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JP6573459B2 - 穴拡げ性に優れたフェライト系ステンレス鋼鈑及びその製造方法 - Google Patents

穴拡げ性に優れたフェライト系ステンレス鋼鈑及びその製造方法 Download PDF

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JP6573459B2
JP6573459B2 JP2015035834A JP2015035834A JP6573459B2 JP 6573459 B2 JP6573459 B2 JP 6573459B2 JP 2015035834 A JP2015035834 A JP 2015035834A JP 2015035834 A JP2015035834 A JP 2015035834A JP 6573459 B2 JP6573459 B2 JP 6573459B2
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Description

本発明は、穴拡げ性に優れたフェライト系ステンレス鋼鈑及びその製造方法に関する。
フェライト系ステンレス鋼は優れた耐食性を有するため、多くの用途に用いられている。フェライト系ステンレス鋼の薄鋼板の場合、種々の加工が加えられて目的の形状に成形加工される場合が多い。加工は曲げ、張り出し、深絞り、伸びフランジ等のモードがあり、それぞれの加工に適した金属組織の制御が行われている。
中でも伸びフランジ成形性は、加工により開けられたパンチ穴の拡がり率(穴拡げ性)を調査して得られる。フェライト系ステンレス鋼においては穴拡げ性を向上するための検討が行われてきた。特許文献1では2回冷延における圧下配分を適正化することにより、ランクフォード値(r値)rmin値を高めて穴拡げ性を向上する手法が取られている。特許文献1の技術は2回冷延法が前提となるため、一般的な1回冷延法には適用できない。
析出物を制御することにより穴拡げ性を高める方法も知られている(特許文献2及び特許文献3)。特許文献2及び特許文献3では成分に加えて中間焼鈍条件を規定することにより析出物のサイズ及び密度を制御して穴拡げ性を改善する手法が開示されている。しかし、これらの従来技術は中間焼鈍が必須となるため、必ずしも効率的なプロセスとは言えない。
一方で、フェライト系ステンレス鋼に微量のSnを添加し、耐銹性を向上する技術が知られている(特許文献4及び特許文献5)。特許文献4及び特許文献5においては、成分を規定し、耐銹性を向上させる手法が記載されているが、穴拡げ性については何ら記載されていない。また、後述するように穴拡げ性は金属組織と大きな相関があることが考えられるが、金属組織制御に関する示唆はされていない。
穴拡げ性は局部変形に対応することから素材の延性及び深絞り性と定性的に相関があることが知られているが、焼鈍工程或いは圧延工程等の製造工程を更に追加することなく穴拡げ性を向上させる手法が確立されていなのが現状である。
特開平4−311518号公報 特開2003−213376号公報 特開2004−360003号公報 特開2009−174036号公報 特開2010−159487号公報
このような背景のもと、本発明は、鋼の成分及び金属組織を制御することにより、穴拡げ性に優れたフェライト系ステンレス鋼を提供することを目的とする。特に、既存のプロセスでの製造を前提とし、特殊な工程を経ることなく、成分とプロセス条件の調整により、穴拡げ性を向上させる金属組織を得ることを課題とする。
本発明者らは上記課題を解決するために、穴拡げ性に及ぼす成分及び金属組織の影響を調査した。特に、耐銹性向上のために添加するSnに着目し、Snの含有量と、穴拡げ性の関係を鋭意研究した。その結果、Snの含有量と結晶粒度および穴拡げ性の間に関係があることを知見した。言い換えれば、Snの含有量と結晶粒度をある範囲に制御することにより穴拡げ性を極大にできることを見出した。
結晶粒度番号(GSN)が8.6と6.1の素材を用いて穴拡げ率を測定した結果を図1に示す。結晶粒度番号6.1の場合、Sn添加量を増加しても穴拡げ率はほとんど変化しない。一方、結晶粒度番号8.6の場合、穴拡げ率はSn添加量が0.01%以上で高くなり、Sn:0.15%超の添加量では低下する。
