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JP6356520B2 - 透明電極付き基板及びその製造方法 - Google Patents

透明電極付き基板及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、透明フィルム基材上に透明電極薄膜が形成された透明電極付き基板、およびその製法に関するものである。
タッチパネルやディスプレイなどの表示デバイス、LEDなどの発光デバイス、太陽電池などの受光デバイスに用いられる透明電極付き基板では、シート抵抗として表される電気特性の制御が重要である。特に、透明電極薄膜を熱処理し、結晶化促進によって透明電極薄膜を低抵抗化する技術は重要であるため、これまでの研究開発は結晶化促進を追及し、低抵抗率を達成するものが大勢であった。
一般的な透明電極付き基板の構造としては、フィルムなどの軟質基板上に透明電極薄膜が形成されたものが知られているが、フィルムと透明電極薄膜の間に下地層が形成されることがある。例えば、特許文献1には、結晶性の酸化セリウムを下地層として形成し、これにより、透明電極薄膜を低抵抗化する技術が記載されている。特許文献2には、透明電極薄膜を積層させ、結晶化を促進する技術が記載されている。特許文献3や特許文献4には、透明電極膜の下地層として、アルミニウムやガリウム、ケイ素等の種々の元素を少量添加した酸化亜鉛を用いることで、透明導電膜表面の凹凸を制御する技術や、透明電極製膜時における基材からのアウトガスを抑制し、低抵抗化する技術が記載されている。しかしながら、特許文献3および4のいずれにおいても、アルミニウムを数%含有する酸化亜鉛については検討されているが、酸化ケイ素が添加されたものは実質的に検討されていない。
特開平7−178863号公報 特開2012−114070号公報 特開2000−108244号公報 特開2007−327079号公報
ところで、最近、透明電極付き基板を常温常圧環境下で長期間保管した場合に電気特性が変化する場合があることを見出した。これは、非晶質である透明電極薄膜が常温常圧環境下において熱力学的に安定な結晶質に意図せずに転移する現象である。元々、非晶質が結晶質に変化することは知られているが、このような常温常圧環境での結晶化は、その後のデバイス作製プロセスにおいて、基板と結晶質の透明電極薄膜の応力の差が大きい時、特に、基板がフィルムやプラスチックなどの軟質の材料の場合に、基板からの剥離や変形を引き起こす等の課題が生じやすい。上記の「熱処理時の結晶化促進」と「常温常圧時の結晶化抑制」は、一見相反する物性と考えられるが、より高性能な製品では同時に要求される。
また、透明電極付き基板には、前述の結晶化に関する物性に加え、ディスプレイ上に設置されるために可視光領域において高い透過率が求められる。
このような課題に対して、上記特許文献1、2の技術は、前述の物性のうち「熱処理時の結晶化促進」の要求に応えるものであるが、「常温常圧時の結晶化抑制」や「高い透過性や非視認性」について解決するものではない。また、特許文献3については、下地層および透明電極薄膜を180℃の環境で製膜して結晶化を行っているため、「常温常圧時の結晶化抑制」を想定した技術ではない。さらに、特許文献4については、誘電体層の屈折率が透明電極と同じであり、且つ膜厚が20nm以上と厚いため、透明電極付き基板の反射率が増大することで透過率が悪化してしまい、上記3つの課題を解決するものではない。
そこで、本発明は、上記課題に鑑み、熱処理による結晶化促進と常温結晶化抑制、加えて、高い光透過性を同時に達成する透明電極付き基板を提供するものである。
本発明者らは鋭意検討した結果、透明電極薄膜を形成する際に、下地層として酸化ケイ素を添加した酸化亜鉛(SZO)を厚さ8nm以下の範囲で形成することで、上記3つの物性を同時に解決できることを見出した。さらに、SZOの酸化ケイ素含有量によって上記効果が異なることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明の透明電極付き基板は、フィルム基板上に透明電極薄膜が形成された透明電極付き基板において、上記フィルム基板と上記透明電極薄膜との間には、SZOからなる下地層が形成されている。
