JP6218264B2 - 消化汚泥の分解方法 - Google Patents
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Description
(消化汚泥の酸処理)
下水処理場から入手した脱水消化汚泥300gと2N硫酸600mlをガラスビーカーに加えて混合し、1時間室温静置し、活性汚泥に含まれる金属を溶脱した。この方法で酸処理を施した消化汚泥と硫酸の混合物をガーゼでろ過し、ガーゼ上に残った消化汚泥を十分量の水で洗浄することで硫酸を除いた。水洗を繰り返すごとにpH試験紙を消化汚泥に漬け、pHが6以上に戻った時点で硫酸が除去されたと判断した。さらに消化汚泥を105℃で24時間乾燥させた後、オステライザーブレンダー(Oster社製)で破砕することで乾燥粉末とした。
消化汚泥分解微生物を得るために、山口県各所(森林など9箇所)より土壌を採集し、土壌10gを滅菌水30mlに懸濁して接種源とした。消化汚泥200mgと水10mlからなる消化汚泥培養液(以下、単に「消化汚泥培養液」ともいう。)をフラスコに入れて121℃、15分間オートクレーブ(TOMY社製)にて滅菌した。滅菌後の消化汚泥培養液のpHは5.0であった。熱処理により汚泥中の一部の成分が水に溶出したことにより、pHが低下したと考えられる。次に、滅菌した消化汚泥培養液に接種源0.2mlを加え、30℃で7日間振とう培養(集積培養)した。集積培養によって微生物増殖が認められたフラスコから菌液0.2mlを採取し、滅菌した新鮮な消化汚泥培養液が入ったフラスコに接種し、継代培養を7日間行った。この継代培養を2回繰り返した後、菌液30μlをYM寒天培地(10g/lグルコース、3g/l酵母エキス、3g/l麦芽エキス、5g/lバクトペプトン、20g/lバクトアガー)に接種し、30℃で静置培養を7日間行った。出現したコロニーを滅菌済み爪楊枝で拾い、これを新しいYM寒天培地に画線接種することで菌株の純粋分離を行った。このようにして合計8株の分離株(FernWA、CedarWA1、CedarWA2、CedarWA3、CedarWA4、OreWA、OreYA、GalleryYA)を得た。得られた8株を滅菌した消化汚泥培養液に接種してpH5、温度30℃の条件下で7日間培養し、顕微鏡で観察した結果を図1に示す。
(固形物重量の減少率の算出)
各分離株の薄い菌膜片5mgを上記と同様の条件でオートクレーブ処理して滅菌した消化汚泥培養液に接種してpH5、温度30℃の条件下で7日間振とう培養した。培養後の菌液をH−19F遠心分離機(コクサン社製)で遠心分離(3000rpm、10分)して培養上清を除去した後に残った残渣(消化汚泥分解物、消化汚泥の未分解物及び増殖した微生物の混合物)を乾燥(105℃、24時間)し、固形物を得た。この固形物の重量を測定することで、培養による固形物重量の減少率を、固形物重量の減少率(%)=(培養前の固形物重量(g)−培養後の固形物重量(g))/培養前の固形物重量(g)×100で求めた。コントロールとして、微生物の接種無しで滅菌した消化汚泥培養液をpH5、温度30℃の条件下で7日間振とうした。各分離株それぞれ3株の固形物重量の減少率の平均値を図2に示す。
図2に示すように、固形物重量の減少率はFernWA株で13.0%、CedarWA1株及びCedarWA2株はそれぞれ14.0%、14.5%、CedarWA3株及びCedarWA4株はそれぞれ18.5%、18.0%、OreWA株で27.0%であった。
分離株が活性汚泥に含まれるどのような成分を分解して生育するのかを知るため、消化汚泥の成分に対する分解酵素の活性を検討した。具体的には、エキソセルラーゼ、エンドセルラーゼ、キシラナーゼ、キチナーゼ、ケラチナーゼ活性を測定した。
実施例2と同様に各分離株を滅菌した消化汚泥培養液に接種してpH5、温度30℃の条件下で7日間振とう培養した。次に、培養液をガラスろ紙でろ過し、得られた培養上清を酵素液として各種酵素活性試験に用いた。エキソセルラーゼ、エンドセルラーゼ、キシラナーゼ及びキチナーゼ活性の測定では、各基質(セルロース、カルボキシメチルセルロース、キシラン及びキチン)10mg、クエン酸緩衝液(pH4.8)0.8ml、酵素液0.2mlをマイクロチューブに加えて50℃で60分加温し、この間に遊離する還元糖の濃度をDNS法(Ghose TK, Pure and Applied Chemistry (1987) 59, 257-268)で測定することで酵素活性を定量した。ケラチナーゼ活性の測定では、ケラチンアズール(シグマアルドリッチ社製)10mg、62.5mM Tris−HCl緩衝液(pH8.5)0.8ml、酵素液0.2mlをマイクロチューブに加えて50℃で60分加温し、Riffelらの方法(Riffel A et al., Journal of Biotechnology (2007) 128, 693-703)に基づき酵素活性を算出した。結果を表1に示す。
