以下、本発明を具体的な実施の形態に即して詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
なお、本明細書において引用される特許公報、特許出願公開公報、及び非特許公報を含む全ての文献は、その全体が援用により、あらゆる目的において本明細書に組み込まれる。
また、本明細書に記載のアミノ酸配列を表す式では、別途記載のある場合を除き、アミノ酸を1文字コードで表すものとする。
1.大腸菌を検出するための抗体:
本発明の第1の態様は、大腸菌を検出するための抗体(以下適宜「本発明の抗体」と称する。)に関する。
(1)緒言:
本発明において「大腸菌」(Escherichia coli)は、通性嫌気性菌に属するグラム陰性桿菌を意味する。大腸菌は、環境中に存在する主要細菌種の一つであると共に、腸内細菌でもあり、ヒトや動物の消化管内(特にヒト等の場合は大腸内)に生息する。大腸菌の株は種々報告されており、中には腸管内や腸管外(例えば尿路系や血液循環系)で疾病を引き起こす病原性株も存在する。斯かる病原性の大腸菌にはベロ毒素等の毒素を産生する株もあり、重篤な感染症状を引き起こす場合もある。よって、症状の悪化や感染の拡大を防ぐためにも、大腸菌の特異的な迅速診断法が求められている。
本発明者等は、大腸菌を検出する抗体を作製するに当たり、そのリボソームタンパク質L7/L12に着目した。本発明において「リボソームタンパク質L7/L12」、或いは単に「L7/L12」とは、微生物のタンパク質合成に必須のリボゾームタンパク質の1種であり、種々の細菌が共通して有するタンパク質である。大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12は、121個のアミノ酸残基から構成される単量体分子が2コピー連結された二量体構造を有する。各単量体の一次構造のアミノ酸配列を配列番号1に示す。本発明者等の解析結果によると、大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12の単量体は、1〜40位のアミノ酸残基で一つの立体構造(NTD:N-Terminal Domain)を形成しており、41〜53位のアミノ酸残基からなる立体構造を形成していないリンカーを経て、更に54〜121位のアミノ酸残基で別の立体構造(CTD:C-Terminal Domain)を形成している。また、斯かる立体構造を有する単量体分子が2コピー、互いのNTD同士で会合することにより、二量体構造を形成している(後述の実施例1及び図1参照)。
また、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)及びインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)のリボソームタンパク質L7/L12も同様に、2分子がNTD(N-Terminal Domain、1〜40位の残基)で会合して二量体を形成し、ランダムコイル構造のリンカー(41〜54位)を経て、更にCTD(C-Terminal Domain、肺炎マイコプラズマの場合は55〜122位、インフルエンザ菌の場合は55〜123位)を形成していることが分かった(後述の実施例2及び実施例3並びに図2及び図3参照)。
本発明者等は、大腸菌のL7/L12が有するこうした立体構造の中でも、以下の検討に基づき、免疫原性に優れたエピトープの候補として、特にNTDに着目した。
インフルエンザ菌、肺炎マイコプラズマ、及び大腸菌のL7/L12のNTDの立体構造を比較すると、表面形状と電荷分布に大きな差があることが分かった(図4)。例えば、インフルエンザ菌(HI)と大腸菌(EC)の場合、二量体のN末端3残基が構造上部に突出しているが、肺炎マイコプラズマ(MP)の場合は突出が見られない。また、この突出部は、インフルエンザ菌の場合は1箇所であるが、大腸菌の場合は2箇所である。NTDの表面電荷を比較すると、肺炎マイコプラズマの場合は、立体構造の中心部を疎水性(白色)〜非電荷親水性領域(薄青、薄赤色)が占めているが、インフルエンザ菌と大腸菌の場合は負電荷(赤色)が占めている。また、インフルエンザ菌の場合は立体構造の右側に負電荷領域(赤色)が、左側に正電荷領域(青色)が位置している。大腸菌の場合は対照的に立体構造の中心部に負電荷(赤色)が集中しており、構造の左右両端は疎水性領域(白色)が優勢である(後述の実施例4及び図4参照)。
さらに、インフルエンザ菌、肺炎マイコプラズマ、及び大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12のアミノ酸配列を比較すると、1〜40位の残基において菌種間の差異が大きいことも分かった(図5)。例えば、肺炎マイコプラズマの5〜7位の残基は、インフルエンザ菌及び大腸菌の4〜6位の残基に相当し、肺炎マイコプラズマのアミノ酸配列がD(アスパラギン酸:親水性、負電荷)、K(リジン:親水性、正電荷)、N(アスパラギン:親水性、非電荷)であるのに対し、インフルエンザ菌はT(トレオニン:親水性、非電荷)、N(アスパラギン:親水性、非電荷)、E(グルタミン酸:親水性、負電荷)、大腸菌はT(トレオニン:親水性、非電荷)、K(リジン:親水性、正電荷)、D(アスパラギン酸:親水性、負電荷)であり、アミノ酸の種類及び極性の順序が菌種ごとに異なっている。同様に、肺炎マイコプラズマの14〜16位の残基は、インフルエンザ菌及び大腸菌の13〜15位の残基に相当し、肺炎マイコプラズマのアミノ酸配列はK(リジン:親水性、正電荷)、E(グルタミン酸:親水性、負電荷)、M(メチオニン:疎水性)であるのに対し、インフルエンザ菌はA(アラニン:疎水性)、S(セリン:親水性、非電荷)、K(リジン:親水性、正電荷)、大腸菌はA(アラニン:疎水性、、A(アラニン:疎水性)、M(メチオニン:疎水性)であり、アミノ酸の種類及び極性の順序が菌種ごとに異なっている(後述の実施例4及び図5参照)。
以上のように、大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12は、NTDに菌種間差異の大きなアミノ酸配列及び立体構造(表面形状、表面電荷)を有する。こうした知見から、本発明者等は、L7/L12全長ではなく、NTDを標的とした方が、より特異的な抗体を取得できるとの発想に至った。
そして、NTDと同様のアミノ酸配列を有するペプチドを発現させ、これに特異的に結合する抗体を作製し、スクリーニングを行うことにより、抗体44B3、145B2、及び62C1を取得した(後述の実施例5参照)。その上で、これらの抗体が何れも、大腸菌のL7/L12のNTD、特に特定のアミノ酸残基を含んで構成されるエピトープと抗原抗体反応を生じていることを確認した(後述の実施例6及び図6A〜C参照)。更に、これらの抗体が何れも、優れた検出感度及び検出精度(菌種特異性)を有していることを確認し(後述の実施例7参照)、本発明を完成させた。
以下、より具体的に説明する。
(2)抗体の概要:
本発明において「抗体」とは、特定の抗原又は物質を認識しそれに結合するタンパク質で、免疫グロブリン(Ig)という場合もある。一般的な抗体は、通常、ジスルフィド結合により相互結合された2つの軽鎖(軽鎖)及び2つの重鎖(重鎖)を有する。軽鎖にはλ鎖及びκ鎖と呼ばれる2種類が存在し、重鎖にはγ鎖、μ鎖、α鎖、δ鎖及びε鎖と呼ばれる5種類が存在する。その重鎖の種類によって、抗体には、それぞれIgG、IgM、IgA、IgD及びIgEという5種類のアイソタイプが存在する。
重鎖は各々、重鎖定常(CH)領域及び重鎖可変(VH)領域を含む。軽鎖は各々、軽鎖定常(CL)領域及び軽鎖可変(VL)領域を含む。軽鎖定常(CL)領域は単一のドメインから構成される。重鎖定常(CL)領域は、3つのドメイン、即ちCH1、CH2及びCH3から構成される。軽鎖可変(VL)領域及び重鎖可変(VH)領域は各々、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる保存性の高い4つの領域(FR−1、FR−2、FR−3、FR−4)と、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の3つの領域(CDR−1、CDR−2、CDR−3)とから構成される。重鎖定常(CH)領域は、3つのCDR(CDR−H1、CDR−H2、CDR−H3)及び4つのFR(FR−H1、FR−H2、FR−H3、FR−H4)を有し、これらはアミノ末端からカルボキシ末端へと、FR−H1、CDR−H1、FR−H2、CDR−H2、FR−H3、CDR−H3、FR−H4の順番で配列される。軽鎖定常(CL)領域は、3つのCDR(CDR−L1、CDR−L2、CDR−L3)及び4つのFR(FR−L1、FR−L2、FR−L3、FR−L4)を有し、これらはアミノ末端からカルボキシ末端へと、FR−L1、CDR−L1、FR−L2、CDR−L2、FR−L3、CDR−L3、FR−L4の順番で配列される。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。
本発明の抗体は、大腸菌を検出可能な抗体であって、以下の二つの観点から特定することができる。まず、第一の観点として、本発明の抗体は、大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12に存在する特定のエピトープを認識して抗原抗体反応を生じるという特徴から規定することができる。また、第二の観点として、本発明の抗体は、その重鎖及び軽鎖の各可変領域が、特定のアミノ酸配列を有するという特徴からも規定することができる。第一の観点については後記[(2)抗体の性質]欄で、第二の観点については後記[(3)抗体の構造]欄で、それぞれ説明する。なお、本発明の抗体は第一の観点又は第二の観点の何れかの特徴を満たしていればよいが、第一の観点及び第二の観点の両方の特徴を満たす抗体も、本発明の抗体に含まれることは言うまでもない。
なお、本発明の抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよいが、モノクローナル抗体であることが好ましい。ポリクローナル抗体は、通常は抗原で免疫した動物の血清から調製される抗体で、構造の異なる種々な抗体分子種の混合物である。一方、モノクローナル抗体とは、特定のアミノ酸配列を有する軽鎖可変(VL)領域及び重鎖可変(VH)領域の組み合わせを含む単一種類の分子からなる抗体をいう。モノクローナル抗体は、抗体産生細胞由来のクローンから産生することも可能であるが、抗体のタンパク質のアミノ酸をコードする遺伝子配列を有する核酸分子を取得し、斯かる核酸分子を用いて遺伝子工学的に作製することも可能である。また、重鎖及び軽鎖、或いはそれらの可変領域やCDR等の遺伝子情報を用いて抗体の結合性や特異性の向上のための改変等を行うことも、この分野での当業者にはよく知られた技術である。
