本発明の実施形態について説明する。なお、粉体(より具体的には、トナーコア、トナー母粒子、外添剤、又はトナー等)に関する評価結果(形状又は物性などを示す値)は、何ら規定していなければ、粉体から平均的な粒子を相当数選び取って、それら平均的な粒子の各々について測定した値の個数平均である。
粉体の個数平均粒子径は、何ら規定していなければ、顕微鏡を用いて測定された1次粒子の円相当径(粒子の投影面積と同じ面積を有する円の直径)の個数平均値である。また、粉体の体積中位径(D50)の測定値は、何ら規定していなければ、ベックマン・コールター株式会社製の「コールターカウンターマルチサイザー3」を用いてコールター原理(細孔電気抵抗法)に基づき測定した値である。また、酸価及び水酸基価の各々の測定値は、何ら規定していなければ、「JIS(日本工業規格)K0070−1992」に従って測定した値である。また、数平均分子量(Mn)及び質量平均分子量(Mw)の各々の測定値は、何ら規定していなければ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した値である。また、ガラス転移点(Tg)及び融点(Mp)はそれぞれ、何ら規定していなければ、示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製「DSC−6220」)を用いて測定した値である。また、軟化点(Tm)は、何ら規定していなければ、高化式フローテスター(株式会社島津製作所製「CFT−500D」)を用いて測定した値である。
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。また、アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。
本実施形態に係るトナーは、例えば正帯電性トナーとして、静電潜像の現像に好適に用いることができる。本実施形態のトナーは、複数のトナー粒子(それぞれ後述する構成を有する粒子)を含む粉体である。トナーは、1成分現像剤として使用してもよい。また、混合装置(より具体的には、ボールミル等)を用いてトナーとキャリアとを混合して2成分現像剤を調製してもよい。高画質の画像を形成するためには、キャリアとしてフェライトキャリアを使用することが好ましい。また、長期にわたって高画質の画像を形成するためには、キャリアコアと、キャリアコアを被覆する樹脂層とを備える磁性キャリア粒子を使用することが好ましい。キャリア粒子に磁性を付与するためには、磁性材料でキャリア粒子を形成してもよいし、磁性粒子を分散させた樹脂でキャリア粒子を形成してもよい。また、キャリアコアを被覆する樹脂層中に磁性粒子を分散させてもよい。高画質の画像を形成するためには、2成分現像剤におけるトナーの量は、キャリア100質量部に対して、5質量部以上15質量部以下であることが好ましい。なお、2成分現像剤に含まれる正帯電性トナーは、キャリアとの摩擦により正に帯電する。
本実施形態に係るトナーに含まれるトナー粒子は、コア(以下、トナーコアと記載する)と、トナーコアの表面を覆うシェル層(カプセル層)とを備える。シェル層は、実質的に樹脂から構成される。例えば、低温で溶融するトナーコアを、耐熱性に優れるシェル層で覆うことで、トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図ることが可能になる。シェル層を構成する樹脂中に添加剤が分散していてもよい。トナーコア及び/又はシェル層の表面に外添剤が付着していてもよい。また、トナーコアの表面に複数のシェル層が積層されてもよい。なお、必要がなければ外添剤を割愛してもよい。以下、外添剤が付着する前のトナー粒子を、トナー母粒子と記載する。また、トナーコアを形成するための材料を、トナーコア材料と記載する。また、シェル層を形成するための材料を、シェル材料と記載する。
本実施形態に係るトナーは、例えば電子写真装置(画像形成装置)において画像の形成に用いることができる。以下、電子写真装置による画像形成方法の一例について説明する。
まず、画像データに基づいて感光体(例えば、感光体ドラムの表層部)に静電潜像を形成する。次に、形成された静電潜像を、トナーを含む現像剤を用いて現像する。現像工程では、感光体の近傍に配置された現像スリーブ(例えば、現像器内の現像ローラーの表層部)上のトナー(例えば、キャリア又はブレードとの摩擦により帯電したトナー)を静電潜像に付着させて、感光体にトナー像を形成する。そして、続く転写工程では、そのトナー像を中間転写体(例えば、転写ベルト)に転写した後、さらに中間転写体上のトナー像を記録媒体(例えば、紙)に転写する。その後、トナーを加熱して、記録媒体にトナーを定着させる。その結果、記録媒体に画像が形成される。例えば、ブラック、イエロー、マゼンタ、及びシアンの4色のトナー像を重ね合わせることで、フルカラー画像を形成することができる。
本実施形態に係るトナーは、次に示す構成(以下、基本構成と記載する)を有する静電潜像現像用トナーである。
(トナーの基本構成)
トナーコアは、結晶性ポリエステル樹脂及び離型剤を含有する。トナーコアの表面は、シェル層で覆われている被覆領域と、シェル層で覆われていない露出領域とを含む。トナーコアの表面のうち、被覆領域の面積の割合(以下、シェル被覆率と記載する)は60%以上80%以下である。露出領域のうち、表面吸着力が25nN以上である領域の面積の割合(以下、露出吸着率と記載する)は8%以下である。以下、表面吸着力が25nN以上である領域を、吸着性領域と記載する。
上記基本構成において、シェル被覆率(単位:%)は、式「シェル被覆率=100×トナーコアの表面における被覆領域の面積/トナーコアの表面全体の面積」で表される。シェル被覆率が100%であることは、トナーコアの表面全域がシェル層で覆われていることを意味する。シェル被覆率の測定方法は、後述する実施例と同じ方法又はその代替方法である。シェル被覆率は、外添処理後に測定してもよい。外添剤を避けて測定を行ってもよいし、トナー母粒子に付着した外添剤を除去してから測定を行ってもよい。溶剤(例えば、アルカリ溶液)を用いて外添剤を溶解させて除去してもよいし、超音波洗浄機を用いてトナー粒子から外添剤を取り除いてもよい。
上記基本構成において、露出吸着率(単位:%)は、式「露出吸着率=100×露出領域中の吸着性領域の面積/露出領域全部の面積」で表される。露出吸着率が100%であることは、露出領域の全部が吸着性領域であることを意味する。また、露出吸着率が8%以下であることには、露出吸着率が0%であることも含まれる。すなわち、露出領域に吸着性領域が全くないトナーも、上記基本構成に規定される露出吸着率の要件を満たす。露出吸着率の測定方法は、後述する実施例と同じ方法又はその代替方法である。
離型剤に加えて、結晶性ポリエステル樹脂をトナーコアに含有させることで、トナーの低温定着性を大きく改善できる。しかし、トナーコアに結晶性ポリエステル樹脂を含有させると、トナー粒子の表面吸着力が大きくなり、フィルミング(現像スリーブ又は感光体ドラム等に対するトナー固着)が起き易くなる。
発明者は、後述する本実施形態に係るトナーの製造方法により、容易かつ適切に上記基本構成を有するトナーを製造できることを見出した。本実施形態に係るトナーの製造方法では、トナーコアとシェル材料と界面活性剤とを含む弱アルカリ性(詳しくは、pH7.0超8.5以下)の水性媒体の温度を昇温させ、昇温の目標温度に到達した直後に水性媒体を急冷することで、トナーコアの表面に存在する吸着性領域を減らすことができる。詳しくは、トナーコアの表面に複数の凹部が形成される。トナーコアの表面において、形成された凹部の内側領域の表面吸着力は小さく(詳しくは、25nN未満に)なる傾向がある。このため、凹部の内側領域は、吸着性領域になりにくい。また、上記のようにして形成された凹部の内側領域にはシェル層が存在しない傾向がある。このため、凹部の内側領域は、表面吸着力の小さい露出領域になり易い。トナーコアの表面に表面吸着力の小さい露出領域を形成することで、上記基本構成に規定される露出吸着率の要件を満たし易くなる。なお、本実施形態では、意図せずとも自然に形成されるトナーコアの表面の微小な凹凸とは区別するため、深さ100nm以上の穴を「凹部」と称する。
