以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態によるエンジンの燃料噴射制御装置について説明する。
<装置構成>
図1は、本発明の実施形態によるエンジンの燃料噴射制御装置が適用されたエンジン(エンジン本体)1の概略構成を示し、図2は、本発明の実施形態によるエンジンの燃料噴射制御装置を示すブロック図である。
エンジン1は、車両に搭載されると共に、少なくともガソリンを含有する燃料が供給されるガソリンエンジンであり、圧縮自己着火(具体的にはHCCI(Homogeneous-Charge Compression Ignition)と呼ばれる予混合圧縮自己着火)を行うように構成されている。エンジン1は、複数の気筒18が設けられたシリンダブロック11(なお、図1では、1つの気筒のみを図示するが、例えば4つの気筒が直列に設けられる)と、このシリンダブロック11上に配設されたシリンダヘッド12と、シリンダブロック11の下側に配設され、潤滑油が貯留されたオイルパン13とを有している。各気筒18内には、コンロッド142を介してクランクシャフト15と連結されているピストン14が往復動可能に嵌挿されている。ピストン14の頂面には、ディーゼルエンジンでのリエントラント型のようなキャビティ141が形成されている。キャビティ141は、ピストン14が圧縮上死点付近に位置するときには、後述する燃料噴射弁67に相対する。シリンダヘッド12と、気筒18と、キャビティ141を有するピストン14とは、燃焼室19を画定する。なお、燃焼室19の形状は、図示する形状に限定されるものではない。例えばキャビティ141の形状、ピストン14の頂面形状、及び、燃焼室19の天井部の形状等は、適宜変更することが可能である。
このエンジン1は、理論熱効率の向上や、後述する圧縮着火燃焼の安定化等を目的として、15以上の比較的高い幾何学的圧縮比に設定されている。なお、幾何学的圧縮比は15以上20以下程度の範囲で、適宜設定すればよい。
シリンダヘッド12には、気筒18毎に、吸気ポート16及び排気ポート17が形成されていると共に、これら吸気ポート16及び排気ポート17には、燃焼室19側の開口を開閉する吸気弁21及び排気弁22がそれぞれ配設されている。
吸気弁21及び排気弁22をそれぞれ駆動する動弁系の内、排気側には、排気弁22の作動モードを通常モードと特殊モードとに切り替える、例えば油圧作動式の可変バルブリフト機構(図2参照。以下、VVL(Variable Valve Lift)と称する)71と、クランクシャフト15に対する排気カムシャフトの回転位相を変更することが可能な位相可変機構(以下、VVT(Variable Valve Timing)と称する)75と、が設けられている。VVL71は、その構成の詳細な図示は省略するが、例えば、カム山を一つ有する第1カムとカム山を2つ有する第2カムとの、カムプロフィールの異なる2種類のカム、及び、その第1及び第2カムのいずれか一方のカムの作動状態を選択的に排気弁22に伝達するカムシフティング機構を含んで構成されている。この例では、第1カムの作動状態を排気弁22に伝達しているときには、排気弁22は、排気行程中において一度だけ開弁される通常モードで作動するのに対し、第2カムの作動状態を排気弁22に伝達しているときには、排気弁22が、排気行程中において開弁すると共に、吸気行程中においても開弁するような、いわゆる排気の二度開きを行う特殊モードで作動する。VVL71の通常モードと特殊モードとは、エンジンの運転状態に応じて切り替えられる。具体的には、特殊モードは、内部EGRに係る制御の際に利用される。なお、排気弁22を電磁アクチュエータによって駆動する電磁駆動式の動弁系を採用してもよい。
VVT75は、液圧式、電磁式又は機械式の公知の構造を適宜採用すればよく、その詳細な構造についての図示は省略する。排気弁22は、VVT75によって、その開弁時期及び閉弁時期を、所定の範囲内で連続的に変更可能である。また、複数の気筒18のそれぞれに設けられた排気弁22を、各気筒18ごとに別個に、VVL71及びVVT75によってリフト量及び動作タイミングが制御できるようにしてもよい。
なお、内部EGRの実行は、上記したような排気弁22の二度開きのみによって実現されるのではない。例えば吸気弁21を二回開く、吸気の二度開きによって内部EGR制御を行ってもよいし、排気行程乃至吸気行程において吸気弁21及び排気弁22の双方を閉じるネガティブオーバーラップ期間を設けて既燃ガスを気筒18内に残留させる内部EGR制御を行ってもよい。
VVL71及びVVT75を備えた排気側の動弁系と同様に、吸気側には、図2に示すように、VVL74とVVT72とが設けられている。吸気側のVVL74は、排気側のVVL71とは異なる。例えば、吸気側のVVL74は、吸気弁21のリフト量を相対的に大きくする大リフトカムと、吸気弁21のリフト量を相対的に小さくする小リフトカムとの、カムプロフィールの異なる2種類のカム、及び、大リフトカム及び小リフトカムのいずれか一方のカムの作動状態を選択的に吸気弁21に伝達するカムシフティング機構を含んで構成されている。この例では、VVL74が大リフトカムの作動状態を吸気弁21に伝達しているときには、吸気弁21は、相対的に大きいリフト量で開弁すると共に、その開弁期間も長くなる。これに対し、VVL74が小リフトカムの作動状態を吸気弁21に伝達しているときには、吸気弁21は、相対的に小さいリフト量で開弁すると共に、その開弁期間も短くなる。大リフトカムと小リフトカムとは、閉弁時期又は開弁時期を同じにして切り替わるように設定されている。
