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JP6557828B2 - 潜像印刷物 - Google Patents

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JP6557828B2 JP2016010306A JP2016010306A JP6557828B2 JP 6557828 B2 JP6557828 B2 JP 6557828B2 JP 2016010306 A JP2016010306 A JP 2016010306A JP 2016010306 A JP2016010306 A JP 2016010306A JP 6557828 B2 JP6557828 B2 JP 6557828B2
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Description

本発明は、偽造防止効果を必要とする銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、通行券等のセキュリティ印刷物の分野において、光が入射することで、画像のチェンジ効果、あるいは動画的な視覚効果を生じる、高い真偽判別性と偽造抵抗力を備えた潜像印刷物に関するものである。
複数の画像が切り替わる画像のチェンジ効果や、画像が動いて見える動画効果は、人目を惹きやすく、偽造することが困難であることから、近年、セキュリティ印刷物の真偽判別要素として用いられる傾向にある。これらの効果を備えた代表的な技術は、ホログラムであり、チェンジ効果や動画効果を有する様々な形態で、銀行券やパスポート等の高度なセキュリティが要求されるセキュリティ印刷物にも貼付されて広く用いられている。
一方、ホログラム以外にも、パララックスバリアやレンチキュラー等の公知技術を用い、わずかな角度変化で複数の画像が切り替わる画像のチェンジ効果や、画像が動いて見える動画効果を備えた真偽判別要素も、既に存在している。
しかし、ホログラムは、銀行券を代表とする各種セキュリティ印刷物に用いられているものの、一般的な印刷物と比較すると、製造工程の複雑さと高い製造コストに大きな問題がある。パララックスバリアやレンチキュラーを用いた真偽判別要素は、クリア層かレンズが必要となることから、基材がほぼプラスティックに限定される上、印刷物には一定の厚み(少なくとも150μm程度)が必要となり、厚さに制限のある印刷物には用いることができず、一定の厚みが許されるプラスティック製カード以外には採用されない傾向にある。
以上の問題を解決するため、本出願人は、高光沢で盛り上がりを有した蒲鉾状画線群の上に潜像画線群を重ね合わせて形成する技術であって、潜像画線群の中の複数の潜像が観察角度に応じてチェンジする効果を実現した偽造防止技術を既に出願している(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。この技術は、蒲鉾状画線に特定の角度で光が入射した場合に、蒲鉾状画線群の画線表面のうち、入射光と直交する角度を成す画線表面のみが強く光を反射する現象を利用することで、光を反射した画線表面に重ねられた潜像画線群の一部の潜像のみが反射光量や色彩の違いによって可視化される。この技術は、パララックスバリアやレンチキュラーの10分の1程度の厚さで形成することが可能であって、製造技術も従来からある製版技術と印刷技術を活用することで容易に実施可能であり、かつ、一般的な印刷物と同じコストでホログラムと同様なチェンジ効果を備えた印刷画像を形成することができるという優れた特徴を有する。
また、特許文献1や特許文献2の技術を応用した技術として、微細な模様の集合がモアレとしてサンプリングすることで拡大されて視認される現象(モアレ拡大現象)やインテグラルフォトグラフィ方式の画線構成を用いて、特殊な立体的な視覚効果と動画的な視覚効果を実現した形態の技術が存在する(例えば、特許文献3、特許文献4及び特許文献5参照)。これらの技術は、正反射光下で出現した潜像が、入射光の角度や観察者の観察位置に応じて立体感を伴いながら左右に動いて見えるという効果を有する。
加えて、特許文献1から特許文献5までの技術の効果をエンボス加工と反射層の組合せによって実現した技術が存在する(例えば、特許文献6参照)。この技術は、エンボス加工を用いて盛り上がりのある画線群を形成することで、特許文献1から特許文献5までの全ての技術にあった蒲鉾状画線と蒲鉾状画線の間の非画線部をなくし、従来の技術で必要であった蒲鉾状画線群と潜像画線群の位置の刷り合わせ制御の必要性をなくした技術である。
特許第4682283号公報 特許第4660775号公報 特許第4844894号公報 特許第5131789号公報 特許第5200284号公報 特開2013−240918号公報
特許文献1から特許文献5までに記載の技術は、盛り上がりを有する蒲鉾状画線の表面の一部が光を強く反射し、光を反射した画線表面に重ねられた潜像画線のみが色彩の違いによって可視化される原理で潜像が出現し、印刷物の傾きを変えることで蒲鉾状画線の光を反射する画線表面が変化し、それによって潜像がチェンジする技術である。これらの技術において、正反射時に出現する潜像の視認性は、拡散反射光下と正反射光下における蒲鉾状画線の色彩の違い(色差)の大きさによってほぼ決定される。このため、視認性の高い潜像を出現させるためには、蒲鉾状画線が光を強く反射したり、反射光の色彩が変化したりする等の特殊な光学特性を付与する必要があった。
特定の画線にこのような特殊な光学特性を付与するには、画線を形成するインキに特殊な光学特性を有する機能性材料を混合する方法を用いるのが一般的である。これらの機能性材料の代表物としては、パール顔料、メタリック顔料、ガラスフレーク、エフェクト顔料等が存在する。また、市販されている色彩変化に富んだ特性を有するインキ、例えばOVI(Optical Variable Ink)、CSI(Color Shifting Ink)、コレステリック液晶インキ等を使用することでも同じ効果を得ることができる。このように光学特性に優れた顔料が配合されたインキや光学特性に優れたインキを用いて印刷した画線は、顔料やインキ由来の優れた光学特性が発揮される。しかしながら、通常の厚みのない、平坦な印刷画線と異なり、盛り上がりを有する蒲鉾状画線に、このような特殊なインキを用いて優れた光学特性を付与することには、以下のような問題があった。
