<A.発明の基本的原理>
ブランケットなどの担持体と、予め反転パターンが形成された版を用いて基板に所望のパターンを有するパターン層を印刷する印刷装置では、既に説明したように、2種類の転写処理を順次行う。より具体的には、印刷装置は図1および図2に示す動作を行う。
図1および図2は、印刷装置における印刷パターンの歪み発生および歪み抑制のメカニズムを模式的に示す図である。なお、これらの図面中の各欄(a)〜(d)における上段は印刷処理中に行われる転写および剥離動作を模式的に示し、下段は担持体として用いるブランケットBLの上面および版PPや基板SBの下面を模式的に示している。なお、印刷処理の内容および処理中に発生するパターン像の歪みを説明するために、図1(a)に示すように版PPの下面に基準マークRMを格子状に二次元配置したパターンが設けられており、これら複数の基準マークRMよりなるパターンが基板SBに印刷すべきパターンの反転パターンに相当する。また、図面中に付された点線は隣接する基準マークRM間の距離を示す仮想線である。
この印刷装置では、インクなどの塗布材料を塗布してなる塗布層CLを一方主面に担持したブランケットBLと、上記パターンの反転パターンが予め形成された版PPとが転写装置に搬入される。この転写装置では、ブランケットBLの上面と版PPの下面とが互いに対向するように、ブランケットBLおよび版PPが上下方向Zに離間しながら配置される(図1(a))。そして、ブランケットBLと版PPとを部分的に塗布層CLを介して密着させて密着部位AP1を局部的に形成した後で当該密着部位AP1をW方向に拡張させることで版PPによる塗布層CLのパターニングを行ってブランケットBL上にパターン層を転写する(同図(b))。この転写処理は本発明の「第1転写工程」の一例に相当するものであるが、この転写処理を後の転写処理と明確に区別するために、「パターニング処理」と称するとともに、当該パターニング処理を行うための転写装置を適宜「パターニング用転写装置」と称する。また、上記したように密着部位AP1の部分形成およびW方向拡張については、パターニング用転写装置の転写ローラ641を用いているが、その構成や動作については後の実施形態で詳述する。
このパターニング処理では、上記したように密着部位AP1の部分形成およびW方向拡張を行っているため、ブランケットBLがパターニング処理前の通常状態(同図(b)中の1点鎖線)から変形し、版PPの反転パターンに対して歪んだ像がブランケットBL上の塗布層CLに形成される。しかも、この歪みは密着部位AP1の拡張方向、より具体的には転写ローラ641の移動方向によって大きく影響される。
パターニング処理が完了すると、ブランケットBLと版PPとを相互に密着してなる密着体BPがパターニング用転写装置から剥離装置に搬送される(同図(c))。そして、剥離装置によってブランケットBLと版PPとが剥離されて相互に分離され、同図(d)に示すようにブランケットBLは元の通常状態に戻るが、ブランケットBLに転写されたパターン層PLに含まれるパターン像は歪んでいる。なお、同図中における符号RPは各基準マークRMの反転像を示している。
パターニング処理(第1転写工程)後のブランケットBLは別の転写装置に搬入される。また、当該転写装置に対し、基板SBが搬入される。この転写装置では、ブランケットBLの上面と基板SBの下面とが互いに対向するように、ブランケットBLおよび基板SBが上下方向Zに離間しながら配置される(図2(a))。そして、パターニング処理(第1転写工程)と同様にしてブランケットBLと基板SBとを部分的にパターン層PLを介して密着させて密着部位AP2を形成した後で当該密着部位AP2をW方向に拡張させることでパターン層PLを基板SBに転写する(同図(b))。この転写処理は本発明の「第2転写工程」の一例に相当するものであるが、この転写処理を先の転写処理(パターニング処理)と明確に区別するために、「基板転写処理」と称するとともに、当該基板転写処理を行うための転写装置を適宜「基板用転写装置」と称する。
この基板転写処理においても、パターニング処理の場合と同様に、密着部位AP2の部分形成およびW方向拡張によってブランケットBLが基板転写処理前の通常状態から変形し、ブランケットBL上のパターン層PLを構成するパターンに対して歪んだ像が基板SBの下面に転写される。
基板転写処理が完了すると、ブランケットBLと基板SBとを相互に密着してなる密着体BSが基板用転写装置から剥離装置に搬送される(同図(c))。そして、剥離装置によってブランケットBLと基板SBとが剥離されて相互に分離され、同図(d)に示すようにブランケットBLは元の通常状態に戻る。ここで、注目すべき点は基板転写処理での密着部位AP2の拡張方向、より具体的には基板用転写装置における転写ローラ641の移動方向がパターニング用転写装置でのそれと同一であるときには、基板転写処理でのブランケットBLがパターニング処理と同じように歪み、歪みが相殺される点である。もちろん、パターニング用転写装置での密着部位AP1の拡張方向と、基板用転写装置での密着部位AP2の拡張方向とが相互に異なっている場合には、上記した歪みの相殺効果は得られずに、比較的大きな歪みが残存してしまう。
よって、パターニング処理によってブランケットBLにパターン層PLを形成するのに続いて当該パターン層PLを基板SBに転写する印刷装置では、密着部位AP2の拡張方向を制御することで基板SBに印刷されたパターン層PLの歪み量を抑制することができる。つまり、パターニング用転写装置での密着部位AP1の拡張方向(本発明の「第1方向」に相当)を把握し、それに基づいて基板用転写装置での密着部位AP2の拡張方向(本発明の「第2方向」に相当)を制御することで良好なパターンを基板SBに印刷することができる。このことは本願発明者により見出された知見であり、本発明では当該知見に基づいて次のように構成することで、良好な印刷処理が可能となっている。
<第1実施形態>
次に、本発明にかかる印刷装置の第1実施形態を組み込んだ印刷システムの一例について説明することで、印刷装置の第1実施形態について詳述する。この印刷システムは、(1)インクなどの塗布材料でブランケットBL上に塗布層を形成する塗布処理、(2)パターニング処理および基板転写処理をこの順序で行うことで所望のパターン層を基板に転写する印刷処理、(3)パターン層を基板に転写するのに使用されたブランケットから残留インクを除去する除去処理を実行する。
第1実施形態および後で説明する実施形態で取り扱うブランケットBLはガラス板または透明樹脂板の表面にシリコンゴムによる薄い弾性層が形成された板状体であり、塗布層やパターン層を担持する。また、この印刷システムにおける除去処理は、転写動作および剥離動作と類似した動作を実行することでブランケットBLの付着する付着物を除去用の転写プレートTPに移動させ、これによってブランケットからの付着物の除去を行う。そこで、第1実施形態および後で説明する実施形態で取り扱う転写プレートTPはブランケットBLと同一の平面サイズを有するガラス板であり、転写プレートTPの表面張力はブランケットBLの表面の表面張力よりも低く、ブランケットBLの表面よりも高い濡れ性を有している。なお、付着物の付着状況を明確にするために、適宜、弾性層の表面に付着物が付着している状態にあるブランケットBLを「ブランケットBLi」と称する一方で、除去装置によって付着物が除去されたブランケットBLを「ブランケットBL0」と称する。また、転写プレートTPについても、ブランケットBLと同様に、適宜、付着物が付着している状態にある転写プレートを「転写プレートTPi」と称する一方で、付着物が付着していない転写プレートを「転写プレートTP0」と称する。
以下、図3ないし図29を参照しつつ印刷システムの一例について、システムの概略構成および構成の配置レイアウトを説明した後で、各部の構成について詳述する。
<<印刷システムの構成およびレイアウト>>
図3は本発明にかかる印刷装置の第1実施形態を装備する印刷システムの一例を示す図である。また、図4は図3に示す印刷システムの制御系を示すブロック図である。この印刷システム100Aは、上記塗布処理を実行するための塗布装置800と、上記印刷処理のうちパターニング処理を実行するための転写装置(パターニング用転写装置)202と、パターニング処理後にブランケットBLと版PPとを剥離する剥離装置302と、上記印刷処理のうち基板転写処理を実行するための転写装置(基板用転写装置)203と、基板転写処理後にブランケットBLと基板SBとを剥離する剥離装置303と、上記除去処理を実行するための転写装置204および剥離装置304とを有している。
転写装置202および剥離装置302はX方向に配列されてパターニング処理用の第1装置列AL1を形成している。また、転写装置203および剥離装置303はY方向に配列されて転写処理用の第2装置列AL2を形成している。さらに、転写装置204、剥離装置304および塗布装置800はX方向に配列されて除去処理および塗布処理用の第3装置列AL3を形成している。そして、図3に示すように、第1装置列AL1と第3装置列AL3とがY方向に離間しながら平行に配置されるとともに、第1装置列AL1および第3装置列AL3の(+X)方向側に第2装置列AL2が配置されており、環状のブランケット搬送経路PTBに沿ってブランケットBLを循環搬送自在となっている。
第1装置列AL1(=転写装置202+剥離装置302)の(+Y)方向側では、版PPを洗浄する版洗浄装置720が配置されており、環状の版搬送経路PTPに沿ってパターニング処理に使用する版PPを搬送自在となっている。なお、図3中の「PPi」および「PP0」は版洗浄装置720に搬送される前後の版を示しており、版PPiはパターニング処理に使用されて表面にインクが付着している版を意味し、版PP0は版洗浄装置720によって洗浄されてパターニング処理に再利用される版を意味している。
また、第3装置列AL3(=転写装置204+剥離装置304+塗布装置800)の(−Y)方向側では、転写プレートTPを洗浄する転写プレート洗浄装置730が配置されており、環状の転写プレート搬送経路PTTに沿って除去処理に使用する転写プレートTPを搬送自在となっている。
図3中の破線PTSは第2装置列AL2(=転写装置203+剥離装置303)による転写処理を行うために基板SBを搬送する経路、つまり基板搬送経路を示している。
また、印刷システム100Aでは、ブランケットBL、版PP、基板SBおよび転写プレートTPを搬送するために搬送装置401が設けられている。搬送装置401は、複数の搬送部402、複数のブランケット受渡し部403、複数の転写プレート受渡し部404、複数の版受渡し部405および複数の基板受渡し部406を有しており、ブランケット搬送経路PTB、版搬送経路PTP、転写プレート搬送経路PTTおよび基板搬送経路PTS上に配置されている。
この印刷システム100Aでは、ブランケットBLは表面(塗布層やパターン層が形成され、転写処理後に残留インクが付着するブランケットBLの一方主面)を常時鉛直上方、つまり(+Z)方向に向けた状態で各種処理を受ける。そのため、ブランケット搬送経路PTB以外の搬送経路PTP、PTT、PTSのうち少なくともブランケット搬送経路PTBと重なる経路部分では、版PP、基板SBおよび転写プレートTPはブランケットBLを接触する一方主面を鉛直下方、つまり(−Z)方向に向けた状態で搬送される。そこで、印刷システム100Aでは、版PP、基板SBや転写プレートTPを搬送する搬送部402の一部については、ハンド(図示省略)を反転させる反転機構を装備しており、版PP、基板SBや転写プレートTPの主面を反転させることが可能となっている。そこで、図3においては、反転機構を有する搬送部402については二重丸印を付す一方で、反転機構を有さない搬送部402については丸印を付して両者を区別している。
上記のようにレイアウトされた印刷システム100Aの各部は、制御装置500により制御される。図4に示すように、制御装置500は、システム全体の動作を司るCPU501と、各装置に設けられたモータを制御するモータ制御部502と、各装置に設けられた制御バルブ類を制御するバルブ制御部503と、各装置に供給する負圧を発生する負圧供給部504と、カメラにより撮像された画像に対し画像処理を施す画像処理部505と、乾燥空気や不活性ガスなどの気体を供給するガス供給部506と、後述するようにブランケットBLの個体情報(図28)をテーブル形式で記憶する記憶部507とを備えている。なお、ここでは、制御装置500によりシステム各部を直接制御しているが、各装置を個別の制御装置で制御するとともにホストコンピュータが通信によって各制御装置を制御するように構成してもよいことは言うまでもない。
次に、印刷システム100Aを構成する各装置について説明する。
<<塗布装置>>
図5は、図3に示す印刷システムに装備された塗布装置の一例を示す斜視図である。この塗布装置800はブランケットBLを吸着保持するためのブランケット保持部810を備えている。このブランケット保持部810には、図示を省略した複数のリフトピンが、適宜の間隔をおいて設けられている。これらのリフトピンは、ブランケットBLの搬入、搬出時に、ブランケットBLをその下方より支持して、ブランケット保持部810の表面より上方に上昇させる。
ブランケット保持部810の上方には、このブランケット保持部810の両側部分から略水平に掛け渡されたキャリッジ820が設けられている。このキャリッジ820は、スリットノズル830を支持するためのノズル支持部840と、このノズル支持部840の両端を支持する左右一対の昇降機構850とを備える。また、ブランケット保持部810の両端部には、略水平方向に平行に伸びる一対の走行レール860が配設される。これらの走行レール860は、キャリッジ820の両端部をガイドすることにより、キャリッジ820を、図5に示すY方向に往復移動させる。
