好ましい。油溶性界面活性剤の含有量が5質量%以上であると、水滴の安定性が向上することから、大きな単一孔を形成しにくくなる。油溶性界面活性剤の含有量が80質量%以下であると、重合後に多孔質ポリマ粒子が形状をより保持しやすくなる。
重合に用いられる水性媒体としては、水、水と水溶性溶媒(例えば、低級アルコール)との混合媒体等が挙げられる。水性媒体には、界面活性剤が含まれていてもよい。界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系及び両性イオン系の界面活性剤のうち、いずれも用いることができる。
アニオン系界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム、ヒマシ油カリ等の脂肪酸油、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩、アルケルニルコハク酸塩(ジカリウム塩)、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩などが挙げられる。
カチオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩などが挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコールアルキルエーテル類、ポリエチレングリコールアルキルアリールエーテル類、ポリエチレングリコールエステル類、ポリエチレングリコールソルビタンエステル類、ポリアルキレングリコールアルキルアミン又はアミド類等の炭化水素系ノニオン界面活性剤、シリコンのポリエチレンオキサイド付加物類、ポリプロピレンオキサイド付加物類等のポリエーテル変性シリコン系ノニオン界面活性剤、パーフルオロアルキルグリコール類等のフッ素系ノニオン界面活性剤などが挙げられる。
両性イオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミンオキサイド等の炭化水素界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤、亜リン酸エステル系界面活性剤などが挙げられる。
界面活性剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記界面活性剤の中でも、モノマの重合時の分散安定性の観点から、アニオン系界面活性剤が好ましい。
必要に応じて添加される重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、オルソメトキシ過酸化ベンゾイル、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−tert−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物が挙げられる。重合開始剤は、モノマ100質量部に対して、0.1〜7.0質量部の範囲で使用することができる。
重合温度は、モノマ及び重合開始剤の種類に応じて、適宜選択することができる。重合温度は、25〜110℃が好ましく、50〜100℃がより好ましい。
上記重合において、粒子の分散安定性を向上させるために、高分子分散安定剤を添加してもよい。
高分子分散安定剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸、セルロース類(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等)、ポリビニルピロリドンなどが挙げられ、トリポリリン酸ナトリウム等の無機系水溶性高分子化合物も併用することができる。これらのうち、ポリビニルアルコール又はポリビニルピロリドンが好ましい。高分子分散安定剤の添加量は、モノマ100質量部に対して1〜10質量部であることが好ましい。
モノマが単独に重合することを抑えるために、亜硝酸塩類、亜硫酸塩類、ハイドロキノン類、アスコルビン酸類、水溶性ビタミンB類、クエン酸、ポリフェノール類等の水溶性の重合禁止剤を用いてもよい。
多孔質ポリマ粒子及び分離材の平均粒径は、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、更に好ましくは100μm以下である。また、多孔質ポリマ粒子及び分離材の平均粒径は、好ましくは10μm以上、より好ましくは30μm以上であり、更に好ましくは50μm以上である。平均粒径が10μm以上であると、カラム充填後のカラム圧の増加を抑制できる傾向がある。
