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JP6874909B1 - タンデム圧延機の板厚スケジュール計算方法および圧延プラント - Google Patents

タンデム圧延機の板厚スケジュール計算方法および圧延プラント Download PDF

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JP6874909B1 JP2020533033A JP2020533033A JP6874909B1 JP 6874909 B1 JP6874909 B1 JP 6874909B1 JP 2020533033 A JP2020533033 A JP 2020533033A JP 2020533033 A JP2020533033 A JP 2020533033A JP 6874909 B1 JP6874909 B1 JP 6874909B1
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Abstract

板厚スケジュール計算方法は、複数のステップを備える。一つのステップは、圧延荷重モデルまたはモータパワーモデルを含む圧延モデル式を取得する。他のステップは、各圧延スタンドの圧延荷重とモーターパワーと圧下率とのうち少なくとも一つのパラメータを制限するパラメータ制限が生じているか否かの判定をする。更に他のステップは、パラメータ制限が生じていないときに第一導関数を選択しパラメータ制限が生じているときに第二導関数を選択するように判定の結果に応じた導関数の選択を各圧延スタンドについて行う。更に他のステップは、第一導関数と第二導関数とのうち判定の結果に応じて選択された導関数を含む行列を用いて、各圧延スタンドの出側板厚を修正する。

Description

本出願は、タンデム圧延機の板厚スケジュール計算方法および圧延プラントに関するものである。
従来、例えば日本特開2000−167612号公報に記載されているように、板厚スケジュールを自動的に修正する計算方法が知られている。上記従来の技術は、圧下率、圧延荷重および圧延トルク等がリミットを超過した場合に、当該圧延スタンドの荷重比目標値を下げることで板厚スケジュールを自動的に修正している。
日本特開2000−167612号公報
本願発明者は、上記従来の板厚スケジュール計算方法の性能が修正対象の圧延スタンド数または修正量に応じて低下するという課題を発見した。具体的には、上記従来の板厚スケジュール修正方法は、場合によって、良好に機能することもあれば、計算が停滞することもある。良好に機能するのは、板厚スケジュール修正を要する圧延スタンドの数が少ない場合と、板厚スケジュール修正量が小さい場合とである。
その一方で、計算が停滞するのは、板厚スケジュール修正を要するスタンドが例えば過半数などの多数存在する場合と、板厚スケジュール修正量がある程度大きい場合とである。計算の停滞とは、具体的には、例えば、計算負荷が高くなったり、繰り返し計算が収束しにくくなったりすることを含んでいる。このように上記従来の技術は未だ改良の余地を残すものであった。
本出願は、上述のような課題を解決するためになされたもので、板厚スケジュールの計算が停滞することを抑制するように改善された板厚スケジュール計算方法および圧延プラントを提供することを目的とする。
本出願にかかるタンデム圧延機の板厚スケジュール計算方法は、次に述べる複数のステップを備える。一つのステップは、複数の圧延スタンドそれぞれについて、圧延荷重比とモーターパワー比とのうち一方の第一の値を含む圧延モデル式を取得する。他の一つのステップは、前記各圧延スタンドの圧延荷重とモーターパワーと圧下率とのうち少なくとも一つを第二の値としたときに、前記第二の値を制限するパラメータ制限が生じているか否かの判定をする。更に他の一つのステップは、第一導関数と第二導関数とのうち一方を前記第一の値に基づく誤差を評価するための評価関数の導関数として選択するステップであって、前記第一導関数は前記第一の値で指定される比を満たすように求められる関数であり、前記第二導関数は前記第二の値が前記パラメータ制限に従って設定されるように予め構築され、前記パラメータ制限が生じていないときに前記第一導関数を選択し前記パラメータ制限が生じているときに前記第二導関数を選択するように前記判定の結果に応じた導関数の選択を前記各圧延スタンドについて行う。更に他の一つのステップは、前記第一導関数と前記第二導関数とのうち前記判定の結果に応じて選択された一方の導関数を含む行列を用いて、前記各圧延スタンドの出側板厚を修正する。
本出願にかかる圧延プラントは、複数の圧延スタンドと、前記複数の圧延スタンドの各圧延スタンドに設けられた圧下装置と、前記各圧延スタンドが持つロールを回転させる電動機と、前記圧下装置の圧延荷重比と前記電動機のモーターパワー比とのうち一方の第一の値に基づいて前記各圧延スタンドの板厚スケジュールを計算するように構築されたプロセス計算機と、を備える。
上記圧延プラントにおいて、前記プロセス計算機は、次に述べる複数の処理を実行するように構築される。一つの処理は、前記第一の値を含む圧延モデル式を前記各圧延スタンドについて取得する。他の一つの処理は、前記各圧延スタンドの圧延荷重とモーターパワーと圧下率とのうち少なくとも一つを第二の値としたときに、前記第二の値を制限するパラメータ制限が生じているか否かの判定をする。更に他の一つの処理は、第一導関数と第二導関数とのうち一方を前記第一の値に基づく誤差を評価するための評価関数の導関数として選択するステップであって、前記第一導関数は前記第一の値で指定される比を満たすように求められる関数であり、前記第二導関数は前記第二の値が前記パラメータ制限に従って設定されるように予め構築され、前記パラメータ制限が生じていないときに前記第一導関数を選択し前記パラメータ制限が生じているときに前記第二導関数を選択するように前記判定の結果に応じた導関数の選択を前記各圧延スタンドについて行う。更に他の一つの処理は、前記第一導関数と前記第二導関数とのうち前記判定の結果に応じて選択された一方の導関数を含む行列を用いて、前記各圧延スタンドの出側板厚を修正する。
上述した板厚スケジュール計算方法のステップおよびプロセス計算機の処理は、前後の関係が明確に限定されている場合を除いて、その順序が変更されてもよい。