ブランケット保持部810およびキャリッジ820の両側部分には、ブランケット保持部810の両側の縁側に沿って、それぞれ固定子871と移動子872を備える一対のリニアモータ870が配設されている。また、ブランケット保持部810およびキャリッジ820の両側部分には、それぞれスケール部と検出子とを備えた一対のリニアエンコーダ880が固設される。このリニアエンコーダ880は、キャリッジ820の位置を検出する。
このように構成された塗布装置800では、キャリッジ820がY方向に往路移動する間にスリットノズル830からインクを連続的に吐出させてブランケットBLの表面にインクを供給して塗布層を形成する。なお、本実施形態では、スリットノズル830のインク吐出口のX方向幅がブランケットBLの幅よりも短く、かつパターン層の幅よりも長くなるように設定されており、塗布装置800は図6に示す位置関係で塗布層を塗布する。
図6は、ブランケット、塗布層、版、基板および有効領域の位置関係を模式的に示す図である。塗布装置800は、図6に示す位置関係となるように、ブランケットBLの表面に塗布層CLを形成する。すなわち、ブランケットBLでは、その中央部分に塗布層CLは塗布されるが、周縁部はインクが塗布されていない余白部分であり、中央部分および周縁部はそれぞれ本発明の「担持領域」および「非担持領域」に相当している。また、図6に示すように、上記余白部分のうちエッジから1〜2[mm]の領域にブランケットBLを個別に識別するためのユニークなブランケット識別番号NBがブランケットBLの製造段階で付されている。なお、同図中の符号「AR」は、塗布層CLを版PPによってパターニングして得られるパターン層が基板SBに対して有効に転写されてデバイスとして機能する有効領域を示している。この実施形態では、有効領域ARは塗布層CLよりも狭く、転写工程および剥離工程を行うことで塗布層CLから有効領域ARを除いた額縁形状の領域(以下「残留領域」という)RRがブランケットBLの表面に残留する。このように残留領域RRを設ける理由は、塗布層CL全体を均一な膜厚で塗布することは事実上難しいためである。つまり、膜厚が均一な塗布層CLの中央領域のみを使ってパターン層を形成するためである。これによって良好なパターン層を形成することができ、基板SBへのパターン層の形成を良好に行うことができる。
<<転写装置>>
印刷システム100Aでは、3種類の転写装置202、203、204が設けられており、それぞれパターニング用転写装置、基板用転写装置および除去用転写装置として機能するが、これらは基本的に同一構成を有している。そこで、転写装置203について説明し、転写装置202、204についての説明を省略する。
図7は、図3に示す印刷システムに装備された転写装置の一例を示す斜視図である。なお、同図では、装置の内部構成を示すために外部カバーを除いた状態を示している。この転写装置203では、基板SBおよびブランケットBLの搬入出はY軸方向に沿ってなされる。
この転写装置203は、メインフレーム2に上ステージブロック4および下ステージブロック6が取り付けられた構造を有している。図7では、各ブロックの区別を明示するために、上ステージブロック4には粗いピッチのドットを、また下ステージブロック6にはより細かいピッチのドットを付している。
転写装置203は、下ステージブロック6により保持されたブランケットBLと、上ステージブロック4により保持された基板SBとを互いに当接させることでブランケットBLと基板SBとを密着させてブランケットBL上のパターン層を基板SBに転写する装置である。
転写装置203の下ステージブロック6は、メインフレーム2のベースフレーム21により支持されている。一方、上ステージブロック4は、下ステージブロック6をX方向から挟むようにベースフレーム21から立設されY方向に延びる1対の上ステージ支持フレーム22,23に取り付けられている。
また、メインフレーム2には、装置に搬入される基板SBとブランケットBLとの位置検出を行うためのプリアライメントカメラが取り付けられている。具体的には、Y軸方向に沿って装置に搬入される基板SBのエッジを異なる3か所で検出するための3基の基板用プリアライメントカメラ241,242,243が、上ステージ支持フレーム22,23から立設されたブームにそれぞれ取り付けられている。同様に、Y軸方向に沿って装置に搬入されるブランケットBLのエッジを異なる3か所で検出するための3基のブランケット用プリアライメントカメラ244,245,246が上ステージ支持フレーム22,23から立設されたブームにそれぞれ取り付けられている。なお図7では、上ステージブロック4の背後に位置する1基のブランケット用プリアライメントカメラ246が現れていない。
図8は下ステージブロックの構造を示す斜視図である。下ステージブロック6では、中央部が開口するプレート状のアライメントステージ601の四隅にそれぞれ支柱602が鉛直軸方向(Z方向)に立設されており、これらの支柱602により、ステージ支持プレート603が支持されている。図示を省略しているが、アライメントステージ601の下部には、鉛直軸方向Zに延びる回転軸を回転中心とする回転方向(以下、「θ方向」と称する)、X方向およびY方向の3自由度を有する例えばクロスローラベアリング等のアライメントステージ支持機構(図示省略)が設けられており、該アライメントステージ支持機構を介してアライメントステージ601はベースフレーム21に取り付けられている。したがって、アライメントステージ支持機構の作動によって、アライメントステージ601はベースフレーム21に対してX方向、Y方向およびθ方向に所定の範囲で移動可能である。
ステージ支持プレート603の上部に、上面が略水平面と一致する平面となり中央部に開口窓611が形成された環状矩形の下ステージ61が配置されている。下ステージ61の上面にブランケットBLが載置され、下ステージ61がこれを保持する。
開口窓611の開口サイズについては、ブランケットBLの表面領域のうち、パターン形成領域として有効に機能する中央部の有効領域AR(図6参照)の平面サイズよりは大きいことが必要である。つまり、ブランケットBLが下ステージ61に載置されたとき、ブランケットBL下面のうち有効領域ARに対応する領域の全体が開口窓611に臨み、有効領域ARの下方が完全に開放された状態である必要がある。またパターン形成材料による塗布層は、少なくとも有効領域ARの全体を覆うように形成される。
下ステージ61の上面61aには、開口窓611の周縁各辺にそれぞれ沿うように複数の溝612が設けられており、各溝612は図示しない制御バルブを介して制御装置500の負圧供給部504に接続されている。各溝612は、ブランケットBLの平面サイズよりも小さい平面サイズの領域内に配置されている。そして、図において一点鎖線で示すように、ブランケットBLは、これらの溝612を全て覆うようにして下ステージ61に載置される。またこれを可能とするために、下ステージ上面61aにブランケットBLの位置規制用のストッパ部材613が適宜配置される。
各溝612に負圧が供給されることにより各溝612は真空吸着溝として機能し、こうしてブランケットBLの周縁部の四辺が下ステージ61の上面61aに吸着保持される。真空吸着溝を互いに独立した複数の溝612で構成することにより、何らかの原因で一部の溝において真空破壊が生じても他の溝によるブランケットBLの吸着が維持されるので、ブランケットBLを確実に保持することができる。また、単独の溝を設けた場合よりも強い吸着力でブランケットBLを吸着することができる。
下ステージ61の開口窓611の下方には、ブランケットBLをZ軸方向に上下動させるための昇降ハンドユニット62,63と、ブランケットBLに下方から当接して押し上げる転写ローラユニット64とが設けられている。
図9は昇降ハンドユニットの構造を示す図である。2つの昇降ハンドユニット62,63の構造は同一であるので、ここでは一方の昇降ハンドユニット62の構造について説明する。昇降ハンドユニット62は、ベースフレーム21からZ方向に立設された2本の支柱621,622を有しており、これらの支柱621,622に対してプレート状のスライドベース623が上下動可能に取り付けられている。より具体的には、2本の支柱621,622にはそれぞれ鉛直軸方向(Z方向)に延びるガイドレール6211,6221が取り付けられており、スライドベース623の背面、つまり(+Y)側主面に取り付けられた図示しないスライダがガイドレール6211,6221に摺動自在に取り付けられる。そして、例えばモータおよびボールねじ機構などの適宜の駆動機構を備える昇降機構624が、制御装置500からの制御指令に応じてスライドベース623を上下動させる。
スライドベース623には複数(この例では4本)のハンド625が上下動自在に取り付けられている。各ハンド625の構造は、配設位置に応じてベース部分の形状が異なる点を除いて基本的に同一である。各ハンド625は、スライドベース623の正面、つまり(−Y)側主面に鉛直軸方向(Z方向)に沿って取り付けられたガイドレール626に対して摺動自在に係合されたスライダ627に固定されている。スライダ627はスライドベース623の背面に取り付けられた例えばロッドレスシリンダなどの適宜の駆動機構を備える昇降機構628に連結されており、該昇降機構628の作動によりスライドベース623に対して上下方向に移動する。各ハンド625にはそれぞれ独立の昇降機構628が設けられており、各ハンド625を個別に上下動させることができる。
つまり、昇降ハンドユニット62では、昇降機構624がスライドベース623を上下動させることで各ハンド625を一体的に昇降させることができるとともに、各昇降機構628が独立して作動することで各ハンド625を個別に昇降させることが可能となっている。
ハンド625の上面625aはY方向を長手方向とする細長い平面状に仕上げられており、該上面625aをブランケットBLの下面に当接させてブランケットBLを支持することができる。また上面625aには、図示しない配管および制御バルブを介して制御装置500に設けられた負圧供給部504と連通する吸着孔625bが設けられている。これにより、吸着孔625bには必要に応じて負圧供給部504からの負圧が供給されて、ハンド625の上面625aにブランケットBLを吸着保持することができる。そのため、ハンド625でブランケットBLを支持する際の滑りを防止することができる。
また、吸着孔625bに対しては、図示しない配管および制御バルブを介して制御装置500のガス供給部506から適宜の気体、例えば乾燥空気や不活性ガスなどが必要に応じて供給される。すなわち、制御装置500により制御される各制御バルブの開閉によって、吸着孔625bには、負圧供給部504からの負圧およびガス供給部506からの気体が選択的に供給される。
ガス供給部506からの気体が吸着孔625bに供給されるとき、吸着孔625bからは少量の気体が吐出される。これによりブランケットBLの下面とハンド上面625aとの間に微小な隙間が形成され、ハンド625はブランケットBLを下方から支持しつつ、ブランケットBL下面からは離間した状態となる。そのため、各ハンド625によりブランケットBLを支持しながら、ブランケットBLを各ハンド625に対して摺擦させることなく水平方向に移動させることができる。なお、気体吐出孔を吸着孔625bとは別にハンド上面625aに設けてもよい。
図8に戻って、下ステージブロック6では、上記のような構成を有する昇降ハンドユニット62,63がハンド625を内向きにしてY方向に向かい合うように対向配置されている。各ハンド625が最も下降した状態では、ハンド上面625aは下ステージ上面61aよりも下方、つまり(−Z)方向に大きく後退した位置にある。一方、各ハンド625が最も上昇した状態では、各ハンド625の先端は下ステージ61の開口窓611から上方へ突き出した状態となり、ハンド上面625aは下ステージ上面61aよりも上方、つまり(+Z)方向に突出した位置まで到達する。
また、上方から見たとき、両昇降ハンドユニット62,63の互いに向かい合うハンド625の先端同士の間には一定の間隔が設けられており、これらが接触することはない。また次に述べるように、この隙間を利用して、転写ローラユニット64がX方向に移動する。
図10は転写ローラユニットの構造を示す図である。転写ローラユニット64は、Y方向に延びる円筒状のローラ部材である転写ローラ641と、該転写ローラ641の下方に沿ってY方向に延びその両端部で転写ローラ641を回転自在に支持する支持フレーム642と、適宜の駆動機構を有し支持フレーム642をZ方向に上下動させる昇降機構644とを有している。転写ローラ641は回転駆動機構と接続されておらず、自由回転する。また、支持フレーム642には、転写ローラ641の表面に下方から当接して転写ローラ641の撓みを防止するバックアップローラ643が設けられている。
Y方向における転写ローラ641の長さは、下ステージ61の開口窓611の四辺のうちY方向に沿った辺の長さ、つまり開口窓611のY方向における開口寸法よりは短く、かつ、後述する上ステージに保持されたときの基板SBのY方向に沿った長さよりは長い。ブランケットBLのうちパターン形成領域として有効な有効領域ARの長さは当然に基板SBの長さ以下であるから、Y方向において転写ローラ641は有効領域ARよりも長い。
昇降機構644は、ベース部644aと、該ベース部644aから上方に延びて支持フレーム642のY方向における中央付近に連結された支持脚644bを有している。支持脚644bはモータまたはシリンダ等の適宜の駆動機構によりベース部644aに対して上下動可能となっている。ベース部644aは、X方向に延設されたガイドレール646に対して摺動自在に取り付けられており、さらに例えばモータおよびボールねじ機構などの適宜の駆動機構を備える移動機構647に連結されている。ガイドレール646は、X方向に延設されてベースフレーム21に固定された下部フレーム645の上面に取り付けられている。移動機構647が作動することにより、転写ローラ641、支持フレーム642および昇降機構644が一体的にX方向に走行する。