また、本発明の抗体は、抗体の断片及び/又は誘導体であってもよい。抗体の断片としては、F(ab’)2、Fab、Fv等が挙げられる。抗体の誘導体としては、軽鎖及び/又は重鎖の定常領域部分に人工的にアミノ酸変異を導入した抗体、軽鎖及び/又は重鎖の定常領域のドメイン構成を改変した抗体、1分子あたり2つ以上のFc領域を有する抗体、糖鎖改変抗体、二重特異性抗体、抗体又は抗体の断片を抗体以外のタンパク質と結合させた抗体コンジュゲート、抗体酵素、タンデムscFv、二重特異性タンデムscFv、ダイアボディ(Diabody)等が挙げられる。更には、前記の抗体又はその断片若しくは誘導体が非ヒト動物由来の場合、そのCDR以外の配列の一部又は全部をヒト抗体の対応配列に置換したキメラ抗体又はヒト化抗体も、本発明の抗体に含まれる。なお、別途明記しない限り、本発明において単に「抗体」という場合、抗体の断片及び/又は誘導体も含むものとする。
(3)抗体の性質:
本発明の抗体は、第一の観点として、大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12内の特定のアミノ酸残基から構成されるエピトープと、抗原抗体反応を生じることを特徴とする。
本発明において「抗原抗体反応」とは、抗体がその抗原の何れかの成分を認識し、これと結合することをいう。
本発明において「エピトープ」とは、抗体が認識する抗原の一部分をいう。
大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12において、本発明の抗体が結合するエピトープは、配列番号1に示す大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12のアミノ酸配列のうち、1〜40位のアミノ酸残基で形成されるNTDに存在する。実施例5〜実施例7において後述する本発明者等の解析結果によると、本発明者等が実施例において実際に取得した高検出感度・高検出精度(高菌種特異性)の大腸菌検出用抗体44B3、145B2、及び62C1は、何れもL7/L12の1〜40位のアミノ酸残基で形成されるNTDに結合するものであることが確認されている。
中でも、本発明の抗体が結合するリボソームタンパク質L7/L12のエピトープは、配列番号1の4〜22位のアミノ酸残基から選択される1又は2以上、中でも3以上、又は4以上、又は5以上、又は6以上、又は7以上、又は8以上、又は9以上、又は10以上のアミノ酸残基を含むことが好ましい。特に、本発明の抗体が結合するリボソームタンパク質L7/L12のエピトープは、少なくとも配列番号1の4〜15位から選択される1又は2以上のアミノ酸残基を含むことがより好ましく、4、5、6、13、14、及び15位から選択される1又は2以上のアミノ酸残基を含むことが更に好ましい。実施例において後述する本発明者等の解析結果によると、大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12のNTDの立体構造において、これらアミノ酸残基は表面付近に存在することが確認されている。また、これらのアミノ酸残基は、大腸菌のL7/L12を他の細菌種のL7/L12と比較した場合に、特に大腸菌の種特異性が高い場所であることからも、これらのアミノ酸残基が本発明の抗体に対するエピトープを形成していることは確実であると考えられる。
また、本発明の抗体は、大腸菌以外の細菌やその他の成分と交差反応を生じないことが好ましい。
具体的には、本発明の抗体は、マイコプラズマ(Mycoplasma)属、サルモネラ(Salmonella)属、クラミジア(Chlamydia)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、ナイセリア(Neisseria)属、ヘモフィルス(Haemophilus)属、ボルデテラ(Bordetella)属、モラクセラ(Moraxella)属、及びレジオネラ(Legionella)属から選択される1以上の属の細菌と、交差反応を生じないことが好ましい。中でも、本発明の抗体は、2以上の属、更には3以上の属、又は4以上の属、又は5以上の属、又は6以上の属、特に全ての属の細菌と交差反応を生じないことが好ましい。
なお、抗体とエピトープ・抗原や他の成分との抗原抗体反応の測定は、当業者であれば固相又は液相の系での結合測定を適宜選択して行うことが可能である。そのような方法としては、酵素結合免疫吸着法(enzyme-linked immunosorbent assay:ELISA)、酵素免疫測定法(enzyme immunoassay:EIA)、表面プラズモン共鳴法(surface plasmon resonance:SPR)、蛍光共鳴エネルギー移動法(fluorescence resonance energy transfer:FRET)、発光共鳴エネルギー移動法(luminescence resonance energy transfer:LRET)等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。また、そのような抗原抗体結合を測定する際に、抗体及び/又は抗原を酵素、蛍光物質、発光物質、放射性同位元素等で標識を行い、その標識した物質の物理的及び/又は化学的特性に適した測定方法を用いて抗原抗体反応を検出することも可能である。
中でも、本発明では特に、抗原(エピトープ)と抗体との相互作用を、核磁気共鳴法(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)により解析することが好ましい。斯かる手法の詳細については、例えばCavanagh et al., “Protein NMR Spectroscopy, Principles and Practice Protein NMR”, 2nd Edition, Academic Press, 2006や、Vitha et al., “Spectroscopy: Principles and Instrumentation”, Wiley-Blackwell, 2018の記載を参照することができる。具体的な解析条件としては、制限されるものではないが、例えば後述の実施例6で本発明者等が採用した解析条件を参照することができる。
(4)抗体の構造:
第二の観点として、本発明の抗体は、その重鎖及び軽鎖の各可変領域が、特定のアミノ酸配列を有することを特徴とする。
具体的に、本発明の抗体は、重鎖及び軽鎖の各可変領域配列として、以下のアミノ酸配列を有することが好ましい。
重鎖可変領域配列としては、配列番号5、配列番号9、及び配列番号13から選択される何れか1つのアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有することが好ましい。中でも、重鎖可変領域配列としては、配列番号5、配列番号9、及び配列番号13から選択される何れか1つのアミノ酸配列であることがとりわけ好ましい。
軽鎖可変領域配列として、配列番号7、配列番号11、及び配列番号15から選択される何れか1つのアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有することが好ましい。中でも、軽鎖可変領域配列としては、配列番号7、配列番号11、及び配列番号15から選択される何れか1つのアミノ酸配列であることがとりわけ好ましい。
なお、本発明において、2つのアミノ酸配列の「相同性」とは、両アミノ酸配列をアラインメントした際に各対応箇所に同一又は類似のアミノ酸残基が現れる比率であり、2つのアミノ酸配列の「同一性」とは、両アミノ酸配列をアラインメントした際に各対応箇所に同一のアミノ酸残基が現れる比率である。なお、2つのアミノ酸配列の「相同性」及び「同一性」は、例えばBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)プログラム(Altschul et al., J. Mol. Biol., (1990), 215(3):403-10)等を用いて求めることが可能である。
また、ある抗体の重鎖及び軽鎖の各可変配列から、各CDRの配列を同定する方法としては、例えばKabat法(Kabat et al., The Journal of Immunology, 1991, Vol.147, No.5, pp.1709-1719)やChothia法(Al-Lazikani et al., Journal of Molecular Biology, 1997, Vol.273, No.4, pp.927-948)が挙げられる。これらの方法は本分野の技術常識であるが、例えばDr. Andrew C.R. Martin’s Groupのウェブサイト(http://www.bioinf.org.uk/abs/)等も参照できる。
なお、あるアミノ酸に類似するアミノ酸としては、例えばアミノ酸の極性、荷電性、及びサイズに基づく以下の分類において、同一の群内に属するアミノ酸が挙げられる(何れも各アミノ酸の種類を一文字コードで表示する。)。
・芳香族アミノ酸:F、H、W、Y;
・脂肪族アミノ酸:I、L、V;
・疎水性アミノ酸:A、C、F、H、I、K、L、M、T、V、W、Y;
・荷電アミノ酸:D、E、H、K、R等:
・正荷電アミノ酸:H、K、R;
・負荷電アミノ酸:D、E;
・極性アミノ酸:C、D、E、H、K、N、Q、R、S、T、W、Y;
・小型アミノ酸:A、C、D、G、N、P、S、T、V等:
・超小型アミノ酸:A、C、G、S。
また、あるアミノ酸に類似するアミノ酸としては、例えばアミノ酸の側鎖の種類に基づく以下の分類において、同一の群内に属するアミノ酸も挙げられる(何れも各アミノ酸の種類を一文字コードで表示する。)。
・脂肪族側鎖を有するアミノ酸:G、A、V、L、I;
・芳香族側鎖を有するアミノ酸:F、Y、W;
・硫黄含有側鎖を有するアミノ酸:C、M;
・脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸:S、T;
・塩基性側鎖を有するアミノ酸:K、R、H;
・酸性アミノ酸及びそれらのアミド誘導体:D、E、N、Q。
(5)抗体の作製方法:
本発明の抗体を作製する方法は、特に制限されないが、例えば以下の手法を挙げることができる。
本発明の抗体がポリクローナル抗体の場合、検出対象となる大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12の全部又は一部、好ましくはNTDを構成する配列番号1の1〜40位のアミノ酸残基(配列番号3のアミノ酸残基)からなるポリペプチド、或いはこれと80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有するポリペプチド(これを以下「エピトープポリペプチド」という)を用いて作製することができる。具体的には、エピトープポリペプチドを用意し、必要に応じてアジュバントとともに動物へ接種せしめ、その血清を回収することで、前記エピトープポリペプチドと抗原抗体反応を生じる抗体(ポリクローナル抗体)を含む抗血清を得ることができる。接種する動物としてはヒツジ、ウマ、ヤギ、ウサギ、マウス、ラット等であり、特にポリクローナル抗体作製にはヒツジ、ウサギなどが好ましい。また、得られた抗血清より抗体を精製・分画し、大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12と抗原抗体反応を生じること、及び、他の特定の成分、例えば前記列記の属の細菌と交差反応を生じないことを指標として、公知の手法により適宜スクリーニングを行うことにより、より特異性に優れた所望の抗体を得ることが可能である。更に、所望の抗体分子を産生する抗体産生細胞を単離し、骨髄腫細胞と細胞融合させて自律増殖能を持ったハイブリドーマを作製することにより、モノクローナル抗体を得ることも可能である。また、動物への感作を必要としない方法として、抗体の重鎖可変(VH)領域若しくは軽鎖可変(VL)領域又はそれらの一部を発現するファージライブラリーを用いて、検出対象となる大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12と特異的に結合する抗体や特定のアミノ酸配列からなるファージクローンを取得し、その情報から抗体を作製する技術も利用可能である。