このように結晶粒度番号とSn含有量の最適組み合わせが存在することを見出した。この理由は明らかではないが、Snは結晶粒界に偏析しやすい元素であることから、結晶粒界面積(結晶粒度に対応)とSn量の組み合わせにより、結晶粒界に適正なSn量が偏析し、粒界の結合性を強化して穴拡げ性を向上させたものと考えられる。
本発明は、この知見を基に成されたものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1) 重量%で、
C:0.0005〜0.020%、
Si:0.01〜1.0%、
Mn:0.01〜1.0%、
P:0.050%未満、
S:0.010%未満、
Cr:10.0〜18.0%、
N:0.0005〜0.020%、
Sn:0.010〜0.150%、
Nb:0.030〜0.25%、
を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物である鋼組成を有し、
結晶粒の結晶粒度番号が7.0以上9.5以下であり、下記式(1)で定義される穴拡げ率λが100%以上であることを特徴とする穴拡げ性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
穴拡げ率λ(%)=((穴拡げ試験後の穴径−穴拡げ試験前の穴径)/穴拡げ試験前の穴径)×100・・・(1)
但し、前記穴拡げ試験は、前記フェライト系ステンレス鋼板から1.0mm厚、90mm角の鋼板を切り出し、直径10mmの円形状の穴をクリアランスが12.5%となるように打ち抜いた後、60°円錐ポンチにて押し込み成形して前記円形状の穴縁の亀裂が前記鋼板の板厚を貫通した時点で終了する。
(2) 質量%で、
Ti:0.01〜0.25%、
を含有することを特徴とする(1)に記載の穴拡げ性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
(3) 質量%で、
Al:0.003〜0.5%
を含有することを特徴とする(1)又は(2)に記載の穴拡げ性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
(4) 質量%で、
Ni:0.01〜0.50%、
Cu:0.01〜0.50%、
Mo:0.01〜0.50%、
Sb:0.001〜0.30%、
o:0.005〜0.50%、
W:0.002〜0.50%、
V:0.02〜0.50%、
Ga:0.001〜0.10%
のうち1種または2種以上を含有することを特徴とする(1)乃至(3)のうちいずれかに記載の穴拡げ性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
(5) 質量%で、
B:0.0003〜0.0025%、
Mg:0.0001〜0.0030%、
Ca:0.0003〜0.0030%、
REM(希土類金属):0.002〜0.20%、
Zn:0.002〜0.10%、
Ta:0.002〜0.50%、
Hf:0.002〜0.50%、
As:0.001〜0.20%、
Bi:0.001〜0.30%、
Pb:0.001〜0.10%、
Se:0.001〜0.10%
のうち1種または2種以上を含有することを特徴とする(1)乃至(4)のうちいずれか記載の穴拡げ性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
(6) (1)乃至(5)のいずれか記載の成分を有する鋼を、熱間圧延における総圧下率を97%以上且つ最終パスの圧延仕上げ温度を950℃以下として熱間圧延を行い700℃未満の温度で巻き取り処理を行った後に、925℃以上1050℃以下の温度で熱処理を実施し、その後圧下率を50%以上85%未満として冷間圧延を行ない、その後最高到達温度が900〜980℃でその後に500℃までの冷却速度が50℃/s以上である熱処理を行うことを特徴とする、(1)乃至(5)のうちいずれかに記載の穴拡げ性に優れたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
本発明によれば、鋼の成分系及び製造プロセスの各条件を制御することにより、既存の製造設備を適用し、特殊なプロセスを経ることなく、穴拡げ性に優れたフェライト系ステンレス鋼板を提供できる。
