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JP6413163B2 - クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷の判定用キット、判定方法及び試験方法 - Google Patents

クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷の判定用キット、判定方法及び試験方法 Download PDF

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Description

本発明は、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷の判定キット、判定方法及び試験方法に関する。
創傷において、感染は、治癒遅延や敗血症等の重篤な合併症を引き起こす重大な問題である。創傷における細菌と宿主との関係は、細菌の創部への負荷の程度に応じて、汚染、定着、クリティカルコロナイゼーション、感染と連続的に捉えられる。従来、創傷の状態は、主に微生物学的検査や目視により評価されてきた(例えば、非特許文献1を参照)。
創傷は、正常に治癒する創傷、クリティカルコロナイゼーション創傷及び感染創傷に分類することができる。感染創傷とは、細菌が創傷部において増殖、浸潤した状態にある創傷をいう。感染創傷は、明らかな炎症徴候があり、治癒遅延する病態である。また、クリティカルコロナイゼーション創傷とは、クリティカルコロナイゼーション(臨界的定着)状態にある創傷をいう。クリティカルコロナイゼーション創傷は、明らかな炎症徴候がないにもかかわらず治癒遅延する病態である。
Extending the TIME concept: what we have learned in the past 10 years?, Leaper DJ., et al., Int. Wound J. 9, 1-19, 2012.
感染創傷もクリティカルコロナイゼーション創傷も、治癒に向かわせるためには臨床的介入が必要であることから、早期診断が求められる。これらのうち、感染創傷は、目視により明らかな炎症徴候が認められることから、比較的容易に診断できる。しかしながら、従来、クリティカルコロナイゼーション創傷は、「最適なケアにもかかわらず2週間以上治癒傾向が認められない」という基準により診断されてきた。このため、クリティカルコロナイゼーション創傷は、他の原因を排除するケアを行ったうえ、2週間以上待たなければ診断することができず、適切な介入が困難であるとともに、患者や医療者の負担や医療経済的負担が高まる場合があった。
そこで、本発明は、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷を正確かつ迅速に検出することができる判定キット、判定方法及び試験方法を提供することを目的とする。
本発明は以下の通りである。
(1)Natriuretic peptide B(NPPB)、integrin beta 6(ITGB6)、copine IV(CPNE4)、echinoderm microtubule associated protein like 5(EML5)、intersectin 1(ITSN1)及びcytoplasmic polyadenylation element binding protein 1(CPEB1)からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子を増幅するプライマー対を含む、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷の判定キット。
(2)NPPB、ITGB6、CPNE4、EML5、ITSN1及びCPEB1からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質に対する抗体を含む、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷の判定キット。
(3)創傷を有する被検体から採取された創傷滲出液中の細胞における、NPPB、ITGB6、CPNE4、EML5、ITSN1及びCPEB1からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子の発現を検出する工程と、前記少なくとも1種の遺伝子の発現が検出された場合に、前記創傷が、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷であると判定する工程と、を含む、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷の判定方法。
(4)創傷を有する被検体から採取された創傷滲出液中の細胞における、NPPB、ITGB6、CPNE4、EML5、ITSN1及びCPEB1からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子の発現を検出する工程と、前記少なくとも1種の遺伝子の発現が検出された場合に、前記創傷滲出液が、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷に由来するものであると判定する工程と、を含む、創傷滲出液の由来の判定方法。
(5)創傷を有する被検体から採取された創傷滲出液中の細胞における、NPPB、ITGB6、CPNE4、EML5、ITSN1及びCPEB1からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子の発現を検出する工程と、前記検出する工程の結果を、前記少なくとも1種の遺伝子の発現が検出された場合には、前記創傷が、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷であるという基準と比較する工程と、を含む、前記創傷がクリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷であるか否かを試験する方法。
