以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態を例示的に詳しく説明する。尚、本実施の形態に記載されている構成要素の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に特定的な記載がない限りは、発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係るスライドボルト式錠前装置(以下、単に「錠前装置」という)100の全体斜視図である。図2(a)は、第1実施形態に係る錠前装置100が施錠対象を解錠している状態を示す図、図2(b)は、錠前装置100が施錠対象を施錠している状態を示す図である。また、図3、4は、錠前装置100の内部構造を示す図である。本実施形態に係る錠前装置100は、施錠対象物である扉の端部(戸先)に備え付けられる。図1に示すように、錠前装置100は、ハウジング1と操作摘み2とダイヤル部5とを含む操作部10と、ボルトケース9とボルト8とを含む施錠部20とを備える。ハウジング1は操作部10の筐体であり、ハウジング1のフロントパネル(正面)11には、図2(a)、(b)に示すような「開(OPEN)」、「閉(CLOSE)」の文字や、それらを意味するマークや絵柄が印刷、刻印などによって表示されている。フロントパネル11には、表示窓12が設けられており、ハウジング1内部に組み込まれるインジケータ6(図10参照)によって、錠前装置100の解錠及び施錠の各状態が確認できるようになっている。本実施形態に係る錠前装置100は、ダイヤル部5が後述する解錠番号に揃っている状態で操作摘み2の回動操作が可能となる。錠前装置100は、施錠対象物の扉が閉じている状態で使用者が操作摘み2を回動操作することによって、施錠対象物の施錠と、施錠対象の解錠とを切り替えることができる。図2(a)、(b)に示すように、施錠対象物の相手側である扉枠200にはボルト受部201が設けられている。図2(b)に示すように、錠前装置100は、操作摘み2の位置合わせマーク24がフロントパネル11に印字された「閉」の文字の位置にあるとき(以下、閉姿勢)において、ボルト8が施錠部20より突出してボルト受部201に係合して施錠が実現される。また、図2(a)に示すように、操作摘み2の位置合わせマーク24が「開」の文字の位置にあるとき(以下、開姿勢)において、ボルト8が施錠部20のボルトケース9の内部に収納され
、ボルト8とボルト受部201との係合が解除される解錠状態となる。即ち、錠前装置100は、操作摘み2の回動操作によって、ボルト8が左右にスライド移動する。この、操作摘み2が開姿勢にあるときの、ボルト8が収納された状態におけるボルト8の姿勢を「第1姿勢」、操作摘み2が閉姿勢にあるときのボルト8が突出した状態におけるボルト8の姿勢を「第2姿勢」とする。また、ボルト8が第2姿勢から第1姿勢にスライド移動する向きを第1スライド方向S1、第1姿勢から第2姿勢へスライド移動する方向を第2スライド方向S2とする。第1スライド方向S1及び第2スライド方向S2は互いに平行であって、且つ、互いに対向しており、第1スライド方向S1及び第2スライド方向S2を併せて「スライド方向S」と称する。
操作部10は、施錠部20のボルト8の姿勢を第1姿勢と第2姿勢とに切り替えるために、使用者が操作する部分である。錠前装置100は、操作部10が露出した状態で戸先に設置される。図3に示すように、操作部10は、鍵穴37を有する内筒3と、内筒3の周囲に装着される外筒4と、内筒3及び外筒4の前端側に装着される操作摘み2と、を更に備えている。また、施錠部20は、使用者が操作部10を操作するのに伴ってボルト8をスライド移動させる部分である。図4に示すように、施錠部20は、内筒3の後端に連結される駆動シャフト7と、施錠対象物の施錠及び解錠を行うボルト8と、駆動シャフト7とボルト8とを収容するボルトケース9とを備えている。
まず、図1〜3を参照して、操作部10について説明する。外筒4は、ハウジング1の内部に形成された円筒スリーブ部13の内側に配置されている。外筒4は、円筒スリーブ部13に対して回動自在に装着されている。また、外筒4の内周側には、内筒3が回動自在かつ摺動自在に装着されている。但し、後述するように、操作摘み2の鍵穴21を通じて内筒3の鍵穴37に、後述する非常解錠鍵300や内筒交換鍵400が挿入されていない状態(以下、非鍵挿入状態)では、外筒4に対して内筒3が係止されており、外筒4に対する内筒3の相対回動及び摺動が規制(禁止)される。内筒3及び外筒4の前端側には操作摘み2が接続されている。内筒3の後端面には施錠部20の駆動シャフト7が連結されている。また、詳細については後述するが、駆動シャフト7は、内筒3の回動と連動して回動するように連結されており、駆動シャフト7の回動に連動して施錠部20のボルト8がスライド移動する。また、円筒スリーブ部13の前端部には、インジケータ6が嵌め込まれるようになっている。尚、図1に示すように、円筒スリーブ部13の前端部は、操作摘み2によって覆われており、外部には露出していない。尚、ハウジング1の構造、形状等には、種々の変更を加えることができる。
図1、2に示すように、ダイヤル部5は、4個のダイヤル5a〜5dを有する。但し、ダイヤル部5を構成するダイヤルの数は本構成例に限られず、任意に変更できる。錠前装置100は、ダイヤル部5の各ダイヤル5a〜5dが解錠番号に揃っている状態で、操作摘み2の回動操作(開閉操作)が可能となる。即ち、使用者は、ダイヤル部5が解錠番号に揃っている状態で、操作摘み2を開姿勢又は閉姿勢の何れかの姿勢に回動することができる。使用者が操作摘み2を回動させると、操作摘み2に接続された内筒3及び外筒4がハウジング1に対して一体的に回動する。内筒3の回動に連動して駆動シャフト7が回動することによって、ボルト8の位置が変化する。これにより、使用者は、ボルト8の姿勢を第1姿勢から第2姿勢へ、あるいは第2姿勢から第1姿勢へと自由に切り替えることができる。
一方、ダイヤル部5の各ダイヤル5a〜5dが解錠符号に揃っていない状態では、ハウジング1の円筒スリーブ部13に対する外筒4の相対回動が制限(禁止)される。このとき、非鍵挿入状態では、外筒4に対して内筒3が係止されており、外筒4に対する内筒3の相対回動が規制されている。そのため、操作摘み2の回動操作が規制されている。即ち、ボルト8の姿勢を切り替えることが規制される。しかしながら、操作摘み2の鍵穴21
を通じて内筒3の鍵穴37に非常解錠鍵300や内筒交換鍵400が挿入されている状態では、操作摘み2の回動操作の規制が解除されており、ボルト8の姿勢を切り替えることができる。尚、ダイヤル部5及びその周辺構造については、本実施形態に係る錠前装置100の本質的な部分ではないため、ここでの詳細な説明は割愛する。
