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JP6284691B1 - 銅系合金線材 - Google Patents

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JP6284691B1 JP2017545971A JP2017545971A JP6284691B1 JP 6284691 B1 JP6284691 B1 JP 6284691B1 JP 2017545971 A JP2017545971 A JP 2017545971A JP 2017545971 A JP2017545971 A JP 2017545971A JP 6284691 B1 JP6284691 B1 JP 6284691B1
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Abstract

本発明は、高引張強度、高柔軟性、高導電率および高耐屈曲疲労性を同時に具備する銅合金線材を提供することを目的とする。本発明の銅合金線材は、Ag:0.1〜6.0質量%、P:0〜20質量ppmを含有し、残部が銅および不可避不純物からなる化学組成を有し、線材の長手方向に平行な断面において、アスペクト比が1.5以上かつ線材長手方向と垂直な方向の寸法が200nm以下の第二相粒子の個数密度が1.4個/μm2以上であることを特徴とする。

Description

本発明は、高引張強度、高柔軟性、高導電率および高耐屈曲疲労性が要求される、マイクロスピーカやマグネットワイヤ用の線材や、極細同軸線等に好適に用いられる銅系合金線材に関する。
マイクロスピーカ用またはマグネットワイヤ用の線材や極細同軸線には、線材の製造過程またはコイル状に成形する際のテンションに耐久できる高い引張強度、柔軟に曲げたりコイルなどに成形したりできる高い柔軟性、電気をより多く流すための高い導電率、そして線材の繰返し曲げや折れ等に耐久できる高い耐屈曲疲労性が、同時に要求される。近年、電子機器の小型化により線材の細径化が進んでいるため、さらにこれらの要求は厳しくなっている。
上記線材には、従来、銀を含有した銅合金線が利用されることがあった。なぜなら、銅中に添加した銀は晶析出物として出現し、強度を向上させる効果と、一般に銅中に添加元素を固溶させると導電率が低下するが、銀は銅中に添加しても導電率の低下が小さいという性質を持つためである。これまでに、晶析出物を切断する直線の最大長さが100nm以下である晶析出物の面積率が、100%であるCu−Ag合金線(特許文献1)や、最も近い晶析出物相同士の間隔が線径dに対しd/1000以上d/100以下で、晶析出物相のサイズがd/5000以上d/1000以下である晶析出物の個数が、晶析出物の個数全体の80%以上である銅系合金線(特願2015−114320号に記載)が知られている。
しかし、これらの従来技術では、上記要求に十分に対応できなかった。なぜなら引張強度及び耐屈曲疲労性を向上させるために、伸線加工等により加工硬化した線材では柔軟性が満足できず、一方で柔軟性を向上させるために、熱処理を施した線材では引張強度及び耐屈曲疲労性が低下し、特に耐屈曲疲労性の低下が著しいため上記要求を満足できず、さらに、それらの低下を補うために晶析出物の析出強化または分散強化を行っても、耐屈曲疲労性は未だ十分に満足させることはできなかった。例えば、特許文献1に記載の銅合金線は柔軟性を満足できておらず、特願2015−114320号に記載の銅合金線は柔軟性または耐屈曲疲労性のどちらか一方が満足できていなかった。
特許第5713230号公報
本発明は、上記実情に鑑みてなされたもので、高引張強度、高柔軟性、高導電率および高耐屈曲疲労性を同時に具備する銅合金線材を提供することを目的とする。
