以下、実施形態によるブレーキ装置について、当該ブレーキ装置を4輪自動車に搭載した場合を例に挙げ、添付図面に従って説明する。なお、図7、図9、図11、図13、図14に示す流れ図の各ステップは、それぞれ「S」という表記を用い、例えばステップ1を「S1」として示すものとする。また、実施形態では、ディスクブレーキ31の電動モータ66側を軸方向一側とし、ブレーキパッド33側を軸方向他側として説明する。
図1ないし図8は、第1の実施形態を示している。図1において、車両のボディを構成する車体1の下側(路面側)には、例えば左右の前輪2(FL,FR)と左右の後輪3(RL、RR)とからなる合計4個の車輪が設けられている。これらの前輪2および後輪3には、それぞれの車輪(各前輪2、各後輪3)と共に回転する被制動部材(回転部材)としてのディスクロータ4が設けられている。前輪2用のディスクロータ4は、液圧式のディスクブレーキ5により制動力が付与され、後輪3用のディスクロータ4は、電動駐車ブレーキ機能付の液圧式のディスクブレーキ31により制動力が付与される。これにより、各車輪(各前輪2、各後輪3)のそれぞれに対して相互に独立して制動力が付与される。
車体1のフロントボード側には、ブレーキペダル6が設けられている。ブレーキペダル6は、車両のブレーキ操作時に運転者によって踏込み操作され、この操作に基づいて各ディスクブレーキ5,31は、常用ブレーキ(サービスブレーキ)としての制動力の付与および解除が行われる。ブレーキペダル6には、ブレーキランプスイッチ、ペダルスイッチ、ペダルストロークセンサ等のブレーキ操作検出センサ(ブレーキセンサ)6Aが設けられている。ブレーキ操作検出センサ6Aは、ブレーキペダル6の踏込み操作の有無、または、その操作量を検出し、その検出信号を液圧供給装置用コントローラ13に出力する。ブレーキ操作検出センサ6Aの検出信号は、例えば、車両データバス16、または、液圧供給装置用コントローラ13と駐車ブレーキ制御装置19とを接続する信号線(図示せず)を介して伝送される(駐車ブレーキ制御装置19に出力される)。
ブレーキペダル6の踏込み操作は、倍力装置7を介して、油圧源として機能するマスタシリンダ8に伝達される。倍力装置7は、ブレーキペダル6とマスタシリンダ8との間に設けられた負圧ブースタまたは電動ブースタとして構成され、ブレーキペダル6の踏込み操作時に踏力を増力してマスタシリンダ8に伝える。このとき、マスタシリンダ8は、マスタリザーバ9から供給されるブレーキ液により液圧を発生させる。マスタリザーバ9は、ブレーキ液が収容された作動液タンクにより構成されている。ブレーキペダル6により液圧を発生する機構は、上記の構成に限られるものではなく、ブレーキペダル6の操作に応じて液圧を発生する機構、例えば、ブレーキバイワイヤ方式の機構等であってもよい。
マスタシリンダ8内に発生した液圧は、例えば一対のシリンダ側液圧配管10A,10Bを介して、液圧供給装置11(以下、ESC11という)に送られる。ESC11は、各ディスクブレーキ5,31とマスタシリンダ8との間に配置され、マスタシリンダ8からの液圧をブレーキ側配管部12A,12B,12C,12Dを介して各ディスクブレーキ5,31に分配する。これにより、車輪(各前輪2、各後輪3)のそれぞれに対して相互に独立して制動力を付与する。この場合、ESC11は、ブレーキペダル6の操作量に従わない態様でも、各ディスクブレーキ5,31に液圧を供給すること、即ち、各ディスクブレーキ5,31の液圧を高めることができる。
このために、ESC11は、例えばマイクロコンピュータ等によって構成される専用の制御装置、即ち、液圧供給装置用コントローラ13(以下、コントロールユニット13という)を有している。コントロールユニット13は、ESC11の各制御弁(図示せず)を開,閉したり、液圧ポンプ用の電動モータ(図示せず)を回転,停止させたりする駆動制御を行うことにより、ブレーキ側配管部12A〜12Dから各ディスクブレーキ5,31に供給されるブレーキ液圧を増圧、減圧または保持する制御を行う。これにより、種々のブレーキ制御、例えば、倍力制御、制動力分配制御、ブレーキアシスト制御、アンチロックブレーキ制御(ABS)、トラクション制御、車両安定化制御(横滑り防止を含む)、坂道発進補助制御、自動運転制御等が実行される。
コントロールユニット13には、バッテリ14からの電力が電源ライン15を通じて給電される。図1に示すように、コントロールユニット13は、車両データバス16に接続されている。なお、ESC11の代わりに、公知のABSユニットを用いることも可能である。さらに、ESC11を設けずに(即ち、省略し)、マスタシリンダ8とブレーキ側配管部12A〜12Dとを直接的に接続することも可能である。
車両データバス16は、車体1に搭載されたシリアル通信部としてのCAN(Controller Area Network)を構成しており、車両に搭載された多数の電子機器、コントロールユニット13および駐車ブレーキ制御装置19等との間で車両内での多重通信を行う。この場合、車両データバス16に送られる車両情報としては、例えば、ブレーキ操作検出センサ6A、マスタシリンダ液圧(ブレーキ液圧)を検出する圧力センサ17、イグニッションスイッチ、シートベルトセンサ、ドアロックセンサ、ドア開センサ、着座センサ、車速センサ、操舵角センサ、アクセルセンサ(アクセル操作センサ)、スロットルセンサ、エンジン回転センサ、ステレオカメラ、ミリ波レーダ、勾配センサ、シフトセンサ、加速度センサ、車輪速センサ、車両のピッチ方向の動きを検知するピッチセンサ等からの検出信号による情報(車両情報)が挙げられる。
車体1内には、運転席(図示せず)の近傍に駐車ブレーキスイッチ(PKBSW)18が設けられる。駐車ブレーキスイッチ18は運転者によって操作される。駐車ブレーキスイッチ18は、運転者からの駐車ブレーキの作動要求(アプライ要求、リリース要求)に対応する信号(作動要求信号)を、駐車ブレーキ制御装置19へ伝達する。即ち、駐車ブレーキスイッチ18は、電動モータ66の駆動(回転)に基づいてブレーキパッド33(図2参照)をアプライ作動またはリリース作動させるための信号(アプライ要求信号、リリース要求信号)を、コントロールユニット(コントローラ)となる駐車ブレーキ制御装置19に出力する。
運転者により駐車ブレーキスイッチ18が制動側(駐車ブレーキON側)に操作されたとき、即ち、車両に制動力を与えるためのアプライ要求(保持要求、駆動要求)があったときは、駐車ブレーキスイッチ18からアプライ要求信号が出力される。この場合は、駐車ブレーキ制御装置19を介して後輪3用のディスクブレーキ31に、電動モータ66を制動側に回転させるための電力が給電される。これにより、後輪3用のディスクブレーキ31は、駐車ブレーキ(ないし補助ブレーキ)としての制動力が付与された状態、即ち、アプライ状態となる。
一方、運転者により駐車ブレーキスイッチ18が制動解除側(駐車ブレーキOFF側)に操作されたとき、即ち、車両の制動力を解除するためのリリース要求(解除要求)があったときは、駐車ブレーキスイッチ18からリリース要求信号が出力される。この場合は、駐車ブレーキ制御装置19を介してディスクブレーキ31に、電動モータ66を制動側とは逆方向に回転させるための電力が給電される。これにより、後輪3用のディスクブレーキ31は、駐車ブレーキ(ないし補助ブレーキ)としての制動力の付与が解除された状態、即ち、リリース状態となる。
駐車ブレーキは、例えば車両が所定時間停止したとき(例えば、走行中に減速に伴って、車速センサの検出速度が4km/h未満の状態が所定時間継続したときに停止と判断)、エンジンが停止したとき、シフトレバーをPに操作したとき、ドアが開いたとき、シートベルトが解除されたとき等、駐車ブレーキ制御装置19での駐車ブレーキのアプライ判断ロジックによる自動的なアプライ要求に基づいて、自動的に付与(オートアプライ)する構成とすることができる。また、駐車ブレーキは、例えば車両が走行したとき(例えば、停車から増速に伴って、車速センサの検出速度が5km/h以上の状態が所定時間継続したときに走行と判断)や、アクセルペダルが操作されたとき、クラッチペダルが操作されたとき、シフトレバーがP、N以外に操作されたとき等、駐車ブレーキ制御装置19での駐車ブレーキのリリース判断ロジックによる自動的なリリース要求に基づいて、自動的に解除(オートリリース)する構成とすることができる。
さらに、車両の走行時に駐車ブレーキスイッチ18によるアプライ要求があった場合、より具体的には、走行中に緊急的に駐車ブレーキを補助ブレーキとして用いる等の動的駐車ブレーキ(動的アプライ)の要求があった場合に、駐車ブレーキ制御装置19により、車輪(各後輪3)の状態、即ち、車輪がロック(スリップ)しているか否かに応じて、自動的に制動力の付与と解除(ABS制御)を行う構成とすることもできる。
次に、左右の後輪3,3側に設けられる電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31,31の構成について、図2を参照しつつ説明する。なお、図2では、左右の後輪3,3に対応してそれぞれ設けられた左右のディスクブレーキ31,31のうちの一方のみを代表例として示している。
車両の左右にそれぞれ設けられた一対のディスクブレーキ31は、電動式の駐車ブレーキ機能が付設された液圧式のディスクブレーキとして構成されている。ディスクブレーキ31は、駐車ブレーキ制御装置19と共にブレーキシステム(ブレーキ装置)を構成する。ディスクブレーキ31は、車両の後輪3側の非回転部分に取付けられる取付部材32と、制動部材(摩擦部材、パッド)としてのインナ側,アウタ側のブレーキパッド33と、電動アクチュエータ65が設けられたブレーキ機構としてのキャリパ34とを含んで構成されている。
この場合、ディスクブレーキ31は、ブレーキペダル6の操作等に基づく液圧によりキャリパ本体35のシリンダ部36内でピストン39を推進することにより、ブレーキパッド33をディスクロータ4に押圧し、車輪(後輪3)に制動力を付与する。これに加えて、ディスクブレーキ31は、駐車ブレーキスイッチ18からの信号等に基づく駐車ブレーキ制御装置19からの作動要求に応じても作動される。このとき、ディスクブレーキ31は、後述の電動アクチュエータ65(電動モータ66)により回転直動変換機構43を介してピストン39を推進させ、ブレーキパッド33をディスクロータ4に押圧することにより車輪(後輪3)に制動力を付与する。
取付部材32は、ディスクロータ4の外周を跨ぐようにディスクロータ4の軸方向(即ち、ディスク軸方向)に延び、ディスク周方向で互いに離間した一対の腕部(図示せず)と、該各腕部の基端側を一体的に連結するように設けられ、ディスクロータ4のインナ側となる位置で車両の非回転部分に固定される厚肉の支承部32Aと、ディスクロータ4のアウタ側となる位置で前記各腕部の先端側を互いに連結する補強ビーム32Bとを含んで構成されている。
インナ側,アウタ側のブレーキパッド33は、ディスクロータ4の両面に当接可能に配置され、取付部材32の各腕部によりディスク軸方向に移動可能に支持されている。インナ側,アウタ側のブレーキパッド33は、キャリパ34(キャリパ本体35の爪部38とピストン39)によりディスクロータ4の両面側に押圧される。これにより、各ブレーキパッド33は、車輪(後輪3)と共に回転するディスクロータ4を両側から挟持(押圧)して車両に制動力を発生させる。
