光で距離を測定する手法には極めて様々なものが知られているが、そのうちここでは光伝播時間法の数多くの変形について考察する。三角測量法やクロマティック共焦点距離測定等の他の方法は十分に高い精度に達するが、多くの用途では光伝播時間法の代わりにそれらを単純に用いることはできない。
光伝播時間測定法で非常に確立されているのはインコヒーレントな方法である。この方法では測定光が強度変調され、その時間位置が受光側で特定される。1GHzまでの変調周波数に対応する数ナノ秒領域の長さを典型的に持つパルスを用いるパルス法と、数百MHzの領域で周期的な変調が用いられる位相法とが区別される。これらに基づけば数mmの測定分解能が達成されるが、これは技術的に達成可能な限界(約1/10mm)からもはや遠くない。
特許文献1はパルス法の特殊な形態、いわゆるパルス平均法を出発点としている。この方法では単一パルスではなく多数の弱めのパルスがまとめて統計的に評価される。具体的にはこの場合、受光側での評価が最適フィルタ(整合フィルタ)により行われる。これによりノイズの多い環境条件下での測定精度が改善されるが、分解能の限界はいずれにせよもはや大きくは変わらない。
特許文献2では、レーザスキャナの発信光線を擬似乱数列で変調し、反射光をこの擬似乱数列と相関させる。これにより位相法に比べて耐ノイズ性が高まるが、測定精度は高まらない。特許文献3では複数の走査光線を区別するためにそれらの光線がそれぞれ独自の擬似乱数列で符号化される。
従来のインコヒーレントな光伝播時間法の測定分解能に限界があるのは、結局、人工的な比較的低い変調周波数に依存しているからである。これは、人工的な変調周波数よりも桁違いに高い数100THzの領域にある光周波数そのものを利用するコヒーレントな又は干渉型の方法により大幅に高めることができる。例えばマイケルソン干渉計では、測定光がアーム内で装置から出てから測定対象物の表面で反射される。別のアーム内では参照光が装置内で直接検出器まで導かれ、該検出器において前記反射された測定光と干渉する。これにより光の波長の一部分を単位として位相シフトを特定し、ナノメートル領域の測定分解能を達成することができる。
ただし、その代わりに一義性領域が非常に小さくなるという大きな欠点がある。なぜなら、干渉法で測定される位相のずれを用いると波長を法とした距離しか分からないからである。より大きなスケールで絶対値を得るには干渉の極大を数える必要があるが、これは常に可能なわけではないし、いずれにせよ多大なコストがかかる。
更に述べておくべきは、コヒーレントな測定法では、発信光乃至は参照光に対してまだコヒーレントな関係にある、測定対象物から後方散乱された光しか評価できないということである。故に干渉信号は非常に弱く、光学的な距離測定において普通であるメートル程度の射程を得るには非常に高い発光出力が必要であり、相応に高価な光源が用いられる。他方、数100mという非常に大きな距離の場合、コヒーレントな方法はむしろエネルギー収支が向上する。なぜなら、コヒーレント場は距離に反比例して低下するだけなのに対し、インコヒーレントな強度は距離の2乗に反比例して低下するからである。
ここまでの議論によれば、比較的低速の人工的な変調周波数で、測定精度に限界はあるものの一義性領域又は測定範囲が広い従来型の光伝播時間法を選ぶか、非常に高い光周波数で、測定精度は極めて高いものの一義性領域がほとんど消失するコヒーレントな方法を選ぶしかない。
測定分解能の高精細化に寄与する方法と、一義性領域の拡大に寄与する方法という、2つの異なる光学的な測定方法を組み合わせる様々なアプローチが従来技術において知られている。特許文献4では、位相法の一義性領域を広げるためにパルス法が利用されている。しかし、寄与している前記2つの光伝播時間法はインコヒーレントな方法であるため、光周波数の評価を用いるコヒーレントな方法において達成できる測定精度には到底及ばない。特許文献5は発信パルスの連射を用いる類似のアプローチを開示している。このアプローチでは、パルス群の包絡線を用いてパルス法と同様に位置が特定されるとともに、その位相に基づく位置特定も行われる。別の類似のアプローチでは、周波数変調連続波(Frequency-Modulated Continuous Wave:FMCW)法と同様にチャープ又は周波数ランプにおける人工的な変調周波数を変化させるが、これもやはり光周波数とは無関係である。
このような組み合わせで実際に本来の光周波数を利用するとなると、これまでは光伝播時間の通常の用途にとっては是認できないコストをかけなければ不可能であった。その場合、例えば、光そのものに時間依存性の周波数変化を生じさせるという、一種の光学的なFMCW法が実施される。これにより光にいわばマークが付けられ、それが干渉後のうなり周波数の測定により再構成され、一義性領域が周波数変化の時間間隔にまで拡大される。この種のアプローチに関するものには特許文献6、特許文献7又は特許文献8がある。他の変形例では、特許文献9のように正弦波状の周波数変調を生成したり、特許文献10のように2つのレーザ光源を用いてそれらの周波数を互いに逆に変化させたりする。
ここでの欠点は、その波長が十分に高速且つ高い信頼性で調節可能であり、その分だけ高価で技術的にもコストが高い、調節可能なレーザが必要だということである。また、周波数変調のために安定的な高速の制御を行うことは多大な電子工学的コストを意味する。
特許文献11から干渉法を用いた高解像度の距離測定方法が知られている。この方法では、参照光線の周波数を測定光線に対してシフトさせる。それに必要なコヒーレントな周波数シフトを生じさせるには非常に高いコストをかけなければならない。
非特許文献1又は非特許文献2に記載のような周波数コムの使用も知られている。しかし、周波数コムは非常に複雑且つ高価である。
パルス法ではコヒーレントな距離測定の一義性領域を広げることはできない。また、参照パルスと測定パルスが時間的にずれて検出器に当たるため、両パルスが干渉することはできない。
遠距離通信の分野から、変調によりデータを光信号に乗せるために位相変調を行うことが知られている。例えば二値的な位相シフトキーイングでは1ビットが位相0度と180度で符号化され、直角位相シフトキーイングでは2ビットが0度、90度、180度及び270度という位相値に書き換えられる。また、信号処理の分野から、CDMA(符号分割多元接続)で使用されている極めて多様で有利な特性を持つ擬似乱数符号列が知られている。