上記透明電極薄膜は、酸化インジウムを主成分とする酸化物であることが好ましく、低抵抗および高光透過性の観点から、膜厚は15〜30nmの範囲が好ましい。また、上記SZO層の膜厚は、基材から透明電極薄膜の結晶化を阻害する成分が拡散するのを抑制する点や、透明電極薄膜を形成する際の表面自由エネルギー制御の点で、0.5〜8nmであることが好ましい。
上記SZO中の酸化ケイ素の添加量は、1〜4重量%、より好ましくは2〜4重量%であることが好ましい。酸化ケイ素の添加量が1重量%以下であると、下地層SZOと透明電極薄膜の屈折率の値が近接するため、透明電極薄膜と透明粘着剤の界面における反射率が増加してしまい、透過率が減少する。一方、5重量%以上であると、熱処理時における透明電極薄膜の結晶化は促進されるものの、常温結晶化が生じてしまう。
SZO中のケイ素と酸素の共有結合状態は、酸化数が少ない方が好ましい。その際の酸化ケイ素の結合状態は、X線光電子分光法によって分析することが出来る。通常、酸化ケイ素における酸素が2配位の状態では、ケイ素の束縛エネルギーは104〜105eV程度を示す。一方、下地SZO中のケイ素の束縛エネルギーは102〜103eVを示しており、これはケイ素の電子状態が1価、または2価の正電荷の状態であり、酸素が配位していないケイ素が多く存在していることを示唆している。ケイ素は酸素との結合が強いため、スパッタリング薄膜では容易に酸素が過飽和な膜となり得るが、SZOを作製する際の製膜条件を後述する所定の条件とすることで、ケイ素の酸化数が少ないSZOを作製することが出来る。熱処理時に透明電極薄膜の結晶化を促進する代表的な下地層として、ケイ素に酸素が2配位している酸化ケイ素が挙げられる。酸化ケイ素は、結晶化促進の効果があるものの、常温結晶化を抑制することはできない。SZOが熱処理時における透明電極薄膜の結晶化を促進しつつ、常温結晶化を抑制できる効果を併せ持つ原理は定かではないが、SZO中のケイ素の酸化状態を酸素欠損がある状態に制御していることが影響していると推測される。
上記SZOの抵抗率は1Ω・cm以上が好ましい。SZOの抵抗率が上記範囲内であれば、膜厚が8nm以下の場合において導電性の電極としての機能を発現しないため、透明電極パターン形成後にSZOを介して電気信号がリークすること等は生じない。そのため、上記SZOの膜厚範囲は0.5〜8nmの間が好ましく、1〜5nmの間がより好ましい。
また、本発明の透明電極付き基板の製造方法は、上記下地層および上記透明電極薄膜を、共に反応性ガスとして酸素ガスを用いてマグネトロンスパッタリング法で製膜する。その際、上記下地層のスパッタ製膜は直流電源または高周波電源によって実施され、その際の放電電圧は−100〜−350Vであることが好ましい。また、上記下地層および上記透明電極薄膜はロール・トゥ・ロール法で製膜することができる。
本発明によれば、下地層として酸化ケイ素が微量添加された酸化亜鉛であるSZOを用い、該SZOの酸化ケイ素の含有量、およびSZO膜中のケイ素の酸化状態を制御することで、透明電極薄膜の結晶性と電気特性を制御し、熱処理後の結晶化促進、および常温環境での結晶化の抑制に加え、高い光透過性を達成することが可能となり、高い品質と信頼性を有する透明電極付き基板を提供することができる。
実施例1における透明電極付き基板の模式的断面図である。 実施例1の構造で、透明電極薄膜を複数回に分けて製膜した場合における透明電極付き基板の模式的断面図である。 実施例1の構造で、下地層の下に、コーティング層を製膜した場合における透明電極付き基板の模式的断面図である。
[透明電極付き基板の構成]
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、透明フィルム基材100上に下地層としてのSZO200、さらにその上に透明電極薄膜300を形成した透明電極付き基板を示している。透明電極薄膜300は、図2に示すように、層301と層302のような複数層の構成で形成されていても良い。図3では、透明フィルム基材100と下地層200との間にコーティング層400が設けられている。コーティング層400は透明フィルム基材100の保護や、透明フィルム基材100中に含まれる低分子量成分の拡散抑制、光学膜厚調整を目的として設けられる。図3では、コーティング層400は透明フィルム基材100の片面にのみ形成されているが、両面に形成されるようにしても良い。
