JP6875916B2 - 高強度鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
引張強度、強度延性バランス、降伏比、深絞り特性および穴広げ率それぞれについて、具体的には、以下のことが求められている。
引張強度については、980MPa以上であることが求められている。さらに引張強度については、溶接部においても十分な値を有することが求められている。具体的には、スポット溶接部の十字引張強度は6kN以上であることが求められている。
また、使用中に負荷できる応力を高くするためには、高い引張強度(TS)に加えて高い降伏強度(YS)を有する必要がある。また、衝突安全性等を確保する観点から、鋼板の降伏強度を高めることも必要である。このため、具体的には0.75以上の降伏比(YR=YS/TS)が求められている。
C :0.15質量%〜0.35質量%、
SiとAlの合計:0.5質量%〜3.0質量%、
Mn:1.0質量%〜4.0質量%、
P :0.05質量%以下、
S :0.01質量%以下、
を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなり、
鋼組織が、
フェライト分率が5%以下であり、
焼戻しマルテンサイトと焼戻しベイナイトの合計分率が60%以上であり、
残留オーステナイト量が10%以上であり、
MAの平均サイズが1.0μm以下であり、
残留オーステナイトの平均サイズが1.0μm以下であり、
サイズ1.5μm以上の残留オーステナイトが全残留オーステナイト量の2%以上である高強度鋼板である。
前記圧延材をAc3点以上の温度に加熱しオーステナイト化することと、
前記オーステナイト化後、650℃〜500℃の間を平均冷却速度15℃/秒以上、200℃/秒未満で冷却し、300〜500℃の範囲内で10℃/秒以下の冷却速度で10秒以上、300秒未満滞留させることと、
前記滞留の後、300℃以上の温度から100℃〜300℃の間の冷却停止温度まで10℃/秒以上の平均冷却速度で冷却することと、
前記冷却停止温度から300〜500℃範囲にある再加熱温度まで加熱することと、
を含む、高強度鋼板の製造方法である。
以下に本発明の高強度鋼板の鋼組織の詳細を説明する。
以下の鋼組織の説明では、そのような組織を有することにより各種の特性を向上できるメカニズムについて説明している場合がある。これらは本発明者らが現時点で得られている知見により考えたメカニズムであるが、本発明の技術的範囲を限定するものではないことに留意されたい。
フェライトは、一般的に加工性に優れるものの、強度が低いという問題を有する。その結果、フェライト量が多いと降伏比が低下する。このため、フェライト分率を5%以下(5体積%以下)とした。
フェライト分率は好ましくは3%以下、さらに好ましくは0%である。
フェライト分率は光学顕微鏡で観察し、白い領域を点算法で測定することにより求めることができる。すなわち、このような方法により、フェライト分率を面積比(面積%)で求めることができる。そして、面積比で求めた値をそのまま体積比(体積%)の値として用いてよい。
焼戻しマルテンサイトと焼戻しベイナイトの合計分率を60%以上(60体積%以上)とすることで高強度と高い穴広げ性を両立できる。焼戻しマルテンサイトと焼戻しベイナイトの合計分率は好ましくは70%以上である。
焼戻しマルテンサイトおよび焼戻しベイナイト量(合計分率)は、ナイタール腐食を行った断面のSEM観察を行い、MA(すなわち、残留オーステナイトと焼入れたままのマルテンサイトの合計)の分率を測定し、鋼組織全体から上述のフェライト分率とMA分率を引くことにより求めることができる。
残留オーステナイトは、プレス加工等の加工中に加工誘起変態により、マルテサイトに変態するTRIP現象を生じ、大きな伸びを得ることができる。また、形成されるマルテンサイトは高い硬度を有する。このため、優れた強度−延性バランスを得ることができる。残留オーステナイト量を10%以上(10体積%以上)とすることでTS×ELが20000MPa%以上と優れた強度−延性バランスを実現できる。
残留オーステナイト量は好ましくは15%以上である。
