以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
<転写ベルト>
図1は、本発明の実施の形態における転写ベルトの断面図である。まず、この図1を参照して、本実施の形態における転写ベルト1の構成について説明する。
図1に示すように、転写ベルト1は、相対して位置する一対の露出主面である第1主面1aおよび第2主面1bを有する部材からなり、基層2と、弾性層3と、表層4とを含んでいる。
弾性層3は、基層2を覆うように設けられており、表層4は、弾性層3を覆うように設けられている。これにより、上述した第1主面1aは、表層4によって規定されており、上述した第2主面1bは、基層2によって規定されている。
転写ベルト1は、たとえば電子写真方式の画像形成装置等において、担持したトナー像を記録媒体に対して転写するためのものであり、トナー像は、上述した第1主面1a上において担持される。なお、画像形成装置への転写ベルト1の具体的な組付け例は、後において示す。
基層2は、転写ベルト1全体としての機械的強度を向上させるための層であり、たとえば有機高分子化合物からなる層にて構成される。基層2を構成する有機高分子化合物としては、たとえば、ポリカーボネート、フッ素系樹脂、ポリスチレン、クロロポリスチレン、ポリ−α−メチルスチレン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−塩化ビニル共重合体、スチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体(スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−アクリル酸ブチル共重合体、スチレン−アクリル酸オクチル共重合体及びスチレン−アクリル酸フェニル共重合体等)、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体(スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸エチル共重合体、スチレン−メタクリル酸フェニル共重合体等)、スチレン−α−クロルアクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体等のスチレン系樹脂(スチレンまたはスチレン置換体を含む単重合体または共重合体)、メタクリル酸メチル樹脂、メタクリル酸ブチル樹脂、アクリル酸エチル樹脂、アクリル酸ブチル樹脂、変性アクリル樹脂(シリコーン変性アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂変性アクリル樹脂、アクリル・ウレタン樹脂等)、塩化ビニル樹脂、スチレン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ロジン変性マレイン酸樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニリデン、アイオノマー樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ケトン樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合体、キシレン樹脂及びポリビニルブチラール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、変性ポリフェニレンオキサイド樹脂、変性ポリカーボネート、およびそれらの混合物等が挙げられる。なお、基層2は、材質の異なる複数の層にて構成されていてもよい。
基層2には、抵抗値の調節のために導電剤が添加されていてもよい。この導電剤としては、一種類のみが添加されていてもよいし、複数種類が添加されていてもよい。基層2における導電剤の含有量は、基層材料100重量部に対して0.1重量部以上20重量部以下であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
弾性層3は、転写ベルト1に弾性を付与するための層であり、たとえば粘弾性を呈する有機化合物からなる層にて構成される。弾性層3を構成する有機化合物としては、たとえば、ブチルゴム、フッ素系ゴム、アクリルゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、アクリロニトリルブタジエンスチレンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレンターポリマー、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ウレタンゴム、シンジオタクチック1,2−ポリブタジエン、エピクロロヒドリン系ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、多硫化ゴム、ポリノルボルネンゴム、水素化ニトリルゴム、熱可塑性エラストマー(例えばポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリアミド系、ポリウレア、ポリエステル系、フッ素樹脂系)、およびそれらの混合物等が挙げられる。なお、弾性層3は、材質の異なる複数の層にて構成されていてもよい。
弾性層3には、導電性を発現するための導電剤が添加されていてもよい。導電剤としては、一種類のみが添加されていてもよいし、複数種類が添加されていてもよい。弾性層3における導電剤の含有量は、弾性層材料100重量部に対して0.1重量部以上30重量部以下であることが好ましいが、これに限定されるものではない。弾性層3における導電剤の含有量は、その総量で、転写ベルト1の所望の体積抵抗率を実現する量であり、転写ベルト1の体積抵抗率は、たとえば108[Ω・cm]以上1012[Ω・cm]以下である。
上述した導電剤には、イオン導電剤および電子導電剤が含まれる。イオン導電剤には、ヨウ化銀、ヨウ化銅、過塩素酸リチウム、過塩素酸リチウム、過塩素酸リチウム、トリフロオロメタンスルホン酸リチウム、有機ホウ素錯体のリチウム塩、リチウムビスイミド((CF3SO2)2NLi)およびリチウムトリスメチド((CF3SO2)3CLi)が含まれる。電子導電剤には、銀、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケルおよびステンレス鋼等の金属や、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノファイバーおよびカーボンナノチューブ等の炭素化合物が含まれる。
弾性層3には、上述した導電剤に加えて、非繊維形状の樹脂や繊維形状の樹脂が含有されていてもよい。
非繊維形状の樹脂としては、たとえば、フェノール樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、反応性モノマー等の熱硬化性樹脂や、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、熱可塑性ウレタン等の熱可塑性樹脂が挙げられる。弾性層3における非繊維形状の樹脂の弾性層材料に対する含有量は、弾性層材料100重量部に対して20重量部以上60重量部以下であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
繊維形状の樹脂としては、たとえば、綿、麻、絹、レーヨン、アセテート、ナイロン、アクリル、ビニロン、ビニリデン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリプロピレン、アラミド等の樹脂系繊維が挙げられる。弾性層3における繊維形状の樹脂の含有量は、弾性層材料100重量部に対して、10重量部以上40重量部以下であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
弾性層3には、さらに慣用の添加剤、たとえば加硫剤、加硫促進剤、加硫助剤、共架橋剤、軟化剤、可塑剤等を含有させてもよい。これら添加剤は、単独で添加されていてもよいし、2種以上が組み合わされて添加されていてもよい。
ここで、加硫剤としては、たとえば硫黄や有機含硫黄化合物、有機過酸化物等が使用可能である。
また、共架橋剤としては、有機過酸化物による共架橋剤としての、エチレングリコール・ジメタクリレート、トリメチロールプロパン・トリメタクリレート、多官能性メタクリレートモノマー、トリアリルイソシアヌレート、含金属モノマー等が挙げられる。弾性層3における共架橋剤の添加量は、弾性層材料100重量部に対して5重量部以下であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
