以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、特に言及がない限りこの用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る車両用灯具システムの概略構成を示す図である。図1では、車両用灯具システム1の構成要素の一部を機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックは、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現される。これらの機能ブロックがハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
車両用灯具システム1は、車両前方の左右に配置される一対の前照灯ユニットを有する車両用前照灯装置に適用される。一対の前照灯ユニットは左右対称の構造を有する点以外は実質的に同一の構成であるため、図1には車両用灯具2として一方の前照灯ユニットの構造を示す。
車両用灯具システム1が備える車両用灯具2は、車両前方側に開口部を有するランプボディ4と、ランプボディ4の開口部を覆うように取り付けられた透光カバー6とを備える。透光カバー6は、透光性を有する樹脂やガラス等で形成される。ランプボディ4と透光カバー6とにより形成される灯室8内には、光源部10と、撮像部12と、制御装置50とが収容される。
光源部10は、自車前方に並ぶ複数の個別領域(図3参照)のそれぞれに照射する光の照度(強度)を独立に調節可能な装置である。光源部10は、光源22と、反射光学部材24と、光偏向装置26と、投影光学部材28とを有する。各部は、図示しない支持機構によりランプボディ4に取り付けられる。
光源22は、LED(Light emitting diode)、LD(Laser diode)、EL(Electroluminescence)素子等の半導体発光素子や、電球、白熱灯(ハロゲンランプ)、放電灯(ディスチャージランプ)等を用いることができる。
反射光学部材24は、光源22から出射した光を光偏向装置26の反射面に導くように構成される。反射光学部材24は、内面が所定の反射面となっている反射鏡で構成される。なお、反射光学部材24は、中実導光体などであってもよい。また、光源22から出射した光を光偏向装置26に直接導くことができる場合は、反射光学部材24を設けなくてもよい。
光偏向装置26は、投影光学部材28の光軸上に配置され、光源22から出射された光を選択的に投影光学部材28へ反射するように構成される。光偏向装置26は、例えばDMD(Digital Mirror Device)で構成される。すなわち、光偏向装置26は、複数の微小ミラーをアレイ(マトリックス)状に配列したものである。これらの複数の微小ミラーの反射面の角度をそれぞれ制御することで、光源22から出射された光の反射方向を選択的に変えることができる。つまり、光偏向装置26は、光源22から出射された光の一部を投影光学部材28へ向けて反射し、それ以外の光を、投影光学部材28によって有効に利用されない方向へ向けて反射することができる。ここで、有効に利用されない方向とは、例えば、投影光学部材28には入射するが配光パターンの形成にほとんど寄与しない方向や、図示しない光吸収部材(遮光部材)に向かう方向と捉えることができる。
図2(A)は、光偏向装置26の概略構成を示す正面図である。図2(B)は、図2(A)に示す光偏向装置のA−A断面図である。光偏向装置26は、複数の微小なミラー素子30がマトリックス状に配列されたマイクロミラーアレイ32と、ミラー素子30の反射面30aの前方側(図2(B)に示す光偏向装置26の右側)に配置された透明なカバー部材34とを有する。カバー部材34は、例えば、ガラスやプラスチック等で構成される。
ミラー素子30は略正方形であり、水平方向に延びミラー素子30をほぼ等分する回動軸30bを有する。マイクロミラーアレイ32の各ミラー素子30は、光源22から出射された光を所望の配光パターンの一部として利用されるように投影光学部材28へ向けて反射する第1反射位置(図2(B)において実線で示す位置)と、光源22から出射された光が有効に利用されないように反射する第2反射位置(図2(B)において点線で示す位置)とを切り替え可能に構成されている。各ミラー素子30は、回動軸30b周りに回動して、第1反射位置と第2反射位置との間で個別に切り替えられる。各ミラー素子30は、オン時に第1反射位置をとり、オフ時に第2反射位置をとる。
図3は、自車前方の様子を模式的に示す図である。上述のように光源部10は、灯具前方に向けて互いに独立に光を照射可能な個別照射部としてのミラー素子30を複数有する。光源部10は、ミラー素子30によって自車前方に並ぶ複数の個別領域Rに光を照射することができる。各個別領域Rは、撮像部12、より具体的には例えば高速カメラ36の1ピクセル又は複数ピクセルの集合に対応する領域である。本実施の形態では各個別領域Rと各ミラー素子30とが対応付けられている。
図2(A)及び図3では、説明の便宜上、ミラー素子30及び個別領域Rを横10×縦8の配列としているが、ミラー素子30及び個別領域Rの数は特に限定されない。例えば、マイクロミラーアレイ32の解像度(言い換えればミラー素子30及び個別領域Rの数)は1000〜30万ピクセルである。また、光源部10が1つの配光パターンの形成に要する時間は、例えば0.1〜5msである。すなわち、光源部10は、0.1〜5ms毎に配光パターンを変更することができる。
図1に示すように、投影光学部材28は、例えば、前方側表面及び後方側表面が自由曲面形状を有する自由曲面レンズからなる。投影光学部材28は、その後方焦点を含む後方焦点面上に形成される光源像を、反転像として灯具前方に投影する。投影光学部材28は、その後方焦点が車両用灯具2の光軸上、且つマイクロミラーアレイ32の反射面の近傍に位置するように配置される。なお、投影光学部材28は、リフレクタであってもよい。
光源22から出射された光は、反射光学部材24で反射されて、光偏向装置26のマイクロミラーアレイ32に照射される。光偏向装置26は、第1反射位置にある所定のミラー素子30によって投影光学部材28へ向けて光を反射する。この反射された光は、投影光学部材28を通過して灯具前方に進行し、各ミラー素子30に対応する各個別領域Rに照射される。これにより、所定形状の配光パターンが灯具前方に形成される。
撮像部12は、自車前方を撮像する装置である。撮像部12は、高速カメラ36と低速カメラ38とを含む。高速カメラ36は、比較的フレームレートが高く、例えば200fps〜10000fps(1フレームあたり0.1〜5ms)である。一方、低速カメラ38は、比較的フレームレートが低く、例えば30fps〜120fpsである(1フレームあたり約8〜33ms)。また、高速カメラ36は、比較的解像度が小さく、例えば30万ピクセル〜500万ピクセル未満である。一方、低速カメラ38は、比較的解像度が大きく、例えば500万ピクセル以上である。高速カメラ36及び低速カメラ38は、全ての個別領域Rを撮像する。なお、高速カメラ36及び低速カメラ38の解像度は、上記数値に限定されず、技術的に整合する範囲で任意の値に設定することができる。
制御装置50は、輝度解析部14と、物標解析部16と、灯具制御部18と、光源制御部20とを有する。撮像部12が取得した画像データは、輝度解析部14及び物標解析部16に送られる。
輝度解析部14は、撮像部12から得られる情報(画像データ)に基づいて、各個別領域Rの輝度を検出する。輝度解析部14は、物標解析部16に比べて精度の低い画像解析を実行し、高速に解析結果を出力する高速低精度解析部である。本実施の形態の輝度解析部14は、高速カメラ36から得られる情報に基づいて、各個別領域Rの輝度を検出する。輝度解析部14は、例えば0.1〜5ms毎に各個別領域Rの輝度を検出する。輝度解析部14の検出結果、すなわち個別領域Rの輝度情報を示す信号は、灯具制御部18に送信される。
物標解析部16は、撮像部12から得られる情報に基づいて、自車前方に存在する物標を検出する。物標解析部16は、輝度解析部14に比べて精度の高い画像解析を実行し、低速に解析結果を出力する低速高精度解析部である。本実施の形態の物標解析部16は、低速カメラ38から得られる情報に基づいて物標を検出する。物標解析部16は、例えば50ms毎に物標を検出する。物標解析部16によって検出される物標としては、図3に示すように、対向車100や歩行者200等が例示される。また、先行車や、自車両の走行に支障を来す障害物、道路標識、道路標示、道路形状等も物標に含まれる。
物標解析部16は、アルゴリズム認識やディープラーニング等を含む、従来公知の方法を用いて物標を検出することができる。例えば、物標解析部16は、対向車100を示す特徴点を予め保持している。そして、物標解析部16は、低速カメラ38の撮像データの中に対向車100を示す特徴点を含むデータが存在する場合、対向車100の位置を認識する。前記「対向車100を示す特徴点」とは、例えば対向車100の前照灯の推定存在領域に現れる所定光度以上の光点102(図3参照)である。同様に、物標解析部16は、歩行者200やその他の物標を示す特徴点を予め保持しており、低速カメラ38の撮像データの中にこれらの特徴点を含むデータが存在する場合、当該特徴点に対応する物標の位置を認識する。物標解析部16の検出結果、すなわち自車前方の物標情報を示す信号は、灯具制御部18に送信される。
灯具制御部18は、輝度解析部14及び/又は物標解析部16の検出結果を用いて、特定物標の決定、特定物標の変位検出、特定個別領域R1の設定、特定個別領域R1に対する特定目標輝度値を含む各個別領域Rに対する目標輝度値の設定、各個別領域Rに照射する光の照度値の設定等を実行する。一例として、灯具制御部18は、トラッキング部40と、照度設定部42とを含む。トラッキング部40は、物標解析部16により検出された物標の中から特定物標を決定する。また、トラッキング部40は、輝度解析部14の検出結果に基づいて特定物標の変位を検出する。本実施の形態では、一例として、対向車100を特定物標とする。
具体的には、トラッキング部40は、輝度解析部14の検出結果と物標解析部16の検出結果とを統合する。そして、輝度解析部14で検出された各個別領域Rの輝度のうち、特定物標である対向車100の光点102が位置する個別領域Rの輝度を対向車100と関連付ける。トラッキング部40は、その後に取得する輝度解析部14の検出結果において、対向車100と関連付けた輝度の位置を認識することで、特定物標である対向車100の変位を検出することができる。トラッキング部40は、例えば50ms毎に特定物標の決定処理を実行する。また、トラッキング部40は、例えば0.1〜5ms毎に特定物標の変位検出処理(トラッキング)を実行する。
照度設定部42は、輝度解析部14の検出結果と、トラッキング部40の検出結果とに基づいて、特定物標の存在位置に応じて定まる特定個別領域R1に対する特定照度値を含む、各個別領域に照射する光の照度値を定める。例えば照度設定部42は、各個別領域Rの目標輝度値と、各個別領域Rに照射する光の目標輝度値に応じた照度値とを定める。各個別領域Rのうち、特定個別領域R1に対しては、特定目標輝度値を定める。したがって、特定照度値は、特定目標輝度値に応じて定まる照度値である。
まず、照度設定部42は、特定物標である対向車100の存在位置に基づいて特定個別領域R1を定める。例えば照度設定部42は、トラッキング部40の検出結果に含まれる対向車100の位置情報に基づいて、特定個別領域R1を定める。特定個別領域R1の設定について、例えば照度設定部42は、対向車100の前照灯に対応する2つの光点102間の水平方向距離a(図3参照)に対して、予め定められた所定比率の鉛直方向距離bを定め、横a×縦bの寸法範囲と重なる個別領域Rを特定個別領域R1(図3参照)とする。特定個別領域R1には、対向車の運転者と重なる個別領域Rが含まれる。
そして、照度設定部42は、特定個別領域R1に対する特定目標輝度値を定める。また、照度設定部42は、特定個別領域R1を除く他の個別領域Rについても目標輝度値を定める。例えば、照度設定部42は、特定個別領域R1を除く個別領域Rのうち、輝度解析部14により検出された輝度が所定の範囲に含まれる個別領域Rについて、目標輝度値を同じ値に設定する。すなわち、輝度一定制御を実行する。図4は、輝度一定制御における検出輝度値と設定照度値との関係を示す図である。図4に示すように、輝度一定制御では特定個別領域R1を除く個別領域Rについて、検出された輝度が相対的に低い個別領域Rには相対的に高い照度値が設定され、検出された輝度が相対的に高い個別領域Rには相対的に低い照度値が設定される。なお、前記「所定の範囲」は、輝度解析部14により検出可能な輝度の全範囲であってもよいし、一部の範囲であってもよい。図4では、輝度解析部14により検出可能な輝度の全範囲を、前記「所定の範囲」としている。
照度設定部42は、トラッキング部40の検出結果に基づいて、特定個別領域R1の変位を認識し、特定個別領域R1の位置情報を更新する。そして、特定個別領域R1に対する特定目標輝度値を含む、各個別領域Rの目標輝度値を更新する。トラッキング部40による処理と照度設定部42による処理とは、少なくとも一時において並行して実行される。
また、照度設定部42は、各個別領域Rの目標輝度値と輝度解析部14の検出結果とに基づいて、光源部10から各個別領域Rに照射する光の照度値を定める。照度設定部42は、各個別領域Rの照度値を示す信号を、光源制御部20に送信する。照度設定部42は、例えば0.1〜5ms毎に目標輝度値及び照度値を設定する。