残留オーステナイト量は、X線回折によりフェライト(X線回折ではベイナイト、焼き戻しベイナイト、焼戻しマルテンサイトおよび未焼戻しのマルテンサイトを含む)とオーステナイトの回折強度比を求めて算出することにより得ることができる。X線源としてはCo−Kα線を用いることができる。
MAは硬質相であり、変形時に母相/硬質相界面近傍がボイド形成サイトとして働く。MAサイズが粗大になるほど、母相/硬質相界面への歪集中が起こり、母相/硬質相界面近傍に形成されたボイドを起点とした破壊を生じ易くなる。
このため、MAサイズ、とりわけMA平均サイズを1.0μm以下と微細にし、破壊を抑制することで穴広げ率λを向上させることができる。
MAの平均サイズは好ましくは0.8μm以下である。
残留オーステナイトの平均サイズを1.0μmとし、かつサイズ1.5μm以上の残留オーステナイトの全残留オーステナイトに占める比率(体積比)を2%以上とすることで、優れた深絞り性が得られることを見いだした。
この結果、深絞り性が改善される。残留オーステナイトのサイズを大きいほど、マルテンサイト変態を抑制する効果が大きく発現する。
本明細書においては、前記したフェライト、焼戻しマルテンサイト、焼戻しベイナイトおよび残留オーステナイト以外の鋼組織は特に規定していない。しかしながら、フェライト等の鋼組織以外にも、パーライト、焼き戻されていないベイナイトおよび焼き戻されていないマルテンサイトなどが存在することがある。フェライト等の鋼組織が、前述した組織条件を満たしていれば、パーライト等が存在しても、本発明の効果は発揮される。
以下に本発明に係る高強度鋼板の組成について説明する。まず、基本となる元素、C、Si、Al、Mn、PおよびSについて説明し、さらに選択的に添加してよい元素について説明する。
なお、成分組成について単位の%表示は、すべて質量%を意味する。
Cは所望の組織を得て、高い(TS×EL)等の特性を確保するために必須の元素であり、このような作用を有効に発揮させるためには0.10%以上添加する必要がある。ただし、0.35%超は溶接に適さず、十分な溶接強度を得ることができない。好ましくは0.13%以上、さらに好ましくは0.15%以上である。また、好ましくは0.30%以下である。C量が0.30%以下だとより容易に溶接することができる。
SiとAlは、それぞれ、セメンタイトの析出を抑制し、残留オーステナイトの形成を促進する働きを有する。このような作用を有効に発揮させるためにはSiとAlを合計で0.5%以上添加する必要がある。ただし、Siとアルミニウムの合計が2.5%を超えると鋼の変形能が低下して、TS×ELが低下する。好ましくは0.7%以上、さらに好ましくは1.0%以上である。また、好ましくは2.0%以下である。
なお、Alについては、脱酸元素として機能する程度の添加量、すなわち0.10質量%未満であってよく、また、例えばセメンタイトの形成を抑制し、残留オーステナイト量を増加させる目的等ために0.7質量%以上のようなより多くの量を添加してもよい。
マンガンはフェライトの形成を抑制する。このような作用を有効に発揮させるためには1.0%以上添加する必要がある。ただし、4.0%を超えるとベイナイト変態が抑制されるために比較的粗大な残留γを形成することができない。そのため深絞り性を改善させることができない。好ましくは1.5%以上、さらに好ましくは2.0%以上である。また、好ましくは3.5.%以下である。
Pは不純物元素として不可避的に存在する。0.05%を超えたPが存在するとELおよびλが劣化する。このため、Pの含有量は0.05%以下(0%を含む)とする。好ましくは、0.03%(0%を含む)以下である。
Sは不純物元素として不可避的に存在する。0.01%を超えたSが存在するとMnS等の硫化物系介在物を形成し、割れの起点となってλを低下させる。このため、Sの含有量は0.01%以下(0%を含む)とする。好ましくは、0.005%(0%を含む)以下である。
好ましい1つの実施形態では、残部は、鉄および不可避不純物である。不可避不純物としては、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる微量元素(例えば、As、Sb、Snなど)の混入が許容される。なお、例えば、PおよびSのように、通常、含有量が少ないほど好ましく、従って不可避不純物であるが、その組成範囲について上記のように別途規定している元素がある。このため、本明細書において、残部を構成する「不可避不純物」という場合は、別途その組成範囲が規定されている元素を除いた概念である。
