以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1〜図3に示す本実施形態の作業車両としてのトラクタ1は、動力源が発生する動力によって、自走しながら圃場等での作業を行う農用トラクタ等の作業車両である。トラクタ1は、前輪2と、後輪3と、動力源としてのエンジン4と、変速装置(トランスミッション)5とを備えている。このうち、前輪2は、主に操舵用の車輪、すなわち、操舵輪として設けられる。後輪3は、主に駆動用の車輪、すなわち、駆動輪として設けられる。後輪3には、機体前部のボンネット6内に搭載されるエンジン4で発生した回転動力を、変速装置(トランスミッション)5で適宜減速して伝達可能になっており、後輪3は、この回転動力によって駆動力を発生する。また、この変速装置5は、エンジン4で発生した回転動力を、必要に応じて前輪2にも伝達可能になっており、この場合は、前輪2と後輪3との四輪が駆動輪となり駆動力を発生する。すなわち、変速装置5は、二輪駆動と四輪駆動との切り替えが可能になっており、エンジン4の回転動力を減速し、減速された回転動力を前輪2、後輪3に伝達可能である。また、トラクタ1は、機体後部に、ロータリ(図示省略)等の作業機を装着可能な連結装置7が配設されている。
トラクタ1は、操縦席8前側のダッシュボード10からステアリングハンドル11が立設されると共に、操縦席8の周りにクラッチペダル、ブレーキペダル、アクセルペダル等の各種操作ペダルや前後進レバー、変速レバー等の各種操作レバーが配置されている。
図2は、変速装置5のミッションケース12内の伝動機構13を示す線図である。変速装置5は、ミッションケース12(図3,4参照)と、このミッションケース12内に配置されエンジン4から後輪3等へ回転動力を伝達する伝動機構13とを含んで構成される。伝動機構13は、エンジン4からの回転動力を前輪2、後輪3、及び、機体に装着した作業機に伝達し、これらをエンジン4からの回転動力によって駆動するものである。
具体的には、伝動機構13は、入力軸14、前後進切替機構15、高低変速機構としてのHi−Lo変速機構16、主変速機構17、副変速機構18、2WD/4WD切替機構19、PTO(Power take−off)駆動機構20等を含んで構成される。伝動機構13は、エンジン4が発生させた回転動力を入力軸14、前後進切替機構15、Hi−Lo変速機構16、主変速機構17、副変速機構18を順に介して後輪3に伝達することができる。また、伝動機構13は、エンジン4が発生させた回転動力を入力軸14、前後進切替機構15、Hi−Lo変速機構16、主変速機構17、副変速機構18、2WD/4WD切替機構19を順に介して前輪2に伝達することができる。さらに、伝動機構13は、エンジン4が発生させた回転動力を入力軸14、PTO駆動機構20を順に介して作業機に伝達することができる。
入力軸14は、エンジン4の出力軸に結合されており、エンジン4からの回転動力が入力される。
前後進切替機構15は、エンジン4から伝達された回転動力を、前進方向回転又は後進方向回転に切り替え可能なものである。前後進切替機構15は、前進側ギヤ段15a、後進側ギヤ段15b、逆転カウンタギヤ15c、油圧多板クラッチ形態の前進油圧多板クラッチC1、後進油圧多板クラッチC2を含んで構成される。前・後進油圧多板クラッチC1、C2は、係合/解放状態を切り替えることで前後進切替機構15における動力の伝達経路を切り替え可能である。前後進切替機構15は、前・後進油圧多板クラッチC1、C2の係合/解放状態に応じて入力軸14に伝達された回転動力を、伝達経路を変えてカウンタ軸21に伝達する。
前後進切替機構15は、前進油圧多板クラッチC1が係合状態、後進油圧多板クラッチC2が解放状態である場合に、入力軸14に伝達された回転動力を、前進側ギヤ段15a、前進油圧多板クラッチC1を介して前進方向回転でカウンタ軸21に伝達する。前後進切替機構15は、前進油圧多板クラッチC1が解放状態、後進油圧多板クラッチC2が係合状態である場合に、入力軸14に伝達された回転動力を後進側ギヤ段15b、逆転ギヤ15c、後進油圧多板クラッチC2を介して後進方向回転で、カウンタ軸21に伝達する。これにより、前後進切替機構15は、トラクタ1の前後進を切り替えることができる。
