本発明では、無機充填材、重合性単量体及び重合開始剤を含む処理前組成物(以下、単に「処理前組成物」という。)に対して、音響ミキサーによる音響エネルギーを用いる。特に、音響エネルギーが10〜100Hzの周波数であることが好ましく、20〜90Hzの周波数であることがより好ましい。10Hzより小さい場合には、処理前組成物を混合にするために必要なエネルギーを十分に与えることができない場合がある。
前記した音響エネルギーは、何らかの公知の起源を使用して前記処理前組成物に供給されるが、一般的には、前記処理前組成物を満たした容器に周期的な直線変位によってエネルギーを供給することが好ましい。本発明において、直線変位により供給される音響エネルギーが、前記処理前組成物に対して約10倍の重力加速度(10G=10×9.80665m/s2)〜約100倍の重力加速度(100G=100×9.80665m/s2)を生成することがより好ましい。所望の周波数領域内の所望の重力加速度を生成させるために必要とされる周期的な直線変位を供給するために、多数の機械式又は電子変換器配置が利用され得ることは当然ではあるものの、必要な音響エネルギーを供給するのに適した市販の装備の一例はResodyn(登録商標)音響ミキサー(Resodyn Acoustic Mixers,Inc.)であり、数gのラボスケールから数kgの製造スケールまで対応可能である。
本発明で製造される歯科用硬化性組成物は、歯科医療の分野において、天然歯の一部分又は全体を代替し得る歯科材料(特に歯科用コンポジットレジン、歯科用セメント)に関する。前記組成物は、無機充填材、重合性単量体、及び重合開始剤を含む。無機充填材は、シランカップリング剤で表面処理されたものを使ってもよい。
本発明に用いる無機充填材について以下に説明する。無機充填材は、特に限定されず、公知の無機粒子を用いることができる。具体的には、各種ガラス類(二酸化珪素(石英、石英ガラス、シリカゲル等)、又は珪素を主成分とし、各種重金属とともにホウ素及び/又はアルミニウムを含有するもの)、アルミナ、各種セラミック類、珪藻土、カオリン、粘土鉱物(モンモリロナイト等)、活性白土、合成ゼオライト、マイカ、シリカ、フッ化カルシウム、フッ化イッテルビウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化ジルコニウム(ジルコニア)、二酸化チタン(チタニア)、ヒドロキシアパタイト等の従来公知の物を使用することができる。また、無機充填材は、前記無機粒子に重合性単量体を予め添加してペースト状にした後、重合硬化させ、粉砕して得られる有機無機複合粒子(有機無機複合フィラー)を含んでいてもよい。無機充填材の材料は、前記無機粒子又は前記有機無機複合粒子を、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせたものであってもよい。
また、歯科用コンポジットレジン及び歯科用セメントに望まれる重要な物性としては、天然歯と同様の透明性とX線造影性が挙げられる。透明性は、無機充填材と硬化後の重合性単量体の屈折率をできるだけ一致させることで達成される。また、X線造影性の付与のためには、ジルコニウム、バリウム、チタン、ランタン、ストロンチウム等の重金属元素を含む無機酸化物が無機充填材の材料に用いられる。前記重金属元素を含む無機充填材の屈折率は通常高く、1.5〜1.6の範囲内にある。また、(メタ)アクリレート系単量体の硬化物の屈折率は通常、1.5〜1.6の範囲内に調整可能である。本発明において、例えば、前記重金属元素を含む無機充填材と、重合性単量体として(メタ)アクリレート系単量体とを含む硬化性組成物は、無機充填材と重合性単量体との屈折率差を小さく調節することができるため、得られる歯科用コンポジットレジン及び歯科用セメントは、X線造影性だけでなく高い透明性を得やすく有用である。
無機粒子は、形態に特に制限がなく、例えば、破砕状、板状、鱗片状、繊維状(短繊維、長繊維)、針状、ウィスカー、球状等各種形状のものが用いられる。無機粒子は、前記形状の一次粒子が凝集した形態でもよく、異なる形状の一次粒子が組み合わされたものでもよい。なお、本発明においては、前記形状を有するよう、無機粒子が何らかの処理(例えば、粉砕)を施されたものであってもよい。
無機粒子の粒子径は、歯科用コンポジットレジン又は歯科用セメントの無機充填材として通常用いられる程度の大きさを有するのであればよく、例えば、平均粒子径が1.0nm〜10μm(粒径範囲:0.50nm〜50μm)であるものが挙げられる。平均粒子径は、2.0nm〜5.0μm(粒径範囲:0.50nm〜20μm)であることが好ましく、5.0nm〜3.0μm(粒径範囲:1.0nm〜10μm)であることがより好ましい。なお、本明細書において、無機粒子の粒子径とは、無機粒子の一次粒子の粒子径(平均一次粒子径)を意味し、粒径範囲とは、無機粒子の一次粒子の95%が含まれる粒子径の範囲のことである。規定する粒径範囲に含まれない無機粒子が無機充填材に意図せず含まれていても、本発明の効果を損なわない範囲内であれば特に制限されない。
なお、本明細書において、無機粒子の平均粒子径は、レーザー回折散乱法又は電子顕微鏡観察により求めることができる。具体的には、0.10μm以上の粒子径を有する無機粒子の粒子径測定にはレーザー回折散乱法が、0.10μm未満の粒子径を有する無機粒子(超微粒子)の粒子径測定には電子顕微鏡観察が簡便である。
レーザー回折散乱法は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−2100、島津製作所製)により、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて測定することができる。
電子顕微鏡観察による平均粒子径の測定は、例えば、透過型電子顕微鏡(日立製作所製、H−800NA型)により、無機粒子の写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子(200個以上)の粒子径を、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Macview(株式会社マウンテック))を用いて行うことができる。このとき、粒子の粒子径は、その粒子と同一の面積をもつ正円の直径として求められ、粒子数とそれぞれの粒子径より、平均一次粒子径が算出される。
本発明の製造方法では、異なった材質、粒度分布、形態を持つ2種以上の無機粒子を、混合又は組み合わせた無機充填材を用いることもあり、また、本発明の効果を損なわない範囲内で、意図せずに、無機粒子以外の粒子が不純物として含まれていてもよい。
無機充填材の配合量としては、特に限定されないが、処理前組成物の全量に対して、30〜95質量%が好ましく、35〜90質量%がより好ましく、40〜85質量%がさらに好ましい。