弱アルカリ性の水性媒体の温度を昇温させることで、水性媒体中のトナーコアの表面で結晶性ポリエステル樹脂の加水分解が進行すると考えられる。結晶性ポリエステル樹脂の加水分解により、トナーコアの表面に凹部が形成されると考えられる。水性媒体を急冷した後、トナーコアの表面における凹部の内側領域には、表面吸着力の小さい物質(例えば、結晶性ポリエステル樹脂よりも分子量の小さい低分子エステル化合物)が残ると考えられる。また、水性媒体中に界面活性剤を適量入れておくことで、凹部の形成が促進されることを、発明者が見出した。水性媒体中に適量の界面活性剤が存在する場合には、トナーコアの表面からの結晶性ポリエステル樹脂及び離型剤の溶出が促進されると考えられる。また、水性媒体中に適量の界面活性剤が存在することで、結晶性ポリエステル樹脂の加水分解により生成される物質が、水性媒体中に分散し易くなると考えられる。本実施形態に係るトナーの製造方法では、結晶性ポリエステル樹脂の加水分解が適切に進行するように、界面活性剤の量を決めることが好ましい。
本実施形態に係るトナーの製造方法では、水性媒体のpHを弱アルカリ性の値に調整する前に、界面活性剤を含む弱酸性(詳しくは、pH3.0以上6.0以下)の水性媒体を攪拌して、水性媒体中にトナーコア及びシェル材料を分散させる。こうした攪拌工程により、トナーコアの表面にシェル材料が付着し、昇温工程においてシェル層が凹部の外側領域に形成され易くなる。シェル層が凹部の外側領域に適切に形成されることで、上記基本構成に規定されるシェル被覆率の要件を満たし易くなる。
トナーが上記基本構成を有するためには、トナーコアに含有される結晶性ポリエステル樹脂の量が、トナーコア全部の質量に対して3質量%以上10質量%以下であることが好ましい。例えば、100質量部のトナーコア中には、3質量部以上10質量部以下の結晶性ポリエステル樹脂が含有されることが好ましい。
トナーが上記基本構成を有するためには、トナーコアに含有される離型剤の量(複数種の離型剤を使用する場合には、それら離型剤の合計量)が、トナーコア全部の質量に対して5質量%以上7質量%以下であることが好ましい。例えば、100質量部のトナーコア中には、5質量部以上7質量部以下の離型剤が含有されることが好ましい。
トナーが上記基本構成を有するためには、トナーコアに含有される結晶性ポリエステル樹脂及び離型剤の総量(=結晶性ポリエステル樹脂の量+離型剤の量)は、トナーコア全部の質量に対して5質量%以上15質量%以下であることが好ましい。例えば、100質量部のトナーコア中に含有される結晶性ポリエステル樹脂及び離型剤の総量は5質量部以上15質量部以下であることが好ましい。
トナーコアの表面に対する凹部の形成を促進するためには、トナーコアが、結晶性指数0.98以上1.20以下の結晶性ポリエステル樹脂を含有することが好ましい。結晶性指数は、融点(Mp)に対する軟化点(Tm)の比率(=Tm/Mp)に相当する。ポリエステル樹脂の結晶性指数は、ポリエステル樹脂を合成するための材料(例えば、アルコール及び/又はカルボン酸)の種類又は量を変更することで、調整できる。非結晶性ポリエステル樹脂については、明確なMpを測定できないことが多い。
上記基本構成では、シェル被覆率が十分高い(詳しくは、60%以上である)ことで、優れた耐熱保存性を有するトナーを得やすくなると考えられる。また、シェル被覆率が高過ぎない(詳しくは、80%以下である)ことで、優れた低温定着性を有するトナーを得やすくなると考えられる。また、トナーコアが結晶性ポリエステル樹脂及び離型剤を含有することで、トナーの低温定着性が向上すると考えられる。また、露出吸着率が低い(詳しくは、8%以下である)ことで、トナーのフィルミングが抑制されると考えられる。上記基本構成を有するトナーを連続印刷に用いた場合には、継続的にフィルミング(現像スリーブ等に対するトナーの固着)を抑制して高画質の画像を形成し続けることが可能になる(後述する表1及び表2を参照)。
以下、図1〜図3を参照して、上記基本構成を有するトナーに含まれるトナー粒子の構成の一例について説明する。図1は、上記基本構成を有するトナーについて、トナー母粒子の断面構造の一例を示す図である。図2は、図1に示されるトナー母粒子10の表面の一部領域を示す平面図である。図3は、図2中のIII−III断面図である。
図1に示されるトナー母粒子10は、トナーコア11と、トナーコア11の表面を覆うシェル層12とを備える。シェル層12は、トナーコア11の表面を部分的に覆っている。
図2及び図3に示すように、トナーコア11の表面には、凹部H1〜H4が形成されている。図2に示されるように、凹部H1〜H4の各々の内側領域にはシェル層12が存在しない。図2に示されるトナーコア11の表面において、シェル層12が存在する領域(斜線ハッチング領域)は被覆領域に相当し、それ以外の領域が露出領域に相当する。図3中、範囲R1は、凹部H1の内側領域の範囲を示し、深さD1は、凹部H1の深さを示している。凹部H1〜H4の各々の深さは、例えば100nm以上3μm以下である。なお、トナーコア11の表面に形成される凹部の平面形状(例えば、図2参照)は任意である。凹部の平面形状は、真円状であっても、楕円状であっても、多角形状であっても、異形であってもよい。
図3に示す例では、樹脂粒子が2次元的に連なった形態をシェル層12が有する。図3には、説明の便宜上、樹脂粒子が球形状のまま残っている例を示しているが、実際には、樹脂粒子同士がつながって、より一体的な形態となり、膜化していることが多い。膜化の過程で、樹脂粒子が扁平状になることも多い。外添工程で物理的な衝撃力を受けて樹脂粒子の膜化が進行することもある。球形状の樹脂粒子が膜化の過程で変形したシェル層の形態も、樹脂粒子が2次元的に連なって出来るシェル層の形態に含まれる。
トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図るためには、シェル層の厚さが1nm以上50nm以下であることが好ましい。シェル層の厚さは、市販の画像解析ソフトウェア(例えば、三谷商事株式会社製「WinROOF」)を用いてトナー粒子の断面のTEM撮影像を解析することによって計測できる。なお、1つのトナー粒子においてシェル層の厚さが均一でない場合には、均等に離間した4箇所(詳しくは、トナー粒子の断面の略中心で直交する2本の直線を引き、それら2本の直線がシェル層と交差する4箇所)の各々でシェル層の厚さを測定し、得られた4つの測定値の算術平均を、そのトナー粒子の評価値(シェル層の厚さ)とする。
トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図るためには、トナーの体積中位径(D50)が、1μm以上10μm未満であることが好ましく、5μm以上8μm以下であることがより好ましい。
本実施形態に係るトナーは、耐熱保存性及び低温定着性に優れ、連続印刷に用いられた場合でも、継続的にフィルミング(現像スリーブ等に対するトナーの固着)を抑制して高画質の画像を形成し続けることができると考えられる(後述する表1及び表2を参照)。こうした効果を得るためには、トナーから平均的なトナー粒子を相当数選び取って、それら平均的なトナー粒子について測定されたシェル被覆率及び露出吸着率の各々の個数平均値がそれぞれ、前述の基本構成に規定される要件を満たすことが好ましい。シェル層を備えるトナー粒子を主に含むトナー中に、シェル層を備えないトナー粒子が混じっていてもよい。
次に、トナーコア材料及びシェル材料について説明する。トナーコア及びシェル層を形成するために適した樹脂は、以下のとおりである。
<好適な熱可塑性樹脂>
トナー粒子(特に、トナーコア及びシェル層)を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、アクリル酸系樹脂(より具体的には、アクリル酸エステル重合体又はメタクリル酸エステル重合体等)、オレフィン系樹脂(より具体的には、ポリエチレン樹脂又はポリプロピレン樹脂等)、ビニル樹脂(より具体的には、塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ビニルエーテル樹脂、又はN−ビニル樹脂等)、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、又はウレタン樹脂を好適に使用できる。また、これら各樹脂の共重合体、すなわち上記樹脂中に任意の繰返し単位が導入された共重合体(より具体的には、スチレン−アクリル酸系樹脂又はスチレン−ブタジエン系樹脂等)も、トナー粒子を構成する熱可塑性樹脂として好適に使用できる。
