本発明の歯科用重合性組成物は、(メタ)アクリル系重合性単量体(a)、ハイドロパーオキサイド化合物(b)、チオ尿素誘導体(c)、遷移金属化合物(d)、軟化剤(e)及びシリカ粉末(f)を含有することを特徴とする。以下、本発明について詳細に説明する。なお、ある成分の「総量」とは、組成物全体に含有される当該成分(例えば、(メタ)アクリル系重合性単量体(a))の総量のことを意味し、本発明の組成物が2材型の形態をとる場合、各材に含有される当該成分の重量を合計したものを意味する。
(メタ)アクリル系重合性単量体(a)
本発明において、(メタ)アクリル系重合性単量体(a)とは、分子内に少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基を有する重合性単量体のことを意味する。(メタ)アクリル系重合性単量体(a)の具体例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド誘導体等が挙げられる。なお、本発明において、「(メタ)アクリル」とは、メタクリル又はアクリルを意味し、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイル又はメタクリロイルを意味する。
(メタ)アクリル系重合性単量体(a)は、(メタ)アクリロイル基を1個有する単官能性単量体と(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能性単量体に大別される。(メタ)アクリル系重合性単量体(a)は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
単官能性単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N、N−(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2,3−ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、及び例示した(メタ)アクリレート化合物のエステル結合をアミド結合に置き換えた(メタ)アクリルアミド化合物等が挙げられる。これらの中でも、得られる歯科用重合性組成物を仮着セメントや義歯床裏装材に応用したい場合、柔軟化効果に優れる点で、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートが好ましい。
多官能性単量体としては、芳香族化合物系の二官能性(メタ)アクリル酸エステル及び/又は(メタ)アクリルアミド誘導体、脂肪族化合物系の二官能性(メタ)アクリル酸エステル及び/又は(メタ)アクリルアミド誘導体、三官能性以上の(メタ)アクリル酸エステル及び/又は(メタ)アクリルアミド誘導体が挙げられる。
芳香族化合物系の二官能性(メタ)アクリル酸エステル及び/又は(メタ)アクリルアミド誘導体としては、例えば、2,2−ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス〔4−(3−(メタ)アクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジトリエトキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ピロメリテート、及びこれらの化合物のエステル結合をアミド結合に置き換えた(メタ)アクリルアミド化合物等が挙げられる。これらの中でも、得られる歯科用重合性組成物の重合性が優れる点で、2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(通称「Bis−GMA」)及び2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパンが好ましい。なお、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパンのなかでは、エトキシ基の平均付加モル数が2.6である化合物(通称「D2.6E」)が好ましい。
脂肪族化合物系の二官能性(メタ)アクリル酸エステル及び/又は(メタ)アクリルアミド誘導体としては、例えば、グリセロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称「UDMA」)、1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン、及びこれらの化合物のエステル結合をアミド結合に置き換えた(メタ)アクリルアミド化合物等が挙げられる。これらの中でも、得られる歯科用重合性組成物の取り扱い性が優れる点で、グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート及び1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタンが好ましい。
三官能性以上の(メタ)アクリル酸エステル及び/又は(メタ)アクリルアミド誘導体としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、N,N−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラメタクリレート、1,7−ジアクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラアクリロイルオキシメチル−4−オキシヘプタン、及びこれらの化合物のエステル結合をアミド結合に置き換えた(メタ)アクリルアミド化合物等が挙げられる。これらの中でも、得られる歯科用重合性組成物の重合性が優れる点で、N,N−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラメタクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが好ましい。
