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JP6683986B2 - がん幹細胞分子マーカー - Google Patents

がん幹細胞分子マーカー Download PDF

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Description

本発明は、がん幹細胞を対象から検出するための分子マーカーおよびこれに関連する技術に関する。
がん幹細胞は、がんの再発や転移の主要な原因と考えられており、がん治療においてがん幹細胞をターゲッティングすることの重要性が指摘されている。しかしながら、腫瘍組織全体に対するがん幹細胞数の比率はわずかであり(非特許文献4)、がん幹細胞を特異的に認識し、かつ治療することは極めて困難である。多くの論文等で指摘されてきたがん幹細胞の検出方法は、正常幹細胞の検出系を流用したものであるため、正常幹細胞との差異に乏しく、また腫瘍の増殖や浸潤を反映する指標と共通しているため、増殖活性の高いがん細胞の形質マーカーをがん幹細胞の指標としている場合がほとんどである。
現在のところ、がん幹細胞マーカーは、表1に示すように、CD133、CD24、CD44などの細胞表面マーカーが知られている(非特許文献1〜7)が、正常幹細胞のマーカーの流用であり、体性幹細胞(組織幹細胞)にも発現する分子であることから、がん幹細胞マーカーとしての特異性は必ずしも高くなく、また、治療標的にすると副作用の原因となり得る。そのような理由から、がん幹細胞を標的とする治療は未確立であるといえ、がん治療における「転移・浸潤」、「経年後再発」、「抗癌剤耐性」の課題を克服できないままである。より多くの種類のがんにおいてがん幹細胞を検出するためには、新たな分子マーカーの同定が必要である。
がん幹細胞の検出技術とがん幹細胞を標的にする新たな治療方法との開発は、今後のがん医療にとって極めて重要な課題となっている。
なお、PRDM14をコードする遺伝子の発現が、正常組織と比較して乳がんおよび卵巣癌において特異的に増加していることは知られている(特許文献1)が、PRDM14遺伝子産物をがん幹細胞のマーカーとして用いることは知られていない。
国際公開第2008/038832号
Shu Zhang et al., Cancer Res. 68:(11) 4311-4320, 2008 Shih-Hwa Chiou et al., Clin. Cancer Res. 14(13) 4085-4095, 2008 Gang-Ming Zou, J. Cell. Physiol. 217: 598-604, 2008 Cheong J. Lee et al., J Clin Oncol 26:2806-2812, 2008 Madhuri Kakarala et al., J Clin Oncol 26:2813-2820, 2008 Craig D. Peacock et al., J Clin Oncol 26:2883-2889, 2008 Xing Fan et al., J Clin Oncol 26:2821-2827, 2008
本発明は、がん幹細胞の検出に有用な分子マーカーを提供することを目的とする。
前記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を続ける中で、固形がんである乳がん、膵臓がんに由来する複数のがん細胞株を使用し、PRDM14を発現することでがんの幹細胞形質を誘導し得ることをインビトロ、インビボの両面から解明し、PRDM14のキメラ型RNAiによるインビボ治療モデルを構築すること、さらに、それらが腫瘍縮小・転移抑制効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、PRDM14遺伝子の発現により、がん幹細胞を対象から検出するための分子マーカーに関する。
本発明は、PRDM14遺伝子産物、好ましくはmRNAおよび/またはポリペプチドであるPRDM14遺伝子産物、あるいはそれらの断片を含む分子マーカーに関する。
本発明は、対象が、乳房、肺、食道、胃、大腸、肝臓、膵臓、子宮頸部、子宮体部、卵巣、腎臓、前立腺、膀胱、精巣、甲状腺、副腎、リンパ節および血液からなる群から選択される1種もしくは2種以上の細胞または組織由来の細胞集団である、分子マーカーに関する。
本発明はまた、対象において、前記分子マーカーを指標として、がん幹細胞の有無を判定するか、または、がん幹細胞誘導度を判定する方法に関する。
本発明は、分子マーカーがPRDM14遺伝子産物またはその断片を含む場合、該遺伝子産物がmRNAであり、該遺伝子産物をRT−PCR法により検出する工程を含む;PRDM14遺伝子産物またはその断片を含む場合、PRDM14遺伝子産物がポリペプチドであり、該遺伝子産物を、該遺伝子産物と特異的に反応する試薬により検出する工程を含む;液性因子を含む場合、該液性因子を、該液性因子と特異的に反応する試薬、好ましくは抗体により検出する工程を含む、判定方法に関する。
本発明はさらにまた、がん幹細胞の有無を判定するためのキットであって、前記分子マーカーを検出するための試薬を含むキットにも関する。
本発明は、検出するための試薬が、PRDM14遺伝子産物であるmRNAを検出するための、PRDM14遺伝子に相補的な塩基配列を有するプローブおよび/またはプライマーである;PRDM14遺伝子産物であるポリペプチドを検出するための抗体である;液性因子であるポリペプチドを検出するための抗体である、キットに関する。
また、本発明は、前記キットを使用する、がんまたはがん幹細胞誘導度の判定方法に関する。
さらに、本発明は、がん幹細胞において、PRDM14遺伝子の発現を抑制するために用いられる核酸であって、該核酸が、アンチセンス、siRNAおよびshRNAからなる群から選択される1種または2種以上である核酸に関する。
さらにまた、本発明は、前記核酸を含み、好ましくはさらに抗癌剤を含む医薬組成物に関する。
本発明は、がん治療用またはがん予防用である医薬組成物にも関する。
また、本発明は、前記核酸を使用して、がん幹細胞の機能を阻害する方法に関する。
本発明により、PRDM14遺伝子が、正常組織では発現が低く、腫瘍組織では発現が上昇し、がん細胞の幹細胞形質に極めて深く関わることが究明されたことに基づき、生検組織による病理診断(免疫組織診断)、さらに、該遺伝子の過剰発現で上昇する液性因子を同定しており、それを用いた血清診断により、患者の腫瘍ががん幹細胞形質を有するか、すなわち、「転移・浸潤」、「経年後再発」を判断する基準マーカーになる。
PRDM14遺伝子は、正常組織の発現が低く、腫瘍組織での発現が上昇することから、治療標的として、副作用も生じにくく最適である。細胞増殖が盛んな細胞への効果も有するが、むしろ、幹細胞性を有しがん細胞を生産する芽になる細胞群への方に、極めて特異的に効果を有する。既存の抗がん剤との併用で、細胞周期の早い細胞群は既存の抗癌剤で、「転移・浸潤」、「経年後再発」に係るがん細胞群をPRDM14に対する阻害剤(siRNA等)で細胞死を誘導することが可能であり、がんの根治に繋がる。
図1−Aは、様々ながん組織でのPRDM14のmRNAの発現レベルを示したグラフである。 図1−Bは、177症例の乳がん組織および5症例の正常乳腺組織でのPRDM14のmRNAの発現レベルを示したグラフである。グラフ左から5例が正常組織、それ以外が乳がん組織での値を示している。 図1−Cは、乳がん(a)および膵がん(b)夫々のPRDM14タンパク質の発現レベルを免疫組織化学の手法で解析した画像である。 図1−Dは、乳がん、膵臓がん由来のさまざまな腫瘍細胞株におけるPRDM14のmRNA発現レベルを示すものである。 図1−Eは、乳がん組織でのPRDM14タンパク質の発現レベルを免疫組織化学の手法で解析した画像(強拡大)である。 図1−Fは、乳がん細胞株と、該乳がん細胞株のPRDM14強制発現株とshRNAによる発現抑制株とにおけるPRDM14の発現レベルを示したものである。なお、発現ベクターに搭載されるFLAGタグで免疫沈降した後、PRDM14の抗体でウェスタンブロットを行い、内因性のPRDM14ではなく遺伝子導入により発現したPRDM14のみを検出している。
図2−Aは、PRDM14導入株(実線)とコントロールベクター導入株(点線)とを用いてMTTアッセイを行った結果を示すグラフである。 図2−Bは、PRDM14に対する特異的なsiRNAを単独、または種々の抗がん剤と併用処置により乳がん細胞のviabilityを評価する目的でMTTアッセイを行った結果を示すグラフである。 図2−Cは、PRDM14に対する特異的なsiRNAを単独または抗がん剤(GEM:ゲムシタビン)と併用処置によりした膵がん細胞のviabilityを評価する目的でMTTアッセイを行った結果を示すグラフである。 図2−Dは、上段が特異的siRNAを単独で使用した際の、下段がsiRNAに抗がん剤として例えばADR(アドリアマイシン)を併用した際の前記MTTアッセイのレジメンを示す。 図2−Eは、乳がん細胞株をPRDM14に対する特異的なsiRNAで処置することによりSP画分が消滅したことを示すフローサイトメトリーの解析結果である。 図2−Fは、膵がん細胞株をPRDM14に対する特異的なsiRNAで処置することによりSP画分が消滅したことを示すフローサイトメトリーの解析結果である。 図2−Gは、PRDM14を低濃度のsiRNAによりノックダウン(KD)することにより乳がん細胞株に細胞死が誘導されたことを示すフローサイトメトリーの解析結果である。四分割された右半分の領域が、細胞死が誘導された細胞群である。詳細には右下1/4が早期細胞死、右上1/4が晩期細胞死を示している。 図2−Hは、PRDM14を低濃度のsiRNAによりノックダウン(KD)することにより膵がん細胞株に細胞死が誘導されたことを示すフローサイトメトリーの解析結果である。同様に、四分割された右半分の領域が、細胞死が誘導された細胞群である。詳細には右下1/4が早期細胞死、右上1/4が晩期細胞死を示している。
図2−Iは、PRDM14導入株のTumor sphereアッセイの結果を示す。下段は形成されたTumor sphereを幹細胞マーカーである分子(Nanog、Oct3/4、SSEA1、SSEA4)の抗体で染色した結果である。 図2−Jは、PRDM14導入株を用いて一般的な接着性を有する培養皿上で行った増殖アッセイの結果を示す。 図2−Kは、乳がん細胞株をsiRNA処置した後のPRDM14の発現レベル(mRNA)を示したグラフである。 図2−Lは、PRDM14の安定発現株においてSP画分の増加を示すフローサイトメトリーの解析結果である。なお、レセルピンはSP細胞の解析の際、レセルピンを添加した解析群が陰性コントロールとなる。図中、実線で囲んだ領域がヘキスト33342弱陽性又は陰性画分である。この画分は、レセルピンを添加した陰性コントロールではほぼ消失しているため、この画分がSP細胞画分であることが確定されるものである。 図2−Mは、shRNAを用いてPRDM14が発現している乳がん細胞に対してPRDM14を恒常的にノックダウン(KD)した乳がん細胞株においてSP画分が消失したことを示すフローサイトメトリーの解析結果である。 図2−Nは、PRDM14に対するsiRNAとADR(アドリアマイシン)を併用処置した乳がん細胞株のフローサイトメトリーの解析結果を示す。 図2−Oは、PRDM14に対するsiRNAをGEM(ゲムシタビン)と併用処置した膵がん細胞株のフローサイトメトリーの解析結果を示す。