取付部材32には、ディスクロータ4の外周側を跨ぐようにホイールシリンダとしてのキャリパ34が配置されている。キャリパ34は、取付部材32の各腕部に対してディスクロータ4の軸方向に沿って移動可能に支持されたキャリパ本体35と、このキャリパ本体35内に摺動可能に挿嵌して設けられたピストン39と、後述の回転直動変換機構43および電動アクチュエータ65等とを備えている。キャリパ34は、ブレーキペダル6の操作に基づいてマスタシリンダ8に発生する液圧によりピストン39を作動させる。このとき、ピストン39は、ブレーキパッド33と一緒にディスクロータ4に向けて、またはディスクロータ4から遠ざかる方向に移動される。
キャリパ本体35は、インナ側のシリンダ部36とブリッジ部37とアウタ側の爪部38とを備えている。インナ側のシリンダ部36は、軸方向の一側が隔壁部36Aによって閉塞され、ディスクロータ4に対向する軸方向の他側が開口された有底円筒状に形成されている。ブリッジ部37は、ディスクロータ4の外周側を跨ぐように該シリンダ部36からディスク軸方向に延びて形成されている。アウタ側の爪部38は、シリンダ部36と反対側においてブリッジ部37から径方向内側に向けて延びるように配置されている。
キャリパ本体35のシリンダ部36(即ち、後述の液圧室40)内には、図1に示すブレーキ側配管部12Cまたは12Dを介してブレーキペダル6の踏込み操作等に伴う液圧が供給される。シリンダ部36には、その奥所側(軸線方向の一方側)と電動アクチュエータ65との間に位置して隔壁部36Aが一体に形成されている。シリンダ部36の隔壁部36Aは、軸線方向の貫通穴36Bを有しており、貫通穴36Bの内側には、後述するベースナット44の軸部44Aが回転可能に挿入されている。
ピストン39は、キャリパ本体35のシリンダ部36内に設けられている。このピストン39は、底部39Aと筒部39Bとからなる有底カップ状に形成されている。ピストン39は、シリンダ部36内に軸方向に摺動変可能に挿嵌され、該ピストン39の底部39Aは、インナ側のブレーキパッド33に対面している。また、筒部39Bの内周面には、軸方向に延びる回転規制用溝39Cが周方向に離間して複数本形成されている。
シリンダ部36の隔壁部36Aとピストン39との間には液圧室40が画成され、この液圧室40はピストンシール41によりシールされている。液圧室40内には、シリンダ部36に設けた給排ポート(図示せず)を介してマスタシリンダ8からの液圧が供給される。ピストン39の底部39Aの外周面とシリンダ部36の開口側内周面との間には、シリンダ部36内への異物の侵入を防ぐためにダストブーツ42が介装されている。
ピストン39の内部には、回転直動変換機構43が配置されている。具体的には、回転直動変換機構43は、キャリパ本体35のシリンダ部36とピストン39との間で液圧室40内に位置して設けられている。この回転直動変換機構43は、後述の電動アクチュエータ65による回転運動を直線運動(以下、直動という)に変換する。これにより、回転直動変換機構43は、ピストン39に軸方向の推力を付与すると共に、ピストン39を制動位置で保持する機能等を有している。
そして、回転直動変換機構43は、電動モータ66の回転運動が伝達される回動部材(ベースナット44)と、該回動部材にねじ嵌合されて該回動部材に対して軸方向に相対移動することによりピストン39を移動させる直動部材50(プッシュロッド51、ボールアンドランプ機構53、回転部材54、環状押圧プレート56、筒状リテーナ58、付勢ばね59)とを有している。
次に、回転直動変換機構43を構成する回動部材について説明する。
ベースナット44は、電動モータ66の回転をプッシュロッド51側に伝達するものである。このベースナット44は、本発明の回動部材を構成している。即ち、ベースナット44は、電動アクチュエータ65により正,逆方向に回転駆動される。そして、ベースナット44は、軸方向一側(基端側)に設けられた軸部44Aと、軸方向他側に設けられた筒状ナット部44Bと、軸部44Aと筒状ナット部44Bとの間に設けられ、シリンダ部36の隔壁部36Aと対面するフランジ部44Cとを有している。
ベースナット44の軸部44Aは、スラストベアリング45、ワッシャ46を貫通して、シリンダ部36の貫通穴36B内に挿入されている。ベースナット44は、キャリパ本体35に対し、スラストベアリング45、ワッシャ46、シール部材47、スリーブ48を介して回転可能に支持されている。スラストベアリング45とワッシャ46とは、その外径寸法がベースナット44のフランジ部44Cの外径寸法とほぼ同様に形成されている。そして、スラストベアリング45とワッシャ46とは、シリンダ部36の隔壁部36Aとフランジ部44Cとの間に配置されている。これにより、スラストベアリング45とワッシャ46とは、ベースナット44(筒状ナット部44B)に働くスラスト荷重を隔壁部36Aと共に受承し、隔壁部36Aに対するベースナット44の回転を円滑にしている。
また、軸部44Aには、環状溝44A1が形成されている。この環状溝44A1に止め輪49を嵌合させることにより、ベースナット44は、シリンダ部36の軸方向への移動が規制されている。そして、液圧室40は、貫通穴36Bと軸部44Aとの間に設けられたシール部材47とスリーブ48とにより、液密性が確保されている。
図5に示すように、ベースナット44の筒状ナット部44Bは、大径円筒部44B1と小径円筒部44B2とにより段付状に形成されている。大径円筒部44B1の外周面と小径円筒部44B2の外周面との境界部には、大径円筒部44B1から軸方向他側(小径円筒部44B2側)に向けて突出する複数個(例えば、12個)の回動側突起部44Dが形成されている。各回動側突起部44Dは、先端側がR状に湾曲した山形状(凸湾曲状)に形成されている。また、互いに隣合う回動側突起部44D間は、凹湾曲状に形成された回動側凹部44Eとなっている。即ち、大径円筒部44B1の軸方向他側は、回動側突起部44Dと回動側凹部44Eとにより周方向に亘って連続した波形状となっている。
一方、小径円筒部44B2の内周面には、プッシュロッド51の外周面に螺合(ねじ嵌合)する雌ねじ部44Fが形成されている。従って、雌ねじ部44Fの底部は、プッシュロッド51の後退限となっている。また、小径円筒部44B2の軸方向他側には、軸方向に延びる係止溝部44Gが周方向に離間して複数個(例えば、4個)形成されている。この係止溝部44Gには、後述の第1スプリングクラッチ63の先端側が係止される。
次に、回転直動変換機構43を構成する直動部材50について説明する。
直動部材50は、ピストン39内に配設されたものである。この直動部材50は、ベースナット44にねじ嵌合されて、ベースナット44に対して軸方向に相対移動することによりピストン39を移動させる。そして、直動部材50は、プッシュロッド51、ボールアンドランプ機構53、回転部材54、環状押圧プレート56、筒状リテーナ58、付勢ばね59を含んで構成されている。
プッシュロッド51は、ベースナット44の筒状ナット部44Bにねじ嵌合され、キャリパ本体35に対して回転可能でかつ直動可能に支持される段付ボルトからなるシャフト部材として構成されている。プッシュロッド51は、軸方向一側に位置しベースナット44の筒状ナット部44Bに螺合(ねじ嵌合)される第1の雄ねじ部51Aと、軸方向他側(先端側)に位置し後述の回転直動ランプ53Bに螺合(ねじ嵌合)される第2の雄ねじ部51Bとにより構成されている。第1の雄ねじ部51Aは、第2の雄ねじ部51Bよりも大径なボルト形状に形成されている。また、第2の雄ねじ部51Bの先端側(軸方向他側)は、第2の雄ねじ部51Bの先端側に一体的に固定された抜止リング52を介して回転直動ランプ53B内に位置している。
プッシュロッド51の雄ねじ部51A,51Bは、ピストン39から回転直動ランプ53Bへ伝達される軸方向荷重(即ち、制動時におけるディスクロータ4からの押圧反力に基づく荷重)によってプッシュロッド51が逆方向に回転しないように、さらに、前記押圧反力によりベースナット44がプッシュロッド51を介して逆方向に回転しないようなねじ形状を有し、不可逆性が大きいねじ嵌合部として構成されている。
ボールアンドランプ機構53は、回転部材54の他端側にスラストベアリング55を挟んで配置された固定ランプ53Aと、プッシュロッド51の第2の雄ねじ部51Bにねじ嵌合され固定ランプ53Aに対して相対回転する回転直動ランプ53Bと、固定ランプ53Aと回転直動ランプ53Bとの間に介装された複数のボール53Cとを含んで構成されている。
固定ランプ53Aには、径方向外側に向けて突出する突起53A1が周方向に離間して複数個(例えば、3個)設けられている。突起53A1は、後述の筒状リテーナ58の幅広係止溝部58C2に係合すると共に、ピストン39の回転規制用溝39Cに係合する。これにより、固定ランプ53Aは、ピストン39と筒状リテーナ58に対して回転不能かつ軸方向に移動可能となっている。
回転直動ランプ53Bは、プッシュロッド51の第2の雄ねじ部51Bにねじ嵌合している。これにより、ボールアンドランプ機構53は、プッシュロッド51の回転により軸方向の変位(推力)が付与され、この推力を環状押圧プレート56を介してピストン39へと伝える。
ここで、回転部材54は、プッシュロッド51の雄ねじ部51A,51B間に位置する外周面にスプライン結合され、プッシュロッド51と一体に回転すると共に、軸方向には相対変位できる構成となっている。環状押圧プレート56は、ボールアンドランプ機構53の回転直動ランプ53Bにスラストベアリング57を介して相対回転可能に支持されている。環状押圧プレート56は、固定ランプ53Aと同様にピストン39の内周面に廻止め状態で取付けられ、軸方向には相対移動可能となっている。また、環状押圧プレート56は、後述の筒状リテーナ58の軸方向他側を閉塞している。即ち、環状押圧プレート56は、筒状リテーナ58内に配設されたボールアンドランプ機構53や回転部材54等の軸方向他側への抜止めをする蓋部材として構成されている。
ボールアンドランプ機構53の回転直動ランプ53Bは、ベースナット44を介したプッシュロッド51の回転により回転部材54と環状押圧プレート56との間でスラストベアリング55,57を介して相対回転し、第2の雄ねじ部51Bのリード角およびランプ角に応じた軸方向推力を環状押圧プレート56に付与する。環状押圧プレート56は、その軸方向端面(他側端面)がピストン39の底部39Aの内側面(一側端面)に対向して配置され、ボールアンドランプ機構53からの前記推力によりピストン39の底部39Aに当接すると共に、この状態でピストン39をブレーキパッド33と一緒にディスクロータ4に向けて押圧し、駐車ブレーキとして作動する。
また、ボールアンドランプ機構53の各ボール53Cは、回転直動ランプ53Bと固定ランプ53Aとに予め決められたランプ角(傾斜角)をもって夫々形成されたボール溝内に転動可能に配置され、この状態で各ボール53Cは、固定ランプ53Aと回転直動ランプ53Bとの間に挟持されている。このときの挟持力は、後述の付勢ばね59によるばね力等で発生する。
ここで、ボールアンドランプ機構53は、プッシュロッド51の回転によって回転直動ランプ53Bに回転トルクが加えられると、固定ランプ53Aと回転直動ランプ53Bとが相対回転し、両者の間で各ボール53Cが夫々のボール溝に沿って転動する。このため、回転直動ランプ53Bが固定ランプ53Aに対して相対回転することにより、ボールアンドランプ機構53は、回転直動ランプ53Bと固定ランプ53Aとの間で前記ランプ角により軸方向の相対距離が変動する。このような相対距離の変動によっても、環状押圧プレート56からピストン39に対して軸方向の推力を付与することができる。
