第1の発明のマイクロ波加熱装置は、被加熱物を収納する加熱室と、マイクロ波を発生させるマイクロ波発生部と、マイクロ波発生部が発生させたマイクロ波を伝送する伝送部と、伝送部から伝送されるマイクロ波を加熱室に放射する導波管構造アンテナと、導波管構造アンテナを回転させるように駆動する回転駆動部とを備え、導波管構造アンテナの導波管構造を形成する壁面にマイクロ波吸出し開口が形成される。これにより、マイクロ波吸出し開口の近傍における食品の載置の有無などにより、マイクロ波吸出し開口からのマイクロ波の吸出し効果が変わる。よって、導波管構造アンテナの局所加熱性能に関して半径方向にも制御性を持たせ、被加熱物の置き位置に応じて局所加熱することができる。
第2の発明のマイクロ波加熱装置は、特に第1の発明の伝送部から伝送されるマイクロ波を導波管構造アンテナに結合する結合軸をさらに備え、導波管構造アンテナの先端には、結合軸により結合されたマイクロ波を放射するように開放された先端開放部が形成されている。これにより、導波管構造アンテナにおいて、先端開放部とマイクロ波吸出し開口の両方からマイクロ波を放射することができるため、より柔軟なマイクロ波の放射を行うことができる。
第3の発明のマイクロ波加熱装置は、特に第1又は第2の発明のマイクロ波吸出し開口は、近傍の誘電率の変化に応じてマイクロ波の吸出しを行う。これにより、被加熱物の配置の有無などによって誘電率を変化させ、マイクロ波の吸出しを行うことができる。
第4の発明のマイクロ波加熱装置は、特に第1から第3のいずれか1つの発明のマイクロ波吸出し開口の最大長さは、マイクロ波発生部が発生させるマイクロ波の波長の1/4以上1/2以下である。このようにマイクロ波吸出し開口の大きさを設定することにより、加熱室に被加熱物が配置されないときにはマイクロ波吸出し開口からマイクロ波を放射させず、加熱室に被加熱物が配置されるときにはマイクロ波吸出し開口からマイクロ波を放射させるようにすることができる。よって、より効率的なマイクロ波の放射を行うことができる。
第5の発明のマイクロ波加熱装置は、特に第1から第4のいずれか1つの発明のマイクロ波吸出し開口は、壁面の幅方向中央からオフセットして配置され、円偏波を放射する形状を有する。これにより、マイクロ波を円偏波として放射することにより、より均一なマイクロ波の放射を行うとともに、マイクロ波吸出し開口による吸出し効果を向上させることができる。
第6の発明のマイクロ波加熱装置は、特に第1から第5のいずれか1つの発明のマイクロ波吸出し開口は、2つのスリットが交差する形状を有する。これにより、マイクロ波をより確実に円偏波として放射することができるため、より均一なマイクロ波の放射を行うことができる。
第7の発明のマイクロ波加熱装置は、特に第1から第6のいずれか1つの発明のマイクロ波吸出し開口は、導波管構造アンテナの延在方向沿いに複数設けられている。これにより、より均一な放射を行うことができる。
第8の発明のマイクロ波加熱装置は、特に第1から第7のいずれか1つの発明の加熱室内における被加熱物の状態を検出する状態検出部をさらに備え、状態検出部が検出した被加熱物の状態をもとに、回転駆動部は導波管構造アンテナの回転位置を制御する。
第9の発明のマイクロ波加熱装置は、特に第1から第7のいずれか1つの発明の回転駆動部は、ユーザによって選択可能な予め定められたプログラムに基づき、導波管構造アンテナの回転位置を制御する。
第10の発明のマイクロ波加熱装置は、特に第1から第9のいずれか1つの発明のマイクロ波吸出し開口は、壁面の幅方向中央に対して片側にのみ設けられている。これにより、マイクロ波吸出し開口から放射されるマイクロ波の干渉を抑制し、より効率的にマイクロ波を放射することができる。
第11の発明のマイクロ波加熱装置は、特に第1から第9のいずれか1つの発明のマイクロ波吸出し開口は、壁面の幅方向中央に対して両側に設けられている。これにより、壁面の幅方向中央に対して両側からマイクロ波を吸い出すことができるため、面積の大きな被加熱物にも対応することができる。
第12の発明のマイクロ波加熱装置は、特に第2の発明のマイクロ波吸出し開口は、導波管構造アンテナが延在する方向において、先端開放部よりも結合軸に近い位置に配置される。これにより、マイクロ波の吸出しを結合軸周辺にて重点的に行うことができるため、被加熱物をより効率的に加熱することができる。
第13の発明のマイクロ波加熱装置は、特に第2の発明の導波管構造アンテナの導波管構造を形成する壁面において、結合軸からマイクロ波吸出し開口よりも遠い位置にマイクロ波放射開口が形成されている。これにより、マイクロ波吸出し開口からはマイクロ波を吸出し、マイクロ波放射開口からはマイクロ波を放射することで、より柔軟なマイクロ波の放射を行うことができる。
第14の発明のマイクロ波加熱装置は、特に第2の発明の導波管構造アンテナにおける先端開放部およびマイクロ波吸出し開口は、結合軸を中心として一方側と他方側の両方に配置される。これにより、結合軸の両側からマイクロ波を吸い出せるので、より均一なマイクロ波加熱を行うことができる。
以下、本発明に係るマイクロ波加熱装置の好適な実施の形態について、添付の図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施の形態のマイクロ波加熱装置においては電子レンジについて説明するが、電子レンジは例示であり、本発明のマイクロ波加熱装置は電子レ ンジに限定されるものではなく、誘電加熱を利用した加熱装置、生ゴミ処理機、あるいは半導体製造装置などのマイクロ波加熱装置を含むものである。また、本発明は、以下の実施の形態の具体的な構成に限定されるものではなく、同様の技術的思想に基づく構成が本発明に含まれる。
(実施の形態1)
図1〜図15は、本発明の実施の形態1におけるマイクロ波加熱装置の説明図である。
