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JP6954281B2 - 多層シートの製造方法、成形容器の製造方法、及び多層シート - Google Patents

多層シートの製造方法、成形容器の製造方法、及び多層シート Download PDF

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Description

本発明は、多層シートの製造方法、成形容器の製造方法、及び多層シートに関し、特に、ボイルやレトルト用途等に用いられる多層シートの製造方法、成形容器の製造方法、及び多層シートに関する。
食品等を長期保存するためのレトルト処理として包装容器に対して加圧加熱殺菌を行うことがある。このような用途向けの包装容器用シートにガスバリア層としてエチレンビニルアルコール共重合体(EVOH樹脂)を用いると、湿度や熱水等に対する耐性が低いことから、レトルトショックと呼ばれる大幅なバリア性能の低下が発生する。そこで、特許文献1では、ポリカルボン酸系重合体と可塑剤の混合物からなる層と、2価の金属化合物と樹脂の混合物からなる層が積層される熱可塑性バリアフィルムが提案されている。特許文献1に記載の熱可塑性バリアフィルムを備えた包装容器によれば、熱可塑性バリアフィルムが熱水処理によってバリア性を発現するため、EVOH樹脂等にみられるレトルトショックが発生しない。
特許第4397895号公報
しかしながら、特許文献1では、熱可塑性バリアフィルムと熱可塑性樹脂からなるシートとが別々に作製され、両者を作製後に熱可塑性バリアフィルムとシートとを接着剤を介してドライラミネートし、多層シートを作製している。このため、特許文献1に記載の多層シートでは、その製造に時間がかかってしまい、生産性が低いといった問題がある。また、ドライラミネートを行う場合、製造条件における制約があり、例えば1mm以上のシートを搬送しての加工が難しい(対応できる加工機が限られる)ため、所定以上の厚みを有する多層シートを製造することが難しいといった問題もある。また、このような多層シート用いた包装容器の一つとして、スクイーズ容器がある。これは容器を押しつぶすことにより内容物を必要な量だけ絞り出す容器形態で、マヨネーズやマスタード等の調味料、ペットフードや離乳食等の流動食の容器として適している。ここで、EVOH樹脂はその厚みと酸素バリア性が比例することから、酸素バリア性の向上とスクイーズ性の向上(=薄膜化)が相反することになる。したがって、より長期保存を目指したハイバリア容器でスクイーズ性を確保することは困難である。
そこで、本発明では、従来よりも生産性を高め、しかも多くの異なる製品仕様に対して柔軟に対応することができる多層シートの製造方法、成型容器の製造方法、及び多層シートを提供することを目的とする。また、本発明の別の側面として、多層シートの用途として、容器の厚みに依存せず、また加熱殺菌処理によるバリア性の低下が発生しないハイバリア性と、内容物を容易に絞り出すことができるスクイーズ性を併せ持ったスクイーズ容器を提供することを目的とする。
本発明は、その一側面として、多層シートの製造方法に関する。この多層シートの製造方法は、熱可塑性樹脂を含む基材と、ポリカルボン酸系重合体及び可塑剤を含む第1バリア層と、多価金属化合物及び樹脂を含む第2バリア層とが積層された熱可塑性バリアフィルムを有する多層シートの製造方法であって、熱可塑性バリアフィルムを準備する工程と、ポリオレフィン樹脂組成物と接着性樹脂組成物とを準備する工程と、熱可塑性バリアフィルムを供給すると共に、ポリオレフィン樹脂組成物によって形成される層と供給された熱可塑性バリアフィルムとの間に接着性樹脂組成物が位置するようにポリオレフィン樹脂組成物及び接着性樹脂組成物を押出機から押出しする工程と、を備えている。
この多層シートの製造方法では、熱可塑性バリアフィルムを、シート基材となるポリオレフィン樹脂組成物によって形成される層に接着性樹脂組成物により貼り付けるようにするため、押出しする工程において、熱可塑性バリアフィルムを供給すると共に、ポリオレフィン樹脂組成物によって形成される層と熱可塑性バリアフィルムとの間に接着性樹脂組成物が位置するようにポリオレフィン樹脂組成物及び接着性樹脂組成物を押出機から押出しするようにしている。この場合、ポリオレフィン樹脂組成物を押し出してポリオレフィン層とする際にポリオレフィン樹脂組成物と熱可塑性バリアフィルムとを熱ラミネートにより貼り合せることも行うため、従来のようにポリオレフィン樹脂組成物を押し出してポリオレフィン層のシートを作製した後に改めて行っていた接着剤によるドライラミネーション工程を不要とすることができるので、製造時間を短縮して、多層シートの生産性を高めることができる。例えば、熱可塑性バリアフィルムと厚み0.6mmのポリプロピレンシートをドライラミネートにより貼り合せる際のラインスピードが30m/分とすると、仮に月当たり10万mを生産する場合、少なくともドライラミネート処理のみで約60時間かかってしまう。しかしながら、本発明にかかる製造方法を採用することにより、このようなドライラミネーション工程を省くことができるため、大幅な時間短縮が可能となり、多層シートの生産性を大幅に高めることが可能となる。また、この多層シートの製造方法では、上述したように、熱ラミネートを用いているため、1mm以上のポリオレフィン層を作製することも容易に行うことができ、ドライラミネートを用いた製造方法に比較して、多くの異なる製品仕様に対して柔軟に対応することができる。
上記の多層シートの製造方法において、接着性樹脂組成物が酸変性ポリオレフィンを含むことが好ましい。この場合、ポリオレフィンに付与される官能基が熱可塑性バリアフィルムの表層に含まれる金属酸化物との水素結合により接着するため、熱可塑性バリアフィルムとシート基材となるポリオレフィン樹脂組成物による層との接着強度を高めることが可能となる。なお、ここで用いる接着性樹脂組成物としては、少なくとも1つの重合可能なエチレン性不飽和カルボン酸またはその誘導体を、変性前のポリオレフィン樹脂にグラフト変性あるいは共重合したグラフト変性ポリオレフィンを含むことが好ましい。
上記の多層シートの製造方法において、接着性樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)が3g/10分以上であってもよい。この場合、接着性樹脂組成物の柔軟性により、成形加工によるシートの変形後も接着性樹脂組成物と熱可塑性バリアフィルムとの高い接着強度を保持することができる。
上記の多層シートの製造方法において、接着性樹脂組成物は、酸変性ポリプロピレン樹脂又は酸変性ポリエチレン樹脂と、α−オレフィン共重合体からなる樹脂改質剤とを含むことが好ましい。この場合、レトルト処理等に耐えうる融点を維持しつつ柔軟性を付与することができる。
