以下、図面を参照して、実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置を説明する。
(実施形態)
図1は、実施形態に係るMRI装置100の構成を示すブロック図である。なお、以下では、磁気共鳴イメージング装置をMRI(Magnetic Resonance Imaging)装置と称する。
図1に示すように、MRI装置100は、静磁場磁石101と、静磁場電源102と、傾斜磁場コイル103と、傾斜磁場電源104と、寝台105と、寝台制御回路106と、WB(Whole Body)コイル107と、送信回路108と、受信コイル109と、受信回路110と、真空ポンプ111と、シーケンス制御回路120と、計算機130とを備える。なお、MRI装置100に、被検体P(例えば、人体)は含まれない。また、図1に示す構成は一例に過ぎない。
静磁場磁石101は、中空の略円筒形状に形成された磁石であり、内部の空間に静磁場を発生する。静磁場磁石101は、例えば、超伝導磁石等であり、静磁場電源102から電流の供給を受けて励磁する。静磁場電源102は、静磁場磁石101に電流を供給する。なお、静磁場磁石101は、永久磁石でもよく、この場合、MRI装置100は、静磁場電源102を備えなくてもよい。また、静磁場電源102は、MRI装置100とは別に備えられてもよい。また、略円筒形状には、真円の円筒形状のみならず、MRI装置100の機能を大きく損なわない範囲で歪んだ楕円の円筒形状も含まれる。
傾斜磁場コイル103は、中空の略円筒形状に形成されたコイル構造体であり、静磁場磁石101の内側に配置される。傾斜磁場コイル103は、互いに直交するx、y、及びzの各軸に対応する3つのコイルが組み合わされて形成されており、これら3つのコイルは、傾斜磁場電源104から個別に電流の供給を受けて、x、y、及びzの各軸に沿って磁場強度が変化する傾斜磁場を発生する。傾斜磁場コイル103によって発生するx、y、及びzの各軸の傾斜磁場は、例えば、スライスエンコード傾斜磁場GSE(若しくはスライス選択傾斜磁場GSS)、位相エンコード傾斜磁場GPE、及び周波数エンコード傾斜磁場GROである。傾斜磁場コイル103は、例えば、これら3つのコイルがエポキシ樹脂等で含浸されて形成される。傾斜磁場電源104は、傾斜磁場コイル103に電流を供給する。
寝台105は、被検体Pが載置される天板105aを備え、寝台制御回路106による制御の下、天板105aを、被検体Pが載置された状態で、傾斜磁場コイル103の空洞(撮像口)内へ挿入する。通常、寝台105は、長手方向が静磁場磁石101の中心軸と平行になるように設置される。寝台制御回路106は、計算機130による制御の下、寝台105を駆動して天板105aを長手方向及び上下方向へ移動する。
WBコイル107は、傾斜磁場コイル103の内側に配置され、送信回路108からRFパルスの供給を受けて、高周波磁場を発生する。また、WBコイル107は、高周波磁場の影響によって被検体Pから発せられる磁気共鳴信号(以下、適宜「MR(Magnetic Resonance)信号」)を受信し、受信したMR信号を受信回路110に出力する。
送信回路108は、対象とする原子の種類及び磁場強度で定まるラーモア周波数に対応するRFパルスをWBコイル107に供給する。
受信コイル109は、傾斜磁場コイル103の内側に配置され、高周波磁場の影響によって被検体Pから発せられるMR信号を受信する。受信コイル109は、MR信号を受信すると、受信したMR信号を受信回路110へ出力する。
なお、上述したWBコイル107及び受信コイル109は一例に過ぎない。例えば、受信コイル109は、必ずしも備えられていなくても良い。また、WBコイル107及び受信コイル109は、送信機能のみを備えたコイル、受信機能のみを備えたコイル、及び送受信機能を備えたコイルのうち、1つ若しくは複数を組み合わせることによって構成されれば良い。
受信回路110は、受信コイル109から出力されるMR信号を検出し、検出したMR信号に基づいてMRデータを生成する。具体的には、受信回路110は、受信コイル109から出力されるMR信号をデジタル変換することによってMRデータを生成する。また、受信回路110は、生成したMRデータをシーケンス制御回路120へ送信する。
真空ポンプ111は、所定の空間に含まれる空気を排出させることで、所定の空間を真空にするポンプである。ここで、本実施形態において、真空(真空状態)とは、空気などの物質が全く存在しない状態(絶対真空)のみに限定されるものではなく、例えば、所定の空間が大気圧(約0.1MPa)より低い圧力の気体で満たされた状態を含むものである。なお、MRI装置100における真空ポンプ111の機能については、後述する。