なお、照度設定部42は、自車周囲の明るさ等に応じて目標輝度値を変更してもよい。すなわち、市街と郊外のそれぞれにおいて、あるいは昼間、薄暮時、夜間のそれぞれにおいて、自車前方が最適な明るさとなるように目標輝度値が定められる。また、照度設定部42は、特定個別領域R1以外の個別領域Rの目標輝度値を異ならせてもよい。
光源制御部20は、照度設定部42が定めた照度値に基づいて光源部10を制御する。光源制御部20は、光源22の点消灯と、各ミラー素子30のオン/オフ切り替えとを制御する。光源制御部20は、各個別領域Rに照射する光の照度値に基づいて、各ミラー素子30のオンの時間比率(幅や密度)を調節する。これにより、各個別領域Rに照射される光の照度を調節することができる。光源制御部20は、例えば0.1〜5ms毎に、光源22及び/又は光偏向装置26に駆動信号を送信する。
照度設定部42が定めた照度値に基づいて光源部10から光が照射され、その結果としての実際の各個別領域Rの輝度値が輝度解析部14により検出される。そして、この検出結果に基づいて、照度設定部42が再び照度値を設定する。
上述の構成により、車両用灯具システム1は、複数の部分照射領域が集まって構成される配光パターンを形成することができる。複数の部分照射領域のそれぞれは、対応するミラー素子30がオンのときに形成される。車両用灯具システム1は、各ミラー素子30のオン/オフを切り替えることにより、様々な形状の配光パターンを形成することができる。
車両用灯具システム1は、自車前方の特定物標の位置に応じて最適な配光パターンを形成するADB(Adaptive Driving Beam)制御を実行する。一例として、照度設定部42は、対向車100の存在位置に応じて定まる特定個別領域R1に対して、特定目標輝度値「0」を設定し、他の個別領域Rに対して、目標輝度値「1」を設定する。この設定を、第1輝度情報とする。また、照度設定部42は、輝度一定制御に準じて、全ての個別領域Rに対して目標輝度値「2」を設定する。この設定を、第2輝度情報とする。そして、照度設定部42は、第1輝度情報と第2輝度情報とをAND演算する。これにより、特定個別領域R1に対する特定目標輝度値が「0」、他の個別領域Rに対する目標輝度値が「2」である輝度情報が生成される。
そして、照度設定部42は、特定目標輝度値が「0」である特定個別領域R1に対して、特定照度値を「0」に設定する。すなわち、特定個別領域R1に対しては遮光する。また、特定個別領域R1を除く各個別領域Rのうち、街路灯等の自ら発光するものが存在する個別領域Rの輝度は、目標輝度値との乖離がないか目標輝度値以上である。このため、照度設定部42は、当該個別領域Rに対して照度値を「0」に設定し、遮光する。また、道路標識やデリニエータ、反射板等の光反射率の高いものが存在する個別領域Rの輝度は、他の個別領域Rに比べて目標輝度値との乖離が小さいため、比較的低い照度値が設定される。すなわち、当該個別領域Rに対しては減光する。このように各領域の照度が定められた配光パターンが自車前方に形成されることで、対向車100の運転者は光の照射を受けず、特定個別領域R1を除く個別領域Rは自車運転者あるいは撮像部12から見て同じ明るさとなる。
図5(A)及び図5(B)は、実施の形態1に係る車両用灯具システムにおいて実行されるADB制御の一例を示すフローチャートである。このフローは、例えば図示しないライトスイッチによってADB制御の実行指示がなされ、且つイグニッションがオンのときに所定のタイミングで繰り返し実行され、ADB制御の実行指示が解除される(あるいは停止指示がなされる)か、イグニッションがオフにされた場合に終了する。また、図5(A)に示すフローは、例えば50ms毎に繰り返される低速処理であり、図5(B)に示すフローは、例えば0.1〜5ms毎に繰り返される高速処理である。この低速処理と高速処理とは、並行して実行される。
図5(A)に示すように、低速処理では、まず低速カメラ38によって自車前方が撮像される(S101)。次に、物標解析部16によって、低速カメラ38の画像データに基づいて、自車前方に存在する物標が検出される(S102)。次に、検出された物標の中に特定物標が含まれているか判断される(S103)。当該判断は、例えばトラッキング部40により実行される。
特定物標が含まれている場合(S103のY)、トラッキング部40によって、特定物標が決定される(S104)。次に、照度設定部42によって、特定物標の存在位置に基づいて特定個別領域R1が設定され(S105)、本ルーチンが終了する。特定物標が含まれていない場合(S103のN)、本ルーチンが終了する。
図5(B)に示すように、高速処理では、まず高速カメラ36によって自車前方が撮像される(S201)。次に、輝度解析部14によって、高速カメラ36の画像データに基づいて、各個別領域Rの輝度が検出される(S202)。次に、特定個別領域R1が設定されているか判断される(S203)。当該判断は、例えばトラッキング部40により実行される。特定個別領域R1が設定されている場合(S203のY)、トラッキング部40によって、特定物標がトラッキングされて特定個別領域R1の位置(変位)が検出される。照度設定部42は、トラッキング部40の検出結果に基づいて、特定個別領域R1の設定(位置情報)を更新する(S204)。
次に、照度設定部42によって、各個別領域Rの目標輝度値が設定される(S205)。特定個別領域R1に対しては、特定目標輝度値が設定される。次に、照度設定部42によって、各個別領域Rの目標輝度値と輝度解析部14の検出結果とに基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値が決定される(S206)。特定個別領域R1に対しては、特定照度値が設定される。次に、光源制御部20によって光源部10が駆動され、定められた照度の光が光源部10から照射されて(S207)、本ルーチンが終了する。特定個別領域R1が設定されていない場合(S203のN)、照度設定部42によって、個別領域Rの目標輝度値が設定される(S205)。この場合、設定される目標輝度値の中には、特定目標輝度値は含まれない。その後は、ステップS206及びS207の処理が実行されて、本ルーチンが終了する。
ステップS204において、トラッキングにより特定物標の消失が検出された場合には、特定個別領域R1の設定も消失する。したがって、ステップS205で設定される目標輝度値の中には、特定目標輝度値は含まれないこととなる。また、次回のルーチンにおけるステップS203では、ステップS105の処理が実行されるまでは、特定個別領域R1が設定されていない(S203のN)と判定される。
図6(A)及び図6(B)は、実施の形態1に係る車両用灯具システムにおいて実行されるADB制御の他の一例を示すフローチャートである。このフローは、図5(A)及び図5(B)に示すフローチャートと同様のタイミングで実行される。また、図6(A)に示すフローは、例えば50ms毎に繰り返される低速処理であり、図6(B)に示すフローは、例えば0.1〜5ms毎に繰り返される高速処理である。この低速処理と高速処理とは、並行して実行される。
図6(A)に示すように、低速処理では、まず低速カメラ38によって自車前方が撮像される(S301)。次に、物標解析部16によって、低速カメラ38の画像データに基づいて、自車前方に存在する物標が検出される(S302)。次に、検出された物標の中に特定物標が含まれているか判断される(S303)。当該判断は、例えばトラッキング部40により実行される。特定物標が含まれている場合(S303のY)、トラッキング部40によって、特定物標が決定され(S304)、本ルーチンが終了する。特定物標が含まれていない場合(S303のN)、本ルーチンが終了する。
図6(B)に示すように、高速処理では、まず高速カメラ36によって自車前方が撮像される(S401)。次に、輝度解析部14によって、高速カメラ36の画像データに基づいて、各個別領域Rの輝度が検出される(S402)。次に、特定物標が決定されているか判断される(S403)。特定物標が決定されている場合(S403のY)、特定個別領域R1が設定されているか判断される(S404)。ステップS403及びS404の判断は、例えばトラッキング部40により実行される。特定個別領域R1が設定されている場合(S404のY)、トラッキング部40によって、特定物標がトラッキングされて特定個別領域R1の位置(変位)が検出される。照度設定部42は、トラッキング部40の検出結果に基づいて、特定個別領域R1の設定(位置情報)を更新する(S406)。特定個別領域R1が設定されていない場合(S404のN)、照度設定部42によって、特定物標の存在位置に基づいて特定個別領域R1が設定され(S405)、その後にステップS406の処理が実行される。
次に、照度設定部42によって、各個別領域Rの目標輝度値が設定される(S407)。特定個別領域R1に対しては、特定目標輝度値が設定される。次に、照度設定部42によって、各個別領域Rの目標輝度値と輝度解析部14の検出結果とに基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値が決定される(S408)。特定個別領域R1に対しては、特定照度値が設定される。次に、光源制御部20によって光源部10が駆動され、定められた照度の光が光源部10から照射されて(S409)、本ルーチンが終了する。特定物標が決定されていない場合(S403のN)、照度設定部42によって、個別領域Rの目標輝度値が設定される(S407)。この場合、設定される目標輝度値の中には、特定目標輝度値は含まれない。その後は、ステップS408及びS409の処理が実行されて、本ルーチンが終了する。
ステップS406において、トラッキングにより特定物標の消失が検出された場合には、特定個別領域R1の設定も消失する。したがって、ステップS407で設定される目標輝度値の中には、特定目標輝度値は含まれないこととなる。また、次回のルーチンにおけるステップS403では、ステップS304の処理が実行されるまでは、特定物標が決定されていない(S403のN)と判定される。
以上説明したように、本実施の形態に係る車両用灯具システム1は、光源部10と、撮像部12と、輝度解析部14と、物標解析部16と、トラッキング部40と、照度設定部42と、光源制御部20とを備える。光源部10は、複数の個別領域Rのそれぞれに照射する光の照度を独立に調節可能である。輝度解析部14は、各個別領域Rの輝度を検出する。物標解析部16は、自車前方に存在する物標を検出する。トラッキング部40は、物標解析部16により検出された物標の中から特定物標を決定し、輝度解析部14の検出結果に基づいて特定物標の変位を検出する。照度設定部42は、輝度解析部14の検出結果と、トラッキング部40の検出結果とに基づいて、特定物標の存在位置に応じて定まる特定個別領域R1に対する特定目標輝度値を含む、各個別領域Rの目標輝度値を定める。また、照度設定部42は、光源部10から各個別領域Rに照射する光の照度値を定める。光源制御部20は、照度設定部42が定めた照度値に基づいて光源部10を制御する。
物標解析部16は、高精度に物標を検出することができる。しかしながら、画像処理に比較的長時間を要するため、解析速度が劣る。このため、物標解析部16の解析結果のみに基づいてADB制御を実行すると、例えば特定物標が対向車100である場合、遮光領域を絞り込んで自車運転者の視認性を高めた配光パターンの形成が可能であるが、対向車100の変位に遮光領域を高精度に追従させることが困難である。
一方、簡単な輝度検出を行う輝度解析部14は、画像処理に要する時間が比較的短時間であるため、高速な解析が可能である。しかしながら、物標の検出精度が低いため、物標の存在位置を正確に把握することが困難である。このため、輝度解析部14の解析結果のみに基づいてADB制御を実行すると、配光パターンの遮光領域を広めに設定する必要があり、自車運転者の視認性が犠牲となる。
これに対し、本実施の形態の車両用灯具システム1では、低速だが高度な画像解析手段である物標解析部16と、単純だが高速な画像解析手段である輝度解析部14とを組み合わせて、対向車100の存在位置を高精度に把握し、配光パターンを決定している。このため、車両用灯具2における光の照射精度、言い換えれば配光パターンの形成精度を高めることができる。その結果、対向車100の運転者に与えるグレアの回避と、自車両の運転者の視認性確保とをより高い次元で両立することができる。
また、本実施の形態の撮像部12は、高速カメラ36と低速カメラ38とを含む。そして、輝度解析部14は、高速カメラ36から得られる情報に基づいて輝度を検出し、物標解析部16は、低速カメラ38から得られる情報に基づいて物標を検出する。このように、輝度解析部14と物標解析部16とのそれぞれにカメラを割り当てることで、それぞれの画像解析に必要とされる性能に特化したカメラを採用することができる。一般に、輝度解析部14と物標解析部16の画像解析に必要とされる性能を兼ね備えるカメラは高価である。このため、本実施の形態によれば、撮像部12の低コスト化を図ることができ、ひいては車両用灯具システム1の低コスト化を図ることができる。
また、本実施の形態の照度設定部42は、特定目標輝度値を除く目標輝度値を同じ値に設定する。このような輝度一定制御を実行することで、物標解析部16による物標の検出精度を向上させることができる。その結果、車両用灯具2における光の照射精度をより高めることができる。
なお、特定物標は歩行者200であってもよい。この場合、特定個別領域R1の特定目標輝度値は、他の個別領域Rに比べて高い値に設定される。これにより、より高い照度の光を歩行者200に照射して、自車運転者が歩行者200を視認しやすくすることができる。トラッキング部40は、輝度解析部14の検出結果である各個別領域Rの輝度データにエッジ強調等の公知の画像処理を施すことで、歩行者200の位置を検出することができる。エッジ強調は、輝度解析部14の処理に含めてもよい。
(実施の形態2)