本発明によれば、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷を正確かつ迅速に検出することができる判定キット、判定方法及び試験方法を提供することができる。
対照群、定着群、クリティカルコロナイゼーション群、感染群のラットの創傷の肉眼的所見の変化を示す写真である。 対照群、定着群、クリティカルコロナイゼーション群、感染群のラットの創傷の創面積の変化を示すグラフである。 (a)は、対照群、定着群、クリティカルコロナイゼーション群、感染群のラットの創傷の、創作製6日後における発赤量を示すグラフである。(b)は、対照群、定着群、クリティカルコロナイゼーション群、感染群のラットの創傷の、創作製6日後における腫脹量を示すグラフである。 対照群、定着群、クリティカルコロナイゼーション群、感染群のラットの創傷の、創作製6日後における創底の組織1g当たりの細菌数を示すグラフである。 対照群、定着群、クリティカルコロナイゼーション群、感染群のラットの創傷の、創作製6日後における肉眼的所見を上段に示す。また、各群の創傷の写真内のA〜Dの枠で示す部位から作製した切片の写真をそれぞれA〜Dに示す。A〜Dの写真内の矢頭は、創縁の位置を示す。更に、A〜Dの写真内のE〜Lの枠で示す部位の拡大写真をそれぞれE〜Lに示す。
1実施形態において、本発明は、Natriuretic peptide B(NPPB)、integrin beta 6(ITGB6)、copine IV(CPNE4)、echinoderm microtubule associated protein like 5(EML5)、intersectin 1(ITSN1)及びcytoplasmic polyadenylation element binding protein 1(CPEB1)からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子を増幅するプライマー対を含む、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷の判定キットを提供する。
創傷滲出液中には、主に血管から創部へと遊走してきた免疫担当細胞等の、宿主の細胞が多く含まれている。後述するように、発明者らは、創傷滲出液中の細胞において、NPPB、ITGB6、CPNE4、EML5、ITSN1、CPEB1のいずれかの遺伝子の発現が検出された場合、当該創傷がクリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷であると判断できることを見出した。すなわち、NPPB、ITGB6、CPNE4、EML5、ITSN1、CPEB1遺伝子は、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷のマーカーとして有用である。本実施形態のキットは、創傷を有する被検体から採取された創傷滲出液中の細胞における上記のマーカー遺伝子の発現を検出するのに好適である。
本実施形態のキットによって、従来は判定に2週間以上必要であった、クリティカルコロナイゼーション創傷を正確かつ迅速に検出することができる。これにより、創傷が、正常に治癒する創傷であるか、クリティカルコロナイゼーション創傷若しくは感染創傷であるかを迅速に判定し、適切な治療方針を決定する判断材料を提供することができる。
上記のマーカー遺伝子の発現は、正常に治癒する創傷の創傷滲出液中の細胞では認められず、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷の創傷滲出液中の細胞において認められる。
創傷滲出液中の細胞において、上記のマーカー遺伝子のいずれか1つ以上の発現が検出された場合、当該創傷滲出液が由来する創傷は、クリティカルコロナイゼーション創傷若しくは感染創傷であると判定することができる。
また、後述するように、クリティカルコロナイゼーション創傷の創傷滲出液中の細胞よりも感染創傷の創傷滲出液中の細胞において、上記のマーカー遺伝子の発現量が高い。したがって、本実施形態のキットは、対象とする創傷が、クリティカルコロナイゼーション創傷であるか、感染創傷であるかを判断する判断材料を提供することもできる。また、マーカーの定量的数値が創傷の臨床的経過を鋭敏に反映するため、創傷の臨床的経過を判断する判断材料を提供することもできる。
本実施形態のキットに含まれるプライマー対は、上記のいずれかのマーカー遺伝子の発現を検出するプライマー対である。本実施形態のキットに含まれるプライマー対を用いて、創傷滲出液中の細胞の全RNA又はmRNAをサンプルとしたRT−PCR等を行うことにより、上記のマーカー遺伝子の発現を検出することができる。遺伝子の発現の検出は、例えば定性的なPCRにより行ってもよいし、例えばリアルタイム定量PCR等の定量性のある遺伝子増幅法により行ってもよいし、LAMP法等の定温で反応が進行する遺伝子増幅法により行ってもよい。あるいは、ノーザンブロッティング等により行ってもよい。
創傷滲出液は、例えば、患者の治療に用いられたガーゼ等から回収することができる。創傷滲出液中の細胞は、例えば、創傷滲出液を含むガーゼをリン酸緩衝液に浸した後、このリン酸緩衝液を遠心することにより沈殿させて回収することができる。例えば、沈殿した細胞を破砕して全RNA又はmRNAを抽出し、逆転写酵素及びオリゴdTプライマー又はランダムプライマーを用いて逆転写することによってcDNAを調製し、このcDNAを鋳型としたPCRにより上記のマーカー遺伝子の発現を検出することができる。
NPPB遺伝子を増幅するプライマー対としては、NPPB遺伝子のcDNAを増幅できるものであれば特に限定されないが、例えば、配列番号1に示す塩基配列を有するフォワードプライマー(センスプライマー)及び配列番号2に示す塩基配列を有するリバースプライマー(アンチセンスプライマー)からなるプライマー対が挙げられる。
ITGB6遺伝子を増幅するプライマー対としては、ITGB6遺伝子のcDNAを増幅できるものであれば特に限定されないが、例えば、配列番号3に示す塩基配列を有するフォワードプライマー及び配列番号4に示す塩基配列を有するリバースプライマーからなるプライマー対が挙げられる。
