以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、ある変速機構の「変速比」は、当該変速機構の入力回転速度を当該変速機構の出力回転速度で割って得られる値であり、変速比が大きい場合を「Low」、小さい場合を「High」という。
図1は本発明の実施形態に係る車両の概略構成図である。この車両は駆動源としてエンジン1を備え、エンジン1の出力回転は、ロックアップクラッチ2c付きトルクコンバータ2のポンプインペラ2aに入力され、タービンランナ2bから第1ギヤ列3、変速機4、第2ギヤ列5、差動装置6を介して駆動輪7へと伝達される。
変速機4には、エンジン1の回転が入力されエンジン1の動力の一部を利用して駆動されるメカオイルポンプ10mと、バッテリ13から電力供給を受けて駆動される電動オイルポンプ10eとが設けられている。また、変速機4には、メカオイルポンプ10mあるいは電動オイルポンプ10eから吐出される油によって発生する油圧を調圧して変速機4の各部位に供給する油圧制御回路11が設けられている。なお、電動オイルポンプ10eは、メカオイルポンプ10mよりも小型のオイルポンプである。メカオイルポンプ10mと油圧制御回路11との間には、逆止弁14aが設けられており、電動オイルポンプ10eと油圧制御回路11との間には、逆止弁14bが設けられている。これにより、メカオイルポンプ10m、及び電動オイルポンプ10eへ油が逆流することが防止される。なお、逆止弁を各オイルポンプと一体に設けてもよい。
変速機4は、摩擦伝達機構としてのベルト式無段変速機構(以下、「バリエータ20」という。)と、バリエータ20に直列に設けられる副変速機構30とを備える。「直列に設けられる」とはエンジン1から駆動輪7に至るまでの動力伝達経路においてバリエータ20と副変速機構30とが直列に設けられるという意味である。副変速機構30は、この例のようにバリエータ20の出力軸に直接接続されていてもよいし、その他の変速ないし動力伝達機構(例えば、ギヤ列)を介して接続されていてもよい。
バリエータ20は、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、各プーリ21、22の間に掛け回されるVベルト23とを備える。バリエータ20は、プライマリプーリ油室21aに供給されるプライマリプーリ圧Ppri、及びセカンダリプーリ油室22aに供給されるセカンダリプーリ圧Psecに応じてV溝の幅が変化してVベルト23と各プーリ21、22との接触半径が変化し、バリエータ20の実変速比が無段階に変化する。
副変速機構30は前進2段・後進1段の変速機構である。副変速機構30は、2つの遊星歯車のキャリアを連結したラビニョウ型遊星歯車機構31と、ラビニョウ型遊星歯車機構31を構成する複数の回転要素に接続され、それらの連係状態を変更する複数の摩擦締結要素(Lowブレーキ32、Highクラッチ33、Revブレーキ34)とを備える。各摩擦締結要素32〜34への供給油圧を調整し、各摩擦締結要素32〜34の締結・解放状態を変更すると、副変速機構30の変速比が変更される。
Lowブレーキ32が締結され、Highクラッチ33、及びRevブレーキ34が解放されると、副変速機構30の変速段は1速となる。Highクラッチ33が締結され、Lowブレーキ32、及びRevブレーキ34が解放されると、副変速機構30の変速段は1速よりも変速比が小さい2速となる。また、Revブレーキ34が締結され、Lowブレーキ32、及びHighクラッチ33が解放されると、副変速機構30の変速段は後進となる。さらに、Lowブレーキ32、Highクラッチ33、及びRevブレーキ34が解放され、副変速機構30が動力遮断状態となると、変速機4はニュートラル状態となる。
各摩擦締結要素32〜34の状態としては、「解放」、「待機」、「滑り」、及び「締結」の状態がある。これらの状態は、各ピストン受圧室に供給される油圧に応じて切り替えられる。
「解放」とは、例えばLowブレーキ32に油圧が供給されておらず、Lowブレーキ32がトルク容量を持たない状態である。
