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JP6560488B2 - 液体含浸皮膚被覆シート用不織布および液体含浸皮膚被覆シート - Google Patents

液体含浸皮膚被覆シート用不織布および液体含浸皮膚被覆シート Download PDF

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Description

本発明は、液体、特に化粧料を含浸させた液体含浸皮膚被覆シートを構成する不織布、当該不織布を用いた液体含浸皮膚被覆シートに関する。
人体の皮膚を被覆して、人体の皮膚に所定の物質を付与するために用いられる、液体を含浸させたシートが種々提案され、実用されている。具体的には、有効成分を含む液体(例えば化粧料)を含浸させた液体含浸皮膚被覆シート(フェイスマスクや踵、肘、膝などに使用する角質ケアシート)等が挙げられる。液体含浸皮膚被覆シートの基材としては、不織布が一般的に用いられている。液体含浸皮膚被覆シートは、比較的長い時間、皮膚に密着させて使用することが多いため、液体の放出性、触感、密着性、および利便性等の点から様々な不織布が基材として提案されている。
例えば、特許文献1は、極細合成繊維層と、親水性繊維層の少なくとも二層を積層した積層不織布であって、積層不織布のうち親水性層を身体に接触させて使用し得る美容シート用不織布を提案している。特許文献1によれば、この不織布は、含浸させた美容薬液の蒸発を抑え、長時間潤い効果を保持させることが可能な美容シートを与えるとされている。特許文献2は、立体捲縮を有する立体捲縮繊維を50質量%以上含む第1繊維層と、親水性繊維を含む第2繊維層とを含み、第1繊維層が第2繊維層の一方の面または両方の面に配置されており、第1繊維層と第2繊維層とが繊維同士の交絡により一体化されており、立体捲縮は、第1繊維層と第2繊維層とが交絡一体化された後に、潜在捲縮性繊維において捲縮が発現したことにより形成されたものであり、不織布の表面が実質的に平坦であり、かつ実質的に開孔を有しない積層不織布を含む、液体含浸皮膚被覆シートを提案している。
特開2005−124916号公報 特開2007−211371号公報
本発明は一つの要旨において、含浸させた液体が皮膚にとどまりやすく、液体による保湿効果がより発揮される、または液体に含まれる有効成分が皮膚により移行しやすい、液体含浸皮膚被覆シートを与える不織布を提供することを目的とする。本発明は別の要旨において、当該不織布に液体を含浸させた液体含浸皮膚被覆シート、特に、フェイスマスクを提供することを目的とする。
本発明は、第一の要旨において、親水性繊維を50質量%以上含む第1繊維層と、第1繊維層に含まれる親水性繊維よりも疎水性である疎水性繊維を50質量%以上含む第2繊維層とを含み、第1繊維層が一方の表面を形成し、第2繊維層がもう一方の表面を形成する不織布であって、
前記疎水性繊維が1.2dtex以上の繊度を有し、
前記疎水性繊維として、疎水性に差を有する二種類以上の繊維を含み、
第1繊維層を皮膚に接触させて使用する、液体含浸皮膚被覆シート用不織布を提供する。
本発明は、第二の要旨において、親水性繊維を50質量%以上含む第1繊維層と、第1繊維層に含まれる親水性繊維よりも疎水性である疎水性繊維を50質量%以上含む第2繊維層とを含み、第1繊維層が一方の表面を形成し、第2繊維層がもう一方の表面を形成する不織布であって、
前記疎水性繊維が1.2dtex以上の繊度を有し、
前記疎水性繊維として、繊維表面を構成する熱可塑性樹脂の融点が異なる二種類以上の合成繊維を含み、
前記第2繊維層に含まれる、繊維表面を構成する熱可塑性樹脂の融点が最も低い合成繊維によって繊維同士が熱接着されており、
第1繊維層を皮膚に接触させて使用する、液体含浸皮膚被覆シート用不織布を提供する。
本発明は、第三の要旨において、上記第一の要旨または第二の要旨に係る不織布に液体を600質量部以上2500質量部以下含浸させた、液体含浸皮膚被覆シートを提供する。
本発明は、第四の要旨において、上記不織布に液体を600質量部以上2500質量部以下含浸させた、フェイスマスクを提供する。
本発明の不織布は、これに液体を含浸させた状態で皮膚を被覆したときに、含浸させた液体が皮膚にとどまりやすく、液体による保湿効果がより発揮される、または液体に含まれる有効成分が皮膚により移行しやすい、液体含浸皮膚被覆シートを与える。
(本発明に至った経緯)
特許文献1は、極細合成繊維として、メルトブロー繊維、スパンボンド繊維、および分割型繊維により得られる繊維を使用することを提案している。これらのうち、メルトブロー繊維およびスパンボンド繊維は、それぞれメルトブロー不織布およびスパンボンド不織布の形態で用いられるところ、これらの不織布は親水性繊維層と積層して水流交絡処理に付しても、親水性繊維層と交絡しにくく、得られる積層不織布において層間剥離が生じやすい。また、極細合成繊維のメルトブロー不織布およびスパンボンド不織布は比容積(嵩)が小さく、それ自体が保持できる液体の量が小さくなりやすい。そのため、これらを用いた不織布に液体を含浸させたときに、液体を含浸した極細合成繊維層の重さが小さくなって親水性繊維層を押しつける力が弱くなり、親水性繊維層中の液体を皮膚に移行させにくい傾向にあることがわかった。
分割型繊維により得られる極細繊維を含む極細繊維層は、メルトブロー不織布等と比較して比容積が大きいものであり、これを用いた不織布に液体を含浸させたシートは、液体を皮膚に移行させやすくする。しかしながら、分割型繊維により得られる極細繊維を含む極細繊維層は、例えば、ロールに巻回された状態で保管され、あるいは液体含浸皮膚被覆シートとしてから複数枚のシートを積層した状態で包装袋に収容されて保管されていると、厚みが減少し、もって比容積が減少しやすい。そのため、極細繊維層を含む液体含浸皮膚被覆シートもまた、メルトブロー不織布等を含むシートと同様の傾向を示しやすい。