詳しくは後述するが、この転写装置203では、下ステージ61に保持されたブランケットBLに転写ローラ641を当接させてブランケットBLを部分的に押し上げることにより、上ステージに保持されてブランケットBLに近接対向配置された基板SBにブランケットBLを当接させる。
昇降機構644は、昇降ハンドユニット62,63の互いに向かい合うハンド625が作る隙間を通って走行する。また各ハンド625は、その上面625aが転写ローラユニット64の支持フレーム642の下面より下方まで(−Z)方向に後退可能となっている。したがってこの状態で昇降機構644が走行することで、転写ローラユニット64の支持フレーム642が各ハンド625の上面625aの上方を通過し、転写ローラユニット64とハンド625とが衝突することが回避される。
次に上ステージブロック4の構造について説明する。図7に示すように、上ステージブロック4は、X方向に延びる構造体である上ステージアセンブリ40と、上ステージ支持フレーム22,23からそれぞれ立設されて上ステージアセンブリ40のX方向両端部をそれぞれ支持する1対の支持柱45,46と、例えばモータおよびボールねじ機構などの適宜の駆動機構を備え上ステージアセンブリ40全体をZ方向に昇降移動させる昇降機構47とを備えている。
図11は上ステージアセンブリの構造を示す図である。上ステージアセンブリ40は、下面に基板SBを保持する上ステージ41と、上ステージ41の上部に設けられた補強フレーム42と、補強フレーム42に結合されてX方向に沿って水平に延びる梁状構造体43と、上ステージ41に装着される上部吸着ユニット44とを備えている。図11に示すように、上ステージアセンブリ40はその外形上の中心を含むXZ平面およびXZ平面に対してそれぞれ概ね対称な形状を有している。
上ステージ41は、保持すべき基板SBの平面サイズより少し小さい平板状部材であり、水平姿勢に保持されたその下面41aが基板SBを当接させて保持する保持平面となっている。保持平面は高い平面度が要求されるので、その材料としては石英ガラスまたはステンレス板が好適である。また保持平面には後述する上部吸着ユニット44の吸着パッドを装着するための貫通孔が設けられている。
補強フレーム42は、上ステージ41の上面にZ方向に延設された補強リブの組み合わせからなっており、図に示すように、上ステージ41の撓みを防止してその下面(保持平面)41aの平面度を維持するために、XZ平面と平行な補強リブ421と、XZ平面と平行な補強リブ422とがそれぞれ複数適宜組み合わされている。補強リブ421,422は例えば金属板により構成することができる。
また、梁状構造体43は、複数の金属板を組み合わせて形成されたX方向を長手方向とする構造体であり、その両端部が支持柱45,46に支持されて上下動可能となっている。具体的には、支持柱45,46にはZ方向に延びるガイドレール451,461がそれぞれ設けられる一方、これと対向する梁状構造体43の(+Y)側主面に図示しないスライダが取り付けられており、これらが摺動自在に係合されている。そして、図7に示すように、梁状構造体43と支持柱46とは昇降機構47によって連結されており、昇降機構47が作動することにより、梁状構造体43が水平姿勢を維持したまま鉛直軸方向(Z方向)に移動する。上ステージ41は補強フレーム42を介して梁状構造体43と一体的に結合されているので、昇降機構47の作動により、上ステージ41が保持平面41aを水平に保ったまま上下動する。
なお、補強フレーム42および梁状構造体43の構造は図示したものに限定されない。ここではXZ平面と平行な板状部材とXZ平面と平行な板状部材とを組み合わせて必要な強度を得ているが、これ以外の形状に板金やアングル部材等を適宜組み合わせてもよい。このような構造とするのは上ステージアセンブリ40を軽量に構成するためである。各部の撓みを低減させるために、上ステージ41の厚みを増したり梁状構造体43を中実体とすることも考えられるが、そのようにすると上ステージアセンブリ40全体の質量が大きくなってしまう。
装置の上部に配置される構造物の重量が大きくなると、これを支持したり移動させたりするための機構にさらなる強度および耐久性が必要となり、装置全体も非常に大きく重くなってしまう。板材等の組み合わせにより必要な強度を得つつ、構造物全体の軽量化を図ることがより現実的である。
また、補強フレーム42により囲まれた上ステージ41の上部には、1対の上部吸着ユニット44が装着される。一方の上部吸着ユニット44が上方へ取り出された状態が図11上部に示されている。上部吸着ユニット44では、支持フレーム441から下方へ延びる複数のパイプ442の下端に例えばゴム製の吸着パッド443がそれぞれ装着されている。各パイプ442の上端側は図示しない配管および制御バルブを介して制御装置500の負圧供給部504に接続されている。支持フレーム441は、補強フレーム42を構成するリブ421,422と干渉しない形状とされる。
支持フレーム441は、1対のスライダ444とこれに係合する1対のガイドレール445を介して、ベースプレート446に対し鉛直軸方向に移動自在に支持されている。また、ベースプレート446と支持フレーム441とは、例えばモータおよびボールねじ機構などの適宜の駆動機構を有する昇降機構447により結合されている。昇降機構447の作動により、ベースプレート446に対して支持フレーム441が昇降し、これと一体的にパイプ442および吸着パッド443が昇降する。
ベースプレート446が上ステージ41に固定されることで、上部吸着ユニット44が上ステージ41に装着される。この状態では、各パイプ442の下端および吸着パッド443は、上ステージ41に設けられた図示しない貫通孔に挿通されている。そして、昇降機構447の作動により、吸着パッド443は、その下面が上ステージ41の下面(保持平面)41aよりも下方まで吐出した吸着位置と、下面が上ステージ41の貫通孔の内部(上方)に退避した退避位置との間で昇降移動する。また吸着パッド443の下面が上ステージ41の保持平面41aとほぼ同一高さに位置決めされたとき、上ステージ41と吸着パッド443とが協働して、基板SBを保持平面41aに保持することができる。
図7に戻って、上記のように構成された上ステージアセンブリ40はベースプレート481上に設けられている。より詳しくは、支持柱45,46がそれぞれベースプレート481に立設されており、該支持柱45,46に対して上ステージアセンブリ40が昇降可能に取り付けられている。ベースプレート481は、上ステージ支持フレーム22,23に取り付けられ例えばクロスローラベアリング等の適宜の可動機構を備える上ステージブロック支持機構482により支持されている。
このため、上ステージアセンブリ40全体が、メインフレーム2に対して水平移動可能となっている。具体的には、ベースプレート481が上ステージブロック支持機構482の作動により水平面、すなわちXY平面内で水平移動する。支持柱45,46のそれぞれに対応して設けられた1対のベースプレート481は互いに独立して移動可能となっており、これらの移動に伴って、上ステージアセンブリ40はメインフレーム2に対してX方向、Y方向およびθ方向に所定の範囲で移動可能である。
次に、上記のように構成された転写装置203における転写処理について説明する。この転写処理では、上ステージ41に保持された基板SBと、下ステージ61に保持されたブランケットBLとが微小なギャップを隔てて近接対向配置される。そして、転写ローラ641がブランケットBLの下面に当接してブランケットBLを局所的に上方へ押し上げながらブランケットBL下面に沿って移動する。押し上げられたブランケットBLは基板SBとまず局所的に当接し、ローラ移動に伴って当接部分が次第に拡大して最終的には基板SBの全体と当接する。これにより、ブランケットBLと基板SBとが密着されてブランケットBL上のパターン層が基板SBに転写される。
図12ないし図18は処理の各段階における装置各部の位置関係を模式的に示す図である。以下、転写処理における各部の動作を図12ないし図18を参照しつつ説明する。なお、処理の各段階における各部の関係をわかりやすく示すために、当該段階の処理に直接に関係しない構成またはそれに付すべき符号の図示を省略することがある。
この転写処理では、初期化された転写装置203に対して、まず基板SBが図3の基板搬送経路PTSに沿って搬入され、上ステージ41にセットされる。次いで、版PPによりパターニングされたパターン層を担持したブランケットBLが図3のブランケット搬送経路PTBに沿って搬入され、下ステージ61にセットされる。基板SBはパターン層の転写を受ける被転写面を下向きにして、またブランケットBLはパターン層を上向きにして搬入される。
図12は、基板SBが装置に搬入され上ステージ41にセットされるまでの過程を示している。図12(a)に示すように、初期状態では、上ステージ41が上方に退避して下ステージ61との間隔が大きくなっており、両ステージの間に広い処理空間SPが形成されている。また、各ハンド625は下ステージ61の上面よりも下方に退避している。転写ローラ641は下ステージ61の開口窓611に臨む位置のうち最も(−X)方向に寄った位置で、かつ鉛直軸方向(Z方向)には下ステージ61の上面よりも下方に退避した位置にある。負圧供給部504に接続される各制御バルブは閉じられている。
この状態で、(−Y)方向から(+Y)方向に向かって、搬送部402の基板用ハンドHSに載置された基板SBが、予めその厚みが計測された上で処理空間SPに搬入される。このときハンド625および転写ローラ641が下方に退避していることで、搬入作業を容易にすることができる。基板SBが所定の位置に位置決めされると、矢印で示すように上ステージ41が降下してくる。
上ステージ41が基板SBに近接した所定の位置まで降下すると、図12(b)に示すように、上ステージ41に設けられた吸着パッド443が上ステージ41の下面、つまり保持平面41aよりも下方までせり出してきて、基板SBの上面に当接する。吸着パッド443につながる制御バルブが開かれることで、吸着パッド443により基板SBの上面が吸着されて基板SBが保持される。そして、吸着を継続したまま吸着パッド443を上昇させることで、基板SBは基板用ハンドHSから持ち上げられる。この時点で基板用ハンドHSは装置外へ移動する。
最終的には、図12(c)に示すように、吸着パッド443の下面が保持平面41aと同一高さあるいはそれより僅かに高い位置まで上昇し、これにより基板SBの上面が上ステージ41の保持平面41aに密着した状態で保持される。上ステージ41の下面に吸着溝もしくは吸着孔を設け、これらにより基板SBを吸着する構成であってもよい。このようにして基板SBの保持が完了する。
図13および図14は、基板SBの搬入後、ブランケットBLが搬入されて下ステージ61に保持されるまでの過程を示している。上ステージ41による基板SBの保持が完了すると、図13(a)に示すように、上ステージ41を上昇させて再び広い処理空間SPを形成するとともに、各ハンド625を下ステージ61の上面61aよりも上方まで上昇させる。このとき、各ハンド625の上面625aが全て同一高さとなるようにする。
この状態で、図13(b)に示すように、上面にパターン層PLが形成されたブランケットBLが搬送部402のブランケット用ハンドHBに載置されて処理空間SPに搬入されるのを受け付ける。ブランケットBLは搬入に先立ってその厚みが計測される。ブランケット用ハンドHBは、ハンド625と干渉することなくそれらの隙間を通って進入することができるように、Y方向に延びるフィンガーを有するフォーク型のものであることが望ましい。
ブランケット用ハンドHBが進入後降下する、またはハンド625が上昇することによって、ハンド625の上面625aはブランケットBLの下面に当接し、図13(c)に示すように、それ以降ブランケットBLはハンド625により支持される。ハンド625に設けた吸着孔625b(図9)に負圧を供給することで、支持をより確実なものとすることができる。こうしてブランケットBLはブランケット用ハンドHBからハンド625に受け渡され、ブランケット用ハンドHBについては装置外へ排出することができる。
その後、図14(a)に示すように、各ハンド625の上面625aの高さを揃えたままハンド625を降下させ、最終的にはハンド上面625aを下ステージ61の上面61aと同じ高さとする。これにより、ブランケットBL四辺の周縁部が下ステージ61の上面61aに当接する。
このとき、図14(b)に示すように、下ステージ上面61aに設けた真空吸着溝612に負圧を供給して、ブランケットBLを吸着保持する。これに伴い、ハンド625での吸着は解除する。これにより、ブランケットBLは、その四辺の周縁部を下ステージ61により吸着保持された状態となる。図14(b)では、ハンド625による吸着保持を解除したことを明示するためにブランケットBLとハンド625とが離間しているが、実際にはブランケットBLの下面がハンド上面625aに当接した状態が維持される。
仮にこの状態でハンド625を離間させたとすると、ブランケットBLは自重によって中央部が下方へ撓み、全体として下に凸の形状になると考えられる。ハンド625を下ステージ上面61aと同じ高さに維持することによって、このような撓みを抑えてブランケットBLを平面状態に維持することができる。こうして、ブランケットBLはその周縁部が下ステージ61により吸着保持されつつ、中央部についてはハンド625により補助的に支持された状態となって、ブランケットBLの保持が完了する。
基板SBとブランケットBLとの搬入順序は上記と逆であっても構わない。ただし、ブランケットBLを搬入した後に基板SBを搬入する場合、基板SBの搬入時にブランケットBL上に異物が落下してパターン層PLを汚染したり欠陥を発生させるおそれがある。上記のように基板SBを上ステージ41にセットした後に下ステージ61にブランケットBLをセットすることで、そのような問題を未然に回避することが可能である。
