以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る様々な実施の形態を説明する。
Massive MIMO
本発明の実施の形態に係るMassive MIMO伝送方式について説明する。多数の送信アンテナ素子を用いて無線通信を実行するMassive MIMOにおいては、多数ストリームの多重化によって高い無線通信速度(データレート)が実現される。また、ビームフォーミングを行う際のアンテナ制御の自由度が高まるため、従来よりも高度なビームフォーミングが実現される。そのため、干渉量の低減および無線リソースの有効利用が実現される。Massive MIMOに適応した無線送信局が備える送信アンテナ素子の数は、限定されないが、例えば32本以上であり、100本以上、1000本以上のこともある。
Massive MIMOでは、高周波数帯(例えば、10 GHz以上の周波数帯)を効果的に使用することができる。高周波数帯では、低周波数帯と比較して、高速通信に帰結する広い帯域幅(例えば、200 MHz以上)の無線リソースを確保しやすい。また、送信アンテナ素子の大きさは信号の波長に比例することから、無線信号の波長が短い高周波数帯を用いる場合には、送信アンテナ素子をより小型化することが可能である。一方、周波数が高いほど伝搬損失が増大するため、仮に同じ送信電力で基地局から無線信号を送信しても、高周波数帯を用いた場合には、低周波数帯を用いる場合と比較して、移動局における受信信号強度が低下する結果となる。しかしながら、高周波数帯を用いることによる受信信号強度の低下は、Massive MIMOのビームフォーミング利得により補償可能である。
図1は、周波数に応じたビーム(無線信号)の到達範囲を模式的に示す図である。従来の基地局1(例えば、マクロセル基地局)は、低周波数帯を用いて無線通信を行うので、Massive MIMOを実施せずに幅の広い放射パターンのビームを用いても遠くまでビームを到達させることができる。他方、高周波数帯を使用する基地局2は、Massive MIMOを実施せずに幅の広い放射パターンのビーム2Aを用いる場合には、遠くまでビームを到達させることができない。しかし、基地局2がMassive MIMOのビームフォーミングを利用し、これによって狭い放射パターンのビーム2Bを放出する場合には、より遠くまでビームを到達させることができる。
ビームフォーミングは、複数のアンテナ素子について、電波の振幅および位相を制御することによって、電波のビームに指向性を与える技術である。図2に示すように、各アンテナ素子に送信信号sが単に供給される場合には、これらのアンテナ素子から放射されるビーム2Aの幅は広く、遠くまでビームは到達しない。他方、各アンテナ素子に供給される送信信号sに適切なプリコーディングウェイトw1〜wn(nはアンテナ素子数)を与えることにより、幅が狭い1以上のビーム2B1,2B2がこれらのアンテナ素子から放射され、ビーム2B1,2B2はより遠くまで到達する。同時かつ同じ周波数を使用し、複数の無線受信局の各々に、1つ以上の送信ビームを向けることも可能である。アンテナ素子の数が多いほど、ビーム数を増加させ、ビームの幅を狭くし、ビームの方向を精度よく制御することができる。ビームの幅が狭いほど、高い利得が得られる(すなわち無線受信局では高い電力で信号を受信することができる)。
図3に示すように、ビームフォーミングで形成されるビーム2Bの形状は、アンテナ素子の配列により制約される。図3では、紙面に対して平行なビーム2Bの断面を示すが、実際のビーム2Bの形状は当然、立体的である。横方向一列にアンテナ素子が配列される場合には、縦方向に長く横方向に短い断面を持つビーム2Bが形成され、縦方向一列にアンテナ素子が配列される場合には、横方向に長く縦方向に短い断面を持つビーム2Bが形成される。縦横ともに複数列にアンテナ素子が配列される場合には、縦横に狭いビーム2Bが形成されうる。
ビームフォーミングは無線送信局で送信ビームを形成するために使われるだけではなく、無線受信局において受信アンテナセットで受信した信号にウェイトを与えることにより受信ビームを形成するためにも使われる。無線送信局でのビームフォーミングを送信ビームフォーミングと呼び、無線受信局でのビームフォーミングを受信ビームフォーミングと呼ぶ。
ヘテロジニアスネットワーク
図4は、Massive MIMOが使用される基地局の配置の例を示す。図4に示す無線通信ネットワークは、マクロセル基地局10、中央制御局(MME(Mobility Management Entity))12およびスモールセル基地局20を備える。マクロセル基地局10およびスモールセル基地局20は、ユーザ装置(移動局、UE(User Equipment))30と通信する。図4では、1つのユーザ装置30のみが図示されているが、各基地局は多数のユーザ装置30と通信する。
マクロセル基地局10は、Massive MIMOを使用しないが、低周波数帯(例えば、2 GHz帯)を使用し、そこから放出された電波は遠くまで到達する。図4において、符号10Aはマクロセル基地局10のマクロセルエリアを示す。マクロセル基地局10は広いカバレッジを有するので、ユーザ装置30と安定的に接続する。
スモールセル基地局20は、高周波数帯(例えば、10 GHz帯)を使用する。スモールセル基地局20はMassive MIMOを使用するが、そこから放出された電波の到達範囲(スモールセル基地局20のスモールセルエリア20A)は、マクロセルエリア10Aより小さい。そのため、スモールセル基地局20とユーザ装置30は見通し線(line-of-sight)で接続される可能性が高く、その場合には、スモールセル基地局20とユーザ装置30の間の無線チャネルでは周波数選択性が小さいであろう。スモールセル基地局20は、広い帯域幅(例えば、200 MHz以上)を使用し、高速通信に適する。
スモールセルエリア20Aがマクロセルエリア10Aに重なるように、スモールセル基地局20は配置される。スモールセルエリア20Aに入ったユーザ装置30はスモールセル基地局20と通信する。典型的には、スモールセル基地局20は多くのユーザ装置30が存在しトラフィック量が多いと予測されるホットスポットに配置されるであろう。図4では、1つのスモールセル基地局20のみが図示されているが、マクロセルエリア10Aには多数のスモールセル基地局20を配置することができる。このように、図示のネットワークは、カバレッジが異なる異種の基地局を有するヘテロジニアスネットワークである。
