FPSO(Floating Production, Storage, Offloading)と呼ばれ、主として、洋上の設置場所で浮上した状態で、海底油田等から原油等の海洋資源を得て、生産、貯蔵、出荷する施設として利用される浮体生産貯蔵設備が発明されてから40年ほど経過してきている。その間に、原油の生産を対象に200基近くが建造され、原油需要の1/4が賄われるようになってきている。
このFPSOの基本的な構造や建造方法は、開発初期の10〜15年間の数十基が建造される間にほぼ完成し、その後の直近の25年の間は殆ど変化していない。すなわち、長方形断面と高い乾舷とほぼ水平なデッキ面を持つ原油タンカーに若干の改造工事を行って、原油貯蔵機能と居住区機能を有するベース船体となる浮体構造体をまず完成させる。次に、トップサイドと呼ばれる原油処理設備を幾つかのモジュールに分けて建造し、クレーン船を用いて、このトップサイドモジュールを浮体構造体の甲板(デッキ)上に搭載する工事や、浮体構造体を係留するための係留設備を搭載する工事を行う。なお、これらの工事は東南アジア、東アジアの造船所で行われることが多い。その後、タンカーの推進器を用いるか、または、タグボートで、FPSOを曳航しての設置場所に運搬し、そこに予め敷設されている係留索に接続する、というスタイルがほぼ一貫して貫かれてきている。
このFPSOの設置場所における生産活動は多年にわたるため、このFPSOを係留する係留設備は100年に一度遭遇する規模の海象条件に耐えるように設計および建造がなされている。この係留設備は、過去25年の間ほぼ変わっておらず、FPSOを四方に多点係留する多点係留方式が用いられている。つまり、海象条件の厳しさに応じて、段階的に、浮体構造体(船体)の複数個所から出る何本かの係留索で浮体構造体全体を直接係留保持するスプレッドムアリング方式、多点係留されたチェーンテーブルを中心に風見鶏のように旋回(ウェザーベーン)するタレットムアリング方式、FPSO自体がタレット式多点係留ブイから離脱して回避することができるディスコネクタブルタレット方式などが使用される。
一方、この25年の間に、FPSOはトップサイドを中心に大型化、高度化、及び、高額化してきた。例えば、25年前のFPSOの平均的な構成は、全長260m程度の原油タンカーをベースの浮体構造体とし、トップサイドモジュールの個数が2個程度で合計重量は千トン以下であり、FPSOの全体のコストが100億円以下であった。これに対し、近年建造されているFPSOでは、浮体構造体に関しては全長が330mとさほど変わらないサイズの原油タンカーをベースとしていながらも、トップサイド部分は著しく大型化し、トップサイドモジュールの個数は20個近くにもなり、合計重量は数万トンとなり、全体のコストは数千億円に及ぶようになってきている。
更には、原油だけではなく天然ガスの生産にもFPSO方式が応用されようとしており(この場合は「FPSO」ではなく、「FLNG」と呼ばれる)、この場合には、トップサイドの合計重量や全体のコストは倍増する見込みである。このため、トップサイドの搭載工事においては多大なコストや期間を要し、原油生産の開始前の建造中にかかる建造資金の調達は金利を含めて大きな負担となる。
また、一方で、トップサイドの合計重量の増加により、このFPSOやFLNGの全体の重心が押し上げられてしまうため、浮体構造体として必要な最低限の復原力を確保するのが困難になってきている。
さらに、FPSOの浮体構造体となるベースタンカーには大きな変化がないのに比べて、トップサイドの重要性やコスト比率、全体コストが増大するにつれ、貯蔵設備等の浮体構造体側の部分におけるメンテナンスのために、生産活動に中断等が生じた場合に事業全体に及ぼす影響が著しく大きく、また、これらの事態が発生することは深刻な問題になるという問題がある。
例えば、浮体構造体に設けられるバラストタンクにおいては、海水バラストを注入した後に長期間空気に曝されることで、腐食が進んだりし、また、同じく浮体構造体に設けられる原油貯蔵タンクにおいては、原油に残存する不純物や海水分が貯蔵中に徐々に分離してタンクの底に溜り、海水や微生物の繁殖によって腐食したり、油面上の空間に酸素濃度を下げて爆発を防止するためにボイラーの燃焼排ガス(イナートガス:不活性ガス)を導入しているが、この燃焼排ガス中の硫黄分等によって腐食したりする。
この腐食などの事象に対応するために、該当するタンクの使用を中止して日数をかけて換気し、メンテナンスを行う必要が生じるが、この生産活動を中断するような状況は、生産活動による事業が高額化した結果、もはや許容しがたい状況となってきている。また、浮体構造体の限られた範囲で、多くの可燃性製品を取り扱うため、考えられる火災規模が大きくなる一方で、当初20名程度だった乗員数は今や100人を超えるような乗員数となり、一旦火災が発生すると、多数の乗員に危険が及ぶ可能性も生じてきている。
上記のように、現在では、FPSO等の浮体設備に関しての状況は、浮体構造体へのトップサイドモジュールの搭載作業を簡単にして搭載工事期間を短縮する技術や、トップサイドモジュールの搭載作業と、貯蔵設備を持つベース浮体である浮体構造体の建造・改造工事を並行して行う技術等のそれぞれの技術において革新が求められている状況にある。また、貯蔵設備を中心とする浮体構造体が備えている機能に対してメンテナンスフリー化が求められている。そして、それらを解決する技術では、全体重心を下げて復原力を増加できるようにすることや、火災時などにおける乗員の安全性を向上することも求められている。
そして、このような状況において、FPSOの建造方法を鑑みると、トップサイドモジュールの個数は現状では前述のように20個近くに及び、それらは各々陸上で建造され、各々が内包する配管や配線などの作業はできる限り陸上でなされている。このトップサイドモジュールは2千トン〜1万トン(2,000t〜10,000t)前後の重量のモジュールとなるが、クレーンの方が、例えば、シンガポールでは1,500t、韓国では3,000tまでのクレーンしかないため、現状の技術では、モジュール重量は1,500t程度なり、3,000t程度なりの上限になり、これらはひとつひとつクレーン船で吊り上げられ、ベース船体である浮体構造体に搭載される。