多孔質ポリマ粒子及び分離材の粒径の変動係数(C.V.)は、通液性を向上させるために、5〜15%であることが好ましく、5〜10%であることがより好ましい。粒径C.V.を低減する方法としては、例えば、マイクロプロセスサーバー(株式会社日立製作所製)等の乳化装置により単分散化する方法が挙げられる。
多孔質ポリマ粒子及び分離材の平均粒径及び粒径のC.V.(変動係数)は、以下の測定法により求めることができる。
1)粒子を、超音波分散装置を使用して水(界面活性剤等の分散剤を含む)に分散させ、1質量%の粒子を含む分散液を調製する。
2)粒度分布計(シスメックスフロー、シスメックス株式会社製)を用いて、上記分散液中の粒子約1万個の画像により平均粒径及び粒径のC.V.(変動係数)を測定する。
分離材及び多孔質ポリマ粒子の細孔容積(空孔率)は、それぞれ多孔質ポリマ粒子又は分離材の全体積(細孔容積を含む)の30〜70体積%であることが好ましい。細孔容積が70体積%以下であると、粒子の強度がより向上するため好ましい。分離材及び多孔質ポリマ粒子は、大部分の細孔の直径が、0.1μm以上0.5μm未満である細孔、すなわちマクロポアーを有するものであることが好ましい。より好ましくは、細孔容積が40〜70体積%で、細孔径が0.2μm以上0.5μm未満である。分離材及び多孔質ポリマ粒子の細孔径分布におけるモード径は、0.05〜0.5μmであることが好ましく、0.1〜0.5μmであることがより好ましい。モード径が0.05μm以上であると、細孔内に物質が入りやすくなる傾向があるため好ましい。モード径が0.5μm以下であると、比表面積を大きくすることができるため好ましい。これらは上述の細孔調整剤により調整可能である。
多孔質ポリマ粒子及び分離材は比表面積が約30m/g以上であることが好ましい。より高い実用性の観点から、比表面積は35m/g以上であることがより好ましく、40m/g以上であることが更に好ましい。比表面積が約30m/g以上であると、分離する物質の吸着量が大きくなる傾向がある。
(温度応答性の変性多糖類)
本実施形態に係る分離材の製造方法では、まず、(メタ)アクリルアミド化合物に由来するモノマ単位を含有するポリマ鎖を有する温度応答性の変性多糖類を準備する。その後、多孔質ポリマ粒子の表面の少なくとも一部に、上記変性多糖類を被覆する。(メタ)アクリルアミド化合物に由来するモノマ単位を含有する温度応答性を有するポリマ鎖を多糖類に導入することにより、多糖類に温度応答性を付与することができる。上記変性多糖類は、温度応答性を有するため、当該変性多糖類に疎水性基導入等の更なる処理をしなくても、疎水性である多孔質ポリマ粒子の表面に吸着させやすい。変性多糖類は、0〜80℃で応答性を有することが好ましく、20〜60℃で応答性を有することがより好ましい。
変性多糖類としては、例えば、多糖類に(メタ)アクリルアミド化合物に由来するモノマ単位を含有するポリマ鎖がグラフトされた、グラフト多糖類を用いることができる。変性多糖類を準備する工程は、(メタ)アクリルアミド化合物に由来するモノマ単位を含有するポリマ鎖を多糖類にグラフトする工程であってよい。変性多糖類は水酸基を有することが好ましい。原料の多糖類としては、例えば、デキストラン、アガロース、プルラン、キトサン等が挙げられる。多糖類の平均分子量は1万〜500万程度であることが好ましい。(メタ)アクリルアミド化合物に由来するモノマ単位を有するポリマ鎖をグラフトする方法としては、例えば、セリウム、過硫酸カリウム等を触媒とするグラフト方法などを用いることができる。また、多糖類の還元末端を利用して官能基を導入しておき、当該官能基と、導入すべきポリマ鎖とを化学結合し、ブロックポリマーを作製するという方法を用いることもできる。
グラフト導入量(ポリマ鎖導入量)は、元素分析、NMR等によって算出することができる。ポリマ鎖導入量は、変性多糖類全量に対して、例えば10〜60質量%であってよく、10〜40質量%であることが好ましい。窒素含有量は、変性多糖類全量に対して1質量%以上であることが好ましい。窒素含有量は、変性多糖類全量に対して、例えば10質量%以下又は5質量%以下であってよい。窒素含有量は元祖分析により測定することができる。変性多糖類の重量平均分子量は、例えば、10000〜5000000であってよく、100000〜1000000、又は150000〜500000であってもよい。変性多糖類の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフを用いて測定することができる。
多糖類に温度応答性を付与するために導入されるポリマ鎖としては、0〜80℃の温度範囲内で水和力が変化する温度応答性ポリマが挙げられる。温度応答性ポリマは、例えば、下限臨界溶解温度(LCST)を有するポリマ、又は上限臨界溶解温度(UCST)を有するポリマであってよい。多糖類又は変性多糖類に導入されるポリマ鎖は、温度応答性を有するポリマのホモポリマ、コポリマ、及びこれらの混合物のいずれであってもよい。