図1は、マイクロ波加熱装置を正面側から見た断面図、図2は、マイクロ波加熱装置を上から見た断面図である。図1、2に示すように、代表的なマイクロ波加熱装置である電子レンジ101は、加熱室102と、マグネトロン103と、導波管104と、導波管構造アンテナ105と、載置台106とを備える。加熱室102は、代表的な被加熱物である食品(図示せず)を収納可能な空間を形成する。マグネトロン103は、マイクロ波を発生させるマイクロ波発生部の一例である。導波管104は、マグネトロン103から発生(放射)されたマイクロ波を加熱室102に伝送する(導く)伝送部の一例である。導波管構造アンテナ105は、導波管104内のマイクロ波を加熱室102内に放射する。載置台106は、食品を載置する。載置台106は、加熱室102の底面全体を覆うことで、導波管構造アンテナ105が加熱室102内に露出しないように塞いでいる。また、載置台106の上面をフラットにすることで、使用者が食品の出し入れがしやすくなり、載置台106に汚れがついたときにふき取りやすくしている。ここで、載置台106の材料は、ガラスやセラミックなどのようなマイクロ波が透過しやすい材料としている。これにより、導波管構造アンテナ105からのマイクロ波を加熱室102内に放射させる。
導波管構造アンテナ105は、結合軸107により導波管104内から引き出したマイクロ波を、結合軸107を囲むように構成された箱型の導波管構造108の向きにより加熱室102内への放射方向を制御可能としている。導波管構造108を形成する壁面は、上壁面109と、側壁面110a、110b、110cと、フランジ112とを備える。上壁面109は、結合軸107と接続されている。側壁面110a、110b、110cは、上壁面109の周囲三方を閉止する。フランジ112は、側壁面110a、110b、110cの外側において、加熱室底面111とわずかな隙間を介して平行に形成される。導波管構造108は、残る一方向の先端にのみ広く開放された先端開放部113を形成し、上壁面109にはマイクロ波吸出し開口114を構成する。このような構成により、導波管構造アンテナ105は、マイクロ波の大部分を先端開放部113とマイクロ波吸出し開口114のいずれかから放射させる。
電子レンジ101はさらに、回転駆動部115と、赤外線センサ116と、制御部117とを備える。回転駆動部115は、結合軸107を中心に導波管構造アンテナ105を回転させて駆動する。赤外線センサ116は、食品の状態を検出する状態検出部の一例であって、食品の状態として食品の温度を検出する。制御部117は、赤外線センサ116の信号にもとづき、マグネトロン103の発振制御や回転駆動部115の回転制御を行うことで、導波管構造アンテナ105の回転位置を制御している。
なお、本実施の形態1では、状態検出部の一例として、食品の温度を検出する赤外線センサ116を用いる場合について説明したが、このような場合に限らない。例えば、食品の重量(重心)を検出する重量センサや、食品の画像を取得する画像センサなどを状態検出部として用いてもよい。あるいは、このような状態検出部を用いない場合であってもよい。例えば、電子レンジ101に、ユーザによって選択可能なプログラムを記憶しておくことで、回転駆動部115は、その予め定められたプログラムに基づき、導波管構造105の回転位置の制御を行ってもよい。
導波管構造108は、上壁面109と側壁面110a、110b、110cによって略直方体形状を成し、先端開放部113の方向(図2の左方向)へとマイクロ波を伝送する。マイクロ波吸出し開口114は、長孔(スリットあるいはスロット)を交差させたX字状の形状を有する開口である。マイクロ波吸出し開口114を導波管の上壁面109の幅方向の中央からずらして配置することで、円偏波を放射することができる。特に、マイクロ波吸出し開口114を導波管構造108の幅方向の片側(図2の上側)にのみ配置することで、円偏波放射をより効率的に実現させている。結合軸107は、図2に示すように、加熱室底面111の前後方向および左右方向の中心に配置されている。
ここで、導波管構造の理解のために、図3を用いて、一般的な導波管200について説明する。最も単純で一般的な導波管200は、図3に示すように、一定の長方形の断面(幅a、高さb)を伝送方向124に伸ばした直方体からなる方形導波管である。マイクロ波の自由空間での波長をλ0としたときに、導波管200の幅aおよび高さbの範囲を、λ0>a>λ0/2、b<λ0/2と選ぶことにより、TE10モードでマイクロ波を伝送することが知られている。
TE10モードとは、導波管200内においてマイクロ波の伝送方向124には磁界成分のみが存在して電界成分は存在しない、H波(TE波;電気的横波伝送 Transverse Electric Wave)における伝送モードのことを指す。
ここで、導波管200内の管内波長λgの説明に先立って、自由空間の波長λ0について説明する。自由空間の波長λ0は、一般的な電子レンジのマイクロ波の場合は約120mmとして知られている。しかし、正確には、自由空間の波長λ0は、λ0=c/fで求められる。cは光の速度であり、3.0*10^8[m/s]で一定であるものの、fは周波数であり、2.4〜2.5[GHz](ISMバンド)の幅がある。発信周波数fはマグネトロンのばらつきや負荷条件によって変化するので、自由空間の波長λ0も変化する。これにり、自由空間の波長λ0は、最小120[mm](2.5GHz時)から最大125[mm](2.4GHz時)まで変化する。
導波管200の話に戻ると、自由空間の波長λ0の範囲も考慮して、一般的には、導波管200の幅aを80〜100mm、高さbを15〜40mm程度に選ぶことが多い。このとき、図3の上下の幅広面を、磁界が平行に渦巻く面という意味でH面118と呼び、左右の幅狭面を、電界に平行な面という意味でE面119と呼ぶ。ちなみに、マイクロ波が導波管内を伝送されるときの波長は、管内波長λgとしてあらわされ、λg=λ0/√(1−(λ0/(2×a))^2)で求められる。λgは、導波管の幅aの寸法によって変化するが、高さbの寸法には無関係に決定される。ちなみに、TE10モードでは、導波管200の幅方向の両端(E面)119で電界が0、幅方向の中央で電界が最大となる。
図1および図2で示した本実施の形態1の導波管構造アンテナ105に関しても、同様の考えを適用することができる。上壁面109と加熱室底面111がH面である。側壁面110aと110cがE面である。側壁面110bは、マイクロ波を先端開放部113側へ全て反射させるための反射端である。本実施の形態1の導波管構造アンテナ105は、具体的には導波管幅は80mmである。マイクロ波吸出し開口114は、直交する2本のスリットで構成され、その長さは45mm、幅は10mmとしている。マイクロ波吸出し開口114は、上壁面109において側壁面110aに寄せて配置している。これにより、マイクロ波吸出し開口114は上壁面109の幅方向の半分近くのスペースを占めるが、管軸201(導波管H面の幅方向の中央を一般に管軸と呼ぶ)にはまたがない(横切らない)ようにしている。ちなみに、X字状の開口を、導波管のH面の中央から片側に偏らせて配置することで、きれいな円偏波を放射することができる。X字状の開口をH面のどちら側に寄せるかで電界の回転方向が異なり、それによって、円偏波は右旋偏波あるいは左旋偏波となる。