これらの各モジュールの構造体は一般に形鋼材で組み上げられた骨格構造であるが、浮体構造体に搭載した後に洋上での操業中に経験する横揺れを主とする荷重条件と、搭載時にクレーン船で吊り上げられる際にかかる荷重条件は、大きく異なるため、たった一度の搭載時における吊り上げだけのためにコストをかけて強度を増加する必要が生じている。
そして、各々のモジュールが搭載された後においても、各モジュールにまたがる配管や配線作業が多く残っているため、これらの作業を行う必要があるが、陸上ではなく岸壁沿いの洋上で行われることとなり、これらの作業に利用できるクレーンの数は激減して、しかも、ひとつひとつの部品の吊り上げ揚程も高くなっているので、その結果、モジュール間部品の搭載に多大な時間を要している。また、これらの作業の後で、ようやくモジュール間を通貫した漏れテストや導通テスト、機能テスト、被覆仕上げ等が行われることとなる。そのため、これらのテスト作業とそれ以前の数多くのモジュールの搭載作業と相まって長い搭載工事期間を要してしまう。
これらに対する対策として、搭載期間を短縮するためには、モジュールの分割単位を見直してモジュールを大型化し、理想的には機能設計上、つまり、各々の配管や配線の範囲を包括して完結した大型モジュールとして、できる限り陸上で部品組み付けや各種のテストを完了してから、一気に搭載することが有効となる。このように設計した場合には、モジュールの数は数個で済むが、重量は各々1万トン程度となる。
この一万トンクラスの吊重量能力を持つクレーン船は世界中にも数基しか存在せず、一般的にFPSOの建造工事が行われている東南アジア・東アジアの地域にはほぼ存在しない。なお、クレーン船を遠方からチャーターすることも可能ではあるが、その傭船料は1億円/日程度と、域内で調達できる数千トンの吊重量能力のクレーン船より一桁高額であって現実的ではない。このため、クレーン船を使用しない搭載方法の開発が望まれている。
一方、クレーン船を使用せずに物を船舶に搭載して輸送する方法としては、例えば、モジュールを組み立てた岸壁からモジュールを運搬台船に載せる場合等に、レールを仮設した上でモジュールをそのレール上を滑らせて搭載するスキッディングと呼ばれる方法や、ボギー車、SPMT(Self Propelled Modular Transfer)等と呼ばれる運搬台車に載せて搭載するロール・オン方式が知られている。
例えば、これに関連して、海域を運行して来た超重量機器を載置した搬送車を積載した台船を水路に進入させた後に、水路を閉鎖して水路内の海水を外に放出して、台船を着底させてから、台船と岸壁進入路の間にランプウェイを渡して、超重量機器を積載した搬送車を台船から分離して岸壁進入路に送行させる超重量機器の水切作業方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、貨物収納倉を多数のコンテナ等の貨物を一括搭載して構成し、この貨物収納倉を船舶の船体内部に積み込む船舶を、埠頭に横付して、船体の幅方向両側すなわち船体側壁から、船舶の底部と同じ高さに配置された貨物収納倉を、同じく船舶の底部と同じ高さの埠頭の貨物陸揚げ部に向けて水平移動させていくことにより、貨物収納倉の積降ろし若しくは積込み作業が行われる船舶の荷役方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、このような搭載方法を行うには、着底などにより岸壁と台船のデッキの高さを合わせたり、低い埠頭の貨物陸揚げ部を建造したりする必要がある。一般に岸壁の高さは最高潮位プラス数mであり、最大限にバラスト水を載荷したとしても乾舷が20m程度以上あるタンカーをベースにしたFPSOの浮体構造体には合わせようがなく、これらの方式は、このままでは、トップサイドモジュールを浮体構造体に搭載する工事には採用することができないという問題がある。
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、浮体設備の建造において、トップサイドモジュールを浮体設備の浮体構造体に載置及び配設する際に、トップサイドモジュールを吊り上げることなく、浮体構造体にトップサイドモジュールを載置及び配設することができて、トップサイドモジュールを巨大化してメガモジュールにしても容易に浮体構造体に載置及び配設でき、これにより、トップサイドモジュールの巨大化を可能にできると共に、トップサイドモジュールにおける吊り下げのためだけの強度強化を不要にできる、浮体設備の建造方法、及び、浮体設備の浮体構造体を提供することにある。
上記の目的を達成するための本発明の浮体設備の建造方法は、浮体設備のトップサイドの一部または全部をモジュール化して、このモジュール化したトップサイドモジュールを、前記浮体設備の浮体構造体に搭載して前記浮体設備を建造する浮体設備の建造方法において、前記浮体構造体が浮上している状態で、前記トップサイドモジュールを搭載している運搬台船を、前記浮体構造体の上側が開口した凹形状の内部空間に進入させて、前記運搬台船と前記浮体構造体のどちらか一方又は両方の沈下量を変化させることで、搭載されている前記トップサイドモジュールを前記浮体構造体の前記内部空間又は船側外板部の上部部分に設けられた載置部に載置し、その後、前記運搬台船を前記浮体構造体の内部空間から外部に移動することで、前記トップサイドモジュールを前記浮体構造体に載置する載置工程を含むことを特徴とする方法である。
また、この浮体設備としては、その生産の対象物は原油に限らず、海底鉱物資源や再生可能エネルギー、生物資源を生産するもの等も含まれる。また、必ずしも浮体式(F)かつ生産(P)、貯蔵(S)、出荷(O)のすべての機能を持つものには限らず、例えば、洋上の設置場所への到着した後において、この浮体設備が着底されるもの、ジャケットに搭載されるもの、また、この浮体設備において、貯蔵設備(S)を持たないもの、生産機能(P)を持たないもの等も含まれる。
また、水平方向への移動とは、上下方向の移動を全く含まないということでなく、水平方向の移動量が上下方向の移動量よりも大きいということであり、水平方向の移動を含む斜め上方や斜め下方も含む移動を意味する。
この方法によれば、トップサイドモジュールは、クレーン船などにおける吊り上げ作業を用いずに、運搬台船進入方式と運搬台船・浮体構造体の沈下量変化方式で浮体構造体に載置及び配設される。従って、トップサイドモジュールは吊り上げられることが無くなるので、吊り上げ時に加わる荷重に対して設計する必要が無くなり、軽量化及びコストダウンできる。また、クレーンで吊る際の高さや幅や長さに関する制限がなくなり、トップサイドモジュールを巨大化することができる。