上記の多層シートの製造方法において、押出しする工程では、接着性樹脂組成物の厚みが1μm以上50μm以下となるように接着性樹脂組成物を押出ししてもよい。接着性樹脂組成物の厚みが1μm以上であることにより、熱可塑性バリアフィルムとポリオレフィン樹脂組成物によって形成される層との剥離を抑制でき、一方、接着性樹脂組成物の厚みが50μm以下であることにより、必要とされる接着力は維持しつつ高価な接着性樹脂組成物の使用量を低減できる。
上記の多層シートの製造方法において、押出機は多層押出機であり、押出しする工程では、ポリオレフィン樹脂組成物によって形成される層の熱可塑性バリアフィリム側の面に接着性樹脂組成物が重なるように、ポリオレフィン樹脂組成物及び接着性樹脂組成物を多層押出機から共押出しすることが好ましい。本製造方法では、単層の押出し機を用いて、まず接着性樹脂組成物の押出しを行い、その後、ポリオレフィン樹脂組成物の押出しを行って、接着性樹脂組成物がポリオレフィン樹脂組成物によって形成される層と熱可塑性バリアフィルムとの間に位置するようにポリオレフィン樹脂組成物及び接着性樹脂組成物を押出機から押出ししてもよいが、多層押出機を用いてポリオレフィン樹脂組成物及び接着性樹脂組成物を共押出しすることで、生産速度をあげることができ、生産効率をより一層高めることが可能となる。
上記の多層シートの製造方法において、押出しする工程では、ポリオレフィン樹脂組成物による層が1mm以上の厚みを有するようにポリオレフィン樹脂組成物を押出ししてもよい。多層シートの製品仕様として、ポリオレフィン樹脂組成物によって形成される層の部分が1mm以上の厚みを必要とする場合もあるが、ドライラミネーションでは1mm以上のシートを搬送しての加工が難しい。しかしながら、本発明による方法によれば、1mm以上の厚みを有するポリオレフィン樹脂組成物によって形成される層でも容易に作製できるため、対応可能な製品群を広くすることが可能となる。
本発明は、別の側面として、成形容器の製造方法に関する。この成形容器の製造方法は、上述した何れかの多層シートの製造方法により多層シートを製造する工程と、当該多層シートを延伸成形して成形容器を作製する工程と、を備えている。この場合も上述した多層シートの製造方法と同様の作用効果を奏することが可能となる。
また、本発明は、更に別の側面として、多層シートに関する。この多層シートは、ポリオレフィン樹脂層と、ポリオレフィン樹脂層の一方の面に接着性樹脂層により貼り付けられる熱可塑性バリアフィルムと、を含む多層シートである。この多層シートでは、熱可塑性バリアフィルムは、熱可塑性樹脂を含む基材と、ポリカルボン酸系重合体及び可塑剤を含む第1バリア層と、多価金属化合物及び樹脂を含む第2バリア層とが積層されたフィルムであり、熱可塑性バリアフィルムが接着性樹脂層によりポリオレフィン樹脂層の一方の面に貼り付けられており、当該接着性樹脂層が酸変性ポリオレフィンを含んでいる。この場合、熱可塑性バリアフィルムがポリカルボン酸系重合体及び可塑剤を含む第1バリア層と多価金属化合物及び樹脂を含む第2バリア層とが積層されたフィルムであることから、耐熱耐湿特性に優れた多層シートとすることができる。また、ポリオレフィン樹脂層と熱可塑性バリアフィルムとが接着剤を介さずに接着性樹脂層により貼り合わされているため、一般に接着剤に含まれる有機溶剤を用いることなく多層シートを製造することができ、残留した有機溶剤の臭気が多層シート(又は、その後に成形される成形容器)内に配置される内容物、例えば食品等に移行して、内容物の風味を低下させるといったことを抑制できる。
本発明によれば、多層シートの生産性を高め、しかも多くの異なる製品仕様に柔軟に対応することができる。
本発明の一実施形態に係る多層シートを示す断面図である。 図1に示す多層シートを製造するためのプロセスを模式的に示す図であり、(a)は、熱可塑性バリアフィルムの製造プロセスを示し、(b)は熱可塑性バリアフィルムを熱ラミネートするプロセスを示す。 従来の多層シートを製造するためのプロセスを模式的に示す図であり、(a)は、熱可塑性バリアフィルムの製造プロセスを示し、(b)はPPシートの製造プロセスを示す。 図1に示す多層シートを用いて製造される成形容器の一例を示す断面図である。 本発明の一実施形態に係るスクイーズ容器を示す断面図である。 本発明の一実施形態に係る多層シートの他の例を示す断面図である。 本発明の実施例および比較例を評価するための容器の一形態を示す図である。
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る多層シートの製造方法について詳細に説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いる場合があり、重複する説明は省略する。
図1は、本発明の一実施形態に係る多層シートを示す断面図である。図1に示すように、多層シート10は、基材1と、基材1の一方の面に設けられたバリア層2と、バリア層2の一方の面に設けられたポリオレフィン層3とを備えており、バリア層2とポリオレフィン層3とは、接着性樹脂組成物からなる接着性樹脂層4により互いに貼り付けられている。バリア層2は、ポリカルボン酸系重合体及び可塑剤を含む第1バリア層5と、多価金属化合物及び樹脂を含む第2バリア層6とを含んでいる。基材1と、第1バリア層5及び第2バリア層6からなるバリア層2とにより、熱可塑性バリアフィルム7が構成される。多層シート10を包装容器等に成形した場合、多層シート10のポリオレフィン層3側(図示上側)が包装内容物と接する側になり、多層シート10の基材1側(下側)が容器の外側となる。
[基材1]
基材1は、熱可塑性バリアフィルム7の基材であり、熱可塑性樹脂を含んで構成される。基材1を構成する熱可塑性樹脂の種類は特に限定されないが、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチルペンテン、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン系重合体やそれらの共重合体、およびそれらの酸変性物;ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物、ポリビニルアルコール等の酢酸ビニル系共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどの芳香族ポリエステル系重合体やその共重合体;ポリε−カプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバリレート等の脂肪族ポリエステル系重合体やそれらの共重合体;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン6,66共重合体、ナイロン6,12共重合体、メタキシレンアジパミド・ナイロン6共重合体等のポリアミド系重合体やその共重合体;ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイドなどのポリエーテル系重合体;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等の塩素系又はフッ素系重合体やそれらの共重合体;ポリメチルアクリレート、ボリエチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリアクリロニトリルなどのアクリル系重合体やそれらの共重合体;ポリスチレンなどのスチレン系重合体やその共重合体;ポリイミド系重合体やその共重合体など、を用いることができる。これらのうち、基材1を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリアミド系重合体、ポリスチレンなどが延伸成形性の観点からは好ましい。なお、基材1は、延伸されていてもよいし、未延伸であってもよい。
