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JP6728575B2 - 接合方法 - Google Patents

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JP6728575B2 JP2015096915A JP2015096915A JP6728575B2 JP 6728575 B2 JP6728575 B2 JP 6728575B2 JP 2015096915 A JP2015096915 A JP 2015096915A JP 2015096915 A JP2015096915 A JP 2015096915A JP 6728575 B2 JP6728575 B2 JP 6728575B2
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Description

本発明は、樹脂面同士を接合する方法に関する。
一般に、複数の樹脂基材を接合してなる樹脂積層体は、広く各種方面において様々な用途に用いられている。
例えば、近年の微細加工技術の進展やプラスチック成形加工技術の発展・広範化により、樹脂積層体からなるマイクロ流体デバイスの活用・普及が進んでいる。
マイクロ流体デバイスとは、例えば人間の体液等の対象となる流体の混合,反応,抽出,分離など様々な化学プロセスを小型化・集積化して行うための手段(化学システム)であり、使用目的などにより例えばマイクロミキサー(混合装置),マイクロリアクター(化学反応装置),マイクロTAS(ラボ・オン・チップ:lab−on−a−chip)等とも呼ばれる。
このようなマイクロ流体デバイスは、微小な流路空間内で流体を混合させたり反応させたりするための反応場を形成するマイクロチャンネルチップによって構成されている。マイクロ流体デバイスでは、反応場となる微小なマイクロ空間で流体の混合,反応等が行われるため、例えば通常の装置等では「cm」空間で行われていた反応が、「100μm」空間で行われることになり、反応場の大きさが約1/100となり、反応効率が高いというメリットがある。
具体的には、マイクロ流体デバイスでは、分子拡散時間(拡散距離の2乗に比例)が約1/10,000程度となり、化学反応速度が大幅に速くなる。
このため、例えば水道水の重金属汚染検査を、通常は3〜4時間程度かかるところを、約50秒程度で完了することが可能となる。
また、このようなマイクロ流体デバイスでは、反応等に用いられる流体の量も微小となるため、試料・廃液の量も大幅に減少することになる。具体的には、流体の体積(大きさの3乗に比例)を従来の約1/1,000,000程度とすることができ、試料・廃液の量をナノリットルオーダーに減少させることができる。
これにより、例えば水道水の重金属汚染検査の場合、対象流体(水)量を、通常の検査装置における1kgから1μg程度に、すなわち、およそ10億分の一までにすることができるようになる。
そして、近年では、このようなマイクロ流体デバイスが、複数の樹脂基材を接合した樹脂積層体によって構成されるようになっている。
ここで、複数の樹脂基材を積層して両者を接合する場合には、接合する基材をガラス転移点以上もしくは融点以上に加熱することにより軟化させて熱融着させる所謂ヒートシールと呼ばれる方法が一般的である。ところが、上述のように微細・狭小な流路空間を備えるマイクロ流体デバイスの場合、そのようなヒートシールによる接合方法では、流路空間が変形等してしまうという問題が発生する。
図13は、マイクロ流体デバイスを構成する2つの樹脂基材を加熱融着する場合の製造工程を模式的に示す説明図であり、(a)はマイクロ流体デバイスを構成する2つの樹脂基材を積層する工程を、(b)は積層した2つの樹脂基材をガラス転移点以上もしくは融点以上に加熱及び加圧して接合する工程を示している。
同図に示すように、マイクロ流体デバイス100を構成する2つの樹脂基材、具体的にはマイクロ流路103を形成した基板101と、その上面に積層される蓋部材(カバー体)102は、まずお互いに所定位置で積層され(図13(a)参照)、その後、積層された状態で、両基材101,102がガラス転移点以上もしくは融点以上の温度に加熱され、その加熱温度環境下で加圧される。
ガラス転移点以上もしくは融点以上に加熱されることで、樹脂基材101,102が軟化することにより分子間が接近され、ファンデルワールス力によって両基材が接合されることになる。