透明フィルム基材100を構成する透明フィルムは、少なくとも可視光領域において無色透明であるものが好ましい。
下地層であるSZO200は、酸化亜鉛を主成分とし、酸化ケイ素を1〜4重量%、より好ましくは2〜4%含有する無機薄膜である。SZO200の膜厚は0.5〜8nmであることが好ましく、さらには1〜5nmが好ましい。SZO200には、透明電極薄膜300の結晶化阻害成分として機能する透明フィルム基材100からの炭素原子、窒素原子などの拡散抑制や、透明電極薄膜300をスパッタリングで形成するときのプラズマからの透明フィルム基材100の保護、透明電極薄膜300形成時の表面自由エネルギー制御などの役割があり、これらの役割を満たすためには上記膜厚範囲が好ましい。
SZO200を構成する酸化亜鉛は、下地層200の表面自由エネルギーを透明電極薄膜300の形成に最適な値に制御する点や、水蒸気等の化学的な要因だけでなく、プラズマなどの物理的な要因に対してフィルムを保護するバリア特性の観点、透明電極薄膜300の結晶化阻害となりうる炭素や窒素原子を含まないことからも好ましい。さらに、酸化ケイ素のみからなる材料などの公知の下地層材料と比べて、常温結晶化を抑制することも可能となる。これは、SZO200中のケイ素の酸化状態が透明電極薄膜の結晶化に影響を及ぼすためであると推測される。
SZO200の形成方法は、生産性の観点からスパッタリング法が好ましい。スパッタリング法では、マグネトロンスパッタリング法が特に好ましい。マグネトロンスパッタリング時のマグネットの強度は700〜1300ガウスが好ましく、これにより極端なエロージョンによるスパッタターゲットの利用効率低下を抑制し、かつ良質な下地層200の形成が可能となる。これは、磁場強度を大きくすることで、放電電圧を下げることが可能となるためであり、下地層SZO200の形成を透明フィルム基材100に対して低ダメージで行うことができる利点がある。スパッタリングに用いる電源には制限が無く、直流電源や交流電源などをターゲット材料にあわせて選択できる。放電電圧は装置や電源の種類に依るが、良好な下地層200を形成するためには−100〜−350V程度が好ましく、さらには、−180〜−300V程度がより好ましい。
SZO200の形成は、透明フィルム基材100またはコーティング層400などの有機化合物を含む層上に形成されるため、できる限り基板に対して低ダメージ製膜されることが好ましい。このような低ダメージ製膜は、上述のような強磁場カソードによる低電圧製膜の他に、入力される電力密度を上げない、製膜室内の製膜圧力を増加する、などの手法がある。
SZO200の形成には、製膜室内に不活性ガスと反応性ガスを導入し、所定の圧力で実施される。導入する酸素導入量については、不活性ガスに対して3体積%(vol.%)以下であることが好ましい。該酸素導入量が3vol.%より大きくなると、酸素により発生する酸素プラズマによる薄膜へのダメージがあり、透明電極付き基板の耐湿熱性が低下することから好ましくない。
透明電極薄膜300は酸化インジウムを、87.5重量%〜99.0重量%含有するのが好ましく、90重量%〜95重量%であることがより好ましい。結晶質透明電極薄膜は、膜中にキャリア密度を持たせて導電性を付与するためのドープ不純物を含有する。このようなドープ不純物としては、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化チタン又は酸化タングステンが好ましい。ドープ不純物が酸化スズである場合の透明電極薄膜は酸化インジウム・スズ(ITO)であり、ドープ不純物が酸化亜鉛である場合の透明電極薄膜は酸化インジウム・亜鉛(IZO)である。透明電極薄膜中の前記ドープ不純物の含有量は、4.5重量%〜12.5重量%であることが好ましく、5重量%〜10重量%であることがより好ましい。透明電極薄膜300を低抵抗かつ高い光透過率にする観点から、透明電極薄膜300の膜厚は、15nm〜30nmが好ましく、17nm〜27nmがより好ましく、20nm〜25nmがさらに好ましい。