これらの(メタ)アクリル系重合性単量体(a)のうち、硬化物が適度な柔軟性及び良好な可徹性を有することから、単官能性単量体と二官能性単量体との組み合わせが好ましく、単官能性単量体と脂肪族化合物系の二官能性単量体との組み合わせがより好ましく、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、及びステアリル(メタ)アクリレートらなる群から選択される少なくとも1種の単官能性単量体と、グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート及び1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタンからなる群から選択される少なくとも1種の脂肪族化合物系の二官能性単量体との組み合わせがさらに好ましい。
本発明の重合性組成物は、(メタ)アクリル系重合性単量体(a)として酸性基含有(メタ)アクリル系重合性単量体を含有していてもよいが、本発明の重合性組成物は、歯科用仮着セメント及び義歯床材として用いるため、強い接着性を有さないことが好ましい。そのため、酸性基含有(メタ)アクリル系重合性単量体の配合量は、(メタ)アクリル系重合性単量体(a)の総量を100重量%とした場合、10重量%以下であることが好ましく、5.0重量%以下であることがより好ましく、1.0重量%以下であることがさらに好ましく、0重量%であることが最も好ましい。酸性基含有(メタ)アクリル系重合性単量体の配合量が10重量%以下であると、本発明の重合性組成物を歯科用仮着セメントとして使用した場合に良好な可徹性が得られる。
酸性基含有(メタ)アクリル系重合性単量体としては、例えば、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、又はカルボン酸基等の酸性基を少なくとも1個有し、且つ(メタ)アクリロイル基を少なくとも1個有するラジカル重合性単量体が挙げられる。
また、本発明の重合性組成物は、本発明の効果を妨げない限り、重合性単量体として、(メタ)アクリル系重合性単量体(a)、及び軟化剤(e)として用いる重合体、及び必要に応じて酸性基含有(メタ)アクリル系重合性単量体、以外の他の重合性単量体を含んでいてもよいが、実質的に(メタ)アクリル系重合性単量体(a)、及び軟化剤(e)として用いる重合体、及び必要に応じて含まれる酸性基含有(メタ)アクリル系重合性単量体で構成されることが好ましい。「実質的に特定の重合体で構成される」とは、当該特定の重合体以外の他の重合性単量体の含有量が、重合性組成物全体に対して、5.0重量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましく、0.5重量%以下であることがさらに好ましく、0.01重量%以下であることが最も好ましい。
ハイドロパーオキサイド化合物(b)
本発明においてハイドロパーオキサイド化合物(b)は、レドックス重合開始剤の酸化剤として機能する。ハイドロパーオキサイド化合物(b)としては、特に限定されないが、例えば、脂肪族ハイドロパーオキサイド、芳香族ハイドロパーオキサイド等が挙げられる。ハイドロパーオキサイド化合物(b)は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
脂肪族ハイドロパーオキサイドは、直鎖状、分岐鎖状、又は非芳香環(脂環式)の脂肪族基を有し、芳香族基を有しないハイドロパーオキサイドであれば、特に限定されない。脂肪族基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基等が挙げられる。脂肪族ハイドロパーオキサイドは、これらの脂肪族基を、1種単独で又は2種以上を組み合わせて有していてもよい。アルキル基における炭素数は、特に限定されないが、1〜12が好ましい。シクロアルキル基における炭素数は、特に限定されないが、3〜10が好ましい。脂肪族ハイドロパーオキサイドが有しない芳香族基としては、後記する芳香族ハイドロパーオキサイドの芳香族基と同じものが挙げられる。脂肪族ハイドロパーオキサイドの具体例としては、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
芳香族ハイドロパーオキサイドは、芳香族基を有するハイドロパーオキサイドであれば、特に限定されない。芳香族基としては、例えば、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。芳香族ハイドロパーオキサイドは、これらの芳香族基を、1種単独で又は2種以上を組み合わせて有していてもよい。アリール基における炭素数は、特に限定されないが、6〜16が好ましい。アラルキル基における炭素数は、特に限定されないが、7〜16が好ましい。芳香族ハイドロパーオキサイドの具体例としては、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
ハイドロパーオキサイド化合物(b)の配合量は、硬化速度が遅延しない点から、重合性組成物全体の(メタ)アクリル系重合性単量体(a)100重量部に対して、0.001重量部以上が好ましく、0.01重量部以上がより好ましく、0.1重量部以上がさらに好ましい。また、歯科用重合性組成物の硬化物から重合開始剤残渣の溶出が起こるおそれがない点から、重合性組成物全体の(メタ)アクリル系重合性単量体(a)100重量部に対して、20重量部以下が好ましく、10重量部以下がより好ましく、5重量部以下がさらに好ましい。従って、上記観点より、ハイドロパーオキサイド化合物(b)の配合量は、重合性組成物全体の(メタ)アクリル系重合性単量体(a)100重量部に対して、0.001〜20重量部が好ましく、0.01〜10重量部がより好ましく、0.1〜5重量部がさらに好ましい。
チオ尿素誘導体(c)
本発明においてチオ尿素誘導体(c)は、レドックス重合開始剤の還元剤として機能する。チオ尿素誘導体(c)としては、非環状チオ尿素化合物、環状チオ尿素化合物が挙げられる。チオ尿素誘導体(c)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用することもできる。
