以下、本発明の実施の形態による電動ブレーキ装置を、四輪自動車に搭載されるブレーキ装置に適用した場合を例に挙げ、添付図面の図1ないし図12に従って詳細に説明する。
図1において、左,右の前輪1L,1Rと左,右の後輪2L,2Rとは、車両のボディを構成する車体(図示せず)の下側に設けられている。左,右の前輪1L,1Rには、それぞれ前輪側ホイールシリンダ3L,3Rが設けられ、左,右の後輪2L,2Rには、それぞれ後輪側ホイールシリンダ4L,4Rが設けられている。これらのホイールシリンダ3L,3R、ホイールシリンダ4L,4Rは、ホイールブレーキ機構として液圧式のディスクブレーキまたはドラムブレーキのシリンダを構成し、夫々の車輪(前輪1L,1Rおよび後輪2L,2R)毎に制動力を付与するものである。
ブレーキペダル5は、車体のフロントボード(図示せず)側に設けられ、車両のブレーキ操作時に運転者によって図1中の矢示A方向に踏込み操作される。該ブレーキペダル5には、ブレーキスイッチ6とブレーキセンサ7とが付設されている。ここで、ブレーキスイッチ6は、車両のブレーキ操作の有無を検出して、例えばブレーキランプ(図示せず)を点灯,消灯させるものである。この場合、ブレーキスイッチ6は、後述のマスタ圧ECU26に接続され、このマスタ圧ECU26に、ブレーキペダル5が踏まれたことを検出するブレーキランプスイッチ信号(ON・OFF信号)を出力する。
一方、操作量検出手段としてのブレーキセンサ(ストロークセンサ)7は、車両のブレーキペダル5によるブレーキ操作量を検出するものである。即ち、ブレーキセンサ7は、ブレーキペダル5の踏込み操作量をストローク量として検出し、その検出信号をマスタ圧ECU26に出力する。ブレーキペダル5の踏込み操作は、後述の電動倍力装置16を介してマスタシリンダ8に伝えられる。なお、操作量検出手段としては、ブレーキペダル5の踏込み操作量をストローク量として検出するストロークセンサに限るものではなく、ブレーキペダル5の踏込み力を検出する踏力センサであってもよい。
ここで、マスタシリンダ8は、一側が開口端となり他側が底部となって閉塞された有底筒状のシリンダ本体9を有している。このシリンダ本体9には、後述のリザーバ14内と連通する第1,第2のサプライポート9A,9Bが設けられている。第1のサプライポート9Aは、後述するブースタピストン18の摺動変位により第1の液圧室11Aに対して連通,遮断される。一方、第2のサプライポート9Bは、後述する第2のピストン10により第2の液圧室11Bに対して連通,遮断される。
シリンダ本体9は、その開口端側が後述する電動倍力装置16のブースタハウジング17に複数の取付ボルト(図示せず)等を用いて着脱可能に固着されている。マスタシリンダ8は、シリンダ本体9と、第1のピストン(後述のブースタピストン18と入力ピストン19)および第2のピストン10と、第1の液圧室11Aと、第2の液圧室11Bと、第1の戻しばね12と、第2の戻しばね13とを含んで構成されている。
マスタシリンダ8の第1のピストンは、後述のブースタピストン18と入力ピストン19とにより構成されている。シリンダ本体9内に形成される第1の液圧室11Aは、第2のピストン10とブースタピストン18(および入力ピストン19)との間に画成されている。第2の液圧室11Bは、シリンダ本体9の底部と第2のピストン10との間でシリンダ本体9内に画成されている。
第1の戻しばね12は、第1の液圧室11A内に位置してブースタピストン18と第2のピストン10との間に配設され、ブースタピストン18をシリンダ本体9の開口端側に向けて付勢している。第2の戻しばね13は、第2の液圧室11B内に位置してシリンダ本体9の底部と第2のピストン10との間に配設され、第2のピストン10を第1の液圧室11A側に向けて付勢している。
マスタシリンダ8のシリンダ本体9は、ブレーキペダル1の踏込み操作に応じてブースタピストン18と第2のピストン10とがシリンダ本体9の底部に向かって変位し、第1,第2のサプライポート9A,9Bを遮断したときに、第1,第2の液圧室11A,11B内のブレーキ液によりブレーキ液圧を発生させる。一方、ブレーキペダル1の操作を解除した場合には、ブースタピストン18と第2のピストン10とが第1、第2の戻しばね12,13によりシリンダ本体9の開口部に向かって矢示B方向に変位していくときに、リザーバ14からブレーキ液の補給を受けながら第1,第2の液圧室11A,11B内の液圧が解除されていく。
マスタシリンダ8のシリンダ本体9には、作動液タンクとしてのリザーバ14が設けられ、該リザーバ14の内部にはブレーキ液が収容されている。リザーバ14は、シリンダ本体9内の液圧室11A,11Bにブレーキ液を給排するための容器である。即ち、第1のサプライポート9Aがブースタピストン18により第1の液圧室11Aに連通され、第2のサプライポート9Bが第2のピストン10により第2の液圧室11Bに連通している間は、これらの液圧室11A,11B内にリザーバ14内のブレーキ液が給排される。
一方、第1のサプライポート9Aがブースタピストン18により第1の液圧室11Aから遮断され、第2のサプライポート9Bが第2のピストン10により第2の液圧室11Bから遮断されたときには、これらの液圧室11A,11Bに対するリザーバ14内のブレーキ液の給排が断たれる。このため、マスタシリンダ8の第1,第2の液圧室11A,11B内には、ブレーキ操作に伴ってブレーキ液圧が発生し、このブレーキ液圧は、一対のシリンダ側液圧配管15A,15Bを介して後述の液圧供給装置であるESC29に送られる。
車両のブレーキペダル5とマスタシリンダ8との間には、ブレーキペダル5の操作力を増大させる電動倍力装置16が設けられている。この電動倍力装置16は、ブレーキ操作量(または、後述の制動指令値)に応じて後述の電動アクチュエータ20によりブースタピストン18を駆動し、これにより、マスタシリンダ8を作動させてホイールシリンダ3L,3R、ホイールシリンダ4L,4Rへの液圧供給が可能となっている。即ち、電動倍力装置16は、ブレーキセンサ7の出力(または、制動指令値)に基づいて電動アクチュエータ20を駆動制御することにより、マスタシリンダ8内に発生する液圧(即ち、マスタシリンダ圧)を可変に制御する。
電動倍力装置16は、車体のフロントボードである車室前壁(図示せず)に固定して設けられるブースタハウジング17と、該ブースタハウジング17に移動可能(即ち、マスタシリンダ8の軸方向に進退移動可能)に設けられた駆動ピストンとしてのブースタピストン18と、該ブースタピストン18にブースタ推力を付与する後述の電動アクチュエータ20とを含んで構成されている。
ブースタピストン18は、マスタシリンダ8のシリンダ本体9内に開口端側から軸方向に摺動可能に挿嵌された筒状部材により構成されている。ブースタピストン18の内周側には、ブレーキペダル5の操作に従って直接的に押動され、マスタシリンダ8の軸方向(即ち、矢示A,B方向)に進退移動する軸部材からなる入力ピストン19が摺動可能に挿嵌されている。入力ピストン19は、ブースタピストン18と一緒にマスタシリンダ8の第1のピストンを構成し、シリンダ本体9内は、第2のピストン10とブースタピストン18および入力ピストン19との間に第1の液圧室11Aが画成されている。
ブースタハウジング17は、後述の減速機構23等を内部に収容する筒状の減速機ケース17Aと、該減速機ケース17Aとマスタシリンダ8のシリンダ本体9との間に設けられブースタピストン18を軸方向に摺動変位可能に支持した筒状の支持ケース17Bと、減速機ケース17Aを挟んで支持ケース17Bとは軸方向の反対側(軸方向一側)に配置され減速機ケース17Aの軸方向一側の開口を閉塞する段付筒状の蓋体17Cとにより構成されている。減速機ケース17Aの外周側には、後述の電動モータ21を固定的に支持するための支持板17Dが設けられている。