この場合に、運搬台船又は浮体構造体のどちらか一方又は両方を必要に応じてバラスト調整で沈下及び浮上できるようにして、どちらか一方又は両方の沈下若しくは浮上の組み合わせによって、運搬台船のトップサイドモジュールの搭載面の下側の高さと浮体構造体の載置部の高さをおおよそ合わせてから、運搬台船を浮体構造体の内部空間に侵入させると、運搬台船の喫水を深くでき、または、内部空間の大きさを浅くできるので、好ましい。
なお、船側外板部とは船側外板を含む船体の側面を構成する部分であり、一板の外板のみで構成したものも、内と外の二重構造にして間に空間やタンクを設けたものも含む。
上記の浮体設備の建造方法において、前記トップサイドモジュールを陸上で建造する建造工程と、前記トップサイドモジュールを運搬台船に水平方向の移動で搭載する搭載工程とを含み、前記載置工程で、前記トップサイドモジュールを搭載している前記運搬台船を前記浮体構造体の後方又は前方から前記浮体構造体の前記内部空間に進入させるようにすると、次のような効果を発揮できるようになる。
つまり、トップサイドモジュールの移動に運搬台船を介在させているので、浅い岸壁の陸上でトップサイドモジュールを建造する場合においても、この岸壁の深度よりも深い喫水の浮体構造体にトップサイドモジュールを搭載することが容易にできる。つまり、浮体構造体の喫水の深さの如何にかかわらず、運搬台船進入沈下方式でトップサイドモジュールを浮体構造体に載置及び配設できるようになる。
この場合に、運搬台船をシンキングバージ(浮沈式台船)として構成して、必要に応じてバラスト調整で沈下及び浮上できるようにして、岸壁の高さと運搬台船の甲板の高さをおよそ合わせられるようにすることが好ましい。
また、トップサイドモジュールを搭載した運搬台船を浮体構造体の後方又は前方から、言い換えれば、浮体構造体の前後方向における運搬台船の移動で浮体構造体の空間部分に進入させることにより、載置時における浮体構造体の姿勢の確保が、横傾斜(ヒール)よりも比較的調整し易い縦傾斜(トリム)の調整になるので、横転の危険性が少なくなり、トップサイドモジュールを搭載した運搬台船を浮体構造体の横方向(幅方向)から搭載する場合に比べて、著しく、載置作業における安全性を向上させることができる。
上記の浮体設備の建造方法において、前記浮体構造体における前記トップサイドモジュールを載置する載置部を前記浮体構造体の内部空間の前記運搬台船の進入する通路の両側に設け、前記トップサイドモジュールを前記載置部の上を水平移動で移動可能に構成していると、次のような効果を発揮できるようになる。
つまり、この載置部の上にトップサイドモジュールを載置した後に、トップサイドモジュールが載置部の上を水平方向に移動できるので、トップサイドモジュールを配設する位置まで運搬台船を進入させる必要が無くなり、浮体構造体の内部空間を設ける範囲を、トップサイドモジュールを配設する範囲よりも短くすることができ、一部の甲板を載置工程の前に設けておくことができる。また、載置部をガイドとしても利用できるので、単純な構成で、トップサイドモジュールの逸脱を防止しながら、トップサイドモジュールを浮体構造体に搭載できる。
なお、載置部の位置は、載置及び配設するトップサイドモジュールの幅に合わせて設置するが、浮体構造体の舷側に近い位置に留めると、トップサイドモジュールの幅を、浮体構造体の幅に近い幅にすることができる。また、載置部を浮体構造体の船側外板と構造的に連続するように構成すると、載置部を強固に浮体構造体と一体化させて固定支持できるので、載置部の構造強度を比較的容易に高めることができる。
さらに、浮体構造体の船体中央線まわりの甲板(デッキ)を両舷より低くなる構成により、トップサイドモジュールを載置する載置部の高さを、トップサイドモジュールを建造する陸上の岸壁の高さやトップサイドモジュールを搭載して運搬する運搬台船の甲板の高さに合わせられるようにしたり、また、トップサイドモジュールの重心高さを浮体構造体の重心高さの近傍に配置することができたりする。さらに、トップサイドモジュールに作用する横方向の力を浮体構造体の側壁や載置部で受けたりすることが容易にできるようになるため、浮体設備の操業中においても、この構造により、浮体構造体の横揺れ(ロール)運動により作用する力に耐えるための構造を軽量化・コストダウンできる。
言い換えれば、トップサイドの重心を下げて、ひいては浮体設備の全体の重心を下げることができ、これにより浮体設備の復原力を増すことができる。さらに、トップサイドモジュールを重心近くで横から支持できるので、トップサイドモジュールの横揺れに対して必要な構造強度を減少でき、また、吊り搭載しないことで吊られるためだけに必要とされていた強度も減少し、両者相まって軽い構造にすることができ、軽量化及びコストダウンができる。
上記の浮体設備の建造方法において、前記搭載工程で、前記トップサイドモジュールの下側に前記浮体構造体の甲板となる構造体を配置して、前記トップサイドモジュールと共に前記甲板となる構造体を前記運搬台船に搭載し、かつ、前記載置工程で、前記トップサイドモジュールと共に前記甲板となる構造体を前記浮体構造体の前記載置部に載置し、前記甲板となる構造体を前記浮体構造体の甲板とするように構成していると、次のような効果を発揮できるようになる。
この構成によれば、甲板となる構造体をトップサイドモジュールの下側に配置した状態で、あるいは、トップサイドモジュールと甲板とを一体化した状態で、浮体構造体の甲板を配置する部分に容易に載置及び配設することができるので、浮体構造体の進水後や洋上の設置場所に移動した後でも、容易に甲板を浮体構造体に設置できる。そのため、甲板とトップサイドモジュールの一体化等の工事が必要な場合には、陸上でその工事を完了しておくことができる。
上記の浮体設備の建造方法において、前記トップサイドモジュールの少なくとも1基を重量で2,000トン以上、かつ、100,000トン以下とすると、次のような効果を発揮することができるようになる。
