本発明により得られる液体吐出ヘッドは、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、更には各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。そして、この液体吐出ヘッドを用いることによって、紙、糸、繊維、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックなど種々の被記録媒体に記録を行うことができる。尚、本発明において「記録」とは、文字や図形などの意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与することだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を付与することも意味する。さらに、「液体」とは、広く解釈されるべきものであり、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成、記録媒体の加工、或いはインク、または記録媒体の処理に供される液体を言うものとする。ここで、インクまたは記録媒体の処理としては、例えば、記録媒体に付与されるインク中の色材の凝固または不溶化による定着性の向上や、記録品位ないし発色性の向上、画像耐久性の向上などのことを言う。
また、以下の説明では、本発明の主な適用例としてインクジェット記録ヘッドを挙げて説明するが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。また、液体吐出ヘッドとしては、インクジェット記録ヘッドの他、バイオッチップ作製や電子回路印刷用途の液体吐出ヘッドの製造方法にも適用できる。液体吐出ヘッドとしては、他にも例えばカラーフィルターの製造用途等も挙げられる。
(第1の実施形態)
<インクジェット記録ヘッドの構成>
図1は、本実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの熱作用部付近の構成を上方から見て模式的に示した概略平面図である。また、図2は、図1のインクジェット記録ヘッドをA−A’線により基板面に垂直な方向へ切断した際に得られる断面を横方向から見た図を示す模式的断面図である。なお、熱作用部は、上部保護層の上側に位置する空間部分のことを言う。
図1及び図2に示されるように、シリコンによって形成された基板101上に、複数の層が積層されてインクジェット記録ヘッドが製造される。基板101の上には、流路形成部材120が設けられている。本実施形態において、流路形成部材120は、吐出口121、第一の液室132及び第二の液室133を形成している。第一の液室132は、流路形成部材120と基板101との間に区画されており、インク等の第一の液体を貯留可能な空間であり、吐出口121と連通している。第一の液室132は、第一の液体を該第一の液室132に供給するための供給口(不図示)にも連通している。該供給口は基板101を貫通して形成される。また、第二の液室133は、第二の液体を貯留可能な空間である。本実施形態において、第二の液室133は流路形成部材120によって形成されており、流路形成部材120と基板101との間に区画されている。また、本実施形態において、発熱抵抗体は吐出口に対向して配置されている。
本実施形態では、基板101の第一の面上に、熱酸化膜、SiO膜又はSiN膜等を用いて形成される蓄熱層102が配置されている。また、蓄熱層102の上には、抵抗体層104が配置されている。抵抗体層104の上には、Al、Al−Si又はAl−Cu等の金属材料を用いて形成される、電極配線層105が配置されている。電極配線層105及び抵抗体層104の上には、絶縁保護層106が配置されている。絶縁保護層106は、抵抗体層104及び電極配線層105を覆うように、これらの上側に設けられている。絶縁保護層106は、例えば、SiO膜又はSiN膜等の絶縁材料を用いて形成される。
電気熱変換素子としての発熱抵抗体108は、抵抗体層104上の電極配線層105が部分的に除去されることによって形成されている。本実施形態では、インク供給口から第一の液室132に向かう方向に沿って、抵抗体層104及び電極配線層105が重ねられて略同じ形状に配置されている。そして、電極配線層105のうちの一部が除去されて、抵抗体層上に電極配線層105が存在しないギャップが形成される。そのギャップでは抵抗体層104のみが配置されている。つまり、抵抗体層104及び電極配線層105の二層が形成されており、電極配線層105の一部が除去されて抵抗体層104を露出させることによって発熱抵抗体108が形成されている。電極配線層105は、不図示の駆動素子回路又は外部電源端子に接続されており、外部からの電力の供給を受けることができるように構成されている。なお、本実施形態では、抵抗体層104上に電極配線層105が配置されている構成としたが、本発明はこの構成に限定されない。電極配線層105を基板101または蓄熱層102の上に形成し、電極配線層105の一部を除去してギャップを形成した後、電極配線層105の上に抵抗体層104を配置する構成を採用してもよい。
