「第1実施形態」
本発明に係る第1実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。なお、以下においては、説明の便宜上、図面における上側を「上」とし、図面における下側を「下」として説明する。
第1実施形態の緩衝器1は、図1に示すように、いわゆる複筒型の油圧緩衝器であり、作動流体としての油液(図示略)が封入されたシリンダ2を備えている。シリンダ2は、円筒状の内筒3と、この内筒3よりも大径で内筒3を覆うように同心状に設けられた有底円筒状の外筒4と、外筒4の上部開口側を覆って設けられたカバー5とを有しており、内筒3と外筒4との間にリザーバ室6が形成されている。
外筒4は、円筒状の胴部材11と、胴部材11の下部側に嵌合固定されて胴部材11の下部を閉塞する底部材12とからなっている。底部材12には、胴部材11とは反対の外側に取付アイ13が固定されている。
カバー5は、筒状部15と筒状部15の上端側から径方向内方に延出する内フランジ部16とを有している。カバー5は、胴部材11の上端開口部を内フランジ部16で覆い胴部材11の外周面を筒状部15で覆うように胴部材11に被せられており、この状態で、筒状部15の一部が径方向内方に加締められて胴部材11に固定されている。
緩衝器1は、シリンダ2の内筒3内に摺動可能に嵌装されたピストン18を備えている。このピストン18は、内筒3内を上室19(一方のシリンダ室)および下室20(シリンダ室)の2つの室に区画している。内筒3内の上室19および下室20内には作動流体としての油液が封入され、内筒3と外筒4との間のリザーバ室6内には作動流体としての油液とガスとが封入されている。
緩衝器1は、一端側がシリンダ2の内筒3内に配置されてピストン18に連結されると共に他端側がシリンダ2の外部に延出されるピストンロッド21を備えている。ピストン18およびピストンロッド21は一体に移動する。ピストンロッド21がシリンダ2からの突出量を増やす伸び行程において、ピストン18は上室19側へ移動することになり、ピストンロッド21がシリンダ2からの突出量を減らす縮み行程において、ピストン18は下室20側へ移動することになる。
内筒3および外筒4の上端開口側には、ロッドガイド22が嵌合されており、外筒4にはロッドガイド22よりもシリンダ2の外部側である上側にシール部材23が装着されている。ロッドガイド22とシール部材23との間には摩擦部材24が設けられている。ロッドガイド22、シール部材23および摩擦部材24は、いずれも環状をなしており、ピストンロッド21は、これらロッドガイド22、摩擦部材24およびシール部材23のそれぞれの内側に摺動可能に挿通されてシリンダ2の内部から外部に延出されている。
ロッドガイド22は、ピストンロッド21を、その径方向移動を規制しつつ軸方向移動可能に支持して、このピストンロッド21の移動を案内する。シール部材23は、その外周部で外筒4に密着し、その内周部で、軸方向に移動するピストンロッド21の外周部に摺接して、内筒3内の油液と、外筒4内のリザーバ室6の高圧ガスおよび油液とが外部に漏洩するのを防止する。摩擦部材24は、その内周部でピストンロッド21の外周部に摺接して、ピストンロッド21に摩擦抵抗を発生させる。なお、摩擦部材24は、シールを目的とするものではない。
ロッドガイド22は、その外周部が、下部よりも上部が大径となる段差状をなしており、小径の下部において内筒3の上端の内周部に嵌合し大径の上部において外筒4の上部の内周部に嵌合する。外筒4の底部材12上には、下室20とリザーバ室6とを画成するベースバルブ25が設置されており、このベースバルブ25に内筒3の下端の内周部が嵌合されている。外筒4の上端部は、図示せぬ一部が径方向内方に加締められており、この加締め部分とロッドガイド22とがシール部材23を挟持している。
ピストンロッド21は、主軸部27と、これより小径の取付軸部28(軸部)とを有している。取付軸部28はシリンダ2内に配置されてピストン18等が取り付けられている。主軸部27の取付軸部28側の端部は、軸直交方向に広がる軸段部29となっている。取付軸部28の外周部には、軸方向の中間位置に軸方向に延在する通路溝30が形成されており、軸方向の主軸部27とは反対側の先端位置にオネジ31が形成されている。通路溝30は、取付軸部28の周方向に間隔をあけて複数形成されており、ピストンロッド21の中心軸線に直交する面での断面の形状が長方形、正方形、D字状のいずれかをなすように形成されている。
ピストンロッド21には、主軸部27のピストン18とロッドガイド22との間の部分に、いずれも円環状のストッパ部材32および緩衝体33が設けられている。ストッパ部材32は、内周側にピストンロッド21を挿通させており、加締められて主軸部27の径方向内方に凹む固定溝34に固定されている。緩衝体33も、内側にピストンロッド21を挿通させており、ストッパ部材32とロッドガイド22との間に配置されている。
緩衝器1は、例えばピストンロッド21のシリンダ2からの突出部分が上部に配置されて車体により支持され、シリンダ2側の取付アイ13が下部に配置されて車輪側に連結される。これとは逆に、シリンダ2側が車体により支持され、ピストンロッド21が車輪側に連結されるようにしても良い。車輪が走行に伴って振動すると該振動に伴ってシリンダ2とピストンロッド21との位置が相対的に変化するが、上記変化はピストン18およびピストンロッド21の少なくともいずれか一方に形成された流路の流体抵抗により抑制される。以下で詳述するごとくピストン18およびピストンロッド21の少なくともいずれか一方に形成された流路の流体抵抗は振動の速度や振幅により異なるように作られており、振動を抑制することにより、乗り心地が改善される。上記シリンダ2とピストンロッド21との間には、車輪が発生する振動の他に、車両の走行に伴って車体に発生する慣性力や遠心力も作用する。例えばハンドル操作により走行方向が変化することにより車体に遠心力が発生し、この遠心力に基づく力が上記シリンダ2とピストンロッド21との間に作用する。以下で説明するとおり、緩衝器1は車両の走行に伴って車体に発生する力に基づく振動に対して良好な特性を有しており、車両走行における高い安定性が得られる。
図2に示すように、ピストン18は、ピストンロッド21に支持される金属製のピストン本体35と、ピストン本体35の外周面に一体に装着されて内筒3内を摺動する円環状の合成樹脂製の摺動部材36とによって構成されている。
ピストン本体35には、上室19と下室20とを連通させる複数(図2では断面とした関係上一カ所のみ図示)の通路穴37と、上室19と下室20とを連通させる複数(図2では断面とした関係上一カ所のみ図示)の通路穴39とが設けられている。複数の通路穴37は、ピストン本体35の円周方向において、それぞれ間に一カ所の通路穴39を挟んで等ピッチで形成されており、通路穴37,39のうちの半数を構成する。複数の通路穴37は、ピストン18の軸方向一側(図2の上側)が径方向外側に軸方向他側(図2の下側)が径方向内側に開口している。