Sn含有量と穴拡げ率の関係を示す図である。
以下に、本発明について説明する。
本発明者らは、13%Crステンレス鋼を基本成分として、種々の元素の添加量を変化させてサイズの異なる鋼塊を作製した。鋼塊を種々の条件で熱間圧延後、冷間圧延と熱処理の組み合わせにより1.0mm厚の鋼板を作製した。最終焼鈍温度を調整して結晶粒径を調整した。得られた鋼板より90mm角の鋼板を切り出し、穴拡げ試験に供した。穴拡げ試験は直径10mmの円形状の穴をクリアランスが12.5%となるように打ち抜いた後、60°円錐ポンチにて押し込み成形して穴縁の亀裂が板厚を貫通したときに試験を停止した。穴拡げ率λは、試験後の穴径と試験前の穴径から下記(1)の計算式で求めた。
穴拡げ率λ(%)=((試験後の穴径−試験前の穴径)/試験前の穴径))×100・・・(1)
その結果、結晶粒径をある範囲に制御した場合に、穴拡げ性を極大にするSn量が存在することを知見した。結晶粒度番号(GSN)が8.6と6.1の素材を用いて穴拡げ率を測定した結果を図1に示す。粒度番号6.1の場合、Sn添加量を増加しても穴拡げ率はほとんど変化しない。一方、粒度番号8.6の場合、穴拡げ率はSn添加量が0.01%を超えると高くなり、Sn:0.15超で低下する。このように結晶粒径によって穴拡げ性に対するSn添加の効果が異なることが判明した。
次に、本発明に係るフェライト系ステンレス鋼板の成分元素の限定理由と製造条件の限定理由を述べる。なお、組成についての%の表記は、特に断りがない限り質量%を意味する。
<C:0.0005〜0.020%>
Cは、多量に添加されると加工性の劣化を招く。また溶接部の鋭敏化による耐食性を招く場合があるため少ない方が好ましい。ただし、過度に低減することは製鋼段階でのコスト増加を招くため、その下限値は0.0005%とする。なお、安定的な製造性の観点からは0.0015%以上とすることが好ましい。上限は耐食性の点から0.020%とする。なお、深絞り性、曲げ性等を考慮すると0.0080%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは0.0060%以下である。
<Si:0.01〜1.0%>
Siは、脱酸元素として活用する場合や、耐酸化性の向上のために積極的に添加する場合があるが、極低Si化はコスト増加を招くためその下限を0.01%とする。なお、脱酸の観点から、0.03%以上とすることが好ましい。また多量の添加は材質硬質化による穴拡げ性の低下を招くことがあるため、上限は1.0%とするのがよい。なお、加工性、安定製造性の観点からは0.30%以下とすることが好ましく、さらに0.20%以下とすることが好ましい。さらに加工性、安定製造性を確実にするために0.15%以下にすることが望ましい。
<Mn:0.01〜1.0%>
MnもSi同様脱酸元素として活用する場合があるが、Mnの過度な低化はコストの増加を招くためその下限を0.01%とする。なお、精錬コストの点から0.03%以上とすることが好ましく、さらに好ましくは0.07%以上である。また多量のMn添加は材質硬質化を招くことがあるため上限を1.0%とするのがよい。なお、加工性、安定製造性の観点からは0.30%以下とすることが好ましく、さらに0.25%以下とすることが好ましい。さらに加工性、安定製造性を確実にするために0.15%以下にすることが望ましい。
<P:0.050%未満>
Pは、不可避的不純物である。原料から不純物元素として混入する場合があるが、その含有量は少ないほど良い。Pが大量に存在すると二次加工性の劣化を招くため、不可避的不純物ではあるが上限を0.050%未満と制限する。なお、加工性劣化の抑制の観点から、0.035%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは0.030%未満である。一方、P量の下限は特に決める必要はないが、過度の低減は原料及び製鋼コストの増大に繋がるため、この点からは0.005%を下限としてもよく、さらには0.010%以上としてもよい。
<S:0.010%未満>
Sは、不可避的不純物である。原料から不純物元素として混入する場合がある。耐食性を劣化させる元素でありその含有量は少ないほど良いため、不可避的不純物ではあるが上限を0.010%未満と制限する。また含有量が低いほど耐食性は良好でありため、好ましくは0.0030%未満である。更に好ましくは0.0010%未満である。一方、過度の低減は精錬コストの増加に繋がるため、下限を0.0002%としてもよく、さらには0.0005%以上としてもよい。