遠距離通信ではガラスファイバを通じたギガビットデータ伝送のために最大100GHzの変調周波数が商業的に用いられている。それに応じた高速の光電子部品が波長1550nm付近で利用可能である。例えば、干渉計において、強め合ったり弱め合ったりする干渉を利用してデータ光パルスを高速で強度変調するための位相シフタがそういう部品に当たる。この帯域幅を持つフォトダイオードや連続波出力100mWの単一モードレーザダイオードも入手可能である。
しかしこれらは全て遠距離通信に関するものであって、光学的な距離測定に関するものではなく、従ってここで論じられた問題の解決のために考えられたものではなく、またその解決に直ちに適しているものでもない。
故に、本発明の課題は、より正確で日々の使用に適した光学的な距離測定方法を示すことである。
この課題は、請求項1又は15に記載の光電装置及び監視領域内の物体までの距離を測定する方法により解決される。発光器がコヒーレントな発信光を監視領域内へ測定対象物まで送出する。逆に受光器で監視領域から到来する受信光が検出される。この光は周囲光と物体表面で反射又は拡散された発信光の一部とが重なったものである。制御及び評価ユニットを用いて変調により符号列が発信光に乗せられる。評価の際、受信光内の符号列の時間のずれが、参照基準としての既知の符号列との比較により、特に相関法又は最適フィルタ(整合フィルタ)を用いて特定される。この時間のずれが光伝播時間ひいては求める距離値に対応する。
本発明の出発点となる基本思想は、光伝播時間を光の搬送波周波数そのものに基づいて光学的な干渉により測定することである。符号列を用いた相関法が出発点ではあるが、基本的な違いが3つある。符号列が光波そのものに位相変調の形で刻印され、それが干渉型の装置において測定される。従って、強度変調の包絡線の評価を伴う人工的な振幅変調ではなく、光の搬送波が利用される。振幅変調は高い周波数を用いると技術的に実行困難になるが、位相符号を用いることでそれが克服される。干渉型の測定のために、発信光の一部が参照光として、直接的な経路、即ち、監視領域を通る測定光路を含まない装置内部の経路で、受光器まで導かれる。受光器では参照光と受信光が干渉する。即ち、これは光学的な干渉であり、受光器はそこで生じる干渉信号を検出する。参照光は変調前の発信光の一部として分岐されることが好ましい。また受光側には変調に用いられた符号列を電子的に供給することが好ましい。従来の相関法でも既知の符号列が電子的な経路で参照基準として導かれていたが、それは唯一の参照基準のままであり、そこでは光学的な干渉は生じない。
本発明には、10μm以下という、インコヒーレントな光伝播時間法の場合よりも数桁改善された非常に高い測定精度を達成可能であるという利点がある。それは従来のコヒーレントな測定法に比べて一義性領域が明らかに拡大した絶対的な距離測定であり、少なくとも100mmという比較的大きな測定領域が実現できる。そのために干渉の極大を数えるといった追加の措置は不要である。発信光とコヒーレントな関係にある受信光だけが捕らえられるので、距離測定の外部光耐性は極めて良好である。しかも、例えば遠距離通信用に市販されている手頃な部品を用いた技術的な実装が可能である。
発光器は、ある波長の発信光用の調整不能なレーザ光源を備えていることが好ましい。それには波長調節装置を持たない(調整不能な)単一波長の簡単な連続波レーザで十分である。つまりそれは周波数コムではなく、また高速の強度変化の機能もない。レーザにおいて例えば温度操作により常に起き得る不正確な波長変化はここでは「調整可能」とはみなさない。ここでは、変化させた波長を正確に制御して調節できるレーザ光源であって、特に、例えば中心波長の少なくとも1%というような一定の領域にわたり、且つ急な変化がないものだけが「調整可能」と言える。10mを超えるような長い射程の場合にのみ、少なくとも最大の射程まで往復する光路にわたって十分なコヒーレント長を確保するためにやや高価なレーザが必要になる可能性があるに過ぎない。更に、レーザは横単一モードであることが好ましい。例えば100mmの測定領域には、100mWの領域内の出力を持つ連続波駆動モードの単一モード半導体レーザダイオードで十分である。
制御及び評価ユニットは符号列の符号ビットを少なくとも10GHzの周波数で変調により発信光に乗せるように構成されていることが好ましい。周波数は数10GHz、あるいは少なくとも100GHzにすることができる。位相シフタのようなこのような高速の部品は光学的データ伝送の分野で利用可能である。この分野では伝送すべきデータを変調により乗せたり受信箇所で復号したりするためにそのような部品が用いられている。これに対し、光学的な距離測定では装置からの符号列が物体表面での拡散反射の後、最終的に装置自体に送られる。装置ではその符号列は既知であり、その知識が光路に対応する時間のずれの特定に利用される。
そういうわけで、正しい時間位置をできるだけ正確且つ一義的に特定できるようにするために、擬似乱数符号列を用いることが好ましく、しかもより好ましくは、該符号列の多義性領域が狭いこと、又は該符号列の自己相関関数が単一の極大値及びできるだけ低いサイドローブのみを生じさせることが好ましい。振幅変調を用いる従来のインコヒーレントな光伝播時間測定では多数の個別成分からなる符号は有利ではない。なぜなら,利用可能な発光出力が多数のパルスに分散され、それにより信号雑音比が損なわれるからである。場の強度に基づいて測定を行う本発明に係るコヒーレントな干渉法の場合、そのような損失はない。符号列が同数の1と0を有していれば有利である。このようにすれば、1ビットサンプリングと二値的な位相符号化を行う場合に、中心レベルが両方の変調された位相の中央値に固定される。サンプリングの閾値を低域通過フィルタで調整することで、パルス符号の位相切り替えが全て閾値と交差する一方、環境に起因する低速の位相変化は補償されるようにすることができる。
制御及び評価ユニットは、光伝播時間の測定を高精細化するために発信光又は参照光と受信光との間の光波の位相シフトを測定するように構成されていることが好ましい。この実施形態では、参照光に対する受信光の位相位置を光の波長又はその一部分のオーダーで特定することにより、測定精度がより高められる。符号だけに基づく本発明に係る測定は粗い測定だと言うことはできない。なぜなら、それだけでも既に10μm未満という測定精度を達成できるからである。それでも、波長の一部分の精度、つまりナノメートル領域の精度を持つコヒーレントな位相測定ははるかに高精細である。位相は符号要素毎にそれぞれ、符号を越えて多重的に測定して平均することができる。それそのものは狭い光波長の一義性領域が、符号に基づく測定によりその比較的大きな一義性領域にまで広げられる。