つまり、トップサイドモジュールを非常に大きくするので、トップサイドモジュールの分割線を機能上の分割線に合わせることができる。また、トップサイドモジュールの大きさは、吊上げることを考慮しなくてよいので、トップサイドモジュールに対する大きさや形状や重量の制限が少なくなり、幅方向では、浮体構造体の幅に近い大きさまで拡張することができ、また、高さ方向にも搭載機器や設備を積み上げることができるので、前後方向が不必要に長くなるのを抑えることができる。
これにより、高さ方向を生かすことができるので搭載機器が水平方向に広がらないため、搭載機器をつなぐ総配管長さを減らすことができる。また、トップサイドモジュールが前後に不必要に長い領域に設置されないので、配管長が熱膨張等により合わなくなるような現象が減り、エキスパンジョンループと呼ばれる配管の伸び縮みを吸収するために無駄に迂回させるループを減らすことができる。
また、建造面では、トップサイドモジュールが巨大化することで、小さいモジュールの組み合わせに比べて、洋上に浮上している状態の浮体構造体における配管の接続作業が大幅に減少するので、モジュール間の接続配管に関しての現場で測量してから製作する煩わしさが大幅に減る。さらに、モジュール単位が大きくなることにより、トップサイドの自動運転化や高度のIT利用なども実現し易くなる。
その上、トップサイドの装置や機器類に関して複数の異なる要素を組み合わせて、一体として機能させるインテグレーションに関しても、トップサイドモジュールを浮体構造体に載置した後に造船所サイドで行うインテグレーション作業を大幅に減らすことができる。そして、従来では、モジュール単位が小さく配管が終わらないとできなかったトップサイドのテストも、造船所でなくトップサイドの扱いに長けたトップサイド建造ヤードでできるようになる。つまり、トップサイドを作るのが得意なモジュール建造ヤードサイドで、トップサイドの仕事を終わらせることができるので、インテグレーションを行う造船所サイドに持ち越すことがなくなる。
そして、上記の目的を達成するための本発明の浮体設備の浮体構造体は、上側が開口した凹形状で形成され、かつ、前部構造部又は後部構造部に設けた開口部に連続している内部空間を有し、浮体設備のトップサイドの一部または全部をモジュール化したトップサイドモジュールを載置する載置部を、前記内部空間の両側又は船側外板部の上部部分に設けている構成をしている。
この構成によれば、トップサイドモジュールを、クレーン船などにおける吊り上げ作業を用いずに、運搬台船進入方式と運搬台船・浮体構造体の沈下量変化方式で浮体構造体に載置及び配設できるようになる。従って、トップサイドモジュールは吊り上げられることが無くなるので、吊り上げ時に加わる荷重に対して設計する必要が無くなり、軽量化及びコストダウンできる。また、クレーンで吊る際の高さや幅や長さに関する制限がなくなり、トップサイドモジュールを巨大化することができる。
さらに、載置部が、その上部にトップサイドモジュールを載置して移動させるときのトップサイドモジュールの支持体の一部又は全部であるように構成されていると、この載置部をトップサイドモジュールのスライド時の案内として使用することや、この載置部の上面をトップサイドモジュールのスライド面の一部又は全部として使用することができるので、単純な構成で、トップサイドモジュールの逸脱を防止しながら、トップサイドモジュールを浮体構造体に載置及び配設できるようになる。
なお、載置部の位置は、挿入するトップサイドモジュールの幅に合わせて設置するが、内部空間の浮体構造体の舷側に近い位置又は船側外板部の上部部分の位置に設けると、トップサイドモジュールの幅を、浮体構造体の幅に近い幅にすることができる。また、載置部と浮体構造体の船側外板を構造的に連続するように構成すると、載置部を強固に浮体構造体と一体化させて固定支持できるので、載置部の構造強度を比較的容易に高めることができる。
さらに、浮体構造体の船体中央線まわりの甲板(デッキ)を両舷より低くしている構成により、この載置部の高さを、トップサイドモジュールを建造する陸上の岸壁の高さやトップサイドモジュールを搭載して運搬する運搬台船の甲板の高さに合わせられるようにしたり、また、トップサイドモジュールの重心高さを浮体構造体の重心高さの近傍に配置することができたりする。さらに、トップサイドモジュールに作用する横方向の力を浮体構造体の載置部や船側外板部の上部部分で受けたりすることが容易にできるようになるため、浮体設備の操業中においても、この構造により、浮体構造体の横揺れ(ロール)運動により作用する力に耐えるための構造を軽量化・コストダウンできる。
言い換えれば、トップサイドの重心を下げて、ひいては浮体設備の全体の重心を下げることができ、これにより浮体設備の復原力を増すことができる。さらに、トップサイドモジュールを重心近くで横から支持できるので、トップサイドモジュールの横揺れに対して必要な構造強度を減少でき、また、吊り搭載しないことで吊られるためだけに必要とされていた強度も減少し、両者相まって軽い構造にすることができ、軽量化及びコストダウンができる。
上記の浮体設備の浮体構造体において、前記浮体設備の後部から後部構造部を脱着可能に構成すると、建造工程的に容易に、上記の浮体設備の浮体構造体とすることができる。
以上に説明したように、本発明の浮体設備の建造方法、及び、浮体設備の浮体構造体によれば、浮体設備の建造において、トップサイドモジュールを浮体設備の浮体構造体に載置する際に、トップサイドモジュールを吊り上げることなく、運搬台船進入方式と運搬台船・浮体構造体の沈下量変化方式により、浮体構造体にトップサイドモジュールを載置及び配設することができて、トップサイドモジュールを巨大化してメガモジュールにしても容易に浮体構造体に載置及び配設でき、これにより、トップサイドモジュールの巨大化を可能にできると共に、トップサイドモジュールにおける吊り下げのためだけの強度強化を不要にできる。
以下、本発明に係る実施の形態の浮体設備の建造方法、及び、浮体設備の浮体構造体について説明する。この実施の形態の説明では、浮体設備としてFPSOを例にして説明しているが、本発明は、必ずしも、このFPSOに限定する必要はなく、その他の浮体設備にも適用できる。