「待機」とは、例えばLowブレーキ32に油圧が供給されているものの、Lowブレーキ32がトルク容量を持たない状態である。「待機」状態では、Lowブレーキ32はトルク容量を持つ直前の状態となっている。
「滑り」とは、例えばLowブレーキ32に油圧が供給されており、Lowブレーキ32がトルク容量を持ち、副変速機構30の入出力軸間でLowブレーキ32を締結した場合の副変速機構30の変速比R1を考慮した回転速度差よりも大きい回転速度差が発生している状態である。「滑り」状態では、トルク容量がLowブレーキ32の入力トルクよりも小さい。
「締結」とは、例えばLowブレーキ32に油圧が供給されており、Lowブレーキ32がトルク容量を持ち、副変速機構30の入出力軸間でLowブレーキ32を締結した場合の変速比R1を考慮した回転速度差が発生している状態である。すなわち、Lowブレーキ32が締結している場合には、副変速機構30の入力側の回転速度(以下、入力側回転速度という。)Ninは、副変速機構30の出力側の回転速度(以下、出力側回転速度という。)NoutにLowブレーキ32を締結した場合の副変速機構30の変速比R1を乗算した値に等しい。「締結」状態では、トルク容量がLowブレーキ32の入力トルクよりも大きい。なお、「締結」状態には、トルク容量がLowブレーキ32の入力トルクよりも大きくなった後に、さらにトルク容量を大きくし、トルク容量が入力トルクに対して余裕代を持つ完全締結が含まれる。
バリエータ20の実変速比と、副変速機構30の変速比とを変更することで、変速機4全体の変速比が変更される。
コントローラ12は、エンジン1及び変速機4を統合的に制御するコントローラ12であり、図2に示すように、CPU121と、RAM・ROMからなる記憶装置122と、入力インターフェース123と、出力インターフェース124と、これらを相互に接続するバス125とから構成される。なお、コントローラ12は、複数のコントローラによって構成されてもよい。
入力インターフェース123には、アクセルペダル51の操作量であるアクセルペダル開度APOを検出するアクセルペダル開度センサ41の出力信号、プライマリプーリ回転速度Npriを検出するプライマリ回転速度センサ42の出力信号、セカンダリプーリ回転速度Nsecを検出するセカンダリ回転速度センサ43の出力信号、車速VSPを検出する車速センサ44の出力信号、シフトレバー50の位置を検出するインヒビタスイッチ45の出力信号、及びブレーキペダル52の操作量に対応したブレーキ液圧BRPを検出するブレーキ液圧センサ48からの信号等が入力される。
記憶装置122には、エンジン1の制御プログラム、変速機4の変速制御プログラム、これらプログラムで用いられる各種マップ・テーブルが格納されている。CPU121は、記憶装置122に格納されているプログラムを読み出して実行し、入力インターフェース123を介して入力される各種信号に対して各種演算処理を施して、燃料噴射量信号、点火時期信号、スロットル開度信号、変速制御信号を生成し、生成した信号を出力インターフェース124を介してエンジン1、油圧制御回路11に出力する。CPU121が演算処理で使用する各種値、その演算結果は記憶装置122に適宜格納される。
油圧制御回路11は複数の流路、複数の油圧制御弁で構成される。油圧制御回路11は、コントローラ12からの変速制御信号に基づき、複数の油圧制御弁を制御して油圧の供給経路を切り換えるとともにメカオイルポンプ10mまたは電動オイルポンプ10eから吐出された油によって発生した油圧から必要な油圧を調整し、これを変速機4の各部位に供給する。これにより、バリエータ20の実変速比、副変速機構30の変速比が変更され、変速機4の変速が行われる。
油圧制御回路11とLowブレーキ32との間の油路には、図3に示すようにアキュムレータ35が接続されている。つまり、Lowブレーキ32のピストン受圧室32aとアキュムレータ35とは油路を介して接続している。アキュムレータ35は、シフトレバー50がNレンジからDレンジに変更された場合にLowブレーキ32で締結ショックが発生することを抑制する。