また、前後進切替機構15は、メインクラッチとしても機能し、前・後進油圧多板クラッチC1、C2を共に解放状態とすることで、ニュートラル状態となり、前輪2、後輪3側への動力伝達を遮断することができる。前後進切替機構15は、例えば、作業員によって図外前後進切替レバーが操作されることで油圧制御によって前進、後進、ニュートラルを切り替えることができる。また、クラッチペダルを踏み込み操作することで前・後進油圧多板クラッチC1、C2を共に解放状態にできる。
Hi−Lo変速機構16は、エンジン4から伝達された回転動力を、高速段又は低速段で変速可能なものである。Hi−Lo変速機構16は、Hi(高速)側ギヤ段16a、Lo(低速)側ギヤ段16b、油圧多板クラッチ(Hi(高速)側クラッチ)C3、油圧多板クラッチ(Lo(低速)側クラッチ)C4を含んで構成される。油圧多板クラッチC3、C4は、係合/解放状態を切り替えることでHi−Lo変速機構16における動力の伝達経路を切り替え可能である。Hi−Lo変速機構16は、油圧多板クラッチC3、C4の係合/解放状態に応じて、カウンタ軸21に伝達された回転動力を、伝達経路を変えて変速軸22に伝達する。Hi−Lo変速機構16は、油圧多板クラッチC3が係合状態、油圧多板クラッチC4が解放状態である場合に、カウンタ軸21に伝達された回転動力を、油圧多板クラッチC3、Hi側ギヤ段16aを介して変速して変速軸22に伝達する。
Hi−Lo変速機構16は、油圧多板クラッチC3が解放状態、油圧多板クラッチC4が係合状態である場合に、カウンタ軸21に伝達された回転動力を、油圧多板クラッチC4、Lo側ギヤ段16bを介して変速して変速軸22に伝達する。これにより、Hi−Lo変速機構16は、エンジン4からの回転動力をHi側ギヤ段16aの変速比、あるいは、Lo(低速)側ギヤ段16bの変速比で変速して後段に伝達することができる。Hi−Lo変速機構16は、例えば、作業員によって図外Hi−Lo切替スイッチ(高低変速操作スイッチ)がオン/オフされることで油圧制御によってHi(高速)側、Lo(低速)側を切り替えることができ、高速と低速の2段のうちのいずれかで変速することができる。また、Hi−Lo変速機構16は、上記の構成によりトラクタ1の走行中に変速可能である。
主変速機構17は、エンジン4から伝達された回転動力を、複数の変速段のいずれかで変速可能である。主変速機構17は、シンクロメッシュ式の変速機構であり、ここでは、エンジン4から前後進切替機構15、及び、Hi−Lo変速機構16を介して伝達される回転動力を変速可能である。主変速機構17は、複数の変速段として第1速ギヤ段17a、第2速ギヤ段17b、第3速ギヤ段17c、第4速ギヤ段17d、第5速ギヤ段17e、第6速ギヤ段17fを含んで構成される。主変速機構17は、第1速ギヤ段17a〜第6速ギヤ段17fの変速軸22との結合状態に応じて、変速軸22に伝達された回転動力を、第1速ギヤ段17a〜第6速ギヤ段17fのいずれかを介して変速して変速軸23に伝達する。これにより、主変速機構17は、エンジン4からの回転動力を第1速ギヤ段17a〜第6速ギヤ段17fのいずれかの変速比で変速して後段に伝達することができる。主変速機構17は、例えば、作業員によって主変速操作レバー(図示せず)が操作されることで複数の変速段のうちの1つを選択し切り替えることができ、第1速ギヤ段17a〜第6速ギヤ段17fの6段のうちのいずれかで変速することができる。また、主変速機構17は、上記の構成によりトラクタ1の走行中に変速可能である。
副変速機構18は、エンジン4から前後進切替機構15、Hi−Lo変速機構16、及び、主変速機構17を順に介して伝達される回転動力を変速可能である。副変速機構18は、第1副変速機24、第2副変速機25等を含んで構成され、変速軸23に伝達された回転動力を、第1副変速機24、第2副変速機25等を介して変速して変速軸26に伝達する。第1副変速機24は、エンジン4から伝達され主変速機構17等で変速された回転動力を高速段又は低速段で変速して駆動輪である後輪3側に伝達可能である。第2副変速機25は、エンジン4から伝達され主変速機構17等で変速された回転動力を第1副変速機24よりもさらに低速の超低速段で変速して駆動輪である後輪3側に伝達可能である。なお、第2副変速機25は仕様の簡素化等が求められる場合には省略するものである。