吸気側のVVT72は、排気側のVVT75と同様に、液圧式、電磁式又は機械式の公知の構造を適宜採用すればよく、その詳細な構造についての図示は省略する。吸気弁21もまた、VVT72によって、その開弁時期及び閉弁時期を、所定の範囲内で連続的に変更可能である。また、複数の気筒18のそれぞれに設けられた吸気弁21を、各気筒18ごとに別個に、VVL74及びVVT72によってリフト量及び動作タイミングが制御できるようにしてもよい。なお、吸気側にVVL74を適用せずに、VVT72のみを適用し、吸気弁21の開弁時期及び閉弁時期のみを変更するようにしてもよい。
シリンダヘッド12にはまた、気筒18毎に、気筒18内に燃料を直接噴射するソレノイド式の燃料噴射弁67が取り付けられている。例えば、燃料噴射弁67は、所定の電圧を付加することで開弁して、その後に所定の電流(保持電流)を印加し続けることで開弁状態を保持するように構成されている(電圧の印加は電流を印加したときに停止される)。また、燃料噴射弁67は、その噴口が燃焼室19の天井面の中央部分から、その燃焼室19内に臨むように配設されている。燃料噴射弁67は、エンジン1の運転状態に応じて設定された噴射タイミングでかつ、エンジン1の運転状態に応じた量の燃料を、燃焼室19内に直接噴射する。この例において、燃料噴射弁67は、詳細な図示は省略するが、複数の噴口を有する多噴口型のインジェクタである。これによって、燃料噴射弁67は、燃料噴霧が、燃焼室19の中心位置から放射状に広がるように、燃料を噴射する。ピストン14が圧縮上死点付近に位置するタイミングで、燃焼室19の中央部分から放射状に広がるように噴射された燃料噴霧は、ピストン頂面に形成されたキャビティ141の壁面に沿って流動する。キャビティ141は、ピストン14が圧縮上死点付近に位置するタイミングで噴射された燃料噴霧を、その内部に収めるように形成されている、と言い換えることが可能である。この多噴口型の燃料噴射弁67とキャビティ141との組み合わせは、燃料の噴射後、混合気形成期間を短くすると共に、燃焼期間を短くする上で有利な構成である。なお、燃料噴射弁67は、多噴口型のインジェクタに限定されず、外開弁タイプのインジェクタを採用してもよい。
図外の燃料タンクと燃料噴射弁67との間は、燃料供給経路によって互いに連結されている。この燃料供給経路上には、燃料ポンプ63とコモンレール64とを含みかつ、燃料噴射弁67に、比較的高い燃料圧力で燃料を供給することが可能な燃料供給システム62が介設されている。燃料ポンプ63は、燃料タンクからコモンレール64に燃料を圧送し、コモンレール64は圧送された燃料を、比較的高い燃料圧力で蓄えることが可能である。燃料噴射弁67が開弁することによって、コモンレール64に蓄えられている燃料が燃料噴射弁67の噴口から噴射される。ここで、燃料ポンプ63は、図示は省略するが、プランジャー式のポンプであり、エンジン1によって駆動される。このエンジン駆動のポンプを含む構成の燃料供給システム62は、30MPa以上の高い燃料圧力の燃料を、燃料噴射弁67に供給することを可能にする。燃料圧力は、最高で120MPa程度に設定してもよい。燃料噴射弁67に供給される燃料の圧力は、エンジン1の運転状態に応じて変更される。なお、燃料供給システム62は、この構成に限定されるものではない。
シリンダヘッド12にはまた、燃焼室19内の混合気に強制点火(具体的には火花点火)する点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、この例では、エンジン1の排気側から斜め下向きに延びるように、シリンダヘッド12内を貫通して配置されている。点火プラグ25の先端は、圧縮上死点に位置するピストン14のキャビティ141内に臨んで配置される。
エンジン1の一側面には、図1に示すように、各気筒18の吸気ポート16に連通するように吸気通路30が接続されている。一方、エンジン1の他側面には、各気筒18の燃焼室19からの既燃ガス(排気ガス)を排出する排気通路40が接続されている。
吸気通路30の上流端部には、吸入空気を濾過するエアクリーナ31が配設され、その下流側には、各気筒18への吸入空気量を調節するスロットル弁36が配設されている。また、吸気通路30における下流端近傍には、サージタンク33が配設されている。このサージタンク33よりも下流側の吸気通路30は、気筒18毎に分岐する独立通路とされ、これら各独立通路の下流端が各気筒18の吸気ポート16にそれぞれ接続されている。
排気通路40の上流側の部分は、気筒18毎に分岐して排気ポート17の外側端に接続された独立通路と該各独立通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。この排気通路40における排気マニホールドよりも下流側には、排気ガス中の有害成分を浄化する排気浄化装置として、直キャタリスト41とアンダーフットキャタリスト42とがそれぞれ接続されている。直キャタリスト41及びアンダーフットキャタリスト42はそれぞれ、筒状ケースと、そのケース内の流路に配置した、例えば三元触媒とを備えて構成されている。