基材1の厚さは、例えば10μm以上10mm以下であり、10μm以上500μm以下であることが好ましい。基材1は、複数の層から構成されていてもよい。
[第1バリア層5]
第1バリア層5は、バリア層2を構成する層の1つであり、ポリカルボン酸系重合体と可塑剤とを含んで構成されている。ポリカルボン酸系重合体は、第2バリア層6に含まれる多価金属化合物と塩を生成して安定したガスバリア性を発現する。可塑剤は、ポリカルボン酸系化合物の延伸性を高めるために添加することができる。具体的には、ポリカルボン酸系重合体の一部を可塑剤に置き換えることにより、固形分全体のガラス転移温度を低下させて、より低い温度条件で多層シート10延伸することができる。
ポリカルボン酸系重合体としては、既存のポリカルボン酸系重合体であれば特に制限されない。既存のポリカルボン酸系重合体とは、分子内に2個以上のカルボキシ基を有する重合体の総称である。具体的には、重合性単量体として、α,β‐モノエチレン性不飽和カルボン酸を用いた単独重合体、単量体成分としてα,β‐モノエチレン性不飽和カルボン酸のみからなり、それらの少なくとも2種類の共重合体、また、α,β‐モノエチレン性不飽和カルボン酸と他のエチレン性不飽和単量体との共重合体、さらにアルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ペクチンなどの分子内にカルボキシ基を有する酸性多糖類を例示することができる。これらのポリカルボン酸系重合体は、それぞれ単独で、または少なくとも2種類のポリカルボン酸系重合体(B)を混合して用いることができる。
ここで、α,β‐モノエチレン性不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸などが代表的なものである。また、これらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルなどの飽和カルボン酸ビニルエステル類、アルキルアクリレート、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、スチレンなどが代表的なものである。ポリカルボン酸系重合体がα,β‐モノエチレン性不飽和カルボン酸と酢酸ビニルなどの飽和カルボン酸ビニルエステル類との共重合体の場合には、さらにケン化することにより、飽和カルボン酸ビニルエステル部分をビニルアルコールに変換して使用することができる。
また、ポリカルボン酸系重合体がα,β‐モノエチレン性不飽和カルボン酸とその他のエチレン性不飽和単量体との共重合体である場合であって、多層シート10がレトルト用の成形容器に用いられる場合には、ガスバリア性及び高温水蒸気や熱水に対する耐性の観点から、その共重合組成は、α,β‐モノエチレン性不飽和カルボン酸単量体組成が60モル%以上であることが好ましく、より好ましくは80モル%以上であり、更に好ましくは90モル%以上であり、最も好ましくは100モル%、即ち、ポリカルボン酸系重合体がα,β‐モノエチレン性不飽和カルボン酸のみからなる重合体であることが好ましい。さらに、ポリカルボン酸系重合体がα,β‐モノエチレン性不飽和カルボン酸のみからなる重合体の場合には、その好適な具体例は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体単量体の重合によって得られる重合体、及びそれらの混合物が挙げられる。より好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸から選ばれる少なくとも1種の重合性単量体からなる単独重合体、共重合体、及び/又はそれらの混合物を用いることができる。最も好ましくは、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸、及びそれらの混合物を用いることができる。ポリカルボン酸系重合体がα,β‐モノエチレン性不飽和カルボン酸単量体の重合体以外の例えば酸性多糖類の場合には、アルギン酸を好ましくは用いることができる。
ポリカルボン酸系重合体は、レトルト用の成形容器に用いられる場合にガスバリア性、及び、高温水蒸気や熱水に対する耐性を損なわない範囲で、予め一価の金属(アルカリ金属)やアンモニアを部分的に中和しておくことができる。
ポリカルボン酸系重合体の数平均分子量については特に限定されない。フィルム成形性の観点からは、2,000以上10,000,000以下の範囲であることが好ましく、さらには、5,000以上1,000,000以下であることが好ましい。
原料としてのポリカルボン酸系重合体は、ガスバリア性、及び、高温水蒸気や熱水に対する安定性の観点から、それを単独でフィルムに形成したときに、乾燥条件下(30℃、相対湿度0%)で測定した酸素透過係数が1000cm(STP)・μm/(m・day・MPa)以下が好ましく、更に好ましくは、500cm(STP)・μm/(m・day・MPa)以下であり、最も好ましくは、100cm(STP)・μm/(m・day・MPa)以下である。
ここでいう酸素透過係数は、例えば、以下の方法で求めることができる。ポリカルボン酸系重合体を水などの溶媒に溶解して10質量%の溶液を調整する。次に、調整した溶液をバーコータを用いて、プラスチックからなる基材上に塗工して乾燥することにより、厚さ1μmのポリカルボン酸系重合体が形成されたコーティングフィルムを作製する。得られたコーティングフィルムを乾燥したときの30℃、相対湿度0%における酸素透過度を測定する。ここで、プラスチック基材として、その酸素透過度が既知の任意にプラスチックフィルムを用いる。そして、得られたポリカルボン酸系重合体のコーティングフィルムの酸素透過度が基材として用いたプラスチックフィルム単独の酸素透過度に対して10分の1以下であれば、その酸素透過度の測定値がほぼポリカルボン酸系重合体の層単独の酸素透過度と見なすことができる。また、得られた値は、厚さ1μmのポリカルボン酸系重合体(B)の酸素透過度であるため、その値に1μmを乗じることにより、酸素透過係数に変換することができる。