<Cr:10.0〜18.0%>
Crは、耐食性を確保する上で極めて重要な元素であり、不動態被膜を形成して安定的な耐食性を発揮する。この効果を得るには10.0%以上が必要である。なお、耐食性及び安定製造性の観点から、12.0%以上とすることが好ましい。
一方、多量の添加は製造時の靭性劣化を招くため、上限は18.0%とする。なお、穴拡げ性の点からは16.5%以下とすることが好ましい。さらに好ましくは14.5%以下である。
<N:0.0005〜0.020%>
NもCと同様に加工性の低下、ストレッチャーストレインの発生をもたらす元素であるため少ない方が好ましい。ただし、過度に低減することは製鋼段階でのコスト増加を招くため、その下限値は0.0005%としてもよい。なお、安定的な製造性の観点からは0.0015%以上とすることが好ましく、さらに好ましくは0.0030%以上である。またN加工性が低下することに加えて溶接部の耐食性が低下するため上限を0.020%とする。なお、加工性の観点からは0.015%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは0.010%以下である。
<Sn:0.010〜0.150%>
Snは、本発明において重要な元素であり、結晶粒径との組み合わせにより、穴拡げ性を極大にする元素である。その効果を発現するには0.010%以上の添加量が必要であるため、これを下限とする。なお、当該効果をより安定して確保するためには、0.015%以上とすることが好ましい。さらに好ましくは0.020%以上とするとよい。また0.150%を超えて添加しても穴拡げ向上の効果は発揮されないためこれを上限とする。なお、穴拡げ性及び原料コストの観点からは0.12%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは0.080%以下とするとよい。
また、Snは特許文献4及び特許文献5に記載されているように耐銹性向上にも寄与する。Snの含有量が上記範囲内であれば、耐銹性向上効果も得ることができる。
<Nb:0.030〜0.25%>
NbもTiと同様に炭素及び窒素と化合物を形成し、鋭敏化の抑制、加工性の向上に寄与する。これらの効果を有効に発揮させるには0.03%以上の添加が必要となるため、これを下限とする。また添加することで製品板の結晶粒径を細かくする効果を持つため、0.08%以上添加することが好ましい。さらに好ましくは0.12%以上である。一方、多量の添加は、材料の硬質化による加工性低下、金属間化合物析出による製造性の低下をもたらすため、上限を0.25%とする。好ましくは0.20%以下である。
<結晶粒度番号が7.0から9.5>
本発明は、結晶粒の大きさ(結晶粒度番号)とSn添加量と穴拡げ率が密接な関係を有すことを知見したことに基づいており、結晶粒度番号は重要な要件である。本発明で言う結晶粒はフェライト結晶粒である。結晶粒度番号は、JIS G 0552「鋼のフェライト結晶粒度試験方法」に準拠する。図1に示すように、結晶粒度番号が6.1の場合は、Snの含有量に関わらず穴拡げ性はほとんど変化しない。一方、結晶粒度番号が8.6の場合は、Sn含有量が0.01%〜0.15%の範囲である鋼板の穴拡げ率は増加することを知見した。
一方、結晶粒度番号が小さい場合、成形時の肌荒れが生じやすくなるため7.0を下限とする。肌荒れは粒度番号が大きいほど発生しにくいため、7.5以上とすることが好ましい。また結晶粒度番号が9.5を超えると強度が増加する反面、Sn含有量に関わらず延性、穴拡げ性が低下する。このため結晶粒度番号の上限を9.5とする。このように、鋼板のSn含有量が0.01%から0.15%であり、且つ結晶粒度番号が7.0から9.5である場合、鋼板の穴拡げ率は増加するが、安定製造性の観点からは結晶粒度番号を9.0以下とすることが好ましい。
また、本実施形態では、上記元素に加えて、Ti:0.01〜0.25%を添加してもよい。