多糖類又は変性多糖類に温度応答性を付与するために導入されるポリマ鎖は、具体的には、例えば、以下のモノマの単独重合又は共重合によって得ることができる。モノマは、(メタ)アクリルアミド化合物を含む。(メタ)アクリルアミド化合物は、例えば、N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、N,N−ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体等であってよい。具体的には、例えば、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−エトキシエチルアクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−シクロプロピルアクリルアミド、N−シクロプロピルメタクリルアミド等が挙げられる。コポリマの場合はこれらの中で任意の2種以上を使用することができる。ポリマ鎖には、上記モノマ以外のモノマとの共重合体を用いてもよく、ポリマ同士のグラフト又は共重合体を用いてもよい。ポリマ鎖は、ポリマ鎖を構成するモノマ単位全量に対して、(メタ)アクリルアミド化合物由来のモノマ単位を45〜100モル%含有していてよく、80〜95モル%含有することが好ましい。
多糖類に導入されるポリマ鎖は、温度応答性を失わない程度に、水酸基を有するモノマ単位を含んでいてもよい。ポリマ鎖が水酸基を有するモノマ単位を含む場合、その含有量は、例えば、当該ポリマ鎖を構成するモノマ単位全体に対して0.1〜50モル%であってよく、1〜25モル%であることが好ましい。水酸基を有するモノマとしては、例えば、ヒドロキシエチルアクリルアミド、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピル、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、糖単位を有する(メタ)アクリレート、及びグリセリンモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でもヒドロキシエチルアクリルアミドを用いると、親水性が高く、アクリルモノマよりも耐加水分解性があるため好ましい。
多糖類に導入されるポリマ鎖は、フェニル基を有するモノマ単位を含んでいてもよい。多孔質ポリマ粒子と変性多糖類の被覆層との密着性を向上する観点から、ポリマ鎖を構成するモノマ単位全体に対してフェニル基を有するモノマ単位を0.1〜5モル%の割合で含むことが好ましい。フェニル基を有するモノマとしては、フェニルアクリルアミドを使用することが好ましい。
(被覆方法)
温度応答性を有する変性多糖類による、多孔質ポリマ粒子の表面の被覆は、例えば、多孔質ポリマ粒子の表面に上記変性多糖類の溶液を吸着させることにより行うことができる。吸着後、未吸着分の変性多糖類を除去した後、吸着した変性多糖類を架橋剤により架橋反応させて固定化してもよい。具体的には、例えば以下の方法により被覆を行うことができる。
変性多糖類を含む溶液の溶媒としては、変性多糖類を溶解することができるものであれば、何でも使用できるが、水が最も一般的である。溶媒に溶解させる変性多糖類の濃度は、5〜20(mg/ml)が好ましい。変性多糖類を含む溶液中に多孔質ポリマ粒子を分散させ、多孔質ポリマ粒子の表面に変性多糖類を吸着させる。吸着方法としては、変性多糖類を含む溶液に、多孔質ポリマ粒子を加えて一定時間攪拌する方法が挙げられる。吸着を、変性多糖類が溶媒に溶解しなくなる温度付近、例えばLCST付近、又はUCST付近で行うことにより、溶液中の変性多糖類の凝集を防ぎつつ、変性多糖類による被覆量を向上させることができる。攪拌時間は多孔質ポリマ粒子の表面状態によっても変わるが、通常6〜12時間程度攪拌すれば、変性多糖類の濃度が、多孔質ポリマ粒子の細孔内部で外部濃度と平衡状態となる。その後、水、アルコール等の溶媒で洗浄し、未吸着の変性多糖類を除去することが好ましい。
変性多糖類は、固定化されていることが好ましい。固定化は、例えば、変性多糖類を架橋することにより行うことができる。本実施形態に係る分離材の製造方法は、変性多糖類を架橋する工程を含むことが好ましい。架橋は、例えば、多孔質ポリマ粒子の表面に保持されている変性多糖類に架橋剤を加えて架橋反応させることにより行うことができる。
