図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図である。図1において、車両10は、走行用の駆動力源として機能するエンジン12と、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間に設けられた動力伝達装置16とを備えている。動力伝達装置16は、非回転部材としてのハウジング18内において、エンジン12に連結されたトルクコンバータ20、トルクコンバータ20の出力回転部材であるタービン軸と一体的に設けられた入力軸22、入力軸22に連結された無段変速機構としてのベルト式無段変速機24(以下、無段変速機24)、同じく入力軸22に連結された前後進切換装置26、前後進切換装置26を介して入力軸22に連結されて無段変速機24と並列に設けられた伝動機構としてのギヤ機構28、無段変速機24及びギヤ機構28の共通の出力回転部材である出力軸30、カウンタ軸32、出力軸30及びカウンタ軸32に各々相対回転不能に設けられて噛み合う一対のギヤから成る減速歯車装置34、カウンタ軸32に相対回転不能に設けられたギヤ36に連結されたデフギヤ38、デフギヤ38に連結された1対の車軸40等を備えている。このように構成された動力伝達装置16において、エンジン12の動力(特に区別しない場合にはトルクや力も同義)は、トルクコンバータ20、無段変速機24(或いは前後進切換装置26及びギヤ機構28)、減速歯車装置34、デフギヤ38、及び車軸40等を順次介して1対の駆動輪14へ伝達される。
動力伝達装置16は、エンジン12の動力を入力回転部材である入力軸22から無段変速機24を通り駆動輪14側(すなわち出力軸30)へ伝達する第1動力伝達経路と、エンジン12の動力を入力軸22からギヤ機構28を通り駆動輪14側(すなわち出力軸30)へ伝達する第2動力伝達経路とを、入力軸22と出力軸30との間に並列に備え、車両10の走行状態に応じてその第1動力伝達経路とその第2動力伝達経路とが切り換えられるように構成されている。その為、動力伝達装置16は、上記第1動力伝達経路と上記第2動力伝達経路とを選択的(択一的)に切り替えるクラッチ機構として、上記第1動力伝達経路における動力伝達を断続するCVT走行用クラッチC2と、上記第2動力伝達経路における動力伝達を断続する前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1とを備えている。CVT走行用クラッチC2、前進用クラッチC1、及び後進用ブレーキB1は、何れも油圧アクチュエータによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置(摩擦クラッチ)である。なお、無段変速機24は本発明のベルト式無段変速機構に対応し、前後進切替装置26およびギヤ機構28は本発明の歯車式伝動機構に対応する。また、CVT走行用クラッチC2は本発明の第1クラッチに対応し、前進用クラッチC1は本発明の第2クラッチに対応する。
トルクコンバータ20は、入力軸22回りにその入力軸22に対して同軸心に設けられており、エンジン12に連結されたポンプ翼車20p、および入力軸22に連結されたタービン翼車20tを備えている。ポンプ翼車20pには、無段変速機24を変速制御したり、無段変速機24におけるベルト狭圧力を発生させたり、前記クラッチ機構の各々の作動を切り替えたり、動力伝達装置16の動力伝達経路の各部に潤滑油を供給したりする為の作動油圧をエンジン12により回転駆動されることにより発生する機械式のオイルポンプ68が連結されている。
前後進切換装置26は、入力軸22回りにその入力軸22に対して同軸心に設けられており、ダブルピニオン型の遊星歯車装置26p、前進用クラッチC1、及び後進用ブレーキB1を主体として構成されている。遊星歯車装置26pのキャリヤ26cは入力軸22に一体的に連結され、遊星歯車装置26pのリングギヤ26rは後進用ブレーキB1を介してハウジング18に選択的に連結され、遊星歯車装置26pのサンギヤ26sは入力軸22回りにその入力軸22に対して同軸心に相対回転可能に設けられた小径ギヤ42に連結されている。又、キャリヤ26cとサンギヤ26sとは、前進用クラッチC1を介して選択的に連結される。
ギヤ機構28は、小径ギヤ42と、ギヤ機構カウンタ軸44に相対回転不能に設けられてその小径ギヤ42と噛み合う大径ギヤ46とを含んで構成されている。従って、ギヤ機構28は、1つギヤ段(変速比)が形成される伝動機構である。ギヤ機構カウンタ軸44回りには、アイドラギヤ48がギヤ機構カウンタ軸44に対して同軸心に相対回転可能に設けられている。ギヤ機構カウンタ軸44回りには、更に、ギヤ機構カウンタ軸44とアイドラギヤ48との間に、これらの間を選択的に断接する噛合式クラッチD1が設けられている。噛合式クラッチD1は、ギヤ機構カウンタ軸44に形成された第1ギヤ50と、アイドラギヤ48に形成された第2ギヤ52と、これら第1ギヤ50及び第2ギヤ52と嵌合可能(係合可能、噛合可能)な内周歯が形成されたハブスリーブ54とを含んで構成されている。このように構成された噛合式クラッチD1では、ハブスリーブ54がこれら第1ギヤ50及び第2ギヤ52と嵌合することで、ギヤ機構カウンタ軸44とアイドラギヤ48とが接続される。又、噛合式クラッチD1は、第1ギヤ50と第2ギヤ52とを嵌合する際に回転を同期させる、同期機構としての公知のシンクロメッシュ機構S1を更に備えている。アイドラギヤ48は、そのアイドラギヤ48よりも大径の出力ギヤ56と噛み合っている。出力ギヤ56は、出力軸30と同じ回転軸心回りにその出力軸30に対して相対回転不能に設けられている。前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1の一方が係合され且つ噛合式クラッチD1が係合されると、第1動力伝達経路および第2動力伝達経路のうちの、エンジン12の動力が入力軸22から前後進切換装置26、ギヤ機構28、アイドラギヤ48、及び出力ギヤ56を順次経由して出力軸30に伝達される、第2動力伝達経路が選択される。
無段変速機24は、入力軸22と出力軸30との間の動力伝達経路上に設けられている。無段変速機24は、入力軸22に設けられた入力側部材である有効径が可変の入力側プーリであるプライマリプーリ58と、出力軸30と同軸心のセカンダリ軸60に設けられた出力側部材である有効径が可変の出力側プーリであるセカンダリプーリ62と、その一対の可変プーリ58,62の間に巻き掛けられた伝動ベルト64とを備え、一対の可変プーリ58,62と伝動ベルト64との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。出力軸30は、セカンダリ軸60回りにそのセカンダリ軸60に対して同軸心に相対回転可能に配置されている。
