以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a〜b」は、下限aおよび上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
本発明の非水系二次電池は、本発明の電解液と、長軸と短軸の比(長軸/短軸)が1〜5である黒鉛を含む負極活物質層をもつ負極と、を具備する。
<電解液>
本発明の電解液は、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアルミニウムをカチオンとする塩(以下、「金属塩」又は単に「塩」ということがある。)とヘテロ原子を有する有機溶媒とを含み、振動分光スペクトルにおける有機溶媒由来のピーク強度につき、有機溶媒本来のピークの強度をIoとし、有機溶媒本来のピークが波数シフトしたピークの強度をIsとした場合、Is>Ioである。
なお、従来の電解液は、IsとIoとの関係がIs<Ioである。
[金属塩]
金属塩は、通常、電池の電解液に含まれるLiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiAlCl4、などの電解質として用いられる化合物であれば良い。金属塩のカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属、及びアルミニウムを挙げることができる。金属塩のカチオンは、電解液を使用する電池の電荷担体と同一の金属イオンであるのが好ましい。例えば、本発明の電解液をリチウムイオン二次電池用の電解液として使用するのであれば、金属塩のカチオンはリチウムが好ましい。
塩のアニオンの化学構造は、ハロゲン、ホウ素、窒素、酸素、硫黄又は炭素から選択される少なくとも1つの元素を含むと良い。ハロゲン又はホウ素を含むアニオンの化学構造を具体的に例示すると、ClO4、PF6、AsF6、SbF6、TaF6、BF4、SiF6、B(C6H5)4、B(oxalate)2、Cl、Br、Iを挙げることができる。
窒素、酸素、硫黄又は炭素を含むアニオンの化学構造について、以下、具体的に説明する。
塩のアニオンの化学構造は、下記一般式(1)、一般式(2)又は一般式(3)で表される化学構造が好ましい。
(R1X1)(R2X2)N 一般式(1)
(R1は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
R2は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R1とR2は、互いに結合して環を形成しても良い。
X1は、SO2、C=O、C=S、RaP=O、RbP=S、S=O、Si=Oから選択される。
X2は、SO2、C=O、C=S、RcP=O、RdP=S、S=O、Si=Oから選択される。
Ra、Rb、Rc、Rdは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、Ra、Rb、Rc、Rdは、R1又はR2と結合して環を形成しても良い。)
R3X3Y 一般式(2)
(R3は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
X3は、SO2、C=O、C=S、ReP=O、RfP=S、S=O、Si=Oから選択される。
Re、Rfは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、Re、Rfは、R3と結合して環を形成しても良い。
Yは、O、Sから選択される。)
(R4X4)(R5X5)(R6X6)C 一般式(3)
(R4は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
R5は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
R6は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R4、R5、R6のうち、いずれか二つ又は三つが結合して環を形成しても良い。
X4は、SO2、C=O、C=S、RgP=O、RhP=S、S=O、Si=Oから選択される。
X5は、SO2、C=O、C=S、RiP=O、RjP=S、S=O、Si=Oから選択される。
X6は、SO2、C=O、C=S、RkP=O、RlP=S、S=O、Si=Oから選択される。
Rg、Rh、Ri、Rj、Rk、Rlは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、Rg、Rh、Ri、Rj、Rk、Rlは、R4、R5又はR6と結合して環を形成しても良い。)
上記一般式(1)〜(3)で表される化学構造における、「置換基で置換されていても良い」との文言について説明する。例えば「置換基で置換されていても良いアルキル基」であれば、アルキル基の水素の一つ若しくは複数が置換基で置換されているアルキル基、又は、特段の置換基を有さないアルキル基を意味する。
「置換基で置換されていても良い」との文言における置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、不飽和シクロアルキル基、芳香族基、複素環基、ハロゲン、OH、SH、CN、SCN、OCN、ニトロ基、アルコキシ基、不飽和アルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、スルフィニル基、ウレイド基、リン酸アミド基、スルホ基、カルボキシル基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、シリル基等が挙げられる。これらの置換基はさらに置換されてもよい。また置換基が2つ以上ある場合、置換基は同一でも異なっていてもよい。
塩のアニオンの化学構造は、下記一般式(4)、一般式(5)又は一般式(6)で表される化学構造がより好ましい。
(R7X7)(R8X8)N 一般式(4)
(R7、R8は、それぞれ独立に、CnHaFbClcBrdIe(CN)f(SCN)g(OCN)hである。
n、a、b、c、d、e、f、g、hはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
また、R7とR8は、互いに結合して環を形成しても良く、その場合は、2n=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
X7は、SO2、C=O、C=S、RmP=O、RnP=S、S=O、Si=Oから選択される。
X8は、SO2、C=O、C=S、RoP=O、RpP=S、S=O、Si=Oから選択される。
Rm、Rn、Ro、Rpは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、Rm、Rn、Ro、Rpは、R7又はR8と結合して環を形成しても良い。)
R9X9Y 一般式(5)
(R9は、CnHaFbClcBrdIe(CN)f(SCN)g(OCN)hである。
n、a、b、c、d、e、f、g、hはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
X9は、SO2、C=O、C=S、RqP=O、RrP=S、S=O、Si=Oから選択される。
Rq、Rrは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、Rq、Rrは、R9と結合して環を形成しても良い。
Yは、O、Sから選択される。)
(R10X10)(R11X11)(R12X12)C 一般式(6)
(R10、R11、R12は、それぞれ独立に、CnHaFbClcBrdIe(CN)f(SCN)g(OCN)hである。
n、a、b、c、d、e、f、g、hはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
R10、R11、R12のうちいずれか二つが結合して環を形成しても良く、その場合、環を形成する基は2n=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。また、R10、R11、R12の三つが結合して環を形成しても良く、その場合、三つのうち二つの基が2n=a+b+c+d+e+f+g+hを満たし、一つの基が2n−1=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
X10は、SO2、C=O、C=S、RsP=O、RtP=S、S=O、Si=Oから選択される。
X11は、SO2、C=O、C=S、RuP=O、RvP=S、S=O、Si=Oから選択される。
X12は、SO2、C=O、C=S、RwP=O、RxP=S、S=O、Si=Oから選択される。
Rs、Rt、Ru、Rv、Rw、Rxは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、Rs、Rt、Ru、Rv、Rw、Rxは、R10、R11又はR12と結合して環を形成しても良い。)
上記一般式(4)〜(6)で表される化学構造における、「置換基で置換されていても良い」との文言の意味は、上記一般式(1)〜(3)で説明したのと同義である。
上記一般式(4)〜(6)で表される化学構造において、nは0〜6の整数が好ましく、0〜4の整数がより好ましく、0〜2の整数が特に好ましい。なお、上記一般式(4)〜(6)で表される化学構造の、R7とR8が結合、又は、R10、R11、R12が結合して環を形成している場合には、nは1〜8の整数が好ましく、1〜7の整数がより好ましく、1〜3の整数が特に好ましい。
塩のアニオンの化学構造は、下記一般式(7)、一般式(8)又は一般式(9)で表されるものがさらに好ましい。
(R13SO2)(R14SO2)N 一般式(7)
(R13、R14は、それぞれ独立に、CnHaFbClcBrdIeである。
n、a、b、c、d、eはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+eを満たす。
また、R13とR14は、互いに結合して環を形成しても良く、その場合は、2n=a+b+c+d+eを満たす。)
R15SO3 一般式(8)
(R15は、CnHaFbClcBrdIeである。
n、a、b、c、d、eはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+eを満たす。)
(R16SO2)(R17SO2)(R18SO2)C 一般式(9)
(R16、R17、R18は、それぞれ独立に、CnHaFbClcBrdIeである。
n、a、b、c、d、eはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+eを満たす。
R16、R17、R18のうちいずれか二つが結合して環を形成しても良く、その場合、環を形成する基は2n=a+b+c+d+eを満たす。また、R16、R17、R18の三つが結合して環を形成しても良く、その場合、三つのうち二つの基が2n=a+b+c+d+eを満たし、一つの基が2n−1=a+b+c+d+eを満たす。)
上記一般式(7)〜(9)で表される化学構造において、nは0〜6の整数が好ましく、0〜4の整数がより好ましく、0〜2の整数が特に好ましい。なお、上記一般式(7)〜(9)で表される化学構造の、R13とR14が結合、又は、R16、R17、R18が結合して環を形成している場合には、nは1〜8の整数が好ましく、1〜7の整数がより好ましく、1〜3の整数が特に好ましい。
また、上記一般式(7)〜(9)で表される化学構造において、a、c、d、eが0のものが好ましい。
金属塩は、(CF3SO2)2NLi(以下、「LiTFSA」と言うことがある。)、(FSO2)2NLi(以下、「LiFSA」と言うことがある。)、(C2F5SO2)2NLi、FSO2(CF3SO2)NLi、(SO2CF2CF2SO2)NLi、(SO2CF2CF2CF2SO2)NLi、FSO2(CH3SO2)NLi、FSO2(C2F5SO2)NLi、又はFSO2(C2H5SO2)NLiが特に好ましい。
金属塩は、以上で説明したカチオンとアニオンをそれぞれ適切な数で組み合わせたものを採用すれば良い。金属塩は上記の一種類を採用しても良いし、複数種を併用しても良い。
[有機溶媒]
ヘテロ元素を有する有機溶媒としては、ヘテロ元素が窒素、酸素、硫黄、ハロゲンから選択される少なくとも1つである有機溶媒が好ましく、ヘテロ元素が窒素又は酸素から選択される少なくとも1つである有機溶媒がより好ましい。また、ヘテロ元素を有する有機溶媒としては、NH基、NH2基、OH基、SH基などのプロトン供与基を有さない、非プロトン性溶媒が好ましい。
ヘテロ元素を有する有機溶媒(以下、単に「有機溶媒」ということがある。)を具体的に例示すると、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル、マロノニトリル等のニトリル類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、2−メチルテトラヒドロピラン、2−メチルテトラヒドロフラン、クラウンエーテル等のエーテル類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等のカーボネート類、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、イソプロピルイソシアネート、n−プロピルイソシアネート、クロロメチルイソシアネート等のイソシアネート類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸ビニル、メチルアクリレート、メチルメタクリレート等のエステル類、グリシジルメチルエーテル、エポキシブタン、2−エチルオキシラン等のエポキシ類、オキサゾール、2−エチルオキサゾール、オキサゾリン、2−メチル−2−オキサゾリン等のオキサゾール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、無水酢酸、無水プロピオン酸等の酸無水物、ジメチルスルホン、スルホラン等のスルホン類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、1−ニトロプロパン、2−ニトロプロパン等のニトロ類、フラン、フルフラール等のフラン類、γ―ブチロラクトン、γ―バレロラクトン、δ―バレロラクトン等の環状エステル類、チオフェン、ピリジン等の芳香族複素環類、テトラヒドロ−4−ピロン、1−メチルピロリジン、N−メチルモルフォリン等の複素環類、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等のリン酸エステル類を挙げることができる。
ヘテロ元素を有する有機溶媒として、下記一般式(10)で示される鎖状カーボネートを挙げることができる。
R19OCOOR20 一般式(10)
(R19、R20は、それぞれ独立に、鎖状アルキルであるCnHaFbClcBrdIe、又は、環状アルキルを化学構造に含むCmHfFgClhBriIjのいずれかから選択される。n、a、b、c、d、e、m、f、g、h、i、jはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e、2m=f+g+h+i+jを満たす。)
上記一般式(10)で表される鎖状カーボネートにおいて、nは1〜6の整数が好ましく、1〜4の整数がより好ましく、1〜2の整数が特に好ましい。mは3〜8の整数が好ましく、4〜7の整数がより好ましく、5〜6の整数が特に好ましい。また、上記一般式(10)で表される鎖状カーボネートのうち、ジメチルカーボネート(以下、「DMC」ということがある。)、ジエチルカーボネート(以下、「DEC」ということがある。)、エチルメチルカーボネート(以下、「EMC」ということがある。)が特に好ましい。
ヘテロ元素を有する有機溶媒としては、比誘電率が20以上又はドナー性のエーテル酸素を有する溶媒が好ましく、そのような有機溶媒として、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル、マロノニトリル等のニトリル類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、2−メチルテトラヒドロピラン、2−メチルテトラヒドロフラン、クラウンエーテル等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトン、ジメチルスルホキシド、スルホランを挙げることができ、特に、アセトニトリル(以下、「AN」ということがある。)、1,2−ジメトキシエタン(以下、「DME」ということがある。)が好ましい。
これらの有機溶媒は単独で電解液に用いても良いし、複数を併用しても良い。
本発明の電解液は、その振動分光スペクトルにおいて、本発明の電解液に含まれる有機溶媒由来のピーク強度につき、有機溶媒本来のピークの強度をIoとし、有機溶媒本来のピークがシフトしたピーク(以下、「シフトピーク」ということがある。)の強度をIsとした場合、Is>Ioであることを特徴とする。すなわち、本発明の電解液を振動分光測定に供し得られる振動分光スペクトルチャートにおいて、上記二つのピーク強度の関係はIs>Ioとなる。
ここで、「有機溶媒本来のピーク」とは、有機溶媒のみを振動分光測定した場合のピーク位置(波数)に、観察されるピークを意味する。有機溶媒本来のピークの強度Ioの値と、シフトピークの強度Isの値は、振動分光スペクトルにおける各ピークのベースラインからの高さ又は面積である。
本発明の電解液の振動分光スペクトルにおいて、有機溶媒本来のピークがシフトしたピークが複数存在する場合には、最もIsとIoの関係を判断しやすいピークに基づいて当該関係を判断すればよい。また、本発明の電解液にヘテロ元素を有する有機溶媒を複数種用いた場合には、最もIsとIoの関係を判断しやすい(最もIsとIoの差が顕著な)有機溶媒を選択し、そのピーク強度に基づいてIsとIoの関係を判断すればよい。また、ピークのシフト量が小さく、シフト前後のピークが重なってなだらかな山のように見える場合は、既知の手段を用いてピーク分離を行い、IsとIoの関係を判断してもよい。
なお、ヘテロ元素を有する有機溶媒を複数種用いた電解液の振動分光スペクトルにおいては、カチオンと最も配位し易い有機溶媒(以下、「優先配位溶媒」ということがある。)のピークが他に優先してシフトする。ヘテロ元素を有する有機溶媒を複数種用いた電解液において、ヘテロ元素を有する有機溶媒全体に対する優先配位溶媒の質量%は、40%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましく、80%以上が特に好ましい。また、ヘテロ元素を有する有機溶媒を複数種用いた電解液において、ヘテロ元素を有する有機溶媒全体に対する優先配位溶媒の体積%は、40%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましく、80%以上が特に好ましい。
上記二つのピーク強度の関係は、Is>2×Ioの条件を満たすことが好ましく、Is>3×Ioの条件を満たすことがさらに好ましく、Is>5×Ioの条件を満たすことが特に好ましい。最も好ましいのは、本発明の電解液の振動分光スペクトルにおいて、有機溶媒本来のピークの強度Ioが観察されず、シフトピークの強度Isが観察される電解液である。当該電解液においては、電解液に含まれる有機溶媒の分子すべてが金属塩と完全に溶媒和していることを意味する。本発明の電解液は、電解液に含まれる有機溶媒の分子すべてが金属塩と完全に溶媒和している状態(Io=0の状態)が最も好ましい。
