実施例の説明に先立ち、本発明のある態様にかかる実施形態の作用効果を説明する。なお、本実施形態の作用効果を具体的に説明するに際しては、具体的な例を示して説明することになる。しかし、後述する実施例の場合と同様に、それらの例示される態様はあくまでも本発明に含まれる態様のうちの一部に過ぎず、その態様には数多くのバリエーションが存在する。したがって、本発明は例示される態様に限定されるものではない。
第1実施形態の波面計測装置について説明する。第1実施形態の波面計測装置は、光源部と、保持部と、受光光学系と、波面測定部と、波面データ生成部と、を有し、光源部は、計測軸の一方の側に配置され、波面測定部は、計測軸の他方の側に配置され、保持部は、光源部と波面測定部との間に配置され、受光光学系は、保持部と波面測定部との間に配置され、保持部は、被検光学系を保持する開口部を有し、光源部から被検光学系に向けて光束を照射し、波面測定部で、被検光学系を透過した光束を測定し、波面データ生成部で、波面測定部で測定した結果から波面収差データを生成する波面計測装置であって、受光光学系によって、開口部近傍と波面測定部近傍とが光学的に共役になっており、光束の測定は、開口部の中心を計測軸から所定の距離だけ離した状態での測定を少なくとも含むことを特徴とする。
第1実施形態の波面計測装置を図1に示す。また、保持部の例を図2に示す。波面計測装置1は、光源部2と、保持部3と、受光光学系4と、波面測定部5と、波面データ生成部6と、を有する。
図1に示すように、光源部2は、計測軸7の一方の側に配置されている。波面測定部5は、計測軸7の他方の側に配置されている。保持部3は、光源部2と波面測定部5との間に配置されている。受光光学系4は、保持部3と波面測定部5との間に配置されている。
光源部2は、LEDやレーザで構成されている。光源部2からは、保持部3に向かって光束L1が照射される。
図2に示すように、保持部3は、ステージ8上に載置されている。この例では、ステージ8は固定ステージである。保持部3は、開口部9を有する。開口部9には、被検光学系10が挿入される。図2では、被検光学系10は単レンズである。この単レンズがそのままの状態で、開口部9に挿入されている。しかしながら、単レンズを枠部材で保持し、枠部材と共に開口部9に挿入しても良い。
図3は、被検光学系の例であって、(a)は被検光学系が1つの単レンズで構成されている場合の図、(b)は被検光学系が複数のレンズで構成されている場合の図である。図3(a)では、被検光学系20は、1枚のレンズ21とレンズ枠22とで構成されている。図3(b)では、被検光学系23は、3枚の単レンズ24、25及び26と鏡筒27とで構成されている。
図1に戻って説明を続ける。開口部9に被検光学系10を挿入し、光源部2から光束L1を射出する。これにより、光源部2から出射した光束L1が、被検光学系10に照射される。
ここで、開口部9の中心12と計測軸7とが一致している場合、被検光学系10の軸と計測軸7は略一致した状態になる。この状態での被検光学系10は破線で示されている。この状態では、光源部2、被検光学系10、受光光学系4及び波面測定部5は共軸になる。光源部2から射出した光束L1は、被検光学系10の中央部に照射される。
光源部2が被検光学系10の前側焦点位置に配置されている場合、被検光学系10から平行光束が射出される。光源部2が被検光学系10の前側焦点位置に配置されていない場合、被検光学系10からは非平行光束(集光光束又は発散光束)が射出される。光源部2は被検光学系10の前側焦点位置に配置されていなくても良いが、光源部2が被検光学系10の前側焦点位置に配置されている方が好ましい。
図1は、光源部2が被検光学系10の前側焦点位置に配置されている場合を示している。そのため、被検光学系10から射出する光束L2は、破線で示すように平行光束になる。
一方、開口部9の中心12と計測軸7とが一致していない場合、被検光学系10の軸と計測軸7とは離れた状態になる。この状態での被検光学系10は実線で示されている。この状態では、光源部2、受光光学系4及び波面測定部5は共軸になるが、被検光学系10は、光源部2、受光光学系4及び波面測定部5とは共軸にならない。
このような状態にするには、光源部2、被検光学系10、受光光学系4及び波面測定部5が共軸なっている状態から、被検光学系10だけを計測軸7と垂直な方向にシフトさせれば良い。例えば、開口部9の中心12を計測軸7から所定の距離だけ離した状態となるように、使用者が保持部3をステージ8上に載置すれば良い。所定の距離は、被検光学系10に応じて決めれば良い。
開口部9の中心12と計測軸7とが一致していない場合、被検光学系10に入射する光束は、軸外し状態の光束となる。その結果、実線で示すように、光源部2から出射した光束L1は、被検光学系10の周辺部に照射される。
被検光学系10の周辺部を透過した光束L1は、被検光学系10で屈折された後、被検光学系10から射出する。光源部2が被検光学系10の前側焦点位置に配置されているので、検光学系10から射出する光束L3は、光束L2と同様に平行光束になる。
ただし、光束L3の進行方向は、光束L2の進行方向とは異なる。光束L3は計測軸7と交差した後、計測軸7から離れていく。そのため、このままでは、光束L3は波面測定部5には入射しない。
しかしながら、波面計測装置1では、保持部3と波面測定部5との間に受光光学系4が配置されている。この受光光学系4によって、受光光学系4から射出した光束の進行方向を、計測軸7側に向けることができる。
受光光学系4から射出した光束の様子は、受光光学系4の種類によって異なる。受光光学系4としては、例えば、焦点距離が無限大の光学系と焦点距離が有限の光学系とがある。前者はアフォーカル光学系と呼ばれている。
焦点距離が無限大の光学系を受光光学系4に用いた場合について説明する。この場合、受光光学系4から射出する光束L4は平行光束で、光束L4は平行光束のまま波面測定部5に入射する。
焦点距離が有限の光学系を受光光学系4に用いた場合について説明する。この場合、例えば受光光学系4から射出する光束L5は受光光学系4の焦点位置で集光し、その後、発散しながら波面測定部5に入射する。
ここで、第1実施形態の波面計測装置では、開口部が波面測定部と共役となるように、開口部と、受光光学系と、波面測定部と、が位置決めされていることが好ましい。
これにより、受光光学系4によって、開口部9の近傍と波面測定部5の近傍とが光学的共役関係になる。そのため、被検光学系10から射出した光束L3は、必ず波面測定部5へ導かれる。
すなわち、光束L3は受光光学系4に入射した後、受光光学系4で屈折される。受光光学系4で屈折された光束は、受光光学系4から射出する。受光光学系4を射出した光束L4は、計測軸7と交差するように、計測軸7に近づいていく。
光束L4が計測軸7と交差する位置は、開口部9の近傍と光学的に共役な位置である。この位置には、波面測定部5が配置されている。その結果、光束L4を波面測定部5に入射させることができる。
更に、第1実施形態の波面計測装置では、被検光学系の後側主点が波面測定部と共役となるように、開口部と、受光光学系と、波面測定部と、が位置決めされていることが好ましい。
このようにすることで、光束L4を、より確実に波面測定部5に入射させることができる。また、被検光学系10を射出した直後の波面収差形状が、波面測定部にて正確に再生される。焦点距離が有限の受光光学系を用いた場合は被検光学系10を射出した直後の波面収差形状にパワー成分が加わった波面形状が波面測定部にて再生される。
波面測定部5では、光束L4の測定が行われる。この光束L4は、被検光学系10を透過した光束である。上述のように、受光光学系4によって、開口部9の近傍と波面測定部5の近傍とが光学的共役関係になっている。そのため、被検光学系10を射出した光束L3がどの方向に進んでも、光束L3を波面測定部5に入射させることができる。
また、波面測定部5の位置における波面と被検光学系10を出射した直後の波面とは、同一形状に維持される。すなわち、被検光学系10を射出した直後の波面収差形状が、波面測定部5へ再生される。
波面測定部5は、例えば、シャックハルトマンセンサー(以下、「SHセンサー」という)である。図4はSHセンサーの構造と機能を示す図であって、(a)はSHセンサーに平面波が入射した場合の様子を示し、(b)はSHセンサーに非平面波が入射した場合の様子を示している。
SHセンサー30は、マイクロレンズアレイ31と撮像素子32から構成される。撮像素子32は、例えば、CCDやCMOSである。ここでは、各マイクロレンズは等間隔で配置され、各マイクロレンズには収差が無いものとする。
SHセンサー30では、マイクロレンズアレイ31によって、SHセンサー30に入射した光束が集光される。このとき、集光位置には、光束が透過したマイクロレンズの数と同じ数の光スポット像が形成される。集光位置には、撮像素子32が配置されている。光スポット像の各々は、撮像素子32によって受光される。ここで、撮像素子32では、微小な受光素子が2次元配列されている。よって、各光スポット像の位置を知ることができる。
SHセンサー30に平面波が入射した場合、光スポット像の各々は等間隔で形成される。一方、SHセンサー30に非平面波が入射した場合、光スポット像の各々は、等間隔で形成されない。このように、各光スポット像の位置は、SHセンサー30に入射した波面の形状、すなわち、波面収差の発生量に依存する。
計測したい波面をSHセンサー30に入射させると、波面はマイクロレンズアレイ31によって分割される。その結果、波面は、撮像素子32の撮像面に複数の光スポット像として投影される。これら複数の光スポット像位置の基準位置からのズレ量から、波面収差を計測することができる。
波面データ生成部6は、波面測定部5で測定した結果から波面収差データを生成する。すなわち、複数の光スポット像位置の基準位置からのズレ量から、波面収差を計測する。ここで、光束L1は、被検光学系10の外周部に照射されている。この照射位置は軸外であるので、この場合は、被検光学系10の軸外波面収差の計測が行える。
所定の距離を変えることで、被検光学系10における光束L1の照射位置を変えることができる。例えば、開口部9の中心11と計測軸7とが一致している状態となるように、保持部3をステージ8上に載置しても良い。この場合、被検光学系10を射出した光束L2は、破線で示すように、計測軸7と平行に進む。保持部3と波面測定部5との間に受光光学系4が配置されているので、光束L2は受光光学系4に入射する。
ここで、上述のように、受光光学系4によって、開口部9の近傍と波面測定部5の近傍とが光学的に共役になっている。そのため、被検光学系10を射出した直後の波面収差形状が、波面測定部へ再生される。光束L1は、被検光学系10の中心部に照射されている。この照射位置は軸上であるので、この場合は、被検光学系10の軸上波面収差の計測が行える。