以下、円偏波を放射するX字状の開口の特徴について説明する。図4はシミュレーション結果である。シミュレーションなので実際とは異なり、加熱室120の壁面をすべて放射境界(マイクロ波が反射しない境界条件)とし、X字状の開口121が1つだけの簡単な構成で、導波管122の終端部123も放射境界としている。図4Aは上から見たモデル形状である。図4Bは解析結果であり、上から見た加熱室120内の電界強度のコンター図(contour map)である。
図4Bを見ると、円偏波らしく電界が渦を巻いており、開口121を中心としてマイクロ波の伝送方向124(紙面の左右方向)、導波管122の幅方向125(紙面の上下方向)とも均等な電界分布が発生すると思われる。この結果、開口121から円偏波のマイクロ波を放射することにより、加熱分布を均一化することができる。
ここで円偏波について説明する。円偏波は、移動通信および衛星通信の分野で広く用いられている技術である。身近な使用例としては、ETC(Electronic Toll Collection System)「ノンストップ自動料金収受システム」などが挙げられる。円偏波は、電界の偏波面が進行方向に対して時間に応じて回転するマイクロ波である。円偏波を形成すると、電界の方向が時間に応じて変化し続けて、電界強度の大きさは変化しないという特徴を有している。この円偏波をマイクロ波加熱装置に適用すれば、従来の直線偏波によるマイクロ波加熱と比較して、被加熱物を特に円偏波の周方向に対して均一に加熱することが期待される。なお、円偏波は、回転方向から右旋偏波(CW:clockwise)と左旋偏波(CCW:counter clockwise)の2種類に分類されるが、どちらの種類であっても良い。
円偏波としては導波管壁面の開口で構成するものや、パッチアンテナで構成するものがあるが、本実施の形態1のマイクロ波吸出し開口114は、導波管構造108の上壁面109(H面)に形成して円偏波を放射するものである。
円偏波はもともと通信の分野での利用が主なので、開放空間への放射を対象としていることから、反射波が戻ってこないいわゆる進行波で論じられるのが一般的である。一方、本実施の形態1の電子レンジ101において、加熱室102は、外部とは遮蔽された閉空間であるため、反射波が発生して進行波と合成されて定在波となる可能性がある。しかし、食品がマイクロ波を吸収するので反射波は小さくなるのに加えて、マイクロ波吸出し開口114からマイクロ波が放射される瞬間には定在波のバランスがくずれ、再び安定した定在波に戻るまでの間は進行波が発生していると考えられる。したがって、マイクロ波吸出し開口114を円偏波が放射できる形状とすることで、前述の円偏波の特長を利用することが可能となり、加熱室102内の加熱分布をより均一化することができる。
ここで、開放空間の通信分野と閉空間の加熱の分野では、いくつか異なる点があるので説明を加える。通信分野では、他のマイクロ波との混在を避けて必要な情報のみを送受信したいから、送信側は右旋偏波か左旋偏波のどちらかに限定して送信し、受信側もそれに合わせた最適な受信アンテナを選ぶことになる。一方、加熱の分野では、指向性を有する受信アンテナの代わりに、特に指向性のない食品などの被加熱物がマイクロ波を受けるので、マイクロ波が被加熱物全体に均等に当たる効果のみが重要となる。よって加熱の分野では右旋偏波でも左旋偏波でも問題は無く、開口を複数構成して右旋偏波と左旋偏波を混在させてもよい。
以下、図5〜図15を用いて、本実施の形態1のマイクロ波吸出し開口114について、食品などの被加熱物が近くにある時ほど、導波管104内のマイクロ波を吸出す特性(吸出し効果)が優れていることを説明する。
まず、吸出し効果について説明する。食品がそばにあるとどれだけマイクロ波を放射するかについて、CAEを使って、従来の直線偏波と本実施の形態1の円偏波とを比較した。図5A、図5Bはそれぞれ上から見た図である。図5Aは従来の直線偏波、図5Bは円偏波を発生させる構成を示す。図5Cは正面から見た断面図である。図5Aに示すように、直線偏波を発生する開口127は、管軸の両側にわたる直線状である。図5Bに示すように、円偏波を発生する開口128はX字状であり、導波管126の幅方向に2つ対称に配置されている。開口127、128のいずれも、導波管126の幅方向に対称な形状である。また、いずれの開口127、128もスリット幅10mm、スリット長さLmmとした。この構成において、食品が無い場合(食品無し)と、図5Cに示すように食品129がある場合(食品あり)とを解析した。なお、図5Cの食品ありでは、食品129の面積を2種類、食品129の材質を3種類、食品129の高さは30mmで一定、導波管126の開口面からの距離Dをパラメータとしている。
まず、食品無しの場合のマイクロ波の放射量を基準とするために、食品無し時の開口長さLによる放射量の変化を図6A、図6Bにグラフ化した。図6Aは、図5Aの従来の直線偏波の開口127による特性を表し、図6Bは、図5Bの円偏波の開口128による特性を表す。図6A、図6Bにおいて、横軸が、開口長さLであり、縦軸が、導波管126内を伝送する電力を1としたときの開口から放射される放射量である。
図6Aより、開口長さLとして45.5mmを選択し、図6Bより、開口長さLとして46.5mmを選択した。開口長さLの選択については、食品が無いときに同じ量(導波管内を伝送する電力の1/10)を放射する開口長さL(グラフの縦軸が0.1となるL)を選んだ。
次に、選択した開口長さLに固定して、食品ありの条件で解析を行って特性をまとめた結果を図7に示す。食品の種類として、冷凍牛肉、冷蔵牛肉、水の3種類とし、食品の面積は100mm角と200mm角の2種類で解析した。横軸は、食品から開口までの距離Dであり、縦軸は、無負荷時の放射量を1としたときの相対的な放射量である。つまり、食品無し時と比較して、食品が近傍にあることで何倍放射するか(食品がどれだけ吸出すか)を示すものである。グラフは、破線が直線偏波(I字状開口127)、実線が円偏波(2つのX字状開口128)である。開口127、128のいずれも、直線偏波より円偏波のほうが放射量が多く、特に距離Dが20mm以下の実用的な距離では、2倍程度の差があるとわかった。よって、食品の種類や食品の面積に関わらず、円偏波のほうが直線偏波よりも吸出し効果が高いと言える。