本発明の電解液においては、金属塩と、ヘテロ元素を有する有機溶媒(又は優先配位溶媒)が、相互作用を及ぼしていると推定される。具体的には、金属塩と、ヘテロ元素を有する有機溶媒(又は優先配位溶媒)のヘテロ元素とが、配位結合を形成し、金属塩とヘテロ元素を有する有機溶媒(又は優先配位溶媒)からなる安定なクラスターを形成していると推定される。このクラスターは、後述する実施例の結果からみて、概ね、金属塩1分子に対し、ヘテロ元素を有する有機溶媒(又は優先配位溶媒)2分子が配位することにより形成されていると推定される。この点を考慮すると、本発明の電解液における、金属塩1モルに対するヘテロ元素を有する有機溶媒(又は優先配位溶媒)のモル範囲は、1.4モル以上3.5モル未満が好ましく、1.5モル以上3.1モル以下がより好ましく、1.6モル以上3モル以下がさらに好ましい。
本発明の電解液の粘度η(mPa・s)は、10<η<500の範囲が好ましく、12<η<400の範囲がより好ましく、15<η<300の範囲がさらに好ましく、18<η<150の範囲が特に好ましく、20<η<140の範囲が最も好ましい。
本発明の電解液は、優れたイオン伝導度を示す。このため、本発明の非水系二次電池は、電池特性に優れる。なお、本発明の電解液のイオン伝導度σ(mS/cm)は1≦σであるのが好ましい。
本発明の電解液のイオン伝導度σ(mS/cm)は高ければ高いほど、好適にイオンを移動することができ、優れた電池の電解液となり得る。本発明の電解液のイオン伝導度σ(mS/cm)につき、あえて、上限を含めた好適な範囲を示すと、2<σ<200の範囲が好ましく、3<σ<100の範囲がより好ましく、4<σ<50の範囲がさらに好ましく、5<σ<35の範囲が特に好ましい。
本発明の電解液における密度d(g/cm3)は、好ましくはd≧1.2又はd≦2.2であり、1.2≦d≦2.2の範囲内がより好ましく、1.24≦d≦2.0の範囲内がより好ましく、1.26≦d≦1.8の範囲内がさらに好ましく、1.27≦d≦1.6の範囲内が特に好ましい。なお、本発明の電解液における密度d(g/cm3)は、20℃での密度を意味する。以下に説明するd/cは上記dを塩濃度c(mol/L)で除した値である。
本発明の電解液におけるd/cは0.15≦d/c≦0.71であり、0.15≦d/c≦0.56の範囲内が好ましく、0.25≦d/c≦0.56の範囲内がより好ましく、0.26≦d/c≦0.50の範囲内がさらに好ましく、0.27≦d/c≦0.47の範囲内が特に好ましい。
本発明の電解液におけるd/cは、金属塩と有機溶媒を特定した場合でも規定することができる。例えば、金属塩としてLiTFSA、有機溶媒としてDMEを選択した場合には、d/cは0.42≦d/c≦0.56の範囲内が好ましく、0.44≦d/c≦0.52の範囲内がより好ましい。金属塩としてLiTFSA、有機溶媒としてANを選択した場合には、d/cは0.35≦d/c≦0.41の範囲内が好ましく、0.36≦d/c≦0.39の範囲内がより好ましい。金属塩としてLiFSA、有機溶媒としてDMEを選択した場合には、d/cは0.32≦d/c≦0.46の範囲内が好ましく、0.34≦d/c≦0.42の範囲内がより好ましい。金属塩としてLiFSA、有機溶媒としてANを選択した場合には、d/cは0.25≦d/c≦0.48の範囲内が好ましく、0.25≦d/c≦0.38の範囲がより好ましく、0.25≦d/c≦0.31の範囲内がさらに好ましく、0.26≦d/c≦0.29の範囲内がなお好ましい。金属塩としてLiFSA、有機溶媒としてDMCを選択した場合には、d/cは0.32≦d/c≦0.46の範囲内が好ましく、0.34≦d/c≦0.42の範囲内がより好ましい。金属塩としてLiFSA、有機溶媒としてEMCを選択した場合には、d/cは0.34≦d/c≦0.50の範囲内が好ましく、0.37≦d/c≦0.45の範囲内がより好ましい。金属塩としてLiFSA、有機溶媒としてDECを選択した場合には、d/cは0.36≦d/c≦0.54の範囲内が好ましく、0.39≦d/c≦0.48の範囲内がより好ましい。
本発明の電解液は、従来の電解液と比較して、金属塩と有機溶媒の存在環境が異なり、密度が高いため、電解液中の金属イオン輸送速度の向上(特に、金属がリチウムの場合、リチウム輸率の向上)、電極と電解液界面の反応速度の向上、電池のハイレート充放電時に起こる電解液の塩濃度の偏在の緩和、電気二重層容量増大などが期待できる。さらに、本発明の電解液においては、密度が高いことから、電解液に含まれる有機溶媒の蒸気圧が低くなる。その結果として、本発明の電解液からの有機溶媒の揮発が低減できる。
本発明の電解液においては、概ね、金属塩1分子に対し、ヘテロ元素を有する有機溶媒(又は優先配位溶媒)2分子が配位することによりクラスター形成されていると推定されるため、本発明の電解液の濃度(mol/L)は、金属塩及び有機溶媒それぞれの分子量と、溶液にした場合の密度に依存する。そのため、本発明の電解液の濃度を一概に規定することは適当でない。
本発明の電解液の濃度(mol/L)を表1に個別に例示する。
クラスターを形成している有機溶媒と、クラスターの形成に関与していない有機溶媒とは、それぞれの存在環境が異なる。そのため、振動分光測定において、クラスターを形成している有機溶媒由来のピークは、クラスターの形成に関与していない有機溶媒由来のピーク(有機溶媒本来のピーク)の観察される波数から、高波数側又は低波数側にシフトして観察される。すなわち、シフトピークは、クラスターを形成している有機溶媒のピークに相当する。
振動分光スペクトルとしては、IRスペクトル又はラマンスペクトルを挙げることができる。IR測定の測定方法としては、ヌジョール法、液膜法などの透過測定方法、ATR法などの反射測定方法を挙げることができる。IRスペクトル又はラマンスペクトルのいずれを選択するかについては、本発明の電解液の振動分光スペクトルにおいて、IsとIoの関係を判断しやすいスペクトルの方を選択すれば良い。なお、振動分光測定は、大気中の水分の影響を軽減又は無視できる条件で行うのがよい。例えば、ドライルーム、グローブボックスなどの低湿度又は無湿度条件下でIR測定を行うこと、又は、本発明の電解液を密閉容器に入れたままの状態でラマン測定を行うのがよい。
ここで、金属塩としてLiTFSA、有機溶媒としてアセトニトリルを含む本発明の電解液におけるピークにつき、具体的に説明する。
アセトニトリルのみをIR測定した場合、C及びN間の三重結合の伸縮振動に由来するピークが通常2100〜2400cm−1付近に観察される。
ここで、従来の技術常識に従い、アセトニトリル溶媒に対しLiTFSAを1mol/Lの濃度で溶解して電解液とした場合を想定する。アセトニトリル1Lは約19molに該当するので、従来の電解液1Lには、1molのLiTFSAと19molのアセトニトリルが存在する。そうすると、従来の電解液においては、LiTFSAと溶媒和している(Liに配位している)アセトニトリルと同時に、LiTFSAと溶媒和していない(Liに配位していない)アセトニトリルが多数存在する。さて、LiTFSAと溶媒和しているアセトニトリル分子と、LiTFSAと溶媒和していないアセトニトリル分子とは、アセトニトリル分子の置かれている環境が異なるので、IRスペクトルにおいては、両者のアセトニトリルピークが区別して観察される。より具体的には、LiTFSAと溶媒和していないアセトニトリルのピークは、アセトニトリルのみをIR測定した場合と同様の位置(波数)に観察されるが、他方、LiTFSAと溶媒和しているアセトニトリルのピークは、ピーク位置(波数)が高波数側にシフトして観察される。
そして、従来の電解液の濃度においては、LiTFSAと溶媒和していないアセトニトリルが多数存在するのであるから、従来の電解液の振動分光スペクトルにおいて、アセトニトリル本来のピークの強度Ioと、アセトニトリル本来のピークがシフトしたピークの強度Isとの関係は、Is<Ioとなる。
他方、本発明の電解液は従来の電解液と比較してLiTFSAの濃度が高く、かつ、電解液においてLiTFSAと溶媒和している(クラスターを形成している)アセトニトリル分子の数が、LiTFSAと溶媒和していないアセトニトリル分子の数よりも多い。そうすると、本発明の電解液の振動分光スペクトルにおける、アセトニトリル本来のピークの強度Ioと、アセトニトリル本来のピークがシフトしたピークの強度Isとの関係は、Is>Ioとなる。
表2に、本発明の電解液の振動分光スペクトルにおいて、Io及びIsの算出に有用と考えられる有機溶媒の波数と、その帰属を例示する。なお、振動分光スペクトルの測定装置、測定環境、測定条件に因って、観察されるピークの波数が以下の波数と異なる場合があることを付け加えておく。
有機溶媒の波数とその帰属につき、公知のデータを参考としてもよい。参考文献として、日本分光学会測定法シリーズ17 ラマン分光法、濱口宏夫、平川暁子、学会出版センター、231〜249頁を挙げる。また、コンピュータを用いた計算でも、Io及びIsの算出に有用と考えられる有機溶媒の波数と、有機溶媒と金属塩が配位した場合の波数シフトを予測することができる。例えば、Gaussian09(登録商標、ガウシアン社)を用い、密度汎関数をB3LYP、基底関数を6−311G++(d,p)として計算すればよい。当業者は、表2の記載、公知のデータ、コンピュータでの計算結果を参考にして、有機溶媒のピークを選定し、Io及びIsを算出することができる。
本発明の電解液は、従来の電解液と比較して、金属塩と有機溶媒の存在環境が異なり、かつ、金属塩濃度が高いため、電解液中の金属イオン輸送速度の向上(特に、金属がリチウムの場合、リチウム輸率の向上)、電極と電解液界面の反応速度の向上、電池のハイレート充放電時に起こる電解液の塩濃度の偏在の緩和、電気二重層容量の増大などが期待できる。さらに、本発明の電解液においては、ヘテロ元素を有する有機溶媒の大半が金属塩とクラスターを形成していることから、電解液に含まれる有機溶媒の蒸気圧が低くなる。その結果として、本発明の電解液からの有機溶媒の揮発が低減できる。
本発明の電解液は、従来の電池の電解液と比較して、粘度が高い。例えば本発明の電解液の好ましいLi濃度は、一般的な電解液のLi濃度の2〜5倍程度である。そのため、本発明の電解液を用いた電池であれば、仮に電池が破損したとしても、電解液漏れが抑制される。また、従来の電解液を用いた二次電池は、高速充放電サイクル時に容量減少が顕著であった。その理由としては、急速に充放電を繰り返した際の電解液中に生じたLi濃度ムラに因り、電極との反応界面に十分な量のLiを電解液が供給できなくなったこと、つまり、電解液のLi濃度の偏在が考えられる。しかしながら、本発明の電解液を用いた二次電池は、高速充放電時に容量が好適に維持されることが明らかになった。本発明の電解液の高粘度との物性により、電解液のLi濃度の偏在を抑制できたことが理由と考えられる。また、本発明の電解液の高粘度との物性により、電極界面における電解液の保液性が向上し、電極界面で電解液が不足する状態(いわゆる液枯れ状態)を抑制することができたことが理由と考えられる。
ところで、本発明の電解液は金属塩のカチオンを高濃度で含有する。このため、本発明の電解液中において、隣り合うカチオン間の距離は極めて近い。そして、非水系二次電池の充放電時にリチウムイオン等のカチオンが正極と負極との間を移動する際には、移動先の電極に直近のカチオンが先ず当該電極に供給される。そして、供給された当該カチオンがあった場所には、当該カチオンに隣り合う他のカチオンが移動する。つまり、本発明の電解液中においては、隣り合うカチオンが供給対象となる電極に向けて順番に一つずつ位置を変えるという、ドミノ倒し様の現象が生じていると予想される。このため、充放電時のカチオンの移動距離は短く、その分だけカチオンの移動速度が高いと考えられる。そして、このことに起因して、本発明の電解液を有する本発明の非水系二次電池の反応速度は高いと考えられる。また、後述するように、本発明の非水系二次電池は電極(つまり負極および/または正極)にS,O含有皮膜を有し、当該S,O含有皮膜はS=O構造を有するとともに多くのカチオンを含むと考えられる。このS,O含有皮膜に含まれるカチオンは電極に優先的に供給されると考えられる。よって、本発明の非水系二次電池においては、電極近傍に豊富なカチオン源(つまりS,O含有皮膜)を有することによってもカチオンの輸送速度がさらに向上すると考えられる。したがって、本発明の非水系二次電池においては、本発明の電解液とS,O含有皮膜との協働によって、優れた電池特性が発揮されると考えられる。
本発明の電解液の製造方法を説明する。本発明の電解液は従来の電解液と比較して金属塩の含有量が多いため、固体(粉体)の金属塩に有機溶媒を加える製造方法では凝集体が得られてしまい、溶液状態の電解液を製造するのが困難である。よって、本発明の電解液の製造方法においては、有機溶媒に対し金属塩を徐々に加え、かつ、電解液の溶液状態を維持しながら製造することが好ましい。
金属塩と有機溶媒の種類に因り、本発明の電解液は、従来考えられてきた飽和溶解度を超えて金属塩が有機溶媒に溶解している液体を包含する。そのような本発明の電解液の製造方法は、ヘテロ元素を有する有機溶媒と金属塩とを混合し、金属塩を溶解して、第1電解液を調製する第1溶解工程と、撹拌及び/又は加温条件下、前記第1電解液に前記金属塩を加え、前記金属塩を溶解し、過飽和状態の第2電解液を調製する第2溶解工程と、撹拌及び/又は加温条件下、前記第2電解液に前記金属塩を加え、前記金属塩を溶解し、第3電解液を調製する第3溶解工程を含む。
ここで、上記「過飽和状態」とは、撹拌及び/又は加温条件を解除した場合、又は、振動等の結晶核生成エネルギーを与えた場合に、電解液から金属塩結晶が析出する状態のことを意味する。第2電解液は「過飽和状態」であり、第1電解液及び第3電解液は「過飽和状態」でない。
換言すると、本発明の電解液の上記製造方法は、熱力学的に安定な液体状態であり従来の金属塩濃度を包含する第1電解液を経て、熱力学的に不安定な液体状態の第2電解液を経由し、そして、熱力学的に安定な新たな液体状態の第3電解液、すなわち本発明の電解液となる。
安定な液体状態の第3電解液は通常の条件で液体状態を保つことから、第3電解液においては、例えば、リチウム塩1分子に対し有機溶媒2分子で構成されこれらの分子間の強い配位結合によって安定化されたクラスターがリチウム塩の結晶化を阻害していると推定される。
第1溶解工程は、ヘテロ原子を有する有機溶媒と金属塩とを混合し、金属塩を溶解して、第1電解液を調製する工程である。
ヘテロ原子を有する有機溶媒と金属塩とを混合するためには、ヘテロ原子を有する有機溶媒に対し金属塩を加えても良いし、金属塩に対しヘテロ原子を有する有機溶媒を加えても良い。
第1溶解工程は、撹拌及び/又は加温条件下で行われるのが好ましい。撹拌速度については適宜設定すればよい。加温条件については、ウォーターバス又はオイルバスなどの恒温槽で適宜制御するのが好ましい。金属塩の溶解時には溶解熱が発生するので、熱に不安定な金属塩を用いる場合には、温度条件を厳密に制御することが好ましい。また、あらかじめ、有機溶媒を冷却しておいても良いし、第1溶解工程を冷却条件下で行ってもよい。
第1溶解工程と第2溶解工程は連続して実施しても良いし、第1溶解工程で得た第1電解液を一旦保管(静置)しておき、一定時間経過した後に、第2溶解工程を実施しても良い。
第2溶解工程は、撹拌及び/又は加温条件下、第1電解液に金属塩を加え、金属塩を溶解し、過飽和状態の第2電解液を調製する工程である。
第2溶解工程は、熱力学的に不安定な過飽和状態の第2電解液を調製するため、撹拌及び/又は加温条件下で行うことが必須である。ミキサー等の撹拌器を伴った撹拌装置で第2溶解工程を行うことにより、撹拌条件下としても良いし、撹拌子と撹拌子を動作させる装置(スターラー)を用いて第2溶解工程を行うことにより、撹拌条件下としても良い。加温条件については、ウォーターバス又はオイルバスなどの恒温槽で適宜制御するのが好ましい。もちろん、撹拌機能と加温機能を併せ持つ装置又はシステムを用いて第2溶解工程を行うことが特に好ましい。なお、ここでいう加温とは、対象物を常温(25℃)以上の温度に温めることを指す。加温温度は30℃以上であるのがより好ましく、35℃以上であるのがさらに好ましい。また、加温温度は、有機溶媒の沸点よりも低い温度であるのが良い。
第2溶解工程において、加えた金属塩が十分に溶解しない場合には、撹拌速度の増加及び/又はさらなる加温を実施する。この場合には、第2溶解工程の電解液にヘテロ原子を有する有機溶媒を少量加えてもよい。
第2溶解工程で得た第2電解液を一旦静置すると金属塩の結晶が析出してしまうので、第2溶解工程と第3溶解工程は連続して実施するのが好ましい。
第3溶解工程は、撹拌及び/又は加温条件下、第2電解液に金属塩を加え、金属塩を溶解し、第3電解液を調製する工程である。第3溶解工程では、過飽和状態の第2電解液に金属塩を加え、溶解する必要があるので、第2溶解工程と同様に撹拌及び/又は加温条件下で行うことが必須である。具体的な撹拌及び/又は加温条件は、第2溶解工程の条件と同様である。
第1溶解工程、第2溶解工程及び第3溶解工程を通じて加えた有機溶媒と金属塩とのモル比が概ね2:1程度となれば、第3電解液(本発明の電解液)の製造が終了する。撹拌及び/又は加温条件を解除しても、本発明の電解液から金属塩結晶は析出しない。これらの事情からみて、本発明の電解液は、例えば、リチウム塩1分子に対し有機溶媒2分子からなり、これらの分子間の強い配位結合によって安定化されたクラスターを形成していると推定される。
なお、本発明の電解液を製造するにあたり、金属塩と有機溶媒の種類に因り、各溶解工程での処理温度において、上記過飽和状態を経由しない場合であっても、上記第1〜3溶解工程で述べた具体的な溶解手段を用いて本発明の電解液を適宜製造することができる。
また、本発明の電解液の製造方法においては、製造途中の電解液を振動分光測定する振動分光測定工程を有するのが好ましい。具体的な振動分光測定工程としては、例えば、製造途中の各電解液を一部サンプリングして振動分光測定に供する方法でも良いし、各電解液をin situ(その場)で振動分光測定する方法でも良い。電解液をin situで振動分光測定する方法としては、透明なフローセルに製造途中の電解液を導入して振動分光測定する方法、又は、透明な製造容器を用いて該容器外からラマン測定する方法を挙げることができる。
本発明の電解液の製造方法に振動分光測定工程を含めることにより、電解液におけるIsとIoとの関係を製造途中で確認できるため、製造途中の電解液が本発明の電解液に達したのか否かを判断することができるし、また、製造途中の電解液が本発明の電解液に達していない場合にどの程度の量の金属塩を追加すれば本発明の電解液に達するのかを把握することができる。
本発明の電解液には、上記ヘテロ元素を有する有機溶媒以外に、低極性(低誘電率)または低ドナー数であって、金属塩と特段の相互作用を示さない溶媒、すなわち、本発明の電解液における上記クラスターの形成及び維持に影響を与えない溶媒を加えることができる。このような溶媒を本発明の電解液に加えることにより、本発明の電解液の上記クラスターの形成を保持したままで、本発明の電解液の粘度を低くする効果が期待できる。
金属塩と特段の相互作用を示さない溶媒としては、具体的にベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、1−メチルナフタレン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンを例示することができる。
また、本発明の電解液には、上記ヘテロ元素を有する有機溶媒以外に、難燃性の溶媒を加えることができる。難燃性の溶媒を本発明の電解液に加えることにより、本発明の電解液の安全度をさらに高めることができる。難燃性の溶媒としては、四塩化炭素、テトラクロロエタン、ハイドロフルオロエーテルなどのハロゲン系溶媒、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルなどのリン酸誘導体を例示することができる。