ステージ8を移動ステージにしても良い。このようにすると、ステージ8を移動させるだけで、軸外波面収差の計測と軸上波面収差の計測との切り替えを簡単に行うことができる。また、波面計測装置1では、保持部3と波面測定部5との間に受光光学系4が配置されている。そのため、軸外波面収差の計測と軸上波面収差の計測のいずれにおいても、波面測定部5における光束L4の入射位置は同じになる。その結果、波面測定部5の位置を変えずに、軸上波面収差の計測と軸外波面収差の計測とを行うことができる。
軸上波面収差を計測する状態から軸外波面収差を計測する状態にするには、被検光学系10を計測軸7と垂直な方向にシフトさせれば良い。この場合、被検光学系10のシフトに必要な移動量は、被検光学系10の有効口径程度と同じ量である。この移動量はそれほど多くない量なので、被検光学系10の移動は短時間で済ませることができる。
更に、波面測定部5の位置を変える必要がないので、軸外波面収差の計測に必要な時間は非常に短くで済む。そのため、軸外波面収差の計測を、簡易的な構成で短時間に行うことができる。また、必要に応じて移動量を変えることで、計測時間をさらに短縮することもできる。
第2実施形態の波面計測装置について説明する。第2実施形態の波面計測装置は、光源部と、保持部と、第1の移動機構と、受光光学系と、波面測定部と、波面データ生成部と、を有し、光源部は、計測軸の一方の側に配置され、波面測定部は、計測軸の他方の側に配置され、保持部は、光源部と波面測定部との間に配置され、受光光学系は、保持部と波面測定部との間に配置され、保持部は、被検光学系を保持する開口部を有し、光源部から被検光学系に向けて光束を照射し、波面測定部で、被検光学系を透過した光束を測定し、波面データ生成部で、波面測定部で測定した結果から波面収差データを生成する波面計測装置であって、受光光学系によって、開口部近傍と波面測定部近傍とが光学的に共役になっており、第1の移動機構は、計測軸の周りの複数の位置に被検光学系を移動させ、被検光学系における光束の透過領域は、複数の位置の各々で異なり、波面測定部は、被検光学系を透過した光束を、複数の位置の各々で測定し、波面データ生成部は、複数の位置の各々で測定した結果から波面収差データを生成することを特徴とする。
第2実施形態の波面計測装置においても、開口部が波面測定部と共役となるように、開口部と、受光光学系と、波面測定部と、が位置決めされていることが好ましい。更に、被検光学系の後側主点が波面測定部と共役となるように、開口部と、受光光学系と、波面測定部と、が位置決めされていることが好ましい。
第2実施形態の波面計測装置を図5に示す。波面計測装置1’は、光源部2と、保持部3と、第1の移動機構40と、受光光学系4と、波面測定部5と、波面データ生成部6と、を有する。図1に示す波面計測装置1と同じ構成については、同じ番号を付して、詳細な説明を省略する。
波面計測装置1’は、第1の移動機構を有する。第1の移動機構の例を図6に示す。第1の移動機構40は、移動ステージ41と移動ステージ42とで構成されている。移動ステージ41と移動ステージ42は、共に、一方向に移動するステージである。
第1の移動機構40では、移動ステージ41の移動方向と移動ステージ42の移動方向とが直交するように、移動ステージ41と移動ステージ42が配置されている。これにより、計測軸7と直交する面内で、被検光学系10を様々な位置に移動させることができる。
その結果、波面計測装置1’では、計測軸7の周りの複数の位置に被検光学系10を移動させることができる。更に、被検光学系10における光束の透過領域が、複数の位置の各々で異なるようにすることができる。
ここで、本実施形態の波面計測装置では、第1の移動機構は、被検光学系を回転させて透過領域を変化させることが好ましい。
図7は、被検光学系における光束の透過領域の変化を示す図であって、(a)は第1の位置における透過領域を示す図、(b)は第2の位置における透過領域を示す図、(c)は第3の位置における透過領域を示す図、(d)は第4の位置における透過領域を示す図である。
図7において、破線で示す位置は、第1の移動機構40の初期位置である。移動ステージ41と移動ステージ42は、各々、固定部と移動部で構成されている。固定部対して移動部を移動させることで、移動部に載置した物体を移動させることができる。よって、図7において、破線で示す位置は、移動ステージ41の固定部、又は移動ステージ42の固定部を示していることになる。
図7(a)に示すように、第1の位置は、初期位置から被検光学系10を紙面内の右方向に移動させた位置である。この位置では、計測軸7上に領域43が位置する。よって、光束L1はこの領域43を通過する。
図7(b)に示すように、第2の位置は、初期位置から被検光学系10を紙面内の上方向に移動させた位置である。この位置では、計測軸7上に領域44が位置する。よって、光束L1はこの領域44を通過する。
図7(c)に示すように、第3の位置は、初期位置から被検光学系10を紙面内の左方向に移動させた位置である。この位置では、計測軸7上に領域45が位置する。よって、光束L1はこの領域45を通過する。
図7(d)に示すように、第4の位置は、初期位置から被検光学系10を紙面内の下方向に移動させた位置である。この位置では、計測軸7上に領域46が位置する。よって、光束L1はこの領域46を通過する。
このように、第1の移動機構40を用いることで、被検光学系10における光束の透過領域が、複数の位置の各々で異なるようにすることができる。
被検光学系10は、開口部9に挿入されている。よって、被検光学系10の移動の様子は、開口部9の移動の様子から知ることができる。図8は、開口部の中心の移動の様子を示す図である。
図8では、開口部9は破線で示され、また、移動軌跡47は実線で示されている。移動軌跡47は、開口部9の中心12の移動の様子を示している。移動軌跡47は、計測軸7を中心とする円の円周と一致している。開口部9には被検光学系10が挿入されているので、被検光学系10も計測軸7を中心とする円の円周上を移動する。このように、第1の移動機構40を用いることで、被検光学系10を移動軌跡47に沿って回転させることができる。これにより、被検光学系10における光束の透過領域が変化する。
また、本実施形態の波面計測装置では、第1の移動機構は計測軸に対して被検光学系を公転軌道で移動させ、波面測定部は、公転軌道での移動中に波面収差データを取得することことが好ましい。
上述のように、移動軌跡47は、計測軸7を中心とする円の円周と一致している。この円周に沿う移動は公転を示す軌道であるので、開口部9は計測軸7の周りに公転していることになる。被検光学系10は開口部9に挿入されているので、被検光学系10も計測軸7の周りに公転する。移動軌跡47は公転軌道を示し、計測軸7は公転軸ということができる。
第1の移動機構40を用いることで、被検光学系10を公転軌道で移動させることができる。また、被検光学系10の移動を離散的に行うことで、公転軌道上の複数の位置に被検光学系10を静止させることができる。これにより、公転軌道での移動中に、複数の位置で波面収差データを取得することができる。
波面計測装置1’では、計測軸7の周りの複数の位置に被検光学系10を移動させる。この移動はベクトルで表すことができる。図8に示すように、被検光学系10のシフト量の大きさをRとする。このシフト量の大きさRは、計測軸7を基準にしたときの大きさである。
シフトの量や方向を表示する目的で、計測軸7上の一点を原点として、被検光学系10の移動をベクトルで示す。これを公転シフトベクトルと呼ぶことにする。X方向に被検光学系10がシフトしたとき、公転シフトベクトルは(R、0)で表される。一方、Y方向に被検光学系10がシフトしたとき、公転シフトベクトルは(0、R)で表される。また、計測軸周りの角度をθとしたとすると、被検光学系10がθ方向にシフトしたとき、公転シフトベクトルは(Rcosθ、Rsinθ)で表される。
このθを、0度、10度、20度・・・というように、10度間隔で350度まで変化させて、被検光学系10をシフトさせる。この被検光学系10の動きを公転、θを公転角度と呼ぶことにする。但し、被検光学系10をシフトさせる間隔は10度でなくても良い。
シフトさせた各位置で、波面測定部5によって、被検光学系を透過した光束が測定される。そして、波面データ生成部6で、各位置で測定した結果から波面収差データを生成する。
また、被検光学系を公転軌道で移動させることで、公転時のそれぞれの公転角度で軸外波面収差測定を簡単に実施することができる。このようにして得られた軸外波面収差測定データは、被検光学系の周方向に渡って異常の有無の確認に用いることができる。
また、投光光学系によって、被検光学系の有効径の半分以上を光束が透過するようにしても良い。このようにすれば、公転での軸外波面収差測定で、被検光学系の有効径を全面にわたって、異常の有無を確認することができる。
また、第1実施形態の波面計測装置と第2実施形態の波面計測装置(以下、「本実施形態の波面計測装置」という)では、受光光学系は、最も光源部側に位置する前側光学系と、最も波面測定部側に位置する後側光学系と、を少なくとも有し、前側光学系の後側焦点位置と後側光学系の前側焦点位置とが一致又は共役になっていることが好ましい。
図13は、受光光学系の構成を示す図である。図5に示す波面計測装置1’と同じ構成については同じ番号を付して、詳細な説明は省略する。
受光光学系は2つ以上の光学系で構成できるが、波面計測装置60では、受光光学系は2つの光学系で構成されている。すなわち、受光光学系61は、レンズ62とレンズ63とで構成されている。レンズ62は最も光源部2側に位置し、レンズ63は波面測定部5側に位置している。よって、レンズ62が前側光学系に対応し、レンズ63が後側光学系に対応する。
波面計測装置60では、受光光学系61は、レンズ62とレンズ63とで構成されているので、レンズ62の後側焦点位置とレンズ63の前側焦点位置とが一致している。よって、受光光学系61は、焦点距離が無限大の光学系である。
ここで、本実施形態の波面計測装置では、レンズ63の後側焦点位置が波面測定部と一致するように、受光光学系と波面測定部が位置決めされていることが好ましい。
レンズ62の後側焦点位置とレンズ63の前側焦点位置とが一致しているので、レンズ63の後側焦点位置に波面測定部5を一致させると、レンズ62の前側焦点位置と波面測定部5とが光学的共役関係になる。
また、本実施形態の波面計測装置では、開口部がレンズ62の前側焦点位置と一致するように、保持部と共役光学系が位置決めされていることが好ましい。