吸気通路30におけるサージタンク33とスロットル弁36との間の部分と、排気通路40における直キャタリスト41よりも上流側の部分とは、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するためのEGR通路50を介して接続されている。このEGR通路50は、排気ガスをエンジン冷却水によって冷却するためのEGRクーラ52が配設された主通路51を含んで構成されている。主通路51には、排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するためのEGR弁511が配設されている。
エンジン1は、パワートレイン・コントロール・モジュール(以下では「PCM」と呼ぶ。)10によって制御される。PCM10は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成されている。このPCM10が制御器を構成する。
PCM10には、図1及び図2に示すように、各種のセンサSW1、SW2、SW4〜SW18の検出信号が入力される。具体的には、PCM10には、エアクリーナ31の下流側で、新気の流量を検出するエアフローセンサSW1の検出信号と、新気の温度を検出する吸気温度センサSW2の検出信号と、EGR通路50における吸気通路30との接続部近傍に配置されかつ、外部EGRガスの温度を検出するEGRガス温センサSW4の検出信号と、吸気ポート16に取り付けられかつ、気筒18内に流入する直前の吸気の温度を検出する吸気ポート温度センサSW5の検出信号と、シリンダヘッド12に取り付けられかつ、気筒18内の圧力を検出する筒内圧センサSW6の検出信号と、排気通路40におけるEGR通路50の接続部近傍に配置されかつ、それぞれ排気温度及び排気圧力を検出する排気温センサSW7及び排気圧センサSW8の検出信号と、直キャタリスト41の上流側に配置されかつ、排気中の酸素濃度を検出するリニアO2センサSW9の検出信号と、直キャタリスト41とアンダーフットキャタリスト42との間に配置されかつ、排気中の酸素濃度を検出するラムダO2センサSW10の検出信号と、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサSW11の検出信号と、クランクシャフト15の回転角を検出するクランク角センサSW12の検出信号と、車両のアクセルペダル(図示省略)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサSW13の検出信号と、吸気側及び排気側のカム角センサSW14、SW15の検出信号と、燃料供給システム62のコモンレール64に取り付けられかつ、燃料噴射弁67に供給する燃料圧力を検出する燃圧センサSW16の検出信号と、エンジン1の油圧を検出する油圧センサSW17の検出信号と、エンジン1の油温を検出する油温センサSW18の検出信号と、燃料噴射弁67のソレノイドの電圧(以下では適宜「ソレノイド電圧」と呼ぶ。)を検出する電圧検出手段としての電圧センサSW19の検出信号と、が入力される。なお、電圧センサSW19は、PCM10から燃料噴射弁67のソレノイドに接続された、当該ソレノイドを駆動する制御信号を供給するための配線上の何処かの箇所に設ければよい。
PCM10は、上記の検出信号に基づいて種々の演算を行うことによってエンジン1や車両の状態を判定し、これに応じて、燃料噴射弁67、点火プラグ25、吸気弁側のVVT72及びVVL74、排気弁側のVVT75及びVVL71、燃料供給システム62、並びに、各種の弁(スロットル弁36、EGR弁511)のアクチュエータへ制御信号を出力する。こうしてPCM10は、エンジン1を運転する。本実施形態では、PCM10は、本発明における「エンジンの燃料噴射制御装置」として機能し、特に燃料噴射弁67に対する制御を行う。具体的には、PCM10は、本発明における「燃料噴射制御手段」及び「減衰特性算出手段」に相当する。
<運転領域>
次に、図3を参照して、本発明の実施形態によるエンジンの運転領域について説明する。図3は、エンジン1の運転制御マップの一例を示している。このエンジン1は、燃費の向上や排気エミッション性能の向上を目的として、エンジン負荷が相対的に低い低負荷域である第1の運転領域R11では、点火プラグ25による点火を行わずに、圧縮自己着火による圧縮着火燃焼を行う。しかしながら、エンジン1の負荷が高くなるに従って、この圧縮着火燃焼では、燃焼が急峻になりすぎてしまい、燃焼騒音が発生したり、着火時期の制御が困難になったりする(失火などが発生する傾向にある)。そのため、このエンジン1では、エンジン負荷が相対的に高い高負荷域である第2の運転領域R12では、圧縮着火燃焼の代わりに、点火プラグ25を利用した強制点火燃焼(ここでは火花点火燃焼)を行うようにする。このように、このエンジン1は、エンジン運転状態、特にエンジン負荷に応じて、圧縮着火燃焼による運転を実行するCI(Compression Ignition)運転と、火花点火燃焼による運転を実行するSI(Spark Ignition)運転とを切り替えるように構成されている。
<分割噴射>
次に、図4を参照して、本発明の実施形態による分割噴射について説明する。図4は、横方向にクランク角を示し、縦方向にPCM10から燃料噴射弁67に供給される制御信号(換言すると駆動信号であり、電圧及び/又は電流で表される)を示している。また、図4において、符号Tは、分割噴射時において隣接する燃料噴射の間隔(噴射間隔)を示しており、この噴射間隔Tは、前回の燃料噴射の終了後から今回の燃料噴射の開始までの時間(基本的にはクランク角で表される)に相当する。加えて、符号PWは、PCM10から燃料噴射弁67に供給される制御信号(パルス信号)のパルス幅を示しており、このパルス幅PWは、燃料噴射弁67の開弁期間に相当し、この開弁期間は、無効噴射期間とも呼ばれる。