本発明者らは、耐屈曲疲労性と晶析出物の関係について鋭意研究を重ねた結果、晶析出物に由来する第二相粒子の粒子形状を所定の関係に制御することによって、柔軟性を付与するために熱処理を施した線材であっても、特に耐屈曲疲労性を向上できることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
[1] Ag:0.1〜6.0質量%、P:0〜20質量ppmを含有し、残部が銅および不可避不純物からなる化学組成を有する銅合金線材であって、線材の長手方向に平行な断面において、アスペクト比が1.5以上かつ線材長手方向と垂直な方向の寸法が200nm以下の第二相粒子の個数密度が、1.4個/μm以上であることを特徴とする、銅合金線材。
[2] 前記化学組成において、P:0.1〜20質量ppmである、上記[1]に記載の銅合金線材。
[3] 線径が0.15mm以下である、上記[1]または[2]に記載の銅合金線材。
[4] 線材外周部への曲げ歪が1%となる屈曲疲労試験において、線材が破断するまでの曲げ回数が4000回以上である、上記[1]〜[3]のいずれか1項に記載の銅合金線材。
[5] 引張強さが320MPa以上であり、
伸びが5%以上であり、かつ
導電率が80%IACS以上である、上記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の銅合金線材。
本発明によれば、高引張強度、高柔軟性、高導電率および高耐屈曲疲労性を同時に具備する銅合金線材が得られる。
図1(A)は、本発明にかかる銅合金線材の長手方向に平行な断面を示す概略図であり、図1(B)は、図1(A)破線の枠領域で囲んだ部分を拡大して示した概略図である。 図2は、実施例において、屈曲疲労試験を行った際の試験機の模式図である。 図3(A)は、実施例において、組織観察を行った際の樹脂埋めされた観察用試料の長手方向に平行な断面(図3(B)のI−I断面)の概略図であり、図4(B)は、上記樹脂埋めされた観察用試料の長手方向に垂直な断面(図3(A)のII−II断面)の概略図である。
以下に、本発明の化学組成等の限定理由を示す。
(1)化学組成
<Ag:0.1〜6.0質量%>
Ag(銀)は、母相銅中に固溶した状態あるいは、鋳造の際に第二相粒子として晶析出または鋳造後の熱処理にて第二相粒子として析出した状態(本明細書ではこれらを総称して晶析出物と呼ぶ)で存在し、固溶強化または分散強化の効果を発揮する元素である。なお、第二相とは、銅の含有割合が多い母相(第一相)に対し、異なる結晶構造を有する結晶のことを言う。本発明の場合、第二相には銀の含有割合が多い。Agの含有量が0.1質量%未満になると、上記効果が不十分であり、引張強度および耐屈曲疲労性が劣る。また、Agの含有量が6.0質量%超となると、導電率が低下し、また、原料コストも高くなる。したがって、高い強度および導電率を維持する観点から、Agの含有量は0.1〜6.0質量%とする。様々な用途別に強度と導電率の要求が異なるが、Ag含有量を変化することにより強度と導電率のバランスを整えることが可能である。近年の要求特性を全て具備するためには、Agの含有量は1.4〜4.5質量%が強度と導電率のバランスの点で好ましい。なお、本明細書では、鋳造の凝固の際に出現した銀を多く含み母相とは異なる結晶構造を有する結晶のことを晶出物と言い、鋳造の冷却の際に出現あるいは鋳造後の熱処理時に出現する、銀を多く含み母相とは異なる結晶構造を有する結晶のことを析出物と言い、最終熱処理で析出あるいは分散した銀を多く含み母相とは異なる結晶構造を有する結晶のことを第二相と言うこととする。また、第二相粒子とは、第二相からなる粒子を意味する。
本発明の銅合金線材は、上述の通り、Agを必須の含有成分とするが、必要に応じて、さらに、P(リン)を添加することができる。
<P:0.1〜20質量ppm>