これら通路穴37内の通路部には、通路穴37内の通路部を開閉して減衰力を発生させる減衰力発生機構41が設けられている。減衰力発生機構41は、ピストン18の軸方向の一端側である下室20側に配置されて、ピストンロッド21に取り付けられている。減衰力発生機構41が下室20側に配置されることで、複数の通路穴37内の通路部は、ピストン18の上室19側への移動、つまり伸び行程において一方の上室19から他方の下室20に向けて作動流体としての油液が流れ出す通路となる。これら通路穴37内の通路部に対して設けられた減衰力発生機構41は、伸び側の通路穴37内の通路部から下室20への油液の流動を抑制して減衰力を発生させる伸び側の減衰力発生機構となっている。
残りの半数を構成する通路穴39は、円周方向において、それぞれ間に一カ所の通路穴37を挟んで等ピッチで形成されており、ピストン18の軸線方向他側(図2の下側)が径方向外側に軸線方向一側(図2の上側)が径方向内側に開口している。
そして、これら通路穴39内の通路部には、通路穴39内の通路部を開閉して減衰力を発生させる減衰力発生機構42が設けられている。減衰力発生機構42は、ピストン18の軸方向の他端側である上室19側に配置されて、ピストンロッド21に取り付けられている。減衰力発生機構42が上室19側に配置されることで、複数の通路穴39内の通路部は、ピストン18の下室20側への移動、つまり縮み行程において下室20から上室19に向けて油液が流れ出す通路となる。これらの通路穴39内の通路部に対して設けられた減衰力発生機構42は、縮み側の通路穴39内の通路部から上室19への油液の流動を抑制して減衰力を発生させる縮み側の減衰力発生機構となっている。
以上により、複数の通路穴37内の通路部と複数の通路穴39内の通路部とが、ピストン18の移動により上室19と下室20との間を作動流体である油液が流れるように連通することになり、通路穴37内の通路部は、ピストンロッド21およびピストン18が伸び側(図2の上側)に移動するときに油液が通過し、通路穴39内の通路部は、ピストンロッド21およびピストン18が縮み側(図2の下側)に移動するときに油液が通過する。
ピストン本体35は、略円板形状をなしており、その径方向の中央には、軸方向に貫通して、ピストンロッド21の取付軸部28を挿通させるための嵌合穴45が形成されている。ピストン本体35の軸方向の下室20側の端部には、通路穴37の下室20側の開口よりも径方向外側に、減衰力発生機構41の一部を構成する環状のバルブシート部47が形成されている。また、ピストン本体35の軸方向の上室19側の端部には、通路穴39の上室19側の開口よりも径方向外側に、減衰力発生機構42の一部を構成する環状のバルブシート部49が形成されている。ピストン本体35の嵌合穴45は、ピストンロッド21の取付軸部28を嵌合させる軸方向のバルブシート部49側の小径穴部201と、小径穴部201よりも大径で小径穴部201よりも軸方向のバルブシート部47側の大径穴部202とを有している。
ピストン本体35において、バルブシート部47の嵌合穴45とは反対側は、バルブシート部47よりも軸線方向高さが低い段差状をなしており、この段差状の部分に縮み側の通路穴39内の通路部の下室20側の開口が配置されている。また、同様に、ピストン本体35において、バルブシート部49の嵌合穴45とは反対側は、バルブシート部49よりも軸線方向高さが低い段差状をなしており、この段差状の部分に伸び側の通路穴37内の通路部の上室19側の開口が配置されている。
図3に示すように、ピストン18には、軸方向のピストン18側から順に、一枚のディスク51と、一枚のディスク211と、一枚のディスク212と、一枚のディスク213と、一枚のパイロットバルブ52と、一枚のディスク53と、一枚のディスク54と、一つのパイロットケース55と、一枚のディスク56と、一枚のディスク57と、複数枚のディスク58と、一枚のディスク61と、一枚のディスク62とが重ねられている。ディスク51,53,54,56,57,58,61,62,211,212,213およびパイロットケース55は、金属製である。ディスク51,53,54,56,57,58,61,62,211,212,213は、いずれも内側にピストンロッド21の取付軸部28を嵌合可能な一定厚さの有孔平板状をなしている。パイロットバルブ52およびパイロットケース55は、いずれも内側にピストンロッド21の取付軸部28を嵌合可能な円環状をなしている。ディスク213以外のディスク51,53,54,56,57,58,61,62,211,212は、円板状をなしており、ディスク213は、一方向に長い帯板状をなしている。
パイロットケース55は、有孔円板状の底部71と、底部71の内周側に形成された底部71の厚さ方向に沿う円筒状の内側円筒状部72と、底部71の外周側に形成された底部71の厚さ方向に沿う円筒状の外側円筒状部73とを有している。底部71は、内側円筒状部72および外側円筒状部73に対し軸方向の一側にずれており、底部71には、軸方向に貫通する貫通穴74が内側円筒状部72と外側円筒状部73との間に形成されている。内側円筒状部72の内周には、軸方向の底部71側に、ピストンロッド21の取付軸部28を嵌合させる小径穴部75が形成されており、軸方向の底部71とは反対側に、小径穴部75よりも大径の大径穴部76が形成されている。
パイロットケース55の内側円筒状部72の軸方向の底部71とは反対側の端部は、ディスク54の内周側を支持しており、内側円筒状部72の軸方向の底部71側の端部は、ディスク56の内周側を支持している。パイロットケース55の外側円筒状部73の軸方向の底部71側の端部は、環状のバルブシート部79となっている。パイロットケース55の内側円筒状部72と外側円筒状部73との間は、貫通穴74を含んで、パイロットバルブ52にピストン18の方向に圧力を加える背圧室80となっている。
ディスク51は、バルブシート部47の内径よりも小径の外径となっている。ディスク51には、ピストンロッド21の取付軸部28に嵌合する内周縁部から径方向外側に延在する切欠87が形成されている。切欠87内の通路部は、ピストン18の通路穴37内の通路部に常時連通しており、通路穴37内の通路部は、この切欠87内の通路部を介して、ピストン18の大径穴部202と取付軸部28との間の通路部とピストンロッド21の通路溝30内の通路部とに常時連通している。
ディスク211は、ピストン18のバルブシート部47の外径よりも大径の外径となっている。ディスク211は、バルブシート部47に当接しており、バルブシート部47に対し離間および当接することでピストン18に形成された通路穴37内の通路部の開口を開閉する。ディスク211には、外周側に切欠215が形成されており、切欠215は、バルブシート部47を径方向に横断している。よって、切欠215の内側が、通路穴37内の通路部を下室20に常時連通させる固定オリフィス216となっている。ディスク212は、外周部が円形であり、ディスク211の外径と同径の外径となっている。ディスク211,212は、ピストン18のバルブシート部47に当接し、バルブシート部47に対し離間および当接することでピストン18に形成された通路穴37内の通路部の開口を開閉する当接バルブ221を構成している。
ディスク213は、一方向に長い帯板状をなしており、ディスク211,212からなる当接バルブ221よりも最大外径が小径であり、当接バルブ221のバルブシート部47とは反対側つまり開弁側に設けられている。