ユーザ装置30は、複数の基地局と同時に通信するMultiple Connectivityをサポートする機能を有する。典型的には、スモールセルエリア20Aに入ったユーザ装置30に対して、スモールセル基地局20は広い帯域幅による高速という長所を活用したデータ通信を行う一方、マクロセル基地局10はユーザ装置30との接続を維持したまま、ユーザ装置30に制御信号を送信し、ユーザ装置30からスモールセル基地局20との接続に必要な信号を受信する。この場合、マクロセル基地局10は、ユーザ装置30の無線通信ネットワークへの接続およびユーザ装置30のモビリティを維持する役割を果たす。つまり、スモールセル基地局20はUプレーン(user plane)を担当し、マクロセル基地局10はCプレーン(control plane)を担当する。スモールセル基地局20は、ユーザ装置30とデータ通信を行うだけでなく、データ通信に必要ないくつかの制御信号もユーザ装置30と交換してもよい。マクロセル基地局10とスモールセル基地局20は、上位レベルの制御情報を共有する。
マクロセル基地局10は、スモールセルエリア20Aに入ったユーザ装置30がスモールセル基地局20と通信するために必要な情報(サイドインフォメーション)をスモールセル基地局20に供給する。このようなマクロセル基地局10によるユーザ装置30とスモールセル基地局20の通信の支援をマクロアシストまたはネットワークアシストと呼ぶ。図4の例では、スモールセル基地局20とマクロセル基地局10は中央制御局12に接続されており、中央制御局12が両者の間の情報を中継する。但し、スモールセル基地局20とマクロセル基地局10は直接接続されていてもよい。
このネットワークでは、下りリンクの無線通信にはOFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)が使用され、上りリンクの無線通信にはSC−FDMA(Single Carrier-Frequency Division Multiple Access)が使用される。スモールセル基地局20の下りリンクの無線通信は、OFDMAの多重の利益に加え、MIMOの空間多重の利益を享受する。
図4の例では、マクロセル基地局10とスモールセル基地局20は同じ無線アクセス技術(RAT(Radio Access Technology))を使用する。例えば、マクロセル基地局10とスモールセル基地局20はLTE−Aまたはそれ以降の3GPP(Third Generation Partnership Project)の規格に準拠した通信を行ってもよい。しかし、マクロセル基地局10とスモールセル基地局20は、異なるRATを使用してもよい。例えば、マクロセル基地局10とスモールセル基地局20のいずれかが、Wi−Fi(登録商標)などの無線LANの規格に準拠した通信を行ってもよい。
以上のように、スモールセル基地局20が無線送信局であってよく、ユーザ装置30が無線受信局であってよい。但し、本発明に係る無線送信局は、スモールセル基地局20に限らず、複数の送信アンテナ素子とこれらの送信アンテナ素子から放出される電波のビームの方向を制御する機構を有する他の通信装置であってもよい。
ビームフォーミング技術
MIMOにおいてビームまたはストリームを制御する技術としては、アナログ送信ビームフォーミング(analog transmission beamforming)、デジタルプリコーディング(digital precoding)、およびこれらを組み合わせたハイブリッドビームフォーミング(hybrid beamforming)がある。
図5は、アナログ送信ビームフォーミングを行う基地局2のブロック図である。送信されるMストリームに相当するM系列の信号がアナログビームフォーマ40に供給される。アナログビームフォーマ40は、送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]をM系列の信号に適用し、NT系列の信号を生成する。この明細書において、[]は行列を示すために使用される。NTは送信アンテナ素子46の数である。送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]は、M行、NT列を有する。
アナログビームフォーマ40から出力されたNT系列の信号は、図示しない周波数変換器でアップコンバートされ、高周波回路42を経て、NT個の送信アンテナ素子46によってそれぞれ送信される。高周波回路42は、フィルタおよび電力増幅器を有する。図示しない周波数変換器は、アナログビームフォーマ40の前段に配置して、アナログビームフォーマ40に供給されるM系列の信号をアップコンバートしてもよい。
アナログビームフォーマ40はアナログ回路で実現される。図6はアナログビームフォーマ40の一例を示す回路図である。このアナログビームフォーマ40はMブランチを有しており、MブランチにはMストリームに対応するM系列の信号が供給される。
各ブランチはNTサブブランチを有し、各サブブランチはアナログ送信ビームフォーミングを実行するための可変移相器PSと振幅調整器AAを有している。図6において、各サブブランチは1つの点線の矩形で囲まれている。同じブランチに属するNTサブブランチには、送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]の1行のNT個のウェイトがそれぞれ与えられる。
またアナログビームフォーマ40は、NT個の加算器ADを有する。各加算器ADは1つの送信アンテナ素子46に対応する。各加算器ADは、各ブランチの1サブブランチに接続されており、これらのサブブランチの出力を加算する。かくして、アナログビームフォーマ40は、可変移相器PSと振幅調整器AAを使って、M系列の信号に送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]を乗算してNT系列の信号を生成する機能を果たす。すべての送信アンテナ素子#1〜#NTは協働して複数のストリーム#1〜#Mを送信する。各送信アンテナ素子46には、複数のストリーム#1〜#Mのための信号が供給されるのであり、加算器ADはこれらの複数の信号を加算する役割を果たす。アナログビームフォーマ40では、可変移相器PSで変更できる位相と振幅調整器AAで調整できる振幅が限定されるので、所定のビームしか形成することができない。
図7は、デジタルプリコーディングを行う基地局2のブロック図である。送信されるMストリームに相当するM系列のデジタルのベースバンド信号がデジタルプリコーダ44に供給される。デジタルプリコーダ44は、プリコーディングウェイト行列[P]をM系列のベースバンド信号に適用し、NT系列の信号を生成する。NTは送信アンテナ素子46の数である。プリコーディングウェイト行列[P]は、M行、NT列を有する。
