以下に説明する実施例の主要な特徴を列記しておく。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
(特徴1)本実施例の蒸発燃料処理装置では、決定部は、単位時間当たりのエンジンへの吸入気体量又はエンジン回転数と特定期間との関係を表すデータベースを用いて、特定期間を決定してもよい。蒸発燃料量が一時的に変化する過渡現象は、単位時間当たりのエンジンへの吸入気体量又はエンジン回転数に応じて変化する。例えば、単位時間当たりのエンジンへの吸入気体量が多く、あるいはエンジン回転数が高い状況では、パージ経路内の気体の流速が比較的に速いため、過渡現象の発生期間は比較的に短い。一方、単位時間当たりのエンジンへの吸入気体量が少なく、あるいはエンジン回転数が低い状況では、パージ経路内の気体の流速が比較的に遅いため、過渡現象の発生期間は比較的に長い。即ち、特定期間は、単位時間当たりのエンジンへの吸入気体量又はエンジン回転数に基づいて決定される。この構成によれば、実際の過渡現象の長さに応じて特定期間を決定することができる。
(特徴2)本実施例の蒸発燃料処理装置では、切替装置は、キャニスタに貯留されている蒸発燃料を、第1パージ経路と第2パージ経路の少なくとも一方に供給するパージポンプと、算出済みの蒸発燃料の濃度に基づいて、パージポンプを制御する制御部と、をさらに有していてもよい。この構成よれば、蒸発燃料を適切に吸気管に供給することができる。
(特徴3)本実施例の蒸発燃料処理装置では、制御部は、パージ気体の目標流量にさらに基づいて、パージポンプを制御してもよい。この構成によれば、目標パージ流量に従って、蒸発燃料を吸気管に供給することができる。
(第1実施例)
図面を参照して、蒸発燃料処理装置10を説明する。図1に示すように、蒸発燃料処理装置10は、自動車に搭載され、燃料タンクFTに貯留される燃料をエンジンENに供給する燃料供給システム2に配置される。
燃料供給システム2は、燃料タンクFT内に収容される燃料ポンプ(図示省略)から圧送された燃料をインジェクタIJに供給する。インジェクタIJは、後述するECU(Engine Control Unitの略)100によって開度がコントロールされる電磁弁を有する。インジェクタIJは、燃料をエンジンENに噴射する。
エンジンENには、吸気管IPと排気管EPが接続されている。吸気管IPは、エンジンENの負圧あるいは過給機CHの動作によって、エンジンENに空気を供給するための配管である。吸気管IPには、スロットルバルブTVが配置されている。スロットルバルブTVは、吸気管IPの開度を制御することによって、エンジンENに流入する空気量を調整する。スロットルバルブTVは、ECU100によって制御される。吸気管IPのスロットルバルブTVよりも上流側には、過給機CHが配置されている。過給機CHは、いわゆるターボチャージャーであり、エンジンENから排気管EPに排気された気体によってタービンを回転させ、それにより、吸気管IP内の空気を加圧してエンジンENに供給する。過給機CHは、ECU100によって、エンジンENの回転数Nが予め決められた回転数(例えば2000回転)を超えると作動するように制御される。
吸気管IPの過給機CHよりも上流側には、エアクリーナACが配置されている。エアクリーナACは、吸気管IPに流入する空気から異物を除去するフィルタを有する。吸気管IPでは、スロットルバルブTVが開弁すると、エアクリーナACを通過してエンジンENに向けて吸気される。エンジンENは、燃料と空気とを内部で燃焼し、燃焼後に排気管EPに排気する。
過給機CHが停止している状況では、吸気管IP内にエンジンENの駆動により負圧が発生している。なお、自動車の停止時にエンジンENのアイドリングを停止したり、ハイブリッド車のようにエンジンENを停止してモータで走行する場合、言い換えると、環境対策のためにエンジンENの駆動を制御する場合、エンジンENの駆動による吸気管IP内の負圧が発生しないか、あるいは小さい状況が生じる。一方、過給機CHが作動している状況では、過給機CHよりも上流側では大気圧である一方、過給機CHよりも下流側で正圧が発生している。
蒸発燃料処理装置10は、燃料タンクFT内の蒸発燃料を、吸気管IPを介してエンジンENに供給する。蒸発燃料処理装置10は、キャニスタ14と、パージポンプ12と、パージ供給管32と、パージ制御弁34,36と、ECU100内の制御部102と、を備える。キャニスタ14は、燃料タンクFT内で発生した蒸発燃料を吸着する。キャニスタ14は、活性炭14dと、活性炭14dを収容するケース14eと、を備える。ケース14eは、タンクポート14aと、パージポート14bと、大気ポート14cとを有する。タンクポート14aは、燃料タンクFTの上端に接続されている。これにより、燃料タンクFTの蒸発燃料がキャニスタ14に流入される。活性炭14dは、燃料タンクFTからケース14eに流入する気体から蒸発燃料を吸着する。これにより、蒸発燃料が大気に放出されることを防止することができる。
大気ポート14cは、パージポンプ12を介して大気に連通している。パージポンプ12は、いわゆる渦流ポンプ(カスケードポンプ、ウエスコポンプとも呼ぶ)である。パージポンプ12は、制御部102によって制御される。パージポンプ12は、キャニスタ14内に大気を送出することによって、活性炭14dに吸着されている蒸発燃料をパージポート14bからパージ供給管32に送出する。
パージポート14bには、パージ供給管32が連通している。パージ供給管32は、中間位置で分岐しており、一方は、過給機CHの上流側の吸気管IPに接続され、他方は、過給機CHの下流側でスロットルバルブTVとエンジンENとの間の吸気管IPに接続されている。パージ供給管32は、内部に第1〜第3パージ経路24,26,22を有する。キャニスタ14内の蒸発燃料を含む気体(以下では「パージ気体」と呼ぶ)は、キャニスタ14からパージポート14bを介してパージ供給管32内の第3パージ経路22に流入する。第3パージ経路22内のパージ気体は、分岐点を経て、第1パージ経路24及び第2パージ経路26のいずれか一方に選択的に流入する。第1パージ経路24に流入するパージ気体は、吸気管IPのスロットルバルブTVとエンジンENとの間に供給される。一方、第2パージ経路26に流入するパージ気体は、過給機CHの上流側の吸気管IPに供給される。なお、パージ経路24,26のそれぞれには、逆止弁35,37が配置されており、吸気管IP内の気体がパージ経路24,26を逆流することが防止されている。