絶縁保護層106の上面であって発熱抵抗体108の上方の第一の液室内には、上部保護層107が配置されている。上部保護層107は、発熱抵抗体108ごとに設けられている。上部保護層107は、発熱抵抗体108の発熱に伴う化学的作用及び物理的作用から発熱抵抗体108を保護する。また、上部保護層107は導電性を有している。上部保護層107の材料は、例えば、イリジウム(Ir)若しくはルテニウム(Ru)等の白金族金属、又はタンタル(Ta)等が挙げられる。インクが吐出する際、上部保護層107の上方の領域ではインク温度が瞬間的に上昇してキャビテーションが生じる。そのため、上部保護層107は、耐食性が高く、信頼性の高い材料によって形成され、発熱抵抗体108に対応する位置に形成される。絶縁保護層106によって、発熱抵抗体108と第一の液室内の第一の液体との接触が遮断され、発熱抵抗体108と上部保護層107が電気的に絶縁されている。
第一の配線(個別配線という)109は、上部保護層107に直接接続する配線である。第二の配線(共通配線という)110は、複数の個別配線109に電気的に接続され、不図示の外部端子まで延設されている。個別配線109と共通配線110の間であってかつ第二の液室133内には、溶出部113が形成されている。本実施形態では、個別配線109と共通配線110は、第二の液室133まで延伸し、第二の液室133内に配置された溶出部113を介して電気的に接続されている。複数の溶出部113は複数の個別配線109にそれぞれ接続しており、共通配線110は複数の溶出部113に接続している。
換言すると、上部保護層107と溶出部113は、個別配線109によって電気的に接続されている。個別配線109は、第一の液室132に配置されている上部保護層107から、第二の液室133内に配置されている溶出部113に延伸している。また、溶出部113には共通配線110が繋がっており、共通配線110は溶出部113を介して個別配線109と電気的に接続している。本実施形態では、共通配線110は、複数の吐出口から構成される吐出口列に沿って形成されている。
個別配線109と共通配線110は、特に制限されるものではないが、例えば、Ir、Ru、又はTa、あるいはIr、Ru、Taのいずれかを含む合金等が挙げられる。
溶出部113は、第二の液室133内に形成されており、第二の液体が第二の液室133内に充填された際に、第二の液体と接する位置に形成されている。溶出部113は、上部保護層107に対応して設けられている。溶出部113は、電気化学反応により第二の液体中に溶出する金属を含む。このような金属としては、例えば、Ir、Ru等の白金族金属やTa等が挙げられる。本実施形態において、具体的には、例えば、溶出部113は、IrやRu、あるいはIr及びRuの少なくとも1種を含む合金によって形成され、個別配線109及び共通配線110はTaによって形成される。
溶出部113は、絶縁保護層106による絶縁性が低下し、発熱抵抗体108への電流が上部保護層107に流れたときに、電気化学反応によって前記金属が第二の液体へ溶出して、第一及び第二の配線間(個別配線109と共通配線110との間)の電気的接続を遮断する機能を有する。
上部保護層107の厚さは、耐キャビテーション性等の耐衝撃性やインクに対する化学的安定性の観点から、200〜500nmとし、比較的厚く形成されることが好ましい。また、溶出部113の厚さは、電流遮断性の観点から、10〜100nmとし、比較的薄く形成されることが好ましい。
第二の液室133に充填される第二の液体は、電流を流す特性を有するものであれば特に制限されるものではない。第二の液体は、インクでもよく、インクとは別の液体であってもよい。第二の液体のpHは、流路形成部材へのダメージを考慮すると、7から9であることが好ましい。第二の液体としては、例えば、電解質を含む水溶液を挙げることができる。例えば、電解質の陽イオン種としては、Li+,Na+,K+,Ca2+等が挙げられ、陰イオン種としては、SO4 2−,PO4 3−等が挙げられる。
発熱抵抗体108への電流が上部保護層107に流れる、すなわち、電極配線層105と上部保護層107との間で短絡が生じてから、溶出部113での電気的接続の遮断までの時間を短縮する観点から、第二の液体の電気伝導率が高いことが望ましい。溶出部の金属の溶出速度は、溶出部と第二の液体間に流れる電流量に依存するためである。第二の液体の電気伝導度は、1mS/cm以上であることが好ましい。
なお、第二の液体は、電気化学反応による金属の溶出を妨げる物質を含まないことが望ましい。金属の溶出を妨げる物質としては、例えば、マイナスに荷電した樹脂が挙げられる。もし第二の液体がマイナスに荷電した樹脂を含むと、電極配線層と上部保護層との間で短絡が生じ、溶出部113の電位がプラスになった場合、溶出部113を覆うように樹脂が付着し、溶出部と第二の液体間の電気化学反応が阻害されることが考えられる。そのため、溶出速度が遅くなり、遮断されるまでの時間が長くなることや、反応が止まって遮断されなくなることが考えられる。したがって、第二の液体は、電気化学反応が継続的に進むように、マイナスに荷電した樹脂を含まないことが、望ましい。
<回路構成>
図3(a)〜(c)に、本実施形態におけるインクジェット記録ヘッドの回路図を示す。図3(a)は、正常に記録が行われている際のインクジェット記録ヘッドの回路図である。それぞれの発熱抵抗体108は、電源301、スイッチングトランジスタ303及び選択回路304によって選択されて駆動されている。本実施形態では、電源301の電圧は、例えば、20〜30Vである。より具体的には、例えば、電源301は、24Vの電圧のものが採用される。このような回路構成により、所定のタイミングで発熱抵抗体108に電源301からの電力を供給することができ、吐出口からインク滴を吐出することができる。