デジタルプリコーダ44から出力されたNT系列の信号は、図示しないデジタルアナログ変換器でアナログ信号に変換され、高周波回路42を経て、NT個の送信アンテナ素子46によってそれぞれ送信される。高周波回路42は、フィルタおよび電力増幅器を有する。図示しないデジタルアナログ変換器でアナログ信号に変換されたNT系列の信号は、図示しない周波数変換器でアップコンバートされてもよい。
デジタルプリコーダ44は、DSP(Digital Signal Processor)などのデジタル信号処理によって実現される。図8はデジタルプリコーダ44の等価回路モデルを示す。この等価回路モデルはMブランチを有しており、MブランチにはMストリームに対応するM系列の信号が供給される。各ブランチはNT個の乗算器MPを有する。同じブランチに属するNT個の乗算器MPには、プリコーディングウェイト行列[P]の1行のNT個のウェイトがそれぞれ与えられる。この等価回路モデルは、NT個の加算器ADを有する。各加算器ADは1つの送信アンテナ素子46に対応する。各加算器ADは、各ブランチの1つの乗算器MPに接続されており、これらの乗算器MPの出力を加算する。この等価回路モデルと類似の方式で、デジタルプリコーダ44は、M系列の信号にプリコーディングウェイト行列[P]を乗算してNT系列の信号を生成する機能を果たす。実際のデジタルプリコーダ44は、デジタル信号処理によって実現されるので、ストリームの最適化のフレキシビリティが高い。
図9は、ハイブリッドビームフォーミングを行う基地局2のブロック図である。送信されるMストリームに相当するM系列のデジタルのベースバンド信号がデジタルプリコーダ44に供給される。デジタルプリコーダ44は、プリコーディングウェイト行列[P]をM系列のベースバンド信号に適用し、L系列の信号を生成する。Lは送信されるビームの数である。ここでのプリコーディングウェイト行列[P]は、L行、M列を有する。
デジタルプリコーダ44は、DSPなどのデジタル信号処理によって実現される。図10はデジタルプリコーダ44の等価回路モデルを示す。この等価回路モデルはMブランチを有しており、MブランチにはMストリームに対応するM系列の信号が供給される。各ブランチはL個の乗算器MPを有する。同じブランチに属するL個の乗算器MPには、プリコーディングウェイト行列[P]の1列のL個のウェイトがそれぞれ与えられる。この等価回路モデルは、L個の加算器ADを有する。各加算器ADは1つの送信アンテナ素子46に対応する。各加算器ADは、各ブランチの1つの乗算器MPに接続されており、これらの乗算器MPの出力を加算する。この等価回路モデルと類似の方式で、デジタルプリコーダ44は、M系列の信号にプリコーディングウェイト行列[P]を乗算して、L系列の信号を生成する機能を果たす。
デジタルプリコーダ44から出力されたL系列の信号は、図示しないデジタルアナログ変換器でアナログ信号に変換され、アナログビームフォーマ40に供給される。図示しないデジタルアナログ変換器でアナログ信号に変換されたL系列の信号は、図示しない周波数変換器でアップコンバートされてもよい。アナログビームフォーマ40は、送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]をL系列の信号に適用し、NT系列の信号を生成する。NTは送信アンテナ素子46の数である。ここでの送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]は、NT行、L列を有する。
アナログビームフォーマ40から出力されたNT系列の信号は、図示しない周波数変換器でアップコンバートされ、高周波回路42を経て、NT個の送信アンテナ素子46によってそれぞれ送信される。高周波回路42は、フィルタおよび電力増幅器を有する。図示しない周波数変換器は、アナログビームフォーマ40の後段に配置してもよいし、前段に配置してもよいし、両方に配置してもよい。
アナログビームフォーマ40はアナログ回路で実現される。図10はアナログビームフォーマ40の一例を示す回路図である。このアナログビームフォーマ40はLブランチを有しており、LブランチにはLビームに対応するL系列の信号が供給される。
各ブランチはNTサブブランチを有し、各サブブランチはアナログ送信ビームフォーミングを実行するための可変移相器PSと振幅調整器AAを有している。図10において、各サブブランチは1つの点線の矩形で囲まれている。同じブランチに属するNTサブブランチには、送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]の1列のNT個のウェイトがそれぞれ与えられる。
またアナログビームフォーマ40は、NT個の加算器ADを有する。各加算器ADは1つの送信アンテナ素子46に対応する。各加算器ADは、各ブランチの1サブブランチに接続されており、これらのサブブランチの出力を加算する。かくして、アナログビームフォーマ40は、L系列の信号に送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]を乗算してNT系列の信号を生成する機能を果たす。すべての送信アンテナ素子#1〜#NTは協働して複数のストリーム#1〜#Mのための複数のビーム#1〜#Lを送信する。各送信アンテナ素子46には、複数のビーム#1〜#Lのための信号が供給されるのであり、加算器ADはこれらの複数の信号を加算する役割を果たす。
図9に示すハイブリッドビームフォーミングを行う基地局においては、図11に示す手順で、送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]とプリコーディングウェイト行列[P]を決定する。第1段階では、基地局2は、プリコーディングウェイト行列[P]を固定したまま、送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]の候補を次々と変更し、異なるビームを次々と形成する。ユーザ装置30は、各ビームについて受信品質を測定するとともにチャネル推定を実行する。ユーザ装置30は最も受信品質が高い所定数のビームを選択し、選択されたビームを特定するための情報と、そのビームについてのチャネル推定結果(チャネル行列)を基地局2に教える。第2段階では、基地局2は、ユーザ装置30での最も高い受信品質をもたらした送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]を使用し、さらにユーザ装置30から通知されたチャネル行列に基づいて、プリコーディングウェイト行列[P]を決定する。この決定の手順は、後述する各種の実施の形態でも実施される。