表層4は、その材料が特に制限されるものではないが、転写ベルト1へのトナーの付着力を小さくすることで転写性を高めるものであることが好ましい。当該観点から、表層4としては、たとえば、ポリウレタン、ポリエステル、エポキシ樹脂またはそれらの混合物を母材として、当該母材にたとえばフッ素樹脂、フッ素化合物、フッ化炭素、二酸化チタン、シリコンカーバイト等の粉体または粒子を1種類あるいは2種類以上分散させたものを使用することができる。なお、表層4は、弾性層3の表面を改質処理したものであってもよい。
ここで、これら粉体および粒子は、第1主面1aの表面エネルギーを小さくして潤滑性を高めるための材料であり、これら粉体および粒子の粒径を異ならせたものを分散させて使用することもできる。また、フッ素系ゴム材料を用い、熱処理を行うことで表面にフッ素リッチな層を形成させることにより、第1主面1aの表面エネルギーを小さくさせてもよい。
なお、表層4は、必ずしもこれを設ける必要はなく、転写ベルト1を基層2および弾性層3のみにて構成することも可能である。また、基層2を設けずに弾性層3のみにて転写ベルト1を構成してもよい。さらには、上述した基層2、弾性層3および表層4に加えて、さらに他の層を付加して転写ベルト1を4層以上に多層化することもできる。
転写ベルト1における第1主面1aの十点平均表面粗さRzは、0.5[μm]以上9.0[μm]以下であることが好ましく、3.0[μm]以上6.0[μm]以下であることがなお好ましい。十点平均表面粗さRzが0.5[μm]未満であると、接触部材と密着する懸念があり、十点平均表面粗さRzが9.0[μm]よりも大きい場合には、凹凸部分にトナーおよび紙粉等が溜まり易くなり、画像品質が低下する場合がある。なお、十点平均表面粗さRzとは、JIS B0601(2001年)に規定された表面粗さのことである。
ここで、本実施の形態における転写ベルト1は、後述する変位量測定装置を用いた評価方法に基づいて評価した場合に、その表面(すなわち第1主面1a)の一部が所定の特徴的な挙動を示して変位するものであるが、その詳細についてはこれを後述することとする。
<転写ベルトの一使用例>
図2は、図1に示す転写ベルトの一使用例を説明するための二次転写部の概略図である。次に、この図2を参照して、本実施の形態における転写ベルト1の一使用例について説明する。なお、本実施の形態における転写ベルト1の使用は、本使用例に限定されるものではない。
図2に示す転写ベルト1の一使用例は、当該転写ベルト1を電子写真方式の画像形成装置に組付ける場合の具体例を示すものである。この場合、転写ベルト1は、画像形成装置の二次転写部5を通過するように配置される。
二次転写部5は、互いに対向するように平行に配置された二次転写ローラー6および対向ローラー7を含んでいる。二次転写ローラー6と対向ローラー7との間には、ニップ部8が形成されている。転写ベルト1は、このニップ部8を挿通するように配置されており、記録媒体1000も同じくこのニップ部8を通過するように供給される。
二次転写ローラー6は、導電性の材料からなり、当該二次転写ローラー6には、二次転写電源6aが接続されている。対向ローラー7は、導電性の材料からなる芯金7aと、当該芯金7aの周面を覆う導電性の弾性部7bとを含んでおり、このうちの芯金7aは、接地されている。これにより、ニップ部8には、二次転写ローラー6、対向ローラー7および二次転写電源6aによって所定の電界が形成されることになる。
転写ベルト1は、記録媒体1000よりも対向ローラー7側を挿通するように配置されており、記録媒体1000は、転写ベルト1よりも二次転写ローラー6側を通過するように供給される。なお、転写ベルト1は、その第1主面1aが記録媒体1000側(すなわち二次転写ローラー6側)を向くとともに、その第2主面1bが対向ローラー7側を向くように配置されている。これにより、転写ベルト1の第1主面1aは、ニップ部8において記録媒体1000の記録面1001に対面配置されることになる。
二次転写ローラー6は、図中に示す矢印AR1方向に回転駆動され、対向ローラー7は、図中に示す矢印AR2方向に回転駆動される。また、二次転写ローラー6は、トナー像の転写に際して図中に示す矢印AR3方向に向けて図示しない押圧機構によって押圧され、これにより二次転写ローラー6と対向ローラー7とは、転写ベルト1および記録媒体1000を介して圧接することになる。
二次転写ローラー6の回転と対向ローラー7の回転とに基づき、転写ベルト1および記録媒体1000は、それぞれ図中に示す矢印AR4方向および矢印AR5方向に搬送される。その際、ニップ部8を通過するに当たり、転写ベルト1および記録媒体1000が二次転写ローラー6と対向ローラー7とによって加圧された状態で挟み込まれて密着することになる。また、その際、密着した部分の転写ベルト1および記録媒体1000には、上述した所定の電界が作用することになる。これにより、転写ベルト1の第1主面1aに付着していたトナーが記録媒体1000の記録面1001に付着することになり、トナー像の転写が行なわれる。
ここで、二次転写ローラー6の表面の硬度は、対向ローラー7の表面の硬度よりも高いため、これら二次転写ローラー6および対向ローラー7によって挟み込まれた部分の転写ベルト1および記録媒体1000は、二次転写ローラー6の表面に沿うように湾曲することになる。そのため、転写ベルト1の第1主面1aには、二次転写ローラー6の軸方向に沿って延在する凹条形状の湾曲面が形成されることになり、この部分においてトナー像の転写が行なわれることになる。
本実施の形態における転写ベルト1は、上述した記録媒体1000として、その表面に特段の凹凸を有さない普通紙等を用いる場合に限られず、その表面に凹凸を有するエンボス紙等を用いる場合にも、良好な転写性を確保できるものであるが、そのメカニズム等については後述することとし、以下においては、上述した変位量測定装置を用いた評価方法の詳細について説明する。
<変位量測定装置>
図3(A)は、上記変位量測定装置の構成を示す概略図であり、図3(B)および図3(C)は、当該変位量測定装置に具備される加圧機構の動作を示す概略図である。図4(A)は、図3(A)に示す変位量測定装置の下側ブロックを上方から見た斜視図であり、図4(B)は、図3(A)に示す変位量測定装置の上側ブロックを下方から見た斜視図である。
図3(A)に示すように、変位量測定装置100は、下側ブロック110と、上側ブロック120と、加圧機構130と、張力付与機構140と、変位計150とを主として備えている。
図3(A)および図4(A)に示すように、下側ブロック110は、幅および奥行がいずれも50[mm]で高さが20[mm]のアルミブロックからなり、幅方向における上面111の中央部に幅が20[mm]の湾曲凸条面112を有している。湾曲凸条面112の曲率半径は、20[mm]である。
下側ブロック110の奥行方向に沿って位置する湾曲凸条面112の頂部のうち、当該奥行方向における中央部には、直径が1.25[mm](ただし、公差は±0.02[mm])の穴部113が設けられている。なお、当該穴部113の開口面から後退した位置には、変位計150のヘッド部151が配置されている。
図3(A)および図4(B)に示すように、上側ブロック120は、幅および奥行がいずれも50[mm]で高さが20[mm]のアルミブロックからなり、幅方向における下面121の中央部に幅が20[mm]の湾曲凹条面122を有している。湾曲凹条面122の曲率半径は、20.3[mm]である。
なお、下側ブロック110の上面111と湾曲凸条面112、上側ブロック120の下面121と湾曲凹条面122の表面の公差は、すべて0.02[mm]である。
図3(A)に示すように、下側ブロック110の上面111と上側ブロック120の下面121とは、互いに対向するように配置されている。ここで、下側ブロック110と上側ブロック120とが位置決めして配置されることにより、上述した湾曲凸条面112と湾曲凹条面122とは、鉛直方向に沿って重なるように配置されている。
上側ブロック120の上方には、加圧機構130が配置されている。加圧機構130は、ブロック状の部材である加圧部材131と、当該加圧部材131と上側ブロック120との間に配置されたスプリング132と、加圧部材131の上面に接するように配置されたカム133と、カム133に連結されたシャフト134と、シャフト134を回転駆動する駆動モーター135とを含んでいる。
図3(B)および図3(C)に示すように、駆動モーター135によってシャフト134が図中に示す矢印AR6方向に向けて回転駆動されることにより、シャフト134に連結されたカム133がシャフト134と共回りし、これに伴って加圧部材131が下方に向けて(図中に示す矢印AR7方向に向けて)押し下げられる。これにより、加圧部材131によって上側ブロック120がスプリング132を介して押し下げられることになり、上側ブロック120に鉛直下向きの荷重が付与されることになる。なお、当該荷重の大きさは、加圧部材131の押し下げ量dによって決まり、加圧部材131の押し下げ量dは、カム133の回転量によって調節できる。
図3(A)に示すように、下側ブロック110と上側ブロック120との間には、評価対象であるベルトSが配置され、当該ベルトSの両端は、下側ブロック110と上側ブロック120との間から外側に向けて引き出される。このベルトSの両端には、張力付与機構140がそれぞれ接続される。