非環状チオ尿素化合物としては、例えば、チオ尿素;メチルチオ尿素、エチルチオ尿素、N,N’−ジメチルチオ尿素、N,N’−ジエチルチオ尿素、N,N’−ジ−n−プロピルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、トリエチルチオ尿素、トリ−n−プロピルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、テトラエチルチオ尿素、テトラ−n−プロピルチオ尿素等のC1〜C12のアルキルチオ尿素化合物;N,N’−ジシクロヘキシルチオ尿素、トリシクロヘキシルチオ尿素等のC3〜C10のシクロアルキルチオ尿素化合物;1−(2−ピリジル)−2−チオ尿素等の複素環基(好適には窒素原子を含む複素環)を有するチオ尿素化合物;N−ベンゾイルチオ尿素等の芳香族基(好適にはフェニル基)を有するチオ尿素化合物等が挙げられる。
環状チオ尿素化合物としては、例えば、下記式(I)
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、及びR
6は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、又は、酸素原子、硫黄原子もしくは窒素原子を含む、置換基を有していてもよい一価の複素環基を表し(ただし、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、及びR
6のすべてが水素原子である場合を除く)、R
4とR
5はそれらが結合する炭素原子と一緒になって置換基を有していてもよい環を形成していてもよい)
で表される化合物が挙げられる。
R1〜R6で表されるアルキル基としては、直鎖状及び分岐鎖状のいずれであってもよく、炭素数1〜12のものが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基等が挙げられる。R1〜R6で表されるシクロアルキル基としては、炭素数3〜10のものが好ましく、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプタニル基、シクロオクタニル基、シクロノナニル基等が挙げられる。R1〜R6で表されるアルコキシル基としては、炭素数3〜8のものが好ましく、例えば、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられる。R1〜R6で表されるアリール基としては、炭素数6〜16のものが好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられる。R1〜R6で表されるアシル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。R1〜R6で表されるアルケニル基としては、直鎖状及び分岐鎖状のいずれであってもよく、炭素数2〜8のものが好ましく、ビニル基、アリル基、メチルビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等が挙げられる。R1〜R6で表されるアラルキル基としては、炭素数7〜16のものが好ましく、例えば、低級アルキル基(特に、炭素数1〜6のアルキル基)で置換されたアリール基が挙げられ、具体例としては、メチルフェニル基、エチルフェニル基、ブチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ジブチルフェニル基、メチルナフチル基等が挙げられる。R1〜R6で表される、酸素原子、硫黄原子又は窒素原子を含む一価の複素環基としては、炭素数4〜10ものが好ましく、例えば、ピリジル基、イミダゾリル基、ピペリジル基、チエニル基、チオピラニル基、フリル基、ピラニル基等が挙げられる。
アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシル基、アシル基、及びアルケニル基が有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子(例、塩素原子、臭素原子等)、アリール基(例、フェニル基、ナフチル基等)、一価の複素環基(例、ピリジル基、イミダゾリル基等)等が挙げられ、なかでもハロゲン原子、アリール基が好ましい。置換基の数としては、好ましくは1〜2個である。アリール基、アラルキル基、及び一価の複素環基が有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子(例、塩素原子、臭素原子等)、アルキル基(例、メチル基、エチル基等)、アルコキシル基(例、メトキシ基、エトキシ基等)、アリール基(例、フェニル基、ナフチル基等)、一価の複素環基(例、ピリジル基、イミダゾリル基等)等が挙げられ、なかでもハロゲン原子、アルキル基が好ましい。置換基の数としては、好ましくは1〜4個であり、より好ましくは1〜2個である。
R4とR5は、それらが結合する炭素原子と一緒になって置換基を有していてもよい環を形成していてもよく、環の炭素数は4〜10が好ましい。かかる環としては、例えば、シクロブチル環、シクロペンチル環、シクロヘキシル環等が挙げられる。環が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子(例、塩素原子、臭素原子等)、アリール基(例、フェニル基、ナフチル基等)、一価の複素環基(例、ピリジル基、イミダゾリル基等)等が挙げられる。
R1及びR2としては、硬化性及び入手性の観点から、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基、アラルキル基が好ましく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基がより好ましく、水素原子がさらに好ましい。R3〜R6としては、硬化性及び入手性の観点から、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン原子で置換されてもよいアリール基、アルケニル基、アラルキル基が好ましく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基がより好ましく、R3〜R6の中で、水素原子が1個以上あり、かつ炭素数1〜5であるアルキル基が3個以下あることがさらに好ましく、水素原子が2個あり、かつ炭素数1〜2であるアルキル基が2個あることが最も好ましい。