ところが、このような加熱融着・ヒートシールによる接合方法では、ガラス転移点以上もしくは融点以上に加熱された樹脂基材が軟化・溶融するため、図13(b)に示すように、マイクロ流路103を構成する空間が変形してしまい、流路空間が狭められたり、流路の断面形状が変形して流体の流れが阻害され、最悪の場合、流路が閉塞されるという問題が発生する。
そこで、このような樹脂製のマイクロ流体デバイスの製造方法に関して、加熱接合による流路空間の変形を防止する方法として、例えば特許文献1に開示されているような技術が提案されている。
特許文献1に提案されている技術は、マイクロ流体デバイスを構成する樹脂基材の接合面に、真空紫外線を一定時間以上照射することで、樹脂基材の接合面を高い酸化力によって水素結合させて濡れ性を高めるというものである。
樹脂基材の接合面の濡れ性を高めることで、特許文献1によれば、塑性変形温度未満の温度(例えば雰囲気温度70℃〜90℃)で加熱圧着できるようになるとされている。
特許第4993243号公報
しかしながら、特許文献1に記載されている方法では、樹脂基材の接合面に高い濡れ性を付与するために、真空紫外線を例えば2分間や5分間など、一定時間以上照射させる必要があった。
このため、工程時間が長期化するだけでなく、長時間の紫外線照射により、樹脂基材の接合面が粗面化するという問題が生じる。この粗面化によって、樹脂基材の機械的強度の低下や透明な樹脂であった場合にはその透明性が低下するおそれがあると考えられる。
本発明は、以上のような従来の技術が有する課題を解決するために提案されたものであり、樹脂基材の接合面を平坦化及び軟化することにより、接合する樹脂基材を、ガラス転移点以下もしくは融点以上の温度であって、より低温で、確実かつ強固に接合することができる、例えば樹脂製のマイクロ流体デバイスの製造等に好適な接合方法の提供を目的とする。
上記目的を達成するため、本発明の接合方法は、樹脂面同士を接合する方法であって、基材の接合面に、高エネルギー照射を行うことにより当該接合面を平坦化及び軟化する工程と、前記接合面を接触させた後、基材を、加熱及び/又は加圧して接合する工程と、を有し、前記基材が、マイクロ流体デバイスを構成する、熱可塑性樹脂からなり、前記高エネルギー照射を行う工程において、前記基材の接合面に、照射時間2〜10秒の範囲で、アルゴンプラズマを照射することにより、記基材の接合面の表面粗さを、算術平均粗さRa≦10nmとし、前記熱可塑性樹脂のガラス転移点の温度以下、かつ、70℃以下の温度で、前記基材の接合面同士を接合させる構成としてある。
本発明によれば、樹脂基材の接合面を平坦化及び軟化することにより、接合する樹脂基材をガラス転移点以下もしくは融点以上の温度であって、より低温で接合することができる。
これによって、例えば樹脂製のマイクロ流体デバイスの製造等に好適な接合方法を提供することができる。
本発明の一実施形態に係る接合方法で製造されるマイクロ流体デバイスを模式的に示す斜視図であり、(a)はマイクロ流路が刻設された基板とその上面に接合される蓋部材とを分解した状態、(b)は同じく基板の上面に蓋部材を積層して接合させた状態を示している。 本発明の一実施形態に係る接合方法によるマイクロ流体デバイスの製造工程を模式的に示す説明図であり、(a)はマイクロ流体デバイスを構成する2つの樹脂基材の接合面にアルゴンプラズマ照射を行うことにより当該接合面を平坦化及び軟化する工程を、(b)は接合面を平坦化及び軟化した2つの樹脂基材を積層した後、2つの樹脂基材を加熱及び加圧して接合する工程を示している。 (a)は、本発明の一実施形態に係る接合方法により接合される2つの樹脂基材の接合強度(結合エネルギー)とアルゴンプラズマの照射時間の関係を示すグラフであり、(b)は(a)に示す結合エネルギーの測定方法を模式的に示す説明図である。 (a)は、本発明の一実施形態に係る接合方法により接合される2つの樹脂基材の接合強度(結合エネルギー)とアルゴンプラズマの照射時間と接合面の表面粗さ(Ra)の関係を示すグラフであり、(b)は照射時間による表面粗さ(Ra)の違いを模式的に示す説明図である。 (a)は、本発明の一実施形態に係る接合方法により接合される2つの樹脂基材の接合強度(結合エネルギー)とアルゴンプラズマの照射時間と接合面のヤング率(GPa)の関係を示すグラフであり、(b)は(a)に示すヤング率の測定方法を模式的に示す説明図である。 本発明の一実施形態に係る接合方法で製造される包装容器を模式的に示す接合部の断面図であり、(a)は従来の包装容器、(b)は本発明の一実施形態に係る包装容器を示している。 本発明の一実施形態に係る接合方法により接合される2つの樹脂基材の接合強度(結合エネルギー)と酸素プラズマの照射時間の関係を示すグラフである。 