Cu:0.50質量%以下、Ni:0.50質量%以下、Cr:0.50質量%以下、Mo:0.50質量%以下、B:0.01質量%以下、V:0.05質量%以下、Nb:0.05質量%以下、Ti:0.05質量%以下、Ca:0.05質量%以下、REM:0.01質量%以下、の1種または2種以上
Cu、Ni、Cr、MoおよびBは、焼き入れ性を高めることで、フェライトの形成を防止し、かつ、オーステナイトの安定化やベイナイトの微細化に寄与することで強度−延性バランスを向上する。
V、NbおよびTiは、母相を析出強化することで、延性を大きく劣化させずに強度を高めることで、強度−延性バランスを向上させる。
CaおよびREMは、MnSに代表される介在物を微細に分散させることで、強度−延性バランスおよび穴広げ性の改善に寄与する。ここで、本発明に用いられるREM(希土類元素)としては、Sc、Y、ランタノイド等が挙げられる。
ただし、これらの元素を過剰に含有させても、上記それぞれの効果が飽和してしまい経済的に無駄であるので、これらの元素は上記各上限値以下の量とするのが好ましい。
上述のように本発明の高強度鋼板は、TS、YR、TS×EL、LDRおよびλが何れも高いレベルにある。本発明の高強度鋼板のこれらの特性について以下に詳述する。
980MPa以上のTSを有する。これにより十分な強度を確保できる。
0.75以上の降伏比を有する。これにより上述の高い引張強度と相まって高い降伏強度を実現でき、深絞り加工等の加工により得た最終製品を高い応力下で使用することができる。好ましくは、0.80以上の降伏比を有する。
TS×ELが20000MPa%以上である。20000MPa%以上のTS×ELを有することで、高い強度と高い延性とを同時に有する、高いレベルの強度延性バランスを得ることができる。好ましくは、TS×ELは23000MPa%以上である。
LDRは深絞り性の評価に用いられている指標である。円筒絞り成形において、得られる円筒の直径をdとし、1回の深絞り加工で破断を生じずに円筒を得ることができる円盤状の鋼板(ブランク)の最大直径をDとし、d/DをLDR(Limiting Drawing Ratio)という。より詳細には、板厚1.4mmで各種径を有する円盤状の試料を、パンチ径50mm、パンチ角半径6mm、ダイ径55.2mm、ダイ角半径8mmの金型で円筒深絞りを行い、破断することなく絞り抜けた試料径(最大直径D)を求めることによりLDRを求めることができる。
穴広げ率λは、JIS Z 2256に従って求める。試験片に直径d0(d0=10mm)の打ち抜き穴を空け、先端角度が60°のポンチをこの打ち抜き穴に押し込み、発生した亀裂が試験片の板厚を貫通した時点の打ち抜き穴の直径dを測定し、下記の式より求める。
λ(%)={(d−d0)/d0}×100
スポット溶接部の十字引張強度はJIS Z 3137に則って評価する。スポット溶接の条件は鋼板(後述の実施例では厚さ1.4mmの鋼板)を2枚重ねたものを用い、ドームラジアス型の電極で加圧力4kN、電流を6kAから12kAまで0.5kAピッチでスポット溶接を実施する。これにより、ちりが発生する最低電流を求める。そして。ちりが発生した最低電流よりも0.5kA低い電流でスポット溶接した継ぎ手の十字引張強度を測定する。
次に本発明に係る高強度鋼板の製造方法について説明する。
本発明者らは、所定の組成を有する圧延材に詳細を後述する熱処理(マルチステップのオーステンパー処理)を行うことにより、上述の所望の鋼組織を有し、その結果、上述の所望の特性を有する高強度鋼板を得ること見いだしたのである。
以下にその詳細を説明する。
熱処理を施す圧延材は、通常、熱間圧延後、冷間圧延を行って製造する。しかし、これに限定されるものでなく熱間圧延および冷間圧延のいずれか一方を行って製造してもよい。また、熱間圧延および冷間圧延の条件は特に限定されるものではない。