これらのインキに含まれる機能性材料のうち、パール顔料に代表される機能性材料の多くは、薄くて平らな鱗ペン形状をしている。このような形状をした顔料は、全ての顔料が同じ向きに揃って並んだ(リーフィングした)場合に光の反射する光量が最も大きくなり、効果が高まる一方で、それぞれの顔料が個別に異なる角度を成してランダムに並んだ場合には、反射光量は極端に小さくなり、効果が著しく低くなる。
通常の印刷物のように、印刷画線に厚みがなく平坦な画線である場合、画線のインキ膜内で顔料が角度を変える自由度がほとんどないため、インキ中の鱗ペン状の機能性材料は乾燥過程で自然に平坦となって、全ての顔料の向きが揃うことから、特段の工夫を施さなくても一定以上の効果を常に得ることができる。しかしながら、盛り上がりのある蒲鉾状画線中では、図14(a)に示すように、インキ樹脂(a)中に顔料(c)がランダムに別々の方向に傾いて固定されるため、蒲鉾状画線から生じる反射光量が小さくなり、出現する画像の視認性が低くなるという問題があった。
また、図14(a)に示すように、盛り上がりのある蒲鉾状画線中では、前述のように反射光量が小さくなって画像の視認性が低下することに加え、本来可視化されるべき画像とは別の画像が同時に出現するという問題があった。図14(b)を用いて具体的に説明する。蒲鉾状画線の特定の潜像画線(b1)が可視化されるべき角度で光が入射した場合、画線表面由来の反射光(d)によって、本来サンプリングされるべき特定の潜像画線(b1)が可視化される。しかしながら、蒲鉾状画線を構成するインキ樹脂(a)自体は透明であるため、入射光が画線内部(a)に侵入し、ランダムな角度で固定された顔料(c)によって画線内面由来の反射光(e)が生じ、本来サンプリングされてはならない別の潜像画線(b2)も同時に可視化される場合があった。これによって、出現する画像が不明瞭な画像となる問題があった。
以上のように、鱗ペン状の機能性材料を配合したインキによって盛り上がりのある蒲鉾状画線を形成した場合、反射光量が低下するとともに、蒲鉾状画線内面から生じる不適切な反射光の介在によって、出現する画像の視認性が低下したり、出現した画像が不明瞭な画像となったりする問題があった。
この問題を回避する一つの方法として、特許文献2に記載の技術のように、表面に特殊な撥水・撥油処理を施した鱗ペン状顔料を用いる方法がある。この場合、図15(a)に示すように、印刷直後に蒲鉾状画線の画線表面の盛り上がりに沿って顔料(c)がリーフィングすることから、図14(a)のような顔料がランダムに別々の方向に傾いた状態と比較して、より大きな反射光量を得ることができる。また、図15(b)に示すように光が入射した場合、顔料(c)は蒲鉾状画線表面にのみ存在することから、蒲鉾状画線内部由来の不適切な反射光が生じることなく、蒲鉾状画線内部由来の反射光(d)のみが生じ、適切な潜像画線(b1)のみサンプリングされて可視化され、本来、別の入射光の角度でサンプリングされるべき潜像画線(b2)が可視化されることがない。
以上のように、図15(a)に示すような蒲鉾状画線の画線表面の盛り上がりに沿って顔料(c)がリーフィングした構造を作り出すことによって図14(a)のような蒲鉾状画線で生じる問題を解決する方法が存在する。しかし、この顔料の特別な表面処理には大きな手間とコストがかかるという問題があった。また、撥水・撥油処理が施された鱗ペン状顔料は、インキ樹脂との密着性が弱いことに加え、画線表面に顔料が露出した状態や顔料が十分にインキ樹脂に被覆されていない状態となるため、画線表面が擦られることで顔料が脱落しやすいという堅牢性の問題があった。
また、図14(a)のような顔料の向きがランダムな蒲鉾状画線群であっても、図15(a)のような顔料がリーフィングした蒲鉾状画線群であっても、それぞれの蒲鉾状画線群に共通して要求される事項として、高い視認性と鮮明さを実現するためには、それぞれの蒲鉾状画線の画線形状は全て一定の盛り上がり高さを有した完全に均質な三次元構造を有する必要があって、かつ、蒲鉾状画線の表面は微細な凹凸のない滑らかな表面構造を有することが求められる。このような蒲鉾状画線の構造を実現するためにはインキの粘度は高いことが好ましい。一方で、蒲鉾状画線群に対して前述のような特殊な光学特性を付与するためには、顔料の配向を阻害させないため、インキの粘度は低いことが好ましい。
以上のように、蒲鉾状画線群に対して前述のような特殊な光学特性を満たすためのインキの条件と、画線形状としても均質で滑らかな三次元構造を実現するためのインキの条件は相反するため、印刷によって一瞬で形成される単一の画線に対して、これら相互に異なる要求を高いレベルで同時に実現することは困難であった。
特許文献6の技術は、エンボス加工で擬似的に蒲鉾状画線群を構成する技術であるが、印刷で蒲鉾状画線群を形成する他の技術と比較すると、蒲鉾状画線の三次元形状の均質さがやや劣るとともに、摩擦や折れ、湿気による基材の膨潤等の外的要因によって三次元構造が消失し易く、長期にわたって蒲鉾状画線の形状を維持するという品質の安定性において問題があった。また、特に基材を上質紙として、反射層を直接基材に印刷して形成した場合には、基材の繊維の偏りによる微細な凹凸構造によって反射光量が低下する傾向にあり、特許文献1から特許文献5に記載されている技術ほどの反射光量を得ることができず、正反射光下で出現する潜像の視認性や鮮明さが劣るという問題があった。
本発明は、上記課題の解決を目的とするものであり、盛り上がりを有する蒲鉾状画線から生じる反射光の反射光量を高めるとともに、その反射光も蒲鉾状画線表面由来の反射光のみとすることで、出現する潜像の視認性が高く、明瞭であることを特徴とする潜像印刷物を提供する。
本発明は、基材上の少なくとも一部に印刷画像を備え、印刷画像は、蒲鉾形状を有する樹脂系の蒲鉾状画線が万線状に配置された蒲鉾状画線群と、蒲鉾状画線群の上に、蒲鉾状画線群とは正反射光下における反射率が異なり、基画像を分割及び/又は圧縮した潜像画線が万線状に配置された潜像画線群と、潜像画線群の上に、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性の少なくともいずれか一方の光学特性を備えた不透明な反射層が積層されて成り、基材を正反射光下の特定の角度において観察すると基画像が潜像画像として出現し、その観察角度から連続的に角度を変化させると、潜像画像が変化及び/又は動的に視認可能なことを特徴とする潜像印刷物。
また、本発明の潜像印刷物は、蒲鉾状画線群と潜像画線群の正反射光下の明度が10以上異なることを特徴とする。
また、本発明の潜像印刷物は、反射層が面積率の差異によって有意情報を表して成ることを特徴とする。
さらに、本発明の潜像印刷物は、反射層の階調表現域における最大面積率と最小面積率の差異が50%以内であることを特徴とする。