図3−Aは、q−ChIP−PCR(クロマチン免疫沈降−リアルタイムPCR)の結果を示すものであり、転写因子であるPRDM14が、がん幹細胞の維持に重要である特異的な転写因子(Nanog、Oct3/4)のプロモーター領域に結合することを示す。PRDM14は、それら転写因子の発現を直接的に制御する可能性を示唆する。 図3−Bは、PRDM14が、がんの「転移・浸潤」、「経年後再発」に影響を及ぼし得ることを示したチャートである。「EMT」は上皮間葉転移を意味する。 図3−Cは、PRDM14を導入した乳がん細胞株の培養上清を検体として測定したRANTES/CCL5、CXCR1、CXCR2、CXCR3のELISAの結果を示したグラフである。 図3−Dは、PRDM14を導入した他の乳がん細胞株の培養上清を検体として測定したRANTES/CCL5、CXCR1、CXCR2、CXCR3のELISAの結果を示したグラフである。
図4−Aは、PRDM14遺伝子を強制発現させた乳がん細胞株の腫瘍サイズの経時変化を表すグラフである。 図4−Bは、PRDM14遺伝子を強制発現させた乳がん細胞株を同所移植(乳腺)したヌードマウスの画像である。 図4−Cは、PRDM14遺伝子を強制発現させた乳がん細胞株を同所移植したヌードマウスから得られた肺、リンパ節の病理所見を示す。 図4−Dは、PRDM14遺伝子に対するshRNAを導入し、PRDM14遺伝子を恒常的にKDした乳がん細胞株の腫瘍サイズの経時変化を表すグラフである。 図4−Eは、PRDM14遺伝子を強制発現させた乳がん細胞株を尾静脈注射して得られる肺転移形成モデル(ヌードマウス)のエンドポイントでの画像を示す。 図4−Fは、PRDM14遺伝子を強制発現させた乳がん細胞株を尾静脈注射して得られる肺転移形成モデル(ヌードマウス)の肺の病理所見を示す。 図4−Gは、PRDM14遺伝子を強制発現させた他の乳がん細胞株を同所移植した際の腫瘍サイズの経時変化を表すグラフである。 図4−Hは、PRDM14遺伝子を強制発現させた他の乳がん細胞株を同所移植したヌードマウスの画像である。 図4−Iは、PRDM14遺伝子を強制発現させた乳がん細胞株を同所移植したヌードマウスの移植腫瘍片の病理所見であり、緑色(断片化されたカスパーゼ3に対する抗体による蛍光)がアポトーシスを起こした細胞を示し、赤色(抗CD31抗体による蛍光)が血管を示す。
図5−Aは、乳がん細胞株を同所移植したヌードマウスに対してPRDM14遺伝子特異的なsiRNAをDDS剤(PEI)とともに単独投与(腫瘍局所)、またはADR併用(腹腔内投与)した治療モデルにおける、腫瘍容積の経時変化のグラフを示す。 図5−Bは、乳がん細胞株を同所移植したヌードマウスに対してPRDM14遺伝子特異的なsiRNAをDDS剤(PEI)とともに単独投与(腫瘍局所)、またはADR併用(腹腔内投与)した治療モデルの画像である。 図5−Cは、他の乳がん細胞株を同所移植した後、PRDM14遺伝子特異的なsiRNAをDDS剤(PEI)とともに単独投与(腫瘍局所)、またはADR併用(腹腔内投与)処置したヌードマウスの腫瘍容積の経時変化のグラフを示す。 図5−Dは、他の乳がん細胞株を同所移植した後、PRDM14遺伝子特異的なsiRNAを単独、もしくは抗がん剤と併用処置したヌードマウスの画像である。 図5−Eは、乳がん細胞株を尾静脈投与し作製した肺転移モデルにおいて、PRDM14遺伝子特異的なsiRNAで治療処置したヌードマウスの画像および摘出した肺の病理所見である。 図5−Fは、乳がん細胞株を尾静脈投与し作製した肺転移モデルにおいて、PRDM14遺伝子特異的なsiRNAで治療処置したヌードマウスの肺重量の経時変化のグラフを示す。 図5−Gは、乳がん細胞株を同所移植したヌードマウスにおいて、PRDM14遺伝子特異的なsiRNAを静脈投与用のDDS剤(カルシウムリン酸ミセル)とともに単独投与(静脈注射)、またはドセタキセル(DOCE)併用(腹腔内投与)モデルを作製した場合の投与のレジメン、そのモデルで得られた腫瘍容積および腫瘍重量の経時変化を示すグラフ、得られた腫瘍組織片の重量、ならびにそのヌードマウスの画像を示す。これは、転移巣を治療する上でsiRNAの静脈投与が不可欠であり、siRNAをDDS剤(カルシウムリン酸ミセル)とともに使用している。
図5−Hは、PRDM14遺伝子特異的なsiRNAをDDS剤(PEI)とともに単独投与(腫瘍局注)、またはADRを併用投与するためのレジメンを示す。 図5−Iは、siRNAをDDS剤であるPEIともに単独投与(静脈投与)するためのレジメンを示す。 図5−Jは、siRNAをDDS剤であるPEIとともに腫瘍局所に投与する、またはDOCを併用して腹腔内投与するためのレジメンを示す。 図5−Kは、乳がん細胞株を同所移植した後、siRNA単独の腫瘍局所投与、またはドセタキセル(DOC)を腹腔内投与で併用処置したヌードマウスの腫瘍容積の経時変化を示す。 図5−Lは、乳がん細胞株を同所移植した後、siRNA単独の腫瘍局所投与、またはドセタキセル(DOC)を腹腔内投与で併用処置したヌードマウスの画像である。 図5−Mは、乳がん細胞株を同所移植した後、siRNA単独の腫瘍局所投与、またはドセタキセル(DOC)を腹腔内投与で併用処置したヌードマウスの腫瘍重量と体重との経時変化を示す。 図5−Nは、乳がん細胞株を同所移植した後、siRNA単独の腫瘍局所投与、またはドセタキセル(DOC)を腹腔内投与で併用処置したヌードマウスの腫瘍移植片の画像である。 図5−Oは、乳がん細胞株を同所移植した後、siRNA単独の腫瘍局所投与、またはドセタキセル(DOC)を腹腔内投与で併用処置したヌードマウスの腫瘍移植片の病理所見を示す。 図6は、PRDM14陽性の乳がん症例とPRDM14陰性の乳がん症例との乳がん発症からの経過時間に対する生存率をプロットした図を示す。 図7−Aは、PRDM14遺伝子に対するshRNAを導入することによってPRDM14遺伝子を恒常的にノックダウンした膵臓がん細胞株をヌードマウス皮下に移植し、形成された腫瘍のサイズ(腫瘍径)の経時変化を表すグラフである。shRNA#3を導入した場合、腫瘍径が最終的に対照(cntl shRNA)に近接するが、膵臓がん細胞株は粘液を産生する分化能を有することから、腫瘍内部に粘液が蓄積するため、腫瘍径が増大した。PRDM14の発現を恒常的に抑制すると、膵臓がん細胞株においても、in vivoの系で腫瘍増殖が抑制される。 図7−Bは、膵臓がん細胞株を使用する腫瘍形成能実験(実施例11)において、in vivoでその経過を追い、エンドポイントで摘出したマウス皮下腫瘍像を示す。 図7−Cは、図7−Bに示される摘出された腫瘍の重量を示したグラフである。shRNA#3の腫瘍重量において、腫瘍内部の粘液(細胞成分含まない)を吸引除去した後の腫瘍重量を示す。 図7−Dは、図7−Bに示される摘出された腫瘍の病理組織像(HE染色)を示す。対照shRNA(cntl shRNA)が導入された細胞から形成される腫瘍と比較して、PRDM14をノックダウンした場合の腫瘍の方が、その腫瘍径が有意に小さかった。また、PRDM14をノックダウンした場合の腫瘍には、化生や腺分泌が見られることから、分化傾向にあることがわかった。 図8−Aは、PRDM14を発現している乳がん細胞株に対して、PRDM14遺伝子特異的なshRNAによりPRDM14をノックダウンし、細胞表面のCD44およびCD24の発現をフローサイトメトリーにより解析した結果を示す。 図8−Bは、PRDM14の発現をshRNAにより低下させた乳がん細胞株および膵臓がん細胞株の夫々をマウス皮下に移植し、形成された腫瘍に対して、夫々の細胞の分化の指標となる分子に特異的な抗体を用いて免疫染色した結果を示す。上段は乳がん細胞株に由来、下段は膵臓がん細胞株に由来する。 図9は、PRDM14を発現している明細胞がん(腎臓がん)の細胞株において、PRDM14遺伝子特異的なsiRNAによりPRDM14遺伝子発現を抑制した際のSP分画をフローサイトメトリーで解析した結果を示す。対照siRNAで処理した場合(左図)、約3%のSP分画が見られたが、PRDM14遺伝子特異的なsiRNAで処理した場合(右図)、SP分画が0.83%と減少しており、幹細胞性が抑えられている可能性がある。
なお、図中の「cntl」は対照を表し、「Negative cntl」は陰性対照を表し、「mock」はモックを表す。
以下、本発明について詳細に説明する。
本明細書中に別記のない限り、本発明に関して用いられる科学的および技術的用語は、当業者に通常理解されている意味を有するものとする。一般的に、本明細書中に記載された細胞および組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝子およびタンパク質および核酸化学に関して用いられる用語、およびその技術は、当該技術分野においてよく知られ、通常用いられているものとする。
また、別記のない限り、本発明の方法および技術は、当該技術分野においてよく知られた慣用の方法に従って、本明細書中で引用され、議論されている種々の一般的な、およびより専門的な参考文献に記載されたとおりに行われる。かかる文献としては、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)およびSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd ed., Cold Spring Harbor Press (2001); Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates (1992および2000の補遺); Ausubel et al., Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology-4thEd., Wiley & Sons (1999); Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1990);およびHarlow and Lane, Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1999)などが挙げられる。
本明細書中に記載された分析化学、合成有機化学ならびに医薬品化学および薬化学に関して用いられる用語、ならびにその実験手順および技術は、当該技術分野においてよく知られ、通常用いられているものである。標準的な技術を、化学合成、化学分析、薬剤の製造、製剤および送達、ならびに対象の処置に用いるものとする。
本明細書においては、別記のない限り、タンパク質の名称はアルファベット大文字またはカタカナで表記し、そのタンパク質をコードする遺伝子は、前記のアルファベット大文字またはカタカナで表記したものに「遺伝子」と付記するか、または前記のアルファベット大文字またはカタカナで表記したものに下線を付して表記するものとする。したがって、別記のない限り、例えば、単に「PRDM14」と表記した場合には、PRDM14(PR domain-containing protein 14)そのもの自体であるタンパク質を意味し、「PRDM14遺伝子」と表記した場合には、PRDM14をコードする遺伝子を意味し、また、「PRDM14」と表記した場合もPRDM14をコードする遺伝子を意味する。