架橋剤としては、例えばエピクロルヒドリン等のエピクロロヒドリン、グルタルアルデヒド等のジアルデヒド化合物、メチレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物、エチレングリコールジグリシジルエーテル等のグリシジル化合物などの、水酸基に活性な官能基を2個以上有する化合物が挙げられる。また、多糖類としてキトサンのようなアミノ基を有する化合物を使用する場合には、ジクロルオクタンのようなジハライドも架橋剤として使用できる。
上記架橋反応には通常、触媒が用いられる。触媒の種類は、架橋剤の種類に合わせて適宜選択される。例えば、架橋剤がエピクロロヒドリン等の場合には水酸化ナトリウム等のアルカリが有効であり、ジアルデヒド化合物の場合には塩酸等の鉱酸が有効である。
架橋剤による架橋反応は、例えば、変性多糖類を含む溶液を吸着させた多孔質ポリマ粒子を適当な媒体中に分散、懸濁させた系に、架橋剤を添加して行われる。架橋剤の添加量は、変性多糖類を構成する単糖類の1単位を1モルとすると、それに対して0.1〜100モル倍の範囲内で、目的とする分離材の性能に応じて選定される。架橋剤の添加量が上記下限値以上であると、多孔質ポリマ粒子の表面に変性多糖類がより良好に保持される傾向にある。また、架橋剤の添加量が上記上限値以下であれば、架橋剤と変性多糖類との反応率が高い場合であっても、変性多糖類の特性が損なわれにくい。
触媒の使用量は、架橋剤の種類により異なる。通常、変性多糖類を構成する単糖類の1単位を1モルとすると、これに対して0.01〜10モル倍の範囲、好ましくは0.1〜5モル倍で使用される。
例えば、架橋反応条件を温度条件とした場合、反応系の温度を上げ、その温度が反応温度以上に達すれば架橋反応が生起する。
変性多糖類の溶液を吸着させた多孔質ポリマ粒子を分散、懸濁させる媒体としては、吸着させた変性多糖類溶液から、変性多糖類、架橋剤等を抽出してしまうことなく、かつ、架橋反応に不活性なものである必要がある。具体的には例えば、水、アルコール等が挙げられる。
架橋反応は、通常、5〜90℃の範囲の温度で、1〜10時間かけて行う。好ましくは、25〜90℃の範囲の温度である。
架橋反応終了後、粒子をろ別し、次いで水、メタノール、エタノール等の親水性有機溶媒で洗浄し、未反応の変性多糖類及び懸濁用媒体等を除去すれば、多孔質ポリマ粒子の表面の少なくとも一部に、温度応答性の変性多糖類を含む被覆層を有する分離材が得られる。変性多糖類による被覆量は、熱分解の重量減少等で測定することができる。本実施形態の分離材において、上記変性多糖類による被覆量は、多孔質ポリマ粒子1g当たり30〜400mgであることが好ましい。被覆量は、多孔質ポリマ粒子1g当たり100〜400mgであることがより好ましい。
(イオン交換基の導入)
得られた分離材は、イオン交換基、リガンド(プロテインA)等を、粒子表面の水酸基等を介して導入することにより、イオン交換精製、アフィニティ精製等に使用することができる。本実施形態に係る分離材の製造方法は、変性多糖類に、陽イオン交換基又は陰イオン交換基を導入する工程を含んでいてもよい。イオン交換基(イオン交換用官能基)は、陰イオン交換基又は陽イオン交換基であってよい。イオン交換基を導入方法として、例えば、ハロゲン化アルキル化合物を用いる方法が挙げられる。
ハロゲン化アルキル化合物としては、モノハロゲノカルボン酸及びそのナトリウム塩、ハロゲン化アルキル基を少なくとも1つ有する1級、2級又は3級アミン及びその塩酸塩、ハロゲン化アルキル基を有する4級アンモニウムの塩酸塩などが挙げられる。モノハロゲノカルボン酸としては、例えば、モノハロゲノ酢酸、モノハロゲノプロピオン酸等が挙げられる。ハロゲン化アルキル基を少なくとも1つ有する3級アミンとしては、例えば、ジエチルアミノエチルクロライド等が挙げられる。これらのハロゲン化アルキル化合物は、臭化物又は塩化物であることが好ましい。ハロゲン化アルキル化合物の使用量としては、イオン交換基を付与する分離材の全質量に対して0.2質量%以上であることが好ましい。
イオン交換基の導入には、反応を促進するために、有機溶媒を用いることが有効である。有機溶媒としては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、1−ペンタノール、イソペンタノール等のアルコール類が挙げられる。
通常、イオン交換基の導入は、分離材表面の水酸基を有する変性多糖類に行われるので、湿潤状態の粒子を、ろ過等により水切りした後、所定濃度のアルカリ性水溶液に浸漬し、一定時間放置した後、水−有機溶媒混合系で、上記ハロゲン化アルキル化合物を添加して反応させる。この反応は、温度40〜90℃、還流下で、0.5〜12時間行うのが好ましい。上記の反応で使用されるハロゲン化アルキル化合物の種類により、付与されるイオン交換基が決定される。