実施の形態2に係る車両用灯具システムは、ハイコントラスト制御を実行する点を除いて、実施の形態1に係る車両用灯具システムの構成と概ね共通する。以下、実施の形態2に係る車両用灯具システムについて、実施の形態1と異なる構成を中心に説明し、共通する構成については簡単に説明するか、あるいは説明を省略する。
照度設定部42は、輝度一定制御に代えて又は加えて、ハイコントラスト制御を実行してもよい。ハイコントラスト制御とは、特定個別領域R1を除く個別領域Rのうち、輝度解析部14により検出された輝度が所定の範囲に含まれる個別領域について、検出された輝度が相対的に低い個別領域Rには相対的に低い照度値を設定し、検出された輝度が相対的に高い個別領域Rには相対的に高い照度値を設定する制御である。例えば、予め定められたしきい値よりも輝度の低い個別領域Rには、検出された輝度値よりも低い目標輝度値が設定される。この結果、当該個別領域Rには、相対的に低い照度値が設定される。一方、しきい値よりも輝度の高い個別領域Rには、検出された輝度値よりも高い目標輝度値が設定される。この結果、当該個別領域Rには、相対的に高い照度値が設定される。ハイコントラスト制御により、明るい個別領域Rはより明るくなり、暗い個別領域Rはより暗くなる。すなわち、自車前方の照射対象物は、明暗コントラストが強調される。これにより、物標解析部16による物標の検出精度を向上させることができる。
ハイコントラスト制御では、新たに設定される相対的に低い照度値は、現在設定されている照度値よりも低い照度値となり、新たに設定される相対的に高い照度値は、現在設定されている照度値よりも高い照度値となり得る。この場合、正帰還がかかって、いずれは設定照度値が0と最大値とに二極化してしまう。照度値が二極化すると、照度値0が設定される個別領域Rにおいて、運転者の視認性を確保することが困難となり得る。
これに対し、以下のように基準照度値Mと係数とを用いることで、当該二極化による運転者の視認性低下を回避することができる。図7(A)は、実施の形態2に係る車両用灯具システムが実行するハイコントラスト制御における検出輝度値と係数との関係を示す図である。図7(B)は、ハイコントラスト制御における検出輝度値と設定照度値との関係を示す図である。
照度設定部42は、図7(A)に示すように、検出輝度値の大きさに応じて予め設定された所定の係数を有する。相対的に大きい検出輝度値には相対的に大きい係数が設定され、相対的に小さい検出輝度値には相対的に小さい係数が設定される。係数の値は、物標の検出精度の向上度合い等を考慮して、実験やシミュレーションの結果に基づいて適宜設定することができる。ここでは一例として、検出輝度値のしきい値に対して係数1.0が設定され、最大輝度値に対して係数1.5が設定され、最小輝度値に対して係数0.5が設定されている。照度設定部42は、輝度解析部14の検出結果に基づいて、特定個別領域R1を除く個別領域Rに対して係数を設定する。
また、照度設定部42は、図7(B)に示すように、予め設定された所定の基準照度値Mを有する。照度設定部42は、各個別領域Rに設定した係数を基準照度値Mに乗じて、個別領域Rの照度値を設定する。これにより、検出輝度値が低い個別領域Rには低い照度値が設定され、検出輝度値が高い個別領域Rには高い照度値が設定される。光源制御部20は、照度設定部42が定めた照度値に基づいて光源部10を制御する。この結果、自車前方にある照射対象物の明暗コントラストを強調するハイコントラスト配光パターンが形成される。なお、一例として照度設定部42は、ハイコントラスト制御の最初に、特定個別領域R1を除く全ての個別領域Rの照度を基準照度値Mに設定した配光パターンを形成する。なお、前記「所定の範囲」は、輝度解析部14により検出可能な輝度の全範囲であってもよいし、一部の範囲であってもよい。図7(A)及び図7(B)では、輝度解析部14により検出可能な輝度の全範囲を、前記「所定の範囲」としている。
照度設定部42は、基準照度値Mに代えて各個別領域Rの現在設定されている照度値に係数を乗じて、新たな照度値を設定してもよい。この場合、照度設定部42は予め設定された照度値の下限値及び上限値を有する。照度設定部42は、算出した新たな照度値が当該下限値以上、又は当該上限値以下である場合、現在の照度値を新たな照度値に更新し、算出した新たな照度値が当該下限値を下回る場合、又は当該上限値を上回る場合、現在の照度値を維持する。なお、照度設定部42が少なくとも下限値を有していれば、照度値の二極化による運転者の視認性低下を回避することができる。また、一例として照度設定部42は、ハイコントラスト制御の最初に、特定個別領域R1を除く全ての個別領域Rの照度を一定にした配光パターンを形成する。
また、ハイコントラスト配光パターンを形成する光源部10に加えて、光源部10と独立に制御される他の光源部を設けることでも、上記二極化による運転者の視認性低下を回避することができる。図8は、実施の形態2に係る車両用灯具システムの変形例の概略構造を示す図である。図8に示すように、車両用灯具システム1(1B)は、光源部10、撮像部12及び制御装置50に加えて、他の光源部としての灯具ユニット60を備える。光源部10と灯具ユニット60とは、それぞれ独立に制御される。灯具ユニット60は、例えば車両に設けられた図示しないライトスイッチが運転者に操作されることで、点消灯が切り替えられ、また形成する配光パターンの種類が切り替えられる。灯具ユニット60は、従来公知のロービーム用配光パターンやハイビーム用配光パターン等を形成することができる。以下では適宜、灯具ユニット60により形成される配光パターンを、通常配光パターンと称する。
照度設定部42は、灯具ユニット60により通常配光パターンが形成されている状況下で、ハイコントラスト制御を実行する。照度設定部42は、輝度が低い個別領域Rには、現在設定されている照度値よりも低い照度値を設定し、輝度が高い個別領域Rには、現在設定されている照度値よりも高い照度値を設定する。設定する照度値の高低の程度は、物標の検出精度の向上度合い等を考慮して、実験やシミュレーションの結果に基づいて適宜設定することができる。なお、新たな照度値を設定する際に上述の係数を用いてもよい。すなわち、現在設定されている照度値に係数を乗じて、新たな照度値を設定してもよい。光源制御部20は、照度設定部42が定めた照度値に基づいて光源部10を制御する。この結果、ハイコントラスト配光パターンが通常配光パターンに重ね合わされる。
ハイコントラスト配光パターンの形成により、自車前方の明暗コントラストが強調される。また、ハイコントラスト配光パターンにおける各個別領域Rの照度が二極化したとしても、ハイコントラスト配光パターンにおいて照度の低い個別領域Rに対しては通常配光パターンを照射するように設計することで、運転者の視認性を確保することができる。
なお、一例として照度設定部42は、ハイコントラスト制御の最初に、特定個別領域R1を除く全ての個別領域Rの照度を一定にした配光パターンを形成する。または、光源部10による配光パターンの形成を行わず、灯具ユニット60により通常配光パターンのみが形成される。この場合、通常配光パターンの照射により得られる各個別領域Rの輝度を、ハイコントラスト配光パターンの形成に利用する。2回目以降のハイコントラスト配光パターンは、通常配光パターンのみが形成された状況で決定されてもよいし、通常配光パターンとハイコントラスト配光パターンとが重ね合わされた状況で決定されてもよいし、ハイコントラスト配光パターンのみが形成された状況で決定されてもよい。
(実施の形態3)
実施の形態3に係る車両用灯具システムは、制御装置50を構成するハードウェア構成に特徴を有する点を除いて、実施の形態1に係る車両用灯具システムの構成と概ね共通する。以下、実施の形態3に係る車両用灯具システムについて、本実施の形態に特徴的な構成を中心に説明し、共通する構成については簡単に説明するか、あるいは説明を省略する。
図9は、実施の形態3に係る車両用灯具システムが備える制御装置のハードウェア構成を示す模式図である。本実施の形態に係る車両用灯具システム1(1C)は、実施の形態1と同様に、光源部10と、撮像部12と、制御装置50とを備える。制御装置50は、機能ブロックとして輝度解析部14と、物標解析部16と、灯具制御部18と、光源制御部20とを有する。灯具制御部18は、機能ブロックとしてトラッキング部40および照度設定部42を有する。
また、制御装置50は、ハードウェア構成として輝度解析用回路14aと、物標解析用回路16aと、特定個別領域決定用回路41aと、輝度依存配光パターン決定用回路42aと、画像情報合成用回路42bと、光源制御用回路20aとを有する。
輝度解析用回路14aは、輝度解析部14を構成する集積回路である。物標解析用回路16aは、物標解析部16とトラッキング部40の一部とを構成する集積回路である。つまり、物標解析用回路16aにおいて、物標が検出される。また、検出された物標の中から特定物標が決定される。光源制御用回路20aは、光源制御部20を構成する集積回路である。
特定個別領域決定用回路41a(第1集積回路)は、トラッキング部40の他の一部と照度設定部42の一部とを構成する集積回路である。つまり、特定個別領域決定用回路41aにおいて、特定物標が位置する個別領域Rの輝度が特定物標と関連付けられる。そして、特定物標の変位検出処理(トラッキング)が実行される。また、特定個別領域決定用回路41aにおいて、特定物標の存在位置に応じて定まる特定個別領域R1に対する特定照度値が定められる。特定個別領域決定用回路41aで生成される特定照度値の情報を以下では適宜、第1画像情報という。
輝度依存配光パターン決定用回路42a(第2集積回路)および画像情報合成用回路42bは、照度設定部42の他の一部を構成する集積回路である。つまり、輝度依存配光パターン決定用回路42aにおいて、輝度依存配光パターンが決定される。輝度依存配光パターン決定用回路42aで生成される輝度依存配光パターンの情報を以下では適宜、第2画像情報という。輝度依存配光パターンとは、輝度解析部14により検出される輝度に依存して各個別領域の照度値が設定されることで得られる配光パターンである。輝度依存配光パターンは、例えば実施の形態1で説明した輝度一定制御に基づいて設定される配光パターンである(以下では適宜、輝度均一化配光パターンと称する)。また、輝度依存配光パターンは、例えば実施の形態2で説明したハイコントラスト配光パターンである。
また、画像情報合成用回路42bにおいて、特定個別領域決定用回路41aで生成された第1画像情報と、輝度依存配光パターン決定用回路42aで生成された第2画像情報とが合成される。これにより、特定個別領域R1に対する特定照度値を含む、全ての個別領域Rに対する照度値が決定される。
このように、本実施の形態では、特定個別領域R1に対する特定照度値の決定処理と、輝度解析部14により検出される輝度に依存した各個別領域Rの照度値の決定処理、つまり輝度依存配光パターンの決定処理とが、別々の集積回路で実行される。これにより、各処理をそれぞれに適した処理速度で実行することができる。特に、特定照度値の決定処理は、輝度依存配光パターンの決定処理に比べて高い処理速度が要求される。一方、輝度依存配光パターンの決定処理には比較的時間を要する。このため、特定照度値の決定と輝度依存配光パターンの決定とを同一の集積回路で実行する場合、特定照度値の決定処理の速度を速めることが困難である。これに対し、各処理を別々の集積回路で実行することで、特定照度値の決定の処理速度を速めることができる。このため、例えば特定物標が対向車100である場合には、対向車100の運転者に与えるグレアをより確実に回避することができる。
また、特定照度値の決定と輝度依存配光パターンの決定とを同一の集積回路で高速に実行するためには、高性能なCPUや大容量のメモリが必要となる。これに対し、各処理を別々の集積回路で実行することで、集積回路に要求される性能を下げることができる。なお、各処理の速度は、特定個別領域決定用回路41aにおける処理が最も高速であり、輝度依存配光パターン決定用回路42aにおける処理が次に高速であり、物標解析用回路16aにおける処理が最も低速である。画像情報合成用回路42bは、最も高速の処理における処理速度に合わせて、画像情報の合成処理を実行する。
各集積回路は、共通の配線基板に搭載されること、すなわち1ボード化されていることが好ましい。これらの集積回路が1ボード化され、配線基板にプリントされた回路配線を介して各集積回路が電気的に接続されることで、各集積回路が別々の基板に搭載されてワイヤで接続される場合に比べて、各集積回路間の通信速度を高速化することができる。また、車両用灯具システム1の小型化と低コスト化とを図ることができる。
(実施の形態4)
実施の形態4に係る車両用灯具システムは、特定個別領域R1を除く個別領域Rの一部のみに輝度依存配光パターンを形成する点を除いて、実施の形態1又は3に係る車両用灯具システムの構成と概ね共通する。以下、実施の形態4に係る車両用灯具システムについて、本実施の形態に特徴的な構成を中心に説明し、共通する構成については簡単に説明するか、あるいは説明を省略する。
図10は、実施の形態4に係る車両用灯具システムの概略構成を示す図である。図10では、車両用灯具システムの構成要素の一部を機能ブロックとして描いている。本実施の形態に係る車両用灯具システム1(1D)は、実施の形態1と同様に、光源部10と、撮像部12と、制御装置50とを備える。制御装置50は、機能ブロックとして輝度解析部14と、物標解析部16と、灯具制御部18と、光源制御部20とを有する。灯具制御部18は、機能ブロックとしてトラッキング部40、照度設定部42およびパターン形成制御部46を有する。