CPNE4遺伝子を増幅するプライマー対としては、CPNE4遺伝子のcDNAを増幅できるものであれば特に限定されないが、例えば、配列番号5に示す塩基配列を有するフォワードプライマー及び配列番号6に示す塩基配列を有するリバースプライマーからなるプライマー対が挙げられる。
EML5遺伝子を増幅するプライマー対としては、EML5遺伝子のcDNAを増幅できるものであれば特に限定されないが、例えば、配列番号7に示す塩基配列を有するフォワードプライマー及び配列番号8に示す塩基配列を有するリバースプライマーからなるプライマー対が挙げられる。
ITSN1遺伝子を増幅するプライマー対としては、ITSN1遺伝子のcDNAを増幅できるものであれば特に限定されないが、例えば、配列番号9に示す塩基配列を有するフォワードプライマー及び配列番号10に示す塩基配列を有するリバースプライマーからなるプライマー対が挙げられる。
CPEB1遺伝子を増幅するプライマー対としては、CPEB1遺伝子のcDNAを増幅できるものであれば特に限定されないが、例えば、配列番号11に示す塩基配列を有するフォワードプライマー及び配列番号12に示す塩基配列を有するリバースプライマーからなるプライマー対が挙げられる。
上記の遺伝子の発現は、タンパク質レベルで検出してもよい。すなわち、1実施形態において、本発明は、NPPB、ITGB6、CPNE4、EML5、ITSN1及びCPEB1からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質に対する抗体を含む、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷の判定キットを提供する。
本明細書において、NPPB遺伝子がコードするタンパク質をNPPBタンパク質という。同様に、ITGB6、CPNE4、EML5、ITSN1、CPEB1遺伝子がコードするタンパク質を、それぞれ、ITGB6、CPNE4、EML5、ITSN1、CPEB1タンパク質という。
抗体としては、ヒトのNPPB、ITGB6、CPNE4、EML5、ITSN1、CPEB1タンパク質を検出できるものであれば特に制限はなく、モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよい。また、ファージ抗体やアプタマー等であってもよい。
本実施形態のキットは、創傷を有する被検体から採取された創傷滲出液中の細胞における上記のマーカータンパク質の発現を検出するのに好適である。
創傷滲出液中に含まれる、宿主の細胞における上記のタンパク質の発現を検出することにより、創傷が、正常に治癒する創傷であるか、クリティカルコロナイゼーション創傷若しくは感染創傷であるかを判定することができる。
上記のマーカータンパク質の発現は、正常に治癒する創傷の創傷滲出液中の細胞では認められず、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷の創傷滲出液中の細胞において認められる。
上記のマーカータンパク質は、創傷滲出液中の宿主細胞により発現され、一部が創傷滲出液中に分泌されると考えられる。したがって、上記のマーカータンパク質の発現の検出は、創傷滲出液をサンプルとして行ってもよい。また、上記のマーカータンパク質の発現の検出は、創傷滲出液中の宿主細胞を回収し、回収した宿主細胞の破砕液等をサンプルとして行ってもよい。
マーカータンパク質の発現の検出は、例えば、イムノブロッティング、ELISA(Enzyme−Linked Immunosorbent Assay)、wound blotting等によって行うことができる。
ここで、wound blottingとは、ニトロセルロース膜、PVDF膜等の膜を創部に直接接触させ、例えば10秒〜1分間放置後回収し、回収された膜に転写されたタンパク質を免疫染色等により解析する方法である。
1実施形態において、本発明は、創傷を有する被検体から採取された創傷滲出液中の細胞における、NPPB、ITGB6、CPNE4、EML5、ITSN1及びCPEB1からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子の発現を検出する工程と、前記少なくとも1種の遺伝子の発現が検出された場合に、前記創傷が、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷であると判定する工程と、を含む、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷の判定方法を提供する。
(遺伝子の発現を検出する工程)
本実施形態の判定方法において、上記のマーカー遺伝子の発現の検出は、mRNAレベルで行ってもよく、タンパク質レベルで行ってもよい。
mRNAレベルでマーカー遺伝子の発現を検出する場合には、まず、例えば、治療に使用したガーゼ等に含まれる創傷滲出液から、宿主の細胞を回収する。続いて、この細胞から全RNA又はmRNAを調製する。例えば、ノーザンブロッティングを行う場合には、これらのRNAをサンプルとしてマーカー遺伝子の発現を検出することができる。また、PCR等によりマーカー遺伝子の発現を検出する場合には、上記の全RNA又はmRNAをもとに、逆転写酵素を用いてcDNAを調製し、調製したcDNAをサンプルに用いればよい。マーカー遺伝子の発現の検出は、例えば定性的なPCRにより行ってもよいし、例えばリアルタイム定量PCR等の定量性のある遺伝子増幅法により行ってもよいし、LAMP法等の定温で反応が進行する遺伝子増幅法により行ってもよい。
タンパク質レベルでマーカー遺伝子の発現を検出する場合には、例えば、治療に使用したガーゼ等に含まれる創傷滲出液をサンプルとしたイムノブロッティング、ELISA等により、創傷滲出液に含まれるマーカータンパク質の存在を検出することができる。