本発明者らは、液体の皮膚への移行がより促進され、シートと皮膚との間に位置する液体による皮膚への作用(例えば保湿)をより良好に発揮できる液体含浸皮膚被覆シートの構成を検討した。その結果、親水性繊維層を皮膚と接触する側としたときに、皮膚と接触しない側の繊維層を繊度1.2dtex以上の疎水性繊維で構成し、かつ疎水性繊維として疎水性の度合いが異なるものを用いることによって、あるいは疎水性繊維として、繊維表面を構成する熱可塑性樹脂の融点が異なる二種類以上の合成繊維を用いることによって、液体の皮膚への移行がより促進される液体含浸皮膚被覆シートが得られることを見出し、本発明を案出するに至った。
本発明の液体含浸皮膚被覆シート(以下、単に「シート」とも呼ぶ)用の不織布は、親水性繊維を50質量%以上含む第1繊維層と、第1繊維層に含まれる親水性繊維よりも疎水性である疎水性繊維を50質量%以上含む第2繊維層とを含み、第2繊維層に含まれる疎水性繊維が1.2dtex以上の繊度を有し、第2繊維層が疎水性繊維として、特定の二種類以上の繊維を含むものである。以下、各繊維層の構成をまず説明する。
(第1繊維層)
第1繊維層には親水性繊維層が50質量%以上含まれる。親水性繊維を含む第1繊維層は、不織布に含浸される液体(例えば、液体化粧料)を保持するとともに、保持した液体を対象物(具体的には、皮膚)に供給する役割をする。
親水性繊維は公定水分率が5%以上の繊維である。公定水分率は、JIS L0105(2006)に示されている。公定水分率が知られていない場合には、次の式から算出される値を公定水分率とする。
公定水分率(%)=[(W−W’)/W’]×100
ここで、Wは温度20℃、湿度65%RHの環境下における繊維の質量(g)、W’は繊維絶乾時の質量(g)をそれぞれ意味する。なお、温度20℃、湿度65%RHの環境下における繊維の質量は、温度20℃、湿度65%RHの環境下に繊維を放置し、一定の質量になった時の質量を意味し、繊維絶乾時の質量は、105℃に設定した乾燥機中に繊維を放置し、一定の質量になった時の質量を意味する。
親水性繊維は、具体的には、パルプ、コットン、麻、シルク、およびウールなどの天然繊維、ビスコースレーヨン、キュプラ、および溶剤紡糸セルロース繊維などの再生繊維、ならびに親水性を有する合成繊維、または疎水性の合成繊維(公定水分率が5%未満の合成繊維)に親水化処理を施したもの等である。親水化処理として、例えば、コロナ放電処理、スルホン化処理、グラフト重合処理、繊維への親水化剤の練り込み、および耐久性油剤の塗布が挙げられる。親水性繊維は、セルロース系繊維であることが好ましい。セルロース系繊維は、より具体的には、1)機械パルプ、再生パルプおよび化学パルプ等のパルプ、2)コットン(木綿)、麻などの植物性天然繊維、ならびに3)ビスコースレーヨン、キュプラ、および溶剤紡糸セルロース繊維(例えば、レンチングリヨセル(登録商標)およびテンセル(登録商標))等の再生繊維である。
植物性天然繊維のうち、コットンは、天然素材として使用された実績が長く、衣服および衛生材料の素材として広く使用されていて、肌に優しい、触感がよい、および安全であるという印象を一般の消費者に与える。したがって、コットンを使用することにより、消費者により受け入れられやすい製品を提供することができる。コットンを使用する場合、コットンは不織布製造に一般的に用いられているものを任意に使用できる。具体的には、20〜60mm程度の繊維長(平均繊維長)を有するコットンを使用できる。繊維長および種類の異なるコットンを複数用いてよい。
再生繊維のうち、ビスコースレーヨンは、人の皮膚に接する化粧用パフおよびウェットシートの分野で使用されてきた実績があること、および比較的安価で得やすいことにより、好ましく用いられる。
親水性繊維の繊度は0.1dtex〜6dtex程度であることが好ましく、0.3dtex〜3.5dtex程度であることがより好ましく、0.5〜2.5dtexであることがさらに好ましく、0.8〜1.8dtexであることが最も好ましい。この範囲内の繊度の親水性繊維は柔軟性を確保するのに適している。親水性繊維の繊度が小さすぎると、繊維ウェブを製造する際のカード通過性が悪化し、不織布の生産性が低下することがある。親水性繊維の繊度が大きすぎると、不織布が粗いものとなって、触感が低下することがある。また、親水性繊維の繊度が大きすぎると第1繊維層における繊維間の間隔や空隙が広くなり、第1繊維層が液体を保持する能力が低下し、液体の含浸量が低下したり、使用時に液体(例えば化粧料、薬液)が下に垂れる、いわゆる液垂れが発生して使用感が低下したりすることがある。
第1繊維層は、親水性繊維を50質量%以上含み、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上含む。第1繊維層は親水性繊維のみで構成されていてよい。親水性繊維の割合が小さいと、第1繊維層が液体を保持する能力が小さくなり、シートに所定量の液体を含浸させることができなくなる、あるいは液体が皮膚に移行する性質(以下、「液移行性」とも呼ぶ)が不十分となることがある、あるいは皮膚に十分な量の液体を供給できないことがある。第1繊維層が親水性繊維以外の他の繊維を含む場合、当該他の繊維は、疎水性繊維であってよい。疎水性繊維は、第2繊維層に関連して後述する。他の繊維として、1種の疎水性繊維を用いてよく、2種以上の疎水性繊維を用いてよい。
第1繊維層を構成する繊維の繊維長は、第1繊維層の形態に応じて適宜選択される。例えば、第1繊維層をカードウェブとして作製する場合、構成繊維の繊維長は25mm以上、100mm以下とすることが好ましく、30mm以上、70mm以下とすることがより好ましく、36mm以上、65mm以下とすることがさらに好ましい。第1繊維層をエアレイウェブとして作製する場合、構成繊維の繊維長は1mm以上、50mm以下とすることが好ましく、5mm以上、30mm以下とすることがより好ましい。第1繊維層を湿式抄紙ウェブとして作製する場合、構成繊維の繊維長は0.5mm以上、20mm以下とすることが好ましく、1mm以上、10mm以下とすることがより好ましい。
第1繊維層は、一つの層のみからなるもの(単層構造)であってよく、あるいは二以上の層が積層された積層構造を有していてよい。例えば、第1繊維層は、コットンを50質量%以上含む層と、パルプを含む層(例えばティッシュ)とからなるものであってよい。パルプを含む層が第1繊維層に含まれる場合、パルプを含む層は内側に位置して、不織布の表面を形成していないことが好ましい。パルプは繊維長が短く脱落しやすいためである。