本発明の一実施形態に係る接合方法により接合される2つの樹脂基材の接合強度(結合エネルギー)と酸素プラズマの照射時間と接合面の表面粗さ(Ra)の関係を示すグラフである。 本発明の一実施形態に係る方法により接合される2つの樹脂基材の接合強度(結合エネルギー)と酸素プラズマの照射時間と接合面のヤング率(E)の関係を示すグラフである。 本発明の一実施形態に係る方法により接合される2つの樹脂基材の接合強度(結合エネルギー)と真空紫外線の照射時間の関係を示すグラフである。 本発明の一実施形態に係る方法により接合される2つの樹脂基材の接合強度(結合エネルギー)と真空紫外線の照射時間と接合面の表面粗さ(Ra)の関係を示すグラフである。 本発明の一実施形態に係る方法により接合される2つの樹脂基材の接合強度(結合エネルギー)と真空紫外線の照射時間と接合面のヤング率(E)の関係を示すグラフである。 従来の接合方法における製造工程を模式的に示す説明図であり、(a)はマイクロ流体デバイスを構成する2つの樹脂基材を積層する工程を、(b)は積層した2つの樹脂基材を加熱及び加圧して接合する工程を示している。
以下、本発明に係る接合方法の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る接合方法で製造されるマイクロ流体デバイス10を模式的に示す斜視図であり、(a)はマイクロ流路13が刻設された基板11とその上面に接合される蓋部材12とを分解した状態、(b)は同じく基板11の上面に蓋部材12を接合させた状態を示している。
[マイクロ流体デバイス]
同図に示すように、マイクロ流体デバイス10を構成するマイクロチャンネルチップは、プラスチック等の合成樹脂製の基板11に、例えば幅100μm程度,深さ50μm程度の微小な流路空間であるマイクロ流路13が刻設され、その上面に蓋部材(カバー体)12が接合されることで反応場となるマイクロ流路13が形成されるようになっている。なお、基板11に刻設されるマイクロ流路13の流路の大きさ(幅・深さ)や流路長,流路形状等は、マイクロ流体デバイスの使用用途や流体の種類などに応じて任意に設定される。
ここで、基板11,蓋部材12を形成する合成樹脂材料としては、特に制限されず、公知のマイクロ流体デバイス等と同様に、各種の熱可塑性樹脂、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)に代表されるポリエステル樹脂などを用いることができる。
そして、以上のような微細な流路空間を備えたマイクロチャンネルチップに、図示しない各種検出・制御素子等が埋め込まれて、化学システムを構成するマイクロ流体デバイス10が形成されるようになっており、例えば簡易なインフルエンザ用の迅速診断キットとなるマイクロ流体デバイス等が構成される。
[接合方法]
以上のようなマイクロ流体デバイス10について、本実施形態においては、以下のような方法を用いて接合するようになっている。
すなわち、本実施形態に係る接合方法は、2つの樹脂基材を接合し、樹脂積層体を製造する方法であって、2つの樹脂基材うち少なくとも1つの樹脂基材の接合面に、高エネルギー照射を行うことにより当該接合面を平坦化及び軟化する工程と、2つの樹脂基材を積層した後、その2つの樹脂基材を、加熱及び/又は加圧して接合する工程とからなっている。
[高エネルギー照射]
具体的には、本実施形態に係る接合方法では、まず、図2(a)に示すように、マイクロ流体デバイス10のマイクロ流路13が形成された基板11と、基板11に積層される蓋部材12のそれぞれの接合面となる基材表面に高エネルギー照射を行う。
樹脂基材の表面に原子量の大きな高エネルギー照射を行うことで、基材表面を改質することができ、具体的には基材表面を平坦化及び軟化することができる。
平坦化及び軟化することにより、基材表面同士の接触性・密着性が高まり、より低温の接合温度によっても、両者をファンデルワールス力により強固に融着・接合させることが可能となる。
ここで、本実施形態では、図2(a)に示すように、高エネルギー照射として、樹脂基材の接合面にアルゴンプラズマを照射するようにしてある。
アルゴンプラズマは、原子量が大きく、プラズマ化し易いアルゴンガスを原料ガスとして導入して放電を行うことで、アルゴンの活性種であるArイオンやArラジカルがプラズマによって生成されるもので、原子量が大きくアタック力の強いアルゴン活性種を樹脂基材の表面に衝突させることで、樹脂基材の分子間を切断させることができるものである。