あるいは、治療に使用したガーゼ等に含まれる創傷滲出液から、宿主の細胞を回収し、この細胞の破砕液をサンプルとしてイムノブロッティング、ELISA等により、宿主の細胞によるマーカータンパク質の発現を検出することができる。あるいは、患者の創部にニトロセルロース膜、PVDF膜等の膜を直接接触させ、例えば10秒〜1分間放置後回収し、回収された膜を免疫染色等により解析する、wound blottingにより、創傷滲出液中に分泌されたマーカータンパク質の存在を検出することもできる。
(判定する工程)
マーカー遺伝子の発現を検出した結果、NPPB、ITGB6、CPNE4、EML5、ITSN1及びCPEB1からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子の発現が検出された場合に、上記の創傷が、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷であると判定することができる。
本実施形態の判定方法によって、従来は判定に2週間以上必要であった、クリティカルコロナイゼーション創傷を正確かつ迅速に検出することができる。これにより、創傷が、正常に治癒する創傷であるか、クリティカルコロナイゼーション創傷若しくは感染創傷であるかを迅速に判定し、適切な治療方針を決定する判断材料を提供することができる。
1実施形態において、本発明は、創傷を有する被検体から採取された創傷滲出液中の細胞における、NPPB、ITGB6、CPNE4、EML5、ITSN1及びCPEB1からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子の発現を検出する工程と、前記少なくとも1種の遺伝子の発現が検出された場合に、前記創傷滲出液が、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷に由来するものであると判定する工程と、を含む、創傷滲出液の由来の判定方法を提供する。
(遺伝子の発現を検出する工程)
本実施形態の判定方法において、上記のマーカー遺伝子の発現の検出は、mRNAレベルで行ってもよく、タンパク質レベルで行ってもよい。本工程は、上述したクリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷の判定方法における、マーカー遺伝子の発現を検出する工程と同様の方法によりに行うことができる。
(判定する工程)
マーカー遺伝子の発現を検出した結果、NPPB、ITGB6、CPNE4、EML5、ITSN1及びCPEB1からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子の発現が検出された場合に、上記の創傷滲出液が、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷に由来するものであると判定することができる。
本実施形態の判定方法によって、従来は判定に2週間以上必要であった、クリティカルコロナイゼーション創傷を正確かつ迅速に検出することができる。これにより、創傷が、正常に治癒する創傷であるか、クリティカルコロナイゼーション創傷若しくは感染創傷であるかを迅速に判定し、適切な治療方針を決定する判断材料を提供することができる。
1実施形態において、本発明は、創傷を有する被検体から採取された創傷滲出液中の細胞における、NPPB、ITGB6、CPNE4、EML5、ITSN1及びCPEB1からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子の発現を検出する工程と、前記検出する工程の結果を、前記少なくとも1種の遺伝子の発現が検出された場合には、前記創傷が、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷であるという基準と比較する工程と、を含む、前記創傷がクリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷であるか否かを試験する方法を提供する。
(遺伝子の発現を検出する工程)
本実施形態の試験方法において、上記のマーカー遺伝子の発現の検出は、mRNAレベルで行ってもよく、タンパク質レベルで行ってもよい。本工程は、上述したクリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷の判定方法における、マーカー遺伝子の発現を検出する工程と同様の方法によりに行うことができる。
(判定する工程)
本工程において、マーカー遺伝子の発現を検出した結果を、以下の基準、すなわち、NPPB、ITGB6、CPNE4、EML5、ITSN1及びCPEB1からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子の発現が検出された場合には、上記の創傷が、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷であるという基準と比較する。本工程により、上記の創傷が、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷であるか否かを試験することができる。
本実施形態の試験方法によって、従来は判定に2週間以上必要であった、クリティカルコロナイゼーション創傷を正確かつ迅速に検出することができる。これにより、創傷が、正常に治癒する創傷であるか、クリティカルコロナイゼーション創傷若しくは感染創傷であるかを迅速に判定し、適切な治療方針を決定する判断材料を提供することができる。
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
発明者らは、まず、クリティカルコロナイゼーション創傷動物モデルを作製した。続いて、動物モデルの創傷滲出液中の細胞における遺伝子発現の網羅的解析により、クリティカルコロナイゼーション創傷及び感染創傷で特異的に高発現する遺伝子を抽出し、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷のマーカー遺伝子候補を抽出した。続いて、候補遺伝子のヒトホモログ遺伝子の発現レベルをヒト臨床サンプルで確認し、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷を正確かつ迅速に検出することができるマーカー遺伝子を決定した。以下、各実験の具体的な内容を説明する。