この浮体設備としては、その生産の対象物は原油に限らず、海底鉱物資源や再生可能エネルギー、生物資源を生産するもの等も含まれる。また、必ずしも浮体式(F)かつ生産(P)、貯蔵(S)、出荷(O)のすべての機能を持つものには限らず、例えば、洋上の設置場所への到着した後において、この浮体設備が着底されるもの、ジャケットに搭載されるもの、また、この浮体設備において、貯蔵設備(S)を持たないもの、生産機能(P)を持たないもの等も含まれる。
本発明と従来技術の差異を明確にするために、最初に図9に示すような従来技術の浮体設備1Xについて説明しておく。この浮体設備1Xは典型的な大型原油タンカー(VLCC)を改造したものであり、船底11と船側外板部12と前部構造部(船首部:図示しない)、後部構造部(船尾部:図示しない)に囲まれて浮かんでいる、タンカー船形の浮体構造体10Xと、浮体設備のトップサイド20とからなる。この浮体設備1Xでは、大型原油タンカーの改造であるため、浮体構造体10Xの上の甲板16の上に支持構造物17を設けて、その上にトップサイド20を配設しているため、重心位置が高くなってしまっている。
なお、船側外板部12とは船側外板を含む船体の側面を構成する部分であり、一板の外板のみで構成したものも、内と外の二重構造にして間に空間やバラストタンク等のタンクを設けたものも含む。また、この浮体設備1Xの大きさを例示すると、例えば、軽荷重量が50,000トン(重量トン)程度、船体長が340m程度、タンク部長さが200m程度、船体幅が58m程度で、乾舷が10m程度、喫水が23m程度、船体高が33m程度である。
一方、図1〜図8に示すように、本発明の実施の形態の浮体設備1は、浮体構造体10と浮体設備のトップサイド20とからなり、このトップサイド20は、その一部または全部をモジュール化して、このモジュール化したトップサイドモジュール21を浮体構造体10の載置部15に搭載して浮体設備1が建造される。
図1、図2に示すように、この浮体構造物10は、浮体としての構成としての船体構造である船底11、船側外板部12、前部構造部(船首部)13、後部構造部(船尾部)14を有している。これらの構造は、従来技術と同じである。また、トップサイド20は、プロセスとも呼ばれる生産設備であり、油処理設備、ガス処理設備、水処理設備、発電設備、コントロールシステム等の主要な機器で構成されている。
この後部構造部14に関しては、浮体設備1を居住区と生産・貯蔵プラント区に分けて構成し、この居住区を後部構造部14に設けて、この後部構造部14を係留することなく、浮体設備1でこの後部構造部14を除いた部分を係留して、この後部構造部14を除いた部分の浮体設備1にこの後部構造部14を脱着可能に接続する構成にすると、居住区の設置時期をトップサイドモジュール21の搭載時の後にすることができるようになるので、建造工程の自由度が増す。また、台風などの荒天時や火災などの非常時で乗組員の避難が必要な場合には、この居住区を備えて後部構造物14を離脱することにより、容易、かつ迅速に乗組員を飛散させることができるようになる。
なお、この浮体設備1の大きさを例示すると、例えば、軽荷重量が50,000トン(重量トン)程度、船体長が160m程度、タンク部長さが150m程度、船体幅が60m程度で、乾舷が10m程度、喫水が34m程度、船体高が44m程度である。
本発明においては、この浮体構造体10は、上側が開口した凹形状で形成され、かつ、浮体構造体10の前部構造部13又は後部構造部14(図2では後部構造部)に設けた開口部14aに連続している内部空間Aを有し、この内部空間Aの両側に浮体設備1のトップサイドの一部または全部をモジュール化したトップサイドモジュール21を載置する載置部15を、内部空間Aの両側又は船側外板部12の上部部分に設けている。つまり、浮体構造物10の横断面形状は、この船底11と両側の船側外板部12とにより、上部が開放されている凹形状に形成されている。なお、載置部15は、内部空間Aの両側又は船側外板部12の上部部分の両方に設けてもよいが、トップサイドモジュール21が載置されたときに、両方で荷重を適切に分担するには、それぞれの載置部15の高さを調整できるような工夫が必要になる。
この載置部15は、トップサイドモジュール21を載置するための部材であり、この載置部15の上面にトップサイドモジュール21を載置して移動させるときに、トップサイドモジュール21が乗るレール(図示しない)を備えて構成すると、これにより、トップサイドモジュール21を支持して水平方向に移動することができるようになる。この載置部15の下には、トップサイドモジュール21を載置した後で、必要に応じて図示しないが貯蔵タンクや機械室などが配置される。なお、トップサイドモジュール21を載置した後で、トップサイドモジュール21を水平移動する場合には、この水平移動後の部位であれば、トップサイドモジュール21を載置する工程より前、例えば、浮体構造物10の進水前等の工程において貯蔵タンクや機械室などが配置しておいてもよい。
また、載置部15を内部空間Aの両側のみに設けている場合には、トップサイドモジュール21が船側外板部12の間に搭載されるので、この搭載の際に、船側外板部12の内側部分を、トップサイドモジュール21を水平方向に移動して搭載する際のガイドにしてもよい。
この載置部15の位置は、挿入するトップサイドモジュール21の幅に合わせて設置するが、浮体構造体10の舷側に近い位置に設けると、トップサイドモジュール21の幅を、浮体構造体10の幅に近い幅にすることができる。また、載置部15の外板と浮体構造体10の外板である船側外板部12を構造的に連続するように構成する。これにより、載置部15を強固に浮体構造体10と一体化させて固定支持して、載置部15の構造強度を高める。
また、この載置部15の幅方向の位置、言い換えれば、両側の載置部15の間の距離は、運搬台船40が空間部分Aに進入でき、かつ、トップサイドモジュール21を載置できる幅であればよく、トップサイドモジュール21を運搬台船40に搭載したときに、相対する載置部15の間の距離Sよりも狭い幅の台座(図示しない)を設けて、トップサイドモジュール21と運搬台船40の間に空間を作り、運搬台船40の進入時にこの空間に前方から載置部15が進入してくるようにすることで、相対する載置部15の間の距離Sを運搬台船40の幅Bよりも狭くするこができる。従って、トップサイドモジュール21の幅と重量に対して相対する載置部15の間の距離Sを決めればよいことになる。