なお、透明電極薄膜と下地層の膜厚の合計は、50nm未満が好ましく、23〜38nmがさらに好ましく、20〜35nmが最も好ましい。
透明電極薄膜300は、アニールして結晶化させた後の結晶化度が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。結晶化度が上記範囲であれば、透明電極薄膜による光吸収を小さくできるとともに、環境変化等による抵抗値の変化が抑制される。なお、結晶化度は、顕微鏡観察時において観察視野内で結晶粒が占める面積の割合から求められる。
透明電極薄膜300は、抵抗率が8.0×10−4Ωcm以下であることが好ましい。また、結晶質透明電極薄膜300の表面抵抗は、170Ω/□以下であることが好ましく、150Ω/□以下であることがより好ましい。透明電極薄膜が低抵抗であれば、静電容量方式タッチパネルの応答速度向上や、有機EL照明の面内輝度の均一性向上、各種光学デバイスの省消費電力化等に寄与し得る。
透明電極薄膜300のキャリア密度は、2×1020cm−3〜9×1020cm−3であることが好ましく、3×1020cm−3〜6×1020cm−3であることがより好ましい。キャリア密度が上記範囲内であれば、透明電極薄膜300を低抵抗化できる。
透明電極薄膜300の形成方法は、生産性の観点からスパッタリング法が好ましく、中でもマグネトロンスパッタリング法が好ましい。スパッタリングによる透明電極薄膜300の形成は、1回の製膜で所望膜厚の全厚を形成しても良いが、複数回の積層により形成したほうが、生産処理速度や、透明フィルム基材100への熱履歴の観点から好ましい。複数回製膜を行う際には、以下の2つの手法により結晶性を制御することが可能である。1つは同じ組成のターゲットを用いて、各層毎の製膜条件を変える方法であり、もう1つは異なる組成のターゲットを用いて積層する方法である。前者の手法としては、1層目の酸素量を、通常の透明導電性酸化インジウムを形成する際に導入する酸素量(抵抗率が最も低くなる最適酸素量)より少なくすることで、SZO200と透明電極薄膜300の界面近傍に形成される結晶核の数を低減させ、結晶化し難くなる方向に透明電極薄膜の結晶性を制御することが出来る。また、1層目の酸素量が少ないことで、酸素プラズマによるダメージが少ない透明電極薄膜が形成されるため、例えば耐湿熱性等の信頼性も向上する。後者の手法としては、透明電極薄膜を構成する材料やドーパントの組成・濃度を順次変更して形成する方法である。この手法の場合、透明電極薄膜中のスムーズな電子輸送の観点から、ドーパントの材料は同一である方が好ましく、また、濃度の変化は膜厚方向にのみ生じることが好ましい。
[透明電極付き基板の製造方法]
以下、本発明の好ましい実施の形態について、透明電極付き基板の製造方法に沿ってさらに説明する。本発明の製造方法では、透明フィルム上にハードコートなど透明誘電体層を備える透明フィルム基材100が用いられる(基材準備工程)。透明電極薄膜はスパッタリング法により形成され(製膜工程)、その後、透明電極薄膜が結晶化される(結晶化工程)。一般に、酸化インジウムを主成分とする非晶質の透明電極薄膜を結晶化するためには、150℃程度の加熱処理を実施する。
(基材準備工程)
透明フィルム基材100を構成する透明フィルムは、少なくとも可視光領域で無色透明であり、透明電極薄膜形成温度における耐熱性を有していれば、その材料は特に限定されない。透明フィルムの材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフテレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース系樹脂等が挙げられる。中でも、ポリエステル系樹脂が好ましく、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましく用いられる。