上述の、環状チオ尿素化合物の具体例としては、4−メチル−2−イミダゾリンチオン、4,4−ジメチル−2−イミダゾリンチオン、4,5−ジメチル−2−イミダゾリジンチオン、4−エチル−2−イミダゾリジンチオン、4,4−ジエチル−2−イミダゾリジンチオン、4,5−ジエチル−2−イミダゾリジンチオン、4,4,5−トリメチル−2−イミダゾリンチオン、4,4,5,5−テトラメチル−2−イミダゾリンチオン等が挙げられる。
上述のチオ尿素誘導体(c)の中でも、硬化性と保存安定性に優れる点で、N−ベンゾイルチオ尿素、1−(2−ピリジル)−2−チオ尿素、4−メチル−2−イミダゾリンチオン、4−エチル−2−イミダゾリジンチオン、4,4−ジメチル−2−イミダゾリンチオン、4,4−ジエチル−2−イミダゾリジンチオン、4,4,5−トリメチル−2−イミダゾリンチオン、4,4,5,5−テトラメチル−2−イミダゾリンチオンが好ましい。
チオ尿素誘導体(c)の配合量は、硬化速度が遅延しない点から、重合性組成物全体の(メタ)アクリル系重合性単量体(a)100重量部に対して、0.001重量部以上が好ましく、0.01重量部以上がより好ましく、0.1重量部以上がさらに好ましい。また、歯科用重合性組成物の硬化物から重合開始剤残渣の溶出が起こるおそれがない点から、重合性組成物全体の(メタ)アクリル系重合性単量体(a)100重量部に対して、20重量部以下が好ましく、10重量部以下がより好ましく、5重量部以下がさらに好ましい。従って、上記観点より、チオ尿素誘導体(c)の配合量は、重合性組成物全体の(メタ)アクリル系重合性単量体(a)100重量部に対して、0.001〜20重量部が好ましく、0.01〜10重量部がより好ましく、0.1〜5重量部がさらに好ましい。
遷移金属化合物(d)
遷移金属化合物(d)は、レドックス反応を促進させる成分である。遷移金属化合物(d)としては、バナジウム化合物、銅化合物、コバルト化合物等が挙げられる。遷移金属化合物(d)は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
バナジウム化合物としては、IV価及び/又はV価のバナジウム化合物類が好ましい。IV価及び/又はV価のバナジウム化合物類としては、例えば、四酸化二バナジウム(IV)、バナジルアセチルアセトナート(IV)、シュウ酸バナジル(IV)、硫酸バナジル(IV)、オキソビス(1−フェニル−1,3−ブタンジオネート)バナジウム(IV)、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)、五酸化バナジウム(V)、メタバナジン酸ナトリウム(V)、メタバナジン酸アンモン(V)等が好適に挙げられる。
銅化合物としては、例えば、アセチルアセトン銅、酢酸第2銅、オレイン酸銅、塩化第2銅、臭化第2銅等が好適に挙げられる。
コバルト化合物としては、例えば、アセチルアセトンコバルト、酢酸コバルト、オレイン酸コバルト、塩化コバルト、臭化コバルト等が好適に挙げられる。
これらの遷移金属化合物の中でも、バナジウム化合物、銅化合物が特に好ましく、バナジルアセチルアセトナート(IV)、アセチルアセトン銅、酢酸第2銅が最も好ましい。
遷移金属化合物(d)の配合量は、硬化速度が遅延しない点から、重合性組成物全体の(メタ)アクリル系重合性単量体(a)100重量部に対して、0.0001重量部以上が好ましく、0.0005重量部以上がより好ましく、0.001重量部以上がさらに好ましい。また、歯科用重合性組成物の硬化物から重合開始剤残渣の溶出が起こるおそれがない点から、重合性組成物全体の(メタ)アクリル系重合性単量体(a)100重量部に対して、10重量部以下が好ましく、5重量部以下がより好ましく、1重量部以下がさらに好ましい。従って、上記観点より、遷移金属化合物(d)の配合量は、重合性組成物全体の(メタ)アクリル系重合性単量体(a)100重量部に対して、0.0001〜10重量部が好ましく、0.0005〜5重量部がより好ましく、0.001〜1重量部がさらに好ましい。
本発明の歯科用重合性組成物は、上記した遷移金属化合物(d)以外に、レドックス反応を促進させる成分を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、スズ化合物等が挙げられる。
スズ化合物としては、例えば、ジ−n−ブチル錫ジマレート、ジ−n−オクチル錫ジマレート、ジ−n−オクチル錫ジラウレート、ジ−n−ブチル錫ジラウレート等が挙げられる。なかでも、好適なスズ化合物は、ジ−n−オクチル錫ジラウレート及びジ−n−ブチル錫ジラウレートである。
軟化剤(e)
本発明の歯科用重合性組成物は、軟化剤(e)を配合することで、重合性組成物の硬化後に得られる硬化物が柔軟化され、特に歯科用仮着セメント、義歯床裏装材及び根管充填材に好適に使用することができる。
軟化剤(e)としては、例えば、ゴム系重合体、エラストマー系重合体、シリコーン、オイル、可塑剤等が挙げられ、ゴム系重合体及びエラストマー系重合体が好ましい。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
ゴム系重合体の軟化剤としては、例えば、天然ゴム、合成ポリイソプレンゴム、液状ポリイソプレンゴム及びその水素添加物、ポリブタジエンゴム、液状ポリブタジエンゴム及びその水素添加物、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、アクリルゴム、イソプレン−イソブチレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム等が挙げられる。
エラストマー系重合体の軟化剤としては、例えば、スチレン系エラストマー〔例、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレンブロック共重合体、ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレンブロック共重合体、ポリ(α−メチルスチレン)−ポリブタジエン−ポリ(α−メチルスチレン)ブロック共重合体、ポリ(p−メチルスチレン)−ポリブタジエン−ポリ(p−メチルスチレン)ブロック共重合体、又はこれらの水素添加物等〕、アクリル系エラストマー〔例、ポリメチルメタクリレート−ポリブチルアクリレートブロック共重合体、ポリメチルメタクリレート−ポリヘキシルアクリレート−ポリメチルメタクリレートブロック共重合体〕、オレフィン系エラストマー〔ポリエチレン−ポリプロピレン−ポリエチレンブロック共重合体〕等が挙げられる。