以下、操作部10の各部位について説明する。図5は、本実施形態に係る内筒3の斜視図である。図6は、本実施形態に係る操作摘み2の斜視図である。図7は、本実施形態に係る内筒3に操作摘み2を装着した状態を示す斜視図である。図8、9は、内筒3の内部構造を示す図である。図3、5〜7に示すように、錠前装置100は、内筒3に対して操作摘み2を着脱自在に装着することが可能である。
まず、内筒3について説明する。図5に示すように、内筒3は、筐体部31と、筐体部31を径方向に貫通する複数のスロットHに配置されるタンブラー32及びストッパータンブラー33を含む。また、筐体部31の前端面には、軸方向に延在する鍵穴37が形成されている。また、図7に示すように、筐体部31の後端面には、施錠部20の駆動シャフト7に挿入される接続ピン35が軸方向に突出している。接続ピン35は、内筒3の後端面において、内筒3の中心軸から偏心した位置に形成されている。尚、接続ピン35の形状は、円柱形状や十字形状など、種々の形状を選択することができる。また、筐体部31には、径方向に貫通するスロットHが形成されている。図8、9に示すように、各スロットHの内部には、タンブラー32と、タンブラー32を付勢するスロットスプリング34が配置されている。尚、ストッパータンブラー33は、筐体部31における最後端側のスロットH内に配置されているタンブラーであり、タンブラー32はそれ以外のタンブラーである。スロットスプリング34は、スロットHの開口部を通じてタンブラー32及びストッパータンブラー33をスロットHの外部に押し出すように付勢する。タンブラー32及びストッパータンブラー33は、後述する非常解錠鍵300や内筒交換鍵400の差込部302、402を挿通可能な鍵挿通孔32a(33a)と、側方に突出した第1突起部32b(33b)及び第2突起部32c(33c)とを有する。内筒3において、第1突起部32b(33b)は、スロットスプリング34に係合している。また、第2突起部32c(33c)は、鍵挿通孔32aを挟んで第1突起部32b(33b)の逆側に設けられている。非常解錠鍵300及び内筒交換鍵400の何れも鍵穴37に挿入されていない状態(非鍵挿入状態)では、スロットスプリング34によって第1突起部32b(33b)がスロットHの外側に付勢されることで、タンブラー32及びストッパータンブラー33がスロットHの開口部に向かって移動する。そして、第2突起部32c(33c)がスロットHの内壁面に形成された受け部に当接すると、タンブラー32及びストッパータンブラー33がスロットHの外部にそれ以上突出することが規制される。その際、図5、7等に示すように、タンブラー32及びストッパータンブラー33の先端部は、内筒3の外周面から外方に突出した状態となる。
また、図9に示すように、ストッパータンブラー33は、一方の端部Xに比べて他方の端部Yの方が、幅が狭くなっている。端部Xの幅は、他のタンブラー32の幅と同様であり、鍵穴37に内筒交換鍵400が挿入されていないときにはスロットスプリング34の付勢力によって端部Xが筐体部31の外方に突出するようになっている。
そして、図5に示すように、筐体部31の前端部には、板状の係合部36が形成されている。係合部36には、鍵穴37が貫通して形成されている。鍵穴37は、非常解錠鍵300や内筒交換鍵400を挿通可能である。更に、係合部36は、鍵穴37の長辺方向と平行に設けられた溝部361を有する。溝部361は、その一端が係合部36の一方の側端に開口している。また、係合部36には、内筒3の側方へ突出した突出部362が設けられている。
次に、操作摘み2について説明する。図6に示すように、操作摘み2には、操作摘み2を軸方向に貫通する鍵穴21が形成されている。鍵穴21は、非常解錠鍵300及び内筒交換鍵400を内筒3の鍵穴37に導くための貫通孔である。操作摘み2の後端面には、ガイド突起22及び一対の係合爪部23が設けられている。係合爪部23は、内筒3の係合部36とスライドさせることにより、係脱自在となっている。このとき、ガイド突起22が内筒3側の溝部361に進入することによって、内筒3に対して操作摘み2を着脱自在に装着することができる。但し、内筒3に対する操作摘み2の着脱は、内筒3が外筒4から引き抜かれた状態においてのみ許容され、図3等に示すように外筒4に内筒3が装着された状態では操作摘み2の着脱が規制される。
次に、インジケータ6について説明する。図10は、実施形態に係るインジケータ6の斜視図である。また、図11は、内筒3とインジケータ6との関係を示す図である。インジケータ6は、筒形状を有し、かつ、その軸方向の途中で径が相違する筒部本体61と、この筒部本体61の外周面に設けられた扇形状の表示部62とを備える。
インジケータ6の筒部本体61は、小径筒部61Aと、大径筒部61Bとからなる。また、表示部62は、大径筒部61Bから径方向に向けて突出形成されている。更に、小径筒部61Aは、その周方向の一区間に切欠き部61Cが形成されており、平面視でC字形状を有している。図11に示すように、内筒3とインジケータ6とは、係合部36の突出部362が小径筒部61Aの切欠き部61Cに受け入れられるようにして互いに係合している。そのため、内筒3が回動すると、内筒3に連動してインジケータ6が回動する。錠前装置100は、ハウジング1内に設けられたインジケータ6の表示部62を、表示窓12を通じて外部から視認することができる。インジケータ6は、表示部62が、操作摘み2が開姿勢のときに表示窓12から視認される第1表示領域62Aと、操作摘み2が閉姿勢のときにおいて表示窓12から視認される第2表示領域62Bとで表示態様(外観)が異なっている。そのため、使用者は表示窓12を通じて錠前装置100が解錠状態若しくは施錠状態にあることを確認することができる。
次に、外筒4について説明する。図12は、本実施形態に係る外筒4の斜視図である。外筒4の内周面41には、一対の係止溝42が、内筒3の収容空間を挟んで対向する位置に形成されている。また、外筒4の内周面41のうち、一対の係止溝42の中間地点には、内筒交換用溝43が設けられている。内筒交換用溝43は、外筒4の内周面41において、一対の係止溝42から90°周方向にずれた位置に設けられている。各係止溝42の幅は、タンブラー32及びストッパータンブラー33の幅よりも僅かに大きい。内筒交換用溝43の幅はタンブラー32の幅よりも小さく、ストッパータンブラー33の端部Yよりも僅かに大きい。また、各係止溝42及び内筒交換用溝43は、外筒4の軸方向に沿って形成されている。また、図3に示すように、外筒4の底部側の領域には、係止溝42及び内筒交換用溝43が形成される領域に比べて内径が一段大きく形成された拡径部44が形成されており、その境界には段差部45が形成されている。