入力ピストン19は、蓋体17C側からブースタハウジング17内に挿入され、ブースタピストン18内を第1の液圧室11Aに向けて軸方向に延びている。入力ピストン19の先端側(軸方向他側)端面は、ブレーキ操作時に第1の液圧室11A内に発生する液圧をブレーキ反力として受圧し、この反力を入力ピストン19はブレーキペダル5に伝達する。これにより、車両の運転者にはブレーキペダル5を介して適正な踏み応えが与えられ、良好なペダルフィーリング(ブレーキの効き)を得ることができる。この結果、ブレーキペダル5の操作感を向上することができ、ペダルフィーリング(踏み応え)を良好に保つことができる。
電動倍力装置16の電動アクチュエータ20は、ブースタハウジング17の減速機ケース17Aに支持板17Dを介して設けられた電動モータ21と、該電動モータ21の回転を減速して減速機ケース17A内の筒状回転体22に伝えるベルト等の減速機構23と、筒状回転体22の回転をブースタピストン18の軸方向変位(進退移動)に変換するボールネジ等の直動機構24とにより構成されている。ブースタピストン18と入力ピストン19は、それぞれの前端部(軸方向他側の端部)をマスタシリンダ8の第1の液圧室11Aに臨ませ、ブレーキペダル5から入力ピストン19に伝わる踏力(推力)と電動アクチュエータ20からブースタピストン18に伝わるブースタ推力とにより、マスタシリンダ8内にブレーキ液圧を発生させる。
即ち、電動倍力装置16のブースタピストン18は、後述するマスタ圧ECU26からの出力(給電)に基づいて電動アクチュエータ20により駆動され、マスタシリンダ8内にブレーキ液圧(マスタシリンダ圧)を発生させるポンプ機構を構成している。また、ブースタハウジング17の支持ケース17B内には、ブースタピストン18を制動解除方向(図1中の矢示B方向)に常時付勢する戻しばね25が設けられている。ブースタピストン18は、ブレーキ操作の解除時に電動モータ21が逆向きに回転されると共に、戻しばね25の付勢力により図1に示す初期位置まで矢示B方向に戻されるものである。
電動モータ21は、例えば三相モータ(DCブラシレスモータ)を用いて構成され、電動モータ21には、レゾルバと呼ばれる回転センサ21Aが設けられている。この回転センサ21Aは、電動モータ21(モータ軸)の回転位置を検出し、その検出信号を後述するマスタ圧ECU26に出力する。また、回転センサ21Aは、電動モータ21の回転変位を検出し、この回転変位に基づいて車体に対するブースタピストン18の絶対変位を検出する回転検出手段としての機能も兼ねている。
さらに、回転センサ21Aは、ブレーキセンサ7と共に、ブースタピストン18と入力ピストン19との相対変位量を検出する変位検出手段を構成し、これらの検出信号は、マスタ圧ECU26に送出される。なお、前記回転検出手段としては、レゾルバ等の回転センサ21Aに限らず、絶対変位(角度)を検出できる回転型のポテンショメータ等により構成してもよい。減速機構23は、ベルト等に限らず、例えば歯車減速機構等を用いて構成してもよい。
マスタ圧ECU26は、電動モータ21、車載の通信線27等に接続されている。そして、マスタ圧ECU26は、ブレーキセンサ7の検出値等に応じて、マスタシリンダ8によって液圧を発生させるべく、電動アクチュエータ20を制御する。より具体的には、マスタ圧ECU26は、ブレーキセンサ7、液圧センサ28からの検出信号、および/または自動ブレーキ制動指令に従って、電動倍力装置16によりマスタシリンダ8内に発生させるブレーキ液圧を可変にフィードバック制御すると共に、電動倍力装置16が正常に動作しているか否か等を判別するものである。
ここで、電動倍力装置16においては、ブレーキペダル5が操作されると、マスタシリンダ8のシリンダ本体9内に向けて入力ピストン19が前進し、このときの動きがブレーキセンサ7によって検出される。マスタ圧ECU26は、ブレーキセンサ7からの検出信号に基づいて電動モータ21に給電して該電動モータ21を回転駆動し、その回転が減速機構23を介して筒状回転体22に伝えられると共に、筒状回転体22の回転は、直動機構24によりブースタピストン18の軸方向変位に変換される。
これにより、ブースタピストン18は、マスタシリンダ8のシリンダ本体9内に向けて前進方向に変位し、ブレーキペダル5から入力ピストン19に付与される踏力(推力)と電動アクチュエータ20からブースタピストン18に付与されるブースタ推力とに応じたブレーキ液圧がマスタシリンダ8の第1,第2の液圧室11A,11B内に発生する。また、マスタ圧ECU26は、液圧センサ28からの検出信号を通信線27から受取ることにより、マスタシリンダ8に発生した液圧を監視することができ、電動倍力装置16が正常に動作しているか否かを判別することができる。
液圧検出手段としての液圧センサ28は、マスタシリンダ8で発生する液圧を検出するものである。即ち、液圧センサ28は、例えばシリンダ側液圧配管15A内の液圧を検出するもので、マスタシリンダ8からシリンダ側液圧配管15Aを介して後述のESC29に供給されるブレーキ液圧を検出する。液圧センサ28は、後述のホイール圧ECU31と電気的に接続されている。液圧センサ28による検出信号は、ホイール圧ECU31から通信線27を介してマスタ圧ECU26へ通信により送られる。なお、液圧センサ28は、シリンダ側液圧配管15A,15Bにそれぞれ設ける構成としてもよい。
次に、車両の各車輪(前輪1L,1Rおよび後輪2L,2R)側に配設されたホイールシリンダ3L,3R、ホイールシリンダ4L,4Rとマスタシリンダ8との間に設けられた液圧供給装置29(以下、ESC29という)について説明する。
ESC29は、マスタシリンダ8とホイールシリンダ3L,3R、ホイールシリンダ4L,4Rとの間に設けられ、ホイールシリンダ3L,3R、ホイールシリンダ4L,4Rへのブレーキ液の供給を行う。即ち、ESC29は、電動倍力装置16によりマスタシリンダ8の第1,第2の液圧室11A,11B内に発生したマスタシリンダ圧(M/C圧)としての液圧を、車輪毎のホイールシリンダ圧として可変に制御して各車輪のホイールシリンダ3L,3R、ホイールシリンダ4L,4Rに個別に供給する。
即ち、ESC29は、マスタシリンダ8からシリンダ側液圧配管15A,15B等を介してホイールシリンダ3L,3R、ホイールシリンダ4L,4Rに向けて供給するブレーキ液圧が不足する場合、または各種のブレーキ制御(例えば、前輪1L,1R、後輪2L,2R毎に制動力を配分する制動力配分制御、アンチロックブレーキ制御、車両安定化制御等)をそれぞれ行う場合に、必要で十分なブレーキ液圧を補償してホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rへの作動液の供給を制御するブレーキアシスト装置を構成するものである。
ここで、ESC29は、マスタシリンダ8(第1,第2の液圧室11A,11B)からシリンダ側液圧配管15A,15Bを介して出力される液圧を、ブレーキ側配管部30A,30B,30C,30Dを介してホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rに分配、供給する。これにより、前述の如く車輪(前輪1L,1R、後輪2L,2R)毎にそれぞれ独立した制動力が個別に付与される。ESC29は、後述の各制御弁36,36′,37,37′,38,38′,41,41′,42,42′,49,49′と、液圧ポンプ43,43′を駆動する電動モータ44と、液圧制御用リザーバ48,48′等とを含んで構成されている。
ホイール圧ECU31は、ESC29を電気的に駆動制御するホイール圧制御機構用コントローラである。このホイール圧ECU31は、例えばマイクロコンピュータ(CPU)等からなり、例えばROM,RAM,不揮発性メモリ等からなる記憶部(図示せず)を有している。ホイール圧ECU31の入力側は、液圧センサ28、通信線27及び車両データバス50等に接続されている。一方、ホイール圧ECU31の出力側は、後述の各制御弁36,36′,37,37′,38,38′,41,41′,42,42′,49,49′、電動モータ44、通信線27及び車両データバス50等に接続されている。