詳細に見ていくと、まず食品の種類については、特に距離Dが10mm以下では、誘電率や誘電損失が小さい冷凍牛肉の方が吸出し効果が大きく、誘電率や誘電損失が大きい水の方が吸出し効果は小さくなっている。また、冷蔵牛肉や水の場合、距離Dが大きい時に、特に直線偏波では放射量が1以下にまで落ち込んでいる。これは、食品で反射されたマイクロ波が戻ってきて相殺されることが原因と考える。
次に、食品の面積については、100mm角と200mm角でマイクロ波の放射量がほとんど変わらないため、吸出し効果への影響は少ないと考えられる。
以上のように、X字状の円偏波開口128の方がI字状の直線偏波開口127よりも吸出し効果が高いとわかった。その理由について以下に考察する。
吸出し効果が起こる原理について考察する。おそらく、誘電体による波長圧縮効果が関係していると推測される。一般的に、誘電率εが高い環境では、マイクロ波の波長は1/√εに圧縮される波長圧縮という現象が知られている。誘電率変化による波長圧縮は、置き換えると、同じ誘電率の環境下で開口の大きさが√ε倍に拡大したことと同意である。図8のイメージ図を用いて説明する。開口については、開口無し、小開口、大開口の3つに分けて、媒質が空気の場合と誘電体の場合に分けて考える。
系全体が空気中にある場合は、誘電率が1、波長がλ≒120mmとする。この場合、開口無しではマイクロ波は放射されず、小開口でもマイクロ波は放射されないが、大開口のみマイクロ波が放射される。一般に、開口長さがλ/2(≒60mm)を超えるとマイクロ波が放射されやすいと言われている。よって、例えば小開口の長さをλ/4(≒30mm)、大開口の長さをλ/2(≒60mm)とすることにより、小開口ではマイクロ波を放射させず、大開口ではマイクロ波を放射させる、ということが実現可能と考えられる。
一方、系全体が誘電率εの誘電体中にある場合は、誘電率がεの波長圧縮効果により、波長がλ/√εにまで圧縮され、あたかも開口が√ε倍に拡大したようにふるまう。よって、小開口の長さが√ε倍されたときにλ/2≒60を超えるような寸法であれば、開口からマイクロ波を放射可能となる。例えば、電子レンジは食品に含まれる水を加熱することが知られているので、誘電体を水とした場合、水の誘電率ε=80であり、√ε≒9と考えると、小開口は前述の30mmから30×9≒270mmに拡大されたようにふるまう。これにより、小開口から充分にマイクロ波を放射することができる。
ここで、径全体の誘電率によらず、開口無しではマイクロ波は常に放射されないし、大開口ではマイクロ波は常に放射される。誘電率の変化によって、マイクロ波の放射の有無が変わるのは小開口だけである。
このことから発展させた吸出し効果の考え方について、図9を使って説明する。これは、系全体を誘電体にしなくても、誘電体としての食品が近づくだけでも、一種の波長圧縮効果が生じ、開口からマイクロ波を吸出すことができるという考え方である。そもそも、マイクロ波を放射していない小開口の周辺にも少なからず電磁界がチャージされており、誘電体が近づくことでチャージされた電磁界が乱されると、一気にマイクロ波を放射すると考える。これにより、図9に示すように、食品無しではマイクロ波を放射していない小開口において、食品ありでは小開口近傍にチャージされた電磁界が乱されるとともに、食品自体の誘電率により波長が圧縮してマイクロ波が吸出されると考えられる。吸い出されたマイクロ波により、食品がダイレクトに加熱される。
次に、X字状の円偏波開口128の方がI字状の直線偏波開口127よりも吸出し効果が高い理由について考察する。図10は、食品無しの解析結果から求めたもので、円偏波と直線偏波について、開口長さと放射量の関係を表した特性図である。両者は、開口長さが長くなると放射量が増えるという点では一致している。しかし、直線偏波は立ち上がりが早く、徐々に傾きが小さくなるのに対し、円偏波は立ち上がりが遅く、傾きが大きい。つまり、円偏波の方が開口長さに対する放射量の変化率が大きい(感度が高い)。よって、同じ食品が近づいたとしても、吸出し効果に違いが生じ、円偏波の方が大量に吸出すことができる。
ちなみに、円偏波開口について、X字状以外の形状についても確認した。
円偏波を発生する開口形状はX字状だけではない。図4と同様の解析を用いて、開口形状をいろいろと変え、円偏波を放射できる開口の条件について明確化した。その結果を図11に示す。開口形状は、I字状、X字状に加えて、四角(正方形)、円状の合計4種類である。開口配置は、導波管の幅方向の中央と端寄りの2種類とした。開口配置が導波管の幅方向の中央の場合は、どの開口も渦を巻くような電界は発生せず、円偏波にならない。一方、開口配置が導波管の幅方向の端寄りの場合は、I字状を除いて、渦を巻くような電界が発生して円偏波になった。I字状は一方向にのみ長い形状のため、直交する長孔を含まないので、配置位置によらず直線偏波しか放射できないと考える。以上をまとめると、円偏波を発生する条件は、開口配置は、導波管の幅方向の中央からずらして配置すること、開口形状は、直交する長孔を含む形状であること、とわかった。
次に、円偏波を発生できる3種類の開口形状(X字状、四角、円状)で、吸出し効果の違いについて説明する。図12は、食品無しの解析結果から求めたもので、円偏波を発生できる開口として、X字状、円状、四角(正方形)について、開口長さと放射量の関係を表した特性図である。全ての開口形状において、開口長さが長くなるとマイクロ波の放射量が増えるという点では一致している。しかし、傾きが大きく異なる。傾きが大きい順にX字状、円状、四角(正方形)となり、つまり、この順に開口長さに対する放射量の変化率が大きい(感度が高い)。おそらく、四角や円はX形状を内包するものの、余分な開口も含むので、いろいろなマイクロ波が放射されて打ち消しあい、全体としての放射量が低下すると考える。一方、X字状の開口は、一組の直交成分のみから成るので、無駄な放射も無く、最も効率的に円偏波を発生させると考えられる。以上により、円偏波のマイクロ波を最も効率よく放射することができるのは、X字状の開口であり、この時に最も吸出し効果が高いと考えられる。