熱可塑性樹脂は、1種以上の熱可塑性モノマーを、付加重合、共重合、又は縮重合させることで得られる。なお、熱可塑性モノマーは、単独重合により熱可塑性樹脂になるモノマー(より具体的には、アクリル酸系モノマー又はスチレン系モノマー等)、又は縮重合により熱可塑性樹脂になるモノマー(例えば、縮重合によりポリエステル樹脂になるアルコール及びカルボン酸)である。
スチレン−アクリル酸系樹脂は、1種以上のスチレン系モノマーと1種以上のアクリル酸系モノマーとの共重合体である。スチレン−アクリル酸系樹脂を合成するためには、例えば以下に示すような、スチレン系モノマー及びアクリル酸系モノマーを好適に使用できる。カルボキシル基を有するアクリル酸系モノマーを用いることで、スチレン−アクリル酸系樹脂にカルボキシル基を導入できる。また、水酸基を有するモノマー(より具体的には、p−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等)を用いることで、スチレン−アクリル酸系樹脂に水酸基を導入できる。
スチレン系モノマーの好適な例としては、スチレン、アルキルスチレン(より具体的には、α−メチルスチレン、p−エチルスチレン、又は4−tert−ブチルスチレン等)、p−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、ビニルトルエン、α−クロロスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、又はp−クロロスチレンが挙げられる。
アクリル酸系モノマーの好適な例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの好適な例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸iso−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸iso−ブチル、又は(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルが挙げられる。(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの好適な例としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、又は(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルが挙げられる。
ポリエステル樹脂は、1種以上のアルコールと1種以上のカルボン酸とを縮重合させることで得られる。ポリエステル樹脂を合成するためのアルコールとしては、例えば以下に示すような、2価アルコール(より具体的には、ジオール類又はビスフェノール類等)又は3価以上のアルコールを好適に使用できる。ポリエステル樹脂を合成するためのカルボン酸としては、例えば以下に示すような、2価カルボン酸又は3価以上のカルボン酸を好適に使用できる。
ジオール類の好適な例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジ1,2−プロパンジオール、ポリエチレングリコール、ポリ1,2−プロパンジオール、又はポリテトラメチレングリコールが挙げられる。
ビスフェノール類の好適な例としては、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、又はビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物が挙げられる。
3価以上のアルコールの好適な例としては、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、又は1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンが挙げられる。
2価カルボン酸の好適な例としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、マロン酸、コハク酸、アルキルコハク酸(より具体的には、n−ブチルコハク酸、イソブチルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−ドデシルコハク酸、又はイソドデシルコハク酸等)、又はアルケニルコハク酸(より具体的には、n−ブテニルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n−オクテニルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、又はイソドデセニルコハク酸等)が挙げられる。
3価以上のカルボン酸の好適な例としては、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、又はエンポール三量体酸が挙げられる。
<好適な熱硬化性樹脂>
トナー粒子(特に、シェル層)を構成する熱硬化性樹脂としては、例えば、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、スルホンアミド系樹脂、グリオキザール系樹脂、グアナミン系樹脂、アニリン系樹脂、ポリイミド樹脂(より具体的には、マレイミド重合体又はビスマレイミド重合体等)、又はキシレン系樹脂を好適に使用できる。
熱硬化性樹脂は、1種以上の熱硬化性モノマーを架橋反応(重合)させることで得られる。また、架橋剤を用いることで、熱可塑性モノマーにより熱硬化性樹脂を合成することもできる。なお、熱硬化性モノマーは、架橋性を有するモノマーである。例えば、同種のモノマー同士が「−CH2−」を介して3次元的につながって熱硬化性樹脂になる場合、そのモノマーは「熱硬化性モノマー」に相当する。
熱硬化性モノマーの好適な例としては、メチロールメラミン、メラミン、メチロール化尿素(より具体的には、ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素等)、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、又はスピログアナミンが挙げられる。
以下、トナーコア(結着樹脂及び内添剤)、シェル層、及び外添剤について、順に説明する。トナーの用途に応じて必要のない成分(例えば、内添剤)を割愛してもよい。
[トナーコア]
(結着樹脂)
トナーコアでは、一般的に、成分の大部分(例えば、85質量%以上)を結着樹脂が占める。このため、結着樹脂の性質がトナーコア全体の性質に大きな影響を与えると考えられる。結着樹脂として複数種の樹脂を組み合わせて使用することで、結着樹脂の性質(より具体的には、水酸基価、酸価、Tg、又はTm等)を調整することができる。例えば、結着樹脂がエステル基、水酸基、エーテル基、酸基、又はメチル基を有する場合には、トナーコアはアニオン性になる傾向が強くなり、結着樹脂がアミノ基又はアミド基を有する場合には、トナーコアはカチオン性になる傾向が強くなる。結着樹脂が強いアニオン性を有するためには、結着樹脂の水酸基価及び酸価の少なくとも一方が10mgKOH/g以上であることが好ましい。
高速定着時におけるトナーの定着性を向上させるためには、結着樹脂のガラス転移点(Tg)が20℃以上55℃以下であることが好ましい。高速定着時におけるトナーの定着性を向上させるためには、結着樹脂の軟化点(Tm)が100℃以下であることが好ましい。
トナーの低温定着性を向上させるためには、トナーコアが、結着樹脂として、熱可塑性樹脂(より具体的には、前述の好適な熱可塑性樹脂等)を含有することが好ましく、結着樹脂全体の85質量%以上の割合で熱可塑性樹脂を含有することがより好ましい。本実施形態に係るトナーでは、トナーコアが、結着樹脂として結晶性ポリエステル樹脂を含有する。結晶性ポリエステル樹脂と非結晶性ポリエステル樹脂との相溶性は高い。このため、トナーコアが、結着樹脂として、非結晶性ポリエステル樹脂をさらに含有することが好ましい。トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図るためには、トナーコアに含有される樹脂のうち、80質量%以上の樹脂がポリエステル樹脂であることが好ましく、90質量%以上の樹脂がポリエステル樹脂であることがより好ましく、100質量%の樹脂がポリエステル樹脂であることがさらに好ましい。