本発明において用いられるPRDM14は、PR domain-containing protein 14(別名PFM11またはMGC59730)と呼ばれる、PRドメインおよびジンクフィンガードメインを有するタンパク質であり、例として、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するタンパク質が挙げられる。ここで、配列番号1で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、配列番号1で表されるアミノ酸配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上、最も好ましくは約98%以上の相同性を有するアミノ酸配列等を例示することができる。
また、本発明において用いられるPRDM14遺伝子には、例えば、配列番号2で表される塩基配列を含有するDNA、または、配列番号2で表される塩基配列とストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする塩基配列を含有し、かつ前記の配列番号1で表されるアミノ酸配列を含有するタンパク質と実質的に同等の性質を有するタンパク質をコードするDNAなどが含まれる。ここで、配列番号2で表される塩基配列とストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする塩基配列を含有するDNAとしては、例えば配列番号2で表される塩基配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、特に好ましくは約95%以上、最も好ましくは約98%以上の相同性を有する塩基配列を含有するDNA等を用いることができる。ここで、「ストリンジェントな条件」とは、通常、42℃、2×SSCおよび0.1%SDSの条件であり、好ましくは、65℃、0.1×SSCおよび0.1%SDSの条件である。
また、本明細書において、「がん」という用語を「癌腫」に限らない「悪性腫瘍」という意味でも使用する。
なお、異種動物間はもちろんのこと、同種動物間でも、多型、アイソフォーム等によってPRDM14遺伝子の塩基配列に相違が見られる場合があるが、塩基配列が相違する場合であってもPRDM14をコードする限り、PRDM14遺伝子に含まれる。
本発明は、PRDM14遺伝子の発現により、がん幹細胞を対象から検出するための分子マーカーに関する。本発明の分子マーカーは、肺がん細胞、乳がん細胞、大腸がん細胞、膵がん細胞など、複数のがん幹細胞に共通して用いることができるので、汎用性のあるがん幹細胞の分子マーカーとして極めて有効である。また、PRDM14遺伝子の発現により、がん組織の状態が、転移・再発誘発され易い状態であるか否かの悪性度を判定するマーカー、または、抗癌剤治療による予後を予測する予後予測マーカーとしても用いることができる。あるいは、抗癌剤治療において、PRDM14遺伝子の発現の上昇を指標として、一つの抗癌剤から他の抗癌剤へと切り替えるタイミングを判断するマーカーとして用いてもよい。
本発明において「遺伝子の発現」とは、該遺伝子の転写を起点とし、翻訳まで包含する一連の生体反応をいう。PRDM14をコードするmRNAの発現量の定量にあたっては、公知の技術、例えば、ハイブリダイゼーション技術(ノーザンハイブリダイゼーション法、ドットハイブリダイゼーション法、RNaseプロテクションアッセイ、cDNAマイクロアレイ等)、遺伝子増幅技術(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)(competitive RT−PCR、リアルタイムPCR等を含む))等を利用することができる。ハイブリダイゼーション技術を用いる場合には、PRDM14をコードするポリヌクレオチドまたはその一部にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドをプローブとして利用することができ、遺伝子増幅技術を用いる場合には、当該オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをプライマーとして利用することができる。「PRDM14をコードするポリヌクレオチドまたはその一部」としては、DNAおよびRNAの両者が含まれ、例えば、mRNA、cDNA、cRNA等が含まれる。したがって、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを構成するヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチドおよびリボヌクレオチドのいずれであってもよい。本発明におけるPRDM14をコードするmRNAの発現量の定量にあたっては、用いられるオリゴヌクレオチドの塩基長は、特に限定されないが、通常15〜100塩基、好ましくは17〜35塩基であり、また、用いられるポリヌクレオチドの塩基長は特に限定されないが、通常50〜1000塩基、好ましくは150〜500塩基である。
また、本発明における「遺伝子の発現」には、PRDM14の発現に伴い発現が誘導される液性因子をも含めることができる。これら液性因子を介してPRDM14の発現を測定することもできる。ここでPRDM14の発現を間接的に検知・測定できる液性因子としては、CCL5、GRO(Growth Related Oncogene、またはCXCL1、2、3)、可溶化CD40Lなどが含まれる。これら液性因子は、PRDM14の発現を検出する、すなわち、がん幹細胞が誘導されている状態を検出する「血清マーカー」としても使用することができる。
PRDM14の発現量の定量にあたっては、公知の技術、公知のタンパク質解析技術、例えば、抗PRDM14抗体またはその断片を用いた抗原抗体反応に基づくウェスタンブロッティング法、ドットブロット法、免疫沈降法、ELISA、免疫組織化学染色法(IHC)等を利用することができる。「遺伝子の発現が有意に高い」とは、mRNAの発現レベル(発現量)および/またはタンパク質を包含するポリペプチドの発現レベル(発現量)が、対照と比較して、統計学的に有意に高い(多い)か、あるいは、好ましくは少なくとも1.5倍、より好ましくは少なくとも2倍、さらに好ましくは少なくとも3倍、もっとも好ましくは少なくとも5倍高い(多い)ことをいう。PRDM14遺伝子の発現量は、組織や個体間で発現レベルが大きく変動しない遺伝子(例えば、β−アクチン遺伝子、GAPDH遺伝子等のハウスキーピング遺伝子)を内部標準遺伝子として、この内部標準遺伝子の発現量に基づいて補正することが好ましい。
「がん幹細胞」とは、がん細胞のうち幹細胞の性質を有する細胞をいう。幹細胞とは細胞分裂を経ても分化能を維持している細胞のことをいう。がん幹細胞は、ヘキスト蛍光色素(Hoechst33342)で染色し、フローサイトメトリーを利用してUVレーザー(波長約350nm)を励起光に用いて検出すると、サイドポピュレーション(Side Population)(SP)画分に濃縮される。SP画分とは、ヘキスト蛍光色素によって染色されるメインポピュレーション(Main Population)(MP)画分に対して、ABCトランスポーターなどを介して色素を細胞外に排出することで染色されない画分のことを指す。また、幹細胞はOct3/4、Nanog、SSEA1およびSSEA4などのマーカー分子により特定することもできる。一方、「正常細胞」とは、生体または組織の活動において、正常な機能を有する細胞のことを指す。正常細胞は、体性幹細胞を含んでもよいが、好ましくは成熟細胞である。
本発明の分子マーカーは、好ましくはPRDM14遺伝子産物またはその断片を含み、より好ましくは該PRDM14遺伝子産物が、mRNAおよび/またはポリペプチドである。「遺伝子産物」とは、例えばmRNAや内在性ポリペプチド(さらにはタンパク質)など、遺伝子発現に伴う一連の生体反応によって生成される分子をいう。
「対象」は、好ましくは、任意の生物個体、好ましくは脊椎動物、より好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトの個体からの、乳房、肺、食道、胃、大腸、肝臓、膵臓、子宮頸、子宮内膜、卵巣、腎臓、前立腺、膀胱、精巣、甲状腺、副腎、リンパ節、血液およびリンパ液からなる群から選択される1種もしくは2種以上の細胞または組織由来の細胞集団である。前記「生物個体」は、健常であっても、何らかの疾患に罹患していてもよいものとするが、様々ながんに対する処置が企図される場合には、がんに罹患している生物個体または実験的に罹患させた生物個体、例えばマウス、ラット、スナネズミ、モルモットなどの齧歯類、ネコ、ピューマ、トラなどのネコ科動物、シカ、オオシカなどのシカ科動物等の他、ウサギ、イヌ、ミンク、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、サル、ヒトなどであることが好ましい。
「がん」としては、これらの「対象」に由来するがんの中でも、好ましくは固形がん、より好ましくは乳がん、膵がんおよび腎がんからなる固形がん、または難治性のがん(乳がん、膵がん、胆道がん)が望ましい。
なお、本明細書において「発現している」とは、例えばRT−PCR、インシチュハイブリダイゼーション、免疫検定法、クロマトグラフィー法などの、当業者に知られた方法で遺伝子産物が確認できることをいう。また、「検出されない」とは、前記遺伝子産物の確認方法において遺伝子産物が確認できないことをいう。
また、本発明は、前記対象において、前記分子マーカーを指標として、がん幹細胞の有無を判定するか、または、がんにおけるがん幹細胞誘導度を判定する方法にも関する。「判定」は、本発明の分子マーカーが検出された場合にがん幹細胞があると判定され、判定する対象には正常細胞および/またはがん幹細胞でないがん細胞も含まれてよい。また、「がんにおけるがん幹細胞誘導度の判定」は、例えば、図1−Cに示されるように、がんのステージ分類(臨床進行期分類)に沿ってPRDM14タンパク質の発現レベルが亢進するため、同一個体の同一組織または器官由来の対象における経時的変化ががん幹細胞誘導度に対応する。ただし、乳がんでは、がんのステージ分類に沿ってPRDM14タンパク質の発現レベルが亢進しない場合もあり、それは、乳がんが、がんの背景にある性質、すなわち、トリプルマーカーであるエストロゲンレセプター、プロゲステロンレセプター、HER2分子の組み合わせなどを基本に細分化されており、画一的に論じられないからである(生物学的背景が異なる集団)。また、それら分子と強い相関性がPRDM14にないことから、いままで既存の治療法が確立されていないトリプルネガティブ乳がん、他のカテゴリーとしても併用両方での生存率の改善が望めると推測される。一方、膵がんでは、がんのステージ分類と相関する。