プライマリプーリ58では、プライマリプーリ58に作用する油圧(すなわちプライマリプーリ58に設けられたプライマリ側油圧シリンダ58cへ供給されるプライマリ圧Pin)が油圧制御回路66(図3参照)によって調圧制御されることにより、各シーブ58a、58b間のV溝幅を変更する為のプライマリプーリ58における入力側推力(プライマリ推力)Win(=プライマリ圧Pin×受圧面積)が制御される。又、セカンダリプーリ62では、セカンダリプーリ62に作用する油圧(すなわちセカンダリプーリ62に設けられたセカンダリ側油圧シリンダ62cへ供給されるセカンダリ圧Pout)が油圧制御回路66によって調圧制御されることにより、各シーブ62a,62b間のV溝幅を変更する為のセカンダリプーリ62における出力側推力(セカンダリ推力)Wout(=セカンダリ圧Pout×受圧面積)が制御される。プライマリ推力Win及びセカンダリ推力Woutが各々制御されることで、各プーリ58,62のV溝幅が変化して伝動ベルト64の掛かり径(有効径)が変更され、変速比(ギヤ比)γ(=入力軸回転速度Nin/出力軸回転速度Nout)が連続的に変化させられると共に、伝動ベルト64が滑りを生じないように各プーリ58,62と伝動ベルト64との間の摩擦力(ベルト挟圧力)が必要且つ充分に制御される。このように、プライマリ推力Win及びセカンダリ推力Woutが各々制御されることで伝動ベルト64の滑りが防止されつつ実際の変速比(実変速比)γが目標変速比γtgtとされる。なお、プライマリ側油圧シリンダ58cは、本発明の入力側油圧シリンダに対応する。
CVT走行用クラッチC2は、無段変速機24の出力側部材(出力側プーリ)であるセカンダリプーリ62(セカンダリ軸60)(ここではセカンダリプーリ62(セカンダリ軸60)よりもトルク伝達経路における下流側の駆動輪14側である出力軸30でも同意)に設けられており、セカンダリプーリ62と出力軸30との間を断接する。言い換えれば、CVT走行用クラッチC2は、セカンダリプーリ62と出力軸30との間に設けられている。第1動力伝達経路および第2動力伝達経路のうちの、エンジン12の動力が入力軸22から無段変速機24を経由して出力軸30に伝達される、第1動力伝達経路が選択されるときに、CVT走行用クラッチC2が係合される。
図2は、動力伝達装置16の各走行パターン毎の係合要素の係合表を用いて、その走行パターンの切り換わりを説明する為の図である。図2において、C1は前進用クラッチC1の作動状態に対応し、C2はCVT走行用クラッチC2の作動状態に対応し、B1は後進用ブレーキB1の作動状態に対応し、D1は噛合式クラッチD1の作動状態に対応し、「○」は係合(接続)を示し、「×」は解放(遮断)を示している。
例えばギヤ機構28を介してエンジン12の動力が出力軸30に伝達される走行パターン(すなわち第2動力伝達経路を通って動力が伝達される走行パターン)であるギヤ走行(ギヤモードともいう)から、無段変速機24を介してエンジン12の動力が出力軸30に伝達される走行パターン(すなわち第1動力伝達経路を通って動力が伝達される走行パターン)であるCVT走行(ベルトモードともいう)(高車速)へ切り換えられる場合、前進用クラッチC1を解放してCVT走行用クラッチC2を係合するようにクラッチを掛け替えるCtoC変速が実行され、動力伝達装置16においてはアップシフトさせられる。
又、例えばCVT走行(高車速)からギヤ走行へ切り換えられる場合、CVT走行(中車速)の状態からCVT走行用クラッチC2を解放して前進用クラッチC1を係合するようにクラッチを掛け替える変速(例えばCtoC変速)が実行され、動力伝達装置16においてはダウンシフトさせられる。したがって、CVT走行用クラッチC2および前進用クラッチC1を一方から他方へ掛け替えるCtoC変速が実行されることで、第1動力伝達経路および第2動力伝達経路が択一的に選択される。
図3は、動力伝達装置16における変速制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。図3において、車両10には、例えば動力伝達装置16の走行パターンを切り換えたり、無段変速機24の無段変速を制御するための、本発明の車両用動力伝達装置の制御装置としての機能を含む電子制御装置100が備えられている。よって、図3は、電子制御装置100の入出力系統を示す図であり、又、電子制御装置100による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図でもある。電子制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置100は、エンジン12の出力制御、無段変速機24の変速制御やベルト挟圧力制御、走行パターンを切り換える制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用、変速制御用等に分けて構成される。
電子制御装置100には、車両10が備える各種センサ(例えば各種回転速度センサ82,84,86、アクセル開度センサ88、スロットル弁開度センサ90、セカンダリ回転速度センサ92など)による検出信号に基づく各種実際値(例えばエンジン回転速度Ne(rpm)、タービン回転速度Nt(rpm)に対応するプライマリプーリ58の回転速度である入力軸回転速度Nin(rpm)、車速V(km/h)に対応する出力軸回転速度Nout(rpm)、運転者の加速要求量としてのアクセルペダルの操作量であるアクセル開度θacc(%)、スロットル弁開度θth(%)、セカンダリプーリ62の回転速度であるセカンダリ回転速度Nsec、など)が、それぞれ供給される。なお、電子制御装置100は、たとえば入力軸回転速度Ninとセカンダリ回転速度Nsecとに基づいて無段変速機24の変速比γc(=入力軸回転速度Nin/セカンダリ回転速度Nsec)を算出する。