可塑剤は、公知の可塑剤から適宜選択して使用することができる。可塑剤の具体例としては、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,3‐ブタンジオール、2,3‐ブタンジオール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイドなどのグリコール類;ソルビトール、マンニトール、ズルシトール、エリトリトール、グリセリン、乳酸、脂肪酸などを例示することができる。これらは必要に応じて、混合物で用いてもよい。なお、これらの中でも、グリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコールなどが延伸性やガスバリア性の観点からは好ましい。
ポリカルボン酸系重合体と可塑剤との混合割合は、質量比でポリカルボン酸系重合体/可塑剤が70/30〜99.9/0.1であることが好ましく、80/20〜99/1であることがより一層好ましい。より好ましくは、ポリカルボン酸系重合体/可塑剤の質量比が85/15〜95/5である。ポリカルボン酸系重合体/可塑剤の質量比が70/30〜99.9/0.1の範囲にあることにより延伸性とガスバリア性とを両立することができる。
[第2バリア層6]
第2バリア層6は、バリア層2を構成する層の1つであり、多価金属化合物と樹脂とを含んで構成される。多価金属化合物は、第1バリア層5に含まれるポリカルボン酸系重合体のカルボキシル基とイオン結合し、ガスバリア性を向上するために用いられる。一方、樹脂は、第2バリア層6の成膜性向上のためのバインダーとして用いられる。
多価金属化合物は、金属イオンの価数が2以上の多価金属原子単体、及びその化合物である。レトルト用の成形容器としてのガスバリア性、高温水蒸気や熱水に対する耐性、及び製造性の観点から、多価金属化合物は2価の金属化合物が好ましく用いられる。また、第1バリア層5及び第2バリア層6の合計を基準として、それらの層中に含まれるカルボキシ基の合計に対する多価金属化合物の合計中の多価金属の化学当量が0.2以上、更には0.5化学当量以上10化学当量以下であることが好ましい。更に、上記観点に加え、フィルムの成形性や透明性の観点から、0.8化学当量以上5化学当量以下の範囲であることがより好ましい。
多価金属の具体例としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、チタン、ジルコニア、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などの遷移金属、アルミニウムなどを挙げることができる。多価金属化合物の具体例としては、前記多価金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、有機酸塩、無機酸塩、その他、多価金属のアンモニウム錯体や多価金属の2〜4級アミン錯体とそれら錯体の炭酸塩や有機酸塩などが挙げられる。有機酸塩としては、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、ステアリン酸塩、モノエチレン性不飽和カルボン酸塩などが挙げられる。無機酸塩としては、塩化物、硫酸塩、硝酸塩などを挙げることができる。それ以外には多価金属のアルキルアルコキシドなどを挙げることができる。
多価金属化合物の形態は、特に限定されない。しかし、多層シート10の透明性の観点から、多価金属化合物は、粒状で、その粒径が小さい方が好ましい。また、後述するようにレトルト用成形容器を構成する多層シートを作製するためのコーティング混合物を調製する上でも、調製時の効率化、及びより均一なコーティング混合物を得る観点から、多価金属化合物は、粒状で、その粒径は小さい方が好ましい。多価金属化合物の平均粒径としては、好ましくは5μm以下であり、より好ましくは1μm以下であり、更に好ましくは0.1μm以下である。
第2バリア層6に多価金属化合物が含まれる場合、レトルト処理後の内容物から発生する臭気を低減することができる。このメカニズムとしては、例えば、多価金属化合物として酸化亜鉛を用いた場合、酸化亜鉛が亜鉛イオンとなり、内容物から発生する臭気の原因となる硫化水素(HS)の硫黄と反応することで硫化水素を吸着するためと考えられる。
樹脂は、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などで、塗料用に用いられている樹脂であれば好適に使用することができる。具体的には、アルキッド樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、硝化綿、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ビニル樹脂、セルロース系樹脂、天然樹脂などの樹脂を挙げることができる。なお、必要に応じて硬化剤を用いることができ、メラミン樹脂、ポリイソシアネート、ポリアミンなどの公知の樹脂を挙げることができる。
多価金属化合物と樹脂との混合割合は、質量比で多価金属化合物/樹脂が1/100〜10/1であることが好ましく、より好ましくは1/10〜5/1であり、更に好ましくは1/5〜2/1である。この範囲にあることは、加熱延伸成形性と酸素ガスバリア性を両立させる観点から好ましい。
バリア層2は、基材1の一方の面に、接着層若しくはアンカーコート層を介し、または、接着層又はアンカーコート層を介することなく、第1バリア層5及び第2バリア層6を積層することで設けられる。第1バリア層5及び第2バリア層6の配置は、第1バリア層5に含まれるポリカルボン酸系重合体のカルボキシ基と、第2バリア層6に含まれる多価金属化合物とのイオン結合を生成するために、第1バリア層5と第2バリア層6とが隣接する層構成単位である第1バリア層5/第2バリア層6を少なくとも1単位含む層構成であることが好ましい。更に、第1バリア層5と第2バリア層6とが隣接した層構成単位が、第2バリア層6/第1バリア層5/第2バリア層6の三層構成であってもよいし、逆に、第1バリア層5/第2バリア層6/第1バリア層5の三層構成であってもよく、これらの何れかを1単位以上含む層構成であることが好ましい。特に、第2バリア層6に含まれる多価金属化合物は、後述する酸変性ポリオレフィンを含む接着性樹脂層と水素結合による接着を発現するため、第2バリア層6が接着性樹脂層4とが接する層構成で積層されることが好ましい。
第1バリア層5の延伸成形を行う前の厚さは、ポリカルボン酸系重合体のカルボキシ基の合計に対する多価金属化合物の合計中の多価金属の化学当量が0.2以上である条件下であれば特に限定されないが、良好な酸素ガスバリア性を確保するためには、第1バリア層5の厚さは、0.05μm以上100μm以下であり、より好ましくは0.1μm以上10μm以下であり、更に好ましくは0.2μm以上5μm以下である。第1バリア層5が0.05μm以上であることにより、第2バリア層6と積層した際に延伸性を発現することができる。また、第1バリア層5が100μm以下であることにより、高い生産性を維持することが可能となる。また、第2バリア層6の延伸成形を行う前の厚さは、良好な酸素ガスバリア性と延伸成形性を確保するためには、0.05μm以上100μm以下であり、より好ましくは0.1μm以上10μm以下であり、更に好ましくは0.2μm以上5μm以下である。