第1パージ経路24上には、第1パージ制御弁34が配置されている。第1パージ制御弁34が閉弁状態である場合には、第1パージ経路24内のパージ気体は、第1パージ制御弁34によって停止され、吸気管IP内に流れない。一方、第1パージ制御弁34が開弁されると、第1パージ経路24内のパージ気体が吸気管IP内に流入する。第2パージ経路26上には、第2パージ制御弁36が配置されている。第2パージ制御弁36が閉弁状態である場合には、第2パージ経路26内のパージ気体は、第2パージ制御弁36によって停止され、吸気管IP内に流れない。一方、第2パージ制御弁36が開弁されると、第2パージ経路26内のパージ気体が吸気管IP内に流入する。第1パージ制御弁34と第2パージ制御弁36は、ともに電子制御弁であり、ECU100の制御部102によって制御される。
制御部102は、ECU100の一部であり、ECU100の他の部分(例えばエンジンENを制御する部分)と一体的に配置されている。なお、制御部102は、ECU100の他の部分と別に配置されていてもよい。制御部102は、CPUとROM,RAM等のメモリとを含む。制御部102は、メモリに予め格納されているプログラムに応じて、蒸発燃料処理装置10を制御する。具体的には、制御部102は、パージポンプ12に信号を出力し、パージポンプ12の駆動を制御する。また、制御部102は、パージ制御弁34,36に信号を出力しデューティ制御を実行する。即ち、制御部102は、パージ制御弁34,36に出力する信号のデューティ比を調整することによって、パージ制御弁34,36の開弁時間を調整する。
ECU100は、排気管EP内に配置される空燃比センサ50に接続されている。空燃比センサ50は、排気管EP内の空燃比を検出する。空燃比センサ50は、例えばO2センサあるいはLAF(Linear Air-Fuel ratio)センサであるが、センサの種類は限定されない。本実施例では、空燃比センサ50は、少なくとも排気管EP内の空燃比がリーンであるかリッチであるかを検出可能であればよい。ECU100は、空燃比センサ50から検出結果を示す信号を受信する。
また、ECU100は、吸気管IP内のスロットルバルブTVと過給機CHの間に配置されるエアフローメータ52に接続されている。エアフローメータ52は、いわゆるホットワイヤ式のエアロフローメータであるが、他の構成であってもよい。ECU100は、エアフローメータ52から検出結果を示す信号を受信する。
次いで、キャニスタ14から流出するパージ気体が通過するパージ経路について説明する。エンジンENの駆動中には、キャニスタ14からエンジンENにパージ気体が供給される場合がある。パージ気体がエンジンENに供給される際、第1パージ経路24を通過するか第2パージ経路26を通過するかは、過給機CHが作動しているか否かによって変化する。具体的には、過給機CHが作動していない状況では、制御部102は、第1パージ制御弁34を開弁するとともに、第2パージ制御弁36を閉弁する。これにより、パージ気体は、キャニスタ14から第3パージ経路22及び第1パージ経路24を通過して、過給機CHよりも下流側の吸気管IPに供給される。このとき、制御部102は、吸気管IPの負圧の状況(例えばエンジンENの回転数)に応じて、パージポンプ12を駆動又は停止の制御を実行する。
過給機CHが作動していない状況から、過給機CHが動作している状況に移行する場合、制御部102は、第1パージ制御弁34を開弁状態から閉弁状態に切り替えるとともに、同じタイミングで、第2パージ制御弁36を閉弁状態から開弁状態に切り替える。これにより、パージ気体は、キャニスタ14から第3パージ経路22及び第2パージ経路26を通過して、過給機CHの上流側の吸気管IPに供給される。このとき、パージ気体が大気圧状態の吸気管IPに送出されるため、制御部102は、パージポンプ12を駆動して、パージ気体を送出する。これにより、過給機CHが動作している状況において、正圧である過給機CHの下流側の吸気管IPにパージ気体を供給せずに済む。
一方、過給機CHが作動している状況から、過給機CHが動作していない状況に移行する場合、制御部102は、パージ制御弁34を閉弁状態から開弁状態に切り替えるとともに、同じタイミングで、パージ制御弁36を開弁状態から閉弁状態に切り替える。これにより、パージ気体は、キャニスタ14から第3パージ経路22及び第1パージ経路24を通過して、過給機CHよりも下流側の吸気管IPに供給される。
第2パージ経路26を通過してエンジンENに供給される際のパージ気体が通過する経路の長さは、第1パージ経路24を通過してエンジンENに供給される際のパージ気体が通過する経路の長さよりも長い。より具体的には、第2パージ経路26上の第2パージ制御弁36からエンジンENまでのパージ気体が通過する経路の長さは、第1パージ経路24上の第1パージ制御弁34からエンジンENまでのパージ気体が通過する経路の長さよりも長い。
図2は、過給機CHが作動していない状況から、過給機CHが動作している状況に移行する場合のパージ制御弁34,36の開閉タイミング(図2(a)参照)と、パージ制御弁34,36の切替による空燃比の影響(図2(b)、(c)参照)と、パージ気体による空燃比への影響(図2(d)参照)と、のそれぞれのタイムチャートを示す。