干渉信号を高い分解能でサンプリングするために、受光器の後段に少なくとも10GHzのサンプリング周波数を持つマルチビットAD変換器が配置されていることが好ましい。ナイキスト条件により、サンプリング周波数は高いほど有利であり、特に符号ビットの変調に用いられる周波数の2倍の高さがあるとよい。変調された符号列から光伝播時間を特定することがとにかく重要であるなら、このような相対的にコストのかかる高速のマルチビットAD変換器の使用は、後で紹介する様々な実施形態を用いることで回避できる。しかし、光波長に関連づけられた位相を高精細に特定したいなら、干渉信号を高い分解能で捕らえるのが簡単な実装法である。
制御及び評価ユニットは、2つ以上の位相状態、特に4つの位相状態を用いて変調により符号列を発信光に乗せるように構成されていることが好ましい。2つの状態(例えば0度と180度)を用いる二値的な位相符号化は実装が非常に簡単である。追加の位相、例えば直角位相シフトキーイングの場合のように0度、90度、180度及び270度という4つの位相を用いれば、後でまた論じるように、特に受信側での判別が容易になる。位相状態の数及び間隔は上記以外にも考えられる。
受光器が複数の受光素子を備え、各受光素子上で受信光と参照光から成る干渉信号がそれぞれ生成及び検出され、少なくとも1つの受光素子の受信光及び/又は参照光の光路に位相シフト素子が配置されていることが好ましい。この実施形態では、都合の悪い位相位置であっても受信光内の符号列を捕らえるために、互いに位相がずれた複数の受信チャネルが用いられる。受信チャネルの位相の相互のずれは参照光及び/又は受信光の光路内に適宜の遅延を導入することで生じさせることができる。例えば光波長の1/4だけ相対的にずらせば位相が90度ずれる。ビームスプリッタの反射信号と透過信号もこのような相互の位相のずれを持つから、これを用いてそれぞれの光を複数の受信チャネルに分配するとともに1つのチャネルに位相のずれを生じさせることができる。例えば較正の枠内で又は最終的な製造の際に受信チャネル間で正しい位相のずれを設定できるようにするために、調節可能な位相シフト素子を用いることが有利である。
特に好ましい実施形態では受光器が受光素子を一つだけ備えている。これにより装置の組立が容易になる。好ましくはこれを、2つの位相状態だけでなく例えば4つの位相状態を用いるややコストのかかる位相符号化と組み合わせる。特に、符号を符号化の0度と180度において一度送出し、符号化の90度と270度において再度送出することができる。このようにすれば受光素子はいずれにせよ一度はより都合のよい相対的な位相方向で以て検出を行う。従って、この意味で、発信側での位相符号化の複雑さと、複数の受信チャネルのための測定時間及びコストとは相互に交換可能である。また、複数の位相符号化と複数の受信チャネルを同時に設けること、例えば4つの位相と4つ又はわずか2つの互いに位相がずれた受信チャネルを同時に設けることが明確に可能になる。これはある意味で過剰であるが、測定情報の追加や測定時間の短縮をもたらす。
干渉信号又は複数の干渉信号の組み合わせを符号列との比較用のビット列に変換するために、受光器の後段に二値化器が配置されていることが好ましい。符号列を再構成し、発信光の変調に用いられる既知の符号列と比較する又は相関させるには、1ビット情報があれば十分である。高い周波数の二値化器はマルチビット変換器よりもずっと安価に実現できる。複数の受信チャネルがある場合は複数の又は同数の二値化器を設けることが好ましく、その場合、まず両極端の位相状態(例えば0度と180度)のみ判別した後、複数の受信チャネルを協働させて0度、90度、180度及び270度の象限といったより多くの位相状態を判別すれば済む。好ましい実施形態では、単位時間毎にチャネル中で優勢な出力ビットを1つだけ生成するために、受信チャネル同士が更に比較される。例えば、ある受信チャネルが別の受信チャネルに対して90度の位相差で検出を行うものとして、2つのチャネルのいずれにおいてより大きな干渉信号が検出されているかを示すビットが出力される。二値化器の使用は好ましいが、それを無視して、少なくとも1つの受信チャネルにおいて複数ビットを用いて高い周波数でサンプリングを行うことで、符号列に基づく光伝播時間測定を光波長の一部分にまで高精細にするための正確な位相位置を可能にすることも考えられる。
制御及び評価ユニットは符号列に加えて位相ランプを変調により発信光に乗せるように構成されていることが好ましい。そのためには、例えば2つの位相シフタを用いて一方で符号列を生成しつつ他方で位相ランプを生成する。あるいは複雑な位相シフタで両方を同時に行うこともできる。位相ランプは直線的に増大していることが好ましいが、鋸歯状に少しずつ増大していてもよいし、階段関数でもよい。
制御及び評価ユニットは1回の測定中に1つの符号列を繰り返し変調するように構成されていることが好ましい。これは言わば測定の繰り返しであり、それを統計的に評価することができる。好ましくは前記位相ランプをこの測定の繰り返しの下に置く。また、異なる符号列、好ましくは互いに直交する符号列を1回の測定中に相前後して用いることも考えらえる。このようにすれば測定領域が複数のサブ間隔及び符号に分割され、その結果、全体としてより一層広い一義性領域が生まれる。高いコストをかけて非常に長い符号列を互いに相関させる必要はない。
制御及び評価ユニットは、それぞれ繰り返し送出されて再び受信される符号列から複数の相関信号を求め、その信号のなかで位相ランプの周波数特性を利用したフーリエ解析により相関極大を見つけ出し、相関信号内における前記相関極大の時間的な位置及びそれに付属する位相を求めるように構成されていることが好ましい。位相ランプが下に置かれているため、繰り返し送出される符号列毎に異なる特徴の干渉が生じる。故に、個々の符号列に対するそれぞれの相関信号、特に相関極大は、位相ランプに応じてその振幅が振動する。好ましくは位相ランプが進展する際の周波数の知識を追加のフィルタとして利用して、フーリエ解析により相関極大の時間位置を求め、その正確な位相位置を光波長の一部分を単位として求めることさえできる。こうして高分解能マルチビットサンプリングなしで済ませることができる。
制御及び評価ユニットは干渉信号から生成された受信信号を微分的に評価して位相の跳びを求めるように構成されていることが好ましい。移動式の測定への応用や走査式の方法の場合がまさにそうであるが、実際の測定環境においては安定した条件の測定時間全体にわたってその条件が存在するとは限らない。それにより追加の位相シフトが生じて、それが位相符号と干渉法で測定すべき位相のずれとに重畳される。測定分解能が極めて高いため、それには微小な変動だけで十分である。このような動的な位相の変動がある場合でも位相の跳びはなおも跳びとして、つまり例えば0度から180度への突然の変化として認識可能である。故に、位相の跳びの位置だけが考慮される微分的な方法が有利になり得る。