次に、非常解錠鍵300及び内筒交換鍵400について説明する。図13は、非常解錠鍵300及び内筒交換鍵400を示す図である。非常解錠鍵300は、把持部301及び差込部302を有し、差込部302の上下面に鍵溝が刻まれている。同様に、内筒交換鍵400は、把持部401及び差込部402を有し、差込部402の上下面に鍵溝が刻まれている。内筒交換鍵400の差込部402は、その先端部を除いて、非常解錠鍵300と共通の形状を有する鍵溝(以下、「第1鍵溝」と称する。)KC1が形成されている。更に、内筒交換鍵400は、差込部402の先端部に、第2鍵溝KC2が形成されている。一方、非常解錠鍵300は、第2鍵溝KC2を有していない。
以下、使用者が非常解錠鍵300及び内筒交換鍵400を用いて、錠前装置100を解
錠する際の操作部10の動作について説明する。図14は、実施形態に係る内筒3の鍵穴37に内筒交換鍵400を挿入する前の状態を示す図である。錠前装置100は、非常解錠鍵300及び内筒交換鍵400を用いることによって、外筒4に対する内筒3の係止状態を解除することができる。そうすると、ダイヤル部5が解錠番号に揃っていない状態であっても、操作摘み2の回動操作が行えるため、ボルト8の姿勢を切り替えることができる。更に、錠前装置100は、内筒交換鍵400を用いることによって、内筒3を外筒4から抜き取ることができる。即ち、非常解錠鍵300は、例えば使用者がダイヤル部5の解錠番号を忘れた場合に強制的に解錠する際に使用され、内筒交換鍵400は、内筒3を交換する際に使用される。
内筒3のスロットHは、第1鍵溝KC1及び第2鍵溝KC2に対応する鍵溝読取位置に設けられている。内筒3の鍵穴37に、非常解錠鍵300及び内筒交換鍵400の何れも挿入されていない場合(非鍵挿入状態)、タンブラー32が内筒3の筐体部31から外方に突出して係止溝42に係止される。その結果、外筒4に対する内筒3の相対回転が制限される。一方、図15に示すように、内筒交換鍵400が鍵穴37に挿入されると、タンブラー32の鍵挿通孔32aに内筒交換鍵400の第1鍵溝KC1が係合することで、タンブラー32がスロットH内部に完全に引き込まれる。その結果、タンブラー32と係止溝42との係合が解除される。このようにして、係止溝42に対する各タンブラー32の係止状態が解除され、外筒4に対する内筒3の相対回転が可能となる。その結果、後述するように内筒3を交換することが可能となる。尚、第1鍵溝KC1を有する非常解錠鍵300が鍵穴37に挿入された場合も、上記と同様、係止溝42に対する各タンブラー32の係止状態が解除され、外筒4に対する内筒3の相対回転が可能となる。従って、使用者は、鍵穴37に挿入した非常解錠鍵300を回転させ、ボルト8の姿勢を切り替えることが可能となる。
また、内筒3の鍵穴37に内筒交換鍵400が挿入されている状態では、図15及び図17に示すように、第2鍵溝KC2によってストッパータンブラー33の端部XがスロットHに完全に引き込まれる一方で、端部YがスロットHから外方に突出する。上述したように、ストッパータンブラー33の端部Yは、外筒4における内筒交換用溝43の幅よりも若干狭くなっている。従って、例えば、鍵穴37に挿入されている内筒交換鍵400を回動操作してストッパータンブラー33の端部Yと内筒交換用溝43との位置合わせを行うことで、外筒4に対して内筒3が軸方向に沿って摺動することが許容され、外筒4から内筒3を抜き取ることが可能となる。尚、内筒3の鍵穴37に内筒交換鍵400が挿入されていない状態では、ストッパータンブラー33の端部Xが外筒4の段差部45に係止されるため、外筒4から内筒3を抜き取ることが規制される。
内筒3を新たな内筒3と交換する場合、内筒交換鍵400を、鍵穴21を介して鍵穴37に挿入した後、内筒3を上記の要領で外筒4から抜き取る。そうすることで内筒3に対する操作摘み2の着脱が可能となる。そして、操作摘み2の係合爪部23と内筒3の係合部36とスライドさせることにより、内筒3から操作摘み2を取り外すことができる。その後、使用者は、新たに用意した別の内筒3に対して操作摘み2を上記と逆の操作をすることで装着することができる。新たな内筒3に操作摘み2を装着した後に、鍵穴21を通じて内筒交換鍵400を鍵穴37に挿入した状態で内筒3を外筒4に装着する。その後、内筒3の鍵穴37から内筒交換鍵400が抜き取られると、外筒4の係止溝42に対して内筒3のタンブラー32が係止され、外筒4に対する内筒3の相対回動が制限される。このようにして、内筒3の交換が実現される。
上述したように、本実施形態に係る錠前装置100は、ダイヤル部5の解錠番号が揃うか、鍵穴37に非常解錠鍵300や内筒交換鍵400が挿入されることによって、操作摘み2が開姿勢と閉姿勢との間を回動自在となる。そして、錠前装置100は、操作摘み2
が回動操作されることによって内筒3が回動すると、施錠部20のボルト8が駆動シャフト7を介して内筒3の回動に連動してスライド移動する。そうすることによって、ボルト8の姿勢を第1姿勢と第2姿勢とで切り替え可能となる。換言すると、ダイヤル部5の解錠番号が揃っておらず、且つ、鍵穴37に非常解錠鍵300も内筒交換鍵400も挿入されていない状態(非鍵挿入状態)では、操作摘み2及び内筒3の自由な回動が制限され、ボルト8のスライド移動が制限される。この、非鍵挿入状態では、外筒4の円筒スリーブ部13に対する相対的な回動が規制されており、且つ、内筒3の外筒4に対する相対的な回動が制限されている。
ここで、非鍵挿入状態において、ボルト8がボルトケース9から突出した第2姿勢にあるとき、ボルト8に外力が作用する場合がある。図24(b)は従来の錠前装置100aの施錠部20aのボルト8aが第2姿勢にある状態を示す図である。詳細については後述するが、従来の錠前装置100aは、施錠部20aの構成が本実施形態に係る錠前装置100の施錠部20と相違している。従来の錠前装置100aでは、非鍵挿入状態において第2姿勢にあるボルト8aに、図24(b)に示すような第1スライド方向S1へ押し込む外力Fが作用すると、ボルト8aが第1スライド方向S1に微小変位する可能性があった。ボルト8aが微小変位すると、ボルト8aの微小変位に連動して内筒3が微小回動する。すると、錠前装置100aの内部の部品の位置関係が変化し、結果として、錠前装置100aの動作不良が引き起こされる虞があった。しかしながら、本発明に係る錠前装置100の施錠部20は、ボルト8が第2姿勢にある状態において、ボルト8に第1スライド方向S1に押し込む外力Fが作用しても、内筒3が微小回動することを抑制する構成を備えている。以下、本実施形態における施錠部20について、上述した構成について詳しく説明する。