被検光学系10を開口部9に挿入すると、被検光学系10がレンズ62の前側焦点位置の近傍に位置する。その結果、被検光学系10と波面測定部5が、ほぼ光学的共役関係になる。そのため、被検光学系10から射出した光束L3、L3’は、波面測定部5へ導かれる。
更には、本実施形態の波面計測装置では、被検光学系の後側主点がレンズ62の前側焦点位置と一致するように、被検光学系と受光光学系とが位置決めされていることが好ましい。
このようにすると、被検光学系10と波面測定部5が、光学的共役関係になる。そのため、被検光学系10から射出した光束L3、L3’は、必ず波面測定部5へ導かれる。
すなわち、光束L3、L3’はレンズ62に入射した後、レンズ62で屈折される。被検光学系9は、レンズ62の前側焦点位置の近傍又は一致する位置に配置されている。そのため、レンズ62を射出した光束は、レンズ62の後側焦点位置に集光される。また、レンズ62を射出した光束の中心光線は、計測軸7と略平行になる。
レンズ62の後側焦点位置を通過した光束は、発散光束となってレンズ63に入射する。上述のように、レンズ62の後側焦点位置は、レンズ63の前側焦点位置と一致している。そのため、レンズ63に入射した光束は、平行光束になってレンズ63から射出する。レンズ63を射出した光束L4、L4’は、計測軸7と交差するように、計測軸7に近づいていく。その結果、光束L4、L4’を波面測定部5に入射させることができる。
上述のように、受光光学系61によって、被検光学系10と波面測定部5とが光学的共役関係になっている。そのため、被検光学系10を射出した光束L3、L3’がどの方向に進んでも、光束L3、L3’を波面測定部5に入射させることができる。
また、波面測定部5の位置における波面と被検光学系10を出射した直後の波面は、同一形状に維持される。すなわち、被検光学系10を射出した直後の波面収差形状が、波面測定部5へ再生される。
また、レンズ62とレンズ63との間に、リレー光学系を配置しても良い。リレー光学を配置する場合は、レンズ62の後側焦点位置とレンズ63の前側焦点位置とが、光学的共役関係となるようにする。このようにすれば、レンズ62の後側焦点位置とレンズ63の前側焦点位置とを一致させた場合と同じ作用効果を得ることができる。
SHセンサーを波面測定部5に用いる場合、マイクロレンズアレイの数が波面収差形状の空間分解能を決める。そのため、光束内に占めるマイクロレンズアレイの数が多いほど、高精度な波面収差計測が可能となる。被検光学系9を透過した後の光束L3の径が小さい場合でも、受光光学系4によって波面測定部5に入射する光束L4の径を大きくすることで、十分な数のマイクロレンズアレイを使うことができるようになる。
例えば、レンズ62の焦点距離を60mm、レンズ63の焦点距離を120mmとした場合、受光光学系4の倍率は2倍(120/60=2)となり、受光学系4によって波面測定部5に入射する光束L4の径を、被検光学系9を透過した後の光束L3の径に対して2倍に大きくすることができる。
被検光学系9を透過した後の光束の光線角度が大きい場合にはマイクロレンズアレイの各レンズに入射する光束の光線角度が大きいと、光束が撮像素子内に収まらないことがある。光線角度とは、光束を構成する光線と計測軸7とのなす角度である。
被検光学系10を出射した直後の波面収差が大きい場合には、マイクロレンズアレイの各レンズに入射する光線に対応する光線ごとの光線角度が大きく変わり撮像素子32に投影されるスポット像の間隔に大きな疎密が生じ波面収差の解析が困難になる。
例えば、レンズ62の焦点距離を60mm、レンズ63の焦点距離を120mmとした場合、受光光学系4の倍率は2倍(120/60=2)であり、光束L3の光線角度に対して、光束L4の光線角度を1/2にすることができる(ヘルムホルツラグランジェの不変量による)。
このように、受光光学系61の倍率を変えることで、光束L3の光線角度が大きい場合にも、マイクロレンズアレイの各レンズに入射する光線に対応する光線ごとの光線角度が大きく変わる場合でも、光束L4の光線角度を、SHセンサーで測定可能な光線角度内に抑えることができる。
波面計測装置40では、受光光学系61は単焦点光学系である。そのため、波面測定部5に入射する光束L4の径を変えるためには、レンズ62の焦点距離とレンズ63の焦点距離の少なくとも一方を変えれば良い。すなわち、レンズ62とレンズ63の少なくとも一方を交換すれば良い。このようにすることで、波面測定部5に入射する光束L4の径を変えることができる。
受光光学系61をズーム光学系(アフォーカルズーム)にしても良い。このようにすることで、受光光学系61を構成するレンズを交換することなく、光束L4の径を自由に変えることができる。
以上、焦点距離が無限大の光学系を受光光学系に用いた場合について説明した。しかしながら、焦点距離が有限の光学系を、受光光学系に用いても良い。この場合は、受光光学系における所定の位置に被検光学系の後側主点を一致させ、この所定の位置の像位置に被検光学系の波面測定部を一致させれば良い。所定の位置の像位置は、受光光学系における所定の位置に物体を配置したときに、物体の実像が形成される位置である。
また、本実施形態の波面計測装置は、光源部と保持部の間に投光光学系を有することが好ましい。ここで、投光光学系は集光光束を生成することが好ましい。また、集光光束の集光点の位置が被検光学系の前側焦点位置と一致するように、投光光学系と保持部とが位置決めされていることが好ましい。
図14は、投光光学系の構成を示す図である。図5に示す波面計測装置1’と同じ構成については同じ番号を付して、詳細な説明は省略する。図14に示す投光光学系の構成は、正の屈折力を有する被検光学系を計測する場合に用いられる構成である。
波面計測装置70では、光源部2と保持部3との間に投光光学系71が配置されている。投光光学系71は、レンズ72とレンズ73とで構成されている。投光光学系71では、レンズ72の後側焦点位置とレンズ73の前側焦点位置とが一致している。よって、投光光学系71は、焦点距離が無限大の光学系である。
また、レンズ72の前側焦点位置に光源部2が位置している。より詳しくは、レンズ72の前側焦点位置に光源部2の発光領域が位置している。そのため、光源部2から射出した発散光束は、レンズ72で平行光束に変換される。この平行光束はレンズ73に入射し、レンズ73で集光される。
この例では、被検光学系10は正の屈折力を有する。そのため、被検光学系10の前側焦点は、紙面内において投光光学系71の上側に位置する。そこで、投光光学系71では、投光光学系71の上側に光源部2の発光領域の像が形成される。その結果、被検光学系10から射出する光束L3、L3’を平行光束にすることができる。
レンズ72の焦点距離とレンズ73の焦点距離を変えることで、発光領域の像の位置、発光領域の像の大きさ、発光領域の像位置における開口数などを、自由に設定することができる。よって、被検光学系9に応じて、適切な焦点距離を有するレンズを、レンズ72とレンズ73に用いれば良い。
また、投光光学系71は光学絞り74を備えていても良い。波面計測装置70では、光学絞り74は、レンズ72とレンズ73との間、より詳しくは、レンズ72の後側焦点位置に配置されている。しかしながら、光学絞り74を配置する位置は、この位置に限れられない。
レンズ72とレンズ73の間は、光束は平行になっている。そこで、光学絞り74の開口部の大きさを変えることで、レンズ73に入射する平行光束の径を変えることができる。その結果、レンズ35から射出する集光光束の開口数を変えることができる。すなわち、被検光学系9に入射する光束L2の光束径を変えることができる。よって、被検光学系9に応じて、適切な大きさの開口部を有する光学絞りを、光学絞り74に用いれば良い。
図15は、別の投光光学系の構成を示す図である。図5に示す波面計測装置1’と同じ構成については同じ番号を付して、詳細な説明は省略する。図15に示す投光光学系の構成は、負の屈折力を有する被検光学系を計測する場合に用いられる構成である。
波面計測装置70では、光源部2と保持部3との間に投光光学系75が配置されている。投光光学系75は、レンズ76とレンズ77とで構成されている。投光光学系75では、レンズ76の後側焦点位置とレンズ77の前側焦点位置とが一致している。よって、投光光学系75は、焦点距離が無限大の光学系である。
また、レンズ76の前側焦点位置に光源部2が位置している。より詳しくは、レンズ76の前側焦点位置に光源部2の発光領域が位置している。そのため、光源部2から射出した発散光束は、レンズ76で平行光束に変換される。この平行光束はレンズ77に入射し、レンズ77で集光される。
この例では、被検光学系10’は負の屈折力を有する。そのため、被検光学系10’の前側焦点は、紙面内において被検光学系10’の下側に位置する。そこで、投光光学系75では、被検光学系10’の下側に光源部2の発光領域の像が形成される。その結果、被検光学系10’から射出する光束L3、L3’を平行光束にすることができる。
以上、焦点距離が無限大の光学系を投光光学系に用いた場合について説明した。しかしながら、焦点距離が有限の光学系を、投光光学系に用いても良い。この場合は、投光光学系における所定の位置に光源部を一致させ、この所定の位置の像位置に被検光学系の前側焦点位置を一致させれば良い。所定の位置の像位置は、投光光学系における所定の位置に物体を配置したときに、物体の実像が形成される位置である。
本実施形態の波面計測装置では、投光光学系は計測軸方向に駆動可能なことが好ましい。
投光光学系71や投光光学系75を計測軸7に沿う方向に移動させることで、計測軸7上の任意の位置に集光点を作れる。よって、例えば、投光光学系71を移動させることで、投光光学系75と同様に、負の屈折力を有する被検光学系10’の計測を行うことができる。光源部2は、投光光学系71と共に移動させることが好ましい。
本実施形態の波面計測装置では、投光光学系はズームレンズであることが好ましい。
このようにすることで、投光光学系71や投光光学系75を移動させなくても、計測軸7上の任意の位置に集光点を作れる。
本実施形態の波面計測装置では、投光光学系は、受光光学系と共軸となっていることが好ましい。
本実施形態の波面計測装置は、第2の移動機構を有し、第2の移動機構は、被検光学系を自転させることことが好ましい。
第2の移動機構の例を図16に示す。図6と同じ構成については同じ番号を付して、詳細な説明は省略する。
第2の移動機構80は、例えば、回転ステージである。第2の移動機構80は、第1の移動機構40と保持3との間に配置されている。第2の移動機構80が回転ステージの場合、回転ステージの中心軸は開口部9の中心軸11と一致している。よって、回転ステージを回転させることで、被検光学系10を自転させることができる。回転ステージの中心軸は検光学系10を自転させる軸であるので、自転軸ということができる。