シリコーン系の軟化剤としては、例えば、シリコーンオイル、ポリシロキサン、シリコーンゴム等が挙げられる。
軟化剤に用いるオイルとしては、例えば、パラフィン系、ナフテン系、芳香族系のプロセスオイル等の石油系軟化剤;パラフィン、落花生油、ロジン等の植物油系軟化剤等が挙げられる。
可塑剤としては、フタレート系可塑剤、セバケート系可塑剤等が挙げられる。フタレート系可塑剤としては、例えば、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ビス(エチルへキシル)フタレート、等のジアルキルフタレート(いずれのアルキル基も好適にはC1〜C11);ブチルフタリルブチルグリコラート等が挙げられる。セバケート系可塑剤としては、例えば、ジエチルセバケート、ジブチルセバケート、ジオクチルセバケート、ビス(エチルへキシル)セバケート等が挙げられる。これらの軟化剤(e)の中でも、(メタ)アクリル系重合性単量体との混和性、可徹性の強化及び溶出しにくい点で、液状ポリイソプレンゴム及びその水素添加物、ポリブタジエンゴム、液状ポリブタジエンゴム及びその水素添加物、アクリルゴム、スチレン系エラストマー、アクリル系エラストマーが特に好ましい。
軟化剤(e)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、溶出しにくい観点から、好ましくは500〜1,000,000の範囲であり、より好ましくは1,000〜500,000の範囲であり、5,000〜250,000の範囲である。軟化剤(e)の重量平均分子量が500以上であると、歯科用硬化性組成物から軟化剤(e)が溶出するおそれが小さく、一方、1,000,000以下であると、著しく混和しにくくなるおそれや歯科用硬化性組成物の粘度が著しく上昇し実用性を損なうおそれが小さい。軟化剤(e)が複数の軟化剤を含有する場合、それぞれのポリマーが前記範囲内の重量平均分子量を有することが好ましい。なお、ここでいう重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によって求まるポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
軟化剤(e)の配合量は、柔軟化効果が発現しやすい点から、重合性組成物全体の(メタ)アクリル系重合性単量体(a)100重量部に対して、0.5重量部以上が好ましく、5.0重量部以上がより好ましい。また、歯科用重合性組成物の粘度が顕著に上昇するおそれがない点から、重合性組成物全体の(メタ)アクリル系重合性単量体(a)100重量部に対して、50重量部以下が好ましく、40重量部以下がより好ましい。従って、上記観点より、軟化剤(e)の配合量は、重合性組成物全体の(メタ)アクリル系重合性単量体(a)100重量部に対して、0.5〜50重量部が好ましく、5.0〜40重量部がより好ましい。
シリカ粉末(f)
本発明においてシリカ粉末(f)は、レドックス重合開始剤の重合促進剤として機能する。従来は、シリカ粉末は、歯科用重合性組成物の強度の向上、粘度の調整及び分離抑制剤として使用されていたところ、本発明では、重合促進剤としてシリカ粉末(f)を用いかつハイドロパーオキサイド化合物(b)及びチオ尿素誘導体(c)と組み合わせた重合開始剤系とすることによって、歯科用重合性組成物に、適度な硬化時間、優れた柔軟性及び保存安定性を与えることができる。
シリカ粉末(f)としては、特に限定されず、例えば、親水性ヒュームドシリカ、疎水性ヒュームドシリカ等の非晶質シリカが挙げられる。シリカ粉末(f)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用することもできる。シリカ粉末(f)は、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、AEROSIL(登録商標)130、AEROSIL(登録商標)380、AEROSIL(登録商標)R972(日本アエロジル社製)、シーホスター(登録商標)KE−P10、シーホスター(登録商標)KE−P250(日本触媒社製)等が挙げられる。
シリカ粉末(f)の平均粒子径は、得られる歯科用重合性組成物の硬化性付与の観点から、0.0001〜10μmであることが好ましく、0.0005〜1.0μmであることがより好ましく、0.0007〜0.10μmであることがさらに好ましい。
なお、本発明において、フィラーの平均粒子径は、レーザー回折散乱法や粒子の電子顕微鏡観察により求めることができる。具体的には、0.10μm以上の粒子の粒子径測定にはレーザー回折散乱法が、0.10μm以下の超微粒子の粒子系測定には電子顕微鏡観察が簡便である。前記0.10μmはレーザー回折散乱法により測定した値を意味する。
レーザー回折散乱法は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−2100:島津製作所製)により、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて測定することができる。
電子顕微鏡観察は、例えば、粒子の走査型電子顕微鏡(日立製作所製、S−4000型)写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子(200個以上)の粒子径を、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Macview(株式会社マウンテック))を用いて測定することにより求めることができる。このとき、粒子の粒子径は、粒子の最長の長さと最短の長さの算術平均値として求められ、粒子の数とその粒子径より、平均一次粒子径が算出される。
シリカ粉末(f)は、得られる歯科用重合性組成物の硬化性付与の観点から、表面処理されていないことが好ましい。