本実施形態では、Lowブレーキ32に油圧を供給する油路にのみアキュムレータ35を接続している。そのため、Lowブレーキ32の締結時間は、Highクラッチ33の締結時間よりも長い。締結時間とは、Lowブレーキ32、及びHighクラッチ33を解放した状態から油圧の供給を開始した場合に、Lowブレーキ32、及びHighクラッチ33を締結するまでに要する時間である。
本実施形態では、車両走行中に、セーリングストップ条件が成立すると、エンジン1への燃料噴射を中止してエンジン1を停止し、副変速機構30において各摩擦締結要素32〜34を解放して変速機4をニュートラル状態とするセーリングストップ制御が実行される。
これにより、エンジン1を停止した状態での惰性走行距離が長くなり、エンジン1の燃費を向上させることができる。
セーリングストップ条件は、例えば以下の条件である。
(a)シフトレバー50がDレンジである。
(b)車速VSPが第1所定車速V1以上である。
(c)アクセルペダル51が踏み込まれていない。
(d)ブレーキペダル52が踏み込まれていない。
第1所定車速V1は、予め設定されており、後述する第2所定車速V2よりも低い車速である。
セーリングストップ条件は上記(a)〜(d)の条件を全て満たす場合に成立し、上記(a)〜(d)のいずれかを満たさない場合には成立しない。
セーリングストップ制御中にセーリングストップ条件が成立しなくなると、セーリングストップ制御を解除し、エンジン1を始動し、副変速機構30のLowブレーキ32、またはHighクラッチ33を締結する。つまり、セーリングストップ条件は、セーリングストップ制御を解除するためのセーリングストップ解除条件でもある。なお、セーリングストップ条件とセーリングストップ解除条件とを異なる条件としてもよい。
セーリングストップ解除条件が成立すると、エンジン1を始動し、Lowブレーキ32、またはHighクラッチ33を締結した後に、通常の走行制御が実行される。セーリングストップ解除条件が成立してから通常の走行制御が実行されるまでの間は、エンジン1を始動してLowブレーキ32、またはHighクラッチ33前後の回転速度を同期させる回転同期制御の実行後、Lowブレーキ32、またはHighクラッチ33を締結するセーリングストップ解除制御が実行される。セーリングストップ制御、回転同期制御、セーリングストップ解除制御などは、コントローラ12によって実行される。
次に、セーリングストップ制御を解除する場合について図4のフローチャートを用いて説明する。ここでは、セーリングストップ条件が成立し、セーリングストップ制御が実行されているものとする。
ステップS100では、コントローラ12は、セーリングストップ解除条件(SS解除条件)が成立したかどうか判定する。具体的には、コントローラ12は、上記(a)〜(d)のいずれかを満たさなくなったかどうか判定する。セーリングストップ解除条件が成立した場合には処理はステップS101に進み、セーリングストップ解除条件が成立していない場合には今回の処理は終了する。
ステップS101では、コントローラ12は、車速VSPが第2所定車速V2未満であるかどうか判定する。第2所定車速V2は、予め設定された車速であり、変速マップにおいて、副変速機構30の変速段が1速の場合に変速機4全体の変速比が最も小さくなる1速最High変速線と、コースト線とが交わる車速である。第2所定車速V2は、セーリングストップ制御を解除する際に、副変速機構30でLowブレーキ32を締結させるか、Highクラッチ33を締結させるかを切り換えるための車速である。車速VSPが第2所定車速V2未満の場合には処理はステップS102に進み、車速VSPが第2所定車速V2以上の場合には処理はステップS106に進む。
ステップS102では、コントローラ12は、副変速機構30において締結する摩擦締結要素をLowブレーキ32に設定する。
ステップS103では、コントローラ12は、エンジン1を始動し、回転同期制御を実行する。エンジン1を始動することで、メカオイルポンプ10mが駆動され、メカオイルポンプ10mから油が吐出される。