発熱抵抗体108と上部保護層107との間には、絶縁層として機能する絶縁保護層106が配置されているので、発熱抵抗体108と上部保護層107とは、電気的に接続されていない。また、上部保護層107は、溶出部113を介して、共通配線110に接続されている。また、共通配線110は、外部電極に接続されている。
図3(b)に、絶縁保護層106の絶縁性を検査する際におけるインクジェット記録ヘッドの回路図を示す。絶縁保護層106の絶縁性検査は、出荷前等のインクジェット記録ヘッドの内部にインクが存在しない状態で行われる。絶縁保護層106の絶縁性を検査するための測定装置302は、発熱抵抗体108に電力を供給するための配線に設けられた電極111aと、共通配線110に接続された電極111bとに接続されるように、配置されている。測定装置302は、プローブピン(針)302a、302bを備えている。これらのプローブピン302a、302bが、電極111a、111bに接続されることで、これらの間に電流が流れている場合には、その電流を検知することができる。電極111a、111bの間に電流が検知されない場合には、絶縁保護層106の絶縁性が確実に保たれていることが確認される。また、電極111a、111bの間に電流が流れていることが検知された場合には、絶縁保護層106の絶縁性が損なわれており、発熱抵抗体108に供給される電流の一部が上部保護層107に流れていることがわかる。
また、インクジェット記録ヘッドには、スイッチングトランジスタ303から延びた配線に電極111cが設けられている。電極111aと電極111cにそれぞれプローブピン302a、302bを接続し、これらの間に電流が流れているかどうかを検知することで、発熱抵抗体108やスイッチングトランジスタ303が正常に機能しているかどうかを確認することができる。これらの試験では、上部保護層107と、発熱抵抗体108や電極配線層105との間に、作動に実際にかかる電圧以上の電圧を印加して流れる電流を測定する。この検査が行われる際、上部保護層107及び溶出部113は、第一の液体や第二の液体と接していないため、電圧を印加しても、インクを介しての上部保護層107における陽極酸化等の電気化学反応は起こらない。そのため、上部保護層107と、発熱抵抗体108及び電極配線層105との間の短絡の有無に関する電流の測定を確実に行うことができる。
上部保護層107へ電流が流れると、上部保護層107が陽極酸化される。ここで、リーク電流が生じる原因の多くは、インクジェット記録ヘッドの製造時に、絶縁保護層106にピンホール等が生じることによって絶縁性が保たれなくなったためである。そのため、絶縁保護層106の絶縁性の検査は、製造時に行われることが好ましい。より具体的には、上部保護層107及び電気を印加するための外部電極111が形成された後であって、溶解可能な樹脂により液室となる型パターンを形成する前の段階が適している。
記録が行われる際、電源301から電力がそれぞれの発熱抵抗体108に供給される。電流がインクジェット記録ヘッドの回路内に入ると、スイッチングトランジスタ303及び選択回路304により、電源301と発熱抵抗体108との間が選択的に接続される。これらの間に電流が流れることを許容された際には、電源301からの電流が、電極配線層105の内部を流れる。
上述のように、電極配線層105は、発熱抵抗体108の領域で部分的に除去されており、その部分では電極配線層105は存在しない。そのため、電極配線層105の内部を流れる電流は、電極配線層105から抵抗体層104に移り、発熱抵抗体108に相当する部分の抵抗体層104の内部を通り、その上に電極配線層105が配置されている部分で、再び電流が電極配線層105に移る。再び電極配線層105に移った電流は、そこから電極111cの方へ向かい、インクジェット記録ヘッドの外部に流れていく。このとき、発熱抵抗体で熱エネルギーが発生する。この熱エネルギーによって第一の液室132における発熱抵抗体108の周辺のインクが加熱され、インクが膜沸騰により発泡する。このときの発泡エネルギーによって吐出口121からインク滴が吐出される。このように、それぞれの液室に貯留されたインクを発熱抵抗体108によって加熱して、インク内で気泡を発生させることにより吐出口121からインク滴を吐出する。
記録が行われる過程で、何らかの理由により、電極配線層105と上部保護層107との間に電流が流れてしまう短絡が生じる可能性がある。電極配線層105と上部保護層107との間で短絡が生じ、電極配線層105を流れる電流の一部が溶出部113に向かったときのインクジェット記録ヘッドの回路を図3(c)に示す。図3(c)に示すように、電極配線層105と上部保護層107との間で短絡が生じると、溶出部113に向かう方向への電流が生じる。例えば、発熱抵抗体108が破損したとき、その影響によって絶縁保護層106が破れる場合がある。そのとき、抵抗体層104の一部や上部保護層107の一部が溶融し、これらが直接接触して短絡200が生じる可能性がある。このような短絡が生じた場合、上部保護層107に電流が流れる。例えば、上部保護層107がTaを含む場合、上部保護層107がインクとの間で電気化学反応を起こし、陽極酸化が始まる。陽極酸化が進むと、酸化したTaはインクに溶け出すため、上部保護層107の耐久性や寿命が短くなる場合がある。また、例えば、上部保護層107がIrやRuを含む場合、上部保護層107とインクとの間の電気化学反応により、これらの金属がインクに溶出するために、上部保護層107の耐久性や寿命が低下する場合がある。なお、一般的に基板101はグランド(GND)に接続されているため、基板の付近に存在するインク等の第一の液体もGNDに近い電位となる。したがって、インクは上部保護層よりは低い電位となり、上部保護層とインクとの電気化学反応が生じてしまう。
