JP6445958B2 - 自動車用アルミニウム合金鍛造材 - Google Patents
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Description
特許文献1には、この発明により、Al−Mg−Si系Al合金の人工時効処理方法において、既存の設備を用いて熱処理条件の組み合わせにより、人工時効処理時間を短縮することができると記載されている。また、特許文献1には、この発明により、十分な機械的強度や色調を有する製品を得ることができるので、生産性の向上を図ることができると記載されている。
なお、特許文献1に記載されているAl合金は機械的性質として、耐力が184〜190MPa、引張強さが214〜217MPaであることが示されている。
特許文献2には、この発明により、従来の熱処理方法に比べて合金の強度を短時間に高めることができると記載されている。また、特許文献2には、エネルギー費削減によるコストダウン及び生産性向上を図ることができ、経済的に大きな効果が望めると記載されている。
なお、特許文献2に記載されているAl合金は機械的性質として、耐力が約196〜206MPa(約20〜21kg/mm2)、引張強さが約221〜230MPa(約22.5〜23.5kg/mm2)であることが示されている。
特許文献3には、この発明により、人工時効処理条件の変動、その前段階の自然時効処理条件の変動による耐力値のばらつきを低減することができると記載されている。さらに、特許文献3には、その後の合金材の加工精度を向上させることができ、また、耐力値のばらつきが小さいことから、目標の耐力値を得るための人工時効処理条件の選定や最適化が容易になると記載されている。
なお、特許文献3に記載されているAl合金は人工時効処理を2回行ったものの0.2%耐力値が131〜145MPaとなることが示されている。
なお、特許文献1〜3に記載の発明はいずれも一段目の人工時効処理及び二段目の人工時効処理を行うものであるが、それぞれの文献中に、一段目の人工時効処理の後に冷却処理を行っているか否か記載がない。冷却処理を行っているのであればその旨が記載されているはずなので、いずれも冷却処理を行っていないと推察される。
以下、本発明に係る自動車用アルミニウム合金鍛造材(以下、単に「鍛造材」と呼称することがある)を実施するための形態について詳細に説明する。
本発明に係る鍛造材は、Mg:0.70〜1.50質量%、Si:0.60〜1.50質量%、Cu:0.20〜0.70質量%、Ti:0.001〜0.100質量%含有している。また、本発明に係る鍛造材は、Mn:0.01〜0.80質量%、Cr:0.10〜0.30質量%及びZr:0.05〜0.25質量%のうちの二種以上を含有している。本発明に係る鍛造材の残部はAl及び不可避的不純物である。
そして、本発明に係る鍛造材は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)の観察面(TEM像)において、円相当径が2〜10nmである針状析出物の数密度を30000個/μm3以上としている。
以下、これらの構成要素について以下詳細に説明する。
Mg、Si、Cuはいずれも針状析出物を析出させ易くする。本発明においては、Mgを0.70〜1.50質量%、Siを0.60〜1.50質量%、及びCuを0.20〜0.70質量%含有することによって針状析出物の数密度を高くすることができ、鍛造材の高強度化を図ることができる。
Mg、Si及びCuのうちいずれか一つでも前記下限値未満となると、針状析出物の数密度が不十分となり、鍛造材の強度が不足する。
その一方で、Mg及びSiのうちいずれか一つでも前記上限値を超えると、人工時効処理によって伸びが低くなる。また、Cuが前記上限値を超えると、耐食性が低下する。
より高強度化を図る観点から、Mgは0.80質量%以上とするのが好ましく、0.85質量%以上とするのがより好ましい。同様の観点から、Siは0.90質量%以上とするのが好ましく、1.00質量%以上とするのがより好ましい。また、同様の観点から、Cuは0.35質量%以上とするのが好ましく、0.40質量%以上とするのがより好ましい。
さらに、伸びを高くする観点から、Mgは1.40質量%以下とするのが好ましく、1.30質量%以下とするのがより好ましい。同様の観点から、Siは1.30質量%以下とするのが好ましく、1.20質量%以下とするのがより好ましい。また、耐食性を高くする観点から、Cuは0.60質量%以下とするのが好ましく、0.50質量%以下とするのがより好ましい。
Tiは鋳造後の結晶粒を微細化する。本発明においては、Tiを0.001〜0.100質量%含有することで結晶粒微細化による鍛造材の高強度化を図ることができる。
Tiが前記下限値未満となると、結晶粒を微細化する効果が十分得られず、鍛造材を高強度化することができない。
その一方で、Tiが前記上限値を超えると、鋳造時に粗大な晶出物(金属間化合物)が生じて伸びが低下するおそれがある。