透明フィルム基材100の厚みは特に限定されないが、10μm〜400μmが好ましく、20μm〜200μmがより好ましい。厚みが上記範囲内であれば、透明フィルム基材100が耐久性と適度な柔軟性とを有し得るため、その上に各透明誘電体層および透明電極薄膜をロール・トゥ・ロール方式により生産性高く製膜することが可能である。透明フィルム基材100としては、二軸延伸により分子を配向させることで、ヤング率などの機械的特性や耐熱性を向上させたものが好ましく用いられる。
一般に、延伸フィルムは、延伸による歪が分子鎖に残留するため、加熱された場合に熱収縮する性質を有している。このような熱収縮を低減させるために、延伸の条件調整や延伸後の加熱によって応力を緩和し、熱収縮率を0.2%程度あるいはそれ以下に低減させるとともに、熱収縮開始温度が高められた二軸延伸フィルム(低熱収縮フィルム)が知られている。透明電極付き基板の製造工程における基材の熱収縮による不具合を抑止する観点から、このような低熱収縮フィルムを基材として用いることも提案されている。
透明フィルム基材100の片面または両面にハードコート層等の機能性層400が形成されたものであってもよい。透明フィルム基材に適度な耐久性と柔軟性を持たせるためには、ハードコート層の厚みは1〜10μmが好ましく、1.5〜8μmがより好ましい。ハードコート層の材料は特に制限されず、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂等を、塗布・硬化させたもの等を適宜に用いることができる。
(製膜工程)
透明フィルム基材100上に、下地層としてのSZO200、および透明電極薄膜300がスパッタリング法により順に形成される。
スパッタリング製膜は、製膜室内に、アルゴンや窒素等の不活性ガスおよび酸素ガスを含むキャリアガスが導入されながら行われる。導入ガスは、アルゴンと酸素の混合ガスが好ましい。アルゴンと酸素は、所定の混合比のガスを予め用意しても良いし、それぞれのガスを流量制御装置(マスフローコントローラ)により流量を制御した後に混合しても良い。なお、混合ガスには、本発明の機能を損なわない限りにおいて、その他のガスが含まれていてもよい。
本発明において、SZO200製膜時の製膜室内の圧力は、0.1Pa〜1.0Paが好ましく、0.3Pa〜0.8Paがより好ましい。圧力を高くすることで、SZO200と透明電極薄膜300の界面近傍のケイ素の酸化状態が大きくなり、透明電極薄膜の常温結晶化は抑制しつつ、その上に製膜する透明電極薄膜の結晶化が促進される傾向がある。一方、圧力が高すぎると、製膜速度の低下が発生してしまう。
本発明において、下地層SZO200形成時の酸素分圧は0Pa〜9×10−3Paであることが好ましい。ここで、酸素分圧は、下記の式で算出した。
酸素分圧=全圧×酸素ガスの導入量/(酸素ガスの導入量+アルゴンガスの導入量)
酸素分圧を高くしすぎると、SZO200中のケイ素の酸素欠損が多くなって常温結晶化が促進されたり、過剰な酸素により発生する酸素プラズマによってSZO200がダメージを受け、耐湿熱性等の信頼性が低下してしまう。
下地層SZO200形成時の基板温度は、透明フィルム基材が耐熱性を有する範囲であればよく、−20℃〜90℃であることが好ましい。SZO200と透明電極薄膜300の界面近傍のケイ素の酸化状態が多くなり、透明電極薄膜300の常温結晶化が抑制されつつ、その上に製膜する透明電極薄膜の結晶化が促進される傾向がある。また、基板温度を上記範囲とすることで、透明フィルム基材の脆化が抑制されるとともに、製膜工程においてフィルム基材が大幅な寸法変化を生じることがない。
本発明において、透明電極薄膜300として、スズ10%のITO(インジウム−スズ複合酸化物)を製膜する時の製膜室内の圧力は、0.1Pa〜1.0Paが好ましく、0.15Pa〜0.8Paがより好ましい。製膜室内の圧力を高くすることで、放電のインピーダンスが低下することによって放電電圧が下がり、より低ダメージな透明電極薄膜を形成することが可能となるが、圧力を高くしすぎると、放電中におけるガス成分が高いことによってスパッタされた粒子の平均自由行程が小さくなり、製膜速度の低下につながってしまう。