考察の最後に、スリットの数と電磁界のチャージ量と吸出し効果の関係について述べる。図13には、3種類の開口(I字状、X字状、円状)と、開口の上方にチャージ量のイメージを記載した。開口形状は、1つのスリットで構成され、直線偏波を放射するI字状の開口127と、直交する2つのスリットで構成され、円偏波を放射するX字状の開口128と、直交する多くのスリットを内包して、円偏波を放射する円状の開口129がある。I字状の開口127はチャージが少なく、X字状の開口128はチャージが最大、円状の開口129は少なからず放射があって打ち消しあっておりチャージ量自体は少ない。つまり、開口形状によりチャージの量が異なると考えられる。そして、開口の近傍に食品が近づくと、あたかも周囲の誘電率が増えたように作用して、波長圧縮が起こる。これにより、開口長さが伸びたように作用し、開口長さに対する感度が高いX字状の開口128は、一気に放射量が増え、導波管126内からの吸出し効果が極めて高くなると考える。図6に戻ると、スリット1つからなる直線偏波(I字状)1個と、スリット2つからなる円偏波(X字状)2個において、無負荷時の放射量を同じにできる長さにあまり差がなかった(45.5mmと46.5mmでわずか1mm差)。よって、X字状の方が開口面積としては約4倍もあるのに、放射量が同じである。こういった点からも、X字状の開口128は、放射できないチャージ量が多いのではないかとも推定できる。
図14は、以上の話をベースに、スリットの数に対するチャージ量あるいは吸出し効果をグラフとしてイメージ化したものである。スリットの数が1つのときは吸出し効果は小さいが、スリットの数が2つになると吸出し効果は倍増し、これを最大値として、以降はスリットを増やすごとに吸出し効果は減少していく
図15は、本実施の形態1における吸出し効果の実用例を示す。図15A、図15Bとも食品130、131を図中左側に配置した場合であるが、結合軸107からの距離が異なる。図15Aの食品130は結合軸107に近く、図15Bの食品131は結合軸107から遠い位置に配置されている。いずれの場合も、導波管構造アンテナ105において、左側に先端開放部113が向くように、制御部117により回転駆動部115が制御される。ただし、図15Aでは、食品130がマイクロ波吸出し開口114に近いので吸出し効果が生じる。すなわち、結合軸107から先端開放部113へ向かうマイクロ波132のうちの大部分が、食品130に向かうマイクロ波133として吸出され、直接波で局所的に食品130を加熱する。一方、図15Bでは、食品131がマイクロ波吸出し開口114から遠いので吸出し効果は起きない。すなわち、結合軸107から先端開放部113へ向かうマイクロ波132のうちの大部分が、先端開放部113から食品131に向かうマイクロ波134として放射され、直接波で局所的に食品131を加熱する。このように、マイクロ波吸出し開口114は、マイクロ波吸出し開口114の近くに食品を置いた時のみマイクロ波の放射量が多くなり、遠くに置いた時にはマイクロ波の放射量が少なくなるという制御性を有することができる。
以上、吸出し効果について説明したが、これは、導波管内を伝送するマイクロ波の一部を開口によって吸出すという吸出し効果について述べたものであり、導波管の壁面に設けた円偏波開口の特にX字状の開口において吸出し効果が高いことを示した。しかし、導波管構造を持たずに平板に直接給電するいわゆるパッチアンテナで円偏波を放射する場合は、吸出し効果は期待できない。パッチアンテナに食品を近づけても、主に整合が変化する程度であり、そもそもパッチアンテナからマイクロ波を吸い出すことがないからである。
以下に、本実施の形態1における作用、効果を説明する。
図1、2に示すように、本実施の形態1の電子レンジ101は、食品(被加熱物)を収納する加熱室102と、マイクロ波を発生させるマグネトロン(マイクロ波発生部)103と、マグネトロン103が発生させたマイクロ波を伝送する導波管(伝送部)104と、導波管104から伝送されるマイクロ波を加熱室102に放射する導波管構造アンテナ105と、導波管構造アンテナ105を回転させるように駆動する回転駆動部115とを備える。また、導波管構造アンテナ105の導波管構造108を形成する壁面にマイクロ波吸出し開口114が形成されている。ここで、マイクロ波吸出し開口114は、食品が近くにある時ほど、導波管構造108内のマイクロ波を吸出す特性(吸出し効果)を有している。よって、マイクロ波吸出し開口114の近くに食品130を置いた時には、マイクロ波の放射量を多くして局所加熱を行い、マイクロ波吸出し開口114の遠くに食品131を置いた時には、マイクロ波吸出し開口114からはマイクロ波の放射量が少なくなるという制御性を持たせることができる。このため、導波管構造アンテナ105の局所加熱性能に関して、マイクロ波吸出し開口114と食品の位置関係により、導波管構造アンテナ105の半径方向にも制御性を持たせ、食品の置き位置に応じて局所加熱することができる。
また、本実施の形態1の電子レンジ101は、導波管104(伝送部)から伝送されるマイクロ波を導波管構造アンテナ105に結合する結合軸107をさらに備え、導波管構造アンテナ105の先端には、結合軸107により結合されたマイクロ波を放射するように開放された先端開放部113が形成されている。これにより、導波管構造アンテナ105において、先端開放部113とマイクロ波吸出し開口114の両方からマイクロ波を放射することができるため、より柔軟なマイクロ波の放射を行うことができる。より具体的には、第1に、食品をマイクロ波吸出し開口114から中央の結合軸107寄りに置いた時は、食品が先端開放部113よりもマイクロ波吸出し開口114の近くに位置することになる。この場合、マイクロ波吸出し開口114からマイクロ波が放射され、マイクロ波吸出し開口114からの直接波で食品を局所的に加熱することができる。第2に、食品を先端開放部113から端寄りに置いた時は、マイクロ波吸出し開口114の遠くに位置することになる。この場合、マイクロ波吸出し開口114からマイクロ波は出にくくなり、その代わりに、食品の近くに位置する先端開放部113からの直接波で食品を局所的に加熱することができる。第3に、食品をマイクロ波吸出し開口114と先端開放部113の間に置いた時は、マイクロ波吸出し開口114からマイクロ波を出しつくさずに先端開放部113からもある程度出せるように配分して、両方から局所的に加熱することも期待できる。このときは、食品の中央寄りと端寄りの両方から加熱するので、加熱分布が均一になる効果もある。以上により、導波管構造アンテナ105の局所加熱性能に関して、マイクロ波吸出し開口114と先端開放部113に対する食品の置き位置により、導波管構造アンテナ105の半径方向にも制御性を持たせ、食品の置き位置に応じて局所加熱することができる。