また、上記手順により所望の抗体が得られれば、斯かる抗体の構造、具体的には重鎖定常(CH)領域、重鎖可変(VH)領域、軽鎖定常(CL)領域、及び/又は軽鎖可変(VL)領域のアミノ酸配列の一部又は全部を、公知のアミノ酸配列解析法を用いて解析することができる。こうして得られた所望の抗体のアミノ酸配列に対し、抗体の結合性や特異性の向上のための改変等を行う手法も、当業者には公知である。更には、所望の抗体のアミノ酸配列の全部又は一部(特に重鎖可変(VH)領域及び軽鎖可変(VL)領域の全部又は一部、中でも各CDRのアミノ酸配列)を利用し、必要に応じて公知の抗体のアミノ酸配列の一部(特に重鎖定常(CH)領域及び軽鎖定常(CL)領域、並びに場合により重鎖可変(VH)領域及び軽鎖可変(VL)領域の各FRのアミノ酸配列)と組み合わせることにより、同様の抗原特異性を有する蓋然性の高い別の抗体を設計することも可能である。
一方、抗体の一部(CDR又は可変領域)又は全部のアミノ酸配列が特定されている場合には、公知の手法により、斯かる所望の抗体のアミノ酸配列の全部又は一部をコードする塩基配列を有する核酸分子を作製し、斯かる核酸分子を用いて遺伝子工学的に抗体を作製することも可能である。更には、斯かる塩基配列から所望の抗体の各構成要素を発現するためのベクターやプラスミド等を作製し、宿主細胞(哺乳類細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母細胞、微生物細胞等)に導入して、当該抗体を産生させることも可能である。また、得られた抗体の性能の向上や副作用の回避を目的に、抗体の定常領域の構造に改変を入れることや、糖鎖の部分での改変を行うことも、当業者によく知られた技術によって適宜行うことができる。
なお、以上説明した、本発明の抗体を製造する方法、本発明の抗体をコードする核酸分子、斯かる核酸分子を含むベクター又はプラスミド、斯かる核酸分子やベクター又はプラスミドを含む細胞、更には本発明の抗体を産生するハイブリドーマ等も、本発明の対象となる。
なお、本明細書に記載の抗体の作製・改変等の技法は、何れも当業者には公知であるが、例えばAntibodies; A laboratory manual, E. Harlow et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press (2014)等の記載を参照することができる。また、本明細書に記載の分子生物学的技法(例えばアミノ酸配列解析法、核酸分子の設計・作製法、ベクターやプラスミドの設計・作製法等)も、何れも当業者には公知であるが、例えばMolecular Cloning, A laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Shambrook, J. et al. (1989)等の記載を参照することができる。
2.大腸菌の検出方法・試薬・キット:
本発明の別の態様は、本発明の抗体を用いて、検体中の大腸菌の有無を検出する方法(以下適宜「本発明の検出方法」と呼ぶ)に関する。
本発明の検出方法は、前記の本発明の抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体を、検体と接触させ、抗原抗体反応の有無を検出することを含む。ここで、本発明の抗体は、前述のように大腸菌の特定のエピトープと抗原抗体反応を生じることから、斯かる抗原抗体反応の有無を公知の各種の免疫測定法で検出することで、検体中に大腸菌が存在するか否かを検出することができる。
検体としては、主にヒト又は非ヒト動物由来の生体試料が挙げられる。生体試料の種類は特に制限されないが、例としては血液(全血、血漿、血清)、リンパ液、尿、唾液、涙液、羊水、腹水等の液体試料や、各種組織の生検試料等の固体試料のホモジネート懸濁液や抽出液、更にはこれらの培養上清などが挙げられる。
なお、本発明の抗体は、前述のように大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12に存在する特定のエピトープを認識して抗原抗体反応を生じることから、大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12を細菌の細胞膜外に露出させることで、検出感度を向上させることができる。従って、本発明の抗体を検体に接触させる前に、検体に対して細菌を溶菌させる処理を施してもよい。斯かる細菌の溶菌処理としては、限定されるものではないが、界面活性剤や溶菌酵素等を用いた溶菌処理が挙げられる。溶菌処理に使用可能な界面活性剤としては、例えばTriton X-100、Tween 20、Briji 35、Nonidet P-40、ドデシル−β−D−マルトシド、オクチル−β−D−グルコシド等の非イオン性界面活性剤;Zwittergent 3-12、CHAPS(3−(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ−1−プロパンスルホネート)等の両イオン性界面活性剤;SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)等の陰イオン性界面活性剤等が挙げられる。溶菌処理に使用可能な溶菌酵素としては、例えばリゾチーム、リゾスタフィン、ペプシン、グルコシダーゼ、ガラクトシダーゼ、アクロモペプチダーゼ、β−N−アセチルグルコサミニダーゼ等が挙げられる。
本発明の抗体を検体と接触させる手法や、抗原抗体反応を検出するための免疫測定法は、限定されない。免疫測定法の例としては、限定されるものではないが、抗体を担持させたマイクロタイタープレートを用いるELISA(酵素結合免疫吸着)法;抗体を担持させたラテックス粒子(例えばポリスチレンラテックス粒子等)を用いるラテックス粒子凝集測定法;抗体を担持させたメンブレン等を用いるイムノクロマト法;着色粒子又は発色能を有する粒子、酵素若しくは蛍光体等で標識した検出用抗体と、磁気微粒子等の固相担体に固定化した捕捉用抗体とを用いるサンドイッチアッセイ法等、種々の公知の免疫測定法が挙げられる。なお、サンドイッチアッセイ法等の検出用抗体及び捕捉用抗体を併用する免疫測定法の場合、本発明の抗体は捕捉用抗体として用いてもよく、検出用抗体として用いてもよい。
本発明の検出方法によれば、検体中の大腸菌の有無を迅速且つ簡便に検出することが可能となる。
なお、本発明の検出方法に使用するべく、本発明の抗体を含む試薬や、本発明の抗体を用いて検体中の大腸菌の有無を検出するための指示を含む指示書と共に含むキットも、本発明の対象となる。斯かる試薬の溶媒やその他の成分、また、斯かるキットの指示書における操作や用途の指示、更には斯かるキットに含まれるその他の構成要素は、大腸菌の検出に使用される具体的な免疫測定法の種類に応じて適宜決定すればよい。中でも、検体中の大腸菌の有無を簡易に検出可能なキットの具体例としては、ラテラルフロー方式のキットと、フロースルー方式のキットとを挙げることができる。ここで、ラテラルフロー方式とは、捕捉用抗体を表面に固定化させた検出領域を含むメンブレンに対し、検出対象試料及び検出用抗体を順に滴下して平行に展開させ、メンブレンの検出領域に捕捉された目的物質を検出する方法である。一方、フロースルー方式とは、捕捉用抗体を表面に固定化させたメンブレンに、検出対象試料及び検出用抗体を順に滴下して垂直に通過させ、メンブレンの表面に捕捉された目的物質を検出する方法である。本発明の検出方法は、ラテラルフロー方式のキットとフロースルー方式のキットの何れに対しても適用することが可能である。
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例にも束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
[実施例1]大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12の立体構造解析
<1:大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12の取得>
大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12遺伝子(配列番号2)をクローニングしたpGEX−6P−1プラスミド(GE Healthcare社製)を大腸菌BL21(DE3)pLysS大腸菌株(Promega社製)に導入した。
得られた大腸菌株を、M9培地(47.7mM Na2HPO4・12H2O、22mM KH2PO4、8.6mM NaCl、2mM MgSO4、50μM ZnSO4、100μM CaCl2、4.1μM ビオチン、7.2μM 塩化コリン、2.3μM 葉酸、8.2μM ニコチンアミド、4.6μM パントテン酸カルシウム、6μM 塩酸ピリドキサール、0.3μM リボフラビン、16.6μM 塩酸チアミン、27mM アンピシリンナトリウム、18.7mM 15N−NH4Cl、11.1mM 13C−グルコース)で、37℃でOD600が0.6に達するまで培養し、氷水で急冷した。IPTG(イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド)を終濃度1mMになるように加え、16℃で36時間培養した後、7000rpm、15分、4℃で遠心し、大腸菌を回収した。
得られた大腸菌1gにつき、BugBuster(Merck Millipore社製)を5mL、ベンゾナーゼ(登録商標)エンドヌクレアーゼ(Merck Millipore社製)を5μL添加し、室温で30分間振盪し、大腸菌を完全に溶解した。0.45μmフィルターで濾過した後、Profiniaタンパク質精製システム(Bio-Rad社製)を用いて、グルタチオン−セファロースカラムでリボソームタンパク質L7/L12を精製した。得られたタンパク質溶液15mLに1.5mLの10倍濃度PBS(リン酸緩衝生理食塩水)及びPrescissionプロテアーゼ(GE Healthcare社製)を加え、室温で2時間振盪した。反応液をグルタチオン−セファロースカラムに再度通し、素通り画分をリボソームタンパク質L7/L12として取得した。