シーケンス制御回路120は、計算機130から送信されるシーケンス情報に基づいて、傾斜磁場電源104、送信回路108及び受信回路110を駆動することによって、被検体Pの撮像を行う。ここで、シーケンス情報は、撮像を行うための手順を定義した情報である。シーケンス情報には、傾斜磁場コイル103に供給する電流の強さや電流を供給するタイミング、送信回路108がWBコイル107に供給するRFパルスの強さやRFパルスを印加するタイミング、受信回路110がMR信号を検出するタイミング等が定義される。例えば、シーケンス制御回路120は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)等の電子回路である。
また、シーケンス制御回路120は、傾斜磁場電源104、送信回路108及び受信回路110を制御して被検体Pを撮像した結果、受信回路110からMRデータを受信すると、受信したMRデータを計算機130へ転送する。
計算機130は、MRI装置100の全体制御や、MR画像の生成等を行う。例えば、計算機130は、操作者から入力される撮像条件に基づいてシーケンス制御回路120に撮像シーケンスを実行させる。また、計算機130は、シーケンス制御回路120から送信されたMRデータに基づいて画像を再構成する。計算機130は、再構成された画像を記憶部に格納したり、表示部に表示したりする。なお、計算機130は、例えば、コンピュータ等の情報処理装置である。
このような構成のもと、実施形態に係るMRI装置100は、患者空間(ボア)に伝わる騒音を低減させるために、以下に説明する構成を備える。
図2は、実施形態に係るMRI装置100の架台の内部構造を説明するための図である。図2には、静磁場磁石101の中心軸を通るyz平面における断面図を例示する。
図2に示すように、例えば、架台は、被検体Pが置かれる略円筒形状のボアを有し、架台カバー11により囲まれた構造である。架台の内部には、略円筒形状の静磁場磁石101、傾斜磁場コイル103、及びWBコイル107が設置される。
傾斜磁場コイル103は、静磁場磁石101の内部の空間において、コイル支持部材12a,12b及び支持部材13a,13b,13c,13dにより支持される。コイル支持部材12a,12bは、傾斜磁場コイル103の振動を低減しつつその重量を支えるための部材である。コイル支持部材12a,12bは、例えば、ゴムやエラストマーなどの防振材によって形成される。また、支持部材13a,13b,13c,13dは、静磁場磁石101と傾斜磁場コイル103との位置関係を維持するための部材である。支持部材13a,13b,13c,13dは、例えば、傾斜磁場コイル103の端部において、円周方向に沿って数個配置される。
ボアチューブ140は、傾斜磁場コイル103の内側に略円筒形状に形成される。ボアチューブ140は、例えば、傾斜磁場コイル103の内部の空間において、被検体Pが置かれるボアを形成する。ボアチューブ140は、強度を確保するために、ガラス繊維と、エポキシ樹脂又はポリエステル樹脂とを用いたフィラメントワインディング成形(FW成形)によって略円筒形状に形成される。また、ボアチューブ140には、WBコイル107が設置される。
例えば、ボアチューブ140は、支持部材14a,14b,14c,14dにより支持される。支持部材14a,14b,14c,14dは、例えば、ボアチューブ140及びWBコイル107の重量を支えるための部材である。支持部材14a,14b,14c,14dそれぞれは、防振部材15a,15b,15c,15dをそれぞれ介してボアチューブ140に取り付けられる。
また、ボアチューブ140の内側に形成されたボアには、被検体Pを載置するための天板105aが挿入される。天板105aは、ボア内部に設置される寝台レール16の上を軸方向に沿って移動可能に支持される。寝台レール16は、寝台レール支持部17a,17bにより静磁場磁石101から支持される。
ここで、実施形態に係るMRI装置100は、傾斜磁場コイル103からボアへ伝わる騒音を低減させるために、シール部材20a,20bと、シール構造体150a,150bとを備える。
シール部材20a,20bは、傾斜磁場コイル103の端部において、傾斜磁場コイル103とボアチューブ140との間の略円筒状空間を密閉状態に保つ。例えば、シール部材20aは、傾斜磁場コイル103とボアチューブ140との間における軸方向のうち一方の端部に配置される。また、シール部材20bは、傾斜磁場コイル103とボアチューブ140との間における軸方向のうちもう一方の端部に配置される。つまり、シール部材20a,20bは、傾斜磁場コイル103の内周面とボアチューブ140の外周面とで形成される略円筒形状の空間(略円筒状空間)を、軸方向の両端部にて密閉する。密閉された略円筒状空間は、真空ポンプ111によって空気が排出されて真空となる。