トナーコアに、軟化点95℃以下の非結晶性ポリエステル樹脂(以下、低Tmポリエステル樹脂と記載する)と、軟化点105℃以上の非結晶性ポリエステル樹脂(以下、高Tmポリエステル樹脂と記載する)とを含有させてもよい。軟化点が低いポリエステル樹脂ほど加水分解し易い傾向がある。低Tmポリエステル樹脂及び高Tmポリエステル樹脂をトナーコアに含有させることで、トナーコアの表面に形成される凹部の大きさ及び数等を調整し易くなる。なお、非結晶性ポリエステル樹脂は結晶性ポリエステル樹脂よりも加水分解しにくい。
トナーコアの結着樹脂として非結晶性ポリエステル樹脂を使用する場合、トナーコアの強度及びトナーの定着性を向上させるためには、非結晶性ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)が1000以上2000以下であることが好ましい。非結晶性ポリエステル樹脂の分子量分布(数平均分子量(Mn)に対する質量平均分子量(Mw)の比率Mw/Mn)は9以上21以下であることが好ましい。
(着色剤)
トナーコアは、着色剤を含有してもよい。着色剤としては、トナーの色に合わせて公知の顔料又は染料を用いることができる。トナーを用いて高画質の画像を形成するためには、着色剤の量が、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下であることが好ましい。
トナーコアは、黒色着色剤を含有していてもよい。黒色着色剤の例としては、カーボンブラックが挙げられる。また、黒色着色剤は、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤を用いて黒色に調色された着色剤であってもよい。
トナーコアは、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、又はシアン着色剤のようなカラー着色剤を含有していてもよい。
イエロー着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、及びアリールアミド化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を使用できる。イエロー着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー(3、12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、97、109、110、111、120、127、128、129、147、151、154、155、168、174、175、176、180、181、191、又は194)、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、又はC.I.バットイエローを好適に使用できる。
マゼンタ着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、及びペリレン化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を使用できる。マゼンタ着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントレッド(2、3、5、6、7、19、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、150、166、169、177、184、185、202、206、220、221、又は254)を好適に使用できる。
シアン着色剤としては、例えば、銅フタロシアニン化合物、アントラキノン化合物、及び塩基染料レーキ化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を使用できる。シアン着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントブルー(1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、又は66)、フタロシアニンブルー、C.I.バットブルー、又はC.I.アシッドブルーを好適に使用できる。
(離型剤)
本実施形態に係るトナーでは、トナーコアが離型剤を含有する。離型剤は、例えば、トナーの定着性又は耐オフセット性を向上させる目的で使用される。トナーコアのアニオン性を強めるためには、アニオン性を有するワックスを用いてトナーコアを作製することが好ましい。トナーの定着性又は耐オフセット性を向上させるためには、離型剤の量は、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下であることが好ましい。
離型剤としては、例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、ポリオレフィン共重合物、ポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、又はフィッシャートロプシュワックスのような脂肪族炭化水素ワックス;酸化ポリエチレンワックス又はそのブロック共重合体のような脂肪族炭化水素ワックスの酸化物;キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ホホバろう、又はライスワックスのような植物性ワックス;みつろう、ラノリン、又は鯨ろうのような動物性ワックス;オゾケライト、セレシン、又はペトロラタムのような鉱物ワックス;モンタン酸エステルワックス又はカスターワックスのような脂肪酸エステルを主成分とするワックス類;脱酸カルナバワックスのような、脂肪酸エステルの一部又は全部が脱酸化したワックスを好適に使用できる。1種類の離型剤を単独で使用してもよいし、複数種の離型剤を併用してもよい。
結着樹脂と離型剤との相溶性を改善するために、相溶化剤をトナーコアに添加してもよい。
(電荷制御剤)
トナーコアは、電荷制御剤を含有していてもよい。電荷制御剤は、例えば、トナーの帯電安定性又は帯電立ち上がり特性を向上させる目的で使用される。トナーの帯電立ち上がり特性は、短時間で所定の帯電レベルにトナーを帯電可能か否かの指標になる。
トナーコアに負帯電性の電荷制御剤を含有させることで、トナーコアのアニオン性を強めることができる。また、トナーコアに正帯電性の電荷制御剤を含有させることで、トナーコアのカチオン性を強めることができる。ただし、トナーにおいて十分な帯電性が確保される場合には、トナーコアに電荷制御剤を含有させる必要はない。
(磁性粉)
トナーコアは、磁性粉を含有していてもよい。磁性粉の材料としては、例えば、強磁性金属(より具体的には、鉄、コバルト、又はニッケル等)もしくはその合金、強磁性金属酸化物(より具体的には、フェライト、マグネタイト、又は二酸化クロム等)、又は強磁性化処理(より具体的には、熱処理等)が施された材料を好適に使用できる。1種類の磁性粉を単独で使用してもよいし、複数種の磁性粉を併用してもよい。
磁性粉からの金属イオン(例えば、鉄イオン)の溶出を抑制するためには、磁性粉を表面処理することが好ましい。酸性条件下でトナーコアの表面にシェル層を形成する場合に、トナーコアの表面に金属イオンが溶出すると、トナーコア同士が固着し易くなる。磁性粉からの金属イオンの溶出を抑制することで、トナーコア同士の固着を抑制することができると考えられる。
[シェル層]
シェル層は、粒状感のない膜であってもよいし、粒状感のある膜であってもよい。シェル層を形成するための材料として樹脂粒子を使用した場合、材料(樹脂粒子)が完全に溶けて膜状の形態で硬化すれば、シェル層として、粒状感のない膜が形成されると考えられる。他方、材料(樹脂粒子)が完全に溶けずに膜状の形態で硬化すれば、シェル層として、樹脂粒子が2次元的に連なった形態を有する膜(粒状感のある膜)が形成されると考えられる。
トナーの帯電安定性を向上させるためには、シェル層が疎水性樹脂を含有することが好ましい。樹脂が疎水性を有するためには、樹脂に含まれる全ての繰返し単位のうち、親水性官能基を有する繰返し単位の割合が、10質量%以下であることが好ましい。親水性官能基は、酸基(より具体的には、カルボキシル基又はスルホ基等)、水酸基、又はこれらの塩(より具体的には、−COONa、−SO3Na、又は−ONa等)である。