PAPR低減の必要性
MIMOにおいては、無線送信局がビームフォーミングを行うので、複数の送信アンテナ素子46に供給される電気信号のうち特定の電気信号の電力が、他の送信アンテナ素子46に供給される電気信号の電力よりも極めて高くなることがある。一般に、無線送信局では、各送信アンテナ素子46に供給される電気信号の電力は電力増幅器で増幅される。電力増幅器は、入力と出力の線形性が維持される範囲があり、高い電力が供給されると、出力される信号に非線形歪みが生じ、このため通信品質が低下する。また、非線形歪みに起因して、所望の周波数とは異なる周波数成分が発生し、そのような周波数で電波が送信されることにより、他の機器または他のシステムへの干渉が増加する。
図7に示すデジタルプリコーディングを行う基地局については、従来考えられているPAPRの低減方式(非特許文献1〜4に開示)を適用することにより、PAPRが高くなりすぎないように抑圧することが考えられる。図12を参照し、デジタルプリコーディングを行う基地局でのPAPR抑圧の技術を説明する。
図12に示すように、この基地局では、デジタルプリコーダ44の出力であるNT系列の信号の電力を測定する。そして、電力測定結果に基づいて、デジタルプリコーダ44から出力されるNT系列の信号の電力のピークを低減するように、パラメータが制御される。好ましくは、すべてのNT系列の信号の電力が高周波回路42内の電力増幅器43の線形範囲にあるように、パラメータが制御される。図示例のパラメータはプリコーディングウェイト行列[P]である。
このようにPAPRが低減されるように調整されたプリコーディングウェイト行列[P]を用いて、デジタルプリコーダ44は、再びデジタルプリコーディングを行う。その出力結果は、高周波回路42に供給される。デジタルプリコーダ44から出力であるNT系列の信号の電力は高くなりすぎないように調整されている。したがって、特定の送信アンテナ素子46に供給される電気信号のPAPRが高くなりすぎることが防止される。
しかし、図9に示すハイブリッドビームフォーミングを行う基地局については、従来考えられているPAPRの低減方式を適用しても、特定の送信アンテナ素子46に供給される電気信号の電力が高くなりすぎないように抑圧することができるとは限らない。図13を参照し、ハイブリッドビームフォーミングを行う基地局でのPAPR抑圧の技術の欠点を説明する。
図13に示すように、この基地局では、デジタルプリコーダ44の出力であるNT系列の信号の電力を測定する。そして、電力測定結果に基づいて、デジタルプリコーダ44から出力されるNT系列の信号の電力のピークを低減するように、パラメータが制御される。図示例のパラメータはプリコーディングウェイト行列[P]である。
このようにPAPRが低減されるように調整されたプリコーディングウェイト行列[P]を用いて、デジタルプリコーダ44は、再びデジタルプリコーディングを行う。その出力結果であるL系列の信号は、図示しないデジタルアナログ変換器でアナログ信号に変換され、アナログビームフォーマ40に供給される。
アナログビームフォーマ40では、可変移相器PSによる位相回転が各信号に与えられ、さらに複数の信号が加算器ADで加算される。したがって、せっかくデジタルプリコーダ44の出力信号のPAPRが低減されていても、アナログビームフォーマ40から出力される信号は高い電力を有するかもしれない。上記の通り、特定の送信アンテナ素子46に供給される電気信号の電力が電力増幅器43の線形範囲より高い場合には、通信品質が低下してしまう。
本発明の実施の形態は、ハイブリッドビームフォーミングを実行し、複数の送信アンテナ素子46に供給される電気信号のPAPRを抑制することができる、無線送信局に関する。
第1の実施の形態
図14は、本発明の第1の実施の形態に係る無線送信局(例えば基地局)の構成を示す。この無線送信局は、デジタルプリコーダ44、アナログビームフォーマ40A、高周波回路42およびNT個の送信アンテナ素子46を有する。
送信されるMストリームに相当するM系列のデジタルのベースバンド信号(送信信号)がデジタルプリコーダ44に供給される。デジタルプリコーダ44は、プリコーディングウェイト行列[P]をM系列のベースバンド信号に適用し、L系列の信号を生成する。Mは2以上の整数である。Lは送信されるビームの数であり、2以上の整数である。ここでのプリコーディングウェイト行列[P]は、L行、M列を有する。デジタルプリコーダ44の機能の詳細は、図10を参照して上述した通りである。このようにして、デジタルプリコーダ44は、デジタルプリコーディングを実行する。デジタルプリコーダ44は、DSPなどのデジタル信号処理によって実現される。つまり、デジタルプリコーダ44は、デジタルプロセッサが図示しない記憶部に記憶されたコンピュータプログラムを実行し、そのコンピュータプログラムに従って機能することにより実現される機能ブロックである。
デジタルプリコーダ44から出力されたL系列の信号は、図示しないデジタルアナログ変換器でアナログ信号に変換され、アナログビームフォーマ40Aに供給される。図示しないデジタルアナログ変換器でアナログ信号に変換されたL系列の信号は、図示しない周波数変換器でアップコンバートされてもよい。アナログビームフォーマ40Aは、送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]をL系列の信号に適用し、NT系列の信号を生成する。NTは送信アンテナ素子46の数である。ここでの送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]は、NT行、L列を有する。アナログビームフォーマ40Aは、デジタルプリコーディングが施されたL系列の信号に対して、送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]に相当する位相および振幅の変化を付与するアナログ送信ビームフォーミングを実行する。
アナログビームフォーマ40Aから出力されたNT系列の信号は、図示しない周波数変換器でアップコンバートされ、高周波回路42を経て、NT個の送信アンテナ素子46によってそれぞれ送信される。高周波回路42は、フィルタおよび電力増幅器43を有する。図示しない周波数変換器は、アナログビームフォーマ40Aの後段に配置してもよいし、前段に配置してもよいし、両方に配置してもよい。送信アンテナ素子46は、アナログ送信ビームフォーミングが施されたNT系列の信号をL本のビームによって送信する。NTはLより大きいLの倍数である。高周波回路42は、NT個の電力増幅器43を有しており、各電力増幅器43は1つの送信アンテナ素子46に接続されている。NT系列の信号は、NT個の電力増幅器43でそれぞれ増幅され、NT個の送信アンテナ素子46に供給される。