傾斜磁場コイル103とボアチューブ140との間の略円筒状空間が真空になると、シール部材20a,20bには、大気圧により軸方向の中心へ向かう力(シール部材20a,20bを略円筒状空間へ吸引する力)がかかる。この場合、シール部材20a,20bは、例えば、図示しない突起や窪みによって支えられるため、略円筒状空間への吸引を防止し、略円筒状空間を真空のまま保つことができる。これにより、MRI装置100は、傾斜磁場コイル103の内側から伝わる空気伝搬音を低減させることができる。
なお、シール部材20a,20bは、従来の如何なる密閉部材が適用されても良い。例えば、ボアチューブ140の外周面に設けられた突起によって、大気圧による軸方向の中心への力に対抗しつつ真空を維持する密閉部材が適用される。また、シール部材20a,20bは、以下に説明するシール構造体150a,150bと同様の構成が適用されても良い。
シール構造体150a,150bは、傾斜磁場コイル103の端部において、静磁場磁石101と傾斜磁場コイル103との間の略円筒状空間を密閉状態に保つ。例えば、シール構造体150aは、静磁場磁石101と傾斜磁場コイル103との間における軸方向のうち一方の端部に配置される。また、シール構造体150bは、静磁場磁石101と傾斜磁場コイル103との間における軸方向のうちもう一方の端部に配置される。つまり、シール構造体150a,150bは、静磁場磁石101の内周面と傾斜磁場コイル103の外周面とで形成される略円筒状空間を、軸方向の両端部にて密閉する。密閉された略円筒状空間は、真空ポンプ111によって空気が排出されて真空となる。
ここで、シール構造体150a,150bは、静磁場磁石101の内周面や傾斜磁場コイル103の外周面に突起や窪みが無くとも略円筒状空間への吸引を防止することができる。これにより、MRI装置100は、静磁場磁石101と傾斜磁場コイル103との間の略円筒状空間を真空に維持して、傾斜磁場コイル103の外側から伝わる空気伝搬音を低減させることができる。
以下、図3から図9を用いて、シール構造体150a,150bの構成について説明する。なお、図3から図9の内容はあくまで一例であり、図示の例に限定されるものではない。また、以下の実施形態では、シール構造体150a,150bそれぞれを区別なく総称する場合に、「シール構造体150」と表記する。また、シール構造体150は、保持部の一例である。
図3は、実施形態に係るシール構造体150の形状及び配置を説明するための図である。図3には、シール構造体150及び傾斜磁場コイル103の斜視図を例示する。
図3に示すように、シール構造体150は、リング形状(環状)に形成される。ここで、シール構造体150の「リング形状」とは、傾斜磁場コイル103の円周方向に沿った方向に形成されるリングの形状である。つまり、シール構造体150が傾斜磁場コイル103の外周面に配置される場合、シール構造体150のリングの軸方向(中心軸)は、傾斜磁場コイル103の軸方向に一致する。シール構造体150は、軸方向に所定の幅を有する。
シール構造体150aは、傾斜磁場コイル103の軸方向のうち一方の端部の外周面に配置される。シール構造体150bは、傾斜磁場コイル103の軸方向のうちもう一方の端部の外周面に配置される。図3では図示しないが、シール構造体150a,150bそれぞれは、静磁場磁石101の内周面にも接する(図2参照)。なお、シール構造体150が配置される「端部」とは、傾斜磁場コイル103の軸方向の最先端の位置のみに限定されるものではなく、図3に示すように、最先端の位置から軸方向の中心方向にずれた位置であってもよい。ただし、真空となる略円筒状空間を一定以上確保して空気伝搬音を効果的に低減させるためには、シール構造体150は、軸方向の最先端により近い位置に配置されるのが好適である。
図4は、実施形態に係るシール構造体150の構造を説明するための図である。図4には、シール構造体150aの断面図を例示する。この断面図は、シール構造体150aの円周方向に略直交する方向の断面図である。
図4に示すように、シール構造体150aは、ベースリング151aと、シール部材152aと、シール部材152bと、フック153aとを備える。なお、以下において、シール構造体150aの構造を図示して説明するが、シール構造体150bも同様の構成を備える。すなわち、シール構造体150bは、図示しないが、ベースリング151bと、シール部材152cと、シール部材152dと、フック153bとを備える。