筒状リテーナ58は、ピストン39の筒部39Bの内周面とベースナット44の筒状ナット部44Bとの間で軸方向に移動可能に取付けられている。この筒状リテーナ58は、本発明による直動部材を構成している。そして、筒状リテーナ58は、筒部58Aと、該筒部58Aの軸方向一側から内側に向けて折曲げられた環状の環状底部58Bとにより構成されている。
図5に示すように、筒部58Aには、軸方向他側の端面から軸方向一側に向けて延びる係止溝58Cが周方向に離間して複数本(例えば、3本)形成されている。この係止溝58Cは、軸方向の一側に位置する幅狭係止溝部58C1と、軸方向の他側に位置する幅広係止溝部58C2とにより構成されている。幅狭係止溝部58C1には、後述の支持プレート62の突起62Aと第2スプリングクラッチ64の先端側が係合される。一方、幅広係止溝部58C2には、固定ランプ53Aの突起53A1が係止される。これにより、筒状リテーナ58は、ピストン39に対して固定ランプ53Aと一緒に廻止めされ回転不能となっている。
筒部58Aの軸方向他側の端面には、周方向に離間して複数個の爪部58Dが設けられている。この爪部58Dは、環状押圧プレート56を係止するものである。具体的には、筒部58A内に付勢ばね59、回転部材54、ボールアンドランプ機構53等を収容した状態で、筒部58Aの軸方向他側の開口を環状押圧プレート56により閉塞する。そして、爪部58Dを径方向内側に向けて折曲げて環状押圧プレート56に係合させる。これにより、筒状リテーナ58は、筒部58A内に付勢ばね59、回転部材54、ボールアンドランプ機構53等を一体的に配設している。
環状底部58Bには、中央部に軸方向に貫通する貫通孔58B1が形成されている。この貫通孔58B1の孔径は、ベースナット44の小径円筒部44B2の外径寸法よりも大きく、かつ大径円筒部44B1の外径寸法よりも小さく形成されている。これにより、貫通孔58B1には、ベースナット44の小径円筒部44B2と共にプッシュロッド51も挿通させることができる。そして、筒状リテーナ58は、ベースナット44に対して軸方向に移動可能となっている。
直動側突起部58Eは、環状底部58Bから軸方向一側(ベースナット44側)に向けて突出したもので、環状底部58Bの周方向に離間して複数個(例えば、3個)設けられている。各直動側突起部58Eは、ベースナット44の回動側突起部44Dに対応した位置に設けられている。具体的には、回動側突起部44Dと直動側突起部58Eとは、筒状リテーナ58が後退限に近づいたとき、即ち筒状リテーナ58が軸方向他側に移動して環状底部58Bが回動側突起部44Dに近付いたとき(リリース方向にフル戻しするとき)に、回動側突起部44Dと直動側突起部58Eとが互いに接触する位置に配置されている。
各直動側突起部58Eは、先端側がR状に湾曲した山形状(凸湾曲状)に形成されている。従って、回転しているベースナット44に筒状リテーナ58が近づいたときに、各直動側突起部58Eは回動側突起部44Dを円滑に乗り越えることができる。この場合、ベースナット44に設けられた回動側突起部44Dは、3個の直動側突起部58Eの整数倍である12個設けられている。これにより、各直動側突起部58Eは、同時に回動側突起部44Dを乗り越えることができる。
従って、リリース時に筒状リテーナ58が後退限に近づいたときに、筒状リテーナ58は、軸方向一側と軸方向他側との移動を繰り返すことになる。具体的には、筒状リテーナ58の直動側突起部58Eがベースナット44の回動側凹部44Eから回動側突起部44Dに向けて移動しているときには、筒状リテーナ58は、付勢ばね59の付勢力に抗して軸方向他側に向けて移動する。一方、筒状リテーナ58の直動側突起部58Eがベースナット44の回動側突起部44Dから回動側凹部44Eに向けて移動しているときには、筒状リテーナ58は、付勢ばね59の付勢力により軸方向一側に向けて移動する。
付勢ばね59は、筒状リテーナ58の内周側とベースナット44の筒状ナット部44Bとの間に設けられたものである。この付勢ばね59は、筒状ナット部44Bと筒状リテーナ58との間を周方向と軸方向へと螺旋状に延びるコイルばねを用いて構成されている。付勢ばね59は、一端側がワッシャ60を介して筒状リテーナ58の環状底部58Bに支持され、他端側がワッシャ61と支持プレート62を介して回転部材54に支持されている。付勢ばね59は、回転部材54と筒状リテーナ58とを互いに逆向き(離れる方向に)付勢し、この付勢力により、ボールアンドランプ機構53の固定ランプ53Aを、回転直動ランプ53B(各ボール53C)側に向けて軸方向に押圧する。
支持プレート62には、径方向外側に向けて突出する突起62Aが筒状リテーナ58に形成された幅狭係止溝部58C1に対応する位置に設けられている。支持プレート62は、突起62Aが幅狭係止溝部58C1に係合することにより、筒状リテーナ58に支持される。これにより、支持プレート62は、筒状リテーナ58に対して相対回転不能、かつ軸方向に移動可能となっている。
第1スプリングクラッチ63は、プッシュロッド51の第1の雄ねじ部51Aの軸方向他側に巻き付けられたものである。また、第1スプリングクラッチ63の先端側は、ベースナット44の係止溝部44Gのいずれかに係合している。第1スプリングクラッチ63は、ベースナット44とプッシュロッド51との間で一方向クラッチとして機能するものである。
即ち、第1スプリングクラッチ63は、プッシュロッド51がベースナット44に対してピストン39の底部39A側に移動するときのアプライ方向の回転(即ち、駐車ブレーキを作動するアプライ時の相対回転)を許容する。しかし、これとは逆向きに、プッシュロッド51がベースナット44に対してシリンダ部36の隔壁部36A側へ移動するときのリリース方向の回転(即ち、駐車ブレーキを解除するリリース時の相対回転)に対して、第1スプリングクラッチ63は回転抵抗トルクを付与し、プッシュロッド51がベースナット44に対して相対回転するのを抑えるものである。
第2スプリングクラッチ64は、回転部材54の外周側に巻き付けられたものである。また、第2スプリングクラッチ64の先端側は、支持プレート62の突起62Aよりも軸方向他側に位置して筒状リテーナ58の幅狭係止溝部58C1のいずれかに係合している。第2スプリングクラッチ64は、第1スプリングクラッチ63とは逆方向の一方向クラッチとして機能するものである。
即ち、第2スプリングクラッチ64は、回転部材54とプッシュロッド51とが筒状リテーナ58に対してリリース方向(即ち、シリンダ部36の隔壁部36A側に移動するときの回転方向)に相対回転するのを許容する。しかし、第2スプリングクラッチ64は、回転部材54とプッシュロッド51とが筒状リテーナ58に対してアプライ方向(即ち、ピストン39の底部39A側へ移動するときの回転方向)に相対回転するのを、両者間に回転抵抗トルクを付与して抑える構成となっている。
ここで、駐車ブレーキのアプライ時における第2スプリングクラッチ64による回転抵抗トルクは、プッシュロッド51の第1の雄ねじ部51Aとベースナット44の筒状ナット部44Bとの間に生じる回転抵抗トルクよりも大きくなるように設定されている。即ち、駐車ブレーキを作動させるアプライ時には、プッシュロッド51とボールアンドランプ機構53との間の相対回転(プッシュロッド51に対する回転直動ランプ53Bの相対回転=軸方向変位)よりも、先にベースナット44とプッシュロッド51との間で相対回転(ベースナット44に対するプッシュロッド51の相対回転=軸方向変位)が生じるように、アプライ時の回転抵抗トルクは設定されている。
一方、駐車ブレーキのリリース時におけるプッシュロッド51の第2の雄ねじ部51Bとボールアンドランプ機構53の回転直動ランプ53Bとの間に生じる回転抵抗トルクは、ベースナット44とプッシュロッド51との間の第1スプリングクラッチ63による回転抵抗トルクに、筒状ナット部44Bと第1の雄ねじ部51Aとの間のねじ嵌合部における回転抵抗を加えたトルクよりも小さくなるように設定されている。即ち、駐車ブレーキのリリース時には、ベースナット44とプッシュロッド51との間の相対回転(軸方向変位)よりも先に、プッシュロッド51とボールアンドランプ機構53(回転直動ランプ53B)との間で相対回転(軸方向変位)が生じるように、リリース時の回転抵抗トルクは設定されている。
電動アクチュエータ65は、例えば隔壁部36Aの外側に位置してキャリパ本体35のシリンダ部36に設けられている。電動アクチュエータ65は、アクチュエータハウジング65Aを有し、該アクチュエータハウジング65Aは、隔壁部36Aの外周側にシリンダ部36の軸方向一側から嵌合して取付けられている。電動アクチュエータ65のアクチュエータハウジング65A内には、電動モータ66と減速機(図示せず)とが設けられている。電動モータ66は、本発明によるモータを構成するものである。
ここで、前記減速機は、駐車ブレーキとしての作動に必要なトルク(以下、所要トルクという)の回転をベースナット44の軸部44Aに伝えるため、電動モータ66の回転を1段または複数段で減速する構成となっている。これにより、ベースナット44の軸部44Aは、筒状ナット部44Bからプッシュロッド51の第1の雄ねじ部51Aへと所要トルクの回転を伝え、両者間のねじ嵌合部によりプッシュロッド51をベースナット44の筒状ナット部44Bに対して軸方向に駆動する。また、プッシュロッド51の第2の雄ねじ部51Bは、ボールアンドランプ機構53の回転直動ランプ53Bを介して環状押圧プレート56からピストン39の底部39Aに向けた軸方向の推力(押圧力)を発生させる。
なお、前輪2用のディスクブレーキ5は、駐車ブレーキ機構を除いて、後輪3用のディスクブレーキ31とほぼ同様に構成されている。即ち、前輪2用のディスクブレーキ5は、後輪3用のディスクブレーキ31が備える、駐車ブレーキとして作動する回転直動変換機構43および電動アクチュエータ65等を備えていない。しかし、ディスクブレーキ5に代えて、前輪2用に電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31を設けられてもよい。
なお、実施形態では、電動アクチュエータ65を有する液圧式のディスクブレーキ31を例に挙げて説明した。しかし、例えば、電動キャリパを有する電動式ディスクブレーキ、電動アクチュエータによりシューをドラムに押付けて制動力を付与する電動式ドラムブレーキ、電動ドラム式の駐車ブレーキを有するディスクブレーキ、電動アクチュエータでケーブルを引っ張ることにより駐車ブレーキをアプライ作動させる構成等、電動アクチューエータ(電動モータ)の駆動に基づいて制動部材(パッド、シュー)を被制動部材(ロータ、ドラム)に押圧(推進)し、その押圧力を保持させることができるブレーキ機構であれば、その構成は、上述の実施形態のブレーキ機構でなくともよい。
実施形態のディスクブレーキ31は、上述の如き構成を有するもので、次に、後輪3側に設けられた電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31の作動について説明する。まず、ブレーキペダル6の操作によりディスクブレーキ31が通常の液圧ブレーキ(サービスブレーキ)として作動される制動時の動作を説明する。