過給機CHが作動していない状況から過給機CHが動作している状況に移行すると、図2(a)に示すように、時刻T1において、第1パージ制御弁34が開弁状態から閉弁状態に切り替えられるとともに、第2パージ制御弁36が閉弁状態から開弁状態に切り替えられる。第1パージ制御弁34が閉弁された時刻T1では、第1パージ制御弁34が配置されている位置から吸気管IPに連結される位置までの第1パージ経路24内にパージ気体が残存している。このため、図2(b)に示すように、時刻T1から期間P1では、第1パージ経路24側からパージ気体が供給される。この状況は、エンジンEN内の空燃比がリッチ側となるように影響を与える。期間P1経過後の期間P3では、第1パージ経路24側から供給されるパージ気体が減少し、時刻T3において、第1パージ経路24側から供給されるパージ気体が無くなる。これにより、時刻T3では、パージ経路24側からパージ気体が供給されず、エンジンEN内の空燃比がリーン側(即ち空気中の燃料が比較的に少ない)となるように影響を与える。
一方、第2パージ経路26では、時刻T1において、パージ制御弁36が閉弁状態から開弁状態に切り替えられると、パージ制御弁36の上流側に位置するパージ気体が、エンジンENに向けて流れ出す。このため、時刻T1では、第2パージ経路26内のパージ気体はエンジンENに到達しない。また、第2パージ経路26が第1パージ経路24よりも長いため、時刻T3でも、第2パージ経路26内のパージ気体がエンジンENに到達しない。このため、図2(c)に示すように、時刻T3では、第2パージ経路26側からパージ気体が供給されず、エンジンEN内の空燃比がリーン側(即ち空気中の燃料が比較的に少ない)となるように影響を与える。この結果、図2(d)に示すように、時刻T3では、エンジンENには、第1パージ経路24からも第2パージ経路26からもパージ気体が供給されておらず、空燃比がリーン側に振れる。そして、時刻T1から期間P2が経過した時刻T4において、第2パージ経路26内のパージ気体がエンジンENに到達し始める。期間P2は、期間P1+期間P3よりも長い。これにより、図2(c)に示すように、第2パージ経路26側からパージ気体が供給され、エンジンEN内の空燃比がリッチ側となるように影響を与える。時刻T4から期間P4が経過した時刻T5以後は、第2パージ経路26内のパージ気体に含まれる蒸発燃料量が安定する。
これにより、図2(d)に示されるように、第1パージ経路24と第2パージ経路26との差により、時刻T2からT5までの間、一時的に蒸発燃料濃度がリッチからリーン側に変化する過渡現象が生じる。
図3は、過給機CHが作動している状況から、過給機CHが動作していない状況に移行する場合のパージ制御弁34,36の開閉タイミング(図3(a)参照)と、パージ制御弁34,36の切替による空燃比の影響(図3(b)、(c)参照)と、空燃比センサ31の検出結果から算出される蒸発燃料濃度(図3(d)参照)と、のそれぞれのタイムチャートを示す。
過給機CHが作動している状況から過給機CHが動作していない状況に移行すると、図3(a)に示されるように、時刻T1において、第1パージ制御弁34が閉弁状態から開弁状態に切り替えられるとともに、第2パージ制御弁36が開弁状態から閉弁状態に切り替えられる。この結果、第1パージ経路24と第2パージ経路26との長さの差によって、第2パージ制御弁36の閉弁後に第2パージ経路26内の第2パージ制御弁36よりも下流側に位置するパージ気体がエンジンENに供給されている間に、第1パージ経路24内のパージ気体もエンジンENに供給される。これにより、図3(d)に示されるように、時刻T2からT5までの間、一時的に蒸発燃料濃度がリッチ側に大きく変化する過渡現象が生じる。
期間P1,P2,P3,P4は、エンジンENが吸入する単位時間当たりの吸入空気量によって変化する。単位時間当たりの吸入空気量が増加すると、期間P1,P2,P3,P4は減少する。制御部102のメモリには、図4に示す単位時間当たりの吸入空気量と期間P1,P2との関係を示すグラフが予め格納されている。図4のグラフは、予め実験によって特定され、制御部102に格納される。なお、図4のグラフは、単位時間当たりのエンジン回転数Nと期間P1,P2との関係を示すグラフであってもよい。制御部102は、さらに、予め実験により特定された期間P4を格納する。なお、期間P4は、厳密には単位時間当たりの吸入空気量によって変化するが、変化量が小さいため、一定値として格納されている。
制御部102は、インジェクタIJからエンジンENに噴射される単位時間当たりの燃料噴射時間TAUを、TAU=TP×(1+K+(FAF−1)+FPG)を用いて算出する。基本燃料噴射時間TPは、空燃比を目標空燃比(例えば理想空燃比)に維持するために、実験によって予め特定された噴射時間である。基本燃料噴射時間TPは、機関負荷Q/N(Qは吸入空理量であり、NはエンジンENの回転数である)及び回転数Nの関数として、予め制御部102のメモリに格納されている。補正係数Kは、暖機増量係数及び加速増量係数を加味して、燃料噴射に増量補正を行う必要がある状況において、燃料噴射時間TAUを増加させる。従って、増量補正が不要である場合には、補正係数K=0として取り扱われる。補正係数Kは、自動車の各センサから取得される検出結果との相関関係を示すデータベースが予め制御部102のメモリに格納されている。これらの関数及びデータベースは、予め実験によって特定されている。
パージ空燃比補正係数FPGは、第1パージ経路24又は第2パージ経路26からパージ気体が供給されている状況において、燃料噴射量を補正するための係数である。このため、パージ気体が供給されていない状況では、パージ空燃比補正係数FPG=0である。フィードバック補正係数FAFは、空燃比センサ50の検出結果に基づいて、空燃比を目標空燃比に制御するための係数である。