本実施形態の波面計測装置は、前後反転機構を有し、前後反転機構は、計測軸と直交する軸を回転軸として被検光学系を回転させることが好ましい。
図17は前後反転機構の例を示す図であって、(a)は反転前の状態を示す図、(b)は反転後の状態を示す図である。図2と同じ構成については同じ番号を付して、詳細な説明は省略する。
前後反転機構90は、波面計測装置の本体部92とステージ8との間に配置されている。前後反転機構90は、例えば、回転ステージである。前後反転機構90が回転ステージの場合、回転ステージの中心軸91が計測軸7と直交するように、前後反転機構90が本体部92に取り付けられている。
回転ステージを回転させることで、被検光学系10を反転させることができる。図17(a)では、被検光学系のレンズ面Sは、紙面内の上方向に位置している。この状態から、回転ステージを180度回転させることで、図17(b)に示すように、被検光学系10のレンズ面Sが紙面内の下方向に向いている状態にすることができる。回転ステージの中心軸91は被検光学系10を回転させる軸、すなわち、前後反転軸である。
図17では、枠部材93によって被検光学系10が保持部3に押し付けられている。また、保持部3はステージ8に固定されている。これにより、被検光学系10を回転させても、保持部3や被検光学系10の落下を防止することができる。
本実施形態の波面計測装置の全体構成を図18に示す。これまでの図に示した構成と同じ構成については同じ番号を付して、詳細な説明は省略する。
波面計測装置100は、本体部101を有する。本体部101に、光源部2、投光光学系71、保持部3、受光光学系4、波面測定部5及び波面データ生成部6を有する。
光源部2は、保持部材102を介して本体部101に取り付けられている。投光光学系71は、保持部材103を介して本体部101に取り付けられている。受光光学系4は、保持部材105を介して本体部101に取り付けられている。
保持部3は第2の移動機構80に取り付けられている。第2の移動機構80は、第1の移動機構40に取り付けられている。第1の移動機構40はステージ8に取り付けられている。ステージ8は前後反転機構90に取り付けられている。前後反転機構90は保持部材104を介して、本体部101に取り付けられている。
波面計測装置100では、様々な焦点距離を持つ被検光学系について計測を行うことができる。計測対象の被検光学系が変わっても、受光光学系4を交換しない場合は、波面測定部5と共役な位置は変化しない。一方、計測対象の被検光学系が変わるごとに、被検光学系10の後側主点の位置が変化する。
上述のように、被検光学系10の後側主点と波面測定部5とは、光学的共役関係になっていることが好ましい。そこで、保持部材104は移動機構を備えていることが好ましい。
保持部材104の移動機構によって被検光学系10を移動させることで、被検光学系10の後側主点と波面測定部5とを光学的共役関係にすることができる。
焦点距離が無限大の光学系を受光光学系4に用いている場合、例えば、図13に示すように、受光光学系4はレンズ62とレンズ63とで構成されている。この場合、被検光学系10を移動させて、レンズ62の前側焦点位置に、被検光学系10の後側主点位置を一致させる。
焦点距離が有限の光学系を受光光学系4に用いている場合、被検光学系10を移動させて、波面測定部5と共役な位置に、被検光学系10の後側主点位置を一致させる。
被検光学系10の位置を変化させると、被検光学系10の前側焦点位置が変化する。計測対象の被検光学系が変わっても、投光光学系71を交換しない場合は、投光光学系71によって生成される集光点と被検光学系10の前側焦点位置とが一致しなくなる。そこで、保持部材102と103は、共に移動機構を備えていることが好ましい。
保持部材102の移動機構によって光源部2を移動させると共に、保持部材103の移動機構によって投光光学系71を移動させることで、投光光学系71によって生成される集光点と被検光学系10の前側焦点位置とを一致させことができる。
焦点距離が無限大の光学系を投光光学系71に用いている場合、例えば、図14に示すように、投光光学系71はレンズ72とレンズ73とで構成されている。この場合、保持光源部2と投光光学系71を移動させて、被検光学系10の前側焦点位置に、レンズ73の後側焦点位置を一致させる。
焦点距離が有限の光学系を投光光学系71に用いている場合、保持光源部2と投光光学系71を移動させて、被検光学系10の前側焦点位置に、投光光学系71によって形成された集光点を一致させる。
焦点距離が有限の光学系を投光光学系71に用いている場合、投光光学系71を移動させるだけで、被検光学系10の前側焦点位置に、投光光学系71によって形成された集光点を一致させることができる場合もある。
保持部材102で光源部2を保持し、保持部材103で投光光学系71を保持しているが、光源部2と投光光学系71を同一の保持部材で保持し、この保持部材が移動機構を備えていても良い。
投光光学系71は、別の投光光学系に交換することができる。また、投光光学系71はズームレンズにすることができる。この場合も、投光光学系71によって生成される集光点と被検光学系10の前側焦点位置とが一致しなくなることがある。そこで、上述のように、光源部や投光光学系の位置を調整して、投光光学系71によって生成される集光点と被検光学系10の前側焦点位置とを一致させれば良い。
受光光学系4は、別の受光光学系に交換することができる。また、受光光学系4はズームレンズにすることができる。この場合も、波面測定部5と共役な位置が変化することがある。この場合も、上述のように、被検光学系10を移動させれば良い。また、必要に応じて、受光光学系4や波面測定部5を移動させれば良い。このようにすることで、被検光学系10の後側主点と波面測定部5とを光学的共役関係にすることができる。
本実施形態の波面計測方法について説明する。本実施形態の波面計測方法では、被検光学系近傍と波面測定部近傍とを光学的共役関係にする工程と、波面計測装置の計測軸に対して被検光学系を偏心させる偏心駆動工程と、波面測定部と波面データ生成部が、被検光学系を透過した光束の波面収差データを取得する波面データ取得工程と、を有することを特徴とする。
波面計測の実施に先立って、被検光学系が波面計測装置にセットされる。このとき、被検光学系近傍と波面測定部近傍とが光学的共役関係となるように、被検光学系が波面計測装置にセットされる。また、波面計測装置の計測軸に対して被検光学系が偏心した状態となるように、被検光学系が波面計測装置にセットされる。
被検光学系が波面計測装置にセットされると、被検光学系を透過した光束の波面収差データの取得が行われる。波面収差データの取得について具体的に説明する。
第1実施形態の波面計測方法では、被検光学系を公転させることで、軸外波面収差を計測する。図19は第1実施形態の波面計測方法のフローチャートである。
上述のように、本実施形態の波面計測装置では、計測軸の周りの複数の位置に被検光学系を移動させ、被検光学系における光束の透過領域を複数の位置を異なるようにしている。そこで、第1実施形態の波面計測方法では、ステップS100において、測定回数の設定が行われる。測定回数の設定では、測定回数を指定すれば良いが、角度増分Δθを指定しても良い。角度増分Δθは、0度、10度、20度・・・というように、被検光学系10をシフトさせるときの角度の変化量である。
ステップS101では、設定内容の確認が行われる。角度増分Δθが設定された場合、ステップS102で角度増分Δθから測定回数が求まる。
ステップS103では測定回数を示すパラメータnが初期化され、ステップS104では公転角度を示すパラメータθが初期化される。そして、ステップS105が実行される。ステップS105では、光束が被検光学系に照射される。
1回目の測定では、被検光学系を波面計測装置にセットした状態、すなわち、公転角度θ=0の状態で、光束が被検光学系に照射される。ステップS106では、被検光学系を透過した光束を使って波面収差データWFDの取得が行われる。ステップS107では、取得された波面収差データWFDの記憶が行われる。これにより、1回目の測定が終了する。
続いて、ステップS108で、測定回数の確認が行われる。測定回数が設定した回数と一致してない場合、ステップS109で測定回数が1つ加算される。また、ステップS110でΔθが加算され、新たな公転角度θが設定される。
ステップS111では、新たに設定された公転角度θに基づいて、被検光学系の移動が行われる。被検光学系の新たな位置は、公転角度θに対応する位置である。そして、新たな位置での波面収差データWFDの取得と記憶が行われる。
ステップS106からステップS111までが、測定回数が設定した回数と一致するまで繰り返し行われる。測定回数が設定した回数と一致すると測定を終了する。
このように、本実施形態の計測方法では、被検光学系を自転する前の状態、すなわち、最初に被検光学系を波面計測装置にセットした状態で、各公転角度における波面収差データWFDを取得する。波面測定部としてシャックハルトマンセンサーを用いた場合、マイクロレンズの数と同じ数の光スポット像(以下「スポット群」という)が形成される。このスポット群を撮像素子で撮像することで、スポット群の各スポットについて位置データが取得される。Δθが10度の場合、36個の波面収差データWFDが得られる。なお、計測軸と公転軸は多少の軸ずれがあっても問題ない。
波面データ生成部の構成の例を図20に示す。波面データ生成部6は、演算処理部110と、プログラム記憶部111と、データ記憶部112と、第1の移動機構制御部113と、を有する。第2の移動機構制御部114については、第2実施形態の波面計測方法で説明する。
演算処理部110は、指定されたプログラムに従って各種の演算や処理を行う。
プログラム記憶部111は、所定の処理を演算処理部110に実行させるためのプログラムが記憶されている。プログラム記憶部111には、例えば、図19に示すフローチャートの処理を実行するためのプログラムが格納されている。このプログラムは、波面データ生成部6の外部から読み込むこともできる。よって、プログラム記憶部111は省略することができる。
データ記憶部112は、波面測定部5で取得した波面収差データWFDや、演算処理部110で行った処理の結果を記憶する。
第1の移動機構制御部113は、演算処理部110からの指示に基づいて、第1の移動機構40を制御する。第1の移動機構40によって、被検光学系は公転角度θに対応する位置に移動する。
図20では、第2の移動機構制御部114と第2の移動機構80が図示されている。しかしながら、第1実施形態の波面計測方法では、被検光学系の移動は公転のみである。よって、被検光学系の移動のためには、第1の移動機構制御部113と第1の移動機構40とを備えていれば良く、第2の移動機構制御部114と第2の移動機構80は不要である。