車両の運転者によりブレーキペダル6が踏込み操作されると、ブレーキペダル6の操作量または踏力に応じた液圧がマスタシリンダ8から一対のシリンダ側液圧配管10A,10Bを介して液圧供給装置であるESC11に送られ、この液圧はESC11からブレーキ側配管部12A,12B,12C,12Dを介して各ディスクブレーキ5,31に分配して供給される。これにより、車輪(各前輪2、各後輪3)のそれぞれに対して相互に独立して制動力が付与される。
図2に示すように、ディスクブレーキ31のキャリパ34内では、シリンダ部36の液圧室40に液圧が供給されると、ピストン39がピストンシール41を弾性変形させながら非制動時の初期位置から前進(図2中の左方向に移動)してインナ側のブレーキパッド33をディスクロータ4に押付ける。そして、キャリパ本体35は、ピストン39の押圧反力により取付部材32に対して図2中の右方向に移動し、爪部38に当接しているアウタ側のブレーキパッド33をディスクロータ4に押付ける。この結果、ディスクロータ4が一対のブレーキパッド33間で挟持され、このときの摩擦力により車両に制動力が発生する。
次に、運転者がブレーキペダル6の操作を解除(解放)すると、マスタシリンダ8からの液圧供給が断たれるので、ディスクブレーキ31のキャリパ34側ではシリンダ部36の液圧室40内の液圧が低下する。これにより、ピストン39は、ピストンシール41の弾性変形の復元力によってシリンダ部36内の初期位置まで後退して制動力が解除される。なお、インナ側,アウタ側のブレーキパッド33の摩耗に伴ってピストン39の移動量が増大し、ピストンシール41の弾性変形の限界を越えると、ピストン39とピストンシール41との間には滑りが生じる。この滑りによってキャリパ本体35のシリンダ部36に対するピストン39の初期位置が移動する。
次に、ディスクブレーキ31の電動モータ66への電流供給を制御する駐車ブレーキ制御装置19について、図6を参照しつつ説明する。
制御部としての駐車ブレーキ制御装置19は、左右一対のディスクブレーキ31,31と共に電動ブレーキシステム(ブレーキ装置)を構成する。駐車ブレーキ制御装置19は、マイクロコンピュータ等によって構成される演算回路(CPU)20を有し、駐車ブレーキ制御装置19には、バッテリ14からの電力が電源ライン15を通じて給電される。
駐車ブレーキ制御装置19は、左後輪3側と右後輪3側のディスクブレーキ31,31の電動モータ66,66への電流供給を制御し、車両の駐車、停車時(必要に応じて走行時)に制動力(駐車ブレーキ、補助ブレーキ)を発生させる。即ち、駐車ブレーキ制御装置19は、左右の電動モータ66,66を駆動することにより、ディスクブレーキ31,31を駐車ブレーキ(必要に応じて補助ブレーキ)として作動(アプライ・リリース)させる。このために、図1、図2、図6に示すように、駐車ブレーキ制御装置19は、入力側が駐車ブレーキスイッチ18に接続され、出力側は各ディスクブレーキ31,31の電動モータ66,66に接続されている。
駐車ブレーキ制御装置19は、運転者の駐車ブレーキスイッチ18の操作による作動要求(アプライ要求、リリース要求)、駐車ブレーキのアプライ・リリースの判断ロジックによる作動要求、ABS制御による作動要求に基づいて、左右の電動モータ66,66を駆動し、左右のディスクブレーキ31,31のアプライ(保持)またはリリース(解除)を行う。このとき、各ディスクブレーキ31,31では、各電動モータ66の駆動に基づいて、回転直動変換機構43によるピストン39およびブレーキパッド33の保持または解除が行われる。
図6に示すように、駐車ブレーキ制御装置19の演算回路(CPU)20には、記憶部としてのメモリ21に加えて、駐車ブレーキスイッチ18、車両データバス16、電圧センサ22、モータ駆動回路23、電流検出センサ25等が接続されている。車両データバス16からは、駐車ブレーキの制御(作動)に必要な車両の各種状態量、即ち、各種車両情報を取得することができる。
なお、車両データバス16から取得する車両情報は、その情報を検出するセンサを駐車ブレーキ制御装置19(の演算回路20)に直接接続することにより取得する構成としてもよい。また、駐車ブレーキ制御装置19の演算回路20は、車両データバス16に接続された他の制御装置(例えばコントロールユニット13)から前述の判断ロジックやABS制御に基づく作動要求が入力されるように構成してもよい。この場合は、前述の判断ロジックによる駐車ブレーキのアプライ・リリースの判定やABSの制御を、駐車ブレーキ制御装置19に代えて、他の制御装置、例えばコントロールユニット13で行う構成とすることができる。即ち、コントロールユニット13に駐車ブレーキ制御装置19の制御内容を統合することが可能である。
駐車ブレーキ制御装置19は、例えばフラッシュメモリ、ROM、RAM、EEPROM等からなるメモリ21を備えている。メモリ21には、前述の駐車ブレーキのアプライ・リリースの判断ロジックやABSの制御のプログラムに加え、図7に示す処理フローを実行するための処理プログラム、即ち、リリース時にプッシュロッド51が後退限に近づいたときに、電動モータ66を停止させる処理プログラムが格納されている。また、メモリ21には、電動モータ66に供給される電流値IMの閾値である電流値A2や時間閾値である所定時間T1、T2等が記憶されている。さらに、メモリ21には、電動モータ66に供給される電流値IMが逐次更新可能に記憶される。
なお、実施形態では、駐車ブレーキ制御装置19をESC11のコントロールユニット13と別体としたが、駐車ブレーキ制御装置19をコントロールユニット13と一体に構成してもよい。また、駐車ブレーキ制御装置19は、左右で2つのディスクブレーキ31,31を制御するようにしているが、左右のディスクブレーキ31,31毎に設けるようにしてもよく、この場合には、それぞれの駐車ブレーキ制御装置19をディスクブレーキ31に一体的に設けることもできる。
図6に示すように、駐車ブレーキ制御装置19には、電源ライン15からの電圧を検出する電圧センサ22、左右の電動モータ66,66をそれぞれ駆動する左右のモータ駆動回路23,23、左右の電動モータ66,66のそれぞれの電流値IMを検出する左右の電流検出センサ25,25等が内蔵されている。この場合、左右の電流検出センサ25,25は、左右のモータ駆動回路23,23と左右の電動モータ66,66とを接続する左右の電力ライン24,24の途中に設けられている。なお、各電流検出センサ25,25は、各モータ駆動回路23,23の入力側に接続されていてもよい。
これにより、駐車ブレーキ制御装置19の演算回路20では、アプライまたはリリースを行うときに、電流検出センサ25,25により検出される電動モータ66,66のモータ電流(電流値IM)の変化に基づいて、ディスクロータ4とブレーキパッド33との当接・離接の判定、電動モータ66,66の駆動の停止の判定(アプライ完了の判定、リリース完了の判定)等を行うことができる。さらに、実施形態では、演算回路20は、モータ電流(電流値IM)の変化に基づいて、リリース方向にフル戻しを行うときの電動モータ66,66の駆動の停止の判定を行うこともできる。
次に、駐車ブレーキとしての制動力の付与と解除を行うときのディスクブレーキ31の作動について説明する。
車両の運転者が駐車ブレーキの解除状態から駐車ブレーキスイッチ18を制動側に操作すると、駐車ブレーキ制御装置19のモータ駆動回路23からディスクブレーキ31の電動モータ66にアプライ要求信号に基づいた給電が行われる。これにより、電動モータ66は回転駆動され、電動アクチュエータ65は、減速機で電動モータ66の回転を減速し、回転直動変換機構43のベースナット44には所要トルクの回転が伝えられる。
ベースナット44がアプライ方向に回転されると、ベースナット44の筒状ナット部44B(雌ねじ部44F)とプッシュロッド51の第1の雄ねじ部51Aとが互いに螺合(ねじ嵌合)した状態で相対回転(即ち、ベースナット44だけがアプライ方向に回転)する。これにより、プッシュロッド51が筒状ナット部44B内を軸方向へとピストン39の底部39Aに向かって前進する。このとき、プッシュロッド51、回転部材54と筒状リテーナ58との間には、第2スプリングクラッチ64によりアプライ方向への大きな回転抵抗トルクが付与されている。このため、プッシュロッド51がベースナット44と共に回転することはない。
この結果、プッシュロッド51と共に筒状リテーナ58を含む構成部品(付勢ばね59、ワッシャ61、支持プレート62、第2スプリングクラッチ64、回転部材54、スラストベアリング55、ボールアンドランプ機構53、スラストベアリング57および環状押圧プレート56)が一体となって軸方向へとピストン39の底部39A側に向けて前進し、環状押圧プレート56がピストン39の底部39Aの内側面に接触(当接)する。この当接により、ピストン39が前進してピストン39の底部39Aの外側面がインナ側のブレーキパッド33に当接する。
さらに、電動モータ66のアプライ方向への回転駆動が継続されると、ピストン39は、プッシュロッド51の移動によりブレーキパッド33を介してディスクロータ4を押圧し始める。このように押圧力がディスクロータ4に付与されると、押圧力に対する反力(押圧反力となる軸力)によってプッシュロッド51の第1の雄ねじ部51Aとベースナット44の筒状ナット部44Bとの間のねじ嵌合による回転抵抗トルクが増大し、プッシュロッド51を前進させるために必要な回転トルクが増大していく。
そして、必要回転トルクであるねじ嵌合部(筒状ナット部44Bと第1の雄ねじ部51Aとの間)の回転抵抗トルクが、第2スプリングクラッチ64の回転抵抗トルクよりも大きくなると、ベースナット44の回転に伴ってプッシュロッド51が回転部材54と共にアプライ方向へ回転し始める。こうして、プッシュロッド51がベースナット44と共廻りするようになると、プッシュロッド51のアプライ方向への回転トルクが第2の雄ねじ部51Bを介してボールアンドランプ機構53の回転直動ランプ53Bに伝達される。このとき、プッシュロッド51の第2の雄ねじ部51Bと回転直動ランプ53Bの雌ねじ部との間の回転抵抗トルクもディスクロータ4からの押圧反力により増大しているため、プッシュロッド51の回転が回転直動ランプ53Bに伝達される。
これにより、ボールアンドランプ機構53の回転直動ランプ53Bは、アプライ方向に回転しながら各ボール53Cの転動により固定ランプ53Aから離間する方向に押動される。即ち、回転直動ランプ53Bと固定ランプ53Aとは、付勢ばね59の付勢力に抗して離間することで、環状押圧プレート56をピストン39の底部39Aに強く押付けるようにさらに押圧し、インナ側とアウタ側のブレーキパッド33によるディスクロータ4の押圧力(挟持力)を増大させる。このとき、ピストン39の底部39Aには、プッシュロッド51のねじ嵌合により発生する軸方向の推力に加えて、ボールアンドランプ機構53で発生する推力がディスクロータ4に対する押圧力となって付与される。
駐車ブレーキ制御装置19は、一対のインナ側とアウタ側のブレーキパッド33からディスクロータ4に付与される押圧力が予め決められた所定値(例えば、電動モータ66に供給しているアプライ時の駆動電流が所定の電流値)に達するまで電動モータ66を駆動する。このときの駆動電流は電流検出センサ25で検出している。その後、駐車ブレーキ制御装置19は、ディスクロータ4への押圧力が所定値(具体的には、電動モータ66の駆動電流が所定値)に達すると、電動モータ66への通電を停止する。これにより、プッシュロッド51はアプライ方向への回転が停止され、これに伴って、ボールアンドランプ機構53の回転直動ランプ53Bの回転も停止される。