上述したように、施錠部20は、駆動シャフト7、ボルト8、ボルトケース9、を有している。まず、駆動シャフト7について説明する。駆動シャフト7は、図3、4に示すように、内筒3に接続されると共に外筒4に挿入される円筒部71と、円筒部71の後端に接続され、円筒部71よりも外径の大きい円盤部72とを有する。円筒部71の外径は外筒4に挿入可能な寸法となっている。また、円筒部71の内径は内筒3を挿入可能な寸法となっている。円盤部72の前端部の、駆動シャフト7の中心軸から偏心した位置には、内筒3の接続ピン35を挿入可能な接続孔73が形成されている。接続孔73の中心と駆動シャフト7の中心軸との距離は、接続ピン35と内筒3の中心軸との距離と等しい。円盤部72の端面には、駆動シャフト7の中心軸と同軸の円柱形状を有する回動軸部74が突出している。また、円盤部72の端面の、駆動シャフト7の中心軸から偏心した位置には、円柱形状を有するカムピン75が突出している。回動軸部74及びカムピン75の円盤部72の軸方向の長さは、何れもボルト8の厚みよりも長く、且つ、回動軸部74の方がカムピン75よりも長く形成されている。
次に、ボルト8について説明する。図18は、施錠部20の斜視図を示し、図19(a)は、ボルト8が第1姿勢にあるときの施錠部20を示し、図19(b)は、ボルト8が第2姿勢にあるときの施錠部20を示す図である。また、図20は、ボルト8を示す図である。ボルト8は、一枚の金属板の加工によって形成されており、図19に示すように、長手方向がスライド方向Sと一致するようにボルトケース9の内部に配置される。また、図20に示すように、ボルト8は、スライド方向Sにおいて、第2スライド方向S2側に位置するストッパー部81と第1スライド方向S1側に位置するスライド部82とに区分される。ストッパー部81は、ボルト8が第2姿勢にあるときにボルトケース9から突出することによって扉枠200に設けられたボルト受部201に収容される部分である。図2に示すように、ストッパー部81がボルト受部201に収容されることによって、施錠対象物の施錠が実現される。スライド部82はボルト8が第2姿勢にあるときにおいてもボルトケース9の内部に収容されており、施錠時及び解錠時の何れにおいても外部に露出
しない。
図20に示すように、スライド部82には、スライド孔83及びガイド孔84が形成されている。また、図19(a)、(b)に示すように、スライド孔83には駆動シャフト7の回動軸部74が挿通され、ガイド孔84には、駆動シャフト7のカムピン75が挿通される。本実施形態に係る施錠部20は、カムピン75が回動軸部74を中心に周回運動すると共にガイド孔84の内壁を押し付けながら摺動することによって、ボルト8をスライド移動させる。より詳細には、カムピン75が図中に示す第2回動方向R2に周回運動することによって、ボルト8が第2スライド方向S2に押動されて図19(b)に示す第2姿勢に至る。反対に、カムピン75が第1回動方向R1に周回運動することによって、ボルト8が第1スライド方向S1に押動されて図19(a)に示す第1姿勢に至る。尚、平面視においてボルト8のスライド方向Sと直交する方向を、「スライド直交方向V」と称し、スライド直交方向Vのうち、駆動シャフト7の回動軸部74へ接近する方向を「接近方向V1」、回動軸部74から離間する方向を「離間方向V2」と称する。
スライド孔83は、ボルト8のスライド直交方向Vへの移動を規制する孔である。図20に示すように、スライド孔83はボルト8を貫通する長孔である。スライド孔83は、ボルト8における短手方向の略中央に位置しており、スライド孔83の長手方向がスライド方向Sと一致している。また、図19(a)、(b)に示すように、スライド孔83には駆動シャフト7の回動軸部74が挿通される。回動軸部74がスライド孔83の内壁に当接することによって、ボルト8のスライド直交方向Vへの移動が規制される。スライド孔83の幅寸法は、ボルト8がスライド移動するときに、スライド孔83の内壁が回動軸部74をスライド方向Sに摺動可能となるように、回動軸部74の径寸法よりも若干大きくなっている。また、スライド孔83の長さ寸法は、ボルト8が第1姿勢と第2姿勢との間をスライド移動するときのストローク長以上となるように設計されている。但し、スライド孔83の長さ寸法は、ボルト8のストローク長と同じでも良い。
ガイド孔84は、カムピン75と係合することによって、操作摘み2の回動操作に伴ってボルト8をスライド移動させる孔である。図20に示すように、ガイド孔84は、ボルト8の短手方向における一側端の縁部を切欠いた切欠孔であり、ボルト8を厚み方向に貫通している。また、ガイド孔84は、図中の破線で区分されるように、スライド部82の縁部に開口を有すると共にスライド直交方向Vと略平行に延設された直線部85と、直線部85に屈曲して連なる屈曲部86とを有する。
直線部85は、カムピン75が周回運動する際に、カムピン75により内壁をスライド方向Sに押動されることによって、ボルト8をスライド移動させる部分である。直線部85は、ボルト8の縁部に連なりスライド直交方向Vと平行に延在している第1直線壁851と、第1直線壁851と対向する第2直線壁852とを内壁として形成されている。第2直線壁852は、第1直線壁851と平行であり、第1直線壁851よりも第2スライド方向S2側に位置している。
屈曲部86は、内壁がカムピン75と係合することによって、ボルト8のスライド移動を規制すると共にカムピン75の周回移動及び離間方向V2への移動を抑制する部分である。屈曲部86は、直線部85に対して、第2スライド方向S2に傾斜している。また、屈曲部86は、図20の一点鎖線で区分されるように、第1直線壁851に連なる第1屈曲壁861と、第2直線壁852に連なる第2屈曲壁862と、第1屈曲壁861と第2屈曲壁862との端部同士を接続する円弧壁863とを内壁として形成されている。第1屈曲壁861は、第1直線壁851に対して第2スライド方向S2に傾斜している。また、第2屈曲壁862は、第2直線壁852に対して第2スライド方向S2に傾斜している。そして、円弧壁863は、平面視において略半円の円弧形状を有しており、円弧形状の
中心はガイド孔84の内側に位置している。また、円弧壁863の径寸法は、カムピン75との径寸法と略等しいか、若干大きい。ボルト8が第1姿勢及び第2姿勢にあるときにおいて、カムピン75は、第1屈曲壁861、第2屈曲壁862、円弧壁863と当接した状態で屈曲部86に配置される。
ボルト8は、カムピン75が円弧壁863と当接することによって、第1姿勢又は第2姿勢に至る。より詳細には、カムピン75は、ボルト8が第1姿勢と第2姿勢との間をスライド移動する間に、円弧壁863を一旦離間した後、ガイド孔84の内壁を摺動し、再び円弧壁863に当接する。そして、カムピン75は円弧壁863と当接することによって、それ以上の周回移動が規制される。即ち、円弧壁863は周回規制部として機能する。