パイロットバルブ52は、金属製のディスク85と、ディスク85に固着されるゴム製のシール部材86とからなっている。ディスク85は、内側にピストンロッド21の取付軸部28を嵌合可能な一定厚さの有孔円形平板状をなしており、ディスク211,212からなる当接バルブ221の外径よりも若干大径の外径となっている。シール部材86は、ディスク85のピストン18とは反対の外周側に固着されており、円環状をなしている。
シール部材86は、パイロットケース55の外側円筒状部73の内周面に全周にわたり摺動可能かつ液密的に嵌合しており、パイロットバルブ52と外側円筒状部73との隙間を常時シールする。言い換えれば、パイロットバルブ52は、シール部材86をパイロットケース55の外側円筒状部73に摺動可能かつ密に嵌合させている。その結果、パイロットバルブ52とパイロットケース55とが、互いの間に背圧室80を形成している。
当接バルブ221、ディスク213およびパイロットバルブ52が、ピストン18に形成された通路穴37内の通路部に設けられてピストン18の伸び側(図3の上側)への摺動によって生じる油液の流れを抑制して減衰力を発生させる減衰バルブ231を構成している。パイロットバルブ52とパイロットケース55との間の背圧室80は、この減衰バルブ231に、ピストン18の方向、つまり当接バルブ221をバルブシート部47に着座させる閉弁方向に内圧を作用させる。減衰バルブ231は、背圧室80を有するパイロットタイプの減衰バルブであり、これら減衰バルブ231および背圧室80は、バルブシート部47と共に減衰力発生機構41を構成している。言い換えれば、減衰力発生機構41は、減衰バルブ231および背圧室80を備えており、圧力制御型のバルブ機構となっている。
ディスク53は、パイロットケース55の内側円筒状部72のディスク53側の端部の外径と略同径となっている。ディスク54は、内側円筒状部72のこれに接触するディスク54側の端部の外径よりも大径の外径となっている。ディスク54には、ピストンロッド21の取付軸部28に嵌合する内周縁部から径方向外側に延在する切欠91が形成されている。切欠91内の通路部は、背圧室80に常時連通しており、背圧室80は、この切欠91内の通路部を介して、パイロットケース55の大径穴部76と取付軸部28との間の通路部とピストンロッド21の通路溝30内の通路部とに常時連通している。
ディスク51の切欠87内の通路部と、ピストン18の大径穴部202と取付軸部28との間の通路部と、ピストンロッド21の通路溝30内の通路部と、ディスク54の切欠91内の通路部と、パイロットケース55の大径穴部76と取付軸部28との間の通路部とが、ピストン18の通路穴37内の通路部と背圧室80とを常時連通させて通路穴37内の通路部から背圧室80に油液を導入する背圧室流入通路部235となっている。
減衰バルブ231は、そのディスク211がバルブシート部47から離座して開くと、通路穴37内の通路部からの油液をピストン18とパイロットケース55の外側円筒状部73との間で径方向に広がる通路部88を介して下室20に流す。複数の通路穴37のそれぞれの内側に形成された通路部と、減衰バルブ231とバルブシート部47との間と、ピストン18とパイロットケース55の外側円筒状部73との間の通路部88とが、通路130(第1通路)を構成している。この通路130は、ピストン18の図2に示す上室19側への移動、つまり伸び行程において一方の上室19から他方の下室20に向けて作動流体としての油液が流れ出す伸び側の通路となる。図3に示すように、バルブシート部47と減衰バルブ231とを含む伸び側の減衰力発生機構41は、通路130に設けられており、減衰バルブ231でこの通路130を開閉して油液の流動を抑制することにより減衰力を発生させる。伸び側の減衰力発生機構41は、背圧室流入通路部235を介して油液の流れの一部を背圧室80に導入し、背圧室80の圧力によって減衰バルブ231の開弁を制御する。
ディスク56は、パイロットケース55のバルブシート部79の内径よりも小径の外径となっている。ディスク57は、バルブシート部79の外径よりも若干大径の外径となっており、バルブシート部79に着座可能となっている。ディスク57には、外周側に切欠93が形成されており、切欠93は、バルブシート部79を径方向に横断している。
複数枚のディスク58は、ディスク57の外径と同径の外径となっている。ディスク61は、ディスク58の外径よりも小径の外径となっている。ディスク62は、ディスク61の外径よりも大径且つディスク56の外径よりも小径の外径となっている。
ディスク57,58が、バルブシート部79に離着座可能であって、バルブシート部79から離座することで、背圧室80と下室20とを連通させるとともにこれらの間の油液の流れを抑制するディスクバルブ99を構成している。複数の通路穴37のそれぞれの内側に形成された通路部と、背圧室流入通路部235と、背圧室80と、ディスクバルブ99とバルブシート部79との間とが、通路130と一部並列して上室19と下室20とを連通させる通路133を構成している。
ディスクバルブ99は、背圧室80内の圧力が所定圧力に達した時にバルブシート部79から離座する。ディスクバルブ99は、バルブシート部79と共に、背圧室80内の圧力が所定圧力に達した時に開弁して通路133を開いて減衰力を発生させる減衰力発生機構135を構成している。
背圧室80は、パイロットバルブ52とパイロットケース55とディスクバルブ99とで囲まれて形成されており、ディスク57の切欠93の内側の通路部は、ディスク57がバルブシート部79に当接状態にあっても背圧室80を下室20に連通させる固定オリフィス100を構成している。ディスク62は、ディスクバルブ99の開方向への変形時にディスク58に当接してディスクバルブ99の変形を抑制する。
図2に示すように、ピストン18には、軸方向のピストン18側から順に、一枚のディスク111と、一枚のディスク112と、複数枚のディスク113と、複数枚のディスク114と、一枚のディスク115と、一枚のディスク116と、一枚の環状部材117とが重ねられている。ディスク111〜116および環状部材117は、金属製であり、いずれも内側にピストンロッド21の取付軸部28を嵌合可能な一定厚さの有孔円形平板状をなしている。
ディスク111は、ピストン18のバルブシート部49の内径よりも小径の外径となっている。ディスク112は、ピストン18のバルブシート部49の外径よりも若干大径の外径となっており、バルブシート部49に着座可能となっている。ディスク112には、外周側に切欠121が形成されており、切欠121はバルブシート部49を径方向に横断している。
複数枚のディスク113は、ディスク112の外径と同径の外径となっている。複数枚のディスク114は、ディスク113の外径よりも小径の外径となっている。ディスク115は、ディスク114の外径よりも小径の外径となっている。ディスク116は、ディスク114の外径よりも大径且つディスク113の外径よりも小径の外径となっている。環状部材117は、ディスク116の外径よりも小径の外径となっており、ディスク111〜116よりも厚く高剛性となっている。この環状部材117は、ピストンロッド21の軸段部29に当接している。