第2実施形態の波面計測方法は、被検光学系を公転させると共に自転させることで、軸外波面収差を計測する方法である。図21は第2実施形態の波面計測方法のフローチャートである。第1実施形態の波面計測方法のフローチャートと同じ処理については同じ番号を付して、詳細な説明は省略する。
第1実施形態の計測方法による測定を「公転による軸外波面収差測定」とすると、第2実施形態の計測方法では、被検光学系を自転させて、「公転による軸外波面収差測定」を行う。被検光学系を自転させる前の状態を第1の状態とし、被検光学系を自転させた後の状態を第2の状態とする。
第2実施形態の計測方法では、第1の状態と第2の状態との区別を行うため、パラメータFGを用いる。ステップS120では自転状態を示すパラメータFGが初期化される。被検光学系を波面計測装置にセットした状態が第1の状態である。
ステップS121では、自転状態の確認が行われる。第1の状態の場合、測定回数が設定した回数と一致するまで、ステップS106からステップS111までが繰り返し行われる。測定回数が設定した回数と一致すると、第1の状態での測定を終了する。
第1の状態での測定を終了すると、ステップS122に進む。ステップS122で、自転状態の確認が行われる。第1の状態の場合、ステップS123が実行される。ステップS123では、被検光学系の自転が行われる。自転角度は180度であることが好ましい。
自転終了後、ステップS124では、第2の状態を示すためにパラメータFGに1が設定される。そして、ステップS103に戻る。
ステップS121では、自転状態の確認が行われる。FG=1なので、ステップS121では第2の状態であると判断される。これにより、ステップS125とステップS126とが実行される。ステップS125では、被検光学系を透過した光束を使って波面収差データWFD’の取得が行われる。ステップS126では、取得された波面収差データWFD’の記憶が行われる。測波面収差データWFD’の取得と記憶は、定回数が設定した回数と一致するまで繰り返し行われる。
測定回数が設定した回数と一致すると、第2の状態での測定を終了する。第2の状態での測定を終了すると、ステップS127に進む。ステップS127では、波面収差変化データの取得が行われる。ステップS127では、第1の状態で取得した波面収差データを参照波面データとし、第2の状態で取得した波面収差データを測定波面データとし、自転に伴う波面収差変化データの取得が行われる。
第2実施形態の計測方法では、被検光学系を180度自転させたが、この値に限られない。なお、計測軸と自転軸は多少の軸ずれがあっても問題ない。被検光学系の軸と自転軸にも多少の軸ずれがあっても問題ない。
このように、第2実施形態の計測方法では、被検光学系を自転させる前の状態に加えて、自転させた後の状態で、各公転角度で波面収差データWFD’を取得する。波面測定部としてシャックハルトマンセンサーを用いた場合、スポット群の各スポットについて位置データが取得される。Δθが10度の場合、被検光学系を自転した後の状態でも、36個の波面収差データWFD’が得られる。なお、計測軸と公転軸は多少の軸ずれがあっても問題ない。
被検光学系の自転前の波面収差データWFDを参照波面収差データとし、自転後の波面収差データWFD’を測定波面収差データとして、波面収差変化データを解析する。波面収差変化データは公転角度状態、すなわち、波面収差データWFD、WFD’を取得した複数の位置の各々で解析する。その結果、36個の波面収差変化データが得られる。
第2実施形態の波面計測方法を実施するために、本実施形態の波面計測装置は、自転前波面データ取得制御部と、自転後波面データ取得制御部と、波面変化データ解析部と、を有し、第1の状態は、第2の移動機構による自転を実施する前の状態であり、第2の状態は、第2の移動機構による自転を実施した後の状態であり、自転前波面データ取得制御部は、第1の状態で、計測軸に対して被検光学系を公転軌道で動かして、公転軌道中の複数の位置の各々で取得した波面収差データを保存し、自転後波面データ取得制御部は、第2の状態で、計測軸に対して被検光学系を公転軌道で動かして、公転軌道中の複数の位置の各々で取得した波面収差データを保存し、波面変化データ解析部は、第1の状態で取得した波面収差データを参照波面データとし、第2の状態で取得した波面収差データを測定波面データとし、自転に伴う波面収差変化データを取得することことが好ましい。
波面データ生成部を含む処理部を図22に示す。図20と同じ構成については同じ番号を付して、詳細な説明は省略する。
波面データ生成部6Aは、演算処理部110と、プログラム記憶部111と、データ記憶部112と、第1の波面データ取得制御部121と、第2の波面データ取得制御部122と、第1の移動機構制御部113と、第2の移動機構制御部114と、を有する。また、波面データ生成部6Aには、波面変化データ解析部130が接続されている。
第1の波面データ取得制御部121は、自転前波面データ取得制御部である。第1の波面データ取得制御部121は、第1のプログラムに基づいて処理を実行する。第1のプログラムにおける処理は、第1の状態、すなわち、被検光学系を自転させる前の状態で、計測軸に対して被検光学系を公転軌道で動かして、公転軌道の複数の位置で波面収差データWFDの取得と記憶を行う処理である。
そのため、第1の移動機構制御部113や第2の移動機構制御部114は、第1の波面データ取得制御部121からの指示に基づいて、第1の移動機構40や第2の移動機構80を制御する。
第2の波面データ取得制御部122は、自転後波面データ取得制御部である。第2の波面データ取得制御部122は、第2のプログラムに基づいて処理を実行する。第2のプログラムにおける処理は、第2の状態、すなわち、被検光学系を自転させた後の状態で、計測軸に対して被検光学系を公転軌道で動かして、公転軌道の複数の位置で波面収差データWFD’の取得と記憶を行う処理である。
そのため、第1の移動機構制御部113や第2の移動機構制御部114は、第2の波面データ取得制御部122からの指示に基づいて、第1の移動機構40や第2の移動機構80を制御する。
このように、第1の波面データ取得制御部121や第2の波面データ取得制御部122を用いることで、演算処理部110の負担を軽減することができる、また処理スピードも向上させることができる。
第2の波面データ取得制御部122での処理は、第1の波面データ取得制御部121でで行っても良い。
また、第1の波面データ取得制御部121での処理や第2の波面データ取得制御部122での処理を、演算処理部110で行っても良い。この場合、波面データ生成部6Aの変わりに、図20に示す波面データ生成部6を用いることができる。
第3実施形態の波面計測方法は、ゼルニケフィッティングを行う方法である。図23は第3実施形態の波面計測方法のフローチャートである。図23では、第2実施形態の波面計測方法のフローチャートにおける処理の多くについて、図示を省略している。
上述のように、ステップS127では、自転に伴う波面収差変化データが取得される。ステップS128では、この波面収差変化データについてゼルニケフィッティングを行う。
波面測定部としてシャックハルトマンセンサーを用いた場合、スポット群の各スポットについて位置データが取得される。ここでは、参照波面収差データのスポット群の各スポットの位置と、測定波面収差データのスポット群の各スポットの位置と、が取得される。
そこで、参照波面収差データのスポット群の位置を基準にして、測定波面収差データのスポット群の位置がどの程度変位しているかを、測定波面収差データのスポット群の全スポットについて計算する。
そして、測定波面収差データのスポット群の各スポットの位置の変化量を、ゼルニケ多項式の微分関数にフィッティングする。これにより、ゼルニケ係数が得られる。得られたゼルニケ係数をゼルニケ波面収差変化データと呼ぶ。このようにして、収差量を定量化することができる。
参照波面収差データも測定波面収差データも、同じ被検光学系のデータである。よって、参照波面収差データを用いるという処理は、セルフリファレンスを行っているということができる。
第3実施形態の波面計測方法を実施するために、本実施形態の波面計測装置では、波面変化データ解析部は、複数の位置の各々で取得した波面収差変化データについてゼルニケフィッティングを実施し、複数の位置の各々でのゼルニケ波面収差変化データを取得することが好ましい。
第3実施形態の波面計測方法は、図22に示す波面変化データ解析部130で行われる。
また、波面変化データ解析部130での処理を、演算処理部110で行っても良い。この場合、図22に示す処理部で行う処理を、図20に示す波面データ生成部6で行うことができる。
第4実施形態の波面計測方法は、第3実施形態の波面計測方法に続いて行う方法である。図24は第4実施形態の波面計測方法のフローチャートである。図23と同じ処理については同じ番号を付して、詳細な説明は省略する。
第3実施形態の計測方法を「セルフリファレンス法」とすると、第4実施形態の計測方法では、セルフリファレンス法で得たゼルニケ波面収差変化データを使って、和演算と差演算を行う。
上述のように、公転軌道上の複数の位置で波面収差データの取得が行われ、各取得位置についてゼルニケ波面収差変化データが得られる。Δθが10度の場合、36個のゼルニケ波面収差変化データが得られる。そこで、ステップS130では、計測軸を挟んで対向する取得位置のペアを抽出する。
抽出されたペアの位置は、計測軸を挟んで対向しているので、計測軸の周りに180度対称となっている。例えば、θ=0度の位置におけるゼルニケ波面収差変化データと、θ=180度の位置におけるゼルニケ波面収差変化データがペアになる。また、θ=40度の位置におけるゼルニケ波面収差変化データと、θ=220度の位置におけるゼルニケ波面収差変化データがペアになる。
続いて、ステップS131を実行する。ステップS131で、抽出したペアのゼルニケ波面収差変化データについて、ゼルニケ多項式の瞳座標の次数の確認が行われる。そして、ゼルニケ多項式の瞳座標の次数が偶数次の場合はステップS132が実行され、ゼルニケ多項式の瞳座標の次数が奇数次の場合はステップS133が実行される。
ステップS132では、ゼルニケ波面収差変化データどうしで、ゼルニケ多項式の瞳座標が偶数次のゼルニケ係数について差演算を実行する。ステップS133では、ゼルニケ波面収差変化データどうしで、ゼルニケ多項式の瞳座標が奇数次のゼルニケ係数について和演算を実行する。ステップS134では、この処理が終了したペアの数を確認する。