通常、溶銅中には酸素が混入しており、これにより銅合金線材の伸びが悪化する傾向にある。伸びは柔軟性の指標のひとつとして知られている。P(リン)は、このような溶銅中の酸素と反応してリンと酸素の化合物を作ることにより、溶銅中から酸素を排出する作用を有する元素である。そのため、Pの含有量が0.1質量ppm未満になると、上記作用が不十分であり、銅合金線材の伸び改善効果が十分に発揮されない。一方、Pの含有量が20質量ppm超となると、導電率が低下する。したがって、優れた伸び改善効果および高い導電率を維持する観点から、Pの含有量は0.1〜20質量ppmとすることが好ましい。Pの添加は、要求する伸びと導電率のバランスにより変化するが、導電率低下がやや顕著になる10質量ppm超〜20質量ppmよりも、例えば4〜10質量ppmの範囲が好ましい。
<残部:Cuおよび不可避不純物>
上述した成分以外の残部は、Cu(銅)および不可避不純物である。ここでいう不可避不純物は、製造工程上、不可避的に含まれうる含有レベルの不純物を意味する。不可避不純物は、含有量によっては導電率を低下させる要因にもなりうるため、導電率の低下を加味して不可避不純物の含有量をある程度抑制することが好ましい。不可避不純物として挙げられる成分としては、例えば、Si、Mg、Al、Feなどが挙げられる。
本発明の銅合金線材は、化学組成の調整に加えて、製造プロセスを制御することにより実現できる。以下、本発明の銅合金線材の好適な製造方法について説明する。
(2)本発明の一実施例による銅合金線材の製造方法
本発明の一実施例による銅合金線材は、[1]溶解、[2]鋳造、[4]伸線加工、[5]最終熱処理の各工程を順次行うことを含む製造方法によって製造することができる。なお、必要に応じて、[4]伸線加工の前または伸線加工途中に、[3]選択熱処理を追加してもよい。また、[5]最終熱処理の後に、めっきを施す工程、エナメルを塗布する工程、撚り線とする工程や樹脂被覆を行って電線にする工程を設けてもよい。以下、[1]〜[5]の工程について説明する。
[1]溶解
溶解工程では、上述した化学組成になるように、各成分の分量を調整した材料を用意し、それを溶解する。
[2]鋳造
鋳造はアップキャスト方式の連続鋳造にて行う。一定の間隔で鋳塊線材を引き出して連続的に線材を得る製造方法である。鋳塊のサイズは、直径10mmφである。好ましくは鋳造時における、1085℃から780℃までの平均冷却速度を500℃/s以上とし、780℃から300℃までの平均冷却速度を500℃/s以下とする。なお、鋳塊サイズは凝固過程での結晶成長及び冷却過程での析出度合に影響するため、結晶成長及び析出度合をある範囲に保つように適宜変更することが出来るが、直径8mm〜12mmφが好ましい。
1085℃から780℃までの平均冷却速度を500℃/s以上とするのは、凝固時の温度勾配を大きくすることにより微細な柱状晶を出現させ、HOからなる微細な気泡を多数の粒界に分散させるためである。こうすることにより、伸線時に断線しにくい材料を得ることが可能である。一方で、1085℃から780℃までの平均冷却速度が500℃/s未満であると、温度勾配が付きにくく等軸晶となり、また結晶粒も粗大化する傾向にある。その結果、結晶粒が大きいため気泡を分散させることが出来ず、伸線時に断線の可能性が高まる。また1085℃から780℃までの平均冷却速度が1000℃/s超であると、冷却が速すぎて溶湯補充が追いつかず、鋳塊線材の内部に空隙を内包した材料となり、やはりこれも伸線時に断線の可能性を高める。なお、1085℃は純銅の融点、780℃は銅−銀合金の共晶温度である。