取得したリボソームタンパク質L7/L12を50mM リン酸ナトリウムpH6.8を外液として透析し、4倍量の20mM Tris−HCl pH8.0で希釈し、イオン交換カラムRESOURCE Q(GE Healthcare社製)を接続したAKTAタンパク質精製システム(GE Healthcare社製)に2mL/分の流速で流した。続いて、1M NaClを添加した20mM Tris−HCl pH8.0を0〜50%まで直線的に増加するように2mL/分の流速で流し、リボソームタンパク質L7/L12を溶出した。
得られたリボソームタンパク質L7/L12をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)を移動相として、ゲル濾過カラムHiLoad 16/60 Superdex 75pg(GE Healthcare社製)を接続したAKTAタンパク質精製システム(GE Healthcare社製)に1mL/分の流速で流し、リボソームタンパク質L7/L12を取得した。取得したリボソームタンパク質L7/L12をプロテインアッセイキットI(BIO−RAD社製、型番5000001JA)を用いて1mMになるように遠心濃縮した後、NMR測定に供した。
<2:NMRによる大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12の立体構造解析>
Shigemi NMR試料管に、1mM リボソームタンパク質L7/L12を250μL、重水を20μL、5mg/mL DSS(4,4−ジメチル−4−シラペンタン−1−スルホン酸)を1μL入れ、アスピレーターで脱気後、NMR装置に設置した。
AVANCE III HD 600MHz NMR装置(Bruker社製)で、HNCO(積算回数4、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HN(CO)CA(積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HNCA(積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、CBCA(CO)NH(積算回数16、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HNCACB(積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HBHA(CO)NH(積算回数16、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HN(CA)HA(積算回数32、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、C(CO)NH(積算回数16、データポイント数(F1×F2×F3)128×128×1024)のパルスシーケンスを用いて各FIDを、Unity INOVA 800MHz NMR装置(Agilent社製)で[1H−15N] HSQC(積算回数8、データポイント数(F1×F2)512×2048)、[1H−13C] HSQC aliphatic(積算回数8、データポイント数(F1×F2)868×2048)、[1H−13C] HSQC aromatic(積算回数32、データポイント数(F1×F2)204×2048)、HCCH−TOCSY aliphatic(積算回数4、データポイント数(F1×F2×F3)96×256×2048)、HCCH−TOCSY aromatic(積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)128×128×2048)、15N−edited NOESY(ミキシングタイム75ミリ秒、積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×256×2048)、13C−edited NOESY aliphatic(ミキシングタイム75ミリ秒、積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)96×256×2048)、13C−edited NOESY aromatic(ミキシングタイム75ミリ秒、積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×256×2048)のパルスシーケンスを用いて各FIDを得た。得られた各FIDをNMR Pipeソフトを用いてフーリエ変換し、各スペクトルを取得した。
取得した各スペクトルをSparkyソフト上で帰属した。まず、リボソームタンパク質L7/L12の主鎖−NH−をHNCO、HN(CO)CA、HNCA、CBCA(CO)NH、HNCACB、HBHA(CO)NH、HN(CA)HAの各スペクトルを用いて、[1H−15N] HSQCスペクトル上に帰属した。次に、側鎖−CH−、−CH2−、−CH3−をC(CO)NH、HCCH−TOCSY aliphatic、HCCH−TOCSY aromaticの各スペクトルを用いて、[1H−13C] HSQC aliphaticスペクトルと[1H−13C] HSQC aromaticスペクトル上に帰属した。最後に、15N−edited NOESY、13C−edited NOESY aliphatic、13C−edited NOESY aromaticの各スペクトルを用いて、5A以内の距離にある1Hを検出、帰属した。帰属方法の詳細は、PROTEIN NMR SPECTROSCOPY PRINCIPLES AND PRACTICE SECOND EDITION, 2007, Cavanagh, J., Fairbrother, W.J., Palmer, III, A.G., Rance, M., and Skelton, N.J., Elsevier Academic Press.に従った。
帰属した原子座標と1H間距離情報をCYANA立体構造自動計算ソフトに入力して、20回の立体構造計算を経て充分にエネルギー値を収束させ、リボソームタンパク質L7/L12立体構造の空間原子座標を得た。
取得した空間原子座標をPymolソフトに入力し、リボソームタンパク質L7/L12の立体構造を描画した(図1)。リボソームタンパク質L7/L12の主鎖の立体構造を表示すると、1〜40位のアミノ酸残基で一つの立体構造(NTD:N-Terminal Domain)を形成しており、およそ13個のアミノ酸残基からなる、立体構造を形成していないリンカーを経て、更に54〜121位のアミノ酸残基で別の立体構造(CTD:C-Terminal Domain)を形成していることが分かった(図1)。また、斯かる立体構造を有するリボソームタンパク質L7/L12分子が2つ、互いのNTD同士で会合し、二量体を形成していることが分かった(図1)。
[実施例2]肺炎マイコプラズマのリボソームタンパク質L7/L12の立体構造解析
<1:肺炎マイコプラズマのリボソームタンパク質L7/L12の取得>
肺炎マイコプラズマのリボソームタンパク質L7/L12遺伝子(配列番号18)をクローニングしたpGEX−6P−1プラスミド(GE Healthcare社製)を大腸菌BL21(DE3)pLysS大腸菌株(Promega社製)に導入した。
得られた大腸菌株を、M9培地(47.7mM Na2HPO4・12H2O、22mM KH2PO4、8.6mM NaCl、2mM MgSO4、50μM ZnSO4、100μM CaCl2、4.1μM ビオチン、7.2μM 塩化コリン、2.3μM 葉酸、8.2μM ニコチンアミド、4.6μM パントテン酸カルシウム、6μM 塩酸ピリドキサール、0.3μM リボフラビン、16.6μM 塩酸チアミン、27mM アンピシリンナトリウム、18.7mM 15N−NH4Cl、11.1mM 13C−グルコース)で、37℃でOD600が0.6に達するまで培養し、氷水で急冷した。IPTG(イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド)を終濃度1mMになるように加え、16℃で36時間培養した後、7000rpm、15分、4℃で遠心し、大腸菌を回収した。
得られた大腸菌1gにつき、BugBuster(Merck Millipore社製)を5mL、ベンゾナーゼ(登録商標)エンドヌクレアーゼ(Merck Millipore社製)を5μL添加し、室温で30分間振盪し、大腸菌を完全に溶解した。0.45μmフィルターで濾過した後、Profiniaタンパク質精製システム(Bio-Rad社製)を用いて、グルタチオン−セファロースカラムでリボソームタンパク質L7/L12を精製した。得られたタンパク質溶液15mLに1.5mLの10倍濃度PBS(リン酸緩衝生理食塩水)及びPrescissionプロテアーゼ(GE Healthcare社製)を加え、室温で2時間振盪した。反応液をグルタチオン−セファロースカラムに再度通し、素通り画分をリボソームタンパク質L7/L12として取得した。
取得したリボソームタンパク質L7/L12を50mM リン酸ナトリウムpH6.8を外液として透析し、4倍量の20mM Tris−HCl pH8.0で希釈し、イオン交換カラムRESOURCE Q(GE Healthcare社製)を接続したAKTAタンパク質精製システム(GE Healthcare社製)に2mL/分の流速で流した。続いて、1M NaClを添加した20mM Tris−HCl pH8.0を0〜50%まで直線的に増加するように2mL/分の流速で流し、リボソームタンパク質L7/L12を溶出した。
得られたリボソームタンパク質L7/L12をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)を移動相として、ゲル濾過カラムHiLoad 16/60 Superdex 75pg(GE Healthcare社製)を接続したAKTAタンパク質精製システム(GE Healthcare社製)に1mL/分の流速で流し、リボソームタンパク質L7/L12を取得した。取得したリボソームタンパク質L7/L12をプロテインアッセイキットI(BIO−RAD社製、型番5000001JA)を用いて1mMになるように遠心濃縮した後、NMR測定に供した。
<2:NMRによる肺炎マイコプラズマのリボソームタンパク質L7/L12の立体構造解析>
Shigemi NMR試料管に、1mM リボソームタンパク質L7/L12を250μL、重水を20μL、5mg/mL DSS(4,4−ジメチル−4−シラペンタン−1−スルホン酸)を1μL入れ、アスピレーターで脱気後、NMR装置に設置した。