第一の液室132の内部にインク等の第一の液体が貯留され、発熱抵抗体108が通電されて駆動されるときには、インクの電位は、発熱抵抗体108の駆動電位よりも低くなっている。したがって、電極配線層105と上部保護層107との間で短絡が生じたときに上部保護層107へ電気が流れると、上部保護層107とインクとの間で容易に電気化学反応が生じる場合がある。
また、電極配線層105と上部保護層107との間で短絡が生じたときには、電流が共通配線110を通して、他の液室内部の上部保護層107にまで流れてしまう可能性がある。つまり、一つの第一の液室における短絡によって生じたリーク電流が、共通配線110を通して他の第一の液室に流れてしまい、その結果、短絡による影響が他の第一の液室にまで及んでしまう可能性がある。したがって、一箇所の第一の液室における短絡の影響が、周囲の第一の液室にまで及んで拡大してしまう可能性がある。
そこで、本実施形態では、上部保護層107と共通配線110との間に溶出部113が形成されている。電極配線層105と上部保護層107との間で短絡が生じ、上部保護層107に電流が流れた場合には、溶出部113にも電気が流れる。発熱抵抗体108に通電されて駆動されるときには、第二の液体の電位は、発熱抵抗体108の駆動電位よりも低くなっているため、溶出部113と第二の液体の間で電気化学反応がおこる。そして、溶出部に含まれる電気化学反応により溶出する金属が第二の液体中に溶出し、上部保護層107と共通配線110との間の電気的な接続を遮断することができる。そのため、短絡による影響が他の液室の内部に及ぶことを抑制できる。また、一つの上部保護層107に流れる電流が、他の液室における発泡及び他の吐出口からのインク滴の吐出に影響を与えることを抑えることができる。
溶出部113は、金属の第二の液体中への溶出により電気的な接続が遮断され易いように、図3(b)に示す絶縁保護層106の絶縁性検査や、後述するコゲ除去のための電圧印加などに影響しない範囲で、できる限り薄く形成することが望ましい。
本実施形態では、溶出部113の電気化学反応を利用するので、電気的な接続を遮断させるのに大きなエネルギーを必要とせず、比較的簡単に電気的な接続を遮断することができる。そのため、上部保護層107に短絡電流が流れたときには、発熱抵抗体108と、共通配線110との間の電気的な接続を容易に遮断することができる。このように、溶出部113の電気化学反応によって電気的な接続が遮断されるので、電気的な接続を遮断するヒューズ部としての信頼性を向上させることができる。
本実施形態では、他の液室への影響の波及を抑えることができるので、一つの液室で電気的な短絡が生じ、インク滴の吐出を行うことができなくなったとしても、他の液室については、インク内で正常に発泡させ、インクの吐出を正常に行うことができる。したがって、一つの液室で生じた短絡の影響を小さくできる。そのため、一つの液室で電気的な短絡が生じたとしても、それによる記録画像の品質の低下を小さく抑えることができる。また、一つの液室で電気的な短絡が生じたとしても、周辺の液室からのインク吐出を正常に行うことができるので、周辺の吐出口からのインク滴の吐出によって、短絡の生じた吐出口からのインク滴の吐出を比較的容易に補間することができる。また、一つの液室で短絡が生じたとしても、インクジェット記録ヘッドの交換が必要となるまで、影響が広がらなくなる。
<インジェット記録ヘッドの製造工程>
第1の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造工程について説明する。図4及び図5は、第1の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造工程について説明するための模式的断面図である。
なお、通常、インクジェット記録ヘッドの製造工程では、Si等からなる基板101には予め駆動回路が作り込こまれている。そして、駆動回路が作り込まれた基板101上にそれぞれの層が積層されて、インクジェット記録ヘッドが製造される。また、駆動回路としては、発熱抵抗体108を選択的に駆動するためのスイッチングトランジスタ303等の半導体素子が挙げられる。以下の説明では、簡略化のため、予め配置された駆動回路等は図示されていない。
まず、図4(a)に示すように、基板101の第一の面(表面)上に、抵抗体層104の下部層として蓄熱層102を形成する。蓄熱層102は、例えば、熱酸化法、スパッタ法、CVD法などにより形成することができる。蓄熱層102としては、例えば、SiO2等の酸化膜が挙げられる。なお、駆動回路を予め作り込んだ基板においては、それらの駆動回路を製造するプロセス中で、蓄熱層102を形成することができる。