また、載置部15の前後方向の長さはそのトップサイドモジュール21の長さによって決められる。これにより、様々な幅を持つトップサイドモジュール21を搭載できるので、トップサイドモジュール21の幅を一定にする必要がなくなり、トップサイドモジュール21の設計の自由度が増す。このトップサイドモジュール21の幅が異なる場合は、載置部15は前後方向に幅が異なる部分ができることになる。
この載置部15又は船側外板部12の上部部分にトップサイドモジュール21を載置して移動させるときのトップサイドモジュール21が乗るレール(図示しない)を備えて構成すると、これにより、比較的高い位置で、トップサイドモジュール21を支持できるので、高い位置で運搬台船40からトップサイドモジュール21を受け渡しすることができるようになる。
この載置部15又は船側外板部12の上部部分の内側面に案内用のレール(図示しない)を単数又は上下方向に複数備えて構成し、トップサイドモジュール21を載置してから移動させるときのトップサイドモジュール21の側面側をこの図示しないレールで案内して、これにより、トップサイドモジュール21の横方向の左右のブレを抑制しながら、円滑に移動させることが好ましい。
なお、トップサイドモジュール21を水平方向に移動するときに、台車を使用する場合には、載置部15又は船側外板部12の上部部分のレール(図示しない)を、台車の車輪を乗せるレールとして使用することができるが、レールを使用しない台車の場合には、レールは不要となる。しかし、この場合でも載置部15又は船側外板部12部分のレール(図示しない)を案内レールとして使用することができる。
この載置部15を設けることにより、この載置部15をトップサイドモジュール21の水平移動のスライド時の案内として使用することや、この載置部15の上面をトップサイドモジュール21のスライド面の一部又は全部として使用することができるので、単純な構成で、トップサイドモジュール21の横方向への逸脱を防止しながら、トップサイドモジュール21を浮体構造体10に載置及び配設できるようになる。
また、内部空間Aの載置部15又は船側外板部12の上部部分が、その上部にトップサイドモジュール21を載置して移動させるときのトップサイドモジュール21の支持体の一部又は全部であるように構成されていると、載置部15以外で、トップサイドモジュール21を支持できるので、トップサイドモジュール21の荷重を分散でき載置部15の負担を小さくできる。
さらに、浮体構造体10の船体中央線まわりの載置部15を両舷より低くする構成にした場合には、この載置部15の高さを、トップサイドモジュール21を建造する陸上の岸壁30の高さやトップサイドモジュール21を搭載して運搬する運搬台船40の甲板の高さに合わせられるようにしたり、また、トップサイドモジュール21の重心高さを浮体構造体10の重心高さの近傍に配置したりすることができる。
その上、トップサイドモジュール21に作用する横方向の力を浮体構造体10の載置部15又は船側外板部12部分で受けたりすることが容易にできるようになるため、浮体設備1の操業中においても、この構造により、浮体構造体10の横揺れ(ロール)運動により作用する力に耐えるための構造を軽量化・コストダウンできる。
言い換えれば、トップサイド20の重心を下げて、ひいては浮体設備1の全体の重心を下げることができ、これにより浮体設備1の復原力を増すことができる。さらに、トップサイドモジュール21を重心近くで横から支持されるので、トップサイドモジュール21の横揺れに対して必要な構造強度を減少でき、また、吊り搭載しないことで吊られるためだけに必要とされていた強度も減少し、両者相まって軽い構造にすることができ、軽量化及びコストダウンができる。
そして、トップサイドモジュール21の少なくとも1基を重量で2,000トン(2千トン)以上、かつ、100,000トン(10万トン)以下とすると、次のような効果を発揮することができるようになる。
つまり、トップサイドモジュール21を非常に大きくするので、トップサイドモジュール21の分割線を機能上の分割線に合わせることができる。また、トップサイドモジュール21の大きさは、吊上げることを考慮しなくてよいので、トップサイドモジュール21に対する大きさや形状や重量の制限が少なくなり、幅方向では、浮体構造体10の幅に近い大きさまで拡張することができ、また、高さ方向にも搭載機器や設備を積み上げることができるので、前後方向が不必要に長くなるのを抑えることができる。
これにより、高さ方向を生かすことができるので搭載機器が水平方向に広がらないため、搭載機器をつなぐ総配管長さを減らすことができる。また、トップサイドモジュール21が前後に不必要に長い領域に設置されないので、配管長が熱膨張等により合わなくなるような現象が減り、エキスパンジョンループと呼ばれる配管の伸び縮みを吸収するために無駄に迂回させるループを減らすことができる。
また、建造面では、トップサイドモジュール21が巨大化することで、小さいモジュールの組み合わせに比べて、洋上に浮上している状態の浮体構造体10における配管の接続作業が大幅に減少するので、モジュール間の接続配管に関しての現場で測量してから製作する煩わしさが大幅に減る。さらに、モジュール単位が大きくなることにより、トップサイド20の自動運転化や高度のIT利用なども実現し易くなる。
その上、トップサイド20の装置や機器類に関して複数の異なる要素を組み合わせて、一体として機能させるインテグレーションに関しても、トップサイドモジュール21を浮体構造体10に搭載した後に造船所サイドで行うインテグレーション作業を大幅に減らすことができる。そして、従来では、モジュール単位が小さく配管が終わらないとできなかったトップサイド20のテストも、造船所でなくトップサイド20の扱いに長けたトップサイド建造ヤードでできるようになる。つまり、トップサイド20を作るのが得意なモジュール建造ヤードサイドで、トップサイド20の仕事を終わらせることができるので、インテグレーションを行う造船所サイドに持ち越すことがなくなる。
なお、この浮体設備1の後部から後部構造部14を外した状態で、浮体構造体10を構成すると、建造工程的に容易に、この実施の形態の浮体設備1の浮体構造体10とすることができる。つまり、この後部構造部14の離脱により、浮体構造体10の後方から前後方向のトップサイドモジュール21の搭載を実現することができるようになる。
