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JP6343710B1 - 醤油及び醤油様調味料 - Google Patents

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Abstract

【課題】醤油本来の風味がありつつも、従前の醤油では得られない、優れたフルーティーな香りがする醤油又は醤油様調味料の提供。【解決手段】オクタン酸エチル及び/又はデカン酸エチルの含有量が下記(1)〜(3)のいずれかである、醤油又は醤油様調味料。(1)オクタン酸エチルの含有量が10ppb〜20,000ppbである(2)デカン酸エチルの含有量が10ppb〜5,000ppbである(3)オクタン酸エチルの含有量が5ppb〜10,000ppbであり、かつ、デカン酸エチルの含有量が5ppb〜2,000ppbである:亦、2−エチル−6−メチルピラジンの含有量が10ppb未満である醤油又は醤油様調味料。その上醤油らしい風味の4−ヒドロキシ−2(or5)−エチル−5(or2)−メチル3(2H)−フラノン(ホモフラネオール;HEMF)を20ppm以上含む、醤油又は醤油様調味料。【選択図】図1

Description

本発明は、香りの優れた醤油及び醤油様調味料に関する。
近年、フルーティーな香りなどの華やかな香りの飲食品が好まれている。醤油は、4−ヒドロキシ−2(or5)−エチル−5(or2)−メチル−3(2H)−フラノン(ホモフラネオール;HEMF)などを含有することによって、醤油らしい風味はするが、白ワインなどの果実を発酵して得られる飲料や調味料に含まれる成分が一部含まれていないため、華やかな香りが足りていない。
一方、フルーティーな香りがすると謳った醤油がすでに製造販売されている。しかし、このような醤油は、果実やワインなどを混ぜて製造されており、その風味は醤油とは全く異なるものである。例えば、特許文献1には、エチル−2−メチルブタノエートなどのエステル類を醤油に外部添加することにより、フルーティーな香りの醤油様調味料が得られることが記載されている。
特開2016−140321号公報
通常の醤油は、白ワインなどの果実を発酵して得られる飲料や調味料に含まれる香気成分をほとんど含まないため、フルーティーな香りは不足している。そこで、フルーティーな香りのする醤油を得るためには、特許文献1に記載のように、醤油にエステル類を外部添加することが考えられる。
しかし、健康志向の高まりとともに、食品への添加物の使用は避けられる傾向にある。また、醤油によっては、2−エチル−6−メチルピラジンなどのフルーティーな香りをマスキングする成分が含まれていることから、エステル類を外部添加することによっては、フルーティーな香りを有する醤油を安定的に得ることが難しいという問題がある。
そこで、本発明は、醤油本来の風味がありつつも、従前の醤油ではほとんど感じられない、フルーティーな香りがする調味料を提供することを、発明が解決しようとする課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために、醤油の成分や製造方法などを見直し、優れたフルーティーな香りがするものが得られないかと試行錯誤を繰り返した。そして、遂に、乳酸発酵終了後の醤油諸味を固液分離し、さらに膜処理に供して得られた醤油諸味液汁を用いて酵母発酵することにより、従前の醤油には含まれていないデカン酸エチル及びオクタン酸エチルを所定の量で含有する調味料を得ることに成功した。そして、得られた調味料は、驚くべきことに、格別に優れたフルーティーな香りがする調味料であった。
さらに驚くべきことに、得られた調味料は、従前の醤油に比して、2−エチル−6−メチルピラジンの含有量が低減したものであった。それにもかかわらず、得られた調味料は、HEMFの含有量が、従前の醤油と同程度又はそれ以上を含有するものであり、醤油本来の風味がありつつも、フルーティーな香りがするという、優れた調味料であった。本発明はこのような成功例や知見に基づいて完成するに至った発明である。
したがって、本発明の各一態様によれば、以下のものが提供される:
[1]オクタン酸エチル及び/又はデカン酸エチルの含有量が下記(1)〜(3)のいずれかである、醤油又は醤油様調味料。
(1)オクタン酸エチルの含有量が10ppb〜20,000ppbである
(2)デカン酸エチルの含有量が10ppb〜5,000ppbである
(3)オクタン酸エチルの含有量が5ppb〜10,000ppbであり、かつ、デカン酸エチルの含有量が5ppb〜2,000ppbである
[2]前記醤油又は醤油様調味料は、2−エチル−6−メチルピラジンの含有量が10ppb未満である、[1]に記載の醤油又は醤油様調味料。
[3]前記醤油又は醤油様調味料は、HEMFの含有量が20ppm以上である、[1]又は[2]に記載の醤油又は醤油様調味料。
本発明の一態様である醤油及び醤油様調味料によれば、醤油本来の風味がありつつも、従前の醤油ではほとんど感じられない、優れたフルーティーな香りがする調味料を提供することができる。しかも、本発明の一態様である醤油及び醤油様調味料は、従前の醤油の製造方法のように原料の仕込みから連続して製造せずとも、醤油諸味液汁を用いた酵母発酵により得られ得るものであることから、調味料の製造業者だけでなく、家庭でも手軽に得られるものである。