こうして上下ステージに基板SBおよびブランケットBLがそれぞれセットされると、続いて基板SBおよびブランケットBLのプリアライメント処理が行われる。さらに、両者が予め設定されたギャップを隔てて対向するように、ギャップ調整が行われる。
図15はギャップ調整処理およびアライメント処理の過程を示す図である。このうち図15(c)に示す精密アライメント処理は転写装置203でのみ実行され、その他の転写装置202、204では実行されない。これは、塗布層にパターン層を形成する精度や転写プレートTPをブランケットBLに転写する精度がパターン層を基板SBに転写する精度に比べて低いことに起因する。
上記のように基板SBやブランケットBLが外部の装置から搬入されるが、その受け渡しの際に位置ずれが起こり得る。プリアライメント処理は、上ステージ41に保持された基板SBと、下ステージ61に保持されたブランケットBLとのそれぞれを、以後の処理に適した位置に概略位置決めするための処理である。
図15(a)はプリアライメントを実行するための構成の配置を模式的に示す側面図である。前述したように、この実施形態では、装置上部に全部で6基のプリアライメントカメラ241〜246が設けられている。このうち3基のカメラ241〜243は、上ステージ41に保持された基板SBの外縁を検出するための基板用プリアライメントカメラである。また、他の3基のカメラ244〜246は、ブランケットBLの外縁を検出するためのブランケット用プリアライメントカメラである。なお、ここではプリアライメントカメラ241〜243を便宜的に「基板用プリアライメントカメラ」と称しているが、これらは基板SBの位置合わせおよび基板SBの位置合わせのいずれにも使用可能なものであり、またその処理内容も同じである。
図7および図15(a)に示すように、基板用プリアライメントカメラ241,242はX方向には略同位置でY方向に互いに位置を異ならせて設置されており、基板SBの(−X)側外縁部を上方からそれぞれ撮像する。上ステージ41は基板SBより少し小さい平面サイズに形成されているため、上ステージ41の端部よりも外側まで延びた基板SB(または基板SB)の(−X)側外縁部を上方から撮像することができる。また、図には現れないが、図15(a)紙面の手前側にはもう1基の基板用プリアライメントカメラ243が設けられており、該カメラ243は基板SB(または基板SB)の(−Y)側外縁部を上方から撮像する。
一方、ブランケット用プリアライメントカメラ244,246はX方向には略同位置でY方向に互いに位置を異ならせて設置されており、下ステージ61に載置されるブランケットBLの(+X)側外縁部を上方からそれぞれ撮像する。また、図15(a)紙面の手前側にもう1基のブランケット用プリアライメントカメラ245が設けられており、該カメラ245はブランケットBLの(−Y)側外縁部を上方から撮像する。本実施形態では、プリアライメントカメラ244がブランケットBL毎に塗布層CLやパターン層PLから外れた領域に付されたユニークなブランケット識別番号NBを撮像し、画像処理部505で当該画像を解析することで下ステージ61に載置されるブランケットBLを特定することが可能となっている。
これらのプリアライメントカメラ241〜246による撮像結果から基板SBおよびブランケットBLの位置がそれぞれ把握される。そして、必要に応じて上ステージブロック支持機構482およびアライメントステージ支持機構が作動することにより、基板SBおよびブランケットBLがそれぞれ予め設定された目標位置に位置決めされる。また、上記したようにプリアライメントカメラ244による撮像結果からブランケット識別番号を把握することが可能となっている。
なお、下ステージ61とともにブランケットBLを水平移動させるとき、図15(a)に示すように、各ハンド625の上面625aとブランケットBLの下面とは僅かに離間させておくことが好ましい。この目的のために、ガス供給部506から供給されるガスをハンド625の吸着孔625bから吐出させておくことができる。これは後述する精密アライメント処理においても同様である。
また、薄型あるいは大型で撓みが生じやすい基板SBについては、取り扱いを容易にするために例えば背面に板状の支持部材を当接させた状態で基板SBが処理に供する場合がある。このような場合、たとえ支持部材が基板SBよりも大型のものであっても、例えば支持部材を透明材料で構成したり、支持部材に部分的に透明な窓または貫通孔を設けるなど、基板SBの外縁部の位置を検出容易な構成としておけば、上記と同様のプリアライメント処理が可能である。
次いで、図15(b)に示すように、ブランケットBLを保持する下ステージ61に対して、基板SBを保持する上ステージ41を降下させて、基板SBとブランケットBLとの間隔Gを予め定められた設定値に合わせる。このとき、事前に計測された基板SBおよびブランケットBLの厚みが考慮される。すなわち、基板SBおよびブランケットBLの厚みを加味した上で両者のギャップが所定値になるように、上ステージ41と下ステージ61との間隔が調整される。ここでのギャップ値Gとしては、例えば300μm程度とすることができる。
基板SBおよびブランケットBLの厚みについては、製造上の寸法ばらつきによる個体差があるほか、同一部品であっても例えば膨潤による厚みの変化が考えられるので、使用の都度計測されることが望ましい。また、ギャップGについては、基板SBの下面とブランケットBLの上面との間で定義されてもよく、また基板SBの下面と、ブランケットBLに担持されたパターン形成材料のパターン層PLの上面との間で定義されてもよい。パターン層PLの厚みが塗布段階で厳密に管理されている限り、技術的には等価である。
こうして基板SBとブランケットBLとがギャップGを隔てて対向配置されると、続いて転写ローラ641をブランケットBLの下面に当接させつつX方向に走行させることで、基板SBとブランケットBLとを密着させる。これによりブランケットBL上のパターン層PLを基板SBに転写する。
図16は転写処理の過程を示している。具体的には、図16(a)に示すように、転写ローラ641をブランケットBLの直下位置まで上昇させるとともに、X方向には転写ローラ641の中心線が基板SBの端部と略同じ位置、またはこれよりも(−X)方向に僅かに外れた位置に、転写ローラ641を配置する。この状態で、図16(b)に示すように、転写ローラ641をさらに上昇させてブランケットBLの下面に当接させ、該当接された位置のブランケットBLを局所的に上方に押し上げる。これにより、ブランケットBL(より厳密にはブランケットBLに担持されたパターン層PL)が所定の押圧力で基板SBの下面に押圧される。転写ローラ641はY方向において基板SB(および有効領域AR)より長いので、基板SBの下面のうちY方向における一方端から他方端に至るY方向に沿った細長い領域がブランケットBLと当接する。こうして、ブランケットBLと基板SBとが部分的にパターン層PLを介して密着して密着部位AP2が局部的に形成される。
こうして転写ローラ641がブランケットBLを押圧した状態のまま昇降機構644が(+X)方向に向けて走行することで、ブランケットBLの押し上げ位置を(+X)方向に移動させる。このときハンド625が転写ローラ641と接触するのを防止するため、図16(c)に示すように、転写ローラ641とのX方向距離が所定値以下となったハンド625については少なくとも当該ハンド625の上面625aが支持フレーム642の下面より低い位置となるまで下方に退避させる。
ハンド625による吸着は既に解除されているので、ハンド625の降下とともにブランケットBLが下方へ引き下げられることはない。また、降下を開始するタイミングを転写ローラ641の走行に同期して適宜に管理することで、ハンド625による支持を失ったブランケットBLが自重で下方へ垂れ下がることも防止することが可能である。
図17は転写ローラ641の走行過程を示している。いったん当接した基板SBとブランケットBLとはパターン層PLを介して密着した状態が維持されるので、図17(a)に示すように、転写ローラ641の走行に伴って基板SBとブランケットBLとが密着した領域が次第に(+X)方向に拡大してゆく。この際、同図に示すように、転写ローラ641が接近するにつれてハンド625を順次降下させる。
こうして最終的には、図17(b)に示すように、全てのハンド625が降下し、転写ローラ641が下ステージ61下方の(+X)側端部まで到達する。この時点で転写ローラ641は基板SBの(+X)側端部の略直下またはこれより僅かに(+X)側の位置に到達しており、基板SBの下面全てがブランケットBL上のパターン層PLに当接される。
転写ローラ641が一定の高さを維持して走行する間、ブランケットBL下面のうち転写ローラ641により押圧される領域の面積は一定である。したがって、昇降機構644が一定の荷重を与えながら転写ローラ641をブランケットBLに押し付けることによって、基板SBとブランケットBLとは間にパターン形成材料のパターン層PLを挟みながら一定の押圧力で互いに押圧されることになる。これにより、基板SBからブランケットBLへのパターン転写を良好に行うことができる。
なお、パターン層PLの転写に際しては、基板SBの表面領域の全体が有効に利用できることが理想的であるが、基板SBの周縁部には傷や搬送時のハンドとの接触等により有効利用できない領域が不可避的に生じる。図17(b)に示すように、基板SBの端部領域を除外した中央部分を有効領域ARとしたとき、少なくとも有効領域AR内では転写ローラ641の押圧力および走行速度が一定であることが望ましい。このためには、転写ローラ641のY方向長さが同方向における有効領域ARの長さよりも長い必要がある。またX方向においては、(−X)方向における有効領域ARの端部よりも(−X)側位置から転写ローラ641の走行を開始し、少なくとも(+X)方向における有効領域ARの端部に到達するまでは一定速度を維持することが望ましい。基板SBの有効領域ARと対向するブランケットBLの表面領域が、ブランケットBL側の有効領域ARとなる。
こうして転写ローラ641が(+X)側端部まで到達すると、転写ローラ641の走行を停止するとともに、図17(c)に示すように転写ローラ641を下方へ退避させる。これにより、転写ローラ641はブランケットBL下面から離間して転写処理が終了する。
こうして転写処理が終了すると基板SBとブランケットBLとの密着体の搬出が行われる。図18は版およびブランケットの搬出の過程を示している。まず、図18(a)に示すように、転写処理時に降下していた各ハンド625を再び上昇させて、上面625aが下ステージ61の上面61aと同一高さとなる位置に位置決めする。この状態で、上ステージ41の吸着パッド443による基板SBの吸着を解除する。これにより上ステージ41による基板SBの保持が解除され、基板SBとブランケットBLとがパターン形成材料のパターン層PLを介して一体化された密着体が下ステージ61上に残される。密着体の中央部についてはハンド625により支持される。
続いて、図18(b)に示すように、上ステージ41を上昇させて広い処理空間SPを形成し、下ステージ61の溝612による吸着を解除するとともに、ハンド625をさらに上昇させて下ステージ61よりも上方へ移動させる。このときハンド625により密着体を吸着保持することが好ましい。
こうすることで外部からのアクセスが可能となる。そこで、図18(c)に示すように、搬送部402のブランケット用ハンドHBを外部から受け入れて、搬入時とは逆の動作をすることで、基板SBを密着させた状態のブランケットBLが外部へ搬出され、剥離装置303に搬送される。そして、剥離装置303により基板SBをブランケットBLから剥離すれば、基板SB上にパターン層が形成される。
<<剥離装置>>
印刷システム100Aでは、3種類の剥離装置302、303、304が設けられているが、これらは基本的に同一構成を有している。そこで、剥離装置303について説明し、剥離装置302、304についての説明を省略する。
図19は、図3に示す印刷システムに装備された剥離装置の一例を示す斜視図である。剥離装置303は、主面同士が互いに密着した状態で搬入される密着体を剥離させるための装置である。この剥離装置303は、筺体に取り付けられたメインフレーム11の上にステージブロック3および上部吸着ブロック5がそれぞれ固定された構造を有している。図19では装置の内部構造を示すために筐体の図示を省略している。
ステージブロック3は、基板SBとブランケットBLとが密着されてなる密着体(以下、「ワーク」という)を載置するためのステージ30を有しており、ステージ30は、上面が略水平の平面となった水平ステージ部31と、上面が水平面に対して数度(例えば2度程度)の傾きを有する平面となったテーパーステージ部32とを備えている。ステージ30のテーパーステージ部32側、すなわち(−X)側の端部近傍には初期剥離ユニット33が設けられている。また、水平ステージ部31を跨ぐようにローラユニット34が設けられる。
一方、上部吸着ブロック5は、メインフレーム11から立設されるとともにステージブロック3の上部を覆うように設けられた支持フレーム50と、該支持フレーム50に取り付けられた第1吸着ユニット51、第2吸着ユニット52、第3吸着ユニット53および第4吸着ユニット54とを備えている。これらの吸着ユニット51〜54は(+X)方向に順番に並べられている。
図20は剥離装置の主要構成を示す斜視図である。より具体的には、図20は、剥離装置303の各構成のうちステージ30、ローラユニット34および第2吸着ユニット52の構造を示している。ステージ30は、上面310が略水平面となった水平ステージ部31と上面320がテーパー面となったテーパーステージ部32とを備えている。水平ステージ部31の上面310は載置されるワークの平面サイズより少し大きい平面サイズを有している。