ここで、ホイール圧ECU31は、ESC29の各制御弁36,36′,37,37′,38,38′,41,41′,42,42′,49,49′及び電動モータ44等を後述の如く個別に駆動制御する。これによって、ホイール圧ECU31は、ブレーキ側配管部30A〜30Dからホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rに供給する作動液のブレーキ液圧を減圧、保持、増圧または加圧する制御を、ホイールシリンダ3L,3R,4L,4R毎に個別に行うものである。
即ち、ホイール圧ECU31は、ESC29を作動制御することにより、例えば以下の制御(1)〜(8)等を実行することができる。
(1)車両の制動時に接地荷重等に応じて各車輪(1L,1R,2L,2R)に適切に制動力を配分する制動力配分制御。
(2)制動時に各車輪(1L,1R,2L,2R)の制動力を自動的に調整して前輪1L,1Rと後輪2L,2Rのロックを防止するアンチロックブレーキ制御。
(3)走行中の各車輪(1L,1R,2L,2R)の横滑りを検知してブレーキペダル5の操作量に拘わらず各車輪(1L,1R,2L,2R)に付与する制動力を適宜自動的に制御しつつ、アンダーステア及びオーバーステアを抑制して車両の挙動を安定させる車両安定化制御。
(4)坂道(特に上り坂)において制動状態を保持して発進を補助する坂道発進補助制御。
(5)発進時等において各車輪(1L,1R,2L,2R)の空転を防止するトラクション制御。
(6)先行車両に対して一定の車間を保持する車両追従制御。
(7)走行車線を保持する車線逸脱回避制御。
(8)車両前方または後方の障害物との衡突を回避する障害物回避制御。
ESC29は、マスタシリンダ8の一方の出力ポート(即ち、シリンダ側液圧配管15A)に接続されて左前輪(FL)側のホイールシリンダ3Lと右後輪(RR)側のホイールシリンダ4Rとに液圧を供給する第1液圧系統32と、他方の出力ポート(即ち、シリンダ側液圧配管15B)に接続されて右前輪(FR)側のホイールシリンダ3Rと左後輪(RL)側のホイールシリンダ4Lとに液圧を供給する第2液圧系統32′との2系統の液圧回路を備えている。ここで、第1液圧系統32と第2液圧系統32′とは、同様な構成を有しているため、以下の説明は第1液圧系統32についてのみ行い、第2液圧系統32′については各構成要素に符号に「′」を付し、それぞれの説明を省略する。
ESC29の第1液圧系統32は、シリンダ側液圧配管15Aの先端側に接続されたブレーキ管路33を有し、ブレーキ管路33は、第1管路部34及び第2管路部35の2つに分岐して、ホイールシリンダ3L,4Rにそれぞれ接続されている。ブレーキ管路33及び第1管路部34は、ブレーキ側配管部30Aと共にホイールシリンダ3Lに液圧を供給する管路を構成し、ブレーキ管路33及び第2管路部35は、ブレーキ側配管部30Dと共にホイールシリンダ4Rに液圧を供給する管路を構成している。
ブレーキ管路33には、ブレーキ液圧の供給制御弁36が設けられ、該供給制御弁36は、ブレーキ管路33を開,閉する常開の電磁切換弁により構成されている。ここで、供給制御弁36は、マスタシリンダ8で発生したブレーキ液圧(マスタ圧)をホイールシリンダ3L,4Rに対しホイール圧として供給するか、停止するかを制御する制御弁を構成している。第1管路部34には増圧制御弁37が設けられ、該増圧制御弁37は、第1管路部34を開,閉する常開の電磁切換弁により構成されている。第2管路部35には増圧制御弁38が設けられ、該増圧制御弁38は、第2管路部35を開,閉する常開の電磁切換弁により構成されている。
一方、ESC29の第1液圧系統32は、ホイールシリンダ3L,4R側と液圧制御用リザーバ48とをそれぞれ接続する第1,第2の減圧管路39,40を有し、これらの減圧管路39,40には、それぞれ第1,第2の減圧制御弁41,42が設けられている。第1,第2の減圧制御弁41,42は、減圧管路39,40をそれぞれ開,閉する常閉の電磁切換弁により構成されている。
また、ESC29は、液圧源としての液圧ポンプ43を備えている。この液圧ポンプ43は電動モータ44により回転駆動される。ここで、電動モータ44は、ホイール圧ECU31からの給電により駆動され、給電の停止時には液圧ポンプ43と一緒に回転停止される。液圧ポンプ43の吐出側は、逆止弁45を介してブレーキ管路33のうち供給制御弁36よりも下流側となる位置(即ち、第1管路部34と第2管路部35とが分岐する位置)に接続されている。液圧ポンプ43の吸込み側は、逆止弁46,47を介して液圧制御用リザーバ48に接続されている。
液圧制御用リザーバ48は、余剰の作動液を一時的に貯留するために設けられ、ブレーキシステム(ESC29)のABS制御時に限らず、これ以外のブレーキ制御時にもホイールシリンダ3L,4Rのシリンダ室(図示せず)から流出してくる余剰の作動液を一時的に貯留するものである。また、液圧ポンプ43の吸込み側は、逆止弁46及び常閉の電磁切換弁である加圧制御弁49を介してマスタシリンダ8のシリンダ側液圧配管15A(即ち、ブレーキ管路33のうち供給制御弁36よりも上流側となる位置)に接続されている。
ESC29を構成する各制御弁36,36′,37,37′,38,38′,41,41′,42,42′,49,49′、及び液圧ポンプ43,43′を駆動する電動モータ44は、ホイール圧ECU31から出力される制御信号に従ってそれぞれの動作制御が予め決められた手順で行われる。即ち、ESC29の第1液圧系統32は、運転者のブレーキ操作による通常の動作時において、電動倍力装置16によってマスタシリンダ8で発生した液圧を、ブレーキ管路33及び第1,第2管路部34,35を介してホイールシリンダ3L,4Rに直接供給する。例えば、アンチスキッド制御等を実行する場合は、増圧制御弁37,38を閉じてホイールシリンダ3L,4Rの液圧を保持し、ホイールシリンダ3L,4Rの液圧を減圧するときには、減圧制御弁41,42を開いてホイールシリンダ3L,4Rの液圧を液圧制御用リザーバ48に逃がすように排出する。
また、車両走行時の安定化制御(横滑り防止制御)等を行うため、ホイールシリンダ3L,4Rに供給する液圧を増圧するときには、供給制御弁36を閉弁した状態で電動モータ44により液圧ポンプ43を作動させ、該液圧ポンプ43から吐出した作動液を第1,第2管路部34,35を介してホイールシリンダ3L,4Rに供給する。このとき、加圧制御弁49が開弁されていることにより、マスタシリンダ8側から液圧ポンプ43の吸込み側へとリザーバ14内の作動液が供給される。
このように、ホイール圧ECU31は、車両運転情報等に基づいて供給制御弁36、増圧制御弁37,38、減圧制御弁41,42、加圧制御弁49及び電動モータ44(即ち、液圧ポンプ43)の作動を制御し、ホイールシリンダ3L,4Rに供給する液圧を適宜に保持したり、減圧または増圧したりする。これによって、前述した制動力分配制御、車両安定化制御、ブレーキアシスト制御、アンチスキッド制御、トラクション制御、坂道発進補助制御等のブレーキ制御が実行される。
一方、電動モータ44(即ち、液圧ポンプ43)を停止した状態で行う通常の制動モードでは、供給制御弁36及び増圧制御弁37,38を開弁させ、減圧制御弁41,42及び加圧制御弁49を閉弁させる。この状態で、ブレーキペダル5の踏込み操作に応じてマスタシリンダ8の第1のピストン(即ち、ブースタピストン18、入力ピストン19)と第2のピストン10とがシリンダ本体9内を軸方向に変位するときに、第1の液圧室11A内に発生したブレーキ液圧が、シリンダ側液圧配管15A側からESC29の第1液圧系統32、ブレーキ側配管部30A,30Dを介してホイールシリンダ3L,4Rに供給される。第2の液圧室11B内に発生したブレーキ液圧は、シリンダ側液圧配管15B側から第2液圧系統32′、ブレーキ側配管部30B,30Cを介してホイールシリンダ3R,4Lに供給される。