さらに、本発明の電解液をポリマーや無機フィラーと混合し混合物とすると、当該混合物が電解液を封じ込め、擬似固体電解質となる。擬似固体電解質を電池の電解液として用いることで、電池における電解液の液漏れを抑制することができる。
上記ポリマーとしては、リチウムイオン二次電池などの電池に使用されるポリマーや一般的な化学架橋したポリマーを採用することができる。特に、ポリフッ化ビニリデンやポリヘキサフルオロプロピレンなど電解液を吸収しゲル化し得るポリマーや、ポリエチレンオキシドなどのポリマーにイオン導電性基を導入したものが好適である。
具体的なポリマーとしては、ポリメチルアクリレート、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリグリシドール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリクロトン酸、ポリアンゲリカ酸、カルボキシメチルセルロースなどのポリカルボン酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、ポリカーボネート、無水マレイン酸とグリコール類を共重合した不飽和ポリエステル、置換基を有するポリエチレンオキシド誘導体、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体を例示できる。また、上記ポリマーとして、上記具体的なポリマーを構成する二種類以上のモノマーを共重合させた共重合体を選択しても良い。
上記ポリマーとして、多糖類も好適である。具体的な多糖類として、グリコーゲン、セルロース、キチン、アガロース、カラギーナン、ヘパリン、ヒアルロン酸、ペクチン、アミロペクチン、キシログルカン、アミロースを例示できる。また、これら多糖類を含む材料を上記ポリマーとして採用してもよく、当該材料として、アガロースなどの多糖類を含む寒天を例示することができる。
上記無機フィラーとしては、酸化物や窒化物などの無機セラミックスが好ましい。
無機セラミックスはその表面に親水性及び疎水性の官能基を有している。そのため、当該官能基が電解液を引き付けることにより、無機セラミックス内に導電性通路が形成され得る。さらに、電解液で分散した無機セラミックスは前記官能基により無機セラミックス同士のネットワークを形成し、電解液を封じ込める役割を果たし得る。無機セラミックスのこのような機能により、電池における電解液の液漏れをさらに好適に抑制することができる。無機セラミックスの上記機能を好適に発揮するために、無機セラミックスは粒子形状のものが好ましく、特にその粒子径がナノ水準のものが好ましい。
無機セラミックスの種類としては、一般的なアルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、リチウムリン酸塩などを挙げることができる。また、無機セラミックス自体にリチウム伝導性があるものでも良く、具体的には、Li3N、LiI、LiI−Li3N−LiOH、LiI−Li2S−P2O5、LiI−Li2S−P2S5、LiI−Li2S−B2S3、Li2O−B2S3、Li2O−V2O3−SiO2、Li2O−B2O3−P2O5、Li2O−B2O3−ZnO、Li2O−Al2O3−TiO2−SiO2−P2O5、LiTi2(PO4)3、Li−βAl2O3、LiTaO3を例示することができる。
無機フィラーとしてガラスセラミックスを採用してもよい。ガラスセラミックスはイオン性液体を封じ込めることができるので、本発明の電解液に対しても同様の効果を期待できる。ガラスセラミックスとしては、xLi2S−(1−x)P2S5で表される化合物、並びに、当該化合物のSの一部を他の元素で置換したもの、及び、当該化合物のPの一部をゲルマニウムに置換したものを例示できる。
以上説明した本発明の電解液は、優れたイオン伝導度を示すので、電池など蓄電装置の電解液として好適に使用される。特に、二次電池の電解液として使用されるのが好ましく、中でもリチウムイオン二次電池の電解液として使用されるのが好ましい。
以下に、上記本発明の電解液を用いた非水系二次電池を説明する。
非水系二次電池は、リチウムイオン等の電荷担体を吸蔵及び放出し得る負極活物質を有する負極と、当該電荷担体を吸蔵及び放出し得る正極活物質を有する正極と、本発明の電解液とを備える。本発明の電解液は金属塩としてリチウム塩を採用したため、リチウムイオン二次電池用の電解液として特に好適である。
<負極>
負極は、集電体と、集電体表面に結着させた負極活物質層とを有する。
[集電体]
集電体は、非水系二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体をいう。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
[負極活物質層]
負極活物質層は負極活物質と一般にバインダを含む。さらに導電助剤を含むことが好ましい。
負極活物質は、長軸と短軸の比(長軸/短軸)が1〜5である黒鉛を含む。長軸と短軸の比(長軸/短軸)が1〜5である代表的な黒鉛として、球状黒鉛、MCMB(メソカーボンマイクロビーズ)等が挙げられる。球状黒鉛は、人造黒鉛、天然黒鉛、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素などの炭素材料であって、形状が球状又はほぼ球状であるものをいう。
球状黒鉛粒子は、原料黒鉛を比較的破砕力の小さい衝撃式粉砕機で粉砕しながら、この薄片を集めて、圧縮球状化して得られる。衝撃式粉砕機としては、例えばハンマーミルやピンミルを使用することができる。回転するハンマーやピンの外周線速度は50〜200m/秒程度が好ましい。また、これらの粉砕機に対する黒鉛の供給や排出は、空気等の気流に同伴させて行うことが好ましい。
黒鉛粒子の球状化の程度は、粒子の長軸と短軸の比(長軸/短軸:以下、アスペクト比という)で表すことができる。即ち、黒鉛粒子の任意の断面において、重心で直交する軸線のうちアスペクト比が最大となるものを選んだときに、このアスペクト比が1に近い程、真球に近いことになる。上記の球状化処理により、アスペクト比を容易に5以下(1〜5)とすることができる。また、球状化処理を充分に行えば、アスペクト比を3以下(1〜3)とすることができる。本発明に用いられる黒鉛は、粒子のアスペクト比が1〜5である。1〜3であることが好ましい。アスペクト比を5以下とすることで、負極活物質層内における電解液の拡散経路が短くなるため、電解液起因の抵抗成分を低減できるので入出力を向上できると考えられる。アスペクト比が1となった時、黒鉛は最も真球に近い形状となり電解液の拡散経路を最も短くできる。
ところで黒鉛は、その結晶構造に由来して基底面で割れやすい性質を持つため扁平形状となりやすい。そのため、負極活物質層において扁平状の黒鉛が配列すると、集電体表面と平行に黒鉛結晶の基底面が配向する割合が多くなって、XRD分析における基底面に由来するI(002)などの回折強度が相対的に強くなる。
この特徴を利用してI(110)といった基底面とは別の結晶面に由来する回折強度との比[I(110)/I(004)]を調べることで、扁平形状の黒鉛をどれくらい含むのかといった情報を間接的に調べることができる。したがって本発明に用いられる黒鉛は、I(110)/I(004)が0.03〜1となる範囲であることが好ましい。このような黒鉛を用いることで、扁平状粒子の配列が少なくなり、負極活物質層内における電解液の拡散経路が短くなるため、入出力特性が向上する。
また黒鉛粒子は、BET比表面積が0.5〜15m3/gの範囲のものが好ましい。BET比表面積が15m3/gを超えると電解液との副反応が加速する傾向があり、0.5m3/g未満では反応抵抗が大きくなって入出力が低下する場合がある。
負極活物質は、アスペクト比が1〜5である黒鉛を主とすれば、アスペクト比がこの範囲外の黒鉛あるいは非晶質炭素などを含むこともできる。
また例えばリチウムイオン二次電池の場合には、上記黒鉛に加えて、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る他の材料を含むこともできる。他の材料としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能である単体、合金または化合物であれば特に限定はない。たとえば、Liや、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、錫などの14族元素、アルミニウム、インジウムなどの13族元素、亜鉛、カドミウムなどの12族元素、アンチモン、ビスマスなどの15族元素、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、銀、金などの11族元素をそれぞれ単体で採用すればよい。ケイ素などを負極活物質に採用すると、ケイ素1原子が複数のリチウムと反応するため、高容量の活物質となるが、リチウムの吸蔵及び放出に伴う体積の膨張及び収縮が顕著となるとの問題が生じる恐れがあるため、当該恐れの軽減のために、ケイ素などの単体に遷移金属などの他の元素を組み合わせた合金又は化合物を負極活物質として採用するのも好適である。合金又は化合物の具体例としては、Ag−Sn合金、Cu−Sn合金、Co−Sn合金等の錫系材料、各種黒鉛などの炭素系材料、ケイ素単体と二酸化ケイ素に不均化するSiOx(0.3≦x≦1.6)などのケイ素系材料、ケイ素単体若しくはケイ素系材料と炭素系材料を組み合わせた複合体が挙げられる。また、負極活物質として、Nb2O5、TiO2、Li4Ti5O12、WO2、MoO2、FE2O3等の酸化物、又は、Li3−xMxN(M=Co、Ni、Cu)で表される窒化物を採用しても良い。負極活物質として、これらのものの一種以上を使用することができる。
バインダは活物質及び導電助剤を集電体の表面に繋ぎ止める役割を果たすものである。
バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、ポリアクリル酸(PAA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)などの親水基を有するポリマーなどを例示することができる。負極活物質層中のバインダの配合割合は、質量比で、負極活物質:バインダ=1:0.005〜1:0.3であるのが好ましい。バインダが少なすぎると電極の成形性が低下し、また、バインダが多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
負極活物質層中に必要に応じて含まれる導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。導電助剤としては、化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)が例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。負極活物質層中の導電助剤の配合割合は、特に限定的ではないが、質量比で、負極活物質:導電助剤=1:0.01〜1:0.5であるのが好ましい。導電助剤が少なすぎると効率のよい導電パスを形成できず、また、導電助剤が多すぎると負極活物質層の成形性が悪くなるとともに電極のエネルギー密度が低くなるためである。
非水系二次電池の負極を作製するには、負極活物質粉末と、炭素粉末などの導電助剤と、バインダと、適量の溶剤を加えて混合しスラリーにしたものを、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの方法で集電体上に塗布し、バインダを乾燥あるいは硬化させることによって作製することができる。溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
<正極>
非水系二次電池に用いられる正極は、電荷担体を吸蔵及び放出し得る正極活物質を有する。正極は、集電体と、集電体の表面に結着させた正極活物質層を有する。正極活物質層は正極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。正極の集電体は、使用する活物質に適した電圧に耐え得る金属であれば特に制限はなく、例えば、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。なお、本発明の非水系二次電池がリチウムイオン二次電池であり、正極の電位をリチウム基準で4V以上とする場合には、アルミニウム製の集電体を採用するのが好ましい。
本発明の電解液はアルミニウム製の集電体を腐食させ難い。つまり、本発明の電解液を使用するとともに正極にアルミニウム集電体を用いた非水系二次電池は、高電位でもAlの溶出が起こり難いと考えられる。Alの溶出が起こり難いとされる理由は明確ではないが、本発明の電解液は、従来の電解液とは金属塩と有機溶媒の種類、存在環境および金属塩濃度が異なる。このため、従来の電解液に比べて、本発明の電解液に対するAlの溶解性が低いのではないかと推測される。
具体的には、正極用集電体として、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるものを用いるのが好ましい。ここでアルミニウムは、純アルミニウムを指し、純度99.0%以上のアルミニウムを純アルミニウムと称する。純アルミニウムに種々の元素を添加して合金としたものをアルミニウム合金と称する。アルミニウム合金としては、Al−Cu系、Al−Mn系、Al−Fe系、Al−Si系、Al−Mg系、Al−Mg−Si系、Al−Zn−Mg系が挙げられる。
また、アルミニウムまたはアルミニウム合金として、具体的には、例えばJIS A1085、A1N30等のA1000系合金(純アルミニウム系)、JIS A3003、A3004等のA3000系合金(Al−Mn系)、JIS A8079、A8021等のA8000系合金(Al−Fe系)が挙げられる。
集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
正極の結着剤および導電助剤は負極で説明したものと同様である。
正極活物質としては、層状化合物のLiaNibCocMndDeOf(0.2≦a≦1.2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、Zr、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、Laから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1)、Li2MnO3を挙げることができる。また、正極活物質として、LiMn2O4等のスピネル、及びスピネルと層状化合物の混合物で構成される固溶体、LiMPO4、LiMVO4又はLi2MSiO4(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)などで表されるポリアニオン系化合物を挙げることができる。
さらに、正極活物質として、LiFePO4FなどのLiMPO4F(Mは遷移金属)で表されるタボライト系化合物、LiFeBO3などのLiMBO3(Mは遷移金属)で表されるボレート系化合物を挙げることができる。正極活物質として用いられるいずれの金属酸化物も上記の組成式を基本組成とすればよく、基本組成に含まれる金属元素を他の金属元素で置換したものも使用可能である。
また、正極活物質として、充放電に寄与する電荷担体を含まない正極活物質を用いることもできる。たとえばリチウムイオン二次電池であれば、硫黄単体(S)、硫黄と炭素を複合化した化合物、TiS2などの金属硫化物、V2O5、MnO2などの酸化物、ポリアニリン及びアントラキノン並びにこれら芳香族を化学構造に含む化合物、共役二酢酸系有機物などの共役系材料、その他公知の材料を正極活物質に採用することもできる。さらに、ニトロキシド、ニトロニルニトロキシド、ガルビノキシル、フェノキシルなどの安定なラジカルを有する化合物を正極活物質として採用してもよい。
リチウム等の電荷担体を含まない正極活物質材料を用いる場合には、正極および/又は負極に、公知の方法により、予め電荷担体を添加させておく必要がある。具体的には、電荷担体は、イオンの状態で添加しても良いし、金属或いは化合物等の非イオンの状態で添加しても良い。例えば、リチウム箔等を正極および/または負極に貼り付けるなどして一体化しても良い。正極は、負極と同様に、導電助剤およびバインダ等を含有しても良い。導電助剤およびバインダは特に限定されず、上記した負極同様に、非水系二次電池に使用可能なものであれば良い。
集電体の表面に活物質層を形成させるには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質、並びに必要に応じて結着剤及び導電助剤を含む活物質層形成用組成物を調製し、この組成物に適当な溶剤を加えてペースト状にしてから、集電体の表面に塗布後、乾燥する。溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
非水系二次電池には必要に応じてセパレータが用いられる。セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。本発明の電解液は粘度がやや高く極性が高いため、水などの極性溶媒が浸み込みやすい膜が好ましい。具体的には、存在する空隙の90%以上に水などの極性溶媒が浸み込む膜がさらに好ましい。
正極および負極に必要に応じてセパレータを挟装させ電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体および負極の集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に本発明の電解液を加えて非水系二次電池とするとよい。また、本発明の非水系二次電池は、電極に含まれる活物質の種類に適した電圧範囲で充放電を実行されればよい。
本発明の電解液を用いる非水系二次電池において、負極表面および/または正極表面には本発明の電解液に由来する特殊構造のSEI皮膜が生成する。このような特殊構造のSEI皮膜は、本発明の電解液との協働によって、非水系二次電池の電池特性の向上(電池寿命の向上や入出力特性の向上等)に寄与する。この特殊構造のSEI皮膜(必要に応じてS,O含有皮膜と呼ぶ)は、後述するように、少なくともSおよびOを含み、S=O構造を有するものである。
本発明の非水系二次電池の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
本発明の非水系二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部に非水系二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、たとえば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両に非水系二次電池を搭載する場合には、非水系二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。非水系二次電池を搭載する機器としては、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明の非水系二次電池は、風力発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
以下、実施例、比較例等によって本発明の実施形態を具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。以下において、特に断らない限り、「部」とは質量部を意味し、「%」とは質量%を意味する。