ここで、屈曲部86は、ボルト8を第2姿勢に至らせるためにカムピン75が第2回動方向R2へ周回運動しながら円弧壁863に当接する過程において、カムピン75を円弧壁863へガイドする形状となっている。図21は、カムピン75が第2回動方向R2へ周回運動しながら円弧壁863に当接する過程におけるカムピン75とガイド孔84の関係を示す。図中の符号Tで示す領域は、カムピン75が回動軸部74の中心である中心軸Aを中心に周回運動するときの、カムピン75の軌跡を示す。また、軌道Cは、上記におけるカムピン75の軌道である。より詳細には、軌道Cは、カムピン75の中心点の軌道を示す。軌道Cは、中心軸Aを中心とする円弧を形成している。図21に示すように、屈曲部86は、カムピン75の軌道Cに沿って形成されている。即ち、屈曲部86は、カムピン75が第2回動方向R2へ周回運動しながら円弧壁863に当接する過程においてカムピン75の軌道Cに沿う形状に形成されている。より詳細には、第1屈曲壁861、第2屈曲壁862、円弧壁863は軌跡Tの内側に位置している。そして、円弧壁863の径はカムピン75の径と略等しく、円弧壁863の中心点Pは、ガイド孔84の内側であってカムピン75の中心点の軌道C上に位置するように形成されている。屈曲部86がそのように形成されていることによって、カムピン75が第2回動方向R2へ周回運動しながら円弧壁863に当接する過程において、カムピン75が第2屈曲壁862を摺動しながら円弧壁863へガイドされる。そして、カムピン75が円弧壁863に当接してボルト8が第2姿勢に至ったときに、カムピン75には、第2回動方向R2から円弧壁863が当接し、第2スライド方向S2及び離間方向V2から第2屈曲壁862が当接する。
図18に示すように、ボルトケース9は、ボルト8及び駆動シャフト7を収容する筐体であり、前面が開口した箱形状を有している。ボルトケース9の開口周縁には、ボルトケース9を操作部10に取り付けるためのネジ孔が複数設けられている。また、ボルトケース9の側面には、ボルト8のストッパー部81をスライド可能に挿通可能なストッパー孔92が設けられている。ストッパー孔92は、その内壁でボルト8のスライド移動をガイドすると共に、ボルト8がスライド直交方向Vへ移動することを規制する。また、図19(a)、(b)に示すように、ボルトケース9の背面には、駆動シャフト7の回動軸部74を軸支するための回動軸受91が背面に対して垂直に設けられている。尚、ボルトケース9の形状は、上記に限定されず、種々の変更を加えることができる。
図18に示すように、施錠部20が組み立てられた状態では、ボルト8は、ストッパー部81がストッパー孔92に挿通した状態でボルトケース9に収まっている。ボルト8のスライド孔83には、駆動シャフト7の回動軸部74が前面から挿通している。また、ボルト8のガイド孔84には、駆動シャフト7のカムピン75が挿通している。更に、駆動シャフト7の回動軸部74の先端は、ボルトケース9に設けられた回動軸受91に挿入されている。このとき、ストッパー孔92の内壁と駆動シャフト7の回動軸部74によって、ボルト8のスライド直交方向Vへの移動が規制されている。以上のように施錠部20が構成されており、この状態で、図3に示すように、駆動シャフト7の接続孔73に、操作
部10の内筒3の接続ピン35が挿入されることによって、操作部10と施錠部20が機械的に接続される。接続ピン35が接続孔73に挿入されているため、操作摘み2と共に内筒3が回動すると、内筒3の回動に連動して駆動シャフト7が回動する。駆動シャフト7が回動すると、カムピン75が回動軸部74を中心に周回運動する。それに伴ってカムピン75がガイド孔84の内壁を押し付けながらガイド孔84の内部を相対移動することによって、ボルト8が第1姿勢と第2姿勢との間をスライド移動する。
尚、操作摘み2、内筒3、駆動シャフト7は、それぞれが連動するように連結されているため、ボルト8がスライド移動する際の、操作摘み2、内筒3、駆動シャフト7が回動する方向は一致する。そのため、操作摘み2を開姿勢から閉姿勢に至らせる際に操作摘み2が回動する方向が第2回動方向R2と一致し、操作摘み2が閉姿勢から開姿勢へ回動する方向が第1回動方向R1と一致する。即ち、操作摘み2が開姿勢にある状態で、使用者が操作摘み2を第2回動方向R2へ回動操作することによって、駆動シャフト7のカムピン75が第2回動方向R2へ周回運動し、ボルト8が第2スライド方向S2へスライド移動する。反対に、操作摘み2が閉姿勢にある状態で、使用者が操作摘み2を第1回動方向R1へ回動操作することによって、駆動シャフト7のカムピン75が第1回動方向R1へ周回運動し、ボルト8が第1スライド方向S1へスライド移動する。また、ガイド孔84及びスライド孔83の長さや、操作摘み2が開姿勢と閉姿勢との間で回動する回動範囲は、ボルト8がスライドする際に必要なストローク長に応じて設計されている。
以上を踏まえて、本実施形態に係る錠前装置100において、ボルト8をスライド移動させる際の各部の動作について、図19、22A〜22F、23A〜23Bを用いて説明する。以下、ダイヤル部5の各ダイヤル5a〜5dが解錠番号に揃っている状態で操作摘み2を回動操作する場合について説明する。尚、操作摘み2の鍵穴21を通じて内筒3の鍵穴37に非常解錠鍵300若しくは内筒交換鍵400を挿入した状態で操作摘み2を回動操作する場合についても、施錠部20の動作は同様であるため、説明は割愛する。
図22A〜22Fは、ボルト8を第1姿勢から第2姿勢にスライド移動させる際の動作を示す図である。まず、ボルト8が図19(a)に示す第1姿勢に位置する状態について説明する。このとき、操作摘み2は開姿勢にあり、ボルト8のストッパー部81は、殆どボルトケース9内に収納されている。このとき、図22A(b)に示すように、カムピン75は、ガイド孔84内の屈曲部86に配置されている。カムピン75には、屈曲部86の、特に第1屈曲壁861及び円弧壁863が第1回動方向R1から当接している。また、ボルト8のスライド直交方向Vへの移動が規制されているため、カムピン75によってボルト8を接近方向V1へ押動することができない。そのため、カムピン75は接近方向V1へ移動することができない。その結果、カムピン75の第1回動方向R1への周回移動が規制されている。従って、ボルト8に図19(a)に示すような第1スライド方向S1へ押し付ける外力Fが作用した場合においても、カムピン75の第1回動方向R1への周回移動が規制されているため、カムピン75に連動する駆動シャフト7及び内筒3の第1回動方向R1への微小回動を抑制することできる。また、この状態では、駆動シャフト7、内筒3、操作摘み2は、第2回動方向R2のみに回動可能となるように規制されているため、ボルト8は、第2スライド方向S2のみにスライド可能である。
また、操作摘み2が開姿勢にある状態では、図22A(b)に示すように、第2屈曲壁862が離間方向V2からカムピン75に当接しているため、カムピン75が離間方向V2へ自由に移動することが抑制されている。これにより、カムピン75が使用者による操作摘み2の回動操作なしに第2回動方向R2に不用意に周回運動することを抑制することができる。
次に、操作摘み2が開姿勢にある状態から閉姿勢まで回動させ、ボルト8を第1姿勢か