ディスク112〜114が、バルブシート部49に離着座可能であり、バルブシート部49から離座することで通路穴39内の通路部を上室19に開放可能であって、上室19と下室20との間の油液の流れを抑制するディスクバルブ122を構成している。ディスクバルブ122とバルブシート部49とが縮み側の減衰力発生機構42を構成している。ディスク112の切欠121は、ディスク112がバルブシート部49に当接状態にあっても上室19と下室20とを連通させる固定オリフィス123を構成している。ディスク116および環状部材117はディスクバルブ122の開方向への規定以上の変形を抑制する。
本実施形態では、図2に示す縮み側のディスクバルブ122、図3に示す伸び側のディスクバルブ99をいずれも内周クランプのディスクバルブの例を示したが、これに限らず、減衰力を発生する機構であればよく、例えば、ディスクバルブをコイルバネで付勢するリフトタイプのバルブとしてもよく、また、ポペット弁であってもよい。
図3に示すように、ピストンロッド21の取付軸部28には、減衰力発生機構135のピストン18とは反対側に、ピストン18の往復動の周波数(以下、ピストン周波数と称す)に感応して減衰力を可変とする減衰力可変機構43が取り付けられている。減衰力可変機構43は、軸方向の減衰力発生機構135側から順に、ディスク62に当接する一つのケース部材本体141と、一枚のディスク142と、一つのスプリング(弾性部材)143と、底部材144とを有している。ケース部材本体141、ディスク142、スプリング143および底部材144は、いずれも金属製である。ケース部材本体141と底部材144とが、ディスク142およびスプリング143を内蔵するケース部材145を構成している。ケース部材本体141および底部材144は、いずれも内側にピストンロッド21の取付軸部28を嵌合可能な円環状をなしている。
ケース部材本体141は、径方向の中央に貫通孔150が形成された有底筒状であり、有孔円板状の天井部151と、天井部151の内周縁部から、天井部151の軸方向に沿って一側に突出する円筒状の内側円筒状部152と、天井部151の内周縁部から、天井部151の軸方向に沿って他側に突出する円環状の円環状部153と、天井部151の外周縁部から、天井部151の軸方向に沿って内側円筒状部152と同側に突出する円筒状の外側円筒状部154と、天井部151の径方向における内側円筒状部152と外側円筒状部154との間位置から、天井部151の軸方向に沿って内側円筒状部152および外側円筒状部154と同側に突出する円環状の規制部155と、を有している。外側円筒状部154の天井部151からの突出量は、内側円筒状部152の天井部151からの突出量よりも大きい。規制部155の天井部151からの突出量は、内側円筒状部152の天井部151からの突出量よりも小さい。
内側円筒状部152の天井部151とは反対側の先端部には、外周側に軸方向に沿う軸方向溝161が形成されている。軸方向溝161は、内側円筒状部152の周方向に間隔をあけて複数形成されている。内側円筒状部152の先端部には、内側円筒状部152を径方向に横断するように径方向溝162が形成されている。径方向溝162は、内側円筒状部152の周方向に間隔をあけて複数形成されており、軸方向溝161と内側円筒状部152の周方向における位置を合わせている。規制部155の天井部151とは反対側の先端部には、規制部155を径方向に横断するように溝部165が形成されている。
底部材144は、有孔円板状であり、円環状の底部167と、底部167の軸方向一端から径方向内方に延出する内フランジ部168とを有している。底部材144は、底部167がケース部材本体141の内側円筒状部152と外側円筒状部154との間に嵌合し、その際に内フランジ部168が内側円筒状部152に当接する。底部167は、ケース部材本体141と底部材144とからなるケース部材145の底部を構成している。
底部材144の底部167には、内フランジ部168よりも軸方向に突出する側の先端に、中心軸線に対し直交する平坦な円環状のシート面171を有するディスク当接部172が形成されており、ディスク当接部172の径方向の中間位置には、シート面171から軸方向に凹むストッパ面173を有する円環状の凹部174が形成されている。凹部174は深さが深くなるほど径方向の幅が狭くなる形状であり、ストッパ面173が、底部167の中心軸線を含む面での断面が周方向位置によらず一定の形状をなしている。
底部167には、凹部174の最も深い底位置、すなわち凹部174の径方向の幅の中央位置に、底部167の軸方向に沿って貫通する貫通穴177が形成されている。底部167には、貫通穴177が、底部167の周方向に間隔をあけて複数形成されている。なお、貫通穴177は底部167に少なくとも一つ設けられていれば良い。
ケース部材145内には、環状のディスク142が底部167に配置されている。ディスク142は、金属製の弾性変形可能な平板であり、有孔円板状をなしている。ディスク142は、その外径が、ディスク当接部172のシート面171の最大径よりも小径かつストッパ面173の最大径よりも大径であり、その内径が、ディスク当接部172のシート面171の最小径よりも若干小径で内側円筒状部152の外径よりも若干大径となっている。これにより、ディスク142は、径方向移動を規制するように内側円筒状部152で案内されて軸方向に移動可能であり、シート面171に面接触してストッパ面173の全体を覆うようになっている。
底部167の凹部174の最深位置に形成された貫通穴177は、このディスク142と径方向の位置を合わせ軸方向に対向して設けられている。ディスク142は、シート面171に面接触することで貫通穴177を閉塞する。ディスク142は、弾性部材であるスプリング143によって付勢されてシート面171に面接触する。また、ディスク142は、シート面171から離れることで貫通穴177を開放し、場合により、規制部155に当接して、それ以上の移動が規制される。さらに、ディスク142は、凹部174内に入り込むように弾性変形可能であり、その際に、ストッパ面173とシート面171との径方向両側の境界周縁部、あるいはストッパ面173の全面に当接して、貫通穴177の閉塞状態を維持する。このようにディスク142は、底部167の凹部174を覆うように設けられることで、撓み可能な状態で底部167に配置されている。
貫通孔150に嵌合される取付軸部28は、ケース部材145を軸方向に貫通しており、その結果、一部がケース部材145内に配置されることになる。取付軸部28のケース部材145内に配置される一部は、円環状のディスク142およびスプリング143をも軸方向に貫通して設けられている。
ディスク142が貫通穴177内の通路部を閉塞した状態で、ケース部材本体141の天井部151と内側円筒状部152と外側円筒状部154とディスク142との間が、可変室181(ケース室)となり、底部材144の底部167とディスク142との間が、可変室182(ケース室)となる。よって、これら2つの可変室181および可変室182は、ケース部材145内にディスク142により画成されて設けられている。可変室182は貫通穴177内の通路部を介して下室20に常時連通している。