この演算によって得られた結果を、収差成分と呼ぶことにする。収差成分は被検光学系の偏心量あるいは変位量の1乗に比例して発生する収差成分量と考えることができる。
収差成分は、次のようにして得ることもできる。一般的に、被検光学系の偏心量の1乗によって生じる波面収差は、物体高座標の関数として示されている。物体高座標は被検光学系のシフトのベクトルと対応していると考えることができる。よって、ゼルニケ波面収差データをこの関数に最小二乗法などのアルゴリズムを用いて当てはめることで、収差成分を得ることができる。
第4実施形態の波面計測方法を実施するために、本実施形態の波面計測装置は、収差成分量抽出解析部を有し、収差成分量抽出解析部は、各状態で得られたゼルニケ波面収差変化データについて、計測軸周りに180度対称なゼルニケ波面収差変化データどうしで、ゼルニケ多項式の瞳座標が偶数次のゼルニケ係数について差をとり、ゼルニケ多項式の瞳座標が奇数次のゼルニケ係数について和をとり、収差成分を抽出することが好ましい。
波面データ生成部を含む別の処理部を図25に示す。図22と同じ構成については同じ番号を付して、詳細な説明は省略する。
波面データ生成部6Aには、収差成分量抽出解析部140が接続されている。収差成分量抽出解析部140では、上述のステップS130からステップS134までの処理が行われる。これにより、収差成分が得られる。
また、収差成分量抽出解析部140での処理を、演算処理部110で行っても良い。この場合、図25に示す処理部で行う処理を、図20に示す波面データ生成部6で行うことができる。
第5実施形態の波面計測方法は、第4実施形態の波面計測方法に続いて行う方法である。図26は第4実施形態の波面計測方法のフローチャートである。図24と同じ処理については同じ番号を付して、詳細な説明は省略する。
第4施形態の計測方法を「1次の偏心収差抽出法」とすると、第4実施形態の計測方法では、1次の偏心収差抽出法で得た収差成分を使って、自転軸基準の被検光学系の偏心量を算出する。
自転軸基準偏心量算出部ではステップS140を実施するが、ステップS140の実施前に、偏心収差感度をあらかじめ計算しておく。偏心収差感度は、光学CADなどを用いて計算する。但し、偏心収差感度は、偏心量の1乗の成分で表される量にするため、次のように計算する。
被検光学系の設計形状に対する波面収差変化データを計算しておく。この波面収差変化データは、対象面が単位偏心量だけ偏心したときの透過波面収差の波面収差形状変化を示すものである。
続いて、波面収差変化データをゼルニケフィッティングして、ゼルニケ係数、すなわちゼルニケ波面収差変化データを得る。次に、180度対称な公転角度の2状態で、ゼルニケ波面収差変化データについて以下の演算を行う。
ゼルニケ多項式の瞳座標が偶数の項のゼルニケ係数について差をとり、ゼルニケ多項式の瞳座標が奇数の項のゼルニケ係数について和をとる。この演算によって得られた結果を、偏心収差感度とする。偏心収差感度は、被検光学系の各面における偏心自由度ごとの単位偏心量、あるいは単位変位量の1乗に比例して発生する収差成分量と考えることができる。
ステップS140では、偏心収差感度、収差成分及び自転に伴う被検光学系の各面の各偏心自由度の変位量について連立1次方程式を立式する。そして、最小二乗法などのアルゴリズムにより、この連立1次方程式を解析する。これにより、自転に伴う被検光学系の各面における偏心自由度ごとの変位量を算出する。
第5実施形態の波面計測方法を実施するために、本実施形態の波面計測装置は、自転軸基準偏心量算出部を有し、自転軸基準偏心量算出部は、解析された被検光学系の各面の各偏心自由度の変位量から自転軸基準の被検光学系の偏心量を算出することが好ましい。
波面データ生成部を含む別の処理部を図27に示す。図25と同じ構成については同じ番号を付して、詳細な説明は省略する。
波面データ生成部6Aには、自転軸基準偏心量算出部150が接続されている。自転軸基準偏心量算出部150では、上述のステップS140とステップS141の処理が行われる。これにより、自転軸基準の被検光学系の偏心量が得られる。
また、自転軸基準偏心量算出部150での処理を、演算処理部110で行っても良い。この場合、図27に示す処理部で行う処理を、図20に示す波面データ生成部6で行うことができる。
偏心算出の例を説明する。連立1次方程式の解析によって、自転に伴う被検光学系の各面における各偏心自由度の変位量が得られる。この各偏心自由度の変位量については、自転角度を考慮することで、基準位置を設けることで、空間上の位置として特定することができる。具体的には、自転角度が180度の場合は、自転に伴う被検光学系の各面における各偏心自由度の変位量を−2で割れば、自転軸基準の自転前のレンズ面の位置を特定することができる。
例えば、レンズ面が球面で構成されている場合は、レンズ面の位置は球心で表すことができる。図28は被検光学系の自転による球心の移動量を示す図である。図28では、被検光学系10は4つのレンズ面で構成されている。
第1の状態、すなわち自転を実施する前の状態では、球心200、球心201、球心202及び球心203は、自転軸の一方の側に位置している。この状態から自転を行うと、球心200、球心201、球心202及び球心203は、自転軸の他方の側に移動する。この他方の側は、自転軸を挟んで一方の側と反対の位置である。
図28に示すように、自転軸に対する球心の偏心量は、球心200ではδ1、球心201ではδ2、球心202ではδ3、球心203ではδ4である。被検光学系10の回転によって、球心200、球心201、球心202及び球心203の各々は変位する。この変位量は、自転前の自転軸に対する偏心量の−2倍となる。
なお、レンズ面が複数存在する場合、レンズ面どうしの偏心量を評価しても良い。この場合は、図28に示すように、空間に分布する複数レンズ面の偏心量が最小になるように、新たな軸210を設定する。そして、新たな軸210を基準にして、レンズ面の偏心量を評価すれば良い。
新たな軸210の設定は、例えば、仮の軸を設定し、仮の軸から球心までの距離について、全レンズ面で2乗和をとる。そして、仮の軸を変化させて、2乗和が最小となったときの仮の軸を新たな軸にすれば良い。あるいは、仮の軸から球心までの距離をレンズの曲率半径で割った量について、全レンズ面で2乗和をとる。そして、仮の軸を変化させて、2乗和が最小となったときの仮の軸を新たな軸にしても良い。
さらに、空間上に独自の軸を定義し、その軸基準のレンズ面の位置として偏心量を算出することができる。例えば、第1面の非球面軸を基準として第2面の非球面軸傾き、第2面の非球面面頂位置を算出することができる。
本実施形態の波面計測装置及び波面計測方法では、被検光学系を公転軌道に沿って移動させながら、波面収差データの測定を行っている。この移動によって、波面収差データの取得は、被検光学系に対してに周状に行われている。そのため、本実施形態の波面計測装置及び波面計測方法によれば、例えば、被検光学系に面精度エラーがあってもロバストな偏心測定が可能になる。
面精度エラーが180度回転させると同じ形になる、面の曲率半径誤差や回転対称なうねり(表1に示すゼルニケ項の4項、9項、16項・・・といった形状)、アス(5項、6項、12項、13項・・・といった形状)、四つ葉状(17項、18項・・・といった形状)の場合については、(セルフリファレンス法(第2実施形態の波面計測方法:被検光学系を自転させる方法)でキャンセルできる。しかし三つ葉状の面精度エラー(10項,11項・・・)といった形状に対しては、180度回転のセルフリファレンス法でキャンセルできない。
三つ葉形状の面精度エラーは、仮に断面形状を測定して偏心を測定したとしても、この方法では被検光学系の方位によって偏心量が変わりうる。これに対して、本実施形態の波面計測装置及び波面計測方法では、被検光学系をどの方位にしても非常にロバストな偏心測定が可能である。
波面計測装置1’では、波面収差データを解析することで、被検光学系10の面頂位置を求めることができる。そこで、2つのパターンで被検光学系を測定して、面頂位置を求めた場合について説明する。
図9は被検光学系の面形状を示す図である。被検光学系10は単レンズである。レンズ面50は、レンズの周辺部に凹部と凸部を複数有する。具体的には、図9に示すように、凹部L1と凸部H1、凹部L2と凸部H2及び凹部L3と凸部H3を有している。凹部と凸部は、面の中心を挟んで対向している。図9に示す面形状は製造誤差によって生じた形状であって、設計で決まっている形状ではない。
ここで、同じ被検光学系10を使って計測を複数回行う場合を考える。測定を行う前では、当然のことながら、レンズ面の形状や偏心位置は判明していない。そこで、計測装置に基準位置を設けて、計測装置に被検光学系10をセットすると、例えば、以下のような状況が生じる。
1回目の測定では、凹部L1が基準位置と一致するように被検光学系10がセットされる。2回目の測定では、凸部H2が基準位置と一致するように被検光学系10がセットされる。3回目の測定では、凸部H3と凹部L2の中間位置が基準位置と一致するように被検光学系10がセットされる。
このように、被検光学系10における特定部位が基準位置と一致しない状況を、ここでは、「基準位置に対する被検光学系の向きが異なる」という。被検光学系10における特定部位とは、例えば、凹部、凸部、面頂位置(偏心位置)である。
図10は測定パターンを示す図であって、(a)は第1のパターンを示す図、(b)は第2のパターンを示す図である。
第1のパターン51による測定では、図10(a)に示すように、レンズ面50の周辺部に照射した光束を、円を描くようにして移動させる。第1のパターン51は、光束の位置を固定して被検光学系を公転させた場合のパターンと同じである。よって、第1のパターン51は、本実施形態の波面計測装置における測定パターンということができる。
第2のパターン52による測定では、図10(b)に示すように、レンズ面50に照射した光束を、十字方向に移動させている。第2のパターン52は、従来の計測装置で多用されている測定パターンのうちの一つである。
第1のパターン51による測定と第2のパターン52による測定では、共に、光束を移動させながら、複数の位置で光束を測定している。そして、測定した各位置での測定データを用いて、面頂位置を算出している。したがって、第1のパターン51による測定では、円を描く移動が終了すると面頂位置が算出される。また、第2のパターン52測定では、十字を描く移動が終了すると面頂位置が算出される。
計測装置に被検光学系10を載置するたびに、基準位置に対する被検光学系10の向きが異なるという状況は、レンズ面50を回転させることで再現できる。
図11は、レンズ面を回転させたときの様子を示す図であって、(a)回転角度が0度のときの図、(b)は回転角度が30度のときの図、(c)は回転角度が60度のときの図である。