Tiは、C及びNを析出物として固定して鋭敏化を防ぎ、深絞り性を向上するため必要に応じて添加してもよい。その効果を発揮する有効な量は0.01%であり、これを下限とすることが好ましい。また更なる深絞り性の向上を考慮した場合には0.06%以上の添加が好ましく、特に好ましくは0.1%以上とするとよい。一方、多量の添加は製品の延性劣化を招くことに加えて、製造時の圧延疵の発生を招く。このため上限を0.25%とする。原料コスト及び製造安定性を考慮すると上限は0.20%とすることが好ましい。
また、本実施形態では、上記元素に加えて、Al:0.003〜1.0%を添加してもよい。
Alは脱酸元素として用いる場合があり、また耐酸化性を向上させることが知られているため必要に応じて添加してもよい。なお、脱酸に有効な量は0.003%であり、これを下限とすることが好ましく、ある程度の脱酸効果を得るためには下限を0.005%とすることが好ましい。また添加量が1.0%を超える場合には強度増加が大きくなり、成形性が劣化するおそれがあるため、これを上限とすることが好ましい。成形性を大きく低下させないために、より好ましくは、その上限を0.15%とする。
また、本実施形態では、上記元素に加えて、Ni:0.01〜0.50%、Cu:0.01〜0.50%、Mo:0.01〜0.50%、Sb:0.001〜0.30%、Zr:0.005〜0.50%、Co:0.005〜0.50%、W:0.002〜0.50%、V:0.02〜0.50%、Ga:0.001〜0.10%
の1種または2種以上を添加することが好ましい。
Ni,Cu及びMoは耐食性を向上させる元素であり、必要に応じて添加してもよい。いずれも0.01%以上の添加で効果が発揮されるため、これを下限とすることが好ましい。また多量の添加は材質の硬化、延性の劣化を招くため、Ni、CuおよびMoについては0.50%を上限とすることが好ましい。望ましくは、0.01〜0.10%である。
Sb、Zr、Co、Wも耐食性を向上させるために必要に応じて添加させることができる。これらは腐食速度を抑制するのに重要な元素であるが、過剰な添加は製造性及びコストを悪化させるため、Sbの範囲を0.001〜0.30%、Zr、Coの範囲を0.005〜0.50%、Wの範囲を0.002〜0.50%とした。より望ましくは0.01〜0.2%である。
Vは、耐すき間腐食性を改善するため、必要に応じて添加することができる。ただしVの過度の添加は加工性を低下させる上、原料コストが増加するため、Vの下限を0.02%、上限を0.50%とする。より望ましくは0.05〜0.30%である。
Gaは、耐食性および加工性向上に寄与する元素であり、0.001〜0.10%の範囲で含有させることができる。より好ましくは0.002〜0.05%である。
また、本実施形態では、上記元素に加えて、B:0.0003〜0.0025%、Mg:0.0001〜0.0030%、Ca:0.0003〜0.0030%の1種または2種以上を添加することができる。
B,Mg及びCaは二次加工性、耐リジング性を向上させる効果を持つ元素である。その効果はB:0.0003%、Mg:0.0001%、Ca:0.0003%以上で効果を発揮するためこれらの含有量を下限とすることが好ましい。一方、多量の低下は製造時の歩留まり低下をもたらす場合があるため、上限をB:0.0025%、Mg及びCa:0.0030%とすることが好ましい。なお、より好ましい添加範囲はB及びCa:0.0003〜0.0010%、Mg:0.0002〜0.0008%である。
また、本実施形態では、上記元素に加えて、REM(希土類金属):0.002〜0.20%、Zn:0.002〜0.10%、Ta:0.002〜0.50%、Hf:0.002〜0.50%、As:0.001〜0.20%、Bi:0.001〜0.30%、Pb:0.001〜0.10%、Se:0.001〜0.10%、のうち1種または2種以上を含有することが出来る。これら元素は強度の確保、耐食性の向上等に作用する元素である。上記の範囲内であれば有用に作用するため、これを上下限範囲とした。
次に製造条件について述べる。
本発明は結晶粒度番号と成分、特にSn量の最適値を見つけた点に新規性がある。結晶粒度は最終熱処理温度及びその前のひずみ量の影響を大きく受ける。