内側円筒状部152の軸方向溝161は、底部167よりも天井部151側に延出しており、径方向溝162内の通路部は、ピストンロッド21の通路溝30内の通路部に常時連通している。軸方向溝161内の通路部は、可変室181に直接あるいは可変室182を介して常時連通しており、よって、可変室181は、内側円筒状部152の軸方向溝161内の通路部および径方向溝162内の通路部を介して、ピストンロッド21の通路溝30内の通路部に常時連通している。背圧室80は、ディスク54の切欠91内の通路部と、パイロットケース55の大径穴部76と取付軸部28との間の通路部とを介して、ピストンロッド21の通路溝30内の通路部に常時連通している。このため、可変室181および背圧室80は、常時連通している。
ディスク142は、平板状をなしてその内周側および外周側が共に全周にわたってディスク当接部172のシート面171に当接する状態と、凹部174内に入り込むように弾性変形してその内周側および外周側が共に全周にわたってシート面171とストッパ面173との両側境界縁部に当接する状態と、さらに弾性変形して全周にわたってストッパ面173に接触する状態とにおいては、可変室181と可変室182との間の油液の流通を遮断する。また、ディスク142は、底部167から離間する状態では、可変室181と可変室182との間の油液の流通を許容する。
スプリング143は、コイルスプリングであり、軸方向の一端がケース部材本体141の天井部151の外側円筒状部154と規制部155との間に当接しており、軸方向の他端がディスク142の天井部151側の面の外径側に当接している。スプリング143は、ディスク142に当接する部分の直径が、シート面171のストッパ面173よりも径方向外側の部分の径方向中間部の直径と同等に形成されている。スプリング143は、ディスク142をシート面171に当接するように付勢することになる。スプリング143と、ディスク142と、ケース部材145のディスク当接部172および凹部174とが、可変室181側から可変室182側すなわち下室20側への油液の流れを規制する一方、可変室182側すなわち下室20側から可変室181側への油液の流れを許容するチェック弁185を構成している。
このチェック弁185の弁体であるディスク142は、その全体が、軸方向にクランプされることはなく、いずれの部品にも固定されていない。ディスク142は、ケース部材145の底部167に対して当接および離間可能である。ディスク142は、その全体が軸方向に移動可能なフローティングタイプのフリーバルブである。ディスク142は、液圧以外の付勢がスプリング143のみでされてシート面171に対し近接および離間する。チェック弁185のディスク142およびスプリング143は、いずれも金属のみからなり、ゴムシールを使っていない。また、ディスク142は、プレス加工で一体成形されている。
ディスク142はケース部材145内の作動流体により撓み可能であり、可変室181の圧力が可変室182の圧力よりも高くなると、可変室181と可変室182との連通を遮断しつつ、上記のように凹部174内に入り込むように撓んで可変室181の容積を拡大させ、可変室182の容積を減少させるように変形する。また、この状態から、可変室181の圧力と可変室182の圧力との圧力差が小さくなると、ディスク142は、可変室181と可変室182との連通を遮断しつつ、凹部174への入り込みを減らして可変室182の容積を増加させ、可変室181の容積を減少させるように変形する。また、可変室182の圧力が可変室181の圧力よりもスプリング143の付勢力分を越えて高くなると、ディスク142はスプリング143の付勢力に抗してシート面171から離座して可変室182と可変室181とを連通させる。
ピストン18の通路穴37内の通路部と、ディスク51の切欠87内の通路部と、ピストン18の大径穴部202と取付軸部28との間の通路部と、ピストンロッド21の通路溝30内の通路部と、ケース部材本体141の径方向溝162内の通路部と、軸方向溝161内の通路部と、可変室181と、可変室182と、貫通穴177内の通路部とが、上室19と下室20とを結んで延在する通路190(第2通路)を構成している。可変室181,182を内部に有する筒状のケース部材145には、内部に通路190の少なくとも一部が形成されている。通路190は、通路130,133とは一部異なるルートで上室19と下室20とを結んでいる。
通路190は、上室19側の通路穴37内の通路部が通路130と共通であり、通路穴37内の通路部よりも下室20側が通路130と並列に設けられている。すなわち、通路190において、ディスク51の切欠87内の通路部と、ピストン18の大径穴部202と取付軸部28との間の通路部と、ピストンロッド21の通路溝30内の通路部と、ケース部材本体141の径方向溝162内の通路部と、軸方向溝161内の通路部と、可変室181と、可変室182と、貫通穴177内の通路部とを結ぶ通路が、通路130のバルブシート部47と減衰バルブ231との間と通路部88とを結ぶ通路に並列している。
上記したディスク142とスプリング143とケース部材145の底部167とからなるチェック弁185は、通路190に設けられて、通路190の可変室181から下室20への一方の油液の流通を遮断する一方、下室20から可変室181への他方の油液の流れを許容する。
なお、スプリング143の付勢力を、ディスク142が、可変室181および可変室182の圧力状態にかかわらず、可変室181および可変室182間の油液の流通を常時遮断するように設定しても良い。つまり、ディスク142は、通路190の可変室181および可変室182間の両方向の流通を含む、少なくとも一方向への作動流体の流通を遮断すれば良い。
図2に示すように、ピストンロッド21には、取付軸部28をそれぞれの内側に嵌合させて、軸段部29に、環状部材117、ディスク116、ディスク115、複数枚のディスク114、複数枚のディスク113、ディスク112、ディスク111、ピストン18、ディスク51、ディスク211、ディスク212、ディスク213、パイロットバルブ52、ディスク53、ディスク54、パイロットケース55が、この順に、重ねられ、さらに、図3に示すように、パイロットケース55に、ディスク56、ディスク57、複数枚のディスク58、ディスク61、ディスク62、ケース部材本体141、底部材144、複数枚のディスク238、環状部材117と共通部品である環状部材175が、この順に、重ねられる。その際に、ケース部材本体141の天井部151と底部材144との間にスプリング143およびディスク142が配置される。また、このとき、パイロットケース55は、パイロットバルブ52のシール部材86を外側円筒状部73に嵌合させる。
このように部品が配置された状態で、環状部材175よりも突出する取付軸部28のオネジ31にナット176が螺合される。これにより、上記のように取付軸部28を嵌合させて順次重ねられた環状部材117から環状部材175までの部品は、それぞれ内周側または全部がピストンロッド21の軸段部29とナット176とに挟持されて軸方向にクランプされる。その際に、ディスク142は、軸方向にクランプされることはなく、スプリング143と底部材144とに挟持される。ナット176は、汎用の六角ナットである。