また、第1,第2の液圧室11A,11B内に発生したブレーキ液圧(即ち、液圧センサ28により検出したシリンダ側液圧配管15A内の液圧)が不十分なときに行うブレーキアシストモードでは、加圧制御弁49と増圧制御弁37,38とを開弁させ、供給制御弁36及び減圧制御弁41,42を適宜開、閉弁させる。この状態で、電動モータ44により液圧ポンプ43を作動させ、該液圧ポンプ43から吐出する作動液を第1,第2管路部34,35を介してホイールシリンダ3L,4Rに供給する。これにより、マスタシリンダ8側で発生するブレーキ液圧と共に、液圧ポンプ43から吐出する作動液によってホイールシリンダ3L,4Rによる制動力を発生することができる。
なお、液圧ポンプ43としては、例えばプランジャポンプ、トロコイドポンプ、ギヤポンプ等の公知の液圧ポンプを用いることができるが、車載性、静粛性、ポンプ効率等を考慮するとギヤポンプとすることが望ましい。電動モータ44としては、例えばDCモータ、DCブラシレスモータ、ACモータ等の公知のモータを用いることができるが、本実施の形態においては、車載性等の観点からDCモータとしている。
また、ESC29の各制御弁36,37,38,41,42,49は、その特性を夫々の使用態様に応じて適宜設定することができるが、このうち供給制御弁36及び増圧制御弁37,38を常開弁とし、減圧制御弁41,42及び加圧制御弁49を常閉弁とすることにより、ホイール圧ECU31からの制御信号がない場合にも、マスタシリンダ8からホイールシリンダ3L〜4Rに液圧を供給することができる。
車両に搭載された車両データバス50(車両の装置間通信網)には、図2に示すように、ホイール圧ECU31、電力充電用の回生制動システム51および後述の車両制御装置66等が接続されている。回生制動システム51は、前述したマスタ圧ECU26およびホイール圧ECU31と同様にマイクロコンピュータ等からなり、車両の減速時および制動時等に車輪の回転による慣性力を利用して、車両駆動用の電動モータ(図示せず)を制御することにより、運動エネルギを電力として回収しつつ制動力を得るものである。回生制動システム51は、車両データバス50を介してマスタ圧ECU26、ホイール圧ECU31および車両制御装置66等に接続されている。また、回生制動システム51は、後述の電源ライン65と接続され、この電源ライン65を通じて車載の電源からの電力が給電される。
次に、マスタ圧ECU26の具体的な回路構成について、図2を参照して説明する。
マスタ圧ECU26は、中央処理ユニット(CPU)52と、電動モータ21(三相DCブラシレスモータ)に駆動電流を出力するインバータ回路としての三相モータ駆動回路53と、電動モータ21の回転センサ21A、変位センサを含むペダル操作量検出用のブレーキセンサ7、温度センサ54、電流センサ55、並びに、マスタシリンダ8(例えば、第1の液圧室11A)の圧力を検出する液圧センサ28からの各種検出信号を中央処理ユニット52に受入れるための各インタフェイス56A,56B,56C,56D,56Eと、車両データバス50からのCAN信号を受入れるためのCAN通信インタフェイス57と、中央処理ユニット52(CPU)が処理を実行するための各種情報を格納した記憶装置58(EEPROM)と、を備えている。
さらに、マスタ圧ECU26は、中央処理ユニット52に安定電力を供給する第1及び第2電源回路59,60と、中央処理ユニット52並びに第1及び第2電源回路59,60の異常を監視する監視用制御回路61と、フェイルセーフリレー62及びECU電源リレー63と、フィルタ回路64と、を備えている。前記記憶装置58は、例えば図7に示す後述の制御テーブル72と、図8に示す自動ブレーキ制動指令の種類と走行速度とに基づいて第1,第2の所定時間を可変に設定するマスタ圧ECUの制御処理用プログラムと、図9に示すモータ制御処理用のプログラムと、ブースタピストン18の移動速度V1,V2との各種情報等が格納されている。
マスタ圧ECU26の中央処理ユニット52は、回転センサ21A、ブレーキセンサ7、温度センサ54及び液圧センサ28等からの各種検出信号、ホイール圧ECU31を含む各種車載器機(車両データバス50)からのCAN信号による各種情報、並びに、記憶装置58の記憶情報等に基づき、これらを所定の論理規則によって処理して、三相モータ駆動回路53に指令信号を出力して電動モータ21の作動を制御する。
車載の電源ライン65からは、ECU電源リレー63を介して第1及び第2電源回路59,60に電力を供給する。このとき、ECU電源リレー63は、車両データバス50からのCAN通信インタフェイス57によるCAN信号の受信、又は、ブレーキスイッチ6、イグニッションスイッチ、ドアスイッチ(いずれも図示せず)等からの所定の起動信号W/Uの受信のいずれかを検知することにより、第1及び第2電源回路59,60に電力を供給する。また、電源ライン65からフィルタ回路64及びフェイルセーフリレー62を介して三相モータ駆動回路53に電力を供給する。このとき、フィルタ回路64によって三相モータ駆動回路53に供給される電力のノイズを除去する。
三相モータ駆動回路53の三相出力の各相は、相電流モニタ回路53A及び相電圧モニタ回路53Bによって監視されている。中央処理ユニット52は、これらの監視値及び記憶装置58に記憶された故障情報等に基づき、マスタ圧ECU26の故障診断を実行し、故障ありと判断したときには、故障信号を監視用制御回路61に出力する。監視用制御回路61は、中央処理ユニット52からの故障信号、第1,第2電源回路59,60の電圧等の各種作動情報に基づき、異常時には、フェイルセーフリレー62を作動させて三相モータ駆動回路53への電力の供給を遮断する。
次に、マスタ圧ECU26による電動アクチュエータ20(電動モータ21)の駆動制御について説明する。
マスタ圧ECU26は、ブレーキセンサ7によって検出したブレーキペダル5の操作量(変位量、踏力等)に基づき、電動モータ21を作動させて第1のピストン(ブースタピストン18)の位置を制御して液圧を発生させる。このとき、第1のピストンに作用する液圧による反力が入力ピストン19を介してブレーキペダル5にフィードバックされる。そして、ブースタピストン18と入力ピストン19との受圧面積比及び入力ピストン19に対するブースタピストン18の位置関係によって、ブレーキペダル5の操作量と発生液圧との比である倍力比を調整することができる。
これにより、電動倍力装置16は、ブレーキペダル5の操作量に対する必要制動力(液圧)特性を可変とすることができ、車両の運転者が要求するブレーキペダル5の操作量に対する車両減速度を可変とすることができる。さらに、マスタ圧ECU26の中央処理ユニット52は、CAN通信インタフェイス57を介して、回生制動システム51からのCAN信号が入力され、この作動信号に基づいて回生制動中か否かを判断し、回生制動時に回生制動分を差引いた液圧を発生させるようにブースタピストン18の位置を調整して、回生制動分と液圧による制動力との合計で所望の制動力が得られるようにする回生協調制御を実行することができる。
電動倍力装置16を含む電動ブレーキ装置が搭載された車両は、車両制御装置66を備えている。この車両制御装置66は、車両データバス50(車両の装置間通信網であるCAN信号ライン)に接続されており、マスタ圧ECU26の中央処理ユニット52には、CAN通信インタフェイス57を介して車両制御装置66からのCAN信号が入力される。車両制御装置66からマスタ圧ECU26の中央処理ユニット52に入力されるCAN信号としては、車両の走行速度、各車輪の回転速度等の車両状態を各種センサにより測定した値や、自動緊急ブレーキ機能や前方走行車追従機能といった自動ブレーキ機能に基づく自動ブレーキ制動指令がある。マスタ圧ECU26は、車両制御装置66から入力された自動ブレーキ制動指令を実現するブレーキ液圧が発生するように、電動モータ21を作動させて第1のピストン(ブースタピストン18)の位置を制御する。
次に、車両制御装置66からの自動ブレーキ制動指令に基づいて電動アクチュエータ20(電動モータ21)を駆動制御するための構成を、図3を参照して説明する。
