JP6443206B2 - ステンレス鋳片の製造方法 - Google Patents
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Description
耐食性の向上には、鋼成分の影響が大きいが、さびの起点となる異物(介在物など)による初期の発銹性の改善も有効である。
初期の発銹については、異物と地金との界面でのさびの発生が課題であり、特に介在物がさびの起点となり易い。例えば、CaS(硫化カルシウム)は、さびの起点となるため、CaS介在物の生成抑制が必要である。
以下、従来のステンレス鋼の製造方法を示す。
また、特許文献2には、さびの起点となる介在物、特にCaO系酸化物の量とCaO濃度を、ある値以下に制御する技術が開示されている。
そして、特許文献3には、連続鋳造時のノズル閉塞(ノズル詰まり)を防止する技術の代表例が開示されており、金属Ca分を添加して介在物の組成を低融点化することを、主要な要件としている。
特許文献1の技術は、本発明者らの知見では、極低硫鋼を製造できる場合はあるものの、極低硫鋼を安定に製造することができず、溶鋼の到達S濃度を安定して低位とすることができないため、耐食性を安定して向上できない。
特に、脱硫に影響を与えるMnO、FeO、SiO2の濃度が高い場合には、十分な脱硫効果を得られないことが、本発明者らの知見により判明した。
更に、ステンレス鋳片を連続鋳造する際にノズル閉塞が発生する場合があり、生産性と歩留の低下の課題がある。また、ノズル閉塞の発生により、連続鋳造用鋳型内の溶鋼流が不安定となり、溶鋼湯面に浮上している介在物が溶鋼中に巻き込まれ、介在物起因によるさびが発生することも、強く懸念される。
また、介在物中のCaO濃度を低く制御する場合には、連続鋳造時にノズル閉塞が多発することも判明した。
前記取鍋精錬後の前記溶鋼中のAl濃度を0.04質量%以上とし、かつ、前記取鍋内スラグの組成を、
1.2≦(質量%CaO)/(質量%Al2O3)≦1.5、
3質量%≦(質量%MgO)≦10質量%、
(質量%SiO2)≦4.0質量%、及び、
(質量%CaO)+(質量%Al2O3)+(質量%MgO)≧95質量%、
とする。
本発明者らは、耐食性の向上には、発銹の起点となるCaS介在物の生成抑制が有効であるが、このCaS介在物の生成抑制のために、溶鋼の低S濃度化と共にCaS生成のCa源となるスラグ中のCaO濃度の低下が有効であることを知見した。
例えば、Caを含む介在物には、1)スラグ粒子を巻き込んだもの、2)スラグ中のCaOと溶鋼中のAlとが反応して溶鋼中に溶け出したCa分が、Al2O3と反応してCaO−Al2O3系介在物となるもの、がある。
なお、最終的な介在物の組成は、Al濃度とスラグ組成(CaO濃度)で略決まる。
また、スラグ中のCaO濃度の低下は、脱硫能を持つ成分の濃度を低下させることになるため、S濃度の低減に悪影響を及ぼす原因にもなり得る。
以上のことから、本発明者らは、耐食性の向上と連続鋳造時のノズル閉塞の抑制(更には、防止)とが、両立し難い課題であることを知見し、本発明に想到した。
なお、上記した連続鋳造は、取鍋精錬により溶製した溶鋼をタンディッシュに供給した後、このタンディッシュ下部に設けられたノズル(浸漬ノズル)を介して鋳型(連続鋳造用鋳型)に供給することで行う。また、「(質量%CaO)/(質量%Al2O3)」は「C/A」、「(質量%MgO)」は「M」、「(質量%SiO2)」は「S」、「(質量%CaO)+(質量%Al2O3)+(質量%MgO)」は「C+A+M」とも記載する。
以下、詳しく説明する。
脱硫におけるS濃度は、脱硫能とスラグ滓化性によって決定される。
そこで、耐食性向上のためにスラグ中のCaOを低減し(即ち、C/A≦1.5)、これによって低減した脱硫能はその他の成分の制御により補完し(即ち、S≦4.0質量%、(C+A+M)≧95質量%)、更にはスラグ滓化性の向上によって(即ち、M≦10質量%)、低S濃度を維持することとした。
併せてCaO低減によるノズル閉塞の発生については、スラグのCaO濃度の低減に限界値を設けて(即ち、1.2≦C/A)、抑制した。
更に、溶鋼中の金属Al濃度を所定量確保すること(即ち、Al≧0.04質量%)、並びに、スラグのMgO濃度を制御することで(即ち、3質量%≦M)、ノズル閉塞を抑制した。
詳細は、以下の通りである。
これに対し、上記したように、溶鋼中の金属Al濃度とスラグのMgO濃度を所定量確保すると、金属AlによるMgOの還元によって溶鋼中に生成した金属Mgにより、スピネル介在物の増加とMgO介在物の生成とを促進でき、これら介在物が主体となり、Al2O3単独の介在物が減少するため、ノズル閉塞を抑制できる。