テーパーステージ部32は水平ステージ部31の(−X)側端部に密着して設けられており、その上面320は、水平ステージ部31と接する部分では水平ステージ部31の上面310と同じ高さ(Z方向位置)に位置する一方、水平ステージ部31から(−X)方向に離れるにつれて下方、つまり(−Z)方向へ後退している。したがって、ステージ30全体では、水平ステージ部31の上面310の水平面とテーパーステージ部32の上面320のテーパー面とが連続しており、それらが接続する稜線部EはY方向に延びる直線状となっている。
また、水平ステージ部31の上面310には格子状の溝が刻設されている。より具体的には、水平ステージ部31の上面310の中央部に格子状の溝311が設けられるとともに、該溝311が形成された領域を取り囲むように、矩形のうちテーパーステージ部32側の1辺を除いた概略コの字型となるように、溝312が水平ステージ部31の上面310周縁部に設けられている。これらの溝311,312は制御バルブを介して負圧供給部504(図4)に接続されており、負圧が供給されることで、ステージ30に載置されるワークを吸着保持する吸着溝としての機能を有する。2種類の溝311,312はステージ上では繋がっておらず、また互いに独立した制御バルブを介して負圧供給部504に接続されているので、両方の溝を使用した吸着の他に、一方の溝のみ使用した吸着も可能となっている。
このように構成されたステージ30を跨ぐように、ローラユニット34が設けられる。具体的には、水平ステージ部31のY方向両端部に沿って、1対のガイドレール351,352がY方向に延設されており、これらのガイドレール351,352はメインフレーム11に固定されている。そして、ガイドレール351,352に対し摺動自在にローラユニット34が取り付けられている。
ローラユニット34は、ガイドレール351,352とそれぞれ摺動自在に係合するスライダ341,342を備えており、これらのスライダ341,342を繋ぐように、ステージ30上部を跨いでY方向に延設された下部アングル343が設けられている。下部アングル343には適宜の昇降機構344を介して上部アングル345が昇降自在に取り付けられている。そして、上部アングル345に対して、Y方向に延設された円柱状の剥離ローラ340が回転自在に取り付けられる。
上部アングル345が昇降機構344により下方、つまり(−Z)方向に下降されると、ステージ30に載置されたワークの上面に剥離ローラ340の下面が当接する。一方、上部アングル345が昇降機構344により上方、つまり(+Z)方向の位置に位置決めされた状態では、剥離ローラ340はワークの上面から上方に離間した状態となる。上部アングル345には、剥離ローラ340の撓みを抑制するためのバックアップローラ346が回転自在に取り付けられるとともに、上部アングル345自体の撓みを防止するためのリブが適宜設けられる。剥離ローラ340およびバックアップローラ346は駆動源を有しておらず、これらは自由回転する。
ローラユニット34は、メインフレーム11に取り付けられたモータ353によりY方向に移動可能となっている。より具体的には、下部アングル343が、モータ353の回転運動を直線運動に変換する変換機構としての例えばボールねじ機構354に連結されており、モータ353が回転すると下部アングル343がガイドレール351,352に沿ってY方向に移動し、これによりローラユニット34がY方向に移動する。ローラユニット34の移動に伴う剥離ローラ340の可動範囲は、(−X)方向には水平ステージ部31の(−X)側端部の近傍まで、(+X)方向には水平ステージ部31の(+X)側端部よりも外側、つまりさらに(+X)側へ進んだ位置までとされる。
次に第2吸着ユニット52の構成について説明する。なお、第1ないし第4吸着ユニット51〜54はいずれも同一構造を有しており、ここでは代表的に第2吸着ユニット52の構造について説明する。第2吸着ユニット52は、Y方向に延設されて支持フレーム50に固定される梁部材521を有しており、該梁部材521には鉛直下向き、つまり(−Z)方向に延びる1対の柱部材522,523がY方向に互いに位置を異ならせて取り付けられている。柱部材522,523には図では隠れているガイドレールを介してプレート部材524が昇降自在に取り付けられており、プレート部材524はモータおよび変換機構(例えばボールねじ機構)からなる昇降機構525により昇降駆動される。
プレート部材524の下部にはY方向に延びる棒状のパッド支持部材526が取り付けられており、該パッド支持部材526の下面に複数の吸着パッド527がY方向に等間隔で配列されている。図20では第2吸着ユニット52を実際の位置よりも上方に移動させた状態を示しているが、昇降機構525によりプレート部材524が下方へ移動されたとき、吸着パッド527が水平ステージ部31の上面310にごく近接した位置まで下降することができ、ステージ30にワークが載置された状態では該ワークの上面に当接する。各吸着パッド527には負圧供給部504からの負圧が付与されて、ワークの上面が吸着保持される。
図21は初期剥離ユニットの構造および各部の位置関係を示す側面図である。まず図19および図21を参照しながら初期剥離ユニット33の構造を説明する。初期剥離ユニット33は、テーパーステージ部32の上方でY方向に延設された棒状の押圧部材331を有しており、押圧部材331は支持アーム332により支持されている。支持アーム332は鉛直軸方向に延設されるガイドレール333を介して柱部材334に昇降自在に取り付けられており、昇降機構335の作動により、支持アーム332が柱部材334に対して上下動する。柱部材334はメインフレーム11に取り付けられたベース部336により支持されるが、位置調整機構337によりベース部336上での柱部材334のY方向位置が所定の範囲内で調整可能となっている。
水平ステージ部31およびテーパーステージ部32により構成されるステージ30に対して、剥離対象物たるワークWK(=基板SB+ブランケットBL)が載置される。
ワークWKにおいて、基板SBよりもブランケットBLの方が大きい平面サイズを有しており、基板SBはブランケットBLの略中央部に密着される。ワークWKはブランケットBLを下、基板SBを上にしてステージ30に載置される。このとき、図21に示すように、ワークWKのうち基板SBの(−X)側端部が水平ステージ部31とテーパーステージ部32との境界の稜線部Eの略上方、より詳しくは稜線部Eよりも僅かに(−X)側にずれた位置となるように、ワークWKがステージ30に載置される。したがって、(−X)方向において基板SBよりも外側のブランケットBLはテーパーステージ部32の上にせり出すように配置され、ブランケットBLの下面とテーパーステージ部32の上面320との間には隙間が生じる。ブランケットBLの下面とテーパーステージ部32の上面320とがなす角θはテーパーステージ部32のテーパー角と同じ数度(この実施形態では2度)程度である。
水平ステージ部31には吸着溝311,312が設けられており、ブランケットBLの下面を吸着保持する。このうち吸着溝311は基板SBの下部に当たるブランケットBLの下面を吸着する一方、吸着溝312は基板SBよりも外側のブランケットBLの下面を吸着する。吸着溝311,312は互いに独立して吸着をオン・オフすることができ、2種類の吸着溝311,312を共に使用して強力にブランケットBLを吸着することができる。一方、外側の吸着溝312のみを使用して吸着を行い、パターンが有効に形成されたブランケットBLの中央部については吸着を行わないようにすることで、吸着によるブランケットBLの撓みに起因するパターンの損傷を防止することができる。このように、中央部の吸着溝311と周縁部の吸着溝312とへの負圧供給を独立に制御することで、ブランケットBLの吸着保持の態様を目的に応じて切り換えることが可能となっている。
このようにしてステージ30に吸着保持されるワークWKの上方に、第1ないし第4吸着ユニット51〜54と、ローラユニット34の剥離ローラ340とが配置される。前述したように第2吸着ユニット52の下部には複数の吸着パッド527がY方向に並べて設けられている。より詳しくは、吸着パッド527は、例えばゴムやシリコン樹脂などの柔軟性および弾性を有する材料で一体的に形成された、下面がワークWKの上面(より具体的には基板SBの上面)に当接してこれを吸着する吸着部527aと、上下方向(Z方向)への伸縮性を有するべローズ部527bとを有している。他の吸着ユニット51,53および54に設けられた吸着パッドも同一構造であるが、以下ではこれらの各吸着ユニット51,53および54に設けられた吸着パッドにそれぞれ符号517、537および547を付すことにより互いを区別することとする。
第1吸着ユニット51は水平ステージ部31の(−X)側端部の上方に設けられており、下降したときに基板SBの(−X)側端部の上面を吸着する。一方、第4吸着ユニット54は、ステージ30に載置される基板SBの(+X)側端部の上方に設けられ、下降したときに基板SBの(+X)側端部の上面を吸着する。第2吸着ユニット52および第3吸着ユニット53はこれらの間に適宜分散配置され、例えば吸着パッド517〜547がY方向において略等間隔となるようにすることができる。これらの吸着ユニット51〜54の間では、上下方向への移動および吸着のオン・オフを互いに独立して実行可能となっている。
剥離ローラ340は上下方向に移動して基板SBに対し接近・離間移動するとともに、Y方向に移動することで基板SBに沿って水平移動する。剥離ローラ340が下降した状態では、基板SBの上面に当接して転動しながら水平移動する。最も(−X)側に移動したときの剥離ローラ340の位置は、第1吸着ユニット51の吸着パッド517の(+X)側直近位置である。このような近接位置への配置を可能とするために、第1吸着ユニット51については、図20に示す第2吸着ユニット52と同一構造のものが、図19に示すように他の第2ないし第4吸着ユニット52〜54とは反対向きにして支持フレーム50に取り付けられている。
初期剥離ユニット33は、テーパーステージ部32の上方に突き出されたブランケットBLの上方に押圧部材331が位置するように、そのY方向位置が調整されている。そして、支持アーム332が下降することにより、押圧部材331の下端が下降してブランケットBLの上面を押圧する。このとき押圧部材331がブランケットBLを傷つけることがないように、押圧部材331の先端は弾性部材により形成されている。
次に、上記のように構成された剥離装置303による剥離動作について、図22および図23を参照しながら説明する。図22および図23は剥離処理中の各段階における各部の位置関係を示す図であり、処理の進行状況を模式的に表したものである。この剥離処理は、CPU501が予め記憶された処理プログラムを実行して各部を制御することによりなされる。
まず、転写装置203と剥離装置303の間に配置された搬送部402によってワークWKがステージ30上の上記位置にロードされると、装置が初期化されて装置各部が所定の初期状態に設定される。初期状態では、ワークWKが吸着溝311,312の一方または両方によって吸着保持され、初期剥離ユニット33の押圧部材331、ローラユニット34の剥離ローラ340、第1ないし第4吸着ユニット51〜54の吸着パッド517〜547はいずれもワークWKから離間している。また剥離ローラ340はその可動範囲において最も(−X)側に寄った位置にある。
この状態から、第1吸着ユニット51および剥離ローラ340を下降させて、それぞれワークWKの上面に当接させる。このとき、図22(a)に示すように、第1吸着ユニット51の吸着パッド517が基板SBの(−X)側端部の上面を吸着し、剥離ローラ340はその(+X)側隣接位置で基板SBの上面に当接する。図22(a)において押圧部材331の近傍に付した下向き矢印は、図に示される状態から、続く工程では押圧部材331が当該矢印方向に移動することを意味している。以下の図においても同様である。
次に初期剥離ユニット33を作動させ、押圧部材331を下降させてブランケットBL端部を押圧する。ブランケットBLの端部はテーパーステージ部32の上方に突出しており、その下面とテーパーステージ部32の上面320との間には隙間がある。したがって、図22(b)に示すように、押圧部材331がブランケットBLの端部を下方へ押圧することにより、ブランケットBLの端部がテーパーステージ部32のテーパー面に沿って下方へ屈曲する。その結果、第1吸着ユニット51により吸着保持される基板SBの端部とブランケットBLとの間が離間し剥離が開始される。押圧部材331はY方向に延びる棒状に形成され、しかもそのY方向長さがブランケットBLよりも長く設定されている。したがって、押圧部材331がブランケットBLに当接する当接領域は、ブランケットBLの(+Y)側端部から(−Y)側端部まで直線状に延びる。こうすることで、ブランケットBLを柱面状に屈曲させることができ、基板SBとブランケットBLとが既に剥離した剥離領域と、まだ剥離していない未剥離領域との境界線(以下、「剥離境界線」という)を直線状にすることができる。
この状態から、第1吸着ユニット51の上昇を開始するとともに、これと同期させて剥離ローラ340を(+X)方向に向けて移動させる。具体的には、第1吸着ユニット51の上昇により(+X)方向に移動する剥離境界線が剥離ローラ340の直下に到達するタイミングで、剥離ローラ340の移動を開始する。これにより剥離ローラ340が基板SBに当接する領域は(+X)方向に移動してゆく。この後、第1吸着ユニット51は上方、つまり(+Z)方向に、また剥離ローラ340は(+X)方向に、それぞれ一定速度で移動する。