又、電子制御装置100からは、エンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号Se、無段変速機24の変速に関する油圧制御の為の油圧制御指令信号Sin、Sout、動力伝達装置16の走行パターンの切換えに関連する前後進切換装置26、CVT走行用クラッチC2、及び噛合式クラッチD1を制御する為の油圧制御指令信号Sc1、Sb1、Sc2、Sd1等が、それぞれ出力される。具体的には、エンジン出力制御指令信号Seとして、スロットルアクチュエータを駆動して電子スロットル弁の開閉を制御する為のスロットル信号や燃料噴射装置から噴射される燃料の量を制御する為の噴射信号や点火装置によるエンジン12の点火時期を制御する為の点火時期信号などが出力される。又、油圧制御指令信号Sinとして、プライマリプーリ58のアクチュエータに供給されるプライマリ圧Pinを調圧するソレノイド弁を駆動する為の指令信号、油圧制御指令信号Soutとして、セカンダリプーリ62のアクチュエータに供給されるセカンダリ圧Poutを調圧するソレノイド弁を駆動する為の指令信号などが油圧制御回路66へ出力される。又、油圧制御指令信号Sc1、Sb1、Sc2、Sd1として、前進用クラッチC1、後進用ブレーキB1、CVT走行用クラッチC2、噛合式クラッチD1に各々作用する各油圧(すなわち前進用クラッチC1、後進用ブレーキB1、CVT走行用クラッチC2、噛合式クラッチD1の各アクチュエータへ供給されるクラッチ圧Pc1、クラッチ圧Pb1、クラッチ圧Pc2、クラッチ圧Pd1)を調圧する各ソレノイド弁を駆動する為の指令信号などが油圧制御回路66へ出力される。
油圧制御回路66において、ライン圧P1は、例えばオイルポンプ68から出力(発生)される作動油圧を元圧として、ソレノイド弁により調圧される。油圧制御回路66において、たとえばプライマリ圧Pin及びセカンダリ圧Poutは、ベルト滑りを発生させず且つ不必要に大きくならないベルト狭圧力を各プーリ58、62に発生させるように制御される。又、プライマリ圧Pinとセカンダリ圧Poutとの相互関係で、各プーリ58、62の推力比τ(=Wout/Win)が変更されることにより無段変速機24の変速比γcが変更される。例えば、その推力比τが大きくされる程、変速比γcが大きくされる(すなわち無段変速機24はダウンシフトされる)。
電子制御装置100は、変速制御部102を備えている。変速制御部102は、CtoC変速判断部104、ベルト入力トルク算出部106、推力制御部110およびCtoC変速制御部112を備えている。
CtoC変速判断部104は、ギヤ走行における変速比ELに対応する第1速変速比γ1とCVT走行における最ロー変速比γmaxに対応する第2速変速比γ2とを切り替える為のアップシフト線及びダウンシフト線を用いて、車速V及びアクセル開度θaccに基づいて変速(変速比の切替え)を判断し、その判断結果に基づいて車両走行中の走行パターンを切り替えるか否かを判定する。上記アップシフト線及びダウンシフト線は、例えば予め定められた変速線であり、所定のヒステリシスを有している。なお、CVT走行における最ロー変速比γmaxは、本発明のベルト式無段変速機により形成される最大変速比に相当する。
CtoC変速制御部112は、ギヤ走行中にCtoC変速判断部104によりアップシフトが判定されると、前進用クラッチC1を解放すると共にCVT走行用クラッチC2を係合するCtoC変速によりアップシフトを実行することで、ギヤモードからCVT走行モード(高車速)へ切り替える。また、ギヤモードからCVT走行モードへの切替えに伴う変速比γの変化の連続性の観点から、推力制御部110によるCtoC変速によるアップシフト中は、無段変速機24の変速比γcがたとえば最ロー変速比γmax側に維持されるように制御される。
又、CtoC変速制御部112は、CVT走行(高車速)中にCtoC変速判断部104によりダウンシフトが判断されると、CVT走行用クラッチC2を解放すると共に前進用クラッチC1を係合するCtoC変速によりダウンシフトを実行することで、CVT走行モードからギヤ走行モードへ切り替える。このCtoC変速によるダウンシフトは、たとえばドライバによる大きな加速操作が行われた場合などには、無段変速機24のダウンシフトと同時に行われる場合がある。
CtoC変速中は、CVT走行用クラッチC2のトルク容量Tc2の変化に応じて、無段変速機24への入力トルクTinが変化するため、基本的には、CVT走行用クラッチC2のトルク容量Tc2を無段変速機24の実際の変速比γcで除算して、CtoC変速中の無段変速機24への入力トルクTinが算出される。以下、このように算出された入力トルクTinを推定入力トルクTinesという。ここで、CtoC変速中のCVT走行用クラッチC2のトルク容量Tc2は、油圧制御回路66へ出力されるクラッチ指示圧Pc2dirおよびセカンダリ側油圧シリンダ62cの各諸元に基づいて算出される。
図4は、CtoC変速中の無段変速機24のトルクシフト(アップシフト)を発生させるトルクシフト発生要因と、そのトルクシフト発生要因による無段変速機24でのトルクシフトの発生を抑制するための対応とを、示す図である。ここで、トルクシフトとは、たとえばクラッチ指示圧Pc2dirに基づいて算出した推定入力トルクTinesと実際の入力トルクTinとの乖離(バラツキ)などのトルクシフト要素に起因して、目標変速比γtgtを維持できず、目標変速比γtgtからアップシフトする、あるいはダウンシフトすることである。
図4に示されるように、後述する図7の横軸(トルク)に対応するトルクシフト発生要因(トルクシフト要素)には、クラッチ指示圧Pc2dirに対するCVT走行用クラッチC2のトルク容量Tc2のバラツキが挙げられている。CtoC変速中において推定入力トルクTinesの算出に用いられるCVT走行用クラッチC2のトルク容量Tc2は、クラッチ指示圧Pc2dirおよびセカンダリ側油圧シリンダ62cの各諸元に基づいて算出される。このため、たとえば、クラッチ指示圧Pc2dirと実際のクラッチ圧Pc2との乖離、CVT走行用クラッチC2の摩擦板の摩擦係数μおよびセカンダリ側油圧シリンダ62cの各諸元などに起因して、クラッチ指示圧Pc2dirに対して実際に得られるトルク容量Tc2は揃わず、所定の範囲でバラツキを有する可能性がある。推定入力トルクTinesは、バラツキを有するトルク容量Tc2の算出値から求められるため、実際の入力トルクTinとの間に乖離が生じる可能性がある。
CtoC変速中において、実際の入力トルクTinが推定入力トルクTinesよりも低い値となると、推力比特性上、最ロー変速比γmaxからアップシフトが生じる可能性がある。このため、CtoC変速中において、実際の入力トルクTinに拘わらず最ロー変速比γmaxを維持するために、最ロー変速比γmaxを達成する推力比τを最大値に設定して目標プライマリ推力Wintgtを得るためのプライマリ側油圧シリンダ58cに供給されるプライマリ圧Pinを最低圧とすることが考えられる。これにより、実際の入力トルクTinに拘わらず無段変速機24の最ロー変速比γmaxが維持される。しかしながら、最ロー変速比γmaxを達成する推力比τが最大値に設定された場合のプライマリ圧Pinは、実際の入力トルクTinに応じてトルク容量を確保するために必要となるプライマリ圧Pinから必要以上に低下させられるため、無段変速機24の耐久性が低下する可能性があった。