シリカ粉末(f)の配合量は、硬化速度が遅延しない点から、重合性組成物全体の(メタ)アクリル系重合性単量体(a)100重量部に対して、0.005重量部以上が好ましく、0.05重量部以上がより好ましく、0.5重量部以上がさらに好ましい。また、シリカ粉末(f)の配合量は、歯科用重合性組成物の粘度が顕著に上昇することを抑制できる点から、重合性組成物全体の(メタ)アクリル系重合性単量体(a)100重量部に対して、10重量部以下が好ましく、5重量部以下がより好ましく、2.5重量部以下がさらに好ましい。従って、上記観点より、シリカ粉末(f)の配合量は、重合性組成物全体の(メタ)アクリル系重合性単量体(a)100重量部に対して、0.005〜10重量部が好ましく、0.05〜5重量部がより好ましく、0.5〜2.5重量部がさらに好ましい。また、シリカ粉末(f)の配合量は、重合促進効果に優れ、適度な硬化時間と優れた、柔軟性及び保存安定性が得られる点から、ハイドロパーオキサイド化合物(b)とチオ尿素誘導体(c)との総量100重量部に対して、5〜90重量部が好ましく、10〜85重量部がより好ましく、15〜80重量部がさらに好ましく、20〜75質量部が特に好ましい。
光重合開始剤(g)
また、本発明の歯科用重合性組成物は、光照射によっても重合を開始するために、光重合開始剤(g)をさらに含有してもよい。光重合開始剤(g)としては、(ビス)アシルホスフンオキサイド類、α−ジケトン類が挙げられる。光重合開始剤(g)は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの光重合開始剤(g)の中でも、(ビス)アシルホスフィンオキサイド類と、α−ジケトン類とからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を用いることが好ましい。該光重合開始剤(g)を用いることにより、可視光域及び近紫外領域での光硬化性に優れ、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、及びキセノンランプのいずれの光源を用いても十分な光硬化性を示す歯科用重合性組成物が得られる。
(ビス)アシルホスフィンオキサイド類としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、及び2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイドナトリウム塩を光重合開始剤(g)として用いることが特に好ましい。
α−ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ジベンジル、カンファーキノン、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、9,10−フェナンスレンキノン、4,4’−オキシベンジル、アセナフテンキノン等が挙げられる。この中でも、可視及び近紫外領域での光硬化性に優れ、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、キセノンランプのいずれの光源を用いても十分な光硬化性を示すことから、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、カンファーキノンが好ましい。
光重合開始剤(g)の配合量は特に限定されないが、光硬化性の観点から、重合性組成物全体の(メタ)アクリル系重合性単量体(a)100重量部に対して、0.01〜10重量部が好ましく、0.10〜3重量部がより好ましい。
フィラー(h)
本発明の歯科用重合性組成物には、硬化前の重合性組成物のペースト性状を調整するために、また硬化物にX線造影性を付与するために、シリカ粉末(f)を含まないフィラー(h)を、さらに配合することができる。このようなフィラー(h)としては、有機フィラー、無機フィラー、及び有機−無機複合フィラー等が挙げられる。フィラー(h)は、1種単独で又は2種以上を併用することができる。
有機フィラーの素材としては、例えばポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル−メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリオキシメチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体等が挙げられる。有機フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。
無機フィラーの素材としては、ランタンガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ガラスセラミック、アルミノシリケートガラス、バリウムボロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラス等が挙げられる。無機フィラーの形状は特に限定されず、不定形フィラー及び球状フィラー等を適宜選択して使用することができる。
前記無機フィラーは、(メタ)アクリル系重合性単量体(a)との混和性を調整するため、必要に応じてシランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。かかる表面処理剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、11−メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を併用することができる。
表面処理の方法としては、公知の方法を特に限定されずに用いることができ、例えば、無機フィラーを激しく攪拌しながら上記表面処理剤をスプレー添加する方法;適当な溶媒へ無機フィラーと上記表面処理剤とを分散又は溶解させた後、溶媒を除去する方法;あるいは水溶液中で上記表面処理剤のアルコキシ基を酸触媒により加水分解してシラノール基へ変換し、該水溶液中で無機フィラー表面に付着させた後、水を除去する方法等があり、いずれの方法においても、通常50〜150℃の範囲で加熱することにより、無機フィラー表面と上記表面処理剤との反応を完結させ、表面処理を行うことができる。