図4に示す例では、PCM10は、燃料の噴射を3回に分割して行うように燃料噴射弁67を制御している。例えば、PCM10は、上記したCI運転を行う第1の運転領域R11では、均質な混合気を形成して着火性を確保すること等を図って分割噴射を実施し、上記したSI運転を行う第2の運転領域R12では、異常燃焼(特に混合気が点火時期よりも前に自着火するプリイグニッション)を抑制すること等を図って分割噴射を実施する。この場合、PCM10は、吸気行程と圧縮行程に渡って分割噴射を実施する。なお、図4では、3回の分割噴射を行う例を示したが、3回の分割噴射を行うことに限定はされず、2回又は4回以上の分割噴射を行ってもよい。
<燃料噴射制御>
次に、本発明の実施形態においてPCM10が燃料噴射弁67に対して実行する燃料噴射制御について説明する。本実施形態では、PCM10は、燃料噴射弁67のソレノイドにおいて発生した残留磁気(残留電圧に相当する)に基づき、燃料噴射弁67に対する燃料噴射制御を実行する。したがって、最初に、図5乃至図8を参照して、燃料噴射弁67のソレノイドにおいて発生する残留電圧について説明する。
図5は、燃料噴射弁67からの燃料噴射における噴射間隔(横軸)と、燃料噴射弁67からの燃料噴射量(縦軸)との関係を示している。具体的には、横軸の噴射間隔は、1回目の燃料噴射と2回目の燃料噴射との間隔を示しており、縦軸の燃料噴射量は、2回目の燃料噴射における燃料噴射量を示している。図5に示すように、1回目の燃料噴射と2回目の燃料噴射との間隔が短くなると、より詳しくは噴射間隔が所定値T1(例えば3msec)以下になると、噴射間隔が短くなるほど、2回目の燃料噴射における燃料噴射量が増大していくことがわかる。
このような現象は、上述したように、1回目の燃料噴射時に燃料噴射弁67のソレノイドに発生した残留磁気(換言すると残留磁束)に起因するものと考えられる。つまり、1回目の燃料噴射時に燃料噴射弁67のソレノイドに残留磁気が発生して、それにより、2回目の燃料噴射時に、燃料噴射弁67の応答速度が速くなり、指令した時期よりも早く燃料噴射が開始され、燃料噴射弁67が早く開弁した分だけ燃料噴射量が増大したものと考えられる。特に、燃料噴射の噴射間隔が短いほど、燃料噴射弁67のソレノイドの残留磁気が大きくなり、その結果、2回目の燃料噴射がより早く開始されて、燃料噴射量がより増大したものと考えられる。
ここで、上記したような燃料噴射弁67のソレノイドの残留磁気は、実際に測定することが困難である。本発明の発明者らは、燃料噴射弁67のソレノイドの電圧が、このようなソレノイドの残留磁気に応じた変化を行うことを見出した。このソレノイドの電圧は、PCM10と燃料噴射弁67のソレノイドとを接続する配線上に電圧センサSW19を設けることで、容易に検出することができる。したがって、本実施形態では、残留磁気に対応する残留電圧(ソレノイド電圧)を電圧センサSW19によって検出し、この残留電圧に基づき燃料噴射弁67に対する燃料噴射制御を行うこととした。
次に、図6は、1回目の燃料噴射を終了してからの経過時間(横軸)と、電圧センサSW19によって検出された、残留電圧に対応するソレノイド電圧(縦軸)との関係を示している。図6に示すように、1回目の燃料噴射を終了した後、つまり燃料噴射弁67を閉弁させるようにソレノイドへの電流の印加を終了した後、燃料噴射弁67のソレノイドにおいて残留電圧が生じる。このようなソレノイドの残留電圧は、電圧センサSW19によって負値として検出される。ソレノイドの残留電圧は、コイルに蓄えられたエネルギーを示す一般的な式「1/2LI2」に応じた電圧となる(「I」は電流であり、「L」はコイルのインダクタンスである)。また、残留電圧の初期値は、燃料噴射弁67のソレノイドへの電流の印加を終了する直前におけるソレノイドの電流値に応じた値となる。基本的には、このときの電流値はほぼ一定値となるため、残留電圧の初期値もほぼ一定値となる。但し、燃料噴射弁67の経年劣化や個体差や燃料噴射弁67に供給される燃圧などにより変化し得る。
更に、図6に示すように、ソレノイドの残留電圧は、ある程度の間、一定値となっているが、この後に、時間の経過に従って徐々に減衰していく。この場合、ソレノイドの残留電圧は、所定の指数関数に従って減衰していく。この指数関数も、基本的には一意に決まるものであるが、燃料噴射弁67の個体差や温度特性や経年劣化などにより変化し得る。なお、1つの例では、ソレノイドの残留電圧は、1回目の燃料噴射終了から5msec程度経過すると0になる。
このような1回目の燃料噴射からの経過時間と残留電圧との関係より、1回目の燃料噴射と2回目の燃料噴射との噴射間隔が比較的短い場合には、2回目の燃料噴射時における残留電圧が比較的大きいため、2回目の燃料噴射における燃料噴射時期及び燃料噴射量が残留電圧の影響を受けるのである。加えて、噴射間隔が短くなるほど、2回目の燃料噴射時における残留電圧が大きくなるので、2回目の燃料噴射における燃料噴射時期及び燃料噴射量が残留電圧から受ける影響の度合いが大きくなる。他方で、1回目の燃料噴射と2回目の燃料噴射との噴射間隔が比較的長い場合には、2回目の燃料噴射時に残留電圧が0になっているため、2回目の燃料噴射における燃料噴射時期及び燃料噴射量が残留電圧の影響を受けなくなる。