ら第2姿勢までスライドさせる際の動作について説明する。ボルト8が図19(a)及び図22A(a)に示す第1姿勢にある状態で、使用者が操作摘み2を第2回動方向R2に回動しようと操作すると、図22A(b)に示す状態のまま、カムピン75によって第2屈曲壁862が第2回動方向R2に押し付けられる。操作摘み2を第2回動方向R2に回動させようとする力が所定の大きさを上回ると、図22B(b)に示すように、カムピン75と円弧壁863との当接が解除される共に、カムピン75の第2回動方向R2への周回移動が可能となる。その結果、カムピン75が第2屈曲壁862を摺動しながらボルト8を第2スライド方向S2へ押動し始め、図22B(a)に示すように、ボルト8の第2スライド方向S2へのスライド移動が開始される。操作摘み2を更に第2回動方向R2に回動させると、図22C(b)に示すように、カムピン75と第2屈曲壁862との当接が解除される。即ち、カムピン75が屈曲部86を通過して直線部85の第2直線壁852に当接する。カムピン75は第2回動方向R2に周回すると共に、第2直線壁852を離間方向V2に摺動しながらボルト8を第2スライド方向S2へ押動する。操作摘み2の回動角度量が閉姿勢へ至るために必要な角度量の略半分程度にまで達すると、図22D(a)に示すように、カムピン75の、スライド直交方向Vにおける回動軸部74からの離間距離が最大となる。この状態では、図22D(b)に示すように、カムピン75は第2直線壁852に当接しながらも、直線部85の開口端付近に至っている。この状態から、操作摘み2を更に第2回動方向R2に回動させると、カムピン75は、直線部85内を接近方向V1に移動しながら第2直線壁852を摺動し、ボルト8を第2スライド方向S2へ押動する。その結果、図22E(a)、(b)に示すように、カムピン75は再び屈曲部86内に至り、第2屈曲壁862を摺動する。そして、操作摘み2が完全に閉姿勢に至ると、図22F(b)に示すように、カムピン75が再び円弧壁863に当接する。このようにして、ボルト8は、図19(b)に示す第2姿勢となる。以上のように、ボルト8が第1姿勢から第2姿勢に至る間に、カムピン75はガイド孔84の内部において、屈曲部86の円弧壁863から直線部85の開口端までの間を、第2屈曲壁862と第2直線壁852とを摺動しながら一往復する。
ボルト8が第2姿勢にある状態では、カムピン75は、ガイド孔84内の屈曲部86の第1屈曲壁861、第2屈曲壁862、円弧壁863に当接している。ここで、円弧壁863はカムピン75の第2回動方向R2から当接している。更に、ボルト8のスライド直交方向Vへの移動が規制されているため、カムピン75によってボルト8を接近方向V1へ押動することができない。そのため、カムピン75は接近方向V1へ移動することができず、カムピン75がこれ以上、第2回動方向R2へ周回運動することが規制されている。その結果、駆動シャフト7、内筒3、操作摘み2の第2回動方向R2の回動が規制されている。従って、この状態では、駆動シャフト7、内筒3、操作摘み2は、第1回動方向R1のみに回動可能であり、ボルト8は、第1スライド方向S1のみにスライド可能である。また、カムピン75には、離間方向V2から第2屈曲壁862が当接している。この状態で、ダイヤル部5の各ダイヤル5a〜5dを解錠番号と異なる配列にすることによって、錠前装置100は、外筒4の円筒スリーブ部13に対する相対回動が規制された施錠状態となる。
非鍵挿入状態において、図22Fに示す第2姿勢にあるボルト8のストッパー部81に、図19(b)に示すような、ボルト8を第1姿勢へ押し込む方向(第1スライド方向S1)の外力Fが作用した場合、第2屈曲壁862及び円弧壁863によって、カムピン75が第1スライド方向S1に押し付けられる。カムピン75が第1回動方向R1に周回運動するためには、カムピン75が離間方向V2に移動しなければならないが、第2屈曲壁862がカムピン75に離間方向V2から当接して押し付けられているため、カムピン75が離間方向V2へ移動することが抑制されている。即ち、第2屈曲壁862が、カムピン75の離間方向V2への移動を抑制する離間抑制部として機能することによって、カムピン75がボルト8に押動されて第1回動方向R1へ周回運動することが抑制されている
。従って、本実施形態に係る施錠部20によると、ボルト8が第2姿勢にある状態で、ボルト8を第1スライド方向S1に押し込むように外力Fが作用しても、第2屈曲壁862によってカムピン75が第1回動方向R1へ周回移動することが抑制されているため、駆動シャフト7及び内筒3が第1回動方向R1に回動し難くなっている。その結果、カムピン75の第1回動方向R1への周回運動やカムピン75に連動する駆動シャフト7及び内筒3の第1回動方向R1への微小回動を抑制することできる。また、そうすることにより、ボルト8の第1スライド方向S1へのスライド移動が抑制されている。
次に、ボルト8を図19(b)、図22Fに示す第2姿勢から、図19(a)、図22Aに示す第1姿勢にスライド移動させる際の動作について説明する。上述したように、ボルト8が第2姿勢にあるとき、操作摘み2は閉姿勢にある。まず、ダイヤル部5の各ダイヤル5a〜5dが解錠番号に揃えることにより、操作摘み2の回動操作が可能となる。そして、使用者が操作摘み2を第1回動方向R1に回動させようとする力が所定の大きさを上回ると、図23A(b)に示すように、カムピン75と円弧壁863との当接が解除される共に、カムピン75が第1屈曲壁861と第2屈曲壁862とを摺動しながら第1回動方向R1へ周回運動し始める。そして、操作摘み2を更に第1回動方向R1に回動させると、図23B(b)に示すように、カムピン75が直線部85に至り、第1直線壁851に当接する。カムピン75が回動軸部74を中心とする周回運動に伴ってボルト8を第1スライド方向S1に押動することによって、ボルト8の第1スライド方向S1へのスライド移動が開始される。その後、カムピン75は、第1回動方向R1に周回運動すると共に、第1直線壁851を摺動しながら一往復する。その間、第1直線壁851はカムピン75によって第1スライド方向S1に押し込まれ、ボルト8は第1スライド方向S1にスライド移動する。操作摘み2を更に第1回動方向R1へ回動操作すると、カムピン75は屈曲部86に至ると共にボルト8を押動しながら屈曲部86の第1屈曲壁861を摺動する。その後、円弧壁863に当接することによって、ボルト8が図19(a)に示す第1姿勢に至る。
<第1実施形態の作用・効果>