図1の[1]および[2]に示すように、Ac3点以上の温度に加熱しオーステナイト化する。この加熱温度で1〜1800秒保持してよい。加熱温度の上限は、好ましくは、Ac3点以上、Ac3点+100℃以下である。Ac3点+100℃以下の温度とすることで結晶粒の粗大化を抑制できるからである。加熱温度は、より好ましくはAc3点+10℃以上、Ac3点+90℃以下、さらに好ましくは、Ac3点+20℃以上、Ac3点+80℃以下である。より完全にオーステナイト化しフェライトの形成を抑制できるとともに、結晶粒の粗大化をより確実に抑制できるからである。
図1の[1]で示す、オーステナイト化時の加熱は任意の加熱速度で行ってよいが、好ましい平均加熱速度として1℃/秒以上、20℃/秒を挙げることができる。
上記のオーステナイト化後、冷却し、図1の[5]に示すように。300〜500℃の温度範囲内で10℃/秒以下の冷却速度で10秒以上、300秒未満滞留させる。
冷却は、少なくとも650℃〜500℃の間は、平均冷却速度15℃/秒以上、200℃/秒未満で冷却する。平均冷却速度15℃/秒以上とすることで、冷却中のフェライトの形成を抑制するためである。また、冷却速度を200℃/秒未満とすることで急激な冷却よる過大な熱歪みの発生を防止できる。このような冷却の好ましい例として、図1の[3]に示すように、650℃以上である急冷開始温度までは、0.1℃/秒以上、10℃/秒以下の比較的低い平均冷却速度で冷却し、図1の[4]に示すように、急冷開始温度から、500℃以下である滞留開始温度まで平均冷却速度20℃/秒以上、200℃/秒未満で冷却することを挙げることができる。
この滞留により、部分的にベイナイトを形成させる。そして、ベイナイトはオーステナイトより炭素の固溶限が低いことから、固溶限を超えた炭素をはき出す。この結果、ベイナイト周囲に炭素が濃化したオーステナイトの領域が形成される。
この領域が後述する冷却、再加熱を経て、やや粗大な残留オーステナイトとなる。このやや粗大な残留オーステナイトを形成することで、上述のように深絞り性を高くすることができる。
また、滞留時間が10秒より短いと、炭素濃化領域の面積が小さくなり、粗大な残留オーステナイトの量が不足し、深絞り性が低下する。一方、滞留時間が300秒以上になると、炭素濃化領域が大きくなりすぎて、残留オーステナイトだけでなく、MAも粗大になるため、穴広げ率が低下する。
また、滞留中の冷却速度が10℃/秒より大きいと十分なベイナイト変態が起こらず、従って、十分な炭素濃化領域が形成されず、粗大な残留オーステナイトの量が不足する。
更に好ましくは340〜460℃の温度範囲内で3℃/秒以下の冷却速度で10秒以上滞留させ、その間、一定温度で5〜60秒保持する。
上述の滞留後、図1の[6]に示すように300℃以上の第2冷却開始温度から100℃〜300℃の間の冷却停止温度まで10℃/秒以上の平均冷却速度で冷却する。好ましい実施形態の1つでは、図1の[6]に示すように、上述の滞留の終了温度(例えば、図1の[5]に示す保持温度)を第2冷却開始温度とする。
この冷却により、上述の炭素濃化領域をオーステナイトとして残したまま、マルテンサイト変態を起こさせる。冷却停止温度を100℃以上、300℃未満の温度範囲内で制御することで、マルテンサイトに変態せずに残存するオーステナイトの量を調整して、最終的な残留オーステナイト量を制御する。
冷却停止温度が300℃以上だと、粗大な未変態オーステナイトが増え、その後の冷却でも残存することで、最終的にMAサイズが粗大になり、穴広げ率λが低下する。
なお、好ましい冷却速度は15℃/℃以上であり、好ましい冷却停止温度は120℃以上、280℃以下である。更に好ましい冷却速度は20℃/s以上であり、更に好ましい冷却停止温度は140℃以上、260℃以下である。
図1の[8]に示すように、上述の冷却停止温度から300〜500℃範囲にある再加熱温度まで加熱する。加熱速度は特に制限されない。再加熱温度に到達した後は、図1の[9]に示すようにその温度で保持することが好ましい。好ましい保持時間として50〜1200秒を挙げることができる。
再加熱温度が300℃より低いと、炭素の拡散が不足して十分な残留オーステナイト量が得られずTS×ELが低下する。また、保持を行わないまたは保持時間が50秒より短いと、同様に炭素の拡散が不足する虞がある。このため、再加熱温度で50秒以上の保持を行うのが好ましい。