また、無機充填材として、表面処理剤により予め表面処理が施された無機粒子を用いることができる。無機粒子に表面処理を施すことで、重合性単量体との馴染みが向上して、無機充填材と重合性単量体とがペースト状になりやすくなる。
表面処理剤としては、公知の表面処理剤を用いることができ、例えば、有機ケイ素化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機アルミニウム化合物等の有機金属化合物;リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボン酸基等の酸性基を少なくとも1個有する酸性基含有有機化合物を用いることができる。表面処理剤を2種以上使用する場合は、2種以上の表面処理剤の混合物を無機充填材に適用してもよい。無機粒子を表面処理する方法としては、特に制限なく公知の方法を用いることができる。
前記有機ケイ素化合物としては、R1 nSiX4-nで表される化合物が挙げられる(式中、R1は炭素数1〜12の置換又は無置換の炭化水素基であり、Xは炭素数1〜4のアルコキシ基、アセトキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子又は水素原子を示し、nはO〜3の整数である。但し、複数のR1、Xは、互いに同じであっても異なっていてもよい。)。
前記有機ケイ素化合物は、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、メチル−3,3,3−トリフルオロプロピルジメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、トリメチルシラノール、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、トリメチルブロモシラン、ジエチルシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ω−(メタ)アクリロキシアルキルトリメトキシシラン〔(メタ)アクリロキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3〜12、例えば、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等〕、ω−(メタ)アクリロキシアルキルトリエトキシシラン〔(メタ)アクリロキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3〜12、例えば、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等〕等が挙げられる。なお、本発明において「(メタ)アクリロキシ」との表記は、メタクリロキシ基とアクリロキシ基の両者を包含する意味で用いられる。
前記有機ケイ素化合物は、重合性単量体と共重合し得る官能基を有するカップリング剤であることが好ましく、例えば、ω−(メタ)アクリロキシアルキルトリメトキシシラン〔(メタ)アクリロキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3〜12〕、ω−(メタ)アクリロキシアルキルトリエトキシシラン〔(メタ)アクリロキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3〜12〕、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等が好ましい。
前記有機チタン化合物としては、例えば、テトラメチルチタネート、テトラエチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラn−ブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート等が挙げられる。
前記有機ジルコニウム化合物としては、例えば、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムn−ブトキシド、ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニウムアセテート等が挙げられる。
前記有機アルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウム有機酸塩キレート化合物等が挙げられる。
前記リン酸基を含有する酸性基含有有機化合物としては、例えば、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16−(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9−(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシ−(1−ヒドロキシメチル)エチル〕ハイドロジェンホスフェート、及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
また、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボン酸基等の酸性基を有する酸性基含有有機化合物としては、例えば、WO2012/042911号に記載のものを好適に用いることができる。
前記表面処理剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、無機充填材と重合性単量体との化学結合性を高めて歯科用硬化性組成物の硬化物の機械的強度を向上させるために、前記表面処理剤は、重合性単量体と共重合し得る官能基を有する酸性基含有有機化合物がより好ましい。
表面処理剤の使用量は、特に限定されず、例えば、無機充填材100質量部に対して、0.1〜50質量部が好ましい。
重合性単量体について以下に説明する。重合性単量体としては、歯科用コンポジットレジン又は歯科用セメント等に使用される公知の重合性単量体が何ら制限無く用いられるが、一般には、ラジカル重合性単量体が好ましい。前記ラジカル重合性単量体は、例えば、α−シアノアクリル酸、(メタ)アクリル酸、α−ハロゲン化アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸等のエステル類、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド誘導体、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、モノ−N−ビニル誘導体、スチレン誘導体等が挙げられる。これらの中では、(メタ)アクリル酸エステル及び(メタ)アクリルアミド誘導体が好ましく、(メタ)アクリル酸エステルがより好ましい。なお、本発明において「(メタ)アクリル」との表記は、メタクリルとアクリルの両者を包含する意味で用いられる。(メタ)アクリル酸エステル系及び(メタ)アクリルアミド誘導体系の重合性単量体の例を以下に示す。