第1繊維層の目付は、最終的に得ようとする不織布の目付に応じて適宜選択される。第1繊維層の目付は、好ましくは20g/m2〜80g/m2であり、より好ましくは25g/m2〜60g/m2であり、さらに好ましくは30g/m2〜50g/m2であり、最も好ましくは35g/m2〜45g/m2である。また、第2繊維層の目付に対する第1繊維層の目付の比(第1繊維層の目付/第2繊維層の目付)は、好ましくは0.5〜16、より好ましくは0.8〜6.0、さらに好ましくは1.2〜4.0、最も好ましくは1.4〜3.0である。
第1繊維層の目付が小さすぎる、または第2繊維層の目付に対する第1繊維層の目付の比が小さすぎると、液体含浸皮膚被覆シート全体が保持する液体の量が少なくなり、液体移行性が不十分となることがあり、あるいは皮膚への液体の供給量そのものが少なくなることがある。第1繊維層の目付が大きい、または第2繊維層の目付に対する第1繊維層の目付の比が大きすぎると、不織布全体に占める第2繊維層の割合が小さくなって、シートの液体移行性が不十分となることがある。また、第1繊維層の目付が大きすぎる、または第2繊維層の目付に対する第1繊維層の目付の比が大きすぎると、液体を含浸させた状態の不織布全体が柔らかくなりすぎることがある。そのため、例えば液体を含浸させたシートが重ねられているときに1枚だけシートを剥がして取り出すことが困難になる、あるいは液体を含浸させたシートを第1繊維層を内側にして折り畳んだときにシートを広げにくくなるなど、使用感が低下することがある。
(第2繊維層)
第2繊維層は、特定の繊度を有する、2種類の疎水性繊維を含むものである。第2繊維層に含まれる疎水性繊維は、第1繊維層に含まれる親水性繊維と比較して疎水性の高いものであり、したがって第2繊維層は第1繊維層と比較して強い疎水性を示す。したがって、本発明のシートに液体を含浸させて、第1繊維層が皮膚と接触するようにシートで皮膚を覆ったときには、第2繊維層は、液体が親水性のより強い第1繊維層の側に移動するのを促進し、第1繊維層の側に移動した液体はさらに皮膚に移行することとなる。また、本発明の不織布において、第2繊維層は特定の繊度を有する疎水性繊維を含んでいるために嵩高性を有し、厚さ方向に力が加わったとき、および液体を含浸させたときでも、層内で繊維間の空隙を比較的保持することができる。繊維間の空隙は液体を保持する部分となるから、空隙の占める割合が多いほど、第2繊維層はより多くの液体を保持することが可能となる。したがって、本発明のシートに液体を含浸させたときには、嵩高な第2繊維層に保持された液体の重みによって、第1繊維層が皮膚の方に押しつけられ、このことによっても液体の皮膚への移行がさらに促進されるものと推察される。
第2繊維層に含まれる疎水性繊維は、例えば、熱可塑性樹脂からなる繊維、または親水性繊維の表面に疎水性を付与する処理(疎水化処理)を施したものである。熱可塑性樹脂は、特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートおよびその共重合体等のポリエステル系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等を含む)、ポリブテン−1、エチレン−プロピレン共重合体、およびエチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ナイロン6、ナイロン12およびナイロン66のようなポリアミド系樹脂等、アクリル系樹脂、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスチレンおよび環状ポリオレフィンなどのエンジニアリング・プラスチック、ならびにそれらのエラストマー系から任意に選択される。親水性繊維の表面が疎水化処理された繊維は、例えば、再生繊維の表面を疎水化剤で処理したものである。
第2繊維層に含まれる疎水性繊維は、1.2dtex以上の繊度を有し、好ましくは1.2dtex以上3.5dtex以下の繊度を有し、より好ましくは1.2dtex以上2.6dtex以下、さらにより好ましくは1.3dtex以上2.0dtex以下、特に好ましくは1.4dtex以上1.8dtex以下の繊度を有する。繊度が1.2dtex未満であると、繊維同士の交絡が密になって、第2繊維層の比容積が小さくなる傾向にある。また、繊度の小さな繊維を交絡させた繊維層は、厚さ方向に力が加えられた状態で保管されたとき、または液体を含浸させたときに、嵩(比容積)が減少しやすい傾向にある。したがって、第2繊維層に含まれる疎水性繊維の繊度が小さすぎる場合には、シートにおいて所望の液体移行性を実現できないことがある。疎水性繊維の繊度が大きすぎる場合には、シートが硬い触感を有しやすい。また、繊度が小さすぎる疎水性繊維を使用して、流体流交絡処理法により繊維同士を交絡させる場合には、流体流が繊維ウェブを通過しにくく、均一に繊維同士を交絡させられないことがある。その場合には、不織布において毛羽が生じやすくなることがある。
第2繊維層は、疎水性繊維として二種類以上の異なる繊維を含む。二種類以上の異なる疎水性繊維は、疎水性の度合いが異なる二種類以上の疎水性繊維の組み合わせであるか、あるいは繊維表面を構成する熱可塑性樹脂の融点が異なる二種類以上の合成繊維の組み合わせである。
疎水性の度合いは、例えば、親水性繊維に関連して説明した公定水分率によって評価することができ、あるいは水との接触角によって評価することができる。水との接触角は、評価の対象となる繊維のみからなる不織布に水滴(イオン交換水)を垂らし、水滴が試料に触れてから10秒以内に水滴を写真撮影し、撮影した写真から水滴と不織布との界面角度を測定することにより求められる。この角度が大きいほど繊維の疎水性はより強い。疎水性のより強い繊維と、疎水性のより弱い繊維を第2繊維層に存在させることで、良好な液移行性を実現しつつ、良好な風合いおよび柔らかな触感を不織布に付与できる。特に、疎水性の異なる二種類の繊維を組み合わせて用いる場合には、流体流(特に水流)交絡法でシートを製造する場合に、毛羽立ちの少ないシートを得ることができる。したがって、疎水性の度合いが異なる二種類以上の繊維を含む第2繊維層は、当該繊維層において繊維同士が流体流(特に水流)交絡法などにより交絡されたものであることが好ましい。