以上のように、錠前装置100は、カムピン75がボルト8に設けられたガイド孔84に係合すると共に操作摘み2の回動操作に連動して周回運動しながらガイド孔84を摺動することによってボルト8を押動し、ボルト8を第1姿勢と第2姿勢との間を往復可能にスライド移動させる。そして、本実施形態に係る錠前装置100は、ボルト8が第2姿勢にあるとき、ガイド孔84を形成する第2屈曲壁862がカムピン75に離間方向V2から当接することによって、カムピン75が離間方向V2へ移動することが抑制される。そのため、本実施形態に係る錠前装置100によると、ボルト8が第2姿勢にあるときに、ボルト8を第1スライド方向S1に押し込む外力Fが作用しても、第2屈曲壁862がカムピン75に押し付けられるため、カムピン75の離間方向V2への移動が抑制され、カムピン75の第1回動方向R1への周回移動を抑制することができる。その結果、使用者による操作なしに、外力Fによって駆動シャフト7及び内筒3が回動することやボルト8がスライド移動することを抑制することができる。従って、本実施形態に係る錠前装置100によれば、ボルト8が第2姿勢にある状態で、ボルト8に作用する外力Fによる駆動シャフト7及び内筒3の微小回動が抑制することができ、その結果、錠前装置100の内部の部品の位置が正規の位置からずれることによる動作不良を起こり難くすることができる。ここで、操作摘み2が本発明における「回動部」に相当し、カムピン75が「突起部」に相当する。また、第2屈曲壁862が、本発明における「離間抑制部」に相当する。
また、ガイド孔84は、カムピン75により内壁をスライド方向Sに押動される直線部85と、直線部85から屈曲して連なる屈曲部86を有している。そして、屈曲部86には、第2屈曲壁862及び円弧壁863が形成されている。更に、屈曲部86は、カムピン75が第2回動方向R2へ周回運動しながら円弧壁863に当接する過程においてカム
ピン75の軌道Cに沿う形状に形成されている。そのため、上記の過程において、カムピン75は、第2屈曲壁862に当接しながら円弧壁863にガイドされる。その結果、ボルト8が第2姿勢に至った状態において、カムピン75には、第2回動方向R2から円弧壁863が当接し、第2スライド方向S2及び離間方向V2から第2屈曲壁862が当接する。そうすることによって、カムピン75の第2回動方向R2への周回移動を円弧壁863によって規制し、離間方向V2への移動を第2屈曲壁862によって抑制することができる。ここで、円弧壁863が本発明における「周回規制部」に相当し、直線部85が「第1ガイド部」に相当し、屈曲部86が「第2ガイド部」に相当する。
<従来例>
比較のために、従来の錠前装置100aについて、図24を用いて説明する。従来の錠前装置100aは、ボルト8aのガイド孔84aの形状が、本実施形態に係る錠前装置100のガイド孔84の形状と相違している。以下、従来の錠前装置100aについて、本実施形態との相違点を中心に説明し、同様の構成については同一の符号を付すことで詳細な説明は割愛する。
図24は、従来の錠前装置100aの施錠部20aを示す図である。従来の錠前装置100aは、ボルト8aのガイド孔84aがU字形状の切欠を形成している。ガイド孔84aは、直線形状の直線部85aと直線部85aから連なる円弧状の円弧部86aを有する。直線部85aは、上方向に平行に延在する第1直線壁851aと、第1直線壁851aよりも第2スライド方向S2側に位置し、第1直線壁851aに対向する第2直線壁852aとによって形成されている。第1直線壁851aと第2直線壁852aによって形成される開口は、カムピン75の径よりも大きい。円弧部86aは、第1直線壁851aと第2直線壁852aとの端部同士を接続する円弧状の円弧壁863aによって形成される。円弧壁863aの径はカムピン75の径とほぼ等しいか、若干大きく設計されている。即ち、従来の錠前装置100aのガイド孔84aは、第1屈曲壁861及び第2屈曲壁862を有しない点で、第1実施形態に係る錠前装置100と大きく相違している。
図24(a)は、従来の錠前装置100aにおいてボルト8aが第1姿勢にあるときの施錠部20aを示す図、図24(b)は、ボルト8aが第2姿勢にあるときの施錠部20aを示す図である。従来の錠前装置100aのボルト8aを第1姿勢へスライド操作する場合、使用者が操作摘み2を第1回動方向R1へ回動操作することによって、カムピン75が第1直線壁851aを第1スライド方向S1に押し込みながら、第1回動方向R1に周回運動する。ボルト8aが第1姿勢に至ったとき、カムピン75が円弧壁863aに当接し、カムピン75の第1回動方向R1への周回移動が規制される。反対に、ボルト8aを第2姿勢へスライド移動させる場合は、カムピン75が第2直線壁852aを第2スライド方向S2に押し込みながら、第2回動方向R2に周回する。ボルト8aが第2姿勢に至ると、カムピン75が円弧壁863aに当接し、カムピン75の第2回動方向R2への周回移動が規制される。
ボルト8aが第2姿勢にある状態で、ボルトケース9から露出しているボルト8aのストッパー部81aに、第1姿勢に押し込む方向(第1スライド方向S1)の外力Fが作用した場合、円弧壁863a及び第2直線壁852によってカムピン75が第1スライド方向S1に押し付けられる。カムピン75が第1回動方向R1に周回するためには、カムピン75はより離間方向V2に移動する必要がある。従来のボルト8aは、カムピン75に離間方向V2から当接することによってカムピン75の離間方向V2への移動を抑制する離間抑制部を有さない。そのため、ボルト8aが第2姿勢にある状態で、ボルト8aを第1スライド方向S1に押し込むように外力Fが作用すると、カムピン75の第1回動方向R1への周回移動が抑制されず、ボルト8aが第1スライド方向S1にスライドする。即ち、駆動シャフト7及び内筒3が第1回動方向R1に回動する虞がある。
図25(a)は、従来の錠前装置100aにおける、正常な状態の内筒3の断面図であって、ダイヤル部5の解錠番号が揃っておらず、且つ、鍵穴37に非常解錠鍵300も内筒交換鍵400も挿入されていない非鍵挿入状態で、ボルト8aが第2姿勢に位置している状態である施錠状態を示す。この状態では、外筒4は円筒スリーブ部13に対する回動が規制されている。図25(a)に示すように、スロットスプリング34によって付勢されたタンブラー32が内筒3より突出し、外筒4の係止溝42と係止している。また、断面視で見たときに、鍵穴37の長手方向に対してタンブラー32の鍵挿通孔32aの長手方向が略一致している。図25(b)は、図25(a)の状態から、ボルト8aに外力Fが作用することによって内筒3が微小回動した状態を示す。上述した通り、円筒スリーブ部13に対する外筒4の相対回動が制限(禁止)されているため、内筒3が外筒4に対して相対的に微小回動している。このとき、タンブラー32は外筒4の溝と係止したままであるため、スロットスプリング34が正常な状態から変形している。図25(b)に示すように、内筒3の筐体部31が外筒4に対して回動することによって、タンブラー32の鍵挿通孔32aに対して鍵穴37が相対回動してしまう。その結果、鍵穴37から挿入された非常解錠鍵300及び内筒交換鍵400が鍵挿通孔32aに挿入され難くなり、円滑な解錠や内筒交換が阻害される虞がある。また、タンブラー32が、回動した筐体部31と係止溝42によって挟まれているため、鍵挿通孔32aに鍵が挿入されても、タンブラー32が内筒3の内部に引き込まれ難くなる可能性がある。更に、使用者が操作摘み2を回動操作する際に、操作摘み2が正常に回動し難くなる不具合が生じる可能性がある。