イオン交換基として弱塩基性基であるアミノ基を導入する方法としては、上記ハロゲン化アルキル化合物のうち、アルキル基のうちの少なくとも1つがハロゲン化アルキル基で置換されている、モノ−、ジ−又はトリ−アルキルアミン、モノ−アルキル−モノ−アルカノールアミン、ジ−アルキル−モノ−アルカノールアミン、モノ−アルキル−ジ−アルカノールアミン等を反応させる方法、又はアルカノール基のうちの少なくとも1つがハロゲン化アルカノール基で置換されている、モノ−、ジ−又はトリ−アルカノールアミン、モノ−アルキル−モノ−アルカノールアミン、ジ−アルキル−モノ−アルカノールアミン、モノ−アルキル−ジ−アルカノールアミン等を反応させる方法が挙げられる。これらのハロゲン化アルキル化合物の使用量としては、分離材の全質量に対して0.2質量%以上であることが好ましい。反応条件は、40〜90℃で、0.5〜12時間であることが好ましい。
イオン交換基として、強塩基性基の四級アンモニウム基を導入する方法としては、まず3級アミノ基を導入し、該3級アミノ基にエピクロルヒドリン等のハロゲン化アルキル化合物を反応させ、4級アンモニウム基に変換させる方法が挙げられる。また、4級アンモニウムの塩酸塩等の4級アミノハロゲナイドなどを分離材に反応させてもよい。
イオン交換基として、弱酸性基であるカルボキシ基を導入する方法としては、上記ハロゲン化アルキル化合物として、モノハロゲノ酢酸、モノハロゲノプロピオン酸等のモノハロゲノカルボン酸又はそのナトリウム塩を反応する方法が挙げられる。これらハロゲン化アルキル化合物の使用量は、イオン交換基を導入する分離材の全質量に対して0.2質量%以上であることが好ましい。
イオン交換基として、強酸性基であるスルホン酸基を導入する方法としては、分離材に対してエビクロロヒドリン等のグリシジル化合物を反応させ、さらに亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩又は重亜硫酸塩の飽和水溶液に分離材を添加する方法が挙げられる。反応条件は、30〜90℃で1〜10時間であることが好ましい。
一方、イオン交換基の他の導入方法としては、アルカリ性雰囲気下で、分離材に1,3−プロパンスルトンを反応させる方法も挙げられる。1,3−プロパンスルトンは、分離材の全質量に対して0.4%以上使用することが好ましい。反応条件は、0〜90℃で0.5〜12時間であることが好ましい。
本実施形態の分離材及び多孔質ポリマ粒子の細孔径分布におけるモード径、比表面積及び空孔率は、水銀圧入測定装置(オートポア:株式会社島津製作所製)にて測定した値であり、以下のようにして測定した値である。試料約0.05gを、標準5mL粉体用セル(ステム容積0.4mL)に加え、初期圧21kPa(約3psia、細孔直径約60μm相当)の条件で測定する。水銀パラメータは、装置デフォルトの水銀接触角130degrees、水銀表面張力485dynes/cmに設定する。また、細孔径0〜3μmの範囲に限定してそれぞれの値を算出する。
本実施形態における分離材は、タンパク質の静電的相互作用による分離、アフィニティ精製に用いるのに好適である。例えば、タンパク質を含む混合溶液の中に、イオン交換基を導入した分離材を添加し、静電的相互作用によりタンパク質だけを分離材に吸着させた後、該分離材を溶液からろ別し、塩濃度の高い水溶液中に添加すれば、分離材に吸着しているタンパク質を容易に脱離及び回収できる。また、本実施形態における分離材は、液体クロマトグラフィー等のカラムクロマトグラフィーにおいて使用することも可能である。例えばカラムクロマトグラフィーにおいて、本実施形態における分離材を備えるカラムを用いることができる。
本実施形態における分離材を用いて分離できる生体高分子としては、好ましくは水溶性物質である。具体的には、血清アルブミン、免疫グロブリン等の血液タンパク質、生体中に存在する酵素などのタンパク質、バイオテクノロジーにより生産されるタンパク質生理活性物質、DNA、生理活性をするペプチド等の生体高分子であり、好ましくは分子量が200万以下、より好ましくは50万以下のものである。また、公知の方法に従い、タンパク質の等電点、イオン化状態等によって、分離材の性質、条件等を選ぶ必要がある。例えば、特許文献7等に記載の方法に従って行うことができる。