図1は、後述する実施例に記載があるとおりの、生醤油へ添加する各種エステル類の添加量を変化させた際の官能評価の結果を表わす図である。 図2は、後述する実施例に記載があるとおりの、液体調味料4−1〜4−2及び市販醤油1〜2の官能評価の結果を表わす図である。 図3は、後述する実施例に記載があるとおりの、液体調味料4−2へ添加する各種エステル類の含有量を変化させた際の官能評価の結果を表わす図である。 図4は、後述する実施例に記載があるとおりの、液体調味料4−1へ添加する2−エチル−6−メチルピラジンの添加量を変化させた際の官能評価の結果を表わす図である。
以下、本発明の一態様である醤油及び醤油様調味料(以下、液体調味料と総称する。)の詳細について説明するが、本発明の技術的範囲は本項目の事項によってのみに限定されるものではなく、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
本発明の一態様の液体調味料は、オクタン酸エチルの含有量、デカン酸エチルの含有量又はオクタン酸エチル及びデカン酸エチルの含有量が所定の量である、醤油又は醤油様調味料である。具体的には、本発明の第1の態様の液体調味料は、オクタン酸エチルの含有量が所定の量である、醤油又は醤油様調味料である。本発明の第2の態様の液体調味料は、デカン酸エチルの含有量が所定の量である、醤油又は醤油様調味料である。本発明の第3の態様の液体調味料は、オクタン酸エチル及びデカン酸エチルの含有量がそれぞれ所定の量である、醤油又は醤油様調味料である。
本発明の一態様の液体調味料は、醤油本来の風味がありつつも、オクタン酸エチルの含有量、デカン酸エチルの含有量又はオクタン酸エチル及びデカン酸エチルの含有量が所定の量であることにより、従前の醤油よりも優れたフルーティーな香りがする醤油及び醤油様調味料として、飲食品の味を調える用に供され得る。その結果として、本発明の一態様の液体調味料を用いれば、醤油の風味と、フルーティーな香りとを併せもった調味料や飲食品が得られ得る。
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、当業者により通常用いられている意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。
「含有量」は、本明細書において、濃度と同義であり、調味料の全体量(例えば、体積)に対する成分の量(例えば、質量)の割合(例えば、ppb)を意味する。
「ppb」は、通常知られている意味のとおりの単位であり、具体的には1ppbは1μg/L(w/v)である。
「フルーティーな香り」は、本明細書において、飲食せずに鼻だけで感じる、ブドウを原料とする白ワイン様の甘い香りを意味する。
「醤油本来の風味」は、本明細書において、飲食時の口腔内から鼻へぬける、大豆及び小麦を原料とする通常の本醸造方式によって製造された生醤油の香りを意味する。
「発酵」及び「熟成」は、本明細書において、厳密に区別されるものではなく、これらを合わせて発酵という場合がある。
本発明の一態様の液体調味料は、醤油及び醤油様調味料のいずれかの調味料であり、食材を加工する際に味を調える目的で使用されるものであれば特に限定されない。
醤油(しょうゆ、しょう油ともよぶ。)は、例えば、農林水産省告示「しょうゆ品質表示基準」や「しょうゆの日本農林規格」に記載されているようなものなどが挙げられ、具体的には濃口醤油、淡口醤油、白醤油、溜醤油、再仕込醤油がある。その他にも生醤油、ダシ醤油、照り醤油、生揚げ醤油、速醸醤油、アミノ酸混合醤油、減塩醤油及び低食塩醤油などが挙げられる。醤油は、上記のとおりに挙げられたものの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせたものであり得る。
醤油様調味料とは、日本農林規格に規定される「しょうゆ」と同様の用途で用いられる調味料をいい、醤油、醤油加工品及び発酵調味料を含む概念である。「しょうゆ」と同様の用途で用いられれば、醤油麹に由来する原料(例えば、大豆や小麦)が、醤油様調味料に使用されていなくてもよい。
液体調味料におけるオクタン酸エチルの含有量は、液体調味料がフルーティーな香りがする程度の量である。具体的には、本発明の第1の態様の液体調味料におけるオクタン酸エチルの含有量は10ppb〜20,000ppbであり、よりフルーティーな香りがするという観点から20ppb〜15,000ppbであることが好ましく、50ppb〜10,000ppbであることがより好ましい。ただし、オクタン酸エチルの含有量が20,000ppbよりも多いと、香りが強すぎて石油のような不快な香りがして、液体調味料全体の香りが不快なものになることから、オクタン酸エチルの含有量の上限は、20,000ppbよりも少ない量、すなわち、20,000ppb未満であることが好ましい。本発明の第3の態様の液体調味料におけるオクタン酸エチルの含有量は5ppb〜10,000ppbであり、よりフルーティーな香りがするという観点から10ppb〜5,000ppbであることが好ましく、15ppb〜1,000ppbであることがより好ましい。