図11において、基準位置53は計測装置の基準位置である。1回目の測定では、図11(a)に示すように、凹部L1が基準位置53と一致するようにレンズ面50がセットされている。この状態で第1のパターン51による測定を行い、面頂位置を算出する。続いて、同じ状態で第2のパターン52による測定を行い、面頂位置を算出する。
次に、レンズ面を30度回転させて、2回目の測定を行う。2回目の測定では、図11(b)に示すように、凹部L1と凸部H2との中間位置が基準位置53と一致するように、レンズ面50がセットされている。この状態で第1のパターン51による測定を行い、面頂位置を算出する。続いて、同じ状態で第2のパターン52による測定を行い、面頂位置を算出する。
更に、レンズ面を更に30度回転させて、3回目の測定を行う。3回目の測定では、図11(c)に示すように、凸部H2が基準位置53と一致するようにレンズ面50がセットされている。この状態で第1のパターン51による測定を行い、面頂位置を算出する。続いて、同じ状態で第2のパターン52による測定を行い、面頂位置を算出する。
このように、レンズ面が1回転するまで、レンズ面の回転と、各位置での第1のパターン51による測定と第2のパターン52による測定を行う。その結果を図12に示す。
図12は面頂の位置を示す図であって、(a)は第1のパターンによる測定から求めた面頂位置を示す図、(b)は第2のパターンによる測定から求めた面頂位置を示す図である。図12において、原点は自転軸を表し、XY軸は自転軸に対して直交する2つの直交する軸で、偏心量の方向・大きさを示す軸である。
図12は、20度ごとにレンズ面を回転させたときの計測結果である。この場合、測定回数は18回になるので、測定で得られた面頂位置の数も18になる。見易さのために、第1面の面頂位置SP1の各点を実線で繋いでいる。また、第2の面頂位置SP2の各点を破線で繋いでいる。
第1のパターンで測定した場合は、図12(a)に示すように、第1の面頂位置SP1は、どの角度においても、第2の面頂位置SP2よりも内側に位置している。よって、第1のパターンで測定する場合は、基準位置に対する被検光学系10の向きが異なっていても、面頂位置は正しく求まる。すなわち、計測装置に被検光学系10をどのような向きでセットしても面頂位置は正しく求まる。
これは、被検光学系に偏心が生じている場合、偏心量と偏心位置が正しく求まることを意味している。また、偏心量と偏心位置を求めるためには波面収差が必要であることから、第1のパターンによる測定では、波面収差を正しく求めることができる。
一方、第2のパターンで測定した場合は、図12(b)に示すように、回転角度によっては、第1の面頂位置SP1が第2の面頂位置SP2よりも内側に位置する場合もあれば、第1の面頂位置SP1が第2の面頂位置SP2よりも外側に位置する場合もある。よって、第2のパターンで測定する場合は、基準位置に対する被検光学系10の向きが異なると、面頂位置がばらつくことを意味している。すなわち、計測装置に被検光学系10をセットした時の向きによって、面頂位置がばらつくことを意味している。
このように、第2実施形態の波面計測装置によれば、計測装置に被検光学系10をどのような向きでセットしても、波面収差や、偏心量や、面頂位置を正しく求めることができる。
上述のように、偏心収差感度、収差成分及び自転に伴う被検光学系の各面における各偏心自由度の変位量、について連立1次方程式を立式する。そして、最小二乗法などのアルゴリズムにより、連立1次方程式を解析する。その結果、自転に伴う被検光学系の各面における各偏心自由度の変位量を算出することができる。この算出を行った際、フィッティング残差は被検光学系の偏心以外の製造誤差の程度を反映していると考えることができる。よって、この情報を被検光学系の性能や製造誤差解析の手がかりにすることもできる。
また、本実施形態の波面計測方法では、上述の前後反転機構90を使用した波面計測を行うことが好ましい。本実施形態の波面計測方法によれば、偏心自由度が多い場合でも、偏心自由度ごとの偏心を測定することが可能になる。あるいは、偏心測定精度の向上が可能になる。
図18に示す波面計測装置100では、保持部3は第2の移動機構80上に位置している。また、第2の移動機構80は第1の移動機構40上に位置している。よって、保持部3は、被検光学系を10自転させる自転機構(第2の移動機構)ごと、軸外しシフトできる構造になっている。波面計測装置100では、軸外しシフトにより公転測定を行うと共に、軸外しシフトした状態で、被検光学系の自転によるセルフリファレンス法を実施することができる。
本実施形態の波面計測方法での特徴は、保持部3を計測軸7と垂直な軸の周りに180度回転させる工程を有していることである。この回転軸は前後反転軸91である。本実施形態の波面計測方法では、前後反転軸91は波面計測装置におけるY軸と平行にとる。
本実施形態の波面計測方法では、前後反転軸91の周りに保持部を回転する前の状態で、公転による軸外波面収差測定、セルフリファレンス法及び1次の偏心収差抽出法を行う。
次に、前後反転軸91の周りに保持部3を180度回転させる。前後反転軸91の周りに保持部3を180度回転させると、被検光学系10の前後がY軸周りに反転する。なお、計測軸7と自転軸(例えば、開口部9の中心軸11)は多少の軸ずれがあっても問題ない。このとき自転軸と被検光学系10の相対的な位置関係は変わらない。
ここで、偏心自由度について説明する。偏心自由度は、偏心の種類を示すものである。偏心自由度には、大きく分けてシフトとチルトとがある。図29は偏心自由度を説明する図であって、(a)は球面における偏心自由度を示し、(b)、(c)は非球面における偏心自由度を示している。
図29(a)に示すように、球面における偏心は球心の位置で表すことができる。球面における偏心自由度は、幾何学的に、X方向のシフトとY方向のシフトのみである。
また、球面では、仮に空間上のある点を中心に球面がチルトしたとしても、チルトは、X方向のシフトやY方向のシフト及びZ方向の面間隔ズレが生じたと考えることができる。よって、球面における偏心自由度は、X方向のシフトとY方向のシフトのみと考えてよ
い。
なお、面間隔のズレは製造時にも生じる。製造時の面間隔のズレは、例えば、1つのレンズでは肉厚の誤差、2つのレンズではレンズ間隔の誤差になる。製造誤差による面間隔のズレと、球面がチルトした時の面間隔のズレとは、現実的には区別できない。
一方で、非球面は、図29(b)、(c)に示すように、非球面面頂と非球面軸を持っている。非球面軸は回転対称な軸である。非球面はこの非球面軸を有するため、非球面の場合は、偏心自由度として、X方向のシフトとY方向のシフトに加えて、A方向のチルトとB方向のチルトがある。X方向のシフトとY方向のシフトは、非球面面頂に関する偏心自由度である。また、A方向のチルトとB方向のチルトは、非球面軸に関する偏心自由度である。
前後反転軸91の周りに保持部3を180度回転させると、自転軸に対する被検光学系10の偏心量は、X方向の符号は反転するが、B方向の符号は同じである。また、Y方向の符号は同じで、A方向の符号は逆になる。
この点について説明する。レンズ面が球面の場合、レンズ面が偏心していると、自転によって球心が移動する。図30は自転による球心の移動を示す図であって、(a)は前側計測時での球心の移動を示し、(b)は後ろ側計測時での球心の移動を示している。なお、図30では、球心の近傍のレンズ面を円で示している。よって、2つの円は、各々、同一のレンズ面の一部を表示しているに過ぎない。
前側計測は、前後反転軸91の周りに保持部3を180度回転させる前の計測である。前側計測時の球心の動きを、図30(a)を用いて説明する。自転前では、球心220はOxOy座標系の第1象限に位置している。そして、自転後では、球心220は第3象限に位置している。球心220の移動量はδfで、x成分はδX、y成分はδYである。
後ろ側計測は、前後反転軸91の周りに保持部3を180度回転させた後の計測である。後ろ側計測時の球心の動きを、図30(b)を用いて説明する。自転前では、球心220はOxOy座標系の第2象限に位置している。そして、自転後では、球心220は第4象限に位置している。球心220の移動量はδrで、x成分はδX、y成分はδYである。
上述のように、前後反転軸91の周りの回転を行う計測では、所定の距離の絶対値が、後ろ側計測時と前側計測時とで同じになるように、被検光学系10が配置されている。よって、|δf|=|δr|となる。
なお、球心220の移動を示すベクトルにおいて、Y成分のベクトルの向きは、前側計測時と後ろ側計測時とで同じである。一方、X成分のベクトルの向きは、前側計測時と後ろ側計測時とで逆向きになる。
このようなことから、後ろ側計測で得た計測結果を用いて演算を行う場合は、数値の符号を反転させる必要がある。
次に、偏心収差感度、前後反転軸91周りの回転前と回転後とで得られた収差成分及び自転に伴う被検光学系の各面における各偏心自由度の変位量、について連立1次方程式を立式する。そして、この連立1次方程式を、最小二乗法などのアルゴリズムにより解析する。これにより、自転に伴う被検光学系の各面の各偏心自由度の変位量を算出する。ただし、前後反転回転後の偏心収差感度の各偏心自由度については、X方向の符号は反転、B方向の符号は同じ、Y方向の符号は同じ、A方向の符号は逆にさせる。算出された各偏心自由度の変位量は、前後反転軸回転前の回転軸基準の変位量である。
偏心算出については、図26示す処理と同様に実施すれば良い。
以下、被検光学系の各面における変位量の1乗に比例する収差を抽出する点について説明する。以下の式に用いられる座標について説明する。図31は計測系における座標と被検光学系の偏心を示す図であって、(a)は偏心をレンズ面で示した図、(b)は偏心を球心で示した図である。
図31では、光源部(投光投光系)の座標系をOx軸、Oy軸及びOz軸で表し、波面測定部の座標系をρx軸とρy軸とで表している。また、光源部における座標を物体高座標(Ox,Oy,Oz)で表し、波面測定部における座標を瞳座標(ρx,ρy)で表す。
図31(a)に示すように、被検光学系は、第1レンズ面LS1から第jレンズ面LSjまでのレンズ面から構成されている。ここでは、これらのレンズ面がOz軸に対してY方向にシフトしている状況を考える。また、レンズ面はいずれも球面とする。
図29(a)で説明したように、レンズ面が球面の場合、レンズ面の偏心は球心で表すことができる。そこで、図31(b)では、球心を用いてレンズ面のシフトを表している。図31(b)において、SC1、SC2、・・・、SCjは、各レンズ面の球心を表している。
また、δ1、δ2、・・・、δjは、各レンズ面のY方向のシフト量を表している。