マスタ圧ECU26の中央処理ユニット52は、ブースタピストン位置算出部67とモータ制御部68とを有し、モータ制御部68は、図2中の三相モータ駆動回路53を含んで構成されている。ブースタピストン位置算出部67は、車両制御装置66からCANを介して入力される自動ブレーキ制動指令Prと液圧センサ28で測定されるマスタシリンダ8の制動液圧Pとに基づいて、ブースタピストン18の目標位置を目標ピストン位置Xrとして算出する。モータ制御部68は、ブースタピストン位置算出部67で算出された目標ピストン位置Xrを実現するように、電動アクチュエータ20の電動モータ21を駆動制御する。
電動アクチュエータ20の制御装置(マスタ圧ECU)は、自動ブレーキ制動指令Pr(制動指令値)と、制動液圧Pを検出する液圧センサ28からの検出値とに基づいて、電動アクチュエータ20の電動モータ21を駆動制御するものである。マスタ圧ECU26の中央処理ユニット52は、車両制御装置66から自動ブレーキの制動指令が入力されると、これを早期に実現するためにブースタピストン18の移動速度(即ち、電動モータ21の回転速度)を速くし、応答性を高めるようにする。しかし、電動モータ21の回転速度を速くすると、これに伴って電動モータ21の大きな作動音が生じる。
図4の特性線69は、ブースタピストン移動速度と作動音との関係を示している。電動モータ21の作動音は、ブースタピストン18の移動速度を速くするに伴って、特性線69の如く大きくなり、移動速度を遅くなるように小さくすれば、作動音も低減されることが知られている。図5の特性線70は、車両の走行速度と運転室内の暗騒音との関係を示している。運転室内の暗騒音は、走行速度を速くするに伴って特性線70の如く大きくなる。即ち、車両の走行速度が大きいほどにエンジンの作動音や車輪の回転に伴って生じる走行音等の車両が発する騒音が大きくなるため、暗騒音は大きくなり、車両の走行速度が小さいほど、車両が発する騒音が小さくなるため、暗騒音は小さくなる。
図4の特性線69と図5の特性線70とから、車両の運転者は、走行速度が速くなれば暗騒音の影響で、電動モータ21の回転速度を速くしても、電動モータ21の作動音が聞こえにくくなることが分かる。車両の走行速度は、車両制御装置66からマスタ圧ECU26の中央処理ユニット52(ブースタピストン位置算出部67)に自動ブレーキの制動指令と同様に入力される。
そこで、ブースタピストン位置算出部67は、図6の特性線71の如く、車両の走行速度に対してブースタピストン移動速度の制限値(制限量)を設定している。ブースタピストン位置算出部67は、ブースタピストン移動速度が車両の走行速度に対して特性線71の制限値を超えて速くなるのを制限するように抑える制御を行う。電動モータ21の回転速度に対応するブースタピストン18の移動速度は、車両の走行速度が速くなれば、これに伴って特性線71の如く速くすることが許容され、車両の走行速度が低下するときには、これに伴って特性線71の如く移動速度を遅くして電動モータ21の作動音を小さく抑えるように制御される。
換言すると、マスタ圧ECU26のブースタピストン位置算出部67(制御装置)は、前記制動指令値の入力時における車両の走行速度に応じて、ブースタピストン18の移動速度(電動モータ21の回転速度)に対して制限値を加えるように、ピストンの移動速度の制限量を変更して電動アクチュエータ20(電動モータ21の回転)を制御する構成としている。これにより、車両の走行速度が小さい場合は、制動指令の応答遅れを許容して静粛性を優先し、車両の走行速度が大きい場合は、電動モータ21の回転を速くして作動音の発生を許容し、電動アクチュエータ20による制動液圧の応答性を優先することが可能となる。
但し、車両制御装置66から出力される自動ブレーキの制動指令が緊急ブレーキ(即ち、衝突回避、衝撃軽減のための自動緊急ブレーキ機能による指令)である場合、大きな作動電流と作動音を許容して即座に制動指令を実現する必要がある。このため、緊急ブレーキ指令の場合には、衝突防止を優先させるため、自動ブレーキの応答性を高め、作動音(騒音)の発生を看過する制御(例えば、図12に点線で示す特性線91,93に沿った制御)を行うようにする。
一方、車両制御装置66から出力される自動ブレーキの制動指令が前方走車の追従機能のような常用の自動ブレーキ指令である場合、自動ブレーキの応答性遅れをある程度は許容し、運転者に違和感を与える大きな作動音(電動モータ21の作動音)が生じないような速度でブースタピストン18を進める制御を行う。この場合、ブースタピストン位置算出部67は、図6の特性線71の如く、車両の走行速度に対してブースタピストン移動速度の制限値を設定する制御を行い、車両の走行速度が低下するときには、これに伴ってブースタピストン18の移動速度を遅くし、電動モータ21の作動音を小さく抑えるように制御する。
図7の制御テーブル72は、車両制御装置66から出力される自動ブレーキ制動指令の種類と走行速度とに基づいて、後述する第1,第2の所定時間T1,T2を可変に設定するための制御マップ(記憶テーブル)である。後述の時間は、T1-a>T1-b>T1-c,T2-a>T2-b>T2-cなる関係に設定される。一例を挙げると、時間T1-bは0.2秒、時間T2-bは0.3秒くらいと考えられる。
自動ブレーキの制動指令が常用の自動ブレーキ指令(即ち、前方走行車追従)の場合、車両の走行速度Vが判定速度Vm(例えば、30km/h)未満(即ち、判定速度Vmよりも低速)のときに、第1の所定時間T1は、時間T1-aに設定され、第2の所定時間T2は、時間T2-aに設定される。車両の走行速度Vが判定速度Vm以上の高速のときには、第1の所定時間T1が時間T1-bに設定され、第2の所定時間T2は、時間T2-bに設定される。
自動ブレーキの制動指令が緊急ブレーキ指令の場合、車両の走行速度Vが判定速度Vmよりも低速のときには、第1の所定時間T1が時間T1-cに設定され、第2の所定時間T2は時間T2-cに設定される。しかし、車両の走行速度Vが判定速度Vm以上の高速のときには、衝突回避のために第1,第2の所定時間T1,T2を制限なしとする。この場合、ブースタピストン18の位置と移動速度は、例えば図12中に点線で示す特性線91,93の如く制御される。
ここで、マスタ圧ECU26のブースタピストン位置算出部67が、ブースタピストン18の目標位置(目標ピストン位置Xr)を算出する場合の具体例を、図10〜図12を参照して述べる。
図10に実線で示す特性線73,76,78は、自動ブレーキの制動指令が前方走行車追従指令の場合で、かつ車両の走行速度Vが判定速度Vmよりも低速のときの特性である。図10中に一点鎖線で示す特性線74は、自動ブレーキ制動指令Prとしてランプ状の制動指令が車両制御装置66からブースタピストン位置算出部67に入力された場合のマスタシリンダ液圧指令の時間変化を表している。点線で示す特性線75は、同様な条件下での従来技術によるマスタシリンダ液圧Pdの時間変化を表している。
これに対し、本実施の形態によると、マスタシリンダ液圧Pは、図10中に実線で示す特性線73のように、第1の所定時間T1(時間T1-a)が経過した時点で液圧が立上り、その後に第2の所定時間T2(時間T2-a)が経過した時点で制動液圧Pが、自動ブレーキ制動指令Prと一致するように制御される。このとき、ブースタピストン18の目標ピストン位置Xrは、実線で示す特性線76(実施の形態)のように制御される。さらに、ブースタピストン18の移動速度Vrは、実線で示す特性線78のように、それぞれ異なる一定の移動速度V1,V2(V1>V2)で段階的に制御される。
一方、図10中に点線で示す特性線77は、従来技術による目標ピストン位置Xdの特性であり、同じく点線で示す特性線79は、従来技術によるブースタピストン移動速度Vdの特性を表している。
図10の特性線74,77において、第1のピストン(ブースタピストン18)は、自動ブレーキ制動指令Prが入力されるまでは、待機位置X0で停止している。この待機位置X0は、リザーバ14のサプライポート9A,9Bが液圧室11A,11Bと連通しているので、マスタシリンダ8からは制動液圧Pが発生しない位置である。即ち、ホイールシリンダ3L,3R、ホイールシリンダ4L,4R側でキャリパ(図示せず)の引きずりを防ぐためには、制動を実施しない非制動時において、リザーバ14のサプライポート9Aが液圧室11Aに連通していることが保証される位置(即ち、待機位置X0)に、ブースタピストン18を待機させる必要がある。