(実施例1)
<電解液の作製>
有機溶媒であるアセトニトリル約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のアセトニトリルに対し、リチウム塩である(FSO2)2NLi(以下、LiFSAという)を徐々に加え、溶解させた。LiFSAを全量で16.83g加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでアセトニトリルを加えた。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。得られた本発明の電解液におけるLiFSAの濃度は4.5mol/Lであり、LiFSAの1分子に対しアセトニトリル2.4分子が含まれている。
(評価例1:IR測定)
得られた本発明の電解液と、アセトニトリルと、LiFSAについて、以下の条件でIR測定を行った。2100〜2400cm−1の範囲のIRスペクトルをそれぞれ図1〜図3に示す。図の横軸は波数(cm−1)であり、縦軸は吸光度(反射吸光度)である。
<IR測定条件>
装置:FT−IR(ブルカーオプティクス社製)
測定条件:ATR法(ダイヤモンド使用)
測定雰囲気:不活性ガス雰囲気下
図2で示されるアセトニトリルのIRスペクトルの2250cm−1付近には、アセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが観察された。なお、図3で示されるLiFSAのIRスペクトルの2250cm−1付近には、特段のピークが観察されなかった。
図1で示される本発明の電解液のIRスペクトルには、2250cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.00997)観察された。さらに図1のIRスペクトルには、2250cm−1付近から高波数側にシフトした2280cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.08288で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=11×Ioであった。
[比較例1]
3.74gのLiFSAを用い、実施例1と同様の方法で、LiFSAの濃度が1.0mol/Lである比較例1の電解液を製造した。比較例1の電解液においては、LiFSAの1分子に対しアセトニトリル17分子が含まれている。
図4で示される比較例1の電解液のIRスペクトルには、図1と同じく、2250cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Io=0.04975で観察された。さらに図4のIRスペクトルには、2250cm−1付近から高波数側にシフトした2280cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.03804で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs<Ioであった。
(評価例2:粘度測定)
落球式粘度計(AntonPaar GmbH(アントンパール社)製 Lovis 2000 M)を用い、Ar雰囲気下、試験セルに電解液を封入し、30℃の条件下で粘度を測定した。
実施例1に係る本発明の電解液の粘度は、比較例1に係る電解液の粘度より高く高粘度といえる。よって、実施例1に係る本発明の電解液を用いた電池であれば、仮に電池が破損したとしても、電解液漏れが抑制される。
(評価例3:イオン伝導度測定)
Ar雰囲気下、白金極を備えたセル定数既知のガラス製セルに、電解液を封入し、30℃、1kHzでのインピーダンスを測定した。インピーダンスの測定結果から、イオン伝導度を算出した。測定機器はSolartron 147055BEC(ソーラトロン社)を使用した。
実施例1に係る本発明の電解液のイオン伝導度を上記の条件で測定したところ、9.7mS/cmであり優れたイオン伝導性を示した。よって実施例1に係る本発明の電解液は、各種の電池の電解液として機能し得ると理解できる。
(評価例4:揮発性測定)
実施例1に係る本発明の電解液と、比較例1に係る電解液の揮発性を以下の方法で測定した。
約10mgの電解液をアルミニウム製のパンに入れ、熱重量測定装置(TAインスツルメント社製、SDT600)に配置し、室温での電解液の重量変化を測定した。重量変化(質量%)を時間で微分することで揮発速度を算出した。揮発速度のうち最大のものを選択し、表4に示した。
実施例1に係る電解液の最大揮発速度は、比較例1に係る電解液の最大揮発速度と比較して、著しく小さかった。よって、本発明の電解液を用いた電池は、仮に損傷したとしても、電解液の揮発速度が小さいため、電池外への有機溶媒の急速な揮発が抑制される。
(評価例5:Li輸率測定)
実施例1及び比較例1の電解液のLi輸率を以下の条件で測定した。結果を表5に示す。
実施例1又は比較例1の電解液を入れたNMR管をPFG−NMR装置(ECA−500、日本電子)に供し、500MHz、磁場勾配1.26T/mの条件で、7Li、19Fを対象として、スピンエコー法を用い、磁場パルス幅を変化させながら、各電解液中のLiイオン及びアニオンの拡散係数を測定した。Li輸率は以下の式で算出した。
Li輸率=(Liイオン拡散係数)/(Liイオン拡散係数+アニオン拡散係数)
実施例1の本発明の電解液のLi輸率は、比較例1の電解液のLi輸率と比較して、著しく高かった。ここで、電解液のLiイオン伝導度は、電解液に含まれるイオン伝導度(全イオン電導度)にLi輸率を乗じて算出することができる。そうすると、本発明の電解液は、同程度のイオン伝導度を示す従来の電解液と比較して、リチウムイオン(カチオン)の輸送速度が高いといえる。
<負極の作製>
伊藤黒鉛工業株式会社製品名SG−BH8(平均粒径8μm)98質量部、ならびに結着剤であるSBR1質量部およびCMC1質量部を混合した。この混合物を適量のイオン交換水に分散させて、スラリーを作製した。なお、用いた黒鉛粒子のアスペクト比は2.1であり、X線回折で測定したI(110)/I(004)が0.035であった。
なおアスペクト比は、日本電子製クロスセクションポリッシャを用いて電極断面観察サンプルを作製した後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて活物質断面の長軸と短軸を測長し算出した。X線回折は、リガク製[SmartLab]、光学系には集中法を用いて測定し、I(110)/I(004)はI(110)及びI(004)の積分強度の比から算出した。
このスラリーを、厚さ20μmの電解銅箔(集電体)の表面に、ドクターブレードを用いて、膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を乾燥して水を除去し、その後、銅箔をプレスし、接合物を得た。
得られた接合物を真空乾燥機で100℃、6時間加熱乾燥して、負極活物質層が形成された銅箔を得た。これを負極とした。この負極における負極活物質層の目付けは8.5mg/cm2程度であった。
<正極の作製>
正極は、正極活物質層と、正極活物質層で被覆された集電体とからなる。正極活物質層は、正極活物質と、結着剤と、導電助剤とを有する。正極活物質は、LiNi0.5Co0.2MnO2からなる。結着剤は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる。導電助剤は、アセチレンブラック(AB)からなる。集電体は、厚み20μmのアルミニウム箔からなる。正極活物質層を100質量部としたときの、正極活物質と結着剤と導電助剤との含有質量比は、94:3:3である。
正極を作製するために、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、PVDF及びABを上記の質量比となるように混合し、溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を添加してペースト状の正極材とする。ペースト状の正極材を、集電体の表面にドクターブレードを用いて塗布して、正極活物質層を形成した。正極活物質層を、80℃で20分間乾燥することで、NMPを揮発により除去した。表面に正極活物質層を形成したアルミニウム箔を、ロ−ルプレス機を用いて圧縮し、アルミニウム箔と正極活物質層とを強固に密着接合させた。接合物を120℃で6時間、真空乾燥機で加熱し、所定の形状に切り取り、正極を得た。
<リチウム二次電池の作製>
上記の正極、負極及び実施例1の本発明の電解液を用いて、ラミネート型リチウムイオン二次電池を製作した。詳しくは、正極および負極の間に、セパレータとしてセルロース不織布(厚み20μm)を挟装して極板群とした。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに上記電解液を注入した。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群および電解液が密閉されたラミネート型リチウムイオン二次電池を得た。なお、正極および負極は外部と電気的に接続可能なタブを備え、このタブの一部はラミネート型リチウムイオン二次電池の外側に延出している。以下、便宜上、このリチウム二次電池を実施例1のリチウム二次電池という。実施例1のリチウム電池、および、以下の各実施例、各試験例および各参考試験例のリチウム電池、リチウムイオン二次電池の詳細を、実施例の欄の文末の表32に示す。
[比較例2]
活物質にアスペクト比が6.5の黒鉛(SECカーボン株式会社のSNOグレード(平均粒径10μm))を用いたこと以外は実施例1と同様にして負極を作製し、負極活物質層の目付けが実施例1と同程度の負極を形成した。その他は実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を得た。X線回折で測定したI(110)/I(004)は0.027であった。
[比較例3]
本発明の電解液に代えてエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを3:7(体積比)で混合した混合溶媒にLiPF6を1Mの濃度で溶解した電解液を用いたこと以外は実施例1と同様にしてリチウム二次電池を得た。
<試験・評価>
(評価例6:入力特性)
実施例1と比較例1,2のリチウムイオン電池を用い、以下の条件で入力(充電)特性を評価した。
(1) 使用電圧範囲:3V−4.2V
(2) 容量:13.5mAh
(3) SOC80%
(4) 温度:0℃、25℃
(5) 測定回数:各3回
評価条件は、充電状態(SOC)80%、0℃、25℃、使用電圧範囲3V−4.2V、容量13.5mAhである。SOC80%、0℃は、例えば、冷蔵室などで使用する場合のように入力特性が出にくい領域である。実施例1と比較例2,3の入力特性の評価は、それぞれ2秒入力と5秒入力について3回行った。入力特性の評価結果を表6、表7に示した。表の中の「2秒入力」は、充電開始から2秒後での入力を意味し、「5秒入力」は充電開始から5秒後での入力を意味している。
結果を表6及び表7に示す。なお表には、実施例1及び比較例2に用いた本発明の電解液を「FSA」と略記し、比較例3に用いた電解液を「ECPF」と略記している。
0℃及び25℃の両方で、実施例1の方が比較例2,3に比べて入出力特性が向上している。これは所定のアスペクト比を有する黒鉛と本発明の電解液を用いたことによる効果であり、特に0℃においても高い入出力特性を示すことから、低温においても電解液中のリチウムイオンの移動が円滑に進行することが示されている。
本発明の電解液として、以下の電解液を具体的に挙げる。なお、以下の電解液には、既述のものも含まれている。
(電解液A)
本発明の電解液を以下のとおり製造した。
有機溶媒である1,2−ジメトキシエタン約5mLを、撹拌子及び温度計を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中の1,2−ジメトキシエタンに対し、リチウム塩である(CF3SO2)2NLiを溶液温度が40℃以下を保つように徐々に加え、溶解させた。約13gの(CF3SO2)2NLiを加えた時点で(CF3SO2)2NLiの溶解が一時停滞したので、上記フラスコを恒温槽に投入し、フラスコ内の溶液温度が50℃となるよう加温し、(CF3SO2)2NLiを溶解させた。約15gの(CF3SO2)2NLiを加えた時点で(CF3SO2)2NLiの溶解が再び停滞したので、1,2−ジメトキシエタンをピペットで1滴加えたところ、(CF3SO2)2NLiは溶解した。さらに(CF3SO2)2NLiを徐々に加え、所定の(CF3SO2)2NLiを全量加えた。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまで1,2−ジメトキシエタンを加えた。得られた電解液は容積20mLであり、この電解液に含まれる(CF3SO2)2NLiは18.38gであった。これを電解液Aとした。電解液Aにおける(CF3SO2)2NLiの濃度は3.2mol/Lであり、密度は1.39g/cm3であった。密度は20℃で測定した。
なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
(電解液B)
電解液Aと同様の方法で、(CF3SO2)2NLiの濃度が2.8mol/Lであり、密度が1.36g/cm3である、電解液Bを製造した。
(電解液C)
有機溶媒であるアセトニトリル約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のアセトニトリルに対し、リチウム塩である(CF3SO2)2NLiを徐々に加え、溶解させた。所定の(CF3SO2)2NLiを加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでアセトニトリルを加えた。これを電解液Cとした。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
電解液Cは、(CF3SO2)2NLiの濃度が4.2mol/Lであり、密度が1.52g/cm3であった。
(電解液D)
電解液Cと同様の方法で、(CF3SO2)2NLiの濃度が3.0mol/Lであり、密度が1.31g/cm3である、電解液Dを製造した。
(電解液E)
有機溶媒としてスルホランを用いた以外は、電解液Cと同様の方法で、(CF3SO2)2NLiの濃度が3.0mol/Lであり、密度が1.57g/cm3である、電解液Eを製造した。
(電解液F)
有機溶媒としてジメチルスルホキシドを用いた以外は、電解液Cと同様の方法で、(CF3SO2)2NLiの濃度が3.2mol/Lであり、密度が1.49g/cm3である、電解液Fを製造した。
(電解液G)
リチウム塩として(FSO2)2NLiを用い、有機溶媒として1,2−ジメトキシエタンを用いた以外は、電解液Cと同様の方法で、(FSO2)2NLiの濃度が4.0mol/Lであり、密度が1.33g/cm3である、電解液Gを製造した。
(電解液H)
電解液Gと同様の方法で、(FSO2)2NLiの濃度が3.6mol/Lであり、密度が1.29g/cm3である、電解液Hを製造した。
(電解液I)
電解液Gと同様の方法で、(FSO2)2NLiの濃度が2.4mol/Lであり、密度が1.18g/cm3である、電解液Iを製造した。
(電解液J)
有機溶媒としてアセトニトリルを用いた以外は、電解液Gと同様の方法で、(FSO2)2NLiの濃度が5.0mol/Lであり、密度が1.40g/cm3である、電解液Jを製造した。
(電解液K)
電解液Jと同様の方法で、(FSO2)2NLiの濃度が4.5mol/Lであり、密度が1.34g/cm3である、電解液Kを製造した。
(電解液L)
有機溶媒であるジメチルカーボネート約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のジメチルカーボネートに対し、リチウム塩である(FSO2)2NLiを徐々に加え、溶解させた。(FSO2)2NLiを全量で14.64g加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでジメチルカーボネートを加えた。これを電解液Lとした。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
電解液Lにおける(FSO2)2NLiの濃度は3.9mol/Lであり、電解液Lの密度は1.44g/cm3であった。
(電解液M)
電解液Lと同様の方法で、(FSO2)2NLiの濃度が2.9mol/Lであり、密度が1.36g/cm3である、電解液Mを製造した。
(電解液N)
有機溶媒であるエチルメチルカーボネート約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のエチルメチルカーボネートに対し、リチウム塩である(FSO2)2NLiを徐々に加え、溶解させた。(FSO2)2NLiを全量で12.81g加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでエチルメチルカーボネートを加えた。これを電解液Nとした。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
電解液Nにおける(FSO2)2NLiの濃度は3.4mol/Lであり、電解液Nの密度は1.35g/cm3であった。
(電解液O)
有機溶媒であるジエチルカーボネート約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のジエチルカーボネートに対し、リチウム塩である(FSO2)2NLiを徐々に加え、溶解させた。(FSO2)2NLiを全量で11.37g加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでジエチルカーボネートを加えた。これを電解液Oとした。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
電解液Oにおける(FSO2)2NLiの濃度は3.0mol/Lであり、電解液Oの密度は1.29g/cm3であった。
表8に上記電解液の一覧を示す。
(電解液E1)
本発明の電解液を以下のとおり製造した。
有機溶媒である1,2−ジメトキシエタン約5mLを、撹拌子及び温度計を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中の1,2−ジメトキシエタンに対し、リチウム塩である(CF3SO2)2NLiを溶液温度が40℃以下を保つように徐々に加え、溶解させた。約13gの(CF3SO2)2NLiを加えた時点で(CF3SO2)2NLiの溶解が一時停滞したので、上記フラスコを恒温槽に投入し、フラスコ内の溶液温度が50℃となるよう加温し、(CF3SO2)2NLiを溶解させた。約15gの(CF3SO2)2NLiを加えた時点で(CF3SO2)2NLiの溶解が再び停滞したので、1,2−ジメトキシエタンをピペットで1滴加えたところ、(CF3SO2)2NLiは溶解した。さらに(CF3SO2)2NLiを徐々に加え、所定の(CF3SO2)2NLiを全量加えた。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまで1,2−ジメトキシエタンを加えた。これを電解液E1とした。得られた電解液は容積20mLであり、この電解液に含まれる(CF3SO2)2NLiは18.38gであった。電解液E1における(CF3SO2)2NLiの濃度は3.2mol/Lであった。電解液E1においては、(CF3SO2)2NLi1分子に対し1,2−ジメトキシエタン1.6分子が含まれている。
なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