本発明において、透明電極薄膜300形成時の酸素分圧は1×10−3Pa〜1×10−2Paであることが好ましく、3.0×10−3Pa〜8.0×10−2Paであることがより好ましい。上記酸素分圧範囲は、一般的なスパッタ製膜における酸素分圧よりも低い値である。すなわち、本発明においては、酸素供給量が少ない状態で透明電極薄膜の製膜が行われる。そのため、製膜後の非晶質膜中には、酸素欠損が多く存在していると考えられる。
透明電極薄膜300製膜時の基板温度は、透明フィルム基材が耐熱性を有する範囲であればよく、60℃以下であることが好ましい。基板温度は、−20℃〜40℃であることがより好ましい。基板温度を60℃以下とすることで、透明フィルム基材からの水分や有機物質(例えばオリゴマー成分)の揮発等が起こり難くなり、酸化インジウムの結晶化が起こりやすくなるとともに、非晶質膜が結晶化された後の結晶質透明電極薄膜の抵抗率の上昇を抑制することができる。また、基板温度を上記範囲とすることで、透明電極薄膜の透過率の低下や、透明フィルム基材の脆化が抑制されるとともに、製膜工程においてフィルム基材が大幅な寸法変化を生じることがない。
本発明においては、巻取式スパッタリング装置を用いて、ロール・トゥ・ロール法により製膜が行われることが好ましい。ロール・トゥ・ロール法により製膜が行われることで、非晶質の透明電極薄膜が形成された透明フィルム基材の長尺シートのロール状巻回体が得られる。透明フィルム基材100上への誘電体下地層200および透明電極薄膜300の形成が巻取式スパッタリング装置を用いて連続して製膜されてもよい。
スパッタリング製膜時の、真空装置内の雰囲気は、四重極質量分析計で測定した時のm(質量)/z(電荷)=18の成分の分圧が2.8×10−4Pa以下であり、且つm/z=28の成分の分圧が7.0×10−4Pa以下であることが好ましい。m/z=18の成分は主に水であり、m/z=28の成分は主に有機物由来の成分や窒素である。これらの分圧が上記範囲内となることで、透明電極薄膜中に結晶化阻害物質の混入を抑制できる。このような雰囲気にするには、スパッタ装置内または装置投入前のフィルムロールの脱ガス処理を行う方法が一般的であり、例えば加温することで水分の除去は可能である。これらに加えて、本発明の誘電体下地層を形成することで、透明電極形成時のフィルムからの上記成分拡散を抑制し、製膜後の拡散も抑制することが可能となる。
(結晶化工程)
下地層と非晶質の透明電極薄膜が形成された基材は、結晶化工程に供される。結晶化工程では、当該基材が120〜170℃に加熱される。
膜中に酸素を十分に取り込み、結晶化時間を短縮するためには、結晶化は大気中等の酸素含有雰囲気下で行われることが好ましい。真空中や不活性ガス雰囲気下でも結晶化は進行するが、低酸素濃度雰囲気下では、酸素雰囲気下に比べて結晶化に長時間を要する傾向がある。
長尺シートのロール状巻回体が結晶化工程に供される場合、巻回体のままで結晶化が行われてもよく、ロール・トゥ・ロールでフィルムが搬送されながら結晶化が行われてもよく、フィルムが所定サイズに切り出されて結晶化が行われてもよい。
巻回体のまま結晶化が行われる場合、透明電極薄膜形成後の基材をそのまま常温・常圧環境に置くか、加熱室等で養生(静置)すればよい。ロール・トゥ・ロールで結晶化が行われる場合、基材が搬送されながら加熱炉内に導入されて加熱が行われた後、再びロール状に巻回される。なお、室温で結晶化が行われる場合も、透明電極薄膜を酸素と接触させて結晶化を促進させる等の目的で、ロール・トゥ・ロール法が採用されてもよい。
[透明電極付き基板の用途]
本発明の透明電極付き基板は、ディスプレイや発光素子、光電変換素子等の透明電極として用いることができ、タッチパネル用の透明電極として好適に用いられる。中でも、透明電極薄膜が低抵抗であることから、静電容量方式タッチパネルに好ましく用いられる。