780℃から300℃までの平均冷却速度を500℃/s以下とするのは、冷却中に銀を含む析出物を析出させることで生じる引張強度および耐屈曲疲労性の向上効果を得るためである。冷却中に析出した析出物は、その後の伸線工程で繊維状に引き伸ばされる。さらに、短時間の熱処理を施すと、元々存在していた繊維状の析出物の位置を起点として銀原子が再配列、分散し、アスペクト比の高い微細な第二相粒子が得られる。780℃から300℃までの平均冷却速度が500℃/s超であると、第二相粒子の十分な析出が得られず、引張強度や耐屈曲疲労性が十分に得られない。なお、凝固中に晶出する晶出物も同様に伸線後に繊維状の晶出物となり、その後の熱処理にてアスペクト比の高い第二相粒子に変化し、引張強度及び耐屈曲疲労性の向上に寄与する。本発明では、このような凝固中に晶出した晶出物に由来する第二相粒子に、上記冷却速度の制御により析出する析出物に由来する上記第二相粒子を加えることにより、引張強度および耐屈曲疲労性をさらに向上できる。
上記鋳造時の冷却速度は、鋳造開始時にR熱電対を埋め込んだ約φ10mm種線を鋳型にセットして、それを引き出した際の温度の変化を記録することにより測定した。R熱電対は種線の中央に位置するように埋め込んだ。また、R熱電対の先端をまっすぐ溶湯に浸漬させた状態から引き出しを開始した。
[3]選択熱処理
次に、鋳造で得られた鋳塊線材に対し、必要に応じて、選択熱処理を行うことが好ましい。下記条件の熱処理を選択的に行うことにより、銀を含む析出物をより析出させることができる。また、熱処理のタイミングは、熱処理後に十分な伸線加工がなされ、析出物がより繊維状(線材長手方向に長い)になるように、鋳造直後に近い方が良く、鋳造直後が最も良い。選択熱処理の熱処理温度は、300〜700℃である。選択熱処理の熱処理温度が300℃未満の場合、析出物が析出しない、または極微細状態で析出するため伸線後に析出物が繊維状になってもその大きさを確保できず、その後の熱処理にてアスペクト比が高い第二相粒子が得られず、耐屈曲疲労性が不足する。また選択熱処理の熱処理温度が700℃超の場合には、ほとんど銀が銅中に固溶してしまい、伸線後に繊維状の析出物がほとんど存在せず、その後の熱処理にてアスペクト比が高い第二相粒子がほとんど得られず、耐屈曲疲労性が不足する。また、析出物の析出量を多く、かつ析出サイズを大きくする観点から、選択熱処理の熱処理温度は350〜500℃が好ましい。析出サイズは、熱処理温度と保持時間で決まるため、ある温度での析出サイズおよび析出量を維持するために、保持時間は1時間とし、急冷することが好ましい。急冷は水に線材を浸漬させて行う。
[4]伸線加工
次いで、鋳造で得られた鋳塊線材、または選択熱処理を施した線材を伸線により細径化する。伸線は、晶析出物を伸線方向に伸長する効果があり、繊維状の晶析出物を得ることが可能となる。繊維状の晶析出物を線材内部に偏り無く発現させるために、線内外が均一に伸ばされるようにパススケジュールの設計が必要となる。1パスのダイスにおいて、加工率(断面減少率)を10〜30%とする。加工率が10%未満であると、線材表面集中してダイスのせん断応力が加わるため、線材表面が優先的に伸ばされて伸線されるため、線材表面では繊維状の晶析出物が多く、線材の中央付近では晶析出物が比較的少なく分布するという現象が生じる。そのため、最終熱処理後のアスペクト比の高い第二相粒子にも偏りが生じるため、耐屈曲疲労性を十分に得ることが出来なくなる。加工率が30%超であると、引き抜き力を大きくする必要があり、断線の可能性が高まる。本発明に係る銅合金線材の最終線径は、近年の細径化の要求を加味して好ましくは0.15mm以下とする。
[5]最終熱処理