受光器が複数の受光素子を備え、各受光素子上で受信光と参照光から干渉信号がそれぞれ生成及び検出され、少なくとも1つの受光素子の受信光及び/又は参照光の光路に位相シフト素子が配置され、制御及び評価ユニットが、複数の受光素子が同時にそれらの干渉信号の強度の跳びを捕らえたときに位相の跳びを認識するように構成されていることが好ましい。これは位相の跳びを簡単な手段で捕らえる上で好ましい実施形態である。既に紹介した実施形態でもそうだったように、互いに位相がずれた複数の受信チャネルがある。しかしここではそれを用いて位相そのものを測定したり符号化に応じて分類したりしようとするのではなく、単に位相の跳びの有無を検出するだけである。多重的な相互の位相のずれの検出において、干渉が強め合う状態から弱め合う状態へ又はその逆方向へ同時に切り替わっていれば、位相の跳びがある。当然ながら、「同時に」とは受信チャネルにより捕捉可能な最小時間に限定される。n本の受信チャネルのうち切り替わったチャネルの数mがどの程度あるべきかについては様々な基準が考えられる。
参照光及び/又は受信光の光路には特にスイッチング可能な偏光光学部品、例えばスイッチング可能な半波長板又は1/4波長板が配置されていることが好ましい。これにより、参照光及び/又は受信光に対して少なくとも一時的に偏光を変化させること、例えば直線偏光の偏光面を回転させることができる。場合によっては、検知対象の表面特性が都合の悪いものであるために参照光と受信光が互いに直交する方向に偏光されてしまい、干渉できないという状況になる可能性もある。一時的に偏光を変化させればそれが測定時間の少なくとも一部で起きなくなる。代案として、ある受信チャネルでは偏光を変化させ、別の受信チャネルでは変化させないようにすれば、前記偏光光学部品はスイッチング可能でなくてもよい。
制御及び評価ユニットは、監視領域内への発信光の送出を一時的に止めて干渉信号だけを評価するように構成されていることが好ましい。これは周縁部への的中や発光路内で前後に置かれた物体をより良好に分解する上で役立つ。発信光が送出されていない間は、より遠くにある物体からのより微弱な受信光でも、より近くの物体からのより強い受信光との重畳なしで検出して評価することができる。発信光が送出されていない間でも、干渉を可能にするために発光器はなおも参照光を生成している必要がある。従って、発光器をオフにするのではなく、例えばその光路を外部に向けて遮断する。
本発明に係る方法は、前記と同様のやり方で仕上げていくことが可能であり、それにより同様の効果を奏する。そのような効果をもたらす有利な特徴は、本願の独立請求項に続く従属請求項に模範的に記載されているが、それらに限られるものではない。
以下、本発明について、更なる特徴及び利点をも考慮しつつ、模範的な実施形態に基づき、添付の図面を参照しながら詳しく説明する。
図1は光学的な距離測定法のための光電装置10の構成をブロック図で示している。本装置10は、ある光波長のコヒーレント光を生成するレーザ12(例えば出力100mWの単一モード連続波レーザダイオード)を有する発光器を備えている。生成された光は分割鏡14等で発信光16と参照光18に分割される。参照光18は直接、つまり装置10の内部で受光側まで導かれる。
光変調器20が位相変調により発信光16に符号列を刻印する。例えば、光変調器20は位相シフタを備えている。位相シフタは半導体の導波路から成るpin型位相シフタとすることができる。その実効屈折率は入力される電流により素早く変化させられ、少なくとも10GHz、又は少なくとも100GHzという周波数でさえも位相符号化を生じさせる。対応する部品はガラスファイバ遠距離通信の分野で公知である。これの代替物としては熱的な位相シフタが考えられる。その温度は微小な発熱素子で変化させられ、それにより熱的な大きさが変化し、以てそれを通過する発信光16の位相も変化する。ここで強調すべき重要なことは、光波の場そのものが光周波数において変調されるのであって、光の強度(つまり光照射野の絶対値の二乗)において人工的に重ねられる振幅変調ではない、ということである。搬送波の周波数は数100THzという光周波数であり、数100MHzしかない人工的な変調周波数ではない。その上、光伝播時間法で普通に行われる振幅変調からここで説明した位相変調に変えれば、同じコストで大幅な高速化が可能になるため有利である。
符号列としては擬似乱数符号列やその相関特性に向けて最適化された符号列(バーカー符号、ウィラード符号等)が特に考えられる。このような符号が持つ達成可能な有利な特性は、該符号が単一の鋭い自己相関極大を示すこと、そしてそのように構成された別の符号とは相関性を持たないということである。もっとも、これらの符号の自己相関の幅を、サイドローブをなおも可能な限り大幅に抑えた状態に保ちながら意図的に若干広く設定することで、いわば人工的なジッタ(小刻みな変動)を導入することも考えられる。このようにすると、サンプリングをずらすことにより極大の時間位置をサブピクセルの精度で特定することができる。理想的なデルタピークではこれは不可能である。
同軸構造において発光路と受光路を分離するために別の分割鏡22が光変調器20の後段に配置されている。これにより共通の発光及び受光光学系24の使用が可能になっている。位相変調により符号列を刻印された発信光16が監視領域又は測定領域26へ送出され、そこで物体により拡散反射又は直反射され、受信光28として発光及び受光光学系24に戻る。共通の発光及び受光光学系24を用いれば発信光16とまだコヒーレントな状態にある光成分を容易に検出できる。
受信光28は干渉領域30へと導かれる。この領域で受信光28は、予め分離されて内部でここまで導かれた参照光18と光学的に干渉する。受光器32がそれに応じた電気的な干渉信号を生成する。ここで、図1に示したように光の干渉のために別の部品を設けることが考えられる。別のやり方では干渉が直接受光器32上で生じるが、その場合は参照光18と受信光28が受光器上で適切に重畳される。
受光器32の信号から受信光に含まれる符号列が後述の様々な実施形態で説明するような方法で復調される。この受信符号列と発信の際に位相変調に用いられた既知の符号列とを制御及び評価ユニット34(これは光変調器20も制御する)において相関させる。それには例えば最適フィルタ(整合フィルタ)が用いられる。これにより、送出された符号列と再度受信された符号列との間の時間のずれが得られ、以て光伝播時間の尺度が得られ、それを距離に換算することができる。この場合、10μm程度の測定精度が達成可能である。制御及び評価ユニット34は相関処理をデジタル方式で実行することが好ましく、それに対応してFPGA、ASCI又はマイクロプロセッサ等のデジタル部品を少なくとも1つ備えている。