ステップS104では、コントローラ12は、Lowブレーキ32において回転同期したかどうか判定する。具体的には、コントローラ12は、副変速機構30の入力側回転速度Ninと、副変速機構30の出力側回転速度Noutとの関係が式(1)を満たすかどうか判定する。
|Nin−(R1×Nout)|≦N1 (1)
「R1」は、Lowブレーキ32を締結した場合の副変速機構30の変速比である。「N1」は、予め設定された第1閾値であり、Lowブレーキ32を締結するにあたり、締結ショックの発生を抑制できると判定可能な値である。
コントローラ12は、式(1)を満たす場合、回転同期したと判定し、式(1)を満たさない場合、回転同期していないと判定する。エンジン1の始動によって入力側回転速度Ninが高くなり、式(1)を満たすと処理はステップS105に進む。
ステップS105では、コントローラ12は、回転同期制御を終了し、セーリングストップ解除制御を実行する。コントローラ12は、Lowブレーキ32に供給される油圧を高くし、Lowブレーキ32を締結する。
ステップS106では、コントローラ12は、副変速機構30において締結する摩擦締結要素をHighクラッチ33に設定する。
ステップS107では、コントローラ12は、エンジン1を始動し、回転同期制御を実行する。
ステップS108では、コントローラ12は、Highクラッチ33において回転同期したかどうか判定する。具体的には、コントローラ12は、入力側回転速度Ninと出力側回転速度Noutとの関係が式(2)を満たすかどうか判定する。
|Nin−(R2×Nout)|≦N2 (2)
「R2」は、Highクラッチ33を締結した場合の副変速機構30の変速比であり、R1よりも小さい。「N2」は、予め設定された第2閾値であり、Highクラッチ33を締結するにあたり、締結ショックの発生を抑制できると判定可能な値であり、N1よりも小さい。
コントローラ12は、式(2)を満たす場合、回転同期したと判定し、式(2)を満たさない場合、回転同期していないと判定する。エンジン1の始動によって入力側回転速度Ninが高くなり、式(2)を満たすと処理はステップS109に進む。
ステップS109では、コントローラ12は、回転同期制御を終了し、セーリングストップ解除制御を実行する。コントローラ12は、Highクラッチ33に供給される油圧を高くし、Highクラッチ33を締結する。
本実施形態のセーリングストップ制御を解除する場合について、図5のタイムチャートを用いて説明する。まず、車速VSPが第2所定車速V2以上であり、アクセルペダル51の踏み込みに伴いセーリングストップ制御を解除するにあたり、Highクラッチ33を締結する場合について説明する。図5では、Highクラッチ33を締結する場合のクラッチストロークなどの変化を実線で示す。
時間t0において、アクセルペダル51が踏み込まれ、セーリングストップ解除条件が成立し、エンジン1が始動され、回転同期制御が実行される。これにより、入力側回転速度Ninが徐々に高くなる。
また、Highクラッチ33の指示圧をHighクラッチ33が待機状態となる待機圧に設定する。エンジン1が始動されることで、メカオイルポンプ10mから油が吐出され、Highクラッチ33に待機圧を供給可能となる。なお、メカオイルポンプ10mによってHighクラッチ33に待機圧を供給できない場合には、電動オイルポンプ10eから吐出される油を用いて、Highクラッチ33に待機圧を供給する。これにより、Highクラッチ33のクラッチストロークが増加する。Highクラッチ33に待機圧を供給することで、その後Highクラッチ33を締結する際に、素早く締結を完了させることができる。
時間t1において、出力側回転速度NoutにHighクラッチ33を締結した場合の副変速機構30の変速比R2を乗算した値と、入力側回転速度Ninとの差の絶対値が第2閾値N2以下となると回転同期制御を終了し、セーリングストップ解除制御を実行する。セーリングストップ解除制御が実行されることで、Highクラッチ33の指示圧が急上昇し、クラッチストロークが増加し、Highクラッチ33が締結する。