繊維表面を構成する熱可塑性樹脂の融点が異なる二種類以上の合成繊維を組み合わせることにより、融点の低い熱可塑性樹脂で繊維表面が構成された繊維を熱接着性繊維として使用して、第二繊維層を繊維同士が熱接着した構成とすることができる。それにより、第二繊維層を嵩高なものとすることができ、良好な液移行性を実現することができる。また、熱接着により、毛羽立ちの少ないシートを得ることができる。融点は、繊維にした後の樹脂の融点であり、JIS K7121(1987)に準じて測定したDSC曲線より求める。
疎水性に差を有する繊維の組み合わせは、例えば、ポリオレフィン系繊維/ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維/疎水化処理を施した再生繊維、ポリオレフィン系繊維/アクリル系繊維、ポリエステル系繊維/疎水化処理を施した再生繊維、ポリエステル系繊維/アクリル系繊維であり、より具体的には、ポリプロピレン繊維/ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリプロピレン繊維/疎水化処理を施した再生繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維/疎水化処理を施した再生繊維である。特に、ポリプロピレン繊維/ポリエチレンテレフタレート繊維の組み合わせは、良好な液移行性をシートに付与することができるとともに、シートの風合いを良好にすることから、好ましく用いられる。
繊維の疎水性は、繊維表面に存在する物質(例えば、熱可塑性樹脂または疎水化剤)によって決定される。したがって、二種類以上の疎水性繊維が繊維表面の疎水性において差を有し、シートを形成した後に上記の繊度をする限りにおいて、疎水性繊維は、単一繊維に限定されず、表面と内部とが異なる物質から成る複合繊維、例えば、芯鞘型複合繊維、および海島型複合繊維であってよい。あるいは、疎水性繊維は、複数の物質によって繊維表面が構成されている繊維、例えば、分割型複合繊維であってよい。その場合、繊維全体の疎水性を比較したときに、疎水性に差のある二種類以上の疎水性繊維を用いる限りにおいて、例えば、疎水性のより強い繊維の表面の一部が、疎水性のより弱い繊維の表面の一部を構成する成分よりも、疎水性の弱い成分で構成されていてよい。
繊維表面を構成する熱可塑性樹脂の融点が異なる合成繊維の組み合わせ(低融点繊維/高融点繊維の組み合わせ)は、例えば、ポリエチレン繊維/ポリプロピレン繊維、ポリエチレンを鞘成分とする芯鞘型複合繊維/ポリプロピレン繊維、ポリエチレンを鞘成分とする芯鞘型複合繊維/ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレン繊維/ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリプロピレン繊維/ポリエチレンテレフタレート繊維である。特に、ポリエチレンを鞘成分とする芯鞘型複合繊維/ポリプロピレン繊維の組み合わせは、繊維表面がいずれも疎水性の強い熱可塑性樹脂で構成されているために、シートに良好な液移行性を付与することができ、好ましい。繊維表面を構成する熱可塑性樹脂の融点が異なり、かつシートを形成した後に上記の繊度を有する限りにおいて、合成繊維は、例えば、芯鞘型複合繊維、または海島型複合繊維であってよい。また、低融点繊維は、その表面の一部を構成する熱可塑性樹脂の融点が、他の合成繊維の繊維表面を構成する熱可塑性樹脂の融点より低く、かつシートを形成した後に上記の繊度を有する限りにおいて、単一繊維に限定されず、サイドバイサイド型複合繊維、または分割型複合繊維であってよい。
二種類以上の疎水性繊維の混合割合は特に限定されず、使用する繊維の種類に応じて、その疎水性等を考慮して適宜決定される。例えば、疎水性の度合いが異なる繊維を二種類組み合わせる場合、疎水性の度合いが小さい繊維と、疎水性の度合いがより大きい繊維とは、例えば、質量比で、好ましくは10:90〜90:10、より好ましくは20:80〜80:20、さらに好ましくは25:75〜75:25最も好ましくは30:70〜70:30の割合(いずれも疎水性弱:疎水性強)で混合してよい。また、疎水性の度合いが異なる繊維を三種類以上用いる場合、最も疎水性の度合いが大きい疎水性繊維は、疎水性繊維を合わせた全質量の、好ましくは10質量%〜90質量%、より好ましくは20質量%〜80質量%、さらにより好ましくは25質量%〜75質量%、最も好ましくは30質量%〜70質量%を占める。疎水性の度合いがより大きい繊維の割合が小さいと、十分な液移行性を得られないことがあり、疎水性の度合いがより大きい繊維の割合が大きいと、水流交絡処理により繊維同士を交絡させる場合に、シートにおいて毛羽立ちが生じやすい。
繊維表面を構成する熱可塑性樹脂の融点が異なる合成繊維を二種類組み合わせる場合、低融点繊維と高融点繊維とは、例えば、質量比で、3:97〜70:30、より好ましくは5:95〜50:50、さらに好ましくは10:90〜40:60最も好ましくは15:85〜30:70の割合(いずれも低融点:高融点)で混合してよい。あるいは、繊維表面を構成する熱可塑性樹脂の融点が異なる合成繊維を三種類以上用いる場合、繊維表面を構成する熱可塑性樹脂の融点が最も低い繊維は、疎水性繊維を合わせた全質量の、好ましくは3質量%〜70質量%、より好ましくは5質量%〜50質量%、さらにより好ましくは10質量%〜40質量%、最も好ましくは15質量%〜30質量%を占める。低融点繊維の割合が大きいと、熱接着させたときにシートの触感が硬くなり、低融点繊維の割合が小さいと、厚さ方向に力が加えられたときに、第2繊維層の嵩が減少しやすく、十分な液移行性を得られないことがあり、あるいはシートにおいて毛羽立ちが生じやすい。