このため、電子制御装置100は、CtoC変速中に、CVT走行用クラッチC2のトルク容量Tc2に基づいてCtoC変速中の無段変速機24の入力トルクTinを推定し、その推定した無段変速機24の入力トルクTinである推定入力トルクTinesに基づいて、CtoC変速中に無段変速機24のアップシフトが生じないように、プライマリプーリ58に設けられたプライマリ側油圧シリンダ58cのプライマリ圧Pinを制御する。つまり、本実施例では、プライマリ圧Pinが実際の入力トルクTinに応じたプライマリ圧Pinよりも小さくなるように制御されて、推力比特性上、最ロー変速比γmaxにおいて実際の入力トルクTinに応じたトルクシフトがダウンシフト側となり最ロー変速比γmaxが維持されるγmax押付け制御(図4)が行われる。この無段変速機24のγmax押付け制御では、プライマリ圧Pinが最低圧まで下げられないことから、無段変速機24の耐久性の低下を抑制することが可能となる。電子制御装置100は、CtoC変速中の無段変速機24のγmax押付け制御において、CtoC変速中にプライマリ側油圧シリンダ58cのプライマリ圧Pinを算出する際、無段変速機24のトルク容量Tc2を確保するためのトルク容量算出用推定入力トルクTlmtc、および無段変速機24の推力比τを算出するための推力比算出用推定入力トルクTincを用いるが、CtoC変速中の無段変速機24の入力トルクTinとして、以下の2種類の異なる値の推定入力トルクTinesが用いられる。ここで、CtoC変速中のトルク容量算出用推定入力トルクTlmtcは、CtoC変速中におけるベルト滑りの抑制を保証する為の必要且つ充分な推力であるベルト滑り保証推力Wlmtcを算出するのに用いられる無段変速機24の入力トルクTinである。また、推力比算出用推定入力トルクTincは、CtoC変速中の無段変速機24の推力比τを算出するのに用いられる無段変速機24の入力トルクTinである。
ベルト入力トルク算出部106は、CtoC変速判断部104によりCtoC変速が実行中であると判定されると、クラッチ指示圧Pc2dirおよびセカンダリ側油圧シリンダ62cの各諸元から推定入力トルクTinesを算出する際に、クラッチ指示圧Pc2dirとCVT走行用クラッチC2のトルク容量Tc2およびそのバラツキとの予め定められた関係から、実際のクラッチ指示圧Pc2dirに基づいてクラッチ指示圧Pc2dirに対するトルク容量Tc2のバラツキを推定し、トルク容量Tc2のバラツキの最大値Tc2maxとトルク容量Tc2のバラツキの最小値Tc2minとを推定する。ここで、トルク容量Tc2のバラツキの最大値Tc2maxからトルク容量Tc2のバラツキの最小値Tc2minを引いたトルク容量Tc2の所定のバラツキ範囲は、略一定値であり、クラッチ指示圧Pc2dirと実際のクラッチ圧Pc2との乖離幅、CVT走行用クラッチC2の摩擦板の摩擦係数μおよびセカンダリ側油圧シリンダ62cの各諸元などから、予め実験的に設定されている。ベルト入力トルク算出部106は、タービントルクTtとトルク容量Tc2のバラツキの最大値Tc2maxを無段変速機24の変速比γcで除算した推定入力トルクのバラツキ最大値Tinesmaxとのうちの小さい方の値(ミニマムセレクト値)を、CtoC変速中のトルク容量算出用推定入力トルクTlmtcに設定する。つまり、ベルト入力トルク算出部106は、推定入力トルクのバラツキ最大値TinesmaxがタービントルクTtよりも小さい場合には、CVT走行用クラッチC2へのクラッチ指示圧Pc2dirに対するトルク容量Tc2のバラツキの最大値Tc2maxに基づいてトルク容量算出用推定入力トルクTinesmaxを設定する。
ベルト入力トルク算出部106は、トルク容量Tc2のバラツキの最小値Tc2minに基づいて推力比算出用推定入力トルクTincを設定する。具体的には、トルク容量Tc2のバラツキの最小値Tc2minを無段変速機24の変速比γcで除算した推定入力トルクのバラツキ最小値Tinesminが推力比算出用推定入力トルクTincに設定される。あるいは、ベルト入力トルク算出部106は、タービントルクTtおよび推定入力トルクのバラツキ最大値Tinesmaxのうちミニマムセレクトにより推定入力トルクのバラツキ最大値Tinesmaxをトルク容量算出用推定入力トルクTlmtcに設定する場合には、推定入力トルクのバラツキ最小値Tinesminを推力比算出用推定入力トルクTincに設定し、タービントルクTtおよび推定入力トルクのバラツキ最大値TinesmaxのうちミニマムセレクトによりタービントルクTtをトルク容量算出用推定入力トルクTlmtcに設定する場合には、タービントルクTtからトルク容量Tc2の前記所定のバラツキ範囲を変速比γcで除算した除算値を引いた値を推力比算出用推定入力トルクTincに設定してもよい。つまり、ベルト入力トルク算出部106は、トルク容量算出用推定入力トルクTlmtcからトルク容量Tc2の前記所定のバラツキ範囲を変速比γcで除算した除算値を引いた値を推力比算出用推定入力トルクTincに設定してもよい。これにより、CtoC変速中において、実際の入力トルクTinが推力比算出用推定入力トルクTincよりも低くなることが抑制される。
推力制御部110は、CtoC変速中のプライマリ推力Winを得るためのプライマリプーリ58のプライマリ側油圧シリンダ58cに供給されるプライマリ圧Pinを算出する。図5は、CtoC変速中に最ロー変速比γmaxを達成するための本実施例および比較例の各推力比(γmaxバランス推力比)からそれぞれ定まるプライマリ推力Winについて説明する図である。推力制御部110は、プライマリ圧Pinの算出の際に、無段変速機24の入力トルクTinとして、無段変速機24のトルク容量を確保するために必要且つ充分な推力であるベルト滑り保証推力Wlmtを算出するために、タービントルクTtおよび推定入力トルクのバラツキ最大値Tinesmaxのうちの小さい方の値に設定されたトルク容量算出用推定入力トルクTlmtcを用い、無段変速機24の推力比τを算出するために、推定入力トルクのバラツキ最小値TinesminあるいはタービントルクTtからトルク容量Tc2の前記所定のバラツキ範囲を無段変速機24の変速比γcで除算した徐算値を引いた値に設定された推力比算出用推定入力トルクTincを用いる。
推力制御部110は、トルク容量算出用推定入力トルクTlmtcを用いて、CtoC変速中のプライマリ側ベルト滑り保証推力Wlmtinおよびセカンダリ側ベルト滑り保証推力Wlmtoutを算出する。推力制御部110は、各々、次式(1)及び次式(2)から、CtoC変速中のプライマリプーリ58の入力トルクとしてベルト入力トルク算出部106により設定されたトルク容量算出用推定入力トルクTlmtc、セカンダリプーリ62の入力トルクとしての無段変速機24の出力トルクTout(=γ×Tlmtc)、各プーリ58,62のシーブ角(コーン面角)α、所定のベルトエレメント−シーブ間摩擦係数μ、実変速比γから一意的に算出されるプライマリプーリ58側のベルト掛かり径Rin、実変速比γから一意的に算出されるセカンダリプーリ62側のベルト掛かり径Rout(以上、図1参照)に基づいて、CtoC変速中のプライマリ側ベルト滑り保証推力Wlmtin及びセカンダリ側ベルト滑り保証推力Wlmtoutを算出する。なお、次式(2)は、本発明の第1の関係に相当する。