シェル層に含有させる疎水性樹脂としては、熱可塑性樹脂(より具体的には、前述の好適な熱可塑性樹脂等)、又は架橋剤により前述の好適な熱可塑性樹脂を架橋した熱硬化性樹脂が好ましく、1種以上のスチレン系モノマー(例えば、スチレンモノマー)と1種以上のアクリル酸系モノマー(例えば、アクリル酸エステルモノマー)とが架橋剤(例えば、ジビニルベンゼン)により架橋された樹脂(熱硬化性樹脂)が特に好ましい。また、シェル層の膜質を向上させるためには、シェル層に含有される樹脂(架橋された樹脂)が、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、又はメタクリル酸2−ヒドロキシプロピルに由来する1種以上のアルコール性水酸基を有することが好ましい。
トナーの帯電安定性を向上させるために、シェル層に帯電性樹脂(電荷制御剤を含む樹脂)を含有させてもよい。シェル層に含有させる帯電性樹脂としては、正帯電性の電荷制御剤に由来する繰返し単位を組み込んだ熱可塑性樹脂(より具体的には、前述の好適な熱可塑性樹脂等)が好ましく、1種以上の4級アンモニウム化合物(例えば、4級アンモニウム塩)モノマーと1種以上のアクリル酸系モノマー(例えば、アクリル酸エステルモノマー)との共重合体が特に好ましい。
シェル層の耐久性を向上させるために、前述の好適な熱硬化性樹脂をシェル層に含有させてもよい。
[外添剤]
トナー母粒子の表面に外添剤を付着させてもよい。例えば、トナー母粒子と外添剤とを一緒に攪拌することで、物理的な力でトナー母粒子の表面に外添剤が付着(物理的結合)する。外添剤は、例えばトナーの流動性又は取扱性を向上させるために使用される。トナーの流動性又は取扱性を向上させるためには、外添剤の量が、トナー母粒子100質量部に対して、0.5質量部以上10質量部以下であることが好ましい。また、トナーの流動性又は取扱性を向上させるためには、外添剤の粒子径は0.01μm以上1.0μm以下であることが好ましい。
外添剤としては、シリカ粒子、又は金属酸化物(より具体的には、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、又はチタン酸バリウム等)の粒子を好適に使用できる。1種類の外添剤を単独で使用してもよいし、複数種の外添剤を併用してもよい。
[トナーの製造方法]
本実施形態に係るトナーの製造方法は、次に示す工程(準備工程、攪拌工程、pH調整工程、昇温工程、及び冷却工程)を含む。準備工程では、トナーコアとシェル材料と界面活性剤とを含むpH3.0以上6.0以下の水性媒体を準備する。トナーコアは、結晶性ポリエステル樹脂及び離型剤を含有する。攪拌工程では、準備された水性媒体を攪拌する。pH調整工程では、攪拌工程の後、水性媒体のpHを7.0超8.5以下に調整する。昇温工程では、pH調整工程の後、水性媒体の温度を所定の目標温度まで昇温させる。冷却工程では、昇温工程で水性媒体の温度が目標温度に到達した直後に水性媒体を急冷する。なお、水性媒体は、水を主成分とする媒体(より具体的には、純水、又は水と極性媒体との混合液等)である。水性媒体は溶媒として機能してもよい。水性媒体中に溶質が溶けていてもよい。水性媒体は分散媒として機能してもよい。水性媒体中に分散質が分散していてもよい。水性媒体中の極性媒体としては、例えば、アルコール(より具体的には、メタノール又はエタノール等)を使用できる。水性媒体の沸点は約100℃である。
本実施形態に係るトナーの製造方法によれば、前述の基本構成を有するトナーを容易かつ適切に製造することが可能になる。
以下、より具体的な例に基づいて、本実施形態に係るトナーの製造方法についてさらに説明する。
(トナーコアの準備)
好適なトナーコアを容易に得るためには、凝集法又は粉砕法によりトナーコアを製造することが好ましい。
以下、粉砕法の一例について説明する。まず、結着樹脂と、内添剤(例えば、着色剤、離型剤、電荷制御剤、及び磁性粉の少なくとも1つ)とを混合する。続けて、得られた混合物を溶融混練する。続けて、得られた溶融混練物を粉砕及び分級する。その結果、所望の粒子径を有するトナーコアが得られる。
以下、凝集法の一例について説明する。まず、結着樹脂、離型剤、及び着色剤の各々の微粒子を含む水性媒体中で、これらの粒子を所望の粒子径になるまで凝集させる。これにより、結着樹脂、離型剤、及び着色剤を含む凝集粒子が形成される。続けて、得られた凝集粒子を加熱して、凝集粒子に含まれる成分を合一化させる。その結果、トナーコアの分散液が得られる。その後、トナーコアの分散液から、不要な物質(界面活性剤等)を除去することで、トナーコアが得られる。
(シェル層の形成)
まず、水性媒体(例えば、イオン交換水)を準備する。続けて、酸性物質(例えば、塩酸)を用いて水性媒体のpHを3.0以上6.0以下に調整する。続けて、pHが調整された水性媒体(酸性の水性媒体)に、トナーコアと、シェル材料(例えば、疎水性樹脂のサスペンション)と、界面活性剤とを添加する。シェル材料の添加量を多くするほど、形成されるシェル層の厚さが厚くなる傾向がある。疎水性樹脂としては、例えば、1種以上のスチレン系モノマーと1種以上のアクリル酸系モノマーとが架橋剤(例えば、ジビニルベンゼン)により架橋された樹脂を使用できる。シェル層の膜質を向上させるためには、疎水性樹脂粒子の個数平均粒子径は20nm以上50nm以下であることが好ましい。
トナーコア及びシェル材料を水性媒体に添加すると、水性媒体中で、トナーコアの表面にシェル材料の粒子(サスペンションに含まれる樹脂粒子)が付着すると考えられる。トナーコアの表面に均一にシェル材料を付着させるためには、シェル材料を含む液中にトナーコアを高度に分散させることが好ましい。液中にトナーコアを高度に分散させるためには、液中に界面活性剤を含ませることが好ましい。トナーコアがアニオン性を有する場合には、同一極性を有するアニオン界面活性剤を使用することで、トナーコアの凝集を抑制できる。界面活性剤としては、例えば、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩、又は石鹸を使用できる。界面活性剤の添加量は、後述する結晶性ポリエステル樹脂の加水分解が適切に進行する量にすることが好ましい。
続けて、上記トナーコア、シェル材料、及び界面活性剤を含む液を所定の時間(例えば、15分間以上2時間以下から選ばれる時間)攪拌する。攪拌中の液の温度は、例えば20℃以上40℃以下から選ばれる温度である。
続けて、塩基性物質(例えば、水酸化ナトリウム)を用いて、液のpHを酸性の値(詳しくは、3.0以上6.0以下)からアルカリ性の値(詳しくは、7.0超8.5以下)に変える。昇温工程の前に、液のpHを酸性の値からアルカリ性の値に変えることで、凹部の内側領域にシェル層が形成されにくくなる。
続けて、液の温度を所定の速度(例えば、0.5℃/分以上2.0℃/分以下から選ばれる速度)で昇温させる。昇温開始時の液のpHは、7.0超8.5以下である。昇温開始時の液の温度は、例えば20℃以上40℃以下から選ばれる温度である。昇温の目標温度(最終到達温度:昇温を止める温度)は、例えば60℃以上100℃以下から選ばれる温度である。
本実施形態に係るトナーの製造方法では、トナーコアが結晶性ポリエステル樹脂を含有する。アルカリ性の液の温度を昇温させることで、結晶性ポリエステル樹脂の加水分解が進行する。結晶性ポリエステル樹脂の加水分解が進行することで、トナーコアの表面に凹部が形成される。また、凹部の内側領域にはシェル層が形成されにくい。また、水性媒体中に適量の界面活性剤が存在する場合には、トナーコアの表面からの結晶性ポリエステル樹脂及び離型剤の溶出が促進されると考えられる。また、水性媒体中に適量の界面活性剤が存在することで、結晶性ポリエステル樹脂の加水分解により生成される物質が、水性媒体中に分散し易くなると考えられる。
上記昇温中に、トナーコアとシェル材料との間で反応(シェル層の固定化)が進行すると考えられる。シェル材料がトナーコアと化学的に結合することで、シェル層が形成される。トナーコアの表面(特に、凹部の外側領域)でシェル材料の粒子が2次元的に連なって、粒状感のある膜(シェル層)が形成されると考えられる。
上記昇温により液の温度が目標温度になった直後に、その液に冷水を加えて、短時間(例えば、5秒以内)で液を所定の温度(例えば、20℃以上30℃以下から選ばれる温度)まで急冷する。その結果、トナー母粒子の分散液が得られる。得られたトナー母粒子に関して、トナーコアの表面における凹部の内側領域の表面吸着力は小さい。液を急冷することで、表面吸着力の小さい物質(例えば、結晶性ポリエステル樹脂が加水分解して生成されるエステル化合物のモノマー及び/又はプレポリマー)が凹部の内側領域に残ると考えられる。