〔実験例1〕
[クリティカルコロナイゼーション創傷動物モデルの作製及び妥当性の検討]
まず、クリティカルコロナイゼーション創傷動物モデルを作製した。本動物モデルが満たすべき条件として、汚染、定着、クリティカルコロナイゼーション、感染に対応する一連のモデルであること、1種類の実験操作の条件の違いによって、定着、クリティカルコロナイゼーション、感染の創傷モデルが再現できることが考えられた。また、創傷治癒に影響を与えることなく創傷滲出液を採取することができ、創傷滲出液中の細胞における遺伝子発現の網羅的解析が可能なだけの質、量ともに十分な創傷滲出液が得られるモデルであることが必要であると考えた。
従来、マウス、ラット、ブタ等を用いた創傷動物モデルが多数存在していたが、上記の条件を満たす動物モデルは存在しなかった。
様々な検討を行った結果、ラットの両側腹部に全層欠損創を作製し、創作製1日後に濃度を変えて細菌懸濁液を接種し、フィルムドレッシングで覆い、24時間毎にドレッシング交換するモデルにより、定着、クリティカルコロナイゼーション、感染に対応する創傷動物モデルを作製できることが明らかとなった。このモデルでは、フィルムドレッシング内に創傷滲出液が溜まるため、創内に異物を入れることなく創傷滲出液を回収することができる。
より具体的には、ラットとしてSprague−Dawley雄性ラット(約6ヶ月齢、500g)を使用した。また、細菌として緑膿菌PAO1株を使用した。ラットの両側腹部に全層欠損創を作製し、創作製1日後に濃度を変えて細菌懸濁液を接種した。ここで、接種する細菌懸濁液の濃度を変えることにより、対照群、定着群、クリティカルコロナイゼーション群、感染群の創傷動物モデルを作製した。細菌懸濁液の濃度は、対照群は、OD600=0.0(リン酸緩衝液のみ);定着群は、OD600=0.5(2.06×10CFU/mL);クリティカルコロナイゼーション群は、OD600=0.75(3.24×10CFU/mL);感染群は、OD600=1.0(4.12×10CFU/mL)とした。
対照群は、正常治癒の基準である。また、定着創傷の基準は、複製する細菌が存在するが、宿主に障害なく治癒することである。また、クリティカルコロナイゼーション創傷の基準は、炎症徴候を伴わない治癒遅延を起こすことである。また、感染創傷の基準は、増殖する細菌を創部に認め、炎症徴候を伴う宿主の障害が明らかであることである。
全層欠損創は次のようにして作製した。まず、ラットに25〜30mg/kg体重のソムノペンチル(共立製薬社製)を腹腔内投与して麻酔した。続いて、バリカンを用いて麻酔したラットの胴体の毛を剃り、更に除毛クリームを使用して、毛の根元まで完全に除去した。剃毛は、後述するフィルムドレッシングからの創傷滲出液の漏れを防止するために行った。剃毛した翌日、再びラットを麻酔し、滅菌されたメスを用いて、直径2cmの円形の全層欠損創を作製した。創傷は、透明なフィルムドレッシング(3M(商標)テガダーム(商標)トランスペアレントドレッシング、住友スリーエム株式会社)で覆い、不織布ガーゼを、フィルムドレッシングを覆うようにラットの胴体に緩く巻き、テープで固定した。
また、細菌懸濁液の接種は、全層欠損創を作製した翌日、次のようにして行った。上述した各濃度の細菌懸濁液を調製し、27ゲージのニードルを装着した使い捨て1mLシリンジを用いて、創傷1つあたり0.1mLの細菌懸濁液を、創傷の円内の頭尾方向の2カ所にそれぞれ、深さ5mmの筋肉層に垂直に注射した。更に、創傷を覆う滅菌ガーゼにも、創傷1つあたり0.2mLの細菌懸濁液を滴下した。
続いて、創傷をフィルムドレッシング(住友スリーエム株式会社)で覆った。24時間後に、フィルムドレッシング及び創傷を覆う滅菌ガーゼを除去し、創傷及び創傷の周囲を生理食塩水で洗浄し、再びフィルムドレッシング(住友スリーエム株式会社)で覆った。フィルムドレッシングは24時間ごとに除去し、創傷及び創傷の周囲を生理食塩水で洗浄し、再びフィルムドレッシング(住友スリーエム株式会社)で覆った。
本創傷動物モデルを用いて、創作製6日後に、クリティカルコロナイゼーション創傷モデルの妥当性を評価した。クリティカルコロナイゼーション創傷モデルの妥当性は、創面積、発赤量、腫脹量に基づいて、「炎症徴候を伴わない治癒遅延を起こす」か否かにより評価した。各評価の方法及び結果を以下に示す。創面積の変化から治癒遅延を評価し、発赤量・腫脹量から炎症徴候を伴うか否かを評価した。また、組織細菌数の測定及び創部の組織学的解析も行った。
図1は、各群の創傷の肉眼的所見の変化を示す写真である。スケールバーは10mmを示す。正常治癒の基準となる対照群では、創作製2〜3日後に、創作製による急性炎症と思われる発赤が創周囲に見られたが、徐々に消失し、創作製6日後には肉芽も上がり、肉眼的に発赤は消失した。定着群では、細菌接種にも関わらず対照群と同様の所見が認められた。クリティカルコロナイゼーション群では、創作製6日後の所見において、明らかな炎症徴候は認められなかった。感染群では、創作製6日後には周囲皮膚の発赤と白色壊死組織の拡大が観察された。
(創面積)
創部のデジタルカメラ画像から、画像解析ソフトである、ImageJ(http://imagej.nih.gov/ij/)を用いて創面積を定量した。
図2は、各群のラットの創傷の平均創面積の変化を示すグラフである。エラーバーは標準偏差を示す。図中、「*」は、5%未満の危険率で有意差があることを示す。感染群では、死亡したマウスも認められた。クリティカルコロナイゼーション群では、対照群に対して有意に治癒遅延が認められた。
(発赤量及び腫脹量)
創部のデジタルカメラ画像からImageJで創縁外周2mmの創周囲の皮膚の発赤量を測定した。また、ヘマトキシリン−エオジン染色した組織の創縁10mm以内の腫脹部と正常部の厚さの比を算出し、腫脹量を測定した。
図3(a)は、各群のラットの創傷の、創作製6日後における平均発赤量を示すグラフである。エラーバーは標準偏差を示す。図中、「*」は、5%未満の危険率で有意差があることを示す。図3(b)は、各群のラットの創傷の、創作製6日後における平均腫脹量を示すグラフである。エラーバーは標準偏差を示す。図中、「*」は、5%未満の危険率で有意差があることを示す。