AVANCE III HD 600MHz NMR装置(Bruker社製)で、HNCO(積算回数4、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HN(CO)CA(積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HNCA(積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、CBCA(CO)NH(積算回数16、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HNCACB(積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HBHA(CO)NH(積算回数16、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HN(CA)HA(積算回数32、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、C(CO)NH(積算回数16、データポイント数(F1×F2×F3)128×128×1024)のパルスシーケンスを用いて各FIDを、Unity INOVA 800MHz NMR装置(Agilent社製)で[1H−15N] HSQC(積算回数8、データポイント数(F1×F2)512×2048)、[1H−13C] HSQC aliphatic(積算回数8、データポイント数(F1×F2)868×2048)、[1H−13C] HSQC aromatic(積算回数32、データポイント数(F1×F2)204×2048)、HCCH−TOCSY aliphatic(積算回数4、データポイント数(F1×F2×F3)96×256×2048)、HCCH−TOCSY aromatic(積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)128×128×2048)、15N−edited NOESY(ミキシングタイム75ミリ秒、積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×256×2048)、13C−edited NOESY aliphatic(ミキシングタイム75ミリ秒、積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)96×256×2048)、13C−edited NOESY aromatic(ミキシングタイム75ミリ秒、積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×256×2048)のパルスシーケンスを用いて各FIDを得た。得られた各FIDをNMR Pipeソフトを用いてフーリエ変換し、各スペクトルを取得した。
取得した各スペクトルをSparkyソフト上で帰属した。まず、リボソームタンパク質L7/L12の主鎖−NH−をHNCO、HN(CO)CA、HNCA、CBCA(CO)NH、HNCACB、HBHA(CO)NH、HN(CA)HAの各スペクトルを用いて、[1H−15N] HSQCスペクトル上に帰属した。次に、側鎖−CH−、−CH2−、−CH3−をC(CO)NH、HCCH−TOCSY aliphatic、HCCH−TOCSY aromaticの各スペクトルを用いて、[1H−13C] HSQC aliphaticスペクトルと[1H−13C] HSQC aromaticスペクトル上に帰属した。最後に、15N−edited NOESY、13C−edited NOESY aliphatic、13C−edited NOESY aromaticの各スペクトルを用いて、5A以内の距離にある1Hを検出、帰属した。帰属方法の詳細は、PROTEIN NMR SPECTROSCOPY PRINCIPLES AND PRACTICE SECOND EDITION, 2007, Cavanagh, J., Fairbrother, W.J., Palmer, III, A.G., Rance, M., and Skelton, N.J., Elsevier Academic Press.に従った。
帰属した原子座標と1H間距離情報をCYANA立体構造自動計算ソフトに入力して、20回の立体構造計算を経て充分にエネルギー値を収束させ、リボソームタンパク質L7/L12立体構造の空間原子座標を得た。
取得した空間原子座標をPymolソフトに入力し、リボソームタンパク質L7/L12の立体構造を描画した(図2)。リボソームタンパク質L7/L12の主鎖の立体構造を表示すると、1〜40位のアミノ酸残基で一つの立体構造(NTD:N-Terminal Domain)を形成しており、およそ14個のアミノ酸残基からなる、立体構造を形成していないリンカーを経て、更に55〜122位のアミノ酸残基で別の立体構造(CTD:C-Terminal Domain)を形成していることが分かった(図2)。また、斯かる立体構造を有するリボソームタンパク質L7/L12分子が2つ、互いのNTD同士で会合し、二量体を形成していることが分かった(図2)。
[実施例3]インフルエンザ菌のリボソームタンパク質L7/L12の立体構造解析
<1:インフルエンザ菌のリボソームタンパク質L7/L12の取得>
インフルエンザ菌のリボソームタンパク質L7/L12遺伝子(配列番号20)をクローニングしたpGEX−6P−1プラスミド(GE Healthcare社製)を大腸菌BL21(DE3)pLysS大腸菌株(Promega社製)に導入した。
得られた大腸菌株を、M9培地(47.7mM Na2HPO4・12H2O、22mM KH2PO4、8.6mM NaCl、2mM MgSO4、50μM ZnSO4、100μM CaCl2、4.1μM ビオチン、7.2μM 塩化コリン、2.3μM 葉酸、8.2μM ニコチンアミド、4.6μM パントテン酸カルシウム、6μM 塩酸ピリドキサール、0.3μM リボフラビン、16.6μM 塩酸チアミン、27mM アンピシリンナトリウム、18.7mM 15N−NH4Cl、11.1mM 13C−グルコース)で、37℃でOD600が0.6に達するまで培養し、氷水で急冷した。IPTG(イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド)を終濃度1mMになるように加え、16℃で36時間培養した後、7000rpm、15分、4℃で遠心し、大腸菌を回収した。
得られた大腸菌1gにつき、BugBuster(Merck Millipore社製)を5mL、ベンゾナーゼ(登録商標)エンドヌクレアーゼ(Merck Millipore社製)を5μL添加し、室温で30分間振盪し、大腸菌を完全に溶解した。0.45μmフィルターで濾過した後、Profiniaタンパク質精製システム(Bio-Rad社製)を用いて、グルタチオン−セファロースカラムでリボソームタンパク質L7/L12を精製した。得られたタンパク質溶液15mLに1.5mLの10倍濃度PBS(リン酸緩衝生理食塩水)及びPrescissionプロテアーゼ(GE Healthcare社製)を加え、室温で2時間振盪した。反応液をグルタチオン−セファロースカラムに再度通し、素通り画分をリボソームタンパク質L7/L12として取得した。
取得したリボソームタンパク質L7/L12を50mM リン酸ナトリウムpH6.8を外液として透析し、4倍量の20mM Tris−HCl pH8.0で希釈し、イオン交換カラムRESOURCE Q(GE Healthcare社製)を接続したAKTAタンパク質精製システム(GE Healthcare社製)に2mL/分の流速で流した。続いて、1M NaClを添加した20mM Tris−HCl pH8.0を0〜50%まで直線的に増加するように2mL/分の流速で流し、リボソームタンパク質L7/L12を溶出した。
得られたリボソームタンパク質L7/L12をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)を移動相として、ゲル濾過カラムHiLoad 16/60 Superdex 75pg(GE Healthcare社製)を接続したAKTAタンパク質精製システム(GE Healthcare社製)に1mL/分の流速で流し、リボソームタンパク質L7/L12を取得した。取得したリボソームタンパク質L7/L12をプロテインアッセイキットI(BIO−RAD社製、型番5000001JA)を用いて1mMになるように遠心濃縮した後、NMR測定に供した。
<2:NMRによるインフルエンザ菌のリボソームタンパク質L7/L12の立体構造解析>
Shigemi NMR試料管に、1mM リボソームタンパク質L7/L12を250μL、重水を20μL、5mg/mL DSS(4,4−ジメチル−4−シラペンタン−1−スルホン酸)を1μL入れ、アスピレーターで脱気後、NMR装置に設置した。
AVANCE III HD 600MHz NMR装置(Bruker社製)で、HNCO(積算回数4、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HN(CO)CA(積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HNCA(積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、CBCA(CO)NH(積算回数16、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HNCACB(積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HBHA(CO)NH(積算回数16、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HN(CA)HA(積算回数32、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、C(CO)NH(積算回数16、データポイント数(F1×F2×F3)128×128×1024)のパルスシーケンスを用いて各FIDを、Unity INOVA 800MHz NMR装置(Agilent社製)で[1H−15N] HSQC(積算回数8、データポイント数(F1×F2)512×2048)、[1H−13C] HSQC aliphatic(積算回数8、データポイント数(F1×F2)868×2048)、[1H−13C] HSQC aromatic(積算回数32、データポイント数(F1×F2)204×2048)、HCCH−TOCSY aliphatic(積算回数4、データポイント数(F1×F2×F3)96×256×2048)、HCCH−TOCSY aromatic(積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)128×128×2048)、15N−edited NOESY(ミキシングタイム75ミリ秒、積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×256×2048)、13C−edited NOESY aliphatic(ミキシングタイム75ミリ秒、積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)96×256×2048)、13C−edited NOESY aromatic(ミキシングタイム75ミリ秒、積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×256×2048)のパルスシーケンスを用いて各FIDを得た。得られた各FIDをNMR Pipeソフトを用いてフーリエ変換し、各スペクトルを取得した。