本出願によれば、圧延に関するパラメータ制限が発生したかどうかに応じて計算に用いる関数を変更する新規な技術が用いられている。これにより計算内容を適切に修正することができるので、板厚スケジュールの計算が停滞することを抑制することができる。
実施の形態にかかる圧延プラントの構成を示す模式図である。 実施の形態にかかる板厚スケジュール計算方法で用いられるヤコビ行列の構成を説明するための図である。 実施の形態にかかる圧延プラントで実行される制御を説明するためのフローチャートである。 実施の形態にかかる圧延プラントが備えるプロセス計算機のハードウェア構成の一例を示す図である。
[実施の形態のシステム構成]
図1は、実施の形態にかかる圧延プラント50の構成を示す模式図である。圧延プラント50は、単数または複数の圧延スタンドからなる。圧延プラント50は、鉄鋼又はその他の金属材を熱間または冷間で板状に圧延するものである。
圧延プラント50は、加熱炉52と、一つの圧延スタンドを持つ粗圧延機53と、バーヒータ54と、仕上圧延機57と、水冷装置63と、巻取機61と、それらの間で被圧延材1を搬送するローラーテーブル(図示せず)とを備える。
粗圧延機53は、圧下装置(図示せず)およびロール回転用電動機(図示せず)を含んでいる。仕上圧延機57は、複数の圧延スタンドF〜Fを備える。各圧延スタンドF〜Fは、複数のロールと、圧下装置5と、ロール回転用の電動機7とを備えている。仕上圧延機57のスタンド数は限定がなく、例えば五基〜七基の圧延スタンドが設けられてもよいが、実施の形態は一例として五基とされる。
以下の説明では、上述した各圧延機の圧下装置およびロール回転用電動機などを、便宜上、圧延プラント50の「機器」と称することがある。機器には、圧延機の具体的構造に応じて、圧下装置と電動機の他にも様々なものが含まれてもよい。これらの機器はアクチュエータ(図示せず)を備える。
被圧延材51は、圧延プラント50で圧延される素材である。被圧延材51は、加熱炉52で昇温された後、圧延ラインのローラーテーブル(図示せず)の上に抽出される。この段階の被圧延材51は、例えば鋼片である。
被圧延材51が粗圧延機53に到達すると、圧延方向を変えながら繰り返し圧延されて被圧延材55となる。被圧延材55は、例えば数十ミリメートル程度の厚みを持つバーである。
次に、被圧延材55は、圧延スタンドF〜Fに順次咬込む。被圧延材55は、一方向に圧延され、所望の板厚となる。この段階の被圧延材1は、ストリップとも称される。
その後、被圧延材1は水冷装置63で冷却される。冷却後の被圧延材1は、巻取機61で巻き取られる。その結果、コイル状製品62が得られる。
圧延プラント50の要所には各種センサが設置されている。圧延プラント50の要所とは、例えば、加熱炉52の出側、粗圧延機53の出側、仕上圧延機57の出側、および巻取機61の入側などである。各種センサは、仕上圧延機57の圧延スタンドF〜Fの間にも設けられうる。
各種センサは、仕上圧延機57の入側温度計(Pyrometer)56と、板厚および板幅を計測する板厚板幅計58と、仕上圧延機57の出側温度計59と、圧延荷重センサ6とを含む。各種センサは、被圧延材1と各機器の状態とを逐次的に計測している。
圧延プラント50は、計算機を用いた制御システムにより運転されている。計算機は、ネットワークを介して互いに接続された上位計算機20とプロセス計算機21とを含む。プロセス計算機21には、ネットワークを介してインターフェース画面21aが接続されている。
上位計算機20は、予め設定された生産計画に基づいて、プロセス計算機21に圧延命令を指示する。圧延命令は、例えば、各被圧延材の目標寸法、及び、目標温度などを含む。目標寸法は、例えば、厚み、幅、および板クラウンなどを含む。目標温度は、例えば、仕上圧延機57の出側温度および巻取機61の入側温度などを含む。
加熱炉52から被圧延材51が抽出されると、プロセス計算機21は、上位計算機20からの圧延命令に従って圧延プラント50の各機器に対する設定値を算定する。プロセス計算機21は、算定した設定値をコントローラ22に出力する。設定値は、圧下装置5の圧下位置、ロール回転速度、ベンディング力、およびワークロールシフト量などを含んでいる。
被圧延材51、被圧延材55、および被圧延材1それぞれが各機器の手前の所定の位置まで搬送されると、コントローラ22は、設定値に基づき、圧延プラント50の各機器のアクチュエータ(図示せず)を操作する。圧延が開始されると、放射温度計、X線板厚計、ロードセルなどのセンサ計測値などに基づき、被圧延材1の目標寸法および目標温度などが圧延命令に適合するように、コントローラ22が各アクチュエータを逐次操作する。
プロセス計算機21の具体的構造に限定はないが、一例として次のようなものであってもよい。図4は、実施の形態にかかる圧延プラント50が備えるプロセス計算機21のハードウェア構成の一例を示す図である。
プロセス計算機21の演算処理機能は、図4の処理回路により実現されてもよい。この処理回路は、専用ハードウェア150であってもよい。この処理回路は、プロセッサ151及びメモリ152を備えていてもよい。この処理回路は、一部が専用ハードウェア150として形成され、更にプロセッサ151及びメモリ152を備えていてもよい。図4の例は、処理回路の一部が専用ハードウェア150として形成されるとともに、処理回路がプロセッサ151及びメモリ152をも備えている。
処理回路の少なくとも一部が、少なくとも1つの専用ハードウェア150であってもよい。この場合、処理回路は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、又はこれらを組み合わせたものが該当する。
処理回路が、少なくとも1つのプロセッサ151及び少なくとも1つのメモリ152を備えてもよい。この場合、プロセス計算機21の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェア及びファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ152に格納される。プロセッサ151は、メモリ152に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各部の機能を実現する。
プロセッサ151は、CPU(Central Processing Unit)、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSPとも呼ばれる。メモリ152は、例えば、RAM、ROM、フラッシュメモリー、EPROM、EEPROM等の、不揮発性又は揮発性の半導体メモリ等が該当する。