このとき、回転直動ランプ53Bには、ディスクロータ4からの押圧反力が作用する。しかし、プッシュロッド51の第2の雄ねじ部51Bとボールアンドランプ機構53の回転直動ランプ53Bの雌ねじ部との間には、前記押圧反力に対抗する回転抵抗トルクが生じている。即ち、両者の間のねじ嵌合部は、不可逆性が大きく逆作動しない構成となっている。また、プッシュロッド51の第1の雄ねじ部51Aとベースナット44の筒状ナット部44B(雌ねじ部44F)との間のねじ嵌合部も不可逆性が大きく、プッシュロッド51とベースナット44との間で逆作動しない構成となっている。さらに、第1スプリングクラッチ63により、プッシュロッド51には、ベースナット44に対してリリース方向への回転抵抗トルクが付与されている。
このため、ボールアンドランプ機構53の回転直動ランプ53Bは、回転せずに停止状態が維持され、ピストン39を所期の制動位置に保持することができる。これにより、制動力の保持がなされ、駐車ブレーキとしての作動(制動力の付与)を続ける。この状態において、ディスクロータ4からの押圧反力は、ボールアンドランプ機構53、プッシュロッド51、ベースナット44およびスラストベアリング45を介してシリンダ部36の隔壁部36Aに伝達され、ピストン39に対して駐車ブレーキの保持力を与える。
次に、駐車ブレーキを解除(リリース)する際には、駐車ブレーキスイッチ18が制動解除側に操作されることにより、駐車ブレーキ制御装置19は、ピストン39を戻す方向(即ち、ピストン39をディスクロータ4から離間させるリリース方向)に電動モータ66を回転駆動する。これによって、電動アクチュエータ65は、減速機により電動モータ66を減速して所要トルクの回転をベースナット44に伝え、該ベースナット44をアプライ時とは逆方向(ピストン39を戻すリリース方向)に回転駆動する。
このとき、プッシュロッド51には、ディスクロータ4からの押圧反力が環状押圧プレート56およびボールアンドランプ機構53を介して作用している。これにより、プッシュロッド51の第2の雄ねじ部51Bとボールアンドランプ機構53の回転直動ランプ53Bとの間のねじ嵌合部には回転抵抗トルクが働く。同じく、プッシュロッド51の第1の雄ねじ部51Aとベースナット44の筒状ナット部44Bとの間にも回転抵抗トルクが生じ、プッシュロッド51とベースナット44との間には、第1スプリングクラッチ63によるリリース方向への回転抵抗トルクが付与されている。
このため、電動アクチュエータ65(電動モータ66)からベースナット44に伝達されたリリース方向の回転トルクは、プッシュロッド51(回転部材54を含む)に伝達されると共に、ボールアンドランプ機構53の回転直動ランプ53Bに伝達される。この結果、回転直動ランプ53Bは、リリース方向に回転だけして、回転方向の初期位置まで戻る。このとき回転直動ランプ53Bは軸方向の移動はせず、軸方向の位置はそのままとなる。
次に、回転直動ランプ53Bが回転方向の初期位置まで戻ると、各ボール53Cは回転直動ランプ53Bと固定ランプ53Aとの間の各ボール溝に挟まれているため、固定ランプ53Aに対して回転直動ランプ53Bはそれ以上回転できなくなり、回転直動ランプ53Bは回転を停止する。これにより、ボールアンドランプ機構53の回転直動ランプ53Bが筒状リテーナ58と共にシリンダ部36の隔壁部36A側(リリース方向)に移動して軸方向の初期位置に戻る。
さらに、電動モータ66がリリース方向へ回転駆動されて、ベースナット44のリリース方向への回転が継続されると、ボールアンドランプ機構53の回転直動ランプ53Bが回転方向と軸方向とで共に初期位置に戻ると同時に、プッシュロッド51の第2の雄ねじ部51Bとボールアンドランプ機構53の回転直動ランプ53B(雌ねじ部)との螺合位置が初期位置まで戻り、プッシュロッド51のリリース方向への回転が停止される。
さらに、ベースナット44のリリース方向への回転が継続されると、プッシュロッド51が、第1スプリングクラッチ63によるベースナット44に対するプッシュロッド51のリリース方向への回転抵抗トルクに抗して、シリンダ部36の隔壁部36A側(リリース方向)に向けて軸方向に後退する。この結果、プッシュロッド51と共に筒状リテーナ58を含む構成部材(付勢ばね59、ワッシャ61、支持プレート62、第2スプリングクラッチ64、回転部材54、スラストベアリング55、ボールアンドランプ機構53、スラストベアリング57および環状押圧プレート56)が一体となってシリンダ部36の隔壁部36A側(リリース方向)に後退する。
そして、駐車ブレーキ制御装置19は、環状押圧プレート56とピストン39の底部39Aとの間が所定のクリアランス(隙間)を有する初期位置に到達した時点で、電動モータ66の回転を停止させるように制御する。このとき、液圧室40に液圧が供給されていなければ、ピストン39は、ピストンシール41の弾性変形の復元力によって初期位置まで後退して制動力が完全に解除される。このように、ディスクブレーキ31は、駐車ブレーキのリリース時に、ボールアンドランプ機構53を初期位置に戻してから、ボールアンドランプ機構53を後退させ、その後、プッシュロッド51を後退させることによってピストン39への保持力を解除するようにしている。
ところで、このような電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31においては、車両走行時のブレーキ操作によりブレーキパッド33は徐々に摩耗していくので、ブレーキパッド33は、必要に応じて新品に交換する必要がある。
ブレーキパッド33を交換するときには、ピストン39がブレーキパッド33に制動力を付与していない保持状態からさらにリリース作動をさせることにより、ピストン39とディスクロータ4との間およびキャリパ34の爪部38とディスクロータ4との間の隙間を広げる。
即ち、ブレーキパッド33は、使用に伴って摩耗するため、摩耗限界に達する前に、交換が必要になる。一方、リリース時のプッシュロッド51の後退位置(退避位置)は、ブレーキパッド33の摩耗の進行に伴って漸次前側(軸方向他側)に進む。このため、ブレーキパッド33を交換するときは、プッシュロッド51を後側(軸方向一側)、即ち、後退限の近傍までフル戻し(最退避、最後退)する必要がある。
このようなリリース作動(フル戻し)は、駐車ブレーキ制御装置19の作動モードを、車両を走行させるときのモードとなる通常モードから、車両の整備を行うためのメンテナンスモードに移行させた状態で行うことができる。メンテナンスモードは、例えば駐車ブレーキスイッチ18やイグニッションスイッチ(図示せず)に所定の操作を行うことにより、またはメンテナンス用コンピュータ等の通信端末となる入出力装置(図示せず)をCAN(車両データバス16)に接続して入出力装置を操作することにより、移行させることができる。
この場合、電動モータ66の回転によりプッシュロッド51をリリース側(後退側)に戻し過ぎ(リリース作動をさせ過ぎ)てしまうと、プッシュロッド51がベースナット44の有底穴の底部と当接して軸方向にそれ以上進まなくなる。これにより、ベースナット44の雌ねじ部44Fとプッシュロッド51の第1の雄ねじ部51Aとの嵌合部に大きな力が加わり、プッシュロッド51の第1の雄ねじ部51Aがベースナット44の雌ねじ部44Fに噛み込んでしまう虞がある。これに対し、例えばプッシュロッド51が後退限に近づいたときに、ベースナット44がプッシュロッド51に対してこれ以上回転しないように、プッシュロッド51とベースナット44との回転方向にそれぞれストッパ部材を設けることが考えられる。
しかし、仮にこれらストッパ部材が十分な強度を有していないと、ベースナット44の回転トルク(回転力)によりストッパ部材が損傷したり、ベースナット44のストッパ部材がプッシュロッド51のストッパ部材を乗り越えたりしてしまう虞がある。また、これらストッパ部材が十分な強度を有していたとしても、これらストッパ部材が接触したときの衝撃荷重がプッシュロッド51の第1の雄ねじ部51Aや電動アクチュエータ65に加わる虞がある。この場合、ベースナット44やプッシュロッド51等の各構成物品の強度を上げるために、各構成物品が大型化するという問題がある。
そこで、本実施形態では、プッシュロッド51(と共に変位する筒状リテーナ58)が後退限に近づいたことを駐車ブレーキ制御装置19で判定する構成としている。このために、ベースナット44の大径円筒部44B1には、回動側突起部44Dを設け、筒状リテーナ58の環状底部58Bには、直動側突起部58Eを設けている。回動側突起部44Dと直動側突起部58Eとは、筒状リテーナ58が後退限に近づいたときに、回動側突起部44Dと直動側突起部58Eとが互いに接触する位置に配置されている。
この場合、直動部材50は、ベースナット44にねじ嵌合されたプッシュロッド51と、該プッシュロッド51に軸方向の変位を可能に取付けられ直動側突起部58Eが設けられた筒状リテーナ58と、筒状リテーナ58を回動側突起部44Dに向けて押圧する付勢ばね59(弾性部材)とにより構成されている。そして、付勢ばね59は、直動側突起部58Eを回動側突起部44Dに向けて押圧する方向の弾性力を付与している。
従って、回動側突起部44Dと直動側突起部58Eとが互いに接触しながら相対回転するときには、電動モータ66の電流値IMに電流リップルを発生させる。そして、駐車ブレーキ制御装置19は、電動モータ66へ供給する電流値を検出する電流検出センサ25により、回動側突起部44Dと直動側突起部58Eとが互いに接触しながら相対回転するときの電流を検出する。駐車ブレーキ制御装置19は、この検出値(電流値IM)に基づいて、プッシュロッド51が後退限に近付いたことを判定し、電動アクチュエータ65(電動モータ66)への電力供給を停止する。
これにより、リリース時に電動モータ66を戻し過ぎることを抑制できる。即ち、プッシュロッド51の第1の雄ねじ部51Aがベースナット44の雌ねじ部44Fに噛み込んでしまうのを抑制することができる。この場合、ストッパ等によりベースナット44と筒状リテーナ58との相対回転をメカニカルに停止させる構成ではなく、駐車ブレーキ制御装置19が電動モータ66への電力供給を停止させる構成としている。このため、ベースナット44、プッシュロッド51、および電動アクチュエータ65等に過負荷が加わることを抑制できる。さらに、新たな部品を追加することなく、筒状リテーナ58およびプッシュロッド51が後退限に近づいたのを検出することができる。このため、ディスクブレーキ31を小型化することができると共に、コストを低減することができる。
次に、駐車ブレーキ制御装置19で行われるフル戻し(プッシュロッド51の最退避)の制御処理について、図7を参照しつつ説明する。なお、図7の処理は、メンテナンスモードに移行された状態でリリース要求(駐車ブレーキスイッチ18の制動解除側への操作)がなされることにより開始され、電動モータ66に通電している間、所定時間毎に(所定の制御周期で)繰り返し実行される。
例えば、駐車ブレーキスイッチ18やイグニッションスイッチ等の所定の操作(メンテナンス移行操作)により、またはメンテナンス用の入出力装置の操作により、駐車ブレーキ制御装置19の動作モードは、メンテナンスモードに移行する。この状態で、駐車ブレーキスイッチ18が制動解除側へ操作されると、図7の処理動作がスタートし、S1では、タイマ1をカウントアップする。