本実施形態では、図6に示したような燃料噴射弁67のソレノイドの残留電圧における時間変化の特性(減衰特性)を、電圧センサSW19の検出信号に基づき求めるようにする。例えば、所定時間ごとに、電圧センサSW19の検出信号を得て、これに基づき残留電圧の減衰特性を随時求めるようにする。
次に、図7は、燃料噴射弁67のソレノイドの残留電圧(横軸)と、燃料噴射弁67に噴射指示を出してから(燃料噴射弁67に制御信号を供給したタイミングから)燃料噴射弁67が実際に開弁するまでの時間(横軸)との関係を示している。ここでは、残留電圧を負値として示している。図7に示すように、ソレノイドの残留電圧(絶対値)が大きくなるほど、燃料噴射弁67が早く開弁する、つまり燃料噴射弁67からの燃料噴射が早期に開始される。これは、噴射指示を出したときのソレノイドの残留電圧(絶対値)が大きいほど、燃料噴射弁67の応答速度が速くなるからである。このように燃料噴射弁67が早く開弁すると、早く開弁した分だけ燃料噴射量が増大することとなる。
次に、図8は、燃料噴射弁67のソレノイドに供給する制御信号のパルス幅(横軸)と、燃料噴射弁67からの燃料噴射量(縦軸)との関係を示している。図8において、グラフG11は、1回目の燃料噴射についてのパルス幅と燃料噴射量との関係を示し、グラフG12は、2回目の燃料噴射についてのパルス幅と燃料噴射量との関係を示している。具体的には、グラフG12は、1回目の燃料噴射と2回目の燃料噴射との噴射間隔が比較的短い場合(つまり1回目の燃料噴射で発生したソレノイドの残留電圧が2回目の燃料噴射に対して影響を与えるような場合)における、制御信号のパルス幅と燃料噴射量との関係を示している。なお、横軸に示す制御信号のパルス幅は、上述したように、燃料噴射弁67の開弁期間に相当する。図8に示すように、基本的には、制御信号のパルス幅が長くなるにつれて、つまり燃料噴射弁67の開弁期間が長くなるにつれて、燃料噴射量がほぼ線形に増大していく。より詳しくは、制御信号のパルス幅が所定値以上になると、制御信号のパルス幅が所定値未満のときよりも、パルス幅に対する燃料噴射量の変化率(傾き)が緩やかになる。
また、図8に示すように、2回目の燃料噴射でのパルス幅と燃料噴射量との関係を示すグラフG12が、1回目の燃料噴射でのパルス幅と燃料噴射量との関係を示すグラフG11に対して、全体的に左方向にシフト(詳しくは平行移動)している。これは、同じパルス幅を適用したときに、2回目の燃料噴射における燃料噴射量が1回目の燃料噴射における燃料噴射量よりも大きくなることを示している(換言すると、同じ燃料噴射量を噴射させようとすると、2回目の燃料噴射におけるパルス幅が1回目の燃料噴射におけるパルス幅よりも短くなることを示している)。こうなるのは、1回目の燃料噴射と2回目の燃料噴射との噴射間隔が短いために、2回目の燃料噴射時におけるソレノイドの残留電圧が大きいことで、2回目の燃料噴射時において燃料噴射弁67が早く開弁し、早く開弁した分だけ燃料噴射量が増大したからである。
本実施形態では、PCM10は、1回目の燃料噴射と2回目の燃料噴射との噴射間隔が短い場合について、具体的には1回目の燃料噴射で発生したソレノイドの残留電圧が2回目の燃料噴射に対して影響を与えるような場合について、燃料噴射弁67に供給する制御信号のパルス幅と燃料噴射弁67からの燃料噴射量との関係(グラフG12参照)を事前に得ておくようにする。そして、PCM10は、そのような関係に基づいて、2回目の燃料噴射において所望の燃料噴射量(要求の燃料噴射量)が得られるように、当該燃料噴射量に対応する制御信号のパルス幅を燃料噴射弁67に適用するようにする。例えば、種々の噴射間隔について、制御信号のパルス幅と燃料噴射量との関係を事前に得ておき、PCM10は、このような複数の関係の中から、1回目の燃料噴射と2回目の燃料噴射との実際の噴射間隔に対応するものを選択して、選択した関係に基づき、所望の燃料噴射量に対応する制御信号のパルス幅を適用するようにする。この場合、PCM10は、元のパルス幅(最初に適用することとした、燃料噴射量に応じた制御信号のパルス幅)を短く補正したパルス幅を、2回目の燃料噴射に適用することとなる。
次に、図9を参照して、本発明の実施形態による燃料噴射制御の基本概念について、より具体的に説明する。図9は、横方向にクランク角を示し、縦方向にPCM10から燃料噴射弁67に供給される制御信号(パルス信号)を示している。図9に示すように、本実施形態では、PCM10は、1回目の燃料噴射と2回目の燃料噴射との噴射間隔T2が所定時間(例えば図5中の所定値T1に対応する時間)未満である場合に、制御信号の元のパルス幅PW1を短く補正したパルス幅PW2を(矢印A1参照)、2回目の燃料噴射に適用する。このように制御信号のパルス幅を短く補正することは、燃料噴射弁67の開弁期間を短くすることに相当する。この場合、PCM10は、2回目の燃料噴射に適用する制御信号のパルス幅を短くする補正のみを行うこととし、2回目の燃料噴射を開始するタイミング(換言すると燃料噴射弁67を開弁させるタイミング)は固定する。