次に、伸線した線材に熱処理を施す。この熱処理は伸線で形成された繊維状の晶析出物を分散させ、アスペクト比の高い第二相粒子を得るために行う。最終熱処理の保持時間は短時間であることが好ましく、保持時間は5秒以内とする。熱処理時間が5秒超であると、繊維状の晶析出物の分散が過度に進行し球形の第二相粒子に変化してしまうためである。このような短時間の熱処理設備としては、線材に電気を流して自身のジュール熱で熱処理を行う通電熱処理や、熱せられた炉に連続的に通線することで熱処理を行う走間熱処理がある。また、熱処理温度も繊維状の晶析出物をアスペクト比の高い第二相粒子に分散させるために重要である。最終熱処理の熱処理温度は、500℃〜800℃とする。最終熱処理の熱処理温度が500℃未満では、5秒間という短い時間では熱処理のもう1つの目的である加工ひずみの除去が達成できず、十分な柔軟性が得られない。また、最終熱処理の熱処理温度が800℃超では、繊維状の晶析出物が過度に分散してしまい、球形の第二相粒子(アスペクト比がほぼ1)に変化してしまう。
(3)本発明の銅合金線材の組織的な特徴
上述のような(1)化学組成と、(2)製造方法によって製造された本発明の銅合金線材は、線材の長手方向に平行な断面において、アスペクト比が1.5以上かつ線材長手方向と垂直な方向の寸法が200nm以下の第二相粒子の個数密度が、1.4個/μm以上であることを特徴とする。なお、線材の長手方向は、線材を製造する際の伸線方向に対応する。
本発明の銅合金線材は、第二相粒子の分散により母相と第二相粒子との結合をより強化しているもので、第二相粒子と母相との界面の面積を増やせばより耐屈曲疲労性が向上する。しかし、第二相粒子は主に銀からなる結晶粒子であるため、母相の銅より柔らかい。よって、単に第二相粒子を大きくしすぎると屈曲疲労時に第二相粒子に応力が集中し、第二相粒子自体が変形し、耐屈曲疲労性が悪くなってしまう。そこで、第二相粒子を小さくすることで変形を抑制し、個数密度を多くすることで第二相粒子と母相との界面の面積を増やす方法があるが、本発明では、更に界面の面積を増やすために、第二相粒子のアスペクト比を1.5以上としている。屈曲疲労時には線材長手方向に引張と圧縮の応力がかかるため、線材長手方向と垂直な断面において、個々の第二相粒子の面積が小さい方が、変形が小さく耐屈曲疲労性を劣化させない。また、線材長手方向と平行な断面においては、界面の面積を増やすために個々の第二相粒子が長いほど耐屈曲疲労性に優れる。したがって、アスペクト比が1.5以上かつ線材長手方向と垂直な方向の寸法が200nm以下の第二相粒子の個数密度が1.4個/μm以上の場合に、特に耐屈曲疲労性が優れると考えられる。特に、アスペクト比が1.5以上かつ線材長手方向と垂直な方向の寸法が200nm以下の第二相粒子の第二相粒子の個数密度は、1.7〜3.0個/μmであることが好ましく、さらに好ましくは2.0〜3.0個/μmである。
(4)本発明の銅合金線材の特性
本発明の銅合金線材は、耐屈曲疲労性に優れる。例えば、図3に示した装置による屈曲疲労試験では、線材外周部にかかる曲げ歪が1%となる条件において、線材が破断するまでの曲げ回数が、好ましくは1000回以上、より好ましくは3000回以上、更に好ましくは4000回以上、特に好ましくは5000回以上となる。なお、具体的な測定条件は、後述する実施例において説明する。
また、銅合金線材は、線材の製造過程またはコイル状に成形する際のテンションに耐久できるように、高い引張強度を有していることが求められる。そのため、本発明の銅合金線材では、JIS Z2241に準拠する引張強さ(TS)が、250MPa以上であることが好ましく、より好ましくは300MPa以上、更に好ましくは320MPa以上、特に好ましくは350MPa以上である。
また、マイクロスピーカ用コイルを成形する際には、成形作業中に柔軟に曲げられること、また、通電熱処理や走間熱処理、またはエナメル塗布の際には線材の取り回しがし易いことが望ましい。したがって、銅合金線材には高い柔軟性が要求されており、その指標となる伸びが高いことが好ましい。そのため、本発明の銅合金線材では、JIS Z2241に準拠する伸び(%)が、好ましくは5%以上であり、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上である。