パターン形成制御部46は、輝度解析部14により検出される輝度に依存して照度値が設定される輝度依存配光パターンの形成範囲と、輝度解析部14により検出される輝度に依存せずに照度値が設定される輝度非依存配光パターンの形成範囲とを決定する。輝度依存配光パターンは、例えば実施の形態1で説明した輝度均一化配光パターンや、実施の形態2で説明したハイコントラスト配光パターンである。輝度非依存配光パターンは、例えば各個別領域Rに照射する光の照度値が同じ値である、照度一定配光パターンである。
したがって、制御装置50は、所定の位置範囲にある個別領域Rに対して輝度依存配光パターンを形成し、他の個別領域Rに対して輝度非依存配光パターンを形成する。このように、輝度依存配光パターンの形成対象となる個別領域Rを限定することで、輝度依存配光パターンの決定処理の速度を上げることができる。また、当該決定処理の際に制御装置50にかかる負荷を軽減することができる。また、自車前方を複数の領域に分けてそれぞれに異なる配光パターンを形成することができる。このため、自車前方の状況により適した配光パターンの形成が可能となる。
図11(A)及び図11(B)は、輝度依存配光パターンの形成範囲と輝度非依存配光パターンの形成範囲とを模式的に示す図である。例えば図11(A)に示すように、パターン形成制御部46は、水平線より下方の領域M1を輝度依存配光パターンの形成範囲とする。また、水平線より上方の領域M2を輝度非依存配光パターンの形成範囲とする。水平線より下方の領域M1は、視認されるべき物標が存在する可能性が高いため、輝度依存配光パターンを形成することが好ましい。一方、水平線より上方の領域M2は、視認されるべき物標が存在する可能性が低いため、輝度非依存配光パターンが形成される。
また、例えば図11(B)に示すように、パターン形成制御部46は、走行路面の外側で且つ自車上空を除く側方領域N1,N2を輝度依存配光パターンの形成範囲とする。また、自車上空の領域N3を輝度非依存配光パターンの形成範囲とする。また、走行路面の領域N4を輝度依存配光パターン又は輝度非依存配光パターンの形成範囲とする。視認されるべき物標として優先度が高いものは、歩行者200であることが多い。側方領域N1,N2は、歩行者200が存在する可能性が高いため、輝度依存配光パターンが形成される。一方、自車上空の領域N3は、歩行者200が存在する可能性が低いため、輝度非依存配光パターンが形成される。走行路面の領域N4は、自車上空の領域N3に比べれば歩行者200が存在する可能性は高いが、側方領域N1,N2に比べれば歩行者200が存在する可能性は低い。このため、走行路面の領域N4については、制御装置50にかかる負荷の軽減と、運転の安全性の向上とのどちらを優先するかで、形成する配光パターンを選択することができる。
パターン形成制御部46は、例えば物標解析部16の検出結果に基づいて、領域M1,M2,N1〜N4を決定することができる。また、輝度非依存配光パターンは、自車両の周囲環境(市街地や郊外、自動車専用道路など)に応じた複数のパターンが予め定められており、形成する輝度非依存配光パターンをパターン形成制御部46が決定する。パターン形成制御部46は、車両に搭載される図示しない車速センサから車速情報を取得することができる。自車両の周囲環境に関する情報は、車両に搭載される図示しないカーナビゲーションシステムや操舵角センサ、照度センサ、撮像部12の画像データ等からも取得することができる。
図12は、実施の形態4に係る車両用灯具システムが備える制御装置のハードウェア構成を示す模式図である。本実施の形態の制御装置50は、ハードウェア構成として輝度解析用回路14aと、物標解析用回路16aと、特定個別領域決定用回路41aと、輝度依存配光パターン決定用回路42aと、画像情報合成用回路42bと、パターン形成領域決定用回路46aと、輝度非依存配光パターン決定用回路46bと、光源制御用回路20aとを有する。輝度依存配光パターン決定用回路42a、パターン形成領域決定用回路46aおよび輝度非依存配光パターン決定用回路46b以外の回路は、実施の形態3と概ね同様の処理を実行するため、詳細な説明は適宜省略する。
輝度解析用回路14aは、輝度解析部14を構成する集積回路である。物標解析用回路16aは、物標解析部16とトラッキング部40の一部とを構成する集積回路である。光源制御用回路20aは、光源制御部20を構成する集積回路である。特定個別領域決定用回路41a(第1集積回路)は、トラッキング部40の他の一部と照度設定部42の一部とを構成する集積回路である。つまり、特定個別領域決定用回路41aにおいて、特定物標のトラッキングが実行される。また、特定個別領域R1に対する特定照度値が定められ、第1画像情報が生成される。
パターン形成領域決定用回路46aおよび輝度非依存配光パターン決定用回路46b(第3集積回路)は、パターン形成制御部46を構成する集積回路である。パターン形成領域決定用回路46aは、輝度依存配光パターンの形成範囲と、輝度非依存配光パターンの形成範囲とを決定する。輝度非依存配光パターン決定用回路46bは、形成する輝度非依存配光パターンを決定する。つまり、パターン形成領域決定用回路46aにより定められた輝度非依存配光パターンの形成範囲に位置する個別領域Rに対して、輝度解析部14により検出される輝度に依存せずに照度値を定める。輝度非依存配光パターン決定用回路46bで生成される照度値の情報を以下では適宜、第3画像情報という。
輝度依存配光パターン決定用回路42a(第2集積回路)および画像情報合成用回路42bは、照度設定部42の他の一部を構成する集積回路である。輝度依存配光パターン決定用回路42aは、パターン形成領域決定用回路46aにより定められた輝度依存配光パターンの形成範囲に位置する個別領域Rに対して、輝度解析部14により検出される輝度に依存して照度値を定め、第2画像情報を生成する。そして、画像情報合成用回路42bにおいて、特定個別領域決定用回路41aで生成された第1画像情報と、輝度依存配光パターン決定用回路42aで生成された第2画像情報と、輝度非依存配光パターン決定用回路46bで生成された第3画像情報とが合成される。これにより、特定個別領域R1に対する特定照度値を含む、全ての個別領域Rに対する照度値が決定される。
このように、本実施の形態では、特定個別領域R1に対する特定照度値の決定処理と、輝度解析部14により検出される輝度に依存した各個別領域Rの照度値の決定処理、つまり輝度依存配光パターンの決定処理とが、別々の集積回路で実行される。また、輝度依存配光パターンの形成領域が一部の領域に限定される。これにより、実施の形態3に係る車両用灯具システム1と同様に特定照度値の決定の処理速度を速めることができるとともに、輝度依存配光パターンの決定の処理速度も速めることができる。
また、本実施の形態では、輝度非依存配光パターンの決定処理が、特定照度値の決定処理および輝度依存配光パターンの決定処理とは異なる集積回路で実行される。これにより、輝度依存配光パターンの決定の処理速度をより速めることができる。
なお、各処理の速度は、特定個別領域決定用回路41aにおける処理が最も高速であり、輝度依存配光パターン決定用回路42aにおける処理が次に高速であり、物標解析用回路16aにおける処理が次に高速であり、輝度非依存配光パターン決定用回路46bにおける処理が最も低速である。画像情報合成用回路42bは、最も高速の処理における処理速度に合わせて、画像情報の合成処理を実行する。
上述した実施の形態1〜4において、輝度一定制御における検出輝度値と設定照度値との関係は、次のようであってもよい。図13(A)〜図13(C)は、輝度一定制御における検出輝度値と設定照度値との関係の他の例を示す図である。すなわち、図4に示す例では、検出輝度値に対して設定照度値を連続的且つ直線的に変化させている。しかしながら、特にこの関係に限定されず、図13(A)及び図13(B)に示すように、検出輝度値に対して設定照度値を段階的に変化させてもよい。また、図13(C)に示すように、検出輝度値に対して設定照度値を曲線的に変化させてもよい。なお、図13(C)では上に凸の曲線を図示しているが、下に凸の曲線であってもよい。
ハイコントラスト制御における検出輝度値と設定照度値との関係は、次のようであってもよい。図14(A)〜図14(C)は、ハイコントラスト制御における検出輝度値と設定照度値との関係の他の例を示す図である。すなわち、図7(B)に示す例では、検出輝度値に対して設定照度値を連続的且つ直線的に変化させている。しかしながら、特にこの関係に限定されず、図14(A)及び図14(B)に示すように、検出輝度値に対して設定照度値を段階的に変化させてもよい。また、図14(C)に示すように、検出輝度値に対して設定照度値を曲線的に変化させてもよい。なお、図14(C)では上に凸の曲線を図示しているが、下に凸の曲線であってもよい。また、検出輝度値と係数との関係は、検出輝度値と設定照度値との関係と同様であるため、図示するまでもなく明らかである。
以下の態様も本発明に含めることができる。
自車前方を撮像する撮像部12から得られる情報に基づいて、自車前方に並ぶ複数の個別領域Rそれぞれの輝度を検出する輝度解析部14と、
撮像部12から得られる情報に基づいて、自車前方に存在する物標を検出する物標解析部16と、
物標解析部16により検出された物標の中から特定物標を決定し、輝度解析部14の検出結果に基づいて特定物標の変位を検出するトラッキング部40と、
輝度解析部14の検出結果とトラッキング部40の検出結果とに基づいて、特定物標の存在位置に応じて定まる特定個別領域R1に対する特定照度値を含む、各個別領域Rに照射する光の照度値を定める照度設定部42と、
照度設定部42が定めた照度値に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度を独立に調節可能な光源部10を制御する光源制御部20と、
を備える、車両用灯具2の制御装置50。
自車前方を撮像する撮像部12から得られる情報に基づいて、自車前方に並ぶ複数の個別領域Rそれぞれの輝度を検出するステップと、
撮像部12から得られる情報に基づいて、自車前方に存在する物標を検出するステップと、
検出された物標の中から特定物標を決定し、輝度を検出するステップの検出結果に基づいて特定物標の変位を検出するステップと、
輝度を検出するステップの検出結果と変位を検出するステップの検出結果とに基づいて、特定物標の存在位置に応じて定まる特定個別領域R1に対する特定照度値を含む、各個別領域Rに照射する光の照度値を定めるステップと、
定められた照度値に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度を独立に調節可能な光源部10を制御するステップと、
を含む、車両用灯具2の制御方法。
(実施の形態5)
図15は、実施の形態5に係る車両用灯具システムの概略構成を示す図である。図15では、車両用灯具システム1の構成要素の一部を機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックは、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現される。これらの機能ブロックがハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
車両用灯具システム1は、車両前方の左右に配置される一対の前照灯ユニットを有する車両用前照灯装置に適用される。一対の前照灯ユニットは左右対称の構造を有する点以外は実質的に同一の構成であるため、図15には車両用灯具2として一方の前照灯ユニットの構造を示す。
車両用灯具システム1が備える車両用灯具2は、車両前方側に開口部を有するランプボディ4と、ランプボディ4の開口部を覆うように取り付けられた透光カバー6とを備える。透光カバー6は、透光性を有する樹脂やガラス等で形成される。ランプボディ4と透光カバー6とにより形成される灯室8内には、光源部10と、撮像部12と、高速低精度解析部114(画像解析部)と、低速高精度解析部116と、灯具制御部18と、光源制御部20とが収容される。
光源部10は、自車前方に並ぶ複数の個別領域(図3参照)のそれぞれに照射する光の照度(強度)を独立に調節可能な装置である。光源部10は、光源22と、反射光学部材24と、光偏向装置26と、投影光学部材28とを有する。各部は、図示しない支持機構によりランプボディ4に取り付けられる。
光源22は、LED(Light emitting diode)、LD(Laser diode)、EL(Electroluminescence)素子等の半導体発光素子や、電球、白熱灯(ハロゲンランプ)、放電灯(ディスチャージランプ)等を用いることができる。
反射光学部材24は、光源22から出射した光を光偏向装置26の反射面に導くように構成される。反射光学部材24は、内面が所定の反射面となっている反射鏡で構成される。なお、反射光学部材24は、中実導光体などであってもよい。また、光源22から出射した光を光偏向装置26に直接導くことができる場合は、反射光学部材24を設けなくてもよい。
光偏向装置26は、投影光学部材28の光軸上に配置され、光源22から出射された光を選択的に投影光学部材28へ反射するように構成される。光偏向装置26は、例えばDMD(Digital Mirror Device)で構成される。すなわち、光偏向装置26は、複数の微小ミラーをアレイ(マトリックス)状に配列したものである。これらの複数の微小ミラーの反射面の角度をそれぞれ制御することで、光源22から出射された光の反射方向を選択的に変えることができる。つまり、光偏向装置26は、光源22から出射された光の一部を投影光学部材28へ向けて反射し、それ以外の光を、投影光学部材28によって有効に利用されない方向へ向けて反射することができる。ここで、有効に利用されない方向とは、例えば、投影光学部材28には入射するが配光パターンの形成にほとんど寄与しない方向や、図示しない光吸収部材(遮光部材)に向かう方向と捉えることができる。