次に、本発明に係る浮体設備の建造方法について説明する。この浮体設備の建造方法は、浮体設備1のトップサイド20の一部または全部をモジュール化して、このモジュール化したトップサイドモジュール21を、浮体設備1の浮体構造体10に搭載して浮体設備1を建造する浮体設備の建造方法である。
なお、この浮体設備の建造方法では、運搬台船40をシンキングバージ(浮沈式台船)として構成して、また、浮体構造体10も必要に応じてバラスト調整で沈下量を変化できるようにして、片方又は両方の沈下量の変化によって、岸壁30の高さと運搬台船40の甲板の高さ、あるいは運搬台船40の甲板の高さと浮体構造体10の載置部15の高さをおよそ合わせられるようにすることが好ましい。
この場合に、運搬台船40又は浮体構造体10のどちらか一方又は両方を必要に応じてバラスト調整で沈下及び浮上できるようにして、どちらか一方又は両方の沈下若しくは浮上の組み合わせによって、運搬台船40のトップサイドモジュール21の搭載面の下側の高さと浮体構造体10の載置部15の高さをおおよそ合わせてから運搬台船40を浮体構造体10の内部空間Aに侵入させると、運搬台船40の喫水を深くでき、または、内部空間Aの大きさを小さくできるので、好ましい。
この浮体設備の建造方法は、図3に示すように、トップサイドモジュール21を建造した岸壁30から、トップサイドモジュール21を水平方向に移動して運搬台船40に搭載する。この移動は、台車による移動やレール使用のスライド方式による移動を行い、クレーンを使用しない。
次に、図4に示すように、運搬台船40を浮体構造物10のある位置まで曳航又は自航により移動させて、浮体構造帯10の近傍で、浮体構造体10の内部空間Aへの進入させるために、運搬台船40を沈下させる。この場合に、運搬台船40に搭載したトップサイドモジュール21の高さと浮体構造体10側の載置部15の高さを合わせるために、必要に応じて、浮体構造体10側も沈下させる。
なお、運搬台船40の沈下は、トップサイドモジュール21の高さと浮体構造体10側の載置部15の高さを合わせるためのものであるので、両者の高さによっては、運搬台船40を浮上させたり、航行のままとしたりすることもある。これらの運搬台船40の沈下又は浮上の量は、運搬台船40のバラスト調整によって行う。一方、浮体構造体10側では、空間部分Aに運搬台船40を進入させる必要があるので、少なくとも空間部分Aの下側には浸水を許し、また、船首構造13側又は船尾構造14側に開口部14aを開口しておく。
次に、図5に示すように、浮体構造体10の内部空間Aへの運搬台船40を進入させる。このとき、浮体構造体10側の載置部15が運搬台船40に搭載したトップサイドモジュール21の下側に入るように相互の高さが調整されているので、図1に示すような状態で、運搬台船40が空間部分Aの中を前進すると、トップサイドモジュール21の下側の載置面が載置部15の上を通過することになる。
次に、図6に示すように、運搬台船40に搭載されたトップサイドモジュール21の位置が、浮体構造体10におけるトップサイドモジュール21の載置場所と一致するまで、運搬台船40が進入した後停止して、運搬台船40をバラスト調整などにより沈下させる。そして、運搬台船40を沈下させると、その沈下の途中で、トップサイドモジュール21が載置部15に載置され、トップサイドモジュール21の荷重が運搬台船40から載置部15に移動する。さらに、運搬台船40を沈下させると、トップサイドモジュール21が完全に載置部15に載置された状態となり、運搬台船40に対するトップサイドモジュール21の荷重がゼロになる。
次に、図7に示すように、運搬台船40にトップサイドモジュール21の荷重が加わらなくなってから、安全のために運搬台船40をさらに沈下させてから、運搬台船40を後進させて、浮体構造体10の空間部分Aから離脱させる。なお、運搬台船40を沈下させる代わりに浮体構造体10を浮上させてもよい。
次に、運搬台船40を沈下させていた場合には、図8に示すように、運搬台船40を曳航又は自航に適した状態まで浮上させる。この浮上後、運搬台船40を次の仕事を行えるように回航する。その一方で、浮体構造体10の載置位置に載置したトップサイドモジュール21を必要に応じて、浮体構造体10における配設位置に水平移動させて、そこで、トップサイドモジュール21を浮体構造体10に固定する。
つまり、本発明では、この浮体設備の建造方法において、浮体構造体10が浮上している状態で、トップサイドモジュール21を搭載している運搬台船40を、図5に示すように、浮体構造体10の上側が開口した凹形状の内部空間Aに進入させて、図6に示すように、運搬台船40を沈下させることで、図7に示すように、搭載されているトップサイドモジュール21を浮体構造体10の内部空間Aに設けられた載置部15に載置し、その後、運搬台船40を沈下させたまま、浮体構造体10の内部空間Aから外部に移動することで、トップサイドモジュール21を浮体構造体10に載置する載置工程を含む方法とする。
この浮体設備の建造方法によれば、トップサイドモジュール21は、クレーン船などにおける吊り上げ作業を用いずに、運搬台船進入方式と運搬台船・浮体構造体の沈下量変化方式で浮体構造体10に載置及び配設される。従って、トップサイドモジュール21は吊り上げられることが無くなるので、吊り上げ時に加わる荷重に対して設計する必要が無くなり、軽量化及びコストダウンできる。また、クレーンで吊る際の高さや幅や長さに関する制限がなくなり、トップサイドモジュール21を巨大化することができる。
そして、この浮体設備の建造方法は、トップサイドモジュール21を陸上で建造する建造工程と、トップサイドモジュール21を運搬台船40に水平方向の移動で搭載する搭載工程とを含み、載置工程で、トップサイドモジュール21を搭載している運搬台船40を浮体構造体10の後方又は前方から浮体構造体10の内部空間Aに進入させる建造方法となっている。
また、この浮体設備の建造方法では、トップサイドモジュール21の移動に運搬台船40を介在させているので、浅い岸壁30の陸上でトップサイドモジュール21を建造する場合においても、この岸壁30の深度よりも深い喫水の浮体構造体10にトップサイドモジュール21を搭載することが容易にできる。つまり、浮体構造体10の喫水の深さの如何にかかわらず、運搬台船進入方式と運搬台船・浮体構造体の沈下量変化方式でトップサイドモジュール21を浮体構造体10に載置及び配設できる。