液体調味料におけるオクタン酸エチルの含有量が上記した所定の量よりも少ない量である場合には、液体調味料にオクタン酸エチル又はオクタン酸エチル含有物を添加して所定の量に調整できる。オクタン酸エチル含有物は、後述する実施例に記載の方法によってオクタン酸エチルとして測定され得るものであれば特に限定されない。
液体調味料におけるデカン酸エチルの含有量は、液体調味料がフルーティーな香りがする程度の量である。具体的には、本発明の第2の態様の液体調味料におけるデカン酸エチルの含有量は10ppb〜5,000ppbであり、よりフルーティーな香りがするという観点から20ppb〜2,000ppbであることが好ましく、50ppb〜1,000ppbであることがより好ましい。ただし、デカン酸エチルの含有量が5,000ppbよりも多いと、香りが強すぎて石油のような不快な香りがして、液体調味料全体の香りが不快なものになることから、デカン酸エチルの含有量の上限は、5,000ppbよりも少ない量、すなわち、5,000ppb未満であることが好ましい。本発明の第3の態様の液体調味料におけるデカン酸エチルの含有量は5ppb以上であり、よりフルーティーな香りがするという観点から10ppb〜2,000ppbであることが好ましく、20ppb〜1,500ppbであることがより好ましく、30ppb〜1,000ppbであることがさらに好ましい。
液体調味料におけるデカン酸エチルの含有量が上記した所定の量よりも少ない量である場合には、液体調味料にデカン酸エチル又はデカン酸エチル含有物を添加して所定の量に調整できる。デカン酸エチル含有物は、後述する実施例に記載の方法によってデカン酸エチルとして測定され得るものであれば特に限定されない。
液体調味料は、オクタン酸エチル及び/又はデカン酸エチルの含有量が、上記した量であることにより、従前の醤油ではほとんど感じられない、フルーティーな香りがする。一方で、オクタン酸エチル及び/又はデカン酸エチルによるフルーティーな香りは、従前の醤油が本来的に含有する2−エチル−6−メチルピラジンによってマスキングされ得る。そこで、液体調味料における2−エチル−6−メチルピラジンの含有量は、例えば、オクタン酸エチル及び/又はデカン酸エチルによるフルーティーな香りが抑制されない程度の量であることが挙げられ、好ましくは50ppb以下であり、より好ましくは20ppb以下であり、さらに好ましくは10ppb以下であり、なおさらに好ましくは5ppb以下である。液体調味料における2−エチル−6−メチルピラジンの含有量の下限は特に限定されず、検出下限未満、すなわち、実質的に0ppbであってもよい。
液体調味料は、フルーティーな香りがしつつも、醤油成分を含有することにより、HEMFなどによって醤油本来の風味がすることに特徴がある。そこで、液体調味料におけるHEMFの含有量は、20ppm以上であることが好ましく、30ppm以上であることがより好ましく、40ppm以上であることがさらに好ましい。HEMFの含有量の上限は、所望の醤油本来の風味に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
液体調味料におけるオクタン酸エチル、デカン酸エチル、2−エチル−6−メチルピラジン及びHEMFの含有量は、後述する実施例に記載の方法によって測定できる。したがって、上記したオクタン酸エチル、デカン酸エチル、2−エチル−6−メチルピラジン及びHEMFの含有量は、後述する実施例に記載の方法によって測定して得られる値である。
液体調味料の製造方法は、オクタン酸エチルの含有量やデカン酸エチルの含有量などが所定の量である液体調味料が得られる方法であれば特に限定されない。液体調味料は、例えば、通常の醤油の製造方法によって乳酸発酵を行った後に得られる醤油諸味を固液分離し、さらに液体部分をUF膜で処理して醤油諸味液汁を得て、次いで該醤油諸味液汁を醤油酵母により酵母発酵に供することを含む方法などにより製造することができる。該方法では、通常の醤油の製造方法と違って、乳酸発酵後の醤油諸味を連続的に酵母発酵に供するのではなく、酵母発酵に供する前に醤油諸味を不溶性固形部分(醤油諸味濃縮物)と液体部分(醤油諸味液汁)とに分けて、次いで醤油諸味液汁について酵母発酵を実施することを含む。したがって、該方法では、醤油諸味を得る工程と、醤油諸味液汁を得る工程と、酵母発酵を実施する工程とを少なくとも含む。
醤油諸味を得る工程は、通常知られているとおりの醤油の製造方法のうち醤油諸味を得るまでの工程であれば特に限定されない。なお、醤油は、本醸造方式の場合、加熱変性した大豆などのタンパク質原料及び加熱によりα化した小麦などのデンプン質原料の混合物に、麹菌を含む種麹を接種及び培養して製麹して醤油麹を得て、次いで得られた醤油麹を食塩水に仕込んで乳酸発酵及び熟成することにより醤油諸味を得て、次いで得られた醤油諸味を酵母発酵及び熟成することにより熟成諸味を得て、次いで得られた熟成諸味を圧搾処理やろ過処理に供することにより生醤油を得て、次いで得られた生醤油を火入れすることなどによって製造される。
醤油諸味を得る工程の一態様としては、例えば、蒸煮変性した大豆、炒熬割砕した麦などの混合物である醤油原料に種麹を接種し、20〜40℃で、2〜4日間程度で通風製麹して醤油麹を得て、次いで醤油麹を食塩濃度が20〜30%(w/v)である食塩水に仕込み、さらに任意に醤油乳酸菌を加えたものを、15〜40℃で適宜撹拌しながら10〜200日間、乳酸発酵及び熟成することにより醤油諸味を得る工程などが挙げられる。