図2(A)は、光偏向装置26の概略構成を示す正面図である。図2(B)は、図2(A)に示す光偏向装置のA−A断面図である。光偏向装置26は、実施の形態1で説明した通りの構造を有する。図3は、自車前方の様子を模式的に示す図である。自車前方に並ぶ複数の個別領域Rと各ミラー素子30との対応やマイクロミラーアレイ32の解像度は実施の形態1で説明した通りである。光源部10が1つの配光パターンの形成に要する時間は、例えば0.1〜5msである。すなわち、光源部10は、0.1〜5ms毎に配光パターンを変更することができる。
図15に示すように、投影光学部材28は、例えば、前方側表面及び後方側表面が自由曲面形状を有する自由曲面レンズからなる。投影光学部材28は、その後方焦点を含む後方焦点面上に形成される光源像を、反転像として灯具前方に投影する。投影光学部材28は、その後方焦点が車両用灯具2の光軸上、且つマイクロミラーアレイ32の反射面の近傍に位置するように配置される。なお、投影光学部材28は、リフレクタであってもよい。
光源22から出射された光は、反射光学部材24で反射されて、光偏向装置26のマイクロミラーアレイ32に照射される。光偏向装置26は、第1反射位置にある所定のミラー素子30によって投影光学部材28へ向けて光を反射する。この反射された光は、投影光学部材28を通過して灯具前方に進行し、各ミラー素子30に対応する各個別領域Rに照射される。これにより、所定形状の配光パターンが灯具前方に形成される。
撮像部12は、自車前方を撮像する装置である。撮像部12は、高速カメラ36と低速カメラ38とを含む。高速カメラ36は、比較的フレームレートが高く、例えば200fps〜10000fps(1フレームあたり0.1〜5ms)である。一方、低速カメラ38は、比較的フレームレートが低く、例えば30fps〜120fpsである(1フレームあたり約8〜33ms)。また、高速カメラ36は、比較的解像度が小さく、例えば30万ピクセル〜500万ピクセル未満である。一方、低速カメラ38は、比較的解像度が大きく、例えば500万ピクセル以上である。
高速カメラ36及び低速カメラ38は、全ての個別領域Rを撮像する。撮像部12が取得した画像データは、高速低精度解析部114及び低速高精度解析部116に送られる。高速低精度解析部114は、実施の形態1〜4における輝度解析部14に対応し、低速高精度解析部116は、実施の形態1〜4における物標解析部16に対応する。
画像解析部である高速低精度解析部114は、撮像部12から得られる情報(画像データ)に基づいて、各個別領域Rの輝度を検出する。本実施の形態の高速低精度解析部114は、高速カメラ36から得られる情報に基づいて、各個別領域Rの輝度を検出する。高速低精度解析部114は、例えば0.1〜5ms毎に各個別領域Rの輝度を検出する。高速低精度解析部114の検出結果、すなわち個別領域Rの輝度情報を示す信号は、灯具制御部18に送信される。
低速高精度解析部116は、撮像部12から得られる情報に基づいて、自車前方に存在する物標を検出する。本実施の形態の低速高精度解析部116は、低速カメラ38から得られる情報に基づいて物標を検出する。低速高精度解析部116は、例えば50ms毎に物標を検出する。低速高精度解析部116によって検出される物標としては、図3に示すように、対向車100や歩行者200等が例示される。また、先行車や、自車両の走行に支障を来す障害物、道路標識、道路標示等も物標に含まれる。
低速高精度解析部116は、アルゴリズム認識やディープラーニング等を含む、従来公知の方法を用いて物標を検出することができる。例えば、低速高精度解析部116は、対向車100を示す特徴点を予め保持している。そして、低速高精度解析部116は、低速カメラ38の撮像データの中に対向車100を示す特徴点を含むデータが存在する場合、対向車100の位置を認識する。前記「対向車100を示す特徴点」とは、例えば対向車100の前照灯の推定存在領域に現れる所定光度以上の光点102(図3参照)である。同様に、低速高精度解析部116は、歩行者200やその他の物標を示す特徴点を予め保持しており、低速カメラ38の撮像データの中にこれらの特徴点を含むデータが存在する場合、当該特徴点に対応する物標の位置を認識する。低速高精度解析部116の検出結果、すなわち自車前方の物標情報を示す信号は、灯具制御部18に送信される。
灯具制御部18は、高速低精度解析部114及び/又は低速高精度解析部116の検出結果を用いて、特定物標の決定、特定物標の変位検出、特定個別領域R1の設定、特定個別領域R1に対する特定目標輝度値を含む各個別領域Rに対する目標輝度値の設定、各個別領域Rに照射する光の照度値の設定等を実行する。一例として、灯具制御部18は、トラッキング部40と、照度設定部42とを含む。トラッキング部40は、低速高精度解析部116により検出された物標の中から特定物標を決定する。また、トラッキング部40は、高速低精度解析部114の検出結果に基づいて特定物標の変位を検出する。本実施の形態では、一例として、対向車100を特定物標とする。
具体的には、トラッキング部40は、高速低精度解析部114の検出結果と低速高精度解析部116の検出結果とを統合する。そして、高速低精度解析部114で検出された各個別領域Rの輝度のうち、特定物標である対向車100の光点102が位置する個別領域Rの輝度を対向車100と関連付ける。トラッキング部40は、その後に取得する高速低精度解析部114の検出結果において、対向車100と関連付けた輝度の位置を認識することで、特定物標である対向車100の変位を検出することができる。トラッキング部40は、例えば50ms毎に特定物標の決定処理を実行する。また、トラッキング部40は、例えば0.1〜5ms毎に特定物標の変位検出処理(トラッキング)を実行する。
照度設定部42は、高速低精度解析部114の検出結果と、トラッキング部40の検出結果とに基づいて、各個別領域Rの目標輝度値と、各個別領域Rに照射する光の、目標輝度値に応じた照度値とを定める。各個別領域Rのうち、特定物標の存在位置に応じて定まる特定個別領域R1に対しては、特定目標輝度値を定める。
まず、照度設定部42は、特定物標である対向車100の存在位置に基づいて特定個別領域R1を定める。例えば照度設定部42は、トラッキング部40の検出結果に含まれる対向車100の位置情報に基づいて、特定個別領域R1を定める。特定個別領域R1の設定について、例えば照度設定部42は、対向車100の前照灯に対応する2つの光点102間の水平方向距離a(図3参照)に対して、予め定められた所定比率の鉛直方向距離bを定め、横a×縦bの寸法範囲と重なる個別領域Rを特定個別領域R1(図3参照)とする。特定個別領域R1には、対向車のドライバーと重なる個別領域Rが含まれる。
そして、照度設定部42は、特定個別領域R1に対する特定目標輝度値を定める。また、照度設定部42は、特定個別領域R1を除く他の個別領域Rについても目標輝度値を定める。例えば、照度設定部42は、特定目標輝度値を除く目標輝度値を同じ値に設定する。すなわち、輝度一定制御を実行する。
照度設定部42は、トラッキング部40の検出結果に基づいて、特定個別領域R1の変位を認識し、特定個別領域R1の位置情報を更新する。そして、特定個別領域R1に対する特定目標輝度値を含む、各個別領域Rの目標輝度値を更新する。トラッキング部40による処理と照度設定部42による処理とは、少なくとも一時において並行して実行される。
本実施の形態の照度設定部42は、自車両の走行場所及び走行時間帯の少なくとも一方に応じて、異なる目標輝度値を設定する。例えば、比較的明るい市街では目標輝度値が低く設定され、比較的暗い郊外では目標輝度値が高く設定される。また、昼間は目標輝度値が低く設定され、薄暮時は目標輝度値が中間に設定され、夜間は目標輝度値が高く設定される。すなわち、照度設定部42は、自車前方が最適な明るさとなるように、自車周囲の明るさに応じて目標輝度値を変更する。照度設定部42は、例えば図示しないナビゲーションシステム等から、自車両の走行場所及び走行時間帯の情報を入手することができる。
また、照度設定部42は、各個別領域Rの目標輝度値と高速低精度解析部114の検出結果とに基づいて、光源部10から各個別領域Rに照射する光の照度値を定める。照度設定部42は、各個別領域Rの照度値を示す信号を、光源制御部20に送信する。照度設定部42は、例えば0.1〜5ms毎に目標輝度値及び照度値を設定する。
光源制御部20は、照度設定部42が定めた照度値に基づいて光源部10を制御する。光源制御部20は、光源22の点消灯と、各ミラー素子30のオン/オフ切り替えとを制御する。光源制御部20は、各個別領域Rに照射する光の照度値に基づいて、各ミラー素子30のオンの時間比率(幅や密度)を調節する。これにより、各個別領域Rに照射される光の照度を調節することができる。光源制御部20は、例えば0.1〜5ms毎に、光源22及び/又は光偏向装置26に駆動信号を送信する。
照度設定部42が定めた照度値に基づいて光源部10から光が照射され、その結果としての実際の各個別領域Rの輝度値が高速低精度解析部114により検出される。そして、この検出結果に基づいて、照度設定部42が再び照度値を設定する。
照度設定部42による照度値の設定について、より詳細に説明する。図16は、照度値の更新の様子を示す図である。まず、照度設定部42は、各個別領域Rについて目標照度値LO(i,j)を定める。前記「(i,j)」は、撮像部12の画像データにおける任意の個別領域Rの位置座標を示す。
目標照度値LO(i,j)とは、その照度値の光が照射された際に、位置座標(i,j)にある個別領域Rの輝度値が目標輝度値となる照度値を意味する。例えば照度設定部42は、目標輝度値と目標照度値とを対応付けた変換テーブルを予め保持しており、この変換テーブルに基づいて目標照度値を定めることができる。目標照度値は、例えば256階調で定められる。
そして、照度設定部42は、前回設定した照度値と目標照度値LO(i,j)との差よりも目標照度値LO(i,j)との差が小さく、且つ目標照度値LO(i,j)とはずれた照度値を、今回の照度値として設定する。前回設定した照度値とは、現在、光源部10から照射されている光の照度値であり、例えばNフレーム目の照度値LN(i,j)である。また、今回設定する照度値とは、次に光源部10から照射する光の照度値であり、例えばN+1フレーム目の照度値LN+1(i,j)である。すなわち、新たに設定される照度値は、前回の照度値よりも目標照度値に近いが、目標照度値とは異なる値となる。
照度設定部42が上述した照度値の設定を繰り返すことで、各個別領域Rの実際の輝度が徐々に目標輝度値に近づいていく。このような制御を実行することで、光源部10と撮像部12との間の相互作用(ポジティブフィードバック)が生じることを抑制することができる。
より具体的には、照度設定部42は、Nフレーム目の照度値LN(i,j)と目標照度値LO(i,j)とを比較する。そして、照度値LN(i,j)が目標照度値LO(i,j)よりも小さい場合、下記式(1)に基づいて、N+1フレーム目の照度値LN+1(i,j)を設定する。
式(1):LN+1(i,j)=LN(i,j)+α×(LO(i,j)−LN(i,j))
また、照度値LN(i,j)が目標照度値LO(i,j)よりも大きい場合、下記式(2)に基づいて、N+1フレーム目の照度値LN+1(i,j)を設定する。
式(2):LN+1(i,j)=LN(i,j)−β×(LN(i,j)−LO(i,j))
また、照度値LN(i,j)が目標照度値LO(i,j)と等しい場合、下記式(3)に基づいて、N+1フレーム目の照度値LN+1(i,j)を設定する。
式(3):LN+1(i,j)=LN(i,j)
式(1)中のαと、式(2)中のβとは、互いに独立に設定されるゲイン定数である。また、α及びβは、0超〜1未満の値に設定される。また、α及びβは、例えば小数点以下第二位まで設定される。したがって、式(1)によれば、目標照度値LO(i,j)とNフレーム目の照度値LN(i,j)との差分にゲイン定数αを乗じた値だけ、照度値LN(i,j)よりも目標照度値LO(i,j)に近い照度値LN+1(i,j)が得られる。同様に、式(2)よれば、目標照度値LO(i,j)とNフレーム目の照度値LN(i,j)との差分にゲイン定数βを乗じた値だけ、照度値LN(i,j)よりも目標照度値LO(i,j)に近い照度値LN+1(i,j)が得られる。
Nフレーム目の照度値LN(i,j)が目標照度値LO(i,j)と一致する場合には、式(3)に基づいて、N+1フレーム目の照度値LN+1(i,j)も目標照度値LO(i,j)に維持される。
また、本実施の形態の照度設定部42は、目標輝度値と実際の輝度との差が小さくなるにつれて、前回設定した照度値と今回設定する照度値との差を小さくする。言い換えれば、照度設定部42は、目標照度値LO(i,j)とNフレーム目の照度値LN(i,j)との差分、すなわち、|LO(i,j)−LN(i,j)|の値に応じて、N+1フレーム目の照度値LN+1(i,j)を算出する際のα及びβの値を切り替える。
照度設定部42は、当該差分が相対的に大きい場合にα及びβの値を大きく設定し、当該差分が相対的に小さい場合にα及びβの値を小さく設定する。したがって、α,βは、N+1フレーム目、N+2フレーム目、N+3フレーム目・・・の順に徐々に小さくなっていく。これにより、目標照度値と現状の照度値との差が大きい場合には、当該差が小さい場合に比べて、次回の照度値において、より大きく目標輝度値に近づけられる。