判定は、インビボまたはインビトロでの判定であってもよい。本明細書において「インビトロでの判定」とは、生体から採取した組織または細胞を、例えば培養液など、生体外環境における生育を経た後に判定することをいう。それに対し「インビボでの判定」とは、生体内で直接判定すること、あるいは組織または細胞を生体から採取した後、すぐにもしくは固定化後に判定することをいう。組織または細胞の採取は、これに限定するものではないが例えば切開、細胞吸引、採血、採尿などで行う。判定をインビボで行う場合、当業者において公知のインビボ検出法を用いて行ってよい。インビボでの判定は、例えば血液検査、インサイチュハイブリダイゼーション、インサイチュPCR、免疫組織染色など、公知の検出法を用いて行ってよい。判定をインビトロで行う場合、これに限定するものではないが例えば免疫組織染色、RT−PCRなど、当業者間において公知のインビトロ検出法を用いて行ってよい。RT−PCRを行う場合、サイクル数は30〜35サイクルが好ましい。組織培養後の腫瘍組織での判定なども、インビトロでの判定に含まれる。
本発明の判定方法は、分子マーカーが、PRDM14遺伝子産物またはその断片を含む場合、該遺伝子産物が、mRNAであり、該遺伝子産物をRT−PCR法により検出する工程を含むことが好ましく、その検出の際にはプローブやプライマーなどのmRNAに特異的に結合する試薬が用いられる。
また、分子マーカーが、PRDM14遺伝子産物またはその断片を含む場合、PRDM14遺伝子産物が、ポリペプチドであり、該遺伝子産物を、該遺伝子産物と特異的に反応する試薬により検出する工程を含むことが好ましい。一方、分子マーカーが、液性因子を含む場合、該液性因子を、該液性因子と特異的に反応する試薬により検出する工程を含むことが好ましい。それらの検出の際には、抗体やリガンドなどのペプチドに特異的に結合する試薬が用いられる。例えば、抗体は、ポリクローナル抗体および/またはモノクローナル抗体が用いられ得る。
本発明は、がん幹細胞の有無を判定するためのキットであって、少なくとも前記分子マーカーを検出するための試薬を含むキットに関する。「検出するための試薬」として、例えば、PRDM14遺伝子産物であるmRNAを検出するための、PRDM14遺伝子に相補的な塩基配列を有するプローブおよび/またはプライマーであっても、PRDM14遺伝子産物であるポリペプチドを検出するための抗体やリガンドであっても、液性因子であるポリペプチドを検出するための抗体であってもよい。「遺伝子に相補的な塩基配列を有するプローブおよび/またはプライマー」は、遺伝子配列の一部の配列に対して特異的に結合するように相補的な配列を有するDNAまたはRNAであって、例えば蛍光標識、放射線標識などで随意に標識されていてよい。その他、キットには、反応用緩衝液、反応促進剤など、その使用態様に適した付随的な試薬が含まれ得る。
前記キットを用いてがん幹細胞の検出またはがん幹細胞の誘導を検出することにより、判対象ががんであるか否か、またはがんである場合その予後・経年後再発リスクおよびがんにおけるがん幹細胞誘導度の判定を判定する方法も本発明に包含される。
本発明はまた、がん幹細胞において、PRDM14遺伝子の発現を抑制するために用いられる核酸であって、PRDM14遺伝子のmRNAへの転写やmRNAからタンパク質への翻訳といった過程において阻害作用を発揮する核酸が含まれ、例えば、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を阻害する核酸を挙げることができる。ここで、前記「配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドをコードするポリヌクレオチド」はDNAであってもRNAであってもよい。
かかる核酸は、好ましくはアンチセンス、siRNAおよびshRNAからなる群から選択される1種または2種以上である。siRNAは、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドをコードするポリヌクレオチドRNA(例えば、PRDM14のmRNA)からの連続する18〜28ヌクレオチドのセンス鎖配列とその相補的配列であるアンチセンス鎖配列とを含むものであることが好ましく、さらに、前記ポリヌクレオチドRNAからの連続する19〜24ヌクレオチドのセンス鎖配列とその相補的配列であるアンチセンス鎖配列とを含むものであることが特に好ましい。好適なsiRNA配列の選択には、公知の知識を使用することができる(例えば、Dykxhoorn D.M.et al., Nature Rev. Mol. Cell Biol. 4; 457-67 (2003); Khvorova A et al., Cell, 115: 209-16 (2003)等を参照)。
本発明における好ましいsiRNA配列の例を以下の表2に示す。
本発明ではさらに、選択されたsiRNA配列は、標的mRNAの切断を可能にする限り、その配列に1〜3個、好ましくは1〜2個までのヌクレオチドの欠失、置換もしくは付加を含むように変異していてもよい。変異は、中央から3’側での変異は失活の原因となりやすいので、5’側にあるのが好ましい。なお、選択されたsiRNAは、臨床使用の際にいわゆるoff-target効果(使用したsiRNAに部分的に相同性を有する標的遺伝子以外の遺伝子の発現を抑制する効果)を示さないものであることが好ましい。したがって、off-target効果を避けるために、候補siRNAについて、予めジーンチップなどを利用して交差反応がないことを確認しておくことが望ましい。
本発明において用いることができるshRNAは、センス鎖配列およびそれに対するアンチセンス鎖配列との間を共有結合によって結合する一本鎖ループ配列を含むものであり、細胞内RNaseであるDicerによってプロセシングされてsiRNAが形成されるRNAである。siRNAをコードするヘアピン型DNAの3’末端には、転写停止シグナル配列として、あるいはオーバーハングのために、1〜6個、好ましくは1〜5個のTからなるポリT配列、たとえば4個もしくは5個のTからなるTTTTまたはTTTTTが連結される。ベクターDNAから転写されたsiRNA前駆体としてのshRNAは、そのアンチセンス鎖の3’末端に2〜4個のUからなるオーバーハングを有することが望ましく、オーバーハングの存在によって、センスRNAおよびアンチセンスRNAはヌクレアーゼによる分解に対して安定性を増すことができる。本発明においては、前記一本鎖ループ配列は、公知のループ配列を適宜使用することが可能である。
本発明における他のsiRNAの態様は、タンデム型DNAから形成されるものであり、これは前記センス鎖をコードするDNA配列と前記アンチセンス鎖をコードするDNA配列とを5’→3’方向に連続して含み、各鎖の5’末端にプロモーターが、また各鎖の3’末端にポリT配列が夫々連結された配列からなり、細胞内で転写後、同時に生成したセンスRNAとアンチセンスRNAとが一緒にハイブリダイズしてsiRNAを形成する。ポリT配列は、上記と同様に、転写停止シグナル配列としての1〜5個、特に4〜5個のTからなることが好ましい。また、ヘアピン型と同様に、生成するsiRNAは、センスおよび/またはアンチセンス鎖の3’末端に2〜4個のUからなるオーバーハングを有していてもよい。
また、PRDM14遺伝子の発現を特異的に阻害するアンチセンスDNAは、例えば、適当なプロモーター配列の下流に組み込んでアンチセンスRNA発現ベクターとして対象に投与することが可能である。さらにまた、PRDM14遺伝子の発現を特異的に阻害するアンチセンスRNA発現ベクター、siRNA発現ベクター、shRNA発現ベクターを作製し、これらのベクターを対象に投与することができる。すなわち、本発明において、PRDM14遺伝子の発現を特異的に阻害するアンチセンスRNA、siRNAもしくはshRNAをコードするDNAは、発現ベクター中に組み込まれ、適当なプロモーターの調節下でPRDM14遺伝子の発現を特異的に阻害するRNAに転写される。本発明で使用される発現ベクターには、プラスミドベクターおよびウイルスベクターが含まれる。
プラスミドベクターは、既知の方法を用いて調製することができ、また、市販のベクター、例えば、psiHIV−U6(PRDM14遺伝子に対するレンチウイルスshRNA発現ベクターのバックボーン;GeneCopoeia社)、pReceiver−Lv102(PRDM14遺伝子のレンチウイルス発現ベクターEX−W1089−Lv102のバックボーン;GeneCopoeia社)、piGENE(登録商標)U6ベクター、piGENE(登録商標)H1ベクター、piGENE(登録商標)tRNAベクター(タカラバイオ株式会社)等を利用することもできる(Brummelkamp T.R.et al., Science, 296:550-3, 2002; Lee N.S.et al., Nature Biotechnology, 20: 500-5, 2002; M.Miyagishi et al., Nature Biotechnology, 20: 497-500, 2002; Paul C.P.et al., Nature Biotechnology, 20: 505-8, 2002; 多比良和誠ら編, RNAi実験プロトコール, 羊土社, 2003年等参照)。
プラスミドベクターは一般に、本発明のアンチセンスRNA、siRNA、shRNAをコードするDNA配列およびプロモーターの他に、薬剤耐性遺伝子、転写停止配列、制限酵素切断部位、複製開始点などを含むことができる。
また、ウイルスベクターとしては、例えば、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクターなどを使用することができる。ウイルスベクターは、自己複製能を欠損するように改変されているものであることが好ましい。ウイルスベクターの作製方法は、当業者に既知である。上記ウイルスベクターは、患部にベクターを直接注入し細胞に感染させることによって細胞内に遺伝子導入することができる。
本発明は、前記核酸を含む医薬組成物にも関する。本発明の医薬組成物は、好ましくはさらに抗がん剤やがんワクチンを含み、必要に応じて、例えば抗腫瘍作用を有する薬剤、補助剤、薬学的に許容し得る担体(例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、防腐剤、pH調整剤、矯味矯臭剤、希釈剤、注射剤用溶剤等)などを適宜含むことができる。かかる医薬組成物は、好ましくはがん治療用またはがん予防用である。また、本発明の医薬組成物は、特異的に標的組織へ送達させることを可能にする標識やナノカプセル等を含有してもよい。
「抗がん剤」としては、各種がんの治療に有効な公知の抗がん剤、例えば、アドリアマイシン(ADR)、ゲムシタビン(GEM)、フルオロウラシル、タモキシフェン、アナストロゾール、アクラルビシン、ドキソルビシン(DOC)、テガフール、シクロホスファミド、イリノテカン、シタラビン、パクリタキセル、ドセタキセル、エピルビシン、カルボプラチン、シスプラチン(CDDP)、チオテパ、またはこれらの医薬上許容される塩などが挙げられる。