張力付与機構140は、フィルム141と、テープ142と、錘143とを含んでいる。フィルム141は、厚さ100[μm]のポリエチレンテレフタレート製のフィルムからなり、テープ142は、厚さ30[μm]のポリイミド製の粘着テープからなる。ベルトSの端部には、フィルム141の一端がテープ142によって貼り付けられ、フィルム141の他端には、錘143が取付けられる。ここで、錘143による引っ張り荷重は、44[N/m]に調節される。なお、評価するベルトSが十分な大きさを有している場合には、上述したフィルム141およびテープ142を用いずに、ベルトSの両端に直接的に錘143を取付けてもよい。
変位計150は、ベルトSの表面の変位を検出するためのものであり、上述したように変位計150のヘッド部151は、ベルトSに対向するように下側ブロック110の穴部113内に設置されている。ここで、変位計150としては、キーエンス社製のマイクロヘッド型分光干渉レーザー変位計(分光ユニット(型式:SI−F01U)、ヘッド部(型式:SI−F01))を用いる。
<評価方法>
図5は、図3(A)に示す変位量測定装置を用いたベルトの評価方法を説明するためのグラフである。また、図6は、図3(A)に示す変位量測定装置を用いてベルトを加圧した状態における下側ブロックの穴部近傍の拡大断面図である。
ベルトSの評価は、前述した図3(A)に示す変位量測定装置100を用いて以下の手順にて行なう。なお、評価は、温度20[℃]、湿度50[%]の環境下にて行なう。
まず、ベルトSを変位量測定装置100にセットするに先立って、下側ブロック110の湾曲凸条面112と、上側ブロック120の湾曲凹条面122との接触部における圧力分布を測定する。圧力分布は、ニッタ社製のタクタイルセンサー(面圧力分布測定システムI−SCAN)を用いる。
具体的には、タクタイルセンサーの測定部を下側ブロック110と上側ブロック120との間に挿入し、加圧部材131を押し下げて30秒経過後の圧力分布を測定する。これを繰り返し、湾曲凸条面112と湾曲凹条面122との接触部およびその近傍における圧力が、200[kPa]±40[kPa]に収まるように調整する。
ベルトSは、測定に先立って、温度20[℃]、湿度50[%]の環境下で6時間以上保管する。評価するベルトSの大きさは、下側ブロック110および上側ブロック120の幅方向に対応した長さを60[mm]とし、下側ブロック110および上側ブロック120の奥行方向に対応した長さを50[mm]とする。なお、下側ブロック110および上側ブロック120の幅方向に対応した長さは、35[mm]以上300[mm]以下の大きさであればよく、下側ブロック110および上側ブロック120の奥行方向に対応した長さは、50[mm]以上150[mm]以下であればよい。下側ブロック110および上側ブロック120の幅方向に対応した長さに不足がある場合には、上述したフィルム141およびテープ142を用いてその両端に錘143を取付ければよい。
次に、タクタイルセンサーを取外し、下側ブロック110と上側ブロック120とが軽く接触した状態となるように加圧機構130にて上側ブロック120を下降させた後、当該状態を30秒間保持して接触状態を安定化させる。その後、加圧機構130を用いて上側ブロック120を下側ブロック110に向けて押し付ける。ここでの加圧条件は、後述するベルトSの加圧条件と同じとする(詳細は、後述のベルトSの加圧条件を参照のこと)。
そして、加圧開始時点から3秒間にわたり、下側ブロック110の穴部113に対向する部分の上側ブロック120の湾曲凹条面122の位置を変位計150を用いて測定し、これを後述するベルトSの変位量測定の基線に設定する。
次に、上側ブロック120を上昇させて下側ブロック110と上側ブロック120との接触を解除し、下側ブロック110の上面111上にベルトSを載置する。このとき、ベルトSの第1主面Saが下方(すなわち下側ブロック110側)を向くようにする。なお、当該ベルトSの載置に際しては、ベルトSと下側ブロック110との間およびベルトSと上側ブロック120との間に異物が混入しないように留意する。
次に、上側ブロック120とベルトSとが軽く接触した状態となるように加圧機構130にて上側ブロック120を下降させた後、当該状態を30秒間保持して接触状態を安定化させる。その後、加圧機構130を用いて上側ブロック120をベルトSに向けて押し付ける。
図5および図6に示すように、ベルトSへの加圧は、湾曲凸条面112と湾曲凹条面122とによって挟み込まれることとなるベルトSの被加圧領域PRが、4[kPa/ms]の加圧速度で加圧力が増加するように50[ms]にわたって加圧されることで200[kPa]の加圧力にまで到達した後、当該被加圧領域PRが、200[kPa]の加圧力で一定に加圧された状態が保持されるように行われる。その後、加圧開始から3秒が経過した時点でベルトSへの加圧を解除する。
その際、加圧開始時点から加圧を解除するまでの3秒間にわたり、ベルトSの第1主面Saのうちの下側ブロック110の穴部113に対応する部分である測定領域MRの位置を変位計150を用いて測定する。その際、ベルトSの測定領域MRを含む部分は、当該部分の周囲に位置するベルトSの部位が下側ブロック110および上側ブロック120によって挟み込まれて圧縮されることで穴部113内に向けて膨らむように変形し、この変形に伴って測定領域MRの位置が変化する。
上述した基線の測定時および測定領域MRの位置の測定時においては、変位計150の出力を横河電機社製のデジタルオシロスコープDL1640によって取り込む。このときのサンプリング周期は、5[ms]とする。
次に、測定された測定領域MRの位置と上述した基線とをもとにこれらの差分を求めることにより、ベルトSの測定領域MRの変位を時系列データとして算出する。
なお、測定対象であるベルトSに対して、上述した測定領域MRの位置が異なることとなるように、下側ブロック110に対するベルトSの載置位置を変更して、合計で10回にわたって上述した測定を行なう。
<典型的な変位のパターン>
上述した変位量測定装置100を用いたベルトの評価方法を適用して弾性層を含む種々のベルトの評価を行なった場合には、ベルトの測定領域の変位の挙動を示すパターンとして、典型的に以下の2つのパターンが確認できる。
図7および図8は、それぞれベルトの測定領域の変位の挙動の第1パターンおよび第2パターンを示すグラフである。
図7に示すように、第1パターンは、加圧開始後においてベルトSを加圧する加圧力の増加に伴ってベルトSの測定領域MRの変位量yが増加し、ベルトSを加圧する加圧力が200[kPa]に到達した時点(すなわち50[ms])付近においてベルトSの測定領域MRの変位に局所的なピークが発生し、その後ベルトSの測定領域MRの変位量yが減少に転じ、最終的には時間の経過とともに漸減して所定の変位量に収束するパターンである。すなわち、当該第1パターンは、ベルトSの測定領域MRの変位の推移にオーバーシュート部分を有するものと言え、以下においては、当該第1パターンにおけるベルトSの測定領域MRの変位量yが増加する局面における変位を一次変位と称し、ベルトSの測定領域MRの変位量yが減少する局面における変位を二次変位と称する。
一方、図8に示すように、第2パターンは、加圧開始後においてベルトSを加圧する加圧力の増加に伴ってベルトSの測定領域MRの変位量yが増加し、ベルトSを加圧する加圧力が200[kPa]に到達した時点(すなわち50[ms])付近においても局所的なピークは発生せず、その後ベルトSの測定領域MRの変位量yが漸増して所定の変位量に収束するパターンである。すなわち、当該第2パターンは、ベルトSの測定領域MRの変位の推移にオーバーシュート部分を有さないものと言える。
<本実施の形態における転写ベルトの変位のパターン>
上述した本実施の形態における転写ベルト1は、上記において詳細に述べた変位量測定装置100を用いたベルトの評価方法を適用して評価を行なった場合に、上記第1パターン(すなわち、オーバーシュート部分を有するパターン)を呈するものである。
これは、本発明者が、第1パターンを呈するベルトと第2パターンを呈するベルトとを複数種類準備して、これらをそれぞれ画像形成装置の中間転写ベルトとして使用してエンボス紙に画像形成を行なったところ、第2パターンを呈するベルトに比べて、第1パターンを呈するベルトの方が飛躍的に転写性に優れたものとなることを知見したことに基づいている。なお、当該知見を得るに至った実験(後述する、オーバーシュート率E、一次変位率k1および二次変位率k2とΔVadhとの関係を確認した実験、ならびに性能を確認した実験を含む)の詳細については、後において説明する。
第1パターンを呈するベルトにおいて高い転写性が確保できる理由は、その詳細については後述するが、基本的には転写ベルトを裏面(すなわち第2主面)側から加圧した場合にもその表面(すなわち第1主面)が大きく揺れ動くことに起因する。したがって、エンボス紙等の記録面に凹凸を有する記録媒体に対して高い転写性が確保できる転写ベルトを実現するためには、上述したオーバーシュート部分に着目するとよい。