α及びβの切り替えは、複数段階、例えば2〜5段階で実行される。切り替えの段数は、目標照度値LO(i,j)とNフレーム目の照度値LN(i,j)との差分の大きさに基づいて、照度設定部42が選択することができる。例えば照度設定部42は、当該差分の大きさとα,βの切り替え段数とを対応付けた変換テーブルを予め保持しており、この変換テーブルに基づいてα,βの切り替え段数を選択することができる。例えば照度設定部42は、目標照度値LO(i,j)とNフレーム目の照度値LN(i,j)との差分が相対的に大きい場合、α,βの切り替え段数をより多い段数とし、当該差分が相対的に小さい場合、より少ない段数とする。このようにα及びβの切り替え段数を選択することで、当該差分が大きい場合と小さい場合とで、同様の照度変化を実現することができる。
照度設定部42が決められた段数だけα,βを切り替えるまでの間、目標照度値LO(i,j)が一定である場合、照度設定部42は、α,βの最終切り替え時のみα,βを1に設定する。これにより、算出される照度値は目標照度値LO(i,j)と一致する。決められた段数だけα,βを切り替えるまでの間に目標照度値LO(i,j)が変更された場合には、新たな目標照度値LO(i,j)に近づくように、改めてα,βの切り替え段数が設定され、またα及びβが0超〜1未満の値に設定されて、照度値の算出が繰り返される。なお、最初に算出する照度値、すなわち1フレーム目の照度値L1(i,j)は、例えば、目標照度値LO(i,j)から予め定めた固定値だけずれた値に設定される。
目標照度値LO(i,j)、ゲイン定数α,β、及びα,βの切り替え段数は、各個別領域Rで独立に設定することができる。
上述の構成により、車両用灯具システム1は、複数の部分照射領域が集まって構成される配光パターンを形成することができる。複数の部分照射領域のそれぞれは、対応するミラー素子30がオンのときに形成される。車両用灯具システム1は、各ミラー素子30のオン/オフを切り替えることにより、様々な形状の配光パターンを形成することができる。
車両用灯具システム1は、自車前方の特定物標の位置に応じて最適な配光パターンを形成するADB(Adaptive Driving Beam)制御を実行する。一例として、照度設定部42は、対向車100の存在位置に応じて定まる特定個別領域R1に対して、特定目標輝度値「0」を設定し、他の個別領域Rに対して、目標輝度値「1」を設定する。この設定を、第1輝度情報とする。また、照度設定部42は、輝度一定制御に準じて、全ての個別領域Rに対して目標輝度値「2」を設定する。この設定を、第2輝度情報とする。そして、照度設定部42は、第1輝度情報と第2輝度情報とをAND演算する。これにより、特定個別領域R1に対する特定目標輝度値が「0」、他の個別領域Rに対する目標輝度値が「2」である輝度情報が生成される。
そして、照度設定部42は、特定目標輝度値が「0」である特定個別領域R1に対して、目標照度値を「0」に設定する。すなわち、特定個別領域R1に対しては遮光する。また、特定個別領域R1を除く各個別領域Rのうち、街路灯等の自ら発光するものが存在する個別領域Rの輝度は、目標輝度値との乖離がないか目標輝度値以上である。このため、照度設定部42は、当該個別領域Rに対して目標照度値を「0」に設定し、遮光する。また、道路標識やデリニエータ、反射板等の光反射率の高いものが存在する個別領域Rの輝度は、他の個別領域Rに比べて目標輝度値との乖離が小さいため、比較的低い目標照度値が設定される。すなわち、当該個別領域Rに対しては減光する。このように各領域の照度が定められた配光パターンが自車前方に形成されることで、対向車100のドライバーは光の照射を受けず、特定個別領域R1を除く個別領域Rは自車ドライバーあるいは撮像部12から見て同じ明るさとなる。
図5(A)及び図5(B)は、実施の形態5に係る車両用灯具システムにおいて実行されるADB制御の一例を示すフローチャートである。図6(A)及び図6(B)は、実施の形態5に係る車両用灯具システムにおいて実行されるADB制御の他の一例を示すフローチャートである。これらのフローは、輝度解析部14と物標解析部16とがそれぞれ高速低精度解析部114と低速高精度解析部116とに読み替えられる点と、ステップS206及びステップS408において、前回の照度値よりも目標照度値LO(i,j)に近い照度値が設定される点とを除いて、実施の形態1で説明した通りである。
以上説明したように、本実施の形態に係る車両用灯具システム1は、光源部10と、撮像部12と、画像解析部としての高速低精度解析部114と、照度設定部42と、光源制御部20とを備える。光源部10は、複数の個別領域Rのそれぞれに照射する光の照度を独立に調節可能である。高速低精度解析部114は、各個別領域Rの輝度を検出する。照度設定部42は、各個別領域Rの目標輝度値と、各個別領域Rに照射する光の照度値とを定める。光源制御部20は、照度設定部42が定めた照度値に基づいて光源部10を制御する。
照度設定部42は、新たな照度値として、前回設定した照度値と目標照度値との差よりも目標照度値との差が小さく、且つ目標照度値とはずれた照度値を設定する。これにより、照度設定部42は、各個別領域Rの実際の輝度を徐々に目標輝度値に近づけていく。このように、実際の輝度値が段階的に目標輝度値に近づくように照度値を設定することで、1回の照度値の変更によって実際の輝度値を目標輝度値と一致させる場合に比べて、光源部10と、光源部10で照らされた自車前方を撮像する撮像部12との間で相互作用が生じることを抑制することができる。これにより、光源部10の出力が不安定になる(発振する)ことを抑制することができ、車両用灯具2における配光パターンの形成精度を高めることができる。また、急激な配光パターンの変化によって自車ドライバーが違和感を受けることを、回避することもできる。
また、照度設定部42は、目標輝度値と実際の輝度との差が小さくなるにつれて、前回設定した照度値と今回設定する照度値との差を小さくする。したがって、現状の照度値が目標照度値から離れている程、照度値の変化量は大きくなる。これにより、目標照度値と現状の照度値との差が大きい場合には、次回の照度値において、より大きく目標輝度値に近づけられる。この結果、照度値を段階的に目標照度値に近づける制御を実行しながら、形成する配光パターンを目標とする配光パターンにより短時間のうちに近づけることができる。
また、照度設定部42は、自車両の走行場所及び走行時間帯の少なくとも一方に応じて、異なる目標輝度値を設定する。これにより、自車周囲の明るさに適した強さの光を光源部10から照射することができる。この結果、車両用灯具2における無駄な電力消費を抑制することができる。
また、本実施の形態の車両用灯具システム1は、自車前方に存在する物標を検出する低速高精度解析部116と、低速高精度解析部116により検出された物標の中から特定物標を決定し、高速低精度解析部114の検出結果に基づいて特定物標の変位を検出するトラッキング部40とをさらに備える。そして、照度設定部42は、特定物標の存在位置に応じて定まる特定個別領域R1に対して特定目標輝度値を定め、特定目標輝度値を除く目標輝度値を同じ値に設定する。
低速高精度解析部116は、高精度に物標を検出することができる。しかしながら、画像処理に比較的長時間を要するため、解析速度が劣る。このため、低速高精度解析部116の解析結果のみに基づいてADB制御を実行すると、例えば特定物標が対向車100である場合、遮光領域を絞り込んで自車ドライバーの視認性を高めた配光パターンの形成が可能であるが、対向車100の変位に遮光領域を高精度に追従させることが困難である。
一方、簡単な輝度検出を行う高速低精度解析部114は、画像処理に要する時間が比較的短時間であるため、高速な解析が可能である。しかしながら、物標の検出精度が低いため、物標の存在位置を正確に把握することが困難である。このため、高速低精度解析部114の解析結果のみに基づいてADB制御を実行すると、配光パターンの遮光領域を広めに設定する必要があり、自車ドライバーの視認性が犠牲となる。
これに対し、本実施の形態の車両用灯具システム1では、低速だが高度な画像解析手段である低速高精度解析部116と、単純だが高速な画像解析手段である高速低精度解析部114とを組み合わせて、対向車100の存在位置を高精度に把握し、配光パターンを決定している。このため、車両用灯具2における光の照射精度、言い換えれば配光パターンの形成精度を高めることができる。その結果、対向車100のドライバーに与えるグレアの回避と、自車両のドライバーの視認性確保とをより高い次元で両立することができる。
また、本実施の形態の照度設定部42は、特定目標輝度値を除く目標輝度値を同じ値に設定する。このような輝度一定制御を実行することで、低速高精度解析部116による物標の検出精度を向上させることができる。その結果、車両用灯具2における光の照射精度をより高めることができる。
また、本実施の形態の撮像部12は、高速カメラ36と低速カメラ38とを含む。そして、高速低精度解析部114は、高速カメラ36から得られる情報に基づいて輝度を検出し、低速高精度解析部116は、低速カメラ38から得られる情報に基づいて物標を検出する。このように、高速低精度解析部114と低速高精度解析部116とのそれぞれにカメラを割り当てることで、それぞれの画像解析に必要とされる性能に特化したカメラを採用することができる。一般に、高速低精度解析部114と低速高精度解析部116の画像解析に必要とされる性能を兼ね備えるカメラは高価である。このため、本実施の形態によれば、撮像部12の低コスト化を図ることができ、ひいては車両用灯具システム1の低コスト化を図ることができる。
(実施の形態6)
図15は、実施の形態6に係る車両用灯具システムの概略構成を示す図である。図15では、車両用灯具システム1の構成要素の一部を機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックは、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現される。これらの機能ブロックがハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
車両用灯具システム1は、車両前方の左右に配置される一対の前照灯ユニットを有する車両用前照灯装置に適用される。一対の前照灯ユニットは左右対称の構造を有する点以外は実質的に同一の構成であるため、図15には車両用灯具2として一方の前照灯ユニットの構造を示す。
車両用灯具システム1が備える車両用灯具2は、車両前方側に開口部を有するランプボディ4と、ランプボディ4の開口部を覆うように取り付けられた透光カバー6とを備える。透光カバー6は、透光性を有する樹脂やガラス等で形成される。ランプボディ4と透光カバー6とにより形成される灯室8内には、光源部10と、撮像部12と、高速低精度解析部114と、低速高精度解析部116と、灯具制御部18と、光源制御部20とが収容される。
光源部10は、自車前方に並ぶ複数の個別領域(図3参照)のそれぞれに照射する光の照度(強度)を独立に調節可能な装置である。光源部10は、光源22と、反射光学部材24と、光偏向装置26と、投影光学部材28とを有する。各部は、図示しない支持機構によりランプボディ4に取り付けられる。
光源22は、LED(Light emitting diode)、LD(Laser diode)、EL(Electroluminescence)素子等の半導体発光素子や、電球、白熱灯(ハロゲンランプ)、放電灯(ディスチャージランプ)等を用いることができる。
反射光学部材24は、光源22から出射した光を光偏向装置26の反射面に導くように構成される。反射光学部材24は、内面が所定の反射面となっている反射鏡で構成される。なお、反射光学部材24は、中実導光体などであってもよい。また、光源22から出射した光を光偏向装置26に直接導くことができる場合は、反射光学部材24を設けなくてもよい。
光偏向装置26は、投影光学部材28の光軸上に配置され、光源22から出射された光を選択的に投影光学部材28へ反射するように構成される。光偏向装置26は、例えばDMD(Digital Mirror Device)で構成される。すなわち、光偏向装置26は、複数の微小ミラーをアレイ(マトリックス)状に配列したものである。これらの複数の微小ミラーの反射面の角度をそれぞれ制御することで、光源22から出射された光の反射方向を選択的に変えることができる。つまり、光偏向装置26は、光源22から出射された光の一部を投影光学部材28へ向けて反射し、それ以外の光を、投影光学部材28によって有効に利用されない方向へ向けて反射することができる。ここで、有効に利用されない方向とは、例えば、投影光学部材28には入射するが配光パターンの形成にほとんど寄与しない方向や、図示しない光吸収部材(遮光部材)に向かう方向と捉えることができる。
図2(A)は、光偏向装置26の概略構成を示す正面図である。図2(B)は、図2(A)に示す光偏向装置のA−A断面図である。光偏向装置26は、実施の形態1で説明した通りの構造を有する。図3は、自車前方の様子を模式的に示す図である。自車前方に並ぶ複数の個別領域Rと各ミラー素子30との対応やマイクロミラーアレイ32の解像度は実施の形態1で説明した通りである。光源部10が1つの配光パターンの形成に要する時間は、例えば0.1〜5msである。すなわち、光源部10は、0.1〜5ms毎に配光パターンを変更することができる。
図15に示すように、投影光学部材28は、例えば、前方側表面及び後方側表面が自由曲面形状を有する自由曲面レンズからなる。投影光学部材28は、その後方焦点を含む後方焦点面上に形成される光源像を、反転像として灯具前方に投影する。投影光学部材28は、その後方焦点が車両用灯具2の光軸上、且つマイクロミラーアレイ32の反射面の近傍に位置するように配置される。なお、投影光学部材28は、リフレクタであってもよい。
光源22から出射された光は、反射光学部材24で反射されて、光偏向装置26のマイクロミラーアレイ32に照射される。光偏向装置26は、第1反射位置にある所定のミラー素子30によって投影光学部材28へ向けて光を反射する。この反射された光は、投影光学部材28を通過して灯具前方に進行し、各ミラー素子30に対応する各個別領域Rに照射される。これにより、所定形状の配光パターンが灯具前方に形成される。