続くS2では、タイマ1が所定時間T1以上(タイマ1≧T1)となったか否かを判定する。この場合、所定時間T1は、電動モータ66への通電直後に発生する突入電流A0が電流判定値(電流閾値)である電流値A2以下となるまでの時間より長くなるように設定される。電流値A2は、例えば突入電流A0が発生した後、低下して一定となった電流値A1(環状押圧プレート56とピストン39の底部39Aとが十分に離間した状態でプッシュロッド51が後退しているときの電流値)よりも大きく、直動側突起部58Eが回動側突起部44Dを最初に乗り越えるときに発生する最大電流値A3(図8参照)よりも小さい値に設定されている。S2で「YES」、即ちタイマ1が所定時間T1以上であると判定された場合は、S3に進む。一方、S2で「NO」、即ちタイマ1が所定時間T1に達していないと判定された場合は、リターンする。
S3では、電動モータ66の電流値IMであるIM情報取得処理を行う。このIM情報取得処理は、例えばタイマ1が所定時間T1以上となってから所定時間毎に繰り返し実行される。また、この電流値IMは、駐車ブレーキ制御装置19の電流検出センサ25によって検出することができ、検出された電流値IMは、随時メモリ21に記憶(更新)される。即ち、駐車ブレーキ制御装置19は、タイマ1が所定時間T1以上経過した後から電動モータ66が停止するまで電動モータ66の電流値IMを監視する。この場合、検出される電流値IMは、直動側突起部58Eと回動側突起部44Dとが接触しながら相対回転するまでの間は、電動モータ66をほぼ抵抗なく(小さな一定の抵抗で)駆動させることができるので、電流値A1で一定となる。
S4では、電流値IMが電流値A2以上となったか否かを判定する。この場合、プッシュロッド51が後退限に近づくことにより、筒状リテーナ58の直動側突起部58Eがベースナット44の回動側突起部44Dおよび回動側凹部44Eに近付く。そして、ベースナット44の回転により、筒状リテーナ58は、付勢ばね59の付勢力に抗して軸方向他側に向けて移動しながら直動側突起部58Eが回動側凹部44Eから回動側突起部44Dを乗り越え始める。直動側突起部58Eが回動側突起部44Dを乗り越えるための荷重は、ベースナット44の回転トルクの増加となる。これにより、電動モータ66にかかる負荷が増加するので、それまで一定だった電流値A1が変動(増加)する。
そして、S4で「YES」、即ちS3で検出された(メモリ21に記憶された)電流値IMが電流値A2以上となったと判定された場合には、S5に進み、フラグ1をONに設定する。即ち、フラグ1は、プッシュロッド51が後退限に近付くことにより、筒状リテーナ58の直動側突起部58Eとベースナット44の回動側突起部44Dとが接触しながら相対回転し始めたことを意味するものである。一方、S4で「NO」、即ちメモリ21に記憶された電流値IMが電流値A2未満であると判定された場合には、S6に進む。
S6では、フラグ1がON設定されているか否かを判定する。S6で「YES」、即ちS5でフラグ1がON設定されていれば、S7に進む。一方、S6で「NO」、即ちS5でフラグ1がON設定されていなければ、リターンする。
S7では、タイマ2をカウントアップする。即ち、駐車ブレーキ制御装置19は、筒状リテーナ58の直動側突起部58Eとベースナット44の回動側突起部44Dとが接触しながら相対回転し始めたことを検出すると、タイマ2のカウントアップを開始し、次のS8に進む。
S8では、電流値IMが電流値A2未満となったか否かを判定する。即ち、S4では、筒状リテーナ58の直動側突起部58Eがベースナット44の回動側凹部44Eから回動側突起部44Dの先端側に向けて移動する(上がっている)のを検出するものであるのに対し、S8では、直動側突起部58Eが回動側突起部44Dの先端側から回動側凹部44Eに向けて移動する(下がっている)のを検出するものである。この場合、筒状リテーナ58は、プッシュロッド51の第1の雄ねじ部51Aの作用と付勢ばね59の付勢力とにより、軸方向一側に向けて移動しながら直動側突起部58Eが回動側突起部44Dから回動側凹部44Eに向けて移動する。
そして、S8で「YES」、即ち電流値IMが電流値A2未満となったと判定された場合には、S9に進み、フラグ2をON設定にする。即ち、フラグ2は、直動側突起部58Eが最初の回動側突起部44Dを乗り越えたことを意味するものである。一方、S8で「NO」、即ち電流値IMが電流値A2以上であると判定された場合には、S10に進む。
S10では、フラグ2がON設定されているか否かを判定する。S10で「YES」、即ちS9でフラグ2がON設定されていれば、S11に進む。一方、S10で「NO」、即ちS9でフラグ2がON設定されていなければ、リターンする。
S11では、再度電流値IMが電流値A2以上となったか否かを判定する。即ち、筒状リテーナ58の直動側突起部58Eが回動側凹部44Eから次の(2番目の)回動側突起部44Dの先端側に向けて移動しているか否かを判定する。S11で「YES」、即ち電流値IMが電流値A2以上であると判定された場合には、S12に進む。一方、S11で「NO」、即ち電流値IMが電流値A2未満であると判定された場合には、リターンする。
S12では、タイマ2が所定時間T2となったか否かを判定する。即ち、S5でフラグ1がON設定されてからの経過時間がT2となったか否かを判定する。具体的には、プッシュロッド51が後退限に近付くことにより、筒状リテーナ58の直動側突起部58Eとベースナット44の回動側突起部44Dとが接触しながら相対回転し始めてからの経過時間がT2となったか否かを判定する。この場合、所定時間T2は、電流値IMが再度電流値A2を上回るまでの周期であり、この周期と経過時間との比較により、電流値IMの変化がノイズ等によるものか直動側突起部58Eと回動側突起部44Dとの接触によるものかを判定することができる。
ここで、所定時間T2は、電動モータ66の電流値IM、端子間電圧VM、および諸元値である電動モータ66の抵抗値RM、任意の電圧VM′、VM′印加時の回転速度NM′、電動モータ66の減速比i、直動側突起部58Eの個数n(本実施形態では、3個)を用いて以下の数1のように求めることができる。
なお、S12では、タイマ2が所定時間T2(一定値)となったか否かを判定している。しかし、上述した諸元値と現品実力値の差や温度変化による抵抗値RMの変化をバラつきとして考慮し、所定時間T2に幅を持たせてもよい。即ち、最小値における諸元値で求められるTminと、最大値における諸元値で求められるTmaxとにより、S12での判定を、Tmin以上、かつTmax以下(Tmin≦タイマ2≦Tmax)としてもよい。これにより、判定のロバスト性を向上することができる。
そして、S12で「YES」、即ちタイマ2が所定時間T2となっていると判定された場合には、S13に進む。一方、S12で「NO」、即ちタイマ2が所定時間T2となっていないと判定された場合には、リターンする。
S13では、電動モータ66への電力供給を停止することにより、電動アクチュエータ65の駆動(リリース作動)を停止させ、S14に進み、タイマ1、タイマ2、およびフラグ1、フラグ2をクリアしてリターンする。
次に、メンテナンスモード時にリリース要求がなされたときの電流値IMの時間変化について、図8の特性図を参照して説明する。
まず、a1の時点では、リリース要求(RLS)はなされておらず、電動モータ66は停止しているので、電動モータ66に電流は流れていない。そして、a2の時点でリリース要求がなされると、駐車ブレーキ制御装置19は、リリース方向(軸方向一側)へ電動モータ66を駆動させるべく通電を開始する。この場合、電動アクチュエータ65(電動モータ66)は、停止状態から駆動状態に移行する。従って、電動モータ66には、一度大きな突入電流A0が発生し、その後電流値IMは電流値A1まで低下して一定となる。また、駐車ブレーキ制御装置19は、a2の時点からタイマ1のカウントアップを開始する。
a3の時点は、タイマ1のカウントアップが所定時間T1以上となったときで、このa3の時点では、電動モータ66に流れる電流値IMが突入電流A0から電流値A1まで低下している。この場合、駐車ブレーキ制御装置19は、突入電流A0による誤判定を避けるために、a2の時点からa3の時点までの間(所定時間T1)は電流値IMによる判定を行わない。そして、駐車ブレーキ制御装置19は、a3の時点からIM情報取得処理を行い、取得した電流値IMが閾値である電流値A2以上となったか否かの判定を開始する。
a3の時点からa4の時点までの間は、電動モータ66の駆動によりベースナット44が回転して、プッシュロッド51が徐々に後退する(軸方向一側に移動する)と共に、プッシュロッド51と一体となって筒状リテーナ58がベースナット44の大径円筒部44B1に向けて軸方向に移動する。この場合には、電動モータ66には、プッシュロッド51等を後退させる抵抗以上の抵抗がかからないので、電流値A1で一定となっている。
a4の時点では、プッシュロッド51が後退限に近付き、筒状リテーナ58の環状底部58Bに設けられた直動側突起部58Eがベースナット44の回動側凹部44Eに接触する。そして、筒状リテーナ58は、付勢ばね59の付勢力に抗して軸方向他側に向けて移動しながら直動側突起部58Eが回動側凹部44Eから回動側突起部44Dを乗り越え始める。この場合、直動側突起部58Eが回動側突起部44Dを乗り越えるための荷重は、ベースナット44の回転トルクの増加となる。これにより、電動モータ66にかかる負荷が増加するので、それまで一定だった電流値A1が増加(上昇)し始める。
a5の時点で電流値IMが閾値である電流値A2以上となると、駐車ブレーキ制御装置19は、フラグ1をONに設定する。そして、駐車ブレーキ制御装置19は、a5の時点から取得した電流値IMが電流値A2未満となっているか否かの判定を開始する。また、駐車ブレーキ制御装置19は、a5の時点からタイマ2のカウントアップを開始する。
そして、筒状リテーナ58の直動側突起部58Eがベースナット44の回動側突起部44Dの先端側(頂点)に達するときに、電動モータ66にかかる負荷が最も増加するので、それに伴い電動モータ66に流れる電流値IMは最大電流値A3となる。その後、筒状リテーナ58の直動側突起部58Eは、ベースナット44の回動側突起部44Dの先端側から回動側凹部44Eに向けて下がり始める。
この場合、筒状リテーナ58は、プッシュロッド51の第1の雄ねじ部51Aと付勢ばね59の付勢力とにより軸方向一側に向けて移動するので、電動モータ66にかかる負荷は軽減される。従って、電動モータ66に流れる電流値IMは、最大電流値A3から低下し始める。
そして、a6の時点で電流値IMが閾値である電流値A2未満となると、駐車ブレーキ制御装置19は、フラグ2をONに設定する。また、駐車ブレーキ制御装置19は、a6の時点から取得した電流値IMが閾値である電流値A2以上となったか否かの判定を再び開始する。
その後、プッシュロッド51がさらに後退限に近づき、かつベースナット44が回転すると、筒状リテーナ58は、付勢ばね59の付勢力に抗して軸方向他側に向けて移動しながら直動側突起部58Eが次の(2番目の)回動側突起部44Dを乗り越え始める。この場合、ベースナット44と筒状リテーナ58とは、プッシュロッド51の第1の雄ねじ部51Aの作用により、軸方向に近付くのでベースナット44の回転が進むごとに(乗り越えるときの)付勢ばね59の圧縮量は大きくなっていく。従って、直動側突起部58Eが次の回動側突起部44Dを乗り越えるための荷重は、最初に直動側突起部58Eが回動側突起部44Dを乗り越えたときの荷重よりも大きい値となる。これにより、電動モータ66にかかる負荷が増加するので、電流値A1が再び増加し始める。