そして、蓄熱層102上に、抵抗体材料を配置する。抵抗体材料は、TaSiN等を用いて、反応スパッタリングにより、蓄熱層102上に配置することができる。抵抗体材料の膜厚は、例えば約50nmである。続いて、抵抗体材料の上に電極配線材料を配置する。電極配線材料は、例えば、Al等を用いて、スパッタリングにより、抵抗体材料上に配置することができる。電極配線材料の膜厚は、例えば約300nmである。そして、フォトリソグラフィ法を用い、抵抗体材料及び電極配線材料に対して同時にドライエッチングを施してパターニングすることにより、図4(a)示される形状の抵抗体層104及び電極配線層105を形成する。なお、本実施形態では、ドライエッチングとしてリアクティブイオンエッチング(RIE)法を用いることが好ましい。
次に、図4(b)に示すように、発熱抵抗体108を形成する。発熱抵抗体108は、例えば、フォトリソグラフィ法を用い、ウエットエッチングにより、電極配線層105を部分的に除去し、抵抗体層104の一部を露出させることにより形成することができる。なお、ウエットエッチングは、次に形成する絶縁保護層106によるカバレッジ性を良好なものとするため、電極配線層105の除去部分がテーパ形状となるように行われることが望ましい。
次に、図4(c)に示すように、抵抗体層104及び電極配線層105の上に、絶縁保護層106を形成する。絶縁保護層106は、例えば、プラズマCVD法を用いて、SiN膜を約100nmの厚さに堆積することで形成される。
次に、図4(d)に示すように、絶縁保護層106の上に、上部保護層107及び溶出部113を形成する。上部保護層107は、発熱抵抗体108の発熱に伴う化学的、物理的作用から発熱抵抗体108を保護する。そのため、上部保護層107は、発熱抵抗体108に対応する位置に配置される。
上部保護層107及び溶出部113は、以下に示すように、同じ材料を用いて形成されてもよい。まず、スパッタリングにより、白金族金属又はTa等の材料を絶縁保護層106上に、約100nmの厚さで配置し、材料層を形成する。そして、フォトリソグラフィ法を用いて、ドライエッチングにより、材料層をパターニングすることにより、発熱抵抗体108の上の領域に上部保護層107と、溶出部113と、を形成する。また、このように、同じ材料を用いて同工程で上部保護層107及び溶出部113を形成する際、フォトリソグラフィ法を用いたドライエッチングによって、溶出部113を上部保護層107よりも薄くする工程を入れてもよい。このとき、上部保護層107はレジストによってマスクされ、溶出部113のみを部分的にエッチングする。溶出部113の厚さは、例えば、約30nmである。
溶出部113の材料は、電気化学反応により前記第二の液体へ溶出する金属を含む。このような金属としては、例えば、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)等の白金族金属、あるいはタンタル(Ta)等が挙げられ、上部保護層の材料と同じものを用いてもよい。
次に、図4(e)に示すように、絶縁保護層106の上に、個別配線109及び共通配線110を形成する。個別配線109は、上部保護層107と溶出部113とを電気的に接続する配線である。共通配線110は、溶出部113に接続する配線であり、個別配線109と共通配線110の間に溶出部113が配置されている。
個別配線部及び共通配線部は、例えば、以下の工程により形成することができる。まず、スパッタリングによりTaを100nmの厚さで絶縁保護層106上に配置する。そして、フォトリソグラフィ法を用いたドライエッチングにより、Ta膜をパターニングし、個別配線109と共通配線110を形成する。
次に、絶縁保護層106を部分的に除去し、外部電極を形成するための凹部を形成する(不図示)。具体的には、例えば、フォトリソグラフィ法を用いたドライエッチングにより、絶縁保護層106を部分的に除去し、電極配線層105の一部を露出させる(図示せず)。
次に、図5(a)に示すように、基板100の上に、第一の液室132及び第二の液室133の型材として、溶解可能な材料を用いて型パターン201を形成する。
型パターンは、例えば、以下の工程により形成することができる。まず、溶解可能な材料としてのレジストをスピンコート法により、基板上に塗布する。より具体的には、絶縁保護層106、上部保護層107、溶出部113、個別配線109、共通配線110の上にレジストを塗布する。該レジストは、例えば、ポリメチルイソプロペニルケトン等のポジ型レジストである。そして、フォトリソグラフィ法を用い、該レジストを第一の液室及び第二の液室の形状にパターニングする。
次に、図5(b)に示すように、型パターン201の上に、吐出口121を有する流路形成部材120を形成する。
流路形成部材120は、第一の液室の壁や第二の液室の壁、吐出口121を形成する。流路形成部材120は、例えば、以下の工程により形成することができる。まず、型パターン201の上に被覆樹脂層を形成する。なお、この被覆樹脂層を形成する前に、密着性を向上させるためにシランカップリング処理等を適宜行うことができる。被覆樹脂層は、公知のコーティング法を適宜選択して、基板上に材料を塗布して形成することができる。そして、フォトリソグラフィ法を用い、被覆樹脂層を所望の液流路壁や吐出口の形状にパターニングする。
次に、基板101の第一の面と反対側の面である第二の面(裏面)から、エッチングにより供給口を形成する(不図示)。このエッチングとしては、例えば、異方性エッチング法、サンドブラスト法、異方性プラズマエッチング法等を用いることができる。具体的には、テトラメチルヒドロキシアミン(TMAH)、NaOH、又はKOH等を用いたシリコン異方性エッチング法により、供給口を形成することができる。