ベースリング151aは、静磁場磁石101と傾斜磁場コイル103との間の略円筒状空間に収まる形状である。ベースリング151aは、例えば、傾斜磁場コイル103の円周方向に沿ったリング形状に形成される。ベースリング151aは、略円筒形状空間に収まる厚みを有し、シール構造体150の軸方向(z方向)に所定の幅を有する。ベースリング151aは、ゴムなどの弾性体により形成され、ガラス繊維などの非磁性繊維154を内部に含む。例えば、ベースリング151aは、帯状(ベルト状)に形成された非磁性繊維154を含むように帯状に硬化された弾性体の両端を繋ぐことにより、リング形状に形成される。
また、ベースリング151aは、孔155を有する。孔155は、真空となる略円筒状空間への吸引を防止するためのフック153aが接続される。具体的には、孔155は、フック153aの一端が掛けられる。なお、孔155は、フック153aによる孔155の変形(拡大化)を低減させるために、非磁性繊維154を貫通するように設けられるのが好適である。なお、図4には、フック153aを一部のみ図示し、フック153aの構成については後述する。
また、ベースリング151aは、フック153aが接続される側の反対側であって、シール部材152a,152bと接する面に突起156a,156bを有する。突起156aは、シール部材152aが接する面が隆起した部分である。また、突起156bは、シール部材152bが接する面が隆起した部分である。突起156a,156bは、真空となる略円筒状空間へシール部材152a,152bが吸引されるのを防止するための構造である。なお、シール部材152a,152bの吸引を防止するためには、突起156a,156bの高さは高いほど良いが、静磁場磁石101又は傾斜磁場コイル103と衝突しない程度の間隔をあけておくのが好適である。
また、ベースリング151aは、シール部材152a,152bと接着固定される。例えば、ベースリング151aは、外周側でシール部材152aと接着固定され、内周側でシール部材152bと接着固定される。例えば、ベースリング151aは、各シール部材152a,152bとが接触する接触面(図4の太線部分)に接着剤が塗布されて固定される。なお、ベースリング151aは、必ずしも各シール部材152a,152bと接着固定されなくてもよい。例えば、ベースリング151aは、各シール部材152a,152bと接触する接触面(図4の太線部分)に真空用のシリコングリス等が塗布された状態で構成されてもよい。
シール部材152aは、ベースリング151aの外周側に設けられた略円筒状空間を形成する壁面と接する部材である。ここで、略円筒状空間は、静磁場磁石101の内周面及び傾斜磁場コイル103の外周面を壁面として形成される。例えば、シール部材152aは、内部が空洞(中空)であるリング形状であって、空洞に大気を取り込む孔157aを有する。シール部材152aは、傾斜磁場コイル103の円周方向に沿ったリング形状に形成される。また、シール部材152aの内部の空洞は、傾斜磁場コイル103の円周方向に沿って形成される。つまり、シール部材152aを円周方向に略直交する方向で切断した断面は、中空部分を一つの平面と一つの曲面とが囲む「D型」形状である。この「D型」の平面部分がベースリング151aに接する面であり、曲面部分が挿入時に静磁場磁石101の内周面に接する面である。つまり、シール部材152aは、ベースリング151aの外周面と静磁場磁石101の内周面との間を塞ぐ。
また、シール部材152aの孔157aは、突起156aと接触する側の反対側の面に設けられる。この孔157aは、シール部材152aの空洞に大気を流入させる。これにより、シール部材152aの空洞の表面には大気圧(約0.1MPa)がかかる。孔157aは、一つのシール部材152aに対して少なくとも一つ設けられればよいが、複数ある場合には、シール部材152aの円周方向に沿って離散的に設けられるのが好適である。また、孔157aは、丸穴に限らず、スリット形状であってもよい。なお、孔157aによる作用については、後述する。
図5は、実施形態に係るシール部材152aの断面の構造を説明するための図である。図5に示すように、シール部材152aは、それぞれの気泡が独立して存在する独立気泡を有する発泡材(クロロプレンなど)により形成される。この独立気泡の大きさは、表面(シール部材152aの外表面及び空洞表面)に近いほど小さく、表面から遠いほど大きい。また、シール部材152aの表面には、ほとんど独立気泡が存在しないスキン層が存在する。
このように、シール部材152aは、独立発泡を有するので、空気の流れを遮断することができる。また、シール部材152aは、独立発泡を有することにより、柔軟性を有する。このため、シール部材152aは、傾斜磁場コイル103の振動への形状追従性に優れるとともに、シール部材152a自体を媒質として傾斜磁場コイル103から伝わる固体伝搬音を低減することが可能となる。なお、図5はあくまで一例であり、図5の内容に限定されるものではない。例えば、シール部材152aに含まれる全ての気泡は、個々が完全に独立していなくてもよく、例えば、密閉空間への空気の流入を防ぐことが可能な範囲内でいくつかの気泡同士が繋がっていてもよい。