図22(c)に示すように、基板SBの端部を保持する第1吸着ユニット51が上昇することで基板SBが引き上げられてブランケットBLとの剥離が(+X)方向に向かって進行するが、剥離ローラ340を当接させているため、剥離ローラ340による当接領域を超えて剥離が進行することはない。剥離ローラ340を基板SBに当接させながら一定速度で(+X)方向に移動させることで、剥離の進行速度を一定に維持することができる。すなわち、剥離境界線がローラ延設方向つまりY方向に沿った一直線となり、しかも一定速度で(+X)方向に進行する。これにより、剥離の進行速度の変動による応力集中に起因するパターンの損傷を確実に防止することができる。
続いて、以下の処理のための内部的な制御パラメータNの値を2に設定する。そして、剥離ローラ340が第N吸着位置を通過するのを待つ。第N吸着位置は、基板SB上面のうち第N吸着ユニット(N=1〜4)の直下位置であり、当該第N吸着ユニットによる吸着を受ける位置である。
ここではN=2であるので、剥離ローラ340が第2吸着位置、つまり第2吸着ユニット52の直下位置を通過するまで待つ。剥離ローラ340が第2吸着位置を通過すると、第2吸着ユニット52の下降を開始し、第2吸着ユニット52の吸着パッド527により基板SBを捕捉する。
図22(d)に示すように、剥離ローラ340が既に通過していることから、第2吸着ユニット52の直下位置では基板SBはブランケットBLから剥離して上方へ浮き上がった状態となっている。伸縮性を有する弾性部材で構成された吸着パッド527に負圧を付与しながら基板SBに近付けてゆくことで、吸着パッド527の下面が基板SBの上面に当接した時点で基板SBを捕捉し吸着することができる。吸着パッド527を所定位置まで下降させた後、引き上げられてくる基板SBを待機する態様であってもよい。いずれにおいても、吸着パッドに柔軟性を持たせることで、吸着の失敗を防止することができる。
基板SBの吸着を開始した後、第2吸着ユニット52の移動を上昇に転じる。これにより、図23(a)に示すように、剥離の進行速度は依然として剥離ローラ340により制御されつつ、剥離のための基板SBの引き上げの主体は第1吸着ユニット51から第2吸着ユニット52に引き継がれる。また剥離後の基板SBは、第1吸着ユニット51のみによる保持から第1吸着ユニット51と第2吸着ユニット52とによる保持に切り替わり、保持箇所が増加することになる。なお、各吸着ユニット51〜54が上昇する際、剥離後の基板SBの姿勢が略平面となるように、各吸着ユニット51〜54間のZ方向における相対位置が維持される。
続いて制御パラメータNの値に1が加えられて、処理はパラメータNが4となるまでステップS107に戻るループ処理となる。したがって次のループでは、剥離ローラ340が第3吸着ユニット53直下の第3吸着位置を通過した時点で第3吸着ユニット53の下降が開始され、図23(b)に示すように、剥離のための基板SBの引き上げの主体が第2吸着ユニット52から第3吸着ユニット53に移行する。さらに次のループでは剥離ローラ340が第4吸着位置を通過した後に第4吸着ユニット54が下降し、基板SBを引き上げる。ステップS110におけるNの上限値を変更することで、吸着ユニットの数が上記と異なる場合にも対応可能である。
こうして第4吸着ユニット54によって基板SBが引き上げられることで、図23(c)に示すように、基板SBの全体がブランケットBLから引き離される。そこで、第4吸着ユニット54を上昇させた後、剥離ローラ340をステージ30よりも(+X)側まで移動させてその移動を停止させる。そして、図23(d)に示すように、各吸着ユニット51〜54を全て同じ高さまで上昇させた後に停止させる。また、初期剥離ユニット33の押圧部材331をブランケットBLから離間させ、ブランケットBLの上面より上方かつブランケットBLの(−X)側端部よりも(−X)側の退避位置まで移動させる(ステップS114)。その後、吸着溝によるブランケットBLの吸着保持を解除し、分離された基板SBおよびブランケットBLを装置外へ搬出することで、剥離処理が完了する。
各吸着ユニット51〜54の高さを同じとするのは、剥離後の基板SBとブランケットBLとを平行に保持することで、外部ロボットまたはオペレータにより挿入される払い出し用ハンドのアクセスと、それへのブランケットBLおよび基板SBの受け渡しとを容易にするためである。
<<洗浄装置>>
印刷システム100Aでは、 パターンニング処理に使用した版PPiを洗浄して再利用に供するために版洗浄装置720が設けられるとともに、ブランケットBLからの残留インクの除去のために用いた転写プレートTPiを洗浄して再利用に供するために転写プレート洗浄装置730が設けられている。これらは特開平9−155306号公報や特開2006−41439号公報などに記載された洗浄装置と同様の構成を有している。そこで、洗浄装置730について説明し、洗浄装置720についての説明を省略する。
図24は、インク除去に使用された転写プレートを洗浄する洗浄装置の概略を示す側面図である。この洗浄装置730では、洗浄ハウジング731の内部空間が2枚の隔壁によって3つの処理空間に仕切られている。各隔壁には、水平面(XY平面)に対して傾斜した姿勢で転写プレートTPが通過できるように開口が形成されている。また、各開口を通過しながら処理空間を貫通するように複数の傾斜ローラ732が所定の間隔を隔ててX方向に配置され、コロ搬送(ローラ搬送)によって転写プレートTPが3つの処理空間内を順番に移動可能となっている。
これらの処理空間には、プリウェット部733、薬液処理部734およびリンス部735がそれぞれ設けられている。これらのうち転写プレートTPiの搬送方向において最も上流側に位置するプリウェット部733は、シャワーノズル7331から水または所定の薬液を転写プレートTPiに供給して転写プレートTPiをプリウェットする。また、プリウェット部733の(+X)方向側に隣接する薬液処理部734は、プリウェット部733を通過してきた転写プレートTPiに対して二流体ノズル7341から洗浄用の薬液を供給して洗浄処理を施す。さらに、薬液処理部734の(+X)方向側に隣接するリンス部735は、薬液処理部734を通過してきた転写プレートTPiに対してシャワーノズル7351から水などのリンス液を供給して、洗浄用の薬液を洗い流す。なお、搬送中、転写プレートTPiは水平面に対して傾斜しているため、転写プレートTPiに供給された液体は、随時、重力方向下側に流れ落ちていく。このようにして、転写プレートTPiに対してウェット洗浄を行って当該転写プレートTPiに転写された残留インクを洗浄除去し、これを転写プレートTP0として再利用する。なお、転写プレートTP0を強制的に乾燥させるために、リンス部735の(+X)方向側に乾燥部を設けてもよい。
<<印刷装置の動作>>
上記のように構成された印刷システム100Aでは、パターニング用転写装置202および基板用転写装置203のいずれにおいても、転写ローラ641は回転軸回りに回転自在に設けられ、ブランケットBLに対して版PPや基板SBの反対側(−Z方向側)からブランケットBLを版PPや基板SBに押し当てて密着部位を形成しながら回転軸と直交する方向に往復移動となっている。なお、印刷システム100Aでは、図3に示すように転写装置202、203は互いに90゜回転した位置関係に配置されている。したがって、パターニング用転写装置202での転写ローラ641の移動方向はY方向であるのに対し、基板用転写装置203での転写ローラ641の移動方向はX方向であるが、いずれも密着部位を拡張する方向W(図1、図2参照)に相当している。そこで、以下においては転写装置202、203での転写ローラ641の移動方向(以下「ローラ移動方向」という)を「W方向」に統一して説明する。
パターニング用転写装置202および基板用転写装置203のいずれにおいても、転写ローラ641が(+W)方向に移動するときも、(−W)方向に移動するときも、上記したように密着部位の部分形成およびW方向拡張が行われる。したがって、図25に示すように、転写ローラ641の(+W)方向移動(以下「往路移動」という)による転写工程と、転写ローラ641の(−W)方向移動(以下「復路移動」という)による転写工程とを印刷処理毎に交互に実行することで印刷処理を効率的に行うことができる。なお、W方向のうち(+W)方向を「往路方向」と称するとともに、(−W)方向を「復路方向」と称する。
図25は図3の印刷システムで実行される印刷動作の通常状態を模式的に示す図である。この印刷システム100Aでは、第N枚目の印刷処理は次のようにして実行される。すなわち、塗布層CLを担持するブランケットBLと、反転パターン(図示省略)を有する版PPとがパターニング用転写装置202に搬入されると、版PPの(−W)側端部の直下位置に位置していた転写ローラ641が上昇してブランケットBLを局所的に上方に押し上げる。これにより、版PPの(−W)方向側においてブランケットBLと版PPとが部分的に塗布層CLを介して密着して密着部位AP1が形成される。それに続いて密着部位AP1を形成したまま転写ローラ641が(+W)方向に移動することで密着部位AP1が(+W)方向側に拡張される。そして、転写ローラ641が版PPの(+W)側端部の直下位置まで移動し、さらに下降することでパターニング処理が完了する。このようにローラ移動方向を往路方向(+W)に設定しながらパターン層PLをブランケットBLに転写する動作が本発明の「第1往路転写モード」の一例に相当する。
パターニング処理の第1往路転写モードが完了すると、ブランケットBLと版PPとを相互に密着してなる密着体(ワーク)がパターニング用転写装置202から剥離装置302に搬送され、ブランケットBLと版PPとが剥離されて相互に分離される。それらのうち使用済の版PP(PPi)は洗浄装置720に搬送され、洗浄処理を受けた後で再利用に供される。一方、ブランケットBLはパターン層PLを担持したまま基板用転写装置203に搬入される。また、この基板用転写装置203では、ブランケットBLの搬入前後に、基板SBが搬入される。
こうしてブランケットBLと基板SBの搬入が完了すると、基板SBの(−W)側端部の直下位置に位置していた転写ローラ641が上昇してブランケットBLを局所的に上方に押し上げる。これにより、基板SBの(−W)方向側においてブランケットBLと基板SBとが部分的にパターン層PLを介して密着して密着部位AP2が局部的に形成される。それに続いて密着部位AP2を形成したまま転写ローラ641が(+W)方向に移動することで密着部位AP2が(+W)方向側に拡張される。そして、転写ローラ641が基板SBの(+W)側端部の直下位置まで移動し、さらに下降することで基板転写処理が完了する。このようにローラ移動方向を往路方向(+W)に設定しながらパターン層PLを基板SBに転写する動作が本発明の「第2往路転写モード」の一例に相当する。
基板転写処理の第2往路転写モードが完了すると、ブランケットBLと基板SBとを相互に密着してなる密着体(ワーク)が基板用転写装置203から剥離装置303に搬送され、ブランケットBLと基板SBとが剥離されて相互に分離される。こうしてN枚目の印刷処理が完了するが、印刷システム100AではN枚目の印刷処理を途中、例えばパターニング用転写装置202から剥離装置302への密着体(ワーク)の搬送が完了した時点で(N+1)枚目の印刷処理が開始される。
(N+1)枚目の印刷処理では、ローラ移動方向が逆転する点を除き、N枚目の印刷処理と同様の動作が実行される。すなわち、ブランケットBLと版PPとがパターニング用転写装置202に搬入されると、版PPの(+W)側端部の直下位置に位置する転写ローラ641が上昇してブランケットBLを局所的に上方に押し上げる。これにより、版PPの(+W)方向側においてブランケットBLと版PPとが部分的に塗布層CLを介して密着して密着部位AP1が形成される。それに続いて密着部位AP1を形成したまま転写ローラ641が(−W)方向に移動することで密着部位AP1が(−W)方向側に拡張される。そして、転写ローラ641が版PPの(−W)側端部の直下位置まで移動し、さらに下降することでパターニング処理が完了する。このようにローラ移動方向を復路方向(−W)に設定しながらパターン層PLをブランケットBLに転写する動作が本発明の「第1復路転写モード」の一例に相当する。
パターニング処理の第1復路転写モードが完了すると、ブランケットBLと版PPとを相互に密着してなる密着体(ワーク)がパターニング用転写装置202から剥離装置302に搬送され、ブランケットBLと版PPとが剥離されて相互に分離される。それらのうちブランケットBLはパターン層PLを担持したまま基板用転写装置203に搬入される。この基板用転写装置203では、ブランケットBLの搬入前後に、基板SBが搬入される。こうしてブランケットBLと基板SBの搬入が完了すると、基板SBの(+W)側端部の直下位置に位置していた転写ローラ641が上昇してブランケットBLを局所的に上方に押し上げる。これにより、基板SBの(+W)方向側においてブランケットBLと基板SBとが部分的にパターン層PLを介して密着して密着部位AP2が局部的に形成される。それに続いて密着部位AP2を形成したまま転写ローラ641が(−W)方向に移動することで密着部位AP2が(−W)方向側に拡張される。そして、転写ローラ641が基板SBの(−W)側端部の直下位置まで移動し、さらに下降することで基板転写処理が完了する。このようにローラ移動方向を復路方向(−W)に設定しながらパターン層PLを基板SBに転写する動作が本発明の「第2復路転写モード」の一例に相当する。
基板転写処理の第2復路転写モードが完了すると、ブランケットBLと基板SBとを相互に密着してなる密着体(ワーク)が基板用転写装置203から剥離装置303に搬送され、ブランケットBLと基板SBとが剥離されて相互に分離される。
このように、第1往路転写モードおよび第2往路転写モードによる印刷処理と、第2復路転写モードおよび第2復路転写モードによる印刷処理とを交互に繰り返すことで印刷処理を効率的に行うことができる(印刷処理の高効率化)。しかも、各印刷処理では、基板転写処理での密着部位AP2の拡張方向W(基板用転写装置203でのローラ移動方向)がパターニング用転写装置202でのそれと同一であるため、パターニング処理および基板転写処理のそれぞれで発生する歪みが相殺される(歪み相殺効果)。その結果、良好なパターンを基板SBに効率的に印刷することができる。