より詳しくは、本実施形態では、PCM10は、電圧センサSW19が検出したソレノイド電圧から、燃料噴射弁67のソレノイドの残留電圧における減衰特性を求めておき(図6参照)、この減衰特性に基づき2回目の燃料噴射時における残留電圧を推定し、この推定した残留電圧に基づき2回目の燃料噴射に適用するパルスPW2を決定する。1つの例では、PCM10は、残留電圧の減衰特性などに基づき、2回目の燃料噴射時における種々の残留電圧について、制御信号のパルス幅と燃料噴射量との関係を事前にマップとして規定しておき(例えばグラフG12に示すようなマップを種々の残留電圧について規定しておき)、そのようなマップの中から、実際の2回目の燃料噴射時における残留電圧(推定した残留電圧を用いてもよいし、電圧センサSW19が検出した残留電圧を用いてもよい)に対応するマップを選択して、選択したマップに基づき、実現すべき所望の燃料噴射量に対応する制御信号のパルス幅を適用する。他の例では、PCM10は、残留電圧の減衰特性などに基づき、種々の噴射間隔について、制御信号のパルス幅と燃料噴射量との関係を事前にマップとして規定しておき(例えばグラフG12に示すようなマップを種々の噴射間隔について規定しておき)、そのようなマップの中から、実際に適用する噴射間隔T2に対応するマップを選択して、選択したマップに基づき、実現すべき所望の燃料噴射量に対応する制御信号のパルス幅を適用する。
更に、本実施形態では、PCM10は、1回目の燃料噴射については、クランク角CR1に基づき燃料噴射弁67を開弁させる制御を行うが、2回目の燃料噴射については、クランク角CR2の代わりに、1回目の燃料噴射後からの経過時間に基づき燃料噴射弁67を開弁させる制御を行う。これらのクランク角CR1、CR2は、エンジン1の運転状態などに応じて設定された燃料噴射を開始するタイミング(燃料噴射弁67を開弁させるタイミング)である。より具体的には、本実施形態では、PCM10は、1回目の燃料噴射については、クランク角センサSW12が検出したクランク角を監視し、このクランク角センサSW12が検出したクランク角がクランク角CR1になったタイミングで燃料噴射弁67を開弁させるようにし、2回目の燃料噴射については、クランク角センサSW12が検出したクランク角を参照せずに、1回目の燃料噴射を終了した時点からタイマーによってカウントアップを行い、カウントアップした時間が噴射間隔T2に対応する時間になったタイミングで燃料噴射弁67を開弁させる。この場合、PCM10は、2回目の燃料噴射を行うべきクランク角CR2を、現在のエンジン回転数に基づき、1回目の燃料噴射を終了した時点からの時間(噴射間隔T2に対応する時間である)へと換算して、この換算した時間を判定時間として用いて、燃料噴射弁67を開弁させる制御を行う。
以下では、本発明の実施形態による燃料噴射制御の具体的な実施例(第1及び第2実施例)について説明する。
(第1実施例)
図10を参照して、本発明の第1実施例による燃料噴射制御について説明する。図10は、本発明の第1実施例による燃料噴射制御を示すフローチャートである。このフローは、PCM10によって繰り返し実行される。
まず、ステップS11では、PCM10は、エンジン1の運転状態(エンジン回転数やエンジン負荷やドライバからの要求出力など)に応じた、燃料噴射弁67から燃料を噴射させるときの噴射パターンを取得する。この噴射パターンには、例えば、燃料噴射を分割する回数や、燃料噴射の噴射時期や、燃料噴射の噴射期間(燃料噴射量)などが規定されている。
次いで、ステップS12では、PCM10は、ステップS11で取得した噴射パターンから、1回目の燃料噴射と2回目の燃料噴射との噴射間隔を得て、この噴射間隔が所定時間(例えば図5中の所定値T1に対応する時間)未満であるか否かを判定する。この場合、噴射パターンに含まれる噴射間隔は、基本的にはクランク角によって規定されているため、PCM10は、現在のエンジン回転数に基づき、クランク角によって規定された噴射間隔を時間に換算し、時間に換算した噴射間隔を用いてステップS12の判定を行う。
ステップS12の判定の結果、噴射間隔が所定時間未満であると判定された場合(ステップS12:Yes)、処理はステップS13に進む。これに対して、噴射間隔が所定時間未満であると判定されなかった場合(ステップS12:No)、つまり噴射間隔が所定時間以上である場合、処理はステップS17に進む。この場合には、2回目の燃料噴射時にソレノイドの残留電圧がほぼ0になっているため、2回目の燃料噴射における燃料噴射時期及び燃料噴射量が残留電圧の影響をほとんど受けない。そのため、PCM10は、ステップS17において、通常通り、噴射パターンにそのまま従って燃焼噴射弁67を駆動する。つまり、PCM10は、燃焼噴射弁67の制御信号のパルス幅を補正したり、燃料噴射を開始するクランク角を時間に換算したりすることなく、噴射パターンに規定された燃料噴射時期及び燃料噴射期間にそのまま従って、燃焼噴射弁67を制御する。
また、ステップS17では、PCM10は、1回目の燃料噴射については、クランク角センサSW12が検出したクランク角を監視し、このクランク角センサSW12が検出したクランク角がクランク角CR1になったタイミングで燃料噴射弁67を開弁させるようにし、2回目の燃料噴射については、クランク角センサSW12が検出したクランク角がクランク角CR2になったタイミングで燃料噴射弁67を開弁させるようにする。つまり、PCM10は、1回目の燃料噴射後からの経過時間ではなく、クランク角を基準として、2回目の燃料噴射制御を行う。ステップS17に進んだ状況では、2回目の燃料噴射における燃料噴射時期及び燃料噴射量が残留電圧の影響をほとんど受けないので、通常通り、クランク角ベースにて燃料噴射制御を行うことで、所望のピストン位置において適切に燃料噴射を実施するようにする。