時間t2において、セーリングストップ解除制御を終了し、通常の走行制御が開始される。Highクラッチ33が締結されているので、エンジン1で発生したトルクが駆動輪7に伝達され、車両が加速する。
次に、車速VSPが第2所定車速V2未満であり、アクセルペダル51の踏み込みに伴いセーリングストップ制御を解除するにあたり、Lowブレーキ32を締結する場合について説明する。まず、本実施形態を用いず、Highクラッチ33を締結する場合と同じタイミングで回転同期制御を終了する場合、つまり同じ第2閾値N2を用いて回転同期制御を終了する場合について説明する。図5では、本実施形態を用いない場合クラッチストロークなどの変化を破線で示す。なお、図5では、同一の値を示す異なる種類の線の一部を、説明のためにずらして記載している。
時間t0において、アクセルペダル51が踏み込まれ、セーリングストップ解除条件が成立し、エンジン1が始動され、回転同期制御が実行される。
また、Highクラッチ33を締結する場合と同様にLowブレーキ32に待機圧を供給する。Lowブレーキ32に油圧を供給する油路には、アキュムレータ35が接続されている。そのため、Highクラッチ33に油圧を供給する場合と同じタイミングで、Lowブレーキ32の指示圧を高くし、待機圧を供給すると、Lowブレーキ32に油圧を供給する油路を流れる油の一部がアキュムレータ35に流入するので、アキュムレータ35の蓄圧容量に応じてLowブレーキ32のクラッチストロークが遅くなる。つまり、クラッチストロークの増加タイミングにタイムラグが発生する。
時間t1において、出力側回転速度NoutにLowブレーキ32を締結した場合の副変速機構30の変速比R1を乗算した値と、入力側回転速度Ninとの差の絶対値が第2閾値N2以下となると、回転同期制御を終了し、セーリングストップ解除制御を実行する。セーリングストップ解除制御が実行されることで、Lowブレーキ32の指示圧が急上昇し、クラッチストロークが増加し、Lowブレーキ32が締結する。
Lowブレーキ32に油圧を供給する油路には、アキュムレータ35が接続されており、クラッチストロークの増加タイミングにタイムラグが発生しているため、Highクラッチ33を締結する場合よりも、Lowブレーキ32のクラッチストロークが遅くなる。
Lowブレーキ32のクラッチストロークが遅れると、その間にエンジン回転速度が高くなり、入力側回転速度Ninが高くなり、出力側回転速度NoutにLowブレーキ32を締結した場合の副変速機構30の変速比R1を乗算した値と、入力側回転速度Ninとの差の絶対値が大きい状態で、Lowブレーキ32が締結し、締結ショックが大きくなる。
また、Lowブレーキ32の締結が遅れることで、車両の加速が遅れ、運転者に違和感を与える。
次に、本実施形態を用いてLowブレーキ32を締結する場合について説明する。図5では、クラッチストロークなどの変化を一点鎖線で示す。
時間t0において、アクセルペダル51が踏み込まれ、セーリングストップ解除条件が成立し、エンジン1が始動され、回転同期制御が実行される。
時間t1’において、出力側回転速度NoutにLowブレーキ32を締結した場合の副変速機構30の変速比R1を乗算した値と、入力側回転速度Ninとの差の絶対値が第1閾値N1以下となると、回転同期制御を終了し、セーリングストップ解除制御を実行する。セーリングストップ解除制御が実行されることで、Lowブレーキ32の指示圧が急上昇し、クラッチストロークが増加し、Lowブレーキ32が締結する。
本実施形態では、第1閾値N1を第2閾値N2よりも大きくしているので、回転同期制御を終了し、セーリングストップ解除制御が実行されるタイミングは、Highクラッチ33を締結する場合よりも早くなる。
本実施形態では、セーリングストップ制御を解除する際に、締結する副変速機構30の摩擦締結要素32、33の種類に関わらず、同じタイミングで摩擦締結要素32、33が締結するように第1閾値N1と第2閾値N2とが設定されている。具体的には、セーリングストップ制御を解除し、Lowブレーキ32を締結する場合に、アキュムレータ35の蓄圧容積に応じてLowブレーキ32の締結が遅れる分、回転同期制御を早期に終了するように第1閾値N1を設定している。