ステンレス鋳片のS濃度の低下により、ステンレス鋳片の耐食性を劣化させるCaS介在物を減少できる。
そこで、ステンレス鋳片のS濃度を0.003質量%以下(好ましくは、0.002質量%以下、更に好ましくは、0.0015質量%以下)とした。
なお、ステンレス鋳片のS濃度は、低ければ低いほど耐食性を向上できるため、下限値については特に規定していないが、例えば、0.0005質量%程度である。
溶鋼中のAl(金属Al)は、後述するスラグ中のMgOを還元するため、前記したように、ノズル閉塞の抑制が可能となる。
そこで、この効果を得るためには、溶鋼中のAl濃度を0.04質量%以上にする必要がある。
しかし、0.07質量%を超えると、溶鋼中の金属Alはスラグ中のCaOを還元し、溶鋼中に溶出する金属Caが介在物中のCaO濃度を高め、介在物の一部がCaO−Al2O3−MgO介在物となる。この介在物は、ノズル閉塞の原因にはならず、また、CaS介在物程度の顕著な発銹の起点にはならないものと考えられるものの、用途によっては発銹起点になり得る懸念がある。
即ち、溶鋼中のAl濃度を0.07質量%以下(好ましくは、0.06質量%以下)とすることで、CaO−Al2O3−MgO介在物の生成を抑制でき、本発明の効果が顕著になる。
C/Aは、相対的なCaO濃度を示す指標であり、CaSの生成を抑制するため、1.5以下(好ましくは、1.4以下)とした。
また、C/Aを低減し過ぎると、相対的にスラグ中のAl2O3濃度が増加し、溶鋼中のAl2O3単独の介在物の個数が増加して、ノズル閉塞が発生するため、下限値を1.2とした。
スラグ中のMgOは、溶鋼中の金属Alと反応することで、上記したように、ノズル閉塞の抑制が可能となる。このため、スラグ中のMgO濃度の下限値を3質量%(好ましくは、5質量%)とした。
しかし、スラグ中のMgO濃度が高過ぎると、スラグの滓化性が低下し、溶鋼のS濃度が増加する原因となるため、上限値を10質量%とした。
SiO2は、脱硫能の維持向上には有効であると言われている。
本発明者らは、スラグ中のAl2O3濃度とSiO2濃度に対する脱硫能の依存性を調査した。その結果、脱硫能は、Al2O3濃度の変動よりもSiO2濃度の変動に敏感であることが判明した。
従って、SiO2濃度の上限値を4.0質量%としたが、特に、より安定して脱硫能を向上するには、3.5質量%以下、更には3.0質量%以下にすることが好ましい。
以上のことから、下限値については特に規定していないが、例えば、0.5質量%程度である。
スラグのCaO濃度を低減することで、スラグの脱硫能は低下しうるが、「C+A+M」を95質量%以上とすることで、脱硫能の低下抑制や維持向上ができる。詳細には、FeO、MnO、Cr2O3、SiO2等の脱硫能に悪影響を与える成分の質量割合を、相対的に低下させることで、脱硫能の低下抑制や維持向上ができる。
なお、上限値については、上記したSiO2濃度等によって決まる。
転炉での脱炭吹錬後に、二次精錬装置(脱ガス装置)を用いて極低炭素化のために更なる脱炭処理を行った溶鋼を、二次精錬装置(CAB)を用いてスラグ還元(取鍋内スラグ中のCr酸化物の還元)と脱酸を行い、引き続き脱硫処理を行った。この脱硫処理した溶鋼の合金成分を調整(以上、二次精錬)した後、溶製した溶鋼を、取鍋からタンディッシュへ供給し、連続鋳造機で鋳造(連続鋳造)して、ステンレス鋳片(鋳片)を製造した。
取鍋底部からArガスを用いたバブリングを行いながら、CaOとAlを添加した。なお、ここでは、スラグ還元のために十分な撹拌時間を確保した後、脱硫処理のためにCaOやAlなどの調整を行った。そして、脱硫処理の完了後に、合金成分を調整した。
この合金成分の調整後にサンプリングして、溶鋼成分やスラグ組成を分析した。
舟型のタンディッシュに溶鋼を受けて、1ストランドの湾曲型の連続鋳造機で鋳造した。ここで、タンディッシュから連続鋳造機の鋳型に溶鋼を注入する浸漬ノズルは、アルミナグラファイトを主成分とし、溶鋼の流量制御を行うスライディングノズルにより、スループットを2トン/分として、1チャージあたりの鋳造時間を90分とした(取鍋内の溶鋼量:180トン)。
・浸漬ノズルの閉塞に関する指標
○:スライディングノズルの開度は一定で、浸漬ノズルの閉塞が全くない場合。
△:1チャージの鋳造中にスライディングノズルの開度が徐々に大きくなり、浸漬ノズルに閉塞傾向がみられる場合(実用可能)。
×:1チャージの鋳造中に浸漬ノズルの閉塞が大きくなったため、浸漬ノズルの洗浄又は交換を実施した場合(実用不可)。