本実施形態における分離材は、タンパク質等の生体高分子の分離において、天然高分子からなる粒子、及びポリマからなる粒子の持つそれぞれの利点をあわせ持った特性を示す。特に本実施形態の分離材の骨格となる多孔質ポリマ粒子は、例えば上述の方法で作られる多孔質ポリマ粒子であるため、耐久性及び耐アルカリ性に優れる。また、(メタ)アクリルアミド化合物に由来するモノマ単位を含有するポリマ鎖を有する温度応答性の変性多糖類を用いることにより、緻密に被覆することが可能となり、非特異吸着が起こりにくく、タンパク質の脱吸着がしやすく、タンパク質等の生体高分子に対する優れた分離能を有する。さらに、本実施形態の分離材は、同一流速下でのタンパク質等の生体高分子の吸着容量(動的吸着容量)が大きい点でも好ましい性質を有する。
本明細書における通液速度とは、φ5.0×200mmのステンレス製又はガラス製カラムに分離材を充填し、液を流した際の通液速度を指す。本実施形態の分離材は、カラムに充填した場合、カラム内の圧力が0.3MPaとなるように水を通液させたときに通液速度が800cm/h以上であることが好ましい。カラムクロマトグラフィーを用いてタンパク質の分離を行う場合、カラムに通液されるタンパク質溶液等の通液速度としては、一般に400cm/h以下の範囲であるが、本実施形態の分離材を使用した場合は、通常のタンパク質分離用の分離材よりも速い、通液速度800cm/h以上でも高吸着容量で使用することができる。
本実施形態における分離材の平均粒径は、通常、好ましくは10〜300μmである。分取用又は工業用のクロマトグラフィーでの使用には、カラム内圧の極端な増加を避けるために、分離材の平均粒径は50〜100μmであることが好ましい。
更に、本実施形態の分離材は、カラムクロマトグラフィーで使用した場合、使用する溶出液の性質によらず、カラム内での体積変化がほとんどないという、操作性における優れた効果を発揮することができる。
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(多孔質ポリマ粒子1)
500mLの三口フラスコに、モノマとして純度96%のジビニルベンゼン(DVB960、新日鉄住金化学株式会社)12g、多孔質化剤としてジエチルベンゼン12g及びヘキサノール12g、重合開始剤として過酸化ベンゾイル0.64gを加えたものを、分散相として用意した。ポリビニルアルコール(0.5質量%)水溶液を連続相として用意した。上記分散相及び連続相をマイクロプロセスサーバーにより乳化した後、得られた乳化液をフラスコに移し、80℃のウォーターバスで加熱しながら、攪拌機を用いて約8時間撹拌した。得られた粒子をろ過後、アセトンで洗浄し、多孔質ポリマ粒子1を得た。
(多孔質ポリマ粒子2)
多孔質化剤としてのジエチルベンゼンの量を8gに、ヘキサノールの量を16gに変更した以外は多孔質ポリマ粒子1の合成と同様にして、多孔質ポリマ粒子2を合成した。
(多孔質ポリマ粒子3)
多孔質化剤としてのジエチルベンゼンの量を4gに、ヘキサノールの量を20gに変更した以外は多孔質ポリマ粒子1の合成と同様にして、多孔質ポリマ粒子3を合成した。
(多孔質ポリマ粒子4)
市販のアガロース粒子(Capto DEAE、GEヘルスケア)を多孔質ポリマ粒子4として使用した。
(グラフト多糖類1)
デキストラン(分子量(Mw)12万)10gを240mLの水に溶解させ、過硫酸カリウム100mg及び硫酸水素ナトリウム60mgを溶液に添加し、30分間窒素によりバブリングした。イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)4680mg、ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA)250mg、及びフェニルアクリルアミド(PEAA)65mgを含む、160mLのモノマ水溶液を用意した。上記バブリング後の溶液に、上記モノマ水溶液を添加し、30℃で9時間重合させた。重合後、透析及び凍結乾燥を行い、グラフト多糖類1を得た。
得られたグラフト多糖類1の0.25質量%水溶液を用意し、低温から0.5℃/10分の速度で昇温しながら波長470nmの吸光度をモニタリングし、吸光度が急に上昇する点をLCST(下限臨界溶液温度)として記録した。また、グラフト多糖類1の分子量(Mw)を水系のゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を使用して測定した。
(グラフト多糖類2)
モノマ水溶液の配合を、イソプロピルアクリルアミド4429mg、ヒドロキシエチルアクリルアミド506mg、及びフェニルアクリルアミド65mgに変更した以外はグラフト多糖類1の合成と同様にして、グラフト多糖類2を合成した。
(グラフト多糖類3)
モノマ水溶液の配合を、イソプロピルアクリルアミド3925mg、ヒドロキシエチルアクリルアミド1011mg、及びフェニルアクリルアミド65mgに変更した以外はグラフト多糖類1の合成と同様にして、グラフト多糖類3を合成した。