図6を参照して、制御部102が実行するフィードバック補正係数FAFの算出処理を説明する。算出処理は、イグニションスイッチがOFFからONに移行されると実行されるECU100のメインルーチン内で実行される。制御部102は、まず、S10において、空燃比センサ50の検出結果がリッチであるか否かを判断する。リッチであると判断される場合(S10でYES)、S12において、制御部102は、前回の算出処理のS10においてリーンであると判断されたか否かを判断する。即ち、S12では、前回の算出処理と今回の算出処理で、リーンからリッチに変化したかを判断する。リーンからリッチに変化したと判断される場合(S12でYES)、S14において、制御部102は、現在のフィードバック補正係数FAF(即ち、前回の算出処理においてリーンであった場合に算出されたFAF)を、リーン側係数LXとして、メモリに格納する。次いで、S16において、制御部102は、現在のフィードバック補正係数FAFから、予め決められたスキップ値Sを減算して新たなフィードバック補正係数FAFを算出する。現在のフィードバック補正係数FAFは、前回の算出処理においてリーンであった場合に算出された値であり、1.0よりも大きい。このため、リッチであると判断される状況(S10でYES)では、フィードバック補正係数FAFを小さくすることによって、燃料噴射量を減少させる。S16が終了すると、S30に進む。
一方で、S12において、前回の算出処理のS10においてリッチであると判断された場合(S12でNO)、即ち、リッチである状況が継続している場合、制御部102は、S14、S16、S30をスキップして、S18において、現在のフィードバック補正係数FAFから積分値Bを減算する。積分値Bは、スキップ値Sよりも十分に小さい。即ち、リッチである状況が継続している場合には、徐々にフィードバック補正係数FAFを小さくすることによって、燃料噴射量を減少させる。S18が終了すると、算出処理が終了される。なお、スキップ値S及び積分値Bは、実験により予め特定され、制御部102のメモリに格納されている。
S10において、リーンであると判断される場合(S10でNO)、S22において、制御部102は、前回の算出処理のS10においてリッチであると判断されたか否かを判断する。即ち、S22では、前回の算出処理と今回の算出処理では、リッチからリーンに変化したかを判断する。リッチからリーンに変化したと判断される場合(S22でYES)、S24において、制御部102は、現在のフィードバック補正係数FAF(即ち、前回の算出処理においてリーンであった場合に算出されたFAF)を、リーン側係数RXとして、メモリに格納する。次いで、S26において、制御部102は、現在のフィードバック補正係数FAFから、予め決められたスキップ値Sを加算する。現在のフィードバック補正係数FAFは、前回の算出処理においてリッチであった場合に算出された値であり、1.0よりも小さい。このため、リーンであると判断される状況(S10でNO)では、フィードバック補正係数FAFを大きくすることによって、燃料噴射量を増加させる。S26が終了すると、S30に進む。
一方で、S22において、前回の算出処理のS10においてリーンであると判断された場合(S22でNO)、即ち、リーンである状況が継続している場合、制御部102は、S24、S26、S30をスキップして、S28において、現在のフィードバック補正係数FAFから積分値Bが加算される。即ち、リーンである状況が継続している場合には、徐々にフィードバック補正係数FAFを大きくすることによって、燃料噴射量を増加させる。S28が終了すると、算出処理が終了される。
S30では、制御部102は、フィードバック補正係数FAFの平均値である平均FAF=(LX+RX)/2を計算して、平均FAFを算出する。平均FAFは、後述するパージ制御において用いられる値であり、値LXと値RXのいずれかが変更されると算出される。パージ気体が供給されていない状況では、フィードバック補正係数FAFは、1.0を中心に変動する。フィードバック補正係数FAFは、リッチ又はリーンで維持されている状況では、比較的に小さい値Kを用いてゆっくりと変動される。そのため、パージ気体が供給されていない状況から供給される状況に移行して、蒸発燃料がエンジンENに供給されると、フィードバック補正係数FAFによって燃料噴射時間TAUを補正することは難しい。そこで、パージ気体が供給される状況では、パージA/F補正係数FPGを用いて、燃料噴射時間TAUを補正する。
図7、図8を参照して、制御部102が実行するパージ制御処理を説明する。パージ制御処理は、パージ制御弁34,36の開閉及びそのデューティ比を決定する。パージ制御処理は、自動車のイグニションスイッチがOFFからONに切り替えられると、1ms毎に実行される。なお、イグニションスイッチがOFFからONに切り替えられると、パージ制御処理開始前に、パージ制御処理で用いられるカウント値T、パージカウント値PGC、デューティ比PGDUTY、実際のパージ率PGR及びパージベーパ濃度係数FPGAは、0にリセットされ、パージ制御弁34,36が閉弁状態に維持される。
パージ制御処理では、まず、S52において、制御部102は、メモリに格納されているカウント値Tに1を加算する。次いで、S54において、制御部102は、カウント値Tが100であるか否か、即ち、カウント値Tがリセットされてから100msが経過したか否かを判断する。カウント値Tが100未満である場合(S54でNO)、S56に進む。一方、カウント値T=100である場合(S54でYES)、S72において、制御部102はカウント値Tを0にリセットする。即ち、S72以降の処理は、100ms毎に実行される。次いで、S74において、制御部102は、パージカウント値PGCが1以上であるか否かを判断する。パージカウント値PGCは、蒸発燃料の濃度を算出すべきタイミングを特定するために用いられるカウント値である。
イグニションスイッチがOFFからONに切り替えられた後、最初のS74では、PGC=0である。この場合、制御部102は、パージカウント値PGCが1以上でない(S74でNO)と判断し、S76に進む。なお、パージ制御処理において、一旦パージカウント値PGCが1以上に変更されると、次に、イグニションスイッチがOFFからONに切り替えられるまで、PGCは1以上であり、S74では、パージカウント値PGCが1以上であると判断され、S82に進む。