タッチパネルの形成においては、透明電極付き基板上に、導電性インクやペーストが塗布されて、熱処理されることで、引き廻し回路用配線としての集電極が形成される。加熱処理の方法は特に限定されず、オーブンやIRヒータ等による加熱方法が挙げられる。加熱処理の温度・時間は、導電性ペーストが透明電極に付着する温度・時間を考慮して適宜に設定される。例えば、オーブンによる加熱であれば120〜150℃で30〜60分、IRヒータによる加熱であれば150℃で5分等の例が挙げられる。なお、引き廻し回路用配線の形成方法は、上記に限定されず、ドライコーティング法によって形成されてもよい。また、フォトリソグラフィによって引き廻し回路用配線が形成されることで、配線の細線化が可能である。
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(電気物性、光学物性)
下地層としてのSZO200および透明電極薄膜300の膜厚は、透明電極付き基板の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)観察により求めた値を使用した。透明電極層の表面抵抗は、低抵抗率計ロレスタGP(MCP‐T710、三菱化学社製)を用いて四探針圧接測定により測定した。透明電極付き基板の全光線透過率は、日本電色工業社製ヘイズメーターNDH−5000を用いた。
(結晶化時間の測定)
加熱前の透明電極付き基板の透明電極薄膜300側の面の向かい合う2辺に平行電極を取り付けた。この際、電極間距離と電極を取り付けた辺の長さとを等しくすることにより、抵抗値からシート抵抗を読み取れるようにした。平行電極を取り付けた状態で、透明導電フィルムを140℃のオーブンに投入し、シート抵抗の経時変化を測定した。抵抗の時間変化が無くなった時の抵抗値(完全結晶化時の抵抗値)とのシート抵抗の差が2Ω/□以内になった時間を、結晶化完了時間とした。
[実施例1]
(SZO200の製膜)
酸化亜鉛に酸化ケイ素を2重量%添加したSZOターゲットを用い、アルゴンガスを装置内に導入しながら、透明フィルム基材100上に、製膜室内圧力0.3Pa、基板温度20℃、パワー密度0.6W/cmの条件で製膜を行った。製膜されたSZOの膜厚は3nm、抵抗率は7Ω・cmであった。その他の製膜条件についての詳細は、表1に示した。
(透明電極薄膜層300の製膜)
連続して、酸素とアルゴンの混合ガスを装置内に導入しながら、酸素分圧4.0×10−3Pa、製膜室内圧力0.3Pa、基板温度20℃、パワー密度3.0W/cmの条件で行った。膜厚は20nmであった。
(結晶化(熱処理))
この透明電極付き基板を、140℃で1時間熱処理を行った。顕微鏡観察によってほぼ完全に結晶化されていることが確認された(結晶化度100%)。
(下地層の評価)
SZO200について、その上に透明電極薄膜300を製膜した透明電極付き基板を用いて、透明電極薄膜300側から、X線光電子分光法で透明電極薄膜300とSZO200の界面(SZO表面)、およびSZO200膜中のケイ素の束縛エネルギーを測定したところ、表面は102.9eV、膜中は102.7eVを示した。
(常温結晶化の評価)
製膜したフィルムを、25℃・50%RHの環境に90日間放置し、その時のシート抵抗を測定することで評価した。シート抵抗が低下していることと結晶化が進んでいることを等価とした。
[実施例2]
SZO200の製膜において、アルゴンに加えて酸素を添加した混合ガスを装置内に導入しながら、酸素分圧5.0×10−3Paで製膜を行った以外は、実施例1と同じ条件で実施例2を作製した。なお、酸素分圧は、以下の式から算出した値を用いた。
酸素分圧=全圧×(酸素ガス導入量/アルゴンガス導入量+酸素ガス導入量)
製膜されたSZOの膜厚は3nm、抵抗率は40Ω・cmであった。
[実施例3]
SZO200の製膜において、アルゴン流量を2倍にして製膜室内圧力を0.60Paとした以外は実施例1と同じ条件で実施例3を作製した。製膜されたSZOの膜厚は3nm、抵抗率は4Ω・cmであった。
[実施例4]
SZO200の製膜において、基板温度を90℃に設定して製膜を行ったこと以外は実施例1と同じ条件で実施例4を作製した。製膜されたSZOの膜厚は3nm、抵抗率は4Ω・cmであった。
[実施例5]
SZO200の製膜において、膜厚を0.5nmに設定したこと以外は実施例1と同じ条件で実施例4を作製した。製膜されたSZOの膜厚は1nm以下、抵抗率は40Ω・cm以上であった。
[比較例1]