さらに、この無線送信局は、電力測定部50、パラメータ制御部52およびウェイト生成部54を有する。電力測定部50は、デジタルプリコーダ44から出力されたL系列の信号の電力を測定する。
パラメータ制御部52およびウェイト生成部54は、デジタルプロセッサが図示しない記憶部に記憶されたコンピュータプログラムを実行し、そのコンピュータプログラムに従って機能することにより実現される機能ブロックである。パラメータ制御部52は、この実施の形態では、公知の手法によりプリコーディングウェイト行列[P]を生成し、これをデジタルプリコーダ44に供給する。ウェイト生成部54は、公知の手法により送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]を生成し、これをアナログビームフォーマ40Aに供給する。
パラメータ制御部52は、電力測定部50の測定結果に基づいて、デジタルプリコーダ44から出力されるL系列の信号の電力のピークを低減するように、プリコーディングウェイト行列[P]を調節する。具体的には、デジタルプリコーダ44から出力されるL系列のすべての信号の電力が閾値未満になるように、パラメータ制御部52はプリコーディングウェイト行列[P]を調節する。デジタルプリコーダ44から出力されるL系列のすべての信号の電力が閾値未満になったら、デジタルプリコーダ44から出力されるL系列の信号は、アナログビームフォーマ40A側に供給される。
アナログビームフォーマ40Aはアナログ回路で実現される。アナログ送信ビームフォーマ40AはLブランチを有しており、LブランチにはLビームに対応するL系列の信号が供給される。
各ブランチはNT/Lサブブランチを有しており、各サブブランチはアナログ送信ビームフォーミングを実行するための可変移相器PSと振幅調整器AAを有している。図14において、各サブブランチは1つの点線の矩形で囲まれている。各サブブランチは1個の送信アンテナ素子46に接続されている。各ブランチに供給されて位相および振幅が調整された信号は、NT/L個の送信アンテナ素子46に供給される。
アナログビームフォーマ40Aは、アナログビームフォーマ40(図9、図10、図13)と異なり、複数ブランチの信号を加算する加算器ADを有しない。可変移相器PSと振幅調整器AAを有する各サブブランチにおいて位相および振幅が調整された信号は、他のサブブランチの信号が加算されることなく、1個の送信アンテナ素子46に供給される。
このように各サブブランチの信号が他のサブブランチの信号に加算されずに1個の送信アンテナ素子46に供給されるアナログビームフォーマ40Aを便宜上、サブアレー型のアナログビームフォーマと呼ぶことにする。他方、各サブブランチの信号が他のサブブランチの信号に加算されて1個の送信アンテナ素子46に供給されるアナログビームフォーマ40を便宜上、フルアレー型のアナログビームフォーマと呼ぶことにする。
サブアレー型のアナログビームフォーマ40Aによれば、送信アンテナ素子#1〜#NTは複数のストリーム#1〜#Mのための複数のビーム#1〜#Lを送信する。しかし、各々がNT/Lサブブランチを有するL個のブランチは互いに独立しており、1つのビームはNT/L個の送信アンテナ素子46によって送信される。例えば、ビーム#1は送信アンテナ素子#1〜#NT/Lから送信され、ビーム#Lは送信アンテナ素子#NT+1−NT/L〜#NTから送信される。これは、加算器ADを有し、すべての送信アンテナ素子#1〜#NTが協働して個々のビームの各々を送信するようにしているフルアレー型のアナログビームフォーマ40とは対照的である。
次に、アナログビームフォーマ40Aにて使用される送信ビームフォーミングウェイト行列[W
T]を説明する。M系列のデジタルのベースバンド信号のベクトル
は下記の式で表すことができる。
N
T個の送信アンテナ素子46を有する送信アンテナセットからの送信信号ベクトル
は下記の式で表すことができる。
ここで[W
T]は送信ビームフォーミングウェイト行列であり、[P]はプリコーディングウェイト行列である。
N
T行、L列の送信ビームフォーミングウェイト行列[W
T]は下記の一般式(1)で表すことができる。
ここで、この行列の要素であるベクトル
は下記の式で表すことができる。
但し、サブアレー型のアナログビームフォーマ40Aにて使用されるN
T行、L列の送信ビームフォーミングウェイト行列[W
T]は下記の式(2)で表すことができる。
この式の矩形は、NT/L個の数値からなるベクトルを示す。L個の矩形には、異なるベクトルが入る。図14の点線の矩形で囲まれた各サブブランチにはそれぞれこれらの数値がウェイトとして与えられる。矩形で示されたベクトル以外のウェイトはゼロである。
同じブランチに属するNT/Lサブブランチには、この送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]の1列のNT/L個のウェイトがそれぞれ与えられる。かくして、アナログビームフォーマ40Aは、L系列の信号に送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]を乗算する効果を可変位相器と振幅調整器により実現し、NT系列の信号を生成する機能を果たす。
この実施の形態に係るサブアレー型のアナログビームフォーマ40Aにおいては、各々がNT/L個の送信アンテナ素子46に対応するLブランチがL本のビームをそれぞれ形成する。各送信アンテナ素子46に供給される信号の位相および振幅が他の送信アンテナ素子46に供給される信号とは独立に調整される。つまり、各サブブランチにおいて位相および振幅が調整された信号は、他のサブブランチの信号が加算されることなく、1個の送信アンテナ素子46に供給される。したがって、図13に示すフルアレー型のアナログビームフォーマ40と異なり、一旦、PAPRが低減されるように調整されたプリコーディングされた信号のPAPRをアナログビームフォーマ40Aは大幅に増加させることがない。このため、複数の送信アンテナ素子46に供給される電気信号、より正確には電力増幅器43に供給される電気信号のPAPRを抑制することができる。
この実施の形態において、送信されるビームの数Lは固定でもよいし可変でもよい。ビームの数Lが可変である場合には、ブランチの数、およびブランチを構成するサブブランチの数が変わるので、例えばスイッチなどの信号の進路を変更する要素を設ける必要がある。