撮像部12は、自車前方を撮像する装置である。撮像部12は、高速カメラ36と低速カメラ38とを含む。高速カメラ36は、比較的フレームレートが高く、例えば200fps〜10000fps(1フレームあたり0.1〜5ms)である。一方、低速カメラ38は、比較的フレームレートが低く、例えば30fps〜120fpsである(1フレームあたり約8〜33ms)。また、高速カメラ36は、比較的解像度が小さく、例えば30万ピクセル〜500万ピクセル未満である。一方、低速カメラ38は、比較的解像度が大きく、例えば500万ピクセル以上である。
高速カメラ36及び低速カメラ38は、全ての個別領域Rを撮像する。撮像部12が取得した画像データは、高速低精度解析部114及び低速高精度解析部116に送られる。高速低精度解析部114は、実施の形態1〜4における輝度解析部14に対応し、低速高精度解析部116は、実施の形態1〜4における物標解析部16に対応する。
高速低精度解析部114は、撮像部12から得られる情報(画像データ)に基づいて、各個別領域Rの輝度を検出する。本実施の形態の高速低精度解析部114は、高速カメラ36から得られる情報に基づいて、各個別領域Rの輝度を検出する。高速低精度解析部114は、例えば0.1〜5ms毎に各個別領域Rの輝度を検出する。高速低精度解析部114の検出結果、すなわち個別領域Rの輝度情報を示す信号は、灯具制御部18に送信される。
低速高精度解析部116は、撮像部12から得られる情報に基づいて、自車前方に存在する物標を検出する。本実施の形態の低速高精度解析部116は、低速カメラ38から得られる情報に基づいて物標を検出する。低速高精度解析部116は、例えば50ms毎に物標を検出する。低速高精度解析部116によって検出される物標としては、図3に示すように、対向車100や歩行者200等が例示される。また、先行車や、自車両の走行に支障を来す障害物、道路標識、道路標示等も物標に含まれる。
低速高精度解析部116は、アルゴリズム認識やディープラーニング等を含む、従来公知の方法を用いて物標を検出することができる。例えば、低速高精度解析部116は、対向車100を示す特徴点を予め保持している。そして、低速高精度解析部116は、低速カメラ38の撮像データの中に対向車100を示す特徴点を含むデータが存在する場合、対向車100の位置を認識する。前記「対向車100を示す特徴点」とは、例えば対向車100の前照灯の推定存在領域に現れる所定光度以上の光点102(図3参照)である。同様に、低速高精度解析部116は、歩行者200やその他の物標を示す特徴点を予め保持しており、低速カメラ38の撮像データの中にこれらの特徴点を含むデータが存在する場合、当該特徴点に対応する物標の位置を認識する。低速高精度解析部116の検出結果、すなわち自車前方の物標情報を示す信号は、灯具制御部18に送信される。
灯具制御部18は、高速低精度解析部114及び/又は低速高精度解析部116の検出結果を用いて、特定物標の決定、特定物標の変位検出、特定個別領域R1の設定、特定個別領域R1に対する特定目標輝度値を含む各個別領域Rに対する目標輝度値の設定、各個別領域Rに照射する光の照度値の設定等を実行する。一例として、灯具制御部18は、トラッキング部40と、照度設定部42とを含む。トラッキング部40は、低速高精度解析部116により検出された物標の中から特定物標を決定する。また、トラッキング部40は、高速低精度解析部114の検出結果に基づいて特定物標の変位を検出する。本実施の形態では、一例として、対向車100を特定物標とする。
具体的には、トラッキング部40は、高速低精度解析部114の検出結果と低速高精度解析部116の検出結果とを統合する。そして、高速低精度解析部114で検出された各個別領域Rの輝度のうち、特定物標である対向車100の光点102が位置する個別領域Rの輝度を対向車100と関連付ける。トラッキング部40は、その後に取得する高速低精度解析部114の検出結果において、対向車100と関連付けた輝度の位置を認識することで、特定物標である対向車100の変位を検出することができる。トラッキング部40は、例えば50ms毎に特定物標の決定処理を実行する。また、トラッキング部40は、例えば0.1〜5ms毎に特定物標の変位検出処理(トラッキング)を実行する。
照度設定部42は、高速低精度解析部114の検出結果と、トラッキング部40の検出結果とに基づいて、各個別領域Rの目標輝度値と、各個別領域Rに照射する光の、目標輝度値に応じた照度値とを定める。各個別領域Rのうち、特定物標の存在位置に応じて定まる特定個別領域R1に対しては、特定目標輝度値を定める。
まず、照度設定部42は、特定物標である対向車100の存在位置に基づいて特定個別領域R1を定める。例えば照度設定部42は、トラッキング部40の検出結果に含まれる対向車100の位置情報に基づいて、特定個別領域R1を定める。特定個別領域R1の設定について、例えば照度設定部42は、対向車100の前照灯に対応する2つの光点102間の水平方向距離a(図3参照)に対して、予め定められた所定比率の鉛直方向距離bを定め、横a×縦bの寸法範囲と重なる個別領域Rを特定個別領域R1(図3参照)とする。特定個別領域R1には、対向車のドライバーと重なる個別領域Rが含まれる。
そして、照度設定部42は、特定個別領域R1に対する特定目標輝度値を定める。また、照度設定部42は、特定個別領域R1を除く他の個別領域Rについても目標輝度値を定める。例えば、照度設定部42は、特定目標輝度値を除く目標輝度値を同じ値に設定する。すなわち、輝度一定制御を実行する。輝度一定制御を実行することで、低速高精度解析部116による物標の検出精度を向上させることができる。その結果、車両用灯具2における光の照射精度をより高めることができる。
照度設定部42は、トラッキング部40の検出結果に基づいて、特定個別領域R1の変位を認識し、特定個別領域R1の位置情報を更新する。そして、特定個別領域R1に対する特定目標輝度値を含む、各個別領域Rの目標輝度値を更新する。トラッキング部40による処理と照度設定部42による処理とは、少なくとも一時において並行して実行される。
また、照度設定部42は、各個別領域Rの目標輝度値と高速低精度解析部114の検出結果とに基づいて、光源部10から各個別領域Rに照射する光の照度値を定める。照度設定部42は、各個別領域Rの照度値を示す信号を、光源制御部20に送信する。照度設定部42は、例えば0.1〜5ms毎に目標輝度値及び照度値を設定する。
なお、照度設定部42は、自車周囲の明るさ等に応じて目標輝度値を変更してもよい。すなわち、市街と郊外のそれぞれにおいて、あるいは昼間、薄暮時、夜間のそれぞれにおいて、自車前方が最適な明るさとなるように目標輝度値が定められる。また、照度設定部42は、特定個別領域R1以外の個別領域Rの目標輝度値を異ならせてもよい。
光源制御部20は、照度設定部42が定めた照度値に基づいて光源部10を制御する。光源制御部20は、光源22の点消灯と、各ミラー素子30のオン/オフ切り替えとを制御する。光源制御部20は、各個別領域Rに照射する光の照度値に基づいて、各ミラー素子30のオンの時間比率(幅や密度)を調節する。これにより、各個別領域Rに照射される光の照度を調節することができる。光源制御部20は、例えば0.1〜5ms毎に、光源22及び/又は光偏向装置26に駆動信号を送信する。
照度設定部42が定めた照度値に基づいて光源部10から光が照射され、その結果としての実際の各個別領域Rの輝度値が高速低精度解析部114により検出される。そして、この検出結果に基づいて、照度設定部42が再び照度値を設定する。
上述の構成により、車両用灯具システム1は、複数の部分照射領域が集まって構成される配光パターンを形成することができる。複数の部分照射領域のそれぞれは、対応するミラー素子30がオンのときに形成される。車両用灯具システム1は、各ミラー素子30のオン/オフを切り替えることにより、様々な形状の配光パターンを形成することができる。
車両用灯具システム1は、自車前方の特定物標の位置に応じて最適な配光パターンを形成するADB(Adaptive Driving Beam)制御を実行する。一例として、照度設定部42は、対向車100の存在位置に応じて定まる特定個別領域R1に対して、特定目標輝度値「0」を設定し、他の個別領域Rに対して、目標輝度値「1」を設定する。この設定を、第1輝度情報とする。また、照度設定部42は、輝度一定制御に準じて、全ての個別領域Rに対して目標輝度値「2」を設定する。この設定を、第2輝度情報とする。そして、照度設定部42は、第1輝度情報と第2輝度情報とをAND演算する。これにより、特定個別領域R1に対する特定目標輝度値が「0」、他の個別領域Rに対する目標輝度値が「2」である輝度情報が生成される。
そして、照度設定部42は、特定目標輝度値が「0」である特定個別領域R1に対して、照度値を「0」に設定する。すなわち、特定個別領域R1に対しては遮光する。また、特定個別領域R1を除く各個別領域Rのうち、街路灯等の自ら発光するものが存在する個別領域Rの輝度は、目標輝度値との乖離がないか目標輝度値以上である。このため、照度設定部42は、当該個別領域Rに対して照度値を「0」に設定し、遮光する。また、道路標識やデリニエータ、反射板等の光反射率の高いものが存在する個別領域Rの輝度は、他の個別領域Rに比べて目標輝度値との乖離が小さいため、比較的低い照度値が設定される。すなわち、当該個別領域Rに対しては減光する。このように各領域の照度が定められた配光パターンが自車前方に形成されることで、対向車100のドライバーは光の照射を受けず、特定個別領域R1を除く個別領域Rは自車ドライバーあるいは撮像部12から見て同じ明るさとなる。
図17(A)は、実施の形態6に係る車両用灯具システムの外観を模式的に示す斜視図である。図17(B)は、実施の形態6に係る車両用灯具システムが備える筐体の内部を模式的に示す平面図である。
車両用灯具システム1は、筐体50を有する。筐体50には、配線基板52と、光源部10等の構成要素とが収容される。配線基板52には少なくとも、高速低精度解析部114を構成する集積回路(以下では適宜、第4集積回路114aと称する)と、灯具制御部18を構成する集積回路(以下では適宜、第5集積回路118aと称する)とが搭載される。すなわち、第4集積回路114aと第5集積回路118aとが1ボード化されている。第4集積回路114aと第5集積回路118aとは、配線基板52にプリントされた回路配線を介して電気的に接続される。これにより、第4集積回路114aと第5集積回路118aとがそれぞれ別の基板に搭載されて、両者がワイヤで接続される場合に比べて、両者間の通信速度を高速化することができる。また、車両用灯具システム1の小型化と低コスト化とを図ることができる。
なお、本実施の形態では、トラッキング部40と照度設定部42とが1つの集積回路(第5集積回路118a)で構成されているが、トラッキング部40を構成する集積回路と、照度設定部42を構成する集積回路とが別体であってもよい。
また、本実施の形態では、さらに高速カメラ36が配線基板52に搭載される。すなわち、第4集積回路114a及び第5集積回路118aに加えて高速カメラ36も1ボード化されている。例えば、高速カメラ36が備えるイメージセンサ36a(イメージャ)が配線基板52に搭載される。イメージセンサ36aは、配線基板52にプリントされた回路配線を介して第4集積回路114aに電気的に接続される。これにより、高速低精度解析部114を構成する第4集積回路114aと高速カメラ36との間の通信速度を高速化することができる。また、車両用灯具システム1の小型化と低コスト化とを図ることができる。
また、本実施の形態では、さらに低速高精度解析部116を構成する集積回路(以下では適宜、第6集積回路116aと称する)が配線基板52に搭載される。すなわち、第4集積回路114a、第5集積回路118a及び高速カメラ36に加えて、第6集積回路116aも1ボード化されている。第6集積回路116aは、配線基板52にプリントされた回路配線を介して第5集積回路118aに電気的に接続される。これにより、トラッキング部40及び照度設定部42を構成する第5集積回路118aと低速高精度解析部116を構成する第6集積回路116aとの間の通信速度を高速化することができる。また、車両用灯具システム1の小型化と低コスト化とを図ることができる。
また、本実施の形態では、さらに低速カメラ38が配線基板52に搭載される。すなわち、第4集積回路114a、第5集積回路118a、高速カメラ36及び第6集積回路116aに加えて低速カメラ38も1ボード化されている。例えば、低速カメラ38が備えるイメージセンサ38a(イメージャ)が配線基板52に搭載される。イメージセンサ38aは、配線基板52にプリントされた回路配線を介して第6集積回路116aに電気的に接続される。これにより、低速高精度解析部116を構成する第6集積回路116aと低速カメラ38との間の通信速度を高速化することができる。また、車両用灯具システム1の小型化と低コスト化とを図ることができる。
また、本実施の形態では、さらに光源制御部20を構成する集積回路(以下では適宜、第7集積回路120aと称する)が配線基板52に搭載される。すなわち、第4集積回路114a、第5集積回路118a、高速カメラ36、第6集積回路116a及び低速カメラ38に加えて第7集積回路120aも1ボード化されている。第7集積回路120aは、配線基板52にプリントされた回路配線を介して第5集積回路118aに電気的に接続される。これにより、トラッキング部40及び照度設定部42を構成する第5集積回路118aと光源制御部20を構成する第7集積回路120aとの間の通信速度を高速化することができる。また、車両用灯具システム1の小型化と低コスト化とを図ることができる。