ここで、通常運転中に処理中断や不良発生などによって印刷システム100Aを一時的に停止し、その後で処理を再開すると、転写ローラ641の位置が通常運転における待機位置からずれることがある。例えば図26の中段に示すように、N枚目の印刷処理において第1往路転写モードのパターニング処理が実行された後でブランケットBLが基板用転写装置203に搬入された際、転写ローラ641は基板SBの(+W)側端部の直下位置に待機しており、このままでは基板転写処理を第2往路転写モードで実行することができない。
そこで、本実施形態では、制御装置500が予め記憶されているプログラムにしたがってパターニング用転写装置202および基板用転写装置203をそれぞれ以下のように制御することで基板SBへのパターン層PLの転写前にパターニング用転写装置202での密着部位AP1の拡張方向Wに関連する方向情報を取得し、方向情報に基づいて基板用転写装置203での密着部位AP2の拡張方向Wを制御する。以下、図27ないし図29を参照しつつ第1実施形態におけるパターニング用転写装置202および基板用転写装置203の動作について説明する。
図27は第1実施形態において実行されるパターニング処理のフローチャートであり、図28はブランケットの個体情報を示す図である。パターニング用転写装置202で実行されるパターニング処理の主たる動作は上記した密着部位AP1の形成および拡張であるが、本実施形態では、これを実行する前に、ブランケットBLおよび版PPのパターニング用転写装置202への搬入が完了する(ステップS101で「YES」)と、プリアライメントカメラ244によりブランケットBLに付されたブランケット識別番号NBを撮像して検知する(ステップS102)。このように本実施形態では、パターニング用転写装置202のプリアライメントカメラ244が本発明の「第1担持体検知手段」の一例に相当している。
ブランケット識別番号NBはブランケットBL毎に付されたユニークな番号であり、これによってパターニング処理の対象となっているブランケットBLの個体情報を特定することが可能となっている。より具体的には、図28に示すように、ブランケットBLのブランケット識別番号NBが以下の情報、つまり、
・ローラ移動方向…当該ブランケットBLに対してパターニング処理を行う際の転写ローラ641の移動方向、
・使用回数…当該ブランケットBLを使用して印刷処理を行ってきた回数、
・不良率…当該ブランケットBLを使用して印刷処理を行ってきた中で不良が発生したパーセンテージ、
・ブランケット製造日…当該ブランケットBLを製造した日付、
・製造ロット番号…当該ブランケットBLを製造したロットを特定する番号、
・ブランケット板厚…印刷処理中に図示を省略する厚み計測器によって計測された値であり、ブランケットBLを構成する弾性層(シリコンゴム)の膨潤によって変動する値、
と関連付けたテーブル形式で記憶部507に記憶されている。なお、これらの情報からなるブランケットBLの個体情報テーブルを構成する項目のうち「ブランケット識別番号」、「ブランケット製造日」および「製造ロット番号」は各ブランケットBLの製造段階で決まる固定情報であり、「ローラ移動方向」は密着部位AP1の形成および拡張を完了した時点で書き換えられる情報であり、「使用回数」、「不良率」および「ブランケット板厚」は印刷処理の完了毎に更新される情報である。
次のステップS103では上記した密着部位AP1の形成および拡張が実行される。そのときの密着部位AP1の拡張方向をパターニング用転写装置202でのローラ移動方向として取得し(ステップS104)、これを当該ブランケットBLのブランケット識別番号NBに関連付けて個体情報テーブル中の「ローラ移動方向」を書き換える(ステップS105)。
図29は第1実施形態において実行される基板転写処理のフローチャートである。この基板転写処理では、ブランケットBLおよび基板SBの基板用転写装置203への搬入が完了する(ステップS111で「YES」)と、プリアライメントカメラ244によりブランケットBLに付されたブランケット識別番号NBを撮像して検知する(ステップS112)。このように本実施形態では、基板用転写装置203のプリアライメントカメラ244が本発明の「第2担持体検知手段」の一例に相当している。
次に、ブランケット識別番号NBに対応するローラ移動方向、つまり当該ブランケットBLに対するパターニング処理を行った際の拡張方向が(+W)方向および(−W)方向のいずれであるかを記憶部507の個体情報テーブルから取得する(ステップS113)。また、基板用転写装置203での転写ローラ641の待機位置を取得する(ステップS114)。そして、これらの情報に基づいて転写ローラ641をステップS113で取得したローラ移動方向に直ちに移動可能な否かを判定する(ステップS115)。例えば図26中の「N枚目」の欄に示されたケースでは、パターニング処理でのローラ移動方向が(+W)方向であり、パターニング処理済のブランケットBLが基板用転写装置203に搬入された時点で基板用転写装置203の転写ローラ641は基板SBの(+W)側端部の直下位置に待機している。したがって、基板用転写装置203では転写ローラ641を(+W)方向に移動させることはできず、転写ローラ641を(+W)方向に移動させて基板転写処理を行う、いわゆる第2往路転写モードを行うことはできない。このようなケースでは、ステップS115で「NO」と判定し、同図に示すように転写ローラ641を反対側の待機位置、つまり基板SBの(−W)側端部の直下位置まで移動させて位置決めする(ステップS116)。それに続いて、転写ローラ641を上昇させて密着部位AP2を形成し、さらにパターニング処理におけるローラ移動方向と同じ方向での転写ローラ641の移動を開始し(ステップS117)、密着部位AP2を拡張して基板転写処理を行う。
なお、ステップS115で「YES」と判定する場合には、ステップS116を実行することなく、ステップS117に進む。例えば図25中の「N枚目」の欄に示されているようにパターニング処理でのローラ移動方向が(+W)方向であり、基板用転写装置203では転写ローラ641が基板SBの(−W)側端部の直下位置に待機している。したがって、基板用転写装置203で転写ローラ641を直ちに上昇させて密着部位AP2を形成し、さらにそのまま転写ローラ641を(+W)方向に移動させて密着部位AP2を拡張させて基板転写処理を行う。
以上のように、本発明の第1実施形態では、制御装置500がパターニング用転写装置202でのローラ移動方向を密着部位AP1の拡張方向に関連する方向情報として取得し、当該情報に基づいて基板用転写装置203での密着部位AP2の拡張方向を制御している。このため、基板SBおよびブランケットBLが基板用転写装置203に搬入された時点での転写ローラ641の待機位置にかかわらず、常に密着部位AP1、AP2の拡張方向を一致させることができ、パターニング処理および基板転写処理で発生する歪みが相殺されて良好なパターンを基板SBに印刷することができる。
また、上記実施形態では、各ブランケットBLに固有のブランケット識別番号NBを付し、これに紐付する形でパターニング処理でのローラ移動方向を個体情報テーブルで管理している。そして、基板転写処理を行う前にブランケット識別番号NBに基づいて個体情報テーブルからローラ移動方向を取得し、密着部位AP2の拡張方向を制御している。したがって、当該制御を高精度に行うことができる。
また、本実施形態で採用した個体情報テーブルには、ローラ移動方向以外に、使用回数、不良率、ブランケット製造日、製造ロット番号、ブランケット板厚が含まれており、それらの情報を適宜参照することでブランケットBLの再利用状況や再利用に伴う劣化度合などを的確に把握することができる。したがって、これらに基づいて各ブランケットBLを適正な時期に廃棄し、新しいブランケットBLを印刷システム100Aに投入することができる。さらに、ブランケット板厚は転写処理でのギャップ調整に利用される。
また、上記実施形態では、パターニング用転写装置202および基板用転写装置203では、転写ローラ641がローラ移動方向Wにおいて往復移動し、往路移動および復路移動の各々において転写処理を行うことが可能となっている。このため、図25に示すように転写ローラ641を往路移動させて転写処理を行った時点で既に転写ローラ641の復路移動の準備が完了しており、ローラ準備移動動作を行う必要がなく、復路移動が可能となっている。この点については復路移動後についても同様である。その結果、ローラ準備移動動作に伴う時間ロスを抑えて印刷処理を効率的に行うことができ、量産性を向上させることができる。
<第2実施形態>
上記第1実施形態では、パターニング用転写装置202および基板用転写装置203でのローラ移動方向を揃えることで各転写処理時に発生する歪みを相殺しているが、両転写装置202、203の間での機差を完全に取り除くことは困難である。転写ローラ641がブランケットBLを版PPや基板SBに押し付ける力の分布を観察すると、僅かながら両転写装置202、203の間で相違することがあり、また転写ローラ641の表面に形成される凹凸プロファイルが異なることがある。これらの要因によって転写ローラ641が当接したときのブランケットBLの変形態様や変形量などが相違し、それによって印刷されたパターン像が歪むことがある。したがって、印刷精度を向上させるためには、印刷処理によって発生するパターン像の歪み量を計測し、その歪み量を版PPにフィードバックして新たに改良された版(以下「改良版」という)を製造し、その改良版を用いてパターニング処理を行うのが好適である。以下、この技術思想に基づく本発明の第2実施形態について図30ないし図32を参照しつつ説明する。
図30は本発明にかかる印刷装置の第2実施形態で使用する改良版を説明するための模式図である。上記第1実施形態では、ローラ移動方向を往路方向(+W)に設定した印刷処理(第1往路転写モード+第2往路転写モード)と、ローラ移動方向を復路方向(−W)に設定した印刷処理(第1復路転写モード+第2復路転写モード)とを交互に繰り返している。そこで、パターニング用転写装置202および基板用転写装置203のいずれにおいても、転写ローラ641を往路移動させる移動態様(以下「A移動態様」という)と、転写ローラ641を復路移動させる移動態様(以下「B移動態様」という)とに分けて説明する。
例えば図30に示すように基準マークRMが規則正しく格子状に形成された版PPを用いつつA移動態様で転写ローラ641を移動させると、上記した理由により基板SBに印刷されるパターン層PLに含まれる基準マークRMの反転パターンRPは僅かながら歪んで印刷される。ここで、上記基準マークRMと同一あるいは異なる規則パターンを形成したキャリブレーション用版(図示省略)を準備しておき、当該キャリブレーション用版を用いながらA移動態様で基板SBへのパターン印刷を行った後で基板SBに印刷されたパターンを観察することでA移動態様の印刷処理に伴う歪み量を計測することができる。そして、当該歪み量を加味して版PPでの反転パターンの形成位置を補正して改良版PPaを製造することで、第1往路転写モードと第2往路転写モードを実行するのに適合した版が得られる。そして、こうして製造されたA移動態様用改良版PPaを用いてA移動態様で転写ローラ641を移動させて印刷処理を行うと、歪みのないパターンを基板SB上に印刷することができる。
また、B移動態様用改良版PPbについてもA移動態様用改良版PPaと同様にして製造することができる。つまり、キャリブレーション用版を用いながらB移動態様で基板SBへのパターン印刷を行った後で基板SBに印刷されたパターンを観察することでB移動態様の印刷処理に伴う歪み量を計測することができる。そして、当該歪み量を加味して版PPでの反転パターンの形成位置を補正して改良版PPbを製造することで、第1復路転写モードと第2復路転写モードを実行するのに適合した版が得られる。そして、こうして製造されたB移動態様用改良版PPbを用いてB移動態様で転写ローラ641を移動させて印刷処理を行うと、歪みのないパターンを基板SB上に印刷することができる。
次に、上記A移動態様用改良版PPaおよびB移動態様用改良版PPbを用いて印刷処理を連続して行う印刷装置について図31および図32を参照しつつ説明する。
図31は本発明にかかる印刷装置の第2実施形態を装備する印刷システムの一例を示す図である。先に説明した印刷装置の第1実施形態ではA移動態様およびB移動態様のいずれにおいても同じ版PPを用いて印刷処理を行っている。これに対し、本発明の第2実施形態ではA移動態様およびB移動態様の切替に応じて使用する版を改良版PPa、PPbの間で切り替えている。より具体的には、図31に示すように、パターニング処理に使用する版として、互いに同数枚の改良版PPa、PPbを製造しておき、版搬送経路PTPに沿って改良版PPa、PPbが交互にパターニング用転写装置202に搬入されるように構成されている。同図に示す印刷システム100Bでは、改良版PPa、PPb、PPa、PPb、PPa、PPbの順序で合計6枚を版搬送経路PTPに沿って循環搬送されるように構成されている。なお、このように2種類の改良版PPa、PPbを用いることからパターニング用転写装置202に搬入された版が改良版PPa、PPbのいずれであるかを判定するために、図30に示すように改良版PPa、PPbの一部に版識別マークMa、Mbがそれぞれ改良版の製造時に上面側に作り込まれ、改良版を特定する版個体情報として機能する。版識別マークMa、Mbの種類は任意であり、例えば版製造時にエッチング溝の数を版識別マークMa、Mb間で相違させてもよい。