第2繊維層を構成する繊維の繊維長は、第2繊維層の形態に応じて適宜選択される。例えば、第2繊維層をカードウェブとして作製する場合、構成繊維の繊維長は25mm以上、100mm以下とすることが好ましく、30mm以上、70mm以下とすることがより好ましく、35mm以上、60mm以下とすることが最も好ましい。第1繊維層をエアレイウェブとして作製する場合、構成繊維の繊維長は1mm以上、50mm以下とすることが好ましく、5mm以上、30mm以下とすることがより好ましい。第1繊維層を湿式抄紙ウェブとして作製する場合、構成繊維の繊維長は0.5mm以上、20mm以下とすることが好ましく、1mm以上、10mm以下とすることがより好ましい。
第2繊維層の目付は、最終的に得ようとする不織布の目付に応じて適宜選択される。第2繊維層の目付は、好ましくは5g/m2〜40g/m2であり、より好ましくは10g/m2〜30g/m2であり、最も好ましくは15g/m2〜25g/m2である。第2繊維層の目付に対する第1繊維層の目付の比については、第1繊維層に関連して説明したとおりであるから、ここでは省略する。
第2繊維層は、一つの層のみからなるもの(単層構造)であってよく、あるいは二以上の層が積層された積層構造を有していてよい。例えば、第2繊維層は、疎水性の度合いが互いに異なる二種類以上の疎水性繊維を含む層aと、繊維表面を構成する熱可塑性樹脂の融点が異なる二種類以上の合成繊維を含む層bとからなり、層bにおいて繊維同士が熱接着されている、二層構造のものであってよい。あるいは、第2繊維層は、疎水性の度合いが異なる4種類の繊維(便宜的に、繊維A、B、C、Dと呼ぶ)を含み、繊維Aと繊維Bを含む繊維層と、繊維Cと繊維Dを含む繊維層が積層されたものであってよい。
(他の繊維層)
本発明の不織布は、第1繊維層と第2繊維層のみからなるものでもよいが、第1繊維層と第2繊維層との間に、他の繊維からなる繊維層(以下、「他の繊維層」とも呼ぶ)を含んでいてもよい。他の繊維層は、例えば、繊度が1.2dtex未満の繊度の小さい疎水性繊維からなる層である。他の繊維層の目付は、好ましくは5g/m2〜30g/m2であり、より好ましくは10g/m2〜25g/m2であり、最も好ましくは15g/m2〜20g/m2である。また、他の繊維層の目付に対する第1繊維層の目付の比は、好ましくは0.7〜16、より好ましくは1.0〜6.0、最も好ましくは1.2〜4.0である。
(不織布全体の構成および不織布の製造方法)
上記において説明した、第1繊維層および第2繊維層は、繊維同士の交絡、構成繊維の熱接着性を利用した熱接着、溶剤系接着剤による接着、またはホットメルト樹脂による接着などにより一体化されて不織布を構成する。本発明の不織布は、好ましくは繊維同士の交絡により一体化されたものである。繊維同士は、公知の方法により交絡されてよく、例えば、ニードルパンチ法、または高圧の流体(特に水)を繊維ウェブに噴射する流体流交絡処理法により交絡されていてよい。本発明の不織布は、繊維同士が水流交絡処理法により交絡されて一体化していることが好ましい。水流交絡処理法によれば、触感のよい、柔らかな不織布を得ることができるからである。
第2繊維層が、繊維表面を構成する熱可塑性樹脂の融点が異なる二種類以上の合成繊維を含む場合には、繊維表面を構成する熱可塑性樹脂の融点が最も低い合成繊維によって繊維同士が熱接着されていることが好ましい。繊維同士の熱接着により、得られる不織布において毛羽立ちを抑制することができ、不織布の外観を良好にし、かつ不織布の触感を滑らかにすることができる。
不織布全体の目付は、被覆する皮膚の部位等に応じて、液体の含浸量等を考慮して適宜選択される。不織布全体の目付は、例えば、25g/m2〜120g/m2としてよく、特に35g/m2〜90g/m2としてよく、より特には40g/m2〜75g/m2としてよく、さらに特には50g/m2〜70g/m2としてよい。目付が小さすぎると、不織布に含浸させ得る液体の量が少なくなって、所定量の液体を皮膚に供給できないことがあり、目付が大きすぎると、皮膚の曲面にシートを沿わせにくく、シートの皮膚への密着性が低下することがある。
不織布を、顔面を被覆するシート、すなわちフェイスマスクの基材として用いる場合には、不織布全体の目付は、好ましくは25g/m2〜120g/m2であり、より好ましくは35g/m2〜90g/m2であり、さらにより好ましくは40g/m2〜75g/m2であり、特に好ましくは50g/m2〜70g/m2である。フェイスマスクの基材として用いる場合に不織布の目付が25g/m2未満であると、不織布に含浸させ得る液体の量が少なくなり、十分な液体を顔面に供給できないことがある。不織布の目付が120g/m2を超えると、顔面の凹凸(例えば鼻の周り)に沿ってシートを密着させることが困難となることがある。
不織布全体の厚さは、好ましくは0.80mm以上、より好ましくは0.83mm以上、最も好ましくは0.85mm以上である。また、不織布全体の厚さは、好ましくは1.5mm以下、より好ましくは1.2mm以下であり、最も好ましくは1.0mm以下である。不織布全体の厚さが小さすぎると、不織布に含浸させ得る液体の量が少なくなって、所定量の液体を皮膚に供給できないことがある。不織布全体の厚さが大きすぎると、皮膚の曲面にシートを沿わせにくく、シートの皮膚への密着性が低下することがある。なお、ここで言う不織布全体の厚さは、不織布1cm2あたり3gの荷重を加えた状態で測定したものを指す。
不織布全体の密度は、好ましくは0.070g/cm3以下、より好ましくは0.067g/cm3以下である。また、不織布全体の密度は、好ましくは0.050g/cm3以上、より好ましくは0.060g/cm3以上である。不織布全体の密度が大きすぎる、あるいは小さすぎると、不織布に含浸させ得る液体の量が少なくなって、所定量の液体を皮膚に供給できないことがあり、あるいは、皮膚の曲面にシートを沿わせにくく、シートの皮膚への密着性が低下することがある。なお、ここで言う不織布全体の密度は、不織布全体の目付と不織布全体の厚さとから求められるものであり、不織布全体の厚さは、不織布1cm2あたり3gの荷重を加えた状態で測定したものを指す。
不織布は、第1繊維層となる繊維ウェブ(以下、「第1繊維ウェブ」とも呼ぶ)と、第2繊維層となる繊維ウェブ(以下、「第2繊維ウェブ」とも呼ぶ)とを積層し、必要に応じて第1繊維ウェブと第2繊維ウェブとの間に、他の繊維層となる繊維ウェブ(以下、「他の繊維ウェブ」とも呼ぶ)を配置して、繊維ウェブを一体化させる処理に付すことにより製造できる。繊維ウェブを一体化させる処理としては、繊維同士の交絡処理、熱接着処理、溶剤系接着剤による接着処理、およびホットメルト樹脂による接着処理等がある。本発明の不織布は、繊維同士を交絡させる処理により、繊維ウェブを一体化させて製造することが好ましい。繊維を交絡させる処理は、例えば、ニードルパンチ処理、または流体流(特に水流)交絡処理である。