有機−無機複合フィラーとは、上述の無機フィラーにモノマー化合物を予め添加し、ペースト状にした後に重合させ、粉砕することにより得られるものである。有機−無機複合フィラーとしては、例えば、TMPTフィラー(トリメチロールプロパンメタクリレートとシリカフィラーを混和、重合させた後に粉砕したもの)等を用いることができる。前記有機−無機複合フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。
フィラー(h)の平均粒子径は、得られる歯科用重合性組成物の取り扱い性及びその硬化物の機械的強度等の観点から、0.001〜50μmが好ましく、0.01〜10μmがより好ましく、0.1〜7.0μmがさらに好ましく、0.2〜5.0μmが特に好ましい。なお、本発明において、フィラーの平均粒子径は、当業者に公知の任意の方法により測定され得、例えば、下記実施例に記載のレーザー回折型粒度分布測定装置により容易に測定され得る。
フィラー(h)の配合量は特に限定されないが、得られる歯科用重合性組成物の取り扱い性及びその硬化物の強度の観点から、重合性組成物全体の(メタ)アクリル系重合性単量体(a)100重量部に対して、10〜500重量部が好ましく、50〜400重量部がより好ましい。フィラー(h)としては、市販品を用いることができ、市販品に前記した表面処理を行ったものを使用してもよい。
また、本発明の歯科用重合性組成物には、性能を低下させない範囲で、公知の添加剤を配合することができる。かかる添加剤としては、重合禁止剤、酸化防止剤、顔料、染料、紫外線吸収剤、有機溶媒、増粘剤等が挙げられる。
重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ジブチルハイドロキノン、ジブチルハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールが挙げられる。重合禁止剤の含有量は、重合性組成物全体の(メタ)アクリル系重合性単量体(a)100重量部に対して、0.001〜1.0重量部が好ましい。
本発明の歯科用重合性組成物は、特に限定されず、公知の製造方法により製造することができる。製造方法としては、例えば、前記した各成分を、常温下(25℃)で混合することにより製造することができる。
本発明の歯科用重合性組成物は、保存安定性の観点から、ハイドロパーオキサイド化合物(b)と、チオ尿素誘導体(c)及び遷移金属化合物(d)とを別々の剤に分包した形態とすることが好ましい。ハイドロパーオキサイド化合物(b)を含む剤を第I剤、チオ尿素誘導体(c)及び遷移金属化合物(d)を含む剤を第II剤とした場合、第I剤と第II剤のそれぞれに、(メタ)アクリル系重合性単量体(a)を配合することが好ましい。また、シリカ粉末(f)は、第I剤及び第II剤のいずれに配合してもよく、両剤に配合してもよい。さらに、光重合開始剤(g)は、第I剤に配合することが好ましい。本発明の歯科用重合性組成物を分包形態の製品とするためには、各種の形態が考えられ、例えば、粉末・液、ペースト・液、ペースト・ペースト等の2材形態が挙げられる。
本発明の歯科用重合性組成物の実施態様としては、上述の分包形態の場合、例えば、第I剤が(メタ)アクリル系重合性単量体(a)、ハイドロパーオキサイド化合物(b)、軟化剤(e)及びシリカ粉末(f)、さらに必要に応じて光重合開始剤(g)及びシリカ粉末(f)を含まないフィラー(h)を含有し、第II剤が(メタ)アクリル系重合性単量体(a)、チオ尿素誘導体(c)、遷移金属化合物(d)、軟化剤(e)及びシリカ粉末(f)、さらに必要に応じてシリカ粉末(f)を含まないフィラー(h)を含有する歯科用重合性組成物が挙げられる。他の分包形態の実施態様としては、第I剤が(メタ)アクリル系重合性単量体(a)、ハイドロパーオキサイド化合物(b)及び軟化剤(e)、さらに必要に応じて光重合開始剤(g)及びシリカ粉末(f)を含まないフィラー(h)を含有し、第II剤が(メタ)アクリル系重合性単量体(a)、チオ尿素誘導体(c)、遷移金属化合物(d)、軟化剤(e)及びシリカ粉末(f)、さらに必要に応じてシリカ粉末(f)を含まないフィラー(h)を含有する歯科用重合性組成物が挙げられる。いずれの分包形態の実施態様においても、重合性組成物全体の(メタ)アクリル系重合性単量体(a)100重量部に対するシリカ粉末(f)の配合量は、0.05〜5重量部が好ましく、0.5〜2.5重量部がより好ましい。また、いずれの分包形態の実施態様においても、ハイドロパーオキサイド化合物(b)とチオ尿素誘導体(c)との総量100重量部に対するシリカ粉末(f)の配合量は、15〜80重量部が好ましく、20〜75質量部がより好ましい。
本発明の歯科用重合性組成物は、適度な硬化時間と優れた硬化性、柔軟性及び保存安定性を有する。本発明の歯科用重合性組成物は、化学重合性が要求される歯科材料(例、歯科用合着材、義歯床材、歯科用充填材)に好適に用いることができ、特に、歯科用仮着セメント、義歯床裏装材及び根管充填材として好適に用いることができる。
本発明の歯科用重合性組成物は、歯科用合着材、義歯床材、歯科用充填材等の用途に用いるのに十分な強度を有する点から、硬化物の曲げ弾性率が650MPa以上であることが好ましく、700MPa以上であることがより好ましい。また、優れた柔軟性を確保する点から、1000MPa以下であることが好ましく、950MPa以下であることがより好ましい。従って、上記観点より、本発明の歯科用重合性組成物の硬化物の曲げ弾性率は、650〜1000MPaが好ましく、700〜950MPaがより好ましい。硬化物の曲げ弾性率の測定方法は、後記する実施例に記載のとおりである。
本発明の歯科用重合性組成物は、保存安定性に優れる点から、25℃で1年保存した後の、23℃及び37℃のいずれにおいても硬化時間の変化率が10%以下のものが好ましく、7.5%以下ものがより好ましく、5%以下のものがさらに好ましい。硬化時間の変化率の測定方法は、後記する実施例に記載のとおりである。また、本発明の歯科用重合性組成物は、37℃での硬化時間が120〜310秒のものが好ましく、130〜300秒のものがより好ましい。さらに、本発明の歯科用重合性組成物は、23℃での硬化時間が120〜360秒のものが好ましく、130〜330秒のものがより好ましい。23℃及び37℃における硬化時間の測定方法は、後記する実施例に記載のとおりである。
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた態様を含む。