副変速機構18の第1副変速機24は、第1ギヤ24a、第2ギヤ24b、第3ギヤ24c、第4ギヤ24d、シフタ24eを含んで構成される。第1ギヤ24aは、変速軸23と一体回転可能に結合され変速軸23からの回転動力が伝達(入力)される。第2ギヤ24bは、第1ギヤ24aと噛み合っている。第3ギヤ24cは、第2ギヤ24bと一体回転可能に結合されている。第4ギヤ24dは、第3ギヤ24cと噛み合っている。シフタ24eは、第1ギヤ24a、第4ギヤ24dと変速軸26との結合状態を切り替えるものである。すなわち、変速軸26と一体に設けるクラッチ爪26aと、第1ギヤ24aに一体のクラッチ爪24acと、第4ギヤ24dに一体のクラッチ爪24dcとが同径同歯数に形成されて隣接状態に配置されており、シフタ24eがクラッチ爪26aとクラッチ爪24acが同時係合すると第1ギヤ2aから変速軸26に動力が伝わり、クラッチ爪26aとクラッチ爪24dcが同時係合すると第4ギヤ24dから変速軸26に動力が伝わる構成である。なおシフタ24eがクラッチ爪24ac及びクラッチ爪24dcのいずれにも係合しない位置にシフト可能に各クラッチ爪を配置構成している。
シフタ24eは、第1ギヤ24aと変速軸26とを一体回転可能に結合するHi(高速)側位置、第4ギヤ24dと変速軸26とを一体回転可能に結合するLo(低速)側位置、第1ギヤ24a、第4ギヤ24dのいずれもが変速軸26と結合せず、解放される中立位置(ニュートラル位置)に移動可能である。第1副変速機24は、シフタ24eの位置に応じて、変速軸23に伝達された回転動力を、伝達経路を切り替えて変速軸26に伝達する。
副変速機構18の第2副変速機25は、第1ギヤ25a、第2ギヤ25b、第3ギヤ25c、第4ギヤ25d、シフタ25eを含んで構成される。第1ギヤ25aは、第1副変速機24の第4ギヤ24dと一体回転可能に結合されている。第2ギヤ25bは、第1ギヤ25aと噛み合っている。第3ギヤ25cは、第2ギヤ25bと一体回転可能に結合されている。第4ギヤ25dは、第3ギヤ25cと噛み合っている。シフタ25eは、第4ギヤ25dと変速軸26との結合状態を切り替えるものである。すなわち、変速軸26と一体に設けるクラッチ爪26bと、第4ギヤ25dに一体のクラッチ爪25dcとが同径同歯数に形成されて隣接状態に配置されており、シフタ25eがクラッチ爪26bとクラッチ爪25dcが同時係合すると第4ギヤ25dから変速軸26に動力が伝わる構成である。
シフタ25eは、第4ギヤ25dと変速軸26とを一体回転可能に結合する超Lo(超低速)側位置、第4ギヤ25dと変速軸26とが結合されず、解放される中立位置(ニュートラル位置)に移動可能である。この場合は、変速軸26の回転は、第1副変速機24のシフタ24e位置に支配される。第2副変速機25は、シフタ25eの位置に応じて、変速軸23に伝達された回転動力を、伝達経路を切り替えて変速軸26に伝達する。第2副変速機25は、第1副変速機24がニュートラルの状態で、シフタ25eが超Lo側位置にある場合、変速軸23に伝達された回転動力を、第1副変速機24の第1ギヤ24aから、第2ギヤ24b、第3ギヤ24c、第4ギヤ24d、第2副変速機25の第1ギヤ25a、第2ギヤ25b、第3ギヤ25c、第4ギヤ25d、シフタ25eを介して順次減速して変速軸26に伝達する。これにより、第2副変速機25は、エンジン4からの回転動力を、第2ギヤ24b、第3ギヤ24c、第4ギヤ24d、第1ギヤ25a、第2ギヤ25b、第3ギヤ25c、第4ギヤ25dを介した超Lo(超低速)側の変速比で変速して後段に伝達することができる。また、第2副変速機25は、シフタ25eが中立位置にある場合、第4ギヤ25dが変速軸26に対して空転する状態、すなわち、ニュートラルの状態となる。
したがって、副変速機構18は、変速軸23に伝達された回転動力を、第1副変速機24と第2副変速機25とを組み合わせることで、高速と低速と超低速の3段のうちのいずれかで変速して変速軸26に伝達することができる。