Wlmtin =(Tlmtc ×cosα)/(2×μ×Rin ) …(1)
Wlmtout=(Tout×cosα)/(2×μ×Rout) …(2)
図6は、目標変速比γtgtをパラメータとしてトルク比と推力比τとの予め定められた推力比マップの一例を示す図である。推力制御部110は、図6に示す推力比マップから、推力比算出用推定入力トルクTincを用いて、CtoC変速中の無段変速機24の推力比τを算出する。推力比マップは、無段変速機24の推力比τを算出するための、無段変速機24の目標変速比γtgtをパラメータとして、無段変速機24の入力トルクTinから求められるトルク比と無段変速機24の推力比τとの予め定められた関係である。推力制御部110は、予め定められた関係(例えばCVT変速マップ)からアクセル開度θacc及び車速Vに基づいて目標入力軸回転速度Nitgtを算出し、その目標入力軸回転速度Nitgtに基づいて目標変速比γtgt(=Nitgt/Nout)を算出するが、CtoC変速中では目標変速比γtgtは最ロー変速比γmaxである。また、推力制御部110は、推力比τの算出に用いるトルク比を算出する。CtoC変速中のトルク比は、ベルト入力トルク算出部106により設定された推力比算出用推定入力トルクTincと、予め定められた無段変速機24に入力可能な限界のトルクである保証入力トルクTlmtinとの比(=Tinc/Tlmtin)である。推力制御部110は、図6に示されるような予め定められた関係(推力比マップ)から目標変速比γtgt及びCtoC変速中のトルク比に基づいて、目標変速比γtgtである最ロー変速比γmaxを定常的に維持する為の推力比τ(γmaxバランス推力比)を算出する。推力比マップは、トルク比が0から1のエンジン12の駆動力によって駆動輪14が駆動される駆動状態では、トルク比が1に近い比較的高トルク比の領域以外においては、トルク比が小さくなるほどすなわちCtoC変速中の無段変速機24の入力トルクとしての推力比算出用推定入力トルクTincが小さくなるほど、最ロー変速比γmaxを達成する推力比τ(γmaxバランス推力比)が大きくなる関係を有している。なお、推力比マップは、本発明の第2の関係に相当する。
図5に示されるように、本実施例におけるCtoC変速中の推力比τ(γmaxバランス推力比)は、トルク容量算出用推定入力トルクTlmtcの設定に考慮されるクラッチ指示圧Pc2dirに対するCVT走行用クラッチC2のトルク容量Tc2のバラツキの最大値Tc2maxに対して、トルク容量Tc2の差(バラツキ)が最大(MAX)となる、クラッチ指示圧Pc2dirに対するトルク容量Tc2のバラツキの最小値Tc2minが考慮されて設定される推力比算出用推定入力トルクTincに基づいて算出される。一方、図5の比較例におけるCtoC変速中の最ロー変速比γmaxを達成する推力比τ(γmaxバランス推力比)を算出するための推力比算出用推定入力トルクTincは、トルク容量算出用推定入力トルクTlmtcと同様に、トルク容量Tc2のバラツキの最大値Tc2maxを変速比γcで除算した推定入力トルクのバラツキ最大値TinesmaxおよびタービントルクTtのうちの小さい方の値に設定されている。つまり、比較例におけるCtoC変速中の推力比(γmaxバランス推力比)は、トルク容量算出用推定入力トルクTlmtcの設定に考慮されるクラッチ指示圧Pc2dirに対するトルク容量Tc2のバラツキの最大値Tc2maxに対して、トルク容量Tc2のバラツキが考慮されずに(C2トルク容量ノミナル)、トルク容量算出用推定入力トルクTlmtcと同じ値に設定された推力比算出用推定入力トルクTincに基づいて算出される。このため、本実施例のCtoC変速中の推力比τ(γmaxバランス推力比)は、比較例のCtoC変速中の推力比τ(γmaxバランス推力比)よりも大きい。
図5において、推力制御部110は、前記(1)式からトルク容量算出用推定入力トルクTlmtcに基づいて算出したプライマリ側滑り保証推力Wlmtinおよび最ロー変速比γmaxを達成する推力比τ(γmaxバランス推力比)から、セカンダリ側変速制御推力Woutshを算出する。推力制御部110は、前記(2)式からトルク容量算出用推定入力トルクTlmtcに基づいて算出したセカンダリ側滑り保証推力Wlmtoutと、上記のように算出したセカンダリ側変速制御推力Woutshとのうちの大きい方を、目標セカンダリ推力Wouttgt(図5中の実線の棒グラフで示されるセカンダリ推力)として設定する。推力制御部110は、目標セカンダリ推力Wouttgtを推力比τ(γmaxバランス推力比)で除して、目標プライマリ推力Wintgt(図5中の実線の棒グラフで示されるプライマリ推力)を算出する。推力制御部110は、目標セカンダリ推力Wouttgt及び目標プライマリ推力Wintgtを、各油圧シリンダ62c,58cの各受圧面積に基づいて目標セカンダリ圧Pouttgt(=Wouttgt/62cの受圧面積)及び目標プライマリ圧Pintgt(=Wintgt/58cの受圧面積)に各々変換する。推力制御部110は、目標プライマリ圧Pintgt及び目標セカンダリ圧Pouttgtが得られるように、油圧制御指令信号Sinとしてプライマリ指示圧Pindirを、油圧制御指令信号Soutとしてセカンダリ指示圧Poutdirを、それぞれ油圧制御回路66へ出力する。油圧制御回路66は、その油圧制御指令信号Sin、Soutに従って、各ソレノイド弁を作動させてプライマリ圧Pin及びセカンダリ圧Poutを調圧する。