[ポリオレフィン層3]
ポリオレフィン層3は、バリア層2の表面に設けられる層である。ポリオレフィン層3は、耐摩耗性、光沢性、ヒートシール性、強度、及び、防湿性等を多層シート10に付与する。ポリオレフィン層3に用いられる樹脂としては、基材1に用いられる熱可塑性樹脂のうち、ポリオレフィン樹脂を用いることができ、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチルペンテン、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン系重合体やそれらの共重合体、およびそれらの酸変性物を用いることができ、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを用いることが好ましい。
ポリオレフィン層3の延伸成形を行う前の厚さは、延伸成形される成形容器の厚さにより適宜決められるが、例えば1μm以上1000μm以下であることが好ましく、5μm以上500μm以下であることがより好ましく、5μm以上300μm以下であること更に好ましい。なお、ポリオレフィン層3の厚さは、製品の仕様に応じて、1mm以上としてもよい。ポリオレフィン層3は、後述する接着性樹脂層4によりバリア層2の表面に貼り付けられる。
[接着性樹脂層4]
接着性樹脂層4は、熱可塑性バリアフィルム7を、ドライラミネート用の接着剤を用いることなくポリオレフィン層3に貼り合せるための接着性樹脂層である。接着性樹脂層4は、例えば酸変性されたポリエチレンやポリプロピレンなどの酸変性ポリオレフィン樹脂をベース樹脂とし、α‐オレフィン共重合体等の樹脂改質剤を混合することにより形成されている。このような樹脂改質剤を混合することにより、接着性樹脂層4は、レトルト処理等が行われても耐えうる融点を維持しつつ、柔軟性を付与することができる。
接着性樹脂層4としては、少なくとも1つの重合可能なエチレン性不飽和カルボン酸またはその誘導体を、変性前のポリオレフィン樹脂にグラフト変性あるいは共重合化したグラフト変性ポリオレフィンであることが好ましい。この場合、ポリオレフィンに付与される官能基が熱可塑性バリアフィルム7の表層に含まれる金属化合物との水素結合により接着させることが可能となる。変性前のポリオレフィン樹脂にグラフト変性あるいは共重合化するエチレン性不飽和カルボン酸又はその誘導体としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、無水マレイン酸がある。より好ましくは無水マレイン酸を用いることができるが、これらは単独で、あるいは2種類以上を併用することができる。
接着性樹脂層4の延伸成形を行う前の厚さは、接着層としての機能を満たすのであれば、特に限定されないが、例えば1μm以上50μm以下である。接着性樹脂層4の厚みが1μm以上であることにより、熱可塑性バリアフィルム7をポリオレフィン層3に十分に接着することができ、両者の剥離を抑制することができる。また、接着性樹脂層4の厚みが50μm以下であることにより、接着性樹脂層4を不要に厚くしないようにすることができる。
また、接着性樹脂層4を構成する樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)は、3g/10分以上、10g/10分以下であることが好ましい。3g/10分以上であることにより、容器として多層シートを成形する際、応力等により接着性樹脂層4そのものや熱可塑性バリアフィルム7の表層が破壊されたり、その結果として接着性樹脂層4と熱可塑性バリアフィルム7との間の接着強度が弱まったりすることを抑制できる。一方、10g/10分以下であることにより、接着性樹脂層4が成形の際の応力によって変形することを抑制すると共に、特にレトルト等の熱水処理による接着性樹脂層4の流動による熱可塑性バリアフィルム7の皺や剥がれを抑制できる。この点に関し、レトルト処理での耐熱性を考慮した場合、接着性樹脂層4を構成する樹脂組成物のベースはポリプロピレンが好ましいが、一般的なポリプロピレンの柔軟性では、上述した表層破壊による剥離の可能性がある。一方、ポリエチレンはポリプロピレンよりも柔軟性が高いが、融点が120℃程度と低いため、レトルト処理の条件が制限される。そこで、上述したように、接着性樹脂組成物としては、例えば、ポリプロピレンにα−オレフィン共重合体等の樹脂改質剤を混合したものを用いることが好ましい。これにより、レトルト処理に耐えうる融点を維持しつつ、柔軟性を付与することができる。なお、これらの機能を満たすのであれば、接着性樹脂層4を構成する樹脂組成物は、他の材料からなっていてもよい。また、これらのMFRは、JIS K 7210−1999に基づき230℃における樹脂組成物の流動性を測定したものとする。
次に、図2を参照しながら、多層押出機20を用いて、多層シート10を製造する方法について説明する。図2は、図1に示す多層シートを製造するためのプロセスを模式的に示す図である。
まず、PETフィルムなどの基材1上に第1バリア層5を構成するため、ポリカルボン酸系重合体と可塑剤とを含んだ塗工液を調製する。例えば、この調製工程では、ポリカルボン酸系重合体としてポリアクリル酸(以下「PAA」と記す)を用いた場合には、PAAを蒸留水で希釈し、PAAの5質量%水溶液を調製する。得られたPAA水溶液、例えば90質量部に対して、可塑剤としてグリセリン5質量%水溶液を10質量部混合して撹拌し、第1バリア層5を形成するための塗工液(PAA/グリセリン混合物水溶液)を調製する。次いで、図2(a)に示すように、得られたPAA/グリセリンの混合物水溶液を公知の塗工方法により、基材1の片面に塗工し、乾燥させることで、第1バリア層5を形成する。乾燥温度は室温から90℃の間であり、乾燥時間は10秒から60分の間が好ましい。
次に、第2バリア層6を構成する多価金属化合物と樹脂とを含んだ塗工液を調製する。例えば、この調製工程では、多価金属化合物としての酸化亜鉛微粒子と、樹脂としてのポリエステル系樹脂との混合分散液(混合溶媒:トルエン/MEK)100質量部に対し、硬化剤0〜15質量部を混合した多価金属化合物を含む混合液を調製する。この混合液を、公知のコーティング法により、第1バリア層5の表面に塗工し、乾燥させることで第2バリア層6を形成する。乾燥温度及び乾燥時間は、第1バリア層5を形成する際の乾燥温度及び乾燥時間と同様の条件を採用することができる。