そして、変速装置5の伝動機構13は、変速軸26に伝達された回転動力を、後輪デフ27、後車軸28、減速用の遊星歯車減速機構29等を介して後輪3に伝達する。この結果、トラクタ1は、後輪3がエンジン4からの回転動力により駆動輪として回転駆動する。
2WD/4WD切替機構19が油圧多板クラッチC6、C7を含んで構成されると共に、前輪増速機構としても機能する。2WD/4WD切替機構19は、伝達軸19a、Hi(高速)側ギヤ段19b、Lo(低速)側ギヤ段19c、油圧多板クラッチ(Lo(低速)側クラッチ)C6、油圧多板クラッチ(Hi(高速)側クラッチ)C7、伝達軸19dを含んで構成される。油圧多板クラッチC6、C7は、係合/解放状態を切り替えることで2WD/4WD切替機構19における動力の伝達経路を切り替え可能である。2WD/4WD切替機構19は、油圧多板クラッチC6、C7の係合/解放状態に応じて、伝達軸19aに伝達された回転動力を、伝達経路を変えて伝達軸19dに伝達する。2WD/4WD切替機構19は、油圧多板クラッチC6が係合状態、油圧多板クラッチC7が解放状態である場合に、伝達軸19aに伝達された回転動力を、Lo側ギヤ段19c、油圧多板クラッチC6を介して変速して伝達軸19dに伝達する。
2WD/4WD切替機構19は、変速軸26に伝達された回転動力を、前輪2側に伝達するか否かを切り替えるものである。2WD/4WD切替機構19は、伝達軸19a、Hi側ギヤ段19b、Lo側ギヤ段19c、伝達軸19dを含んで構成される。伝達軸19aは、変速軸26からの回転動力が、ギヤ30、ギヤ31、伝達軸32、カップリング33等を介して伝達(入力)される。第1ギヤ19bは、伝達軸19aが挿入され、当該伝達軸19aに対して相対回転可能に組み付けられる。
変速装置5の伝動機構13は、伝達軸19dに伝達された回転動力を、前後方向に延出する前輪デフ入力軸19e、前輪デフ34、前車軸35、縦軸36、遊星歯車減速機構37等を介して前輪2に伝達する。この結果、トラクタ1は、前輪2及び後輪3がエンジン4からの回転動力により駆動輪として回転駆動し、四輪駆動で走行することができる。2WD/4WD切替機構19は、油圧多板クラッチC6、C7が共に解放状態となることで、伝達軸19aに伝達された回転動力の伝達軸19d側への動力伝達が遮断される。この結果、トラクタ1は、二輪駆動で走行することができる。
PTO駆動機構20は、エンジン4から伝達される回転動力を変速して機体後部のPTO軸40(図2参照)から作業機に出力することで、エンジン4からの動力によって作業機を駆動するものである。PTO駆動機構20は、PTOクラッチ機構38、PTO変速機構39、PTO軸40等を含んで構成される。
PTOクラッチ機構38は、PTO軸40側への動力の伝達と遮断とを切り替えるものである。PTOクラッチ機構38は、ギヤ38a、油圧多板クラッチC5、伝達軸38bを含んで構成される。ギヤ38aは、入力軸14と一体回転可能に結合されたギヤ41と噛み合っている。油圧多板クラッチC5は、係合/解放状態が切り替わることで、ギヤ38aと伝達軸38bとの間の動力の伝達状態を切り替えるものである。PTOクラッチ機構38は、油圧多板クラッチC5が係合状態となることでPTO軸40側へ動力を伝達するPTO駆動状態となり、入力軸14からギヤ41を介してギヤ38aに伝達された回転動力を、油圧多板クラッチC5を介して伝達軸38bに伝達する。PTOクラッチ機構38は、油圧多板クラッチC5が解放状態となることでPTO軸40側への動力の伝達が遮断されたPTO非駆動状態(ニュートラル状態)となり、ギヤ38aに伝達された回転動力の伝達軸38b側への伝達が遮断される。
なお、このトラクタ1は、ギヤ38aと噛み合うギヤ70a、当該ギヤ70aと噛み合うギヤ70b等を介してギヤポンプ70が設けられている。ギヤポンプ70は、伝動機構13等の油圧系統に油圧を付与するものである。