(i)単官能性(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリルアミド誘導体
メチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2,3−ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アタクレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、エリトリトールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシデシルアンモニウムクロライド、10−メルカプトデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
(ii)二官能性(メタ)アクリレート
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス[4−〔3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−メタアクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]プロパン(通称Bis−GMA))、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン、1,2−ビス〔3−(メタ)アクリロイルオキシ2−ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリトリトールジ(メタ)アクリレート、[2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−力ルバモイルオキシエチル)]ジメタクリレート(通称UDMA)、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロ−1,5−ペンチルジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
(iii)三官能性以上の(メタ)アクリレート
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、N,N’−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラ(メタ)アクリレート、1,7−ジアクリロイルオキシー2,2,6,6−テトラアクリロイルオキシメチル−4−オキサヘプタン等が挙げられる。
また、歯質や補綴物との接着性を持たせるために、重合性単量体中に酸性基を有する重合性単量体を用いることもできる。これらは、1種単独で又は2種以上適宜組み合わせて使用することができる。重合性単量体として、好ましくは、リン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、及びカルボン酸基からなる群から選択される少なくとも1種の酸性基を有する重合性単量体である。
リン酸基を有する重合性単量体としては、上記したリン酸基を含有する酸性基含有有機化合物を用いることができる。
また、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボン酸基等の酸性基を有する酸性基含有重合性単量体としては、例えば、上記したピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボン酸基等の酸性基を有する酸性基含有有機化合物を用いることができる。
また、これらの(メタ)アクリル酸エステル系及び(メタ)アクリルアミド誘導体系の重合性単量体の他に、カチオン重合可能な、オキシラン化合物あるいはオキセタン化合物も好適に用いられる。
重合性単量体の配合量としては、特に限定されないが、処理前組成物の全量に対して、3〜60質量%が好ましく、7〜55質量%がより好ましく、13〜50質量%がさらに好ましい。前記重合性単量体は、いずれも、それぞれ1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、本発明で用いられる重合性単量体は液体状であることが好ましいが、常温で液体状である必要は必ずしもなく、重合性単量体を粉末のプレス成形体に接触させる工程の環境下で液体であればなんら差し支えない。さらに、固体状の重合性単量体であっても、液体状の、その他の重合性単量体と混合溶解させて使用することができる。
次に、重合開始剤について説明する。重合開始剤としては、加熱重合開始剤、光重合開始剤、化学重合開始剤が挙げられる。これらは、1種単独で用いてよく、2種以上を併用してもよい。
加熱重合開始剤としては、有機過酸化物とアゾ化合物等が挙げられる。
上記加熱重合開始剤として用いられる有機過酸化物としては、例えば、ケトンパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシケタール、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート等が挙げられる。
ケトンパーオキサイドとしては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルイソブチルケトンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等が挙げられる。
ハイドロパーオキサイドとしては、例えば、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。ジアシルパーオキサイドとしては、例えば、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等が挙げられる。ジアルキルパーオキサイドとしては、例えば、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3−ヘキシン等が挙げられる。パーオキシケタールとしては、例えば、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、2,2一ビス(t一ブチルパーオキシ)オクタン、4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレリックアシッド−n−ブチル等が挙げられる。パーオキシエステルとしては、例えば、α−クミルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、2,2,4−トリメチルペンチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド等が挙げられる。パーオキシジカーボネートとしては、例えば、ジ−3−メトキシパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジアリルパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