このため、マスタ圧ECU26は、車両制御装置66からの自動ブレーキ制動指令Prに基づいて制動を行う場合、制動指令の入力直後にブースタピストン18を待機位置X0からポート位置X1まで進め、ポート位置X1を通過してから液圧を発生し始めることになる。しかし、設計上でのサプライポート9Aが開く位置を待機位置X0として設定すると、サプライポート9Aの位置のばらつき(製作公差)や回転センサ21Aのゼロ点誤差の影響等により、ブースタピストン18が待機位置X0に停止しているにも関わらず、サプライポート9Aがブースタピストン18により閉じられ、液圧が発生してしまう可能性がある。これは前述したキャリパの引きずりにつながるため、待機位置X0は、リザーバ14のサプライポート9Aが閉じて制動液圧Pが発生し始めるポート位置(液圧発生位置)X1に対して、機械的ばらつき(公差)やセンサ誤差を考慮して設定する必要がある。
そこで、待機位置X0の設定は、マスタ圧ECU26等のシステムONのときの初期設定において行う。具体的には、初期設定時にアシスト部材(例えば、ブースタピストン18)を前進させて、システムOFF時のメカ的な後端位置から一旦液圧発生状態とする。このときの液圧発生位置から一定量(無効ストローク量)後退した位置を待機位置X0として設定する。このような初期設定により、待機位置X0からポート位置(液圧発生位置)X1までのストローク量を適正に設定することが可能である。
次に、自動ブレーキ制動指令Prが入力された段階で、ブースタピストン18は、第1の所定時間T1と第2の所定時間T2とにわたって下記のように制御される。
自動ブレーキ制動指令Prを高い応答性で実現するためには、ブースタピストン位置は点線で示す特性線77(従来の目標ピストン位置Xd)のように、自動ブレーキ制動指令Prが入力された瞬間に待機位置X0からポート位置X1に移動する必要がある。このとき、電動アクチュエータ20(電動モータ21)は自動ブレーキ制動指令Prに対応する液圧を即座に満足するように駆動されるため、ブースタピストン移動速度は、点線で示す特性線79(従来のブースタピストン移動速度Vd)のように、従来の目標ピストン位置Xdに追従して移動する。そして、従来技術にあっては、特性線79(ブースタピストン移動速度Vd)のように、ブースタピストン移動速度は最大速度Vmaxまで大きくなった後に、自動ブレーキ制動指令Prに対応する液圧を満足するように徐々に小さくなっていく。このため、ブースタピストン移動速度はモータ回転速度に相当するので、モータの回転速度も最大速度となり、大きな作動音が発生することになる。この場合、マスタ圧ECU26は、自動ブレーキ制動指令Prを取得してからブースタピストン18をポート位置X1に到達させて液圧を発生し始めるまでの時間が比較的短時間となっている。
そこで、本実施の形態では、実線で示す特性線76,78のように、まず、ブースタピストン18を待機位置X0からポート位置X1まで第1の所定時間T1をかけて一定の移動速度V1で移動させる。ここで、第1の所定時間T1は、自動ブレーキ制動指令Prに対応する液圧を即座に満足するように電動アクチュエータ20(電動モータ21)を駆動した場合の液圧が発生し始めるポート位置X1に到達する時間(上記従来の時間)よりも長い時間として設定されている。また、第1の所定時間T1は、電動アクチュエータ20(電動モータ21)を駆動したときに発生する作動音が運転室内の暗騒音以下となるような回転速度でブースタピストン18を前記制動液圧が発生し始める位置まで進めたときの時間として設定されている。このように、マスタ圧ECU26が自動ブレーキ制動指令Prを取得してから第1の所定時間T1で、ブースタピストン18によって液圧が発生し始める位置に到達するように電動アクチュエータ20を制御することで、静粛性を確保しつつ、必要な応答性を維持することができる。次に、ブースタピストン18が待機位置X0からポート位置X1まで移動し、時間T1以降にマスタシリンダ液圧(特性線73)を発生させ始めた後、この液圧の発生から第2の所定時間T2後に自動ブレーキ制動指令Prの液圧値に到達するように、ブースタピストン18を一定の移動速度V2でブースタピストン18を移動させる。ここで、第2の所定時間T2は、上記移動速度V2に相当する電動アクチュエータ20(電動モータ21)の回転速度が、電動モータ21の作動音が運転者に違和感を与えない音レベルとなる回転速度以下となるように設定されている。
ここで、第1の所定時間T1の間は、制動液圧が発生しないためブースタピストン18に液圧反力が生じない。しかし、第2の所定時間T2の間は、制動液圧が発生するためブースタピストン18に液圧反力が生じる。従って、第1の所定時間T1の間と第2の所定時間T2の間では、電動アクチュエータ20(電動モータ21)によってブースタピストン18を駆動するために必要な力が異なる。このため、ブースタピストン18の移動速度V1,V2は、第1の所定時間T1と第2の所定時間T2とで夫々の速度を変更できる構成としている。
換言すると、制御装置(マスタ圧ECU26のブースタピストン位置算出部67とモータ制御部68)は、制動指令値(自動ブレーキ制動指令Pr)に対して前記制動指令値の入力から第1の所定時間T1後に、ピストン(ブースタピストン18)が前記制動液圧を発生する位置に到達するように、電動アクチュエータ20の電動モータ21を駆動制御する構成としている。さらに、前記制御装置は、前記制動指令値に基づく制動液圧値と液圧センサ28の検出値に基づく検出液圧値とが、前記制動液圧を発生するポート位置X1に到達してから第2の所定時間T2後に一致するように、電動アクチュエータ20の電動モータ21を駆動制御する構成としている。
第1の所定時間T1と第2の所定時間T2とは、時間が短いほど自動ブレーキ制動指令Prに対する制動液圧Pの応答性は高くなる。しかし、時間T1,T2をより短い時間に設定変更すれば、ブースタピストン18の移動速度(即ち、電動モータ21の回転速度)は速くなるので、図4に示す特性線69の如く電動モータ21の作動音が大きくなる。
このため、自動ブレーキの制動指令が前方走行車追従で、かつ車両の走行速度Vが判定速度Vmよりも低速のときには、図10に実線で示す特性線73,76,78のように、第1の所定時間T1を時間T1-aに設定変更し、第2の所定時間T2を時間T2-aのように、例えば0.4秒程度まで比較的長い時間に設定している。これにより、電動モータ21の回転速度が速くなるのを抑えることができ、モータ作動音を小さく抑えることができる。従って、自動ブレーキの制動指令が前方走行車追従で、かつ車両の走行速度Vが判定速度Vmよりも低速のときには、ブレーキの応答性よりも静粛性を相対的に優先させた制御を行うことができる。
次に、図11に実線で示す特性線80,83,85は、自動ブレーキの制動指令が前方走行車追従指令の場合で、かつ車両の走行速度Vが判定速度Vm以上の高速のときの特性である。図11中に一点鎖線で示す特性線81は、自動ブレーキ制動指令Prとしてランプ状の制動指令が車両制御装置66からブースタピストン位置算出部67に入力された場合のマスタシリンダ液圧指令の時間変化を表している。点線で示す特性線82は、同様な条件下での従来技術によるマスタシリンダ液圧Pdの時間変化を表している。
これに対し、本実施の形態によると、マスタシリンダ液圧Pは、図11中に実線で示す特性線80のように、第1の所定時間T1(時間T1-b)が経過した時点で液圧が立上り、第2の所定時間T2(時間T2-b)が経過した時点で制動液圧Pが、自動ブレーキ制動指令Prと一致するように制御される。このとき、ブースタピストン18の目標ピストン位置Xrは、実線で示す特性線83(実施の形態)のように制御される。さらに、ブースタピストン18の移動速度Vrは、実線で示す特性線85のように、それぞれ異なる一定の移動速度V1,V2(V1>V2)で段階的に制御される。一方、図11中に点線で示す特性線84は、従来技術による目標ピストン位置Xdの特性であり、同じく点線で示す特性線86は、従来技術によるブースタピストン移動速度Vdの特性を表している。