本発明の潜像印刷物は、従来の技術のように、蒲鉾状要素群自体が明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性のような特別な光学特性を備える必要がなく、この光学特性は蒲鉾状要素の上に別に印刷される反射層が担う。反射層は、優れた光学特性を実現することに目的を絞って作製すればよいことから、必要とされる特殊な光学特性を実現しやすい。
また、反射層は、基材上に形成されるわけではなく、インキ樹脂で形成された蒲鉾状要素の上に重なる。インキ樹脂上に印刷された反射層の反射光量は、反射層自体の反射光量に加えて、下地となるインキ樹脂の反射光量に準じる光量が加算され全体に大きく嵩上げされることから、通常の上質紙やコート紙上に同じインキで印刷された反射層の反射光量よりも、インキ樹脂上に印刷された反射層の反射光量の方がより大きくなる。このため従来技術の蒲鉾状要素群と比較して反射光量を高くすることができ、正反射光下で出現する潜像の視認性が向上した。
本発明の潜像印刷物は、従来の技術のように、蒲鉾状要素群自体が明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性のような特別な光学特性を備える必要がない。このため蒲鉾状要素群は一定の盛り上がりを有してそれぞれが均質であって、画線表面が滑らかで凹凸の少ない盛り上がりのある画線を形成することに特化して設計されたインキを用いることができ、従来よりも高品質な蒲鉾状要素群を形成することができ、結果として潜像の鮮明さが向上した。
また、仮に蒲鉾状要素群が印刷された段階で蒲鉾状要素群の画線表面に滑らかさが欠け、画線表面に微小な凹凸が存在していたとしても、後刷りで形成される反射層のインキ皮膜によって表面の凹凸が被覆されるため、蒲鉾状要素群の画線表面をより平滑化する作用が生まれる。この作用により、正反射光下で出現する潜像の鮮明さが向上した。
本発明の潜像印刷物において、印刷画像から生じる反射光は画線表面由来の反射光が支配的となる。このため、従来の技術のように本来サンプリングされるべきでない潜像画線が可視化して出現することがなく、従来の技術と比較して出現する潜像の鮮明さが向上した。
本発明の潜像印刷物は、蒲鉾状要素群に潜像要素群が重なり、更にその上に不透明な反射層が重なる形態を有する。以上の積層構造を有することから、拡散反射光下における潜像要素群の隠蔽性が高く、観察者が注意を払って観察したとしても潜像要素群の存在を目視することは不可能である。このため、拡散反射光下では全くその存在がないにもかかわらず、正反射光下で観察した場合に潜像要素群がサンプリングされることによって基画像が高い視認性を有して出現する、優れたチェンジ効果が生じる。この場合の観察者に与えるインパクトは極めて大きい。
本発明の潜像印刷物の蒲鉾状要素群は、従来の技術によってエンボスで形成した蒲鉾状要素群のように外的要因で消失することがなく、品質的により安定している。また、反射層の形成に特殊な撥水・撥油処理された顔料を用いる必要がないことから、従来技術の蒲鉾状要素のように、画線表面が擦られることで顔料が脱落することがなく、従来の技術と比較して堅牢性が向上した。
本発明の潜像印刷物を示す。 本発明の潜像印刷物の概要図を示す。 本発明の潜像印刷物の蒲鉾状要素群を示す。 本発明の潜像印刷物の潜像要素群を示す。 本発明の潜像印刷物の積層順序を示す。 本発明の印刷画像が入射光を反射する概要図を示す。 本発明の潜像印刷物の効果を示す。 本発明の潜像印刷物のモアレ拡大方式の潜像要素群を示す。 本発明の潜像印刷物の効果を示す。 本発明の潜像印刷物のIP方式の潜像要素群を示す。 本発明の潜像印刷物の効果を示す。 本発明の潜像印刷物を示す。 本発明の潜像印刷物の効果を示す。 従来の潜像印刷物の蒲鉾状画線を示す。 従来の潜像印刷物の蒲鉾状画線を示す。
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
本発明における潜像印刷物(1)の基本的な構成について、図1から図13を用いて説明する。図1に、本発明の潜像印刷物(1)を示す。潜像印刷物(1)は、基材(2)上に印刷画像(3)を有して成る。基材(2)は、印刷画像(3)が形成可能な平面を備えていればよく、上質紙、コート紙、プラスティック、金属等、材質は特に限定されない。その他、基材(2)の色彩や大きさについても特に制限はない。印刷画像(3)の色彩については、透明であってはならないが、不透明であればいかなる色彩でもよく、正反射光下での反射光量が大きいか、又は正反射時に目視できる色彩を呈するのであれば問題ない。具体的には反射層(6)の光学特性として後述する。
図2に印刷画像(3)の概要を説明するための展開図を示す。印刷画像(3)は、蒲鉾状要素群(4)の上に潜像要素群(5)が重なり、さらにその上に反射層(6)が形成されて成る。正反射時に出現する有意情報は、潜像要素群(5)中に含まれる。この例において潜像要素群(5)は、第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字を表す第一の潜像要素群(5A)と、第二の有意情報であるアルファベットの「B」の文字を表す第二の潜像要素群(5B)から成る。
図3に、基材(2)上に形成された蒲鉾状要素群(4)の一例を示す。蒲鉾状要素群(4)は、一定の幅(W1)の直線であり、一定の盛り上がり高さを有した蒲鉾形状を有する蒲鉾状要素(7)が、万線状に配置されて成る。本発明において、「万線状に配置する」とは、複数の要素が規則的に所定のピッチで配列されている状態をいう。より具体的には、蒲鉾状要素(7)が、画線方向と直交する第一の方向(図中S1方向)に一定のピッチ(P1)で連続して配置されて成る。なお、実施の形態において蒲鉾状要素群(4)は、盛り上がりを有した蒲鉾状の画線の集合によって構成された例について説明するが、本発明における蒲鉾状要素群(4)は、これに限定されるものではなく、蒲鉾状の画素形態として単純に上下左右に等ピッチで配置して蒲鉾状要素群(4)としてもよい。
蒲鉾状要素群(4)は樹脂を含んだ材料によって構成される必要がある。ここでいう樹脂とは、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等の一般的な印刷インキのワニス成分に当たる、一定の光沢を有した樹脂を指す。すき入れやエンボス等によって基材(2)に直接凹凸を形成する構成では本発明の必須要件を満たさない。これは、基材(2)と同じ素材で構成した場合には、蒲鉾状要素群(4)の上に形成される反射層(6)の反射光量を嵩上げする効果を得られないためである。また、最終的に蒲鉾状要素群(4)の反射光量は、反射層(6)の反射光量を嵩上げする役目を担うため、蒲鉾状要素群(4)の反射光量が高いことが好ましい。すなわち、蒲鉾状要素群(4)の光沢は、高ければ高いほど最終的な潜像画像の視認性の高さに寄与する。