図4の説明に戻る。シール部材152bは、シール部材152aと同様の構成を備え、yz平面における断面形状が上下反転した構成である。すなわち、シール部材152bは、ベースリング151aの内周側に設けられた略円筒状空間を形成する壁面と接する部材である。つまり、シール部材152bは、ベースリング151aの内周面と傾斜磁場コイル103の外周面との間を塞ぐ。シール部材152bは、内部が空洞であるリング形状であって、空洞に大気を取り込む孔157bを有する。シール部材152bの孔157bは、突起156bと接触する側の反対側の面に設けられる。この他、シール部材152bの構成は、シール部材152aの構成と同様であるので説明を省略する。なお、以下において、シール部材152a,152bそれぞれを区別なく総称する場合に、「シール部材152」と表記する。また、シール部材152は、シール部の一例である。
図6は、実施形態に係るシール構造体150の挿入前後における構造を説明するための図である。図6には、シール構造体150aが静磁場磁石101と傾斜磁場コイル103との間に挿入される前後の様子を、中心軸を通るyz平面における断面図を用いて例示する。
図6に示すように、ベースリング151aは、シール部材152a及びシール部材152bが接着固定された状態で、静磁場磁石101と傾斜磁場コイル103との間の略円筒状空間(空間S)に挿入される。ここで、空間Sに挿入されると、シール部材152a及びシール部材152bが押し潰された状態となる。具体的には、挿入前において、ベースリング151a、シール部材152a、及びシール部材152bにより形成される厚みが、静磁場磁石101と傾斜磁場コイル103との間の長さ(距離)よりも大きくなるように構成される。そして、挿入後において、ベースリング151a、シール部材152a、及びシール部材152bにより形成される厚みが、静磁場磁石101と傾斜磁場コイル103との間の長さに一致するように、シール部材152a及びシール部材152bが押し潰される。シール部材152a及びシール部材152bが押し潰された分(潰し代)は、傾斜磁場コイル103の振動による変位量に対して十分な長さが与えられる。これにより、シール部材152a及びシール部材152bは、傾斜磁場コイル103が振動しても、その振動による変位に対して追従して変形するので(形状追従性)、空間Sの密閉状態を保つことができる。
図7及び図8は、実施形態に係るフック153aの配置について説明するための図である。図7には、フック153aの取り付け位置におけるシール構造体150の断面図を例示する。この断面図は、シール構造体150の円周方向に略直交する方向の断面図である。図8には、傾斜磁場コイル103の端面の拡大図を例示する。
図7及び図8に示すように、フック153aは、ベースリング151aを略円筒状空間の外側から支持する。例えば、フック153aは、プラスチックなどの非磁性樹脂や、ガラス繊維などの非磁性繊維により強化された弾性体(ゴムなど)により形成される。フック153aは、一端がベースリング151aと結合又は接続し、もう一端が傾斜磁場コイル103に固定される。具体的には、フック153aは、一端がベースリング151aの孔155に掛けられ、もう一端が傾斜磁場コイル103の端部に固定される。図7に示す例では、フック153aは、傾斜磁場コイル103の端部において、傾斜磁場コイル103の端面、外周面、及び内周面に接するように取り付けられる。また、フック153aは、傾斜磁場コイル103の端部において、円周方向に沿って離散的に8個配置される。これにより、フック153aは、ベースリング151aの略円筒状空間への吸引を防止することができる。なお、フック153aは、支持部の一例である。
なお、図7及び図8の説明はあくまで一例であり、図7及び図8の内容に限定されるものではない。例えば、配置されるフック153aの数は、任意に変更可能である。また、フック153aが配置される位置も任意に変更可能であるが、略円筒状空間への吸引を防止するためには円周方向に沿って離散的に配置されるのが好適である。また、例えば、フック153aは、ベースリング151aと一体として形成されても良い。また、図8には排気管158も図示したが、排気管158については後述する。