なお、公知の塗工方法としては、例えば、グラビアロールコータ、リバースロールコータ、ディップコータ、またはダイコータ、メイヤーバ、刷毛などで塗工する方法、懸濁液、または溶液をスプレーなどで噴霧する方法、または浸漬法を含む方法が挙げられる。以上により、熱可塑性バリアフィルム7が準備される。
次に、図2(b)に示すように、ポリオレフィン層3を形成するポリオレフィン樹脂組成物、例えばポリプロピレン樹脂と、接着性樹脂層4を形成する樹脂組成物、例えば酸変性ポリエチレン樹脂とを、多層押出機(エクストルーダ)20に投入し、押出時の樹脂温度が200℃〜300℃となるように所定の温度で溶融させる。なお、接着性樹脂の接着力を十分に引き出すには、押出時の樹脂温度が280℃〜300℃となるように所定の温度で溶融させることが好ましい。そして、予め準備されている熱可塑性バリアフィルム7を多層押出機20の下方にロール21を介して供給すると共に、ポリプロピレン樹脂23と酸変性ポリエチレン樹脂24とを多層押出機20のTダイ等から共押出しし、接着性樹脂である酸変性ポリエチレン樹脂24を、ポリオレフィン層3を構成するポリプロピレン樹脂23と、供給される熱可塑性バリアフィルム7との間に位置させて、この接着性樹脂24により、ポリオレフィン層3を構成するポリプロピレン樹脂23と熱可塑性バリアフィルム7とを互いに貼り付ける。その後、ローラ22を介して、これらフィルムが積層され、多層シート10が完成する。
なお、接着性樹脂は、ポリオレフィン層3を構成するポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂よりも高価であることから、多層シート10の厚みを調整するには、ポリオレフィン樹脂で厚みを調整することが好ましい。例えば、上記では2種2層の多層押出機を用いた例を示したが、3種3層の多層押出機を用いて、そのうちの1系統からは接着性樹脂組成物を、残りの2系統からはポリオレフィン樹脂組成物を押出して、ポリオレフィン層3をより厚くすることも可能である。
ここで、図2及び図3を参照して、従来のドライラミネートを用いて多層シートを製造する方法と、本実施形態に係る多層シートを製造する方法とを比較して説明する。図3は、従来の多層シートを製造するためのプロセスを模式的に示す図である。図3に示すように、従来の多層シートの製造方法では、図2(a)と同様の図3(a)にて示すプロセスにて熱可塑性バリアフィルム7を製造すると共に、ポリオレフィン層3に相当する例えばポリプロピレンシート(PPシート)33を製造する。そして、その後に、熱可塑性バリアフィルム7を接着剤等を用いてPPシート33にドライラミネートにより貼り合せている。これに対し、本実施形態に係る製造方法では、図2(b)に示すように、ポリオレフィン層3を構成する樹脂23と接着性樹脂24とを共押出しして、ポリオレフィン層3を形成する際に、あわせて熱可塑性樹脂フィルム7への貼り合せを行っている。このため、従来に比べて、ドライラミネート加工の分だけ加工速度を早めることが可能となる。例えば、熱可塑性バリアフィルムと厚み0.6mmのPPシートとをドライラミネートする場合、そのラインスピードを30m/分とすると、仮に月当たり10万mを生産する場合、ドライラミネートの処理時間だけで60時間弱かかってしまう。本実施形態にかかる方法であれば、この時間を不要とすることができるため、多層シート10の生産性を飛躍的に高めることが可能となる。また、製品の仕様として、ポリオレフィン層3を1mm以上の厚みにする必要がある場合もあるが、ドライラミネートでは1mm以上のシートを搬送して加工することは困難であり、そのような加工ができる装置も限られてしまう。しかしながら、本実施形態に係る共押出しの方法によれば、シート製膜機によりポリオレフィン層3を1mm以上に容易にすることが可能であるため、対応可能な製品群を広くすることが可能となる。
なお、このようにして作製された多層シート10を延伸成形して成形容器を作製してももちろんよく、そのようにして作製された成形容器40の例を図4に示す。図4は、図1に示す多層シートを用いて製造される成形容器の一例を示す断面図である。図4に示す成形容器40は、レトルト食品等を保存するために用いられ、本体部41と蓋42とを備えている。成形容器40は、上述した多層シート10から構成されているため、仮に加圧加熱等のレトルト処理が加えられたとしても、高いガスバリア性を維持することができる。
また、多層シート10を用いた容器の他の例を図5(a)及び(b)に示す。図5(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係るスクイーズ容器の例を示す断面図である。このスクイーズ容器は、ポリオレフィン層3と熱可塑性バリアフィルム7とから構成される多層シート10を用いて、真空成形法等の溶融成形法により、所望の容器形状に成形されることができる。
図5(a)は、成形された多層シート10同士を対面させて貼り合わせた場合のスクイーズ容器を示している。一方、図5(b)は、成形された多層シート10にプラスチックフィルム等を積層して作製した蓋材41をシールした場合のスクイーズ容器を示している。図5(a)では、容器全面でシート成形容器としての剛性を持ち、内容物を保護することができる。図5(b)では、スクイーズ容器としてのみならず、利用時に蓋材41を剥がすことによって容器をトレイのようにして使用することができる。そして、本発明の一実施形態に係るこれらのスクイーズ容器は、ポリオレフィン樹脂層と熱可塑性バリアフィルムとを接着性樹脂層によって貼り合わせることにより、容器に適度な剛性を持たせることが可能になり、且つ熱可塑性バリアフィルムによってバリア性を有するものとなる。
また、ポリオレフィン層3と接着性樹脂層4とを合わせた樹脂層の延伸成形を行う前の厚さは、延伸成形される成形容器の厚さにより適宜決められるが、スクイーズ性を持たせた容器においては100μm以上1000μm以下が好ましく、200μm以上600μm以下であると更に好ましい。600μm以下とすることで、スクイーズ性が向上する。熱可塑性バリアフィルムの厚みを加えた多層シートの総厚についても650μm以下であることが好ましい。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形を適用できる。例えば、上記実施形態では、Tダイを用いた製造方法について説明したが、これに限定される訳ではなく、インフレーションダイ等を用いて多層シートを製造してもよい。また、押出機として多層押出機を用いた例を示したが、単層の押出機に2回通す、具体的には、まず接着性樹脂組成物を押出しし、次に、ポリオレフィン層3を構成するポリオレフィン樹脂組成物を押出しして、多層シートを製造することも可能である。