これらの有機過酸化物の中でも、安全性、保存安定性及びラジカル生成能力の総合的なバランスから、ジアシルパーオキサイドが好ましく用いられ、その中でもベンゾイルパーオキサイドがより好ましく用いられる。
アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリック酸)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、ジメチル−2,2’−アゾビス(イソブチレート)、2,2’−アゾビス(2−アミノプロパン)ジヒドロクロライド等が挙げられる。
光重合開始剤としては、例えば、(ビス)アシルホスフィンオキサイド類、α−ジケトン類、クマリン類等が挙げられる。
(ビス)アシルホスフィンオキサイド類のうち、アシルホスフィンオキサイド類としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジ−(2,6−ジメチルフェニル)ホスホネート、及びこれらの塩等が挙げられる。ビスアシルホスフィンオキサイド類としては、ビス(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,5,6−トリメチルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、及びこれらの塩等が挙げられる。これら(ビス)アシルホスフィンオキサイド類の中でも、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド及び2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイドナトリウム塩が好ましい。
α−ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ジベンジル、カンファーキノン、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、9,10−フェナンスレンキノン、4,4’−オキシベンジル、アセナフテンキノン等が挙げられる。この中でも、カンファーキノンが好適である。
クマリン類としては、3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノクマリン)、3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−チエノイルクマリン、3−ベンゾイル−5,7−ジメトキシクマリン、3−ベンゾイル−7−メトキシクマリン、3−ベンゾイル−6−メトキシクマリン、3−ベンゾイル−8−メトキシクマリン、3−ベンゾイルクマリン、7−メトキシ−3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3,5−カルボニルビス(7−メトキシクマリン)、3−ベンゾイル−6−ブロモクマリン、3,3’−カルボニルビスクマリン、3−ベンゾイル−7−ジメチルアミノクマリン、3−ベンゾイルベンゾ[f]クマリン、3−カルボキシクマリン、3−カルボキシ−7−メトキシクマリン、3−エトキシカルボニル−6−メトキシクマリン、3−エトキシカルボニル−8−メトキシクマリン、3−アセチルベンゾ[f]クマリン、3−ベンゾイル−6−ニトロクマリン、3−ベンゾイル−7−ジエチルアミノクマリン、7−ジメチルアミノ−3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、7−ジエチルアミノ−3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、7−ジエチルアミノ−3−(4−ジエチルアミノ)クマリン、7−メトキシ−3(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−(4−ニトロベンゾイル)ベンゾ[f]クマリン、3−(4−エトキシシンナモイル)−7−メトキシクマリン、3−(4−ジメチルアミノシンナモイル)クマリン、3−(4−ジフェニルアミノシンナモイル)クマリン、3−[(3−ジメチルベンゾチアゾール−2−イリデン)アセチル]クマリン、3−[(1−メチルナフト[1,2−d]チアゾール−2−イリデン)アセチル]クマリン、3,3’−カルボニルビス(6−メトキシクマリン)、3,3’−カルボニルビス(7−アセトキシクマリン)、3,3’−カルボニルビス(7−ジメチルアミノクマリン)、3−(2−ベンゾチアゾイル)−7−(ジエチルアミノ)クマリン、3−(2−ベンゾチアゾイル)−7−(ジブチルアミノ)クマリン、3−(2−ベンゾイミダゾイル)−7−(ジエチルアミノ)クマリン、3−(2−ベンゾチアゾイル)−7−(ジオクチルアミノ)クマリン、3−アセチル−7−(ジメチルアミノ)クマリン、3,3’−カルボニルビス(7−ジブチルアミノクマリン)、3,3’−カルボニル−7−ジエチルアミノクマリン−7’−ビス(ブトキシエチル)アミノクマリン、10−[3−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−1−オキソ−2−プロペニル]−2,3,6,7−テトラヒドロ−1,1,7,7−テトラメチル1H,5H,11H−[1]ベンゾピラノ[6,7,8−ij]キノリジン−11オン、10−(2−ベンゾチアゾイル)−2,3,6、7−テトラヒドロ−1,1,7,7−テトラメチル1H,5H,11H−[1]ベンゾピラノ[6,7,8−ij]キノリジン−11−オン等の特開平9−3109号公報、特開平10−245525号公報に記載されている化合物が挙げられる。
上述のクマリン化合物の中でも、3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノクマリン)及び3,3’−カルボニルビス(7−ジブチルアミノクマリン)が好適である。
これらの光重合開始剤の中でも、歯科用硬化性組成物に広く使われている(ビス)アシルホスフィンオキサイド類、α−ジケトン類、及びクマリン類からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。また、かかる光重合開始剤は、必要に応じて、更に重合促進剤を配合することで、光重合をより短時間で効率的に行うことができる場合がある。
光重合開始剤に好適な重合促進剤としては、主として第3級アミン、アルデヒド類、チオール基を有する化合物、スルフィン酸及びその塩等が挙げられる。