SZO200の製膜せずに、透明フィルム基材100上に直接透明電極薄膜300を製膜した以外は実施例1と同じ条件で比較例1を作製した。
[比較例2]
SZO200の代わりに、透明フィルム基材100上に透明電極薄膜300を3nm製膜し、その上に透明電極薄膜300を製膜した以外は実施例1と同じ条件で比較例2を作製した。製膜された透明電極薄膜300の全膜厚は23nm、抵抗率は2×10−4Ω・cmであった。
[比較例3]
SZO200の代わりに、ターゲットとしてケイ素の単結晶を用い、アルゴンと酸素の混合ガスを装置内に導入しながら、酸素分圧2.0×10−2Pa、パワー密度3.0W/cm、膜厚3nmで酸化ケイ素の製膜を行った以外は実施例1と同じ条件で比較例3を作製した。製膜された酸化ケイ素の膜厚は3nm、抵抗率は4×10Ω・cmであった。
[比較例4]
SZO200の製膜において、酸化亜鉛に酸化ケイ素を5重量%添加したSZOターゲットを用いた以外は実施例1と同じ条件で比較例4を作製した。製膜されたSZOの膜厚は3nm、抵抗率は20Ω・cmであった。
各層の構成、結果、各水準の特性を表1に示す。
Figure 0006356520
表1の結果より、下地層に酸化亜鉛に酸化ケイ素を2重量%添加したSZOを用いることで、熱処理後の低抵抗化と常温結晶化の抑制、および高い透過率を示す透明電極付き基板が作製可能であることを見出した。一方、比較例4のように、酸化ケイ素の添加量を5重量%まで添加したSZOを下地層として用いた場合には、常温結晶化が抑制できなかった。この原因は定かではないが、酸化ケイ素の含有量が透明電極薄膜の結晶化に影響しており、ケイ素の含有量が多いことで結晶化が促進されたためであると推測される。そのため、酸化ケイ素の添加量は1〜4重量%、より好ましくは2〜4重量%でなければならない。
実施例1、実施例3、実施例4におけるSZO200の表面のケイ素の束縛エネルギーは、大きい方が熱処理時の結晶化にかかる時間が少なくなっている。これは、下地層SZO200表面のケイ素の酸化状態が多いことが影響していると考えられる。また、実施例1〜4においては、実施例5に比べて、140℃での熱処理時による結晶化にかかる時間が短い。これは、SZO200の膜厚が厚く、熱処理時の結晶化促進効果が大きいことによるものであると考えられる。SZO200の挿入により透過率が向上している理由は、SZO200の屈折率が透明電極薄膜300より低いことにより、透明電極付き基板全体の反射率が低減するためである。
実施例では、熱処理後のシート抵抗は低下していながらも、常温結晶化は起きておらず、さらに透過率も高い良好な透明電極付き基板を作製できた。一方、比較例では、熱処理後のシート抵抗が低下するが常温結晶化を抑制できない、または常温結晶化しないが熱処理によってもシート抵抗が低下しない、および下地層の種類によっては透過率が低い、という結果となった。
100:透明フィルム基材
200:下地層SZO
300:透明電極薄膜
301、302、・・・:透明電極薄膜を構成する層
400:コーティング層

Claims (4)

  1. 透明フィルム基板上に下地層と透明電極薄膜が順に形成された透明電極付き基板において、
    前記透明電極薄膜はスズ含有量が4.5重量%〜12.5重量%の酸化インジウム・スズであり、
    前記下地層は酸化亜鉛を主成分とし、その膜厚は0.5〜8nmであり、酸化ケイ素を1〜4重量%含有することを特徴とする透明電極付き基板。
  2. 前記下地層は、X線光電子分光法にて測定されたケイ素の束縛エネルギーのピーク位置が100eV〜104.0eVである、請求項1に記載の透明電極付き基板。
  3. 前記下地層は抵抗率が1Ω・cm以上である請求項1又は2に記載の透明電極付基板。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の透明電極付き基板の製造方法であって、
    酸化ケイ素を1〜4重量%含有するターゲットを用いて前記下地層を製膜することを特徴とする、透明電極付き基板の製造方法。
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