このように、処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、又はこれらの組み合わせによって、プロセス計算機21の各機能を実現することができる。
[実施の形態の板厚スケジュール計算方法]
圧延命令で命令された所望の目標板厚を達成するために、仕上圧延機57の板厚スケジュールが数式モデルで算定される。板厚スケジュールは、各圧延スタンドF〜Fの出側板厚を含んでいる。この数式モデルは、各圧延スタンドF〜Fの温度、圧延荷重、及び、圧延トルクなどを予測するための数式群である。
荷重比配分法に基づく板厚スケジュール計算では、荷重比γが用いられる。荷重比γは、各圧延スタンドF〜Fにおける荷重Pの配分比率である。
「荷重比配分法」の概要を説明する。圧延荷重は板クラウンを変化させる要因の一つであり、あるスタンドの圧延荷重が高いほど当該スタンド出側の板クラウンは大きくなる。したがって、クラウン比率変化を小さくし、平坦度を良好に保つためには、圧延荷重が各スタンドで同じように変化することが望ましい。ところが、圧延荷重は、圧延材温度の変動などにより、1本1本の圧延材毎、スタンド毎に刻々と変化し、これにより平坦度が悪化する場合がある。そこで、圧延材温度の変動などが生じても、各スタンドの出側板厚を自動的に調整し、圧延荷重の比率(即ち圧延荷重比)を可能な限り一定に保つ板厚スケジュール計算方法が考案されている。この計算方法によれば、何らかの外乱により圧延荷重が変動するとき、どのスタンドも圧延荷重の増減傾向がほぼ同じになるので、平坦度の悪化を抑制することができる。このような板厚スケジュール計算法は「荷重比配分法」と呼ばれる。
荷重比γは、以下のように定義される。なお、Nは圧延スタンド数であり、仕上圧延機57の場合はN=5である。また、iは、複数の圧延スタンドF〜Fを区別する識別子である。iには、仕上圧延機57の圧延スタンド番号(i=1〜N)が代入される。
Figure 0006874909
なお、この式(1)は、後述する式(2)と等価である。式(2)の値uは荷重比と荷重値の関係を示す。この値uは、各圧延スタンドF〜Fで共通である。以下の説明では、値uを、便宜上「圧延荷重項u」とも称する。
Figure 0006874909
この荷重比γが満たすべき数値を、便宜上、荷重比テーブル値γ TBLとも称す。実機では、プロセス計算機21が、例えば数表テーブル(ルックアップテーブル)の方式で荷重比テーブル値γ TBLを保存している。実際の設定計算が実行されるタイミングで、この数表テーブルが検索される。
なお、作業者(オペレータ)が、テーブル値を微調整できるようにしてもよい。微調整の仕組みは、オペレータが設定計算のインターフェース画面21aにオフセット値γ OFSを入力すると、入力したオフセット値γ OFSがテーブル値に加算されるように構築されてもよい。この微調整機能があるので、板厚スケジュール計算に用いる荷重比の目標値γ AIMは、次の式(3)で得られる。
Figure 0006874909
各圧延スタンドF〜Fの出側板厚とロール周速は、「体積速度一定則」を満たす。体積速度一定則は、「マスフロー一定速」とも称される。圧延スタンド間の揃速性を保つためである。マスフロー一定則は、以下の式(4)で表現できる。
Figure 0006874909
ここで、fは第i番目圧延スタンドFにおける先進率(−)である。hは第i番目圧延スタンドFの出側板厚(mm)であり、Vは第i番目圧延スタンドFのロール周速(m/s)であり、Uは体積速度(mm・m/s)である。
式(2)及び式(4)は、各圧延スタンドF〜Fの出側板厚hとロール周速Vとが満足すべき条件である。条件式の本数は2N本である。この非線形の連立方程式を数値的に解くためには、様々な方法がある。ただし、オンライン計算に適用するためには短時間で解が得られることが好ましい。
そこで、実施の形態では、比較的計算負荷の少ない方法であるニュートンラフソン法(Newton−Raphson法)を用いる。以下、その求解法が説明される。式(2)及び式(4)はそれぞれN個の式から成り、全部で2N個の式が与えられる。
変数は、初段圧延スタンドFの入側板厚hと、各圧延スタンドF〜Fの出側板厚h〜hと、ロール周速V〜Vと、マスフロー項Uと、圧延荷重項uとである。初段圧延スタンドFの入側板厚h(mm)と最終圧延スタンドFの出側目標板厚h(mm)とが既知である。これに対し、各圧延スタンドF〜Fの出側目標板厚が未知なので、未知の出側板厚はN−1個である。
ロール周速については、最終圧延スタンドFの速度V(mps)が既知である。すなわち実施の形態では圧延スタンドFの速度Vが既知である。Vは、最終圧延スタンドFの出側温度を目標値に一致させるように別途に決められる。これに対し、残るN−1個のロール周速が未知である。体積速度Uと圧延荷重項uも未知であるから、これらを上記出側目標板厚と上記ロール周速とに加えて、全部で2N個の未知の変数が存在する。
式(2)及び式(4)は、2N個の未知変数に対し、全部で2N個の式からなる。よって、この式はニュートンラフソン法によって解くことができる。これら未知変数のベクトルxは、次の式(5)で定義される。
Figure 0006874909
計算開始時には、式(5)の未知変数ベクトルxに、初期値が与えられる。この初期値は、解そのものには影響しないものの、繰り返し計算の収束性に影響を及ぼす。そこで、初期値は、過去に類似の製品を圧延した際の値などを参考にして、数表や簡易式として与えられてもよい。
式(2)及び式(4)をニュートンラフソン法で解くために、評価関数ベクトルgが導入される。式(2)及び式(4)を下記のように変形すると、誤差を評価する評価関数gと評価関数gi+Nが得られる。
Figure 0006874909
Figure 0006874909
評価関数gおよび評価関数gi+Nの全てを0に近づけるように、未知変数ベクトルxが繰り返し修正される。
ここで、式(6)及び式(7)を評価関数ベクトルgとすると、評価関数ベクトルgは次のように表される。
Figure 0006874909
ベクトル形式のニュートンラフソン法は、次のように表される。ここで、nは収束計算の繰返し回数である。
Figure 0006874909
Jはヤコビ行列である。ヤコビ行列Jは、次の式(10)のように2N×2Nの次元の行列である。実施の形態では一例としてN=5なので10×10の行列となる。