比較例での目標プライマリ推力Wintgtおよび目標セカンダリ推力Wouttgtは、前記(1)式,(2)式および推力比マップから、タービントルクTtおよびクラッチ指示圧Pc2dirに対するトルク容量Tc2のバラツキの最大値Tc2maxを変速比γcで除算した推定入力トルクのバラツキ最大値Tinesmaxのうちの小さい方の値に設定されたトルク容量算出用推定入力トルクTlmtcおよび推力比算出用推定入力トルクTincに基づいて算出される。図5において、比較例の目標プライマリ推力Wintgtは、実線の棒グラフで示される実施例の目標プライマリ推力Wintgtよりも破線で示されるクラッチ指示圧Pc2dirに対するトルク容量Tc2の前記所定のバラツキ範囲に相当する推力分だけ大きい。つまり、本実施例のCtoC変速中の推力比τ(γmaxバランス推力比)は、比較例のCtoC変速中の推力比τ(γmaxバランス推力比)よりも大きいため、本実施例での目標プライマリ推力Wintgtは、比較例での目標プライマリ推力Wintgtから、トルク容量Tc2の前記所定のバラツキ範囲に相当する推力分だけ差し引かれた(下げられた)プライマリ推力Winに設定される。このように設定される本実施例での目標プライマリ推力Winを得るためのプライマリ側油圧シリンダ58cに供給されるプライマリ圧Pinの、図5の比較例での目標プライマリ推力Wintgtを得るためのプライマリ圧Pinからの下げ量は、たとえば最ロー変速比γmaxを達成する推力比τが最大とされて最低圧に設定されたプライマリ圧Pinの、図5の比較例でのプライマリ圧Pinからの下げ量よりも小さい。
図7は、無段変速機24の入力トルクTinと推力比τと変速比γcとの関係を示す図であって、トルクシフトを説明する概念図である。なお、図7において、同一の変速比γcを示す点の連なりが実線で例示されている。図7の白丸位置では、その白丸位置での目標変速比γtgt、および鎖線で示される制御上の無段変速機24の入力トルクTin(制御認識値)である推定入力トルクTinesに基づいて算出される推力比τから得られるバランス推力によって目標変速比γtgtが維持される。このとき、一点鎖線で示される無段変速機24の実際の入力トルクTin(実態値)が推定入力トルクTines(制御認識値)よりも低い値である場合には、白丸位置から推力比τを一定のまま低トルク側に矢印方向へ移動した実際(実態)の入力トルクTinに対応する、白丸位置での変速比γcよりも高車速側の変速比γcへアップシフトする可能性がある。反対に、無段変速機24の実際の入力トルクTin(実態値)が推定入力トルクTines(制御認識値)よりも高い値である場合には、白丸位置から推力比τを一定のまま高トルク側に矢印方向へ移動した実際(実態)の入力トルクTinに対応する、白丸位置での変速比γcよりも低車速側の変速比γcへダウンシフトする可能性がある。
本実施例では、CtoC変速中において最ロー変速比γmaxを維持するための推力比τ(γmaxバランス推力比)を算出するための推力比算出用推定入力トルクTincは、クラッチ指示圧Pc2dirに対するトルク容量Tc2のバラツキの最小値Tc2minを変速比γcで除算した推定入力トルクのバラツキ最小値Tinesmin、あるいはタービントルクTtからトルク容量Tc2の前記所定のバラツキ範囲を変速比γcで除算した徐算値を引いた値に設定される。このため、CtoC変速中において実際の入力トルクTinが推力比算出用推定入力トルクTincよりも低い値となることが抑制されるため、無段変速機24の最ロー変速比γmaxからのアップシフトが抑制される。一方、比較例の推力比算出用推定入力トルクTincは、トルク容量Tc2のバラツキの最大値Tc2maxを考慮して設定されるため、実際の入力トルクTinが推力比算出用推定入力トルクTincよりも低い値となり、CtoC変速中に無段変速機24の最ロー変速比γmaxからのアップシフトが生じる可能性がある。つまり、本実施例のプライマリ側油圧シリンダ58cに供給されるプライマリ圧Pinは、トルク容量Tc2のバラツキに起因したCtoC変速中の最ロー変速比γmaxからのアップシフトを抑制するために、図5の比較例のプライマリ圧Pinから必要最低限下げられている。これにより、本実施例のγmax押付け制御では、クラッチ指示圧Pc2dirに対するトルク容量Tc2のバラツキに起因したCtoC変速中の最ロー変速比γmaxからのアップシフトの抑制と無段変速機24の耐久性の低下の抑制とを両立可能な目標プライマリ推力Wintgtとするための最適な目標プライマリ圧Pintgtが設定される。
なお、図4に示されるように、CtoC変速中には、プライマリ指示圧Pindirに対する実際のプライマリ圧Pinのばらつきによって、図7の推力比(縦軸)に乖離(指示推力比に対する実推力比の乖離)が生じて最ロー変速比γmaxからのトルクシフト(アップシフト)が生じる可能性がある。このため、たとえば最ロー変速比γmaxを維持するための、プライマリ圧Pinと油圧ばらつきを見込んだプライマリ圧Pinの下げ量との予め定められたマップから、たとえば油圧センサからの実際のセカンダリ圧Poutおよび推力比τから算出されたプライマリ圧Pinに基づいて、CtoC変速中のプライマリ圧Pinの下げ量を設定する(Pinばらつきダウンシフト保証制御)。本実施例のγmax押付け制御は、このPinばらつきダウンシフト保証制御に並行して行なわれてもよい。その場合、CtoC変速中のプライマリ圧Pinの下げ量は、γmax押付け制御での下げ量とPinばらつきダウンシフト保証制御での下げ量とを足したものとなる。
図8は、電子制御装置100の制御作動の要部を説明するフローチャートである。図9は、CtoC変速によるアップシフトにおける本実施例の電子制御装置100の制御作動の一例を説明する図である。図10は、CtoC変速によるアップシフトにおける電子制御装置100とは異なる制御機能を有する比較例の電子制御装置の制御作動の一例を説明する図である。図11は、CtoC変速によるアップシフトにおいて、本実施例の電子制御装置100の制御作動の一例と、電子制御装置100とは異なる制御機能を有する比較例の電子制御装置の制御作動の一例とを、それぞれ示すタイムチャートである。
図8において、CtoC変速判断部104の機能に対応するステップ(以下、「ステップ」を省略する。)S1において、CtoC変速中であるか否かが判定される。S1の判定が否定される場合には、本フローチャートは終了させられる。S1の判定が肯定される場合(図9の本実施例におけるt1時点からt3時点および図11のt1時点からt3時点)には、ベルト入力トルク算出部106の機能に対応するS2において、クラッチ指示圧Pc2dir(C2指示油圧)に対するCVT走行用クラッチC2のトルク容量Tc2のバラツキの最大値Tc2maxを無段変速機24の変速比γcで除算した推定入力トルクのバラツキ最大値TinesmaxとタービントルクTtとのうちの小さい値が、トルク容量算出用推定入力トルクTlmtcに設定される。図9および図11のt1時点からt2時点において、図9の破線で示されるベルト入力トルク、図11の実線で示されるC2トルク容量ばらつき最大値/変速比にそれぞれ対応する推定入力トルクのバラツキ最大値Tinesmaxがトルク容量算出用推定入力トルクTlmtc(狭圧力算出用推定入力トルク)に設定され、図9および図11のt2時点からt3時点において、図9および図11においてそれぞれ一点鎖線で示されるタービントルクTtがトルク容量算出用推定入力トルクTlmtcに設定されている。