他方で、ステップS13では、PCM10は、2回目の燃料噴射を開始するクランク角(つまり燃焼噴射弁67を2回目に開弁させるクランク角)を、現在のエンジン回転数に基づき、1回目の燃料噴射の終了後からの時間に換算し、この時間を判定時間として設定する。そして、PCM10は、1回目の燃料噴射を行った後に、1回目の燃料噴射を終了した時点からタイマーでカウントアップを行い、ステップS14において、このカウントアップした時間がステップS13で設定した判定時間になったか否かを判定する。つまり、PCM10は、1回目の燃料噴射を終了してから判定時間が経過したか否かを判定する。その結果、1回目の燃料噴射を終了してから判定時間が経過したと判定された場合(ステップS14:Yes)、処理はステップS15に進む。他方で、1回目の燃料噴射を終了してから判定時間が経過したと判定されなかった場合(ステップS14:No)、処理はステップS14に戻り、PCM10は、カウントアップした時間が判定時間になるまで、ステップS14の判定を繰り返す。
ステップS15では、PCM10は、電圧センサSW19が検出した、燃料噴射弁67のソレノイド電圧(残留電圧)を取得する。そして、ステップS16において、PCM10は、ステップS15で取得したソレノイド電圧(残留電圧)に応じた、燃料噴射弁67の制御信号のパルス幅を決定し、このパルス幅を有する制御信号によって燃焼噴射弁67を駆動する。例えば、PCM10は、燃料噴射弁67のソレノイドにおける種々の残留電圧について、制御信号のパルス幅と燃料噴射量との関係を事前にマップとして規定しておき(例えばグラフG12に示すようなマップを種々の残留電圧について規定しておき)、そのようなマップの中から、ステップS15で取得した残留電圧に対応するマップを選択して、選択したマップを参照して、噴射パターンに規定された燃料噴射量(所望の燃料噴射量)に対応する制御信号のパルス幅を採用することとする。
なお、図10に示すフローチャートでは、電圧センサSW19によってソレノイドの残留電圧を常時検出しているが、ソレノイドの残留電圧を所定時間ごと(ある程度長い時間ごと)に検出してもよい。上述したように、燃料噴射弁67のソレノイドの残留電圧の特性(減衰特性)は、ほとんど変化しないからである。このように残留電圧を所定時間ごとに検出する場合には、検出した残留電圧は減衰特性を求めるために利用することとし、残留電圧に基づき燃料噴射弁67の制御信号のパルス幅を決定する代わりに、例えば噴射間隔に基づき燃料噴射弁67の制御信号のパルス幅を決定してもよい。この場合、残留電圧の減衰特性などに基づき、1回目の燃料噴射と2回目の燃料噴射との種々の噴射間隔について、制御信号のパルス幅と燃料噴射量との関係を事前にマップとして規定しておき(例えばグラフG12に示すようなマップを種々の噴射間隔について規定しておき)、そのようなマップの中から、実際に適用する噴射間隔に対応するマップを選択して、選択したマップを参照して、噴射パターンに規定された燃料噴射量(所望の燃料噴射量)に対応する制御信号のパルス幅を採用すればよい。
(第2実施例)
次に、図11を参照して、本発明の第2実施例による燃料噴射制御について説明する。図11は、本発明の第2実施例による燃料噴射制御を示すフローチャートである。このフローも、PCM10によって繰り返し実行される。
ステップS21、S22、S29の処理は、図10のステップS11、S12、S17の処理と同様であるため、これらの説明を省略する。以下では、ステップS23以降の処理について説明する。
ステップS23の処理は、噴射間隔が所定時間未満であると判定された場合(ステップS22:Yes)に行われる。ステップS23では、PCM10は、電圧センサSW19の検出信号から事前に取得しておいた、燃料噴射弁67のソレノイドにおける残留電圧の減衰特性を参照して、2回目の燃料噴射の開始時(つまり2回目の燃料噴射における燃料噴射弁67の開弁時)の残留電圧を推定する。この場合、2回目の燃料噴射の開始タイミングはクランク角で規定されているため、PCM10は、このクランク角を現在のエンジン回転数に基づき時間(具体的には1回目の燃料噴射を終了してからの経過時間)に換算し、残留電圧の減衰特性を参照して、換算した時間に対応する残留電圧を得る。残留電圧の減衰特性は、例えば、図6に示すような経過時間と残留電圧との関係を示すマップにて規定される(マップを規定するパラメータとして制御信号のパルス幅を更に用いてもよい)。なお、減衰特性に基づき2回目の燃料噴射の開始時の残留電圧を推定する場合に、PCM10が燃料噴射弁67に供給した電圧又は電流を更に考慮してもよい。その場合、燃料噴射弁67に供給される電圧又は電流を用いて減衰特性を規定しておけばよい。
次いで、ステップS24では、PCM10は、ステップS23で推定した残留電圧に基づき、2回目の燃料噴射において燃料噴射弁67の開弁時期が早期化する量(開弁早期化量)を求める。この開弁早期化量は、PCM10が燃料噴射弁67に対して開弁指示を与えたときに、基準となる開弁時期(ソレノイドの残留電圧がほぼ0である状況での燃料噴射弁67の開弁時期)に対して、燃料噴射弁67の開弁時期が早期化する度合いを示すものであり、時間(msec)にて表される。例えば、燃料噴射弁67のソレノイドにおける残留電圧と、残留電圧に応じた開弁早期化量との関係を示すマップを作成しておき(1つの例では、図7に示すような残留電圧と噴射指示を出してから開弁するまでの時間との関係を示すグラフから作成される)、PCM10は、そのようなマップを参照して、ステップS23で推定した残留電圧に対応する開弁早期化量を取得する。