Figure 0006874909
ヤコビ行列Jに含まれる各偏微分項は、解析解または数値微分として得られる。詳細な方法は後述する。
一例として5つの圧延スタンドF〜Fを持つ圧延ラインの場合について説明する。未知変数ベクトルxが式(11)で示され、ヤコビ行列Jの非ゼロ成分が式(12)に示される。
Figure 0006874909
Figure 0006874909
実施の形態では、ヤコビ行列Jの逆行列J−1も計算される。逆行列の計算方法については、ガウス掃き出し法およびLU分解法などが知られており、それらを利用することができる。
式(9)により、逆行列J−1を用いて未知変数ベクトルxは次のように更新される。
Figure 0006874909
n番目の繰り返しにおける誤差が許容誤差εより小さくなるまで、計算が続行される。最終的に得られる未知変数ベクトルxの値は、同時に式(2)及び式(4)の両方を満たす解である。
繰り返し計算の収束判定条件は次の式(14a)および式(14b)の両方を満たすことである。
Figure 0006874909
Figure 0006874909
右辺の収束条件εは、要求される計算精度に対して十分に小さくされる。収束条件εは、例えば0.001程度としてもよい。
(変形例:パワー比配分法)
なお、実施の形態では荷重比配分法に基づく計算を行ったが、その代わりに変形例としてパワー比配分法に基づく板厚スケジュール計算が行われてもよい。
「パワー比配分法」の概要を説明する。パワー比配分法は、各スタンドのパワーの比を可能な限り一定に保つように板厚スケジュールを計算する計算方法である。パワー比配分法は、モータパワー(電力)を用いる。モーターパワーは、圧延荷重と相関があり、モーターのドライブ装置から実績値を得ることができる。
荷重比配分法とパワー比配分法とで、両者の計算内容はほぼ同様であるが、以下の点が異なる。
パワー比配分法による板厚スケジュール計算では、パワー比γを用いる。パワー比γは、各圧延スタンドF〜FにおけるモーターパワーPwの配分比率である。本変形例では、式(1)に代えて次の式(15)が用いられる。
Figure 0006874909
式(15)は、次の式(16)と等価である。本変形例では、式(2)に代えて次の式(16)が用いられる。式(16)のuはパワー比とパワー値の関係を示している。uは各圧延スタンドF〜Fで共通値である。式(16)のuはモーターパワー項でもある。
Figure 0006874909
パワー比配分法を用いる本変形例では、評価関数gi+Nについても、式(7)に代えて次の式(17)が用いられる。
Figure 0006874909
なお、ヤコビ行列のための導関数の計算法については、後述する。
(圧下率の直接指定)
次に任意の圧延スタンドに対して圧下率rを直接指定する場合について述べる。プロセス計算機21は、圧下率の目標値r TBLを数表テーブル(具体的にはルックアップテーブル)の方式で保存している。ルックアップテーブルは鋼種および目標板厚などの区分を持っていてもよい。
TBLを、「ルックアップテーブル参照値」とも称す。実際の設定計算が実行されるタイミングで、このテーブルが検索される。なお、ルックアップテーブル参照値r TBLがゼロの場合は目標値の指定がなかったものとして扱ってもよい。
作業者(オペレータ)は、インターフェース画面21aにオペレータ圧下率指定値r OPを入力することができる。入力があった場合、オペレータ圧下率指定値r OPが圧下率の目標値r AIMとして取り扱われる。オペレータ圧下率指定値r OPがゼロの場合には、目標値の指定がなかったものとして扱ってもよい。
したがって、板厚スケジュール計算に用いる圧下率目標値r AIMは、次の式で得られる。
Figure 0006874909
Figure 0006874909
なお、r TBL=0かつr OP=0の場合は、圧下率指定がなかったものとして取り扱われる。また、r TBL>0かつr OP>0の場合は、r OPが用いられる。
板厚スケジュール計算においては、まず、プロセス計算機21が、各圧延スタンドF〜Fについて圧下率指定がなされているかを順次チェックする。
第j番目圧延スタンドで圧下率指定がなされていた場合には、当該圧延スタンドFが荷重比配分法の対象外とされて、当該圧延スタンドFが指定された圧下率に基づいて制御される。具体的には、荷重比についての式(7)が、次の式(20)で置き換えられる。式(20)は、圧下率に対する制約を表している。r AIMは第j番目スタンドの圧下率指定値である。
Figure 0006874909
一例として、圧延プラント50において第三番目圧延スタンドFに圧下率指定がなされたと仮定する。この場合には、N=5かつj=3なので、式(8)の評価関数ベクトルgにおいてgが次の式(21)で置換される。
Figure 0006874909
(リミット超過判定)
また、プロセス計算機21は、各圧延スタンドF〜Fにおいて、リミット値を超過した項目がないかを順次チェックする。第j番目圧延スタンドFでリミット超過が発生した場合、当該圧延スタンドFが荷重比配分法の対象外とされ、当該圧延スタンドFがリミット値に基づいて制御される。具体的には、荷重比についての式(7)が、以下の各数式で置き換えられる。以下の各数式は、リミット超過項目に対する制約を表している。
(a)圧延荷重リミット
圧延荷重リミット超過の判定条件は、式(22)である。ここで、P MAXは荷重リミット値であり、εはマージン率である。マージン率εは例えば数%程度に設定してもよい。
Figure 0006874909
圧延荷重リミット超過時には、式(7)が次の式(23)で置換される。
Figure 0006874909
(b)モータパワーリミット
モータパワーリミット超過の判定条件は、式(24)である。ここで、Pw MAXは荷重リミット値であり、εPWはマージン率である。マージン率εPWは例えば数%程度に設定してもよい。
Figure 0006874909
圧延荷重リミット超過時には、式(7)が次の式(25)で置換される。
Figure 0006874909
(c)圧下率リミット
圧下率リミット超過の判定条件は、式(26)である。ここで、r MAXは圧下率リミット値であり、εはマージン率である。マージン率εは例えば数%程度に設定してもよい。
Figure 0006874909
圧下率リミット超過時には、式(7)が式(27)で置換される。