なお、図11において、分かり易くするために破線で示されるトルク容量算出用推定入力トルクTlmtcは、推定入力トルクのバラツキ最大値TinesmaxあるいはタービントルクTtから僅かにずらして示されている。ベルト入力トルク算出部106の機能に対応するS3において、クラッチ指示圧Pc2dirに対するトルク容量Tc2のバラツキの最小値Tc2minを変速比γcにより除算した推定入力トルクのバラツキ最小値Tinesmin、あるいはタービントルクTtからトルク容量Tc2の前記所定のバラツキ範囲を変速比γcで除算した除算値を引いた値が、推力比算出用推定入力トルクTincに設定される。図9のt1時点からt3時点において、二点鎖線で示されるベルト入力トルクに対応する推定入力トルクのバラツキ最小値Tinesminが推力比算出用推定入力トルクTincに設定されている。図11のt1時点からt2時点において、推定入力トルクのバラツキ最小値Tinesminが実線で示される推力比算出用推定入力トルクTincに設定され、図11のt2時点からt3時点において、タービントルクTtからトルク容量Tc2の前記所定のバラツキ範囲(クラッチ指示圧Pc2dirに対するトルク容量Tc2のバラツキの最大値Tc2maxとバラツキの最小値Tc2minとの差)を変速比γcで除算した除算値を引いた値が推力比算出用推定入力トルクTincに設定されている。このため、図9に示されるように、CtoC変速中において実際の入力トルクTin(実ベルト入力トルク)が推力比算出用推定入力トルクTincよりも低い値となることが抑制される。これにより、最ロー変速比γmaxにおいて実際の入力トルクTinに応じたトルクシフトがダウンシフト側となり実際の変速比(実レシオ)が目標変速比(目標レシオ)γtgtである最ロー変速比γmaxに維持される。
推力制御部110の機能に対応するS4において、前記(1)式および前記(2)式からトルク容量算出用推定入力トルクTlmtcに基づいて、ベルト滑り保証推力Wlmtが算出される。また、図4に示される推力比マップから推力比算出用推定入力トルクTincに基づいて、最ロー変速比γmaxを達成する推力比τが算出される。図11において、実線で示される最ロー変速比γmaxを達成する推力比τ(γmaxバランス推力比(C2容量ばらつき下限))は、破線で示されるトルク容量算出用推定入力トルクTlmtcからクラッチ指示圧Pc2dirに対するトルク容量Tc2の前記所定のバラツキ範囲を変速比γcで除算した除算値を引いた値に設定された、実線で示される推力比算出用推定入力トルクTincに基づいて算出される。推力制御部110の機能に対応するS5において、ベルト滑り保証推力Wlmtcおよび推力比τから、目標セカンダリ推力Wouttgt、目標プライマリ推力Wintgtが設定される。目標プライマリ推力Wintgtは、目標セカンダリ推力Wouttgtを推力比τにより除算した値に設定される。図11に示されるように、本実施例の実線で示される推力比τはクラッチ指示圧Pc2dirに対するトルク容量Tc2の前記所定のバラツキ範囲が考慮されて設定されるため、たとえば最ロー変速比γmaxを達成する推力比τを最大値としてプライマリ圧Pinを最低圧とする場合よりも、実線で示されるプライマリ圧Pinを高くすることができる。このため、プライマリプーリ58のプライマリ側油圧シリンダ58cに供給されるプライマリ圧Pinを、CtoC変速中の最ロー変速比γmaxからのアップシフトを抑制するとともに、無段変速機24の耐久性の低下を抑制するために最適なプライマリ圧とすることができる。推力制御部110の機能に対応するS6において、CtoC変速中において、目標セカンダリ推力Wouttgtおよび目標プライマリ推力Wintgtに基づいて、無段変速機24の推力制御が行われる。S6実行後、本フローチャートは終了させられる。
一方、図10および図11のt1時点からt2時点においては、図10の破線で示されるベルト入力トルク、図11の実線で示されるC2トルク容量ばらつき最大値/変速比にそれぞれ対応する推定入力トルクのバラツキ最大値Tinesmaxが推力比算出用推定入力トルクTincに設定され、図10および図11のt2時点からt3時点においては一点鎖線で示されるタービントルクTtが推力比算出用推定入力トルクTincに設定されている。つまり、図10および図11の比較例では、トルク容量算出用推定入力トルクTlmtcと同じ値が、推力比算出用推定入力トルクTincに設定されている。図10に示されるように、比較例では、CtoC変速中において、実際の入力トルクTinが推力比算出用推定入力トルクTincよりも低い値となり、アップシフト側へのトルクシフトが生じて、目標変速比(目標レシオ)γtgtである最ロー変速比γmaxよりも実際の変速比(実レシオ)γcが小さくなっている。また、図11に示されるように、比較例の破線で示される最ロー変速比γmaxを維持するための推力比(γmaxバランス推力比)は、トルク容量Tc2の前記所定のバラツキ範囲が考慮されていないため(C2トルク容量ノミナル)、本実施例の実線で示される推力比τよりも小さい。このため、図11に示されるように、比較例の破線で示されるプライマリ圧Pin(C2トルク容量ノミナル)は、実施例の実線で示されるプライマリ圧Pinよりも、トルク容量Tc2の前記所定のバラツキ範囲に相当する推力の油圧分だけ大きい。なお、図9および図10のt1時点から所定時間の間において、CVT走行用クラッチC2の油圧シリンダへ所定の作動油を供給するクイックアプライ制御のクラッチ指示圧Pc2dirが点線で示されている。また、図11には、タービン回転速度Nt(入力軸回転速度Nin)が実線で、無段変速機24の基本目標回転速度Ninbsが破線でそれぞれ示されている。また、セカンダリ安全率逆数SFout−1(=Wlmtout/Wout)が点線で、セカンダリ推力比逆数が実線でそれぞれ示されている。