醤油原料は特に限定されないが、例えば、丸大豆や脱脂加工大豆などの大豆、小麦、大麦、裸麦、はと麦などの麦、麦グルテン、米、トウモロコシなどが挙げられる。
種麹は、通常醤油の製造の際に利用される麹菌であれば特に限定されないが、例えば、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(A.sojae)などが挙げられる。醤油乳酸菌は、通常醤油の製造の際に利用される醤油乳酸菌であれば特に限定されないが、例えば、テトラジェノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)などの耐塩性乳酸菌などが挙げられる。
醤油諸味を得る工程において、醤油原料のうち、小麦や米等のデンプン質原料の量が少ないと、還元糖の含有量が少なくなり、酵母発酵を適切に実施し得る醤油諸味を得ることができない可能性がある。そこで、醤油原料のうち、小麦や米等のデンプン質原料の量は、還元糖の含有量が多い醤油諸味を得ることができる程度の量であることが好ましい。ただし、醤油諸味に還元糖成分、例えば、グルコース、フルクトース、マルトースなどを添加することにより還元糖の含有量が多い醤油諸味を得る場合は、この限りではない。
醤油諸味液汁を得る工程では、大豆や小麦などの醤油原料由来の不溶性固形分を含む醤油諸味(乳酸発酵物)から不溶性固形分を除いて醤油諸味の液汁を得る。醤油諸味から不溶性固形分を除いて醤油諸味液汁を得る方法は特に限定されないが、例えば、通常知られている固液分離方法などが挙げられ、具体的には醤油の製造方法で通常使用される圧搾処理やろ過処理などが挙げられ、より具体的にはろ布を用いたプレス機を用いた圧搾ろ過処理やUF膜やMF膜などの各種透過膜を用いた膜ろ過処理などが挙げられる。このとき、醤油諸味の液汁に醤油乳酸菌が多く残っていると、酵母発酵が適切に行われない可能性がある。そこで、醤油諸味液汁を得る際には、不溶性固形分とともに、醤油乳酸菌の大部分を除去できるような方法を採用することが好ましい。醤油諸味の液汁における乳酸菌の含有量は特に限定されないが、例えば、1.0×10個/ml以下であることが好ましく、1.0×10個/ml以下であることがより好ましく、1.0×10個/ml以下であることがさらに好ましい。
酵母発酵を実施する工程は、醤油諸味液汁について、通常知られているとおりの醤油を製造する際に使用する醤油酵母を用いて、醤油酵母の種類や菌数などに応じた条件によって常法の酵母発酵を実施する。醤油酵母は、通常醤油の製造の際に用いられる酵母であれば特に限定されないが、例えば、ジゴサッカロミセス・ルキシー(Zygosaccharomyces rouxii)、ジゴサッカロミセス・バイリー(Z.bailli)、カンディダ・エトケルシー(Candida etchellsii)、カンディダ・ヴェルスティリス(C.versatilis)などの耐塩性酵母などが挙げられる。
酵母発酵の期間は、発酵液中のオクタン酸エチル及びデカン酸エチルなどの含有量が所定の量になる期間であれば特に限定されないが、例えば、醤油酵母としてZygosaccharomyces rouxiiを用いる場合は、15〜30℃で、45日程度である。さらに、酵母発酵の期間は、エタノールの生成量が最大になる期間であることが好ましい。
なお、酵母発酵を実施する工程は、例えば、酵母発酵に適しており、さらに酵母発酵後に直ちに発酵液を使用し得るような醤油瓶に、醤油諸味液汁及び醤油酵母を入れて、室温で静置して酵母発酵することなどにより簡便に実施できる。
酵母発酵を実施する工程では、予め不溶性固形分が除かれた醤油諸味液汁を用いていることから、酵母発酵後に得られるものは固形分が少ない酵母発酵液であり、それ自体を液体調味料としてもよい。また、該酵母発酵液中にある酵母や残渣を除くなどの目的のために、該酵母発酵液について、圧搾、ろ過、火入れなどの通常の醤油の製造方法で用いられる酵母発酵の後段の処理などに供して得られる液体部分を液体調味料としてもよい。
本発明の一態様の液体調味料は、オクタン酸エチル及びデカン酸エチルなどの含有量が所定の量であればよく、本発明の課題解決を妨げない限りは、様々なその他の成分を含有することができる。その他の成分は特に限定されないが、例えば、調味料成分や食材であり、具体的には野菜成分(大根、ニンジン、玉ネギ、にんにくなど)、酵母エキス、肉エキス(チキンエキス、ポークエキス、ビーフエキス、魚肉エキスなど)、果汁(りんご果汁など)、香辛料(生姜、唐辛子、こしょう、バジル、オレガノなど)、化学調味料(グルタミン酸ソーダ、イノシン酸ソーダなど)、フレーバーなどが挙げられ、これらの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。その他の成分の含有量は、本発明の課題を解決し得る限り、適宜設定することができる。
本発明の一態様の液体調味料は、容器に詰めて密封した容器詰液体調味料とすることができる。容器は特に限定されないが、例えば、アルミなどの金属、紙、PETやPTPなどのプラスチック、ガラスなどを素材とする、1層又は積層(ラミネート)のフィルム袋、レトルトパウチ、真空パック、アルミ容器、プラスチック容器、瓶、缶などの包装容器が挙げられる。