第2の実施の形態
図15は、本発明の第2の実施の形態に係る無線送信局(例えば基地局)の構成を示す。第2の実施の形態は第1の実施の形態の修正である。図15において、図14と同じ構成要素を示すために同じ参照符号が使用され、これらの構成要素については詳細には説明しない。
この無線送信局は、第1の実施の形態の構成要素に加えて、信号測定部56を有する。信号測定部56はアナログビームフォーマ40Aによって位相および振幅が調整されたNT系列の信号(つまりすべてのサブブランチの信号)の電気的特性を測定する。測定される電気的特性は、典型的には電力であるが、電圧、電流、振幅であってもよい。この実施の形態では、信号測定部56は、各サブブランチの電力増幅器43で増幅されていない信号の電気的特性を測定する。
信号測定部56の測定結果はパラメータ制御部52に供給される。第1の実施の形態に関連して上記の通り、パラメータ制御部52は、電力測定部50の測定結果に基づいて、プリコーディングウェイト行列[P]を調節する。さらに、パラメータ制御部52は、信号測定部56の測定結果に基づいて、プリコーディングウェイト行列[P]を調節する。具体的には、アナログビームフォーマ40Aから出力されるNT系列のすべての信号の電力が閾値未満になるように、パラメータ制御部52はプリコーディングウェイト行列[P]を調節する。アナログビームフォーマ40Aから出力されるNT系列のすべての信号の電力が閾値未満になったら、アナログビームフォーマ40Aから出力されるNT系列の信号は、送信アンテナ素子46側に供給される。
この実施の形態によれば、アナログビームフォーマ40Aの可変移相器PSおよび振幅調整器AAの実際の特性に時間的な変動または誤差があったとしても、アナログビームフォーマ40Aの出力結果に基づいて、パラメータ制御部52がプリコーディングウェイト行列[P]を適切に調節する。したがって、複数の電力増幅器43に供給される電気信号のPAPRを適切に抑制することができる。
第3の実施の形態
図16は、本発明の第3の実施の形態に係る無線送信局(例えば基地局)の構成を示す。この無線送信局は、デジタルプリコーダ44、アナログビームフォーマ40、高周波回路42、NT個の送信アンテナ素子46、パラメータ制御部52、ウェイト生成部54および信号予測部58を有する。
デジタルプリコーダ44、高周波回路42および送信アンテナ素子46は、第1の実施の形態のそれらと同じである。デジタルプリコーダ44から出力されたL系列の信号は、図示しないデジタルアナログ変換器でアナログ信号に変換され、アナログビームフォーマ40に供給される。図示しないデジタルアナログ変換器でアナログ信号に変換されたL系列の信号は、図示しない周波数変換器でアップコンバートされてもよい。アナログビームフォーマ40は、ウェイト生成部54から与えられる送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]をL系列の信号に適用し、NT系列の信号を生成する。NTは送信アンテナ素子46の数である。ここでの送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]は、NT行、L列を有する。アナログビームフォーマ40は、デジタルプリコーディングが施されたL系列の信号に対して、送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]に相当する位相および振幅の変化を付与するアナログ送信ビームフォーミングを実行する。
アナログビームフォーマ40から出力されたNT系列の信号は、図示しない周波数変換器でアップコンバートされ、高周波回路42を経て、NT個の送信アンテナ素子46によってそれぞれ送信される。高周波回路42は、フィルタおよび電力増幅器43を有する。図示しない周波数変換器は、アナログビームフォーマ40の後段に配置してもよいし、前段に配置してもよいし、両方に配置してもよい。送信アンテナ素子46は、アナログ送信ビームフォーミングが施されたNT系列の信号をL本のビームによって送信する。NTはLより大きいLの倍数である。高周波回路42は、NT個の電力増幅器43を有しており、各電力増幅器43は1つの送信アンテナ素子46に接続されている。NT系列の信号は、NT個の電力増幅器43でそれぞれ増幅され、NT個の送信アンテナ素子46に供給される。
パラメータ制御部52およびウェイト生成部54は、デジタルプロセッサが図示しない記憶部に記憶されたコンピュータプログラムを実行し、そのコンピュータプログラムに従って機能することにより実現される機能ブロックである。パラメータ制御部52は、この実施の形態では、公知の手法によりプリコーディングウェイト行列[P]を生成し、これをデジタルプリコーダ44に供給する。ウェイト生成部54は、公知の手法により送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]を生成し、これをアナログビームフォーマ40に供給する。
アナログビームフォーマ40は、上記のフルアレー型のアナログビームフォーマである。アナログビームフォーマ40はアナログ回路で実現される。アナログ送信ビームフォーマ40はLブランチを有しており、LブランチにはLビームに対応するL系列の信号が供給される。
各ブランチはNTサブブランチを有しており、各サブブランチはアナログ送信ビームフォーミングを実行するための可変移相器PSと振幅調整器AAを有している。図16において、各サブブランチは1つの点線の矩形で囲まれている。
アナログビームフォーマ40は、NT個の加算器ADを有する。各加算器ADは1つの送信アンテナ素子46に対応する。各加算器ADは、各ブランチの1サブブランチに接続されており、これらのサブブランチの出力を加算する。かくして、アナログビームフォーマ40は、L系列の信号に送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]を乗算してNT系列の信号を生成する機能を果たす。すべての送信アンテナ素子#1〜#NTは協働して複数のストリーム#1〜#Mのための複数のビーム#1〜#Lを送信する。各送信アンテナ素子46には、複数のビーム#1〜#Lのための信号が供給されるのであり、加算器ADはこれらの複数の信号を加算する役割を果たす。
この実施の形態において、ウェイト生成部54がアナログビームフォーマ40に与える送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]は、NT行、L列を有し、一般式(1)の形態をとり、上記の式(2)のような多数のゼロウェイトを有する形態をとらない。同じブランチに属するNTサブブランチには、送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]の1列のNT個のウェイトがそれぞれ与えられる。