一般にUV硬化型のスクリーン印刷によって蒲鉾状要素群(4)を形成する場合、スクリーンインキの粘度が高い方が、蒲鉾状要素(7)の盛り上がり高さは高く、かつ、それぞれの蒲鉾状要素(7)の三次元立体形状は、互いに均一になる傾向にある。このような蒲鉾状要素(7)の均一な構造は、潜像の視認性や鮮明さを高めるためには極めて好ましいことから、本発明の蒲鉾状要素群(4)を形成するに当たっては、粘度の高いインキを用いることが好ましい。
従来のように、蒲鉾状要素群(5)自体に特殊な光学特性を付与しなければならない形態において、高粘度インキを使用した場合には、インキ内の機能性材料の配向に悪影響を与え、光学特性が低下することから、粘度の低いインキを用いざるを得ず、蒲鉾状要素(7)の三次元立体形状は犠牲になることが通例であった。これに対し、粘度の高いインキを用いて均質な蒲鉾状要素(7)の形成を成し得るのは、蒲鉾状要素(7)が特別な光学特性の実現を担う必要がないことに起因するものであり、本発明の大きな長所の一つである。均質な立体構造の蒲鉾状要素(7)の形成を重視するのであれば、インキ粘度は1.5Pa・sを超えていることが好ましい。
蒲鉾状要素群(4)の上に形成される反射層(6)とは、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性を有して光反射特性に優れた印刷皮膜である。なお、蒲鉾状要素(7)と、蒲鉾状要素(7)の間にある、基材(2)が露出した非画線部については、蒲鉾状要素群(5)に含まれ、印刷画像(3)に含まれるものとする。
なお、反射層(6)は、正反射時に出現する潜像の視認性を高めるために、理論上面積率100%(ベタ)で形成することが最も効果的であるが、面積率100%で形成した場合、反射層(6)の色彩や光学特性によっては、反射層(6)の下に存在する蒲鉾状要素群(4)と潜像要素群(7)との正反射光下での色差が減衰し、出現する基画像の視認性が大きく低下する場合がある。そのような場合には、反射層(6)の網点面積率を低く設計すればよい。反射層(6)は、少なくとも20%以上の網点面積率で形成することが好ましい。
反射層(6)は、先に印刷され、既に硬化した蒲鉾状要素群(4)の上に形成される。反射層(6)は、一定膜厚のインキ層から成ることから、蒲鉾状要素群(4)に反射層(6)が重なった場合には、土台となる蒲鉾状要素群(4)の盛り上がりの高さや幅のような大まかな立体構造はそのまま反映されるが、一方で蒲鉾状要素群(4)の画線表面のわずかな凹凸は、反射層(6)の膜厚によって印刷直後にある程度平坦に埋められる。このため、蒲鉾状要素群(4)に反射層(6)が重なった場合の表面は、蒲鉾状要素群(5)の表面よりも滑らかになり、結果として正反射光下で出現する基画像の鮮明さが向上することとなる。なお、反射層(6)は、蒲鉾状要素(4)上にのみ形成される必要はなく、蒲鉾状要素(7)と蒲鉾状要素(7)の間の非画線部にも形成されてもよい。
また、反射層(6)は、光が入射した場合には強く光を反射する特性を有する必要がある。具体的には、光が入射した場合に、明るさ(明度)が上昇する特性、いわゆる明暗フリップフロップ性か、光が入射した場合に色相が変化する特性、いわゆるカラーフリップフロップ性の少なくともいずれか一方の光学特性を有する必要がある。明暗フリップフロップ性は、アルミや真鍮、酸化鉄等の一般的な金属顔料をインキ中に配合することで容易に付与することができる。また、カラーフリップフロップ性は、カラーフリップフロップ性を備えた機能性材料をインキ中に配合することで付与できる。
カラーフリップフロップ性を備えた機能性材料の具体的な一例としては、パール顔料やコレステリック液晶、ガラスフレーク顔料、金属粉顔料や鱗ペン状金属顔料等がある。また、当然のことながら機能性顔料をインキに配合するだけではなく、明暗フリップフロップ性やカラーフリップフロップ性を有するインキとして市販されているインキを用いて反射層(7)を形成してもよい。明暗フリップフロップ性を有する市販インキとしては、金インキや銀インキ、樹脂自体の光沢が高いOPニス、グロスニス等が存在し、カラーフリップフロップ性を有する市販インキとしてはCSIやOVI、液晶インキ等がある。
ここで、反射層(6)の拡散反射光下における色彩について説明する。まず、反射層(6)は不透明とする必要がある。特定の色彩で着色されていても、されていなくてもよいが、いずれにしても入射光を透過する特性を有していてはならない。これは、蒲鉾状要素(7)の上に重なった反射層(6)に光が入射した場合に、蒲鉾状要素(7)の内部から内面反射光を生じさせないために必要となる光学特性であり、この条件を満たすことで、蒲鉾状要素(7)の上に重なった反射層(6)に光が入射した場合に生じる反射光は全て蒲鉾状要素(7)の上に重なった反射層(6)の画線表面から生じる表面反射光となり、本発明の効果の一つである潜像の鮮明さを担保することができる。
続いて、潜像要素群(5)について図4を用いて説明する。なお、この潜像要素群(5)については、図4に示す構成に限るものではなく、後述する図8及び図10に示す構成で形成することも可能である。潜像要素群(5)は、正反射時に出現する潜像の基となる、複数の有意情報を含んで成る。本実施の形態の例では第一の有意情報である、アルファベットの「A」の文字と、第二の有意情報であるアルファベットの「B」の文字の二つの有意情報を含んでいる。それぞれの有意情報を表した画像をそれぞれ基画像と呼ぶ。本実施の形態においては、アルファベット「A」の文字は、第一の基画像とし、アルファベットの「B」の文字は、第二の基画像とする。
本実施の形態において、第一の基画像が表す第一の有意情報は、図4(b)に示す第一の潜像要素群(5A)によって表され、第二の基画像が表す第二の有意情報は、図4(c)に示す第二の潜像要素群(5B)によって表される。第一の潜像要素群(5A)は、一定の画線幅(W2)の第一の潜像要素(8A)が、蒲鉾状要素群(4)と同じ第一の方向(S1方向)に、同じピッチ(P1)で、万線状に連続して配置されて成り、第二の潜像要素群(5B)は、一定の画線幅(W3)の第二の潜像要素(8B)が、蒲鉾状要素群(4)と同じ第一の方向(S1方向)に、同じピッチ(P1)で、万線状に連続して配置されて成る。第一の潜像要素(8A)の画線幅(W2)は全て同じであり、第二の潜像要素(8B)の画線幅(W3)も全て同じである必要があるが、第一の潜像要素(8A)の画線幅(W2)と第二の潜像要素(8B)の画線幅(W3)の値は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