このように装置10の基本構造は干渉計と同じである。レーザ12のコヒーレントな光が参照光18と発信光16に分割され、干渉計の一方のアームでは発信光16が測定光として物体へ送出され、他方のアームでは参照光18として装置内に留まる。そして、2本の光線が受光器32上で干渉する。刻印された符号化の時間のずれから光伝播時間が測定される。これは位相符号化を用いた干渉型の又はコヒーレントなLIDARとなる。
これにより既に従来の光伝播時間法の場合よりも数桁高い測定分解能が達成されるものの、追加的なコヒーレントな位相測定によってそれが更に大幅に高精細になる。好ましいことに、いま提案した有利な発展形態については、説明された測定でほとんど光波長を下回る測定精度が達成される。その場合、前述の測定は結局、追加的な位相測定の一義性領域を広げる上で役立つに過ぎない。
位相測定とは、位相符号化の内側で例えば100GHzでの位相変調に対応して全ての10ps毎に切り替わる個々の符号ビットの間に、光の位相が参照光18と受信光28の間で測定されるということを意味する。そのために例えば受光器32の干渉信号が高いサンプリングレート及び複数のビットでサンプリングされる。従ってこれは、ナノメートル領域で光波長の一部分を単位として距離を測定するためのコヒーレントな位相検出のことである。符号に基づく相関法とコヒーレントな位相測定の組み合わせにより、一義性領域の拡大と測定精度の向上が同時に達成される。
光学的な光路は図1の概略図では詳しく示されていない。これについては自由光線、光導波路又はガラスファイバ、及び混成型が考えられる。
装置10は変位センサとして部品制御に用いることができるが、他にも数多くの構成及び用途が考えられる。変位センサは一本の静止した測定光線を用いる単一ビーム型のシステムの例である。ただしその測定光線は、レーザスキャナの場合のように、それ自体公知のあらゆる手段を用いて運動させることもできる。その手段は、回転式又は揺動式の測定ヘッド、回転ミラー、切り子面ミラーホイール、回転プリズム、ボイスコイル式アクチュエータ、光フェーズドアレイ、MEMSミラー、液晶式光線偏向器等、いずれでもよい。ここでは、できるだけ静的な測定条件が出現し、測定の運動性による追加的な位相の変動が生じないようにするために、1回の測定の間、測定光線を1つの測定点上に固定した後、次の測定点へ跳ぶ、という運動パターンを選ぶのが好ましい。そのためにレーザスキャナではマイクロアクチュエータがスキャン運動とは逆の方向に測定光線を鋸歯状に案内することができる。あるいは、光フェーズドアレイ等を用いて測定方向を連続的にではなく急に変化させる。静止式システム及び可動式システムのいずれも単一の測定光線の代わりに複数の測定光線を用いることができる。
図2は光電装置10の一実施形態のブロック図をまた示している。図1と違ってこちらは発光路と受光路が分離されている。即ち、これはもはや共通の発光及び受光光学系を用いる同軸構造ではなく、発光光学系24aと受光光学系24bが分かれている。受光光学系24bの設計の際、物体からの反射光12のうちなるべく横モードだけが受光されるようにすることに注意すべきである。そうしなければコヒーレント性が失われる上、所望の測定信号に寄与しないインコヒーレント光が受光器を強く照らしてしまうからである。図2の実施形態は光電装置10には幅広い構成の可能性があることを裏付けるものに過ぎない。他にも、別の光学系を用いたり、分割鏡22の代わりにサーキュレータを用いたりするなど、多くの実施形態が考えられる。
装置10の受信側での大きな課題は受信光28内に位相変調された符号列をできるだけ簡単な技術的手段で再構成することである。それには様々な変調及び復調の仕組みが考えられる。ここではそのいくつかを紹介する。その際に考慮すべきは、参照光18の光照射野の絶対的な位相は実際上の理由から分からない又は遅くとも数秒という短い時間スケールで揺らぐということである。故に測定はこの絶対情報なしで行わなければならない。
発信光16には光変調器20を用いて様々な位相変調を刻印することができる。二値的な位相変調の場合、2つの、好ましくは0度と180度のように最大限に離れた位相だけが用いられる。変調周波数はできるだけ高速にする。そうすれば測定精度が高まるからである。今日の部品では少なくとも数10GHz、又は最低100GHzでさえ到達可能であり、その場合は各ビットのチップ長は10psになる。別の考えられる位相変調は、例えば0度、90度、180度及び270度という4つの位相状態を持つ2ビット符号化を用いる。位相状態の数や位相の間隔が異なる他の位相変調も考えられる。
図3は装置10内の受信側にある干渉と検出の領域を一部切抜き図で示している。図1及び2では受信チャネルが1つしかないが、参照光18と受信光28の間に都合の悪い時間のずれがある場合でも位相符号を捕らえるために、互いに位相がずれていて干渉する複数の受信チャネルを設けることが可能である。図3は2本の受信チャネルの例である。受信光28a〜bが分割され、同様に分割された参照光18a〜bと2箇所30a〜bで干渉する。そして2つの干渉信号に対する強度の検出がそれぞれ受光器32a〜bで行われる。一方の受信チャネルでは位相遅延素子36を用いて参照光18bが1/4波長分だけシフトされる。局部発振器の正弦信号と余弦信号を用いる電気的なIQ復調と同様に、2つの受信チャネルはIQ復調器を形成する。図4は代わりの構成を示している。ここでは位相遅延素子36が参照光ではなく受信光28bを90度だけシフトさせる。原理的には複数の光成分18a〜b、28a〜bの位相をシフトさせることや、90度以外のシフトを設定することもできる。
前記光学的なIQ復調器において生成される2つのアナログの電気信号は例えばデジタルの(ただしまだ連続的な)電圧信号に変換され、更に制御及び評価ユニット34においてデジタル方式で光照射野の位相に換算される。その結果生じる、まだ連続的な位相値は、最も良く合う位相ベースにおいて、発信側で用いられた位相符号化のラスタに割り当てられ、それによりチップ長毎にどの1ビット又は複数ビットがそこに符号化されているかが判定される。二値的な位相符号の場合は二値化を用いる1ビットの復号化が行われ、2ビットの位相符号の場合は2ビットの符号要素が再構成されるか、2つのビットがそれぞれ二値化される。続いて、光伝播時間を測定するために、発信光16中の既知の符号列と検出された符号列との間で既述のように相関がとられる。