また、本実施の形態1の電子レンジ101によれば、マイクロ波吸出し開口114は、近傍の誘電率の変化に応じてマイクロ波の吸出しを行う。これにより、被加熱物の配置の有無などによって誘電率を変化させ、マイクロ波の吸出しを行うことができる。
また、本実施の形態1の電子レンジ101によれば、マイクロ波吸出し開口114の最大長さは、マグネトロン103(マイクロ波発生部)が発生させるマイクロ波の波長の1/4以上1/2以下である。このようにマイクロ波吸出し開口114の大きさを設定することにより、加熱室102に被加熱物が配置されないときにはマイクロ波吸出し開口114からマイクロ波を放射させず、加熱室102に被加熱物が配置されるときにはマイクロ波吸出し開口114からマイクロ波を放射させるようにすることができる。よって、より効率的なマイクロ波の放射を行うことができる。
また、本実施の形態1の電子レンジ101によれば、マイクロ波吸出し開口114は、壁面の幅方向中央からオフセットして配置され、円偏波を放射する形状を有する。これにより、壁面の中央に配置して直線偏波を放射する一般的な開口に比べて、食品が近くにない時はマイクロ波吸出し開口114からマイクロ波を出しにくくすることができ、食品が近くにある時ほど導波管構造108内のマイクロ波を吸出す特性(吸出し効果)を高めることができる。これにより、マイクロ波の放射の制御性を高めることができる。
また、本実施の形態1の電子レンジ101は、マイクロ波吸出し開口114は、二つのスリットが交差する形状を有する。これにより、マイクロ波をより確実に円偏波として放射することができるため、より均一なマイクロ波の放射を行うことができる。
また、本実施の形態1の電子レンジ101は、マイクロ波吸出し開口114は、壁面の幅方向中央に対して片側にのみ設けられている。これにより、マイクロ波吸出し開口114から放射されるマイクロ波の干渉を抑制し、より効率的にマイクロ波を放射することができる。
また、本実施の形態1の電子レンジ101は、加熱室102内における被加熱物(食品)の状態を検出する状態検出部(赤外線センサ116など)をさらに備え、状態検出部が検出した被加熱物の状態をもとに、回転駆動部115は導波管構造アンテナ105の回転位置を制御してもよい。あるいは、回転駆動部115は、ユーザによって選択可能な予め定められたプログラムに基づき、導波管構造アンテナ105の回転位置を制御してもよい。
なお、マイクロ波吸出し開口114のサイズについては、マイクロ波吸出し開口114と食品の鉛直方向の距離によって最適化してもよい。例えば、マイクロ波吸出し開口114と載置台106の上面までの鉛直方向の距離を7〜10mmとした場合、スリットの長さはλ/4(≒30mm)以上かつλ/2(≒60mm)以下とすれば、より効率的なマイクロ波の放射を行うことができる。
(実施の形態2)
図16は、本発明の実施の形態2におけるマイクロ波加熱装置における導波管構造アンテナを上から見た構成である。前述の実施の形態1と同等の構成や機能については説明を省略し、実施の形態1と異なる部分を中心に説明する。
導波管構造アンテナ141は、結合軸142により導波管内から引き出したマイクロ波を、結合軸142を囲むように構成された箱型の導波管構造143の向きにより加熱室内への放射方向を制御可能としている。導波管構造143を構成する壁面は、上壁面144と、側壁面145a、145b、145c、145dと、フランジ146a、146b、146c、146dとを備える。上壁面144は、結合軸142と接続されている。側壁面145a、145b、145c、145dは、上壁面144の周囲四方を閉止する。フランジ146a、146b、146c、146dは、側壁面145a、145b、145c、145dの外側において、加熱室底面とわずかな隙間を介して並行に形成されている。本実施の形態2の導波管構造アンテナ141は、開放された先端開放部を有していない。また、上壁面144は、結合軸142を通る管軸から見て両側に、マイクロ波吸出し開口148、149を有している。
このように、本実施の形態2のマイクロ波加熱装置によれば、マイクロ波吸出し開口148、149は、壁面の幅方向中央に対して両側に設けられている。これにより、壁面の幅方向中央に対して両側からマイクロ波を吸い出すことができるため、面積の大きな被加熱物にも対応することができる。
(他の実施の形態)
図17〜図34は、本発明の他の実施の形態におけるマイクロ波加熱装置の説明図である。
図17は、マイクロ波吸出し開口151a、151bを導波管の幅方向に2個配置したもので、幅方向に制御性を持たせたり、幅方向に面積の大きな食品に対して広範囲に放射して局所加熱できる効果がある。すなわち、マイクロ波吸出し開口151a、151bが、壁面の幅方向中央に対して両側に設けられることにより、壁面の幅方向中央に対して両側からマイクロ波を吸い出すことができるため、面積の大きな被加熱物にも対応することができる。
図18は、マイクロ波吸出し開口152a、152b、152c、152dと4個配置したものである。結合軸153と先端開放部154の間に、結合軸153から近い側から1列目のマイクロ波吸出し開口152a、152bと、2列目のマイクロ波吸出し開口152c、152dがある。このようにマイクロ波吸出し開口を2列配置することで、1列のみ配置した場合よりも、より制御性が高まる効果がある。すなわち、マイクロ波吸出し開口152a、152b、152c、152dとは、導波管構造アンテナの延在方向沿いに複数設けられることで、より所望の局所加熱を行うことができる。なお、加熱室の大きさにもよるが、マイクロ波吸出し開口は、サイズは小さくかつ数が多いほど、制御性が高まると考えられる。