ここで、それぞれの第一の潜像要素(8A)と第二の潜像要素(8B)の位置関係について説明する。第一の潜像要素(8A)と第二の潜像要素(8B)は重なり合ってはならない。具体的には第一の潜像要素(8A)と第二の潜像要素(8B)は、第一の方向(S1)に位相がずれている必要がある。図4(a)は、その一例として、ピッチ(P1)の2分の1ずれて配置された状態を示している。仮に、第一の潜像要素(8A)と第二の潜像要素(8B)が重なり合って配置された場合には、正反射光下の特定の観察角度において、第一の有意情報と第二の有意情報が重なり合った不明瞭な画像が出現するため、そのような構成は避けなければならない。なお、以降の説明では、具体的に個別の潜像要素(8A、8B)を指すのではなく、潜像要素全般を指す場合には潜像要素(8)として説明する。
以上のように、製作者が正反射光下で潜像として出現させたいと意図する情報(画像)が基画像であり、基画像を本技術の構成に合わせて分断及び/又は圧縮等の処理を施した画像が潜像要素群(5)であり、潜像要素群を構成している一つ一つの要素が潜像要素(8)である。
潜像要素群(5)を構成するそれぞれの潜像要素(8)の正反射光下における色彩は、透明であっても半透明であってもよく、着色されていてもよい。ただし、蒲鉾状要素(7)の上に潜像要素(8)が重なって、更にその上に反射層(6)が重なった場合に、潜像要素(8)が視認できるほど、濃い濃度で着色されていてはならない。具体的には、ベタ部分の反射濃度で主成分が0.5を超える色濃度を有していてはならない。
正反射光下で出現する基画像の視認性を高くするためには、蒲鉾状要素(7)と潜像要素(8)は、その表面性が大きく異なっていることが好ましい。特に、本発明においては、蒲鉾状要素(7)の上に潜像要素(8)が重なり、更にその上に反射層(6)が重なる。反射層(6)は、蒲鉾状要素(7)と比較すると薄い膜厚であることから、蒲鉾状要素(7)と潜像要素(8)の表面性の違いが反射層(6)に反映される。すなわち、滑らかな蒲鉾状要素(7)の上に重なった反射層(6)は、その表面が滑らかであり、粗い潜像要素(8)の上に重なった反射層(6)は、その表面が粗くなる。
基本的には蒲鉾状要素(7)と潜像要素(8)の表面性の違いが、反射層(6)の表面性の違いとして反映され、そしてそのまま基画像の視認性へと直結する。逆に、その表面性の差異が小さい場合には、反射層(6)の膜厚によって埋められてしまい、反射層(6)表面にその表面性の差異が反映されず、正反射光下で出現する基画像の視認性が低くなる。以上のことから、蒲鉾状要素(7)と潜像要素(8)は、可能な限り大きな表面性の違いが生じるように設計することが好ましい。
表面性の差異の具体的な範囲については、微細領域の表面性の違いを容易に測定できる数値で表すことは困難であることから、表面性と相関の高い数値である、正反射時の明度の差に換算して示すと、蒲鉾状要素(7)と潜像要素(8)の間には少なくとも明度L*で10以上の明度差が必要である。なお、明度L*の測定については、明度が測定可能な装置であれば特に限定はなく、例えば、一般的な色彩色差計を用いることができる。多くの場合、蒲鉾状要素(7)は高光沢な構成となることから、潜像要素(8)は逆に低光沢であることが好ましい。すなわち、蒲鉾状要素(7)の明度が高く、潜像要素(8)の明度が低い構成とすることが好ましい。
基材(2)、蒲鉾状要素群(4)、潜像要素群(5)及び反射層(6)は、図1(b)の本発明の潜像印刷物(1)の断面図に示すように密着して形成される。積層順序は図5に示すように、まず、基材(2)に蒲鉾状要素群(5)を印刷し、その上に潜像要素群(5)を印刷し、更にその上に反射層(6)を重ね合わせて形成する。
蒲鉾状要素(7)と潜像要素(8)の上に反射層(6)が密着して形成された印刷画像(3)に、特定の光源(9)から光が入射した場合の光の挙動の模式的な拡大図を図6に示す。本発明の潜像印刷物(1)に入射した光は、ほぼ全てが反射層(6)表面で反射及び吸収される。また、この際、インキ樹脂(蒲鉾状要素(7))の上に形成された反射層(6)は、その反射光量が嵩上げされて反射光量は相対的に増大する。また、従来技術の図14(b)の例のように、蒲鉾状要素(7)の内部へと光が侵入することはなく、蒲鉾状要素(7)の内部から発せられる内面反射光は生じない。このため、反射光は全て画線表面で反射される反射光となり、入射する光の角度に応じて適正な潜像要素(8)のみがサンプリングされる効果が生まれる。図6の例においては、本発明の効果を示す図として、入射する光が反射層(6)で反射され、第一の潜像要素(8A)のみがサンプリングされ、第二の潜像要素(8B)はサンプリングされない状態を示している。この結果、正反射光下で出現する基画像の視認性が向上するとともに、画像の鮮明さも向上する。
なお、仮に反射層(6)が透明であって、蒲鉾状要素(7)が不透明である場合には、反射層(6)と蒲鉾状要素(7)の画線表面によって光は反射され、同様に蒲鉾状要素(7)内部に光は侵入しないため、本発明の効果に近い効果を得ることができる。ただし、この場合、反射層(6)が不透明な場合と異なり、入射する光を反射する画線表面が反射層(6)と蒲鉾状要素(7)の二つの面となる。反射面が二つ存在する場合、この反射面の距離の差(反射層(6)の厚み)が1μm以下であっても、潜像の鮮明さに影響を与えるため、潜像は不鮮明になる場合がある。このため、本発明の潜像印刷物(1)において、潜像を鮮明に出現させるためには、反射層(6)を不透明とする必要がある。
以上、説明したとおり、本発明の潜像印刷物(1)において、蒲鉾状要素(7)と潜像要素(8)の上に反射層(6)を形成し、かつ、反射層(6)を不透明とすることで、反射光の光量を増大させるとともに、反射光を画線表面由来の光のみとすることができる。
続いて、本発明の潜像印刷物(1)の効果について図7を用いて説明する。図7(a)のように、右側から潜像印刷物(1)に光が入射した場合、観察者(10)には、第一の有意情報であるアルファベットの「A」が視認される。一方、図7(b)のように、左側から潜像印刷物(1)に光が入射した場合、観察者(10)には、第二の有意情報であるアルファベットの「B」が視認される。以上のように、入射する光の角度の変化に応じて、印刷画像(3)中に視認される画像がチェンジする効果を有する。