また、図7及び図8では、フック153aが傾斜磁場コイル103の端面に固定される場合を説明したが、これに限らず、例えば、静磁場磁石101に固定されても良い。すなわち、フック153aは、傾斜磁場コイル103及び静磁場磁石101のうち少なくとも一方に固定されればよい。フック153aが静磁場磁石101に固定される場合の例については、後述する。なお、フック153aと傾斜磁場コイル103(若しくは静磁場磁石101)との「固定」とは、傾斜磁場コイル103自体を形成する導電性の板や、超伝導コイルを形成する銅線に直接取り付けられることを意味するものではない。つまり、フック153aは、傾斜磁場コイル103の外形を成す樹脂や静磁場磁石101の外形を成す筐体などに直接的若しくは間接的に取り付けられれば良い。
図9は、実施形態に係るベースリング151aの排気管158について説明するための図である。図9には、排気管158の取り付け位置におけるシール構造体150の断面図を例示する。この断面図は、シール構造体150の円周方向に略直交する方向の断面図である。
図9に示すように、ベースリング151aは、静磁場磁石101と傾斜磁場コイル103との間の略円筒状空間を真空排気するための排気管158を有する。排気管158は、シール構造体150の円周方向の少なくとも1カ所において、ベースリング151aを貫通するように配置される。具体的には、排気管158は、一端が空間Sに到達し、もう一端が空間Sの外側に突出するようにベースリング151aを貫通する。そして、排気管158のうち、空間Sの外側に突出した部分は、真空ポンプ111に取り付けられる。真空ポンプ111は、空間Sに含まれる空気を、排気管158を経て排出(真空排気)させることで、空間Sを真空にする。
ここで、排気管158は、ベースリング151aを貫通する部分の断面が扁平形状であり、真空ポンプ111に取り付けられる部分の断面が円形状である、これにより、排気管158は、ベースリング151aの厚みに収まる大きさで効率良く真空排気を行うことができる。
なお、図9はあくまで一例であり、図9の内容に限定されるものではない。例えば、排気管158において、ベースリング151aを貫通する部分の断面や真空ポンプ111に取り付けられる部分の断面は、上記の形状に限らず、任意の形状であってもよい。
図10は、実施形態に係るシール構造体150の真空排気時の形状について説明するための図である。図10には、シール構造体150の断面図を例示する。この断面図は、シール構造体150の円周方向に略直交する方向の断面図である。
図10に示すように、空間Sが真空にされることにより、ベースリング151a及びシール部材152a,152bには、空間Sへ吸引する力がかかる。ここで、ベースリング151aは、フック153aにより傾斜磁場コイル103の端部に固定されるため、空間Sへの吸引が防止される。また、シール部材152a,152bは、突起156a,156bそれぞれによって支えられるため、空間Sへの吸引が防止される。
また、シール部材152a,152bは、柔軟性を有するため、空間Sへの吸引により変形する。通常のシール部材は、変形すると、接触面に隙間を生じさせる場合がある。しかしながら、上述したように、シール部材152a,152bの空洞の表面には大気圧がかかっているため、シール部材152a,152bの周囲の接触面における接触圧が増加している。具体的には、シール部材152aの空洞の表面にかかる大気圧により、シール部材152aと静磁場磁石101との間の接触面160にかかる接触圧と、シール部材152aとベースリング151aとの間の接触面161にかかる接触圧とが増加している。また、シール部材152bの空洞の表面にかかる大気圧により、シール部材152bと傾斜磁場コイル103との間の接触面162にかかる接触圧と、シール部材152bとベースリング151aとの間の接触面163にかかる接触圧とが増加している。このため、シール部材152a,152bは、接触面160,161,162,163におけるシール性能(密着性)が高く、空間Sの方向に吸引されても、接触面に隙間を生じさせることなく空間Sを真空に保つことができる。
また、接触面160,161,162,163における接触圧が増加しているため、シール部材152a,152bは、傾斜磁場コイル103が振動しても、その振動による変位に対して追従して変形するので(形状追従性)、接触面に隙間を生じさせることなく空間Sを真空に保つことができる。
上述してきたように、実施形態に係るMRI装置100は、シール構造体150a,150bを備える。シール構造体150a,150bは、傾斜磁場コイル103の端部において、静磁場磁石101と傾斜磁場コイル103との間の略円筒状空間を密閉状態に保つ。ここで、シール構造体150aは、略円筒状空間に収まる形状のベースリング151aと、ベースリング151aの内周側及び外周側それぞれに設けられた略円筒状空間を形成する壁面と接するシール部材152a,152bと、ベースリング151aを略円筒状空間の外側から支持するフック153aとを備える。また、シール構造体150bは、シール構造体150aと同様の構成を備える。これによれば、MRI装置100は、患者空間(ボア)に伝わる騒音を低減させることができる。