(電解液E2)
16.08gの(CF3SO2)2NLiを用い、電解液E1と同様の方法で、(CF3SO2)2NLiの濃度が2.8mol/Lである電解液E2を製造した。電解液E2においては、(CF3SO2)2NLi1分子に対し1,2−ジメトキシエタン2.1分子が含まれている。
(電解液E3)
有機溶媒であるアセトニトリル約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のアセトニトリルに対し、リチウム塩である(CF3SO2)2NLiを徐々に加え、溶解させた。(CF3SO2)2NLiを全量で19.52g加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでアセトニトリルを加えた。これを電解液E3とした。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
電解液E3における(CF3SO2)2NLiの濃度は3.4mol/Lであった。電解液E3においては、(CF3SO2)2NLi1分子に対しアセトニトリル3分子が含まれている。
(電解液E4)
24.11gの(CF3SO2)2NLiを用い、電解液E3と同様の方法で、(CF3SO2)2NLiの濃度が4.2mol/Lである電解液E4を製造した。電解液E4においては、(CF3SO2)2NLi1分子に対しアセトニトリル1.9分子が含まれている。
(電解液E5)
リチウム塩として13.47gの(FSO2)2NLiを用い、有機溶媒として1,2−ジメトキシエタンを用いた以外は、電解液E3と同様の方法で、(FSO2)2NLiの濃度が3.6mol/Lである電解液E5を製造した。電解液E5においては、(FSO2)2NLi1分子に対し1,2−ジメトキシエタン1.9分子が含まれている。
(電解液E6)
14.97gの(FSO2)2NLiを用い、電解液E5と同様の方法で、(FSO2)2NLiの濃度が4.0mol/Lである電解液E6を製造した。電解液E6においては、(FSO2)2NLi1分子に対し1,2−ジメトキシエタン1.5分子が含まれている。
(電解液E7)
リチウム塩として15.72gの(FSO2)2NLiを用いた以外は、電解液E3と同様の方法で、(FSO2)2NLiの濃度が4.2mol/Lである電解液E7を製造した。電解液E7においては、(FSO2)2NLi1分子に対しアセトニトリル3分子が含まれている。
(電解液E8)
16.83gの(FSO2)2NLiを用い、電解液E7と同様の方法で、(FSO2)2NLiの濃度が4.5mol/Lである電解液E8を製造した。電解液E8においては、(FSO2)2NLi1分子に対しアセトニトリル2.4分子が含まれている。
(電解液E9)
18.71gの(FSO2)2NLiiを用い、電解液E7と同様の方法で、(FSO2)2NLiの濃度が5.0mol/Lである電解液E9を製造した。電解液E9においては、(FSO2)2NLi1分子に対しアセトニトリル2.1分子が含まれている。
(電解液E10)
20.21gの(FSO2)2NLiを用い、電解液E7と同様の方法で、(FSO2)2NLiの濃度が5.4mol/Lである電解液E10を製造した。電解液E10においては、(FSO2)2NLi1分子に対しアセトニトリル2分子が含まれている。
(電解液E11)
有機溶媒であるジメチルカーボネート約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のジメチルカーボネートに対し、リチウム塩である(FSO2)2NLiを徐々に加え、溶解させた。(FSO2)2NLiを全量で14.64g加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでジメチルカーボネートを加えた。これを電解液E11とした。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
電解液E11における(FSO2)2NLiの濃度は3.9mol/Lであった。電解液E11においては、(FSO2)2NLi1分子に対しジメチルカーボネート2分子が含まれている。
(電解液E12)
電解液E11にジメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO2)2NLiの濃度が3.4mol/Lの電解液E12とした。電解液E12においては、(FSO2)2NLi1分子に対しジメチルカーボネート2.5分子が含まれている。
(電解液E13)
電解液E11にジメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO2)2NLiの濃度が2.9mol/Lの電解液E13とした。電解液E13においては、(FSO2)2NLi1分子に対しジメチルカーボネート3分子が含まれている。
(電解液E14)
電解液E11にジメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO2)2NLiの濃度が2.6mol/Lの電解液E14とした。電解液E14においては、(FSO2)2NLi1分子に対しジメチルカーボネート3.5分子が含まれている。
(電解液E15)
電解液E11にジメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO2)2NLiの濃度が2.0mol/Lの電解液E15とした。電解液E15においては、(FSO2)2NLi1分子に対しジメチルカーボネート5分子が含まれている。
(電解液E16)
有機溶媒であるエチルメチルカーボネート約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のエチルメチルカーボネートに対し、リチウム塩である(FSO2)2NLiを徐々に加え、溶解させた。(FSO2)2NLiを全量で12.81g加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでエチルメチルカーボネートを加えた。これを電解液E16とした。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
電解液E16における(FSO2)2NLiの濃度は3.4mol/Lであった。電解液E16においては、(FSO2)2NLi1分子に対しエチルメチルカーボネート2分子が含まれている。
(電解液E17)
電解液E16にエチルメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO2)2NLiの濃度が2.9mol/Lの電解液E17とした。電解液E17においては、(FSO2)2NLi1分子に対しエチルメチルカーボネート2.5分子が含まれている。
(電解液E18)
電解液E16にエチルメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO2)2NLiの濃度が2.2mol/Lの電解液E18とした。電解液E18においては、(FSO2)2NLi1分子に対しエチルメチルカーボネート3.5分子が含まれている。
(電解液E19)
有機溶媒であるジエチルカーボネート約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のジエチルカーボネートに対し、リチウム塩である(FSO2)2NLiを徐々に加え、溶解させた。(FSO2)2NLiを全量で11.37g加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでジエチルカーボネートを加えた。これを電解液E19とした。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
電解液E19における(FSO2)2NLiの濃度は3.0mol/Lであった。電解液E19においては、(FSO2)2NLi1分子に対しジエチルカーボネート2分子が含まれている。
(電解液E20)
電解液E19にジエチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO2)2NLiの濃度が2.6mol/Lの電解液E20とした。電解液E20においては、(FSO2)2NLi1分子に対しジエチルカーボネート2.5分子が含まれている。
(電解液E21)
電解液E19にジエチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO2)2NLiの濃度が2.0mol/Lの電解液E21とした。電解液E21においては、(FSO2)2NLi1分子に対しジエチルカーボネート3.5分子が含まれている。
(電解液C1)
5.74gの(CF3SO2)2NLiを用い、有機溶媒として1,2−ジメトキシエタンを用いた以外は、電解液E3と同様の方法で、(CF3SO2)2NLiの濃度が1.0mol/Lである電解液C1を製造した。電解液C1においては、(CF3SO2)2NLi1分子に対し1,2−ジメトキシエタン8.3分子が含まれている。
(電解液C2)
5.74gの(CF3SO2)2NLiを用い、電解液E3と同様の方法で、(CF3SO2)2NLiの濃度が1.0mol/Lである電解液C2を製造した。電解液C2においては、(CF3SO2)2NLi1分子に対しアセトニトリル16分子が含まれている。
(電解液C3)
3.74gの(FSO2)2NLiを用い、電解液E5と同様の方法で、(FSO2)2NLiの濃度が1.0mol/Lである電解液C3を製造した。電解液C3においては、(FSO2)2NLi1分子に対し1,2−ジメトキシエタン8.8分子が含まれている。
(電解液C4)
3.74gの(FSO2)2NLiを用い、電解液E7と同様の方法で、(FSO2)2NLiの濃度が1.0mol/Lである電解液C4を製造した。電解液C4においては、(FSO2)2NLi1分子に対しアセトニトリル17分子が含まれている。
(電解液C5)
有機溶媒としてエチレンカーボネート及びジエチルカーボネートの混合溶媒(体積比3:7、以下、「EC/DEC」ということがある。)を用い、リチウム塩として3.04gのLiPF6を用いた以外は、電解液E3と同様の方法で、LiPF6の濃度が1.0mol/Lである電解液C5を製造した。
(電解液C6)
電解液E11にジメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO2)2NLiの濃度が1.1mol/Lの電解液C6とした。電解液C6においては、(FSO2)2NLi1分子に対しジメチルカーボネート10分子が含まれている。
(電解液C7)
電解液E16にエチルメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO2)2NLiの濃度が1.1mol/Lの電解液C7とした。電解液C7においては、(FSO2)2NLi1分子に対しエチルメチルカーボネート8分子が含まれている。
(電解液C8)
電解液E19にジエチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO2)2NLiの濃度が1.1mol/Lの電解液C8とした。電解液C8においては、(FSO2)2NLi1分子に対しジエチルカーボネート7分子が含まれている。
表9に電解液E1〜E21及び電解液C1〜C8の一覧を示す。
(評価例7:IR測定)
電解液E3、電解液E4、電解液E7、電解液E8、電解液E10、電解液C2、電解液C4、並びに、アセトニトリル、(CF3SO2)2NLi、(FSO2)2NLiにつき、以下の条件でIR測定を行った。2100〜2400cm−1の範囲のIRスペクトルをそれぞれ図5〜図14に示す。さらに、電解液E11〜E21、電解液C6〜C8、並びに、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートにつき、下記の条件でIR測定を行った。1900〜1600cm−1の範囲のIRスペクトルをそれぞれ図15〜図31に示す。また、(FSO2)2NLiにつき、1900〜1600cm−1の範囲のIRスペクトルを図32に示す。図の横軸は波数(cm−1)であり、縦軸は吸光度(反射吸光度)である。
IR測定条件
装置:FT−IR(ブルカーオプティクス社製)
測定条件:ATR法(ダイヤモンド使用)
測定雰囲気:不活性ガス雰囲気下
図12で示されるアセトニトリルのIRスペクトルの2250cm−1付近には、アセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが観察された。なお、図13で示される(CF3SO2)2NLiのIRスペクトル及び図14で示される(FSO2)2NLiのIRスペクトルの2250cm−1付近には、特段のピークが観察されなかった。
図5で示される電解液E3のIRスペクトルには、2250cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.00699)観察された。さらに図5のIRスペクトルには、2250cm−1付近から高波数側にシフトした2280cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.05828で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=8×Ioであった。
図6で示される電解液E4のIRスペクトルには、2250cm−1付近にアセトニトリル由来のピークが観察されず、2250cm−1付近から高波数側にシフトした2280cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.05234で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであった。
図7で示される電解液E7のIRスペクトルには、2250cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.00997)観察された。さらに図7のIRスペクトルには、2250cm−1付近から高波数側にシフトした2280cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.08288で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=8×Ioであった。図8で示される電解液E8のIRスペクトルについても、図7のIRチャートと同様の強度のピークが同様の波数に観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=11×Ioであった。
図9で示される電解液E10のIRスペクトルには、2250cm−1付近にアセトニトリル由来のピークが観察されず、2250cm−1付近から高波数側にシフトした2280cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.07350で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであった。
図10で示される電解液C2のIRスペクトルには、図12と同じく、2250cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Io=0.04441で観察された。さらに図10のIRスペクトルには、2250cm−1付近から高波数側にシフトした2280cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.03018で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs<Ioであった。
図11で示される電解液C4のIRスペクトルには、図12と同じく、2250cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Io=0.04975で観察された。さらに図11のIRスペクトルには、2250cm−1付近から高波数側にシフトした2280cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.03804で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs<Ioであった。
図29で示されるジメチルカーボネートのIRスペクトルの1750cm−1付近には、ジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが観察された。なお、図32で示される(FSO2)2NLiのIRスペクトルの1750cm−1付近には、特段のピークが観察されなかった。
図15で示される電解液E11のIRスペクトルには、1750cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.16628)観察された。さらに図15のIRスペクトルには、1750cm−1付近から低波数側にシフトした1717cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.48032で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=2.89×Ioであった。
図16で示される電解液E12のIRスペクトルには、1750cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.18129)観察された。さらに図16のIRスペクトルには、1750cm−1付近から低波数側にシフトした1717cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.52005で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=2.87×Ioであった。
図17で示される電解液E13のIRスペクトルには、1750cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.20293)観察された。さらに図17のIRスペクトルには、1750cm−1付近から低波数側にシフトした1717cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.53091で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=2.62×Ioであった。
図18で示される電解液E14のIRスペクトルには、1750cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.23891)観察された。さらに図18のIRスペクトルには、1750cm−1付近から低波数側にシフトした1717cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.53098で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=2.22×Ioであった。
図19で示される電解液E15のIRスペクトルには、1750cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.30514)観察された。さらに図19のIRスペクトルには、1750cm−1付近から低波数側にシフトした1717cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.50223で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=1.65×Ioであった。