また、トップサイドモジュール21を搭載した運搬台船40を浮体構造体10の後方又は前方から、言い換えれば、浮体構造体10の前後方向における運搬台船40の移動で浮体構造体10の空間部分Aに進入させることにより、載置時における浮体構造体10の姿勢の確保が、横傾斜(ヒール)よりも比較的調整しやすい縦傾斜(トリム)の調整になるので、横転の危険性が少なくなり、トップサイドモジュール21を搭載した運搬台船40を浮体構造体10の横方向(幅方向)から搭載する場合に比べて、著しく、載置作業における安全性を向上させることができる。
更に、この浮体設備の建造方法において、浮体構造体10におけるトップサイドモジュール21を載置する載置部15を、浮体構造体10の内部空間Aの運搬台船40の進入する通路の両側に設け、トップサイドモジュール21を載置部15の上を水平移動で移動可能にする。
これにより、この載置部15の上にトップサイドモジュール21を載置した後に、トップサイドモジュール21が載置部15の上を水平方向に移動できるので、トップサイドモジュール21を配設する位置まで運搬台船40を進入させる必要が無くなり、浮体構造体10の内部空間Aを設ける範囲を、トップサイドモジュール21を配設する範囲よりも短くすることができ、一部の甲板(図示しない)を載置工程の前に設けておくことができる。また、載置部15をガイドとしても利用できるので、単純な構成で、トップサイドモジュール21の逸脱を防止しながら、トップサイドモジュール21を浮体構造体10に搭載できる。
なお、載置部15の位置は、載置及び配設するトップサイドモジュール21の幅に合わせて設置するが、浮体構造体10の舷側に近い位置に留めると、トップサイドモジュール21の幅を、浮体構造体10の幅に近い幅にすることができる。また、載置部15を浮体構造体10の船側外板部12部分と構造的に連続するように構成すると、載置部15を強固に浮体構造体10と一体化させて固定支持できるので、載置部15の構造強度を比較的容易に高めることができる。
さらに、浮体構造体10の船体中央線まわりの甲板(デッキ)を両舷より低くした構成にすると、トップサイドモジュール21を載置する載置部15の高さを、トップサイドモジュール21を建造する陸上の岸壁30の高さやトップサイドモジュール21を搭載して運搬する運搬台船40の甲板の高さに合わせられるようにしたり、また、トップサイドモジュール21の重心高さを浮体構造体10の重心高さの近傍に配置したりすることができる。さらに、トップサイドモジュール21に作用する横方向の力を浮体構造体10の船側外板部12部分や載置部15で受けたりすることが容易にできるようになるため、浮体設備1の操業中においても、この構造により、浮体構造体1の横揺れ(ロール)運動により作用する力に耐えるための構造を軽量化・コストダウンできる。
言い換えれば、トップサイド20の重心を下げて、ひいては浮体設備1の全体の重心を下げることができ、これにより浮体設備1の復原力を増すことができる。さらに、トップサイドモジュール21を重心近くで横から支持できるので、トップサイドモジュール21の横揺れに対して必要な構造強度を減少でき、また、吊り搭載しないことで吊られるためだけに必要とされていた強度も減少し、両者相まって軽い構造にすることができ、軽量化及びコストダウンができる。
また、更に、この浮体設備の建造方法において、搭載工程で、トップサイドモジュール21の下側に浮体構造体10の甲板となる構造体(図示しない)を配置して、トップサイドモジュール21と共に甲板となる構造体(図示しない)を運搬台船40に搭載し、かつ、載置工程で、トップサイドモジュール21と共に甲板となる構造体(図示しない)を浮体構造物10の載置部15に載置し、甲板となる構造体(図示しない)を浮体構造物10の甲板とするように構成してもよい。
この構成によれば、容易に甲板となる構造体(図示しない)をトップサイドモジュール21と共に浮体構造体10の甲板を配置する部分に載置及び配設することができるので、浮体構造体10の進水後や洋上の設置場所に移動した後でも、容易に甲板を浮体構造体10に設置できる。そのため、甲板とトップサイドモジュール21の一体化等の工事が必要な場合には、陸上でその工事を完了しておくことができる。
この構成によれば、甲板となる構造体(図示しない)をトップサイドモジュール21の下側に配置した状態で、あるいは、トップサイドモジュール21と甲板とを一体化した状態で、浮体構造体10の甲板を配置する部分に容易に載置及び配設することができるので、浮体構造体10の進水後や洋上の設置場所に移動した後でも、容易に甲板を浮体構造体10に設置できる。そのため、甲板16とトップサイドモジュール21の一体化等の工事が必要な場合には、陸上でその工事を完了しておくことができる。なお、トップサイドモジュール21と甲板とを一体化した場合では、トップサイドモジュール21と甲板16が陸上で一体化され、搭載時にはトップサイドモジュール21が載置部15に載置され甲板16はトップサイドモジュール21にぶら下がっているような状況となる。
この構成によれば、トップサイドモジュール21を、クレーン船などにおける吊り上げ作業を用いずに、運搬台船進入方式と運搬台船・浮体構造体の沈下量変化方式で浮体構造体10に載置及び配設できるようになる。
従って、上記の構成の浮体設備の建造方法、及び、浮体設備1の浮体構造体10によれば、浮体設備1の建造において、トップサイドモジュール21を浮体設備1の浮体構造体10に載置する際に、クレーン船などにおける吊り上げ作業を用いずに、トップサイドモジュール21を吊り上げることなく、運搬台船進入方式と運搬台船・浮体構造体の沈下量変化方式により、浮体構造体10にトップサイドモジュール21を載置及び配設することができる。
そのため、トップサイドモジュール21において、トップサイドモジュール21における吊り下げのためだけの強度強化を不要にできるので、吊り上げ時に加わる荷重に対して設計する必要が無くなり、軽量化及びコストダウンできる。また、クレーンで吊る際の高さや幅や長さに関する制限がなくなり、トップサイドモジュール21を巨大化することができる。言い換えれば、トップサイドモジュール21を巨大化してメガモジュールにしても容易に浮体構造体10に載置及び配設できる。