次に、図5(c)に示すように、型パターン201を除去する。型パターン201は、例えば、Deep−UV光による全面露光を行い、現像処理を行うことにより、溶解除去することができる。
以上の工程により、インクジェット記録ヘッド1が製造される。
本実施形態の構成によれば、溶出部113は、第二の液室133に含まれる第二の液体が収容されたときに、第二の液体に接するように形成されている。そのため、電極配線層105と上部保護層107との間で短絡が生じ、上部保護層107に電流が流れたときに、溶出部113に含まれる前記金属が電気化学反応により第二の液体中に溶出する。これにより、個別配線109と共通配線110との電気的な接続を遮断することができる。したがって、本実施形態の構成とすることにより、一箇所の第一の液室で生じた短絡によって上部保護層107に電流が流れた場合、この上部保護層107と共通配線110との電気的な接続を遮断することができ、他の液室に影響が及ぶことを妨げることができる。なお、一般的に基板はグランド(GND)に接続されているため、基板の付近に存在する第二の液体もGNDに近い電位となる。したがって、第二の液体は溶出部113よりは低い電位となり、溶出部と第二の液体との間で電気化学反応が生じ、溶出部が溶出する。
また、本実施形態では、流路形成部材によって第二の液室が形成されているが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、第二の液室は別の部材によって形成されていても構わない。
なお、第二の液体の第二の液室133への充填は、発熱抵抗体108やスイッチングトランジスタ303が正常に機能しているかどうかを検査した後であれば、いずれのタイミングで行ってもよい。例えば、製品を出荷する前に充填してもよいし、出荷後に充填してもよい。充填方法としては、例えば、通常インクジェット記録ヘッドにインクを充填する際に行われているように、減圧、あるいは加圧しながら供給口側から充填する方法でもよい。基板は第二の液室に連通し、第二の液室に第二の液体を供給するための貫通口を有することが好ましい。また、吐出口121側から充填してもよい。その場合は、流路形成部材の吐出口面に第二の液室に連通する開口を有することが好ましい。
また、上記の例では上部保護層107と溶出部113をIrやRuなどの白金族金属で形成し、個別配線109と共通配線110をTaで形成する場合を示したが、これに限定されず、例えば、全てをTaで形成してもよい。その場合、見かけ上は一つの配線層が形成されることとなるが、本発明では形成される部位や形状に応じて、上部保護層、第一の配線(個別配線)、溶出部、及び第二の配線(共通配線)と呼ぶ。
更に、上記の例では、上部保護層と溶出部を形成してから第一の配線(個別配線)と第二の配線(共通配線)を形成しているが、第一の配線(個別配線)と第二の配線(共通配線)を形成してから上部保護層と溶出部を形成しても良い。加えて、第一の配線(個別配線)と第二の配線(共通配線)を絶縁保護層中に埋設してコンタクトを介して上部保護層ないしは溶出部と接続しても良い。
また、上部保護層をIr等の白金族金属で形成する場合、絶縁保護層との密着性を改善する目的で、密着層を絶縁保護層と白金族金属層の間に形成してもよい。密着層としては、Taなどの金属材料を用いることができ、例えば、第一の配線(個別配線)のTa層の一部を上部保護層形成部位まで延伸して形成し、その上にIr等の金属層を形成してもよい。この場合も、形成される部位によりTa層とIr層の積層膜が上部保護層となる。溶出部についてはキャビテーションなどの影響を受けないために密着層を特に設ける必要はないが、溶出による電気的接続の遮断を阻害しない範囲で、例えば、部分的に密着層を設けていても良い。
(第2の実施形態)
本実施形態では、溶出部113の周辺、好ましくは下方に、発熱抵抗体108とは別の発熱抵抗体を設けた構成について説明する。
<インクジェット記録ヘッドの構成>
図6は、第2の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの熱作用部付近について上面から見て模式的に示した平面図である。また、図7は、図6におけるB−B’線により基板面に垂直な方向へ切断した際に得られる断面を横方向から見た図を示す模式的断面図である。
本実施形態では、溶出部における遮断速度をあげるための手段として、溶出部の周辺、好ましくは溶出部の下方に、電極配線層105と上部保護層107との間で短絡が発生した場合に発熱する、第一の発熱抵抗体108とは別の、第二の発熱抵抗体114を形成しておく。この構成により、溶出部の温度を上げることができ、電気化学反応を促進させることができる。
本実施形態の構成において、第一の電極配線層105aと上部保護層107との間で短絡が発生すると、溶出部113に電流が流れるのと同時に、第二の発熱抵抗体114にも電流が流れ発熱する。第二の液体の温度が上昇すると電気化学反応が促進され、より早く電気的な接続の遮断が可能になる。
本実施形態において、第一の発熱抵抗体108は、第一の抵抗体層104aの上に、第一の電極配線層105aを設け、該第一の電極配線層105aの一部が除去されて形成されている。また、第二の発熱抵抗体114は、第二の抵抗体層104bの上に、第二の電極配線層105bを設け、該第二の電極配線層105bの一部が除去されて形成されている。第一の電極配線層105a及び第二の電極配線層105bは、同じ層から形成することができる。また、第一の抵抗体層104a及び第二の抵抗体層104bは、同じ層から形成することができる。第二の電極配線層105bは、個別配線109と接している。