続けて、例えばブフナー漏斗を用いて、得られたトナー母粒子の分散液をろ過する。これにより、トナー母粒子が液から分離(固液分離)され、ウェットケーキ状のトナー母粒子が得られる。続けて、得られたウェットケーキ状のトナー母粒子を洗浄する。続けて、洗浄されたトナー母粒子を乾燥する。その後、必要に応じて、混合機(例えば、日本コークス工業株式会社製のFMミキサー)を用いてトナー母粒子と外添剤とを混合して、トナー母粒子の表面に外添剤を付着させてもよい。なお、乾燥工程でスプレードライヤーを用いる場合には、外添剤(例えば、シリカ粒子)の分散液をトナー母粒子に噴霧することで、乾燥工程と外添工程とを同時に行うことができる。こうして、トナー粒子を多数含むトナーが得られる。
なお、上記トナーの製造方法の内容及び順序はそれぞれ、要求されるトナーの構成又は特性等に応じて任意に変更することができる。例えば、シェル材料は、一度に液に添加されてもよいし、複数回に分けて液に添加されてもよい。外添工程の後で、トナーを篩別してもよい。また、必要のない工程は割愛してもよい。例えば、市販品をそのまま材料として用いることができる場合には、市販品を用いることで、その材料を調製する工程を割愛できる。トナーコア材料とシェル材料とはそれぞれ、前述の化合物(樹脂を合成するための各種モノマー等)に限られない。例えば、必要に応じて、前述の化合物の誘導体をトナーコア材料又はシェル材料として使用してもよいし、モノマーに代えてプレポリマーを使用してもよい。また、前述の化合物を得るために、原料として、その化合物の塩、エステル、水和物、又は無水物を使用してもよい。効率的にトナーを製造するためには、多数のトナー粒子を同時に形成することが好ましい。同時に製造されたトナー粒子は、互いに略同一の構成を有すると考えられる。
本発明の実施例について説明する。表1に、実施例又は比較例に係るトナーTA−1〜TA−6、TB−1〜TB−3、及びTC−1〜TC−4(それぞれ静電潜像現像用トナー)を示す。
以下、トナーTA−1〜TC−4の製造方法、評価方法、及び評価結果について、順に説明する。なお、誤差が生じる評価においては、誤差が十分小さくなる相当数の測定値を得て、得られた測定値の算術平均を評価値とした。また、粉体の個数平均粒子径は、何ら規定していなければ、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JSM−6700F」)を用いて測定された1次粒子の円相当径の個数平均値である。また、Tg(ガラス転移点)、Mp(融点)、及びTm(軟化点)はそれぞれ、次に示す方法で測定した。
<Tg及びMpの測定方法>
測定装置として、示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製「DSC−6220」)を用いた。測定装置を用いて試料の吸熱曲線を測定することにより、試料のTg及びMpを求めた。具体的には、試料(例えば、樹脂)15mgをアルミ皿(アルミニウム製の容器)に入れて、そのアルミ皿を測定装置の測定部にセットした。また、リファレンスとして空のアルミ皿を使用した。吸熱曲線の測定では、測定部の温度を、測定開始温度10℃から150℃まで10℃/分の速度で昇温させた(RUN1)。その後、測定部の温度を150℃から10℃まで10℃/分の速度で降温させた。続けて、測定部の温度を再び10℃から150℃まで10℃/分の速度で昇温させた(RUN2)。RUN2により、試料の吸熱曲線(縦軸:熱流(DSC信号)、横軸:温度)を得た。得られた吸熱曲線から、試料のMp及びTgを読み取った。吸熱曲線中、融解熱による最大ピーク温度が試料のMp(融点)に相当する。また、吸熱曲線中、比熱の変化点(ベースラインの外挿線と立ち下がりラインの外挿線との交点)の温度(オンセット温度)が試料のTg(ガラス転移点)に相当する。
<Tmの測定方法>
高化式フローテスター(株式会社島津製作所製「CFT−500D」)に試料(例えば、樹脂)をセットし、ダイス細孔径1mm、プランジャー荷重20kg/cm2、昇温速度6℃/分の条件で、1cm3の試料を溶融流出させて、試料のS字カーブ(横軸:温度、縦軸:ストローク)を求めた。続けて、得られたS字カーブから試料のTm(軟化点)を読み取った。得られたS字カーブにおいて、ストロークの最大値をS1とし、低温側のベースラインのストローク値をS2とすると、S字カーブ中のストロークの値が「(S1+S2)/2」となる温度が、試料のTm(軟化点)に相当する。
[トナーの製造]
(結晶性ポリエステル樹脂Aの合成)
温度計(熱電対)、脱水管、窒素導入管、及び攪拌装置を備えた容量10Lの4つ口フラスコ内に、エチレングリコール2231gと、スベリン酸5869gと、2−エチルヘキサン酸錫(II)40gと、没食子酸3gとを入れた。続けて、窒素雰囲気かつ温度180℃の条件で、フラスコ内容物を4時間反応させた。続けて、フラスコ内容物を昇温させて、温度210℃で10時間反応させた。続けて、減圧雰囲気(圧力8.3kPa)かつ温度210℃の条件で、フラスコ内容物を1時間反応させた。その結果、Tm78℃、Mp74℃の結晶性ポリエステル樹脂Aが得られた。
(非結晶性ポリエステル樹脂Aの合成)
温度計(熱電対)、脱水管、窒素導入管、及び攪拌装置を備えた容量10Lの4つ口フラスコ内に、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物370gと、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物3059gと、テレフタル酸1194gと、フマル酸286gと、2−エチルヘキサン酸錫(II)10gと、没食子酸2gとを入れた。続けて、窒素雰囲気かつ温度230℃の条件で、反応率が90質量%以上になるまで、フラスコ内容物を反応させた。反応率は、式「反応率=100×実際の反応生成水量/理論生成水量」に従って計算した。続けて、減圧雰囲気(圧力8.3kPa)で、反応生成物(樹脂)のTmが所定の温度(89℃)になるまで、フラスコ内容物を反応させた。その結果、Tm89℃、Tg50℃の非結晶性ポリエステル樹脂Aが得られた。
(非結晶性ポリエステル樹脂Bの合成)
非結晶性ポリエステル樹脂Bの合成方法は、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物370g、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物3059g、テレフタル酸1194g、及びフマル酸286gに代えて、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物1286g、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物2218g、及びテレフタル酸1603gを使用した以外は、非結晶性ポリエステル樹脂Aの合成方法と同じであった。非結晶性ポリエステル樹脂Bに関しては、Tmが111℃、Tgが69℃であった。
(非結晶性ポリエステル樹脂Cの合成)
温度計(熱電対)、脱水管、窒素導入管、及び攪拌装置を備えた容量10Lの4つ口フラスコ内に、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物4907gと、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物1942gと、フマル酸757gと、ドデシルコハク酸無水物2078gと、2−エチルヘキサン酸錫(II)30gと、没食子酸2gとを入れた。続けて、窒素雰囲気かつ温度230℃の条件で、前述の式で表される反応率が90質量%以上になるまで、フラスコ内容物を反応させた。続けて、減圧雰囲気(圧力8.3kPa)で、フラスコ内容物を1時間反応させた。続けて、無水トリメリット酸548gをフラスコ内に加えて、減圧雰囲気(圧力8.3kPa)かつ温度220℃の条件で、反応生成物(樹脂)のTmが所定の温度(127℃)になるまで、フラスコ内容物を反応させた。その結果、Tm127℃、Tg51℃の非結晶性ポリエステル樹脂Cが得られた。
(トナーコアの作製)