例えば、MRI装置100において、フック153aは、傾斜磁場コイル103の端部からベースリング151aを支持することで、ベースリング151aの空間Sへの吸引を防止する。また、ベースリング151aは、シール部材152a,152bが接着固定されるとともに、突起156a,156bを備えることで、シール部材152a,152bの空間Sへの吸引を防止する。ここで、シール部材152aは、ベースリング151aの外周面と静磁場磁石101の内周面との間を塞ぐ(密閉する)。また、シール部材152bは、ベースリング151aの内周面と傾斜磁場コイル103の外周面との間を塞ぐ。このように、MRI装置100は、ベースリング151aの内周面と傾斜磁場コイル103の外周面との間に、シール部材152a、ベースリング151a、及びシール部材152bの3段構造を形成する。これにより、MRI装置100は、静磁場磁石101の内周面や傾斜磁場コイル103の外周面に突起や窪みが無くとも、簡易な構成で略円筒状空間(空間S)を密閉状態に保つことができる。そして、MRI装置100は、空間Sの内部の空気を真空ポンプ111によって排出させて真空とすることで、傾斜磁場コイル103の外側から伝わる空気伝搬音を低減させることができる。
また、MRI装置100において、シール部材152a,152bは、独立発泡を有することにより、柔軟性を有する。このため、MRI装置100は、シール部材152a,152b自体を媒質として伝わる固体伝搬音を低減することができる。
また、例えば、MRI装置100に関する作業を行う作業員は、MRI装置100を設置する場合、傾斜磁場コイル103と静磁場磁石101との間に、2つのシール構造体150a,150bを両端から挿入するだけで、空間Sを密閉することができる。このため、MRI装置100は、組み立て性に優れている。
また、例えば、MRI装置100は、簡易な構成であることにより、空気がリークする箇所が減少するため、真空を維持しやすくなるとともに、真空ポンプ111への負荷が軽減される。このため、MRI装置100においては、安価な真空ポンプ111であっても適用可能となる。
(その他の実施形態)
さて、これまで実施形態について説明したが、上述した実施形態以外にも、種々の異なる形態にて実施されてもよい。
(傾斜磁場コイル103とボアチューブ140との間の空間への適用)
例えば、上記の実施形態では、シール構造体150が静磁場磁石101と傾斜磁場コイル103との間の略円筒状空間を密閉する場合を説明したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、シール構造体150は、傾斜磁場コイル103とボアチューブ140との間の略円筒状空間を密閉するために適用されても良い。傾斜磁場コイル103とボアチューブ140との間に挿入されるシール構造体は、直径が小さくなることを除き、シール構造体150と同様の構造により形成される。
(ワイヤーを用いたフックの支持方式)
また、例えば、上記の実施形態では、フック153を傾斜磁場コイル103の端面に固定する場合を説明したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、ワイヤーを用いてフックを支持することも可能である。
図11A及び図11Bは、その他の実施形態に係るフックの支持方式を説明するための図である。図11A及び図11Bには、フックの取り付け位置におけるシール構造体150の断面図を例示する。なお、図11Aには、シール構造体150が取り付けられる前の状態を例示する。また、図11Bには、シール構造体150が取り付けられた後の状態を例示する。
図11Aに示す例では、静磁場磁石101と傾斜磁場コイル103との位置関係を維持するために円周方向に沿って配置される数個の支持部材(支持部材13aなど)に非磁性ワイヤー170が取り付けられる。具体的には、非磁性ワイヤー170は、円周方向に沿って配置される数個の支持部材に沿って、円周方向にリング状に取り付けられる。この非磁性ワイヤー170は、例えば、ケブラー繊維で形成される。
そして、図11Bに示すように、ベースリング151aに掛けられたフック171は、静磁場磁石101の端部に固定された支持部材に取り付けられた非磁性ワイヤー170に掛けられる。これにより、シール構造体150は、空間Sの方向に吸引されて非磁性ワイヤー170を図中の矢印方向に引き延ばしたとしても、非磁性ワイヤー170の延びが止まった位置で固定されることとなる。
なお、ここでは、フック171が支持部材13aに取り付けられた非磁性ワイヤー170に掛けられる場合を説明したが、実施形態はこれに限定されるものではなく、フック171は、例えば、静磁場磁石101又は傾斜磁場コイル103の端部に直接的又は間接的に支持されれば良い。