以上のような効果を生じる理由について説明する。図7(a)に示すように、右側から潜像印刷物(1)に光が入射した場合、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性を有する反射層(6)は、盛り上がりを有する蒲鉾状要素(7)上に形成されて成るため、入射した光と法線を成す面のみを中心に光を強く反射する。反射層(6)の画線表面のうち、盛り上がりの中心より右側は光を強く反射して色彩が変化する。反射層(6)の右側の下層には、通常の観察条件では不可視ではあるが、蒲鉾状要素(7)と表面性の異なる第一の潜像要素(8A)が重なって形成されており、表面性の違いに起因する反射率の違いによって、第一の潜像要素(8A)が周囲とは異なる色彩で可視化される。
この場合、反射層(6)の表面のそれぞれの盛り上がりにある全ての第一の潜像要素(8A)が一度に可視化されるため、結果として第一の潜像要素群(5A)が表す第一の有意情報のアルファベットの「A」(第一の基画像)が出現する。その一方で、入射した光と法線を成さなかった反射層(6)の盛り上がりの中心より左側表面は、光を反射できないため色彩は変化せず、結果として左側表面にある第二の潜像要素(8B)は、可視化されず、第二の有意情報は出現しない。
逆に、図7(b)のように、左側から潜像印刷物(1)に光が入射した場合には、反射層(6)の左側の下層に重ねられた第二の潜像要素(8B)が色彩の違いによって可視化され、第二の潜像要素群(5B)が表す第二の有意情報であるアルファベットの「B」が出現する。この場合、右側表面にある第一の潜像要素(8A)は、可視化されず、第一の有意情報は出現しない。
以上のように、蒲鉾状要素(7)の画線表面に重ねられた潜像要素(8)のうち、入射した光と法線を成した反射層(6)の下層に存在する潜像要素(8)のみが色彩の違いによって可視化され、それ以外の潜像要素(8)は可視化されない効果が生じる。これによって、入射する光の角度の変化に応じて、印刷画像(3)中に視認される画像がチェンジする効果が生じる。以上が、本発明の潜像印刷物(1)の画像のチェンジ効果が生じる原理である。なお、特許第4682283号公報や特許第4660775号公報に記載の画線、画素構成や効果に関しては、本発明の潜像印刷物(1)に全て応用することができる。
ここまで説明した潜像印刷物(1)は、潜像要素群(5)を特許第4682283号公報や特許第4660775号公報に記載の技術のような特定の有意情報を潜像要素(8)によって分割した画線構成を用いて形成する形態であり、潜像印刷物(1)を傾けることである有意情報から異なる有意情報へとチェンジする、画像のチェンジ効果が生じる形態であった。しかしながら、本発明の潜像印刷物(1)の潜像要素群(5)の構成や、その構成に伴って生じる効果は、前述したように、これに限定されるものではない。例えば、特許第4844894号公報や特許第5131789号公報に記載の技術のようなモアレが拡大されて視認できる「モアレ拡大現象(Moire Magnification)」を利用した動画効果や、特許第5200284号公報に記載の技術のように、インテグラルフォトグラフィ方式の動画効果を生じさせる形態に適用してもよい。これらについて以下に具体的に説明する。
図8に示すのは、モアレ拡大現象を利用して、図9に示すように潜像として拡大モアレ(12A、12B)が出現し、潜像印刷物(1)を傾けることで出現した拡大モアレ(12A、12B)が動いて見える、特殊な動画効果を生じさせることが可能な潜像要素群(5)の一形態である。潜像要素群(5)以外の印刷画像(3)の構成については、先に説明した画像のチェンジ効果が生じる形態と全く同じであるので説明を省略する。
モアレ拡大現象を利用する潜像要素群(5)は、蒲鉾状要素(7)の画線方向と直交する第一の方向(図中S1方向)に基画像(11A、11B)を圧縮した潜像要素(8)を、蒲鉾状要素群(4)のピッチ(P1)とわずかに異なるピッチ(P2、P3)で連続して万線状に連続して配置した構成を有する。図8の例では、潜像要素群(5)は二つの要素群から成り、第一の潜像要素群(5A)と、第二の潜像要素群(5B)から成る。第一の潜像要素群(5A)は、第一の基画像(11A)としてアルファベットの「J」の文字を第一の方向(図中S1方向)に圧縮して画線幅W2とした第一の潜像要素(8A)を蒲鉾状要素群(4)のピッチ(P1)よりわずかに小さなピッチ(P2)で、第一の方向(図中S1方向)に連続して配置して成る。第二の潜像要素群(5B)は、第二の基画像(11B)としてアルファベットの「P」の文字を第一の方向(図中S1方向)にミラー反転して圧縮して画線幅W3とした第二の潜像要素(8B)を蒲鉾状要素群(4)のピッチ(P1)よりわずかに大きなピッチ(P3)で、第一の方向(図中S1方向)に連続して配置して成る。
図8に示した潜像要素群(5)を用いた場合の潜像印刷物(1)の効果は図9に示すとおりである。図9(a)のように、観察者の視点(10)が強い反射光が生じない拡散反射光下にある場合、観察者は、印刷画像(3)の中に何も視認できない。しかし、図9(b)や図9(c)のように、観察者の視点(10)が強い反射光が生じる正反射光下にある場合、観察者は、印刷画像(3)の中にアルファベットの「J」を表す拡大モアレ(12A)と、アルファベットの「P」を表す拡大モアレ(12B)が視認できる。
また、図9(b)や図9(c)のように、潜像印刷物(1)を傾けたり、入射する光の角度を変えたりした場合には、それぞれの拡大モアレ(12A、12B)が、第一の方向(S1方向)か、あるいは第一の方向(S1方向)と逆方向にそれぞれ反対方向に動く様子を視認することができる。以上のように、本発明の潜像印刷物(1)において、潜像要素群(5)の画線構成を変えるだけで、チェンジ効果とは全く異なるモアレ拡大現象を利用した動画効果を生じさせることができる。なお、このような効果が生じる原理や効果的な構成、条件等については、特許第4844894号公報や特許第5131789号公報に記載のとおりであり、特許第4844894号公報や特許第5131789号公報に記載の画線、画素構成等については、本発明の潜像印刷物(1)に応用することができる。
続いて、図10に示すのは、インテグラルフォトグラフィ方式の立体画像の形成方法を利用して、潜像として基画像(13)が出現し、潜像印刷物(1)を傾けることで出現した基画像(13)が動いて見える、動画効果が生させることが可能な潜像要素群(5)の一形態である。潜像要素群(5)以外の印刷画像(3)の構成については、先に説明した画像のチェンジ効果が生じる形態と全く同じであるので説明を省略する。