より高強度化を図る観点から、Tiは0.010質量%以上とするのが好ましく、0.020質量%以上とするのがより好ましい。
伸びを高くする観点から、Tiは0.050質量%以下とするのが好ましく、0.040質量%以下とするのがより好ましい。
Mn、Cr、及びZrは、針状析出物のサイズを所定の範囲に調整すると共に、鍛造材の結晶粒を微細化し、高強度化する。本発明においては、高強度化のため、Mnを0.01〜0.80質量%、Crを0.10〜0.30質量%及びZrを0.05〜0.25質量%のうちの二種以上を含有する必要がある。
Mn、Cr、及びZrをいずれも含有していない場合、Mn、Cr、及びZrのうちの二種以上を含有してはいるが、いずれも前記下限値未満の場合、及び前記範囲で含有してはいるが、いずれか一つしか含有していない場合は、いずれも前記効果を十分に得ることができず、高強度化することができない。
その一方で、Mn、Cr、Zrのうちの二種以上を含有している場合であっても、含有している元素の含有量が一つでも前記上限値を超えていると、鋳造時に粗大な晶出物(金属間化合物)が生じて伸びが低くなるおそれがある。
より高強度化を図る観点から、Mnは0.10質量%以上とするのが好ましく、0.30質量%以上とするのがより好ましい。同様の観点から、Crは0.12質量%以上とするのが好ましく、0.15質量%以上とするのがより好ましい。また、同様の観点から、Zrは0.07質量%以上とするのが好ましく、0.10質量%以上とするのがより好ましい。
さらに、伸びを高くする観点から、Mnは0.70質量%以下とするのが好ましく、0.60質量%以下とするのがより好ましい。同様の観点から、Crは0.20質量%以下とするのが好ましい。また、同様の観点から、Zrは0.20質量%以下とするのが好ましく、0.15質量%以下とするのがより好ましい。
また、より高強度化を図る観点から、Mn、Cr、及びZrの合計量は0.25質量%以上とするのが好ましく、0.30質量%以上とするのがより好ましい。
他方、より伸びを高くする観点から、Mn、Cr、及びZrの合計量は1.00質量%以下とするのが好ましく、0.90質量%以下とするのがより好ましい。
本発明に係る鍛造材の残部はAl及び不可避的不純物である。不可避的不純物は、溶解時などにおいて不可避的に混入する不純物である。本発明における不可避的不純物としては、例えば、Zn、Fe、Ni、V、Naなどを挙げることができる。本発明においては、鍛造材の諸特性を害さない範囲でこれらの不可避的不純物を含有させることができる(許容される)。不可避的不純物として許容される含有量は、Znであれば0.25質量%未満、Feであれば0.3質量%以下、Niであれば0.05質量%以下、Vであれば0.05質量%以下、Naであれば0.05質量%以下である。なお、本発明においては、本発明に係る鍛造材の効果に悪影響を与えない範囲で、これらの不可避的不純物に加えて、さらに他の元素が例えば0.05質量%を上限に含有されていてもよい。
針状析出物の数密度は鍛造材の強度に影響を与える。一定サイズ以上の針状析出物の数密度が高いほど鍛造材の強度が高くなる。ここで、図1及び図2を参照して鍛造材に析出した針状析出物について説明する。図1は、鍛造材の断面のTEM像である。図2は、図1のTEM像を元にして、鍛造材に析出した析出物の様子を分かり易く図示した説明図である。
鍛造材から採取した薄膜試料を用い、過塩素酸:エタノール=1:9の溶液と、硝酸:メタノール=1:3の溶液と、を用いた電解研磨法によって電解研磨し、透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察することで、針状析出物のサイズ測定と数密度の計数を行うことができる。TEMはどのようなものも用いることができるが、例えば、日本電子製のJEM−2100を使用するのが好ましい。TEM像の撮影は、120kVの加速電圧で薄膜試料の母相に対して電子ビームを<001>方向から入射し、観察面を(200)として5視野観察するのが好ましい。観察の倍率は50万倍とするのが好ましい。観察箇所は、等厚干渉縞から観察部の厚さを測定し、厚さが1μm以下となる箇所のみとするのが好ましい。
針状析出物のサイズ測定と数密度の計数は、画像解析ソフトwinroof(三谷商事、バージョン6.3)を用いて行うのが好ましい。針状析出物のサイズは、点状に見える針状析出物(つまり、アスペクト比が1〜2であり、円相当径が2〜10nmである針状析出物)の円相当径で算出するのが好ましい。
また、TEM観察にて等厚干渉縞から観察部の厚さを測定しておき、測定範囲の面積と掛けることでTEM観察領域の表面で観察された体積を算出すると共に、針状析出物の数は点状に見える針状析出物の数を全てカウントして3倍したものを針状析出物の個数とする。そして、この個数を単位体積あたりに換算することで析出物の数密度(個/μm3)として求めることができる。