次いで、ステップS25では、PCM10は、ステップS24で求めた開弁早期化量に基づき、2回目の燃料噴射において燃料噴射弁67に適用する制御信号のパルス幅を決定する。具体的には、PCM10は、元の制御信号のパルス幅(例えばステップS21で取得した噴射パターンに含まれるもの)から、開弁早期化量に応じて増加する燃料噴射量に対応するパルス幅だけ差し引くことで、最終的に適用する制御信号のパルス幅を決定する。この場合、PCM10は、開弁早期化量が大きいほど、最終的に適用する制御信号のパルス幅を短くする。
次いで、ステップS26では、PCM10は、2回目の燃料噴射を開始するクランク角を、現在のエンジン回転数に基づき、1回目の燃料噴射の終了後からの時間に換算し、この時間を判定時間として設定する。そして、PCM10は、1回目の燃料噴射を行った後に、1回目の燃料噴射を終了した時点からタイマーでカウントアップを行い、ステップS27において、このカウントアップした時間がステップS26で設定した判定時間になったか否かを判定する。つまり、PCM10は、1回目の燃料噴射を終了してから判定時間が経過したか否かを判定する。その結果、1回目の燃料噴射を終了してから判定時間が経過したと判定された場合(ステップS27:Yes)、処理はステップS28に進む。ステップS28では、PCM10は、ステップS25で決定したパルス幅を有する制御信号によって燃焼噴射弁67を駆動する。他方で、1回目の燃料噴射を終了してから判定時間が経過したと判定されなかった場合(ステップS27:No)、処理はステップS27に戻り、PCM10は、カウントアップした時間が判定時間になるまで、ステップS27の判定を繰り返す。
<作用効果>
次に、本発明の実施形態によるエンジンの燃料噴射制御装置の作用効果について説明する。
本実施形態によれば、燃料噴射弁67のソレノイドの残留磁気に対応する残留電圧を電圧センサSW19によって検出し、この検出された残留電圧が大きいほど、燃料噴射弁67の開弁期間を短くするので(特に第1実施例を参照)、燃料噴射弁67のソレノイドの残留磁気による影響を考慮に入れた適切な開弁期間を燃料噴射弁67に適用することができる。これにより、燃料噴射弁67のソレノイドの残留磁気による影響に依らずに、所望の燃料噴射量(要求の燃料噴射量)を燃料噴射弁67から適切に噴射させることができる。その結果、燃料噴射量が所望の量からずれることに起因する出力トルクの変動やエミッションの悪化などを適切に抑制することができる。更に、燃料噴射弁67のソレノイドの残留電圧は、ソレノイドの残留磁気を適切に表すものであり、また、PCM10と燃料噴射弁67のソレノイドとを接続する配線上に電圧センサSW19を設けることで適切に検出することができるものであるので、本実施形態による燃料噴射制御は、簡易な構成にて適切に実現することが可能である。
また、本実施形態によれば、電圧センサSW19によって検出された電圧の変化に基づき燃料噴射弁67のソレノイドの残留電圧の減衰特性を求め、この減衰特性から燃料噴射時における残留電圧を推定して燃料噴射弁67の開弁期間を設定するので(特に第2実施例を参照)、具体的には推定された残留電圧が大きいほど燃料噴射弁67の開弁期間を短くするので、これによっても、燃料噴射弁67のソレノイドの残留磁気による影響に依らずに、所望の燃料噴射量を燃料噴射弁67から適切に噴射させることができる。
また、本実施形態では、噴射間隔が短い場合に、1回目の燃料噴射についてはクランク角に基づき燃料噴射弁67を開弁させる制御を行い、2回目の燃料噴射については1回目の燃料噴射後からの経過時間に基づき燃料噴射弁67を開弁させる制御を行う。より具体的には、2回目の燃料噴射を行うべきクランク角を、エンジン回転数に基づき1回目の燃料噴射後からの経過時間へと換算して、この時間を判定時間として用いて燃料噴射弁67を開弁させる制御を行う。これにより、クランク角速度の変化に依らずに、所望の時期に燃料噴射弁67を開弁させて、この開弁時期に応じた残留磁気による影響を考慮に入れた適切な開弁期間を燃料噴射弁67に適用することができる。これによっても、燃料噴射弁67のソレノイドの残留磁気による影響に依らずに、所望の燃料噴射量を燃料噴射弁67から適切に噴射させることができる。
また、本実施形態によれば、上記したように減衰特性から残留電圧を推定する場合に、燃料噴射弁67を開弁させるクランク角を時間に換算して、この換算した時間を用いて減衰特性から残留電圧を推定するので、残留電圧の推定精度を向上させることができる。具体的には、クランク角速度の変化に依らずに、残留電圧を適切に推定することができる。
<変形例>
上記では、本発明を2回目の燃料噴射に適用にする実施形態を示したが、本発明は、3回目以降の燃料噴射にも同様に適用可能である。3回目以降の燃料噴射に本発明を適用する場合には、1回目の燃料噴射後からの経過時間、又は直前の燃料噴射後からの経過時間を用いて、燃料噴射制御(特に燃料噴射弁67の開弁時期に関する制御)を実行すればよい。
また、上記では、本発明をHCCIエンジンに適用する実施形態を示したが、本発明の適用はこれに限定はされない。本発明は、例えばディーゼルエンジン等にも適用可能である。