(グラフト多糖類4)
モノマ水溶液の配合を、ヒドロキシエチルアクリルアミド4926mg、及びフェニルアクリルアミド65mgに変更した以外はグラフト多糖類1の合成と同様にして、グラフト多糖類4を合成した。
(実施例1)
(グラフト多糖類によるコーティング)
グラフト多糖類1を20mg/mLの濃度で含む水溶液を用意した。当該水溶液700mLに対して多孔質ポリマ粒子1を10gの割合で投入し、グラフト多糖類1が水中で凝集しないよう、グラフト多糖類1がLCSTを示す温度付近で24時間攪拌し、多孔質ポリマ粒子1にグラフト多糖類1を吸着させた。吸着後、粒子をろ過し、熱水で洗浄した。多孔質ポリマ粒子1へのグラフト多糖類1の吸着量は、ろ液の吸光度から算出した。
多孔質ポリマ粒子1の表面に吸着したグラフト多糖類1は次のようにして架橋した。グラフト多糖類1を吸着させた多孔質ポリマ粒子1の10gを0.4M水酸化ナトリウム水溶液に分散させ、エチレングリコールジグリシジルエーテルを39g添加し、24時間室温にて攪拌した。その後、粒子を2質量%のドデシル硫酸ナトリウム水溶液の熱水で洗浄し、更に純水で洗浄し、水中で保管した。
(被覆量)
多孔質ポリマ粒子1g当たりの被覆量(mg)は、示差熱熱重量測定装置(TG−DTA)を用いて測定される、粒子の5%重量減少温度におけるTGから算出した。測定は、40℃で30分保持した後、40〜500℃の温度範囲で行い、昇温速度は10℃/minとした。被覆量は下記式より算出した。結果を表2に示す。
被覆量(mg/粒子g)=R/(100−R)×1000
R(%)=95%−T
R(%):分離材に対する被覆量の割合
T(%):多孔質ポリマ粒子の5%重量減少温度における分離材のTG
(タンパク質の非特異吸着能評価)
得られた分離材0.5gを、BSA(Bovine Serum Albumin)濃度12mg/mLのTris−HCl緩衝液(pH8.0)50mLに投入し、24時間20℃で攪拌を行った。その後、遠心分離で上澄みをとり、分光光度計で上澄み液の280nmでの吸光度を測定し、上澄み液中のBSA濃度を求めた。上澄み液のインスリン濃度から、分離材1mL当たりのBSA吸着量(非特異吸着量)を算出した。
(イオン交換基の導入)
分離材を含む分散液をろ過して水を除去し、ジエチルアミノエチルクロライド塩酸塩を所定量溶解させた水溶液100mLに、当該分離材20gを分散させ、70℃で10分間攪拌した。そこへ、70℃に加温したNaOH水溶液5M100mLを添加し、1時間反応させた。反応終了後、ろ過し、水/エタノール(体積比8/2)で2回洗浄し、ジエチルアミノエチル(DEAE)基をイオン交換基として有する、実施例1の分離材(DEAE変性分離材)を得た。得られたDEAE分離材の細孔径分布におけるモード径及び比表面積を水銀圧入法にて測定した。また、DEAE分離材の粒径をフロー型粒径測定装置で測定し、平均粒径及び粒径のC.V.値を算出した。結果を表2に示す。
(カラム特性評価)
DEAE変性分離材を1MのNaOH水溶液と混合し、濃度30質量%のスラリーを調製した。φ5.0×200mmのガラス製カラムに、当該スラリーを15分かけて充填した。
(動的吸着容量)
動的吸着容量は以下のようにして測定した。DEAE変性分離材を充填したカラムに、40mmol/L Tris−塩酸緩衝液(pH8.0)を10カラム容量流した。その後BSA濃度0.5mg/mLの40mmol/LのTris−塩酸緩衝液をカラムに流し、UV吸光度測定によりカラム出口でのBSA濃度を測定した。カラム入口及び出口のBSA濃度が一致するまで液を流し、その後、5カラム容量分の1M NaCl Tris−塩酸緩衝液で希釈した。10% breakthroughにおける動的吸着容量は以下の式を用いて算出した。通液速度は800cm/hとした。結果を表2に示す。
10=cF(t10−t)/V
10:10%breakthroughにおける動的吸着容量(mg/mL wet resin)
cf:注入しているBSA濃度
F:流速(mL/min)
:ベッド体積(mL)
10:10%breakthroughにおける時間
:BSA注入開始時間
(実施例2)
グラフト多糖類1の代わりにグラフト多糖類2を使用した以外は実施例1と同様にして分離材を作製し、実施例2として評価した。
(実施例3)
グラフト多糖類1の代わりにグラフト多糖類3を使用した以外は実施例1と同様にして分離材を作製し、実施例3として評価した。
(実施例4)
多孔質ポリマ粒子1の代わりに多孔質ポリマ粒子2を使用し、グラフト多糖類1の代わりにグラフト多糖類2を使用した以外は、実施例1と同様にして分離材を作製し、実施例4として評価した。