発赤量、腫脹量とも、感染群のみで有意に高く、クリティカルコロナイゼーション群では、発赤量・腫脹量の上昇は認められなかった。この結果は、クリティカルコロナイゼーション群のラットの創傷が炎症徴候を伴わないことを示す。
以上の結果から、本クリティカルコロナイゼーション創傷動物モデルの創傷が、炎症徴候を伴わない治癒遅延を起こしていることが明らかとなり、本モデルの妥当性が確認された。
(組織細菌数)
創底の組織をホモジェナイズし、段階希釈したものを、LB寒天培地で48時間培養後、全コロニー数をカウントし、組織1g当たりの細菌数を算出した。
図4は、各群のラットの創傷の、創作製6日後における創底の組織1g当たりの細菌数(組織細菌数)を示すグラフである。図中、「*」は、5%未満の危険率で有意差があることを示す。組織細菌数は、クリティカルコロナイゼーション群及び感染群で、対照群と比較して有意に高かった。
(組織学的解析)
創部のパラフィン切片を作製し、ヘマトキシリン−エオジン染色した。光学顕微鏡で観察し、形態学的特徴と炎症性細胞の局在を観察した。
図5は、対照群、定着群、クリティカルコロナイゼーション群、感染群のラットの創傷の、創作製6日後における肉眼的所見を上段に示す。また、各群の創傷の写真内のA〜Dの枠で示す部位から作製した切片の写真をそれぞれA〜Dに示す。A〜Dの写真内の矢頭は、創縁の位置を示す。更に、A〜Dの写真内のE〜Lの枠で示す部位の拡大写真をそれぞれE〜Lに示す。A〜Dの写真におけるスケールバーは2mmを示す。E、G、I、Kの写真におけるスケールバーは200μmを示す。F、H、I、Lの写真におけるスケールバーは100μmを示す。
その結果、全ての群で創底表層に炎症性細胞浸潤が認められた。また、対照群、定着群の筋層には炎症性細胞浸潤が全く認められなかった。クリティカルコロナイゼーション群では、皮下組織に強い炎症性細胞の凝集が認められ、筋層の炎症性細胞浸潤は極軽度であった。感染群では、皮下組織は壊死してポケットを形成しており、筋層までの多数の炎症性細胞浸潤と細胞障害による筋細胞の形態的変化(細胞の膨化と内容物の流出:ネクローシス)が顕著に認められた。
続いて、創作製6日後の組織において、クリティカルコロナイゼーション群で特異的な所見であった、皮下組織の炎症性細胞の凝集を、創作製5〜7日後の組織を用いて詳細に観察した。その結果、創作製5〜7日後の全ての組織において、同様の特徴が観察された(図示せず)。
クリティカルコロナイゼーションは表層の細菌負荷の増加と捉えられている。組織細菌数と組織学的解析の結果から、本クリティカルコロナイゼーション創傷動物モデルにおいても、表層の細菌負荷の増加の病態が確認され、従来の知見と矛盾がないことが確認された。
〔実験例2〕
[クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷のマーカー遺伝子の探索]
上述した対照群、定着群、クリティカルコロナイゼーション群、感染群のラットの、創作製6日後の創傷滲出液中の宿主細胞を1×10個/サンプルずつ回収し、全RNAを抽出した。抽出した全RNAを各群毎に混合し、対照群(n=4)、定着群(n=5)、クリティカルコロナイゼーション群(n=6)、感染群(n=5)の4群4サンプルの全RNAを得た。
得られた4群4サンプルの全RNAを、それぞれWhole Rat Genome Oligo Microarray 4x44K v3(44,254プローブ、30,423遺伝子、アジレントテクノロジー社)にハイブリダイズさせ、各群の創傷滲出液中の細胞における遺伝子の発現を解析した。マイクロアレイのラベル効率、ハイブリダイゼーション効率、QCの結果には問題がないことを確認した。
クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷のマーカー遺伝子候補を次のようにして抽出した。まず、リスト1として、対照群に比較して定着群で発現が上昇せず、クリティカルコロナイゼーション群及び感染群で発現が上昇する遺伝子を、対照群と比較した感染群の発現比が高い順に、降順に300遺伝子リストアップした。リスト1の一部を表1に示す。
また、リスト2として、対照群に比較して定着群での多少の発現上昇を許容し、クリティカルコロナイゼーション群及び感染群で更に発現が上昇する遺伝子を、対照群と比較した感染群の発現比が高い順に、降順に250遺伝子リストアップした。リスト2の1部を表2に示す。
以上の結果から、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷のマーカー遺伝子の候補が数百個得られた。
〔実験例3〕
[ヒトのクリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷のマーカー遺伝子の探索]
実際の臨床における、創傷滲出液サンプルを用いて、ヒトのクリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷のマーカー遺伝子を探索した。
具体的には、実際の創傷保有患者の創傷滲出液を含むガーゼから宿主細胞を回収し、全RNAを抽出し、実験例2で得られたマーカー遺伝子候補のリストに挙げられた遺伝子に対応するヒトホモログ遺伝子の定量的RT−PCRを行い、ヒトのクリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷のマーカー遺伝子を探索した。
石川県内の3医療施設における慢性創傷保有患者のうち、褥瘡経過評価基準である、DESIGN−R(日本褥瘡学会学術教育委員会、2008年)による評価で、d2〜D5及びDUの褥瘡を有し、滲出液があり、通常のケアにガーゼ又はガーゼ付絆創膏が用いられている患者を対象として検討を行った。なお、本実験は、東京大学医学系研究科・医学部倫理委員会、金沢大学医学倫理委員会の承認を得た(承認番号第10028号及び第423号)。
(患者の分類)