S76では、制御部102は、パージ制御を開始すべき条件が成立しているか否かを判断する。エンジンENの冷却水温度と、フィードバック補正係数FAFを利用してフィードバック制御(即ち、燃料噴射時間TAUを算出し、算出結果に従ってインジェクタIJに燃料を噴射させる制御)が実行されており、かつ、フィードバック補正係数FAF算出処理(図6参照)においてスキップ値Sを加算する処理(S16)及び減算する処理(S36)の合計回数が所定の回数(例えば5回)以上実行された場合に、制御部102は、パージ制御を開始すべき条件が成立していると判断して(S76でYES)、S78に進む。一方、上記の3つの条件のいずれか1つでも該当していない場合には、パージ制御を開始すべき条件が成立していないと判断して(S76でNO)、S78及びS80をスキップして、パージ制御処理を終了する。
S78では、制御部102は、パージカウント値PGCを1に増加する。次いで、S80では、制御部102は、フィードバック補正係数FAF算出処理(図6参照)で算出された平均FAFを、基準補正係数Zに設定してメモリに格納させる。基準補正係数Zは、パージ制御を開始すべき条件が成立した時の平均FAFであり、設定のタイミングによって変動する値である。S80が実行されると、パージ制御処理は終了する。
一方、S74において、パージカウント値PGCが1以上である場合(S74でYES)、S82において、制御部102は、パージ停止フラグがセットされているか否かを判断する。パージ停止フラグは、自動車が減速している等、インジェクタIJから燃料が噴射されていない場合に、制御部102によってセットされるフラグである。後述するが、パージ停止フラグがセットされることによって、パージ制御弁34,36が閉弁され(S62参照)、パージ気体の供給が停止される。これにより、エンジンENにおいて燃料が使用されていない状況において、蒸発燃料がエンジンENに供給される事態を回避することができる。
パージ停止フラグがセットされていると判断される場合(S82でYES)、S58に進む。一方、パージ停止フラグがセットされていないと判断される場合(S82でNO)、S84において、制御部102は、パージカウント値PGCに、1を加算する。次いで、S86では、制御部102は、パージカウント値PGCが6以上であるか否かを判断する。パージカウント値PGCが6未満であると判断される場合(S86でNO)、S60に進む。一方、パージカウント値PGCが6以上であると判断される場合(S86でYES)、S88に進む。パージカウント値PGCは、パージ制御すべき条件が成立した後(S76でYES)、100ms毎に1ずつ増加される。このため、パージカウント値PGCが6以上である場合とは、パージ制御すべき条件が成立してから少なくとも500msが経過している。
S88では、制御部102は、パージ制御弁34,36を切り替えてから特定期間中であるか否かを判断する。具体的には、制御部102は、過給機CHの作動と非作動とが切り替えられ、パージ制御弁34,36の一方から他方に開弁状態が切り替わったタイミング(即ち図2、図3の時刻T1)から過渡現象が終了するタイミング(即ち図2、図3の時刻T5)が経過したか否かを判断する。制御部102は、パージ制御弁34,36の一方から他方に開弁状態が切り替わったタイミングから期間P1が経過した後に、過渡期タイマをスタートさせ、特定期間が経過すると過渡期タイマを停止してリセットする。S88では、制御部102は、過渡期タイマが作動していない場合に、特定期間中でないと判断し(S88でNO)、S90に進む。一方、制御部102は、過渡期タイマが作動している場合に、特定期間中であると判断し(S88でYES)、S94に進む。
上述したように、期間P1、P2は、エンジンENの単位時間当たりの吸入空気量に応じて変化する。制御部102は、エアフローメータ52の検出結果から得られるエンジンENの単位時間当たりの吸入空気量に応じて、メモリに格納されている図4に示されるグラフを用いて、期間P1及びP2を特定する。また、制御部102は、メモリに格納されている期間P4と、特定済みの期間P1,P2を用いて、特定期間P2−P1+P4を算出する。なお、特定期間の特定方法は、これに限られず、特定期間は、パージ制御弁34,36が切り替わったタイミングから開始されていてもよく、パージ制御弁34,36が切り替わったタイミングから期間P2+P4としてもよい。言い換えると、特定期間は、S88において、過渡現象が発生している間に、S88でNOと判断されないように特定されていればよい。
S94では、制御部102は、パージカウント値PGC=156であるか否かを判断する。パージカウント値PGC=156である場合(S94でYES)にS96に進み、パージカウント値PGC=156でない場合(S94でNO)にS112に進む。一方、S90では、S94と同様に、パージカウント値PGC=156であるか否かを判断する。パージカウント値PGC=156であると判断される場合(S90でYES)にS92に進み、パージカウント値PGC=156でないと判断される場合(S90でNO)にS100に進む。イグニションスイッチがONにされてから最初に実行されるS90,S94では、いずれも、パージカウント値PGC=6であるため、NOと判断される。
S100では、制御部102は、フィードバック補正係数FAFが基準補正係数Zに所定の値Xを加算した値Z+X(以下では「上限値Z+X」と呼ぶ)以上であるか否かを判断する。フィードバック補正係数FAFは、基準補正係数Zから大きく外れないように制御されることが好ましい。フィードバック補正係数FAFが上限値Z+X以上であると判断される場合(S100でYES)、S102において、制御部102は、空燃比がリーンであるか否かを判断する。S102の処理は、図6のS10と同様に、空燃比センサ50の検出結果を用いて判断される。空燃比がリーンでないと判断される場合(S102でNO)、S112に進む。一方、空燃比がリーンであると判断される場合(S102でYES)、S104において、パージベーパ濃度係数FPGAから一定値Yを減算する。この構成では、フィードバック補正係数FAFが上限値Z+X以上であり、かつ、空燃比がリーンである場合に、パージベーパ濃度係数FPGAが一定値Yずつ減少される。