そのため、熱間圧延における総圧下率を97%以上とする。熱間圧延における総圧下率はその後の熱処理における再結晶粒径並びに再結晶集合組織に大きく影響する。総圧下率が97%未満であると熱間圧延後の結晶粒径が粗大になり、後述の冷間圧延及び熱処理条件では所定の結晶粒度が得られないため、これを下限とした。総圧下率の上限は特に定める必要ないが、圧延機への負荷を考慮すると99%とすることが望ましい。熱間圧延における総圧下率は、熱延前のスラブ厚(板厚)をt0、熱延終了後の板厚をtとしたとき、以下の関係となる。従って、理論的には熱間圧延における総圧下率は100%以上となることはない。
総圧下率=(t0−tf)/t0 =1−tf/t0
熱間圧延における最終パスの圧延仕上げ温度を950℃以下とする。圧延仕上げ温度が950℃を超えると最終熱処理後に所定の結晶粒度を得られないためである。圧延仕上げ温度の下限は、圧延機への負荷及び圧延疵の抑制を考慮すると700℃とするとよい。
熱間圧延後の巻取り温度は700℃未満とする。巻取温度が700℃以上であるとその後の熱処理において結晶粒が粗大化して、最終的に所定の結晶粒度を得られないためである。
熱間圧延後の熱処理における最高温度を925℃以上とする。これを下回ると熱間圧延後の熱処理後に未再結晶組織が残存し、これを冷間圧延し、熱処理した製品においてリジング性、穴拡げ性が劣化するためである。また熱処理温度の上限は1050℃とする。これを超えると結晶粒が粗大化し、冷間圧延後の熱処理後の結晶粒径の粗大化を招いて穴拡げ性が劣化するため、これを上限とした。
再結晶は鋼中に導入されたひずみを駆動力として生じる現象であり、ひずみ量が多いほど低温で再結晶が進行する。また、熱間圧延では800℃〜1100℃程度の温度においてひずみが導入されると、ひずみ導入後に転位密度の減少或いは転位の回復が生じやすいために熱間圧延板において残存するひずみが比較的少ない。一方、冷間圧延では室温〜100℃でひずみが導入されるため、回復し難く、残存するひずみが多くなる。
また、冷間圧延前に完全再結晶組織が得られない場合、冷間圧延後の熱処理によって再結晶組織を得ても、リジングが発生する。冷間圧延前の未再結晶粒部分は、冷間圧延後の熱処理によって完全再結晶組織になったとしても結晶方位が近い再結晶粒となるため、リジングが生じると考えられる。このようなリジングの発生を防止するために冷延前に再結晶を終わらせる必要がある。そのため、熱間圧延後の熱処理は、冷間圧延後の熱処理よりも高い温度で行うことが好ましい。
最終熱処理前の冷間圧延の圧下率を50%以上85%未満とする。冷間圧延圧下率はその後の再結晶粒径に大きく影響をする。冷間圧延の圧下率が50%未満の場合、再結晶の駆動力が小さいために未再結晶組織となる場合がある。また、再結晶したとしてもその結晶粒径が大きくなり、結晶粒度番号が7.0未満となるため前記圧下率を下限とした。冷間圧延の圧下率は高いほど再結晶粒径は細かくなるため、できれば60%以上とすることが好ましい。また、冷間圧延圧下率が高いほど、冷延機への負荷が大きくなるため、上限は85%とした。冷延時の安定性(板厚、形状等)を考慮すると80%以下とすることが好ましい。なお冷間圧延の条件については、用いるワークロールのロール粗度、ロール径、さらには圧延油、圧延パス回数、圧延速度、圧延温度を変えても、熱処理後に得られる金属組織は大きく変化ないため、これら条件については特に規定しない。
冷延後の最終熱処理工程における最高温度を900℃以上とする。900℃未満であると再結晶不足のため、材料が硬質化して穴拡げ性が低下する。また980℃以上では粒成長により結晶粒度番号が7.0未満となるため、これを上限とする。好ましくは950℃以下にするとよい。また熱処理後に500℃までの冷却速度を50℃/s以上とする。この冷却速度が50℃/s未満である場合には、変形時にリューダース帯が発生しやすくなるため、これを下限とする。リューダース帯が発生した場合には穴拡げ試験の際に穴拡げ初期にリューダース帯に沿った割れが発生し、穴拡げ率が低下する。冷却速度の上限は製造コストの大幅な増加がないように100℃/sとする。冷却方法は、強制風冷、ミスト噴霧等が好ましい。
また本発明の効果は2回冷延、3回冷延後に最終熱処理を行っても同様の効果が発揮されるが、製造の効率性を考えると1回冷延法で製造することが好ましい。
なお、熱間圧延後の熱処理および冷間圧延後の熱処理における保持時間は、特に規定するものではないが、結晶粒度の安定製造性の観点から1秒以上とすることが好ましい。また保持時間が長いと製造性が低下することから保持時間の最大値は100秒とすることが好ましい。さらに好ましくは60秒以内にするとよい。