Figure 0006874909
なお、繰り返し計算の過程で一度リミット超過と判定されたものは、荷重配分比またはパワー配分比が指定された配分比を下回っている限り、その後もリミット超過したままとして扱ってもよい。
こうして得られた評価関数gを式(10)に適用することにより、圧下率指定、及び、リミット超過を考慮したヤコビ行列Jが得られる。このヤコビ行列Jを式(13)等に適用し、収束計算が行われる。これにより、圧下率指定、リミットチェックが無い場合と同様に未知変数ベクトルxの解が得られる。
プロセス計算機21は、板厚スケジュール計算結果をインターフェース画面21aに表示する。板厚スケジュール計算結果は、予め与えられた初段圧延スタンドFの入側板厚と、未知変数ベクトルxに含まれる各圧延スタンドF〜Fの出側板厚と、予め与えられた最終圧延スタンドFの出側板厚とを含んでいる。プロセス計算機21は、これらの計算結果どおりに、下位コントローラに設定値を出力する。
(導関数の詳細)
なお、前述した式(10)ヤコビ行列Jが含む導関数の項は、以下のように計算される。ここでは、図2を用いつつヤコビ行列Jの構成も説明する。図2は、実施の形態にかかる板厚スケジュール計算方法で用いられるヤコビ行列Jの構成を説明するための図である。ヤコビ行列Jは、第一成分グループMXと第二成分グループMXとを含んでいる。第一成分グループMXは、ヤコビ行列Jの中の一行〜N行の成分である。第二成分グループMXは、ヤコビ行列Jの中のN+1行〜2N行の成分である。
図2の第一成分グループMXの成分はマスフロー項である。マスフロー項は、下記の式(28)〜(31)のとおりである。
Figure 0006874909
Figure 0006874909
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なお、数値微分の微小変位Δhi−1とΔhは、第i番目圧延スタンドFの出側板厚の1%未満とされてもよい。
図2の第二成分グループMXの成分は、荷重比配分法が用いられるときには荷重比項であり、パワー比配分法が用いられるときにはパワー比項である。
荷重比項は、下記の式(32)〜(35)のとおりである。
Figure 0006874909
Figure 0006874909
Figure 0006874909
Figure 0006874909
なお、数値微分の微小変位ΔVは、第i番目圧延スタンドFのロール周速度Vの1%未満としてもよい。
パワー比項は、下記の式(36)〜(39)のとおりである。
Figure 0006874909
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Figure 0006874909
Figure 0006874909
(パラメータ制限があるときの導関数)
いずれかの圧延スタンドで、圧下率指定またはリミット超過が発生したと仮定する。圧下率指定とリミット超過をまとめて、「パラメータ制限」とも称する。パラメータ制限が発生した場合には、第二成分グループMXのうち、当該圧延スタンドの成分がその制限の種類に応じて下記のように置換される。圧下率指定とリミット超過とがいずれも発生していない圧延スタンドについては、当初の荷重比項またはパワー比項が保持されて成分置換は行われない。
(i)圧下率指定時の導関数
圧下率の指定がされている圧延スタンドについては、次の式(40)〜(43)が用いられる。
Figure 0006874909
Figure 0006874909
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Figure 0006874909
(ii)リミッタ超過時の導関数
リミッタ超過は、圧延荷重PとモーターパワーPwと圧下率rとでそれぞれ発生しうる。
まず、ある圧延スタンドの圧延荷重Pがリミットを超過した場合には、その圧延スタンドには次の式(44)〜(47)が用いられる。これらの式のうち、式(44)〜(式46)は、リミット超過時用に設定された最大値P MAXを含んでいる。
Figure 0006874909
Figure 0006874909
Figure 0006874909
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ある圧延スタンドのモーターパワーPwがリミットを超過した場合には、その圧延スタンドには次の式(48)〜(51)が用いられる。これらの式のうち、式(48)〜式(50)は、リミット超過時用に設定された最大値Pw MAXを含んでいる。
Figure 0006874909
Figure 0006874909
Figure 0006874909
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ある圧延スタンドの圧下率rがリミットを超過した場合には、その圧延スタンドには次の式(52)〜(55)が用いられる。これらの式のうち、式(52)および式(53)は、リミット超過時用に設定された最大値r MAXを含んでいる。
Figure 0006874909
Figure 0006874909
Figure 0006874909
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例えば、第三番目圧延スタンドFのみに圧下率指定があったと仮定する。このケースでは、実施の形態ではN=5であり、i=3なので、i+N=8である。よって、図2の行Ri+N(=R)を構成する評価関数gのみに、圧下率指定時用の式(40)〜(43)が選択される。
実施の形態では、上記の各導関数のうち式(32)〜式(55)を、説明の便宜上、「第一導関数」と「第二導関数」とに区別して呼称することがある。これは説明の便宜上の呼称に過ぎず、その内容を限定するものではない。なお、マスフロー項である式(28)〜式(31)は第一導関数および第二導関数には含まれない。
「第一導関数」は、荷重比またはパワー比を満たすように求められた導関数である。第一導関数は、実施の形態では式(32)〜(35)と式(36)〜式(39)とである。
「第二導関数」は、各種パラメータ(つまり圧下率r、モーターパワーPw、荷重P)を圧下率指定あるいはリミッタ超過などのパラメータ制限に従って設定するように、予め定められた導関数である。第二導関数は、実施の形態では式(40)〜式(55)である。
第一導関数と第二導関数とは、少なくとも下記の点において相違している。