いずれの繊維ウェブも、その形態は、パラレルウェブ、クロスウェブ、セミランダムウェブおよびランダムウェブ等のカードウェブ、エアレイウェブ、湿式抄紙ウェブ、ならびにスパンボンドウェブ等から選択されるいずれであってもよい。各繊維ウェブの形態は同じであってもよく、異なっていてもよい。各繊維ウェブは好ましくは、パラレルウェブである。パラレルウェブは生産性が高く、嵩高で比容積が大きい不織布を与えやすい。また、パラレルウェブを用いると柔らかい不織布が得られやすいことから、これを用いて製造される液体含浸皮膚被覆シートも柔らかく、風合いの優れたものとなりやすい。
水流交絡処理により繊維同士を交絡させる場合、水流交絡処理は、支持体に繊維ウェブの積層体を載せて、柱状水流を噴射することにより実施する。例えば、支持体は、80メッシュ以上、100メッシュ以下の平織の支持体であることが好ましい。水流交絡処理は、孔径0.05mm以上、0.5mm以下のオリフィスが0.3mm以上、1.5mm以下の間隔で設けられたノズルから、水圧1MPa以上、15MPa以下の水流を、繊維ウェブの積層体の表裏面にそれぞれ1〜5回ずつ噴射することにより実施してよい。水圧は、好ましくは、1MPa以上、10MPa以下であり、より好ましくは、1MPa以上、7MPa以下である。
交絡処理後の繊維ウェブは、水分を除去する乾燥処理に付して、そのままシートの基材として用いてよい。第2繊維層が、繊維表面を構成する熱可塑性樹脂の融点が異なる二種類以上の合成繊維を含む場合には、繊維表面を構成する熱可塑性樹脂の融点が最も低い合成繊維によって繊維同士を熱接着させる熱接着処理に付することが好ましい。熱接着処理は、合成繊維の表面を構成する熱可塑性樹脂のうち、最も融点の低いもの(以下、「低融点成分」とも呼ぶ)が溶融または軟化する温度で実施することが好ましい。交絡処理が水流交絡処理である場合には、熱接着処理が、繊維ウェブから水分を除去する乾燥処理を兼ねてよい。あるいは、熱接着処理と乾燥処理は別々に実施してよい。
熱接着処理において、低融点成分以外の繊維成分が溶融すると、接着点が増える又は大きな接着点が形成されて、不織布の柔軟性が損なわれるので、低融点成分のみが溶融するように、温度を選択する。例えば、第2繊維層が、繊維表面がポリエチレンで構成された合成繊維を含み、他の合成繊維の繊維表面がポリエチレンよりも融点の高い熱可塑性樹脂で構成されている場合、熱接着処理は、130℃以上150℃以下の温度で実施することが好ましい。熱処理温度を調節することによって、低融点成分による熱接着の度合いを変化させることもできる。熱接着の度合いは、不織布の強度、柔軟性、および肌触り等に影響を与える。
熱接着処理は、公知の方法で実施してよく、具体的には、熱風貫通式熱処理機(エアスルー式熱加工機とも呼ぶ)、熱風吹き付け式熱処理機、赤外線式熱処理機、または熱ロール(熱エンボスロールも含む)加工機を用いて実施される。これらのうち、熱風貫通式熱処理機、熱風吹き付け式熱処理機、および赤外線式熱処理機を用いた熱処理は、不織布の嵩を減少させにくいので好ましい。
(液体含浸皮膚被覆シート)
本発明の不織布はこれに液体を含浸させることにより、液体含浸皮膚被覆シートを構成する。含浸させる液体および含浸量は、用途に応じて適宜選択される。シートを、対人用フェイスマスク、角質ケアシートおよびデコルテシートといった対人用液体含浸皮膚被覆シートとして提供する場合には、有効成分を含む液体(例えば化粧料)を不織布100質量部に対して、600質量部以上2500質量部以下の含浸量で含浸させてよく、特に600質量部以上1500質量部以下の含浸量で含浸させてよく、より特には700質量部以上1500質量部以下の含浸量で含浸させてよい。有効成分は、例えば、保湿成分、角質柔軟成分、クレンジング成分、制汗成分、香り成分、美白成分、血行促進成分、紫外線防止成分、および痩身成分等であるが、これらに限定されるものではない。
フェイスマスクは、顔を被覆するのに適した形状を有し、さらに、例えば、目、鼻および口に相当する部分に、必要に応じて打ち抜き加工による開口部又は切り込み部が設けられた形態で提供される。あるいは、フェイスマスクは、顔の一部分(例えば、目元、口元、鼻または頬)のみを覆うような形状のものであってよい。あるいはまた、フェイスマスクは、目の周囲を覆うシートと、口の周囲を覆うシートとから成るセットとして提供してよく、あるいは3以上の部分を別々に覆うシートのセットとして提供してよい。
角質ケアシートは角質が厚く、硬化しやすい踵、肘、膝などに使用される皮膚被覆シートであり、角質柔軟成分および保湿成分等を含む液体を含浸させることにより、角質に対し保湿や軟化を促すシートや、余分な角質の除去を促進する効果を発揮するシートである。本発明の不織布は、いずれの効果・効能を発揮する角質ケアシートにおいても、基材として使用することができる。角質ケアシート、例えば踵用の角質ケアシートは、貼り付ける際に、シートが踵の曲線に合わせやすくなるように、切り込みおよび/もしくは切り欠き、ならびに/またはシートの一部が打ち抜かれて開口部を有する形態で提供される。
液体含浸皮膚被覆シートは、身体の任意の部位(例えば、首、手の甲、首から胸元までの部位(デコルテとも呼ばれている))を保湿またはその他のケアをするために用いられる、保湿成分またはその他の有効を含む液体を含浸させた保湿シートであってよい。あるいは、液体含浸皮膚被覆シートは、痩身成分を含む液体を含浸させた、痩身用シートであってよい。痩身用シートは、例えば、大腿部または腹部に貼り付けて用いられる。
いずれの形態のシートも第1繊維層を皮膚と接触させて使用する。したがって、第2繊維層は皮膚と接触せず、外部環境に曝されることとなる。第2繊維層が疎水性であるために、液体は、第2繊維層から外部環境に蒸散するよりはむしろ、親水性の第1繊維層へ移動しやすく、第1繊維層に移動した液体はさらに皮膚へ移行することなる