ここで、図7を参照して、ベルトSの測定領域MRの変位の局所的なピークである変位量yの最大値をa[μm]と定義し、ベルトSの測定領域MRの変位が収束した後の変位量yである収束値をb[μm]と定義する。また、加圧開始時点から最大値a[μm]を観察した時点までの時間をt1[s]と定義し、加圧開始時点から最大値a[μm]が観察された後に再びベルトSの測定領域MRの変位量yが(a+b)/2に達した時点までの時間をt2[s]と定義する。
加えて、上述した第1パターンにおける特徴的なベルトSの測定領域MRの変位の挙動を示すパラメータとして、オーバーシュート率E[−]と、一次変位率k1[μm/s]と、二次変位率k2[μm/s]とを定義する。
オーバーシュート率E[−]は、オーバーシュートの大きさを示すパラメータであり、E=(a−b)/bで算出される。
一次変位率k1[μm/s]は、上述した局所的なピークに達するまでの変位である一次変位の増加率(すなわち変位量の増加の割合)を示すパラメータであり、k1=a/t1で算出される。
二次変位率k2[μm/s]は、上述した局所的なピークに達した後の変位である二次変位の減少率(すなわち変位量の減少の割合)を示すパラメータであり、k2=(a−b)/{2×(t2−t1)}で算出される。
これらオーバーシュート率E[−]、一次変位率k1[μm/s]および二次変位率k2[μm/s]は、いずれも転写ベルトが裏面(すなわち第2主面)側から加圧された場合に、その表面(すなわち第1主面)がどの程度揺れ動くかを表わすパラメータであり、より大きな変化をもって転写ベルトの表面が揺れ動くものほど、これらパラメータがより大きい値をとることになる。
より詳細には、オーバーシュート率E[−]が相対的に大きい値をとる場合には、転写ベルトの表面がより大きく変位していることになる。また、一次変位率k1[μm/s]が相対的に大きい値をとる場合には、転写ベルトの一次変位がより高速で生じていることになる。また、二次変位率k2[μm/s]が相対的に大きい値をとる場合には、転写ベルトの二次変位がより高速で生じていることになる。
ここで、本実施の形態における転写ベルト1は、以下の第1ないし第3条件のうちの少なくともいずれか1つを満たしている。なお、これら第1ないし第3条件は、いずれも後述する、オーバーシュート率E、一次変位率k1および二次変位率k2とΔVadhとの関係を確認した実験、ならびに性能を確認した実験の結果から導き出されたものである。
第1条件は、上述したオーバーシュート率E[−]が、0.2≦E≦3を満たす条件である。当該第1条件を満たす転写ベルト1とすることにより、表面に凹凸を有する記録媒体に対しても高い転写性を実現することができ、また繰り返しの使用によっても画像品位が低下してしまうことが抑制できる。
オーバーシュート率E[−]がE<0.2である場合には、転写ベルトを裏面側から加圧した場合にもその表面が余り大きくは揺れ動かないことになり、転写性の面で十分な効果が期待できない。一方、オーバーシュート率E[−]が3<Eである場合には、繰り返しの使用によって転写ベルトに割れや摩耗等が早期に発生してしまうおそれがあり、画像品位の低下が懸念されることになる。
第2条件は、上述した一次変位率k1[μm/s]が、60≦k1≦320を満たす条件である。当該第2条件を満たす転写ベルト1とすることにより、表面に凹凸を有する記録媒体に対しても高い転写性を実現することができ、また繰り返しの使用によっても画像品位が低下してしまうことが抑制できる。
一次変位率k1[μm/s]がk1<60である場合には、転写ベルトを裏面側から加圧した場合にもその表面が余り大きくは揺れ動かないことになり、転写性の面で十分な効果が期待できない。一方、一次変位率k1[μm/s]が320<k1である場合には、繰り返しの使用によって転写ベルトに割れや摩耗等が早期に発生してしまうおそれがあり、画像品位の低下が懸念されることになる。
第3条件は、上述した二次変位率k2[μm/s]が、6≦k2≦30を満たす条件である。当該第3条件を満たす転写ベルト1とすることにより、表面に凹凸を有する記録媒体に対しても高い転写性を実現することができ、また繰り返しの使用によっても画像品位が低下してしまうことが抑制できる。
二次変位率k2[μm/s]がk2<6である場合には、転写ベルトを裏面側から加圧した場合にもその表面が余り大きくは揺れ動かないことになり、転写性の面で十分な効果が期待できない。一方、二次変位率k2[μm/s]が30<k2である場合には、繰り返しの使用によって転写ベルトに割れや摩耗等が早期に発生してしまうおそれがあり、画像品位の低下が懸念されることになる。
ここで、転写ベルト1が上述した第1ないし第3条件のうちの1つの条件を満たすことにより、十分に高い転写性が確保できることになるが、転写ベルト1が上述した第1ないし第3条件のうちの2つの条件を満たすことにより、さらに高い転写性が確保できることになり、転写ベルト1が上述した第1ないし第3条件のすべてを満たすことにより、非常に高い転写性が確保できることになる。
加えて、上述した第1ないし第3条件のうちの少なくとも1つの条件を満たしていることを前提に、さらに第4条件として、上述した収束値b[μm]が、4≦b≦8の条件を満たしていることが好ましい。当該第4条件をさらに満たす転写ベルト1とすることにより、高い転写性の実現と画像品位の低下の抑制とがさらに確実ならしめられる。
なお、上述したオーバーシュート率E[−]、一次変位率k1[μm/s]および二次変位率k2[μm/s]は、上述した変位量測定装置100を用いたベルトの評価方法において、測定領域MRの位置を変更して得られた合計で10個の時系列データからそれぞれ算出される値のうち、値がより大きい3個と値がより小さい3個とを除外した残る4個の値の平均値を算出することで求められる。
<変位のパターンと転写性との関係>
次に、第1パターンを呈するベルトを画像形成装置の中間転写ベルトとして使用してエンボス紙に画像形成を行なった場合に、高い転写性が確保できる理由について詳細に説明する。
図9(A)は、非弾性層のみからなる転写ベルトを使用した場合の転写ベルトからエンボス紙へのトナーの移動の様子を表わした概略図であり、図9(B)は、その場合の印加電圧と転写効率との関係を示すグラフである。
図9(A)に示すように、非弾性層のみからなる転写ベルト1’を用いてエンボス紙1000へのトナー像の転写を行なう場合には、エンボス紙1000の凹部1002が位置しない部分(これを便宜上、以下において凸部1003と称する)の記録面1001と、転写ベルト1’の第1主面1a上に位置するトナー9とが接触した状態になる。一方、エンボス紙1000の凹部1002が位置する部分の記録面1001と、転写ベルト1’の第1主面1a上に位置するトナー9とは、非接触の状態になる。
そのため、エンボス紙1000の凹部1002の底面にトナー9を移動させるためには、トナー9を転写ベルト1’から飛翔させる必要がある。トナー9を転写ベルト1’から飛翔させるためには、トナー9が電界から受ける力が、トナー9の転写ベルト1’に対する付着力に打ち勝つ必要がある。なお、当該付着力は、非静電的付着力(ファンデルワールス力)と静電的付着力(帯電したトナーがもつ電荷と転写ベルトに生じる鏡像電荷とによる静電的引力)の合計である。
ここで、トナー9が電界から受ける力Fは、トナー9の荷電量をqとし、エンボス紙1000と転写ベルト1’との間の電位差をdVとし、エンボス紙1000と転写ベルト1’との間の距離をdxとした場合に、F=q×dV/dxで表わされる。当該関係から理解されるように、上記力Fは、エンボス紙1000と転写ベルト1’との間の電位差dVに比例するため、距離dxが大きくなればなるほど、トナー9を飛翔させるために必要となる印加電圧は大きくなる。
したがって、図9(B)に示すように、凹部1002において転写効率が最大になる印加電圧V1は、凸部1003において転写効率が最大になる印加電圧V0よりも高くなってしまう。なお、図9(B)においては、印加電圧と凸部1003に対する転写効率との関係を示す曲線に符号c1003を付し、印加電圧と凹部1002に対する転写効率との関係を示す曲線に符号c1002(1’)を付している。
通常、画像形成装置においては、上記印加電圧が凸部1003において転写効率が最大になる印加電圧V0付近に設定される。そのため、印加電圧V0付近において凹部1002における転写効率が高ければ高いほど、エンボス紙1000の凹部1002と凸部1003とにおける画像の濃度差が小さくなることになり、品位の高い画像が得られることになる。
図10(A)は、弾性層を含む転写ベルトを使用した場合の転写ベルトからエンボス紙へのトナーの移動の様子を表わした概略図であり、図10(B)は、その場合の印加電圧と転写効率との関係を示すグラフである。