PTO変速機構39は、PTO軸40側に動力を伝達する際に変速を行うものである。PTO変速機構39は、Hi(高速)側ギヤ段39a、Lo(低速)側ギヤ段39b、伝達軸39c、シフタ39dを含んで構成される。PTO変速機構39は、シフタ39dの位置に応じて、伝達軸38bに伝達された回転動力を、Hi側ギヤ段39a、あるいは、Lo側ギヤ段39bを介して変速して、伝達軸39cに伝達する。
PTO軸40は、自在継ぎ手軸(図示せず)を介して作業機側入力軸(図示せず)に結合され、エンジン4からの回転動力を作業機に伝達するものである。PTO軸40は、伝達軸39cが機体中心から偏った位置にあるため、第1ギヤ44、第2ギヤ45等を介して伝動可能に機体左右中心に配置される。
なお、本実施形態のミッションケース12は、図3〜図4に示すように、前後方向前側のフロントミッションケース12Fと、前後方向後側のリヤミッションケース12Rとに分かれている。そして、本実施形態のフロントミッションケース12Fは、図5、図6に示すように、前後進切替機構15の油圧多板クラッチC1、C2の制御用のクラッチバルブ55、Hi−Lo変速機構16の油圧多板クラッチC3、C4の制御用のクラッチバルブ56、PTOクラッチ機構38の油圧多板クラッチC5の制御用のクラッチバルブ57、2WD/4WD切替機構19の油圧多板クラッチC6,C7の制御用のクラッチバルブ64、ギヤポンプ70等が左右の面に振り分けて配置されている。ここでは、フロントミッションケース12Fは、図5に示すように、車幅方向右側の面にクラッチバルブ55、クラッチバルブ56、クラッチバルブ64が配置される。一方、フロントミッションケース12Fは、図6に示すように、車幅方向左側の面にクラッチバルブ57、ギヤポンプ70が配置される。この結果、このトラクタ1は、クラッチバルブ55、56、57、64、ギヤポンプ70等をフロントミッションケース12Fの外面に効率的に配置することができる。
フロントミッションケース12Rとリヤミッションケース12Rの2つのケース構成でもよいが、本実施例では、更にスペーサ状のスペーサケース12Sをこれらのケース12F,12Rとの間に挟んで構成している(図3,4)。即ち、ミッションケース12のフロントミッションケース12Fとリヤミッションケース12Rの間にスペーサケース12Sを設け(図7)、主変速機構17の前記変速軸22及び変速軸23、2WD/4WD切替機構19への前記伝達軸32を支持するメタル部12Saを形成している。このように構成すると、フロントミッションケース12Fとリヤミッションケース12Rとの間のスペーサケース12Sのメタル部12Saによって変速軸22,23や伝達軸32を支持することで、リヤミッションケース12R前側のメタル構成を省略できる。フロントミッションケース12Fとスペーサケース12Sを接続すべく組み立てるが、フロントミッションケース12F内で後方に延出する上記変速軸22,23や伝達軸32は、比較的重量的にも大きさ的にも取り扱い易いスペーサケース12Sを巧みに調整し芯あわせしながらメタル部12Saにこれら軸を軸支でき、同時にフロントミッションケース12Fの後面に接合でき、結果として内装ギアやシャフトの組み付けと共にスペーサケース12Saの接合作業を容易とさせる。
また、スペーサケース12Sはフロントミッションケース12Fの左右幅よりもやや広いフランジ部に形成されており、フロントミッションケース12Fの左右側面にデッドスペースを形成する形態となるが、このデッドスペース部分を利用して前記制御クラッチバルブ55,56,57,64を配設できる。
次いで前記油圧ポンプとしてのギヤポンプ70およびその周辺構成について説明する。ギヤポンプ70は、その駆動によって、ミッションケース12に収容される作動油を吸い上げて、作業機昇降用油圧回路、操舵制御用油圧回路に分配供給するが、前記のようにミッションケース12(図例ではフロントミッションケース12F)の一側面(図例では左側)に配置される。
リヤミッションケース12Rの一側面で、ギヤポンプ70と左右同一の側面(図例では左側)に、2個のサクションフィルタ71,71を着脱自在に設ける。該フィルタ71,71の適宜出力側は、ホース76やパイプ77を経由して前記ギヤポンプ70に連通している。