表1より、分離株はすべてキシラナーゼ活性を有し、CedarWA3とGalleyYAを除いてキチナーゼ活性も有していた。また、FernWA、CedarWA4、OreWA、OreYAはキシラナーゼ、キチナーゼ及びケラチナーゼ活性を有していた。活性汚泥にはし尿に由来するキシラン等の未消化植物繊維が含まれると推察される。また、メタン生産菌には分解できない糸状菌や原生生物の細胞壁成分であるキチンや、人毛に由来するケラチンも多く残存していると考えられる。これらは活性汚泥曝気槽の好気微生物やメタン生産菌では生分解しづらい成分であることから、分離株はこれら成分を分解することで生育していると考えられる。
(熱量の測定方法)
実施例2と同様に各分離株を滅菌した消化汚泥培養液に接種してpH5、温度30℃の条件下で7日間振とう培養し、遠心分離及び乾燥処理を行って消化汚泥分解物と微生物との混合物からなる固形物を得た。この固形物の熱量をThermo Plus EvoII差動型示差熱天秤(リガク社製)を用いて測定した。炉内温度を毎分20℃の割合で室温から800℃まで昇温させ、この間に燃焼して発せられる熱量を、発熱により増加する温度センサーの電圧値(μV)によって測定した。
CedarWA2における熱量測定の結果を図3に示す。横軸は燃焼時間(分)、右の縦軸は熱量(μV)、左の縦軸は炉内温度(℃)であり、点線の直線が炉内温度、実線の曲線がCedarWA2を接種した消化汚泥培養液の培養後の固形物の熱量、点線の曲線が微生物未接種の消化汚泥培養液の培養後の固形物の熱量である。微生物未接種の消化汚泥培養液の培養後の固形物では、530℃で70μV程度であるのに対し、CedarWA2を接種した消化汚泥培養液の培養後の固形物では、530℃で2倍以上の180μVであり、高い熱量を有していた。
さらに、各分離株を消化汚泥培養液に接種してpH5、温度30℃の条件下で7日間振とう培養し、培養液から得た固形物の単位重量あたりの燃焼時発熱量(μVsec/mg)、及び、消化汚泥培養液に微生物未接種でpH5、温度30℃の条件下で7日間振とう培養し、培養液から得た固形物の単位重量あたりの燃焼時発熱量を1とした場合の、各分離株を消化汚泥培養液に接種してpH5、温度30℃の条件下で7日間振とう培養し、培養液から得た固形物の単位重量あたりの燃焼時発熱量との相対発熱量を求めた。単位重量あたりの燃焼時発熱量は、発熱により増加する温度センサーの電圧値を燃焼時間で積分することで求めた。
結果を表2に示す。いずれの微生物で培養した場合も微生物未接種に較べて単位重量あたりの燃焼時発熱量で高い値が得られ、特に、FernWA株、CedarWa2株、CedarWA4株、OreWA株では微生物未接種における固形物の燃料の1.4倍〜1.68倍もの燃焼時発熱量を有していた。
(系統解析方法)
得られた各分離株の系統解析は、菌類の系統分類に用いられるDNAバーコードとして最も有望であると提案されている内部転写スペーサー領域(Internal Transcribed Spacer:ITS)を解析する方法によって行った(Conrad L. Schoch et al., PNAS (2012) 109, 6241-6246)。各分離株をYM培地(10g/lグルコース、3g/l酵母エキス、3g/l麦芽エキス、5g/lバクトペプトン)20mlで30℃の条件下で7日間静置培養した。7日間の培養で生成された菌膜を水洗した後、Master Pure Yeast DNA Purification Kit(Epicentre社製)を用いてゲノムDNAを抽出した。抽出したDNAを鋳型とし、KOD Fx DNA polymerase(東洋紡社製)を用いてITS領域をPCR増幅した。PCR反応のプライマーにはITS1プライマー(5’-TCCGTAGGTGAACCTGCGG-3’:配列番号1)とITS4プライマー(5’-TCCTCCGCTTATTGATATGC-3’:配列番号2)を用い、PCR温度条件は、98℃で10秒、54℃で30秒、68℃で60秒を30サイクルとした。増幅されたITS領域DNAはBigDye Terminator ver3.1 Cycle Sequencing kit(Life Technologies社製)を用いて配列を決定した。得られた配列をBLASTアルゴリズムに入力し、GenBank、EMBL、DDBJ遺伝子データベースの既知DNA配列と照合することで、分離株の属種を決定した。