これによって、樹脂基材の表面を改質することができ、具体的には、基材表面が平坦化されるとともに、基材表面が低分子量化、すなわち軟化されることになる。
このように平坦化及び軟化(低分子量化)された表面を接合面とすることで、基材表面同士の接触性・密着性が高まり、より低温の接合温度によっても、両者を強固に融着・接合させることが可能となる。
これによって、図2(b)に示すように、樹脂基材(基板11・蓋部材12)はガラス転移点以下もしくは融点以下の温度においても接合が可能となり、例えば後述する図3に示すように接合温度約30℃で、2つの基材を接合することができるようになる。
そして、ガラス転移点以下もしくは融点以下の温度で接合が行われることで、基板11に形成されたマイクロ流路13が変形等することはなく、マイクロ流体デバイス10の製造方法として好適に用いることができる。
なお、図2(b)に示すように、本実施形態では30℃の接合温度での接合が可能であることから、加熱及び加圧は、少なくともいずれかを行えばよく、例えば加熱を行うことなく加圧するだけで、樹脂基材を接合することもでき、あるいは、加熱のみを行って加圧することなく樹脂基材を接合することも可能である。
但し、より強固に確実に樹脂基材同士を接合するためには、適切な温度及び圧力で加熱及び加圧することが望ましい。
ここで、本実施形態において樹脂基材の接合面に対して行われる高エネルギー照射としては、上述したアルゴンプラズマが好ましいが、これに限定されるものではない。
例えば、アルゴンプラズマ以外の高エネルギー照射としては、酸素プラズマ,アルゴンと酸素などの混合プラズマ,真空紫外線のうち、いずれかを照射する場合であってもよい。
これらは、プラズマ化し易く、アタック力のあるエネルギー照射であり、上述したアルゴンプラズマ照射の場合と同様に、樹脂基材の表面の改質、すなわち、基材表面の平坦化及び軟化(低分子量化)に好ましいものであり、アルゴンプラズマに代えて採用することができる。
また、これらの高エネルギー照射は、接合する2つの樹脂基材の、少なくとも一方の接合面に対して行えば良い。但し、より強固な接合強度を得るためには、接合する2つの樹脂基材の各接合面に対して高エネルギー照射を行うことが望ましい。
[結合エネルギー]
次に、以上のようなアルゴンプラズマ等の高エネルギーの照射時間と、接合される樹脂基材の接合強度(結合エネルギー)の関係について、図3を参照しつつ説明する。
図3(a)は、本発明の一実施形態に係る接合方法により接合される2つの樹脂基材の接合強度(結合エネルギー)とアルゴンプラズマの照射時間の関係を示すグラフであり、(b)は(a)に示す結合エネルギーの測定方法を模式的に示す説明図である。
前提として、本実施形態における樹脂基材の接合強度(結合エネルギー)は、クラックオープニング法と呼ばれる方法で測定を行った。図3(b)に示すように、板厚tの2つの基材を接合し、2つの基材の間に厚さ2yのかみそりの刃を挿入して、2つの樹脂基材が離間する距離Lを計測して、下記の式1により結合エネルギーγとして算出する。
[式1]
まず、図3(a)に示すように、高エネルギーを全く照射していない状態(照射時間0秒)では、接合温度30℃で樹脂基材を接合させることはできない(結合エネルギー=0J/m2)。
次に、高エネルギーを照射させた場合には、照射時間が長くなるにつれて、樹脂基材の接合強度も高くなる。
その後、照射時間が8〜9秒で、結合エネルギーγは2.8J/m2を超えて最高になるが、その直後に、照射時間が10秒で結合エネルギー=0J/m2となり、その後は、照射を継続しても結合エネルギー=0J/m2となり、接合温度30℃で樹脂基材を接合させることはできなくなる。
以上より、接合強度(結合エネルギー)との関係では、樹脂基材の接合面への高エネルギーの照射時間は、10秒以下であることが好ましく、2秒〜8秒の範囲がより好ましく、5秒〜8秒の範囲が特に好ましいことが分かる。
すなわち、高エネルギーの照射時間は長ければ良いというものではなく、上記のような所定範囲の照射時間とすることが重要であることが分かる。
この点は、上述した特許文献1において、樹脂基材の接合面に真空紫外線を例2分間や5分間などの長時間に亘って照射させた結果、接合温度の低温化が阻害されてしまうことからもよく理解できる。
[表面粗さ]
次に、以上のような高エネルギーの照射時間と、接合される樹脂基材の接合強度(結合エネルギー)と、樹脂基材の接合面の表面粗さ(平坦化度)の関係について、図4を参照しつつ説明する。