図5は、図3又は4に記載の2つの受信チャネルをまとめるために考えられる簡略化の手順を示している。ここでは、既にアナログの段階で、電子的な比較器又は差動増幅器38を用いて2つの受信チャネルのアナログ信号「I信号」と「Q信号」が互いに比較される。そして、そのどちらがより強いかに応じて「1」又は「0」が出力され、その値からそれに対応する符号ビットが再構成される。
図6は2ビット符号化の場合の4つの位相状態を再度示している。これは、図1又は2のように受信チャネルを1つだけで済ませて装置10の構成を簡単なものに保つために有利に利用できる。非常に簡単な2ビット符号化の実装は、符号をまず0度及び180度の状態で取り込み、続いてすぐに90度及び270度の状態で取り込むことである。もっとも、より複雑な2ビット符号を排除するものでは決してない。
例えば0度と180度で捕らえられた位相パターンが参照光18の最新の全体的な位相に基づいて受光器32上で認識できなかったとすると、それに続く90度と270度での位相パターンは良好に視認可能である。これは図6を見れば容易に理解できる。全体的な位相位置が都合の悪いものである場合に2つの位相状態2と4が同じ干渉信号を生成するものとすると、位相状態1と3は最良の状態で区別できる。従って、例えば2つの符号列を0度と180度の状態及び90度と270度の状態に対してそれぞれ形成して相関をとることができる。普通はいずれの相関推移においても極大が見つかるが、特定の全体的な位相位置の場合に一方の相関推移に認識可能な極大が形成されなかったとすると、他方の相関推移では極大がより強くなる。
このやり方では、第2の受信チャネルでの90度回転させた検出を発信側での符号化に移し換えることが考えられる。そうすれば第2の受信チャネルのためのハードウエアが不要になるため技術的により簡単に実装できる。ただしある種の欠点がある。なぜなら、より長い測定時間が必要になるからである。即ち、都合の悪い位相位置の場合、送出される符号のうち半分しか捕らえて復号化することができないのである。
2ビットの位相符号化の場合に1つの受信チャネルで足りるということを説明したが、それでも図3及び4のように2つの受信チャネル又は4つの受信チャネルさえ用いることが有利になり得る。4つの受信チャネルの場合、図3及び4と同様にそれぞれの位相遅延素子36で0度、90度、180度及び270度だけ追加の位相シフトを生じさせることが有利である。このようにすれば、発信側の全ての位相状態が区別される。各受信信号は個々に二値化してもよいし、図5のようにまず一対ずつ互いに比較してもよい。こうして生じる符号列と発信光16の既知の符号列とを再びデジタル方式で相関させる。
位相状態及び受信チャネルの数は他にも考えられる。それらは説明した変形例に従って構成可能である。ここではそれぞれ技術的なコストと追加情報による利益を比較考量すべきであり、その際、より多数の受信チャネルに光を分配するとそれに応じて信号が弱くなることを考慮すべきである。
図7は別の有利な変調の考え方のための発光路の一部を示している。ここまで説明してきた位相符号に追加の低速の位相変調が重畳される。その実現の可能性として、連続する2つの光変調器20a〜b、特に位相シフタがある。適切な部品が利用可能でありさえすれば、単一の位相シフタでの実装も考えられる。図7の実施形態では、第1の光変調器20aが符号列を用いる高速の位相変化を担当し、第2の光変調器20bが低速の位相変調(例えば位相ランプ)を担当する。位相ランプはゆっくり、好ましくは直線的又は階段状に0度から180度、360度又は他の値まで増大する。それは距離測定の全時間にわたってもよいし、複数の鋸歯状の周期内でもよい。360度を大きく超える値領域にわたる位相の傾斜(ランプ)も考えられる。その場合、距離測定は例えば100ns続く。測定領域26が十分に静的であって統計的な方法を用いる場合はより長く、マイクロ秒領域又はそれ以上にもなる。位相ランプをそれに相当する半径方向の速度を有する被測定物によるドップラーシフトと間違えないようにするため、位相ランプは十分高速になるよう注意する必要がある。2つの光変調器20a〜bは逆の順序で配置してもよい。
位相ランプによる利点は、全体的な位相位置が都合の悪い状態で固定されることを回避できるということである。その上、各測定が追加的な位相によりある程度マーク付けされるため、一義性領域を更に拡張できる。そして位相ランプは非常に有利な測定を可能にする。これについて今から述べる。
そのためには、1つの距離値の測定時間よりも短く、連続して同じように複数回送出される符号列が用いられる。個々の符号列の持続時間の各部分区間毎に既知の発信符号との相関が計算される。従って、繰り返しと同じ回数の相関推移が生じる。しかし、位相ランプが重畳されているため、参照光18と受信光28の間の位相のずれは符号列の繰り返しの間に変化し、それに応じて相関推移も変化することになる。
図8では模範例としてそれを6つの繰り返し送出される符号列と相関推移について示している。相関推移は下から上に向かい、繰り返し毎に左から右へ割り当てられている。全体の位相位置に応じて干渉が強め合ったり弱め合ったりし、その大きさも違ってくる。位相ランプがあるためこうした異なる状況が次々に生じる。故に、図8の例ではまず強力に強め合う干渉が生じ、その後、干渉がなくなり、最後に強力に弱め合う干渉が生じる。これにより、相関極大、ほぼ平坦な相関の進行、そして最後に相関極小が生じる。相関極大の振幅は位相ランプの周波数で振動する。
これにより、正しい周波数で振動する正しい相関極大をそれとして見出すことができることが容易に分かる。ただし、実際の測定信号では信号雑音比があまりに悪くなるため、個々の相関推移内でもう明瞭な相関極大を認識したり、ましてやその振幅を高い信頼性で評価したりすることはできない。これは相関推移の共通のフーリエ解析により克服できる。図8ではそのために模範的に複数の水平線が描かれている。これらは符号列の新たな繰り返し送信の開始からそれぞれ同じ時間距離にある測定値に相当する。相関極大を通り抜ける水平線ではフーリエ変換後に明瞭なピークが位相ランプの周波数に出現する。