フィードバック補正係数FAFが上限値Z+X未満であると判断される場合(S100でNO)、S106において、制御部102は、フィードバック補正係数FAFが基準補正係数Zに所定値Xを減算した値Z−X(以下では「下限値Z−X」と呼ぶ)以下であるか否かを判断する。フィードバック補正係数FAFが下限値Z−Xより大きいであると判断される場合(S106でNO)、S112に進む。一方、フィードバック補正係数FAFが下限値Z−X以下であると判断される場合(S106でYES)、S108において、制御部102は、空燃比がリッチであるか否かを判断する。S108の処理は、図6のS10と同様に、空燃比センサ50の検出結果を用いて判断される。空燃比がリッチでないと判断される場合(S108でNO)、S112に進む。一方、空燃比がリッチであると判断される場合(S108でYES)、S110において、パージベーパ濃度係数FPGAから一定値Yを加算する。この構成では、フィードバック補正係数FAFが下限値RZ‐X以上であり、かつ、空燃比がリッチである場合に、パージベーパ濃度係数FPGAが一定値Yずつ増加される。
一方、S90において、パージカウント値PGC=156である判断される場合(S90でYES)、S92では、制御部102は、パージベーパ濃度係数FPGAを算出する。具体的には、制御部102は、FGPA=現在のFGPA−(現在の平均FAF−Z)/(PGR×2)を計算することによって算出される。この結果、現在の平均FAFが基準補正係数Zよりも小さいと、パージベーパ濃度FPGAが増加され、現在の平均FAFが基準補正係数Zよりも大きいと、パージベーパ濃度FPGAが減少される。S96では、パージカウント値PGCを6に変更する。これにより、15秒毎に、S92において、パージベーパ濃度FPGAが修正される。なお、S88において、特定期間内であると判断される状況、即ち、過渡現象中である場合、S92はスキップされ、パージベーパ濃度FPGAが修正されずに、S96に進む。次いで、S98では、制御部102は、パージベーパ濃度FPGAが算出されたことを示す算出フラグをセットして、S112に進む。
S112では、制御部102は、最大パージ率MAXPGを算出する。最大パージ率MAXPGは、パージ制御弁34,36のいずれか一方を全開にしたときのパージ量と吸入空気量との比を表す。具体的には、制御部102には、図5に示す最大パージ率MAXPGを特定するためのマップが格納されている。このマップは、機関負荷Q/Nと回転数Nと最大パージ率MAXPGの関係が示されている。マップの横軸が機関負荷Q/Nを示し、縦軸が最大パージ率MAXPGを示す。このマップは、予め実験で特定されており、複数の回転数Nに応じた機関負荷Q/Nと最大パージ率MAXPGの関係が示されている。なお、図5では、代表例として、2種類の回転数Nの場合の機関負荷Q/Nと最大パージ率MAXPGの関係が示されているが、マップには、3種類以上の回転数Nの場合の機関負荷Q/Nと最大パージ率MAXPGの関係が示されている。また、回転数Nに応じて過給機CHが作動するか否かが決定されるため、過給機CHが作動する回転数よりも低い回転数Nでは、第1パージ制御弁34が開弁し、第1パージ経路24を通過する場合の最大パージ率MAXPGである。一方、過給機CHが作動するよりも高い回転数Nでは、第2パージ制御弁36が開弁し、第2パージ経路26を通過する場合の最大パージ率MAXPGである。制御部102は、図5のマップとともに、制御部102には、回転数Nに対応するパージポンプ12の回転数が予め格納されている。
制御部102は、図5のマップを利用して、エンジンENの回転数Nと機関負荷Q/Nとから最大パージ率MAXPGを算出する。次いで、S114では、制御部102は、目標パージ率TGTPGを算出する。具体的には、制御部102は、パージ率PGRに予め定められた一定のパージ率変化率PGAを加算することによって、目標パージ率TGTPGを算出する。この構成では、目標パージ率TGTPGは、100ms毎に更新される。
次に、S116では、制御部102は、S124で算出された目標パージ率TGTPGが0.04以上であるか否かを判断する。目標パージ率TGTPGが0.04以上である場合(S116でYES)、S118において、制御部102は、目標パージ率TGTPG=0.04に修正し、S120に進む。一方、目標パージ率TGTPGが0.04未満である場合(S116でNO)、S118をスキップして、S120に進む。この構成によれば、目標パージ率TGTPGが大きくなり、供給される蒸発燃料が多くなりすぎることを防止することができる。これにより、蒸発燃料が多くなりすぎて、噴射燃料量によって空燃比を制御しづらくなり、空燃比を理論空燃比に維持することが難しくなる事態を回避することができる。
続いて、S120では、制御部102は、パージ制御弁34,36のうち、現在開弁されているパージ制御弁に供給すべき駆動信号のデューティ比PGDUTYを算出する。具体的には、制御部102は、S114又はS118で特定された目標パージ率TGTPGを、S112で算出された最大パージ率MAXPGで除算し、100を乗算することによって、デューティ比を算出する。次いで、S122では、制御部102は、算出されたデューティ比が100を超えているか否かを判断する。デューティ比が100を超えている場合(S122でYES)、S124において、デューティ比を100に設定して、S126に進む。一方、デューティ比が100以下である場合(S122でNO)、S124をスキップして、S126に進む。