図32は図31に示す印刷システムに組み込まれたパターニング用転写装置の動作を示すフローチャートである。この第2実施形態では、ブランケットBLおよび改良版PPa(あるいはPPb)のパターニング用転写装置202への搬入が完了する(ステップS201で「YES」)と、第1実施形態と同様にプリアライメントカメラ244によりブランケットBLに付されたブランケット識別番号NBを撮像して検知する。また、プリアライメントカメラ241により改良版PPa(PPb)の上面端縁部に作り込まれた版識別マークMa(Mb)を撮像して検知する(ステップS202)。このように本実施形態では、パターニング用転写装置202のプリアライメントカメラ244が本発明の「第1担持体検知手段」の一例に相当し、プリアライメントカメラ241が本発明の「版検知手段」の一例に相当している。
こうして検知された版識別マークMa(Mb)に基づいてパターニング用転写装置202の転写ローラ641を移動させる方向、つまりローラ移動方向を決定する(ステップS203)。より詳しくは、版識別マークMaを検知した場合には、パターニング用転写装置202にA移動態様用改良版PPaがセットされたと判定して(+W)方向をローラ移動方向として決定する。一方、版識別マークMbを検知した場合には、パターニング用転写装置202にB移動態様用改良版PPbがセットされたと判定して(−W)方向をローラ移動方向として決定する。また、パターニング用転写装置202での転写ローラ641の待機位置を取得する(ステップS204)。そして、これらの情報に基づいて転写ローラ641をステップS203で決定したローラ移動方向に直ちに移動可能な否かを判定する(ステップS205)。これは第1実施形態の基板転写処理において行った動作(ステップS115)と同じであり、ステップS205で「NO」と判定したときには転写ローラ641を現在の待機位置と反対側の待機位置まで移動させて位置決めした(ステップS206)後でステップS207に進む。一方、ステップS205で「YES」と判定したときにステップS206を行うことなくステップS207に進む。
このステップS207では改良版PPa(PPb)を用いたパターニング処理を開始する。つまり、転写ローラ641を上昇させて密着部位AP1を形成し、さらにステップS203で決定されたローラ移動方向に転写ローラ641を移動させて密着部位AP1を拡張させる。そして、転写ローラ641が改良版のローラ移動方向側端部の直下位置まで移動すると、転写ローラ641が下降して待機する。こうしてパターニング処理が完了する(ステップS208で「YES」)と、上記パターニング処理でのローラ移動方向を当該ブランケットBLのブランケット識別番号NBに関連付けて個体情報テーブル中の「ローラ移動方向」を書き換える(ステップS209)。
パターニング処理が完了すると、第1実施形態と同様に、ブランケットBLと改良版PPa(PPb)とを相互に密着してなる密着体(ワーク)がパターニング用転写装置202から剥離装置302に搬送され、ブランケットBLと改良版PPa(PPb)とが剥離されて相互に分離される。このブランケットBLはパターン層PLを担持したまま基板用転写装置203に搬入される。また、この基板用転写装置203では、ブランケットBLの搬入前後に、基板SBが搬入され、第1実施形態と同様に図29に示す基板転写処理が実行されてブランケットBLに担持されていたパターン層PLが基板SBに転写される。さらに、基板転写処理に続いて、ブランケットBLと基板SBとを相互に密着してなる密着体(ワーク)が基板用転写装置203から剥離装置303に搬送され、ブランケットBLと基板SBとが剥離されて相互に分離される。こうして2種類の改良版PPa、PPbのうちの一方、例えば改良版PPaを用いた印刷処理が完了するが、印刷システム100Bでは当該印刷処理を途中、例えばパターニング用転写装置202から剥離装置302への密着体(ワーク)の搬送が完了した時点で、もう一方の改良版PPbがパターニング用転写装置202に搬入され、改良版PPbを用いたパターニング処理が開始される。
以上のように、第2実施形態によれば、基本的に第1実施形態と同様の作用効果が得られるだけでなく、改良版PPa、PPbを用いて印刷処理を行っているため、最終的に基板SBに印刷されるパターンの精度をさらに高めることができる。
また、改良版PPa、PPbを2種類に限定しているため、次の作用効果も得られる。上記第2実施形態では、ローラ移動態様をA移動態様およびB移動態様に絞っているが、ローラ移動態様としてはこれら以外に図33に示すようにC移動態様およびD移動態様が存在する。このC移動態様は、パターニング用転写装置202および基板用転写装置203で転写ローラ641をそれぞれ往路移動および復路移動させる移動態様である。また、D移動態様は、パターニング用転写装置202および基板用転写装置203で転写ローラ641をそれぞれ復路移動および往路移動させる移動態様である。これらの移動態様においても、上記した技術思想、つまり歪み量を版PPにフィードバックして改良版を製造し、それを用いて印刷処理を行うという手法を用いてもよい。この場合、A移動態様用改良版、B移動態様用改良版、C移動態様用改良版およびD移動態様用改良版の合計4種類の改良版を製造する必要があり、ランニングコストの増大を招いてしまう。さらに、第1実施形態や第2実施形態と同様にローラ準備移動動作をなくして印刷処理の効率向上を図るためには、改良版の種類が倍増することで版搬送経路PTPに沿って循環搬送させるべき改良版の個数が多くなり、印刷システムが大型化し、フットプリントの増大を招いてしまう。これに対し、改良版を2種類に限定した第2実施形態では、上記問題を抑制することができ、好適である。
このように第2実施形態においては、A移動態様用改良版PPaおよびB移動態様用改良版PPbがそれぞれ本発明の「第1版」および「第2版」に相当している。
なお、上記した第2実施形態では、4種類の改良版のうちA移動態様用改良版およびB移動態様用改良版を選択しているが、第1実施形態や第2実施形態と同様に、ローラ準備移動動作をなくして印刷処理の効率向上を図るために、A移動態様用改良版およびB移動態様用改良版の代わりに、C移動態様用改良版およびD移動態様用改良版の2種類を準備し、第2実施形態と同様にして印刷処理を行うようにしてもよい。この場合、C移動態様用改良版およびD移動態様用改良版がそれぞれ本発明の「第3版」および「第4版」として機能する。
<第3実施形態>
図34は本発明にかかる印刷装置の第3実施形態を装備する印刷システムの一例を示す図である。また、図35は図34に示す印刷装置による印刷動作を模式的に示す図である。この第3実施形態が第1実施形態や第2実施形態にかかる印刷装置(=転写装置202、203+剥離装置302、303)と大きく相違する点は、基板用転写装置の個数と、剥離装置の個数と、配置レイアウトである。なお、その他の点については基本的に同一であるため、同一構成については同一符号を付して説明を省略する。
この第3実施形態では、印刷システム100Cにおいて、1台のパターニング用転写装置202に対して2台の基板用転写装置203a、203bが設けられている。これは、基板転写処理においては精密アライメント動作を行う必要があるのに対してパターニング処理や基板剥離処理では不要であり、基板転写処理のタクトタイムがパターニング処理や剥離処理よりも長いからである。また、剥離処理はパターニング処理や基板剥離処理に比べてシンプルであり、剥離処理に要する時間はパターニング処理に比べても短いため、3台の転写装置202、203a、203bに対して1台の剥離装置305が配置されている。なお、基板用転写装置203a、203bは第1実施形態で採用された転写装置203と同一構成を有し、剥離装置305は第1実施形態で採用された剥離装置302、303と同一構成を有している。
また、印刷システム100Cでは、上記装置202、203a、203b、305により印刷装置が構成されているが、これら以外に、
・ブランケット搬入部407…図示を省略する塗布装置から塗布層を担持するブランケットBLを受け取り、印刷装置に受け入れる機能を有する、
・ブランケット搬出部408…印刷処理済のブランケットBLを受け取り、印刷装置の外部に設けられる除去用転写装置(図示省略)に送り出す機能を有する、
・版受渡し部405、
・基板受渡し部406、
を有しており、図34に示すように、これらの構成要素407、202、405、203a、406、203b、408、305が環状に配置されている。そして、それらの中央部に搬送ロボットなどの搬送装置409が配置され、ブランケットBL、版PP、基板SBおよび密着体(=ワーク)を搬送可能となっている。
このように構成された印刷システム100Cでは、図35に示すように、搬送装置409が塗布層を担持するブランケットBLをブランケット搬入部407から受け取り、パターニング用転写装置202に搬入する。また、当該ブランケットBLの搬入動作の前後タイミングで、搬送装置409が版PPを版受渡し部405から受け取り、パターニング用転写装置202に搬入する。こうしてブランケットBLおよび版PPを受け取ったパターニング用転写装置202は第1実施形態と同様のパターニング処理を行う。
パターニング処理後に、搬送装置409がパターニング処理により形成される密着体をパターニング用転写装置202から剥離装置305に搬送し、剥離装置305で版PPとブランケットBLを剥離して分離する。そして、搬送装置409は分離された使用済の版PPを版受渡し部405に戻す。また、それに前後して、搬送装置409はブランケットBLを剥離装置305から受け取った後で2つの基板用転写装置203a、203bのうちの一方に搬送する。例えば基板用転写装置203aで基板転写処理が実行されているのに対し、基板用転写装置203bが基板転写処理の待機中である場合には、搬送装置409は上記ブランケットBLの搬送先として基板用転写装置203bを選択し、基板用転写装置203bに搬送する。また、当該ブランケットBLの搬送動作の前後タイミングで、搬送装置409は基板SBを基板受渡し部406から受け取り、上記基板用転写装置203bに搬入する。こうしてブランケットBLおよび基板SBを受け取った転写装置203bは第1実施形態と同様の基板転写処理を行う。
基板用転写装置203a、203bのうちの一方、例えば基板用転写装置203aでの基板転写処理が完了すると、搬送装置409は基板用転写装置203aから密着体を取り出し、剥離装置305に搬送し、剥離装置305で基板SBとブランケットBLを剥離して分離する。そして、搬送装置409は分離された基板SBとブランケットBLをそれぞれ基板受渡し部406およびブランケット搬出部408に搬送する。
このように第3実施形態では、搬送装置409が装置各部407、202、405、203a、406、203b、408、305にランダムにアクセスして上記搬送順序でブランケットBLなどを搬送しながら印刷処理を実行する。
以上のように、第3実施形態においても、第1実施形態と同様に、常に密着部位AP1、AP2の拡張方向を一致させることができ、パターニング処理および基板転写処理で発生する歪みが相殺されて良好なパターンを基板SBに印刷することができる。もちろん、第3実施形態で実行されるパターニング処理および基板転写処理を第2実施形態と同様にして行ってもよく、この場合には印刷パターンの精度をさらに高めることができる。
さらに、第3実施形態は図34に示すように搬送装置409の周囲にパターニング用転写装置202、基板用転写装置203a、203b、剥離装置305などの処理装置を配置する、いわゆるクラスター配置を採用しているため、印刷システム100A、100Bに比べて搬送ロボットの個数を削減することができる。また、印刷システム100Cが装備する各要素の動作の制御(またはスケジューリング)を容易に行うことができる。
<その他>
上記実施形態においては、パターニング用転写装置202が本発明の「第1転写手段」の一例に相当し、基板用転写装置203、203a、203bが本発明の「第2転写手段」の一例に相当している。また、搬送装置401、409が本発明の「搬送手段」の一例に相当している。さらに、制御装置500が本発明の「制御手段」の一例に相当している。
また、パターニング用転写装置202での転写ローラ641および密着部位AP1がそれぞれ本発明の「第1転写ローラ」および「第1密着部位」の一例に相当し、基板用転写装置203、203a、203bでの転写ローラ641および密着部位AP2がそれぞれ本発明の「第2転写ローラ」および「第2密着部位」の一例に相当している。
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、印刷処理を行うための転写装置や剥離装置の個数は上記実施形態で示されたものに限定されるものではない。
また、上記実施形態では、転写ローラ641によって密着部位AP1、AP2の形成および拡張を行っているが、その他の部材の押付によって行ってもよいし、例えば特開2013−111907号公報に記載されているように加圧空気の制御によって行ってもよい。
また、上記実施形態では、プリアライメントカメラ244を本発明の「第1担持体検知手段」や「第2担持体検知手段」として用いて装置構成の簡素化を図っているが、ブランケットBLに付されたブランケット識別番号NBを撮像する専用のカメラなどを設けてもよい。また、上記第2実施形態では、プリアライメントカメラ241を本発明の「版検知手段」として用いて装置構成の簡素化を図っているが、改良版に付された版識別マークを撮像する専用のカメラなどを設けてもよい。
また、上記実施形態では、ブランケット識別番号NBをブランケットBLに付しているが、番号以外に文字や記号などの識別子をブランケットBL毎に付し、これを本発明の「担持体個体情報」として用いてもよい。この点については版識別マークであり、任意の識別子を本発明の「版個体情報」として用いてもよい。
さらに、上記実施形態では、ブランケット識別番号NBに基づいて本発明の「方向情報」の一例たるローラ移動方向を取得しているが、ローラ移動方向の取得方法はこれに限定されるものではない。