図10(A)に示すように、弾性層を含む転写ベルト1”を用いた場合には、一般的に、エンボス紙1000の凹部1002内に転写ベルト1”の第1主面1a側の一部が入り込むように転写ベルト1”が変形することになり、これによってエンボス紙1000の凹部1002の底面と転写ベルト1”との間の距離dxが縮まるようになる。そのため、凹部1002において転写効率が最大になる印加電圧が下がる効果が得られる。この効果は、従前から知られている効果であり、ここではこれを追従変形効果と称する。
一方で、当該弾性層を含む転写ベルト1”が上述した第1パターンを呈するものである場合には、上述した転写ベルト1”の変形の際に第1主面1aが大きく揺れ動くことになり、当該第1主面1aが伸縮変形することで転写ベルト1”とこれに付着したトナー9との位置関係(すなわちトナー9と第1主面1aとの間の距離やその接触面積等)が変わり、転写ベルト1”に対するトナー9の付着力が低下することになる。そのため、凹部1002において転写効率が最大になる印加電圧がさらに下がる効果が得られる。この効果は、従前から知られているものではなく、本発明者が今回発見した効果であり、ここではこれを付着力低減効果と称する。
これにより、図10(B)に示すように、凹部1002において転写効率が最大になる印加電圧V2は、上述した非弾性層のみからなる転写ベルト1’を用いた場合に凹部1002において転写効率が最大になる印加電圧V1よりも小さくなる。なお、図10(B)においては、印加電圧と凹部1002に対する転写効率との関係を示す曲線に符号c1002(1”)を付している。
したがって、上述した非弾性層のみからなる転写ベルト1’を用いた場合に比べて、印加電圧V0付近において凹部1002における転写効率が高くなり、エンボス紙1000の凹部1002と凸部1003とにおける画像の濃度差が小さくなり、より品位の高い画像が得られることになる。この点について、以下においてさらに詳しく説明する。
図11は、図8に示す第2パターンを呈するベルトを転写ベルトとして用いた場合の、エンボス紙の凹部に対する挙動を説明するための模式図であり、図12は、図7に示す第1パターンを呈するベルトを転写ベルトとして用いた場合の、エンボス紙の凹部に対する挙動を説明するための模式図である。なお、これら図11および図12においては、理解を容易とするために、トナーの図示は省略している。
上述したように、転写ベルトが二次転写部のニップ部を通過する際には、転写ベルトおよびが二次転写ローラーによって転写ベルトが挟み込まれることで加圧される。その際、転写ベルト上の一点がニップ部において受ける圧力は、一般に、ニップ部の入口側部分において圧力が急速に増加した後、比較的圧力が変化しない局面を経て、さらにその後ニップ部の出口側部分において圧力が急速に減少する時間的変化をたどる。
図8に示す第2パターンを呈するベルトを転写ベルト1Xとして用いた場合には、エンボス紙1000の凹部1002に対する転写ベルト1Xの第1主面1aの挙動は、図11に示す如くとなる。ここで、図11においては、変位が生じていない状態での第1主面1aの位置を破線にて示しており、転写ベルト1Xに対する圧力の急速な増加を経て比較的圧力が変化しない局面に入った時点での第1主面1aの位置を一点鎖線にて示しており、その後、比較的圧力が変化しない局面を出て圧力の急速な減少に転じた時点での第1主面1aの位置を実線にて示している。
この場合、エンボス紙1000の凹部1002に対向する部分の第1主面1aが入り込むように転写ベルト1Xが変形することになり、これによってエンボス紙1000の凹部1002の底面と転写ベルト1Xとの間の距離が縮まる。これに伴い、上述した追従変形効果が得られることになる。
しかしながら、この場合、凹部1002に対向する部分の第1主面1aの変位は、当該凹部1002の底面に向けて第1主面1aが移動する単純な変形に基づく。そのため、当該第1主面1aが大きく揺れ動くことはなく、当該第1主面1aには僅かに伸長変形が生じるのみである。
したがって、第1主面1aとこれに付着したトナーとの位置関係が大きく変わることはなく、転写ベルト1Xに対するトナーの付着力が大きく低減することはない。そのため、上述した付着力低減効果は殆ど得られない。
一方、図7に示す第1パターンを呈するベルトを転写ベルト1として用いた場合には、エンボス紙1000の凹部1002に対する転写ベルト1の第1主面1aの挙動は、図12に示す如くとなる。ここで、図12においては、変位が生じていない状態での第1主面1aの位置を破線にて示しており、転写ベルト1に対する圧力の急速な増加を経て比較的圧力が変化しない局面に入った時点での第1主面1aの位置を一点鎖線にて示しており、その後、比較的圧力が変化しない局面を出て圧力の急速な減少に転じた時点での第1主面1aの位置を実線にて示している。
この場合、エンボス紙1000の凹部1002に対向する部分の第1主面1aが入り込むように転写ベルト1が変形することになり、これによってエンボス紙1000の凹部1002の底面と転写ベルト1との間の距離が縮まる。これに伴い、上述した追従変形効果が得られることになる。
さらに、この場合、転写ベルト1に含まれる弾性層の歪みが凹部1002に対向する部分の第1主面1aの中央に集中することによって当該部分において第1主面1aの変位が最大となるように一次変位が生じた後、凹部1002の底面から遠ざかるように戻りの変位である二次変位が生じる。
その際、凹部1002に対向する部分の第1主面1aには、転写ベルト1の変形前の状態における第1主面1aの法線方向(図中に示すX方向)のみならず当該法線方向と直交する方向(図中に示すY方向)においても変形が発生してこれら変形が互いに重畳することになり、第1主面1aには、高速でかつ複雑な変形が生じることになる。
その結果、第1主面1aとこれに付着したトナーとの位置関係が大きく変わることになり、転写ベルト1に対するトナーの付着力が大幅に低減されることになる。そのため、上述した追従変形効果に加え、上述した付着力低減効果が得られることになり、より深い凹部を有するエンボス紙等に対しても高い転写性が実現できることになる。
このように、付着力低減効果は、第1パターンを呈する転写ベルトにおいて特に顕著に得られる効果であり、得られる効果の程度は、上述した第1パターンにおけるオーバーシュート部分に大きく関係する。すなわち、上述した一次変位率k1[μm/s]が十分に大きい場合には、転写ベルト1がニップ部を通過する序盤において、転写ベルト1の第1主面1aが高速に一次変位することとなり、高い付着力低減効果が得られることになる。さらに、上述したオーバーシュート率E[−]が十分に大きい場合には、転写ベルト1がニップ部を通過する中盤において、転写ベルト1の第1主面1aに高速でかつ複雑な変形が生じることとなり、高い付着力低減効果が得られることになる。加えて、上述した二次変位率k2[μm/s]が十分に大きい場合には、転写ベルト1がニップ部を通過する終盤において、転写ベルト1の第1主面1aが高速に二次変位することとなり、高い付着力低減効果が得られることになる。
ここで、図10(B)を参照して、上述した印加電圧V1と印加電圧V2との差をΔVtotalとし、上述した追従変形効果による、凹部1002において転写効率が最大になる印加電圧の低減幅をΔVgapとし、上述した付着力低減効果による、凹部1002において転写効率が最大になる印加電圧の低減幅をΔVadhとした場合には、ΔVtotal=ΔVgap+ΔVadhの関係が成立する。
ΔVtotalは、上記のとおりV1−V2で表わされるため、ΔVadhは、V1−V2−ΔVgapで表わされることになる。V1およびV2は、いずれも転写ベルトごとに固有の値をとるが、実験によりその値を導くことが可能であり、ΔVgapは、上述した変位量測定装置100を用いたベルトの評価方法において測定されたベルトSの測定領域MRの変位量yから実験的に導くことができる。したがって、これらの値から、ΔVadhを計算により算出することが可能である。
<オーバーシュート率E、一次変位率k1および二次変位率k2と、ΔVadhとの関係を確認した実験>
本発明者は、弾性層に含有される樹脂や添加剤、架橋剤等の種類や量を種々調製することで弾性層の組成が異なるベルトを多数製作し、これらを上述した変位量測定装置100を用いたベルトの評価方法に基づいてそれぞれ評価し、各ベルトのオーバーシュート率E、一次変位率k1および二次変位率k2を求めた。
これらの中から互いに異なるオーバーシュート率E、一次変位率k1および二次変位率k2を有する複数のベルトを選定し、選定した複数のベルトを用いて実験的にエンボス紙の凹部に対する転写効率を測定することにより、各ベルトのV2の値を求めた。ここで、当該V2の測定に際しては、図3(A)に示す変位量測定装置100を用い、下側ブロック110と上側ブロック120との間に測定対象のベルトとエンボス紙とを挟んで配置し、下側ブロック110と上側ブロック120との間に電位差が生じるようにこれら下側ブロック110および上側ブロック120に電圧を印加した上で、当該印加電圧を種々変化させて最も転写効率がよくなった場合の電圧をV2とした。