熱延板の熱処理後の冷却速度は遅すぎると結晶粒度に影響を及ぼすため、1℃/秒を下限とする。冷却速度の上限は製造コストの大幅な増加の無いように100℃/秒にするとよい。強制風冷、ミスト噴霧、水冷等は上記の範囲を満足する。
以上の製造プロセスを経ることにより、結晶粒度番号7.0〜9.5となるステンレス鋼板を得ることができる。
本発明において良好な穴拡げ性が得られる原因については次のように推察される。Snは一般的に結晶粒界に偏析する元素と言われており、本発明の鋼板においても結晶粒界に偏析していると考えられる。一方、偏析場所となりうる結晶粒界の面積は、結晶粒径或いは結晶粒度番号によって求めることが出来る。今回、特定のSn量において、特定の粒径範囲において良好な穴拡げ性が得られた原因としては、粒界偏析したSnの量が影響していると推察される。Snの粒界偏析量は、添加Sn量と結晶粒界面積との関係で決められるため、両者が一定のバランスを満足するときに穴拡げ性に有効となる最適なSn量が得られたためと考えられる。
実施例により本発明の効果を説明するが、本発明は、以下の実施例で用いた条件に限定されるものではない。
表1の成分組成(質量%)を有する鋼を溶製した。次に、得られた鋼塊より板厚90mmの鋼片に切断採取し、表2の条件で熱間圧延、熱延板焼鈍、冷間圧延を実施し1.0mm厚の冷延鋼板を作製した。その後、表2の条件で熱処理を行い、鋼板No.1〜54を得た。熱処理実施後に金属組織観察を行い、結晶粒度番号を測定した。結晶粒度番号の測定はJIS Z 0552に準拠した。
また、得られた焼鈍板を用いて穴拡げ試験を行い、穴拡げ率を測定した。穴拡げ試験の方法は前述同様、鋼板No.1〜57の各鋼板から90mm角の試験用サンプルを切り出し、直径10mmの円形状の穴をクリアランスが12.5%となるように打ち抜いた後、60°円錐ポンチにて押し込み成形することによって行い、穴拡げ率を測定した。また、鋼板No.1〜57の鋼板毎に試験用サンプルを5枚採取し、これらの5枚の試験用サンプルに対して前記穴拡げ試験を行い、各鋼板の穴拡げ率の平均値を求めた。この結果を表2に示す。また穴拡げ試験時に穴縁に、リューダース帯と思われる線状のしわ疵が発生したか否かを確認した。
前記観察及び試験により得られた鋼板No.1〜57の各鋼板の特性を表2に示す。本発明の組成及び製造方法により得られた鋼板は穴拡げ率が100%以上である。
これに対して、鋼種No.17はNb含有量が本発明で規定する範囲を下回っている。そのため、鋼種No.17からなる鋼板No.49(比較例)は本発明の製造方法の製造条件に基づいて製造されているものの、結晶粒度番号は7.0未満となり、その穴拡げ率は低いことが分かる。
また、鋼種No.18はSn含有量が本発明で規定する範囲を下回っている。そのため、鋼種No.18からなる鋼板No.51(比較例)は本発明の製造方法の製造条件に基づいて製造されているにも関わらず、その穴拡げ率は低いことが分かる。
また、鋼種No.19はSn含有量が本発明で規定する範囲を超えており、鋼種No.19からなる鋼板No.53、54(比較例)は本発明の製造方法の製造条件に基づいて製造されているにも関わらず、その穴拡げ率は低いことが分かる。鋼板No.51、53の穴拡げ率の結果から、結晶粒度番号が7.0から9.5の範囲内の鋼板であっても、鋼板のSn含有量が0.010〜0.150%の範囲内で無い場合、図1に示される結果と同様に鋼板の穴拡げ率は増加しないことが分かる。
また、表2の鋼板No.4、11、14、21、28、43、52、54(比較例)はいずれも結晶粒度番号が9.5を超えるが、その穴拡げ率は100%に満たない。これらの比較例の結果から、結晶粒度番号が9.5を超えると、Sn含有量に関わらず穴拡げ性が低下することが分かる。
このように、本発明の組成から外れる組成の鋼種を用いて得られた鋼板及び本発明の製造方法の製造条件から外れる製造条件に基づいて製造された鋼板は、いずれも穴拡げ率が100%に満たない。
本発明によれば、穴拡げ性に優れたフェライト系ステンレス鋼板を得ることができ、あらゆる産業分野で利用することができ、洗濯機、炊飯器、電子レンジ、食洗機、冷蔵庫等の家電部品、流し台天板、ゴミ箱、器物、ナイフ・フォーク等への適用が考えられる。
Figure 0006573459