図26で示される電解液C6のIRスペクトルには、1750cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが(Io=0.48204)観察された。さらに図26のIRスペクトルには、1750cm−1付近から低波数側にシフトした1717cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.39244で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs<Ioであった。
図30で示されるエチルメチルカーボネートのIRスペクトルの1745cm−1付近には、エチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが観察された。
図20で示される電解液E16のIRスペクトルには、1745cm−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.13582)観察された。さらに図20のIRスペクトルには、1745cm−1付近から低波数側にシフトした1711cm−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.45888で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=3.38×Ioであった。
図21で示される電解液E17のIRスペクトルには、1745cm−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.15151)観察された。さらに図21のIRスペクトルには、1745cm−1付近から低波数側にシフトした1711cm−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.48779で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=3.22×Ioであった。
図22で示される電解液E18のIRスペクトルには、1745cm−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.20191)観察された。さらに図22のIRスペクトルには、1745cm−1付近から低波数側にシフトした1711cm−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.48407で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=2.40×Ioであった。
図27で示される電解液C7のIRスペクトルには、1745cm−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが(Io=0.41907)観察された。さらに図27のIRスペクトルには、1745cm−1付近から低波数側にシフトした1711cm−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.33929で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs<Ioであった。
図31で示されるジエチルカーボネートのIRスペクトルの1742cm−1付近には、ジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが観察された。
図23で示される電解液E19のIRスペクトルには、1742cm−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.11202)観察された。さらに図23のIRスペクトルには、1742cm−1付近から低波数側にシフトした1706cm−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.42925で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=3.83×Ioであった。
図24で示される電解液E20のIRスペクトルには、1742cm−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.15231)観察された。さらに図24のIRスペクトルには、1742cm−1付近から低波数側にシフトした1706cm−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.45679で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=3.00×Ioであった。
図25で示される電解液E21のIRスペクトルには、1742cm−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.20337)観察された。さらに図25のIRスペクトルには、1742cm−1付近から低波数側にシフトした1706cm−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.43841で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=2.16×Ioであった。
図28で示される電解液C8のIRスペクトルには、1742cm−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが(Io=0.39636)観察された。さらに図28のIRスペクトルには、1742cm−1付近から低波数側にシフトした1709cm−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.31129で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs<Ioであった。
(評価例8:イオン伝導度)
電解液E1、E2、電解液E4〜E6、E8、E11、E16およびE19のイオン伝導度を以下の条件で測定した。結果を表10に示す。
イオン伝導度測定条件
Ar雰囲気下、白金極を備えたセル定数既知のガラス製セルに、電解液を封入し、30℃、1kHzでのインピーダンスを測定した。インピーダンスの測定結果から、イオン伝導度を算出した。測定機器はSolartron 147055BEC(ソーラトロン社)を使用した。
電解液E1、E2、電解液E4〜E6、E8、E11、E16およびE19は、いずれもイオン伝導性を示した。よって、本発明の電解液は、いずれも各種の電池の電解液として機能し得ると理解できる。
(評価例9:粘度)
電解液E1、E2、電解液E4〜E6、E8、E11、E16およびE19並びに電解液C1〜C4、電解液C6〜C8の粘度を以下の条件で測定した。結果を表11に示す。
粘度測定条件
落球式粘度計(AntonPaar GmbH(アントンパール社)製 Lovis 2000 M)を用い、Ar雰囲気下、試験セルに電解液を封入し、30℃の条件下で粘度を測定した。
電解液E1、E2、E4〜E6、E8、E11、E16、E19の粘度は、電解液C1〜C4、電解液C6〜C8の粘度と比較して、著しく高かった。よって、本発明の電解液を用いた電池であれば、仮に電池が破損したとしても、電解液漏れが抑制される。
(評価例10:揮発性)
電解液E2、E4、E8、E11、E13、C1、C2、C4およびC6の揮発性を以下の方法で測定した。
約10mgの電解液をアルミニウム製のパンに入れ、熱重量測定装置(TAインスツルメント社製、SDT600)に配置し、室温での電解液の重量変化を測定した。重量変化(質量%)を時間で微分することで揮発速度を算出した。揮発速度のうち最大のものを選択し、表12に示した。
電解液E2、E4、E8、E11、E13の最大揮発速度は、電解液C1、C2、C4、C6の最大揮発速度と比較して、著しく小さかった。よって、本発明の電解液を用いた電池は、仮に損傷したとしても、電解液の揮発速度が小さいため、電池外への有機溶媒の急速な揮発が抑制される。
(評価例11:燃焼性)
電解液E4、電解液C2の燃焼性を以下の方法で試験した。
電解液をガラスフィルターにピペットで3滴滴下し、電解液をガラスフィルターに保持させた。当該ガラスフィルターをピンセットで把持し、そして、当該ガラスフィルターに接炎させた。
電解液E4は15秒間接炎させても引火しなかった。他方、電解液C2は5秒余りで燃え尽きた。本発明の電解液は燃焼しにくいことが裏付けられた。
(評価例12:低温試験)
電解液E11、E13、E16、E19をそれぞれ容器に入れ、不活性ガスを充填して密閉した。これらを−30℃の冷凍庫に2日間保管した。保管後に各電解液を観察した。いずれの電解液も固化せず液体状態を維持しており、塩の析出も観察されなかった。
(評価例13:ラマンスペクトル測定)
電解液E8、E9、C4、並びに、E11、E13、E15、C6につき、以下の条件でラマンスペクトル測定を行った。各電解液の金属塩のアニオン部分に由来するピークが観察されたラマンスペクトルをそれぞれ図33〜図39に示す。図の横軸は波数(cm−1)であり、縦軸は散乱強度である。
ラマンスペクトル測定条件
装置:レーザーラマン分光光度計(日本分光株式会社NRSシリーズ)
レーザー波長:532nm
不活性ガス雰囲気下で電解液を石英セルに密閉し、測定に供した。
図33〜図35で示される電解液E8、E9、C4のラマンスペクトルの700〜800cm−1には、アセトニトリルに溶解したLiFSAの(FSO2)2Nに由来する特徴的なピークが観察された。ここで、図33〜図35から、LiFSAの濃度の増加に伴い、上記ピークが高波数側にシフトするのがわかる。電解液が高濃度化するに従い、塩のアニオンに該当する(FSO2)2NがLiと相互作用する状態になる、換言すると、濃度が低い場合はLiとアニオンはSSIP(Solvent−separated ion pairs)状態を主に形成しており、高濃度化に伴いCIP(Contact ion pairs)状態やAGG(aggregate)状態を主に形成していると推察される。そして、かかる状態がラマンスペクトルのピークシフトとして観察されたと考察できる。
図36〜図39で示される電解液E11、E13、E15、C6のラマンスペクトルの700〜800cm−1には、ジメチルカーボネートに溶解したLiFSAの(FSO2)2Nに由来する特徴的なピークが観察された。ここで、図36〜図39から、LiFSAの濃度の増加に伴い、上記ピークが高波数側にシフトするのがわかる。この現象は、前段落で考察したのと同様に、電解液が高濃度化することで、塩のアニオンに該当する(FSO2)2Nが複数のLiと相互作用している状態がスペクトルに反映された結果であると推察される。
(評価例14:Li輸率)
電解液E2およびC5のLi輸率を以下の条件で測定した。結果を表13に示す。なお、表13には実施例1で用いた電解液(E8)および比較例1で用いた電解液(C4)の結果も併記した。Li輸率測定条件は上記実施例1および比較例1の電解液のLi輸率を測定したときと同じである。
電解液E2、E8のLi輸率は、電解液C4、C5のLi輸率と比較して、著しく高かった。すなわち、この結果からも、本発明の電解液は同程度のイオン伝導度を示す従来の電解液と比較して、リチウムイオン(カチオン)の輸送速度が高いといえる。
また、電解液E8につき、温度を変化させた場合のLi輸率を、上記Li輸率測定条件に準じて測定した。結果を表14に示す。
表14の結果から、本発明の電解液は、温度に因らず、好適なLi輸率を保つことがわかる。本発明の電解液は、低温でも液体状態を保っているといえる。
(実施例2)
正極は、正極活物質層と、正極活物質層で被覆された集電体とからなる。正極活物質層は、正極活物質と、結着剤と、導電助剤とを有する。正極活物質は、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2からなる。結着剤は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる。導電助剤は、アセチレンブラック(AB)からなる。集電体は、厚み20μmのアルミニウム箔からなる。正極活物質層を100質量部としたときの、正極活物質と結着剤と導電助剤との含有質量比は、94:3:3である。
正極を作製するために、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、PVDF及びABを上記の質量比となるように混合し、溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を添加してペースト状の正極材とする。ペースト状の正極材を、集電体の表面にドクターブレードを用いて塗布して、正極活物質層を形成した。正極活物質層を、80℃で20分間乾燥することで、NMPを揮発により除去した。表面に正極活物質層を形成したアルミニウム箔を、ロ−ルプレス機を用いて圧縮し、アルミニウム箔と正極活物質層とを強固に密着接合させた。接合物を120℃で6時間、真空乾燥機で加熱し、所定の形状に切り取り、正極を得た。
負極は、負極活物質層と、負極活物質層で被覆された集電体とからなる。負極活物質層は、負極活物質と、結着剤とを有する。負極を作製するために、負極活物質としての黒鉛98質量部と、結着剤としてスチレン−ブタジエンゴム(SBR)1質量部及びカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部とを混合した。この混合物を適量のイオン交換水に分散させてスラリー状の負極材を作製した。このスラリー状の負極材を負極用集電体である厚み20μmの銅箔にドクターブレードを用いて膜状になるように塗布して負極活物質層を形成した。負極活物質層を形成した集電体を乾燥後プレスし、接合物を100℃で6時間、真空乾燥機で加熱し、所定の形状に切り取り、負極とした。
なお、用いた黒鉛粒子のアスペクト比は2.1であった。
上記した正極と負極を用い、電解液として前述の電解液E11を用いたこと以外は実施例1と同様にしてリチウム二次電池を得た。
[比較例4]
電解液E11にかえて、電解液としてエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを3:7(体積比)で混合した混合溶媒にLiPF6を1Mの濃度で溶解した電解液C5を用いたこと以外は実施例2と同様にしてリチウム二次電池を得た。
<試験・評価>
(評価例15:サイクル耐久性)
実施例2、比較例4のリチウム二次電池を用い、それぞれ温度25℃、1CのCC充電の条件下において4.1Vまで充電し、1分間休止した後、1CのCC放電で3.0Vまで放電し、1分間休止するサイクルを500サイクル繰り返すサイクル試験を行った。500サイクル目における放電容量維持率を測定し、結果を表15に示す。放電容量維持率は、500サイクル目の放電容量を初回の放電容量で除した値の百分率((500サイクル目の放電容量)/(初回の放電容量)×100)で求められる値である。サイクル試験中の放電容量維持率の変化を図40に示す。
また初期及び200サイクル目において、温度25℃、0.5CのCCCVで電圧3.5Vに調整した後、3Cで10秒のCC放電をした際の電圧変化量(放電前電圧と放電10秒後電圧との差)及び電流値からオームの法則により直流抵抗(放電)を測定した。
さらに初期及び200サイクル目において、温度25℃、0.5CのCCCVで電圧3.5Vに調整した後、3Cで10秒のCC充電をした際の電圧変化量(充電前電圧と充電10秒後電圧との差)及び電流値からオームの法則により直流抵抗(充電)を測定した。それぞれの結果を表15に示す。
実施例2のリチウム二次電池は、サイクル後においても抵抗が小さいことがわかる。また実施例2のリチウム二次電池は、容量維持率が高く、劣化しにくいといえる。
(その他の態様I)
以下、試験例及び参考試験例を挙げて、本発明の非水系二次電池が採り得るその他の態様をさらに詳しく説明する。以下、試験例の非水系二次電池をEBとし、参考試験例の非水系二次電池をCBとする。EBとCBとの違いは電解液にあり、EBは本発明の電解液を用いたものである。
上述したように、本発明の電解液を用いた非水系二次電池の負極には、皮膜(S,O含有皮膜)が形成される。参考までに、S,O含有皮膜の分析結果を以下に挙げる。なお、以下の非水系二次電池には、既述のものも含まれている。
(EB1)
電解液E8を用いたリチウムイオン二次電池EB1を以下のとおり製造した。正極は、実施例1のリチウムイオン二次電池の正極と同様に製造し、負極は実施例2のリチウムイオン二次電池の負極と同様に製造した。その他、セパレータとして実験用濾紙(東洋濾紙株式会社、セルロース製、厚み260μm)を用いた事以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池EB1を得た。
(EB2)
リチウムイオン二次電池EB2は、電解液E4を用いたこと以外はEB1と同様である。
(EB3)
リチウムイオン二次電池EB3は、電解液E11を用いたこと以外はEB1と同様である。
(EB4)
リチウムイオン二次電池EB4は電解液E11を用いたこと、正極活物質と導電助剤と結着剤との混合比、およびセパレータ以外はEB1と同様である。正極については、NCM523:AB:PVdF=90:8:2とした。正極における活物質層の目付量は5.5mg/cm2であり、密度は2.5g/cm3であった。これは以下のEB5〜EB7およびCB2、CB3についても同様である。
負極については、天然黒鉛:SBR:CMC=98:1:1とした。負極における活物質層の目付量は3.8mg/cm2であり、密度は1.1g/cm3であった。これは以下のEB5〜EB7およびCB2、CB3についても同様である。セパレータとしては厚さ20μmのセルロース製不織布を用いた。
(EB5)
リチウムイオン二次電池EB5は、電解液E8を用いたこと以外はEB4と同様である。
(EB6)
リチウムイオン二次電池EB6は、負極用の結着材の種類、および負極活物質と結着剤との混合比はEB4と同様である。負極については、天然黒鉛:ポリアクリル酸(PAA)=90:10とした。
(EB7)
リチウムイオン二次電池EB7は電解液E8を用いたこと以外はEB6と同様である。
(CB1)
リチウムイオン二次電池CB1は、電解液C5を用いた以外は、EB1と同様である。
(CB2)
リチウムイオン二次電池CB2は、電解液C5を用いたこと以外はEB4と同様である。
(CB3)
リチウムイオン二次電池CB3は電解液C5を用いたこと以外はEB6と同様である。
各電池の電池構成を、実施例の欄の末尾の表32に示す。
(評価例16:S,O含有皮膜の分析)
以下、必要に応じて、リチウムイオン二次電池EB1〜EB7における負極の表面に形成されている皮膜をEB1〜EB7の負極S,O含有皮膜と略し、リチウムイオン二次電池CB1〜CB3における負極の表面に形成されている皮膜をCB1〜CB3の負極皮膜と略する。また、同様に、EB1〜EB7における正極の表面に形成されている皮膜をEB1〜EB7の正極S,O含有皮膜と略し、CB1〜CB3における正極の表面に形成されている皮膜をCB1〜CB3の正極皮膜と略する。
(負極S,O含有皮膜および負極皮膜の分析)