相違点の一つは、変数uの有無である。第一導関数では、各式に変数uが含まれており、具体的には各式にu−1が含まれている。第一導関数は、荷重比またはパワー比を満たすように導出されている。第二導関数では、各式に変数uが含まれていない。この点で両者は異なる。
他の相違点は、変数uの偏微分項に関する。変数uは、式(2)の圧延荷重項または式(16)のモーターパワー項である。第一導関数ではuの偏微分項である式(35)と式(39)とが数式で提供される。第一導関数は、荷重比またはパワー比を満たすように導出されている。これに対し、第二導関数では、uの偏微分項である式(43)と式(47)と式(51)と式(55)とがゼロである。つまり、第一導関数ではuの偏微分項が算入されるのに対し、第二導関数ではuの偏微分項が非算入である点で、両者は異なる。
更に他の相違点は、目標値γ AIMの有無である。第一導関数では、各式にγ AIMが含まれており、具体的には各式に1/γ AIMが含まれている。第二導関数では、各式に変数γ AIMが含まれていない。その代わりに、第二導関数は、パラメータ制限の種別に応じてr AIMとP MAXとPw MAXとr MAXとを各式に含んでいる。この点で両者は異なる。
更に他の相違点は、圧下率指定時および圧下率のリミット超過時の第二導関数が持つ違いである。第一導関数ではVの偏微分項である式(34)と式(38)とが数式で提供される。これに対し、第二導関数では、圧下率指定時におけるVの偏微分項の式(42)と、圧下率のリミット超過時におけるVの偏微分項の式(54)とが、いずれもゼロである。つまり、第一導関数ではVの偏微分項が算入されるのに対し、圧下率指定時および圧下率のリミット超過時に関しては第2導関数にVの偏微分項が非算入である点で、両者は異なる。
図2に示したヤコビ行列Jの第二成分グループMXの成分として、第一導関数と第二導関数とのいずれかが選択的に用いられる。
なお、図2の列C10は、圧延荷重項uの偏微分成分である。ヤコビ行列Jに列C10が導入されていることは、実施の形態の特徴の一つである。
[実施の形態の具体的制御]
図3は、実施の形態にかかる圧延プラント50で実行される制御を説明するためのフローチャートである。図3は、上述した板厚スケジュール計算方法をプロセス計算機21で実行するための計算の流れを表している。
プロセス計算機21は、図3の処理を実行するためのプログラムを記憶している。以下の説明では、重複説明を避けるために、前述した「実施の形態の板厚スケジュール計算方法」で述べた数式、記号、および用語などが必要に応じて参照される。
(ステップS100)
図3の制御フローでは、まずステップS100において、プロセス計算機21が、導関数ベクトルxに初期値をセットする。導関数ベクトルxは式(5)で述べたものである。
(ステップS101)
次にステップS101において、プロセス計算機21は、圧延モデル式を計算する。圧延モデル式は、被圧延材温度と変形抵抗と荷重Pとトルクとを含む。被圧延材温度は、1、52、55の温度計測値または温度推定値を含む。被圧延材温度は、プロセス計算機21の制御にリアルタイムでフィードバックされることが好ましい。荷重配分法とパワー比配分法とで、圧延モデル式は下記のように相違する。
荷重比配分法を用いる場合には、圧延モデル式は荷重比γを含む。この場合の圧延モデル式は、圧延荷重モデル(P)を含む式(2)と、先進率モデル(f)を含む式(4)とを備える。
一方、変形例のパワー比配分法を用いる場合には、圧延モデル式はパワー比γを含む。この場合の圧延モデル式は、モータパワーモデル(Pw)を含む式(16)と、先進率モデル(f)を含む式(4)とを備える。
実施の形態では、説明の便宜上、圧延荷重比γとモーターパワー比γとを「第一の値」とも称する。なお、圧延荷重比とモーターパワー比とを包括する上位概念用語として「負荷配分比」という用語がある。第一の値は負荷配分比であってもよい。
(ステップS102、S102a、S102b)
次に、ステップS102において、プロセス計算機21は、「パラメータ制限」が生じているか否かを判定する。「パラメータ制限」とは、各圧延スタンドF〜Fの圧延荷重PとモーターパワーPwと圧下率rとのうち少なくとも一つのパラメータが何らかの理由で制限されていることである。
実施の形態では、説明の便宜上、圧延荷重PとモーターパワーPwと圧下率rとを「第二の値」とも称する。
ステップS102にかかるパラメータ制限判定処理は、第一の制限を判定する処理(ステップS102a)と第二の制限を判定する処理(ステップS102b)とを含んでいる。実施の形態では「第一の制限」と「第二の制限」との両方の制限機能が設けられているが、変形例としていずれか一方が省略されてもよい。
まず「第一の制限」を説明する。ステップS102aにかかる第一の制限は、第二の値を指定値によって指定する制限である。第一の制限における指定値に複数の種類がある。以下、第一指定値と第二指定値とを例示する。
第一指定値は、ルックアップテーブル参照値である。実施の形態では、具体例として圧下率のルックアップテーブル参照値r TBLが例示されている。これに代えて又はこれとともに、圧延荷重またはモーターパワーのルックアップテーブル参照値が必要に応じて設けられてもよい。
第二指定値は、オペレータがインターフェース画面21aを介して入力したオペレータ指定値である。実施の形態では、具体例としてオペレータ圧下率指定値r OPが例示されている。これに代えて又はこれとともに、オペレータ圧延荷重指定値P OPとオペレータモータパワー指定値Pw OPとのうち少なくとも一方が必要に応じて設けられてもよい。
次に「第二の制限」を説明する。ステップS102bにかかる第二の制限は、第二の値が予め定められたリミット範囲の外側に超過したときに、このリミット範囲で第二の値を制限するものである。第二の制限におけるリミット範囲に複数の種類がある。以下、第一リミット範囲と第二リミット範囲とを例示する。
「第一リミット範囲」は、圧延プラント50が含む機器の機械定数に基づいて予め定められた範囲である。これに対し、「第二リミット範囲」は、圧延プラント50の操業上の制約に基づいて、第一リミット範囲とは異なる範囲に予め定められている。第二リミット範囲は、第一リミット範囲の内側に収まるように第一リミット範囲よりも狭く設定されてもよい。
(ステップS104)