取得した各スペクトルをSparkyソフト上で帰属した。まず、リボソームタンパク質L7/L12の主鎖−NH−をHNCO、HN(CO)CA、HNCA、CBCA(CO)NH、HNCACB、HBHA(CO)NH、HN(CA)HAの各スペクトルを用いて、[1H−15N] HSQCスペクトル上に帰属した。次に、側鎖−CH−、−CH2−、−CH3−をC(CO)NH、HCCH−TOCSY aliphatic、HCCH−TOCSY aromaticの各スペクトルを用いて、[1H−13C] HSQC aliphaticスペクトルと[1H−13C] HSQC aromaticスペクトル上に帰属した。最後に、15N−edited NOESY、13C−edited NOESY aliphatic、13C−edited NOESY aromaticの各スペクトルを用いて、5A以内の距離にある1Hを検出、帰属した。帰属方法の詳細は、PROTEIN NMR SPECTROSCOPY PRINCIPLES AND PRACTICE SECOND EDITION, 2007, Cavanagh, J., Fairbrother, W.J., Palmer, III, A.G., Rance, M., and Skelton, N.J., Elsevier Academic Press.に従った。
帰属した原子座標と1H間距離情報をCYANA立体構造自動計算ソフトに入力して、20回の立体構造計算を経て充分にエネルギー値を収束させ、リボソームタンパク質L7/L12立体構造の空間原子座標を得た。
取得した空間原子座標をPymolソフトに入力し、リボソームタンパク質L7/L12の立体構造を描画した(図3)。リボソームタンパク質L7/L12の主鎖の立体構造を表示すると、1〜40位のアミノ酸残基で一つの立体構造(NTD:N-Terminal Domain)を形成しており、およそ14個のアミノ酸残基からなる、立体構造を形成していないリンカーを経て、更に55〜123位のアミノ酸残基で別の立体構造(CTD:C-Terminal Domain)を形成していることが分かった(図3)。また、斯かる立体構造を有するリボソームタンパク質L7/L12分子が2つ、互いのNTD同士で会合し、二量体を形成していることが分かった(図3)。
[実施例4]大腸菌、肺炎マイコプラズマ、及びインフルエンザ菌のリボソームタンパク質L7/L12のNTD部分の比較検討
図4は、大腸菌、肺炎マイコプラズマ、及びインフルエンザ菌のリボソームタンパク質L7/L12のN末端ドメイン(NTD)部分の立体構造をそれぞれ模式的に示す図である。本図から明らかなように、大腸菌、肺炎マイコプラズマ、及びインフルエンザ菌のリボソームタンパク質L7/L12のNTDの立体構造を比較すると、表面形状と電荷分布に大きな差がある領域が認められた(図4の点線部)。この領域の表面電荷分布を3菌種で比較すると、肺炎マイコプラズマの場合は、中心部を疎水性(白色)〜非電荷親水性領域(薄青、薄赤色)が占めている。インフルエンザ菌の場合は、ほぼ全領域を負電荷(赤色)が占め、大腸菌の場合は中心部を負電荷領域(赤色)が占めるものの、その周辺部は疎水性(白色)〜非電荷親水性領域(薄青、薄赤色)が位置しており、これら2菌種間で差異が見られた。
図5は、大腸菌、肺炎マイコプラズマ、及びインフルエンザ菌のリボソームタンパク質L7/L12のN末端ドメイン(NTD)部分のアミノ酸配列のアラインメントを示す図である。本図から明らかなように、リボソームタンパク質L7/L12のN末端ドメイン(NTD)部分のアミノ酸配列にも、3菌種で大きな差異が認められた。当該領域は、肺炎マイコプラズマのL7/L12の5〜23位のアミノ酸残基であり、インフルエンザ菌及び大腸菌のL7/L12の4〜22位のアミノ酸残基に相当する。肺炎マイコプラズマの5〜7位の残基は、インフルエンザ菌及び大腸菌の4〜6位の残基に相当し、肺炎マイコプラズマのアミノ酸配列がD(アスパラギン酸:親水性、負電荷)、K(リジン:親水性、正電荷)、N(アスパラギン:親水性、非電荷)であるのに対し、インフルエンザ菌はT(トレオニン:親水性、非電荷)、N(アスパラギン:親水性、非電荷)、E(グルタミン酸:親水性、負電荷)、大腸菌はT(トレオニン:親水性、非電荷)、K(リジン:親水性、正電荷)、D(アスパラギン酸:親水性、負電荷)であり、アミノ酸の種類及び極性の順序が菌種ごとに異なっている(図5)。また、肺炎マイコプラズマの14〜16位の残基は、インフルエンザ菌及び大腸菌の13〜15位の残基に相当し、肺炎マイコプラズマのアミノ酸配列はK(リジン:親水性、正電荷)、E(グルタミン酸:親水性、負電荷)、M(メチオニン:疎水性)であるのに対し、インフルエンザ菌はA(アラニン:疎水性)、S(セリン:親水性、非電荷)、K(リジン:親水性、正電荷)、大腸菌はA(アラニン:疎水性、)、A(アラニン:疎水性)、M(メチオニン:疎水性)であり、アミノ酸の種類及び極性の順序が菌種ごとに異なっている(図5)。同様に、肺炎マイコプラズマの19位及び22位のアミノ酸残基と、これに相当するインフルエンザ菌及び大腸菌の18位及び21位のアミノ酸残基との間にも、極性の違いが認められた(図5)。
以上のように、大腸菌のL7/L12の4〜22位の立体構造及びアミノ酸残基の極性は、他2菌種と比較して大きく異なることから、抗体との相互作用の中心部位に近いと予測される(図4及び5)。さらに、3菌種間のアミノ酸極性の違いから、大腸菌のL7/L12のNTDを構成するアミノ酸残基の中でも、好ましくは4〜15位、より好ましくは4〜6位又は13〜15位が、抗体との相互作用の中心であると予測される(図5)。
[実施例5]大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12に結合する抗体の取得
以下の手順で、大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12の1〜40位のアミノ酸残基により形成されるNTDを単独で発現させ、これを抗原抗体反応により認識するモノクローナル抗体として44B3、145B2、及び62C1を取得した。
<1:大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12のNTDを単独で発現する大腸菌の調製>
BamHI及びXhoI制限酵素切断部位を追加した大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12の1〜40位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列(配列番号3)をコードする塩基配列(配列番号4)を含む人工合成遺伝子(GenScript社製)を、前述2種類の制限酵素で切断後、1.5%アガロースゲル中にて電気泳動とエチジウムブロマイドによる染色を行った。ゲルから約400bpのバンドを切り取った。このバンドをQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)で精製し、一般的なベクターであるpGEX−6P−1(GE Healthcare社製)に挿入した。
具体的には、ベクターpGEX−6P−1と、先のDNA(制限酵素で切断し、ゲルで精製した人工合成遺伝子)とを、そのモル比が1:3となるように混ぜ合わせて、T4 DNAリガーゼ(Invitrogen社製)にてベクターに当該DNAを組み込んだ。前記DNAを組み込んだベクターpGEX6P−1を、BL21(DE3)pLysS大腸菌株(Promega社)に遺伝子学的手法により導入し、ついで50μg/mLのアンピシリン(シグマ社)を含む半固体状の培養プレートであるLB L−ブロス寒天(宝酒造株式会社製)に接種した。プレートを37℃で12時間インキュベートし、成長したコロニーを無差別に選択し、同じ濃度のアンピシリンを含むL−ブロス培養液に接種した。37℃で8時間振盪培養後、遠心分離にて集菌し、QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN社)を用い、添付の説明書に従ってプラスミドを分離した。得られたプラスミドを制限酵素BamHI/XhoIにて切断処理し、約370bpのDNAを切断することによって、PCR生成物の挿入を確認した。挿入されたDNAの塩基配列を上記クローンを用いて決定した。
具体的に、挿入DNA断片の塩基配列の決定は、蛍光シークエンサー(Applied Biosystems社製)を用いて実施した。シークエンスサンプルの調製は、PRISM, Ready Reaction Dye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems社製)を用いて行った。まず、9.5μLの制限酵素反応液、4.0μLのT7プロモータープライマー(Gibco BRL社製)(濃度0.8pmol/μL)、及び0.16μg/μLのテンプレートDNA(濃度6.5μL)を、0.5mLのマイクロチューブに加えて混合した。混合物を2層の100μL鉱油で覆ったのち、25サイクルのPCR増幅処理を行った。ここで、1サイクルは、96℃での30秒間の処理、55℃での15秒間の処理、及び60℃での4分間の処理からなる。生成物を4℃で5分間保持した。反応終了後、80μLの無菌精製水を加え、攪拌した。生成物を遠心分離し、水層をフェノールークロロホルム混合液で3回抽出した。10μLの3M酢酸ナトリウムpH5.2と300μLのエタノールを100μLの水層に加え、攪拌した。その後14,000rpm、室温で15分間遠心し、沈殿を回収した。沈殿を75%エタノールで洗浄後、真空下に2分間静置して乾燥させ、シークエンス用サンプルとした。シークエンスサンプルは、4μLの10mMのEDTAを含むホルムアミドに溶解して90℃で2分間変性した。このものは氷中で冷却してシークエンスに供した。
無差別に選択した5個のクローンのうち2個は、PCRに用いたプローブと配列上の相同性を有していた。また、大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12の1〜40位のアミノ酸残基の遺伝子配列と一致したDNA配列が明白であった。この遺伝子断片は、明らかに大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12の1〜40位のアミノ酸残基からなるNTDを遺伝子をコードするものである。
<2:大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12のNTDを単独で発現する大腸菌の培養による同NTDの調製>
前述で得られた大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12の1〜40位のアミノ酸残基により形成されるNTDを単独で発現する大腸菌を用いて、大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12の1〜40位のアミノ酸残基により形成されるNTDに対応するタンパク質(NTDタンパク質)の調製を行った。