EB1、EB2およびCB1のリチウムイオン二次電池について、100サイクル充放電を繰り返した後に、電圧3.0Vの放電状態でX線光電子分光分析(X−ray Photoelectron Spectroscopy、XPS)によりS,O含有皮膜または皮膜表面の分析を行った。前処理としては以下の処理を行った。先ず、リチウムイオン二次電池を解体して負極を取出し、この負極を洗浄および乾燥して、分析対象となる負極を得た。洗浄は、DMC(ジメチルカーボネート)を用いて3回行った。また、セルの解体から分析対象としての負極を分析装置に搬送するまでの全ての工程を、Arガス雰囲気下で、負極を大気に触れさせることなく行った。以下の前処理をEB1、EB2およびCB1の各々について行い、得られた負極検体をXPS分析した。装置としては、アルバックファイ社 PHI5000 VersaProbeIIを用いた。X線源は単色AlKα線(15kV、10mA)であった。XPSにより測定されたEB1、EB2の負極S,O含有皮膜およびCB1の負極皮膜の分析結果を図41〜図45に示す。具体的には、図41は炭素元素についての分析結果であり、図42はフッ素元素についての分析結果であり、図43は窒素元素についての分析結果であり、図44は酸素元素についての分析結果であり、図45は硫黄元素についての分析結果である。
EB1における電解液、およびEB2における電解液は、塩に硫黄元素(S)、酸素元素および窒素元素(N)を含む。これに対してCB1における電解液は、塩にこれらを含まない。さらに、EB1、EB2およびCB1のリチウムイオン二次電池における電解液は、いずれも、塩にフッ素元素(F)炭素元素(C)および酸素元素(O)を含む。
図41〜図45に示すように、EB1の負極S,O含有皮膜およびEB2の負極S,O含有皮膜を分析した結果、Sの存在を示すピーク(図45)およびNの存在を示すピーク(図43)が観察された。つまり、EB1の負極S,O含有皮膜およびEB2の負極S,O含有皮膜はSおよびNを含んでいた。しかし、CB1の負極皮膜の分析結果においてはこれらのピークは確認されなかった。つまり、CB1の負極皮膜はSおよびNの何れについても、検出限界以上の量を含んでいなかった。なお、F、C、およびOの存在を示すピークは、EB1、EB2の負極S,O含有皮膜およびCB1の負極皮膜の分析結果全てにおいて観察された。つまり、EB1、EB2の負極S,O含有皮膜およびCB1の負極皮膜は何れもF、C、およびOを含んでいた。
これらの元素は何れも電解液に由来する成分である。特にS、OおよびFは電解液の金属塩に含まれる成分であり、具体的には金属塩のアニオンの化学構造に含まれる成分である。したがって、これらの結果から、各負極S,O含有皮膜および負極皮膜には金属塩(つまり支持塩)のアニオンの化学構造に由来する成分が含まれることがわかる。
図45に示した硫黄元素(S)の分析結果について、更に詳細に解析した。EB1およびEB2の分析結果について、ガウス/ローレンツ混合関数を用いてピーク分離を行った。EB1の解析結果を図46に示し、EB2の解析結果を図47に示す。
図46および図47に示すように、EB1およびEB2の負極S,O含有皮膜を分析した結果、165〜175eV付近に比較的大きなピーク(波形)が観察された。そして、図46および図47に示すように、この170eV付近のピーク(波形)は、4つのピークに分離された。そのうちの一つはSO2(S=O構造)の存在を示す170eV付近のピークである。この結果から、本発明のリチウムイオン二次電池において負極表面に形成されているS,O含有皮膜はS=O構造を有するといえる。そして、この結果と上記のXPS分析結果とを考慮すると、S,O含有皮膜のS=O構造に含まれるSは金属塩すなわち支持塩のアニオンの化学構造に含まれるSだと推測される。
(負極S,O含有皮膜のS元素比率)
上記した負極S,O含有皮膜のXPS分析結果を基に、EB1およびEB2の負極S,O含有皮膜およびCB1の負極皮膜における放電時のS元素の比率を算出した。具体的には、各々の負極S,O含有皮膜および負極皮膜につき、S、N、F、C、Oのピーク強度の総和を100%としたときのSの元素比を算出した。結果を表16に示す。
上記したようにCB1の負極皮膜は検出限界以上のSを含んでいなかったが、EB1の負極S,O含有皮膜およびEB2の負極S,O含有皮膜からはSが検出された。また、EB1の負極S,O含有皮膜はEB2の負極S,O含有皮膜に比べて多くのSを含んでいた。なお、CB1の負極S,O含有皮膜からSが検出されなかったことから、各試験例の負極S,O含有皮膜に含まれるSは正極活物質に含まれる不可避不純物やその他の添加物に由来するものではなく、電解液中の金属塩に由来するものであるといえる。
また、EB1の負極S,O含有皮膜におけるS元素比率が10.4原子%であり、EB2の負極S,O含有皮膜におけるS元素比率が3.7原子%であることから、本発明の非水電解質二次電池において、負極S,O含有皮膜におけるS元素比率は2.0原子%以上であり、好ましくは2.5原子%以上であり、より好ましくは3.0原子%以上であり、さらに好ましくは3.5原子%以上である。なお、Sの元素比率(原子%)とは、上述したようにS、N、F、C、Oのピーク強度の総和を100%としたときのSのピーク強度比を指す。Sの元素比率の上限値は特に定めないが、強いて言うとすれば、25原子%以下であるのが良い。
(負極S,O含有皮膜の厚さ)
EB1のリチウムイオン二次電池について、100サイクル充放電を繰り返した後に電圧3.0Vの放電状態にしたもの、および、100サイクル充放電を繰り返した後に電圧4.1Vの充電状態にしたものを準備し、上記のXPS分析の前処理と同様の方法で分析対象となる負極検体を得た。得られた負極検体をFIB(集束イオンビーム:Focused Ion Beam)加工することにより、厚み100nm程度のSTEM分析用検体を得た。なお、FIB加工の前処理として、負極にはPtを蒸着した。以上の工程は負極を大気に触れさせることなくおこなった。
各STEM分析用検体をEDX(エネルギ分散型X線分析:Energy Dispersive X−ray spectroscopy)装置が付属したSTEM(走査透過電子顕微鏡:Scanning Transmission Electron Microscope)により分析した。結果を図48〜図51に示す。このうち図48はBF(明視野:Bright−field)−STEM像であり、図49〜図51は、図51と同じ観察領域のSTEM−EDXによる元素分布像である。さらに、図49はCについての分析結果であり、図50はOについての分析結果であり、図51はSについての分析結果である。なお、図49〜図51は、放電状態のリチウムイオン二次電池における負極の分析結果である。
図48に示すように、STEM像の左上部には黒色の部分が存在する。この黒色の部分は、FIB加工の前処理で蒸着されたPtに由来する。各STEM像において、このPt由来の部分(Pt部と呼ぶ)よりも上側にある部分は、Pt蒸着後に汚染された部分とみなし得る。したがって、図49〜図51においては、Pt部よりも下側にある部分についてのみ検討した。
図49に示すように、Pt部よりも下側において、Cは層状をなしていた。これは、負極活物質たる黒鉛の層状構造だと考えられる。図50において、Oは黒鉛の外周および層間に相当する部分にある。図51においてもまた、Sは黒鉛の外周および層間に相当する部分にある。これらの結果から、S=O構造等のSおよびOを含有する負極S,O含有皮膜は、黒鉛の表面および層間に形成されていると推測される。
黒鉛の表面に形成されている負極S,O含有皮膜を無作為に10箇所選び、負極S,O含有皮膜の厚さを測定し、測定値の平均値を算出した。充電状態のリチウムイオン二次電池における負極についても同様に分析し、各分析結果を基に、黒鉛の表面に形成されている負極S,O含有皮膜の厚さの平均値を算出した。結果を表17に示す。
表17に示すように、負極S,O含有皮膜の厚みは充電後に増加している。この結果から、負極S,O含有皮膜には充放電に対して安定して存在する定着部と、充放電に伴って増減する吸着部が存在すると推測される。そして、吸着部が存在することで、負極S,O含有皮膜は充放電に際して厚さが増減したと推測される。
(正極皮膜の分析)
EB1のリチウムイオン二次電池について、3サイクル充放電を繰り返した後に電圧3.0Vの放電状態にしたもの、3サイクル充放電を繰り返した後に電圧4.1Vの充電状態にしたもの、100サイクル充放電を繰り返した後に電圧3.0Vの放電状態にしたもの、100サイクル充放電を繰り返した後に電圧4.1Vの充電状態にしたもの、の4つを準備した。4つのEB1のリチウムイオン二次電池について、それぞれ上述したのと同様の方法を用いて、分析対象となる正極を得た。そして得られた各正極をXPS分析した。結果を図52および図53に示す。なお、図52は酸素元素についての分析結果であり、図53は硫黄元素についての分析結果である。
図52および図53に示すように、EB1の正極S,O含有皮膜もまた、SおよびOを含むことがわかる。また、図53には170eV付近のピークが認められるため、EB1の正極S,O含有皮膜もまたEB1の負極S,O含有皮膜と同様に本発明の電解液に由来するS=O構造を有することがわかる。
ところで、図52に示すように、529eV付近に存在するピークの高さはサイクル経過後に減少している。このピークは正極活物質に由来するOの存在を示すものと考えられ、具体的には、XPS分析において正極活物質中のO原子で励起された光電子がS,O含有皮膜を通過して検出されたものと考えられる。このピークがサイクル経過後に減少したことから、正極表面に形成されたS,O含有皮膜の厚さはサイクル経過に伴って増大したと考えられる。
また、図52および図53に示すように、正極S,O含有皮膜中のOおよびSは放電時に増加し充電時に減少した。この結果から、OおよびSは充放電に伴って正極S,O含有皮膜を出入りすると考えられる。そしてこのことから、充放電に際して正極S,O含有皮膜中のSやOの濃度が増減しているか、または、負極S,O含有皮膜と同様に正極S,O含有皮膜においても吸着部の存在により厚さが増減すると推測される。
さらに、EB4のリチウムイオン二次電池についても正極S,O含有皮膜および負極S,O含有皮膜をXPS分析した。
EB4のリチウムイオン二次電池を、25℃、使用電圧範囲3.0V〜4.1Vとし、レート1CでCC充放電を500サイクル繰り返した。500サイクル後、3.0Vの放電状態、および、4.0Vの充電状態で正極S,O含有皮膜のXPSスペクトルを測定した。また、サイクル試験前(つまり初回充放電後)における3.0Vの放電状態の負極S,O含有皮膜、および、500サイクル後における3.0Vの放電状態の負極S,O含有皮膜について、XPSによる元素分析をおこない、当該負極S,O含有皮膜に含まれるS元素比率を算出した。XPSにより測定されたEB4の正極S,O含有皮膜の分析結果を図54および図55に示す。具体的には、図54は硫黄元素についての分析結果であり、図55は酸素元素についての分析結果である。また、負極S,O含有皮膜のS元素比率(原子%)を表18に示す。なお、S元素比率は、上記の「負極S,O含有皮膜のS元素比率」の項と同様に算出した。
図54および図55に示すように、EB4のリチウムイオン二次電池における正極S,O含有皮膜からもまた、Sの存在を示すピークおよびOの存在を示すピークが検出された。また、SのピークおよびOのピークが何れも放電時に増大し充電時に減少していた。この結果からも、正極S,O含有皮膜がS=O構造を有し、正極S,O含有皮膜中のOおよびSは充放電に伴って正極S,O含有皮膜を出入りすることが裏付けられる。
また、表18に示すように、EB4の負極S,O含有皮膜は、初回充放電後にも、500サイクル経過後にも、2.0原子%以上のSを含んでいた。この結果から、本発明の非水電解質二次電池における負極S,O含有皮膜は、サイクル経過前であってもサイクル経過後であっても2.0原子%以上のSを含むことがわかる。
EB4〜EB7およびCB2、CB3のリチウムイオン二次電池について、60℃で1週間貯蔵する高温貯蔵試験を行い、当該高温貯蔵試験後のEB4〜EB7の正極S,O含有皮膜および負極S,O含有皮膜、ならびにCB2、CB3の正極皮膜および負極皮膜を分析した。高温貯蔵試験開始前に、3.0V〜4.1Vにまでレート0.33CでCC−CV充電した。このときの充電容量を基準(SOC100)とし、当該基準に対して20%分をCC放電してSOC80に調整した後、高温貯蔵試験を開始した。高温貯蔵試験後に1Cで3.0VまでCC−CV放電した。そして、放電後の正極S,O含有皮膜および負極S,O含有皮膜ならびに正極皮膜及び負極皮膜のXPSスペクトルを測定した。XPSにより測定されたEB4〜EB7の正極S,O含有皮膜、ならびに、CB2およびCB3の正極皮膜の分析結果を図56〜図59に示す。また、XPSにより測定されたEB4〜EB7負極S,O含有皮膜、ならびに、CB2およびCB3の負極皮膜の分析結果を図60〜図63に示す。
具体的には、図56はEB4、EB5の正極S,O含有皮膜およびCB2の正極皮膜の硫黄元素についての分析結果である。図57はEB6、EB7の正極S,O含有皮膜およびCB3の正極皮膜の硫黄元素についての分析結果である。図58はEB4、EB5の正極S,O含有皮膜およびCB2の正極皮膜の酸素元素についての分析結果である。図59はEB6、EB7の正極S,O含有皮膜およびCB3の正極皮膜の酸素元素についての分析結果である。また、図60はEB4、EB5の負極S,O含有皮膜およびCB2の負極皮膜の硫黄元素についての分析結果である。図61はEB6、EB7の負極S,O含有皮膜およびCB3の負極皮膜の硫黄元素についての分析結果である。図62はEB4、EB5の負極S,O含有皮膜およびCB2の負極皮膜の酸素元素についての分析結果である。図63はEB6、EB7の負極S,O含有皮膜およびCB3の負極皮膜の酸素元素についての分析結果である。
図56および図57に示すように、従来の電解液を用いたCB2およびCB3のリチウムイオン二次電池は正極皮膜にSを含まないのに対して、本発明の電解液を用いたEB4〜EB7のリチウムイオン二次電池は正極S,O含有皮膜にSを含んでいた。また、図58および図59に示すように、EB4〜EB7のリチウムイオン二次電池は何れも正極S,O含有皮膜にOを含んでいた。さらに、図56および図57に示すように、EB4〜EB7のリチウムイオン二次電池における正極S,O含有皮膜からは、何れも、SO2(S=O構造)の存在を示す170eV付近のピークが検出された。これらの結果から、本発明のリチウムイオン二次電池においては、電解液用の有機溶媒としてANを用いた場合にも、DMCを用いた場合にも、SとOとを含む安定した正極S,O含有皮膜が形成されることがわかる。また、この正極S,O含有皮膜は負極バインダの種類に影響されないことから、正極S,O含有皮膜中のOはCMCに由来するものではないと考えられる。さらに、図58および図59に示すように、電解液用の有機溶媒としてDMCを用いる場合には、530eV付近に、正極活物質由来のOピークが検出された。このため、電解液用の有機溶媒としてDMCを用いる場合には、ANを用いる場合に比べて正極S,O含有皮膜の厚さが薄くなると考えられる。
同様に、図60〜図63に示すように、従来の電解液を用いたCB2およびCB3のリチウムイオン二次電池は負極皮膜にSを含まないのに対して、本発明の電解液を用いたEB4〜EB7のリチウムイオン二次電池は負極S,O含有皮膜にSおよびOを含んでいた。また、図60および図61に示すように、EB4〜EB7のリチウムイオン二次電池における負極S,O含有皮膜からは、何れも、SO2(S=O構造)の存在を示す170eV付近のピークが検出された。これらの結果から、本発明のリチウムイオン二次電池においては、電解液用の有機溶媒としてANを用いた場合にも、DMCを用いた場合にも、SとOとを含む安定した負極S,O含有皮膜が形成されることがわかる。
EB4、EB5およびCB2のリチウムイオン二次電池について、上記の高温貯蔵試験および放電後の各負極S,O含有皮膜ならびに負極皮膜のXPSスペクトルを測定し、EB4、EB5の負極S,O含有皮膜およびCB2の負極皮膜における放電時のS元素の比率を算出した。具体的には、各々の負極S,O含有皮膜または負極皮膜につき、S、N、F、C、Oのピーク強度の総和を100%としたときのSの元素比を算出した。結果を表19に示す。
表19に示すように、CB2の負極皮膜は検出限界以上のSを含んでいなかったが、EB4およびEB5の負極S,O含有皮膜からはSが検出された。また、EB5の負極S,O含有皮膜はEB4の負極S,O含有皮膜に比べて多くのSを含んでいた。また、この結果から、高温貯蔵後においても負極S,O含有皮膜におけるS元素比率は2.0原子%以上であることがわかる。
以下、
(EB8)
EB8のリチウムイオン二次電池は、電解液E11を用いたものである。EB8のリチウムイオン二次電池は、負極合材の組成、負極活物質と導電助剤の混合比、セパレータおよび電解液以外は実施例1のリチウムイオン二次電池と同様である。正極については、NCM523:AB:PVdF=90:8:2とした。
(EB9)
EB9のリチウムイオン二次電池は電解液E13を用いたものである。EB9のリチウムイオン二次電池は、電解液以外はEB8のリチウムイオン二次電池と同様である。
(EB10)
EB10のリチウムイオン二次電池は電解液E8を用いたこと以外はEB8のリチウムイオン二次電池と同様である。
(CB4)
CB4のリチウムイオン二次電池は電解液C5を用いた事以外はEB8のリチウムイオン二次電池と同様である。
<試験・評価>
(評価例17:電池の内部抵抗)
EB8、EB9、EB10およびCB4のリチウムイオン二次電池を用い、電池の内部抵抗を評価した。
各リチウムイオン二次電池について、室温、3.0V〜4.1V(vs.Li基準)の範囲でCC充放電(つまり定電流充放電)を繰り返した。そして、初回充放電後の交流インピーダンス、および、100サイクル経過後の交流インピーダンスを測定した。得られた複素インピーダンス平面プロットを基に、電解液、負極および正極の反応抵抗を各々解析した。図64に示すように、複素インピーダンス平面プロットには、二つの円弧がみられた。図中左側(つまり複素インピーダンスの実部が小さい側)の円弧を第1円弧と呼ぶ。図中右側の円弧を第2円弧と呼ぶ。第1円弧の大きさを基に負極の反応抵抗を解析し、第2円弧の大きさを基に正極の反応抵抗を解析した。第1円弧に連続する図64中最左側のプロットを基に電解液の抵抗を解析した。解析結果を表20および表21に示す。なお、表20は、初回充放電後の電解液の抵抗(所謂溶液抵抗)、負極の反応抵抗、正極の反応抵抗を示し、表21は100サイクル経過後の各抵抗を示す。
表20および表21に示すように、各リチウムイオン二次電池において、100サイクル経過後の負極反応抵抗および正極反応抵抗は、初回充放電後の各抵抗に比べて低下する傾向にある。
また、各リチウムイオン二次電池は、負極用のバインダとして親水基を有する同じポリマー(CMC−SBR)を用いているにもかかわらず、その耐久性には違いがある。つまり、表21に示す100サイクル経過後では、EB8、EB9、EB10のリチウムイオン二次電池の負極反応抵抗および正極反応抵抗は、CB4のリチウムイオン二次電池の負極反応抵抗および正極反応抵抗に比べて低い。これは、CB4のリチウムイオン二次電池では本発明の電解液を用いていなかったのに対して、EB8、EB9、EB10のリチウムイオン二次電池では本発明の電解液を用いていたことに起因すると考えられる。つまり、本発明の電解液を用いた本発明の非水系二次電池は、サイクル経過後に反応抵抗が低減するために、耐久性に優れるといえる。
さらに、EB8、EB9、EB10のリチウムイオン二次電池は本発明の電解液を用いたものであり、負極および正極の表面には本発明の電解液に由来するS,O含有皮膜が形成されている。これに対して、本発明の電解液を用いていないCB4のリチウムイオン二次電池においては、負極および正極の表面には当該S,O含有皮膜は形成されていない。そして、表21に示すように、EB8、EB9、EB10の負極反応抵抗および正極反応抵抗はCB4のリチウムイオン二次電池よりも低い。このことから、各試験例においては、本発明の電解液に由来するS,O含有皮膜の存在により負極反応抵抗および正極反応抵抗が低減したと推察される。