1次の偏心収差抽出法について説明する。偏心誤差や面精度エラーなどの製造誤差のない回転対称な被検光学系について考える。被検光学系の透過光束の波面収差をΦ(Ox,Oy,ρx,ρy)として示す。被検光学系は回転対称であるので、Φは以下の3つの項を用いてベキ多項式で展開できる(参照文献M.Born and E.Wolf,Principles of Optics)。
すなわち、Φは以下の式(1)で表される。式(1)からは、瞳座標が偶数次数の項に乗じられる物体座標次数も偶数、瞳座標が奇数次数の項に乗じられる物体座標次数も奇数であることが読み取れる。
次に物体座標がX方向にδx、Y方向にδyずれたときのΦを考える。この時のΦは、展開すると、式(2)に示すように、式(1)にδx、δyが含まれる項が加わった形になる。
式(2)からは、δx、δyのトータルの次数が奇数次としてδx、δyが乗じられている項について、乗じられている多項式は、瞳座標の偶数次と物体座標の奇数次の積、あるいは、瞳座標の奇数次と物体座標の偶数次の積、になっていることが読み取れる(式(1)の物体高座標の次数が1つ分、δx・δyに置き換わったと考えるとわかりやすい。よって物体座標次数が式(1)で偶数だった項が奇数へ、奇数だった項が偶数へ変化した。)。
煩雑になるのを防ぐために、括弧を用いて瞳座標と物体座標の多項式で表現すると、式(2)は以下の式(3)で表わされる。
カッコ内の多項式の各項の係数は、以下を使って表わされる。
なお、式(3)の括弧内の多項式は、瞳座標についてゼルニケ多項式を用いて展開することができる。このことから、1次の偏心収差抽出法において、以下のように減算を行うと、瞳座標が偶数次数の項に、δxの奇数次、δyの奇数次がかかった項を抽出することができる。
また、1次の偏心収差抽出法において、以下のように加算を行うと、瞳座標が奇数次数の項に、δxの奇数次、δyの奇数次がかかった項を抽出することができる。
δx、δyの量が微小であれば、δxの3次・5次・・、δyの3次・5次がかかった項の収差量は無視できるほど小さいと考えられる。そのため、1次の偏心収差抽出法を行うことで、δxの1次、δyの1次がかかった項を抽出できていると考えてさしつかえない。
よって、減算を行った結果は、以下の式(4)で表わされる。
一方、加算を行った結果は、以下の式(5)で表わされる。
被検光学系を透過した光束の波面収差は、被検光学系の各面を透過したときに発生する収差の和であると考えられる(参照文献H.H.Hopkins,Wave Theory of Aberrations)。k面によって発生する収差をΦkとすると、被検光学系の透過光束の波面収差Φは以下のように考えることができる。
Ox,Oy,ρx,ρyはk面ごとの座標ではなく被検光学系全体の座標で表示した。k面がX方向にδkx、Y方向にδky偏心したときのΦkを考えると、Φkは以下の式(7)で表わされる。
煩雑になるのを防ぐために、括弧を用いて瞳座標と物体座標の多項式で表現すると、式(7)は以下の式(8)で表わされる。
δx、δyの算出と同様に、δkx、δkyの量が微小であれば、1次の偏心収差抽出法を用いることで、δkxの1次、δkyの1次がかかった項を抽出できると考えられる。k面だけでなく被検光学系の各面について、偏心自由度ごとの偏心量の1乗が乗じられる項を抽出することができる。
一方、加算を行った結果は、以下の式(10)で表わされる。
1面の偏心自由度は、球面だとXYの2つ、非球面だとXYBAの4つである。以上の説明では、偏心自由度をXYの2つとして説明した。BAの偏心自由度を考慮する場合も導出は省略するが、1次の偏心収差抽出法を実施することで、同様にδkB、δkAの項が抽出される。
1次の偏心収差抽出法では、瞳座標が偶数次数か奇数次数かで、収差の和をとるか差をとるかが変わるが、実測の波面収差をゼルニケフィッティングすることで、瞳座標の偶数次数の項に対応する収差成分と奇数次数の項に対応する収差成分を分離することができる。ゼルニケ多項式を表1に示す。
1次の偏心収差抽出法によれば、偏心量とそれによって発生する収差量(第1の収差成分)を線形関係として扱うことができる。
セルフリファレンス法について説明する。一般的に、実測で得た収差には、被検光学系由来の収差だけでなく、計測装置の製造誤差によって生じる収差(システム収差)が含まれる。例えばシャックハルトマンセンサーのマイクロレンズアレイが撮像素子に対して傾いている、あるいは基板が歪んでいる、投光光学系や受光光学系に面精度エラーや組み立て時のアライメント誤差がある、などが考えられる。
また、実測では様々な軸、例えば、投光光学系の軸、受光光学系の軸、被検光学系軸が存在する。これらの軸は、実際には偏心があるため概略の軸という意味合いで用いている。これらの軸と公転軸とを完全に一致させることは、困難である。公転軸とは、被検光学系を公転軌道させる際の公転軌道の中心位置を通る軸である。
このような場合に被検光学系の偏心量を算出する際、求まった偏心量は何を基準にしたときの偏心量なのかなど、偏心量の意味合いがあいまいとなってしまう。
セルフリファレンス法は、このような問題を解決する方法である。セルフリファレンス法では、計測装置の製造誤差によって生じるシステム収差を除去でき、同時に、被検光学系の偏心量の基準軸を作ることができる。これによって、高精度な偏心測定を実現することができる。
セルフリファレンス法では、被検光学系を自転させる前での測定と、自転させた後での測定が行われる。自転前の測定で得られる被検光学系の波面収差は、以下の式(11)で表わされる。
但し、
δkx+Jx、δky+Jyは、被検光学系のk面における投光光学系の軸基準の偏心量であって、被検光学系が公転軸から離れた位置に配置された状態において、与えられた公転シフトベクトル量を無視したときの偏心量、
sysは、システム収差、
Jx,Jyは、投光光学系の軸基準の公転軸の偏心量、
δkx、δkyは、自転軸基準の被検光学系の偏心量、
である。
また、δkx,δky,Jx,Jyは微小量のためそれらの3乗以降に比例する項は無視する。
自転後の測定で得られる被検光学系の波面収差は、以下の式(12)で表わされる。ここでは、被検光学系を自転軸周りに180度回転させている。
セルフリファレンス法を実施して、自転前での波面収差と自転後の波面収差とから波面収差変化データを計算する。
このままの状態では、まだ投光光学系の軸と公転軸の軸の偏心の影響が除去できていない。そのため、さらに1次の偏心収差抽出法を実行する。
ゼルニケフィッティングの性質から、瞳座標偶数次の項を分離することで、自転軸基準の偏心量に比例する収差成分を得ることができる。
ゼルニケフィッティングの性質から、瞳座標奇数次の項を分離することで、自転軸基準の偏心量に比例する収差成分を得ることができる。
ここで、物体座標、瞳座標及び偏心量で表わされた波面収差に対して、セルフリファレンス法と1次の偏心収差抽出法を用いることで、自転に伴う被検光学系の各面の変位量の1乗に比例する収差成分が抽出できることを説明してきた。
セルフリファレンス法と1次の偏心収差抽出法は、被検光学系を軸外しシフト移動させることで軸外波面収差測定を行う場合についても、問題なく適用できる。上記の説明の物体座標が公転シフトベクトルに対応すると考えればよい。
公転シフトベクトルに誤差がある場合、すなわち、測定装置の被検光学系の位置を制御する装置による位置決め誤差がある場合の影響を考える。しかしながら被検光学系の変位量がミクロンオーダーであるのに対して、公転シフトベクトルの大きさのオーダーはミリオーダーである。仮に公転シフトベクトルの位置決め誤差が数ミクロンであったとしても本来の公転シフトベクトルの大きさの誤差の割合としては1%未満である。
よって、公転シフトベクトルの大きさにミクロンオーダーの誤差があったとしても、上記第1の収差成分の式から見て、収差成分を高精度に測定することが可能である。
公転軸が投光光学系の軸から(Jx,Jy)だけずれても問題なく第1の収差成分を抽出できることは上記で既に説明した。
受光光学系が投光光学系の軸からずれた場合の影響はシステム収差sysに含まれる。システム収差sysがあっても問題なく第1の収差成分を抽出できることは上記で既に説明した。
投光光学系・受光光学系を含めた測定装置に偏心誤差・面精度エラー・組み立て誤差などの製造誤差があってもシステム収差sysに含まれる。システム収差sysがあっても問題なく第1の収差成分を抽出できることは上記で既に説明した。
偏心方程式を解くために必要な偏心収差感度の計算方法を説明する。偏心方程式は1次方程式のため偏心量に対して発生する収差量は線形で取り扱える工夫が必要とある。
光学CADで以下のように偏心量の1乗に比例する偏心収差感度を計算する。
実測で使用する被検光学系・投光系・受光系を用いた計測機を光学CADのレンズデータに反映させる。
被検光学系のデータは、偏心誤差・面精度エラーといった製造誤差はなく理想状態で設定する。被検光学系の軸・投光系の軸・受光系の軸・自転軸・公転軸は一致している設定とする。
実測と同じ照射条件・公転シフトベクトルで、各公転シフトベクトルにおける波面収差データを取得する。これを参照波面収差データとする。
次に偏心自由度ごとに単位偏心量だけ偏心させた状態で、同様に各公転シフトベクトルにおける波面収差データを取得する。これを測定波面収差データとする。
両者の波面収差データから波面収差変化量を解析する。さらにゼルニケフィッティングを行い定量化する。これをゼルニケ波面収差変化感度と呼ぶことにする。
各公転シフトベクトルにおけるゼルニケ波面収差変化感度について、対称な公転シフトベクトルについて1次の偏心収差抽出法を実行する。これを偏心収差感度と呼ぶことにする。
両面非球面単レンズの偏心測定をする場合を説明する。偏心自由度は1面のX、2面のX、1面のB、2面のB、1面のY、2面のY、1面のA、2面のAの8つとなる。
自転軸に伴う面の変位量を偏心自由度ごとにHX1,HX1,HB1,HB2,HY1,HY2,HA1,HA2とする。それら偏心自由度ごとの偏心収差感度をX1,X2,B1,B2,Y1,Y2,A1,A2とする。実測で得た第1の収差成分をTとする。
ゼルニケ項と公転角度θを括弧を用いて(ゼルニケ項、公転角度)として示す。偏心方程式は以下のようになる。
さらに前後反転後のデータを用いると以下のようになる。但し、前後反転後のデータにはダッシュを付けて示した。前後反転をY軸周りに実施する場合、X感度とA感度を反転させる。
最小二乗法などのアルゴリズムで自転軸に伴う面の変位量を偏心自由度ごとにHX1,HX1,HB1,HB2,HY1,HY2,HA1,HA2を求めることができる。自転角度が180度の場合、それらを−2で割った値が、前後反転前の自転軸基準の各面の位置を示している。