(ベースリングの片側にシール部材を有する場合)
また、例えば、上記の実施形態では、ベースリング151の両側(内周面及び外周面)にシール部材152を有する場合を説明したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、シール構造体は、ベースリングの片側にシール部材を有する場合にも空間Sを密閉可能である。
図12及び図13は、その他の実施形態に係るシール構造体180,190の構造を説明するための図である。図12及び図13には、シール構造体180,190の断面図を例示する。
図12に示す例では、シール構造体180は、ベースリング181と、シール部材182とを備える。ここで、ベースリング181は、領域183の部分が他の部分よりも軟らかい素材で形成される。また、ベースリング181は、領域183に突起184,185を有する。なお、シール部材182は、シール部材152と同様の構造であるので、詳細な説明を省略する。
ここで、シール構造体180が空間Sに挿入されると(図12の右図)、シール部材182及び領域183が押し潰された状態となる。これにより、図6で説明したシール部材152a及びシール部材152bの潰し代と同様の潰し代を設けることができるので、シール構造体180は、傾斜磁場コイル103の振動による変位に対して追従して変形することができ、空間Sの密閉状態を保つことができる。
図13に示す例では、シール構造体190は、ベースリング191と、シール部材192とを備える。ここで、ベースリング191は、領域193の部分が空隙として形成される。また、ベースリング191は、領域193に突起194,195を有する。なお、シール部材192は、シール部材152と同様の構造であるので、詳細な説明を省略する。
ここで、シール構造体190が空間Sに挿入されると(図13の右図)、シール部材192及び領域193が押し潰された状態となる。これにより、図6で説明したシール部材152a及びシール部材152bの潰し代と同様の潰し代を設けることができるので、シール構造体190は、傾斜磁場コイル103の振動による変位に対して追従して変形することができ、空間Sの密閉状態を保つことができる。
このように、シール構造体180,190は、ベースリング181,191の片側にシール部材182,192を有する場合にも空間Sを密閉することができる。なお、図12及び図13の内容に限らず、例えば、突起184,185,194,195の数や大きさは適宜変更されて良い。突起184,185,194,195の大きさは、ベースリング181,191が軟らかいほど大きく、ベースリング181,191が硬いほど小さく形成されるのが好適である。
(ベースリングが突起を備えない場合)
また、例えば、上記の実施形態では、ベースリング151が突起156a,156bを備える場合を説明したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、ベースリング151は、突起156a,156bを備えていなくても良い。
図14は、その他の実施形態に係るシール構造体200の構造を説明するための図である。図14には、シール構造体200の断面図を例示する。
図14に示す例では、シール構造体200は、ベースリング201と、シール部材202a,202bとを備える。ここで、ベースリング201は、図4に示したベースリング151の突起156a,156bを備えない。
一方、シール部材202a,202bは、空間S側に隆起した構造を有する。これにより、空間Sが真空にされても、シール部材202a,202bの変形を図10に示したシール部材152a,152bの変形と同程度に抑えるとともに、シール部材202a,202bの空洞の表面にかかる大気圧による密着性と形状追従性を得ることができる。
(真空ポンプ111の着脱)
また、例えば、上記の実施形態では、真空ポンプ111がMRI装置100に常設されるものとして説明したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、真空ポンプ111は、傾斜磁場コイル103とボアチューブ140との間の空間や、傾斜磁場コイル103と静磁場磁石101との間の空間を真空にする場合に取り付けられ、真空が維持されている場合にはMRI装置100から取り外されても良い。つまり、真空ポンプ111は、必要に応じて着脱可能である。
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、患者空間に伝わる騒音を低減させることができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。