次に、ステップS104において、評価関数ベクトルgを計算する処理が実行される。まず、ステップS104では、プロセス計算機21が、ステップS102におけるパラメータ制限の有無に応じて、「モデルベース評価関数」と「修正評価関数」とのいずれかを選択する。
モデルベース評価関数とは、式(7)または式(17)で定義される評価関数gi+Nを参照するための便宜上の呼称である。パラメータ制限が生じていない場合にはモデルベース評価関数が選択される。
修正評価関数とは、式(20)と式(23)と式(25)と式(27)で定義される複数の評価関数gi+Nのうち任意の一つを参照するための便宜上の呼称である。パラメータ制限が生じている場合には、パラメータ制限の種別に応じて修正評価関数が選択的に使用される。修正評価関数は、変数u(つまり圧延荷重項またはモーターパワー項)と目標値γ AIMとを含んでいない点で、モデルベース評価関数と相違している。
ある圧延スタンドで圧下率指定またはリミット超過があった場合には、その圧延スタンドに対応する評価関数ベクトルgi+Nの置換が行われる。置換の具体的方法は、実施の形態の板厚スケジュール計算方法で式(21)〜式(27)を例示しつつ説明したので、その詳細は省略する。
ステップS104では、当該評価関数ベクトルgi+Nの置換が行われた後、置換後の評価関数ベクトルが計算される。
(ステップS105)
次に、ステップS105において、プロセス計算機21が、ステップS104における評価関数gおよび評価関数gi+Nの計算結果を用いて、式(14a)および式(14b)に基づく収束判定を行う。式(14a)および式(14b)の条件が両方とも成立したらループから抜けて、図3の処理は後述するようにメインルーチン(図示せず)にリターンする。
(ステップS106、S107)
ステップS105で収束判定条件が満たされていない場合には、ステップS106において、プロセス計算機21が、ヤコビ行列Jを構成するとともにその成分である各導関数(各偏微分項)を計算する。
ヤコビ行列Jの構成は、ステップS102でのパラメータ制限判定の結果に応じて変わる。具体的には、ステップS102でパラメータ制限が生じていなければ、ステップS106において第一導関数(つまり式(32)〜(35)または式(36)〜式(39))がヤコビ行列Jの成分として選択される。一方、ステップS102でパラメータ制限が生じているときには、その制限の種類に応じて、第二導関数(つまり式(40)〜式(55))がヤコビ行列Jの成分として選択される。
実施の形態では、前述したステップS104で評価関数が選択されると、これに応じてステップS106におけるヤコビ行列Jの導関数も決まる。モデルベース評価関数と第一導関数とが対応しており、修正評価関数と第二導関数とが対応しているからである。プロセス計算機21は、第一導関数と第二導関数とのうちステップS106で選択された導関数を含むようにヤコビ行列Jを構築する。その後、ヤコビ行列Jが含む各導関数の計算が行われる。
次のステップS107で、プロセス計算機21は、ステップS106で計算されたヤコビ行列Jの逆行列J−1を計算する。
(ステップS108)
次に、ステップS108で、プロセス計算機21は、各圧延スタンドF〜Fの出側板厚を修正する。具体的には、ステップS107で計算した逆行列J−1を用いて、式(13)に従って未知変数ベクトルxが更新される。
その後処理は図示しないメインルーチンにリターンする。板厚スケジュール計算のサブルーチンからメインルーチンへと処理が戻った後、その板厚を使って各種モデルの計算処理が実行される。この計算の結果に基づいて、ネットワークを介して、コントローラ22に対してアクチュエータ設定値が出力される。
以上説明した実施の形態によれば、圧延に関するパラメータ制限(ステップS102)が発生したかどうかに応じて、板厚スケジュール計算に用いる関数(評価関数gおよびその導関数)を変更することができる。パラメータ制限の発生時には、状況によってはモデルベース評価関数に基づいて解を求めることが過大な演算時間または過大な演算不可をもたらすので、収束条件が満たされず、板厚スケジュール計算が停滞する可能性がある。この点、実施の形態では、計算内容が適切に修正されるので、板厚スケジュールの計算が停滞することを抑制することができる。
ステップS102aに関して、プロセス計算機21は、第一指定値と第二指定値とのうち両方を受け入れるように構築されてもよいし、片方の指定値のみを受け入れるように構築されてもよい。
ステップS102bに関して、プロセス計算機21は、第一リミット範囲と第二リミット範囲との両方を備えてもよいし、片方のリミット範囲のみを備えてもよい。
図3の制御フローでは、ステップS102が、第一の制限と第二の制限とからなる複数種類のパラメータ制限を含んでいる。この場合には、パラメータ制限の優先順位が定められてもよく、複数の制限が発生したときに優先順位の高い制限が適用されるように構築されてもよい。
以下、優先順位のバリエーションを説明する。以下の説明では、便宜上、不等号を用いて優先順位を説明する。「制限A>制限B」と記載したときには制限Aの優先順位が相対的に高いものとする。
例えば「上記第一の制限>上記第二の制限」であってもよく、その逆であってもよい。第一の制限において、「オペレータ指定値>ルックアップテーブル参照値」であってもよく、つまりr TBLよりもr OPを優先してもよい。しかし、その逆であってもよい。第二の制限において、第一リミット範囲と第二リミット範囲とのうち狭い方のリミット範囲が優先されてもよい。
複数の第一の制限と複数の第二の制限とが混在してもよい。混在の一例として、「オペレータ指定値>第二リミット範囲>ルックアップテーブル参照値>第一リミット範囲」の順番に、優先順位が定められてもよい。オペレータ指定値とルックアップテーブル参照値と第二リミット範囲と第一リミット範囲とのうち、圧延プラント50が備えない制限は上記優先順位から省略されてもよい。
なお、機器の保護または操業効率を維持する観点から、第一リミット範囲または第二リミット範囲を超えるようにパラメータが指定されたときに、その指定は無視されてもよい。
ニュートンラフソン法の代わりに、非線形の連立方程式を解くための他の公知の解法あるいは他の公知の求根アルゴリズムが用いられてもよい。ニュートンラフソン法以外にも、例えば変形例としてガウスの掃き出し法に従って未知変数ベクトルの解を求めてもよい。
なお、上述した実施の形態にかかる板厚スケジュール計算方法の計算順序および具体的制御のステップ群の順序は、前後関係が明確に限定されている場合を除いて、その順序を変更してもよいものとする。