また、銅合金線材は、ジュール熱による発熱を防ぐため、高い導電率を有していることが求められる。そのため、本発明の銅合金線材では、導電率が80%IACS以上であることが好ましい。なお、具体的な測定条件は、後述する実施例において説明する。
本発明の銅合金線材は、銅合金線として、または該銅合金線にすずめっきを施しためっき線として、または複数本の銅合金線やめっき線を撚り合わせて得られる撚線として使用することができるとともに、さらに、それらにエナメルを塗布したエナメル線や、さらに樹脂被覆した被覆電線として使用することもできる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
次に、本発明の効果をさらに明確にするために、実施例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例1〜29および比較例1〜7)
表1の成分組成となるように原料(無酸素銅、銀、リン)を黒鉛坩堝に投入し、坩堝内の炉内温度を1250℃以上に加熱して原料を溶解した。溶解には、抵抗加熱式を用いた。坩堝内の雰囲気は酸素が溶銅中に混入しないよう、窒素雰囲気とした。1250℃以上に3時間以上保持した後、表1に示すように冷却速度を種々に変化させながら、黒鉛製の鋳型で直径約10mmのサイズの鋳塊を鋳造した。冷却速度は、水冷装置の水温、水量を調整して変化させた。鋳造開始後は、上記原料を適宜投入することにより連続鋳造を行った。
次に、上記鋳塊を1パスあたりの加工率19〜26%にて、表1に示す最終線径まで伸線加工した。その後、伸線加工を施した加工材に対し、窒素雰囲気下で表1に示す条件の最終熱処理を行い、銅合金線材を得た。なお、熱処理は走間熱処理にて行った。
(実施例30)
実施例30では、伸線加工の前に、鋳塊に対して、窒素雰囲気下で、熱処理温度500℃および保持温度1時間の選択熱処理を行い、その後水冷した以外は、実施例28と同様の方法で銅合金線材を得た。
(実施例31)
実施例31では、選択熱処理の熱処理温度600℃とした以外は、実施例30と同様の方法で銅合金線材を得た。
(比較例8)
比較例8では、伸線加工における、1パスあたりの加工率を7〜9%とした以外は、実施例26と同様の方法で銅合金線材を得た。
(比較例9)
比較例9では、上記実施例等と同様に、表1に示す組成となるように上記原材料を溶解し、表1に示す鋳造条件で、直径8mmの鋳塊を鋳造した。次にこの鋳塊に対し、窒素雰囲気下で、熱処理温度760℃および保持時間2時間の熱処理を行い、急冷した(溶体化処理)。その後、当該熱処理後の鋳塊を、線径0.9mmまで伸線加工し、係る伸線加工後の加工材に対し、さらに窒素雰囲気下で、熱処理温度450℃および保持時間5時間の熱処理を行い、炉冷した。そして、再び、当該熱処理後の加工材を、表1に示す最終線径(0.04mm)まで伸線し、銅合金線材を得た。なお、係る銅合金線材は、特許文献1に記載の試料No.2−4に対応する。
(比較例10)
比較例10では、上記実施例等と同様に、表1に示す組成となるように上記原材料を溶解し、表1に示す鋳造条件で、直径8mmの鋳塊を鋳造した。次にこの鋳塊を、線径2.6mmまで伸線加工し、係る伸線加工後の加工材に対し、さらに窒素雰囲気下で、熱処理温度450℃および保持時間5時間の熱処理を行い、炉冷した。そして、再び、当該熱処理後の加工材を、表1に示す最終線径(0.04mm)まで伸線し、銅合金線材を得た。なお、係る銅合金線材は、特許文献1に記載の試料No.2−7に対応する。
(比較例11)