インテグラルフォトグラフィ方式の立体画像の形成方法を利用する潜像要素群(5)は、蒲鉾状要素群(4)の画線方向と直交する第一の方向(図中S1方向)に基画像(13)を分割して圧縮した潜像要素(8)を、蒲鉾状要素群(4)のピッチ(P1)と同じピッチ(P1)で連続して複数配置した構成を有する。図10の例では、潜像要素群(5)は「桜の花びら」を表した基画像(13)から作製した複数の潜像要素(8)から成る。
潜像要素群(5)は、基画像(13)を一定の幅で分割して取り出して、取り出した画像を第一の方向(図中S1方向)に圧縮して画線幅(W2)とした潜像要素(8)を蒲鉾状要素群(4)のピッチ(P1)と同じピッチ(P1)で、第一の方向(図中S1方向)に万線状に連続して配置して成る。モアレ拡大現象を利用した図8の例と異なり、隣り合う潜像要素(8)同士は、基画像(13)から取り出す際の位相を一ピッチ分だけずらして圧縮しているため、わずかに形状が異なる。
図10に示した潜像要素群(5)を用いた場合の潜像印刷物(1)の効果は、図11に示すとおりである。図11(a)のように、観察者の視点(10)が強い反射光が生じない拡散反射光下にある場合、観察者は、印刷画像(3)の中に何も視認できない。しかし、図11(b)や図11(c)のように、観察者の視点(10)が強い反射光が生じる正反射光下にある場合、観察者は、印刷画像(3)の中に基画像(13)である「桜の花びら」が視認できる。また、図11(b)や図11(c)のように、潜像印刷物(1)を傾けたり、入射する光の角度を変えたりした場合には、基画像(13)が第一の方向(S1方向)か、又は第一の方向(S1方向)と逆方向に動く様子を視認することができる。
以上のように、本発明の潜像印刷物(1)において、潜像要素群(5)の画線構成を変えるだけで、チェンジ効果とは全く異なるインテグラルフォトグラフィ方式の立体画像の形成方法を利用した動画効果を生じさせることができる。なお、このような効果が生じる原理、効果的な構成、条件等については、特許第5200284号公報に記載のとおりであり、特許第5200284号公報に記載の画線、画素構成を本発明の潜像印刷物(1)の構成に応用することができる。
図4、図8及び図10を用いて説明したように、本発明の潜像印刷物(1)は、蒲鉾状要素群(4)の上に重ねる潜像要素群(5)の構成を変えることで、様々な効果を生み出すことができる。
また、前述の反射層(6)は、単一の面積率で構成された、濃淡のない単調な階調を表した構成であったが、反射層(6)が面積率の差異によって任意の有意情報を表すことを特徴とする構成を用いてもよい。この場合、拡散反射光下でも任意の有意情報が視認され、正反射光下では異なる画像(基画像)が出現する、拡散反射光下と正反射光下で画像がチェンジする効果を、前述の正反射光下での効果に追加することができる。
次に、図12に反射層(6)が面積率の差異によって任意の有意情報を表すことを特徴とする構成の積層関係の概要を示す。図5の積層関係の概要図で示した「単一の面積率で構成された、濃淡のない単調な階調を表した反射層(6)」とは異なり、図12では、反射層(6)が網点面積率の差異によって「JPN」という有意情報を表している。図5の構成と図12の構成の違いは、反射層(6)の網点面積率の構成のみであり、その他の構成や材料等は同じである。
図12のような反射層(6)が有意情報を表す構成においては、反射層(6)の最大網点面積率と最小網点面積率の差異は、5%以上50%以下とする必要がある。5%未満の場合、階調表現域が狭くなり過ぎて拡散反射光下における有意情報の視認性が低くなるためであり、50%を超える場合、拡散反射光下における有意情報の視認性は高くなるが、反射層(6)が表す有意情報が正反射光下で完全に消失しきらない場合があるためである。
本発明の潜像印刷物(1)の効果について図13を用いて説明する。図13(a)に示すような観察者の視点(10)が拡散反射光下にある場合において、印刷画像(3)の内部には「JPN」が視認される。また、図13(b)のようにある特定の角度から潜像印刷物(1)に光が入射した場合、「JPN」は完全に消失し、観察者(10)には、第一の有意情報であるアルファベットの「A」が視認される。一方、図7(b)のように、別の角度から潜像印刷物(1)に光が入射した場合、観察者(10)には、第二の有意情報であるアルファベットの「B」が視認される。以上のように、拡散反射光下においては、反射層(6)に形成された有意情報が視認されるとともに、正反射光下においては、入射する光の角度の変化に応じて、印刷画像(3)中に視認される画像がチェンジする効果を有する。
なお、実施の形態において、画像のチェンジ効果については、一例として二つの潜像がチェンジする構成について説明したが、潜像の数を二つに限定するものではない。すなわちn個の潜像を付与するのであれば、第一の潜像要素群から第nの潜像要素群までを有する潜像要素群(5)を構成し、それぞれの潜像要素が重なり合わないように配置すればよい。
蒲鉾状要素(7)の画線の盛り上がりの高さは、特に制限するものではないが流通適性を考えると1mm以上の高さを有することは好ましくない。また、蒲鉾状要素(7)をインキによって形成する場合であって、皮膜の厚さが2μm以下の場合は、画像のチェンジ効果が低くなる場合がある。よって、蒲鉾状要素(7)をインキ皮膜によって形成する場合には、2μm以上1mm以下であることが好ましい。
全ての構造や画線に共通する一定のピッチ(P1)は、0.01mm以上5.0mm以下で形成することが好ましい。0.01mm未満のピッチで、蒲鉾状要素に2μm以上の盛り上がりを形成する場合には、一般的な印刷で再現できる蒲鉾状要素のピッチとしては、ほぼ限界のピッチであり、印刷物品質の安定性に欠ける上に、たとえ0.01mm未満のピッチで要素を形成できた場合でも、ほとんどの場合、出現する潜像の視認性が極端に低くなるため適切ではない。また、逆に、5.0mmを超えるピッチで形成した場合には、潜像として再現できる画像の解像度が極端に低くなってしまうため適切ではない。
実施の形態の潜像印刷物(1)のように、潜像要素群(5)を印刷で形成する場合には、比較的高解像度な印刷が可能なオフセット印刷方式やフレキソ印刷方式等が適している他、インクジェットプリンタやレーザプリンタ等のデジタル印刷機を用いて形成することも可能である。これらのデジタル印刷機を用いる場合には、一枚一枚異なる情報を与える可変情報を容易に付与できるという特徴がある。また、レーザー加工機を用いて反射層(6)を切削して潜像要素群(5)を反射層(6)上に直接形成してもよい。この場合にも、これらのデジタル印刷機で形成する場合と同様に、一枚一枚異なる情報を与える可変情報を容易に付与できるという特徴がある。