本発明の医薬組成物の投与経路としては、例えば、経口投与、非経口投与(例えば、静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与、局所投与等)が挙げられ、投与剤形としては、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、懸濁剤等が例示される。例えば、局所投与の場合、外科手術にて患部を露出し、癌組織に注射器等の手段で本発明の治療薬を直接投与することができ、また、非局所投与の場合、至適なDDS剤を使用することで簡便な静脈投与の経路により(腫瘍栄養血管内投与により)行うことができる。好ましい投与経路は、静脈投与および局所投与である。
投与量および投与回数は、目的とする作用効果、投与方法、治療期間、生物個体の年齢、体重、性別等により異なるが、PRDM14遺伝子に対するアンチセンスDNA、アンチセンスRNA、siRNA、shRNAまたはこれらを発現するベクターを利用する場合の投与量は、生物個体がヒトである場合には成人1日当たり通常0.01mg/kg〜1g/kg、好ましくは0.1mg/kg〜500mg/kgの範囲から適宜選択でき、投与回数は、1日1回から数回の範囲から適宜選択できる。但し、投与量は、種々の条件により変動し得るため、上記範囲に限定されない。
さらに、本発明は、前記核酸を使用して、がん幹細胞の機能を阻害する方法に関する。本発明の分子マーカーとしても機能する核酸は、がん幹細胞に特異的に発現するmRNAの一部または全部と相補的な配列を有し、その発現を抑制することで、がん幹細胞の有する機能を抑制することができると考えられる。よって、本発明の分子マーカーとして機能するDNAの発現を抑制するための核酸もまた、本発明に含まれる。
発現を抑制する方法としては、これらに限定されるものではないが、例えばRNAi、リプレッサーの発現などが挙げられる。核酸は、DNAの発現を抑制するのに十分な塩基数があれば、いかなる長さであってもよい。
核酸は、DNA、RNAの他に、核酸アナログであってもよいが、汎用性などの観点から、好ましくはDNAおよび/またはRNAである。
本発明の分子マーカーとして機能するDNAの発現を抑制することによって、がん幹細胞を特異的におよび/または効率よく攻撃できる可能性を示唆する。すなわち、上記の核酸は遺伝子導入治療に応用できることが示唆される。
PRDM14遺伝子の発現を特異的に阻害するアンチセンス、siRNAまたはshRNAを用いる場合、公知の方法によって製剤化し、生物個体に投与することができる。例えば、PRDM14遺伝子の発現を特異的に阻害するアンチセンスRNAまたはsiRNAは、標的組織に直接導入することが可能であり、このような場合には、それらを、例えば、リポフェクタミン(登録商標)、リポフェクチン(登録商標)およびセルフェクチン(登録商標)(Invitrogen)等のリポソームやイオンコンプレックス(特開2011-010549号公報、特開2010-233499号公報、WO2009/113645、WO2008/062909)などと複合体を形成させて注入することもできる。
以下の実験例は本発明について、さらに具体的に説明するものであり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。当業者として通常の知識および技術を有するものは、本発明の精神を逸脱しない範囲で、下記実験例で示された態様に多様な改変を行うことができるが、かかる改変された態様も本発明に含まれる。
<実施例1>遺伝子発現解析
(1)がん患者検体におけるPRDM14遺伝子の発現(図1−A)
PRDM14の悪性腫瘍における遺伝子発現プロファイルを調べるため、乳がん(正常組織:4、腫瘍組織:24)、肺がん(正常組織:4、腫瘍組織:19)、食道がん(正常組織:3、腫瘍組織:18)、胃がん(正常組織:5、腫瘍組織:14)、大腸がん(正常組織:7、腫瘍組織:13)、肝臓がん(正常組織:3、腫瘍組織:17)、膵臓がん(正常組織:5、腫瘍組織:17)、子宮頸部がん(正常組織:4、腫瘍組織:9)、子宮体部がん(正常組織:5、腫瘍組織:17)、卵巣がん(正常組織:3、腫瘍組織:21)、腎臓がん(正常組織:5、腫瘍組織:18)、前立腺がん(正常組織:5、腫瘍組織:21)、膀胱がん(正常組織:2、腫瘍組織:22)、精巣腫瘍(正常組織:6、腫瘍組織:19)、甲状腺がん(正常組織:3、腫瘍組織:18)、副腎がん(正常組織:5、腫瘍組織:10)、リンパ腫(正常組織:3、腫瘍組織:34)、から得た全RNAを抽出し、cDNAを合成し、サイバーグリーン(cybr green)法を用いた比較ΔCt(delta/delta Ct)法により、ViiA7リアルタイム(real-time)PCR解析装置(Lifetechnology)を用いてPRDM14遺伝子の発現を解析した。内部標準としてはβ−アクチン遺伝子を用いた。
乳がん、肺がん、食道がん、膵臓がん、子宮頸部がん、卵巣がん、腎がん、尿路系腫瘍、精巣腫瘍において、mRNAレベルで、PRDM14発現が上昇していた。特に、乳がん、肺がん、膵がん、卵巣がん、腎がん、膀胱がん、精巣腫瘍での上昇が顕著だった。これらの上昇が顕著だったがん組織において、PRDM14遺伝子の発現により、がん細胞ががん幹細胞に誘導される度合いも高いものと容易に推測されるものの、がん幹細胞はがん組織にわずかしか含まれていないため、正常部分、腫瘍部分での発現レベルが逆転しているがん組織があっても不思議なことではない。
(2)乳がん患者検体におけるPRDM14遺伝子の発現(図1−B)
前記(1)とは別にPRDM14の乳がんにおける遺伝子発現プロファイルを調べるため、浸潤性乳がん177症例の乳がん組織、5症例の正常乳腺組織から得た全RNAを抽出し、cDNAを合成しサイバーグリーン法を用いた比較ΔCt法により、ViiA7リアルタイムPCR解析装置(Lifetechnology)を用いてPRDM14遺伝子の発現を解析した。内部標準としてはβ−アクチン遺伝子を用いた。
正常乳腺に比較して148/177症例の乳がんで発現の上昇を認めた。
また、図6に示すように、PRDM14陽性の乳がん症例は、PRDM14陰性の乳がん症例と比較して予後が不良であることがわかった。
[qRT−PCR反応に関して]
PRDM14およびβ−アクチンに対するプライマーは、いずれもOrigene社から購入し、夫々hPRDM14がOrigeneのHK205840、β−アクチンがOrigeneのHP204660、GAPDHがOrigeneのHP205798を使用した。
PCR反応は、cDNA5μL、2×Power SYBR(登録商標)PCR Master Mix (Life Technologies)12.5μL、プライマー(10μM)1μLおよび水6.5μLを含む合計25μLの溶液により、96℃5秒、60℃15秒、40サイクルで行った。実験結果は、β−アクチン遺伝子の発現量に対するPRDM14遺伝子の発現量の比(すなわち、PRDM14遺伝子の発現量/β−アクチン遺伝子の発現量)について、PRDM14遺伝子の発現を表した。
(3)腫瘍細胞株におけるPRDM14遺伝子の発現解析(図1−D(a)(b))
臨床症例で発現が亢進しており、また、がん幹細胞の関与が濃厚とされる乳がん、膵臓がんに由来する細胞株を用いてPRDM14遺伝子の発現解析を行った。乳がん細胞株であるBT474、BT549、MCF7、MDA−MB−231、MDA−MB−436、MDA−MB−468、HCC1937、SKBr−3およびT−47D、膵臓がん細胞株であるPK−1、Panc−1およびBxPC−3ならびに、乳腺細胞株(非腫瘍性)であるMCF10Aからも同様にして全RNAを抽出した。これらから得られた全RNAを用いて前記(1)(2)と同様にリアルタイムPCR法によりPRDM14の遺伝子発現を解析した。内部標準としてGAPDH遺伝子を用い、GAPDH遺伝子の発現量に対するPRDM14遺伝子の発現量の比(すなわち、PRDM14遺伝子の発現量/GAPDH遺伝子の発現量)により、各サンプルにおけるPRDM14遺伝子の発現を図1−D(a)(b)に示す(各サンプルにつき3回ずつ実験を行った)。
<実施例2>免疫染色法・ウェスタンブロット法によるPRDM14タンパク質の検出
日本人乳がん患者161人(ステージ(stage)0:20例、ステージI:42例、ステージII:50例、ステージIII:38例、ステージIV:11例)から得られた手術検体がん組織をホルマリンにより固定して定法によりパラフィン切片を作製し、また、膵臓がん患者より得られた手術検体(ステージII:9例、ステージIII:147例、ステージIV:13例)により作製されたTissue Microarray(Biomax US、Accumax)169検体分に対して、1次抗体として抗PRDM14抗体(ABGENT社、AP1214A、50倍)を用いて4℃で一晩インキュベーション後、2次抗体としてストレプトアビジン標識ヤギ抗ウサギ抗体(DAKO社)を用いてインキュベーションを行い、EnVision-Plus(DAKO社)を用いて免疫染色を行った。上記症例の正常部分の組織をコントロールに用いた。また、核染色はヘマトキシリンを用いて行った。
結果を図1−Cに示す(倍率は400倍)。PRDM14遺伝子の発現が上昇している症例では、PRDM14の発現も上昇していることが確認され、遺伝子発現の増加によりタンパク質の発現増加が引き起こされている。
また、ウェスタンブロット法によりがん細胞株のPRDM14遺伝子産物の発現を確認した(図1−D(c))。SDS−PAGE後、5%BSAでブロッキングを行い、1次抗体として抗PRDM14抗体(ミリポア社、#AB4350、1000倍)を用いて4℃で一晩インキュベーション後、HRP標識2次抗体(抗ウサギ抗体:GE、NA9340-1ML)により定法に従い、PRDM14遺伝子産物の発現を検出した。
<実施例3>細胞増殖におけるPRDM14の関与
PRDM14のがん化における役割を明らかにする目的で、乳がん細胞株にPRDM14遺伝子を導入した場合の細胞増殖について検討した。
PRDM14遺伝子のレンチウイルス発現ベクターEX-W1089-Lv102(GeneCopoeia)を使用した。同ベクターを乳がん細胞株である発現が極めて低いMDA−MB−231細胞、中程度の発現のあるHCC1937細胞、発現の高いMCF7細胞、および、発現がない非がん細胞であるMCF10A細胞にレンチウイルス法により遺伝子導入し、コンストラクトが導入された細胞を薬剤マーカーPuromycinにより選別を行い、mRNAを前記リアルタイムPCR法で、タンパク発現をFLAGタグにて検出して導入を確認した(図1−F(a))。
また、同様に中程度の発現のあるHCC1937細胞、発現の高いMCF7細胞を対象にPRDM14遺伝子に対するレンチウイルスshRNA発現ベクター(psiHIV-U6)を導入し、コンストラクトが導入された細胞を薬剤マーカーPuromycinにより選別を行い、さらに、EGFPによりセルソーターであるFACS Aria(BD)により複数回ソーティングを行った。最終的にmRNAを前記リアルタイムPCR法(図1−F(c)(d))で、タンパク発現を前記ウェスタンブロット法(抗PRDM14抗体(ミリポア社、#AB4350))にて検出して遺伝子のノックダウン効率を確認した。使用したcntl sh、shRNA#1〜4は、いずれもGenecopoeia社製であり、配列等を下表に示す。