比較例11では、純度が99.99質量%以上の原料(銅、Ag)を20容量%の硝酸により表面を酸洗し、十分に乾燥させたのちに、表1に示す組成となるように黒鉛坩堝に投入した。その後、坩堝内を窒素雰囲気にして、抵抗加熱にて1200℃以上に加熱し、原料を溶解させ、十分に撹拌した。これを30分保持した後、冷却速度500℃/sの条件で、坩堝底部から下方向への連続鋳造により、黒鉛製の鋳型で直径20mmの鋳塊を鋳造した。その後、この鋳塊を伸線し、皮むき加工して、線径0.2mmまで加工した。さらにその後、窒素雰囲気下で熱処理温度600℃および保持時間10秒の熱処理を行い、銅合金線材を得た。なお、係る銅合金線材は、特願2015−114320号に記載された実施例17に対応する。
(評価)
上記実施例および比較例に係る銅合金線材について、下記に示す測定および評価を行った。各評価条件は下記の通りである。結果を表1に示す。
[組織観察]
まず、得られた線材を、図3(A)に示すように、線材10の長手方向Xに平行な断面で切断するように樹脂30に樹脂埋めし、この断面を研磨し、鏡面10Aに仕上げて、観察用試料とした。なお、全ての線材について、研磨した鏡面が線材の中心Oを完璧に通るように加工することは、実際には困難である。したがって、ここでは、図3(B)に示すように線材の直径をdとしたとき、研磨された線材の断面の幅δ(線材の長手方向に垂直な長さ)がδ≧0.8dの範囲内となるように、樹脂埋め、研磨することとした。
次に、鏡面に仕上げた線材の長手方向に平行な断面について、走査型電子顕微鏡(FE−SEM、JEOL社製)を用いて、20000倍の倍率で組織写真を撮影した。撮影した組織写真について、(i)鏡面に仕上げた線材の長手方向に平行な断面の中心部分を含む視野と、(ii)研磨された線材の断面の幅δに対して、断面の中心から線材の長手方向に垂直な方向にδ/4離れた部分を含む視野と、(iii)断面の中心から線材の長手方向に垂直な方向に3δ/8離れた部分を含む視野で、3視野観察を行った。それぞれの視野の観察範囲は3μm×4μmとし、重複した範囲を観察しないこととした。なお(i)、(ii)、(iii)の位置を正確に選択するのは非常に時間を要するため、(i)と(ii)、(ii)と(iii)の間隔が、それぞれ、断面の中心から線材の長手方向に垂直な方向にδ/8以上離れていれば良いこととした。
撮影した画像において、周囲より白く観察された領域を、銀を多く含む第二相粒子20(図1(B)参照)として判断して、その個数をカウントした。さらに、第二相粒子毎に、線材長手方向の寸法wと該方向に垂直な方向の寸法tをそれぞれ測定し、測定した値から第二相粒子のアスペクト比(線材長手方向の寸法w/該方向と垂直な方向の寸法tの比)を算出し、アスペクト比が1.5以上かつ線材長手方向と垂直な方向の寸法tが200nm以下の第二相粒子(以下、「特定第二相粒子」ということがある。)の数を数えた。この測定を、3視野について同様に行い、3視野で観察された特定第二相粒子の総数を、全観察視野面積(3μm×4μm×3視野)で割って、アスペクト比が1.5以上かつ線材長手方向と垂直な方向の寸法が200nm以下の第二相粒子(特定第二相粒子)の個数密度を算出した。
[耐屈曲疲労性]
ここでは、図2に示した屈曲試験機(藤井精機株式会社(現株式会社フジイ)製)を用いて、屈曲疲労試験を行い、線材が破断するまでの曲げ回数を測定した。具体的には、図2に示すように、得られた線材を測定用試料とし、たわみを抑えるために試料の下端部に錘41をつるして荷重を掛けた。このときの荷重は線材に引張の応力を与えることとなるため、なるべく小さく、かつ線径によって有利不利が出ないようにすべきである。よって、荷重による引張の応力を極力一定(23〜31MPa)とするため、線径によって錘41の荷重を変えた。すなわち、線径がφ0.26mmの場合は130g、φ0.2mmの場合は80g、φ0.1mmの場合は20g、φ0.04mmの場合は3g、φ0.02mmの場合は1gの錘41を用いた。試料の上端部は接続具43で固定した。この状態で接続具43が付いたアームを左右に90度ずつ毎分100回の速さで繰り返しの回転往復運動を行うと、線材10が冶具45の曲げ半径(R)に沿って曲げられることとなり、線材10が破断するまでの曲げ回数を測定した。