このため、自動ブレーキの制動指令が前方走行車追従で、かつ車両の走行速度Vが判定速度Vm以上の高速のときには、図11に実線で示す特性線80,83,85のように、第1の所定時間T1を時間T1-bに設定変更し、第2の所定時間T2を時間T2-bのように、例えば0.3秒程度の時間に設定している。これにより、電動モータ21の回転速度をある程度は抑え、車両の走行速度Vに応じてモータ作動音を相対的に小さくすることができる。従って、自動ブレーキの制動指令が前方走行車追従で、かつ車両の走行速度Vが判定速度Vm以上の高速のときには、ブレーキの応答性と静粛性とを両立させた制御を行うことができる。
次に、図12に実線で示す特性線87,90,92は、自動ブレーキの制動指令が緊急ブレーキ指令で、かつ車両の走行速度Vが判定速度Vmよりも低い低速のときの特性である。図12中に一点鎖線で示す特性線88は、自動ブレーキ制動指令Prとしてランプ状の制動指令が車両制御装置66からブースタピストン位置算出部67に入力された場合のマスタシリンダ液圧指令の時間変化を表している。点線で示す特性線89は、同様な条件下での従来技術によるマスタシリンダ液圧Pdの時間変化を表している。
これに対し、本実施の形態によると、マスタシリンダ液圧Pは、図12中に実線で示す特性線87のように、第1の所定時間T1(時間T1-c)が経過した時点で液圧が立上り、その後に第2の所定時間T2(時間T2-c)が経過した時点で制動液圧Pが、自動ブレーキ制動指令Prと一致するように制御される。このとき、ブースタピストン18の目標ピストン位置Xrは、実線で示す特性線90(実施の形態)のように制御される。さらに、ブースタピストン18の移動速度Vrは、実線で示す特性線92のように、それぞれ異なる一定の移動速度V1,V2(V1>V2)で段階的に制御される。
一方、図12中に点線で示す特性線91は、従来技術による目標ピストン位置Xdの特性であり、同じく点線で示す特性線93は、従来技術によるブースタピストン移動速度Vdの特性を表している。なお、自動ブレーキの制動指令が緊急ブレーキ指令で、かつ車両の走行速度Vが判定速度Vm以上の高速となったときには、点線で示す特性線89のように、マスタシリンダ液圧Pdが制御される。また、高速時の目標ピストン位置Xdは、点線で示す特性線91のように制御され、ブースタピストン移動速度Vdは、点線で示す特性線93のように制御される。
このため、自動ブレーキの制動指令が緊急ブレーキ指令で、かつ車両の走行速度Vが判定速度Vmよりも低速のときには、図12に実線で示す特性線87,90,92のように、第1の所定時間T1を時間T1-cに設定変更し、第2の所定時間T2を時間T2-cのように、例えば0.2秒程度の時間に設定している。これにより、電動モータ21の回転速度をある程度は抑え、車両の走行速度Vに応じてモータ作動音を相対的に小さくすることができる。従って、自動ブレーキの制動指令が緊急ブレーキ指令で、かつ車両の走行速度Vが判定速度Vmよりも低速のときには、ブレーキの応答性と静粛性とを両立させた制御を行うことができる。
一方、自動ブレーキの制動指令が緊急ブレーキ指令で、かつ車両の走行速度Vが判定速度Vm以上の高速のときには、従来技術と同様に図12に点線で示す特性線89,91,93のように制御し、緊急ブレーキとしての応答性を高めるようにし、静粛性よりも応答性を優先させた制御を行うことができる。
本実施の形態による電動ブレーキ装置は、上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
まず、車両の運転者がブレーキペダル5を踏込み操作すると、これにより入力ピストン19が矢示A方向に押込まれると共に、ブレーキセンサ7からの検出信号がマスタ圧ECU26に入力される。マスタ圧ECU26は、その検出値に応じて電動倍力装置16の電動アクチュエータ20を作動制御する。即ち、マスタ圧ECU26は、ブレーキセンサ7からの検出信号に基づいて、電動モータ21への給電を行い、該電動モータ21を回転駆動する。
電動モータ21の回転は、減速機構23を介して筒状回転体22に伝えられると共に、筒状回転体22の回転は、直動機構24によりブースタピストン18の軸方向変位に変換される。これにより、電動倍力装置16のブースタピストン18は、マスタシリンダ8のシリンダ本体9内に向けて前進方向に変位し、ブレーキペダル5から入力ピストン19に付与される踏力(推力)と電動アクチュエータ20からブースタピストン18に付与されるブースタ推力とに応じたブレーキ液圧がマスタシリンダ8の第1,第2の液圧室11A,11B内に発生する。
次に、各車輪(前輪1L,1Rおよび後輪2L,2R)側のホイールシリンダ3L,3R、ホイールシリンダ4L,4Rとマスタシリンダ8との間に設けられたESC29は、電動倍力装置16によりマスタシリンダ8(第1,第2の液圧室11A,11B)内に発生したマスタシリンダ圧としての液圧を、シリンダ側液圧配管15A,15BからESC29内の液圧系統32,32′およびブレーキ側配管部30A,30B,30C,30Dを介してホイールシリンダ3L,3R、ホイールシリンダ4L,4Rへと可変に制御しつつ、車輪毎のホイールシリンダ圧として分配して供給する。これにより、車両の車輪(各前輪1L,1R、各後輪2L,2R)毎にホイールシリンダ3L,3R、ホイールシリンダ4L,4Rを介して適正な制動力が付与される。
また、ESC29を制御するホイール圧ECU31は、電動モータ44に給電して液圧ポンプ43,43′を作動し、各制御弁36,36′,37,37′,38,38′,41,41′,42,42′,49,49′を選択的に開,閉弁する。これにより、制動力配分制御、アンチロックブレーキ制御、車両安定化制御、坂道発進補助制御、トラクション制御、車両追従制御、車線逸脱回避制御、障害物回避制御等を実行することができる。
次に、車両制御装置66からマスタ圧ECU26に出力される自動ブレーキ指令と車両の走行速度とに基づいて、電動倍力装置16を自動ブレーキとして制御する場合を、図8に示す処理手順に従って説明する。
図8の処理動作がスタートすると、ステップ1で自動ブレーキ指令が入力されたか否かを判定し、「YES」と判定したときには、次のステップ2で自動ブレーキ指令が前方走行車追従指令であるか否かを判定する。ステップ2で「YES」と判定したときには、次のステップ3で車両の走行速度Vが判定速度Vm未満であるか否かを判定する。
ステップ3で「YES」と判定したときには、自動ブレーキの制動指令が前方走行車追従指令の場合で、かつ車両の走行速度Vが判定速度Vmよりも低速のときである。このため、次のステップ4では、図10に実線で示す特性線73,76,78のように、ブースタピストン18の目標位置と移動速度とを制御すべく、第1の所定時間T1を時間T1-aに設定し、第2の所定時間T2を時間T2-aに設定する。
次のステップ5では、図9に示すモータ制御処理に沿って行い、電動モータ21の回転を制御することにより、ブースタピストン18の目標位置と移動速度とを図10に実線で示す特性線73,76,78のように制御する。そして、次のステップ6では、例えば前記ステップ1にリターンし、これ以降の処理を続行する。
ステップ3で「NO」と判定したときには、自動ブレーキの制動指令が前方走行車追従指令の場合で、かつ車両の走行速度Vが判定速度Vm以上の高速のときである。このため、次のステップ7では、図11に実線で示す特性線80,83,85のように、ブースタピストン18の目標位置と移動速度とを制御すべく、第1の所定時間T1を時間T1-bに設定し、第2の所定時間T2を時間T2-bに設定する。そして、その後はステップ5でモータ制御処理を行い、次のステップ6でリターンする。