図1に示すように、外筒4の底部材12と内筒3との間には、上記したベースバルブ25が設けられている。このベースバルブ25は、下室20とリザーバ室6とを仕切るベースバルブ部材191と、このベースバルブ部材191の下側つまりリザーバ室6側に設けられるディスク192と、ベースバルブ部材191の上側つまり下室20側に設けられるディスク193と、ベースバルブ部材191にディスク192およびディスク193を取り付ける取付ピン194とを有している。
ベースバルブ部材191は、円環状をなしており、径方向の中央に取付ピン194が挿通される。ベースバルブ部材191には、下室20とリザーバ室6との間で油液を流通させる複数の通路穴195と、これら通路穴195の径方向の外側にて、下室20とリザーバ室6との間で油液を流通させる複数の通路穴196とが形成されている。リザーバ室6側のディスク192は、下室20から通路穴195を介するリザーバ室6への油液の流れを許容する一方でリザーバ室6から下室20への通路穴195を介する油液の流れを抑制する。ディスク193は、リザーバ室6から通路穴196を介する下室20への油液の流れを許容する一方で下室20からリザーバ室6への通路穴196を介する油液の流れを抑制する。
ディスク192は、ベースバルブ部材191とによって、緩衝器1の縮み行程において開弁して下室20からリザーバ室6に油液を流すとともに減衰力を発生させる縮み側の減衰バルブ機構197を構成している。ディスク193は、ベースバルブ部材191とによって、緩衝器1の伸び行程において開弁してリザーバ室6から下室20内に油液を流すサクションバルブ機構198を構成している。なお、サクションバルブ機構198は、主としてピストンロッド21のシリンダ2からの伸び出しにより生じる液の不足分を補うようにリザーバ室6から下室20に実質的に減衰力を発生させることなく液を流す機能を果たす。
ピストンロッド21が伸び側に移動する伸び行程で、減衰力可変機構43がないと仮定すると、ピストン18の移動速度(以下、ピストン速度と称す)が遅い時、上室19からの油液は、図2に示す通路穴37内の通路部から、減衰力発生機構41の減衰バルブ231の固定オリフィス216と、ピストン18とパイロットケース55の外側円筒状部73との間の通路部88とを含む通路130を介して下室20に流れ、オリフィス特性(減衰力がピストン速度の2乗にほぼ比例する)の減衰力が発生する。このため、ピストン速度に対する減衰力の特性は、ピストン速度の上昇に対して比較的減衰力の上昇率が高くなる。
ピストン速度が速くなると、上室19からの油液は、通路穴37内の通路部から、メインバルブである減衰力発生機構41の減衰バルブ231を開きながら、減衰バルブ231とピストン18のバルブシート部47との隙間と、通路部88とを含む通路130を介して下室20に流れることになり、バルブ特性(減衰力がピストン速度にほぼ比例する)の減衰力が発生する。このため、ピストン速度に対する減衰力の特性は、ピストン速度の上昇に対して減衰力の上昇率が下がることになる。
ピストン速度がさらに速くなると、上室19からの油液は、減衰力発生機構41の離間する減衰バルブ231とバルブシート部47と隙間を含む通路130を介する下室20への流れに加えて、背圧室流入通路部235と、背圧室80とから、図3に示すハードバルブである減衰力発生機構135のディスクバルブ99を開きながら、背圧室流入通路部235と、背圧室80と、ディスクバルブ99とバルブシート部79との隙間とを含む通路133を通って、下室20に流れることになり、減衰力の上昇をさらに抑えることになる。このため、ピストン速度に対する減衰力の特性は、ピストン速度の上昇に対して減衰力の上昇率がさらに下がることになる。
ピストン速度がさらに速くなると、パイロットバルブ52に作用する力(油圧)の関係は、通路穴37内の通路部から加わる開方向の力が背圧室80から加わる閉方向の力よりも大きくなる。よって、この領域では、ピストン速度の増加に伴い、減衰力発生機構41の減衰バルブ231が、当接バルブ221とパイロットバルブ52とを変形させながら、ピストン18のバルブシート部47から上記よりも離れて開くことになり、通路穴37内の通路部と、背圧室流入通路部235と、背圧室80と、減衰力発生機構135のディスクバルブ99およびバルブシート部79の隙間とを含む通路133を通る下室20への流れに加え、通路部88を含む通路130を介して下室20に油液をより多く流すため、減衰力の上昇を一層抑えることになる。このため、ピストン速度に対する減衰力の特性は、ピストン速度の上昇に対して減衰力の上昇率がさらに下がることになる。
ピストンロッド21が縮み側に移動する縮み行程では、ピストン速度が遅い時、下室20からの油液は、図2に示す縮み側の通路穴39内の通路部と、減衰力発生機構42のディスクバルブ122の固定オリフィス123を介して上室19に流れオリフィス特性(減衰力がピストン速度の2乗にほぼ比例する)の減衰力が発生することになる。このため、ピストン速度に対する減衰力の特性は、ピストン速度の上昇に対して比較的減衰力の上昇率が高くなる。また、ピストン速度が速くなると、下室20から縮み側の通路穴39内の通路部に導入された油液が、基本的に減衰力発生機構42のディスクバルブ122を開きながらディスクバルブ122とバルブシート部49との間を通って上室19に流れることになり、バルブ特性(減衰力がピストン速度にほぼ比例する)の減衰力が発生する。このため、ピストン速度に対する減衰力の特性はピストン速度の上昇に対して減衰力の上昇率は下がることになる。
以上が、減衰力可変機構43がないと仮定した場合であるが、第1実施形態では、減衰力可変機構43が、ピストン速度が同じ場合でも、ピストン周波数に応じて減衰力を可変とする。
つまり、ピストン周波数が高いとき、ピストン18の振幅は小さく、このようにピストン周波数が高いときの伸び行程では、上室19の圧力が高くなって、図3に示す通路190の通路穴37内の通路部と、ディスク51の切欠87内の通路部と、ピストン18の大径穴部202と取付軸部28との間の通路部と、ピストンロッド21の通路溝30内の通路部と、ケース部材本体141の径方向溝162内の通路部と、軸方向溝161内の通路部とを介して、可変室181に上室19から油液を導入させる。すると、これに応じて、それまで平板状をなしてシート面171に当接していたディスク142が、可変室181と可変室182との連通を遮断した状態のまま凹部174内に入り込むように変形して可変室181の容積を拡大しつつ、可変室182から、貫通穴177内の通路部を介して下室20に油液を排出させる。
このようにディスク142を変形させながら、可変室181に上室19から油液を導入することになり、その結果、上室19から通路穴37内の通路部を通り、減衰力発生機構41を開きながら、下室20に流れる油液の流量が減ることになる。加えて、可変室181の容積が拡大することによって、可変室181に常時連通する背圧室80の圧力上昇が抑えられ、減衰力発生機構41の減衰バルブ231が開弁しやすくなる。これらによって伸び側の減衰力がソフトになる。このとき、ハードバルブである減衰力発生機構135は開弁しない。