再加熱温度が500℃より高いと炭素がセメンタイトとして析出し、十分な量の残留オーステナイトが得られなくなるため、TS×ELが低下する。また保持時間が1200秒より長いと、同業に、炭素がセメンタイトとして析出する虞がある。このため、保持時間は1200秒以下であることが好ましい。
好ましい再加熱温度は、320〜480℃であり、この場合、保持時間の上限は900秒以下であることが好ましい。更に好ましい再加熱温度は、340〜460℃であり、この場合、保持時間の上限は600秒以下であることが好ましい。
以上の熱処理により本発明の高強度鋼板を得ることができる。
表1に記載した化学組成を有する鋳造材を真空溶製で製造した後、この鋳造材を熱間鍛造で板厚30mmの鋼板にした後、熱間圧延を施した。なお、表1には組成から計算したAc3点も記載した
熱間圧延の条件は本特許の最終組織・特性に本質的な影響を施さないが、1200℃に加熱した後、多段圧延で板厚2.5mmとした。この時、熱間圧延の終了温度は880℃とした。その後、600℃まで30℃/秒で冷却し、冷却を停止し、600℃に加熱した炉に挿入後、30分保持し、その後、炉冷し、熱延鋼板とした。
この熱延鋼板に酸洗を施して表面のスケールを除去した後、1.4mmまで冷間圧延を施した。この冷間圧延板に熱処理を行い、サンプルを得た。熱処理条件を表2に示した。なお、表2中の例えば、[2]のように[ ]を内に示した番号は、図1中に[ ]内に示した同じ番号のプロセスに対応する。表2において、サンプルNo.1、4および7は、図1の[5]に相当する工程において、300〜500℃の温度範囲内で10℃/秒以下の冷却速度で10秒以上滞留させなかったサンプルである。特に、サンプルNo.1および26は、700℃で急冷を開始後、200℃まで一気に冷却したサンプル(図1で[5]、[6]に相当する工程をスキップしたサンプル)であり、サンプルNo.7は、100℃以上、300℃未満の間の冷却停止温度まで冷却していないサンプル(図1で[6]〜[8]に相当する工程をスキップしたサンプル)である。
なお,表1〜表4において、下線を伏した数値は、本発明の範囲から外れていることを示している。ただし、「−」については、本発明の範囲から外れていても下線を付していないことに留意されたい。
それぞれのサンプルについて上述した方法により、フェライト分率、焼戻しマルテンサイトと焼戻しベイナイトの合計分率(表3には「焼戻しM/B」記載)、残留オーステナイト量(残留γ量)、MAの平均サイズ、残留オーステナイトの平均サイズ(残留γ平均サイズ)、サイズ1.5μm以上の残留オーステナイトの全オーステナイトに占める比率(表3には、「1.5μm以上の残留γ比率」と記載)を求めた。残留オーステナイト量の測定には、株式会社リガク製2次元微小部X線回折装置(RINT−RAPIDII)を用いた。得られた結果を表3に示す。
得られたサンプルについて、引張試験機を用いて、YS、TS、ELを測定し、YRおよびTS×ELを算出した。また、上述の方法により穴拡げ率λと、LDRと、スポット溶接部の十字引張強度(SW十字引張)を求めた。得られた結果を表4に示す。
本発明の条件を満たす実施例サンプルである、サンプルNo9、11〜13、17〜21および36〜46は、いずれも980MPa以上の引張強度、0.75以上の降伏比、20000MPa%以上のTS×EL、2.05以上のLDR、20%以上の穴広げ率および6kN以上のSW十字引張を達成している。
これに対して、サンプルNo.1は、オーステナイト化後、300〜500℃の温度範囲内で滞留させなかったことから、サイズ1.5μm以上の残留オーステナイト量が十分でなく、この結果、十分な深絞り性が得られなかった。
サンプルNo.2は、オーステナイト化後、300〜500℃の温度範囲内での滞留時間が長いため、また、サンプルNo.3は、第2冷却開始温度(表2に示す「[5]保持温度」)から冷却停止温度までの平均冷却速度が遅いため、それぞれ、MA平均サイズが過大となり、この結果、十分な穴広げ率が得られなかった。
サンプルNo.5は、オーステナイト化後、300〜500℃の温度範囲より高い温度で滞留させたため、MA平均サイズが過大となり、この結果、十分な穴広げ率が得られなかった。