図19は、マイクロ波吸出し開口155a、155bを結合軸153の横に配置したものである。通常、食品が置かれるのは加熱室の中央であり、結合軸153も加熱室の中央に配置することが多い。この場合、加熱室の中央に置かれた食品は結合軸153の横に隣接するマイクロ波吸出し開口155a、155b上に配置される可能性が高いため、マイクロ波の吸出し効果を発揮させやすい。すなわち、マイクロ波吸出し開口155a、155bは、導波管構造アンテナが延在する方向において、先端開放部よりも結合軸153により近い位置に配置されることで、マイクロ波の吸出しを結合軸153周辺にて重点的に行うことができるため、食品をより効率的に加熱することができる。また、食品の底面中央を直接波で強く加熱することができるので、概して、加熱効率が高くなる。特に、マイクロ波が、結合軸153から近いマイクロ波吸出し開口155a、155bを介して、極めて短距離で放射されるので、上壁面156のうち、結合軸153とマイクロ波吸出し開口155a、155bの間の導体部分を流れる電流の経路も短くなって、導電損が少なくなり、ますます加熱効率を向上させることができる。
図20は、マイクロ波吸出し開口157a、157bを上壁面156に千鳥に配置したものである。前述の図17や図18のように、マイクロ波吸出し開口を上壁面の幅方向に複数配置するときと比べると、互いの干渉が少ないという効果がある。具体的には、上壁面156の幅よりも大きな食品が置かれた時、幅方向にマイクロ波吸出し開口157a、157bが2つある場合は、結合軸153から先端開放部154に向かって伝送されるマイクロ波が2つのマイクロ波吸出し開口157a、157bに分散される。また、2つのマイクロ波吸出し開口157a、157bから放射されたマイクロ波同士が、食品に当たる前に干渉する可能性もある。一方、本実施の形態のような千鳥配置の場合は、開口が幅方向に隣接している場合や伝送方向に隣接している場合よりも、開口間の距離を離すことができて、互いの干渉を少なくすることができる。これにより、所望の局所加熱を行うことができる。
図21は、マイクロ波吸出し開口158が上壁面156の幅方向の中央(管軸159)にかかる構成としたものである。これにより、マイクロ波吸出し開口の開口長さを長くできるので吸い出されるマイクロ波の量を増やすことができる。吸い出されて開口から放射されるマイクロ波が円偏波を維持するためには、図11のようにマイクロ波吸出し開口の中心を管軸159に完全に一致させると直線偏波になってしまうので、少しだけでもずらす(オフセットさせる)必要がある。
図22に、マイクロ波吸出し開口の様々な形状の変形例を示す。図22A、図22Bは、マイクロ波吸出し開口の様々な形状のうち、図12―図14で示したように吸出し効果が高い例、即ち、直交するスリットを含むがその本数が少ない例を示したものである。図22AのX字状に加え、図22BのT字状、図22CのL字状、図22(d)のような3本のもの、図22(e)、図22(f)のように一部離れた形状がある。以上の構成のように、直交するスリットを含むがその本数を少なくすることで、特にマイクロ波の吸出し効果を高めることができる。
図23は、マイクロ波吸出し開口160a、160bのスリットが直交していない例である。具体的には、マイクロ波吸出し開口160a、160bの形状は、上壁面156の幅方向に短く、伝送方向に長い。図3で説明したように、導波管構造アンテナが導波管として機能するためには、上壁面156の幅aは、λ0>a>λ0/2の範囲に選ぶ必要がある。よって、導波管構造アンテナにおける管軸から幅方向の端部までの距離はa/2になるから、スリットが直交した形状で管軸をまたがない開口長さLには上限がある。具体的には、開口長さLmax≒√2・a/2=a/√2となる。a=80のとき、Lmax≒56となる。また、これは開口幅を考慮せずに計算した場合であり、実際には開口幅が広くなると、開口長さをさらに小さくしなければならない。実施の形態1では、開口幅10mmで、開口長さL=45mmとしていた。このように、これまでは主にスリットが直交する例(交差角度90°)を説明してきたが、実際にはスリットを直交させずに、狭い方の交差角度を60度、広い方の交差角度を120度にしても、マイクロ波の吸出し効果はあり、ある程度、円偏波が生じていることがわかってきた。よって、本実施の形態のように、開口形状を上壁面の幅方向に短くて伝送方向に長い形状とすることで、管軸159をまたがないで開口長さを長くすることができる。これにより、開口の吸い出し効果が及ぶ範囲を広くするとか、開口から吸い出されるマイクロ波の放射量を増やすなど、調整することができる。
図24は、マイクロ波吸出し開口161a、161b、161c、161d、161e、161fのスリットが直交していない例で、開口形状は上壁面156の幅方向に長くて伝送方向に短い例である。この構成により、結合軸153から先端開放部154までの半径方向に配置する開口を多くすることができる。よって、導波管構造アンテナの局所加熱性能に関して、被加熱物の置き位置による半径方向の制御性をより一層高めることができ、被加熱物の置き位置に応じて局所加熱することができる。
図25は、他の開口164を有する例である。他の開口164は、上壁面156の幅方向全体にわたる大きなマイクロ波放射開口であり、マイクロ波吸出し開口162a、162bで吸い出せなかったマイクロ波の残りを効果的に放射することができる。この、マイクロ波放射開口164の大きさの選び方によっても、マイクロ波をマイクロ波放射開口164から放射するか、先端開放部154から放射するかの配分を調整することができる。すなわち、導波管構造アンテナの導波管構造を形成する壁面において、結合軸153からマイクロ波吸出し開口162a、162bよりも遠い位置にマイクロ波放射開口164が形成されている。これにより、マイクロ波吸出し開口162a、162bからはマイクロ波を吸出し、マイクロ波放射開口164からはマイクロ波を放射することで、より柔軟なマイクロ波の放射を行うことができる。
図26は、先端開放部165を上方視で直線状にしている。これまでは、先端開放部の形状を円弧にしていたが、それに限定するものではなく、本実施の形態のような形状でも良い。マイクロ波吸出し開口162a、162bで吸い出せなかったマイクロ波の残りをどの位置から放射させるかを考慮して、直線状以外にも、適宜、先端開放部165の位置を選ぶことができる。
図27は、先端開放部166の両端に、先端開放部166に向かって突出する突出部167を設けている。これまでは、先端開放部が上壁面156の幅方向の両端まで延在していたが、それに限定するものではなく、本実施の形態のような形状でも良い。これまでの先端開放部は幅方向に広かったので、マイクロ波が全体から均等に出るとは限らず、食品の材質や形状や置き位置によっては、先端開放部の特定の位置から強く出る、および、その特定の位置が食品によって変化する可能性があった。これに対して、本実施の形態のように突出部167を設けることにより、常に、突出部167以外の先端開放部166からのみマイクロ波を出すように制限することができる。よって、マイクロ波吸出し開口162a,162bで吸い出せなかったマイクロ波の残りをどの位置から放射させるかを考慮して、突出部167の有無を選ぶことができる。