ここで、ピストン周波数が高いときは、上室19から可変室181に導入される油液の量が小さいため、図4(a)に矢印Aで示すように、ディスク142の変形は小さく、ストッパ面173に当接して変形が規制される状態にはならない。よって、伸び行程の都度、減衰力がソフトになる。なお、ディスク142の剛性(バネ反力)の分は、可変室181の圧力が上昇し、可変室181に常時連通する背圧室80の圧力が上昇することになるが、ピストン周波数が高周波であり、ディスク142の撓みが小さいことから、背圧室80の圧力上昇を抑制でき、減衰バルブ231の開弁しやすさへの影響を抑制できる。
他方で、ピストン周波数が低いとき、ピストン18の振幅は大きく、このようにピストン周波数が低いときの伸び行程では、減衰力可変機構43のディスク142の変形の周波数も追従して低くなるため、伸び行程の初期に、上記と同様に、通路190を介して上室19から可変室181に油液が流れるものの、その後は、図4(b)に矢印Bで示すようにディスク142が大きく変形し、ディスク142がストッパ面173に当接してそれ以上の変形が規制される状態となり、上室19から可変室181に油液が流れなくなる。可変室181に上室19から油液が流れなくなることから、可変室181の圧力が上昇し、可変室181に常時連通する背圧室80の圧力も上昇して、減衰力発生機構41の減衰バルブ231の開弁を抑制する状態となる。すなわち、減衰力発生機構41は、減衰バルブ231が開弁せず、固定オリフィス216を介して、上室19から下室20に油液を流す状態となり、伸び側の減衰力がハードになる。さらにピストン速度が上昇し、背圧室80の圧力が上昇すると、油液は、ハードバルブである減衰力発生機構135のディスクバルブ99を開き、ディスクバルブ99とバルブシート部79との隙間を含む通路133を通って下室20に流れることになる。さらにピストン速度が上昇すると、背圧に対する上室19の圧力が増加し、減衰力発生機構41の減衰バルブ231が開弁し、油液は、通路133を通る流れに加えて、減衰力発生機構41の減衰バルブ231を開弁させて通路130から下室20に流れることになる。以上により、ピストン周波数が低いときの伸び側の減衰力がハードになる。すなわち、ハードの特性は、ハードバルブの開弁で決定されるので、ハードバルブで調整可能である。
ここで、減衰力可変機構43は、縮み行程のときは、下室20の圧力が高くなって、可変室182の圧力の方が可変室181の圧力よりも高くなる。その結果、チェック弁185の弁体としてのディスク142が、スプリング143の付勢力に抗してシート面171から離座する。これにより、チェック弁185が貫通穴177内の通路部を含む通路190を開き、図4(c)に矢印Xで示すように、下室20から上室19に向けて油液を流す。その際に、ディスク142は、シート面171から離れることで差圧がなくなり、それ以上の移動が抑制される。なお、スプリング143の付勢力は、負荷圧力がない状態でディスク142がシート面171に当接して貫通穴177内の通路部を閉塞する力があれば良く、チェック弁185として機能する場合は、その機能上、チェック弁185として抵抗なく開くようにセット荷重を設定する。すなわち、チェック弁185として機能する場合は、ディスク142にプリロードがかかりすぎるのは好ましくない。
上記した特許文献1に記載のものは、減衰力可変機構が大型であり、軽量化、減衰力特性の温度依存性の点で改善の余地がある。特に、減衰力可変型で高減衰力を発生する緩衝器は減衰力特性の温度依存性の悪化が顕著になるため特に重要課題である。
これに対して、第1実施形態の緩衝器1は、減衰力可変機構43が、筒状のケース部材145内の底部167に、ケース部材145内に可変室181および可変室182を画成するディスク142を撓み可能な状態で配置すると共に、このディスク142をスプリング143によって付勢し、このディスク142によって、通路190の少なくとも一方への流通を遮断する構造であるため、小型化、軽量化、簡素化、部品点数の低減および低コスト化が図れる。
また、減衰力可変機構43が、ピストンロッド21に取り付けられる構造であるため、減衰力可変機構43を小型化することで緩衝器1の基本長を短縮することができる。
また、ケース部材145内には取付軸部28が配置され、この取付軸部28がディスク142を貫通する構造であるため、一層の小型化が図れる。
また、減衰力可変機構43のディスク142が通路190の一方への流通を遮断し、他方への流通を許容するチェック弁185をも構成するため、一層の小型化、軽量化、簡素化、部品点数の低減および低コスト化が図れる。
ディスク142が金属のみからなるプレーンディスクであり、ゴム付ディスクではないため、温度による特性変化、経時変化、ばらつきの低減が可能となる。
「第2実施形態」
次に、第2実施形態を主に図5に基づいて第1実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
第2実施形態においては、ケース部材145のケース部材本体141が第1実施形態と一部異なっている。第2実施形態のケース部材本体141は、内側円筒状部152が第1実施形態よりも軸方向に短く、第1実施形態の軸方向溝161および径方向溝162は形成されていない。また、第2実施形態のケース部材本体141に、規制部155が外側円筒状部154と一体に形成されており、溝部165は形成されていない。また、第2実施形態のケース部材本体141は、貫通孔150が軸方向の外側円筒状部154とは反対側の小径穴部241と軸方向の外側円筒状部154側の大径穴部242とを有しており、小径穴部241で取付軸部28に嵌合している。
第2実施形態においては、ケース部材145の底部材144も第1実施形態と一部異なっている。第2実施形態の底部材144は、第1実施形態の内フランジ部168が形成されておらず、底部167に取付軸部28を嵌合させている。
第2実施形態においては、ディスク142が第1実施形態と一部異なっており、有孔円板状をなして取付軸部28を内側に嵌合させている。第2実施形態では、ディスク142の底部材144とは反対側にディスク251が重ねられている。このディスク251も取付軸部28を内側に嵌合させている。ディスク251は、ディスク142と同外径であり、外周部に切欠252が形成されている。ディスク251は、ディスク142の規制部155側への変形時に、ディスク142と規制部155との間に切欠252を介在させてディスク142および自らの規制部155への張り付きを防止する。
第2実施形態においては、ディスク251の底部材144とは反対側に、ディスク251よりも外径が小径の環状部材255が重ねられており、この環状部材255の底部材144とは反対側にバネディスク256(弾性部材)が重ねられている。さらに、このバネディスク256の底部材144とは反対側に、環状部材255と共通部品である環状部材257が重ねられており、この環状部材257の底部材144とは反対側に、環状部材257よりも外径が大径のディスク258が重ねられている。これら環状部材255、バネディスク256、環状部材257およびディスク258も取付軸部28を内側に嵌合させている。ディスク142、ディスク251、環状部材255、バネディスク256、環状部材257およびディスク258が、取付軸部28のオネジ31へのナット176の締結により、底部材144の底部167とケース部材本体141の内側円筒状部152とにクランプされている。