また、多層シートの構成としては、図1に示す層構成の他、例えば図6(a)に示すように、多層シートの両面にポリオレフィン層3及び接着性樹脂層4を設けた多層シート10aであってもよい。この多層シート10aでは、更に第1バリア層5と第2バリア層6の積層順を入れ替えたバリア層2aを有する熱可塑性バリアフィルム7aを含む層構成を採用しているが、このような層構成を有する多層シートであってもよい。また、図6(b)に示すように、基材1と第1バリア層5及び第2バリア層6からなるバリア層2とを入れ替えた層構成を有する多層シート10bであってもよい。
以下、本発明に係る多層シートを実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
熱可塑性バリアフィルムのベース基材1として易成形テフレックス(帝人デュポンフィルム株式会社製、商品名、登録商標)25μmを選択し、次に示す方法によりバリア層を形成した。まず、第1バリア層5を構成するため、ポリカルボン酸系重合体としてPAAを蒸留水で希釈し、PAAの5質量%水溶液を調製した。得られたPAA水溶液90質量部に対して、可塑剤としてグリセリン5質量%水溶液を10質量部混合して撹拌し、第1バリア層5を形成するための塗工液(PAA/グリセリン混合物水溶液)を調製した。次いで、図2(a)に示すように、得られたPAA/グリセリンの混合物水溶液をグラビアロールコータにより、基材1の片面に塗工し、乾燥させることで、第1バリア層5を形成した。次に、第2バリア層6を構成するため多価金属化合物としての酸化亜鉛微粒子と、樹脂としてのポリエステルポリオール樹脂との混合分散液(混合溶媒:トルエン/MEK)100質量部に対し、イソシアネート系硬化剤15質量部を混合した多価金属化合物を含む混合液を調製した。この混合液をグラビアロールコータにより第1バリア層5の表面に塗工し、乾燥させることで第2バリア層6を形成した。
次に、多層シートのポリオレフィン層を構成するPP樹脂としてホモPP「E111G(株式会社プライムポリマー製、商品名),MFR0.5g/10分」を準備すると共に、接着性樹脂として変性PP「アドマーQF551(三井化学株式会社、「アドマー」は登録商標)、MFR5.7g/10分」を準備した。次に、このホモPP「E111G」及び変性PP「アドマーQF551」を、エクストルーダー(住友重機械モダン株式会社製)に投入し、押出時の溶融温度が240℃となるように溶融した。
次に、既に準備した熱可塑性バリアフィルムをエクストルーダーの下方へと給紙すると共に、ホモPP「E111G」及び変性PP「アドマーQF551」をエクストルーダーで共押出しし、接着性樹脂である変性PP「アドマーQF551」が熱可塑性バリアフィルムとホモPPとの間に位置するようにして、給紙された熱可塑性バリアフィルムを熱ラミネートした。その際、ホモPP樹脂の膜厚が600μm、接着性樹脂の膜厚が25μmとなるようにエクストルーダーのスクリューの回転数を調整した。以上の方法により、図1に示す多層シート10を得た。
[実施例2]
接着性樹脂として、変性PP「アドマーQB550(三井化学株式会社、「アドマー」は登録商標)、MFR2.8g/10分」を用いた以外は実施例1と同様にして図1に示す多層シート10を得た。
[実施例3]
接着性樹脂として、変性PP「アドマーQF551(三井化学株式会社、「アドマー」は登録商標)」に対して「タフマーXM−7070(三井化学株式会社、「タフマー」は登録商標)MFR7.0g/10分」を重量比10%混合した材料を用い、その他の条件は実施例1と同様にして図1に示す多層シート10を得た。なお、この混合した接着性樹脂組成物の平均的なMFRは3.2g/10分であった。
[比較例1]
比較例として、ドライラミネートによる多層シートを作製した。具体的には、まず実施例1と同様の方法で熱可塑性バリアフィルムを作製した。次に、熱可塑性バリアフィルムと厚さ600μmの汎用PPシート(オージェイケイ株式会社製)とをドライラミネータ(富士機械工業株式会社製)で接着剤を用いて貼り合せた。接着剤は、「タケラック A626(三井化学株式会社製)」と「タケネート A−50(三井化学株式会社製)」を重量比8:1で混合し、乾燥後の塗布量が5g/mとなるように塗工した。以上により、比較例1の多層シートを得た。
[比較例2]
比較例2として、PP樹脂/アドマー/EVOH樹脂/アドマー/PP樹脂の順に層構成がされた多層シートを作製した。具体的には、まず、PP樹脂としてホモPP「E111G(株式会社プライムポリマー製、商品名)」、接着性樹脂として変性PP「アドマー QF551(三井化学株式会社製)」、EVOH樹脂としてエバール「F171B(株式会社クラレ製)」を準備した。そして、PP樹脂の膜厚が250μm、接着性樹脂の膜厚が20μm、EVOH樹脂の膜厚が60μmとなるように、これらの樹脂を共押出しした。以上により、比較例2の多層シートを得た。
以上により得られた実施例1〜3の多層シートと、比較例1,2の多層シートを深絞り型高速自動真空包装機を用いて加熱軟化させ、真空成形して、縦120mm×横120mm×高さ35mmの容器を得た。このようにして形成した容器を用いて、以下の試験を行った。
[試験1]
真空形成後、及びレトルト処理後の外観を各実施例及び各比較例ごとに5個の容器で確認した。レトルト処理は、容器単体で投入し、121℃×30分と、131℃×30分の2条件を実施した。目視で確認できる皺やラミネート部の浮きが発生した場合を「不可」、それ以外を「良」とした。
[試験2]
レトルト処理前、及びレトルト処理から1日後の容器の酸素バリア性能を測定した。レトルト処理は、容器単体で投入し、121℃×30分の1条件とした。
[試験3]
次の手順により味覚官能試験を実施した。まず、容器内部を超純水で満たし、アルミ箔とシーラントフィルムからなる蓋材を容器に熱融着して密封し、121℃×30分のレトルト処理に投入した。次に5人の被験者に容器の種類を伝えずに容器から取り出し水を与え、比較例2の容器に充填した水と比較する形で評価を依頼した。比較例2と同等以上の場合を「良」とし、比較例2よりも味覚/臭気で劣る場合を「不可」とした。
試験1〜試験3の結果を以下の表1に示す。
Figure 0006954281
比較例1では、ラミネートに使用した接着剤の影響により官能試験で他より劣る結果となった。また、比較例2では、レトルトショックによりレトルト処理後の酸素バリアが大きく低下する結果となった。これに対し、本発明による実施例1〜3では、官能試験およびレトルト処理後の酸素バリアの両方が良好な結果となった。特に、接着性樹脂のMFRを調整することによって初期およびレトルト処理後の外観が良好となった。
以上により、本発明にかかる多層シートを用いれば、レトルト等の熱水処理に対する耐湿熱性及び容器からの臭気移行の抑制が求められる食品等の容器として最適な容器を提供することが可能であることが確認された。
[実施例4]
次に、実施例1において、給紙された熱可塑性バリアフィルムを押出ラミネートする際に、接着性樹脂の膜厚が25μmとなるようにエクストルーダーのスクリューの回転数を調整した。また、ホモPPの膜厚は同じくスクリューの回転数を調整し、熱可塑性バリアフィルム、接着性樹脂、ポリプロピレン樹脂を合わせた総厚が、175μm、375μm、575μm、757μmとなる4水準を作製した。