<回路構成>
図8は、電極配線層105と上部保護層107との間で短絡が生じ、電極配線層105を流れる電流の一部が溶出部113及び溶出部下方に形成された第二の発熱抵抗体114に向かったときのインクジェット記録ヘッド1における回路を示す。電流は、溶出部と第二の液体との電気化学反応に使われるのと同時に、第二の発熱抵抗体114を発熱させるために使われる。そのため、溶出部における溶出速度が大きくなり、より早く電気的接続を遮断することができる。
<インクジェット記録ヘッドの製造工程>
以下、本実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造工程例を以下に説明する。
まず、図4(a)に示すように、基板101上に蓄熱層102を形成し、蓄熱層102上に抵抗体材料を形成し、抵抗体材料の上に電極配線材料を形成する。
そして、本実施形態では、発熱抵抗体材料及び電極配線材料に対して同時にドライエッチングを施し、第一の抵抗体層104a及び第一の電極配線層105a、並びに第二の抵抗体層104b及び第二の電極配線層105bを形成する。
次に、フォトリソグラフィ法を用いて、ウエットエッチングにより、第一の電極配線層105a及び第二の電極配線層105bを部分的に除去し、第一の抵抗体層104aの一部及び第二の抵抗体層104bの一部を露出させ、第一の発熱抵抗体108及び第二の発熱抵抗体114を形成する(図7参照)。
次に、第一の電極配線層105a、第二の電極配線層105b、第一の発熱抵抗体108及び第二の発熱抵抗体114の上に、絶縁保護層106を形成する。
次に、絶縁保護層106を部分的に除去し、第二の電極配線層105bを露出するスルーホールを形成する。
次に、上部保護層107及び溶出部113の材料として、絶縁保護層106上に、スパッタリングによりIr又はRu等からなる材料層を形成する。そして、ドライエッチングにより材料層をパターニングし、上部保護層107及び溶出部113を形成する。このとき、第一の発熱抵抗体108の上方に上部保護層107が形成され、第二の発熱抵抗体114の上方に溶出部113が形成される。
次に、個別配線及び共通配線を形成する。個別配線109は、第二の電極配線層105bと溶出部113の両方に電気的に接続されている。本実施形態では、上部保護層から第二の電極配線層105bに延伸し、その後第二の電極配線層105bから溶出部113に延伸している。
以降のインクジェット記録ヘッドの製造工程は、第1の実施形態で説明した方法と同様である。
(第3の実施形態)
<インクジェット記録ヘッドの構成>
本実施形態では、特許文献1と同様に、上部保護層107上に蓄積されるコゲを除去できる構成について説明する。本実施形態では、第一の液室内に上部保護層に対する対向電極を有し、該上部保護層と対向電極を電極とした電気化学反応により、上部保護層の一部を第一の液体中に溶出させることができる。コゲ除去動作の詳細は特許文献1を参考にすることができる。
図9は、本実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの熱作用部付近について上面から見て模式的に示した平面図である。また、図10は、図9におけるC−C’線により基板面に垂直な方向へ切断した際に得られる断面を横方向から見た図を示す模式的断面図である。
本実施形態において、上部保護層107及び溶出部113は電気化学反応により液体中に溶出する材料、つまり、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)等の白金族金属によって形成されている。また、上部保護層には、個別配線、溶出部及び共通配線を介して、外部から、アノードとなる電圧を印加できるように構成されている。また、第一の液室内には、カソード電極となる対向電極116が配置されている。対向電極116は、上部保護層107から一定の距離をもって配置されており、配線層117によって電気的接続が施される。
上部保護層107と対向電極116は、第一の液室内に液体が存在しない場合には、相互に電気的に接続させていない。しかし、第一の液室内に電解質を含む溶液が充填されると、この溶液を介して電流を流すことができ、上部保護層と溶液との界面で電気化学反応を生じさせることができる。上部保護層をアノード側とすることで、上部保護層が溶出し、上部保護層の上に付着したコゲを除去することができる。対向電極は、溶出部が残存した状態で上部保護層に対して第一の液体を介して通電可能な電極である。また、本実施形態のインクジェット記録ヘッドは、上部保護層をアノードとし、対向電極をカソードとする回路を有する。
コゲを除去する際、第一の液室内の液体は、特に制限されるものではなく、電解質を含む溶液を用いることができる。例えば、インク記録に用いるインク(第一の液体)であってもよく、第二の液体と同じものであってもよい。
また、電気化学反応を実施する際のカソード電極(対向電極)116は、溶液を介して好ましい電気化学反応ができれば特に制限されるものではなく、例えば、上部保護層と同じ材料を用いることができる。また、他の材料を用いてカソード電極を形成しても良い。