つまり、フーリエ解析により、あるいは他の種類の周波数解析又は変動解析により、必要な重要性を持った相関極大を見出すこと、そして光伝播時間を測定することができる。その際、既知の位相ランプをフィルタとして利用する。しかもフーリエ変換は付属する位相の情報ももたらす。これは、測定値を高精細にするために任意選択で行われる追加的なコヒーレントな位相検出による、正確な、光波長の一部分を単位として測定された位相である。つまりこの測定法は参照光18と受信光28において符号列のずれを特定するための別の代替策であるのみならず、高精細化を行うコヒーレントな位相法を補完することも可能にする。またフーリエ解析は図8で説明のために用いられた水平線に限られず、繰り返される相関推移の2次元的なデータフィールド全体を考慮することができる。
この測定法を実施する際、新たな符号繰り返しを用いた測定がまだ続いている間にもう相関を計算しておくことができる。従ってこの計算は一種の並行パイプラインで処理できるような小さなブロックに分割することが有利である。位相ランプを用いれば単一の受信チャネルで十分であるが、2つの受信チャネルI及びQ又は前述したその他の変調及び復調を用いた測定も可能である。
別の実施形態では、位相ランプが、運動する物体により生じることのあるドップラーシフトの測定又は補償を可能にする。なぜなら、例えばフーリエ解析では受信光28における位相ランプの掃引周波数を測定できるからである。ドップラーシフトがあればそれは発信側の既知の掃引周波数から外れる。それが今度は半径方向の物体の速度についての測定情報になる、あるいはそれが補償される。この補償は例えば測定信号をアナログ又はデジタル方式で第2のデータ評価において掃引周波数の測定値とダウンミキシングすることにより行われる。
位相符号を用いた変調と受信側でのその再構成に関する様々な実施形態を用いても、図1について述べたように、まだ光波長の一部分を単位とする最高の測定精度は達成されない。そのためにはコヒーレントな位相測定を追加的に実行しなければならない。図8について説明した測定方法を用いればこのコヒーレントな位相情報を得ることが可能であることは既に述べた。それには一般に、少数の有効な位相値を持つ位相符号を再構成するだけでなく、1符号ビットの持続時間中に位相を精確に測定する必要がある。
位相値を非常に少ないビット(つまり多くの場合は1ビット又は2ビット)に分解するだけでなく、多数のほぼ連続的な値に分解するために、高価なマルチビットAD変換器を受光器32の後段に用いることができる。符号列の再構成のために複数の受信チャネルがある場合、それらの受信チャネルのうち1つにマルチビットAD変換器があれば十分である。位相変調周波数を例えば100GHzから10GHzへと若干下げることも考えられる。というのも、例えばこの周波数を用いる8ビットの変換器は今日の技術でも技術的に過大なコストを要せずに実装可能だからである。
位相は符号ビット毎、従って多重に測定されるので、追加的に平均化を行うことが考えられる。これにより1度以下のステップ幅を達成し、以て数nm又は数十nmの測定精度を達成することができる。こうして、符号列を用いた測定が更に高精細になり、逆にその符号列がコヒーレントな又は干渉型の測定の一義性領域を大幅に広げる。
ここまで記載してきた各測定は測定時間中の境界条件が少なくともある程度不変であることを前提としている。これは先に挙げた変位センサのような応用においては理に適った前提である。しかし、移動式の応用やレーザスキャナの場合は運動性が存在する。対象の表面に光波長のスケールでほぼ常に粗さがあり、それに応じて距離変化が生じるような場合、その表面に沿って発信光16が横方向に動くだけでも既に十分に運動性が生じる。測定すべき位相はホイヘンスの原理により粗い表面上で多数の素元波が重なることから生じる。従ってスキャナに類するシステムで捕らえられる実際の周囲環境では絶対位相が絶えず変化する。
従って、測定区間は波長のオーダーで実際に何時でも変化しうるため、送出された符号列と測定結果とを相関させても、利用可能な測定結果につながるとは限らない。故に、別の有利な実施形態では、絶対位相が高速で変化する場合でのコヒーレントな検出が可能である微分的な方法が用いられる。なぜなら、90度又は180度という位相の跳びは動的な環境のせいで位相が変化してもなお十分に認識できるからである。光波長が1500nmとすると180度の位相の跳びは750nmの路程に相当する。ビット毎のチップ長が10psとすると速度は75000m/sとなるが、これは周辺領域では運動学的にあり得ない。従って、符号化による位相の跳びが周辺からの影響と取り違えられる恐れはない。それ故、位相の跳びのみ、つまり符号のエッジ部のみを考慮して相関を求めることが可能であり、しかもそれは立ち上がりエッジか立ち下がりエッジかに依存しないものにすることができる。
さて、受光器32のアナログ信号から180度の位相の跳びを検出することは簡単ではない。なぜならアナログ信号もまだ受信光28の振幅に依存しているからである。故に位相の跳びを検出する特殊な検出器が有利である。そのために、既に図3及び4について説明したように、参照光18及び/又は受信光28に追加的な相互の位相のずれがある複数の受信チャネルが用いられる。数値例として、0度、45度、90度及び135度という位相のずれを持つ4つの受信チャネルが用いられる。いま、180度の位相の跳びが生じると、少なくとも3つの受信チャネルで干渉が強め合う状態から弱め合う状態へ又はその逆方向に変わる。受信チャネルに対する二値的なサンプリングにより、論理回路が各受信チャネルの最新の状態と直前の状態との単純な比較によって位相の跳びを検出することができる。これは受信光28の振幅には依存せず、また絶対的な位相位置は重要ではない。その後、これまで説明したように位相の跳びに基づく相関処理と通常の測定法が同様に行われる。個々の受信チャネルの状態の変化を監視することにより、被検知物の表面について推論を行うことさえできる。
図9は発信光16a〜bが複数の測定対象物40a〜bに当たるという、問題のある測定状況を示している。これは「周縁部への的中」又は「二重的中」と呼ばれ、前後に並んだ複数の半透明な測定対象物40a〜bに当たる場合も同様である。射程が短い変位センサではこうなることは恐らく全くないが、他の応用では必ずしもそれを回避できない。図9(b)に示したように、その場合は2つの測定対象物40a〜bの受信光28a〜bの位相成分が重なり合うため、誤測定や、遠方の測定対象物40bの見落としにつながる。
図10は模範例として、上述した数多くの復調の仕組みに対応する、処理ネットワークの非常に早い段階で既に1ビットだけで二値化された検出信号を示している。これでは図9(a)及び(b)の状況は解消することができない。しかし、例えば高精細のコヒーレントな位相測定のために得られた、高精細に分解された検出信号が利用できれば、相関信号において2つ又はより多くの測定対象物40a〜bを区別することができる。なぜならそれらは相関において2つ以上の区別可能なピークを生じさせるからである。