なお、本明細書中でいう「正反射」とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度とほぼ等しい角度に強い反射光が生じる現象を指し、「拡散反射」とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と異なる角度に弱い反射光が生じる現象を指す。例えば、虹彩色パールインキを例に挙げると、拡散反射の状態では無色透明に見えるが、正反射した状態では特定の干渉色の強い光を発する。また、「正反射光下で観察する」とは、印刷物に入射した光の角度とほぼ等しい反射角度に視点をおいて観察する状態を指し、「拡散反射光下で観察する」とは、印刷物に入射した光の角度と大きく異なる角度で観察する状態を指す。
また、本発明における画線とは、印刷画像を形成する最小単位の小さな点である網点を特定の方向に一定の距離連続して配置した点線や破線の分断線、直線、曲線及び破線等を指し、画素とは、少なくとも一つの印刷網点又は印刷網点を複数集めて一塊にした円や三角形、四角形を含む多角形、星形等の各種図形、あるいは文字や記号、数字等を指す。
以下、前述の発明を実施するための形態に従って、具体的に作成した潜像印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定するものではない。
実施例1については、実施の形態で説明した潜像印刷物(1)の例で説明する。具体的には、実施の形態と同様に図1から図7を用いて説明する。図1に、実施例1の潜像印刷物(1)を示す。潜像印刷物(1)は、基材(2)上に銀色の印刷画像(3)を有して成る。基材(2)には、一般的なコート紙(エスプリコートFM 日本製紙製)を用いた。
図2に印刷画像(3)の概要を示す。印刷画像(3)は、蒲鉾状要素群(4)の上に潜像要素群(5)が重なり、更にその上に、反射層(6)が重なり合わさって成る。潜像要素群(5)は、アルファベットの「A」を構成する第一の潜像要素群(5A)及びアルファベットの「B」を構成する第二の潜像要素群(5B)を含んで成る。
図3に、基材(2)上に形成した蒲鉾状要素群(4)を示す。蒲鉾状要素群(4)は、幅0.3mmの直線を成す蒲鉾状要素(7)が、直線方向と直交する第一の方向(S1方向)にピッチ0.4mmで連続して配置されて成る。このような画線構成の蒲鉾状要素群(4)をUV乾燥方式のスクリーン印刷で、高粘度で透明なスクリーンインキ(UV POT 点字用クリア 帝国インキ製造株式会社製)を用いて基材(2)上に印刷した。それぞれの蒲鉾状要素(7)の高さは、約15μmであった。
潜像要素群(5)について図4を用いて説明する。潜像要素群(5)は、第一の有意情報である、アルファベットの「A」と、第二の有意情報であるアルファベットの「B」の二つの有意情報を含む。第一の有意情報は、図4(b)に示す第一の潜像要素群(5A)によって表され、第二の有意情報は、図4(c)に示す第二の潜像要素群(5B)によって表される。第一の潜像要素群(5A)は、画線幅0.15mmの第一の潜像要素(8A)を、第一の方向(S1方向)にピッチ0.4mmで連続して配置して構成し、第二の潜像要素群(5B)は、画線幅0.15mmの第二の潜像要素(8B)を第一の方向(S1方向)にピッチ0.4mmで連続して配置して構成した。第一の潜像要素(8A)と第二の潜像要素(8B)は、第一の方向(S1方向)にピッチの半分に当たる0.2mmだけずらした構成とした。以上のような構成の潜像要素群(5)をウェットオフセット印刷により、低光沢で透明なインキ(マットメジウム T&K TOKA製)で、蒲鉾状画線群(4)の上に形成した。
図2に示す反射層(6)は、網点面積率60%とし、ウェットオフセット印刷で銀インキ(ニューチャンピオン シルバー DIC製)を用いて蒲鉾状要素群(4)と潜像要素群(5)上に印刷した。この反射層(6)は、拡散反射光下では暗い灰色で、正反射光下では白色となる、優れた明暗フリップフロップ性を有する。反射層(6)の印刷皮膜は、約1μmであった。
実施例1の潜像印刷物(1)の効果について、図7を用いて説明する。図7(a)のように、右側から潜像印刷物(1)に光が入射した場合、観察者(10)には明るい白色の光の中に、第一の有意情報であるアルファベットの「A」が周囲より暗い灰色の色彩で視認された。一方、図7(b)のように、左側から潜像印刷物(1)に光が入射した場合、観察者(10)には明るい白色の光の中に、第一の有意情報であるアルファベットの「B」が、周囲より暗い灰色の色彩で視認された。以上のように、入射する光の角度の変化に応じて、印刷画像(3)中に視認される画像がチェンジする効果を有することが確認できた。
1 潜像印刷物
2 基材
3 印刷画像
4 蒲鉾状要素群
5 潜像要素群
5A 第一の潜像要素群
5B 第二の潜像要素群
6 反射層
7 蒲鉾状要素
8 潜像要素
8A 第一の潜像要素
8B 第二の潜像要素
9 光源
10 観察者の視点
11A 第一の基画像
11B 第二の基画像
12A 第一の拡大モアレ
12B 第二の拡大モアレ
13 基画像
14 出現した基画像

Claims (4)

  1. 基材上の少なくとも一部に印刷画像を備え、前記印刷画像は、蒲鉾形状を有する樹脂系の蒲鉾状要素が万線状に配置された蒲鉾状要素群と、前記蒲鉾状要素群の上に、前記蒲鉾状要素群とは正反射光下における反射率が異なり、基画像を分割及び/又は圧縮した潜像要素が万線状に配置された潜像要素群と、前記潜像要素群の上に、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性の少なくともいずれか一方の光学特性を備えた不透明な反射層が積層されて成り、前記印刷画像を正反射光下の特定の角度において観察すると、前記基画像が潜像画像として出現し、その観察角度から連続的に角度を変化させると、前記潜像画像が変化及び/又は動的に視認可能なことを特徴とする潜像印刷物。
  2. 前記蒲鉾状要素群と前記潜像要素群の正反射光下の明度L*が10以上異なることを特徴とする請求項1記載の潜像印刷物。
  3. 前記反射層が面積率の差異によって有意情報を表して成ることを特徴とする請求項1又は2記載の潜像印刷物。
  4. 前記反射層の階調表現域における最大面積率と最小面積率の差異が50%以内であることを特徴とする請求項3記載の潜像印刷物。
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