第3級アミンとしては、例えば、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−4−エチルアニリン、N,N−ジメチル−4−イソプロピルアニリン、N,N−ジメチル−4−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチル−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−エチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジイソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸ブチル、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸n−ブトキシエチル、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸(2−メタクリロイルオキシ)エチル等の第3級芳香族アミン;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−ラウリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、N−メチルジエタノールアミンジ(メタ)アクリレート、N−エチルジエタノールアミンジ(メタ)アクリレート、トリエタノールアミンモノ(メタ)アクリレート、トリエタノールアミンジ(メタ)アクリレート、トリエタノールアミントリ(メタ)アクリレート等の第3級脂肪族アミンが挙げられる。
アルデヒド類としては、例えば、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒド等が挙げられる。チオール基を有する化合物としては、例えば、2−メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、チオ安息香酸等が挙げられる。
スルフィン酸及びその塩としては、例えば、p−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸カリウム、p−トルエンスルフィン酸リチウム、p−トルエンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カルシウム等が挙げられる。
常温重合を行う場合には、例えば、有機過酸化物/アミン系、有機過酸化物/アミン/スルフィン酸(又はその塩)系等のレドックス系重合開始剤(化学重合開始剤)が好適に用いられる。レドックス系重合開始剤を使用する場合、酸化剤と還元剤が別々に包装された包装形態をとり、使用する直前に両者を混合する必要がある。レドックス系重合開始剤の酸化剤としては、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシケタール、ケトンパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物が挙げられる。具体的には、ジアシルパーオキサイドとしては、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド等が挙げられる。パーオキシエステルとしては、例えば、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ビス−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートが挙げられる。ジアルキルパーオキサイドとしては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドが挙げられる。パーオキシケタールとしては、例えば、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサンが挙げられる。ケトンパーオキサイドとしては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイドが挙げられる。ハイドロパーオキサイドとしては、例えば、t−ブチルハイドロパーオキサイドが挙げられる。レドックス系重合開始剤の還元剤としては、通常芳香環に電子吸引性基を有しない第3級芳香族アミンが用いられ、例えば、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−4−エチルアニリン、N,N−ジメチル−4−イソプロピルアニリン、N,N−ジメチル−4−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチル−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−エチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジイソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−t−ブチルアニリンが挙げられる。上記の他、クメンヒドロパーオキサイド/チオ尿素系、アスコルビン酸/Cu2+塩系、有機スルフィン酸(又はその塩)/アミン/過酸化物系等の酸化−還元系開始剤の他、トリブチルボラン、有機スルフィン酸等も好適に用いられる。
化学重合開始剤に使用される重合促進剤は、一般工業界で使用されている重合促進剤から選択して使用でき、中でも歯科用途に用いられている重合促進剤が好ましく用いられる。また、重合促進剤は、1種単独で又は2種以上適宜組み合わせて使用される。具体的には、アミン類、スルフィン酸及びその塩、銅化合物、スズ化合物等が挙げられる。
化学重合開始剤の重合促進剤として用いられるアミン類としては、脂肪族アミン及び芳香環に電子吸引性基を有する第3級芳香族アミンを使用できる。脂肪族アミンとしては、例えば、n−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−オクチルアミン等の第1級脂肪族アミン;ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、N−メチルエタノールアミン等の第2級脂肪族アミン;上記光重合開始剤の重合促進剤として例示した第3級脂肪族アミン等が挙げられる。これらの中でも、組成物の硬化性及び保存安定性の観点から、第3級脂肪族アミンが好ましく、その中でもN−メチルジエタノールアミン及びトリエタノールアミンがより好ましい。
また、化学重合開始剤の重合促進剤として用いられる芳香環に電子吸引性基を有する第3級芳香族アミンとしては、例えば、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸ブチル、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸n−ブトキシエチル、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸(2−メタクリロイルオキシ)エチル、4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾフェノン等が挙げられる。これらの中でも、組成物に優れた硬化性を付与できる観点から、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸n−ブトキシエチル及び4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾフェノンからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく用いられる。