図4(a)は、本発明の一実施形態に係る接合方法により接合される2つの樹脂基材の接合強度(結合エネルギー)とアルゴンプラズマの照射時間と接合面の表面粗さ(Ra)の関係を示すグラフであり、(b)は照射時間による表面粗さ(Ra)の違いを模式的に示す説明図である。
前提として、本実施形態における樹脂基材の接合面の表面粗さは、算術平均粗さRaを用いている。
算術平均粗さは、粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さlだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計し、平均し値であり、下記の式2により求められる。
一つの傷が測定値に及ぼす影響が非常に小さくなり、安定した結果が得られることから、本実施形態では、この算術平均粗さを接合面の平坦化の基準として採用している。
[式2]
まず、図4(a)に示すように、高エネルギーを全く照射していない状態(照射時間0秒)では、接合面の算術平均粗さRaは10nm程度となっており(図4(b)の左図参照)、これが樹脂基材の接合面の常温・常態における平坦化度である。
次に、高エネルギーを照射させると、まず、照射時間が長くなるにつれて、樹脂基材の接合面の算術平均粗さも小さくなり、照射時間が8秒近辺まで算術平均粗さが小さくなり、従って、接合面が平坦化されていくことが分かる。例えば照射時間2秒で、Raは10nm以下となり、照射時間5秒で約5nm、照射時間8秒で約3nm程度になっている。
照射時間が8秒近辺で、算術平均粗さは最小になるが、その直後に、照射時間が10秒でRaは60nmとなり、その後は、照射時間が長くなるにつれてRaの値も大きくなり、照射時間20秒では、Raは70nmを超えるようになる(図4(b)の右図参照)。
以上より、接合面の表面粗さ(平坦化度)との関係では、樹脂基材の接合面への高エネルギーの照射時間は、8秒以下であることが好ましく、2秒〜8秒の範囲がより好ましく、5秒〜7秒の範囲が特に好ましいことが分かる。
これを接合面の表面粗さの面から理解すれば、上記のようにRaは、10nm以下から最小値(約3nm)に至った直後に、60nmまで急激に変化(増大)することから、接合面の算術平均粗さRa≦10nmとなるように、高エネルギーの照射時間を制御することが好ましいことが分かる。
すなわち、上述した接合強度(結合エネルギー)との関係の場合と同様、接合面の表面粗さとの関係からも、高エネルギーの照射時間は長ければ良いというものではなく、上記のような所定範囲の照射時間を採用することが望ましい。
この点も、上述した特許文献1において、樹脂基材の接合面に真空紫外線を例2分間や5分間などの長時間に亘って照射させた結果、接合温度の低温化が阻害されてしまうことからもよく理解できる。
[ヤング率]
次に、以上のような高エネルギーの照射時間と、接合される樹脂基材の接合強度(結合エネルギー)と、樹脂基材の接合面のヤング率(軟化度)の関係について、図5を参照しつつ説明する。
図5(a)は、本発明の一実施形態に係る接合方法により接合される2つの樹脂基材の接合強度(結合エネルギー)とアルゴンプラズマの照射時間と接合面のヤング率(E)の関係を示すグラフであり、(b)は(a)に示すヤング率の測定方法を模式的に示す説明図である。
前提として、本実施形態における樹脂基材の接合面のヤング率(軟化度)とは、同軸方向のひずみと応力の比例定数であり、ひずみ=ε,応力=σとして、ヤング率=Eは以下の式3で求められる。本実施形態では、図5(b)に示すように、先端部の曲率半径R400nmの探針(プローブ)を樹脂基材の接合面に垂直に当接させて、50nmの深さまで押圧することで計測している。
[式3]
まず、図5(a)に示すように、高エネルギーを全く照射していない状態(照射時間0秒)では、接合面のヤング率Eは3.3GPa程度となっており、これが樹脂基材の接合面の常温・常態における軟化度である。
高エネルギーを照射させると、まず、照射時間が長くなるにつれて、樹脂基材の接合面のヤング率も小さくなり、照射時間が5秒近辺までヤング率が小さくなり、従って、接合面が軟化(低分子量化)されていくことが分かる。例えば照射時間2秒では、Eは約1.7GPaとなり、照射時間5秒で約1.6GPaと小さくなっていることが分かる。
照射時間が5秒近辺でヤング率が最小になるが、その直後に、ヤング率は上昇に転じ、照射時間が10秒で2.0GPaとなり、その後は、照射時間が長くなってもヤング率に変化はなく、それ以上の軟化(低分子量化)の変動がないことが分かる。
以上より、接合面のヤング率(軟化度)との関係では、樹脂基材の接合面への高エネルギーの照射時間は、8秒以下であることが好ましく、2秒〜8秒の範囲がより好ましく、2秒〜5秒の範囲が特に好ましいことが分かる。