以上に説明した本発明に係る鍛造材の製造方法は特定のものに限定されず、種々の態様が考えられるが、好ましい製造方法の一例を説明すると、以下のようなものとなる。なお、本発明に係る鍛造材は、鍛造材の製造が行われる一般的な製造設備で製造することができる。
そして、この状態で二段目の人工時効処理を高温で行うと、図4Bに示す如く、高密度に析出させた針状析出物を高強度化に寄与するサイズまで成長させることができる。つまり、円相当径が2〜10nmである針状析出物の数密度を30000個/μm3以上形成することができる。
なお、図5は、一般的に行われる鍛造材の製造方法における溶体化熱処理、焼入れ処理、人工時効処理の温度の推移を図示した説明図である。図5に示すように、人工時効処理を1回だけ行って高強度化を図る場合、人工時効処理を200℃前後で数時間(例えば、175℃×8hr)行うことが多い。しかし、このようにすると、図6に示すように、針状析出物は高強度化に寄与できるサイズまで大きく成長するものの、その数密度は低いものとなってしまうため、鍛造材の強度が不足する。二段目の人工時効処理を行う場合であっても、一段目の人工時効処理との間に冷却処理を行わない場合、一段目及び二段目の人工時効処理が上記条件を満たさない場合もこれと同様の理由で鍛造材の強度が不足する。
そして、焼入れ処理を行った鍛造材に対し、一段目の人工時効処理と、冷却処理と、二段目の人工時効処理と、を表2に示す条件で行い、No.1〜24に係る試験材を製造した。
No.1〜24に係る試験材から薄膜試料を採取し、過塩素酸:エタノール=1:9の溶液と、硝酸:メタノール=1:3の溶液と、を用いた電解研磨法によって電解研磨し、TEM観察を行った。TEMは日本電子製のJEM−2100を使用した。TEM像の撮影は、120kVの加速電圧で薄膜試料の母相に対して電子ビームを<001>方向から入射し、観察面を(200)として5視野観察した。観察の倍率は50万倍とした。観察箇所は、等厚干渉縞から観察部の厚さを測定し、厚さが1μm以下となる箇所のみとした。
また、TEM観察にて等厚干渉縞から観察部の厚さを測定しておき、測定範囲の面積と掛けることで体積を算出すると共に、針状析出物の数は点状に見える針状析出物の数を全てカウントして3倍したものを針状析出物の個数とした。そして、この個数を単位体積あたりに換算することで針状析出物の数密度(個/μm3)を求めた。
また、No.1〜24に係る試験材からJIS Z 2241:2011に準拠して試験片を作製し、金属材料引張試験を行うことにより、引張強度(MPa)、耐力(MPa)、伸び(%)を求めた。引張強度が420MPa以上であり、耐力が390MPa以上であり、伸びが9%以上であるものを高強度である(合格)と評価し、引張強度、耐力及び伸びのうちのいずれか一方でも前記基準未満となったものを高強度ではない(不合格)と評価した。これらの試験結果を表3に示す。
さらに、No.1〜24に係る試験材の耐食性を以下のようにして評価した。
耐食性は、JIS H 8711:2000に準拠して応力腐食割れ試験(SCC試験)を行うことで評価した。具体的には、No.1〜24に係る試験材からJIS H 8711:2000に規定されているC−リング試験片を作製し、交互浸漬法(塩水交互浸漬20日)にて評価した。負荷応力200MPaにて5個中5個割れが発生しなかったものを耐食性が好ましい(○)と評価し、1個でも割れたものを耐食性が好ましくない(×)と評価した。耐食性の評価結果を表3に示す。
No.11に係る試験材は、Siが少なかったので、針状析出物の数密度が低くなった。そのため、No.11に係る試験材は高い強度を得ることができなかった。
No.12に係る試験材は、Cuが少なかったので、針状析出物の数密度が低くなった。そのため、No.12に係る試験材は高い強度を得ることができなかった。
No.13に係る試験材は高い強度を有していたものの、Cuが多かったため耐食性に劣っていた。
No.18に係る試験材はMnが多く、No.19に係る試験材はCrが多く、そして、No.20に係る試験材はZrが多かったので、それぞれ粗大な晶出物が生じた。また、No.20は針状析出物の数密度が低かった。そのため、No.18〜20に係る試験材はいずれも高い強度を得ることができなかった。
No.21に係る試験材は、Tiが多かったので、粗大な晶出物が生じた。そのため、No.21に係る試験材は高い強度を得ることができなかった。
Claims (1)
- Mg:0.70〜1.50質量%、Si:0.60〜1.50質量%、Cu:0.20〜0.70質量%、Ti:0.001〜0.100質量%含有すると共に、
Mn:0.01〜0.80質量%、Cr:0.10〜0.30質量%及びZr:0.05〜0.25質量%のうちの二種以上を含有し、
残部がAl及び不可避的不純物であり、
円相当径が2〜10nmである針状析出物の数密度が30000個/μm3以上であることを特徴とする自動車用アルミニウム合金鍛造材。
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