化学重合開始剤の重合促進剤として用いられるスルフィン酸及びその塩としては、上記した光重合開始剤の重合促進剤として例示したものが挙げられ、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウムが好ましい。
重合促進剤として用いられる銅化合物としては、例えば、アセチルアセトン銅、酢酸第2銅、オレイン酸銅、塩化第2銅、臭化第2銅等が好適に用いられる。
重合促進剤として用いられるスズ化合物としては、例えば、ジ−n−ブチル錫ジマレエート、ジ−n−オクチル錫ジマレエート、ジ−n−オクチル錫ジラウレート、ジ−n−ブチル錫ジラウレート等が挙げられる。特に好適なスズ化合物は、ジ−n−オクチル錫ジラウレート及びジ−n−ブチル錫ジラウレートである。
これらのなかでも、光重合開始剤と加熱重合開始剤を併用することが好ましく、(ビス)アシルホスフィンオキサイド類とジアシルパーオキサイドの組合せがより好ましい。
重合開始剤の配合量は特に限定されないが、得られる組成物の硬化性等の観点からは、重合性単量体100質量部に対して、重合開始剤を0.001〜30質量部含有することが好ましい。重合開始剤の配合量が0.001質量部以上の場合、重合が十分に進行して機械的強度の低下を招くおそれがなく、より好適には0.05質量部以上、さらに好適には0.1質量部以上である。一方、重合開始剤の配合量が30質量部以下であると、重合開始剤自体の重合性能が低い場合にでも十分な機械的強度が得られ、さらには組成物からの析出を招くおそれがなく、より好適には20質量部以下である。
本発明の音響エネルギーによる処理前組成物は、前記成分以外に、目的に応じて、pH調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、重合禁止剤、着色剤、顔料、抗菌剤、X線造影剤、増粘剤、蛍光剤等の添加剤をさらに含有していてもよい。
処理前組成物は、重合性単量体を含有するのであれば特に制限なく、調製することができる。例えば、重合性単量体に、必要により、重合開始剤を配合して混合することにより調製することができる。
前記顔料としては、歯科用コンポジットレジン又は歯科用セメントに用いられている公知の顔料がなんら制限なく用いられる。前記顔料としては、無機顔料及び/又は有機顔料のいずれでもよく、無機顔料としては、例えば、黄鉛、亜鉛黄、バリウム黄等のクロム酸塩;紺青等のフェロシアン化物;銀朱、カドミウム黄、硫化亜鉛、カドミウムレッド等の硫化物;硫酸バリウム、硫酸亜鉛、硫酸ストロンチウム等の硫酸塩;アンチモン白、亜鉛華、チタン白、ベンガラ、鉄黒、酸化クロム等の酸化物;水酸化アルミニウム等の水酸化物;ケイ酸カルシウム、群青等のケイ酸塩;カーボンブラック、グラファイト等の炭素等が挙げられる。有機顔料としては、例えば、ナフトールグリーンB、ナフトールグリーンY等の二トロン系顔料;ナフトールS、リソールファストイエロー2G等のニトロ系顔料;パーマネントレッド4R、ブリリアントファストスカーレット、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー等の不溶性アゾ系顔料;リソールレッド、レーキレッドC、レーキレッドD等の難溶性アゾ系顔料;ブリリアントカーミン6B、パーマネントレッドF5R、ピグメントスカーレット3B、ボルドー10B等の可溶性アゾ系顔料;フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、スカイブルー等のフタロシアニン系顔料;ローダミンレーキ、マラカイトグリーンレーキ、メチルバイオレットレーキ等の塩基性染料系顔料;ピーコックブルーレーキ、エオシンレーキ、キノリンイエローレーキ等の酸性染料系顔料等が挙げられる。前記顔料は1種又は2種以上の組み合わせで用いることができ、目的とする色調に応じて適宜選択される。
処理前組成物における顔料の配合量は、所望の色調によって適宜調整されるため、特に限定されないが、硬化性組成物100質量部に対して、好ましくは0.000001質量部以上、より好ましくは0.00001質量部以上であり、好ましくは5質量部以下、より好ましくは1質量部以下である。また、好ましくは0.000001〜5質量部であり、より好ましくは0.00001〜1質量部である。
本発明に用いる処理前組成物は、無機充填材、重合性単量体及び重合開始剤を含有していれば特に限定はなく、当業者に公知の方法により、用途に応じた状態(1ペースト状態、2ペースト状態、粉−液状態、成型された状態)で容易に製造することができる。なお、化学重合開始剤もしくは化学重合性及び光重合性をあわせ持つ重合開始剤を使用する場合は、有機過酸化物を含む組成物と還元剤を含む組成物が別々に包装された包装形態をとり、使用する直前に両者を混合する必要がある。
本発明の硬化性組成物は、無機充填材、重合性単量体、及び重合開始剤を含む処理前組成物に対して、音響エネルギーを供給して混合させることで得られる。混合方法に用いられる容器は特に限定されないが、取扱い性の観点からプラスチック容器やガラス製容器が好適である。各成分を加える順番はいかなるものでもよい。例えば、重合性単量体と重合開始剤を、別々に無機充填材と混合し、得られた混合物同士をさらに混合してもよい。また、重合性単量体に重合開始剤をあらかじめ溶解させた重合性単量体含有組成物を別途準備することも可能であり、この場合には無機充填材と、重合性単量体組成物(例えば、重合性単量体組成物の溶液)を混合することで、前記処理前組成物を得ることができる。また、本発明の他の態様としては、前記した歯科用硬化性組成物の製造方法と同様の工程を有する、歯科用硬化性組成物の処理方法が挙げられる。