具体的には、同大腸菌株を、M9培地(47.7mM Na2HPO4・12H2O、22mM KH2PO4、8.6mM NaCl、2mM MgSO4、50μM ZnSO4、100μM CaCl2、4.1μM ビオチン、7.2μM 塩化コリン、2.3μM 葉酸、8.2μM ニコチンアミド、4.6μM パントテン酸カルシウム、6μM 塩酸ピリドキサール、0.3μM リボフラビン、16.6μM 塩酸チアミン、27mM アンピシリンナトリウム、18.7mM NH4Cl、11.1mM グルコース)で、37℃でOD600が0.6に達するまで培養し、氷水で急冷した。IPTG(イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド)を終濃度1mMになるように加え、16℃で36時間培養した後、7000rpm、15分、4℃で遠心し、大腸菌を回収した。得られた大腸菌1gにつき、BugBuster(Merck Millipore社製)を5mL、ベンゾナーゼ エンドヌクレアーゼ(Merck Millipore社製)を5μL添加し、室温で30分間振盪し、大腸菌を完全に溶解した。0.45μmフィルターで濾過した後、Profiniaタンパク質精製システム(Bio-Rad社製)を用いて、グルタチオン−セファロースカラムでリボソームタンパク質L7/L12を精製した。得られたタンパク質溶液15mLに1.5mLの10倍濃度PBS(リン酸緩衝生理食塩水)及びPrescissionプロテアーゼ(GE Healthcare社製)を加え、室温で2時間振盪した。反応液をグルタチオン−セファロースカラムに再度通し、素通り画分をNTDタンパク質含有画分として取得した。
取得したNTDタンパク質含有画分を、50mM リン酸ナトリウムpH6.8を外液として透析し、4倍量の20mM Tris−HCl pH8.0で希釈し、イオン交換カラムRESOURCE Q(GE Healthcare社製)を接続したAKTAタンパク質精製システム(GE Healthcare社製)に2mL/分の流速で流した。続いて、1M NaClを添加した20mM Tris−HCl pH8.0を0%から50%まで直線的に増加するように2mL/分の流速で流し、NTDタンパク質を溶出した。
得られたリボソームタンパク質L7/L12をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)を移動相として、ゲル濾過カラムHiLoad 16/60 Superdex 75pg(GE Healthcare社製)を接続したAKTAタンパク質精製システム(GE Healthcare社製)に1mL/分の流速で流し、リボソームタンパク質L7/L12を精製し、プロテインアッセイキットI(BIO−RAD社製、型番5000001JA)を用いて濃度定量し、モノクローナル抗体取得用の大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12のNTDタンパク質として供した。
<3:大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12のNTDタンパク質を用いたマウスモノクローナル抗体株の取得>
取得したモノクローナル抗体取得用の大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12のNTDタンパク質を用いて、国際公開第2001/057199号の実施例3に記載の方法に従って、同NTDタンパク質に対するモノクローナル抗体株44B3、145B2、及び62C1の3株を取得した。
具体的には、前記手順にて得られた大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12のNTDタンパク質100μgを抗原として、200μLのPBSに溶解した後、フロイントのコンプリートアジュバント(Freund's Complete Adjuvant)を200μL加え、混合してエマルジョン化した。得られた抗原エマルジョン200μLを、マウスの腹腔内に注射した。また、初回抗原投与から2週間後、4週間後、及び6週間後に、同じ抗原エマルジョンをマウスの腹腔内に注射した。更に、初回抗原投与から10週間後及び14週間後に、2倍濃度の抗原エマルジョンをマウスの腹腔内に注射した。最終抗原投与から3日後に、マウスから脾臓を摘出し、無菌的に脾細胞を採取して、以下の手順にて骨髄腫細胞との細胞融合を行った。
骨髄腫細胞としては、NS−1系の細胞株を用いた。当該細胞株を、10%の牛胎児血清を含むRPMI1640培地で培養し、細胞融合の2週間前からは、0.13mMのアザグアニン、0.5μg/mLのMC−210、10%の牛胎児血清を含むRPMI1640培地で1週間培養した後、更に10%の牛胎児血清を含むRPMI1640培地で1週間培養してから用いた。
前記手順により無菌的に採取したマウスの脾細胞108個と、前記培養後の骨髄腫細胞2×107個とを、ガラスチューブ内でよく混合した後、1,500rpmで5分間遠心し、上澄みを廃棄してから、細胞を更によく混合した。この混合細胞試料に、37℃に保持したRPMI1640培養液50mLを加え、1,500rpmで遠心分離した後、上澄み液を除去し、37℃に保持した50%ポリエチレングリコール1mLを加え、1分間攪拌した。この細胞混合液に、37℃に保持したRPMI1640培養液10mLを加え、殺菌したピペットで約5分間吸引・排出することにより激しく攪拌した後、1,000rpmで5分間遠心分離し、上澄み液を除去した後、細胞濃度が5×106/mLとなるように30mLのHAT培養液を加え、均一になるまで攪拌した。この細胞混合液を0.1mLずつ96ウェル培養プレートの各ウェルに注ぎ、7%の炭酸ガス雰囲気下、37℃で培養した。培養開始から第1日、第1週、及び第2週に、HAT培地をそれぞれ0.1mLずつ加え、ELISA法により所望の抗体を産生する融合細胞のスクリーニングを行った。
ELISA法により所望の抗体を産生する細胞をスクリーニングした。大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12のNTDタンパク質に、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)タンパク質を融合し、GSTフュージョンL7/L12NTDタンパク質を作製した。得られたGSTフュージョンL7/L12NTDタンパク質及びGSTタンパク質を、0.05%のアジ化ソーダ含むPBSに、それぞれ10μg/mL濃度で溶解した希釈した液を作製した。これらの液を100μLずつ、96穴プレートの各ウェルに別々に分注し、4℃で1晩吸着させた。上澄み除去後、1%牛血清アルブミン溶液(PBS中)200μLを添加し、室温で1時間反応させてブロッキングした。上澄み液を除去し、生成物を洗浄液(0.02%Tween20含有PBS)で洗浄した後、融合細胞の培養液100mLを加え、室温にて2時間反応させた。上澄み液を除去し、沈殿を洗浄液で洗浄した後、ペルオキシダーゼでラベルしたヤギ抗マウスIgG抗体溶液(濃度50ng/mL)100μLを加え、室温にて1時間反応させた。上澄み液を除去し、生成物を再び洗浄液で洗浄した後、TMB溶液(KPL社製)を100μLずつ加え、室温にて20分間反応させた。着色したところで、各セルに1N硫酸100μLを加えて反応を停止し、450nmの吸光度を測定した。
この結果、GSTフュージョンL7/L12NTDタンパク質のみに反応し、GSTタンパク質には反応しない陽性ウェルが見出され、これらのウェルにはL7/L12NTDタンパク質に対する抗体が含まれていることが判明した。そこで、各陽性ウェル中の細胞を回収し、24穴プラスティックプレートに入れ、HAT培地を加えて培養した後、細胞数が約20個/mLになるようにHT培地で希釈し、その50μLを96穴培養プレートの各ウェルに入れた。HT培地に懸濁した6週齢のマウス胸腺細胞106個を加えて混合した後、7%CO2条件下、37℃で2週間培養した。培養上澄み中の抗体活性を前述のELISA法にて同様に検定し、L7/L12NTDタンパク質との反応が陽性の細胞を回収した。更に同様の希釈検定及びクローニング操作を繰り返すことにより、L7/L12NTDタンパク質に対するモノクローナル抗体株44B3、145B2、及び62C1を産生する各ハイブリドーマを取得した。
前述のようにして取得した陽性クローンモノクローナル抗体株44B3、145B2、及び62C1の3株を用いて、定法にしたがってモノクローナル抗体を生産、回収した。
<4:得られたマウスモノクローナル抗体株の軽鎖及び重鎖各可変領域のアミノ酸配列の決定>
取得したモノクローナル抗体株44B3、145B2、及び62C1の3株について、定法にしたがって軽鎖及び重鎖各可変領域のアミノ酸配列及び対応する塩基配列を決定した。
モノクローナル抗体株44B3、145B2、及び62C1の重鎖及び軽鎖各可変領域のアミノ酸配列及び塩基配列を、それぞれ以下の表1に示す配列番号で示す。
[実施例6]大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12と抗体の相互作用解析
実施例5で得られた、大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12のNTDを認識するモノクローナル抗体44B3、145B2、及び62C1について、以下の手順により、大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12との相互作用のNMRによる解析を行った。
<1:大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12の取得>
実施例1で作成した大腸菌株を、M9培地(47.7mM Na2HPO4・12H2O、22mM KH2PO4、8.6mM NaCl、2mM MgSO4、50μM ZnSO4、100μM CaCl2、4.1μM ビオチン、7.2μM 塩化コリン、2.3μM 葉酸、8.2μM ニコチンアミド、4.6μM パントテン酸カルシウム、6μM 塩酸ピリドキサール、0.3μM リボフラビン、16.6μM 塩酸チアミン、27mM アンピシリンナトリウム、18.7mM 15N−NH4Cl、11.1mM 12C−グルコース)で、37℃でOD600が0.6に達するまで培養し、氷水で急冷した。IPTG(イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド)を終濃度1mMになるように加え、16℃で36時間培養した後、7000rpm、15分、4℃で遠心し、大腸菌を回収した。得られた大腸菌1gにつき、BugBuster(Merck Millipore社製)を5mL、ベンゾナーゼ エンドヌクレアーゼ(Merck Millipore社製)を5μL添加し、室温で30分間振盪し、大腸菌を完全に溶解した。0.45μmフィルターで濾過した後、Profiniaタンパク質精製システム(Bio-Rad社製)を用いて、グルタチオン−セファロースカラムでリボソームタンパク質L7/L12を精製した。得られたタンパク質溶液15mLに1.5mLの10倍濃度PBS(リン酸緩衝生理食塩水)及びPrescissionプロテアーゼ(GE Healthcare社製)を加え、室温で2時間振盪した。反応液をグルタチオン−セファロースカラムに再度通し、素通り画分をリボソームタンパク質L7/L12として取得した。