燃料タンク80は、図9〜図14に示すように、樹脂性からなりブロー成形によって製作されて、ミッションケース12の左右に配置される構成である。左右一方の第1燃料タンク80Lのタンク容量が左右他方の第2燃料タンク80Rの容量よりも大に製作されている。このうち第1燃料タンク80Lの底部を受ける第1タンク支持プレート81Lを、その後部側はミッションケース12に対して取付プレート78Sによって着脱自在にボルト締結支持し、その前部側は、帯プレート83を介して、安全フレーム構造のフロアパネル部やキャビン構造のフロアパネル部をミッションケース12に対して防振的に支持する防振支持フレーム82に吊下げ支持している。なお、この防振支持フレーム82は、ミッションケース12(図例ではフロントミッションケース12F)の側面に着脱自在にボルトで固定するものである。
第1燃料タンク80Lの前部側支持構成について詳述すると、帯プレート83は、燃料タンク80Lと第1タンク支持プレート81Lに同時に巻き掛けて防振支持フレーム82に吊り下げられるが、帯プレート83は第1帯プレート83aと第2帯プレート83bに分割され、第1帯プレート83aは一端が防振支持プレート82に連結され、第1燃料タンク80Lの外側方からタンク支持プレート81を迂回し、他端を第2帯プレート83bに連結し、これら第1,2帯プレート83a,83bで吊下げ支持する。さらに、前記取付プレート78Sの直前には、後部側帯プレート85によって、第1燃料タンク80Lとタンク支持プレート81Lを固定する。なお、この後部側帯プレート85はミッションケース12と連結されている。
なお、第1燃料タンク80Lは樹脂のブロー成型によって前部側は給油部80aに、中間部は左右幅広部に、後部側は底面が側面視で後方ほど高い斜上を呈しかつやや狭幅部に形成され、あわせて第1燃料タンク80Lのミッションケース12側に接近する形状は、前記ギヤポンプ70や前記PTO用制御クラッチバルブ57のミッションケース12への装着状態で相互に干渉しないよう成型され、このため第1燃料タンク80Lは、前記PTO用制御クラッチバルブ57及びギヤポンプ70の側方を囲うこととなり、これらを他物との衝突などから保護する。また、前記サクションフィルタ71,71の上面は燃料タンク80の後部側80bで囲われて保護される。
次いで、前記他方の第2燃料タンク80Rについて、その底部を受ける第2タンク支持プレート81Rを、その後部側は前記第1燃料タンク80Lと共通の取付プレート78Sでミッションケース12に支持し、前部を専用の取付プレート78Fをもってミッションケース12に支持すると共に、前記取付プレート78Sの直前には帯プレート86によって、第2燃料タンク80Rと第2タンク支持プレート81Rを同時に巻き掛けてミッションケース12に固定している。
前記第1燃料タンク80Lと第2燃料タンク80Rの配置関係は、各タンク前端部は、容量の大きい第1燃料タンク80L側が前方に容量の少ない第2燃料タンク80R側が後方に存在する関係となっており、各後端部は、第1燃料タンク80Lの後端が第2燃料タンク80Rの後端とほぼ同じ位置になる関係である。
前記のように第1燃料タンク80L側に給油口80aを設けるため、第1燃料タンク80Lと第2燃料タンク80Rは、樹脂性の連結管87で連結されている。すなわち、第1燃料タンク80Lの前側下部に一端を連結された連結管87は、途中屈曲状に形成され第2燃料タンク80Rの前側下端部に他端が接続されるように設けられ、平面視でL型に形成されている。詳述すると、連結管87は、第1〜第3連結管部87a,87b,87cからなり、直状の第1連結管部87a及び第3連結管部87cの間に、L型に形成された第2連結管87bを嵌合連結して上記平面視L型となし、第1連結管部87aの端部を第1燃料タンク80Lの前部内側下端に形成した第1の開口88に対し該第1連結管部87aが左右方向に向くよう連結し、第3連結管部87cの端部を第2燃料タンク80Rの前端下部に形成した第2の開口89に対し該第3連結管部87cが前後に向くよう連結するものである。このとき、前記第1の開口88は第1燃料タンク80Lの最底部近くに開口し、前記第2の開口89は第2燃料タンク80Rの最底部近くに開口するものであるが、第1燃料タンク80Lの最底部と、第2燃料タンク80Rの最底部とは高さを異ならせ、第1燃料タンク80Lの第1の開口88は、第2の燃料タンク80Rの第2の開口89に対し所定高さLだけ低く設けている。さらに、前記第2連結管部87bについては、第1連結管部87aとの嵌合連結部から徐々に傾斜する傾斜部、及び第3連結管部87cとの連結嵌合部に向け屈曲する屈曲部を形成している。この傾斜部によって、前記高さLを稼いでいる。前記第2連結管部87bの傾斜部範囲は、前記前輪デフ入力軸19eの下方を迂回すべく傾斜させてあるが、この傾斜部は第1燃料タンク87Lへの燃料移動を円滑にさせることができる。