そして、a7の時点では、電流値IMが閾値である電流値A2以上となり、かつタイマ2の計測時間がT2となっている。従って、駐車ブレーキ制御装置19は、プッシュロッド51が後退限に近付いたと判断して電動モータ66への電力供給を停止する。また、駐車ブレーキ制御装置19は、各タイマ、各フラグをクリアする。なお、図8の特性線は、a7の時点を超えても電流値が変化しているが、これは、a7の時点を超えても電動モータ66を回転させ続けた場合を参考的に示したものである。即ち、図7の処理に従って、a7の時点で電動モータ66への電力供給を停止した場合は、a7の時点以降の電流値はゼロになる。
以上より第1の実施形態では、駐車ブレーキ制御装置19は、電流値IMが電流値A2を上回ってから下回ることを判定することにより、筒状リテーナ58の直動側突起部58Eがベースナット44の回動側突起部44Dを乗り越えたか否かを判定する。さらに、駐車ブレーキ制御装置19は、再度電流値A2を上回るまでの時間と隣合う回動側突起部44Dの間隔に対応する周期とを比較することで、電流値IMの変化がノイズ等ではなく、直動側突起部58Eと回動側突起部44Dとの接触によるものであることを判定することができる。
この場合、直動部材50は、ベースナット44にねじ嵌合されたプッシュロッド51と、該プッシュロッド51に軸方向の変位を可能に取付けられ直動側突起部58Eが設けられた筒状リテーナ58と、筒状リテーナ58を回動側突起部44Dに向けて押圧する付勢ばね59(弾性部材)とにより構成している。付勢ばね59は、直動側突起部58Eを回動側突起部44Dに向けて押圧する方向の弾性力を付与している。
これにより、第1の実施形態では、電動モータ66によるリリース(フル戻し)のときの戻し過ぎを抑制することができる。従って、プッシュロッド51の第1の雄ねじ部51Aがベースナット44の雌ねじ部44Fに噛み込んでしまうのを抑制することができる。また、ストッパ等によりメカニカルにベースナット44と筒状リテーナ58との相対回転を停止させているのではなく、駐車ブレーキ制御装置19が電動モータ66への電力供給を停止させているので、ベースナット44、プッシュロッド51、および電動アクチュエータ65等に過負荷をかけなくて済む。
さらに、直動側突起部58Eは、筒状リテーナ58、即ちボールアンドランプ機構53に付勢力を付与する付勢ばね59と共にボールアンドランプ機構53等を一纏めに収容する筒状リテーナ58に設ける構成としている。このため、新たな部品を追加することなく、直動部材となる筒状リテーナ58およびプッシュロッド51が後退限に近づいたのを検出することができる。これにより、ディスクブレーキ31を小型化することができると共に、コストを低減することができる。
次に、図9ないし図10は、第2の実施形態を示している。第2の実施形態の特徴は、駐車ブレーキ制御装置19は、突入電流A0が収束した後の電流値(初期値)と現在の最大電流値との差に基づいて、筒状リテーナ58の直動側突起部58Eがベースナット44の回動側突起部44Dを乗り越えるのを判定する構成としたことにある。なお、第2の実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
また、第2の実施形態では、図6に示した駐車ブレーキ制御装置19のメモリ21に、図9に示す処理フローを実行するための処理プログラム等が格納されている。また、メモリ21には、電流値IMの閾値である電流値A4や時間閾値である所定時間T1等が記憶されている。さらに、メモリ21には、電動モータ66に供給される電流値IMが逐次更新可能に記憶される。
そして、左,右のディスクブレーキ31は、メンテナンスモードに移行し、かつリリース要求がなされたときに、図9に示す処理プログラム(処理手順)に沿って制御される。以下、駐車ブレーキ制御装置19で行われるリリース動作の制御処理について、図7を参照しつつ説明する。なお、図9の処理は、メンテナンスモードに移行されており、かつリリース要求がなされることにより開始され、電動モータ66に通電している間、所定時間毎に(所定の制御周期で)繰り返し実行される。
S21からS23までは、第1の実施形態によるS1からS3までの制御処理と同様である。次のS24では、フラグがOFF設定となっているか否かを判定する。このフラグは、突入電流A0の収束直後(T1経過したとき)に取得した電流値IMを電流値Amaxの初期値として設定する処理、即ちS25の処理を行うか否かの判定として用いられる。そして、S24で「YES」、即ちフラグがOFF設定となっている場合には、次のS25に進む。一方、フラグがON設定となっている場合には、S27に進む。S25では、取得した電流値IMの値、即ち電動モータ66の駆動からT1経過した直後の電流値を電流値A1としてメモリ21に記憶させると共に、この電流値A1を電流値Amaxの初期値(電流値Amax=A1)としてメモリ21に記憶させ、次のS26に進み、フラグをON設定にする。
S27では、S23で取得した電流値IMがメモリ21に記憶された電流値Amax以上か否かを判定する。S27で「YES」、即ち取得した電流値IMが電流値Amax以上になっていると判定された場合には、S28に進み、取得した電流値IMの値を電流値Amaxの値として更新する(書き換える)。一方、取得した電流値IMが電流値Amax未満であると判定された場合には、リターンする。
次のS29では、電流値Amaxと電流値A1との差分が電流値A4以上(Amax−A1≧A4)となっているか否かを判定する。この場合、電流値A4は、例えば筒状リテーナ58の直動側突起部58Eが最初にベースナット44の回動側突起部44Dを乗り越えるときに発生する最大電流値A3(図10参照)と突入電流A0が収束した直後の電流値A1との差分よりも大きい値に設定されている。S29で「YES」、即ち電流値Amaxと電流値A1との差分が電流値A4以上となっていると判定された場合には、S30に進む。一方、S29で「NO」、即ち電流値Amaxと電流値A1との差分が電流値A4未満となっていると判定された場合には、リターンする。
S30では、電動モータ66への電力供給を停止することにより、電動アクチュエータ65の駆動(リリース作動)を停止させ、S31に進み、タイマおよびフラグをクリアしてリターンする。
次に、メンテナンスモード時にリリース要求がなされたときの電流値IMの時間変化を示す一例を図10の特性図を参照して説明する。
図10に示すa1の時点からa3の時点までの制御処理は、第1の実施形態によるa1の時点からa3の時点までの制御処理と同様である。そして、第2の実施形態では、a3の時点でそのときの電流値を電流値A1としてメモリ21に記憶すると共に、その電流値A1を電流値Amaxの初期値(電流値Amax=A1)としてメモリ21に記憶する。その後、フラグがON設定されると、それ以降は、そのときの電流値がそのときの電流値Amax以上の場合のみ電流値Amaxが更新されるようになる。
そして、a4の時点で筒状リテーナ58の直動側突起部58Eがベースナット44の回動側突起部44Dを乗り越え始めると、それに伴い電動モータ66に流れる電流値IMは、増加し始める。この場合、取得した電流値IMの値が記憶されている電流値Amax以上となっているときには、この電流値IMの値を電流値Amaxとして更新する。電流値IMが減少しているときは、電流値Amaxが更新されない。
その後、筒状リテーナ58の直動側突起部58Eが次の(2番目の)回動側突起部44Dを乗り越え始め、a8の時点で回動側突起部44Dの頂部に到達すると、a8の時点で取得した電流値IM(Amax)と電流値A1との差分が予め設定された電流値A4以上となる。これにより、駐車ブレーキ制御装置19は、プッシュロッド51が後退限に近付いたと判断して電動モータ66への電力供給を停止する。また、駐車ブレーキ制御装置19は、タイマ、フラグをクリアする。なお、図10の特性線は、a8の時点を超えても電流値が変化しているが、これは、a8の時点を超えても電動モータ66を回転させ続けた場合を参考的に示したものである。
以上より第2の実施形態でも第1の実施形態と同様に、電動モータ66によるリリース(フル戻し)のときの戻し過ぎを抑制することができる。従って、プッシュロッド51の第1の雄ねじ部51Aがベースナット44の雌ねじ部44Fに噛み込んでしまうのを抑制することができる。
第2の実施形態では、筒状リテーナ58の直動側突起部58Eがベースナット44の回動側突起部44Dを複数回乗り越えるごとに、最大電流値IMが大きくなることを判定する。これにより、駐車ブレーキ制御装置19は、電流値IMの変化がノイズ等ではなく、直動側突起部58Eと回動側突起部44Dとの接触によるものであることを検出することができる。
次に、図11ないし図12は、第3の実施形態を示している。第3の実施形態の特徴は、駐車ブレーキ制御装置19は、電動モータ66に流れる電流値IMの電流微分値dIMにより、筒状リテーナ58の直動側突起部58Eがベースナット44の回動側突起部44Dを乗り越えたか否かを判定する構成としたことにある。なお、第3の実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
また、第3の実施形態では、図6に示した駐車ブレーキ制御装置19のメモリ21に、図11に示す処理フローを実行するための処理プログラム等が格納されている。また、メモリ21には、電流値IMから電流微分値dIMを算出するための計算式、電流微分値dIMの閾値である電流微分値D1,D2、時間閾値である所定時間T1,T3等が記憶されている。さらに、メモリ21には、電動モータ66に供給される電流値IMおよび電流微分値dIMが逐次更新可能に記憶される。
S41からS43までは、第1の実施形態によるS1からS3までの制御処理と同様である。次のS44では、取得した電流値IMから電流微分値dIMを算出する。この場合、電流微分値dIMは、過去(前回の制御周期)の電流値IMと現在(今回の制御周期)の電流値IMの差分値を、それらの時間間隔(周期)で除すことで算出することができる。
次のS45では、算出された電流微分値dIMが電流微分値D1以上となっているか否かを判定する。この場合、電流微分値D1は、例えば筒状リテーナ58の直動側突起部58Eが回動側突起部44Dを最初に乗り越えるときに発生する最大電流微分値D3(図12参照)よりも小さく、かつ0よりも大きい値(0<D1<D3)に設定されている。換言すると、電流微分値D1は、筒状リテーナ58の直動側突起部58Eがベースナット44の回動側凹部44Eから回動側突起部44Dの先端側に向けて移動する(上がっている)ときの任意の点における電流微分値として設定されている。
そして、S45で「YES」、即ち電流微分値dIMが電流微分値D1以上となったと判定された場合には、S46に進み、フラグ1をONに設定する。即ち、フラグ1は、プッシュロッド51が後退限に近付くことにより、筒状リテーナ58の直動側突起部58Eとベースナット44の回動側突起部44Dとが接触しながら相対回転し始めたことを意味するものである。一方、S45で「NO」、即ち電流微分値dIMが電流微分値D1未満であると判定された場合には、S47に進む。
S47では、フラグ1がON設定されているか否かを判定する。S47で「YES」、即ちS46でフラグ1がON設定されていれば、S48に進む。一方、S47で「NO」、即ちS46でフラグ1がON設定されていなければ、リターンする。