また、本実施の形態では、さらに光源部10が配線基板52に搭載される。すなわち、第4集積回路114a、第5集積回路118a、高速カメラ36、第6集積回路116a、低速カメラ38及び第7集積回路120aに加えて光源部10も1ボード化されている。例えば、光源部10の光源22及び/又は光偏向装置26が配線基板52に搭載される。光源22及び/又は光偏向装置26は、配線基板52にプリントされた回路配線を介して第7集積回路120aに電気的に接続される。これにより、光源制御部20を構成する第7集積回路120aと光源部10との間の通信速度を高速化することができる。また、車両用灯具システム1の小型化と低コスト化とを図ることができる。
筐体50は、光源部10、高速カメラ36及び低速カメラ38の設置位置に対応する箇所に開口部を有する。光源部10、高速カメラ36及び低速カメラ38は、当該開口部を介して筐体50の外部に露出する。
また、高速低精度解析部114は、並列処理型演算装置で構成され、低速高精度解析部116は、逐次処理型(順次処理型)演算装置で構成される。このように、高速低精度解析部114での画像処理と、低速高精度解析部116での画像処理とのそれぞれに適した型の演算装置を用いることで、各部における画像処理の高速化を図ることができる。
また、トラッキング部40及び照度設定部42は、並列処理型演算装置で構成される。このように、トラッキング部40及び照度設定部42で実行される処理に適した型の演算装置を用いることで、トラッキング部40及び照度設定部42における処理の高速化を図ることができる。つまり、各部で実行される処理に応じて演算装置を使い分けることで、車両用灯具システム1の効率化を図ることができる。
並列処理型演算装置は、FPGA(field-programmable gate array)、ASIC(application specific integrated circuit)及びSoC(System-on-a-chip)からなる群から選択される1種以上の集積回路を含む。逐次処理型演算装置は、CPU(Central Processing Unit)及びマイコン(マイクロコントローラ)からなる群から選択される1種以上の集積回路を含む。すなわち、第4集積回路114a及び第5集積回路118aはそれぞれ、FPGA、ASIC又はSoCで構成される。第6集積回路116aは、CPU又はマイコンで構成される。
図5(A)及び図5(B)は、実施の形態6に係る車両用灯具システムにおいて実行されるADB制御の一例を示すフローチャートである。図6(A)及び図6(B)は、実施の形態6に係る車両用灯具システムにおいて実行されるADB制御の他の一例を示すフローチャートである。これらのフローは、輝度解析部14と物標解析部16とがそれぞれ高速低精度解析部114と低速高精度解析部116とに読み替えられる点を除いて、実施の形態1で説明した通りである。
以上説明したように、本実施の形態に係る車両用灯具システム1は、光源部10と、撮像部12と、高速低精度解析部114と、低速高精度解析部116と、トラッキング部40と、照度設定部42と、光源制御部20と、配線基板52とを備える。光源部10は、複数の個別領域Rのそれぞれに照射する光の照度を独立に調節可能である。高速低精度解析部114は、各個別領域Rの輝度を検出する。低速高精度解析部116は、自車前方に存在する物標を検出する。トラッキング部40は、低速高精度解析部116により検出された物標の中から特定物標を決定し、高速低精度解析部114の検出結果に基づいて特定物標の変位を検出する。照度設定部42は、高速低精度解析部114の検出結果と、トラッキング部40の検出結果とに基づいて、特定物標の存在位置に応じて定まる特定個別領域R1に対する特定目標輝度値を含む、各個別領域Rの目標輝度値を定める。また、照度設定部42は、光源部10から各個別領域Rに照射する光の照度値を定める。光源制御部20は、照度設定部42が定めた照度値に基づいて光源部10を制御する。
低速高精度解析部116は、高精度に物標を検出することができる。しかしながら、画像処理に比較的長時間を要するため、解析速度が劣る。このため、低速高精度解析部116の解析結果のみに基づいてADB制御を実行すると、例えば特定物標が対向車100である場合、遮光領域を絞り込んで自車ドライバーの視認性を高めた配光パターンの形成が可能であるが、対向車100の変位に遮光領域を高精度に追従させることが困難である。
一方、簡単な輝度検出を行う高速低精度解析部114は、画像処理に要する時間が比較的短時間であるため、高速な解析が可能である。しかしながら、物標の検出精度が低いため、物標の存在位置を正確に把握することが困難である。このため、高速低精度解析部114の解析結果のみに基づいてADB制御を実行すると、配光パターンの遮光領域を広めに設定する必要があり、自車ドライバーの視認性が犠牲となる。
これに対し、本実施の形態の車両用灯具システム1では、低速だが高度な画像解析手段である低速高精度解析部116と、単純だが高速な画像解析手段である高速低精度解析部114とを組み合わせて、対向車100の存在位置を高精度に把握し、配光パターンを決定している。このため、車両用灯具2における光の照射精度、言い換えれば配光パターンの形成精度を高めることができる。その結果、対向車100のドライバーに与えるグレアの回避と、自車両のドライバーの視認性確保とをより高い次元で両立することができる。
また、配線基板52には、高速低精度解析部114を構成する第4集積回路114aと、トラッキング部40及び照度設定部42を構成する第5集積回路118aとが搭載される。これにより、第4集積回路114aと第5集積回路118aとの間の通信速度を高速化することができる。このため、車両用灯具2における光の照射精度を高めることができる。また、車両用灯具システム1の小型化と低コスト化とを図ることができる。
また、本実施の形態の撮像部12は、高速カメラ36と低速カメラ38とを含む。そして、高速低精度解析部114は、高速カメラ36から得られる情報に基づいて輝度を検出し、低速高精度解析部116は、低速カメラ38から得られる情報に基づいて物標を検出する。このように、高速低精度解析部114と低速高精度解析部116とのそれぞれにカメラを割り当てることで、それぞれの画像解析に必要とされる性能に特化したカメラを採用することができる。一般に、高速低精度解析部114と低速高精度解析部116の画像解析に必要とされる性能を兼ね備えるカメラは高価である。このため、本実施の形態によれば、撮像部12の低コスト化を図ることができ、ひいては車両用灯具システム1の低コスト化を図ることができる。
また、本実施の形態では、配線基板52にさらに高速カメラ36が搭載される。これにより、高速低精度解析部114を構成する第4集積回路114aと高速カメラ36との間の通信速度を高速化することができる。このため、車両用灯具2における光の照射精度をより高めることができる。また、車両用灯具システム1の小型化と低コスト化とを図ることができる。
また、本実施の形態では、配線基板52にさらに低速高精度解析部116を構成する第6集積回路116aが搭載される。これにより、トラッキング部40及び照度設定部42を構成する第5集積回路118aと低速高精度解析部116を構成する第6集積回路116aとの間の通信速度を高速化することができる。このため、車両用灯具2における光の照射精度をより高めることができる。また、車両用灯具システム1の小型化と低コスト化とを図ることができる。
また、本実施の形態では、配線基板52にさらに低速カメラ38が搭載される。これにより、低速高精度解析部116を構成する第6集積回路116aと低速カメラ38との間の通信速度を高速化することができる。このため、車両用灯具2における光の照射精度をより高めることができる。また、車両用灯具システム1の小型化と低コスト化とを図ることができる。
また、本実施の形態では、配線基板52にさらに光源制御部20を構成する第7集積回路120aが搭載される。これにより、トラッキング部40及び照度設定部42を構成する第5集積回路118aと光源制御部20を構成する第7集積回路120aとの間の通信速度を高速化することができる。このため、車両用灯具2における光の照射精度をより高めることができる。また、車両用灯具システム1の小型化と低コスト化とを図ることができる。
また、本実施の形態では、配線基板52にさらに光源部10が搭載される。これにより、光源制御部20を構成する第7集積回路120aと光源部10との間の通信速度を高速化することができる。このため、車両用灯具2における光の照射精度をより高めることができる。また、車両用灯具システム1の小型化と低コスト化とを図ることができる。
また、本実施の形態では、高速低精度解析部114が並列処理型演算装置で構成され、低速高精度解析部116が逐次処理型演算装置で構成される。これにより、車両用灯具システム1における演算処理を速めることができるため、車両用灯具2における光の照射精度を高めることができる。
また、本実施の形態では、トラッキング部40及び照度設定部42が並列処理型演算装置で構成される。これにより、車両用灯具システム1における演算処理を速めることができるため、車両用灯具2における光の照射精度を高めることができる。
本発明は、上述した各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態を組み合わせたり、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような組み合わせられ、もしくは変形が加えられて得られる新たな実施の形態も本発明の範囲に含まれる。このような新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態及び変形それぞれの効果をあわせもつ。
実施の形態1〜4では、撮像部12、輝度解析部14、物標解析部16、灯具制御部18及び光源制御部20が灯室8内に設けられているが、それぞれは適宜、灯室8外に設けられてもよい。同様に、実施の形態5では、撮像部12、高速低精度解析部114、低速高精度解析部116、灯具制御部18及び光源制御部20が灯室8内に設けられているが、それぞれは適宜、灯室8外に設けられてもよい。例えば、撮像部12のうち低速カメラ38は、車室内に搭載されている既存のカメラを利用することができる。なお、撮像部12と光源部10とは画角が一致していることが望ましい。
また、高速カメラ36が低速カメラ38と同等の解像度を有する場合には、低速カメラ38を省略してもよい。これにより、車両用灯具システム1の小型化を図ることができる。この場合、物標解析部16は、高速カメラ36の画像データを用いて物標を検出する。同様に、低速高精度解析部116は、高速カメラ36の画像データを用いて物標を検出する。
また、実施の形態2〜6において、特定物標は歩行者200であってもよい。この場合、特定個別領域R1の特定目標輝度値は、他の個別領域Rに比べて高い値に設定される。これにより、より高い照度の光を歩行者200に照射して、自車ドライバーが歩行者200を視認しやすくすることができる。トラッキング部40は、輝度解析部14あるいは高速低精度解析部114の検出結果である各個別領域Rの輝度データにエッジ強調等の公知の画像処理を施すことで、歩行者200の位置を検出することができる。エッジ強調は、輝度解析部14あるいは高速低精度解析部114の処理に含めてもよい。
各実施の形態において、光源部10は、DMDである光偏向装置26に代えて、光源光で自車前方を走査するスキャン光学系や、各個別領域Rに対応するLEDが配列されたLEDアレイを備えてもよい。
また、実施の形態5において、照度設定部42は、特定個別領域R1以外の個別領域Rの目標輝度値を異ならせてもよい。また、α及び/又はβの切り替え段数は、予め定められた固定値であってもよい。また、α及び/又はβは、予め定められた固定値であってもよい。これらにより、制御の簡略化を図ることができる。
実施の形態6では、高速低精度解析部114を構成する第4集積回路114aと灯具制御部18を構成する第5集積回路118aとに加えて、高速カメラ36、低速高精度解析部116を構成する第6集積回路116a、低速カメラ38、光源制御部20を構成する第7集積回路120a及び光源部10も同一の配線基板52に搭載されている。しかしながら、特にこの構成に限定されず、第4集積回路114a及び第5集積回路118a以外のカメラ及び集積回路は適宜、別の配線基板に搭載されてもよい。
光源部10が1ボード化されない場合には、撮像部12、高速低精度解析部114、低速高精度解析部116、灯具制御部18及び光源制御部20は適宜、灯室8外に設けられてもよい。例えば、撮像部12のうち低速カメラ38は、車室内に搭載されている既存のカメラを利用することができる。なお、撮像部12と光源部10とは同一の基板に搭載されていることが好ましい。これにより、撮像部12及び光源部10の画角を一致させやすくすることができる。
また、図18に示すように、高速カメラ36が低速カメラ38と同等の解像度を有する場合には、低速カメラ38を省略してもよい。図18は、実施の形態6に係る車両用灯具システムの変形例が備える筐体の内部を模式的に示す平面図である。本変形例に係る車両用灯具システムでは、高速カメラ36のイメージセンサ36aが、高速低精度解析部114を構成する第4集積回路114aと、低速高精度解析部116を構成する第6集積回路116aとに電気的に接続される。低速高精度解析部116は、高速カメラ36の画像データを用いて物標を検出する。本変形例によれば、車両用灯具システム1のさらなる小型化を図ることができる。
実施の形態5,6においても、輝度一定制御やハイコントラスト制御を実行することができる。そして、図13(A)〜13(C)及び図14(A)〜14(C)に示す検出輝度値と設定照度値との関係を適用することができる。