遺伝子導入株を用いて、MTT法により細胞のバイアビリティ(viability)を測定し、さらに、コロニー形成能を解析した。定常発現株を培養皿へ細胞を播種し3週間後、細胞をメタノールにより固定して、ギムザ液にて染色し、コロニー数を測定した。コントロールとしてバックボーンとなっている発現ベクターのみを導入した細胞を用い、コロニー形成能を比較した。
結果を図2−A、図2−Jに示す。
<実施例4>PRDM14を治療標的する上での乳がん細胞の増殖への影響
PRDM14の治療標的への応用が可能か否か詳細に解析するため、乳がん細胞株MDA−MB−231、HCC1937、MCF7をPRDM14遺伝子に対するsiRNAを導入して、抗腫瘍効果を呈するかどうか、さらに、抗癌剤の併用によるPRDM14遺伝子に対するsiRNAの作用を検討した。
PRDM14遺伝子に対するsiRNAをインシリコのプログラムにより7種類選択し、それらの遺伝子発現抑制効果を上記3種の乳がん細胞にsiRNAで処理し、72時間後に定法に従い全RNAを抽出し、前記qRT−PCR法で検討したところ、それらの乳がん細胞で共通して効果を発揮した配列がsiRNA#2、siRNA#3、siRNA#5の3配列であった(図2−K)。
このうち、3−UTRの配列に対するsiRNA#5を除いた。これは、多くの腫瘍で3−UTR配列が短縮化される現象が知られており、内因性のmiRNAの作用を受けなくなることが報告されているためである。遺伝子のコード領域に対するsiRNA#2、siRNA#3を使用することとした(それらの配列を表2に示す)。なお、対照siRNAは、(株)RNAi製、「万能ネガコン」)を使用した。
がん細胞をプレートに播種する際にRNAiMAX試薬(Lifetechnologies)を用いて、リバーストランスフェクション(reverse transfection)法により、上記siRNA(5nM)を細胞に導入した。24時間後に培地を通常培地に交換し、72時間後、各種アッセイに供した。抗がん剤との併用においては、48時間後にシスプラチン(CDDP)(25μM)、アドリアマイシン(1μM)、ドセタキセル(0.5μM)となるように培地に添加し、72時間後、MTT法により細胞の生存率を測定した。結果を図2−Bに示す。
PRDM14遺伝子発現を低濃度のsiRNAにより一過性に発現を低下させた細胞株においては、コントロール細胞に比べ、細胞の生存率が低下した。さらに、一般的に培養細胞系に使用されるより低濃度の抗がん剤を短時間併用したところ、細胞の生存率が相乗的に低下した。したがって、PRDM14の発現は、抗癌剤感受性の低下に関与することが示唆される(図2−B)。
<実施例5>PRDM14を治療標的する上での膵臓がん細胞の増殖への影響
実施例4と同じ手法により、実施例1(3)で使用した3種類の膵臓がん細胞株を用いて同様の実験を行った。その際、予めゲムシタビン塩酸塩溶液によりおよそ半数の細胞が生存するゲムシタビン濃度を求めた。PRDM14に対するsiRNAを用い、PRDM14を過剰発現する3種類の膵臓がん細胞株においてPRDM14遺伝子のノックダウンを行い、ゲムシタビン塩酸塩溶液を併用する場合、夫々、終濃度が10μM、5μM、5μMとなるように添加した。この結果、乳がん細胞株で認められたのと同様に、PRDM14遺伝子発現を低濃度のsiRNAにより一過性に発現を低下させた細胞株においては、コントロール細胞に比べ、細胞の生存率が低下した。さらに、ゲムシタビン塩酸塩溶液を短時間併用したところ、細胞の生存率が相乗的に低下した。したがって、PRDM14の発現は、膵臓がん細胞においても抗癌剤感受性の低下に関与することが示唆される(図2−C)。
<実施例6>がん細胞のSP画分の解析:
がん幹細胞は、ヘキスト蛍光色素(Hoechst33342)で染色し、フローサイトメトリーを利用してUVレーザー(波長約350nm)を励起光に用いて検出すると、Side Population(SP)画分に濃縮される。SP画分とは、ヘキスト蛍光色素によって染色されるMain Population(MP)画分に対して、ABCトランスポーターなどを介して色素を細胞外に排出することで染色されない画分のことをさす。
(i)試薬の調製
培地は5%の抗ウシ胎児血清(FCS)入りDMEM培地を調整し、37℃に温めておいた。ベラパミルは50mMに調整し、5%FCS+DMEMで、5mMに希釈した。ヘキスト33342は5%FCS+DMEMで250μg/mLに調整した。
(ii)フローサイトメトリー(FACS)用の細胞の調製
細胞を4mLの5%FCS+DMEMで懸濁し、細胞数を数えた。さらに5%FCS+DMEMを加えて細胞濃度を1×10個/mlに調整し、ベラパミル(+)用に1mLをファルコンチューブに採取した。ベラパミル(+)用および残りの細胞(ベラパミル(−)用)を37℃で10分間、ウォーターバスでインキュベートした。インキュベート後、ベラパミル(+)用にはベラパミルの最終濃度が50μMになるようにベラパミル溶液を加え、その後ベラパミル(+)用およびベラパミル(−)用に、ヘキスト33342の最終濃度が2.5μM〜5.0μMとなるようにヘキスト33342溶液を加えた。
37℃で90分間振とうインキュベートし、すぐに氷上で冷却した。800rpm、4℃で3分間遠心分離して上清を取り除いた。1×PBS+5%FCS液で懸濁して、氷冷しておいたFACSチューブに移した。再び800rpm、4℃で3分間遠心分離して上清を取り除き、1×PBS+5%FCS液で懸濁した。再度、同様に遠心分離して上清を取り除き、1×PBS+5%FCSにEDTAを最終濃度2mMとなるように加えたもの500μLで懸濁した。ピペッティングし、FACS用セルストレイナーに通した。1mg/mLのプロピジウム・アイオダイド(PI)を0.5μL加え、流動速度を1000個/秒でFACSにかけた。
(iii)フローサイトメトリー(FACS)
フローサイトメーターはBD FACS Aria(BD社製)を用いた。FACSの操作は取扱説明書にしたがって行った。最初にベラパミル(−)の細胞を流してSP画分の細胞が検出できるかを確認し、確認できたらSP画分にゲートをかけてベラパミル(+)の細胞を流してSP画分の細胞が消えているかを確認した。消えていればその画分の細胞はSP画分細胞であると断定し、その画分の細胞数、割合をFlowJoソフトウェア(トミーデジタルバイオロジー)で解析した。
PRDM14遺伝子のノックダウンによるSP画分を解析する目的で、前記siRNA#2、siRNA#3を乳がん細胞株MCF7、HCC1937細胞(図2−E)、実施例1(3)で用いた3種類の膵臓がん細胞株(図2−F)、さらに、腎臓がん細胞株CaKi−1細胞(図9)に導入してから72時間後に上記の方法でSP画分の解析を行った。それとは別に、前記方法で作製したPRDM14遺伝子の定常発現株、ならびにshRNAベクターで定常的に遺伝子発現を低下させた乳がん細胞でも同様に解析を施行した(図2−M)。図2−Lにおいて、レセルピンはSP画分を消失させるために使用した。
がん細胞をプレートに播種する際にRNAiMAX試薬(Lifetechnologies)を用いて、リバーストランスフェクション法により、上記siRNA(5nM)を細胞に導入した。24時間後に培地を通常培地に交換し、72時間後、各種アッセイに供した(図2−E、F)。
抗がん剤との併用においては、48時間後にアドリアマイシン(1μM)、もしくは、ゲムシタビン塩酸塩溶液(5μM)を添加し、72時間後に解析を行った。
<実施例7>がん細胞のアポトーシスの解析
早期アポトーシスを検出できるアネキシン(Annexin)Vと後期のアポトーシスを検出するPI(ヨウ化プロピジウム)により対象のがん細胞を染色した。
冷PBSで細胞を2回洗浄し、〜1×10個/mLの細胞濃度になるように1×Binding bufferに再浮遊した。5mLのFalconチューブに100μLの細胞浮遊液(〜1×10個)を加え、各試験管にFITC標識アネキシンV試薬(5μL)とPI(2μL)とを加えた。試験管を緩やかに混和し、室温、暗所で15分間インキュベーションし、各試験管に1×Binding bufferを400μL加え、1時間以内にフローサイトメーターで測定した。
がん細胞をプレートに播種する際にRNAiMAX試薬(Lifetechnologies)を用いて、リバーストランスフェクション法により、前記siRNA(5nM)を細胞に導入した。24時間後に培地を通常培地に交換し、72時間後、各種アッセイに供した(図2−G、H)。
抗がん剤との併用においては、48時間後にアドリアマイシン(1μM)、もしくは、ゲムシタビン塩酸塩溶液(5μM)を添加し、72時間後に解析を行った(図2−N、O)。
<実施例8>がん細胞によるtumor sphereアッセイ:
スフィアアッセイ(Sphere assay)を、乳がん細胞株を用いて行った。プレート表面を特殊加工して上皮細胞が接着しないUltra-Low Attachment 6 well plate(Corning)を用いて、血清無添加培地(F12 medium)25mLに対して、上皮細胞成長因子(epidermal growth factor:EGF)20ng/mLおよび塩基性線維芽細胞成長因子(basic fibroblast growth factor:bFGF)20ng/mLとなるように添加し、さらに、B27 supplement(Life Technologies)0.5mLを加えて、2週間培養して球状のコロニーが形成されるかどうかを調べた。
その結果、PRDM14遺伝子を導入された乳がん細胞(MDA−MB−231、HCC1937)のスフィア形成能が亢進とするとともに、幹細胞性マーカーの上昇を認めた。具体的には、Nanog、Oct3/4、SOX2、SSEA1、SSEA4に対する蛍光抗体(R&D Systems、Human Embryonic Stem Cell、SC008)をプロトコールに従い、形成されたスフィアを免疫染色し、共焦点顕微鏡で観察した。Nanog、Oct3/4、SSEA1、SSEA4のタンパクレベルでの発現亢進が認められた(図2−I)。
<実施例9>PRDM14遺伝子による幹細胞性を担う遺伝子の発現変動
以上から、腫瘍細胞にPRDM14遺伝子を導入することによりSP画分が増加し、アポトーシスに耐性となり、さらにスフィア形成能の亢進が認められた。また、発現を抑制することにより、SP画分が減少し、アポトーシス感受性となり、最終的に薬剤感受性が亢進することがわかった。
そこで、PRDM14遺伝子により制御される遺伝子を同定するために、PRDM14遺伝子を導入した乳がん細胞株(MCF7、HCC1937、MDA−MB−231、MCF10A)より抽出したtRNAを用いて、定量的RT−PCR法をベースとしたRT2 Profiler PCR Arrays(QIAGEN)を実施した。具体的には、そのうちのアポトーシス関連分子、薬剤耐性関連分子、幹細胞関連転写因子のパネルを実施した。その結果の一部を以下に示す(表4)。