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Claims (6)

  1. 重量%で、
    C:0.0005〜0.020%、
    Si:0.01〜1.0%、
    Mn:0.01〜1.0%、
    P:0.050%未満、
    S:0.010%未満、
    Cr:10.0〜18.0%、
    N:0.0005〜0.020%、
    Sn:0.010〜0.150%、
    Nb:0.030〜0.25%、
    を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物である鋼組成を有し、
    結晶粒の結晶粒度番号が7.0以上9.5以下であり、下記式(1)で定義される穴拡げ率λが100%以上であることを特徴とする穴拡げ性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
    穴拡げ率λ(%)=((穴拡げ試験後の穴径−穴拡げ試験前の穴径)/穴拡げ試験前の穴径)×100・・・(1)
    但し、前記穴拡げ試験は、前記フェライト系ステンレス鋼板から1.0mm厚、90mm角の鋼板を切り出し、直径10mmの円形状の穴をクリアランスが12.5%となるように打ち抜いた後、60°円錐ポンチにて押し込み成形して前記円形状の穴縁の亀裂が前記鋼板の板厚を貫通した時点で終了する。
  2. 質量%で、
    Ti:0.01〜0.25%、
    を含有することを特徴とする請求項1に記載の穴拡げ性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
  3. 質量%で、
    Al:0.003〜0.5%
    を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の穴拡げ性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
  4. 質量%で、
    Ni:0.01〜0.50%、
    Cu:0.01〜0.50%、
    Mo:0.01〜0.50%、
    Sb:0.001〜0.30%、
    o:0.005〜0.50%、
    W:0.002〜0.50%、
    V:0.02〜0.50%、
    Ga:0.001〜0.10%
    のうち1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の穴拡げ性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
  5. 質量%で、
    B:0.0003〜0.0025%、
    Mg:0.0001〜0.0030%、
    Ca:0.0003〜0.0030%、
    REM(希土類金属):0.002〜0.20%、
    Zn:0.002〜0.10%、
    Ta:0.002〜0.50%、
    Hf:0.002〜0.50%、
    As:0.001〜0.20%、
    Bi:0.001〜0.30%、
    Pb:0.001〜0.10%、
    Se:0.001〜0.10%
    のうち1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか項に記載の穴拡げ性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
  6. 請求項1乃至5のうちいずれか1項に記載の成分を有する鋼を、熱間圧延における総圧下率を97%以上且つ最終パスの圧延仕上げ温度を950℃以下として熱間圧延を行い700℃未満の温度で巻き取り処理を行った後に、925℃以上1050℃以下の温度で熱処理を実施し、その後圧下率を50%以上85%未満として冷間圧延を行ない、その後最高到達温度が900〜980℃でその後に500℃までの冷却速度が50℃/s以上である熱処理を行うことを特徴とする、請求項1乃至5のうちいずれか1項に記載の穴拡げ性に優れたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
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