サンプルNo.6は、オーステナイト化後、300〜500℃の温度範囲より低い温度で滞留させたため、サイズ1.5μm以上の残留オーステナイト量が十分でなく、この結果、十分な深絞り性が得られなかった。
サンプルNo.10は、冷却停止温度が100℃〜300℃の温度範囲より低いため、残留オーステナイト量が少なく、かつサイズ1.5μm以上の残留オーステナイト量が十分でなく、この結果、十分なTS×ELの値および十分な深絞り性が得られなかった。
サンプルNo.15は、再加熱温度が300℃〜500℃の温度範囲より高いため、残留オーステナイトが少なく、MA平均サイズが過大で、かつサイズ1.5μm以上の残留オーステナイト量が十分でなく、この結果、十分な引張強度、TS×ELおよび深絞り性が得られなかった。
サンプルNo.16は、再加熱温度が300℃〜500℃の温度範囲より低いため、フェライト量が過大で、残留オーステナイトが少なく、MA平均サイズが過大で、かつサイズ1.5μm以上の残留オーステナイト量が十分でなかった。この結果、十分な降伏比、TS×ELおよび深絞り性が得られなかった。
サンプルNo.23は、Mn量が多く、残留オーステナイト量が不足し、かつサイズ1.5μm以上の残留オーステナイト量が十分でなく、この結果、十分なTS×ELおよび深絞り性が得られなかった。
サンプルNo.25は、Si+Al量が少なく、焼戻しマルテンサイトと焼戻しベイナイトの合計量が不足し、かつ残留オーステナイトが少なく、この結果、十分なTS×EL、穴広げ率および深絞り性が得られなかった。
サンプルNo.27は、Si+Al量が過多であり、十分なTS×ELが得られなかった。
Claims (6)
- C :0.15質量%〜0.35質量%、
SiとAlの合計:1.06質量%〜2.13質量%、
Mn:1.60質量%〜2.51質量%、
P :0.05質量%以下、
S :0.01質量%以下、
を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなり、
鋼組織が、フェライト、MA、焼戻しマルテンサイトおよび焼戻しベイナイトからなり、かつ
フェライト分率が0%であり、
焼戻しマルテンサイトと焼戻しベイナイトの合計分率が60%以上であり、
残留オーステナイト量が10%以上であり、
MAの平均サイズが1.0μm以下であり、
残留オーステナイトの平均サイズが1.0μm以下であり、
サイズ1.5μm以上の残留オーステナイトが全残留オーステナイト量の2%以上である高強度鋼板。 - C量が0.30質量%以下である請求項1に記載の高強度鋼板。
- Al量が0.10質量%未満である請求項1または2に記載の高強度鋼板。
- さらに、
Cu :0.50質量%以下、
Ni :0.50質量%以下、
Cr :0.50質量%以下、
Mo :0.50質量%以下、
B :0.01質量%以下、
V :0.05質量%以下、
Nb :0.05質量%以下、
Ti :0.05質量%以下、
Ca :0.05質量%以下、
REM:0.01質量%以下、
の1種または2種以上を含む請求項1〜3のいずれか1項記載の高強度鋼板。 - 請求項1〜4のいずれか1項に記載の高強度鋼板を製造する方法であって、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の成分組成を有する圧延材を用意することと、
前記圧延材をAc3点以上の温度に加熱しオーステナイト化することと、
前記オーステナイト化後、650℃〜500℃の間を平均冷却速度15℃/秒以上、200℃/秒未満で冷却し、300〜500℃の範囲内で10℃/秒以下の冷却速度で10秒以上、300秒未満滞留させることと、
前記滞留の後、300℃以上の温度から100℃〜300℃の間の冷却停止温度まで10℃/秒以上の平均冷却速度で冷却することと、
前記冷却停止温度から300℃〜500℃の範囲にある再加熱温度まで加熱することと、
を含む、高強度鋼板の製造方法。 - 前記の滞留が300〜500℃の範囲内の一定温度で保持することを含む請求項5に記載の製造方法。
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