CedarWA1のITS領域の塩基配列(配列番号3)、CedarWA2のITS領域の塩基配列(配列番号4)はペニシリウム・ジャンシネラム(Penicillium janthinellum)のITS領域の塩基配列と99%同一であり、CedarWA3のITS領域の塩基配列(配列番号5)、CedarWA4のITS領域の塩基配列(配列番号6)はカニンガメラ・バイニエリ(Cunninghamella bainieri)のITS領域の塩基配列と99%同一であり、OreWA株のITS領域の塩基配列(配列番号7)はネオサルトリア・フィシェリ(Neosartorya fischeri)のITS領域の塩基配列と100%同一であり、FernWA株のITS領域の塩基配列(配列番号8)はウンベロプシス・イサベリナ(Umbelopsis isabellina)のITS領域の塩基配列と99%同一であり、GalleryYA株のITS領域の塩基配列(配列番号9)はケトミウム・グロボスム(Chaetomium Globosum)のITS領域の塩基配列と95%同一であり、OreYA株のITS領域の塩基配列(配列番号10)はフザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)のITS領域の塩基配列と99%同一であった。また、近隣結合法として知られているClustal W プログラム(Saitou&Nei,(1987)Mol.Biol.Evol.4,406-425、Thompson et al., Nucleic Acids Res. (1994) 22, 4673-4680)を用いて,ITS領域のDNAに基づく系統樹を作成した結果を図4に示す。図4に示すように、CedarWA1、CedarWA2はペニシリウム・ジャンシネラム(Penicillium janthinellum)、CedarWA3、CedarWA4はカニンガメラ・バイニエリ(Cunninghamella bainieri)、OreWA株はネオサルトリア・フィシェリ(Neosartorya fischeri)、FernWA株はウンベロプシス・イサベリナ(Umbelopsis isabellina)、GalleryYA株はケトミウム・グロボスム(Chaetomium Globosum)、OreYA株はフザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)であることが明らかとなった。
Claims (7)
- 消化汚泥を唯一の栄養源とする培養液で生育でき、消化汚泥に水を添加した培養液に接種してpH5、温度30℃の条件下で7日間培養したときの固形物重量の減少率(%)が10.0%以上である微生物を、消化汚泥を含有する培養液で培養する消化汚泥の分解方法であって、前記微生物がペニシリウム・ジャンシネラム(Penicillium janthinellum)、カニンガメラ・バイニエリ(Cunninghamella bainieri)、ネオサルトリア・フィシェリ(Neosartorya fischeri)、ウンベロプシス・イサベリナ(Umbelopsis isabellina)のいずれか1種又は2種以上の微生物であることを特徴とする消化汚泥の分解方法。
- 微生物がキシラナーゼ及びキチナーゼ活性を有することを特徴とする請求項1記載の消化汚泥の分解方法。
- 微生物がペニシリウム・ジャンシネラムCedarWA2株(受託番号:NITE P−1523)、カニンガメラ・バイニエリCedarWA4株(受託番号:NITE P−1524)、ネオサルトリア・フィシェリOreWA株(受託番号:NITE P−1522)、ウンベロプシス・イサベリナFernWA株(受託番号:NITE P−1525)のいずれか1種又は2種以上の微生物であることを特徴とする請求項1又は2記載の消化汚泥の分解方法。
- 消化汚泥からあらかじめ金属を溶脱させる工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の消化汚泥の分解方法。
- 消化汚泥を唯一の栄養源とする培養液で生育でき、消化汚泥に水を添加した培養液に接種してpH5、温度30℃の条件下で7日間培養したときの固形物重量の減少率(%)が10.0%以上である、ペニシリウム・ジャンシネラム(Penicillium janthinellum)CedarWA2株(受託番号:NITE P−1523)、カニンガメラ・バイニエリ(Cunninghamella bainieri)CedarWA4株(受託番号:NITE P−1524)、ネオサルトリア・フィシェリ(Neosartorya fischeri)OreWA株(受託番号:NITE P−1522)、ウンベロプシス・イサベリナ(Umbelopsis isabellina)FernWA株(受託番号:NITE P−1525)のいずれかの微生物。
- キシラナーゼ及びキチナーゼ活性を有することを特徴とする請求項5記載の微生物。
- 請求項5又は6記載の微生物を、消化汚泥を含有する培養液に接種して培養することを特徴とする、消化汚泥分解物と微生物との混合物の製造方法。
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