(実施例5)
多孔質ポリマ粒子1の代わりに多孔質ポリマ粒子3を使用し、グラフト多糖類1の代わりにグラフト多糖類2を使用した以外は、実施例1と同様にして分離材を作製し、実施例2として評価した。
(比較例1)
多孔質ポリマ粒子1の代わりに多孔質ポリマ粒子3を使用し、グラフト多糖類1の代わりにデキストラン(Mw12万)をそのまま使用した以外は、実施例1と同様にして分離材を作製し、比較例1として評価した。
(比較例2)
多孔質ポリマ粒子1の代わりに多孔質ポリマ粒子1を使用し、グラフト多糖類1の代わりにグラフト多糖類4を使用した以外は、実施例1と同様にして分離材を作製し、比較例2として評価した。
(比較例3)
多孔質ポリマ粒子4をそのまま使用し、比較例3として評価した。
(比較例4)
デキストラン(分子量Mw12万)水溶液(2質量%)100mLに、水酸化ナトリウム4g、及びグリシジルフェニルエーテル0.4gを添加して、70℃で12時間反応させることにより、デキストランにフェニル基を導入した。得られた変性デキストランをイソプロピルアルコールで3回再沈殿させ、洗浄し、疎水化デキストランを得た。
20mg/mLの疎水化デキストラン水溶液700mLに多孔質ポリマ粒子1を10gの濃度で投入し、55℃で24時間攪拌させ、多孔質ポリマ粒子1に吸着させた。吸着後、粒子をろ過し、熱水で洗浄した。粒子への疎水化デキストランの吸着量はろ液中の疎水化デキストランの濃度から算出した。その後、実施例1と同様に架橋、イオン交換基導入の処理を行い、比較例4として評価した。
Figure 0006977437


Figure 0006977437


実施例で得られた分離材は、非特異吸着量が低かった。また、実施例で得られた分離材は、カラム流速800cm/hでも高い動的吸着容量を保つことが分かった。

Claims (11)

  1. (メタ)アクリルアミド化合物に由来するモノマ単位を含有するポリマ鎖を有する温度応答性の変性多糖類を準備する工程と、
    前記準備する工程後に、スチレン系モノマに由来するモノマ単位を含有するポリマを含む多孔質ポリマ粒子の表面の少なくとも一部を、前記変性多糖類で被覆する工程とを含み、
    前記被覆する工程で、前記変性多糖類を含む溶液中に前記多孔質ポリマ粒子を分散させ、前記多孔質ポリマ粒子の表面に前記変性多糖類を吸着させる、分離材の製造方法。
  2. 前記ポリマ鎖が、水酸基を有するモノマ単位を0.1〜50モル%含む、請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記ポリマ鎖が、フェニル基を有するモノマ単位を0.1〜5モル%含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
  4. 得られる分離材の比表面積が30m/g以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
  5. 得られる分離材の粒径の変動係数が5〜15%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
  6. 前記変性多糖類が、デキストラン、アガロース及びプルランからなる群から選ばれる少なくとも1種の多糖類に由来する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
  7. 得られる分離材において、前記変性多糖類の被覆量が、多孔質ポリマ粒子1g当たり30〜400mgである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
  8. 前記変性多糖類を架橋する工程を更に含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
  9. 得られる分離材のモード径が0.05〜0.5μmである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
  10. 得られる分離材をカラムに充填して該カラム内の圧力が0.3MPaとなるように水を通液させたときに、水の通液速度が800cm/h以上である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の製造方法。
  11. 前記変性多糖類に陽イオン交換基又は陰イオン交換基を導入する工程を更に含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の製造方法。
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