S126では、制御部102は、パージ制御弁を閉弁するときのタイマカウント値Taとして、S120で算出又はS124で設定されたデューティ比に設定する。次いで、S128において、制御部102は、実際のパージ率PGRを算出する。具体的には、制御部102は、S112で算出された最大パージ率MAXPGにS120で算出又はS124で設定されたデューティ比を乗算して、100で除算することによってパージ率PGRを算出する。S120の算出方法とS128の算出方法とを比較すると明らかなように、S120で算出されるデューティ比PGDUTYが100以下である場合、最大パージ率MAXPGと実際のパージ率とは同一である。一方、S120で算出されるデューティ比PGDUTYが100より大きい場合、実際のパージ率PGRは、最大パージ率MAXPGよりも小さくなる。次いで、S130では、制御部102は、S130で算出又はS134で設定されたデューティ比が、1以上であるか否かを判断する。デューティ比が1未満である場合(S130でNO)、S134において、制御部102は、パージ制御弁34,36をともに閉弁状態にして、パージ制御処理を終了する。一方、デューティ比が1以上である場合(S130でYES)、S132において、制御部102は、パージ制御弁34,36の一方を開弁状態にし、エンジンENの回転数Nに対応する回転数になるようにパージポンプ12を制御して、パージ制御処理を終了する。
S54において、T=100でない場合(S54でNO)、S56において、制御部102は、パージ停止フラグがセットされているか否かを判断する。パージ停止フラグは、自動車が減速している等、インジェクタIJから燃料が噴射されていない場合に、制御部102によってセットされるフラグである。
パージ停止フラグがセットされていると判断される場合(S56でYES)、S58では、制御部102は、パージカウント値PGCを、1にセットする。次いで、S60において、制御部102は、パージ率PGRを0にセットする。これにより、パージ気体の供給が停止されていると判断することができる。次いで、S62では、制御部102は、パージ制御弁34,36の両方を閉弁状態に維持する。なお、制御部102は、パージ制御弁34,36の両方が閉弁状態である場合には、S62にスキップして、処理を終了する。
一方、S56において、パージ停止フラグがセットされていないと判断される場合(S56でNO)、S64において、制御部102は、パージカウント値PGCが6以上であるか否かを判断する。パージカウント値PGCが6未満である場合(S64でNO)、S60に進む。一方、パージカウント値PGCが6以上である場合(S64でYES)、S66において、制御部102は、タイマカウント値TがS136で算出されたタイマカウント値Ta以上であるか否かを判断する。タイマカウント値Tがタイマカウント値Ta未満であると判断される場合(S66でNO)、パージ処理を終了する。一方、タイマカウント値Tがタイマカウント値Ta以上であると判断される場合(S66でYES)、S72に進んで、制御部102は、S132又はS134で開弁されたパージ制御弁34,36を閉弁状態にし、パージポンプ12を停止して、パージ制御処理を終了する。
パージ制御処理では、パージカウント値PGCが6よりも大きくなる(S64でYES)と、即ちパージ制御処理が開始されてから500msが経過すると、パージ制御弁34,36のいずれかが開弁してパージ気体の供給が開始される。パージ気体の供給中のパージ制御弁34,36の開弁期間はデューティ比PGDUTYに一致する。次いでパージカウント値PGCが増大するにつれて目標パージ率TGTPGが大きくなり(S114)、その結果デューティ比PGDUTYが増大して、蒸発燃料量が徐々に増加する。この結果、吸入空気量Qが増大した場合、デューティ比PGDUTYが増加し、実際のパージ率PGRは一定率で増大される。
次いで、図9を参照して、制御部102が実行する噴射時間算出処理を説明する。噴射時間算出処理は、ECU100がクランク角センサから取得される検出結果を用いて、クランク角度が所定の角度になる毎に実行される。
本処理では、まず、S200において、制御部102は、算出フラグがセットされているか否かを判断する。算出フラグは、パージ制御処理のS98においてセットされる。算出フラグがセットされていない場合(S200でNO)、S202〜S206の処理をスキップして、S208に進む。一方、算出フラグがセットされている場合(S200でYES)、S202において、制御部102は、新たなフィードバック補正係数FAFを算出する。具体的には、制御部102は、現在のフィードバック補正係数FAFから、現在の平均FAFとパージ制御処理開始時の基準補正係数Zの差の1/2を減算して、新たなフィードバック補正係数FAFを算出する。この構成では、平均FAFがパージ制御処理開始時の平均FAFである基準補正係数Zよりも小さい場合、フィードバック補正係数FAFは増加し、平均FAFが基準補正係数Zよりも大きい場合、フィードバック補正係数FAFは減少する。
次いで、S204では、制御部102は、S202の処理でフィードバック補正係数FAFが更新されたことに伴って、新たな平均FAFを算出する。具体的には、制御部102は、現在の平均FAFから、現在の平均FAFと基準補正係数Zの差の1/2を減算して、新たな平均FAFを算出する。次いで、S206では、制御部102は、セットされた算出フラグをリセットして、S208に進む。S202〜S206の処理は、算出フラグがセットされる毎、即ち、15秒毎に実行される。即ち、FAFは、15秒毎に更新される。
S208では、制御部102は、パージA/F補正係数FPGを算出する。具体的には、パージ制御処理のS102で算出されたパージベーパ濃度係数FPGAにS128で算出されたパージ率PGRを乗算した結果に−1を乗算することによって算出される。次いで、S210では、制御部102は、機関負荷Q/N及び回転数Nと、メモリに予め格納されている関数と、を利用して、基本燃料噴射時間TPを算出する。次いで、S212では、制御部102は、自動車の各センサから取得される検出結果による自動車の駆動状態と、メモリに予め格納されているデータベースとを用いて、補正係数Kを算出する。次いで、S214では、制御部102は、TAU=TP×(1+K+(FAF−1)+FPG)を用いて燃料噴射時間TAUを算出して、噴射時間算出処理を終了する。