また、非弾性ベルトを用いて同様の測定を行ない、V1の値を求めるとともに、変位量測定装置100を用いたベルトの評価方法において測定された各ベルトの測定領域MRの変位量からΔVgapを計算により算出した。
これら各ベルトのデータをもとに、オーバーシュート率E、一次変位率k1および二次変位率k2と、ΔVadhとの関係を整理した。図13は、オーバーシュート率EとΔVadhとの関係を示すグラフである。また、図14は、一次変位率k1とΔVadhとの関係を示すグラフであり、図15は、二次変位率k2とΔVadhとの関係を示すグラフである。なお、上述した第2パターンを呈するベルトにおいては、変位量yが局所的なピークを有しないため、50[ms]における変位量yを最大値aと定めた。
図13から理解されるように、オーバーシュート率EとΔVadhとの関係においては、0≦E<0.2の範囲でΔVadhが50[V]未満であり、付着力低減効果がほぼ得られていないことが確認できた。一方で、0.2≦Eの範囲では、オーバーシュート率Eの値が大きくになるにつれてΔVadhが50[V]を超えて上昇する傾向にあり、高い付着力低減効果が得られることが確認できた。
図14から理解されるように、一次変位率k1とΔVadhとの関係においては、0≦k1<60の範囲でΔVadhが50[V]未満であり、付着力低減効果がほぼ得られていないことが確認できた。一方で、60≦k1の範囲では、一次変位率k1の値が大きくになるにつれてΔVadhが50[V]を超えて上昇する傾向にあり、高い付着力低減効果が得られることが確認できた。
図15から理解されるように、二次変位率k2とΔVadhとの関係においては、0≦k2<6の範囲でΔVadhが50[V]未満であり、付着力低減効果がほぼ得られていないことが確認できた。一方で、6≦k2の範囲では、二次変位率k2の値が大きくになるにつれてΔVadhが50[V]を超えて上昇する傾向にあり、高い付着力低減効果が得られることが確認できた。
以上の結果は、上述した第1ないし第3条件におけるオーバーシュート率E、一次変位率k1および二次変位率k2それぞれの下限値を定める根拠となるものであり、これら第1ないし第3条件のいずれかの下限値側の条件が満たされることにより、上述した追従変形効果に加えて十分な付着力低減効果が得られることを示すものである。
<性能を確認した実験>
本発明者は、弾性層に含有される樹脂や添加剤、架橋剤等の種類や量を種々調製することで弾性層の組成が異なるベルトを多数製作し、これらを上述した変位量測定装置100を用いたベルトの評価方法に基づいてそれぞれ評価し、各ベルトのオーバーシュート率E、一次変位率k1および二次変位率k2を求めるとともに、各ベルトを所定の条件のもとに性能を確認する実験にかけた。
性能を確認する実験においては、コニカミノルタ社製の画像形成装置(デジタル複合機:bizhub PRESS C6000)を用い、これに具備されている中間転写ベルトを上述した各種のベルトに付け替えるとともに、二次転写ローラーの直径や二次転写圧についても必要に応じて変更や調整を行なった。
性能を確認する実験においては、ベルト種および画像形成条件のうちの少なくとも一方が異なる実験例1〜18について、エンボス紙への凹部への転写性の良否、1万枚印刷後における画像ノイズの発生の有無、二次転写ローラーの軸方向における転写の均一性の良否、中抜けの有無を確認した。なお、中抜けとは、細線や網点等の画像を形成した場合に、これら細線や網点等の中央部に転写不良が発生する現象のことである。
図16は、上述した性能を確認する実験の画像形成条件および画像形成結果を示す表である。図16に示すように、ベルト種としては、弾性層の組成が異なるA〜I,Xの合計で10種類の転写ベルトを準備し、転写圧は、70[kPa]から500[kPa]の間で合計5段階に設定し、二次転写ローラーの直径は、16[mm]から70[mm]の間で合計5段階に設定した。
ここで、ベルト種A〜Iは、いずれも本発明者が製作したものであり、基層の材質がポリイミドであり、弾性層の材質がニトリルゴムである。一方、ベルト種Xは、本発明者が製作したものではなく、市販の画像形成装置において用いられている中間転写ベルトであり、基層の材質がポリイミドであり、弾性層の材質がクロロプレンゴムである。
なお、性能を確認する実験を実施するに先立って、予備的に画像形成を行なったところ、二次転写ローラーの表面の硬度が対向ローラーの表面の硬度よりも低い場合、および二次転写ローラーの表面の硬度と対向ローラーの表面の硬度とが同じである場合に比べ、二次転写ローラーの表面の硬度が対向ローラーの表面の硬度よりも高い場合に、エンボス紙の凹部への転写性が優れていることが確認された。
これは、図2においても示したように、二次転写ローラー6の表面の硬度が対向ローラー7の表面の硬度よりも高い場合には、転写ベルト1の第1主面1aに凹条形状の湾曲面が形成されることになるためであり、当該凹条形状の湾曲面の表面部分は、圧縮される部分であるため、大きく変形する余地があり、これに伴って当該第1主面1aの変形を促進させる作用が発揮され易くなるためである。
(転写性の良否)
転写性の良否の確認には、特種東海製紙株式会社製のエンボス紙、商品名レザック66(レザックは登録商標)を使用した。このエンボス紙の坪量は302[g/m2]である。形成する画像は、ベタ画像とした。判定に際しては、マイクロデンシトメーターを用いてシャープで深さの深い凹部の反射濃度と凸部の反射濃度とを測定し、これらの濃度差を算出した。濃度差が0.25未満である場合には、「良」と判定し、濃度差が0.25以上0.40未満である場合には、「可」と判定し、濃度差が0.40以上である場合には、「不可」と判定した。
(画像ノイズの発生の有無)
画像ノイズの発生の有無の確認は、1万枚印刷後において同装置にてベタ画像を印刷し、当該ベタ画像の画質を観察することで行なった。また、1万枚印刷後における転写ベルトにおいて割れや摩耗がないかも観察した。判定に際しては、転写ベルトに割れや摩耗がなく、画像にもノイズがないものを「良」とし、転写ベルトに割れや摩耗があるが、画像にはノイズがないものを「可」とし、転写ベルトに割れや摩耗があり、画像にもノイズがあるものを「不可」とした。
(軸方向における転写の均一性の良否)
二次転写ローラーの軸方向における転写の均一性の良否の確認には、コート紙を使用した。このコート紙の坪量は151[g/m2]である。形成する画像は、ベタ画像とした。判定に際しては、マイクロデンシトメーターを用いてコート紙の長手方向のランダムな位置において反射濃度を20箇所にわたって測定し、測定された反射濃度の最大値と最小値との濃度差を算出した。濃度差が0.10未満である場合には、「良」と判定し、濃度差が0.10以上0.20未満である場合には、「可」と判定し、濃度差が0.20以上である場合には、「不可」と判定した。
(中抜けの有無)
中抜けの有無の確認には、コート紙を使用した。このコート紙の坪量は151[g/m2]である。形成する画像は、長さが60[mm]で幅が3ドットの細線5本とし、これをルーペで観察して画像の乱れの有無を確認した。判定に際しては、細線に乱れがないものを「良」とし、細線に極僅かにのみ乱れがあるものを「可」とし、細線に許容できない乱れがあるものを「不可」とした。
(総合評価)
総合評価においては、上述した転写性の良否、画像ノイズの発生の有無、軸方向における転写の均一性の良否、中抜けの有無のうちのいずれかに「不可」が含まれるものを「不可」とし、このうちのいずれにも「不可」は含まれていないが「可」が含まれているものを「良」または[可」とし、これらのいずれもが「良」であるものを「優」とした。なお、総合評価における「良」と「可」の違いは、転写性の良否、画像ノイズの発生の有無がいずれも「良」であるものが「良」であり、このうちの少なくとも一方が「可」であるものが「可」である。
(実験結果)
図16から理解されるように、オーバーシュート率E[−]が0.2≦E≦3を満たす(すなわち上記第1条件を満たす)実験例1〜13,16,17においては、上述した付着力低減効果が大きく発現し、エンボス紙の凹部においても良好な転写性が得られ、かつ画像品位や耐久性の点においても良好な結果が得られた。一方で、オーバーシュート率E[−]がE<0.2である実験例14,18においては、上述した付着力低減効果が十分には発現せず、エンボス紙の凹部において良好な転写性は得られなかった。また、オーバーシュート率E[−]が3<Eである実験例15においては、繰り返しの使用によって画像ノイズが発生してしまい、画像品位や耐久性の点において問題があった。
以上の結果は、上述した第1条件におけるオーバーシュート率Eの上限値および下限値を定める根拠となるものであり、当該第1条件を満たす転写ベルトとすることにより、表面に凹凸を有する記録媒体に対しても高い転写性を実現することができ、また繰り返しの使用によっても画像品位が低下してしまうことが抑制できることになる。