すなわち、上述した接合強度(結合エネルギー)や接合面の表面粗さ(平坦化)との関係の場合と同様、接合面のヤング率(軟化度)との関係からも、高エネルギーの照射時間は長ければ良いというものではなく、上記のような所定範囲の照射時間を採用することが望ましい。
この点においても、上述した特許文献1において、樹脂基材の接合面に真空紫外線を例2分間や5分間などの長時間に亘って照射させた結果、接合温度の低温化が阻害されてしまうことからもよく理解できる。
以上のことから、マイクロ流体デバイス10の基板11及び蓋部材12を構成する樹脂基材を接合する際に、樹脂基材の接合面にアルゴンプラズマなどの高エネルギー照射を行う場合の照射時間は、基材の接合強度との関係からは2秒〜10秒、接合面の表面粗さ(平坦化度)との関係からは2秒〜8秒、接合面のヤング率(軟化度)との関係からは2秒〜5秒の範囲とすることが好ましい。
従って、樹脂基材の接合面の高エネルギーの照射時間は、2秒〜5秒の範囲が特に好ましく、この範囲で、樹脂基材の接合面の表面粗さ(平坦化度)Ra≦10nm、接合面のヤング率(軟化度)E≦3.0とすることができる。
[包装容器]
以上、マイクロ流体デバイス10を例にとって本発明に係る接合方法の一実施形態について説明したが、本発明に係る接合方法を適用可能なものとしては、マイクロ流体デバイスに限定されるものではない。
例えば、本発明に係る接合方法により製造される包装容器として、カレーやシチューなどの食品用の所謂レトルトパウチ,パウチ等と呼ばれる包装容器に適用することも可能である。
一般に、レトルトパウチと呼ばれる包装容器は、気密性・遮光性の樹脂基材を積層して容器を形成し、容器内に食品を充填して容器を密封した後、レトルト(加圧加熱)殺菌するもので、保存性や保管性等に優れ、調理や容器の廃棄等も簡単であることから、例えば、カレーやシチュー,お粥,ハンバーグ,パスタソース,その他の具材用などに幅広く用いられている。
また、パウチは、食材用のみに限らず、例えば洗剤や調味料,酒類など、様々な分野において簡便な包装容器として用いられている。
このようなレトルトパウチを構成する樹脂基材は、単一の樹脂材料ではなく、所謂マルチレイヤーと呼ばれる複数の樹脂あるいは金属が積層されて樹脂基材を構成するようになっている。
例えば、延伸ナイロンフィルムを外層とし、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンフィルムを内層とする二層構成、延伸ポリエステルフィルムを外層とし、ポリオレフィンフィルムを内層とする二層構成、あるいはこのような内・外層フィルム間にアルミニウム等の金属箔を積層した三層構成のフィルム等がある。
図6は、本発明の一実施形態に係る接合方法で製造される包装容器を模式的に示す接合部の断面図であり、(a)は従来の包装容器、(b)は本発明の一実施形態に係る包装容器を示している。
同図(a)は、従来のレトルトパウチを示しており、2つの樹脂基材101a,102aの端部が加熱・加圧接合されて包装容器100aを構成するようになっている。
そして、このように包装容器100aを構成する樹脂基材101a,102aは、それぞれ複数の層からなるマルチレイヤーとなっており、具体的には、容器外装側からPET層・アルミ層・PP層の3層が積層された構成となっている。
このような構成からなる従来の包装容器100aでは、2つの樹脂基材101a,102aが積層されて、容器外周の端部が加熱・加圧されることで、容器内面側に位置するPP層同士が溶融・接合されることになる。
ここで、図6に示すような層構成となっているのは、外層にPET層が配置されるのは、PET樹脂が強度や柔軟性・耐久性等に優れ、容器外装用の印刷等の適性にも優れるためである。
一方、内層にPP層が配置されるのは、PP樹脂同士はヒートシール性に優れ、熱融着により確実に接合できるためである。
ところが、容器内層に位置するPP層は、PP樹脂の収着性が高いという特性により、レトルトパウチ内に充填される内容物(例えばカレー)の色素や味,香りなどを収着してしまうという問題があった。
このため、従来のレトルトパウチに充填される内容物は、内層のPP層に収着されることを前提として、例えばカレーであれば、本来よりも色や味の濃い,香りの強いカレーを充填して、PP層による収着があった上で、本来のカレーの色や味,香りがするように調理されたものが充填されるようになっていた。
従って、通常の料理として調理されたものを従来のレトルトパウチに充填すると、PP層の収着作用によって、色も味も香りも薄く、極端な場合には味のしない無味無臭のカレーとなってしまうことになる。