本実施例の制御部102は、パージ制御弁34,36が切り替えられてから特定期間の間、S100〜S110の処理によって、パージベーパ濃度係数FPGAが算出されない。この結果、図9のS208で算出されるパージA/F補正係数FPGには、特定期間の前に算出済みのパージベーパ濃度係数FPGAが利用される。これにより、特定期間内に生じる過渡現象において、空燃比が一時的にリッチ側(図3参照)あるいはリーン側(図2参照)に大きく変化しても、過渡現象時の空燃比がリッチかリーンによってパージベーパ濃度係数FPGAが算出されず(S104,S110がスキップされ)、過渡現象時のパージベーパ濃度係数FPGAが、燃料噴射時間TAUに反映されない。これにより、一時的な過渡現象に応じて、パージベーパ濃度係数FPGAが変化し、過渡現象が終了した後でも燃料噴射時間TAUに過渡現象の影響が残存することを抑制することができる。
本実施例では、パージ制御弁34,36とパージポンプ12とが、「切替装置」の一例である。また、制御部102が実行するフィードバック補正係数算出処理(図6参照)が「係数算出部」が実行する処理の一例であり、制御部102が実行するS92の処理が「濃度算出部」の一例であり、制御部102が実行する噴射時間算出処理が「決定部」が実行する処理である。
(第2実施例)
第1実施例と異なる点を説明する。第1実施例では、目標パージ率TGTPGに応じてパージ制御弁34,36のデューティ比を制御している(図8のS120)。本実施例では、制御部102は、目標パージ率TGTPGに応じて、パージ制御弁34,36のデューティ比を制御せずに、一定のデューティ比でパージポンプ12の回転数を制御することによって、目標パージ率TGTPGを達成する。具体的には、図5のマップに替えて、回転数Nと機関負荷Q/Nと基準パージ率との関係を予め実験で特定し、制御部102のメモリがその関係を示すマップを予め格納している。基準パージ率は、パージ制御弁34,36を実際の車両で利用される一定のデューティ比で開弁し、パージポンプ12を基準回転数SNで回転させた場合のパージ率である。制御部102は、パージ制御処理のS112において、上記のマップと回転数Nと機関負荷Q/Nとを利用して、基準パージ率を算出する。また、S120において、制御部102は、パージポンプ12の回転数を算出する。具体的には、制御部102は、S114又はS118で特定された目標パージ率TGTPGを、S112で算出された基準パージ率で除算し、基準回転数SNを乗算することによって、パージポンプ12の回転数を算出する。本実施例では、図8のS122〜S126を実行しない。本実施例では、タイマカウント値Taは、予め決められている。次いで、S128において、制御部102は、実際のパージ率PGRを、目標パージ率TGTPGに設定する。次いで、S130において、パージポンプ12の回転数が所定値(例えば100)以上である場合(S130でYES)にS132に進み、パージポンプ12の回転数が所定値未満である場合(S130でNO)にS134に進む。他の構成は、第1実施例と同様である。
本実施例では、制御部102が実行するS112の処理が「制御部」の一例である。
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
例えば、パージ制御弁は、各パージ経路24,26にそれぞれ配置されるパージ制御弁34,36に限らず、パージ供給管32の分岐点に配置される三方弁等の1個の制御弁であってもよい。あるいは、例えば、図10〜図12に示すように、パージ供給管32の分岐点よりもキャニスタ14側にパージ制御弁134が配置されていてもよい。この場合、パージ制御弁134は、パージ制御処理の実行中に、開弁状態に維持されていてもよい。過給機CHが作動していない状態では、過給機CHの下流側の吸気管IPが負圧である一方、過給機CHの上流側の吸気管IPは大気圧である。この結果、逆止弁35の前後の圧力差が、逆止弁37の前後の圧力差よりも大きくなり、逆止弁35が開弁される一方、逆止弁37は閉弁されて、過給機CHの上流側の吸気管IPにパージ気体は供給されない。一方、過給機CHが作動している状態では、過給機CHの下流側の吸気管IPが正圧である一方、過給機CHの上流側の吸気管IPは大気圧である。この結果、逆止弁37の前後の圧力差が、逆止弁35の前後の圧力差よりも大きくなり、逆止弁37が開弁される一方、逆止弁35は閉弁されて、過給機CHの下流側の吸気管IPにパージ気体は供給されない。
また、パージポンプ12の位置も、上記の実施例の位置に限定されない。例えば、パージポンプ12は、キャニスタ14とパージ供給管32の分岐点との間に配置されていてもよい。また、キャニスタ14とパージ供給管32の分岐点との間に、図11に示すように、上流側からパージポンプ12とパージ制御弁134とが直列で配置されていてもよく、あるいは、図12に示すように、上流側からパージ制御弁134とパージポンプ12とが直列で配置されていてもよい。
また、例えば、上記の各実施例では、パージ制御弁34,36は、過給機CHの作動に合わせて、同時に切り替えられている。しかしながら、パージ制御弁34,36は、時間差を置いて切り替えられてもよい。例えば、過給機CHが作動していない状況から作動している状況に切り替わる際に、第2パージ制御弁36を切り替えてから、第1パージ制御弁34を切り替えてもよい。この場合、過渡現象の生じる期間を短くすることができる。
また、蒸発燃料処理装置10は、パージ制御弁34,36のデューティ比とパージポンプ12の回転数との両者を可変に制御してもよい。このとき、予め実験又はシミュレーションによって、パージポンプの基準回転数SNに対する、デューティ比と回転数Nと機関負荷Q/Nと基準パージ率との関係を示すマップを作成し、制御部102に格納していてもよい。制御部102は、このマップを用いて、パージポンプの回転数とパージ制御弁34,36のデューティ比を決定してもよい。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。