1 被圧延材(ストリップ)、5 圧下装置、6 圧延荷重センサ、7 電動機、20 上位計算機、21 プロセス計算機、21a インターフェース画面、22 コントローラ、50 圧延プラント、51 被圧延材(鋼片)、52 加熱炉、53 粗圧延機、54 バーヒータ、55 被圧延材(バー)、56 入側温度計、57 仕上圧延機、58 板厚板幅計、59 出側温度計、61 巻取機、62 コイル状製品、63 水冷装置、150 専用ハードウェア、151 プロセッサ、152 メモリ、F 圧延スタンド(初段圧延スタンド)、F〜F 圧延スタンド、F (最終圧延スタンド)、F 圧延スタンド(i番目圧延スタンド)、F 圧延スタンド(j番目圧延スタンド)、g 評価関数(評価関数ベクトル)、g、gi+N 評価関数(i番目圧延スタンドについての評価関数または評価関数ベクトル)、h 入側板厚、h〜h 出側板厚、h 出側板厚(i番目圧延スタンドの出側板厚)、MX 第一成分グループ、MX 第二成分グループ、P 荷重(圧延荷重)、P MAX 最大値、Pw モーターパワー、r 圧下率、x 未知変数ベクトル、ε 収束条件

Claims (6)

  1. 複数の圧延スタンドそれぞれについて、圧延荷重比とモーターパワー比とのうち一方の第一の値を含む圧延モデル式を取得するステップと、
    前記各圧延スタンドの圧延荷重とモーターパワーと圧下率とのうち少なくとも一つを第二の値としたときに、前記第二の値を制限するパラメータ制限が生じているか否かの判定をするステップと、
    第一導関数と第二導関数とのうち一方を前記第一の値に基づく誤差を評価するための評価関数の導関数として選択するステップであって、前記第一導関数は前記第一の値で指定される比を満たすように求められる関数であり、前記第二導関数は前記第二の値が前記パラメータ制限に従って設定されるように予め構築され、前記パラメータ制限が生じていないときに前記第一導関数を選択し前記パラメータ制限が生じているときに前記第二導関数を選択するように前記判定の結果に応じた導関数の選択を前記各圧延スタンドについて行うステップと、
    前記第一導関数と前記第二導関数とのうち前記判定の結果に応じて選択された一方の導関数を含む行列を用いて、前記各圧延スタンドの出側板厚を修正するステップと、
    を備えるタンデム圧延機の板厚スケジュール計算方法。
  2. 前記パラメータ制限は、
    前記第二の値を指定値によって指定する制限である第一の制限と、
    前記第二の値が予め定められたリミット範囲の外側に超過したときに前記リミット範囲で前記第二の値を制限する第二の制限と、
    のうち少なくとも一方を含む請求項1に記載のタンデム圧延機の板厚スケジュール計算方法。
  3. 前記行列をヤコビ行列の形式で構築し、
    各圧延スタンドの出側板厚を未知変数として含む未知変数ベクトルを取得し、
    ニュートンラフソン法に従って前記ヤコビ行列を用いて前記未知変数ベクトルの解を求めることで前記各圧延スタンドの前記出側板厚を修正する請求項1に記載のタンデム圧延機の板厚スケジュール計算方法。
  4. 前記行列は、第一成分グループと第二成分グループとを含み、
    前記第二成分グループは、前記第一の値に基づく前記誤差を評価するための前記評価関数の前記導関数からなり、
    前記第一成分グループは、マスフロー一定則を満たすように設定された他の評価関数の導関数からなり、
    前記パラメータ制限の有無に応じて前記第二成分グループが前記第一導関数と前記第二導関数との間で置換されるのに対し、前記第一成分グループは前記パラメータ制限の有無にかかわらず一定である請求項1に記載のタンデム圧延機の板厚スケジュール計算方法。
  5. 前記各圧延スタンドの出側板厚を未知変数として含む未知変数ベクトルを取得するステップと、
    前記未知変数ベクトルから評価関数を取得するステップであって、前記パラメータ制限が生じていないときに前記第一の値で指定される比を満たすように定められたモデルベース評価関数を選択するとともに、前記パラメータ制限が生じているときに前記第二の値を前記パラメータ制限に従って設定するように予め定められた修正評価関数を選択し、選択後の評価関数を計算するステップと、
    前記選択後の前記評価関数の計算値が予め定めた範囲内に収束しているか否かを判定するステップと、
    をさらに含み、
    前記計算値が前記範囲内に収束していない場合に、前記行列から求めた逆行列を用いて前記未知変数ベクトルを更新することで、前記各圧延スタンドの前記出側板厚を修正し、
    前回のステップで前記更新がされた後の前記未知変数ベクトルから定まる更新後の評価関数を計算することで前記計算値を再計算する請求項1に記載のタンデム圧延機の板厚スケジュール計算方法。
  6. 複数の圧延スタンドと、
    前記複数の圧延スタンドの各圧延スタンドに設けられた圧下装置と、
    前記各圧延スタンドが持つロールを回転させる電動機と、
    前記圧下装置の圧延荷重比と前記電動機のモーターパワー比とのうち一方の第一の値に基づいて前記各圧延スタンドの板厚スケジュールを計算するように構築されたプロセス計算機と、
    を備え、
    前記プロセス計算機は、
    前記第一の値を含む圧延モデル式を前記各圧延スタンドについて取得する処理と、
    前記各圧延スタンドの圧延荷重とモーターパワーと圧下率とのうち少なくとも一つを第二の値としたときに、前記第二の値を制限するパラメータ制限が生じているか否かの判定をする処理と、
    第一導関数と第二導関数とのうち一方を前記第一の値に基づく誤差を評価するための評価関数の導関数として選択するステップであって、前記第一導関数は前記第一の値で指定される比を満たすように求められる関数であり、前記第二導関数は前記第二の値が前記パラメータ制限に従って設定されるように予め構築され、前記パラメータ制限が生じていないときに前記第一導関数を選択し前記パラメータ制限が生じているときに前記第二導関数を選択するように前記判定の結果に応じた導関数の選択を前記各圧延スタンドについて行う処理と、
    前記第一導関数と前記第二導関数とのうち前記判定の結果に応じて選択された一方の導関数を含む行列を用いて、前記各圧延スタンドの出側板厚を修正する処理と、
    を実行するように構築された圧延プラント。
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