また、図16から理解されるように、一次変位率k1[μm/s]が60≦k1≦320を満たす(すなわち上記第2条件を満たす)実験例1〜13,16,17においては、上述した付着力低減効果が大きく発現し、エンボス紙の凹部においても良好な転写性が得られ、かつ画像品位や耐久性の点においても良好な結果が得られた。一方で、一次変位率k1[μm/s]がk1<60である実験例14,18においては、上述した付着力低減効果が十分には発現せず、エンボス紙の凹部において良好な転写性は得られなかった。また、一次変位率k1[μm/s]が320<k1である実験例15においては、繰り返しの使用によって画像ノイズが発生してしまい、画像品位や耐久性の点において問題があった。
以上の結果は、上述した第2条件における一次変位率k1の上限値および下限値を定める根拠となるものであり、当該第2条件を満たす転写ベルトとすることにより、表面に凹凸を有する記録媒体に対しても高い転写性を実現することができ、また繰り返しの使用によっても画像品位が低下してしまうことが抑制できることになる。
また、図16から理解されるように、二次変位率k2[μm/s]が6≦k2≦30を満たす(すなわち上記第3条件を満たす)実験例1〜13,16,17においては、上述した付着力低減効果が大きく発現し、エンボス紙の凹部においても良好な転写性が得られ、かつ画像品位や耐久性の点においても良好な結果が得られた。一方で、二次変位率k2[μm/s]がk2<6である実験例14,18においては、上述した付着力低減効果が十分には発現せず、エンボス紙の凹部において良好な転写性は得られなかった。また、二次変位率k2[μm/s]が30<k2である実験例15においては、繰り返しの使用によって画像ノイズが発生してしまい、画像品位や耐久性の点において問題があった。
以上の結果は、上述した第3条件における二次変位率k2の上限値および下限値を定める根拠となるものであり、当該第3条件を満たす転写ベルトとすることにより、表面に凹凸を有する記録媒体に対しても高い転写性を実現することができ、また繰り返しの使用によっても画像品位が低下してしまうことが抑制できることになる。
さらに、図16から理解されるように、上述した第1ないし第3条件のいずれかを具備することを前提に、さらに収束値b[μm]が4≦b≦8を満たす(すなわち上記第4条件を満たす)実験例1〜13においては、上述した付着力低減効果が大きく発現し、エンボス紙の凹部においても非常に良好な転写性が得られ、かつ画像品位や耐久性の点においても非常に良好な結果が得られた。
加えて、図16から理解されるように、上述した第1ないし第3条件のいずれかを具備することを前提に、二次転写ローラーの直径が20[mm]以上60[mm]以下である実験例1〜11,16,17においては、エンボス紙の凹部においても良好な転写性が得られ、また耐摩耗性も良好でかつ軸方向の濃度差や中抜けも許容レベルであった。一方で、二次転写ローラーの直径が20[mm]未満である実験例12では、二次転写ローラーのベンディングにより軸方向に濃度差が多少生じていた。また、二次転写ローラーの直径が60[mm]を超える実験例13では、中抜けが発生し、細線再現性が若干悪化していた。
したがって、上述した第1ないし第3条件のいずれかを具備することを前提に、さらに二次転写ローラーの直径を20[mm]以上60[mm]以下とすることにより、より高い品位の画像を形成することが可能になる。
加えて、図16から理解されるように、上述した第1ないし第3条件のいずれかを具備することを前提に、二次転写部のニップ部における最大圧力が100[kPa]以上400[kPa]以下である実験例1〜9,12,13,16,17においては、エンボス紙の凹部においても良好な転写性が得られ、また耐摩耗性も良好でかつ軸方向の濃度差や中抜けも許容レベルであった。一方で、二次転写部のニップ部における最大圧力が100[kPa]未満である実験例10では、転写圧が不安定となって軸方向に濃度差が多少生じていた。また、二次転写部のニップ部における最大圧力が400[kPa]を超える実験例11では、転写圧が高すぎることで中抜けが発生し、細線再現性が若干悪化していた。
したがって、上述した第1ないし第3条件のいずれかを具備することを前提に、さらに二次転写部のニップ部における最大圧力を100[kPa]以上400[kPa]以下とすることにより、より高い品位の画像を形成することが可能になる。
<付加実験>
本発明者は、以下に示す付加実験を行なうことにより、本発明による副次的な効果として、転写後における転写ベルトからの記録媒体の分離性が向上する効果と、転写ベルトに対するクリーニング性が向上する効果とが得られることを確認した。
付加実験を行なうに当たり、本発明者は、弾性層に含有される樹脂や添加剤、架橋剤等の種類や量を種々調製することで弾性層の組成が異なるベルトを多数製作し、これらを上述した変位量測定装置100を用いたベルトの評価方法に基づいてそれぞれ評価し、各ベルトの二次変位率k2を求め、当該二次変位率k2が異なる複数のベルトを選定した。
付加実験においては、上述した性能を確認する事件と同様に、コニカミノルタ社製の画像形成装置(デジタル複合機:bizhub PRESS C6000)を用い、これに具備されている中間転写ベルトを上述の複数のベルトに順次付け替え、記録媒体の分離性とクリーニング性を確認した。
図17は、上述した付加実験の画像形成条件および画像形成結果を示す表である。図17に示すように、ベルト種としては、弾性層の組成が異なるJ〜Nの合計で5種類の転写ベルトを準備し、転写圧は、いずれも200[kPa]に設定し、二次転写ローラーの直径は、いずれも40[mm]に設定した。
ここで、ベルト種J〜Nは、いずれも本発明者が製作したものであり、基層の材質がポリイミドであり、弾性層の材質がニトリルゴムである。
(記録媒体の分離性の良否)
記録媒体の分離性の良否の確認には、コニカミノルタ社製の普通紙、商品名Jペーパーを使用した。この普通紙の坪量は64[g/m2]である。形成する画像は、濃度が各種異なる画像とし、1000枚を印刷した。判定は、その間に発生する二次転写部における普通紙の分離不良による紙詰まりの回数に基づいて行ない、紙詰まりが発生しなかった場合には、「良」と判定し、紙詰まりが1回以上3回以下であった場合には、「可」と判定し、紙詰まりが4回以上であった場合には、「不可」と判定した。
(クリーニング性の良否)
クリーニング性の良否の確認には、特種東海製紙株式会社製のエンボス紙、商品名レザック66(レザックは登録商標)を使用した。このエンボス紙の坪量は302[g/m2]である。判定に際しては、形成した画像にクリーニング部のクリーニングブレードの拭き残しによる画像ノイズがあるか否かを観察することで行なった。この種の画像ノイズがない場合には、「良」と判定し、この種の画像ノイズがあるものの、許容できるレベルである場合には、「可」と判定し、この種の画像ノイズがあり、許容できないレベルである場合には、「不可」と判定した。
(実験結果)
図17に示した実験例19〜23の実験結果から明らかなように、二次変位率k2[μm/s]が大きい転写ベルトを用いる方が記録媒体の分離性は良好であった。非エンボス紙へのトナー像の転写においては、凹凸の段差が小さいため、転写ベルトの表面が記録媒体の凹凸に完全に追従するように変形することになり、転写ベルトの表面と記録媒体の表面との接触面積が大きくなり、結果として分離性が低下し易い。しかしながら、二次変位率k2[μm/s]が大きい転写ベルトを用いると、転写圧が最大となるニップ部の中央部では、転写ベルトの表面が記録媒体の凹凸に完全に追従するように変形したとしても、ニップ部の出口付近においては、既に変形から復帰しているため、転写ベルトの表面と記録媒体の表面との接触面積が小さくなっており、これにより記録媒体が転写ベルトから容易に分離される。一方、二次変位率k2[μm/s]が小さい転写ベルトを用いると、ニップ部の中央部で転写ベルトの表面が記録媒体の凹凸に完全に追従するように変形した後、ニップ部の出口付近においても十分に変形が解消していないため、転写ベルトの表面と記録媒体の表面との接触面積が大きいままとなり、記録媒体が転写ベルトから分離され難くなる。
また、図17に示した実験例19〜23の実験結果から明らかなように、二次変位率k2[μm/s]が小さい転写ベルトを用いると、クリーニング性が悪化する。これは、二次転写部で凹凸紙の段差に追従するように転写ベルトが変形した後、転写ベルトがクリーニング部に達するときにも、転写ベルトの表面の変形が解消されておらず、転写ベルトの表面に凹凸がある状態となって残留トナーの一部がクリーニングベルトをすり抜けることでクリーニング不良が発生するためである。一方、二次変位率k2[μm/s]が大きい転写ベルトを用いると、二次転写部で凹凸紙の段差に追従するように転写ベルトが変形した後、転写ベルトがクリーニング部に達するときには、既に変形から復帰しているため、転写ベルトの表面が平滑な状態となってクリーニング不良が発生し難くなる。
<画像形成装置>
図18は、本実施の形態における画像形成装置の概略図である。以下、この図18を参照して、本実施の形態における画像形成装置10について説明する。なお、図18に示す画像形成装置10は、いわゆるデジタル複合機である。