このような問題に対して、容器内層をPET層とすれば、PET樹脂はPP樹脂と比較して収着性がほとんどなく、上記のような内容物の色素や味,香りなどの収着の問題は発生しない。
ところが、PET層を容器内層にすると、ヒートシールにより包装容器(レトルトパウチ)を構成できないという問題が生じてしまう。
PET樹脂同士をヒートシール・熱融着させるには、例えば融点である260℃以上の高温によって融着・接合させることは可能であるが、その場合PET樹脂が結晶化してしまい、例えば落下させると砕けてしまうような硬く脆い状態となってしまい、もはやレトルトパウチとしての機能を果たせないものとなってしまう。
このため、PET層を容器内層に配したレトルトパウチは、これまで一切提案されていない。
これに対して、上述したように、本実施形態に係る接合方法によれば、接合面を平坦化・軟化する改質をした上で、ヒートシールを行うことにより、融点以下の例えば200℃の接合温度で、樹脂面同士を熱融着させることができる。
これによって、図6(b)に示すように、包装容器10aを構成する基材11a,12aとして、それぞれ容器外装側からPET層・アルミ層・PET層の3層が積層されたマルチレイヤー構成の基材を用いることができる。
この場合、容器内層側のPET層の接合面について、図2に示したアルゴンプラズマ等の高エネルギー照射を行った上で、基材11a,12aを積層した加熱・加圧することで、例えば200℃の接合温度で両基材11a,12aをヒートシールすることができる。
これによって、PET層同士が、融点以下の低温で接合されるので、上述したようなPET樹脂の高温加熱による硬質化や脆弱化等の変質がなく、柔軟性・耐久性に優れたパウチとして構成することができる。
そして、容器内層側にPET層が配置されたパウチは、PET樹脂の収着性の低さによって、内容物の色素や味,香りなどの収着の問題が発生せず、その結果、通常の料理として調理されたものをそのまま充填しても、色や味・香りなどが変化しない、理想的なレトルトパウチ・パウチを実現することができる。
以上説明したように、本実施形態の接合方法によれば、接合する樹脂基材の接合面を平坦化・軟化する改質を行うことで、ガラス転移点もしくは融点以下の接合温度で、より低温の接合温度で樹脂からなる接合面同士を熱融着させることができる。
このような低温接合によって、例えばマイクロ流体デバイス10に形成された微細なマイクロ流路13が高温加熱により変形等することなく、所望の流路空間を備えたマイクロ流体デバイス10を製造することができる。
また、PET樹脂などのポリエステル製の樹脂同士も低温で接合することが可能となり、例えば容器内層にPET層を備えたポリエステル製レトルトパウチを製造することができる。また、キャップ、スパウト、蓋材などの包装材の接合に用いてもよく、複数の基材に限らず、基材の端部同士を接合して筒状や袋状の包装容器としてもよいが、樹脂面同時は同種の材料を選択することが好ましい。
従って、本発明は、例えば簡易なインフルエンザ用の迅速診断キットを構成するマイクロ流体デバイスや、カレーなどのレトルト食品用の包装容器(レトルトパウチ)に好適な製造方法として用いることができる。
以下、本発明に係る接合方法の実施例を説明する。
なお、本発明を以下の実施例により更に説明するが、本発明は下記実施例により何らかの制限を受けるものではない。
[実施例1]
射出成形機でポリメチルメタクリレート(クラレ製、商品名パラペットGF、ガラス転移点100℃)を射出成形し、外形寸法60mm×15mm×1.0mmのプレート状の基板と蓋部材を作製した。
基材表面を70%エタノールで洗浄し、CDAにより乾燥させた。
続いて、高エネルギー照射は、表面波プラズマ装置にてアルゴンガス流量200SCCM、マイクロ波周波数2.45GHz、マイクロ波出力1.5kW、真空度400Paの条件下で、基材表面にプラズマ照射を行い、表面を平坦化・軟化させた。そして、直ちに基材のプラズマ照射面を内側にして、基板と蓋部材を重ね、ヒートシール機で接合温度30℃、接合圧力1.9MPaの条件下で60秒間保持し、基板と蓋部材を接合した。
クラックオープニング法にて結合エネルギーを測定したところ、アルゴンプラズマを照射したことにより、図3〜5で示すように、基材表面が平坦化・軟化されることで、結合エネルギーが増加した(図3参照)。
[実施例2]
高エネルギー照射は、表面波プラズマ装置にて酸素ガス流量200SCCM、真空度100Pa、接合は接合温度70℃の条件下とした以外は、実施例1と同様に試料を準備した。