また、標的遺伝子の一部に関してPRDM14遺伝子産物の直接的な転写制御であるかどうか検証するために、ChIPアッセイを実施した。具体的には、乳がん細胞株MDA−MB−231、HCC1937細胞にHaloタグとPRDM14の融合タンパク質を発現させる目的で、レンチウイルスベクターEX−W1089−Lv110(GeneCopoeia)をそれらの細胞に導入し、puromysinで選択後、ウェスタンブロット法でHaloタグを検出することで陽性細胞を選別した。それらの細胞を用いて、HaloCHIP(商標)System(Promega)のプロトコールに従い、PRDM14遺伝子産物が結合するゲノムDNAの断片を免疫沈降して得た。それらのDNA断片をテンプレートとして、定量的PCRを行った(q−ChIP−PCR法)。使用したプライマーは、EpiTect ChIP qPCR Primer Assay For Human NANOG(QIAGEN;NM_024865.2(-)05Kb:GPH1002937(-)05A)、EpiTect ChIP qPCR Primer Assay For Human POU5F1(QIAGEN;NM_002701.4 (-)06Kb:GPH1024787(-)06A)、EpiTect ChIP qPCR Primer Assay For Human POU5F1(QIAGEN;NM_002701.4 (-)03Kb:GPH1024787(-)03A)を使用して解析した。コントロールは、ChIP-qPCR Human IGX1A Negative Control(QIAGEN)を使用した。その結果を図3−Aに示す。
<実施例10>PRDM14遺伝子により変動する液性因子の同定
PRDM14遺伝子産物はRT−PCR法、ウェスタンブロット法、免疫組織学的手法で検出が可能であるが、生検組織が必要であることから、コンパニオンマーカーとして血清診断が可能な液性因子の同定が必要とされる。同時にインビトロ培養系ではPRDM14遺伝子の導入に伴う細胞増殖の変化が僅少である一方、インビボ実験系でヌードマウスの乳腺に遺伝子導入腫瘍細胞株を同所移植すると、PRDM14遺伝子導入腫瘍細胞株の腫瘍の成長が著しく促され、リンパ節転移を生じる現象を確認していた。そこで、PRDM14遺伝子導入腫瘍細胞株の培養上清中に分泌されるサイトカイン、ケモカインを網羅的に測定することとした。
そのため、Luminex200システム(Luminex社Luminexシステム、MAP(Multiple Analyte Profiling)テクノロジーを基盤とする技術)で解析した。ターゲットタンパク質に特異的結合する抗体と結合したLuminex(登録商標)ビーズを液相でターゲット抗原に反応させ、このビーズは蛍光色素で着色されており最大100種類の抗体を区別することが可能であり、さらに、抗原タンパク質に対する別の抗体と蛍光標識(ビオチン化二次抗体とストレプトアビジン−PE)した二次抗体を反応させ、ビーズ−抗体−ターゲットタンパク質複合体を形成させる。フローサイトメトリーによってLuminex(登録商標)ビーズを1粒ずつ流しながら、赤色レーザとAPDセンサでビーズの直径と色を測定し、緑色レーザと光電子増倍管でビーズ表面の蛍光量を測定する。このことにより、サンプル中の解析対象である各抗原を同時に定量することが可能である。計測後、標準溶液の蛍光強度とタンパク質濃度から標準曲線を作成し、複数のターゲットタンパク質について濃度を関数式から換算する。今回は、下表に示す41種類のサイトカイン、ケモカインを網羅的に測定した。
このうち、再現性があったRANTES/CCL5(R&D)、CXCR1(R&D)、CXCR2(USCN)、CXCR3(USCN)、CD40L(R&D)に関してELISA法にてPRDM14遺伝子導入腫瘍細胞株の培養上清中に分泌されるサイトカイン、ケモカインを3回反復して定量化実験を行った(図3−B、C)。
<実施例11>同所移植モデルを用いた腫瘍形成能実験
前記実施例で作製したPRDM14遺伝子発現腫瘍細胞(MDA−MB−231、HCC1937)をヌードマウスに接種して腫瘍形成能を確認した。
1×10個のPRDM14遺伝子発現腫瘍細胞を氷上で100μLの1×PBSに懸濁し、100μLのマトリゲル(BD)に混ぜた。100μLの細胞マトリゲル混合液をnu/nuマウス(日本クレア社から入手)の乳腺(fat pad)に同所性接種し、腫瘍を形成し始めたら長径・短径の長さを測り、回転楕円体に近似して体積を算出して比較した。結果を図4−Aに示す。
さらに、前記実施例で作製したshRNAベクターでPRDM14遺伝子の発現を抑制した腫瘍細胞(乳がん細胞株HCC1937由来および膵臓がん細胞株PK−1由来)を同様の手法で同所性接種し、腫瘍の長径・短径の長さを測り、回転楕円体に近似して体積を算出して比較した。夫々の結果を図4−Dおよび図7−Aに示す。さらに、PK−1由来については、さらにin vivoで経過を追い、エンドポイントで摘出したマウス皮下腫瘍像を図7−Bに示し、その腫瘍重量を図7−Cに示し、その病理組織像(HE染色)を図7−Dに示す。
その結果、(i)shRNAベクターでPRDM14遺伝子の発現を抑制した場合、ほとんど腫瘍が形成されない、さらに、(ii)PRDM14遺伝子の導入によりSP画分細胞が増加し、(iii)逆に同遺伝子を抑制するとSP画分細胞が減少することから、PRDM14遺伝子産物が、がん幹細胞の腫瘍形成の大きな要因と考えられる。
安楽死後、マウスを剖検し腫瘍重量、リンパ節転移、肺転移を検証し、PRDM14遺伝子の導入された腫瘍株では腫瘍が重く、リンパ節転移、肺への微小転移が対照に比較して多い結果であった。得られた腫瘍組織に対して、凍結切片を作製し、断片化カスパーゼ−3(Cleaved Caspase-3)抗体(Cell Signaling:SA1E、#9664)、抗CD31抗体(BD:#55027)で免疫組織学的検討を行ったところ、PRDM14遺伝子を導入したがん細胞で形成される腫瘍塊ではアポトーシスに陥る細胞がほとんど皆無であり、腫瘍血管の密度が高いことが判明した(図4−I)。
<実施例12>肺転移モデル実験
nu/nuマウスの尾静脈より肺転移巣を形成することが判明しているMDA−MB−231細胞を用いた。具体的には、PRDM14遺伝子発現腫瘍細胞(MDA−MB−231)と対照の腫瘍細胞(PRDM14発現ベクターのバックボーンを導入した腫瘍細胞)をヌードマウスの尾静脈より1×10個の細胞をマウス1匹あたり静脈注射した。1ケ月後に安楽死させ肺転移巣を確認した。その結果、PRDM14導入株では大きな転移巣を認めた。一方、コントロールでは数個の微小転移を認めるのみであった(図4−E、F)。
<実施例13>同所性移植片・肺転移巣に対する局所治療モデルの作製
実施例11と同様にPRDM14遺伝子を発現しており、ヌードマウスに腫瘍を形成することが判明しているMDA−MB−231細胞、およびHCC1937細胞(ともに野生型であって遺伝子導入株ではない)をヌードマウスに同所移植し、一定の腫瘍径になった段階でsiRNA、および既存の抗がん剤との併用で治療開始するモデルを作製した。siRNAの投与量は、siRNAの特異的な治療効果があると判断される極めて低濃度である1mg/マウス体重(kg)とし、市販されているインビボ用のドラッグデリバリーシステムであるPEI(in vivo jet PEI:ポリプラストランスフェクション社)を使用してプロトコールに従い調製し、3回/週で腫瘍内に直接注入した。一方、抗がん剤に関しては、抗がん剤投与群に対してアドリアマイシン(1mg/マウス体重(kg))、もしくは、ドセタキセル(5mg/マウス体重(kg))を週1回腹腔内に投与した。その結果、PRDM14遺伝子のsiRNA単独でも腫瘍の極小効果、上記抗がん剤の併用で相乗的に腫瘍の極小効果が得られた(図5−A〜D)。
さらに、転移巣への効果を確認する目的で肺転移を形成しやすいMDA−MB−231を尾静脈より1×10個の細胞をマウス1匹あたり静脈注射した。注入1週間後より、前記in vivo jet PEIの静脈投与プロトコールに従い、PRDM14遺伝子に対するsiRNAとDDS(PEI)の合剤を静脈注射で投与した。投与開始後、1ケ月後に安楽死させ肺転移巣を確認した。siRNA#2では効果が乏しいが、siRNA#3では転移巣をほぼ認めない結果であり、肺の重量も有意差を以て小さい結果となった(図5−E、F)。
<実施例14>同所性移植片に対する静脈投与治療モデルの作製
PRDM14遺伝子を発現しており、ヌードマウスに腫瘍を形成するHCC1937細胞を同所移植し、一定の腫瘍径を超えた後、治療用核酸と東京大学片岡研究室で開発されたDDS剤(カルシウムリン酸ミセル)を混合し、合剤としてマウスの尾静脈より静注する治療モデルを作成した。具体的には、1×10個のHCC1937細胞を氷上で100μLの1×PBSに懸濁し、100μLのマトリゲル(BD)に混ぜた。100μLの細胞マトリゲル混合液をnu/nuマウス(日本クレア社から入手)の乳腺(fat pad)に同所性接種し、腫瘍を形成し始めたら長径・短径の長さを測り、回転楕円体に近似して体積を算出して比較した。核酸の投与は、前記実施例と同じく1mg/マウス体重(kg)とし、東京大学片岡研究室で開発されたDDS剤(カルシウムリン酸ミセル)を混合して調製し、3回/週で腫瘍内に直接注入した。また、乳がんの標準治療に用いられるDOCを通常使用される量より減量(5mg/マウス体重(kg))して週1回腹腔投与で併用した。その結果、有害事象なく、著名な腫瘍抑制効果が得られた(図5−G)。
前記DDS剤は、特開2011-231220号公報に基づき、以下のようにして製造した。使用したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)はSigma社から;β−ベンジル−N−カルボキシ−L−アスパラギン酸無水物(BLA−NCA)は日油株式会社から;ジエチレントリアミン(ビス(2−アミノエチル)アミン)は東京化成工業株式会社;酢酸および塩酸は和光純薬工業株式会社から購入し;2−プロピオニック−3−メチルマレイン酸無水物(CDM無水物)は、文献(A. Naganawa, Y. Ichikawa, M. Isobe, Tetrahedron 1994, 50, 8969-8982; D. B. Rozema, K. Ekena, D. L. Lewis, A. G. Loomis, J. A. Wolff, Bioconjugate Chem. 2003, 14, 51-57)に従って調製した。
ポリ(エチレングリコール)−ポリ(2−[(2−アミノエチル)アミノ]エチルアスパルトアミド):mPEG−pAsp(DET)(2a)の合成:
特開平8-310970号公報に開示された方法に従い、α−メトキシ−ω−アミノ−ポリ(エチレングリコール)(mPEG−NH、MW:12,000)を開始剤として、β−ベンジル−N−カルボキシ−L−アスパラギン酸無水物(BLA−NCA)を開環重合させ、下記式(1)で表されるポリ(エチレングリコール)−b−ポリ(β−ベンジル−L−アスパルテート)(mPEG−b−PBLA)を得た。mPEG−b−PBLA中の「PBLA」単位の重合度は、H−NMR測定によると96であった。