JIS Z 2371に準拠した中性塩水噴霧試験において、暴露を96時間行った後の腐食面積率で、以下のように指標化した。
○:0.05%以下の場合。
△:0.05%超1%以下の場合(耐食性がやや劣化するが実用可能)。
×:1%超の場合(実用不可)。
溶鋼には、表1に示す成分を有する高純度のフェライト系ステンレス溶鋼を用いた。
この表1中の「S」と「Al」の各成分の濃度については、表2中に[%S]と[%Al]として記載した。
なお、表1と表2に記載の溶鋼成分とスラグ組成は、上記した合金成分調整後にサンプリングし分析して得られた結果である。
表2に記載のように、実施例1〜6は、溶鋼中のAl濃度を適正範囲である下限値以上(0.04質量%以上)を満足する条件としたためノズル閉塞の抑制が可能となり、また、溶鋼中のS濃度(即ち、ステンレス鋳片のS濃度、以下同様)を0.0030質量%以下に低減できたため、ステンレス鋳片の耐食性を劣化させるCaS介在物を減少できた。
従って、実施例1〜6の評価結果はいずれも、ノズル閉塞がなく(「○」)、耐食性が実用可能以上(実施例1〜4:「○」、実施例5、6:「△」)、であった。
この実施例1〜4のように、溶鋼中のAl濃度を最適範囲の上限値以下とした場合、前記したように、CaO−Al2O3−MgO介在物の生成を抑制できる。このため、実施例1〜4は、溶鋼中のAl濃度が最適範囲の上限値超である実施例5よりも、耐食性を向上できた(「○」)。
前記したように、脱硫能は、Al2O3濃度の変動よりもSiO2濃度の変動に敏感であり、SiO2は、脱硫能の維持向上に有効である。このため、実施例1〜4、6から明らかなように、スラグのSiO2濃度が3.0〜4.0質量%程度の範囲で変動しただけで、溶鋼中のS濃度が0.0011質量%(実施例2)〜0.0029質量%(実施例6)まで、大きく変動した(実施例1〜4の耐食性が実施例6よりも向上した)。
このように、スラグの「CaO濃度+Al2O3濃度+MgO濃度」を低減し過ぎると、FeOやMnOのような脱硫能に悪影響を与える成分の質量割合が、相対的に増加する。このため、脱硫効率が悪化し、表2に示すように、溶鋼中のS濃度が適正範囲の上限値を超え(0.0035質量%)、耐食性が悪化した(「×」)。
このように、スラグの「CaO濃度/Al2O3濃度」を低減し過ぎると、相対的にスラグ中のAl2O3濃度が増加するため、溶鋼中のAl2O3単独の介在物の個数が増加して、ノズル閉塞が発生した(「×」)。また、スラグの脱硫能もやや低下し、耐食性が悪化傾向にあった(「△」)。
このように、スラグ中のMgO濃度が高過ぎると、スラグの滓化性が低下して脱硫能が低下し、溶鋼中のS濃度が増加して適正範囲の上限値を超え(0.0032質量%)、その結果、耐食性が悪化した(「×」)。
このように、スラグの「SiO2濃度」が増加し過ぎることで、スラグの脱硫能が不十分となり、溶鋼中のS濃度が増加して適正範囲の上限値を超え(0.0062質量%)、その結果、耐食性が悪化した(「×」)。また、ノズルも閉塞傾向にあった(「△」)。
このように、溶鋼中のAl濃度を低減し過ぎると、前記したように、スラグ中のMgOを還元するためのAl量が不足するため、表2に示すように、ノズル閉塞が発生した(「×」)。
このように、スラグの「CaO濃度/Al2O3濃度」を増加し過ぎると、前記したように、CaSの生成を抑制できず、その結果、耐食性が悪化した(「×」)。
このように、スラグの「MgO濃度」を低減し過ぎると、前記したように、溶鋼中の金属Alと反応するMgO量が不足し、Al2O3主体の介在物が生成して、表2に示すように、ノズル閉塞が発生した(「×」)。
Claims (2)
- 取鍋内スラグ中のCr酸化物を還元する工程と、脱硫及び脱酸を行う工程とを有する取鍋精錬により溶製した溶鋼を連続鋳造して、C濃度が0.01質量%以下、かつ、S濃度が0.003質量%以下のステンレス鋳片を製造する方法であって、
前記取鍋精錬後の前記溶鋼中のAl濃度を0.04質量%以上とし、かつ、前記取鍋内スラグの組成を、
1.2≦(質量%CaO)/(質量%Al2O3)≦1.5、
3質量%≦(質量%MgO)≦10質量%、
(質量%SiO2)≦4.0質量%、及び、
(質量%CaO)+(質量%Al2O3)+(質量%MgO)≧95質量%、
とすることを特徴とするステンレス鋳片の製造方法。 - 請求項1記載のステンレス鋳片の製造方法において、前記取鍋精錬後の前記溶鋼中のAl濃度を0.07質量%以下とすることを特徴とするステンレス鋳片の製造方法。
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