なお、EB10およびCB4のリチウムイオン二次電池における電解液の溶液抵抗はほぼ同じであり、EB8およびEB9のリチウムイオン二次電池における電解液の溶液抵抗は、EB10およびCB4に比べて高い。また、各リチウムイオン二次電池における各電解液の溶液抵抗は初回充放電後も100サイクル経過後もほぼ同じである。このため、各電解液の耐久劣化は生じていないと考えられ、上記した参考試験例および試験例において生じた負極反応抵抗および正極反応抵抗の差は、電解液の耐久劣化に関係するものでなく電極自体に生じているものであると考えられる。
リチウムイオン二次電池の内部抵抗は、電解液の溶液抵抗、負極の反応抵抗および正極の反応抵抗から総合的に判断できる。表20および表21の結果を基にすると、リチウムイオン二次電池の内部抵抗増大を抑制する観点からは、EB8およびEB9のリチウムイオン二次電池が特に耐久性に優れ、次いでEB10のリチウムイオン二次電池が耐久性に優れていると言える。
<試験・評価>
(評価例18:電池のサイクル耐久性)
EB8、EB9、EB10およびCB4の各リチウムイオン二次電池について、室温、3.0V〜4.1V(vs.Li基準)の範囲でCC充放電を繰り返し、初回充放電時の放電容量、100サイクル時の放電容量、および500サイクル時の放電容量を測定した。そして、初回充放電時の各リチウムイオン二次電池の容量を100%とし、100サイクル時および500サイクル時の各リチウムイオン二次電池の容量維持率(%)を算出した。結果を表22に示す。
表22に示すように、EB8、EB9、EB10のリチウムイオン二次電池は、100サイクル経過後にも、CB4のリチウムイオン二次電池と同等の容量維持率を示した。つまり、各試験例のリチウムイオン二次電池はCB4のリチウムイオン二次電池と同様にサイクル耐久性に優れていた。
サイクル耐久性の向上には、電極表面のSEI皮膜が関与すると考えられている。電解液中のECはSEI皮膜の材料となると考えられており、一般には、SEI皮膜を形成しサイクル耐久性を向上させるために、電解液にECを配合している。
しかし、EB8、EB9、EB10のリチウムイオン二次電池は、SEIの材料となるECを含まないにも拘わらず、ECを含むCB4のリチウムイオン二次電池と同等の容量維持率を示した。これは、各試験例のリチウムイオン二次電池における正極および負極には、本発明の電解液に由来するS,O含有皮膜が存在するためだと考えられる。そして、EB8のリチウムイオン二次電池については、特に500サイクル経過時にも極めて高い容量維持率を示し、特に耐久性に優れていたため、有機溶媒としてDMCを選択する場合には、ANを選択する場合に比べて、より耐久性が向上するといえる。
<試験・評価>
(評価例19:電池の高温貯蔵耐性)
EB8、EB10およびCB4のリチウムイオン二次電池について、60℃で1週間貯蔵する高温貯蔵試験を行った。高温貯蔵試験開始前に、3.0Vから4.1VにまでCC−CV(定電流定電圧)充電した。このときの充電容量を基準(SOC100)とし、当該基準に対して20%分をCC放電してSOC80に調整した後、高温貯蔵試験を開始した。高温貯蔵試験後に1Cで3.0VまでCC−CV放電した。このときの放電容量と貯蔵前のSOC80容量との比から、次式のように残存容量を算出した。結果を表23に示す。
残存容量=100×(貯蔵後のCC−CV放電容量)/(貯蔵前のSOC80容量)
EB8およびEB10の非水系二次電池の残存容量は、CB4の非水系二次電池の残存容量に比べて大きい。この結果から、本発明の電解液に由来し正極および負極に形成されたS,O含有皮膜が、残存容量増大にも寄与するといえる。
(EB11)
EB11のリチウムイオン二次電池は、正極および負極の目付量以外はEB1と同様に製造した。正極における活物質層の目付量は5.5mg/cm2であり、負極における活物質層の目付量は4.0mg/cm2であった。ここでいう活物質層の目付量とは、ロールプレス及び乾燥後の目付量を指す。なお、EB1のリチウムイオン二次電池において、正極における活物質層の目付量は11.0mg/cm2であり、負極における活物質層の目付量は8.0mg/cm2であった。
(CB5)
CB5のリチウムイオン二次電池は、正極および負極の目付量以外はCB1と同様に製造した。正極における活物質層の目付量はEB11と同じく5.5mg/cm2であり、負極における活物質層の目付量もまたEB11と同じく4.0mg/cm2であった。なお、EB11およびCB5の正極における活物質層の目付量および負極における活物質層の目付量は、EB1およびCB1の半分であった。また、比較例3のリチウムイオン二次電池における正極および負極の目付量は、実施例1のリチウムイオン二次電池と同様であった。
<試験・評価>
(評価例20:電池の入出力特性)
上記のEB11およびCB5のリチウムイオン二次電池の出力特性を評価した。評価時の使用電圧範囲は3V−4.2V、容量は13.5mAhであり、 各電池について充電状態(SOC)30%かつ−30℃、SOC30%かつ−10℃、SOC80%かつ25℃、の三水準で評価した。また、評価は2秒出力と5秒出力についてそれぞれ3回行った。出力特性の評価結果を表24に示した。以下、「2秒出力」は、放電開始から2秒後での出力を意味し、「5秒入力」は放電開始から5秒後での入力を意味する。
表24に示すように、EB1に比べて目付量を約半分にした場合にも、本発明の電解液を用いたEB11のリチウムイオン二次電池は、本発明の電解液を用いていないCB5のリチウムイオン二次電池に比べて入出力特性に優れる。
(評価例21:レート容量特性)
EB1およびCB1のリチウムイオン二次電池のレート容量特性を以下の方法で評価した。各電池の容量は160mAh/gとなるように調整した。評価条件は、各リチウムイオン二次電池につき、0.1C、0.2C、0.5C、1C、2Cの速度で充電を行った後に放電を行い、それぞれの速度における作用極の容量(放電容量)を測定した。0.1C放電後および1C放電後の放電容量を表25に示す。なお表25に示した放電容量は、正極活物質の質量(g)当りの容量を算出したものである。
表25に示すように、放電速度が遅い場合(0.1C)には、EB1のリチウムイオン二次電池とCB1のリチウムイオン二次電池との間に放電容量の違いは殆どない。しかし、放電速度が速い場合(1.0C)には、EB1のリチウムイオン二次電池の放電容量は、CB1のリチウムイオン二次電池の放電容量に比べて大きい。この結果から、本発明のリチウムイオン二次電池がレート容量特性に優れることが裏づけられる。これは、上述したように、本発明の非水電解質二次電池における電解液が従来のものとは異なり、本発明の非水電解質二次電池の負極および/または正極に形成されるS,O含有皮膜もまた、従来のものと異なるためだと考えられる。
(評価例22:0°、SOC20%での出力特性評価)
上記のEB1およびCB1のリチウムイオン二次電池の出力特性を評価した。評価条件は、充電状態(SOC)20%、0℃、使用電圧範囲3V−4.2V、容量13.5mAhである。SOC20%、0℃は、例えば、冷蔵室などで使用する場合のように出力特性が出にくい領域である。EB1およびCB1のリチウムイオン二次電池の出力特性の評価は、2秒出力と5秒出力についてそれぞれ3回行った。出力特性の評価結果を表26に示した。
表26に示すように、EB1のリチウムイオン二次電池の0℃、SOC20%の出力は、CB1のリチウムイオン二次電池の出力に比べて、1.2倍〜1.3倍高かった。
(評価例23:25℃、SOC20%での出力特性評価)
EB1およびCB1のリチウムイオン電池の出力特性を、充電状態(SOC)20%、25℃、使用電圧範囲3V―4.2V、容量13.5mAhの条件で評価した。実施例1および比較例1のリチウムイオン二次電池の出力特性の評価は、2秒出力と5秒出力についてそれぞれ3回行った。評価結果を表27に示した。
表27に示すように、EB1のリチウムイオン二次電池の25℃、SOC20%の出力は、CB1のリチウムイオン二次電池の出力に比べて、1.2倍〜1.3倍高かった。
(評価例24:出力特性に対する温度の影響)
また、上記のEB1およびCB1のリチウムイオン二次電池の出力特性に対する、測定時の温度の影響を調べた。0℃と25℃で測定し、いずれの温度下での測定においても、評価条件は、充電状態(SOC)20%、使用電圧範囲3V―4.2V、容量13.5mAhとした。25℃での出力に対する0℃での出力の比率(0℃出力/25℃出力)をもとめた。その結果を表28に示した。
表28に示すように、EB1のリチウムイオン二次電池は、2秒出力および5秒出力における25℃での出力に対する0℃での出力の比率(0℃出力/25℃出力)が、CB1のリチウムイオン二次電池と同程度であり、EB1のリチウムイオン二次電池は、CB1のリチウムイオン二次電池と同程度には低温での出力低下を抑制できることがわかった。
(評価例25:正極S,O含有皮膜分析)
TOF−SIMS(Time−of−Flight Secondary Ion Mass Spectrometry:飛行時間型二次イオン質量分析法)を用いて、EB4の正極S,O含有皮膜に含まれる各分子の構造情報を分析した。
EB4の非水電解質二次電池を25℃で3サイクル充放電した後、3V放電状態で解体し正極を取り出した。これとは別に、EB4の非水電解質二次電池を25℃で500サイクル充放電した後、3V放電状態で解体し正極を取り出した。さらにこれとは別に、EB4の非水電解質二次電池を25℃で3サイクル充放電した後、60℃で一か月間放置し、3V放電状態で解体し正極を取り出した。各正極をDMCで3回洗浄し、分析用の正極を得た。なお、当該正極には正極S,O含有皮膜が形成され、以下の分析では正極S,O含有皮膜に含まれる分子の構造情報が分析された。
分析用の各正極を、TOF−SIMSにより分析した。質量分析計としては飛行時間型二次イオン質量分析計を用い、正二次イオンおよび負二次イオンを測定した。一次イオン源としてはBiを用い、一次加速電圧は25kVであった。スパッタイオン源としてはAr−GCIB(Ar1500)を用いた。測定結果を表29〜表31に示す。なお、表30における各フラグメントの正イオン強度(相対値)とは、検出された全てのフラグメントの正イオン強度の総和を100%とした相対値である。同様に、表31に記載した各フラグメントの負イオン強度(相対値)とは、検出された全てのフラグメントの負イオン強度の総和を100%とした相対値である。
表29に示すように電解液の溶媒由来と推定されるフラグメントは、正二次イオンとして検出されたC3H3およびC4H3のみであった。また、電解液の塩由来と推定されるフラグメントは、主に負二次イオンとして検出され、上記した溶媒由来のフラグメントに比べてイオン強度が大きい。さらに、Liを含むフラグメントは主に正二次イオンとして検出され、Liを含むフラグメントのイオン強度は、正二次イオンおよび負二次イオンのなかでも大きな割合を占める。
以上のことから、本発明のS,O含有皮膜の主成分は電解液に含まれる金属塩由来の成分であり、かつ、本発明のS,O含有皮膜には多くのLiが含まれると推測される。
さらに、表29に示すように、塩由来と推定されるフラグメントとしてはSNO2,SFO2,S2F2NO4等も検出されている。これらは何れもS=O構造を有し、かつSに対してNやFが結合した構造である。つまり、本発明のS,O含有皮膜において、SはOと二重結合しているだけでなく、SNO2,SFO2,S2F2NO4等のように、他の元素と結合した構造をもとり得る。したがって、本発明のS,O含有皮膜は少なくともS=O構造を有していれば良く、S=O構造に含まれるSが他の元素と結合していても良いといえる。なお、当然乍ら、本発明のS,O含有皮膜はS=O構造をとらないSおよびOを含んでいても良い。
ところで、例えば特開2013−145732に紹介されている従来型の電解液、つまり、有機溶媒としてのECと金属塩としてのLiPF6と添加剤としてLiFSAとを含有する従来の電解液では、Sは有機溶媒の分解物に取り込まれる。このためSは、負極皮膜および/または正極皮膜中においてCpHqS(p、qはそれぞれ独立した整数)等のイオンとして存在すると考えられる。これに対して、表29〜表31に示すように、本発明のS,O含有皮膜から検出されたSを含有するフラグメントは、CpHqSフラグメントではなくアニオン構造を反映したフラグメントが主体である。このことからも、本発明のS,O含有皮膜が従来の非水電解質二次電池に形成される皮膜とは根本的に異なることが明らかになる。
(EB12)
電解液E8を用いたハーフセルを以下のとおり製造した。
径13.82mm、面積1.5cm2、厚み20μmのアルミニウム箔(JIS A1000番系)を作用極とし、対極は金属Liとした。セパレータは厚さ400μmのWhatmanガラス繊維濾紙:品番1825−055を用いた。
作用極、対極、セパレータおよびE8の電解液を電池ケース(宝泉株式会社製 CR2032型コインセルケース)に収容しハーフセルを構成した。これをハーフセルEB12とした。
(評価例26:Alの溶出確認)
ハーフセルEB12に対して、1mV/sの速度で3.1V〜4.6V(vs.Li基準)の範囲でリニアスイープボルタンメトリー測定(所謂LSV)を10回繰り返した際の、電流と電極電位の変化を観察した。ハーフセルEB12の充放電1回目、2回目、3回目の電流と電極電位との関係を示すグラフを図65に示す。
図65から、作用極をAlとしたEB12では、4.0Vでは電流が殆ど確認されず、4.3Vで一旦僅かに電流が増大するが、その後4.6Vまで大幅な増大は見られなかった。また、充放電の繰返しによって電流量は減少し定常化に向った。
以上の結果から、本発明の電解液を使用するとともに正極にアルミニウム集電体を用いた非水電解質二次電池は、高電位でもAlの溶出が起こり難いと考えられる。Alの溶出が起こり難いとされる理由は明確ではないが、本発明の電解液は、従来の電解液とは金属塩と有機溶媒の種類、存在環境および金属塩濃度が異なり、従来の電解液に比べて、本発明の電解液に対するAlの溶解性が低いのではないかと推測する。
(評価例27:作用極Alでのサイクリックボルタンメトリー評価)
(EB13)
電解液E8にかえて電解液E11を用いた以外は、ハーフセルEB12と同様にして、ハーフセルEB13を作製した。
(EB14)
電解液E8にかえて電解液E16を用いた以外は、EB12と同様にして、ハーフセルEB14を作製した。
(EB15)
電解液E8にかえて電解液E19を用いた以外は、EB12と同様にして、ハーフセルEB15を作製した。
(EB16)
電解液E8にかえて電解液E13を用いた以外は、EB12と同様にして、ハーフセルEB16を作製した。
(CB6)
電解液E8にかえて電解液C5を用いた以外は、EB12と同様にして、ハーフセルCB6を作製した。
(CB7)
電解液E8にかえて電解液C6を用いた以外は、EB12と同様にして、ハーフセルCB7を作製した。
ハーフセルEB12〜EB15およびCB6に対して、3.1V〜4.6V、1mV/sの条件で5サイクルのサイクリックボルタンメトリー評価を行い、その後、3.1V〜5.1V、1mV/sの条件で5サイクルのサイクリックボルタンメトリー評価を行った。
また、ハーフセルEB13、EB16およびCB7に対して、3.0V〜4.5V、1mV/sの条件で、10サイクルのサイクリックボルタンメトリー評価を行い、その後、3.0V〜5.0V、1mV/sの条件で、10サイクルのサイクリックボルタンメトリー評価を行った。
ハーフセルEB12〜EB15およびCB6に対する電位と応答電流との関係を示すグラフを図66〜図74に示す。また、ハーフセルEB13、EB16およびCB7に対する電位と応答電流との関係を示すグラフを図75〜図80に示す。
図74から、ハーフセルCB6では、2サイクル以降も3.1Vから4.6Vにかけて電流が流れ、高電位になるに従い電流が増大しているのがわかる。また、図79および図80から、ハーフセルCB7においても同様に、2サイクル以降も3.0Vから4.5Vにかけて電流が流れ、高電位になるに従い電流が増大している。この電流は、作用極のアルミニウムが腐食したことによるAlの酸化電流と推定される。
他方、図66〜図73から、ハーフセルEB12〜EB15では2サイクル以降は3.1Vから4.6Vにかけてほとんど電流が流れていないことがわかる。4.3V以上では電位上昇に伴いわずかに電流の増大が観察されるものの、サイクルを繰り返すに従い、電流の量は減少し、定常状態に向かった。特に、ハーフセルEB13〜EB15は、高電位である5.1Vまで電流の顕著な増大が観察されず、しかも、サイクルの繰り返しに伴い電流量の減少が観察された。
また、図75〜図78から、ハーフセルEB13およびEB16においても同様に、2サイクル以降は3.0Vから4.5Vにかけてほとんど電流が流れていないことがわかる。特に3サイクル目以降では4.5Vに至るまで電流の増大はほぼない。そして、ハーフセルEB16では高電位となる4.5V以降に電流の増大がみられるが、これはハーフセルCB7における4.5V以降の電流値に比べると遙かに小さい値である。ハーフセルEB13については、4.5V以降も5.0Vに至るまで電流の増大はほぼなく、ハーフセルEB13〜EB15と同様に、サイクルの繰り返しに伴い電流量の減少が観察された。
サイクリックボルタンメトリー評価の結果から、5Vを超える高電位条件でも、電解液E8、E11、E16、およびE19のアルミニウムに対する腐食性は低いといえる。すなわち、電解液E8、E11、E16、およびE19は、集電体などにアルミニウムを用いた電池に対し、好適な電解液といえる。
(EB17)
電解液E8を用いたハーフセルを以下のとおり製造した。
活物質である平均粒径10μmの黒鉛90質量部、及び結着剤であるポリフッ化ビニリデン10質量部を混合した。この混合物を適量のN−メチル−2−ピロリドンに分散させて、スラリーを作製した。集電体として厚み20μmの銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を乾燥してN−メチル−2−ピロリドンを除去し、その後、銅箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で120℃、6時間加熱乾燥して、活物質層が形成された銅箔を得た。これを作用極とした。なお、銅箔1cm2あたりの活物質の質量は1.48mgであった。また、プレス前の黒鉛及びポリフッ化ビニリデンの密度は0.68g/cm3であり、プレス後の活物質層の密度は1.025g/cm3であった。
対極は金属Liとした。
作用極、対極、両者の間に挟装したセパレータとしての厚さ400μmのWhatmanガラス繊維ろ紙及び電解液E8を、径13.82mmの電池ケース(宝泉株式会社製 CR2032型コインセルケース)に収容しハーフセルを構成した。これをハーフセルEB17とした。
(EB18)
電解液E11を用いた以外は、EB17と同様の方法で、ハーフセルEB18を製造した。
(EB19)
電解液E16を用いた以外は、EB17と同様の方法で、ハーフセルEB19を製造した。
(EB20)
電解液E19を用いた以外は、EB17と同様の方法で、ハーフセルEB20を製造した。
(CB8)
電解液C5を用いた以外は、EB17と同様の方法で、ハーフセルCB8を製造した。
(評価例28:充放電の可逆性)
ハーフセルEB17〜EB20、CB8に対し、25℃、電圧2.0VまでCC充電(定電流充電)し、電圧0.01VまでCC放電(定電流放電)を行う2.0V−0.01Vの充放電サイクルを、充放電レート0.1Cで3サイクル行った。各ハーフセルの充放電曲線を図81〜図85に示す。
図81〜図85に示されるように、ハーフセルEB17〜EB20は、一般的な電解液を用いたハーフセルCB8と同様に、可逆的に充放電反応することがわかる。