その結果、図7〜9に示すように、基板及び蓋部材の表面が平坦化・軟化されることで、結合エネルギーが増加した(図7参照)。
[実施例3]
高エネルギー照射は、真空紫外線装置(MDエキシマ製、型式MEIRA−M−1−152−H2)にて、波長172nm、管面照度78W/cm、RF出力600W、照射距離2mm、大気雰囲気の条件下とした以外は実施例1と同様に試料を準備した。
その結果、図10〜12に示すように、基板及び蓋部材の表面が平坦化・軟化されることで、結合エネルギーが増加した(図10参照)。
[比較例1]
基材表面への高エネルギー照射を行わずに、接合は接合温度30℃ならびに70℃とした以外は、実施例1と同様に試料を準備した。
その結果、基板と蓋部材をヒートシール機から取り出すと、基板と蓋部材は接合されなかった(結合エネルギー0J/m2
[実施例4]
外層に延伸ポリエステル(厚さ12μm)にアルミ箔(厚さ6μm)を重ね、内層に延伸ポリエステル(厚さ100μm、融点260℃)をドライラミネート機で積層し、基材を作製した。
基材表面を70%エタノールで洗浄し、CDAにより乾燥させた。
続いて、表面波プラズマ装置にてアルゴンガス流量200SCCM、マイクロ波周波数2.45GHz、マイクロ波出力1.5kW、真空度400Paの条件下で、基材表面にプラズマ照射を行い、表面を平坦化・軟化させた。
内層の延伸ポリエステル同士を内側にして基材を重ね、ヒートシール機で接合温度200℃、接合圧力1.3MPaの条件下で60秒間保持し、基材同士を接合した。引張試験機で引張速度300mm/minのTピール試験にて接合強度を測定した結果、シール強度は23N/15mm以上であった。
また、4方シール袋(170mm×130mm)を作製し、カレーを充填・密封後、レトルト釜にて温度121℃の条件下で2時間加圧加熱殺菌を実施した。
目視検査により、シール袋内面への色素の収着を確認した結果、内層の延伸ポリエステルは着色されていなかった。
[比較例2]
実施例4の基材の内層にポリプロピレン(厚さ100μm)にして、高エネルギー照射を行わずに、接合温度200℃、接合圧力1.3MPaの条件下で10秒間保持し、基材同士を接合した以外は、実施例4と同様に試料を作製した。
その結果、シール強度は23N/15mm以上であったが、レトルト後の目視検査により、シール袋内面への色素の収着を確認した結果、内層のポリプロピレンは黄色に着色されていた。
以上、本発明の接合方法について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明に係る接合方法は、上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、上述した実施形態では、本発明に係る接合体の一例として、インフルエンザ用の診断キットを構成するマイクロ流体デバイスや、食品等の包装容器を例にとって説明したが、本発明に係る接合方法で接合(製造)可能なものとしては、そのようなマイクロ流体デバイスや包装容器のみに限定されるものではない。
すなわち、本願発明は、ガラス転移点又は融点のいずれか一方の温度以下で加熱接合させる要請のある用途であれば、特に限定されるものではない。
本発明は、例えば簡易なインフルエンザ用迅速診断キットなどを構成するマイクロ流体デバイスや、食品等の包装容器を構成する樹脂積層体の製造に好適に利用することができる。
10 マイクロ流体デバイス
11 基板
12 蓋部材(カバー体)
13 マイクロ流路
10a 包装容器
11a 基材
12a 基材

Claims (2)

  1. 樹脂面同士を接合する方法であって、
    基材の接合面に、高エネルギー照射を行うことにより当該接合面を平坦化及び軟化する工程と、
    前記接合面を接触させた後、基材を、加熱及び/又は加圧して接合する工程と、
    を有し、
    前記基材が、マイクロ流体デバイスを構成する、熱可塑性樹脂からなり、
    前記高エネルギー照射を行う工程において、
    前記基材の接合面に、照射時間2〜10秒の範囲で、アルゴンプラズマを照射することにより、
    記基材の接合面の表面粗さを、算術平均粗さRa≦10nmとし、
    前記熱可塑性樹脂のガラス転移点の温度以下、かつ、70℃以下の温度で、前記基材の接合面同士を接合させる
    ことを特徴とする接合方法。
  2. 2つの基材のうち少なくとも1つの基材の接合面に前記高エネルギー照射を行う請求項1に記載の接合方法。
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