一方、本実施形態に係る錠前装置100は、第2屈曲壁862が離間抑制部として機能するガイド孔84を備えることによって、ボルト8が第2姿勢にある状態でボルト8に荷重等によって第1スライド方向S1への外力Fが作用しても、外力Fによる内筒3の微小回動が抑制されるため、上述した動作不良を起こり難くすることができる。
<第2実施形態>
第2実施形態に係る錠前装置100bは、施錠部20bが、ボルト8bを第2スライド方向S2に付勢するスプリング機構87を更に備える点で、第1実施形態に係る錠前装置100と構成が大きく相違している。以下、第2実施形態に係る錠前装置100bの第1実施形態との相違点を中心に説明し、同一の構成については同一の参照符号を付すことで詳しい説明を割愛する。
図26は、第2実施形態に係る施錠部20bを示す図である。施錠部20bは、ばね部材であるボルトスプリング871、ボルトスプリング871に挿入可能な径を有する円柱形状のスプリング軸872、スプリング支持部材873を含むスプリング機構87を有する。スプリング支持部材873は、略L字形状を有しており、L字形状の一端には、スプリング軸872が挿通可能なスプリング軸孔873aを有するスプリング止部873bが設けられている。L字形状の他端には、第2実施形態に係るボルト8bとスプリング機構87を連結するためのスプリングピン873cが設けられている。
第2実施形態に係るボルト8bには、スプリングピン873cが挿入されるスプリング接続孔88が設けられている。また、ボルトケース9bには、第1スライド方向S1側に位置する内壁に、スプリング軸872を軸支するスプリング軸受部93が設けられている。
施錠部20bにおいて、スプリング軸受部93には、スプリング軸872が軸支されている。スプリング軸872は、ボルトスプリング871とスプリング軸孔873aに挿通しており、ボルトスプリング871は、スプリング軸受部93とスプリング止部873bによって挟まれている。また、スプリング支持部材873は、スプリング軸孔873aに
よってスプリング軸872を軸方向に摺動可能となっている。スプリングピン873cは、ボルト8bに設けられたスプリング接続孔88に挿入されている。そのため、ボルト8bのスライド移動に連動してスプリング支持部材873がスプリング軸872を軸方向にスライド移動する。スプリング支持部材873のスライド移動に伴いスプリング支持部材873とスプリング軸受部93との間の距離が変化するため、ボルトスプリング871が伸縮する。尚、スプリング軸872とスプリング支持部材873は一体の部材であってもよい。
図27(a)は、ボルト8bが第1姿勢にあるときの、図27(b)は、ボルト8bが第2姿勢にあるときの、施錠部20bの状態を示す図である。ボルトスプリング871は、ボルト8bが第1姿勢と第2姿勢の何れの状態にあるときも、自然長よりも縮んだ状態となるように設けられている。そのため、スプリング支持部材873は、ボルトスプリング871によって第2スライド方向S2に付勢されている。スプリング支持部材873はボルト8bと連結しているため、ボルト8bには、ボルトスプリング871による付勢力Bが第2スライド方向S2に作用している。
<第2実施形態の作用・効果>
以上のように、第2実施形態に係る錠前装置100bは、ボルト8bが第2姿勢にあるときにおいてボルト8bを第2スライド方向S2に付勢するスプリング機構87を備えている。そうすることにより、ボルト8bが第2姿勢にある状態で、ボルト8bに第1スライド方向S1の外力Fが作用した場合、ボルトスプリング871がボルト8bを第2スライド方向S2に付勢する付勢力Bによって、ボルト8bに作用する第1スライド方向S1の力を外力Fよりも軽減することができる。その結果、第1実施形態に係る施錠部20と比較して、ボルト8bに作用する外力Fによる内筒3の微小回動を更に抑制することができ、錠前装置100bの内部の部品の位置が正規の位置からずれることによる動作不良をより起こり難くすることができる。尚、本実施形態に係るスプリング機構87は、ボルト8bが第2姿勢と第1姿勢の何れの姿勢にある場合においても、ボルト8bを第2スライド方向S2に付勢するが、スプリング機構87は少なくともボルト8bが第2姿勢にあるときにボルト8bを第2スライド方向S2に付勢すればよい。そうすることによって、第2姿勢にあるボルト8bを第1スライド方向S1に押し付ける外力Fを、軽減することができる。
尚、本発明に係る錠前装置は、内筒交換式の錠前装置に限定されない。上述した実施形態では、錠前装置100が、内筒3、外筒4、ダイヤル部5、インジケータ6、駆動シャフト7を備えていたが、本発明において上記の部材は必須の構成ではない。即ち、本発明は、操作摘み2の回動操作に伴ってボルト8のスライド移動を実現させる錠前装置であればよい。本発明は、例えば、内筒3を有さず、操作摘み2と駆動シャフト7が一体に形成されていてもよい。また、操作摘み2、内筒3、駆動シャフト7を一体に形成してもよい。図28は、本発明のバリエーションを示す図である。本発明は、図28(a)に示すように、駆動シャフト7を有さず、内筒3にカムピン75が設けられ、内筒3によってボルト8をスライドさせてもよい。また、本発明は、図28(b)に示すように、操作摘み2と外筒4が一体で形成されていてもよい。また、操作摘み2の形状は上述した実施形態に限定せず、ボルト8をスライド移動させるために、使用者によって回動操作が可能であればよい。即ち、操作摘み2は、鍵穴21を有さなくてもよい。また、操作摘み2は、前端部が摘み部分を有さずに平坦であって、鍵穴21のみが形成されていてもよい。その場合、使用者は、鍵穴21に解錠用の鍵を挿入して解錠及び施錠操作を行う。
また、本発明は、ガイド孔84を、ボルト8を貫通しない凹部であるガイド溝で構成してもよい。即ち、本発明のガイド孔84は、カムピン75と係合することができる形状であればよく、カムピン75の側壁と当接する内壁である第1直線壁851、第2直線壁8
52、第1屈曲壁861、第2屈曲壁862、円弧壁863を有していればよい。そうすることによって、ボルト8に外力が作用した際にカムピン75がそれ以上回動することを抑制することができる。尚、円弧壁863は、円弧形状でなく、第1屈曲壁861と第2屈曲壁862とを接続する直線形状であってもよい。
また、本発明において、操作摘み2の回動の規制及び規制の解除の方法は、特に限定されない。本発明は、図29に示す錠前装置100cのように、ダイヤル部5に代えて、ハウジング1のフロントパネル11に出没可能に設けられた複数のプッシュボタン51を解錠符号に即した押動操作を行うことによって、操作摘み2の回動の規制及び規制の解除を実現してもよい。
また、上述した種々の内容は、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲において可能な限り組み合わせることができる。