図28は、先端開放部168を、側壁169a、169bやフランジ170の先端から結合軸153に近づく方向に凹ませている。この構成により、側壁169やフランジ170がガイドの役割を果たし、先端開放部168から放射されるマイクロ波が導波管の幅方向(紙面の上下方向)に広がるのを抑えることができる。
なお、本実施の形態では、先端開放部168を直線形状かつ側壁169a,169bに非常に近い形状としたが、これに限定されるものではない。例えば、先端開放部168は直線状ではなく、湾曲している、あるいは段差があっても良い。また、先端開放部168の幅や場所も適宜、変更可能である。
図29は、導波管構造171を結合軸153の両側に延ばして、2つの先端開放部172a、172bを形成している。導波管構造171が結合軸153の両側に延びているため、マイクロ波吸出し開口も両側に配置している。具体的には、結合軸153の左側にマイクロ波吸出し開口173a、173b、173c、173dが配置され、結合軸153の右側にマイクロ波吸出し開口174a、174b、174c、174dが配置されている。また、側壁およびフランジとしては、側壁175a、175bおよびフランジ176a、176bが設けられている(それぞれ2つずつ)。
図30は、導波管構造177をT分岐(T字型)導波管のように、結合軸153から3方向に延ばしている。導波管構造177が結合軸153から3方向に延びているため、先端開放部およびマイクロ波吸出し開口も3方向に設けられる。具体的には、結合軸153の左側には、先端開放部178aとマイクロ波吸出し開口179a、179b、179c、179dが設けられる。結合軸153の右側には、先端開放部178bとマイクロ波吸出し開口180a、180b、180c、180dが設けられる。結合軸153の奥側(図30の紙面の上側)には、先端開放部178cとマイクロ波吸出し開口181a、181b、181c、181dである。
なお、本実施の形態では導波管構造177をT分岐としたが、結合軸153を中心とした回転対称とするために、導波管構造177の分岐のそれぞれを120°間隔で配置してもよい。この場合、結合軸153から3方向に均等にマイクロ波を伝送させることができる。なお、導波管構造177を十字状にして4方向に分岐させてもよく、あるいはもっと多く分岐させてもよい。分岐を増やすことで、開口数も増やすことができる。
図31は、導波管構造182が結合部153から先端開放部183に向けて徐々に広くなる構成を示す。導波管としては、幅aをλ0>a>λ0/2に選ぶ必要があると述べたが、先端開放部183から自由空間に放射する構成なので、先端開放部183近傍ではaがλ0より大きくなってもよい。結合軸153の近傍における導波管の幅184がλ0より小さければ良いと考えられる。
図32は、これまでの例とは異なり、結合軸153から見て先端開放部183とは逆方向にある側壁面185が直線状ではなく、湾曲している。
図33は、これまでの例とは異なり、側壁面186a、186b、186cの外側にフランジを有さない。図33Aは導波管を上から見た図であり、図33Bは正面側から見た断面図である。図33Bを見ると明らかなように、フランジを有さなくても、各側壁面186a、186b、186cと加熱室底面187との隙間188は、上壁面190と加熱室底面187との隙間189よりも遥かに狭い。この隙間が狭いほどインピーダンスが低くなり、マイクロ波が通過しにくくなる。よって、フランジ188がなくても、マイクロ波の大部分を先端開放部183側に伝送することができる。以上により、本実施の形態においては、フランジを無くすことで導波管の外形を小さくすることができ、外形を小さくできる分、導波管構造を拡大して開口を大きくするとか、開口数を増やすなどの調整が可能となる。また、導波管の外形が小さくなると、回転駆動時のトルクを低減することも可能であり、アンテナ自体や回転駆動部のコストダウンにつながる可能性がある。しかし、フランジが無いと、各側壁面186a、186b、186cの先端が加熱室底面187に対向するので、強電界が立ってスパークを起こしやすくなる。よって、リスクを回避するために、各側壁面186a、186b、186cと加熱室底面187の間に薄い(隙間188以下の厚みの)絶縁用の樹脂スペーサを介在させてもよい。
なお、本明細書では、マイクロ波吸出し開口は、主として2つの長孔が交差する略X字状であり、円偏波のマイクロ波を吸い出す場合について説明したが、このような場合に限らない。マイクロ波吸出し開口の形状は、略X字状以外であってもよい。また、円偏波以外のマイクロ波を吸い出すような形状であってもよい。また、長孔(あるいはスリット)は、長方形に限定されない。開口のコーナー部を湾曲させるとか、楕円状にするなどの場合であっても、円偏波を発生することが可能である。基本的な円偏波開口の考え方としては、1方向に長くその方向に直行する方向には短い、概ね長細い形状のものを2つ組み合わせればよいと推察される。
また、本明細書では、マイクロ波吸出し開口が導波管構造を形成する壁面のうち、上壁面(すなわち、加熱室壁面から遠い側の壁面、被加熱物側の壁面、加熱室壁面に対向する壁面)に形成される場合について説明したが、このような場合に限らない。例えば、マイクロ波吸出し開口は、導波管構造を形成する壁面のうち上壁面以外の壁面に形成されてもよい。
以上のように、本発明のマイクロ波加熱装置は、マイクロ波を被加熱物に照射する導波管構造アンテナの局所加熱性能を向上させることができるので、食品の加熱加工や殺菌などを行うマイクロ波加熱装置などに有効に利用することができる。
本発明は、添付図面を参照しながら好ましい実施形態に関連して充分に記載されているが、この技術の熟練した人々にとっては種々の変形や修正は明白である。そのような変形や修正は、添付した請求の範囲による本発明の範囲から外れない限りにおいて、その中に含まれると理解されるべきである。
2013年4月19日に出願された日本国特許出願No.2013−088091号および2013年6月20日に出願された日本国特許出願No.2013−129154号の明細書、図面、及び特許請求の範囲の開示内容は、全体として参照されて本明細書の中に取り入れられるものである。