FMミキサー(日本コークス工業株式会社製)を用いて、第1結着樹脂(前述の手順で合成した結晶性ポリエステル樹脂A)100gと、第2結着樹脂(前述の手順で合成した非結晶性ポリエステル樹脂A)300gと、第3結着樹脂(前述の手順で合成した非結晶性ポリエステル樹脂B)100gと、第4結着樹脂(前述の手順で合成した非結晶性ポリエステル樹脂C)600gと、着色剤(山陽色素株式会社製「カラーテックス(登録商標)ブルーB1021」、成分:フタロシアニンブルー)144gと、第1離型剤(株式会社加藤洋行製「カルナウバワックス1号」、成分:カルナバワックス)12gと、第2離型剤(日油株式会社製「ニッサンエレクトール(登録商標)WEP−3」、成分:エステルワックス)48gとを、回転速度2400rpmで混合した。
続けて、得られた混合物を、2軸押出機(株式会社池貝製「PCM−30」)を用いて、材料供給速度5kg/時、軸回転速度160rpm、設定温度(シリンダー温度)100℃の条件で溶融混練した。その後、得られた混練物を冷却した。続けて、冷却された混練物を、粉砕機(ホソカワミクロン株式会社製「ロートプレックス(登録商標)16/8型」)を用いて粗粉砕した。続けて、得られた粗粉砕物を、ジェットミル(日本ニューマチック工業株式会社製「超音波ジェットミルI型」)を用いて微粉砕した。続けて、得られた微粉砕物を、分級機(日鉄鉱業株式会社製「エルボージェットEJ−LABO型」)を用いて分級した。その結果、体積中位径(D50)6.8μmのトナー母粒子が得られた。
(シェル材料の調製)
温度計及び攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコをウォーターバスにセットした。続けて、フラスコ内に、温度30℃のイオン交換水875gと、カチオン界面活性剤(花王株式会社製「コータミン(登録商標)24P」、成分:ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、固形分濃度:27質量%)75gとを入れた。その後、フラスコ内容物を攪拌しながら、ウォーターバスを用いてフラスコ内の温度を80℃に昇温させた。続けて、80℃のフラスコ内容物を攪拌しながら、2種類の液(第1の液及び第2の液)をそれぞれ5時間かけてフラスコ内に滴下した。第1の液は、スチレン12gと、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEMA)4gと、アクリル酸ブチル4gと、ジビニルベンゼン0.5gとの混合液であった。第2の液は、過硫酸カリウム0.5gをイオン交換水30gに溶かした溶液であった。
続けて、フラスコ内の温度を80℃に保ちつつ、フラスコ内容物をさらに2時間攪拌して、フラスコ内容物の重合反応を十分に進行させた。その結果、樹脂微粒子(疎水性樹脂)のサスペンションA(固形分濃度10質量%)が得られた。得られたサスペンションAに含まれる樹脂粒子に関して、個数平均粒子径は39nmであり、Tgは73℃であった。
(シェル層の形成)
温度計及び攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコをウォーターバスにセットし、フラスコ内にイオン交換水300gを入れた。その後、ウォーターバスを用いてフラスコ内の温度を30℃に保った。続けて、フラスコ内に希塩酸を加えて、フラスコ内容物のpHを4に調整した。続けて、フラスコ内にシェル材料(前述の手順で調製したサスペンションA)を所定の量(トナーTA−1〜TC−4の各々に定められた、表1に示される量)添加して、シェル材料の分散液を得た。例えば、トナーTA−1の製造では、サスペンションAを20g添加した。また、トナーTA−6の製造では、シェル材料を添加しなかった。
続けて、得られたシェル材料の分散液に、前述の手順で作製したトナーコア300gと一緒に、アニオン界面活性剤(花王株式会社製「エマール(登録商標)0」、成分:ラウリル硫酸ナトリウム)を所定の量(トナーTA−1〜TC−4の各々に定められた、表1に示される量)添加し、フラスコ内の温度を30℃に保ちつつ、フラスコ内容物を回転速度200rpmで1時間攪拌した。例えば、トナーTA−1の製造では、アニオン界面活性剤(エマール0)を1g添加した。
続けて、フラスコ内にイオン交換水300gをさらに添加した。続けて、フラスコ内に水酸化ナトリウム水溶液を加えて、フラスコ内容物のpHを所定のpH(トナーTA−1〜TC−4の各々に定められた、表1に示されるpH)に調整した。例えば、トナーTA−1の製造では、フラスコ内容物のpHを7.5に調整した。その後、フラスコ内容物を回転速度100rpmで攪拌しながら、1℃/分の速度でフラスコ内容物を昇温させた。昇温開始時において、フラスコ内容物の温度は30℃であった。また、昇温の目標温度は62℃であった。
フラスコ内容物の温度が目標温度(62℃)になった直後に、フラスコ内に冷水を入れて、フラスコ内容物を常温(約25℃)まで急冷した。その結果、トナー母粒子を含む分散液が得られた。
(洗浄)
上記のようにして得られたトナー母粒子の分散液を、ブフナー漏斗を用いてろ過(固液分離)した。その結果、ウェットケーキ状のトナー母粒子が得られた。その後、得られたウェットケーキ状のトナー母粒子をイオン交換水に再分散させた。さらに、分散とろ過とを5回繰り返して、トナー母粒子を洗浄した。
(乾燥)
続けて、洗浄されたウェットケーキ状のトナー母粒子を真空棚段乾燥機に入れて、真空度1kPaかつ温度40℃の条件で、24時間乾燥した。その結果、乾燥したトナー母粒子(粉体)が得られた。
(外添)
上記のようにして得たトナー母粒子100質量部と、乾式シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製「AEROSIL(登録商標)REA90」)1.0質量部と、導電性酸化チタン粒子(チタン工業株式会社製「EC−100」)0.5質量部とを、容量10LのFMミキサー(日本コークス工業株式会社製)を用いて5分間混合することにより、トナー母粒子の表面に外添剤(シリカ粒子及び酸化チタン粒子)を付着させた。その後、得られた粉体を、200メッシュ(目開き75μm)の篩を用いて篩別して、多数のトナー粒子を含むトナー(トナーTA−1〜TA−6、TB−1〜TB−3、及びTC−1〜TC−4)を得た。
上記のようにして得られたトナーTA−1〜TC−4に関して、露出吸着率(単位:%)を下記方法により測定した。測定結果は、表1に示している。例えばトナーTA−1では、露出吸着率(露出領域における吸着性領域の面積割合)の測定値が5.3%であった。
<露出吸着率の測定方法>
測定装置として、走査型プローブ顕微鏡(SPM)(株式会社日立ハイテクサイエンス製「多機能型ユニットAFM5200S」)を備えたSPMプローブステーション(株式会社日立ハイテクサイエンス製「NanoNaviReal」)を使用した。また、測定に先立ち、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JSM−6700F」)を用いて、試料(トナー)に含まれるトナー粒子のうち平均的なトナー粒子を選び、選ばれたトナー粒子を測定対象とした。測定範囲に露出領域(トナーコアの表面のうちシェル層で覆われていない領域)が含まれるように、視野(測定部位)を設定した。
(SPM測定条件)
・測定探針:低バネ定数シリコンカンチレバー(オリンパス株式会社製「OMCL−AC240TS−C3」、バネ定数:2N/m、共振周波数:70kHz、背面反射コート材:アルミニウム)
・測定モード:SIS−DFM(SIS:サンプリング・インテリジェント・スキャン、DFM:ダイナミック・フォース・モード)
・測定範囲(1つの視野):1μm×1μm
・解像度(Xデータ/Yデータ):256/256
温度23℃かつ湿度60%RHの環境下で、上記測定モード(SIS−DFM)により、測定対象の表面の測定範囲(XY平面:1μm×1μm)をカンチレバーで水平に走査してAFMフォースカーブを測定し、表面吸着力に関するマッピング画像を得た。AFMフォースカーブは、探針(カンチレバーの先端部)と測定対象との間の距離と、カンチレバーに働く力(たわみ量)との関係を示す曲線である。AFMフォースカーブから、測定対象の表面吸着力(カンチレバーが測定対象の表面から離れるために必要な力)が得られる。上記測定装置では、カンチレバーの押し付け力(たわみ信号)が光てこ方式で検出される。詳しくは、半導体レーザー装置がカンチレバーの背面に向けてレーザー光を照射し、カンチレバーの背面で反射したレーザー光(たわみ信号)を位置センサーが検出する。