本発明の一態様の液体調味料は、通常の液体調味料と同様に使用することができる。すなわち、本発明の一態様の液体調味料は、単独で、又は上記した野菜成分、酵母エキス、肉エキス、果汁、香辛料、化学調味料、フレーバーに加えて、だし、酸味料、アミノ酸、核酸、有機酸、タンパク質加水分解物、糖、酒、みりん、アルコール、増粘剤、乳化剤、無機塩類などのその他の調味成分を混合して、若しくは組み合わせて、様々な食材の調理や加工法に用いることができる。例えば、本発明の一態様の液体調味料は、日本食、欧米食、中華食などの各種の料理に使用することができ、具体的には揚げ物、焼肉、うどん、そば、ラーメン、ハンバーグ、ミートボール、筑前煮、照り焼き、カレー、シチュー、ハヤシなどに用いることができるが、これらに限定されない。
本発明の一態様の液体調味料の非限定的な具体的態様として、例えば、オクタン酸エチルの含有量が以下(1−1)のとおりである液体調味料が挙げられる:
(1−1)オクタン酸エチルの含有量:20ppb〜10,000ppb
本発明の一態様の液体調味料の非限定的な具体的態様として、例えば、デカン酸エチルの含有量が以下(2−1)のとおりである液体調味料が挙げられる:
(2−1)デカン酸エチルの含有量:20ppb〜2,000ppb
本発明の一態様の液体調味料の非限定的な具体的態様として、例えば、オクタン酸エチルの含有量及びデカン酸エチルの含有量がそれぞれ以下(1−2)及び(2−2)のとおりである液体調味料が挙げられる:
(1−2)オクタン酸エチルの含有量:5ppb〜1,000ppb
(2−2)デカン酸エチルの含有量:5ppb〜1,000ppb
本発明の一態様の液体調味料の非限定的な具体的態様として、例えば、オクタン酸エチルの含有量、デカン酸エチルの含有量及び2−エチル−6−メチルピラジンの含有量がそれぞれ以下(1−3)、(2−3)及び(3−3)のとおりである液体調味料が挙げられる:
(1−3)オクタン酸エチルの含有量:5ppb〜1,000ppb
(2−3)デカン酸エチルの含有量:5ppb〜1,000ppb
(3−3)2−エチル−6−メチルピラジンの含有量:0ppbから10ppb未満
本発明の一態様の液体調味料の非限定的な具体的態様として、例えば、オクタン酸エチルの含有量、デカン酸エチルの含有量、2−エチル−6−メチルピラジンの含有量及びHEMFの含有量がそれぞれ以下(1−4)、(2−4)、(3−4)及び(4−4)のとおりである液体調味料が挙げられる:
(1−4)オクタン酸エチルの含有量:5ppb〜1,000ppb
(2−4)デカン酸エチルの含有量:5ppb〜1,000ppb
(3−4)2−エチル−6−メチルピラジンの含有量:0ppbから10ppb未満
(4−4)HEMFの含有量:20ppm〜200ppm
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
[1.各種方法]
1−1.エチルエステル類の測定方法
液体調味料中のエチルエステル類及び内部標準物質として用いたシクロヘキサノールの含有量の測定にあたっては、ダイナミックヘッドスペース法により、香気成分の分離濃縮を行ったうえでサンプルをGC−MSによる分析に供した。
<ダイナミックヘッドスペース法による抽出条件>
捕集剤:Tenax TA(GERSTEL社製)
揮発性成分抽出装置:MPS2―DHS(GERSTEL社製)
予備加温:30℃、10min
捕集容量:650mL
捕集速度:100mL/min
捕集温度:30℃
ドライパージ容量:500mL
ドライパージ速度:50mL/min
ドライパージ温度:40℃
<GC−MS条件>
測定装置:7890A−5975MSD(AgilentTechnologies社製)
注入口:加熱脱着ユニット(GERSTEL社製)
カラム:DB−WAX LTM(長さ30m、口径0.25mm、膜厚0.25μm)(AgilentTechnologies社製)
加熱脱着条件:30℃(0.5sec)保持 → 280℃まで720℃/min昇温 → 5min保持
温度条件:40℃(3min)保持 → 160℃まで5℃/min昇温 → 240℃まで25℃/min昇温 → 6min保持
キャリア:高純度ヘリウム、圧力一定モード392.34kPa
スキャン質量範囲:m/z 28.7−185.0
イオン化方式:EI
上記のとおりにGC−MSにて、液体調味料中のエチルエステル類のピーク面積及び内部標準物質のピーク面積を測定した。ピーク面積は、エチルエステル類及び内部標準物質であるシクロヘキサノールについて、以下のm/zを用いて求めた。
オクタン酸エチル:m/z88
デカン酸エチル:m/z88
シクロヘキサノール:m/z82
1−2.2−エチル−6−メチルピラジン及びHEMFの測定方法
液体調味料中の2−エチル−6−メチルピラジン、HEMF及び内部標準物質として用いた2−オクタノンの含有量は、酢酸エチルを用いた抽出処理に供して得た抽出液について、GC−MSで以下の条件に従って測定した。
食塩2.0g及び2−オクタノン溶液(20ppm)100μLを添加したサンプル5.0gに対し、酢酸エチル1.0mLを添加し、5分間激しく撹拌した後、有機溶媒層を抽出した。この操作を3回繰り返し、得られた有機溶媒層を無水硫酸ナトリウムで脱水後、500μLまで濃縮し香気濃縮物を得た。得られた香気濃縮物は下記の条件でGC−MSにて分析を行った。
<GC−MS条件>