そのため、セーリングストップ制御を解除してLowブレーキ32を締結する際に、出力側回転速度NoutにLowブレーキ32を締結した場合の副変速機構30の変速比R1を乗算した値と、入力側回転速度Ninとの差の絶対値が大きい状態でLowブレーキ32が締結されることを抑制し、締結ショックの発生を抑制することができる。
時間t2において、セーリングストップ解除制御を終了し、通常の走行制御に移行する。Lowブレーキ32が締結されているので、エンジン1で発生したトルクが駆動輪7に伝達され、車両が加速する。
本実施形態では、Lowブレーキ32の締結タイミングが遅くなることを抑制することができ、運転者に違和感を与えることを抑制することができる。
本発明の実施形態の効果について説明する。
セーリングストップ制御を解除する際に、回転同期制御を実行し、副変速機構30のLowブレーキ32、またはHighクラッチ33を締結する。セーリングストップ制御を解除し、Lowブレーキ32、またはHighクラッチ33を締結するにあたり、Lowブレーキ32の締結時間がHighクラッチ33の締結時間よりも長いので、Lowブレーキ32の回転同期を判定する第1閾値N1を、Highクラッチ33の回転同期を判定する第2閾値N2よりも大きくする。これにより、セーリングストップ制御を解除し、Lowブレーキ32を締結する場合に、出力側回転速度NoutにLowブレーキ32を締結した場合の副変速機構30の変速比R1を乗算した値と、入力側回転速度Ninとが乖離した状態でLowブレーキ32が締結されることを抑制することができる。そのため、Lowブレーキ32を締結する際に締結ショックの発生を抑制することができる(請求項1に対応する効果)。
油路を介してLowブレーキ32のピストン受圧室32aと接続するアキュムレータ35を設ける。アキュムレータ35を設けることで、Lowブレーキ32の締結時間が長くなる。本実施形態では、Lowブレーキ32の回転同期を判定する第1閾値N1を、Highクラッチ33の回転同期を判定する第2閾値N2よりも大きくすることで、セーリングストップ制御を解除し、Lowブレーキ32を締結する場合でも、締結ショックの発生を抑制することができる(請求項2に対応する効果)。
セーリングストップ制御を解除し、回転同期制御を開始する際にLowブレーキ32、またはHighクラッチ33に待機圧を供給する。これにより、回転同期制御を終了し、セーリングストップ解除制御を実行する場合に、Lowブレーキ32、またはHighクラッチ33を素早く締結することができ、例えば出力側回転速度NoutにLowブレーキ32を締結した場合の副変速機構30の変速比R1を乗算した値と、入力側回転速度Ninとが乖離した状態でLowブレーキ32が締結されることを抑制することができる。そのため、Lowブレーキ32、またはHighクラッチ33を締結する際に締結ショックの発生を抑制することができる(請求項6に対応する効果)。
次に本実施形態の変形例について説明する。
上記実施形態では、Lowブレーキ32に油圧を供給する油路にアキュムレータ35を設けたが、変形例では、アキュムレータ35を設けずに図6に示すようにLowブレーキ32において、皿バネ状のディッシュプレート300を設けている。
ディッシュプレート300は、ピストン301とドリブンプレート302との間に設けられる。Lowブレーキ32のピストン受圧室32aに供給される油圧によってピストン301がドリブンプレート302側に移動すると、ディッシュプレート300は、ピストン301による付勢力に抗するとともに、ドリブンプレート302及びドライブプレート303が係合するように、ドリブンプレート302とドライブプレート303とに付勢力を付与する。そして、ドリブンプレート302とドライブプレート303とが摩擦係合することで、Lowブレーキ32が締結する。