(第4の実施形態)
<コゲ除去シーケンス>
図11は、第3の実施形態で示したコゲを除去することができるインクジェット記録ヘッドにおけるクリーニング処理手順(コゲ除去シーケンス)の一例を示すフロー図である。
ホスト装置等から記録指示が行われると本手順が開始され、まずホスト装置から記録に係る画像データを受信し、これを記録装置に適合するデータとして展開する(ステップS1)。そして当該展開した記録データに基づき、記録用紙の搬送とインクジェット記録ヘッド1の主走査とを交互に行いながら記録動作を実行する(ステップS3)。また、この際、記録ドット数(電気熱変換素子の駆動パルス数)のカウントを実施する。
そして1単位(例えば記録用紙1枚分)の記録動作が終了すると、EEPROMなどのメモリに格納されているドットカウント値の累積データを読み出し(ステップS5)、これに今回カウントしたドット数を加算する(ステップS7)。次に、当該加算値が所定の値Th(例えば1×107)以上となったか否かを判定する(ステップS9)。
ここで肯定判定であれば、溶出部における金属の溶出を防ぐため、第二の液体を第二の液室から除去する(ステップS11)。その後、クリーニング(コゲ除去処理)を行う(ステップS13)。クリーニングに専用液を用いる場合は、第一の液室内のインクを専用液へ置換するステップが追加される。
クリーニングにおいては、上部保護層がアノードとなるように電圧を印加して、電気化学反応によって上部保護層107の少なくとも一部を溶出させ、コゲを上部保護層とともに除去する。コゲ除去処理を行った後には、吐出口付近には溶出した上部保護層の形成材料と剥離したコゲとを含むインク又はクリーニングの専用液が滞留している。記録品位に影響を及ぼすものでなければ、このインクをそのまま次回の記録動作に用いることで吐出口から吐出させてしまうこともできる。しかし本実施形態では、吸引回復等を実施することで(ステップS15)、そのインクを積極的に排出するようにする。
コゲ除去動作に伴って、上部保護層107が溶出するため、発熱部上の膜厚が減少する。このため、高い記録品位を保つためには、発泡に必要なパルス幅の閾値であるPthを再度測定し、これを記憶する(ステップS17、S19)。その後、EEPROMなどのメモリに格納されているドットカウント値の累積データをリセットし(ステップS21)、一連の記録処理を終了する。クリーニングに専用液を使った場合は、Pthの測定の前に、第一の液室内の専用液をインクへと置換する工程が追加される。また続けて印字をする場合は、次の印字の開始前に、第二の液体を第二の液室内に充填する。
一方、ステップS9にて否定判定された場合には、上記加算値をもってEEPROMなどのメモリに格納されているドットカウント値の累積データを更新し(ステップS23)、記録処理を終了する。
なお、以上の手順では記録動作後にコゲ除去処理ないし回復処理を実施するものとしたが、記録動作に先立って行うようにしてもよい。この場合には、ステップS1で展開した記録データに基づいてドットカウントを行い、これをドットカウントの累積値に加算し、その加算値に基づいてコゲ除去処理の実施の有無を判定するようにすることができる。また、所定量の記録動作毎(例えばインクジェット記録ヘッドの1または数スキャン毎)にコゲ除去処理が実施されるようにすることも可能である。
また、コゲ除去処理後にインクを排出させるための処理としては、上述したような吸引回復に限られない。吐出口に至るインク供給系を加圧することで排出を行わせるものでもよい。また、記録動作とは別に発熱部(発熱抵抗体)を駆動してインクを吐出させる処理(予備吐出処理)により排出を行うものでもよい。この場合には、予備吐出のための駆動パルスも上記カウントに反映させることができる。
いずれにしても、本実施形態によれば、一連の記録処理過程においてコゲ除去処理を含むクリーニング処理をそのまま実施することが可能となる。したがって、インクジェット記録ヘッドを取り外して行うような特別かつ煩雑なクリーニング処理が不要となり、効率よくクリーニング処理を実施することが可能となる。
(第5の実施形態)
本実施形態では、溶出部をより効率的に溶出可能な構成について説明する。本実施形態では、第二の液室内に溶出部113に対向して、第二の液体を介して溶出部と電気化学反応が可能な電極(第二の対向電極とも称す)を有する。ここで、「可能」とは、第二の液体が第二の液室内に存在することで可能となることを意味する。対向電極を設けることで、溶出部をアノード電極と対向電極をカソード電極とした電気化学反応により、溶出部を第二の液体中に効率的に溶出させることができる。
図12は、本実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの熱作用部付近について上面から見て模式的に示した平面図である。また、図13は、図11におけるA−A’線により基板面に垂直な方向へ切断した際に得られる断面を横方向から見た図を示す模式的断面図である。
本実施形態において、第二の液室内には、カソード電極となる対向電極118が配置されている。対向電極118は、溶出部113から一定の距離をもって配置されており、配線層(第二の配線層とも称す)119によって電気的接続が施される。
図12に示す対向電極118は、複数の溶出部に対して1つ配置されているが、対向電極118は、個々の溶出部に対応させてそれぞれ1つずつ設けることもできる。対向電極は、グランド電位に接続されることができる。