以下、本発明を実施例、及び比較例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら限定されるものではない。なお、以下で用いる略称及び略号は次のとおりである。
[(メタ)アクリル系重合性単量体(a)]
CMA:セチルメタクリレート
DD:1,10−デカンジオールジメタクリレート
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
[ハイドロパーオキサイド化合物(b)]
THP:1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド
CHP:クメンハイドロパーオキサイド
[チオ尿素誘導体(c)]
DMETU:4,4−ジメチル−2−イミダゾリンチオン
BTU:N−ベンゾイルチオ尿素
[遷移金属化合物(d)]
VOAA:バナジルアセチルアセトナート
CAT:酢酸第二銅
[軟化剤(e)]
SIS:ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレンブロック共重合体(クラレ製「ハイブラー5127」Mw:120000)
LMB:ポリメチルメタクリレート−ポリブチルアクリレートブロック共重合体(クラレ製「クラリティ1114」Mw:75000)
LIR:ポリイソプレン(クラレ製「LIR200」Mw:25000)
[シリカ粉末(f)]
Ar380:親水性ヒュームドシリカ(日本アエロジル社製「AEROSIL(登録商標)380」、平均粒径0.007μm)
Ar130:親水性ヒュームドシリカ(日本アエロジル社製「AEROSIL(登録商標)130」、平均粒径0.016μm)
KE250:アモルファスシリカ(日本触媒社製「シーホスター(登録商標)KE−P250」、平均粒径2.5μm)
[光重合開始剤(g)]
BAPO:ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド
[フィラー(h)]
フィラー1は、以下の製造方法に従って得られる。なお、以下の製造方法において、室温とは25℃を示す。
フィラー1:3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン処理バリウムガラス粉
バリウムガラス(エステック社製「E−3000」)を振動ボールミルで粉砕し、バリウムガラス粉を得た。得られたバリウムガラス粉100g、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン社製「KBM−503」)0.5g(核フィラー100重量部に対して0.5重量部)及びトルエン200mLを500mLの一口ナスフラスコに入れ、室温で2時間攪拌した。続いて、減圧下トルエンを留去した後、40℃で16時間真空乾燥し、さらに90℃で3時間真空乾燥し、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン処理バリウムガラス粉〔フィラー1〕を得た。フィラー1の平均粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製、型式「SALD−2100」)を用いて測定したところ、2.4μmであった。
フィラー2:酸化ジルコニウム(添川化学社製「酸化ジルコニウム」、平均粒径1.0μm)
[重合禁止剤]
BHT:2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール
実施例1〜12及び比較例1〜5
下記表1、2及び3に示す原料を常温下(25℃)で混合してAペースト及びBペーストを調製した。当該Aペースト及びBペーストを25℃で1日及び1年間保存した後、以下の試験例1の方法に従って特性を調べた。結果を表1、2及び3に示す。
試験例1(硬化時間)
各実施例及び比較例について、室温下、歯科用練和紙上に等量採取したAペーストとBペーストを歯科用練和棒で20秒間混合し、練和物として重合性組成物を得た後、23℃及び37℃の恒温槽内に設置した記録計(横河電機社製)に接続した熱電対(岡崎製作所社製)により、23℃の硬化時間は、混合した時点からペーストの硬化開始によって温度が上昇し始めた時点までの時間(操作可能時間)を、37℃の硬化時間は、混合した時点からペーストの硬化開始によって温度が上昇し、最高温度に達した時点までの時間を測定した。各保存後のサンプルについて得られた硬化時間を用いて、以下の式より硬化時間の変化率(%)を算出した。なお、算出された値の絶対値を変化率(%)として用いた。
硬化時間の変化率(%)=(|1年保存後の硬化時間−1日保存後の硬化時間|/1日保存後の硬化時間)×100
23℃の硬化時間が120秒以上であると操作余裕時間が充分であると判断することができる。37℃の硬化時間が120〜360秒であると硬化性に優れると判断することができる。また、前記硬化時間の変化率が10%以下であると、変化が少なく保存安定性に優れると判断することができる。
試験例2(曲げ弾性率)
ISO4049に準拠して曲げ試験により評価した。すなわち、以下の例で作製した重合性組成物をSUS製の金型(縦2mm×厚さ2mm×長さ25mm)に充填し、上下をスライドガラスで圧接し、37℃の水中に30分浸漬して重合性組成物を硬化させた。得られた硬化物について、万能試験機(株式会社島津製、オートグラフAG−100kNI)を用いて、クロスヘッドスピード2mm/minで曲げ試験を実施し、曲げ弾性率を測定した。なお、優れた柔軟性を確保するために、硬化物の曲げ弾性率は1000MPa以下であることが好ましい。
表1〜表3の結果より、レドックス重合開始剤の重合促進剤としてのシリカ粉末(f)を他の成分(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)と組み合わせて含む本発明の歯科用重合性組成物は、シリカ粉末(f)を含まない比較例1〜4の歯科用重合性組成物及びシリカ粉末(f)を含み、ハイドロパーオキサイド化合物(b)とチオ尿素誘導体(c)とを含まない比較例5の歯科用重合性組成物に比べて、23℃及び37℃の硬化時間が適切で、25℃1日保存後の硬化時間と25℃1年保存後の硬化時間の差、つまり変化が小さく保存安定性に優れていることが分かる。