Lowブレーキ32にディッシュプレート300を設けることで、ディッシュプレート300による付勢力により、アキュムレータ35を設けた場合と同様に、Lowブレーキ32の締結時間がHighクラッチ33の締結時間よりも長くなる。ディッシュプレート300を設け、Lowブレーキ32を締結する場合に、Highクラッチ33と同じタイミングで回転同期制御を終了する場合のクラッチストロークの変化を図5のt1以降において点線で示す。この場合も、ディッシュプレート300による付勢力により、Lowブレーキ32のクラッチストロークが遅れ、図5の破線で示す場合と同様に出力側回転速度NoutにLowブレーキ32を締結した場合の副変速機構30の変速比R1を乗算した値と、入力側回転速度Ninとの差の絶対値が大きい状態で、Lowブレーキ32が締結し、締結ショックが大きくなる。
このような変形例においても、上記実施形態と同様に、Lowブレーキ32の回転同期を判定する第1閾値N1を、Highクラッチ33の回転同期を判定する第2閾値N2よりも大きくする。変形例におけるLowブレーキ32のクラッチストロークを、図5のt1’以降において二点鎖線で示す。変形例においても、上記実施形態と同様に、セーリングストップ制御を解除する際に、Lowブレーキ32を締結する場合であっても、締結ショックの発生を抑制することができる(請求項4に対応する効果)。
なお、ディッシュプレート300に限られず、ピストン301による付勢力に抗するとともに、ドリブンプレート302及びドライブプレート303が係合するように、ドリブンプレート302とドライブプレート303とに付勢力を付与可能な弾性体であればよい。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
上記実施形態では、回転同期したかどうかを判定する方法として、式(1)、式(2)を用いたが、例えば式(3)、式(4)を用いて判定してもよい。
|R1−Nin/Nout|≦N3 (3)
|R2−Nin/Nout|≦N4 (4)
「N3」は、予め設定された第3閾値であり、Lowブレーキ32を締結するにあたり、締結ショックの発生を抑制できると判定可能な値である。「N4」は、予め設定された第4閾値であり、Highクラッチ33を締結するにあたり、締結ショックの発生を抑制できると判定可能な値であり、N3よりも小さい。
回転同期したかどうか判定する方法は、式(1)〜式(4)に限られることはなく、セーリングストップ制御を解除する際に、回転同期を正確に判定し、締結ショックの発生を抑制できればよい。
上記実施形態では、Lowブレーキ32に油圧を供給する油路にのみアキュムレータ35を接続したが、Highクラッチ33に油圧を供給する油路にもアキュムレータを接続してもよい。
このような場合には、各アキュムレータの蓄圧容量に応じてセーリングストップ制御を解除する際に、回転同期制御を終了し、セーリングストップ解除制御を実行し、指示圧を急上昇させるタイミングを変更する。例えば、Lowブレーキ32に油圧を供給する油路に接続したアキュムレータ35の蓄圧容量が、Highクラッチ33に油圧を供給する油路に接続したアキュムレータの蓄圧容量よりも大きい場合には、Lowブレーキ32の締結時間がHighクラッチ33の締結時間よりも長くなる。そのため、Lowブレーキ32の回転同期を判定する第1閾値N1をHighクラッチ33の回転同期を判定する第2閾値N2よりも大きくすることで、セーリングストップ制御を解除する際に、回転同期制御を終了し、Lowブレーキ32の指示圧を急上昇させるタイミングを、Highクラッチ33の指示圧を急上昇させるタイミングよりも早くする。
これにより、Lowブレーキ32に油圧を供給する油路だけでなく、Highクラッチ33に油圧を供給する油路にアキュムレータを接続した場合でも、セーリングストップ制御を解除する際に、締結する摩擦締結要素32、33の種類に関わらず、締結ショックの発生を抑制し、運転者に違和感を与えることを抑制することができる(請求項3に対応する効果)。
また、変形例で示した皿バネ状のディッシュプレートをHighクラッチ33にも設けてもよい。