図11は別のやり方を示している。これは発信光16の追加的な強度変調が導入された、いわば連射式の駆動である。発信光16が測定領域26内へ送出されている間、測定は前述のように行われる。発信光16がない時間帯でも受信光28が引き続き測定される。遠方の測定対象物40bから戻ってくる発信中断前の光の連射が既にパルス法のような粗い距離測定を可能にする。しかしとりわけ重要なのは、遠方の測定対象物40bからのより弱い受信光28bに対し、その光を強い受信光28aの重畳なしで検出して評価できるような時間窓を与えることである。技術的には、光スイッチ(特に導波路内のマッハ・ツェンダー干渉計)又は光増幅器(半導体光増幅器、SOA)を例えば光変調器20の前段又は後段に配置することにより発信光16を一時的に遮断することができる。
前述の測定方法には他にも数多くの変形例や発展形態が可能である。そのような実施形態の一つでは波長の異なる2つ以上のレーザが用いられ、好ましくは装置10から出る前に共通の導波路に重畳される。これにより、波長は異なるものの同じ測定区間を用いる2つの測定チャネルが構成される。重要なのは横単一モード光であるから、このような方法で完全に冗長な測定値を生成することができる。
先に、単一の符号が距離測定の継続時間全体にわたるだけでなく、複数の符号が連続的に送出され、そこから共通の距離値を求めるという例を既にいくつか提示した。これらの符号は互いに同じでもよいし、違っていてもよい。同じ符号ではとりわけ測定の繰り返しが行われる。異なる符号はより大きな射程に分配して一義性領域をより広げることができる。このような符号は単に互いに異なるのではなく、相関の挙動を顧慮して注意深く構成されていること、例えば互いに直交していることが好ましい。符号の切り替えは、複数の測定チャネルがある場合の耐ノイズ性や、互いに隣接して設置された同一構造の装置10のような外部発信源に対する耐ノイズ性も高める。
複数の短めの符号の1つの利点は相関処理の際の計算コストがより少ないことである。その計算の所要時間は符号長nの二乗に比例して増大する。一方、m回の符号繰り返しの評価にはm*(n/m)2<n2というコストしかかからない。
別の実施形態では発信側の変調又はそのクロックを受信側のサンプリング又はそのクロックに対して若干異ならせる又は小刻みに変動させる。これにより相関における各ピークがやや幅広くなり、その位置つまり距離値をより正確に、つまりサブピクセルの精度で特定できるようになる。理想的なデルタピークでは重心をサンプリングの精度でしか捕らえられない。
装置10は、半径方向の物体速度をドップラーシフトに基づいて求めるために拡張することができる。そのために、符号列の複数の部分区間において干渉法で測定される位相を観察する。そこに位相のドリフトが認められたらそれをドップラーシフトと解釈して物体速度に割り当てることができる。数値例として、光波長が1550nm、符号列のための位相変調周波数が100GHzとすると、動かない物体に対して100nsの測定時間中に10000回の変調サイクルが測定される。半径方向の速度が1m/sの物体の場合、同じ測定時間中の変調サイクルの数は10000.065に変わる。これは23度の位相角の変化に相当するため、既に十分に検出可能である。
ここまでは光の偏光をまだ考慮していなかった。参照光18の偏光状態が測定全体に用いられる偏光を決める。その偏光に対して受信光28が直交偏光していると受光器32上で変調深度が生じない。ところで、都合の悪い表面特性を持つ測定対象物の場合、受信光28が参照光18と永続的に直交偏光した状態になる可能性がある。これに対し、有利な別の対策を講じることができる。
1つの可能性は、参照光18の光路内にスイッチング可能な半波長板又は1/4波長板のようなスイッチング可能な偏光部品を配置することである。少数回の測定に対し、又は1回の測定のうち少数個の部分(特に、2分割された測定)に対し、偏光部品を切り替えることで、それぞれ別の受信偏光が測定に寄与するようにする。また受光路をその受信チャネルも含めて完全に二重化し、その一方が想定される受信偏光になり、他方がそれに直交する受信偏光になるようにして、それに対して適切に回転した偏光を持つ参照光18を用いることもできる。図7で紹介した位相ランプを用いれば、一方の受信チャネルをある偏光方向の参照光18で駆動し、他方の受信チャネルを前記方向に直交する偏光方向の参照光18で駆動することができる。位相ランプにより受信偏光の状態と受信位相の位置の組み合わせが始めから終わりまでずっと維持される。別の利点として、受信光28の測定点毎の偏光状態を測定対象物の追加的な特性として特定することができる。
実用上の支援のために、装置10は、遠距離通信でよくあるように赤外領域で動作するものが多いレーザ12に加えて、可視光レーザ又はその他の可視光源を備えていてもよい。そうすれば装置10のユーザはどの箇所で測定を行うかを簡単且つ正確に知ることができる。レーザ12が可視領域で用いられていればそれ自体が標的の機能を担う。
最後に、干渉信号のエネルギー収支とそれにより装置10において達成可能な測定精度に関する数値例を更に挙げる。その尺度として距離測定値の統計的なノイズの標準偏差が利用できる。元になる値は、光波長が1550nm、位相変調の周波数が100GHz、スペクトル幅0.01nmに対応する典型的なコヒーレント長が少なくとも200mm、共通の発信及び受信光学系24の有効口径が直径2mm、発信及び受信された光モードの発散角が1mrad、測定時間が100ns、従って変調周期が10000回、そして最大の測定距離100mmにおける測定対象物の拡散反射が10%である。
相関法だけ、即ち、位相をまだ干渉測定のスケールで高精細に測定せず、符号列を再構成してそこから参照光18と受信光28の時間のずれを特定するという方法だけで既に、連続波駆動で光出力が1mWの場合に達成可能な光学的な信号雑音比が25になる。これは参照光18の強度のショットノイズに対する信号搬送光子の比として説明することもできる。そうすると距離ノイズはσ=10μmと見積もられる。この値は普通の距離測定用光電センサに比べて既に非常に良好である。
いま、光出力を100mWとして他の元になる値は同じだとすると、信号雑音比の値は750まで上がる。これにより距離ノイズの見積もりはσ=0.5μmとなり、光波長の半分より小さくなる。それ故、精度の高いコヒーレントな位相測定のための一義性領域は適切な符号列の使用により1符号ビットの間で実際上任意に拡大することが想定される。そうすれば光波長の一部分を単位とする測定分解能、つまり100nm未満や10nm未満という値さえ達成される。