バネディスク256は、第1実施形態のスプリング143にかえてディスク142を付勢するために設けられるもので、環状部材255,257の外径よりも大径の外径を有する平板状の基板部261と、基板部261から延出する押圧板部262とを有している。基板部261は有孔円板状であり内側に取付軸部28を嵌合させている。押圧板部262は、基板部261の外周縁部から軸方向一側かつ径方向外方に傾斜しつつ延出している。押圧板部262は、基板部261の円周方向に間隔をあけて複数形成されており、ディスク251側に延出している。バネディスク256は、複数の押圧板部262が、ディスク251の天井部151側の面に当接し、このディスク251を介してディスク142をシート面171側に付勢してシート面171に当接させる。
ディスク258には、ピストンロッド21の取付軸部28に嵌合する内周縁部から径方向外側に延在する切欠265が形成されている。切欠265内の通路部は、ケース部材本体141の大径穴部242内の通路部と、取付軸部28の通路溝30内の通路部とに常時連通しており、ピストン18の通路穴37内の通路部と背圧室80とを可変室181に常時連通させている。切欠265内の通路部は、通路190の一部を構成している。
このような構成の第2実施形態によれば、ディスク142が、部分的にクランプされるクランプタイプであるため、バルブ剛性が上がり、周波数に対する減衰力の可変特性が緩やかになり、また、ソフト側の減衰力がやや上がる。また、ディスク142のバルブ剛性が上がったことにより、その分、ストッパ面173に接触したときの非線形性が弱くなり、作動が滑らかになる。
「第3実施形態」
次に、第3実施形態を主に図6に基づいて第1実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
第3実施形態においては、ピストンロッド21の取付軸部28に、軸方向のオネジ31側の先端部に開口する軸方向穴271が形成されている。また、取付軸部28には、ピストン18の大径穴部202と取付軸部28との間の通路部を軸方向穴271内に連通させる径方向穴272と、パイロットケース55の大径穴部76と取付軸部28との間の通路部を軸方向穴271内に連通させる径方向穴273と、が形成されている。
第3実施形態においては、ディスク142およびスプリング143を収容する、第1実施形態と異なるケース部材281を有している。第3実施形態のケース部材281は、第1実施形態のナット176にかえて設けられて、ピストンロッド21のオネジ31に螺合される。ケース部材281は、ピストンロッド21のオネジ31に螺合されるメネジ282が形成された蓋部材283と、この蓋部材283にその開口側が閉塞されるように取り付けられる有底円筒状のケース部材本体284とからなっている。
蓋部材283は、略円筒状の蓋筒部291と、この蓋筒部291の軸方向の端部から径方向外側に延出する円板状の蓋フランジ部292とを有している。蓋筒部291の内周部に上記したメネジ282が形成されている。
ケース部材本体284は、略円筒状の筒部295と、この筒部295の軸方向の端部を閉塞する底部296と、筒部295の軸方向の底部296とは反対側の係止部297とを有している。ケース部材本体284には、円筒状をなす状態の係止部297に、蓋部材283が、蓋筒部291の突出側を先側にして開口側から嵌合される。この状態で係止部297の開口側の端部が内側に加締められることで、ケース部材本体284に蓋部材283が固定され一体化されてケース部材281を構成する。
上記したディスク62に環状部材299が当接しており、ケース部材281は、メネジ282において取付軸部28のオネジ31に螺合されて、蓋部材283において環状部材299に当接している。ケース部材281の底部296の外周側には、オネジ31への螺合時に螺合工具を係合させる工具係合部298が形成されている。
ケース部材本体284の底部296に、円環状のシート面171を有するディスク当接部172と、円形状のストッパ面173を有する凹部174と、ストッパ面173の径方向の中央の1カ所のみの貫通穴177とが形成されている。
第3実施形態においては、ディスク142が無孔円板状であり、ディスク142が底部296に撓み可能な状態で配置されている。ケース部材281には、このディスク142により、蓋部材283側の可変室181と、ケース部材本体284の底部296側の可変室182とが画成されている。ディスク142の外径側と、蓋部材283の蓋フランジ部292との間に、ディスク142をシート面171に当接するように付勢するスプリング143が配置されている。
軸方向穴271内の通路部および径方向穴272内の通路部が可変室181に常時連通しており、通路190の一部を構成している。径方向穴273内の通路部が背圧室80に連通しており、通路133の一部を構成している。
第3実施形態においては、ディスク142の撓み剛性を低く設定しやすくなるため、第1実施形態より減衰力特性のチューニングの自由度は大きい。
上記実施形態は、複筒式の油圧緩衝器に本発明を用いた例を示したが、これに限らず、外筒をなくしシリンダ2内の下室20の上室19とは反対側に摺動可能な区画体でガス室を形成するモノチューブ式の油圧緩衝器に用いてもよく、ディスクにシール部材を設けた構造のパッキンバルブを使用した圧力制御バルブを含むあらゆる緩衝器に用いることができる。勿論、上記した縮み側の減衰力発生機構42に本発明を適用したり、上記したベースバルブ25に本発明を適用することも可能である。また、シリンダ2の外部にシリンダ2内と連通する油通路を設け、この油通路に減衰力発生機構を設ける場合にも適用可能である。また、上記実施形態では、油圧緩衝器を例に示したが、流体として水や空気を用いることもできる。
以上に述べた実施形態の第1の態様は、作動流体が封入されるシリンダと、前記シリンダ内に摺動可能に嵌装され、該シリンダ内を2つのシリンダ室に区画するピストンと、一端側が前記ピストンに連結されると共に他端側が前記シリンダの外部に延出されるピストンロッドと、前記ピストンの移動により一方の前記シリンダ室から作動流体が流れ出す第1通路と、前記第1通路と並列に設けられる第2通路と、前記第1通路に設けられて減衰力を発生させる減衰力発生機構と、内部に前記第2通路の少なくとも一部が形成される筒状のケース部材と、前記ケース部材内の底部に撓み可能な状態で配置され、弾性部材によって付勢されるディスクと、前記ディスクにより画成されて設けられる前記ケース部材内の2つのケース室と、を有し、前記ディスクが前記第2通路の少なくとも一方への作動流体の流通を遮断することを特徴とする。これにより、軽量化が可能となる。
第2の態様は、第1の態様において、前記ケース部材内には軸部が配置され、前記軸部は前記ディスクを貫通して設けられることを特徴とする。これにより、小型化が可能となる。
第3の態様は、第1または第2の態様において、前記ディスクが前記第2通路の一方への流通を遮断し、他方への流通を許容することを特徴とする。これにより、ディスクがチェック弁の弁体となる。