親水性繊維1(表では「コットン」と表示):繊度1.0〜5.0dtex、繊維長10〜60mmのコットン
疎水性繊維1(表では「PP単一」と表示):繊度1.5dtex、繊維長51mmのポリプロピレンからなる単一繊維(融点163℃、商品名PN804、ダイワボウポリテック(株)製)
疎水性繊維2(表では「PET単一」と表示):繊度1.45dtex、繊維長38mmのポリエチレンテレフタレートからなる単一繊維(融点260℃、商品名T402、東レ(株)製)
疎水性繊維3(表では「PP/PE細」と表示):繊度1.7dtex、繊維長51mmであり、ポリプロピレン(融点167℃)が芯成分、ポリエチレン(融点138℃)が鞘成分である、芯鞘型複合繊維(商品名HR-NTW、東レ(株)製)
疎水性繊維4(表では「分割」と表示):繊度2.2dtex、繊維長51mmであり、繊維断面においてポリエチレンとポリエチレンテレフタレートが交互に菊花状に配置された、セクション数8の分割型複合繊維(商品名DFS(SH)、ダイワボウポリテック(株)製)
疎水性繊維5(表では「特殊テンセル」と表示):繊度1.7dtex、繊維長38mmであり、繊維表面に疎水化処理が施されたテンセル(商品名テンセルバイオソフト、レンツィング社製)
疎水性繊維6(表では「PP/PE太」と表示):繊度2.2dtex、繊維長51mmであり、ポリプロピレン(融点167℃)が芯成分、ポリエチレン(融点138℃)が鞘成分である、芯鞘型複合繊維(商品名NBF(H)、ダイワボウポリテック(株)製)
(試験1)
(実施例1〜2、比較例1〜4)
親水性繊維1(コットン)のみで、表1に示す狙い目付の第1繊維ウェブを作製するとともに、表1に示す種類の疎水性繊維を、表1に示す割合で混合して、表1に示す狙い目付の第2繊維ウェブを作製した。第1繊維ウェブおよび第2繊維ウェブはいずれも、パラレルカード機を用いて作製した。なお、実際に製造されるウェブの目付は、必ずしも狙い目付けどおりとはならず誤差を有する(以下の試験においても同じ)。
第1繊維ウェブと第2繊維ウェブとを積層した二層構造の積層ウェブ、もしくは第1繊維ウェブ/第2繊維ウェブ/第1繊維ウェブの三層構造のウェブ、または第1繊維ウェブのみを支持体に載せ、ウェブに水流交絡処理を施して繊維同士を交絡させた。水流交絡処理は、孔径0.1mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルを用いてウェブの一方の面に3.0MPaの柱状水流を2回噴射し、他方の面に4.0MPaの柱状水流を2回噴射して実施した。その後、乾燥処理を施して、不織布を得た。
得られた不織布の目付、厚さおよび密度を表1に示す。厚さは、厚み測定機(商品名 THICKNESS GAUGE モデル CR−60A (株)大栄科学精器製作所製)を用い、試料1cm2あたり3gの荷重および20gの荷重をそれぞれ加えた状態で測定した。密度は、目付と1cm2あたり3gの荷重を加えて測定した厚さから計算して求めた。
(液移行性の評価)
得られた不織布を縦方向(機械方向)150mm、横方向(幅方向)70mmの寸法となるように切断した試料を作製し、試料100質量部に対して、700質量部の水を含浸させた。水を含浸させた試料を、予め質量を測定しておいたキムタオル(商品名)の上に載せた。試料は、第1繊維層(第1繊維層が両面に位置する試料については、目付のより大きい第1繊維層)がキムタオルと接するように、キムタオルの上に載せた。30分間、キムタオルに試料を載せた状態で放置し、放置後のキムタオルの質量を測定した。30分後のキムタオルの質量の増加分を、試料からキムタオルに移行した水の量とし、含浸させた液体の質量に対する、移行した水の量の割合を百分率で求め、この値により液移行性を評価した。
試験1においては、温度23.3℃、湿度72%の条件で液移行性を評価した。
液移行性の評価結果を表1に示す。
Figure 0006560488
実施例1および2はいずれも良好な液移行性を示し、触感および外観も良好であった。親水性繊維のみからなる不織布(比較例1)、および第1繊維層/第2繊維層/第1繊維層の三層構造を有し、外部環境に親水性の第1繊維層が位置する不織布(比較例2、3)はいずれも、液移行性の低いものであった。比較例2および3については、第2繊維層に保持された液体が下側の第1繊維層だけでなく、上側(外部環境)に位置する第1繊維層に移動し、その分だけ液移行性が低下したと推察される。比較例4については、液移行性は良好であったが、毛羽立ちが多くて外観が悪かった。これは、第2繊維層が、疎水性の比較的強いポリプロピレン繊維のみで構成されたために、水流による繊維同士の交絡の度合いが小さくなったためと考えられる。
(試験2)
(実施例3、比較例5〜7)
親水性繊維1(コットン)のみで、表2に示す狙い目付の第1繊維ウェブを作製するとともに、表2に示す種類の疎水性繊維を、表2に示す割合で混合して、表2に示す狙い目付の第2繊維ウェブを作製した。第1繊維ウェブおよび第2繊維ウェブはいずれも、パラレルカード機を用いて作製した。
第1繊維ウェブと第2繊維ウェブとを積層した二層構造の積層ウェブ、または第1繊維ウェブのみを支持体に載せ、ウェブに水流交絡処理を施して、繊維同士を交絡させた。水流交絡処理は、孔径0.1mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルを用いてウェブの一方の面に3.0MPaの柱状水流を2回噴射し、他方の面に4.0MPaの柱状水流を2回噴射して実施した。その後、乾燥処理を施して、不織布を得た。
実施例3、比較例5〜7で得た不織布の目付および厚さを測定した。測定方法は先に説明したとおりである。測定結果を表2に示す。
また、実施例3、比較例5〜7で得た不織布の液移行性を、試験1に関連して説明した方法と同じ方法で評価した。但し、評価は、温度17℃、湿度60%の条件で行った。液移行性の評価結果を表2に示す。なお、試験2の液移行性の評価は、試験1のそれとは異なる環境下で実施されたため、評価結果として示される値は、試験1のそれとは異なることに留意されたい。
Figure 0006560488