本実施の形態における画像形成装置10は、上述した本実施の形態における転写ベルト1を中間転写ベルト42aとして具備するものであるが、既に図2を用いて説明した一使用例と基本的に同じ使用形態にて転写ベルト1を用いるものである。
図18に示すように、画像形成装置10は、画像読取部20と、画像処理部30と、画像形成部40と、用紙搬送部50と、定着装置60とを備えている。
画像形成部40は、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)の各色トナーによる画像を形成する画像形成ユニット41(41Y,41M,41C,41K)を有している。これらについては、収容されるトナー以外はいずれも同じ構成を有するので、以後、色を表す記号を省略する。画像形成部40は、さらに、中間転写ユニット42および二次転写ユニット43を有している。
画像形成ユニット41は、露光装置41aと、現像装置41bと、感光体ドラム41cと、帯電装置41dと、ドラムクリーニング装置41eとを有している。感光体ドラム41cの表面は、光導電性を有しており、たとえば負帯電型の有機感光体である。感光体ドラム41cは、トナー像を担持する像担持体である。
帯電装置41dは、たとえばコロナ帯電器であるが、帯電ローラーや帯電ブラシ、帯電ブレードなどの接触帯電部材を感光体ドラム41cに接触させて帯電させる接触帯電装置であってもよい。露光装置41aは、たとえば半導体レーザーで構成される。
現像装置41bは、たとえば二成分現像方式の現像装置であるが、キャリアを含まない一成分現像方式の現像装置であってもよい。
中間転写ユニット42は、上述した本実施の形態における転写ベルト1からなる中間転写ベルト42aと、中間転写ベルト42aを感光体ドラム41cに圧接させる一次転写ローラー42bと、対向ローラー42c1を含む複数の支持ローラー42cと、ベルトクリーニング装置42dとを有している。中間転写ベルト42aは、無端状の転写ベルトである。ここで、主として一次転写ローラー42bにより、一次転写部が構成されることになる。
中間転写ベルト42aは、複数の支持ローラー42cによりループ状に張架され、移動可能となっている。複数の支持ローラー42cのうちの少なくとも一つの駆動ローラーが回転することにより、中間転写ベルト42aは矢印A方向に一定速度で走行する。
二次転写ユニット43は、無端状の二次転写ベルト43aと、二次転写ローラー43b1を含む複数の支持ローラー43bとを有している。二次転写ベルト43aは、二次転写ローラー43b1および支持ローラー43bによってループ状に張架される。ここで、主として二次転写ローラー43b1と対向ローラー42c1とにより、二次転写部が構成されることになる。
定着装置60は、記録媒体としての用紙上のトナーを加熱および融解する定着ローラー61と、用紙を定着ローラー61に向けて押圧する加圧ローラー62とを有している。
画像読取部20は、自動原稿給紙装置21と、原稿画像走査装置22(スキャナー)とを有している。このうち、原稿画像走査装置22には、コンタクトガラスと、各種のレンズ系と、CCDセンサ70とが設けられている。また、CCDセンサ70は、画像処理部30に接続されている。
用紙搬送部50は、給紙部51と、排紙部52と、搬送経路部53とを有している。給紙部51を構成する給紙トレイユニット51a〜51cには、坪量やサイズ等に基づいて識別された用紙(規格用紙、特殊用紙)が予め設定された種類ごとに収容される。搬送経路部53は、レジストローラー対53aなどの複数の搬送ローラー対を有している。排紙部52は、排紙ローラー52aによって構成されている。
次に、画像形成装置10による画像形成の処理について説明する。原稿画像走査装置22は、コンタクトガラス上の原稿を光学的に走査して読み取る。原稿からの反射光は、CCDセンサ70により読み取られ、入力画像データとなる。入力画像データは、画像処理部30において所定の画像処理が施され、露光装置41aに送られる。なお、入力画像データは、外部パソコンやモバイル機器などから画像形成装置10に送付されたものであってもよい。
感光体ドラム41cは、一定の周速度で回転する。帯電装置41dは、感光体ドラム41cの表面を一様に負極性に帯電させる。露光装置41aは、各色成分の入力画像データに対応するレーザー光を感光体ドラム41cに照射し、感光体ドラム41cの表面に静電潜像を形成する。現像装置41bは、感光体ドラム41cの表面にトナーを付着させ、感光体ドラム41c上の静電潜像を可視化させる。こうして感光体ドラム41cの表面に静電潜像に応じたトナー像が形成される。
感光体ドラム41cの表面のトナー像は、中間転写ユニット42によって中間転写ベルト42aに転写される。転写後に感光体ドラム41cの表面に残存する転写残トナーは、感光体ドラム41cの表面に摺接するドラムクリーニングブレードを有するドラムクリーニング装置41eによって除去される。一次転写ローラー42bによって中間転写ベルト42aが感光体ドラム41cに圧接されることにより、中間転写ベルト42aに各色のトナー像が順次重なって転写される。
二次転写ローラー43b1は、中間転写ベルト42aおよび二次転写ベルト43aを介して、対向ローラー42c1に圧接される。これにより、転写ニップが形成される。用紙は、用紙搬送部50によって転写ニップへ搬送され、この転写ニップを通過する。用紙の傾きの補正および搬送のタイミングの調整は、レジストローラー対53aが配設されたレジストローラー部により行われる。
転写ニップに用紙が搬送されると、二次転写ローラー43b1へ転写バイアスが印加される。この転写バイアスの印加によって、中間転写ベルト42aに担持されているトナー像は用紙に転写される。中間転写ベルト42aの表面に残存する転写残トナーは、中間転写ベルト42aの表面に摺接するベルトクリーニングブレードを有するベルトクリーニング装置42dによって除去される。ベルトクリーニング装置42dについては、中間転写ベルト42a上の残留トナーを清掃するものであれば、ブラシによるクリーニング方式を採用したものであってもよい。また、転写率の高いトナーを使用する場合には、クリーニング装置を使用しない態様もありえる。トナー像が転写された用紙は、二次転写ベルト43aによって定着装置60に向けて搬送される。
定着装置60は、トナー像が転写されて搬送されてきた用紙をニップ部で加熱および加圧する。こうしてトナー像は用紙に定着する。トナー像が定着された用紙は、排紙ローラー52aを備えた排紙部52により機外に排紙される。
ここで、トナーは、バインダー樹脂中に着色剤や、必要に応じて荷電制御剤や離型剤等を含有させ、外添剤を処理させたものであり、一般に使用されている公知のトナーを使用することができる。トナーの体積平均粒径は、好ましくは2[μm]以上12[μm]以下の範囲の粒子であり、画質の点でより好ましくは、3[μm]以上9[μm]以下の範囲の粒子がよい。
トナーの形状係数SF−1は、100から140であることが好ましいが、必ずしもこの範囲に限定されない。
形状係数SF−1は、走査型電子顕微鏡により、5000倍で撮影したトナーをランダムに100個、スキャナーで取り込み、画像処理解析装置「Luzex AP」(ニレコ社製)を用いて解析し、下記の式により導出される形状係数(SF−1)の平均値から求められる。
SF−1=〔{(粒子の絶対最大長)2/(粒子の投影面積)}×(π/4)〕×100
トナーの外添剤は、シリカやチタニアといった金属酸化物の微粒子が使用され、大きさは30[nm]といった小粒径のものから、100[nm]といった比較的大きな粒径のものが使用される。粉体流動性や帯電制御等の目的で、平均1次粒径が40[nm]以下の無機微粒子を用いてもよい。さらに、必要に応じて付着力低減のため、それより大径の無機あるいは有機微粒子を併用してもよい。無機微粒子としては、シリカやチタニアのほかに、アルミナ、メタチタン酸、酸化亜鉛、ジルコニア、マグネシア、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、酸化セリウム、チタン酸ストロンチウム等が挙げられる。また、分散性や粉体流動性をあげるため、無機微粒子の表面を別途処理してもよい。
キャリアは、特に限定されず、一般に使用されている公知のキャリアを使用することができ、バインダー型キャリアやコート型キャリアなどが使用できる。キャリア粒径としてはこれに限定されるものではないが、15[μm]以上100[μm]以下が好ましい。
以上において説明した本実施の形態においては、画像形成装置および転写ベルトとしていわゆるデジタル複合機およびこれに具備される中間転写ベルトに本発明を適用した場合を例示して説明を行なったが、その他の画像形成装置およびこれに具備される転写ベルトに本発明を適用することも当然に可能である。
このように、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。