まず、患者を、次の基準により、定着群、クリティカルコロナイゼーション群、感染群に分類した。創傷の肉眼的所見は、1人の皮膚・排泄ケア認定看護師により判断した。まず、創面積が週30%以上縮小し、肉眼的に感染徴候を認めない患者を正常治癒群(定着群)とした。また、創面積が不変又は拡大し、肉眼的に明らかな感染徴候を認めないが治癒遅延した患者をクリティカルコロナイゼーション群とした。また、創面積が拡大し、肉眼的に明らかな感染徴候が認められ、Levine法で細菌数が10CFU/cm以上であった患者を感染群とした。定着群の患者4名、クリティカルコロナイゼーション群の患者3名、感染群の患者4名を対象として検討を行った。
(創傷滲出液の回収)
各患者の通常のケアに使用された使用済みガーゼから創傷滲出液を採取した。具体的には、まず、使用済みガーゼのうち創傷滲出液を含む領域を、滅菌したメスとはさみを用いて切り出した。周囲環境からのコンタミネーションを防止するため、ガーゼの内部の領域のみをRNA抽出に使用した。切断したガーゼは、50mL遠沈管に入れた20mLのRNaseフリーリン酸緩衝液に浸し、氷上で実験室まで運搬した。運搬に要した時間は最大で2時間であった。
実験室において、遠沈管の内容物をポアサイズ60μmのフィルター(メルクミリポア社)に通し、ろ液を新しい遠沈管に回収した。続いて、回収されたろ液を、1200×g、4℃で8分間遠心し、上清を捨て、創傷滲出液中の細胞のペレットを回収した。回収された細胞から、RNeasy Mini Kit(キアゲン社)を用いて全RNAを調製した。調製したRNAは、使用するまで−80℃で保存した。
(候補遺伝子及びプライマー)
実験例2のリスト1の上から順に、アノテーション及びヒトホモログ遺伝子が存在し、ターゲット遺伝子特異的なプライマー設計が可能であった遺伝子を、候補遺伝子として12個選択し、そのヒトホモログ遺伝子を増幅するプライマーを設計した。表3に、選択した候補遺伝子及び当該遺伝子増幅用プライマーの配列番号を示す。
また、実験例2のリスト2の上から順に、アノテーション及びヒトホモログ遺伝子が存在し、ターゲット遺伝子特異的なプライマー設計が可能であった遺伝子を、候補遺伝子として8個選択し、そのヒトホモログ遺伝子を増幅するプライマーを設計した。表4に、選択した候補遺伝子及び当該遺伝子増幅用プライマーの配列番号を示す。
予備検討の結果、18S rRNA及びHPRT1遺伝子を内部標準に用い、Ct値の幾何平均値を、「内部標準の平均Ct値」として、後述するΔCt値の算出に使用した。18S rRNA増幅用プライマーとしては、配列番号41(フォワードプライマー)及び配列番号42(リバースプライマー)に示すプライマーを使用した。HPRT1遺伝子増幅用プライマーとしては、配列番号43(フォワードプライマー)及び配列番号44(リバースプライマー)に示すプライマーを使用した。
(定量PCR)
逆転写酵素及びランダムプライマーを使用して、調製した全RNAからcDNAを調製した。続いて、調製したcDNAを鋳型として、Mx3000P qPCR System(商品名、アジレントテクノロジー社)を使用して、定量PCRを行った。
定量PCRでは、初期鋳型量が多いほど、増幅産物が早く検出可能な量に達する。この結果、横軸にPCR反応のサイクル数を示し、縦軸に増幅産物の量を示すグラフ(増幅曲線)を作成すると、初期鋳型量が多いほど、早いPCRサイクルで増幅曲線が立ち上がる。したがって、段階希釈したスタンダードサンプルを用いて定量PCRを行うと、鋳型DNA量が多い順番に並んだ増幅曲線が得られる。ここで、適当なところに閾値(Threshold)を設定すると、閾値と増幅曲線が交わる点(Ct値、Threshold Cycle)が算出される。Ct値と初期鋳型量の対数値の間には直線関係がある。あるいは、Ct値と初期鋳型量の間には相関関係があるともいえる。
高いCt値は、増幅産物が検出可能な量に達するためにより多くの増幅が必要であることを示す。したがって、初期鋳型量がより少なかったことを意味する。表5及び表6に、内部標準及び検討した20個の候補遺伝子の平均Ct値を示す。表中、「ND」は、遺伝子の発現が検出されなかったことを示す。また、表7及び表8に、検討した20個の候補遺伝子のΔCt値を示す。表中、「ND」は、遺伝子の発現が検出されなかったことを示す。ΔCt値は、下記式(1)により計算した。なお、上述したように、内部標準として、18S rRNA及びHPRT1遺伝子を使用し、Ct値の幾何平均値を、「内部標準の平均Ct値」とした。
ΔCt値=対照遺伝子の平均Ct値−内部標準の平均Ct値 …(1)
(ヒトのクリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷のマーカー遺伝子の同定)
定量PCRの結果、多くの候補遺伝子は、発現が検出されなかった。しかしながら、発現が検出された候補遺伝子は、定着群、クリティカルコロナイゼーション群、感染群において、異なる発現プロファイルを示す傾向にあった。定着群と、クリティカルコロナイゼーション群又は感染群との間で、ΔCt値が明確に異なる遺伝子として、NPPB、ITGB6、CPNE4、CPEB1、EML5、ITSN1を選定した。表9に、これらのマーカー遺伝子のΔCt値の結果を示す。表中、「ND」は、遺伝子の発現が検出されなかったことを示す。
表9に示すように、20個の候補遺伝子のうち、NPPB、ITGB6、CPNE4、EML5、ITSN1は、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷において高い発現量を示した(7サンプル中7サンプル)。一方、正常治癒する定着群の創傷においては発現が認められなかった(4サンプル中0サンプル)。
また、CPEB1は、正常治癒する定着群の創傷においては発現が認められず(4サンプル中0サンプル)、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷において、高い発現量を示した(7サンプル中6サンプル)。
すなわち、NPPB、ITGB6、CPNE4、EML5、ITSN1は、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷の検出において、100%の感度及び100%の特異度を示した。また、CPEB1は、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷の検出において、85%の感度及び100%の特異度を示した。