なお、曲げ回数は、図2中の1→2→3の一往復を一回として数え、試料の下端部に吊るした錘41が落下したときに破断したものとした。曲げ半径(R)は、線材10外周部にかかる曲げ歪(ε)が1%となるものとした。なお、上記試験は、各線材4本ずつ行い(N=4)、それぞれの線材が破断するまでの曲げ回数の平均値を求めた。線材が破断するまでの曲げ回数は、大きいほど耐屈曲疲労性に優れていることを意味しており、本実施例では、1000回以上を合格レベルとした。
[引張強度]
JIS Z2241に準じて、精密万能試験機(株式会社島津製作所製)を用いて、引張試験を行い、引張強さ(MPa)を測定した。なお、上記試験は、各線材3本ずつ行い(N=3)、その平均値を求め、それぞれの線材の引張強さとした。引張強さは大きいほど好ましく、本実施例では、250MPa以上を合格レベルとした。
[伸び]
JIS Z2241に準じて、精密万能試験機(株式会社島津製作所製)を用いて、伸び(%)を算出した。なお、上記試験は、各線材3本ずつ行い(N=3)、その平均値を求め、それぞれの線材の伸びとした。伸びは大きいほど好ましく、本実施例では、5%以上を合格レベルとした。
[導電率]
20℃(±0.5℃)に保持した恒温漕中で、四端子法を用いて、長さ300mmの試験片3本の抵抗を測定し、さらにそれぞれの比抵抗値を求め(N=3)、その平均値に基づき各線材の導電率(%IACS)を算出した。端子間距離は200mmとした。導電率は、高いほど好ましく、本実施例では、80%IACS以上を合格レベルとした。
Figure 0006284691
表1の結果より、本発明の実施例1〜31に係る銅合金線材は、所定の組成を有し、線材の長手方向に平行な断面において、アスペクト比が1.5以上かつ線材長手方向と垂直な方向の寸法が200nm以下の第二相粒子の個数密度が1.4個/μm以上に制御されており、高引張強度、高柔軟性(伸び)、高導電率および高耐屈曲疲労性を示すことが確認された。
これに対し、比較例1〜11の銅合金線材は、所定の組成を有していないか、線材の長手方向に平行な断面において、アスペクト比が1.5以上かつ線材長手方向と垂直な方向の寸法が200nm以下の第二相粒子の個数密度が1.4個/μm以上に制御されていないため、本発明に係る実施例1〜31の銅合金線材に比べて、引張強度、柔軟性(伸び)、導電率および耐屈曲疲労性のうちいずれか1つ以上が劣っていることが確認された。
10 銅合金線材
20 第二相粒子
30 樹脂
41 錘
43 接続具
45 冶具

Claims (5)

  1. Ag:0.1〜6.0質量%、P:0〜20質量ppmを含有し、残部が銅および不可避不純物からなる化学組成を有する銅合金線材であって、線材の長手方向に平行な断面において、アスペクト比が1.5以上かつ線材長手方向と垂直な方向の寸法が200nm以下の第二相粒子の個数密度が1.4個/μm以上であることを特徴とする、銅合金線材。
  2. 前記化学組成において、P:0.1〜20質量ppmである、請求項1に記載の銅合金線材。
  3. 線径が0.15mm以下である、請求項1または2に記載の銅合金線材。
  4. 線材外周部への曲げ歪が1%となる屈曲疲労試験において、線材が破断するまでの曲げ回数が4000回以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の銅合金線材。
  5. 引張強さが320MPa以上であり、
    伸びが5%以上であり、かつ
    導電率が80%IACS以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の銅合金線材。
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