[比較例3]
比較例3として、PP樹脂/接着性樹脂/EVOH樹脂/接着性樹脂/PP樹脂の順に層構成がされた多層シートを作製した。具体的には、まず、PP樹脂としてホモPP「E111G(株式会社プライムポリマー製、商品名)」、接着性樹脂として変性PP「アドマーQF551(三井化学株式会社製)」、EVOH樹脂としてエバール「F171B(株式会社クラレ性)」を準備した。そして、総膜厚200μm、400μm、600μm、800μmの4水準に対し、接着性樹脂の厚みは10μmで固定し、またEVOHの割合が8%になるように各層の厚みを設計した。これらの樹脂を3種5層の共押出が可能なエクストルーダーを用いて押出し、EVOHを用いた多層シートを得た。
以上により得られた実施例4および比較例3の多層シートを用い、真空成形法によって図7に示す側面が台形型の容器を得た。開口部は長辺51の長さを50mm、短辺52の長さを30mm、底面は長辺53の長さを50mm、短辺54の長さを20mm、容器の深さ55の長さを30mmとした。このようにして成形した容器を用いて、以下の試験を行った。
[試験4]
内容物を充填しない状態の容器を121℃×30分のレトルト処理に投入した。次にレトルト処理から1日後の容器の酸素透過度を容器モコン法により30℃70%の環境下で測定した。
[試験5]
内容物としてケチャップソースを満中の9割まで充填し、PET12μm、アルミ箔9μm、CPP70μmをこの順番で貼り合わせた蓋材を用いて、ヒートシールにより容器の開口部を塞ぐように接着した。次に、容器の短辺52、短辺54で囲まれた台形型の面の中央に直径5mmの穴を開けて擬似的な搾り出し口を設けた。5人の被験者に実際の使用を想定して絞り出しを実施させ、5人全員が無理なく内容物を9割以上絞り出すことができた場合を合格、容器が固く1割以上の内容物の残留が発生した場合を不合格としてスクイーズ性を評価した。
試験4、試験5の結果を表2に示す。
Figure 0006954281

なお、表2における「樹脂厚み」は、実施例4では、ポリプロピレン樹脂と接着性樹脂とを合わせた厚みであり、比較例3では、ポリプロピレン樹脂と接着性樹脂とEVOH樹脂とを合わせた厚みである。
実施例4では酸素透過度の値が樹脂厚みの影響を受けずに一定となり、樹脂厚み600μm以下ではスクイーズ性とバリア性を両立することができた。一方、比較例3では樹脂厚みにより酸素バリアが変化し、スクイーズ性が確保できる厚み600μm以下では厚み800μmと比較してバリア性が大きく劣る結果となった。
以上により、本発明の一形態にかかる多層シートを用いれば、バリア性が容器の厚みに依存せず、スクイーズ性と高いバリア性を両立したスクイーズ容器とすることが可能であることが確認された。
本発明は、ボイルやレトルト用途等に用いられる多層シートや成形容器、特にスクイーズ容器及び、それらの製造方法に適用することが可能である。
1…基材、2…バリア層、3…ポリオレフィン層、4…接着性樹脂層、5…第1バリア層、6…第2バリア層、7…熱可塑性バリアフィルム、10,10a,10b…多層シート、20…多層押出機、40…成形容器。

Claims (10)

  1. 熱可塑性樹脂を含む基材と、ポリカルボン酸系重合体及び可塑剤を含む第1バリア層と、多価金属化合物及び樹脂を含む第2バリア層とが積層された熱可塑性バリアフィルムを有する多層シートの製造方法であって、
    前記熱可塑性バリアフィルムを準備する工程と、
    ポリオレフィン樹脂組成物と接着性樹脂組成物とを準備する工程と、
    前記熱可塑性バリアフィルムを供給すると共に、前記ポリオレフィン樹脂組成物によって形成される層と前記供給された熱可塑性バリアフィルムとの間に前記接着性樹脂組成物が位置するように前記ポリオレフィン樹脂組成物及び前記接着性樹脂組成物を押出機から押出しする工程と、
    を備え
    前記接着性樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)が3g/10分以上である、
    多層シートの製造方法。
  2. 前記接着性樹脂組成物が酸変性ポリオレフィンを含む、
    請求項1に記載の多層シートの製造方法。
  3. 前記接着性樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)が10g/10分以下である、
    請求項1又は2に記載の多層シートの製造方法。
  4. 前記接着性樹脂組成物は、酸変性ポリプロピレン樹脂又は酸変性ポリエチレン樹脂と、α−オレフィン共重合体からなる樹脂改質剤とを含む、
    請求項1〜3の何れか一項に記載の多層シートの製造方法。
  5. 前記押出しする工程では、前記接着性樹脂組成物の厚みが1μm以上50μm以下となるように前記接着性樹脂組成物を押出しする、
    請求項1〜4の何れか一項に記載の多層シートの製造方法。
  6. 前記押出機は多層押出機であり、
    前記押出しする工程では、前記ポリオレフィン樹脂組成物によって形成される層の前記熱可塑性バリアフィルム側の面に前記接着性樹脂組成物が重なるように、前記ポリオレフィン樹脂組成物及び前記接着性樹脂組成物を前記多層押出機から共押出しする、
    請求項1〜5の何れか一項に記載の多層シートの製造方法。
  7. 前記押出しする工程では、前記ポリオレフィン樹脂組成物による層が1mm以上の厚みを有するように前記ポリオレフィン樹脂組成物を押出しする、
    請求項1〜6の何れか一項に記載の多層シートの製造方法。
  8. 請求項1〜7の何れか一項に記載の多層シートの製造方法により多層シートを製造する工程と、
    前記多層シートを延伸成形して成形容器を作製する工程と、
    を備える成形容器の製造方法。
  9. ポリオレフィン樹脂層と、前記ポリオレフィン樹脂層の一方の面に接着性樹脂層により貼り付けられる熱可塑性バリアフィルムと、を含む多層シートであって、
    前記熱可塑性バリアフィルムは、熱可塑性樹脂を含む基材と、ポリカルボン酸系重合体及び可塑剤を含む第1バリア層と、多価金属化合物及び樹脂を含む第2バリア層とが積層されたフィルムであり、
    前記熱可塑性バリアフィルムが前記接着性樹脂層により前記ポリオレフィン樹脂層の前記一方の面に貼り付けられており、当該接着性樹脂層が酸変性ポリオレフィンを含み、
    前記接着性樹脂層を構成する樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)が3g/10分以上である、多層シート。
  10. 前記ポリオレフィン樹脂層と前記接着性樹脂とを合わせた膜厚が200μm〜600μmである請求項9に記載の多層シートを成形してなる、スクイーズ容器。
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