実施例3は良好な液移行性を示し、触感および外観も良好であった。比較例6は液移行性の点で劣るものであった。これは、第2繊維層が分割型複合繊維が分割してなる極細繊維を含むものであって、第2繊維層の比容積が小さく、第2繊維層が保持する水の量が少なくて、第1繊維層を押す力が小さかったためと推察される。また、比較例6の不織布は、20gの荷重を加えたときの厚みが小さく、長時間、厚さ方向に力が加えられると嵩が減少しやすいものであった。これも第2繊維層に極細繊維が含まれていて、繊維同士が緊密に交絡していることに起因すると推察される。親水性繊維層のみからなる比較例5は、試験2においても、液移行性が低かった。
比較例7は、第2繊維層がポリエチレンテレフタレートのみからなるものであり、その液移行性は実施例3と同程度であった。但し、20gの荷重を加えたときの厚みが小さく、厚さ方向に力を加えたときに嵩が減少しやすく、厚さ方向に力を加えた状態で長時間保管した後での液移行性は低下する傾向にあった。これは、ポリエチレンテレフタレートの親水性がやや高く、水流交絡処理によって繊維同士がより密に交絡したことに起因すると推察される。
(試験3)
(実施例4および5、比較例8および9)
親水性繊維1(コットン)のみで、表3に示す狙い目付の第1繊維ウェブを作製するとともに、表3に示す種類の疎水性繊維を、表3に示す割合で混合して、表3に示す狙い目付の第2繊維ウェブを作製した。第1繊維ウェブおよび第2繊維ウェブはいずれも、パラレルカード機を用いて作製した。
第1繊維ウェブと第2繊維ウェブとを積層した二層構造の積層ウェブ、または第1繊維ウェブのみを支持体に載せ、ウェブに水流交絡処理を施して、繊維同士を交絡させた。水流交絡処理は、孔径0.1mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルを用いてウェブの一方の面に3.0MPaの柱状水流を2回噴射し、他方の面に4.0MPaの柱状水流を2回噴射して実施した。実施例4および比較例8においては、その後、乾燥処理を施して、不織布を得た。実施例5および比較例9においては、140℃に設定した熱風貫通式熱処理機で熱処理を施し、疎水性繊維3および疎水性繊維6のポリエチレンにより繊維を熱接着させて、不織布を得た。
実施例4および5、比較例8および9で得た不織布の目付および厚さを測定した。測定方法は先に説明したとおりである。測定結果を表3に示す。
また、実施例4および5、比較例8および9で得た不織布の液移行性を、試験1に関連して説明した方法と同じ方法で評価した。但し、評価は、温度24℃、湿度52%の条件で行った。液移行性の評価結果を表3に示す。なお、試験3の液移行性の評価は、試験1および2のそれとは異なる環境下で実施されたため、評価結果として示される値は、試験1および2のそれとは異なることに留意されたい。
Figure 0006560488
実施例4および5はいずれも良好な液移行性を示し、触感および外観も良好であった。親水性繊維層のみからなる比較例8は、試験3においても、液移行性が低かった。比較例9は皮膚と接触しない側の面を構成する繊維がすべて熱接着処理されているため、風合いが硬いものであった。
本発明の不織布は液体を含浸させて、第1繊維層を皮膚に接触させて使用したときに、液体を皮膚に移行させやすいので、液体が皮膚にとどまりやすく、それにより液体による皮膚への作用を良好に発揮させうるため、フェイスマスク等の基材として有用である。

Claims (8)

  1. 親水性繊維を50質量%以上含む第1繊維層と、第1繊維層に含まれる親水性繊維よりも疎水性である疎水性繊維を50質量%以上含む第2繊維層とを含み、第1繊維層が一方の表面を形成し、第2繊維層がもう一方の表面を形成する不織布であって、
    前記疎水性繊維が1.2dtex以上の繊度を有し、
    前記疎水性繊維として、疎水性に差を有する二種類以上の繊維を含み、
    前記不織布の密度が0.070g/cm 3 以下であり、
    前記第2繊維層の目付に対する前記第1繊維層の目付の比が1.2〜4.0である、
    第1繊維層を皮膚に接触させて使用する、液体含浸皮膚被覆シート用不織布。
  2. 前記第2繊維層が、前記疎水性繊維として、ポリオレフィン系繊維およびポリエステル系繊維を含む、請求項1に記載の液体含浸皮膚被覆シート用不織布。
  3. 前記ポリオレフィン系繊維がポリプロピレンから成る単一繊維であり、前記ポリエステル系繊維がポリエチレンテレフタレートから成る単一繊維である、請求項2に記載の液体含浸皮膚被覆シート用不織布。
  4. 前記疎水性繊維が3.5dtex以下の繊度を有する、請求項1〜のいずれか1項に記載の液体含浸皮膚被覆シート用不織布。
  5. 請求項1〜のいずれか1項に記載の不織布に液体を600質量部以上2500質量部以下含浸させた、液体含浸皮膚被覆シート。
  6. 請求項1〜のいずれか1項に記載の不織布に液体を600質量部以上2500質量部以下含浸させた、フェイスマスク。
  7. 第1繊維層と第2繊維層とを含み、第1繊維層を皮膚に接触させて使用する、液体含浸皮膚被覆シート用不織布の製造方法であって、
    親水性繊維を50質量%以上含む第1繊維ウェブと、前記第1繊維ウェブに含まれる前記親水性繊維よりも疎水性である疎水性繊維を50質量%以上含む第2繊維ウェブとを、積層して積層ウェブを得ること、および
    積層ウェブを一体化させる水流交絡処理に付すること
    を含み、前記製造方法において、
    前記第2繊維ウェブがカードウェブであり、
    前記疎水性繊維が1.2dtex以上の繊度を有し、
    前記第2繊維ウェブが、前記疎水性繊維として、疎水性に差を有する二種類以上の繊維を含み、
    前記積層ウェブは、一方の表面が前記第1繊維ウェブで形成され、もう一方の表面が前記第2繊維ウェブで形成されているものである、
    前記第1繊維ウェブが前記第1繊維層となり、前記第2繊維ウェブが前記第2繊維層となった、液体含浸皮膚被覆シート用不織布の製造方法。
  8. 前記積層ウェブを、前記第1繊維ウェブと前記第2繊維ウェブとの間に、他の繊維層となる他の繊維ウェブを配置して得る、請求項7に記載の液体含浸皮膚被覆シート用不織布の製造方法。
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