次いで、エンジン4への燃料供給管90について、前記第1燃料タンク80Lの連結管87連結部の後方位置に、供給用開口91を形成し、この供給用開口91に燃料供給管90の一端を接続している。接続構造は供給用開口91部に外向きに突出状に形成される接続用パイプ91aに燃料供給管90の端部を嵌合して重合部外周をバンドで締め付け固定する公知のものである。図例では、機体内向きに延出させてから前方側に折り曲げ誘導しさらに上方に延出させて図外フィードポンプに連結させている。なお、供給用開口91は、図14の断面図に示すように、第1燃料タンク80Lの最底部の燃料を略残量なく供給できるよう成形上可能な最低高さ位置に形成している。
前記燃料供給管90の近傍に、エンジン4からの戻り管92を設けると共に、その端部を連結管87の前側に配置している。該戻り管92の第1燃料タンク80Lへの還流開口93は、第1燃料タンク80Lの比較的低い位置に形成されている。もって高所からの還流で発生しがちな泡立ちを防止できる。さらに、第1燃料タンク80L、第2燃料タンク80Rの各後部側上面にブリーザパイプ94L,94Rを接続し、上方に向けて延出させて適宜本体に接続させている。
図13に基づき、前記連結管87の第1〜第3連結管部87a,87b,87cの固定手段について説明する。第2燃料タンク80Rの前側空間部にはバッテリー95を載置するブラケット96を構成し、該ブラケット96と第1燃料タンク80Lの前記第1タンク支持プレート81Lとの間に下面カバー97を設ける。そして、下面カバー97に前記連結管87の第1連結管部87a,第2連結管87bが対応し、該下面カバー97が連結管部の保持構成となっている。
前記バッテリー95のブラケット96は、バッテリー95を受ける受け板96a、ミッションケース12に受け板96aを連結するための支持プレート96b等からなる。バッテリー95とミッションケース12側との間に空間部を形成し、この位置に前記第3連結管部87cを配置し支持する構成である。
前記のように、左側の第1燃料タンク80Lと右側の第2燃料タンク80Rとを燃料流通可能に連結する連結管87は、第1連結管部87a及び第2連結管部87bの左右方向に向く部分と、第2連結管部87b一部から第3連結管部87cに亘る前後方向に向く部分とからなり、直接左右第1燃料タンク80Lと第2燃料タンク80Rを並べて左右最短に連結するのでなく、平面視でL型の迂回連結管経路Rを形成するものであるから、機体が正面より視て反時計回りに傾斜する際、この迂回連結管経路Rの存在によって、第1燃料タンク80Lから第2燃料タンク80Rへの燃料流動は当該迂回連結管経路R内に停滞状態となって第2燃料タンク80R内への流入が抑制され、その後の逆向き傾斜(正面視時計回り)によって第1燃料タンク80L側に流入移動する。この逆向き傾斜のとき、前記のように、第1燃料タンク80Lの第1の開口88は、第2の燃料タンク80Rの第2の開口89に対し高さLだけ低く設けているので、連結管87内の燃料は第1燃料タンク87Lへ流入し易いこととなる。第1燃料タンク80L側に燃料供給管90や戻り管92を接続する構成とする場合に有効である。
なお、前記の連結管87の構成とすると、機体右側が下がり、かつ機体前側が上がっても迂回連結経路Rが形成され、特に前後方向に向く第3連結管部87cの存在によって、第2燃料タンク80R側への燃料流入に時間がかかるので瞬時的な上記機体前側上がり現象が起きても第2燃料タンク87R側への燃料の流入を少なくできる。
第1燃料タンク80Lの前面下部は、ミッションケース12Fに支持されたバンパー状の保護カバー98を備えている。