上述のように、本実施例の電子制御装置100によれば、CtoC変速中に目標プライマリ推力Wintgtを得るためのプライマリ側油圧シリンダ58cへ供給されるプライマリ圧Pinを算出する際、無段変速機24の入力トルクTinとして、無段変速機24のトルク容量を確保するためのベルト滑り保証推力Wlmtcを算出するためのトルク容量算出用推定入力トルクTlmtc、および無段変速機24の推力比τを算出するための推力比算出用推定入力トルクTincを用い、クラッチ指示圧Pc2dirに対するCVT走行用クラッチC2のトルク容量Tc2のバラツキの最大値Tc2maxを無段変速機24の変速比γcで除算した推定入力トルクのバラツキ最大値TinesmaxおよびタービントルクTtのうちの小さい方の値がトルク容量算出用推定入力トルクTlmtcに設定され、クラッチ指示圧Pc2dirに対するCVT走行用クラッチC2のトルク容量Tc2のバラツキの最小値Tc2minを無段変速機24の変速比γcで除算した推定入力トルクのバラツキ最小値Tinesmin、あるいはタービントルクTtからトルク容量Tc2の前記所定のバラツキ範囲を無段変速機24の変速比γcで除算した除算値を引いた値が、推力比算出用推定入力トルクTincに設定される。このため、推力比算出用推定入力トルクTincは、クラッチ指示圧Pc2dirに対するCVT走行用クラッチC2のトルク容量Tc2のバラツキの最小値Tc2minを考慮して設定されるため、無段変速機24への実際の入力トルクTinが推力比算出用推定入力トルクTincよりも低くなることが抑制されて、CtoC変速中の無段変速機24のアップシフトが抑制される。また、CtoC変速中のプライマリプーリ58に設けられたプライマリ側油圧シリンダ58cのプライマリ圧Pinの、たとえばクラッチ指示圧Pc2dirに対するCVT走行用クラッチC2のトルク容量Tc2のバラツキの最大値Tc2maxに基づいて設定された推力比算出用推定入力トルクTincから無段変速機24の推力比τが算出される比較例のプライマリプーリ58に設けられたプライマリ側油圧シリンダ58cのプライマリ圧Pinからの下げ量は、CVT走行用クラッチC2のトルク容量Tc2の推定のバラツキ範囲分に相当する油圧に抑えられる。このため、たとえば最ロー変速比γmaxを達成する無段変速機24の推力比τを最大値としてプライマリ側油圧シリンダ58cのプライマリ圧Pinを最低圧とする場合と比較して、プライマリ側油圧シリンダ58cのプライマリ圧Pinの下げ量を小さくすることができることから、無段変速機24の耐久性の低下を抑制することができる。
また、本実施例によれば、電子制御装置100は、無段変速機24のプライマリプーリ58のトルク容量を確保するために必要且つ充分な推力であるプライマリ側滑り保証推力Wlmtinと無段変速機24の入力トルクTinとの予め定められた前記(1)式と、無段変速機24のセカンダリプーリ62のトルク容量を確保するために必要且つ充分な推力であるセカンダリ側滑り保証推力Wlmtoutと無段変速機24の入力トルクTinとの予め定められた前記(2)式と、無段変速機24の推力比τを算出するための、無段変速機24の目標変速比γtgtをパラメータとして無段変速機24の入力トルクTinと無段変速機24の推力比τとの予め定められた推力比マップとを備えている。また、推力制御部110は、CtoC変速中は、前記(1)式あるいは前記(2)式からトルク容量算出用推定入力トルクTlmtcに基づいて、無段変速機24のプライマリプーリ58のプライマリ側滑り保証推力Wlmtin、およびセカンダリプーリ62のセカンダリ側滑り保証推力Wlmtoutをそれぞれ算出するとともに、無段変速機24の目標変速比γtgtを無段変速機24により形成される最ロー変速比γmaxとし、前記推力比マップから最ロー変速比γmaxと推力比算出用推定入力トルクTincに基づいて、無段変速機24の最ロー変速比γmaxを達成する推力比τを算出する。そして、推力制御部110は、プライマリ側滑り保証推力Wlmtinおよび最ロー変速比γmaxを達成する推力比τから算出したセカンダリ側変速制御推力Woutshとセカンダリ側滑り保証推力Wlmtoutとの大きい方の値を、目標セカンダリ推力Wouttgtに設定し、目標セカンダリ推力Wouttgtを無段変速機24の最ロー変速比γmaxを達成する推力比τにより除して、プライマリプーリ58の目標プライマリ推力Wintgtを算出し、目標プライマリ推力Wintgtから無段変速機24のプライマリプーリ58に設けられたプライマリ側油圧シリンダ58cのプライマリ指示圧Pindirを算出する。このため、前記推力比マップから、無段変速機24の最ロー変速比γmaxとCVT走行用クラッチC2へのクラッチ指示圧Pc2dirに対するトルク容量Tc2の前記所定のバラツキ範囲が考慮されて設定された推力比算出用推定入力トルクTincとに基づいて、無段変速機24の最ロー変速比γmaxを達成する推力比τが算出される。これにより、CtoC変速中における無段変速機24のアップシフトが抑制されるとともに、無段変速機24の耐久性の低下が抑制される。
また、本実施例によれば、前記推力比マップは、無段変速機24の入力トルクTinが小さくなるほど、無段変速機24の目標変速比γtgtを達成するための推力比τが大きくなる関係である。このため、前記推力比マップから無段変速機24の最ロー変速比γmaxとCVT走行用クラッチC2へのクラッチ指示圧Pc2dirに対するトルク容量Tc2の前記所定のバラツキ範囲が考慮されて設定された推力比算出用推定入力トルクTincとに基づいて算出される推力比τが、前記推力比マップから無段変速機24の最ロー変速比γmaxと無段変速機24の実際の入力トルクTinとに基づいて算出される推力比τよりも大きくなる。これにより、最ロー変速比γmaxにおいて実際の入力トルクTinに応じたトルクシフトがダウンシフト側となり実際の変速比が目標変速比γtgtである最ロー変速比γmaxに維持される。
以上、本発明を表及び図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
たとえば、前述の実施例の電子制御装置100では、CVT走行用クラッチC2のトルク容量Tc2のバラツキの最大値Tc2maxあるいはバラツキの最小値Tc2minを無段変速機24の変速比γcで除算した推定入力トルクのバラツキ最大値Tinesmax、推定入力トルクのバラツキ最小値Tinesminが、トルク容量算出用推定入力トルクTlmtc、あるいは推力比算出用推定入力トルクTincに設定されていたが、これに限定されるものではない。たとえばエンジン12から出力されるエンジントルクTeとCVT走行用クラッチC2のトルク容量Tc2とから構成される、予め求められて記憶されている運動方程式ないしは関係マップから、実際のエンジントルクTeおよびCVT走行用クラッチC2へのクラッチ指示圧Pc2dirに対するトルク容量Tc2のバラツキの最大値Tc2maxに基づいて推定入力トルクのバラツキ最大値Tinesmaxを算出し、CVT走行用クラッチC2へのクラッチ指示圧Pc2dirに対するトルク容量Tc2のバラツキの最小値Tc2minに基づいて推定入力トルクのバラツキ最小値Tinesminを算出してもよい。
また、前述の実施例では、ギヤ機構28は、1つのギヤ段が形成される伝動機構であったが、これに限定されるものではない。たとえば、ギヤ機構28は、変速比γが異なる複数のギヤ段が形成される伝動機構であっても良い。つまり、ギヤ機構28は2段以上に変速される有段変速機であってもよい。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。