本発明で得られる硬化性組成物は、使用者が適切に使用するために、適切な稠度が必要であり、例えば、ペースト状の形態を示す稠度、糊状の形態を示す稠度、やや粘性の高い液状であることが好ましい。稠度としては、5mm〜100mmであることが好ましく、7mm〜80mmであることがより好ましく、10mm〜70mmであることがさらに好ましく、10mm〜40mmであることが特に好ましい。稠度が5mmより小さい場合は、ペーストが固いため使用性が悪くなるうえ、気泡を巻き込みやすくトラブルの原因となる。一方、稠度が100mmより大きい場合は、ペーストが垂れすぎてしまい、操作性が悪い。本明細書において、稠度とは、硬化性組成物を25℃で2時間静置した試料0.5mLを、25℃の恒温室内(湿度40%)でガラス板(5cm×5cm)の中心に盛り上げるように静置し、その上に40gのガラス板(5cm×5cm)を載せ、120秒経過後のガラス板越しに測定される試料の長径及び短径の算術平均を算出した値(単位:mm)のことである。なお、長径とは、ガラス板の面内における試料の中心を通る直径のうち最も長いものを指し、短径とは、ガラス板の面内における試料の中心を通る直径のうち試料の長径に直交するものを指す。さらに、本発明で得られる硬化性組成物は、25℃で調製から2時間静置後に前記条件で測定した稠度と、25℃で調製から360日保管(静置)した後に前記条件で測定した稠度との変化率が、±5.0%以内であることが好ましく、±3.0%以内であることがより好ましい。また、本発明で得られる硬化性組成物は、25℃で調製から2時間静置後に前記条件で測定した稠度と、25℃で調製から720日保管(静置)した後に前記条件で測定した稠度との変化率が、±5.0%以内であることが好ましく、±3.0%以内であることがより好ましい。さらに、本発明で得られる硬化性組成物は、50℃で調製から2時間静置後の稠度と、50℃で調製から360日保管(静置)した後に測定した稠度との変化率が、±5.0%以内であることが好ましく、±3.0%以内であることがより好ましい。また、本発明で得られる硬化性組成物は、50℃で2時間静置後の稠度と、50℃で調製から720日保管(静置)した後に測定した稠度との変化率が、±5.0%以内であることが好ましく、±3.0%以内であることがより好ましい。
また、得られた歯科用硬化性組成物は、実際に臨床で使用されるに耐えうる強度が必要であるため、その指標として曲げ強度を測定した。方法は、ISO4049:2009に則った。
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
重合性単量体組成物の製造例1
2,2−ビス(メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エトキシ基の平均付加モル数が2.6のもの、通称D2.6E)70質量部及びトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)30質量部に、光重合開始剤としてカンファーキノン0.2質量部、重合促進剤の4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸エチル0.3質量部、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド0.25質量部、紫外線吸収剤のチヌビン326を0.3質量部、微量の顔料を溶解させて、重合性単量体含有組成物(A−1)を調製した。
以下、無機粒子の表面処理は以下の方法によって実施した。エタノール2000g中に無機粒子100gをメカニカルスターラーで分散させて、ここへ酢酸1g、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを所定のパーセンテージになる量を添加した。25℃で2時間撹拌した後に、エタノールをエバポレーターで減圧留去して目的物(無機粒子のγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン処理品)を得た。
実施例1〔歯科用コンポジットレジンの調製〕
300mLのプラスチック容器に、重合性単量体組成物(A−1)を33g、バリウムガラス「GM27884 NF180」(平均粒子径:0.18μm、ショット社製)の7%γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン処理品67gを入れて、プラスチック製の蓋をした。この容器をResodyn(登録商標)音響ミキサー(Resodyn Acoustic Mixers,Inc.製)に設置し、50倍の重力加速度を生成する条件で音響エネルギーを30分間適用させて、ペースト状の歯科用コンポジットレジンを調製した。評価した稠度及び曲げ強度に関する経時変化のデータを表1に示した。
実施例2〔歯科用コンポジットレジンの調製〕
300mLのプラスチック容器に、重合性単量体組成物(A−1)を60g、バリウムガラス「GM27884 NF180」(平均粒子径:0.18μm、ショット社製)の7%γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン処理品127g、シリカマイクロビードP500(平均粒子径12nmの超微粒子の凝集体、凝集体平均粒子径2μm)の2%シラン処理品(日揮触媒化成社製)9gを入れて、プラスチック製の蓋をした。この容器をResodyn(登録商標)音響ミキサー(Resodyn Acoustic Mixers,Inc.製)に設置し、10倍の重力加速度を生成する条件で音響エネルギーを120分間適用させて、ペースト状の歯科用コンポジットレジンを調製した。評価した稠度及び曲げ強度に関する経時変化のデータを表1に示した。
実施例3〔歯科用コンポジットレジン(フロアブルコンポジットレジン)の調製〕
300mLのプラスチック容器に、重合性単量体組成物(A−1)を38g、バリウムガラス「GM27884 UF0.4」(平均粒子径:0.4μm、ショット社製)の5%γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン処理品58g、シリカマイクロビードP1000(平均粒子径約16nmの超微粒子の凝集体、凝集体平均粒子径5μm)の2%シラン処理品(日揮触媒化成社製)4gを入れて、プラスチック製の蓋をした。この容器をResodyn(登録商標)音響式ミキサー(Resodyn Acoustic Mixers,Inc.製)に設置し、100倍の重力加速度を生成する条件で音響エネルギーを60分間適用させて、比較的流動性の高い歯科用コンポジットレジン(一般にフロアブルコンポジットレジンと呼ばれる)を調製した。評価した稠度及び曲げ強度に関する経時変化のデータを表1に示した。
重合性単量体組成物の製造例2
D2.6E 40質量部、TEGDMA 18質量部、2,2−ビス[4−(3−メタアクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]プロパン30質量部、及び10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート10質量部に、重合開始剤としてカンファーキノン0.2質量部、過酸化ベンゾイル1.8質量部、微量の顔料を溶解させて、重合性単量体含有組成物(A−2)を調製した。
重合性単量体組成物の製造例3
D2.6E 70質量部、TEGDMA 26質量部、2,2−ビス[4−(3−メタアクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]プロパン2質量部、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン0.5質量部、及び4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸n−ブトキシエチル0.05質量部、トリエタノールアミン2質量部に、微量の顔料を溶解させて、重合性単量体含有組成物(A−3)を調製した。