次いで、ChemMedChem 1 (2006) 439-444に記載の方法に従い、mPEG−b−PBLAをNMPに氷浴中で溶解し、同容量のNMPで希釈したジエチレントリアミン(DET、PBLAセグメントのベンジル基に対して100当量)を加え、0℃(氷浴)で4時間撹拌しながら反応させた。反応を、冷10%酢酸を少しずつ加えて停止させた(溶液の容量の2倍)。中和溶液を0.01M塩酸溶液(×3)及び蒸留水(×3)に対して4℃で透析した。凍結乾燥後、透析した溶液から白色粉末を得た。得られたmPEG−pAsp(DET)は、単峰型分子量分布かつPBLAからpAsp(DET)へほぼ100%変換したことが、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)及びH−NMR測定により夫々確認された。
ポリ(エチレングリコール)−ポリ(N−{N−[N−(3−プロピオニル−2−メチルマレアミル)−2−アミノエチル]−2−アミノエチル}アスパルタミド:mPEG−pAsp(DET−CDM)の合成:
mPEG−pAsp(DET)(1級アミノの0.538mmol)を0.5Mのビシン緩衝液(pH9)(2ml)に溶解した。CDM無水物(pAsp(DET)の1級アミンに対して5倍当量)を溶液にゆっくり加え、0℃で2時間撹拌した。反応混合物をアミコンウルトラ(MWCO=10,000;ミリポア社製)(0.5M NaHCO(pH9.1)で×3、蒸留水で×3)で精製した。凍結乾燥後、最終生成物を白色粉末として得た。H−NMRから計算した変換収率は、90%超であった。
DDS剤としてのsiRNA担持リン酸カルシウム(CaP)ナノ粒子の調製(PEG−CCP/リン酸カルシウム粒子の調製とsiRNAの封入)
2.5M CaCl溶液1μLを10mM Tris/HClバッファー(pH7.5)11.5μLで希釈した(第1溶液、12.5μL)。10mM Tris/HClバッファー(pH7.7)で希釈した、チャージコンバージョンポリマー(CCP)であるmPEG−pAspを含む溶液を、15μM siRNA溶液(10mM Hepesバッファー(pH7.2)中)および、1.5mM NaPOおよび140mM NaClを含む50mM Hepesバッファー(pH7.5)と混合した(第2溶液、12.5μL〜13μL)。第1溶液を一定速度で約20秒かけてピペットで第2溶液と混合し、siRNA担持CaPナノ粒子の溶液を調製した。
<実施例15>PRDM14遺伝子と分化形質との関連
PRDM14を発現している乳がん細胞株HCC1937に対して、PRDM14遺伝子特異的なshRNAによりPRDM14をノックダウンし、細胞表面のCD44およびCD24の発現をフローサイトメトリーにより解析した。結果を図8−Aに示す。PRDM14の発現を低下させると、CD44の発現のみが低下した。CD44は、表1に示すように、乳がんの幹細胞性の指標となる分子であることから、CD44の発現が低下するにつれ分化の形質を示すようになることが示唆される。
また、PRDM14の発現をshRNAにより低下させた乳がん細胞株(HCC1937)および膵臓がん細胞株(PK−1)の夫々をマウス皮下に移植し、形成された腫瘍に対して、分化の指標となる分子(CK5およびPDX1)に特異的な抗体を用いて免疫染色した。CK5は乳腺の未分化性を示し、PDX1は膵臓細胞の未分化性を示すマーカーである。得られた結果を図8−Bに示す。PRDM14の発現を低下させると、いずれの細胞においても、未分化マーカーの発現が低下することがわかった。
[まとめ]
(i)転写因子であるPRDM14は、乳がん、卵巣がん、膵がん、腎がんの臨床多検体による検討により、がん組織特異的にmRNA、タンパク発現が上昇していた。さらに、20例前後の検討であるが、同様に肺がん、食道がん、大腸がん、腎がん、前立腺がん、尿路腫瘍、精巣腫瘍において発現の上昇を認める。一方、正常組織の発現レベルは皆無もしくは極めて低い発現レベルである。
(ii)PRDM14遺伝子の過剰発現株、shRNAによる恒常的なKD株を樹立し、がん細胞に及ぼす影響を検討した:A)Side Population(SP)画分において、PRDM14遺伝子により同画分が過剰発現で増加、KDで減少することを複数のがん細胞株で実証した(FACS Aria)。B)Tumor sphereアッセイにおいて、PRDM14遺伝子の導入によりsphereの形成能が上昇した。また、その際に形成されるsphereにおいて、幹細胞マーカーの発現を評価したところ、Oct3/4、Nanog、SSEA1、SSEA4のタンパク発現が上昇していた(ICC、共焦点)。C)ヌードマウス(♀、6W)の乳腺にPRDM14遺伝子の導入株を移植したところ、著名な増腫瘍効果を認めた。逆にKDによりほとんど腫瘍が形成されなくなることが判明した。D)一方で、インビトロにおいては遺伝子導入株で検討したところ、がん細胞の増殖活性は増加しなかった。
(iii)PRDM14に対する特異的siRNAを使用して各種評価を行った:A)siRNAによるがん細胞処理でがん細胞のバイアビリティが低下し、アポトーシスが誘導され、さらにSP画分が消滅した。B)乳がん株に関してsiRNAに加えCDDP、ADM、DOXを併用し、膵がん株に関してはGEMを併用してがん細胞のバイアビリティを評価したところ、siRNA単独群に比較してさらにバイアビリティが低下し、アポトーシスが著明に生じた。C)ヌードマウスを使用しsiRNAによる治療モデルを構築、DDSと併用し腫瘍への局所注射(PEI)、尾静脈注(ミセル)により評価した。結果、抗腫瘍効果、肺への転移モデルにおいて肺転移を抑制する作用を確認した。
本発明に係る分子マーカーは、がんの幹細胞性に起因する転移、再発の予測が、幅広いがん種で可能であるから極めて有望である。また、DDS剤との併用で反復・異なる研究室で同様の治療効果を認めており、治療標的として極めて有望である。本発明に係る分子マーカーは、経年後再発が想定される幅広いがん種の難治性がん患者に有効性が高いことが想定され、国民のニーズを十分に満たす。

Claims (14)

  1. 対象において、PRDM14(PR domain-containing protein 14)遺伝子の発現により、がん幹細胞を対象から検出するための分子マーカーを指標として、がん幹細胞の有無を生体外で判定するか、または、がん幹細胞誘導度を生体外で判定する方法であって、
    対象が、乳房、肺、膵臓、卵巣、腎臓、膀胱および精巣からなる群から選択される1種もしくは2種以上の細胞または組織由来の細胞集団であり、
    分子マーカーが、PRDM14遺伝子産物またはその断片からなり、該遺伝子産物が、mRNAであり、
    該遺伝子産物をRT−PCR法により検出する工程を含み、該遺伝子産物と内部標準遺伝子との発現相対比が、正常な対象の発現相対比と比較して有意に上昇していたとき、がん幹細胞が有ると判定するか、または、がん幹細胞誘導度が高いと判定する、前記判定方法。
  2. 請求項1に記載の判定方法を用いて、一つの抗癌剤から他の抗癌剤へと切り替えるタイミングの判断を補助する方法であって、抗癌剤治療において、PRDM14遺伝子の発現の上昇を指標とする、前記方法。
  3. 請求項1に記載の判定方法を用いて、がんの予後の予測を補助する方法であって、PRDM14陽性がんが、PRDM14陰性がんと比較して予後が不良である、前記方法。
  4. 請求項1に記載の判定方法に使用するためのキットであって、PRDM14遺伝子の発現により、がん幹細胞を対象から検出するための分子マーカーを検出するための試薬を少なくとも含み、
    検出するための試薬が、PRDM14遺伝子産物であるmRNAを検出するための、PRDM14遺伝子に相補的な塩基配列を有するプローブおよび/またはプライマーである、前記キット。
  5. 対象において、PRDM14遺伝子の発現により、がん幹細胞を対象から検出するための分子マーカーを指標として、がん幹細胞誘導度を生体外で判定する方法であって、
    対象が、乳房、肺、膵臓、卵巣、腎臓、膀胱および精巣からなる群から選択される1種もしくは2種以上の細胞または組織由来の細胞集団であり、
    分子マーカーが、PRDM14遺伝子産物またはその断片からなり、該遺伝子産物が、mRNAであり、
    請求項4に記載のキットを使用して該遺伝子産物をRT−PCR法により検出する工程を含み、該遺伝子産物と内部標準遺伝子との発現相対比が、正常な対象の発現相対比と比較して有意に上昇していたとき、がん幹細胞誘導度が高いと判定する、がん幹細胞誘導度の生体外での判定方法。
  6. がん幹細胞において、PRDM14遺伝子の発現を抑制するために用いられる核酸を含む、がん幹細胞の機能を阻害するための医薬組成物。
  7. 核酸が、PRDM14遺伝子のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列もしくはこれと90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を阻害する核酸である、請求項6に記載の医薬組成物。
  8. 核酸が、アンチセンス、siRNAおよびshRNAからなる群から選択される1種または2種以上である、請求項7に記載の医薬組成物。
  9. siRNAが、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列もしくはこれと90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドをコードするポリヌクレオチドRNAからの連続する18〜28ヌクレオチドのセンス鎖配列とその相補的配列であるアンチセンス鎖配列とを含む、請求項8に記載の医薬組成物。
  10. 医薬組成物が、さらに抗がん剤を含む、請求項6〜9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
  11. 医薬組成物が、がん治療用でり、
    がんが、請求項1に記載の判定方法を用いて、がん幹細胞が有ると判定されたがん、または、がん幹細胞誘導度が高いと判定されたがんである、請求項6〜10のいずれか一項に記載の医薬組成物(ただし、前記がんが、乳癌、卵巣癌、および非小細胞肺癌である場合を除く)
  12. 医薬組成物が、がんの転移・浸潤および/または経年後再発を抑制するためのものであり、
    がんが、請求項1に記載の判定方法を用いて、がん幹細胞が有ると判定されたがん、または、がん幹細胞誘導度が高いと判定されたがんである、請求項6〜10のいずれか一項に記載の医薬組成物(ただし、前記がんが、乳癌、卵巣癌、および非小細胞肺癌である場合を除く)
  13. がん幹細胞が、乳がん、肺がん、食道がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、子宮頸部がん、子宮体部がん、卵巣がん、腎臓がん、前立腺がん、膀胱がん、精巣腫瘍、甲状腺がん、副腎がん、およびリンパ腫からなる群から選択される1種もしくは2種以上の細胞から誘導される、請求項6〜10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
  14. がん幹細胞が、乳がん、膵臓がん、および腎臓がんからなる群から選択される1種もしくは2種以上の細胞から誘導される、請求項13に記載の医薬組成物。
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