上記のようにして得た表面吸着力に関するマッピング画像に基づいて、露出吸着率(露出領域における吸着性領域の面積割合)を求めた。詳しくは、試料(トナー)に含まれる5個のトナー粒子について、1個につき10箇所の露出吸着率を測定し、1つの試料(トナー)につき50個の測定値を得た。そして、50個の測定値の算術平均を、その試料(トナー)の評価値(露出吸着率)とした。
また、上記のようにして得られたトナーTA−1〜TC−4に関して、シェル被覆率(単位:%)を下記方法により測定した。測定結果は、表1に示している。例えばトナーTA−1では、シェル被覆率の測定値が72%であった。
<シェル被覆率の測定方法>
各試料(トナーTA−1〜TC−4)のトナー母粒子(外添前のトナー)について、シェル被覆率を測定した。詳しくは、試料(トナー)のトナー母粒子(粉体)を、常温(25℃)の大気雰囲気下で、濃度0.5質量%RuO4水溶液2mLの蒸気中に5分間暴露することで、トナー母粒子をRu染色した。そして、染色されたトナー母粒子を、電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)(日本電子株式会社製「JSM−7600F」)を用いて倍率50000倍で観察し、トナー母粒子の反射電子像を得た。トナーコアの表面のうち、シェル層で被覆されている領域は、ルテニウムに染色され易かった。
得られた反射電子像のうち、最も明るい部分の値を255、最も暗い部分の値を0として、輝度値を256分割した。そして、画像解析ソフトウェア(三谷商事株式会社製「WinROOF」)を用いて、輝度値144を基準とする2値化処理を反射電子像に対して行った。2値化処理後、トナー母粒子の反射電子像全体の面積SA(反射電子像中の全画素数に相当)と、反射電子像において輝度値が144以上である領域の面積SB(反射電子像中の輝度値144以上の画素数に相当)とを求め、下記式に従ってシェル被覆率(単位:%)を算出した。
シェル被覆率=100×面積SB/面積SA
[評価方法]
各試料(トナーTA−1〜TC−4)の評価方法は、以下のとおりである。
(耐熱保存性)
試料(トナー)3gを容量20mLのポリエチレン製容器に入れて密閉し、密閉された容器を、58℃に設定された恒温槽内に3時間静置した。その後、恒温槽から取り出したトナーを室温(約25℃)まで冷却して、評価用トナーを得た。
続けて、得られた評価用トナーを、質量既知の200メッシュ(目開き75μm)の篩に載せた。そして、評価用トナーを含む篩の質量を測定し、篩別前のトナーの質量を求めた。続けて、パウダーテスター(ホソカワミクロン株式会社製)に上記篩をセットし、パウダーテスターのマニュアルに従い、レオスタッド目盛り5の条件で30秒間、篩を振動させ、評価用トナーを篩別した。篩別後、篩を通過しなかったトナー(篩上に残留したトナー)の質量を測定した。そして、篩別前のトナーの質量と、篩別後のトナーの質量(篩を通過しなかったトナーの質量)とに基づいて、次の式に従ってトナー凝集度(単位:質量%)を求めた。
トナー凝集度=100×篩別後のトナーの質量/篩別前のトナーの質量
トナー凝集度が20質量%以下であれば○(良い)と評価し、トナー凝集度が20質量%を超えれば×(良くない)と評価した。
(低温定着性)
現像剤用キャリア(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製の「TASKalfa5550ci」用キャリア)100質量部と、試料(トナー)10質量部とを、ボールミルを用いて30分間混合して、評価用現像剤(2成分現像剤)を調製した。評価機として、Roller−Roller方式の加熱加圧型の定着器(ニップ幅8mm)を備えるプリンター(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FS−C5250DN」を改造して定着温度を変更可能にした評価機)を用いた。上述のようにして調製した評価用現像剤を評価機の現像器に投入し、試料(補給用トナー)を評価機のトナーコンテナに投入した。
上記評価機を用いて、温度23℃かつ湿度60%RHの環境下、線速200mm/秒で坪量90g/m2の紙(A4サイズの普通紙)を搬送し、搬送しながら紙に、トナー載り量1.0mg/cm2の条件で、ソリッド画像を形成した。続けて、画像が形成された紙を評価機の定着器に通した。ニップ通過時間は40m秒であった。また、定着温度の設定範囲は100℃以上200℃以下であった。詳しくは、定着器の定着温度を100℃から5℃ずつ上昇させて、トナー(ソリッド画像)を紙に定着できる最低温度(最低定着温度)を測定した。定着できたか否かは、折擦り試験(折り目のトナー剥がれ長の測定)で確認した。詳しくは、画像が形成された面が内側となるように紙を折り曲げ、布帛で覆った1kgの分銅を用いて、折り目上を5往復摩擦した。続けて、紙を広げ、紙の折り曲げ部(ソリッド画像が形成された部分)を観察した。そして、折り曲げ部のトナー剥がれの長さ(剥がれ長)を測定した。剥がれ長が1mm未満となる定着温度のうちの最低温度を、最低定着温度とした。
最低定着温度が155℃以下であれば○(良い)と評価し、最低定着温度が155℃を超えれば×(良くない)と評価した。
(耐フィルミング性)
現像剤用キャリア(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製の「TASKalfa5550ci」用キャリア)100質量部と、試料(トナー)10質量部とを、ボールミルを用いて30分間混合して、評価用現像剤(2成分現像剤)を調製した。評価機として、カラー複合機(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「TASKalfa5550ci」)を用いた。上述のようにして調製した評価用現像剤を評価機の現像器に投入し、評価機のトナーコンテナに試料(補給用トナー)を投入した。
上記評価機を用いて、温度32℃かつ湿度80%RHの環境下で、印字率5%の連続印刷を1万枚の紙(A4サイズの印刷用紙)に対して行った。連続印刷中、印刷開始から1000枚までは200枚ごとに、それ以降は1000枚ごとに、トナー載り量0.5mg/cm2の条件で、評価用紙(モンディ社製「ColorCopy(登録商標)」、A4サイズ、90g/m2)に未定着のソリッド画像を形成し、形成されたソリッド画像を目視で観察した。そして、以下の基準で試料(トナー)の耐フィルミング性を評価した。
○(良い):1万枚の連続印刷を通して、形成されたソリッド画像に画像欠陥が観察されなかった。
×(良くない):1万枚の連続印刷中のいずれかのタイミングで、形成されたソリッド画像に画像欠陥(例えば、画像ムラ)が観察された。
[評価結果]
表2に、各試料(トナーTA−1〜TC−4)の評価結果(耐フィルミング性:画像欠陥の有無、耐熱保存性:凝集度、低温定着性:最低定着温度)をまとめて示す。
トナーTA−1〜TA−3、TB−1、TB−2、TC−1、及びTC−2(実施例1〜7に係るトナー)はそれぞれ、前述の基本構成を有していた。詳しくは、実施例1〜7に係るトナーではそれぞれ、トナーコアが、結晶性ポリエステル樹脂及び離型剤を含有していた。トナーコアの表面は、シェル層で覆われている被覆領域と、シェル層で覆われていない露出領域とを含んでいた。シェル被覆率(トナーコアの表面のうち、被覆領域の面積の割合)は60%以上80%以下であった(表1中の「シェル被覆率」参照)。露出吸着率(露出領域のうち、表面吸着力が25nN以上である領域の面積の割合)は8%以下であった(表1中の「露出吸着率」参照)。
表2に示されるように、実施例1〜7に係るトナーはそれぞれ、耐熱保存性及び低温定着性に優れていた。また、表2に示されるように、実施例1〜7に係るトナーのいずれを用いて連続印刷を行った場合でも、継続的にフィルミング(現像スリーブ等に対するトナーの固着)を抑制して高画質の画像を形成し続けることができた。
トナーTC−3(比較例5に係るトナー)では、露出吸着率が高かった(表1参照)。トナーTC−3の製造では、pH調整工程において、水性媒体のpHをアルカリ性の値にしなかったことで、結晶性ポリエステル樹脂の加水分解が進行しなかったと考えられる。
トナーTC−4(比較例6に係るトナー)では、シェル被覆率が低かった(表1参照)。トナーTC−4の製造では、pH調整工程において、水性媒体のpHを強過ぎるアルカリ性の値(8.8)に調整したため、結晶性ポリエステル樹脂の加水分解だけでなく非結晶性ポリエステル樹脂の加水分解も進行し、トナーコアの表面における凹部の外側領域にシェル層が形成されにくくなったと考えられる。