測定装置:7890B−5977 MSD(AgilentTechnologies社製)
カラム:DB−WAX(長さ60m、口径0.25mm、膜厚0.25μm)(AgilentTechnologies社製)
注入口温度:250℃
温度条件:40℃(3min)保持 → 250℃まで6℃/min昇温 → 15min保持
キャリア:高純度ヘリウム、圧力一定モード229kPa
スキャン質量範囲:m/z 30.0〜250.0
イオン化方式:EI
2−エチル−6−メチルピラジン、HEMF及び内部標準物質である2−オクタノンは以下のm/zを用い、ピーク面積を求めた。
2−エチル−6−メチルピラジン:m/z121
HEMF:m/z142
2−オクタノン:m/z58
[2.外部添加したオクタン酸エチル及びデカン酸エチルの香り向上作用の評価(1)]
2−1.単独添加の効果
市販の醤油に対してオクタン酸エチル及びデカン酸エチルのいずれかを単独で添加することによる「白ワイン様のフルーティーな香り」の向上(付与)効果を官能評価に基づいて確認した。
市販の生醤油(「しぼりたて生しょうゆ」;キッコーマン社製)に、オクタン酸エチルを最終濃度がそれぞれ5、10、20及び50ppbとなるように添加することにより、液体調味料1−1〜1−4を調製した。また、同じく、生醤油に、デカン酸エチルを最終濃度がそれぞれ5、10、20及び50ppbとなるように添加することにより、液体調味料2−1〜2−4を調製した。
官能評価は、識別能力を有するパネル6名により、「白ワイン様のフルーティーな香り」について、市販の生醤油(オクタン酸エチル及びデカン酸エチルを添加していないもの)を1点としたときの強度を5段階で評価し、その平均値及び標準誤差を算出した。
液体調味料1−1〜1−4及び液体調味料2−1〜2−4の官能評価結果を表1及び図1に示す。なお、図1及び表1中の「**」は対照である生醤油と比較して1%、「*」は対照である生醤油と比較して5%の危険率で有意差があったことを示す。
表1及び図1が示すとおり、生醤油にオクタン酸エチル及びデカン酸エチルのいずれかを単独で添加することにより、濃度依存的に「白ワイン様のフルーティーな香り」が向上することがわかった。
2−2.混合添加の効果
市販の醤油に対してオクタン酸エチル及びデカン酸エチルを混合して添加することによる「白ワイン様のフルーティーな香り」の向上(付与)効果を官能評価に基づいて確認した。
市販の生醤油に、オクタン酸エチル及びデカン酸エチルのそれぞれを最終濃度が5、10及び20ppbとなるように添加することにより、液体調味料3−1〜3−4を調製した。また、上記2−1と同様にして、調製した液体調味料について官能評価を実施した。
液体調味料3−1〜3−4の官能評価結果を表2に示す。表2中の「**」は対照である生醤油と比較して1%の危険率で有意差があったことを示す。
表2が示すとおり、生醤油にオクタン酸エチル及びデカン酸エチルを混合して添加することにより、濃度依存的に「白ワイン様のフルーティーな香り」が向上することがわかった。
2−3.まとめ
表1及び図1に示されるとおり、10ppb以上であれば、オクタン酸エチル及びデカン酸エチルのいずれか一方を単独で添加することによって、添加していない試料(生醤油)と比較して、「白ワイン様のフルーティーな香り」が向上することが認められた。
また、5ppb以上のオクタン酸エチル及び5ppb以上のデカン酸エチルを混合して添加することによって、添加していない試料と比較して「白ワイン様のフルーティーな香り」が顕著に向上することが認められた。
したがって、本来はオクタン酸エチル及び/又はデカン酸エチルを含まない醤油にこれらを添加することにより、ppbレベルの低濃度であっても、本来の醤油にはない「白ワイン様のフルーティーな香り」を付与できることが明らかになった。
[3.オクタン酸エチル及びデカン酸エチルを含有する液体調味料の香り向上作用の評価]
3−1.液体調味料の調製
蒸煮した大豆と割砕した焙煎小麦とを6:4の割合で混合した混合物に、Aspergillus sojaeの種麹を接種し、常法により43時間製麹して醤油麹を得た。
得られた醤油麹100質量部を、94質量部の食塩水(食塩濃度24%(w/v))に仕込み、さらに醤油乳酸菌(Tetragenococcus halophilus)を加えたものを、15〜25℃で、適宜撹拌しながら20日間常法に従って乳酸発酵を行った。乳酸発酵終了後の醤油諸味を固液分離し、液汁をUF膜で処理して、透過液(乳酸発酵液汁)を得た。
得られた乳酸発酵液汁に耐塩性酵母(Zygosaccharomyces rouxii)を添加し、撹拌を行わずに25℃で28日間、酵母発酵を行った。得られた酵母発酵物を、3,000rpmで15分間遠心分離し、上清として液体調味料4−1を回収した。得られた液体調味料4−1をディスポーザブルメンブレンフィルター(孔径0.45μm)(ADVANTEC社製)で処理することによりオクタン酸エチル及びデカン酸エチルを低減させた液体調味料4−2を得た。
また、市販の生醤油(「しぼりたて生しょうゆ」;キッコーマン社製)(以下、市販醤油1とよぶ。)及び市販の濃口醤油(「キッコーマンこいくちしょうゆ」;キッコーマン社製)(以下、市販醤油2とよぶ。)についても、オクタン酸エチル及びデカン酸エチルを測定し、官能評価を行った。