一方、ステップ2で「NO」と判定したときには、自動ブレーキの制動指令が緊急ブレーキ指令の場合であるから、次のステップ8で車両の走行速度Vが判定速度Vm未満であるか否かを判定する。ステップ8で「YES」と判定したときには、自動ブレーキの制動指令が緊急ブレーキ指令で、かつ車両の走行速度Vが判定速度Vmよりも低速のときである。
そこで、次のステップ9では、図12に実線で示す特性線87,90,92のように、ブースタピストン18の目標位置と移動速度とを制御すべく、第1の所定時間T1を時間T1-cに設定し、第2の所定時間T2を時間T2-cに設定する。そして、その後はステップ5でモータ制御処理を行い、次のステップ6でリターンする。
一方、ステップ8で「NO」と判定したときには、自動ブレーキの制動指令が緊急ブレーキ指令の場合で、かつ車両の走行速度Vが判定速度Vm以上の高速であるから、次のステップ10で、図12に点線で示す特性線91,93のように、ブースタピストン18の目標位置と移動速度とを制御すべく、第1の所定時間T1を零秒に近い時間に設定し、第2の所定時間T2も同様に零秒に近い時間に設定する。そして、その後はステップ5でモータ制御処理を行い、次のステップ6でリターンする。
次に、車両制御装置66からマスタ圧ECU26に出力される自動ブレーキ指令に基づいて、電動倍力装置16を自動ブレーキとして制御する場合のモータ制御処理について、図9を参照して説明する。
図9の処理動作がスタートすると、ステップ11でブースタピストン18が移動速度V1となるように電動モータ21を駆動する。次のステップ12では、電動モータ21の駆動を開始してから第1の所定時間T1が経過したか否かを判定する。ステップ12で「NO」と判定する間は待機し、ステップ12で「YES」と判定したときには、次のステップ13に移る。
ステップ13では、ブースタピストン18が移動速度V2となるように電動モータ21を駆動する。次のステップ14では、電動モータ21を移動速度V2で駆動し始めてから第2の所定時間T2が経過したか否かを判定する。ステップ14で「NO」と判定する間は待機し、ステップ14で「YES」と判定したときには、次のステップ15に移る。
ステップ15では、電動倍力装置16によりマスタシリンダ8内に発生させる制動液圧Pが自動ブレーキ制動指令Prに基づいた液圧となるように電動モータ21をフィードバック制御する。次のステップ16では、自動ブレーキ制動指令Prによる液圧と液圧センサ28で検出した制動液圧Pとの差圧ΔPが零となったか否かを判定する。ステップ16で「NO」と判定する間は、前記ステップ15に戻ってこれ以降の処理を続行し、ステップ14で「YES」と判定したときには、次のステップ17でリターンする。
かくして、本実施の形態によると、制御装置(マスタ圧ECU26のブースタピストン位置算出部67とモータ制御部68)は、制動指令値(自動ブレーキ制動指令Pr)に対して前記制動指令値の入力から第1の所定時間T1が経過したときに、ピストン(ブースタピストン18)がマスタシリンダ8の制動液圧を発生する位置に到達するように、電動アクチュエータ20の電動モータ21を駆動制御する構成としている。さらに、前記制御装置は、自動ブレーキ制動指令Prに基づく制動液圧値と液圧センサ28の検出値に基づく検出液圧値とが、前記制動液圧を発生するポート位置X1に到達してから第2の所定時間T2後に一致するように、電動アクチュエータ20の電動モータ21を駆動制御する構成としている。
これにより、車両制御装置66から自動緊急ブレーキ機能のような応答性が求められる機能による制動指令が入力された場合に、第1の所定時間T1と第2の所定時間T2を短く設定することで、車両制動時の高い応答性を実現することができる。また、車両制御装置66から前方走行車追従機能のような静粛性が求められる機能による制動指令が入力された場合には、電動モータ21の作動音が運転者に違和感を与えない音レベルとなるように、第1の所定時間T1と第2の所定時間T2を長く設定することで、静粛性を実現することができる。
また、車室内の暗騒音が大きく、電動モータ21の作動音が運転者に違和感を与えづらいが、高い応答性を求められる高速走行時には、第1の所定時間T1と第2の所定時間T2を相対的に短く設定することで、静粛性よりも応答性を優先することができ、車両制動時の応答性と静粛性とを両立させることが可能となる。さらに、暗騒音が小さく、電動モータ21の作動音が運転者に違和感を与えやすいが、応答性が遅くなることを許容できる低速走行時には、第1の所定時間T1と第2の所定時間T2を長く設定することで、応答性よりも静粛性を優先して両者の両立を図ることができる。
従って、本実施の形態では、自動ブレーキ機能の種類によって応答性と静粛性に対する要求が異なる場合でも、第1の所定時間T1と第2の所定時間T2とを、例えば図7に示す制御テーブル72のように可変に設定することができ、車両制御装置66から入力される自動ブレーキ制動指令Prによる自動ブレーキ機能の種類に応じて、車両制動時の応答性と静粛性とを両立させる制御を実現することができる。
なお、前記実施の形態では、車両の走行速度Vが判定速度Vmに対して大きいか否かにより第1の所定時間T1と第2の所定時間T2とを、例えば時間T1-a,T1-bと時間T2-a,T2-bのように2段階で可変に設定する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、第1の所定時間T1と第2の所定時間T2とを車両の走行速度Vに応じて3段階以上または連続的に可変に設定する構成としてもよい。
この場合、図6に例示したブースタピストン移動速度の制限値(制限量)の特性線71のように、ブースタピストン18の移動速度を制限する構成とし、車両の走行速度が小さいほどブースタピストン18の移動速度V1,V2が小さく、車両の走行速度が大きくなるほどブースタピストン18の移動速度V1,V2が大きくなるように、第1の所定時間T1と第2の所定時間T2を設定する構成としてもよい。
以上説明した実施形態に基づく電動ブレーキ装置として、例えば、以下に述べる態様のものが考えられる。第1の態様としては、車両のホイールブレーキ機構へ制動液圧を付与すべく作動する電動アクチュエータと、当該電動アクチュエータにより移動され、前記制動液圧を発生させるピストンと、前記車両の装置間通信網から取得する制動指令値に基づき前記電動アクチュエータを制御して前記ピストンを移動させる制御装置と、を有する電動ブレーキ装置であって、前記制御装置は、前記制動指令値に対応する制動液圧を即座に満足するように前記電動アクチュエータを駆動したときに前記制動液圧が発生し始める位置に到達する時間よりも長い第1の所定時間が設定されており、前記制動指令値に対して、前記制動指令値の取得から前記第1の所定時間後に、前記ピストンによって前記制動液圧が発生し始める位置に到達するように、前記電動アクチュエータを制御することを特徴としている。これにより、自動ブレーキ制動時の静粛性を確保することができる。
電動ブレーキ装置の第2の態様としては、前記第1の態様において、前記制御装置は、前記制動指令値及び前記制動液圧を検出する液圧検出手段からの検出値に基づき前記電動アクチュエータを制御するものであって、前記制動指令値に基づく制動液圧値と前記液圧検出手段の検出値に基づく検出液圧値とが、前記制動液圧が発生し始める前記位置に到達してから第2の所定時間後に一致するように、前記電動アクチュエータを制御することを特徴としている。これにより、自動ブレーキ制動時の静粛性を確保することができる。
電動ブレーキ装置の第3の態様としては、前記第1の態様または第2の態様において、前記制御装置は、前記制動指令値の入力時の前記車両の走行速度に応じて、前記ピストンの移動速度の制限量を変更して前記電動アクチュエータを制御することを特徴としている。これにより、車両の走行速度に応じて前記ピストンの移動速度を可変に設定することができ、自動ブレーキの制動指令に対して応答性を維持しつつ、走行速度に応じた暗騒音の範囲内でアクチュエータの作動音が運転者に違和感を与えないように、ピストンの移動を制御することができる。したがって、自動ブレーキの種々の制動指令に対して応答性と静粛性とを両立させることができる。