S48では、タイマ2をカウントアップする。即ち、駐車ブレーキ制御装置19は、筒状リテーナ58の直動側突起部58Eとベースナット44の回動側突起部44Dとが接触しながら相対回転し始めたことを検出すると、タイマ2のカウントアップを開始し、次のS49に進む。
S49では、電流微分値dIMが電流微分値D2以下となったか否かを判定する。即ち、S45では、筒状リテーナ58の直動側突起部58Eがベースナット44の回動側凹部44Eから回動側突起部44Dの先端側に向けて移動する(上がっている)のを検出するものであるのに対し、S49では、直動側突起部58Eが回動側突起部44Dの先端側から回動側凹部44Eに向けて移動する(下がっている)のを検出するものである。
従って、電流微分値D2は、例えば筒状リテーナ58の直動側突起部58Eが回動側突起部44Dを最初に乗り越えるときに発生する最小電流微分値D4(図12参照)よりも大きく、かつ0よりも小さい値(D4<D2<0)に設定されている。換言すると、電流微分値D2は、筒状リテーナ58の直動側突起部58Eが回動側突起部44Dの先端側からベースナット44の回動側凹部44Eに向けて移動する(下がっている)ときの任意の点における電流微分値として設定されている。
そして、S49で「YES」、即ち電流微分値dIMが電流微分値D2以下となったと判定された場合には、S50に進み、フラグ2をON設定にする。即ち、フラグ2は、直動側突起部58Eが最初の回動側突起部44Dを乗り越えたことを意味するものである。一方、S49で「NO」、即ち電流微分値dIMが電流微分値D2よりも大きいと判定された場合には、S51に進む。
S51では、フラグ2がON設定されているか否かを判定する。S51で「YES」、即ちS50でフラグ2がON設定されていれば、S52に進む。一方、S51で「NO」、即ちS50でフラグ2がON設定されていなければ、リターンする。
S52では、再度電流微分値dIMが電流微分値D1以上となったか否かを判定する。即ち、筒状リテーナ58の直動側突起部58Eが回動側凹部44Eから次の(2番目の)回動側突起部44Dの先端側に向けて移動しているか否かを判定する。S52で「YES」、即ち電流微分値dIMが電流微分値D1以上であると判定された場合には、S53に進む。一方、S52で「NO」、即ち電流微分値dIMが電流微分値D1未満であると判定された場合には、リターンする。
S53では、タイマ2が所定時間T3となったか否かを判定する。即ち、S46でフラグ1がON設定されてからの経過時間がT3となったか否かを判定する。具体的には、プッシュロッド51が後退限に近付くことにより、筒状リテーナ58の直動側突起部58Eとベースナット44の回動側突起部44Dとが接触しながら相対回転し始めてからの経過時間がT3となったか否かを判定する。
この場合、所定時間T3は、電流微分値dIMが再度電流微分値D1を上回るまでの周期であり、計算式や実験等により定めることができる。駐車ブレーキ制御装置19は、この周期と経過時間との比較により電流微分値dIMの変化がノイズ等によるものか直動側突起部58Eと回動側突起部44Dとの接触によるものかを判定することができる。
そして、S53で「YES」、即ちタイマ2が所定時間T3となっていると判定された場合には、S54に進む。一方、S53で「NO」、即ちタイマ2が所定時間T3となっていないと判定された場合には、リターンする。
S54では、電動モータ66への電力供給を停止することにより、電動アクチュエータ65の駆動(リリース作動)を停止させ、S55に進み、タイマ1、タイマ2、およびフラグ1、フラグ2をクリアしてリターンする。
次に、メンテナンスモード時にリリース要求がなされたときの電流値IMと電流微分値dIMとの時間変化を示す一例を図12の特性図を参照して説明する。
図12に示すa1の時点からa3の時点までの制御処理は、第1の実施形態によるa1の時点からa3の時点までの制御処理と同様である。そして、第3の実施形態では、a3の時点から電流値IMの情報取得を行い、その値から電流微分値dIMを算出する。
そして、a4の時点で筒状リテーナ58の直動側突起部58Eがベースナット44の回動側突起部44Dを乗り越え始めると、それに伴い電動モータ66に流れる電流値IMは、徐々に増加し始める。この場合、駐車ブレーキ制御装置19は、取得した電流値IMの値から電流微分値dIMを算出する。
その後、a9の時点で電流微分値dIMが閾値である電流微分値D1以上となると、駐車ブレーキ制御装置19は、フラグ1をONに設定する。そして、駐車ブレーキ制御装置19は、a9の時点から電流微分値dIMが電流微分値D2以下となっているか否かの判定を開始する。また、駐車ブレーキ制御装置19は、a9の時点からタイマ2のカウントアップを開始する。
そして、筒状リテーナ58の直動側突起部58Eがベースナット44の回動側突起部44Dの先端側(頂点)に達するときには、電流微分値dIMは、0となる。その後、電流微分値dIMは、筒状リテーナ58の直動側突起部58Eがベースナット44の回動側突起部44Dの先端側から回動側凹部44Eに向けて下がり始めると負数となる。
a10の時点で電流微分値dIMが閾値である電流微分値D2以下となると、駐車ブレーキ制御装置19は、フラグ2をONに設定する。また、駐車ブレーキ制御装置19は、a10の時点から電流微分値dIMが閾値である電流微分値D1以上となったか否かの判定を再び開始する。
その後、プッシュロッド51がさらに後退限に近づき、かつベースナット44が回転すると、筒状リテーナ58は、付勢ばね59の付勢力に抗して軸方向他側に向けて移動しながら直動側突起部58Eが次の(2番目の)回動側突起部44Dを乗り越え始める。そして、a11の時点では、電流微分値dIMが閾値である電流微分値D1以上となり、かつタイマ2の計測時間がT3となっている。従って、駐車ブレーキ制御装置19は、プッシュロッド51が後退限に近付いたと判断して電動モータ66への電力供給を停止する。また、駐車ブレーキ制御装置19は、各タイマ、各フラグをクリアする。
以上より第3の実施形態でも第1の実施形態と同様に、電動モータ66によるリリース(フル戻し)のときの戻し過ぎを抑制することができる。従って、プッシュロッド51の雄ねじ部51Aがベースナット44の雌ねじ部44Fに噛み込んでしまうのを抑制することができる。
第3の実施形態では、筒状リテーナ58の直動側突起部58Eとベースナット44の回動側突起部44Dとの接触、乗り越えを、電流微分値dIMの変化により判定している。これにより、例えば気温等の影響で電動モータ66等の温度が変化し、電動モータ66に流れる電流の大きさ全体が変化したとしても、直動側突起部58Eと回動側突起部44Dとの接触を精度よく検出することができる。
なお、上述した第1の実施形態では、駐車ブレーキ制御装置19は、電流値IMが電流値A2以上になることと、その後に電流値A2を下回ることと、最初に電流値A2以上になってから再度電流値A2以上となるまでの経過時間とに基づいて、電動モータ66を停止する構成とした場合を例に挙げて説明した。しかしこれに限らず、例えば図13に示す第1の変形例のように、第1の実施形態によるS5〜S12を省略し、S14′でタイマをクリアにしてもよい。即ち、駐車ブレーキ制御装置19は、電流値IMが閾値である電流値A2以上になることのみを条件に、電動モータ66を停止させてもよい。これにより、駐車ブレーキ制御装置19による制御処理を簡素に構成することができる。
上述した第3の実施形態では、駐車ブレーキ制御装置19は、電流微分値dIMが電流微分値D1以上になることと、その後に電流微分値D2以下になることと、最初に電流微分値D1以上になってから再度電流微分値D1以上となるまでの経過時間とに基づいて、電動モータ66を停止する構成とした場合を例に挙げて説明した。しかしこれに限らず、例えば図14に示す第2の変形例のように、第3の実施形態によるS46〜S53を省略し、S55′でタイマをクリアにしてもよい。即ち、駐車ブレーキ制御装置19は、電流微分値dIMが閾値である電流微分値D1以上となることのみを条件に、電動モータ66を停止させてもよい。この場合も、駐車ブレーキ制御装置19による制御処理を簡素化することができる。
上述した第3の実施形態では、電流値IMから電流微分値dIMを算出し、この電流微分値dIMの変化を判定する構成とした場合を例に挙げて説明した。しかしこれに限らず、例えば図15に示す第3の変形例のように、電流値IMに対してローパスフィルタをかけ、高い周波数成分をカットした電流値IM′を用いてもよい。この電流値IM′は、筒状リテーナ58の直動側突起部58Eとベースナット44の回動側突起部44Dとの当接による影響を受けにくい波形となる。従って、第3の実施の形態によるS44で、dIM′を電流値IMと電流値IM′との差分(dIM=IM−IM′)とすることにより電流波形の変化だけを抽出することができる。なお、図15に示すa9′,a10′,a11′,D1′,D2′,T3′は、図12に示すa9,a10,a11,D1,D2,T3にそれぞれ対応するものである。
上述した各実施形態では、ボールアンドランプ機構53を用いたディスクブレーキ31において、プッシュロッド51(直動部材50)の後退限を検出した場合を例に挙げて説明した。しかしこれに限らず、例えばボールアンドランプ機構53を用いていない電動駐車ブレーキ機能付きのディスクブレーキにおいて、直動部材に直動側突起部を設け、回動部材側に回動側突起部を設けることにより直動部材の後退限を検出してもよい。この場合、直動側突起部は、直動部材に弾性部材を介して設ける構成とすることができる。または、回動側突起部は、回動部材に弾性部材を介して設ける構成とすることができる。
上述した各実施形態では、ブレーキパッド33を交換するとき等のメンテナンスモード時におけるリリース作動で、直動部材50の戻し過ぎを検出した場合を例に挙げて説明した。しかしこれに限らず、例えば通常状態(通常モード)でのリリース作動で、直動部材50の戻し過ぎを検出する構成としてもよい。
上述した各実施形態では、左,右の後輪側ブレーキを電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、左,右の前輪側ブレーキを電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキとしてもよい。また、前輪と後輪の全ての車輪(4輪全て)のブレーキを電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキにより構成してもよい。
上述した各実施形態では、電動駐車ブレーキ付の液圧式ディスクブレーキ31を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、液圧の供給が不要な電動式ディスクブレーキにより構成してもよい。また、ディスクブレーキ式のブレーキ装置に限らず、ドラムブレーキ式のブレーキ装置として構成してもよい。さらに、ディスクブレーキにドラム式の電動駐車ブレーキを設けたドラムインディスクブレーキ、電動モータでケーブルを引っ張ることにより駐車ブレーキの保持を行う構成等、ブレーキ機構は各種のものを採用することができる。この場合に、例えば、液圧の供給が不要な電動式のブレーキ機構を採用した場合は、制御部は、車両に制動力を常用ブレーキとして与える(ブレーキペダルの操作等によるアプライ要求に基づいて電動モータを駆動する)構成とすることができる。