3−2.オクタン酸エチル及びデカン酸エチルの測定結果
上記1−1に記載したとおりに、液体調味料4−1〜4−2及び市販醤油1〜2について、オクタン酸エチル及びデカン酸エチルの含有量を、標準添加法により、ダイナミックヘッドスペース−GC−MSを用いて測定した。結果を表3に示す。なお、GC−MSの結果より、その他の醤油主要香気成分の含有量について、これらの試料の間に変化はみられなかった。
3−3.官能評価の結果
官能評価は、識別能力を有する6名のパネルにより、液体調味料4−1〜4−2及び市販醤油1〜2について、「白ワイン様のフルーティーな香り」を評価項目として5段階(1:香りがしない、2:かなり弱い、3:弱い、4:強い、5:かなり強い)で評価し、その平均値及び標準誤差を算出した。
官能評価を行った結果を表4及び図2に示す。なお、表4及び図2中の「**」は、液体調味料4を対照として、1%の危険率で有意差があったことを示す。
3−4.まとめ
表3、表4及び図2に示されるとおり、オクタン酸エチル及びデカン酸エチルをそれぞれ5ppb以上含む液体調味料4−1は、液体調味料4−2、市販醤油1及び市販醤油2と比較して、「白ワイン様のフルーティーな香り」の強度が顕著に高いことが確認された。
[4.外部添加したオクタン酸エチル及びデカン酸エチルの香り向上作用の評価(2)]
4−1.単独添加の効果
液体調味料4−2について、オクタン酸エチル及びデカン酸エチルのいずれかを単独で添加することによる「白ワイン様のフルーティーな香り」の向上(付与)効果を官能評価に基づいて確認した。
液体調味料4−2に、オクタン酸エチルを最終濃度がそれぞれ5、10、20及び50ppbとなるように添加することにより、液体調味料5−1〜5−4を調製した。また、同じく、液体調味料4−2に、デカン酸エチルを最終濃度がそれぞれ5、10、20及び50ppbとなるように添加することにより、液体調味料6−1〜6−4を調製した。官能評価は、上記2−1と同様に実施した。
液体調味料5−1〜5−4及び液体調味料6−1〜6−4の官能評価結果を表5及び図3に示す。なお、表5及び図3中の「*」は、対照である液体調味料4−2と比較して5%の危険率で有意差があったことを示す。
表5及び図3が示すとおり、生醤油と同じように、液体調味料4−2にオクタン酸エチル及びデカン酸エチルのいずれかを単独で添加することにより、濃度依存的に「白ワイン様のフルーティーな香り」が向上することがわかった。
4−2.混合添加の効果
液体調味料4−2について、オクタン酸エチル及びデカン酸エチルを混合して添加することによる「白ワイン様のフルーティーな香り」の向上(付与)効果を官能評価に基づいて確認した。
液体調味料4−2に、オクタン酸エチル及びデカン酸エチルのそれぞれを最終濃度が5、10及び20となるように添加することにより、液体調味料7−1〜7−4を調製した。また、上記2−1と同様にして、調製した液体調味料について官能評価を実施した。
液体調味料7−1〜7−4の官能評価結果を表6に示す。表6中の「*」は対照である液体調味料4−2と比較して5%の危険率で有意差があったことを示す。
表6が示すとおり、液体調味料4−2にオクタン酸エチル及びデカン酸エチルを混合して添加することにより、濃度依存的に「白ワイン様のフルーティーな香り」が向上することがわかった。
4−3.まとめ
表5、表6及び図3に示されるとおり、10ppb以上であるいずれの濃度においてもオクタン酸エチル及びデカン酸エチルのいずれかを添加することによって、添加していない試料(液体調味料4−2)と比較して、「白ワイン様のフルーティーな香り」が向上することが認められた。
また、オクタン酸エチル及びデカン酸エチルをそれぞれ5ppb以上混合して添加することによって、添加していない試料と比較して「白ワイン様のフルーティーな香り」が顕著に向上することが認められた。
したがって、本来含有していたオクタン酸エチル及び/又はデカン酸エチルを含まない液体調味料にこれらを添加することにより、ppbレベルという低濃度であっても、本来の液体調味料にはない「白ワイン様のフルーティーな香り」を付与できることが明らかになった。
[5.外部添加したオクタン酸エチル及びデカン酸エチルの香り向上作用の評価(3)]
5−1.液体調味料8−1〜8−4及び液体調味料9−1〜9−4の調製
上記3−1に記載の液体調味料4−1に対して、それぞれ最終濃度で10,000、20,000、50,000及び100,000ppbとなるようにオクタン酸エチルを添加することにより液体調味料8−1〜8−4を調製した。また、液体調味料4−1に対して、それぞれ最終濃度で1,000、2,000、5,000及び10,000ppmとなるようにデカン酸エチルを添加することにより液体調味料9−1〜9−4を調製した。
5−2.官能評価方法
官能評価は、識別能力を有する6名のパネルにより、液体調味料8−1〜8−4及び液体調味料9−1〜9−4について、「白ワイン様のフルーティーな香り」、「石油様の不快臭」及び「全体的な好ましい香り」を評価項目として5段階で評価し、その平均値及び標準誤差を算出した。なお、「石油様の不快臭」及び「全体的な好ましい香り」は以下の5段階で評価した。
「石油様の不快臭」
1:香りがしない、2:かなり弱い、3:弱い、4:強い、5:かなり強い
「全体的な好ましい香り」