このような場合には、各ディッシュプレートの弾性率に応じて、セーリングストップ制御を解除する際に、回転同期制御を終了し、セーリングストップ解除制御を実行し、指示圧を急上昇させるタイミングを変更する。例えば、Lowブレーキ32に設けたディッシュプレート300の弾性率が、Highクラッチ33に設けたディッシュプレートの弾性率よりも大きい場合には、Lowブレーキ32の締結時間がHighクラッチ33の締結時間よりも長くなる。そのため、Lowブレーキ32の回転同期を判定する第1閾値N1をHighクラッチ33の回転同期を判定する第2閾値N2よりも大きくすることで、セーリングストップ制御を解除する際に、回転同期制御を終了し、Lowブレーキ32の指示圧を急上昇させるタイミングを、Highクラッチ33の指示圧を急上昇させるタイミングよりも早くする。
これにより、Lowブレーキ32だけでなく、Highクラッチ33にディッシュプレートを設けた場合でも、セーリングストップ制御を解除する際に、締結する摩擦締結要素32、33の種類に関わらず、締結ショックの発生を抑制し、運転者に違和感を与えることを抑制することができる(請求項5に対応する効果)。
なお、Highクラッチ33に油圧を供給する油路にのみアキュムレータを接続してもよく、またHighクラッチ33にのみディッシュプレートを設けてもよい。このような場合には、Highクラッチ33の締結時間が、Lowブレーキ32の締結時間よりも長くなるので、例えば第1閾値N1と第2閾値N2との大小関係を逆にする。さらに、アキュムレータ35とディッシュプレート300とを組み合わせて設けてもよい。
つまり、Lowブレーキ32の締結時間、及びHighクラッチ33の締結時間に基づいて、回転同期を判定する閾値を設定し、締結時間が長い摩擦締結要素の回転同期を判定する閾値を、締結時間が短い摩擦締結要素の回転同期を判定する閾値よりも大きくすればよい。
また、上記実施形態は、ニュートラル走行制御の一例としてセーリングストップ制御について説明した。しかし、ニュートラル走行制御は、セーリングストップ制御の他に、例えばセーリング制御、コーストストップ制御であってもよい。つまり、エンジン停止条件が成立して走行中に駆動源であるエンジン1を停止すると共に変速機4をニュートラル状態にして走行しているニュートラル走行中に、ニュートラル解除条件が成立してエンジン1を始動し、Lowブレーキ32、またはHighクラッチ33を締結する場合に、上記制御を適用することができる。
コーストストップ制御は、コーストストップ成立条件が成立するとコントローラ12によって実行される。コーストストップ成立条件は、例えば以下の(a)〜(d)である。(a)シフトレバー50がDレンジである。(b)車速VSPが第3所定車速V3未満である。(c)アクセルペダル51が踏み込まれていない。(d)ブレーキペダル52が踏み込まれている。第3所定車速V3は、低車速であり、ロックアップクラッチ2cが解放される車速以下の車速である。
コーストストップ成立条件は、(a)〜(d)の条件を全て満たす場合に成立し、(a)〜(d)のいずれかを満たさない場合には成立しない。また、コーストストップ解除条件は、コーストストップ制御中に、例えば(a)〜(d)のいずれかが不成立になることであるが、コーストストップ成立条件とコーストストップ解除条件とを異なる条件としてもよい。
セーリング制御は、セーリング成立条件が成立するとコントローラ12によって実行される。セーリング成立条件は、例えば以下の(a)〜(d)である。(a)シフトレバー50がDレンジである。(b)車速VSPが第3所定車速V3以上である。(c)アクセルペダル51が踏み込まれていない。(d)ブレーキペダル52が踏み込まれていない。
セーリング成立条件は、(a)〜(d)の条件を全て満たす場合に成立し、(a)〜(d)のいずれかを満たさない場合には成立しない。また、セーリング解除条件は、セーリング制御中に、例えば(a)〜(d)のいずれかが不成立になることであるが、セーリング成立条件とセーリング解除条件とを異なる条件としてもよい。