取得したリボソームタンパク質L7/L12を50mM リン酸ナトリウムpH6.8を外液として透析し、4倍量の20mM Tris−HCl pH8.0で希釈し、イオン交換カラムRESOURCE Q(GE Healthcare社製)を接続したAKTAタンパク質精製システム(GE Healthcare社製)に2mL/分の流速で流した。続いて、1M NaClを添加した20mM Tris−HCl pH8.0を0%から50%まで直線的に増加するように2mL/分の流速で流し、リボソームタンパク質L7/L12を溶出した。
得られたリボソームタンパク質L7/L12をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)を移動相として、ゲル濾過カラムHiLoad 16/60 Superdex 75pg(GE Healthcare社製)を接続したAKTAタンパク質精製システム(GE Healthcare社製)に1mL/分の流速で流し、リボソームタンパク質L7/L12を精製し、プロテインアッセイキットI(BIO−RAD社製、型番5000001JA)を用いて濃度定量した後、NMR測定に供した。
<2:大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12の抗体の前処理>
実施例5で得られた、大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12のNTDを認識するモノクローナル抗体44B3、145B2、及び62C1を、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)を外液として透析し、紫外光(波長280nm)の吸光度により濃度定量した後、NMR測定に供した。
<3:NMRによる大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12と抗体の相互作用解析>
大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12を、抗体44B3、145B2、又は62C1とそれぞれ混合した。L7/L12と抗体44B3との混合比率は1:2.5(モル比)、抗体145B2との混合比率は1:3(モル比)、抗体62C1との混合比率は1:1.3(モル比)とした。各混合物をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)で25
0μLまでメスアップした後、重水を20μL、5mg/mL DSS(4,4−ジメチ
ル−4−シラペンタン−1−スルホン酸)を1μL、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)およびAEBSF(フッ化4−(2−アミノエチル)ベンゼンスルホニル)を各々終濃度1.8mMになるように添加し、Shigemi NMR試料管に移し、アスピレーターで脱気後、NMR装置に設置した。
AVANCE III HD 600MHz NMR装置(Bruker社製)で、[1H−15N] HSQC(積算回数128、データポイント数(F1×F2)512×2048)のパルスシーケンスを用いてFIDを得た。得られたFIDをNMR Pipeソフトを用いてフーリエ変換し、スペクトルを取得した。取得したスペクトルに対し、Sparkyソフト上で、実施例1の帰属情報を追記した。
NMRでは、リボソームタンパク質L7/L12のように低分子量(13、000)であれば、明瞭(sharp)な信号として観測可能であるが、抗体のような高分子量(150、000)の場合は、非常に幅広く不明瞭(broad)な信号となるため、強度不足により観測不可能である。また、一般的に抗原抗体反応の結合/解離定数は1μM以下であり、結合側に偏った平衡状態にあると考えられている。従って、リボソームタンパク質L7/L12が抗体と相互作用(結合)すると、抗体の影響を受けてリボソームタンパク質L7/L12の信号がbroad化し、その強度が減衰すると考えられる。そこで、リボソームタンパク質L7/L12の[1H−15N] HSQCスペクトル(アミノ酸1個につき1信号が観測される)上で、抗体の添加により信号強度が減衰する残基を追跡することで相互作用部位を同定しようと試みた。相互作用解析の詳細は、Williamson, M. P., Using chemical shift perturbation to characterise ligand binding, Prog. Nucl. Magn. Reson. Spectrosc. 73(2013):1-16に従った。
リボソームタンパク質L7/L12と、抗体44B3、145B2、又は62C1とをそれぞれ上記比率で混合した場合のリボソームタンパク質L7/L12の各アミノ酸残基の[1H−15N] HSQC信号強度を、抗体と混合する前のリボソームタンパク質L7/L12の各アミノ酸残基の[1H−15N] HSQC信号強度で除算し、その除算値を縦軸に、リボソームタンパク質L7/L12のアミノ酸配列を横軸に示したグラフを作成した(図6A、B、C)。NTD(1〜40位の残基)の除算値が概ね0.4以下(抗体と相互作用してリボソームタンパク質L7/L12の信号強度が60%以上減衰したことを意味する)であったため、リボソームタンパク質L7/L12はNTD(1〜40位の残基)で抗体44B3、145B2、又は62C1と相互作用していることが判った(図6A、B、C)。
[実施例7]大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12に結合する抗体の交差反応性の検討
実施例5で得られた、大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12のNTDを認識するモノクローナル抗体44B3、145B2、及び62C1について、以下の手順により、大腸菌以外の細菌のリボソームタンパク質L7/L12との交差反応性のELISAによる解析を行った。
<1:交差反応性解析用の各細菌種の組換全長リボソームタンパク質L7/L12の調製>
以下の方法により交差反応性試験用の組換え全長リボソームタンパク質L7/L12を調製した。まず、交差反応性解析に用いる対象細菌種として、下記表2に示す各菌種のリボソームタンパク質L7/L12のアミノ酸配列をコードする塩基配列の人工合成遺伝子(GenScript社製)を含むプラスミドベクターpGEX−6P−1を作製した。
得られた各菌種のL7/L12遺伝子を担持するプラスミドベクターpGEX−6P−1を、大腸菌One Shot Competent Cells(Invitrogen社製)に導入し、50μg/mLのアンピシリン(Sigma社製)を含むLB培地(宝酒造社製)の半固型培地のプレートに播種し、37℃で12時間程度放置し、生じたコロニーを無作為に選択し、同濃度のアンピシリンを含むLB液体培地2mLに植え付け、8時間程度37℃で振盪培養し、菌体を回収した。得られた菌体からQIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN社)を用い、添付の説明書に従ってプラスミドを分離した。得られたプラスミドを制限酵素BamHI/XhoIにて切断処理した。約 370bpのDNAを切断することによって、各細菌種のリボソームタンパク質L7/L12人工合成遺伝子の挿入を確認した。当該プラスミドベクターを導入した大腸菌を、50mLのLB培地中で37℃で1晩培養した後、500mLのTB培地に入れ、1時間培養した。その後、100mMのイソプロピルβ−D(−)−チオガラクトピラノシド(IPTG)を550μL加えて、更に4時間培養した。回収後、1/100量のBugBuster(Merck社製)を加えて、室温で20分間振盪した。その後、10,000rpmで30分間遠心分離し、大腸菌を回収した。
前記実施例1と同様の方法により、組換全長リボソームタンパク質L7/L12の採取・精製を行い、各菌種の組換全長リボソームタンパク質L7/L12を得た。
<2:交差反応性解析用ELISAの実施>
前記各菌種の組換えリボゾームタンパク質L7/L12を、それぞれELISAプレートに固相化し、前記モノクローナル抗体44B3、145B2、又は62C1の各々を反応させ、洗浄した後、固相化された各菌種のL7/L12に結合したモノクローナル抗体をパーオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体と反応させ、各モノクローナル抗体と各菌種のL7/L12との交差反応性を評価した。
具体的には、大腸菌及び前記各菌種の組換え全長リボゾームタンパク質L7/L12それぞれ0.01μg/mL、0.1μg/mL又は1μg/mLの濃度で含むPBS溶液各100μLを、96穴ELISAプレート(Nunc社製Maxsorp ELISA plate)に分注し、4℃で一晩吸着させた。上澄み除去後、1%牛血清アルブミン溶液(PBS中)200μLを添加し、室温で1時間反応させてプロッキングした。上澄み除去後、洗浄液(0.02%Tween20含有PBS)で数回洗浄し、抗体44B3、145B2、又は62C1を1μg/mLになるように0.5%TritonX−100/PBSで希釈した抗体溶液、又は、約1×PBSそのもの(陰性コントロール)をそれぞれ100μL添加し、室温にて1時間反応させた。上澄みを除去した後、パーオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体試薬を2次抗体として、0.02%Tween20/PBSにて最終濃度1μg/mLになるように希釈した液を100μLずつ添加し、室温にて1時間反応させた。上澄み除去後、さらに洗浄液で数回洗浄し、TMB(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン)溶液(KPL社製)を100μLずつ加え、室温で10分間反応させた後、1mol/Lの塩酸を100μL添加して反応を停止させた。得られた溶液の450nmの吸光度を測定し、陰性コントロールの450nmの吸光度との差を求めることにより、各モノクローナル抗体と各菌種のL7/L12との交差反応性を評価した。
結果として得られた、抗体44B3、145B2、又は62C1と、大腸菌又は他の各菌種の組換え全長リボゾームタンパク質L7/L12との反応性の評価結果を、下記の表3に示す。下記表中、陽性(+)は、陰性コントロールに対する吸光度の差が0.5以上のもの、陰性(−)は、陰性コントロールに対する吸光度の差が0.1以下の値のものをそれぞれ示す。