1:非常に好ましくない、2:好ましくない、3:普通、4:好ましい、5:非常に好ましい
5−3.官能評価結果
液体調味料8−1〜8−4の官能評価結果を表7に、液体調味料9−1〜9−4の官能評価結果を表8にそれぞれ示す。なお、表7及び表8中の最も添加濃度の低い液体調味料(液体調味料8−1及び液体調味料9−1)と比較して、「**」及び「*」はそれぞれ1%及び5%の危険率で有意差があったことを示す。
表7が示すように、オクタン酸エチルを20,000ppb以上含む液体調味料は、10,000ppb含む液体調味料と比較して、濃度依存的に、「白ワイン様のフルーティーな香り」の強度が低くなり、「石油様の不快臭」の強度が高くなることがわかった。さらにオクタン酸エチルを50,000ppb以上含む液体調味料では「白ワイン様のフルーティーな香り」がほとんどなくなり、「石油様の不快臭」が非常に強くなることが確認された。また、オクタン酸エチルを20,000ppb以上含む液体調味料では香りが好ましくないことがわかった。
以上の結果より、液体調味料におけるオクタン酸エチルの含有量は、20,000ppb以下であることが望ましく、さらに10,000ppb以下であることにより不快臭がせず非常に好ましいフルーティーな香りがすることが明らかになった。
表8が示すように、デカン酸エチルを5,000ppb含む液体調味料は、1,000ppb含む液体調味料と比較して、濃度依存的に、「白ワイン様のフルーティーな香り」の強度が低くなり、「石油様の不快臭」の強度が高くなることがわかった。さらにデカン酸エチルを10,000ppb含む液体調味料では「白ワイン様のフルーティーな香り」がほとんどなくなり、「石油様の不快臭」が非常に強くなることが確認された。また、デカン酸エチルを5,000ppb以上含む液体調味料では香りが好ましくないことがわかった。
以上の結果より、液体調味料におけるデカン酸エチルの含有量は、2,000ppb以下であれば、不快臭がせずに非常に好ましいフルーティーな香りがすることが明らかになった。
[6.2−エチル−6−メチルピラジンによるフルーティーな香りのマスキング効果の評価]
6−1.2−エチル−6−メチルピラジンの測定結果
上記1−2に記載したとおりの方法で、上記3−1に記載の液体調味料4−1〜4−2及び市販醤油1〜2について、2−エチル−6−メチルピラジンの含有量を、標準添加法により、酢酸エチル抽出液をGC−MSを用いて分析した。結果を表9に示す。
6−2.官能評価の結果
2−エチル−6−メチルピラジンを添加することによる白ワイン様のフルーティーな香りの抑制効果を官能評価に基づいて確認した。
液体調味料4−1に2−エチル−6−メチルピラジンを最終濃度でそれぞれ5、10、20及び50ppbとなるように液体調味料8−1〜8−4を調製した。官能評価は、識別能力を有する6名のパネルにより、「白ワイン様のフルーティーな香り」を評価項目として、エチルエステル類の含有量が小さい液体調味料4−2を1点としたときの強度を5段階で評価し、その平均値及び標準誤差を算出した。
官能評価を行った結果を表10及び図4に示す。なお、表10及び図4中の「**」は、液体調味料4−2を対照として、1%の危険率で有意差があったことを示す。
6−3.まとめ
表9〜表10に示すように、オクタン酸エチル及びデカン酸エチルをそれぞれ18.7ppb及び40.3ppbを含有する液体調味料4−1について、2−エチル−6メチルピラジンを10ppb以上添加することにより、「白ワイン様のフルーティーな香り」が低減されることが確認された。
[7.HEMFの含有量]
上記1−2に記載したとおりの方法で、上記3−1に記載の液体調味料4−1及び市販醤油1〜2について、HEMFの含有量を、標準添加法により、酢酸エチル抽出液をGC−MSを用いて分析した。結果を表11に示す。
表11に示すように、液体調味料4−1は市販の醤油と同程度以上のHEMFを含有することから、白ワイン様のフルーティーな香りを有しつつも、醤油らしい醤油本来の風味がある液体調味料であることがわかった。
本発明の一態様の醤油及び醤油様調味料は、種々の調味料や飲食品に供することにより、醤油本来の風味に加えて、白ワイン様のフルーティーな香りを付与するために利用することが期待できるものである。

Claims (3)

  1. オクタン酸エチル及び/又はデカン酸エチルの含有量が下記(1)〜(3)のいずれかである、醤油又は醤油様調味料。
    (1)オクタン酸エチルの含有量が10ppb〜0,000ppbである
    (2)デカン酸エチルの含有量が10ppb〜,000ppbである
    (3)オクタン酸エチルの含有量が5ppb〜10,000ppbであり、かつ、デカン酸エチルの含有量が5ppb〜2,000ppbである
  2. 前記醤油又は醤油様調味料は、2−エチル−6−メチルピラジンの含有量が10ppb未満である、請求項1に記載の醤油又は醤油様調味料。
  3. 前記醤油又は醤油様調味料は、HEMFの含有量が20ppm以上である、請求項1又は2に記載の醤油又は醤油様調味料。
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JPH099950A (ja) 高窒素含有果実酒及びその製造法

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