実施例4〔歯科用セメントを構成するA1ペーストの調製〕
300mLのプラスチック容器に、重合性単量体組成物(A−2)を35g、バリウムガラス「GM8235 K4」(平均粒子径:1μm、ショット社製)の2%γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン処理品50g、軽質無水ケイ酸「Aerosil(登録商標)OX 50」(平均粒子径:約40nm、日本アエロジル社製)の3%γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン処理品15gを入れて、プラスチック製の蓋をした。この容器をResodyn(登録商標)音響ミキサー(Resodyn Acoustic Mixers,Inc.製)に設置し、80倍の重力加速度を生成する条件で音響エネルギーを40分間適用させて、歯科用セメントを構成するA1ペーストを調製した。評価したA1ペーストの稠度に関する経時変化のデータを表1に示した。歯科用セメントの曲げ強度に関する経時変化のデータについては、実施例4のA1ペースト1gと下記実施例5のB1ペースト1gとを混練したもので測定し、その結果を表1の実施例4の欄に示した。
実施例5〔歯科用セメントを構成するB1ペーストの調製〕
300mLのプラスチック容器に、重合性単量体組成物(A−3)を35g、バリウムガラス「GM27884 UF2.0」(平均粒子径:2.0μm、ショット社製)の3%γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン処理品50g、軽質無水ケイ酸「Aerosil(登録商標)OX 50」(平均粒子径約40nm、日本アエロジル社製)の3%γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン処理品14g、重合促進剤の2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム1gを入れて、プラスチック製の蓋をした。この容器をResodyn(登録商標)音響ミキサー(Resodyn Acoustic Mixers,Inc.製)に設置し、20倍の重力加速度を生成する条件で音響エネルギーを90分間適用させて、歯科用セメントを構成するB1ペーストを調製した。評価したB1ペーストの稠度に関する経時変化のデータを表1に示した。
比較例1〔歯科用コンポジットレジンの調製〕
実施例1において、Resodyn(登録商標)音響ミキサーを用いる代わりに、ツインミックス装置(ダルトン社製、万能混合攪拌機 STX−03)を用いて、公転52自転172の条件で20分、続いて公転83自転260の条件で10分混合してペースト状の歯科用コンポジットレジンを調製した。評価した稠度及び曲げ強度に関する経時変化のデータを表1に示した。
比較例2〔歯科用コンポジットレジンの調製〕
実施例1において、Resodyn(登録商標)音響ミキサーを用いる代わりに、遊星型ミキサー(クラボウ社製、マゼルスター KK−400W)を用いて、公転600自転500の条件で30分間混合してペースト状の歯科用コンポジットレジンを調製した。評価した稠度及び曲げ強度に関する経時変化のデータを表1に示した。
比較例3〔歯科用セメントを構成するA2ペーストの調製〕
実施例4において、Resodyn(登録商標)音響ミキサーを用いる代わりに、遊星型ミキサー(クラボウ社製、マゼルスター KK−400W)を用いて公転600自転500の条件で30分間混合して歯科用セメントを構成するA2ペーストを調製した。評価したA2ペーストの稠度に関する経時変化のデータを表1に示した。歯科用セメントの曲げ強度に関する経時変化のデータについては、比較例3のA2ペースト1gと下記比較例4のB2ペースト1gとを混練したもので測定し、その結果を表1の比較例3の欄に示した。
比較例4〔歯科用セメントを構成するB2ペーストの調製〕
実施例5において、Resodyn(登録商標)音響ミキサーを用いる代わりに、遊星型ミキサー(クラボウ社製、マゼルスター KK−400W)を用いて公転600自転500の条件で30分間混合して歯科用セメントを構成するB2ペーストを調製した。評価したB2ペーストの稠度に関する経時変化のデータを表1に示した。
試験例1(稠度)
各実施例及び比較例で得られたペースト状の硬化性組成物を、25℃又は50℃の温度で所定の期間(2時間、360日、720日)保管(静置)したサンプルから0.5mLを量り取り、25℃の恒温室内(湿度40%)でガラス板(5cm×5cm)の中心に盛り上げるように静置した。その上に40gのガラス板(5cm×5cm)を載せ、120秒経過後のサンプルの長径と短径をガラス板越しに測定し、その両者の算術平均を算出し、稠度(mm)とした。
試験例2(曲げ強度)
曲げ試験の国際基準ISO 4049:2009に則った。各実施例及び比較例で得られたサンプル(ペースト及び組成物)を試験例1と同様に25℃又は50℃で所定の期間(2時間、360日、720日)保管(静置)し、それらのサンプルを、ステンレス製の金型(寸法2mm×2mm×25mm)に充填後、上下をスライドガラスで圧接し、歯科用技工用光照射器(モリタ製、アルファーライトII)で両面から各2分間ずつサンプルに光を照射して硬化させて、硬化物を得た。各実施例及び比較例について、硬化物を5本ずつ作製し、硬化物は、金型から取り出した後、37℃の蒸留水中に24時間保管した。インストロン万能試験機を用いて、スパン:20mm、クロスヘッドスピード:1mm/minの条件下で曲げ強度を測定し、各試験片の測定値の平均値を算出し、曲げ強度とした。結果を表1に示す。なお、実施例4及び5によって得られたA1ペースト及びB1ペーストは、各々を練和棒、ミキシングチップ(歯科用練成器具)等で混ぜ合わせることで歯科用セメントとして使用されるため、本明細書ではA1ペースト及びB1ペーストを各1gずつ練和紙上へ取出し、練和棒にて1分間混ぜて歯科用セメントペーストにしたうえで、曲げ強度を測定した。同様に、比較例3及び4によって得られたA2ペースト及びB2ペーストについても、A2ペースト及びB2ペーストを各1gずつ練和紙上へ取出し、練和棒にて1分間混ぜて歯科用セメントペーストにしたうえで、曲げ強度を測定した。
以上の結果より、実施例1〜5で作製した歯科用硬化性組成物は、長期的に稠度及び粘性の変化が極めて小さいのに対し、比較例1及び2で作製した歯科用硬化性組成物は、稠度で360日後に2.0mm以上も調製直後から変化しており、組成物の感触が大きく変化していることがわかる。同様に、比較例3及び4で作製した歯科用硬化性組成物も、稠度で360日後に1.0mm以上も調製直後から変化し、さらに機械的強度も大きく損なわれた。また、実施例1〜5で作製した歯科用硬化性組成物は、硬化物の長期的な機械的強度も優れる。