なお、感度及び特異度は、下記表10におけるA〜Dの値を用いて、下記式(2)又は下記式(3)により算出される。
感度(%)=A/(A+B)×100 …(2)
特異度(%)=D/(C+D)×100 …(3)
また、表9における、クリティカルコロナイゼーション群と感染群におけるNPPB、ITGB6、CPNE4、EML5、ITSN1、CPEB1遺伝子のΔCt値の比較から、これらのマーカー遺伝子の発現量がより高いと感染創傷であり、より低いとクリティカルコロナイゼーション創傷であると判定できることが示された。つまり、これらのマーカー遺伝子の発現量に基づいて、クリティカルコロナイゼーション創傷と感染創傷を区別することも可能である。
〔実験例4〕
[クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷のマーカー遺伝子の発現量の経時的な変化]
感染群の患者(患者ID:感染群4)の症例において、創傷の治療の経過と、実験例3で同定された、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷のマーカー遺伝子の発現量の変化について検討した。
この患者は、緊急搬入された患者であった。初診時において、発赤、腫脹、悪臭、膿性分泌物、発熱(37.8℃)等の明確な感染の徴候を示していた。スワブ法による細菌数の測定結果は10CFU/cm以上であり、明確に感染群に分類された。創傷滲出液サンプルの回収の後、直ちにデブリドーマン、洗浄、抗菌薬の全身投与、局所消毒、銀含有ドレッシングの適用が開始された。これらの治療の結果、当日中に患者の体温は37.2℃に低下し、細菌数も10CFU/cmに低下した。
表11に、この患者の創傷の臨床的判断と各マーカー遺伝子のΔCt値の測定結果を示す。表中、「ND」は、遺伝子の発現が検出されなかったことを示す。また、Aは初診時を示し、BはAから3時間後(治療介入後)の時点を示し、CはAから1週間後の時点を示し、DはAから2週間後の時点を示す。
表11に示すように、マーカー遺伝子の発現量の解析結果は、創傷の臨床的判断と矛盾のないものであった。Bの時点において、細菌数と同様に、各マーカー遺伝子の発現は低下又は消失した。これらの新規のマーカー遺伝子は、治療に対する創傷の応答を十分に敏感に反映することが確認された。
本発明によれば、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷を正確かつ迅速に検出することができる判定キット、判定方法及び試験方法を提供することができる。

Claims (5)

  1. Natriuretic peptide B(NPPB)、integrin beta 6(ITGB6)、copine IV(CPNE4)、echinoderm microtubule associated protein like 5(EML5)、intersectin 1(ITSN1)及びcytoplasmic polyadenylation element binding protein 1(CPEB1)からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子を増幅するプライマー対を含む、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷の判定キット。
  2. NPPB、ITGB6、CPNE4、EML5、ITSN1及びCPEB1からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質に対する抗体を含む、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷の判定キット。
  3. 創傷を有する被検体から採取された創傷滲出液中の細胞における、NPPB、ITGB6、CPNE4、EML5、ITSN1及びCPEB1からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子の発現を検出する工程と、
    前記少なくとも1種の遺伝子の発現が検出された場合に、前記創傷が、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷であると判定する工程と、
    を含む、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷の判定方法。
  4. 創傷を有する被検体から採取された創傷滲出液中の細胞における、NPPB、ITGB6、CPNE4、EML5、ITSN1及びCPEB1からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子の発現を検出する工程と、
    前記少なくとも1種の遺伝子の発現が検出された場合に、前記創傷滲出液が、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷に由来するものであると判定する工程と、
    を含む、創傷滲出液の由来の判定方法。
  5. 創傷を有する被検体から採取された創傷滲出液中の細胞における、NPPB、ITGB6、CPNE4、EML5、ITSN1及びCPEB1からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子の発現を検出する工程と、
    前記検出する工程の結果を、前記少なくとも1種の遺伝子の発現が検出された場合には、前記創傷が、クリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷であるという基準と比較する工程と、
    を含む、前記創傷がクリティカルコロナイゼーション創傷又は感染創傷であるか否かを試験する方法。
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