信号予測部58は、デジタルプロセッサが図示しない記憶部に記憶されたコンピュータプログラムを実行し、そのコンピュータプログラムに従って機能することにより実現される機能ブロックである。信号予測部58は、デジタルプリコーダ44から出力されたL系列の信号およびウェイト生成部54で生成された送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]に基づいて、アナログ送信ビームフォーマ40の出力であるNT系列の信号を予測する。つまり、信号予測部58は、デジタルプリコーダ44から出力されたL系列のデジタル信号に送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]を乗算して、NT系列の予測送信信号を生成する。NT系列の予測送信信号は、アナログビームフォーマ40で生成されるであろうNT系列の信号の予測である。
パラメータ制御部52は、信号予測部58の予測に基づいて、NT系列の予測送信信号(アナログビームフォーマ40で生成されるであろうNT系列の信号に対応する)の電力のピークを低減するように、プリコーディングウェイト行列[P]を調節する。具体的には、信号予測部58で生成されるNT系列のすべての信号の電力が閾値未満になるように、パラメータ制御部52はプリコーディングウェイト行列[P]を調節する。信号予測部58で生成されるNT系列のすべての信号の電力が閾値未満になったら、デジタルプリコーダ44から出力されるL系列の信号は、アナログビームフォーマ40側に供給される。
このようにして、アナログビームフォーマ40で使用される送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]に基づいて、PAPRが低減されるように調整されたプリコーディングウェイト行列[P]でプリコーディングされた信号が、アナログビームフォーマ40でアナログ送信ビームフォーミングを受ける。したがって、複数の送信アンテナ素子46に供給される電気信号、より正確には電力増幅器43に供給される電気信号のPAPRを抑制することができる。
第4の実施の形態
図17は、本発明の第4の実施の形態に係る無線送信局(例えば基地局)の構成を示す。第4の実施の形態は第3の実施の形態の修正である。図17において、図16と同じ構成要素を示すために同じ参照符号が使用され、これらの構成要素については詳細には説明しない。
この無線送信局は、第3の実施の形態の構成要素に加えて、信号測定部56を有する。信号測定部56はアナログビームフォーマ40によって位相および振幅が調整されたNT系列の信号の電気的特性を測定する。測定される電気的特性は、典型的には電力であるが、電圧、電流、振幅であってもよい。この実施の形態では、信号測定部56は、各サブブランチの電力増幅器43で増幅されていない信号の電気的特性を測定する。
信号測定部56の測定結果は信号予測部58に供給される。信号予測部58は、信号測定部56の測定結果に基づいて、アナログビームフォーマ40の可変移相器PSおよび振幅調整器AAの実際の特性パラメータを推定する。そして、信号予測部58は、ウェイト生成部54で生成される送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]を特性パラメータで補正する。次に、信号予測部58は、デジタルプリコーダ44から出力されたL系列の信号および補正された送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]に基づいて、アナログ送信ビームフォーマ40の出力であるNT系列の信号を予測する。つまり、信号予測部58は、デジタルプリコーダ44から出力されたL系列のデジタル信号に補正された送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]を乗算して、NT系列の予測送信信号を生成する。NT系列の予測送信信号は、アナログビームフォーマ40で生成されるであろうNT系列の信号の予測である。
パラメータ制御部52は、信号予測部58の予測に基づいて、NT系列の予測送信信号(アナログビームフォーマ40で生成されるであろうNT系列の信号に対応する)の電力のピークを低減するように、プリコーディングウェイト行列[P]を調節する。具体的には、信号予測部58で生成されるNT系列のすべての信号の電力が閾値未満になるように、パラメータ制御部52はプリコーディングウェイト行列[P]を調節する。
したがって、パラメータ制御部52は、信号測定部56の測定結果に基づいて、プリコーディングウェイト行列[P]を調節する。代替的な実施の形態として、信号測定部56の測定結果は、信号予測部58に供給されるのではなく、パラメータ制御部52に供給されてもよい。この場合、信号測定部56は、第3の実施の形態と同じ方式で、デジタルプリコーダ44から出力されたL系列のデジタル信号にウェイト生成部54で生成された送信ビームフォーミングウェイト行列[WT]を乗算して、NT系列の予測送信信号を生成し、パラメータ制御部52は、信号測定部56の測定結果に基づいて、アナログビームフォーマ40の可変移相器PSおよび振幅調整器AAの実際の特性パラメータを考慮して、予測送信信号を補正する。
いずれの場合にせよ、信号予測部58で生成されるNT系列のすべての信号の電力が閾値未満になったら、デジタルプリコーダ44から出力されるL系列の信号は、アナログビームフォーマ40側に供給される。
この実施の形態によれば、アナログビームフォーマ40の可変移相器PSおよび振幅調整器AAの実際の特性に時間的な変動または誤差があったとしても、アナログビームフォーマ40の出力結果に基づいて、パラメータ制御部52がプリコーディングウェイト行列[P]を適切に調節する。したがって、複数の電力増幅器43に供給される電気信号のPAPRを適切に抑制することができる。
この実施の形態において、信号測定部56によって測定されたいずれかの系列の信号の電力がある閾値を超えると、信号送信を停止するようにしてもよい。この目的のため、高周波回路42と送信アンテナ素子46の間に図15に示すものと同様のスイッチを設けてもよい。
他の修正
図18は上記の実施の形態のいずれにも適用可能な修正が行われた無線送信局の一部を示す。上記の実施の形態においては、パラメータ制御部52は、電力測定部50の測定結果または信号予測部58の予測に基づいて、デジタルプリコーダ44で使用されるプリコーディングウェイト行列[P]を調節する。しかし、パラメータ制御部52は、電力測定部50の測定結果または信号予測部58の予測に基づいて、デジタルプリコーダ44に入力されるM系列のデジタルのベースバンド信号(送信信号)の生成のためのパラメータを調節してもよい。図18に示すように、パラメータ制御部52は、M系列のデジタルのベースバンド信号を生成するデジタル信号生成部60に、ベースバンド信号の生成のための調節されたパラメータを供給する。パラメータ制御部52は、プリコーディングウェイト行列[P]を調節し、さらにベースバンド信号の生成のためのパラメータを調節してもよい。
この場合、パラメータ制御部52が調節するパラメータは、従来考えられているPAPRの低減方式(非特許文献1〜4に開示)に従ってよい。例えば、パラメータ制御部52は、PAPRが減るような値(パラメータ)をベースバンド信号の少なくともいずれかに加算してもよい。パラメータ制御部52は、クリップ閾値(パラメータ)を用いてクリッピングしてもよい。パラメータ制御部52は、PAPRが減るような位相回転量(パラメータ)を用いて、OFDMサブキャリア毎に異なる位相回転を与えてもよい。パラメータ制御部52は、PAPRが減るようなシフト量(パラメータ)を用いて、OFDMサブキャリア毎に異なるサイクリックシフトを与えてもよい。上記のPAPRの低減方式は、例示のために記載したのであって、他のPAPRの低減方式に従って、パラメータ制御部52はパラメータを調節してもよい。
パラメータ制御部52は、電力測定部50の測定結果または信号予測部58の予測に基づいて、複数のPAPRの低減方式のいずれか1つ以上を選択し、選択されたPAPRの低減方式に従ってパラメータを調節してもよい。例えば、電力測定部50で測定されるPAPRが低いレベルであれば、パラメータ制御部52はある低減方式を選択し、電力測定部50で測定されるPAPRが高いレベルであれば、パラメータ制御部52は他の低減方式を選択し、電力測定部50で測定されるPAPRが極めて高いレベルであれば、パラメータ制御部52は2つの低減方式を選択してもよい。例えば、信号予測部58で予測されるPAPRが低いレベルであれば、パラメータ制御部52はある低減方式を選択し、信号予測部58で予測されるPAPRが高いレベルであれば、パラメータ制御部52は他の低減方式を選択し、信号予測部58で予測されるPAPRが極めて高いレベルであれば、パラメータ制御部52は2つの低減方式を選択してもよい。
図19は上記の第2の実施の形態および第4の実施の形態、ならびに後述する図20および図21に示される修正のいずれにも適用可能な修正が行われた無線送信局の一部を示す。第2の実施の形態(図15)および第4の実施の形態(図17)では、信号測定部56は、各サブブランチの電力増幅器43で増幅されていない信号の電気的特性を測定する。これに加えてあるいはこれに代えて、信号測定部56は、各サブブランチの電力増幅器43で増幅された信号の電気的特性を測定してもよい。図19は、信号測定部56は、各サブブランチの電力増幅器43で増幅されていない信号と電力増幅器43で増幅された信号を測定することを示す。
このように信号測定部56が各サブブランチの電力増幅器43で増幅された信号の電気的特性を測定する場合には、パラメータ制御部52は、電力増幅器43の出力が電力増幅器43の非線形歪みの影響を受けたか否かを判断することができる。つまり、パラメータ制御部52は、電力増幅器43への入力が高すぎたか否かを判断することができる。パラメータ制御部52は、この判断に基づいて、ベースバンド信号の生成のためのパラメータおよびプリコーディングウェイト行列[P]の少なくともいずれかをより適切に制御することができる。
図20は、本発明の第3の実施の形態の修正に係る無線送信局の構成を示すブロック図である。この無線送信局は、アナログビームフォーマ40の代わりにアナログビームフォーマ40Bを有する。アナログビームフォーマ40Bは、アナログ回路で実現される。アナログビームフォーマ40Bは、図14のサブアレー型のアナログビームフォーマ40Aに類似するが、アナログビームフォーマ40Aと異なり、NT個の加算器ADを有する。
NT個の加算器ADはNT個のサブブランチ(各サブブランチは1つの点線の矩形で囲まれている)の後段にそれぞれ設けられている。各加算器ADは、その加算器が設けられたブランチに属するNT/Lサブブランチから出力された信号を加算する。各サブブランチにおいて位相および振幅が調整された信号には、他のブランチの信号が加算されないが、同じブランチに属するサブブランチから出力された信号が加算される。各加算器ADの出力信号は1個の送信アンテナ素子46に供給される。他の特徴は第3の実施の形態と同じであり、第3の実施の形態と同じ効果が達成される。図20に示す修正は、第4の実施の形態にも適用してもよい。
図21は、本発明の第3の実施の形態の他の修正に係る無線送信局の構成を示すブロック図である。この無線送信局は、アナログビームフォーマ40の代わりにアナログビームフォーマ40Cを有する。アナログビームフォーマ40Cは、アナログ回路で実現される。アナログビームフォーマ40Cは、2段階の位相および振幅調整を行う。アナログビームフォーマ40Cは、図16のフルアレー型のアナログビームフォーマ40に類似する部分を有するが、加算器ADの数はNT個である。アナログ送信ビームフォーマ40CはLブランチを有しており、LブランチにはLビームに対応するL系列の信号が供給される。各ブランチはNTサブブランチを有しており、各サブブランチは可変移相器PSと振幅調整器AAを有している。各加算器ADは、各ブランチの1サブブランチに接続されており、これらのサブブランチの出力を加算する。
NT個の加算器ADの各々の出力は、NT/L系統の位相・振幅調整部に供給される。各位相・振幅調整部は可変移相器PSと振幅調整器AAを有している。各位相・振幅調整部は、加算器を介さずに、1個の送信アンテナ素子46に接続されている。他の特徴は第3の実施の形態と同じであり、第3の実施の形態と同じ効果が達成される。図21に示す修正は、第4の実施の形態にも適用してもよい。
無線送信局において、デジタルプリコーダ44以外のデジタルプロセッサが実行する各機能は、デジタルプロセッサの代わりに、ハードウェアで実行してもよいし、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array),DSP(Digital Signal Processor)等のプログラマブルロジックデバイスで実行してもよい。
前記の実施の形態および変形は、矛盾しない限り、組み合わせてもよい。